(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】乗客コンベア検査装置及び乗客コンベア検査方法
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20241101BHJP
B66B 23/02 20060101ALI20241101BHJP
B66B 23/12 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B23/02 B
B66B23/12 G
(21)【出願番号】P 2021093466
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
(72)【発明者】
【氏名】森下 真年
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-331860(JP,A)
【文献】特開平11-268880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアを検査する乗客コンベア検査装置において、
前記乗客コンベアのステップを回転させるスプロケットの軸部に設置される本体部と、
前記本体部に設けられ、前記軸部の振動を計測する振動センサと、
前記本体部に設けられ、前記軸部の回転速度を計測する角速度センサと、
前記振動センサ及び前記角速度センサが計測した計測データに基づいて、前記乗客コンベアの異常を判定する異常判定部と、
を備え、
前記異常判定部は、
前記振動センサが計測した計測データに基づいて、前記ステップ及び/又は前記スプロケットの周りの機器の異常を判定し、かつ前記ステップの異常か、前記スプロケットの周りの機器の異常かを判断し、
前記角速度センサが計測した計測データに基づいて、前記スプロケットを駆動する制御系及び駆動装置系の異常を判定する
乗客コンベア検査装置。
【請求項2】
乗客コンベアを検査する乗客コンベア検査方法において、
前記乗客コンベアのステップを回転させるスプロケットの軸部に、前記軸部の振動を計測する振動センサ及び前記軸部の回転速度を計測する角速度センサを設置する処理と、
前記乗客コンベアを少なくとも一周させて、前記振動センサにより前記軸部の振動を計測し、前記角速度センサにより前記軸部の回転速度を計測する処理と、
前記振動センサ及び前記角速度センサが計測した計測データに基づいて、前記乗客コンベアの異常を判定する処理と、
を含
み、
前記振動センサが計測した計測データに基づいて、前記ステップ及び/又は前記スプロケットの周りの機器の異常を判定し、かつ前記ステップの異常か、前記スプロケットの周りの機器の異常かを判断し、
前記角速度センサが計測した計測データに基づいて、前記スプロケットを駆動する制御系及び駆動装置系の異常を判定する
乗客コンベア検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア検査装置及び乗客コンベア検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアは、建築構造物に設置されるフレームと、このフレーム内に設けられて循環移動する無端状に連結された複数のステップとを備えている。複数のステップには、無端状のチェーンが連結されており、このチェーンが回転駆動することで、複数のステップが循環移動する。また、乗客コンベアには、チェーンを回転駆動させる駆動スプロケットが設けられている。そして、この駆動スプロケットの軸部は、フレームに設けた軸受部により回転可能に支持されている。
【0003】
また、軸受や駆動機構等の異常を検査する技術として、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。特許文献1には、転動体、保持器及び環状部材の各々の回転周期を検出する回転周期検出部と、転動体、保持器及び環状部材の比較用回転周期を記憶する記憶部と、を備えた技術が記載されている。そして、特許文献1に記載された技術では、回転周期検出部で検出された回転周期と、記憶部に記憶された比較用回転周期データとを比較して、軸受の状態を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、軸受部に直接磁気センサを設置している。また、機械室に設置される駆動スプロケットの軸受部の周囲には、ステップを連結するステップチェーンが巻き掛けられるターミナルギアだけでなく、伝達チェーンが巻き掛けられるドライビングチェーンスプロケットが配置されている。そのため、特許文献1に記載された技術では、磁気センサを軸受部に設置することが困難であり、機械室に設置された軸受部の異常を検出することが困難なものとなっていた。
【0006】
上記の問題点を考慮し、乗客コンベアの異常を容易に検出することができる乗客コンベア検査装置及び乗客コンベア検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、乗客コンベア検査装置は、乗客コンベアの乗客コンベアを検査する乗客コンベア検査装置において、本体部と、振動センサと、角速度センサと、を備えている。本体部は、乗客コンベアのステップを回転させるスプロケットの軸部に設置される。振動センサは、本体部に設けられ、軸部の振動を計測する。角速度センサは、本体部に設けられ、軸部の回転速度を計測する。
【0008】
また、乗客コンベア検査方法は、以下(1)から(3)に示す工程を含んでいる。
(1)乗客コンベアのステップを回転させるスプロケットの軸部に、軸部の振動を計測する振動センサ及び軸部の回転速度を計測する角速度センサを設置する処理。
(2)乗客コンベアを少なくとも一周させて、振動センサにより軸部の振動を計測し、角速度センサにより軸部の回転速度を計測する処理。
(3)振動センサ及び角速度センサが計測した計測データに基づいて、乗客コンベアの異常を判定する処理。
【発明の効果】
【0009】
上記構成の乗客コンベア検査装置及び乗客コンベア検査方法によれば、乗客コンベアの異常を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置が用いられる乗客コンベアの構成例を示す概略構成図である。
【
図3】乗客コンベアの駆動スプロケットを示す斜視図である。
【
図4】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置を設置した状態を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置が計測した計測データを示すもので、
図7Aは加速度センサが計測した計測データを示し、
図7Bは角速度センサが計測した計測データを示している。なお、
図7A及び
図7Bは、乗客コンベアが正常時な状態の計測データである。
【
図8】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置の加速度センサが計測した計測データを示すもので、
図8A及び
図8Bは乗客コンベアに異常が発生しているときの計測データである。
【
図9】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置の角速度センサが計測した計測データを示すもので、
図9A及び
図9Bは乗客コンベアに異常が発生しているときの計測データである。
【
図10】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置を用いた乗客コンベアの検査方法を示すフローチャートである。
【
図11】実施の形態例にかかる乗客コンベア検査装置を用いた乗客コンベアの検査方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、乗客コンベア検査装置及び乗客コンベア検査方法の実施の形態例について、
図1~
図11を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0012】
1.実施の形態例
1-1.乗客コンベアの構成例
まず、実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる乗客コンベア検査装置が用いられる乗客コンベアの構成について、
図1から
図3を参照して説明する。
図1は、乗客コンベアを示す概略構成図である。
【0013】
図1に示す乗客コンベア1は、建築構造物の上階床と下階床に設置される傾斜型の乗客コンベア、いわゆるエスカレーターである。
図1に示すように、乗客コンベア1は、建築構造物に設置された枠体2と、制御盤3と、欄干部4と、複数のステップ5と、ハンドレール6と、駆動機構7とを備えている。また、乗客コンベア1は、伝達チェーン8と、駆動スプロケット9と、従動スプロケット10と、ステップチェーン11とを備えている。
【0014】
枠体2における上階床側には、機械室12が設けられている。機械室12には、駆動機構7と、制御盤3と、駆動スプロケット9が配置されている。また、枠体2における下階床側には、従動スプロケット10が配置されている。
【0015】
駆動機構7は、電動機及び減速機により構成されている。電動機には、制御盤3から電力が供給される。そして、電動機は、制御盤3によりその動作が制御される。電動機の駆動プーリには、ベルト部材が巻き掛けられている。また、このベルト部材は、減速機の従動プーリに巻き掛けられている。これにより、電動機の回転力は、ベルト部材を介して減速機に伝達される。
【0016】
さらに、減速機の伝達スプロケットには、伝達チェーン8が巻き掛けられている。この伝達チェーン8は、駆動スプロケット9のドライビングチェーンスプロケット14(
図3参照)に巻き掛けられている。そして、駆動機構7の駆動力が伝達チェーン8を介して駆動スプロケット9に伝達され、駆動スプロケット9が回転する。
【0017】
駆動スプロケット9と従動スプロケット10には、ステップチェーン11が巻き掛けられている。そして、駆動スプロケット9が回転することで、従動スプロケット10及びステップチェーン11が回転する。
【0018】
また、駆動スプロケット9には、不図示のハンドレール駆動チェーンが巻き掛けられている。ハンドレール駆動チェーンは、複数の伝達プーリに巻き掛けられると共に、ハンドレール駆動装置の駆動ローラーに備えられたスプロケットに巻き掛けられている。
【0019】
また、枠体2には、不図示のガイド部材が設けられている。そして、複数のステップ5は、不図示のガイド部材に移動可能に支持される。また、複数のステップ5は、ステップチェーン11を介して無端状に連結されている。複数のステップ5は、枠体2に取り付けられたガイド部材に案内されて往路側と復路側を循環移動する。乗客は、往路側を移動するステップ5に乗って搬送される。
【0020】
欄干部4は、枠体2の上部に支持されており、枠体2の幅方向の両側に配置されている。欄干部4には、無端状のハンドレール6が取り付けられている。ハンドレール6は、欄干部4に移動可能に支持されている。ハンドレール6は、ハンドレール駆動装置によって、複数のステップ5と同一方向に、複数のステップ5と同期して循環移動する。
【0021】
以下、複数のステップ5が移動する方向を第1の方向X、ステップ5の幅方向を第2の方向Y、第2の方向Yと直交する鉛直方向を第3の方向Zとする。
【0022】
図2は、機械室12を示す斜視図である。
図2に示すように、機械室12に配置された駆動スプロケット9は、枠体2に取り付けられた軸受部13に回転可能に支持されている。軸受部13は、駆動スプロケット9の第2の方向Yの両端部に設置されている。そして、軸受部13は、駆動スプロケット9の軸部15(
図3参照)を回転可能に支持する。
【0023】
図3は、駆動スプロケット9を示す斜視図である。
図3に示すように駆動スプロケット9は、軸部15と、ドライビングチェーンスプロケット14と、2つのターミナルギア16とを有している。軸部15における第2の方向Yの両端部は、軸受部13に回転可能に支持されている。また、軸部15の第2の方向Yの両端部には、ターミナルギア16が取り付けられている。ターミナルギア16には、ステップチェーン11(
図1参照)が巻き掛けられる。また、軸部15における第2の方向Yの一端部には、伝達チェーン8(
図1参照)が巻き掛けられるドライビングチェーンスプロケット14が取り付けられている。ドライビングチェーンスプロケット14は、軸部15の一端部において、ターミナルギア16と軸受部13との間に配置される。
【0024】
そして、ドライビングチェーンスプロケット14が回転することで、ステップチェーン11が巻き掛けられる2つのターミナルギア16も回転する。これにより、ステップチェーン11により連結された複数のステップ5が循環移動する。
【0025】
図3に示すように、軸部15の第2の方向Yの他端部側に設置された軸受部13の周囲には、ドライビングチェーンスプロケット14が設けられていないため、作業者は、この軸受部13にアクセスすることが容易である。しかしながら、ドライビングチェーンスプロケット14が設けられた、軸部15の第2の方向Yの一端部に設置された軸受部13の周囲には、ドライビングチェーンスプロケット14や、このドライビングチェーンスプロケット14に巻き掛けられる伝達チェーン8(
図1参照)等の機器が存在する。そのため、軸部15の第2の方向Yの一端部側に設置された軸受部13には、作業者は、アクセスすることが困難なものとなっている。
【0026】
1-2.乗客コンベア検査装置の構成
次に、上述した乗客コンベア1の検査する際に用いられる本例の乗客コンベア検査装置20の構成例について
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、乗客コンベア検査装置20を示す斜視図、
図5は、乗客コンベア検査装置20を設置した状態を示す斜視図である。
【0027】
図4に示すように、乗客コンベア検査装置(以下、単に「検査装置」と称す。)20は、本体部21と、複数の脚部22とを有している。本体部21内には、振動センサの一例を示す加速度センサ31及び角速度センサ32(
図6参照)等が搭載されている。本体部21の底面部には、複数の脚部22が設けられている。脚部22としては、例えば、磁石により構成されている。
【0028】
図5に示すように、検査装置20は、駆動スプロケット9の軸部15における第2の方向Yの中間部に設置される。上述したように、脚部22が磁石により構成されているため、検査装置20は、脚部22の磁力により軸部15に吸着固定される。そして、検査装置20は、軸部15と共に回転する。
【0029】
なお、軸部15への固定方法は、磁石に限定されるものではなく、接着テープや、固定ねじ等その他各種の固定方法が適用できるものである。
【0030】
次に、
図6を参照して検査装置20の制御系の構成について説明する。
図6は、検査装置20の制御系の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、検査装置20は、加速度センサ31と、角速度センサ32と、アンプ・フィルタ処理部33と、A/D変換部34と、制御部40と、制御部40等に電力を供給する電源部38とを有している。また、制御部40は、演算処理部35と、データ保管部36と、外部通信部37とを有している。
【0031】
なお、本体部21は、軸部15と共に回転するための、本体部21に配線等を接続することは困難である。これに対して、本例の検査装置20では、電源部38を本体部21内に搭載している。これにより、本体部21に外部から電力を供給する電力線を設ける必要がなくなり、本体部21を軸部15に設置した後の配線の接続作業を省くことができ、本体部21を容易に軸部15に設置することができる。
【0032】
加速度センサ31は、軸部15の軸方向と直交する方向の振動を計測する。角速度センサ32は、軸部15が回転する際の速度(角速度)を計測する。そして、加速度センサ31と角速度センサ32は、アンプ・フィルタ処理部33に接続されており、検出した信号をアンプ・フィルタ処理部33に出力する。
【0033】
アンプ・フィルタ処理部33は、加速度センサ31及び角速度センサ32から出力された信号に対してアンプ・フィルタ処理を行う。また、アンプ・フィルタ処理部33は、A/D変換部34に接続されており、処理を行った信号をA/D変換部34に出力する。そして、A/D変換部34は、アンプ・フィルタ処理部33から出力された信号に対してA/D変換を行う。
【0034】
A/D変換部34は、制御部40の演算処理部35に接続されており、A/D変換を行った信号を演算処理部35に出力する。演算処理部35は、A/D変換部34から出力された信号に対して演算処理を行う。演算処理部35は、データ保管部36と、外部通信部37に接続されている。そして、演算処理部35は、演算処理を行った信号をデータ保管部36や、外部通信部37に出力する。
【0035】
データ保管部36は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置により構成されている。データ保管部36には、演算処理部35を介して出力された加速度センサ31や角速度センサ32が検出した信号が格納される。また、データ保管部36には、検査装置20で行う測定プログラム等が格納されている。そして、データ保管部36は、検出した信号や測定プログラムを演算処理部35や外部通信部37に出力する。
【0036】
外部通信部37は、無線LANにより、検査装置20や乗客コンベア1の外部に設けられた情報機器39と情報を送受信可能に接続されている。そして、外部通信部37は、加速度センサ31や角速度センサ32が検出し、演算処理部35が演算処理を行った信号を情報機器39に出力する。
【0037】
情報機器39としては、作業者が有するパーソナルコンピューター(PC)や携帯情報端末だけでなく、乗客コンベア1を関しする監視センタのコンピューターを適用してもよい。そして、情報機器39は、外部通信部37から送信された信号に基づいて、乗客コンベア1の異常を判断する。
【0038】
なお、本例では、検査装置20の外部に設けた情報機器39によって乗客コンベア1の異常を判断する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、検査装置20の本体部21内に加速度センサ31や角速度センサ32が検出した信号に基づいて乗客コンベア1の異常を判断する判断部を設けてもよい。そして、判断部が判断した情報を、外部通信部37を介して外部の情報機器39に出力してもよい。
【0039】
1-3.加速度センサ及び角速度センサの検出信号
次に、上述した構成を有する検査装置20の検出信号の例について、
図7Aから
図9Bを参照して説明する。
図7A及び
図7Bは、乗客コンベア1が1周した際の正常時の計測データを示すもので、
図7Aは加速度センサ31が計測した計測データを示し、
図7Bは角速度センサ32が計測した計測データを示している。
図7Aにおける縦軸は、加速度センサ31の計測値を示し、横軸は、時間(データ数)を示している。
図7Bにおける縦軸は、角速度センサ32の計測値を示し、横軸は、時間(データ数)を示している。
【0040】
図7Aに示すように、加速度センサ31が計測した計測データは、周期的な計測データとなっている。そして、
図7Aに示す加速度センサ31の計測データの一周期分が、軸部15の1回転に相当する。なお、軸部15は、例えば2から3秒おきに1回転する。この軸部15の1回転の速度は、乗客コンベア1に応じて適宜設定される。
【0041】
また、乗客コンベア1は、起動が開始されると定常速度まで加速し、定常速度に達すると速度が一定な定常走行となる。そして、乗客コンベア1は、定常走行から減速し、停止する。そのため、
図8Bに示すように、駆動スプロケット9の軸部15の回転速度を計測する角速度センサ32の計測データも、起動、加速、定常走行、減速、停止の順に変化する。
【0042】
次に、乗客コンベア1に異常が発生したときの計測データについて
図8Aから
図9Bを参照して説明する。
図8A及び
図8Bは、加速度センサ31が計測した計測データを示しており、
図9A及び
図9Bは、角速度センサ32が計測した計測データを示している。
図8Aから
図9Bにおける縦軸は、加速度センサ31又は角速度センサ32の計測値を示し、横軸は、時間(データ数)を示している。
【0043】
ステップ5又はステップ5を連結するステップチェーン11に異常が発生している場合、ターミナルギア16を介して振動が軸部15に伝達される。そのため、
図8Aに示すように、加速度センサ31が計測した計測データは、基本的にはきれいな周期的な波形となっている。しかしながら、異常が発生しているステップ5又はステップチェーン11を起因する振動が軸部15に伝達されるため、特定箇所Q1において加速度センサ31が計測したデータが乱れる。
【0044】
また、軸部15や軸受部13等のドライビングマシンに異常が発生している場合、
図8Bに示すように、加速度センサ31の計測データには、乗客コンベア1の起動から停止まで断続的又は周期的Q2に乱れが発生する。
図8A及び
図8Bに示すように、加速度センサ31の計測データの乱れが特定箇所Q1で発生しているのか、断続的又は周期的Q2に発生しているのかを判断することで、乗客コンベア1における異常が発生している箇所を特定することができる。
【0045】
伝達チェーン8や駆動機構7、駆動機構7を制御する制御系に異常が発生している場合、定常走行中の定常速度に乱れが発生する。そのため、
図9Aに示すように、角速度センサ32における定常走行中の定常速度の計測データは、不安定な計測データとなる。また、伝達チェーン8や駆動機構7、駆動機構7を制御する制御系に異常が発生している場合、
図9Bに示すように、角速度センサ32が計測した定常走行中の定常速度が、予め設定した速度よりも遅くなる。
【0046】
2.乗客コンベア検査装置による検査方法例
次に、上述した構成を有する乗客コンベア検査装置20を用いた乗客コンベア1の検査方法例について
図10及び
図11を参照して説明する。
図10及び
図11は、乗客コンベア検査装置20を用いた乗客コンベア1の検査方法を示すフローチャートである。
【0047】
図10に示すように、作業者は、乗客コンベア1における複数のステップ5のうち1枚のステップ5を取り外す。そして、乗客コンベア1を駆動させて、ステップ5を取り外した位置を、上部の機械室12まで移動させる(S11)。なお、取り外すステップ5の枚数は、1枚に限定されるものではなく、2枚又は3枚以上でもよい。
【0048】
ステップ5を取り外した位置が機械室12まで移動すると、乗客コンベア1を停止される。そして、作業者は、駆動スプロケット9の軸部15の検査装置20を設置する(S12)。このように、本例の検査装置20によれば、ステップ5を取り外すだけで容易に検査装置20を設置することができる。そのため、駆動スプロケット9のように軸受部13の周囲にドライビングチェーンスプロケット14や伝達チェーン8等のドライビングマシンが配置された場所にも容易に検査装置20を設置することができ、乗客コンベア1の検査を容易に行うことができる。
【0049】
次に、作業者は、情報機器39を操作し、現場情報を入力する(S13)。現場情報としては、例えば、複数のステップ5のうち検査を開始するステップNo.や、全ステップNo.等が挙げられる。すなわち、作業者は、情報機器39を介して検査を開始するステップ5や、検査を行う乗客コンベア1のステップ5の総数等を入力する。また、検査を開始するステップ5としては、例えばS11の処理で取り外したステップ5としてもよい。
【0050】
次に、S11の処理で取り外したステップ5を再び設置してもよく、またはステップ5を取り外した状態で次の処理に移行してもよい。
【0051】
そして、計測準備が完了すると、作業者は、情報機器39を操作し、検査装置20の加速度センサ31及び角速度センサ32に計測の開始司令を送信し(S14)、乗客コンベア1を駆動させて複数のステップ5を1周させる(S15)。
【0052】
次に、複数のステップ5が一周し、計測が終了すると検査装置20は、加速度センサ31及び角速度センサ32が計測データに対して演算処理部35により演算処理し、外部通信部37を介して演算処理した計測データを情報機器39に伝送する(S16)。また、情報機器39は、検査装置20から受信した計測データに基づいて、加速度センサ31の計測データの周波数分析を行う。また、情報機器39は、角速度センサ32の計測データから駆動スプロケット9の軸部15の速度算出を行う。
【0053】
次に、
図11に示すように、情報機器39は、加速度センサ31が計測した計測データに基づいて、振動に異常はないか否かを判断する(S17)。S17の処理において振動に異常はないと情報機器39が判断した場合(S17のYES判定)、後述するS24の処理に移行する。
【0054】
S17の処理において振動に異常があると判断した場合(S17のNO判定)、情報機器39は、異常な振動が全体的なものか否かを判断する(S18)。S18の処理において、
図8Bに示すように、異常な振動が全体的なものであると判断した場合(S18のYES判定)、情報機器39は、周波数分析の結果から異常と思われる機器をデータベースから選定する(S19)。S19の処理で異常と思われる機器としては、上述した
図8Bに示すように、軸部15や軸受部13等のドライビングマシン等が挙げられる。そして、情報機器39は、S19で異常の可能性があると判断した対象機器を作業員に報知する。そして、作業員は、対象機器の調査及び対策する(S20)。そして、後述するS24の処理に移行する。
【0055】
また、情報機器39は、S19の処理で異常と思われる機器を選定したあと、加速度センサ31の計測データから異常と判断した箇所(
図8Bに示す箇所Q2)の振動データを除去し、再びS17の処理を行ってもよい。これにより、加速度センサ31の計測データには、ステップ5やステップチェーン11に起因する振動データが残る。これにより、後述するS22の処理で異常が発生しているステップ5の特定精度を向上させることができる。
【0056】
また、
図8Aに示すように、異常が特定箇所Q1においてのみ発生している場合、S18の処理において、情報機器39は、異常な振動が全体的なものではないと判断する(S18のNO判定)。そして、情報機器39は、加速度センサ31の計測データやS13の入力した現場情報から異常が発生しているステップ5のステップNo.を特定する(S22)。次に、情報機器39は、S22の処理で特定したステップNo.を作業員に報知する。そして、作業員は、対象となるステップ5の調査及び対策を行う(S23)。そして、S24の処理に移行する。
【0057】
S24の処理において、情報機器39は、角速度センサ32が計測した計測データに基づいて、軸部15の回転速度に異常はないか否かを判断する。S24の処理で判断する速度は、例えば、
図7Bに示す定常走行時の速度である。なお、定常走行時に限定されるものではなく、加速時や減速時の速度に異常はないか否かを判断してもよい。
【0058】
次に、S24の処理において、軸部15の回転速度に異常はないと情報機器39が判断した場合(S24のYES判定)、後述するS27の処理に移行する。これに対して、軸部15の回転速度に異常があると判断した場合(S24のNO判定)、情報機器39は、制御周りや、伝達チェーン8やドライビングマシン等の駆動装置系に異常の可能性があると判断する(S25)。次に、情報機器39は、制御周りや駆動装置系に異常の可能性があると作業員に報知する。そして、作業員は、制御周りや駆動装置系の調査及び対策する(S26)。そして、S27の処理に移行する。
【0059】
S27の処理において、作業員は、軸部15に設置した検査装置20を取り外する。さらに、検査装置20を取り外すために外したステップ5を取り付ける。次に、作業員は、検査装置20の片付けを行い、確認作業を実施する(S28)。これにより、検査装置20を用いた乗客コンベア1の検査方法が完了する。
【0060】
なお、上述した検査方法では、先に加速度センサ31が計測した計測データを用いて異常の判定処理を行い、その後、角速度センサ32が計測した計測データを用いて異常の判定処理を行う例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、先に角速度センサ32が計測した計測データを用いて異常の判定処理を行い、その後、加速度センサ31が計測した計測データを用いて異常の判定処理を行ってもよい。または、加速度センサ31が計測した計測データを用いた異常の判定処理と、角速度センサ32が計測した計測データを用いた異常の判定処理を同時に行ってもよい。
【0061】
上述したように、本例の検査装置20によれば、加速度センサ31と角速度センサ32が計測した計測データを用いることで、乗客コンベア1における軸受部13の異常だけでなくステップ5や伝達チェーン8等のその他の機器の異常も検出することができる。さらに、加速度センサ31と角速度センサ32の2つのセンサの測定データを用いることで、異常が発生している機器を特定することができる。
【0062】
また、上述した検査方法では、異常の判定を行う異常判定部として外部の情報機器39を適用する例を説明したが、これに限定されるものではなく、異常判定部としては、検査装置20の制御部40を適用してもよい。そして、制御部40で行った判定結果を、外部通信部37を介して情報機器39に出力してもよい。
【0063】
さらに、上述した検査方法では、検査装置20の駆動スプロケット9の軸部15に設置し、軸部15周りの異常を検出する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、検査装置20を従動スプロケット10の軸部に設置し、従動スプロケット10周りの異常を検出するようにしてもよい。
【0064】
なお、上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0065】
上述した実施の形態例では、検査装置20の本体部21を1つだけ設け、軸部15の第2の方向Yの中間部に設置した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本体部21を2つ設け、軸部15の第2の方向Yの両端部に本体部21を設置してもよい。これにより、軸部15の両端部に設置された2つの軸受部13のうちどちらに異常が発生しているのかをより正確に判断することができる。なお、軸部15に設置する本体部21の数は、1つ、2つ又は3つ以上でもよい。
【0066】
さらに、上述した実施の形態例では、検査を行うたびに乗客コンベア1の軸部15に検査装置20を取り付ける例を説明したが、これに限定されるものではなく、検査装置20を常に軸部15に設置してもよい。そして、定期的に検査装置20の加速度センサ31及び角速度センサ32で計測を行い、乗客コンベア1の異常を検査してもよい。
【0067】
さらに、振動センサとして加速度センサ31を適用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、軸部15の周囲の音を検出する音センサを適用してもよい。
【0068】
上述した実施の形態例では、傾斜型の乗客コンベアとして、踏段間に段差が生じるエスカレーターを例に挙げて説明したが、本発明の乗客コンベアとしては、踏段間に段差が生じない複数の踏段を有する電動道路、いわゆる動く歩道にも適用できるものである。
【0069】
また、傾斜区間の少なくとも一部に、上水平区間及び下水平区間に対して平行な箇所を設けたフレームを有する乗客コンベアにも適用できるものである。さらに、傾斜区間の延設方向が湾曲して変化することで、上水平区間と下水平区間の延設方向が異なるフレームを有する乗客コンベアに対しても同様に適用できるものである。
【0070】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…乗客コンベア、 2…枠体、 3…制御盤、 4…欄干部、 6…ハンドレール、 7…駆動機構、 8…伝達チェーン、 9…駆動スプロケット、 10…従動スプロケット、 11…ステップチェーン、 12…機械室、 13…軸受部、 14…ドライビングチェーンスプロケット、 15…軸部、 16…ターミナルギア、 20…乗客コンベア検査装置、 21…本体部、 22…脚部、 31…加速度センサ(振動センサ)、 32…角速度センサ、 33…アンプ・フィルタ処理部、 34…A/D変換部、 35…演算処理部、 36…データ保管部、 37…外部通信部、 38…電源部、 39…情報機器、 40…制御部