(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】航空機の推進システム
(51)【国際特許分類】
B64D 41/00 20060101AFI20241101BHJP
B64D 27/24 20240101ALI20241101BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
B64D41/00
B64D27/24
H02P9/04 F
(21)【出願番号】P 2021146944
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】北 章徳
(72)【発明者】
【氏名】松本 健
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-075649(JP,A)
【文献】特開2000-087774(JP,A)
【文献】特開2015-047935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 41/00
B64D 27/24
H02P 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体に搭載され、
圧縮機及び前記圧縮機と一体回転するタービンを有するガスタービン要素と、
前記ガスタービン要素と回転軸を介して接続される発電機と、
前記発電機により発電された電力を蓄電するバッテリと、
前記発電機からの電力及び前記バッテリからの電力の少なくとも一方の電力により駆動される電気モータと、
前記電気モータにより駆動されるプロペラと、
前記航空機の飛行状態を検出する飛行状態検出部と、
前記飛行状態検出部により検出された前記飛行状態に基づいて、前記航空機に対する要求出力の負荷変動を検出する負荷変動検出部と、
前記飛行状態検出部により検出された前記飛行状態に基づいて、前記回転軸におけるトルク及び回転数により定義される動力動作点を制御する動作点制御部と、
を備え、
前記動作点制御部は、動力動作点がマッピングされる動作点マップにおいて、
前記トルクと前記回転数の積により定義される出力が一定である複数の動力動作点を結んだ第一動作線と、
前記第一動作線とは出力が異なり、かつ出力が一定である複数の動力動作点を結んだ第二動作線と、
を設定し、
前記動作点制御部は、前記負荷変動検出部により負荷が変動したことが検出された場合、前記動作点マップにおける現在の動力動作点である初期動力動作点に対して、前記負荷に対応するための目標動力動作点を設定し、
前記動作点制御部は、
前記動力動作点を、前記第一動作線上にある前記初期動力動作点から前記回転数を一定にしたまま前記第二動作線上の前記目標動力動作点へ移動させ、
前記動力動作点を前記目標動力動作点へ移動させた後、前記第二動作線上にあ
る前記目標動力動作点から前記トルクを一定にしたまま前記第一動作線上の復帰動力動作点へ移動させ、
前記動力動作点を前記復帰動力動作点へ移動した後、前記第一動作線上にある前記復帰動力動作点から前記第一動作線に沿って前記初期動力動作点へ移動させることを特徴とする航空機の推進システム。
【請求項2】
前記負荷変動検出部により前記負荷が増加することが検出された場合、前記動作点制御部は、前記第一動作線の出力に対して前記第二動作線の出力が大きくなるように前記第二動作線を設定することを特徴とする請求項1に記載の航空機の推進システム。
【請求項3】
前記負荷変動検出部により前記負荷が減少することが検出された場合、前記動作点制御部は、前記第一動作線の出力に対して前記第二動作線の出力が小さくなるように前記第二動作線を設定することを特徴とする請求項1に記載の航空機の推進システム。
【請求項4】
前記負荷変動検出部は、フィードフォワード制御により前記負荷変動を予測するフィードフォワード制御部を有し、
前記フィードフォワード制御部は、前記飛行状態検出部により検出された前記飛行状態に基づいて前記負荷変動を予測し、
前記動作点制御部は、前記フィードフォワード制御部で予測された前記負荷変動に基づいて前記動力動作点を制御することを特徴とする請求項1に記載の航空機の推進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の推進システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機等の機体に搭載された圧縮機やタービンに発電機を接続し、この発電機からの電力を用いて複数のプロペラを駆動する航空機用推進システムの技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、複数のガスタービンエンジンと、ガスタービンエンジンの運転により発電する発電機と、プロペラの電動機に電力を供給するバッテリと、を備える推進システムの構成が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、ガスタービンエンジンに接続された発電機とバッテリとを組み合わせたハイブリッドタイプの推進システムとすることで、ガスタービンエンジンの故障等の種々の状況に対応できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、航空機の離着陸時やホバリング時においては、複数のプロペラの回転を制御することにより機体の姿勢を保つ必要があり、このとき、短時間にスパイク状の負荷変動が生じる場合がある。
特許文献1等に記載の従来技術にあっては、このようなスパイク状の負荷変動に対して、ガスタービンエンジンへの燃料流量の増減だけでは追従できないため、電力の不足分をバッテリからの電力により補う必要がある。すなわち、負荷変動に対応するためにバッテリの電力に頼る必要がある。このため、バッテリの必要容量が大きくなり、バッテリ及びその冷却系が大型化し、重量が増加するおそれがある。また、バッテリの寿命が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術と比較してバッテリ及びその冷却系を小型化するとともに、バッテリ寿命の低下を抑制することが可能な航空機の推進システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明に係る航空機の推進システム(例えば、実施形態における航空機の推進システム1)は、航空機の機体に搭載され、圧縮機(例えば、実施形態における圧縮機21)及び前記圧縮機と一体回転するタービン(例えば、実施形態におけるタービン22)を有するガスタービン要素(例えば、実施形態におけるガスタービン要素2)と、前記ガスタービン要素と回転軸(例えば、実施形態における回転軸25)を介して接続される発電機(例えば、実施形態における発電機3)と、前記発電機により発電された電力を蓄電するバッテリ(例えば、実施形態におけるバッテリ5)と、前記発電機からの電力及び前記バッテリからの電力の少なくとも一方の電力により駆動される電気モータ(例えば、実施形態における電気モータ7)と、前記電気モータにより駆動されるプロペラ(例えば、実施形態におけるプロペラ8)と、前記航空機の飛行状態を検出する飛行状態検出部(例えば、実施形態における飛行状態検出部15)と、前記飛行状態検出部により検出された前記飛行状態に基づいて、前記航空機に対する要求出力の負荷変動を検出する負荷変動検出部(例えば、実施形態における負荷変動検出部31)と、前記飛行状態検出部により検出された前記飛行状態に基づいて、前記回転軸におけるトルク(例えば、実施形態におけるトルクT)及び回転数(例えば、実施形態における回転数Ne)により定義される動力動作点(例えば、実施形態における動力動作点51,52,53,61,62,63,71,72,73,81,82,83)を制御する動作点制御部(例えば、実施形態における動作点制御部32)と、を備え、前記動作点制御部は、動力動作点がマッピングされる動作点マップ(例えば、実施形態における動作点マップ40)において、前記トルクと前記回転数の積により定義される出力(例えば、実施形態における定数α)が一定である複数の動力動作点を結んだ第一動作線(例えば、実施形態における第一動作線41)と、前記第一動作線とは出力が異なり、かつ出力(例えば、実施形態における定数β)が一定である複数の動力動作点を結んだ第二動作線(例えば、実施形態における第二動作線42)と、を設定し、前記動作点制御部は、前記負荷変動検出部により負荷が変動したことが検出された場合、前記動作点マップにおける現在の動力動作点である初期動力動作点(例えば、実施形態における初期動力動作点51,61,71,81)に対して、前記負荷に対応するための目標動力動作点(例えば、実施形態における目標動力動作点52,62,72,82)を設定し、前記動作点制御部は、前記動力動作点を、前記第一動作線上にある前記初期動力動作点から前記回転数を一定にしたまま前記第二動作線上の前記目標動力動作点へ移動させ、前記動力動作点を前記目標動力動作点へ移動させた後、前記第二動作線上にある前記目標動力動作点から前記トルクを一定にしたまま前記第一動作線上の復帰動力動作点(例えば、実施形態における復帰動力動作点53,63,73,83)へ移動させ、前記動力動作点を前記復帰動力動作点へ移動した後、前記第一動作線上にある前記復帰動力動作点から前記第一動作線に沿って前記初期動力動作点へ移動させることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に記載の発明に係る航空機の推進システムは、前記負荷変動検出部により前記負荷が増加することが検出された場合、前記動作点制御部は、前記第一動作線の出力に対して前記第二動作線の出力が大きくなるように前記第二動作線を設定することを特徴としている。
【0009】
また、請求項3に記載の発明に係る航空機の推進システムは、前記負荷変動検出部により前記負荷が減少することが検出された場合、前記動作点制御部は、前記第一動作線の出力に対して前記第二動作線の出力が小さくなるように前記第二動作線を設定することを特徴としている。
【0010】
また、請求項4に記載の発明に係る航空機の推進システムは、前記負荷変動検出部は、フィードフォワード制御により前記負荷変動を予測するフィードフォワード制御部(例えば、実施形態におけるフィードフォワード制御部33)を有し、前記フィードフォワード制御部は、前記飛行状態検出部により検出された前記飛行状態に基づいて前記負荷変動を予測し、前記動作点制御部は、前記フィードフォワード制御部で予測された前記負荷変動に基づいて前記動力動作点を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の航空機の推進システムによれば、動作点制御部は、負荷変動が生じた場合に、動力動作点を複数の動作線の間で移動させることにより負荷変動による出力の増減に対応する。具体的に、動作点制御部は、始めに第一動作線上にある動力動作点(初期動力動作点)から回転数を一定にしたまま第二動作線上の動力動作点(目標動力動作点)へ移動させる。これにより、回転軸の運動エネルギと発電機の電気エネルギとを互いに変換させて、短時間の負荷変動に対応できる。その後、動作点制御部は、運動エネルギの増減に合わせてトルク一定のまま回転数を変化させる。つまり、動作点制御部は、第二動作線上にある動力動作点(目標動力動作点)からトルクを一定にしたまま第一動作線上の動力動作点(復帰動力動作点)へ移動させる。これにより、回転数を変速させつつ当初の第一動作線に戻す。最後に、動作点制御部は、復帰動力動作点から第一動作線に沿ってトルク及び回転数を変化させることにより第一動作線上の初期動力動作点に戻す。このように動作点を初期動力動作点、目標動力動作点、復帰動力動作点、初期動力動作点の順に移動させることで、ガスタービン要素及び発電機間の回転軸の運動エネルギを出力として取り出し又は蓄積することができる。つまり、バッテリからの電力の出し入れの代わりに回転軸の運動エネルギを用いてスパイク状の負荷変動に対応可能となる。よって、必要以上にバッテリを大型化する必要が無く、バッテリからの電力で負荷変動に対応する従来技術と比較して、バッテリを小型化できる。また、バッテリの利用頻度が減少するため、バッテリに関する冷却系を小型化できるとともにバッテリの寿命低下を抑制できる。
したがって、従来技術と比較してバッテリ及びその冷却系を小型化するとともに、バッテリ寿命の低下を抑制することが可能な航空機の推進システムを提供できる。
【0012】
本発明の請求項2に記載の航空機の推進システムによれば、負荷が増加する場合、動作点制御部は、第一動作線の出力に対して第二動作線の出力が大きくなるように第二動作線を設定する。すなわち、動作点制御部は、始めに第一動作線上の初期動力動作点から回転数を一定にしたまま第二動作線上の目標動力動作点へ移動させる。これにより、回転軸の運動エネルギを利用して発電機側での発電電力を増加させ、短時間での負荷増加に対応することができる。その後、動作点制御部は、運動エネルギの減少に合わせて回転数を減少させる。つまり、動作点制御部は、第二動作線上の目標動力動作点からトルクを一定にしたまま第一動作線上の復帰動力動作点へ移動させる。これにより、回転数を減少させつつ当初の第一動作線に戻す。最後に、動作点制御部は、復帰動力動作点から第一動作線に沿ってトルク及び回転数を変化させることにより初期動力動作点に戻す。このように、負荷が増加する場合には、動作点を移動させることにより運動エネルギを電気エネルギとして取り出すことができる。よって、バッテリから電力を取り出すことなく負荷変動の増加に対応できる。
【0013】
本発明の請求項3に記載の航空機の推進システムによれば、負荷が減少する場合、動作点制御部は、第一動作線の出力に対して第二動作線の出力が小さくなるように第二動作線を設定する。すなわち、動作点制御部は、始めに第一動作線上の初期動力動作点から回転数を一定にしたまま第二動作線上の目標動力動作点へ移動させる。これにより、負荷低下に対応するために発電機が電力変換せずに残った余分の運動エネルギを回転軸の運動エネルギとして吸収(蓄積)させ、短時間での負荷減少に対応することができる。その後、動作点制御部は、運動エネルギの増加に合わせて回転数を増加させる。つまり、動作点制御部は、第二動作線上の目標動力動作点からトルクを一定にしたまま第一動作線上の復帰動力動作点へ移動させる。これにより、回転数を増加させつつ当初の第一動作線に戻す。最後に、動作点制御部は、復帰動力動作点から第一動作線に沿ってトルク及び回転数を変化させることにより初期動力動作点に戻す。このように、負荷が減少する場合には、動作点を移動させることにより発電機が電力変換せずに残った余分な運動エネルギを回転軸の運動エネルギとして吸収(蓄積)させることができる。よって、バッテリに電力を蓄電させることなく負荷変動の減少に対応できる。
さらに、負荷の減少時に吸収された運動エネルギを、負荷が増加した場合の発電エネルギとして利用することができる。この場合、負荷が増加した際に取り出された運動エネルギを、蓄積されていた運動エネルギで賄うことができるので、燃料流量を増加させることなく負荷の増加に対応できる。よって燃費の悪化を抑制できる。
【0014】
本発明の請求項4に記載の航空機の推進システムによれば、フィードフォワード制御により負荷変動を予測するフィードフォワード制御部を有し、動作点制御部は、フィードフォワード制御部で予測された負荷変動に基づいて動力動作点を制御する。これにより、より迅速に要求出力の負荷変動に対応することができる。よって、航空機の推進システムにおける応答性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る航空機の推進システムの概略構成図。
【
図2】負荷が増加した場合における、動作点制御部による制御を示す動作点マップ。
【
図3】負荷が増加した場合における動作点制御部のブロック図。
【
図4】負荷が増加した場合に取り出される運動エネルギ量を示すグラフ。
【
図5】負荷が減少した場合における、動作点制御部による制御を示す動作点マップ。
【
図6】負荷が減少した場合における動作点制御部のブロック図。
【
図7】負荷が減少した場合に吸収される運動エネルギ量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
(航空機の推進システム)
図1は、実施形態に係る航空機の推進システム1の概略構成図である。
航空機の推進システム1(以下、単に推進システム1という場合がある。)は、不図示の航空機の機体に搭載されている。推進システム1は、詳しくは後述する発電機3で発電される電力によって駆動される複数の電気モータ7により航空機を推進させるハイブリッド推進システムである。
航空機の推進システム1は、ガスタービン要素2と、発電機3と、バッテリ5と、電気モータ7と、プロペラ8と、複数の制御ユニットと、を備える。複数の制御ユニットは、ガスタービンECU11と、発電機ECU12と、バッテリ監視ユニット13と、モータECU14と、飛行状態検出部15と、フライトコントローラ16と、ハイブリッド制御部17と、を備える。
【0018】
(ガスタービン要素)
ガスタービン要素2は、圧縮機21と、タービン22と、連結軸23と、を有するいわゆるガスタービンエンジンである。圧縮機21は、航空機の機体に設けられた不図示の通風孔から吸入される吸入空気を圧縮する。タービン22は、圧縮機21と接続されて圧縮機21と一体回転する。連結軸23は、圧縮機21とタービン22とを連結している。連結軸23の一方の端部に圧縮機21が接続されている。連結軸23の他方の端部にタービン22が接続されている。
【0019】
(発電機)
発電機3は、回転軸25を介してガスタービン要素2と接続されている。発電機3とガスタービン要素2とは、その間に変速機構等を設けることなく、回転軸25を介して直結されている。よって、発電機3は、ガスタービン要素2と一体回転する。回転軸25は、ガスタービン要素2の連結軸23と同軸上に設けられている。なお、回転軸25と連結軸23とは一体化されていてもよい。発電機3は、タービン22の駆動によって電力(交流電力)を発電する。発電機3で発電された交流電力は、パワードライブユニット(PDU)のコンバータ4で直流電力に変換され、バッテリ5に貯留される。
【0020】
(バッテリ)
バッテリ5には、発電機3により発電された電力が貯留される。バッテリ5は、コンバータ4の発電電力がインバータ6の消費電力を上回るとき、余剰電力を吸収して充電する。一方、バッテリ5は、コンバータ4の発電電力がインバータ6の消費電力を下回るとき、不足電力を補うように放電する。
【0021】
(電気モータ)
電気モータ7は、機体に対して複数設けられている。電気モータ7は、例えばロータ及びステータを有するブラシレスDCモータである。電気モータ7とプロペラ8との間には、電気モータ7とプロペラ8とを機械的に接続するプロペラシャフト26が設けられる。制御信号に応じて電気モータ7のロータが回転することでプロペラ8が回転する。制御信号は、パイロットの操作または自動操縦における指示に基づく航空機を制御するための信号である。電気モータ7は、インバータ6を介してコンバータ4(発電機3)及びバッテリ5と接続される。バッテリ5からの放電電力及び発電機3からの電力のうち少なくとも一方は、インバータ6を介して電気モータ7に供給される。これにより電気モータ7が駆動する。なお、電気モータ7は、不図示の姿勢保持用あるいは水平推進用の補助モータ等を含んでもよい。
【0022】
(プロペラ)
プロペラ8は、複数の電気モータ7に対してそれぞれ設けられている。各プロペラ8の回転数(すなわち電気モータ7の回転数)は独立して制御可能となっている。各プロペラ8の回転数を制御することにより、航空機は所望の飛行状態で飛行する。
【0023】
(複数の制御ユニット)
ガスタービンECU11は、ガスタービン要素2の動作を制御する。ガスタービンECU11は、例えばガスタービン要素2に供給される空気量や燃料流量Wfを制御することにより、ガスタービン要素2の回転数やトルク等を所望の値に調整する。
発電機ECU12は、発電機3の動作を制御する。発電機ECU12は、ガスタービン要素2から回転軸25を介して伝達された回転力により発電するための回生トルクの大きさを制御する。回生トルクの大きさは、発電機3に入力される電流値に比例する。つまり、発電機ECU12により発電機3に入力される電流量を調節することにより、発電機3における回生トルクの大きさを制御可能となっている。ガスタービン要素2と発電機3とは回転軸25により直結されるので、例えばガスタービン要素2及び発電機3のトルクT及び回転数Neが一定である定常状態から発電機3の回生トルクを増大させると、回転軸25の回転数(すなわちガスタービン要素2及び発電機3の回転数)が低下する。一方、定常状態から発電機3の回生トルクを減少させると、回転軸25の回転数が増加する。
【0024】
バッテリ監視ユニット13は、バッテリ5内の電力の状態を監視する。
モータECU14は、複数の電気モータ7の動作をそれぞれ制御する。モータECU14は、各電気モータ7に対応して複数設けられてもよい。モータECU14は、バッテリ5からの電力及び発電機3からの電力のうち少なくとも一方の電力を用いて任意の電気モータ7を所望の回転数で回転させる。
【0025】
飛行状態検出部15は、航空機に搭載された各種センサからの検出結果を取得することにより、航空機の飛行状態を検出する。具体的に、飛行状態検出部15は、例えば航空機の速度や姿勢、高度等の情報を取得し、さらにこれらの情報に基づいて航空機の要求出力を算出する。飛行状態検出部15は、例えばパイロットからの指示や飛行経路等の情報をさらに検出してもよい。
【0026】
フライトコントローラ16は、飛行状態検出部15の検出結果を取得する。フライトコントローラ16は、検出結果に基づいてプロペラ8の回転数を決定すると同時に、必要な電力を算出する。フライトコントローラ16は、モータECU14及び後述するハイブリッド制御部17と通信可能となっている。
【0027】
ハイブリッド制御部17は、フライトコントローラ16、ガスタービンECU11、発電機ECU12及びバッテリ監視ユニット13と通信する。ハイブリッド制御部17は、フライトコントローラ16からの信号を受信するとともに、フライトコントローラ16へ信号を送信する。また、ハイブリッド制御部17は、フライトコントローラ16からの情報に基づいてガスタービンECU11、発電機ECU12及びバッテリ監視ユニット13へ指令信号を送信するとともに、ガスタービンECU11、発電機ECU12及びバッテリ監視ユニット13の状態を取得する。ハイブリッド制御部17は、負荷変動検出部31と、動作点制御部32と、を有する。
【0028】
負荷変動検出部31は、飛行状態検出部15により検出された航空機の飛行状態に基づいて、航空機に対する要求出力の負荷変動を検出する。負荷変動とは、例えば飛行中の外気による外乱等により、プロペラ8の負荷が短時間で増減を繰り返すことで生じる要求出力の変動である。例えばホバリング時の姿勢制御を行う際にも負荷変動が生じる場合がある。負荷変動は、航空機が巡航や離着陸、ホバリング等の各種動作を行う際の平均的な負荷である基本負荷に対して、短時間でスパイク状に増減を繰り返すように発生する。すなわち負荷変動は、基本負荷に対しての差分である。
【0029】
負荷変動検出部31はさらに、フィードフォワード制御部33を有する。
フィードフォワード制御部33は、フィードフォワード制御を行うことにより、飛行状態検出部15により検出された飛行状態に基づいて負荷変動を予測する。
【0030】
図2は、負荷が増加した場合における、動作点制御部32による制御を示す動作点マップ40である。
動作点制御部32は、飛行状態検出部15により検出された飛行状態に基づいて、ガスタービン要素2及び発電機3の動力動作点を制御することにより、負荷変動に対する出力を制御する。動力動作点は、発電機3の回転軸25における任意のトルクT及び回転数Neにより定義される所定の出力値を示す値である。動作点制御部32は、
図2に示すように、縦軸をトルクT、横軸を回転数Neとした2次元の動作点マップ40を有する。換言すれば、動作点マップ40上において任意のトルクT及び回転数Neの組み合わせにより一意に決定される点が動力動作点であり、動作点制御部32は、この動作点マップ40上の所望の箇所に動力動作点を設定(移動)可能である。
【0031】
動作点制御部32は、負荷変動検出部31により負荷が変動したことが検出された場合、動作点マップ40における動力動作点の位置を移動させる。本実施形態では、動作点制御部32は、フィードフォワード制御部33により予測された負荷変動に応じて、動力動作点の位置を移動させる。
【0032】
ここで、負荷変動が検出された場合に、動作点制御部32は、動作点マップ40上に第一動作線41と第二動作線42とを設定する。
第一動作線41は、トルクと回転数の積により定義される出力値が一定である複数の動力動作点を結んだ反比例型の曲線である。つまり、第一動作線41上の任意の動力動作点におけるトルク及び回転数は、T×Ne=α(定数)で表される。
第二動作線42は、第一動作線41と同様、トルクと回転数の積により定義される出力値が一定である複数の動力動作点を結んだ反比例型の曲線である。第二動作線42における出力値は第一動作線41の出力値と異なる。つまり、第二動作線42上の任意の動力動作点におけるトルク及び回転数は、T×Ne=β(定数,α≠β)で表される。
【0033】
負荷変動が増加する場合には、α<βとなるように第一動作線41及び第二動作線42が設定される。
負荷変動が減少する場合には、α>βとなるように第一動作線41及び第二動作線42が設定される(
図5参照)。
【0034】
(負荷が増加するように変動負荷が生じる場合の動作点制御部の動作)
負荷変動検出部31により負荷の変動(増加)が検出されると、動作点制御部32は、動作点マップ40上において、初期動力動作点51,61を検出するとともに、目標動力動作点62及び復帰動力動作点53,63を設定する。
図2における符号51,52及び53は、ガスタービン要素2の動力動作点を示し、符号61,62及び63は、発電機3の動力動作点を示す。
【0035】
初期動力動作点51,61は、動作点制御部32による動力動作点の移動制御が実行される前の定常状態において、推進システム1の動力動作点が位置する箇所であり、動作点マップ40における現在の動力動作点である。初期動力動作点51,61は、第一動作線41上に位置している。
目標動力動作点62は、第二動作線42上に位置している。目標動力動作点62は、第二動作線42上において、初期動力動作点51,61の回転数と同等の回転数を有する動力動作点である。
復帰動力動作点53,63は、第一動作線41上に位置している。復帰動力動作点53,63は、第一動作線41上において、目標動力動作点62のトルクと同等のトルクを有する動力動作点である。
【0036】
動作点制御部32は、負荷変動検出部31により負荷が変動(増加)したことが検出された場合、まず、既知である初期動力動作点51,61に対して、変動した負荷に対応するための目標動力動作点62を設定する。
【0037】
さらに動作点制御部32は、動力動作点を、第一動作線41上にある初期動力動作点51,61から、回転数を一定にしたまま第二動作線42上の目標動力動作点62(52)へ移動させる。その後、動作点制御部32は、動力動作点を、第二動作線42上にある目標動力動作点62からトルクを一定にしたまま第一動作線41上の復帰動力動作点53,63へ移動させる。その後、動作点制御部32は、動力動作点を、第一動作線41上にある復帰動力動作点53,63から第一動作線41に沿って初期動力動作点51,61へ移動させる。
【0038】
上述したように、動作点制御部32は、負荷変動検出部31により負荷の変動が検出されると、動作点マップ40上の動力動作点を、初期動力動作点51,61、目標動力動作点62(52)、復帰動力動作点53,63、初期動力動作点51,61の順で移動させる。特に発電機3における動力動作点を移動させることにより、動作点制御部32は、負荷変動に追従した電力を出力できるように発電機3を制御する。
【0039】
(負荷が増加するように変動負荷が生じる場合の動作点制御部による制御)
次に、負荷が増加するように変動負荷が生じる場合における動作点制御部32の制御についてより詳細に説明する。
図3は、負荷が増加した場合における、動作点制御部32のブロック図である。
図3において、ステップS05及びS07は発電機3に対する制御であり、ステップS09は、ガスタービン要素2に対する制御である。それ以外のステップS01、S03、S11、S13、及びS15は、発電機3及びガスタービン要素2の両方に対する共通の制御を表している。
【0040】
図2及び
図3に示すように、まず、負荷変動検出部31により負荷が増加したことが検出されると、動作点制御部32は、第一動作線41から第二動作線42へのスパイク状の負荷変動を行うように指令信号を送信する(ステップS01)。ここで、上述したように、負荷が増加する場合、動作点制御部32は、第一動作線41の出力に対して第二動作線42の出力が大きくなるように第二動作線42を設定する(
図2参照)。すなわち、α<βとなるように第二動作線42が設定される。よって、第一動作線41から第二動作線42へ動力動作点を移動させることにより、発電機3からの出力が増加する。
【0041】
第二動作線42が設定されると、次に、動作点制御部32は、スパイク状の負荷を吸収する運転モードに推進システム1を移行させる(ステップS03)。このとき、発電機3における動力動作点61と、ガスタービン要素2における動力動作点51と、は一致している。
【0042】
次に、動作点制御部32は、発電機3に対して、負荷変動に追従するために必要な電力を引き出せる発電機3のトルクを算出する(ステップS05)。さらに、動作点制御部32は、ステップS05で算出したトルクから発電機3の目標動力動作点62を設定し、動力動作点を移動させる。具体的に、動作点制御部32は、発電機3の動力動作点を、第一動作線41上の初期動力動作点61から、回転数を一定にしたまま第二動作線42上の目標動力動作点62へ移動させる(ステップS07)。目標動力動作点62への移動は、発電機ECU12から発電機3へ供給する電流量を増加させ、発電機3における回生トルクの大きさを増加させることにより実現される。このとき発電機3のトルクが増加することにより、負荷変動による負荷の増加分を回転軸25の運動エネルギにより補うことができる。なお、「回転軸25の運動エネルギ」は、例えば圧縮機21やタービン22、連結軸23、回転軸25、発電機3を含む回転体全体の運動エネルギを含む。
【0043】
ステップS05及びステップS07の制御と同時に、動作点制御部32は、ガスタービン要素2に対して、燃料流量Wfを一定に保つように制御を行う(ステップS09)。燃料流量Wfが一定のため、ガスタービン要素2における動作点は変化せず、初期動力動作点51と同じ動力動作点52に位置している。
【0044】
次に、動作点制御部32は、発電機3及びガスタービン要素2に対して、回転数Neを減速しつつ第一動作線41に戻す制御を行う(ステップS11)。具体的に、動作点制御部32は、発電機3に対して、動力動作点を、第二動作線42上にある目標動力動作点62からトルクTを一定にしたまま第一動作線41上の復帰動力動作点63へ移動させる。さらに、動作点制御部32は、ガスタービン要素2に対して、動力動作点を、第一動作線41上にある動力動作点52から第一動作線41上の復帰動力動作点53へ移動させる。これにより、発電機3における復帰動力動作点63と、ガスタービン要素2における復帰動力動作点53と、が一致する。
【0045】
次に、動作点制御部32は、発電機3及びガスタービン要素2に対して、動力動作点を、第一動作線41に沿って初期動力動作点51,61に戻す制御を行う(ステップS13)。具体的に、動作点制御部32は、発電機3及びガスタービン要素2に対して、動力動作点を、第一動作線41上にある復帰動力動作点53,63から第一動作線41に沿って初期動力動作点51,61へ移動させる。初期動力動作点51,61へ戻る際、失われた運動エネルギを補いつつガスタービン要素2を加速させるため、ガスタービン要素2に供給される燃料流量Wfが増加する。
【0046】
初期動力動作点51,61に戻った後、動作点制御部32は、定常運転モードに推進システム1を移行させ、動力動作点の移動制御を終了する(ステップS15)。
【0047】
図4は、負荷が増加した場合に取り出される運動エネルギ量を示すグラフである。
図4に示すように、上述の制御により発電機3の動力動作点が初期動力動作点61、目標動力動作点62、復帰動力動作点63、初期動力動作点61の順で移動する。これにより、
図4の各動力動作点で囲まれた領域RAに相当する大きさの回転軸25の運動エネルギが発電機3で変換されて電気エネルギとして取り出される。取り出された電気エネルギを負荷の増加分に充てることにより、バッテリ5の電力を用いることなく負荷の増加に対して迅速に出力を追従させることが可能となる。
【0048】
(負荷が減少するように変動負荷が生じる場合の動作点制御部の動作)
次に、負荷が減少するように変動負荷が生じる場合の動作点制御部の動作について説明する。
図5は、負荷が減少した場合における、動作点制御部32による制御を示す動作点マップ40である。
負荷変動検出部31により負荷の変動(増加)が検出されると、動作点制御部32は、動作点マップ40上において、初期動力動作点71,81を検出するとともに、目標動力動作点82及び復帰動力動作点73,83を設定する。
図5における符号71,72及び73は、ガスタービン要素2の動力動作点を示し、符号81,82及び83は、発電機3の動力動作点を示す。
【0049】
初期動力動作点71,81は、動作点制御部32による動力動作点の移動制御が実行される前の定常状態において、推進システム1の動力動作点が位置する箇所であり、動作点マップ40における現在の動力動作点である。初期動力動作点71,81は、第一動作線41上に位置している。
目標動力動作点82は、第二動作線42上に位置している。目標動力動作点82は、第二動作線42上において、初期動力動作点71,81の回転数と同等の回転数を有する動力動作点である。
復帰動力動作点73,83は、第一動作線41上に位置している。復帰動力動作点73,83は、第一動作線41上において、目標動力動作点82のトルクと同等のトルクを有する動力動作点である。
【0050】
動作点制御部32は、負荷変動検出部31により負荷が変動(減少)したことが検出された場合、まず、既知である初期動力動作点71,81に対して、変動した負荷に対応するための目標動力動作点82を設定する。
【0051】
さらに動作点制御部32は、動力動作点を、第一動作線41上にある初期動力動作点71,81から、回転数を一定にしたまま第二動作線42上の目標動力動作点82(72)へ移動させる。その後、動作点制御部32は、動力動作点を、第二動作線42上にある目標動力動作点82からトルクを一定にしたまま第一動作線41上の復帰動力動作点73,83へ移動させる。その後、動作点制御部32は、動力動作点を、第一動作線41上にある復帰動力動作点73,83から第一動作線41に沿って初期動力動作点71,81へ移動させる。
【0052】
上述したように、動作点制御部32は、負荷変動検出部31により負荷の変動が検出されると、動作点マップ40上の動力動作点を、初期動力動作点71,81、目標動力動作点82(72)、復帰動力動作点73,83、初期動力動作点71,81の順で移動させる。特に発電機3における動力動作点を移動させることにより、動作点制御部32は、負荷変動に追従した電力を出力できるように発電機3を制御する。
【0053】
(負荷が減少するように変動負荷が生じる場合の動作点制御部による制御)
次に、負荷が減少するように変動負荷が生じる場合における動作点制御部32の制御について説明する。
図6は、負荷が減少した場合における動作点制御部32のブロック図である。
図6において、ステップS25及びS27は発電機3に対する制御であり、ステップS29は、ガスタービン要素2に対する制御である。それ以外のステップS21、S23、S31、S33、及びS35は、発電機3及びガスタービン要素2の両方に対する共通の制御を表している。
【0054】
図5及び
図6に示すように、まず、負荷変動検出部31により負荷が減少したことが検出されると、動作点制御部32は、第一動作線41から第二動作線42へのスパイク状の負荷変動を行うように指令信号を送信する(ステップS21)。ここで、上述したように、負荷が減少する場合、動作点制御部32は、第一動作線41の出力に対して第二動作線42の出力が小さくなるように第二動作線42を設定する(
図5参照)。すなわち、α>βとなるように第二動作線42が設定される。よって、第一動作線41から第二動作線42へ動力動作点を移動させることにより、発電機3からの出力が減少する。
【0055】
第二動作線42が設定されると、次に、動作点制御部32は、スパイク状の負荷を吸収する運転モードに推進システム1を移行させる(ステップS23)。このとき、発電機3における動力動作点81と、ガスタービン要素2における動力動作点71と、は一致している。
【0056】
次に、動作点制御部32は、発電機3に対して、負荷変動に追従するために必要な電力を吸収できる発電機3のトルクを算出する(ステップS25)。さらに、動作点制御部32は、ステップS25で算出したトルクから発電機3の目標動力動作点82を設定し、動力動作点を移動させる。具体的に、動作点制御部32は、発電機3の動力動作点を、第一動作線41上の初期動力動作点81から、回転数を一定にしたまま第二動作線42上の目標動力動作点82へ移動させる(ステップS27)。目標動力動作点82への移動は、発電機ECU12から発電機3へ供給する電流量を減少させ、発電機3における回生トルクの大きさを減少させることにより実現される。このとき発電機3のトルクTが減少することにより、負荷変動による負荷の減少分を回転軸25の運動エネルギで吸収することができる。
【0057】
ステップS25及びステップS27の制御と同時に、動作点制御部32は、ガスタービン要素2に対して、燃料流量Wfを一定に保つように制御を行う(ステップS29)。燃料流量Wfが一定のため、ガスタービン要素2における動作点は変化せず、初期動力動作点71と同じ動力動作点72に位置している。
【0058】
次に、動作点制御部32は、発電機3及びガスタービン要素2に対して、回転数Neを加速させつつ第一動作線41に戻す制御を行う(ステップS31)。具体的に、動作点制御部32は、発電機3に対して、動力動作点を、第二動作線42上にある目標動力動作点82からトルクTを一定にしたまま第一動作線41上の復帰動力動作点83へ移動させる。さらに、動作点制御部32は、ガスタービン要素2に対して、動力動作点を、第一動作線41上にある動力動作点72から第一動作線41上の復帰動力動作点73へ移動させる。これにより、発電機3における復帰動力動作点83と、ガスタービン要素2における復帰動力動作点73と、が一致する。
【0059】
次に、動作点制御部32は、発電機3及びガスタービン要素2に対して、動力動作点を、第一動作線41に沿って初期動力動作点71,81に戻す制御を行う(ステップS33)。具体的に、動作点制御部32は、発電機3及びガスタービン要素2に対して、動力動作点を、第一動作線41上にある復帰動力動作点73,83から第一動作線41に沿って初期動力動作点71,81へ移動させる。初期動力動作点51,61へ戻る際、蓄えられた運動エネルギを放出するため、ガスタービン要素2に供給される燃料流量Wfが減少する。
【0060】
初期動力動作点71,81に戻った後、動作点制御部32は、定常運転モードに推進システム1を移行させ、動力動作点の移動制御を終了する(S35)。
【0061】
図7は、負荷が減少した場合に吸収される運動エネルギ量を示すグラフである。
図7に示すように、上述の制御により発電機3の動力動作点が初期動力動作点71,81、目標動力動作点72,82、復帰動力動作点73,83、初期動力動作点71,81の順で移動する。これにより、
図7の各動力動作点で囲まれた領域RBに相当する大きさの電気エネルギが回転軸25の運動エネルギとして回収される。これにより、余分な電力をバッテリ5に蓄電することなく負荷の減少に対して迅速に出力を追従させることが可能となる。
【0062】
さらに、回収された運動エネルギは、負荷が増加した場合に取り出される運動エネルギとして利用することが可能である。換言すれば、
図7の領域RBに相当する運動エネルギを、
図4の領域RAに相当する運動エネルギとして利用することが可能である。負荷変動は短時間に増減を繰り返すため、負荷減少時に回収した運動エネルギを負荷増加時の運動エネルギとして利用することで、負荷変動に対する制御に用いる燃料流量Wfを実質的に一定にしたまま動作点制御部32による制御を行うことが可能となる。
【0063】
(作用、効果)
次に、上述の推進システム1の作用、効果について説明する。
本実施形態の推進システム1によれば、動作点制御部32は、負荷変動が生じた場合に、動力動作点を複数の動作線41,42の間で移動させることにより負荷変動による出力の増減に対応する。具体的に、動作点制御部32は、始めに第一動作線41上にある動力動作点(初期動力動作点51,61,71,81)から回転数Neを一定にしたまま第二動作線42上の動力動作点(目標動力動作点52,62,72,82)へ移動させる。これにより、回転軸25の運動エネルギと発電機3の電気エネルギとを互いに変換させて、短時間の負荷変動に対応できる。その後、動作点制御部32は、運動エネルギの増減に合わせてトルクT一定のまま回転数Neを変化させる。つまり、動作点制御部32は、第二動作線42上にある動力動作点(目標動力動作点52,62,72,82)からトルクを一定にしたまま第一動作線41上の動力動作点(復帰動力動作点53,63,73,83)へ移動させる。これにより、回転数Neを変速させつつ当初の第一動作線41に戻す。最後に、動作点制御部32は、復帰動力動作点53,63,73,83から第一動作線41に沿ってトルクT及び回転数Neを変化させることにより第一動作線41上の初期動力動作点51,61,71,81に戻す。これにより、同じ動作線上であってもより効率の良い動作点で運転させることができる。このように動作点を初期動力動作点51,61,71,81、目標動力動作点52,62,72,82、復帰動力動作点53,63,73,83、初期動力動作点51,61,71,81の順に移動させることで、ガスタービン要素2及び発電機3間の回転軸25の運動エネルギを出力として取り出し又は蓄積することができる。つまり、バッテリ5からの電力の出し入れの代わりに回転軸25の運動エネルギを用いてスパイク状の負荷変動に対応可能となる。よって、必要以上にバッテリ5を大型化する必要が無く、バッテリ5からの電力で負荷変動に対応する従来技術と比較して、バッテリ5を小型化できる。また、バッテリ5の利用頻度が減少するため、バッテリ5に関する冷却系を小型化できるとともにバッテリ5の寿命低下を抑制できる。
したがって、従来技術と比較してバッテリ5及びその冷却系を小型化するとともに、バッテリ5寿命の低下を抑制することが可能な航空機の推進システム1を提供できる。
【0064】
負荷が増加する場合、動作点制御部32は、第一動作線41の出力αに対して第二動作線42の出力βが大きくなるように第二動作線42を設定する。すなわち、動作点制御部32は、始めに第一動作線41上の初期動力動作点51,61から回転数Neを一定にしたまま第二動作線42上の目標動力動作点52,62へ移動させる。これにより、回転軸25の運動エネルギを利用して発電機3側での発電電力を増加させ、短時間での負荷増加に対応することができる。その後、動作点制御部32は、運動エネルギの減少に合わせて回転数Neを減少させる。つまり、動作点制御部32は、第二動作線42上の目標動力動作点52,62からトルクTを一定にしたまま第一動作線41上の復帰動力動作点53,63へ移動させる。これにより、回転数Neを減少させつつ当初の第一動作線41に戻す。最後に、動作点制御部32は、復帰動力動作点53,63から第一動作線41に沿ってトルクT及び回転数Neを変化させることにより初期動力動作点51,61に戻す。このように、負荷が増加する場合には、動作点を移動させることにより運動エネルギを電気エネルギとして取り出すことができる。よって、バッテリ5から電力を取り出すことなく負荷変動の増加に対応できる。
【0065】
負荷が減少する場合、動作点制御部32は、第一動作線41の出力αに対して第二動作線42の出力βが小さくなるように第二動作線42を設定する。すなわち、動作点制御部32は、始めに第一動作線41上の初期動力動作点71,81から回転数Neを一定にしたまま第二動作線42上の目標動力動作点72,82へ移動させる。これにより、負荷低下に対応するために発電機3が電力変換せずに残った余分の運動エネルギを回転軸25の運動エネルギとして吸収(蓄積)させ、短時間での負荷減少に対応することができる。その後、動作点制御部32は、運動エネルギの増加に合わせて回転数Neを増加させる。つまり、動作点制御部32は、第二動作線42上の目標動力動作点72,82からトルクTを一定にしたまま第一動作線41上の復帰動力動作点73,83へ移動させる。これにより、回転数Neを増加させつつ当初の第一動作線41に戻す。最後に、動作点制御部32は、復帰動力動作点73,83から第一動作線41に沿ってトルクT及び回転数Neを変化させることにより初期動力動作点71,81に戻す。このように、負荷が減少する場合には、動作点を移動させることにより発電機3が電力変換せずに残った余分な運動エネルギを回転軸25の運動エネルギとして吸収(蓄積)させることができる。よって、バッテリ5に電力を蓄電させることなく負荷変動の減少に対応できる。
さらに、負荷の減少時に吸収された運動エネルギを、負荷が増加した場合の発電エネルギとして利用することができる。この場合、負荷が増加した際に取り出された運動エネルギを、蓄積されていた運動エネルギで賄うことができるので、燃料流量Wfを増加させることなく負荷の増加に対応できる。よって燃費の悪化を抑制できる。
【0066】
負荷変動検出部31は、フィードフォワード制御により負荷変動を予測するフィードフォワード制御部33を有し、動作点制御部32は、フィードフォワード制御部33で予測された負荷変動に基づいて動力動作点を制御する。これにより、より迅速に要求出力の負荷変動に対応することができる。よって、航空機の推進システム1における応答性を向上できる。
【0067】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態では、単一のガスタービン要素2を有する構成について説明したが、推進システム1が複数のガスタービン要素2を有していてもよい。すなわち、推進システム1は、複数のガスタービン要素2と、各ガスタービン要素2に対応する複数のガスタービンECU11と、発電機3と、コンバータ4と、発電機ECU12と、を有してもよい。推進システム1は、複数のバッテリ5(及びバッテリ監視ユニット13)を有してもよい。推進システム1は、複数のインバータ6と、複数の電気モータ7(及びモータECU14)と、各電気モータ7に対応する複数のプロペラ8と、を有してもよい。
発電機3は、軸方向において圧縮機21とタービン22との間に配置されてもよい。
【0068】
負荷が増加した場合において、復帰動力動作点53,63から初期動力動作点51,61へ移動させる制御は、省略してもよい。この場合、負荷が減少した場合の制御が実行されるまで復帰動力動作点53,63で待機し、負荷の減少が検出された場合に、初期動力動作点71,81から復帰動力動作点73,83まで移動させることにより、負荷が増加した場合の復帰動力動作点53,63から初期動力動作点51,61への移動に代えてもよい。すなわち、負荷が増加した場合の復帰動力動作点53,63と、負荷が減少した場合の初期動力動作点71,81とが一致するものとして運動エネルギの取り出しと吸収とを交互に行わせてもよい。このように構成した場合、上述したように、動力動作点の移動に伴う燃料流量Wfを一定にできるので、燃料消費を抑制することができる。
【0069】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 航空機の推進システム
2 ガスタービン要素
3 発電機
5 バッテリ
7 電気モータ
8 プロペラ
15 飛行状態検出部
21 圧縮機
22 タービン
25 回転軸
31 負荷変動検出部
32 動作点制御部
33 フィードフォワード制御部
40 動作点マップ
41 第一動作線
42 第二動作線
51,61,71,81 初期動力動作点(動力動作点)
52,62,72,82 目標動力動作点(動力動作点)
53,63,73,83 復帰動力動作点(動力動作点)
T トルク
Ne 回転数