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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20241101BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241101BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241101BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20241101BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241101BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M10/0587
H01M10/052
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021553413
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039213
(87)【国際公開番号】W WO2021085201
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019198656
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 娜
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/62
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極を有する電極体と、前記電極体を収容する外装体とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記負極は、負極芯体と、前記負極芯体の表面に形成された負極合材層とを含み、
前記負極合材層は、タップ密度が1.00g/cm~1.20g/cmの負極活物質と、前記負極合材層における含有量が0.6質量%~0.8質量%のCMCと、前記負極合材層における含有量が0.4質量%~0.8質量%のSBRとを含み、
前記負極合材層において、SBRの含有量に対するCMCの含有量の質量比は2よりも小さく、
前記負極合材層におけるCMCとSBRの含有量の合計は1.2質量%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質の吸油量は、43ml/100g~52ml/100gである、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質のBET比表面積は、3.5m/g~4.8m/gである、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質は、平均円形度が0.8以上の略球形状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質の平均粒子径は、8μm~13μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質は、天然黒鉛である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
SBRのTgは、5℃以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
CMCの質量平均分子量は、3.7×10~4.3×10である、請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記電極体は、前記正極と前記負極とがセパレータを介して巻回された巻回型であり、
前記負極合材層は、充填密度が1.05g/cm~1.25g/cmであり、厚みが65μm~75μmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の負極を構成する負極合材層は、負極活物質と、増粘材と、結着材とを含み、負極活物質としては、黒鉛等の炭素材料が広く利用されている。負極活物質、増粘材、結着材の各々の特性や含有量を調整することで、二次電池の様々な特性を変化させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、負極合材層に、ラマン測定による非晶質化度が0.3~0.5である負極活物質としての天然黒鉛と、1質量%~2質量%の増粘材としてのCMCと、1質量%~2質量%の結着材としてのSBRとを含有することで、サイクル特性を向上させた二次電池が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、負極合材層に、タップ密度が0.7g/cm以上の天然黒鉛と、1質量%以上のCMCと、1質量%以上のSBRとを含有することで、サイクル特性を向上させた二次電池が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、負極合材層に、比表面積が1m/g以上の黒鉛と、0.3質量%~3質量%のCMCと、0.3質量%~5質量%のSBRと、繊維径1nm~1000nmの導電材としての炭素繊維とを含有することで、高速充放電特性を向上させた二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-528631号公報
【文献】特開2011-238622号公報
【文献】特開2005-222933号公報
【発明の概要】
【0007】
電池組立工程において、負極を一定の大きさに切断する際に負極合材層の合材の脱落が発生することがある。脱落した合材が電池内に巻取られた場合、電池充放電時に内部短絡が発生する可能性がある。また、負極合材層の合材が脱落した部分は脆くなるため、電池の充放電時の合材層の膨張収縮によりさらに合材が脱落して内部短絡が発生する可能性もあるため、電池の信頼性向上のために負極合材の脱落を抑制する必要がある。また、電気自動車(EV)等の電源として二次電池が用いられる場合には、優れた低温回生特性が求められる。しかし、特許文献1~3では、負極切断時の負極合材の脱落量、及び低温回生特性については考慮されていない。
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極及び負極を有する電極体と、電極体を収容する外装体とを備える。負極は、負極芯体と、負極芯体の表面に形成された負極合材層とを含み、負極合材層は、タップ密度が1.00g/cm~1.20g/cmの負極活物質と、負極合材層における含有量が0.6質量%~0.8質量%のCMCと、負極合材層における含有量が0.4質量%~0.8質量%のSBRとを含み、負極合材層において、SBRの含有量に対するCMCの含有量の質量比は2よりも小さく、負極合材層におけるCMCとSBRの含有量の合計は1.5質量%よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
本開示に係る非水電解質二次電池によれば、電池の信頼性、及び低温回生特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は実施形態の一例である二次電池の斜視図であって、外装体の手前側を外した状態での電池ケースの内部の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
負極合材層に含まれる負極活物質のタップ密度を高くすることで、電解液が負極合材層の表面から負極芯体に至るまでの吸液パスが短くなるので、低温回生特性が向上する。しかし、タップ密度が高い負極活物質は円形度が高いので、負極合材層中にタップ密度が高い負極活物質を含むと、タップ密度が低い負極活物質を含む場合と比較して活物質間の空隙が大きくなり、負極活物質の表面に吸着していない遊離したCMCが多く存在して負極が硬くなる。負極が硬くなると、電池組立工程において負極を一定の大きさに切断する際に負極活物質を含む負極合材が脱落しやすくなるので、CMC含有量は少ない方がよいが、CMC含有量が少なすぎると負極合材スラリーの分散性が悪くなり負極合材層を形成することができない。また、SBRは柔軟性を有するため負極合材層における含有量を多くすると負極を柔らかくすることができる。負極合材層におけるCMCとSBRとの含有量の合計が大きくなれば、負極を柔らかくして負極活物質を含む負極合材の脱落を抑制できるが、電池の抵抗が大きくなり、低温回生特性が悪化する。本発明者らが鋭意検討した結果、タップ密度が1.00g/cm~1.20g/cmと高い負極活物質に対して、CMCとSBRを所定の割合で混合することで、電池組立工程における負極切断時の負極合材の脱落量(以下、カット脱落量という)を少なくしつつ、電池の低温回生特性を向上させられることを見出した。
【0012】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。本実施形態では、角形の金属製の外装体1を備えた二次電池100を例示するが、外装体は角形に限定されず、例えば、円筒形等であってもよい。また、正極と負極とがセパレータを介して巻回された巻回型の電極体3を例示するが、複数の正極と複数の負極とがセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型の電極体であってもよい。電極体3は、巻回型であることが好ましい。また、正極及び負極の両方において、各合材層が各芯体の両面に形成される場合を例示するが、各合材層は、各芯体の両面に形成される場合に限定されず、少なくとも一方の表面に形成されればよい。
【0013】
図1に例示するように、二次電池100は、正極と負極がセパレータを介して巻回され、平坦部及び一対の湾曲部を有する扁平状に成形された巻回型の電極体3と、電解質と、電極体3及び電解質を収容する外装体1とを備える。外装体1及び封口板2はいずれも金属製であり、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0014】
外装体1は、底面視略長方形状の底部、及び底部の周縁に立設した側壁部を有する。側壁部は、底部に対して垂直に形成される。外装体1の寸法は特に限定されないが、一例としては、横方向長さが60~160mm、高さが60~100mm、厚みが10~40mmである。
【0015】
正極は、金属製の正極芯体と、芯体の両面に形成された正極合材層とを有する長尺体であって、短手方向における一方の端部に長手方向に沿って正極芯体が露出する帯状の正極芯体露出部4が形成されたものである。同様に、負極は、金属製の負極芯体と、芯体の両面に形成された負極合材層とを有する長尺体であって、短手方向における一方の端部に長手方向に沿って負極芯体が露出する帯状の負極芯体露出部5が形成されたものである。電極体3は、軸方向一端側に正極の正極芯体露出部4が、軸方向他端側に負極の負極芯体露出部5がそれぞれ配置された状態で、セパレータを介して正極及び負極が巻回された構造を有する。
【0016】
正極の正極芯体露出部4の積層部には正極集電体6が、負極の負極芯体露出部5の積層部には負極集電体8がそれぞれ接続される。好適な正極集電体6は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。好適な負極集電体8は、銅又は銅合金製である。正極端子7は、封口板2の電池外部側に配置される正極外部導電部13と、正極外部導電部13に接続された正極ボルト部14と、封口板2に設けられた貫通穴に挿入される正極挿入部15とを有し、正極集電体6と電気的に接続されている。また、負極端子9は、封口板2の電池外部側に配置される負極外部導電部16と、負極外部導電部16に接続された負極ボルト部17と、封口板2に設けられた貫通穴に挿入される負極挿入部18とを有し、負極集電体8と電気的に接続されている。
【0017】
正極端子7及び正極集電体6は、それぞれ内部側絶縁部材及び外部側絶縁部材を介して封口板2に固定される。内部側絶縁部材は、封口板2と正極集電体6との間に配置され、外部側絶縁部材は封口板2と正極端子7との間に配置される。同様に、負極端子9及び負極集電体8は、それぞれ内部側絶縁部材及び外部側絶縁部材を介して封口板2に固定される。内部側絶縁部材は封口板2と負極集電体8との間に配置され、外部側絶縁部材は封口板2と負極端子9との間に配置される。
【0018】
電極体3は、外装体1内に収容される。封口板2は、外装体1の開口縁部にレーザー溶接等により接続される。封口板2は電解質注液孔10を有し、この電解質注液孔10は外装体1内に電解質を注液した後、封止栓により電解質注液孔10が封止される。封口板2には、電池内部の圧力が所定値以上となった場合にガスを排出するためのガス排出弁11が形成されている。
【0019】
電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む非水電解質である。非水溶媒には、例えばカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を用いることができ、これらの溶媒は2種以上を混合して用いることができる。2種以上の溶媒を混合して用いる場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒を用いることが好ましい。例えば、環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等を用いることができ、鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)等を用いることができる。非水溶媒は、上記の溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO等及びこれらの混合物を用いることができる。非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、例えば0.5~2.0mol/Lとすることができる。また、適宜ビニレンカーボネート(VC)等の添加材を添加することもできる。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0020】
以下、電極体3を構成する正極、負極、及びセパレータについて、特に負極を構成する負極合材層について詳説する。
【0021】
[正極]
正極は、正極芯体と、正極芯体の表面に形成された正極合材層とを含む。正極芯体には、例えば、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極芯体上に塗布、乾燥して正極合材層を形成した後、この正極合材層を圧延することにより作製できる。
【0022】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が例示できる。リチウム遷移金属酸化物は、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-y2、LixCoy1-yz、LixNi1-yyz、LixMn24、LixMn2-yy4、LiMPO4、Li2MPO4F(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)である。これらは、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。二次電池100の高容量化を図ることができる点で、正極活物質は、LixNiO2、LixCoyNi1-y2、LixNi1-yyz(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)等のリチウムニッケル複合酸化物を含むことが好ましい。
【0023】
導電材は、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等のカーボン系粒子などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
結着材は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
[負極]
負極は、負極芯体と、負極芯体の表面に形成された負極合材層とを含む。負極芯体には、例えば、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いることができる。負極合材層は、タップ密度が1.00g/cm~1.20g/cmの負極活物質と、負極合材層における含有量が0.6質量%~0.8質量%のCMCと、負極合材層における含有量が0.4質量%~0.8質量%のSBRとを含む。また、負極合材層において、SBRの含有量に対するCMCの含有量の質量比は2よりも小さく、負極合材層におけるCMCとSBRと含有量の合計は1.5質量%よりも小さい。これにより、カット脱落量を少なくしつつ、電池の低温回生特性を向上させることができる。負極は、少なくとも、負極活物質と、CMCと、SBRとを含む負極合材スラリーを負極芯体上に塗布、乾燥して負極合材層を形成した後、この負極合材層を圧延することにより作製できる。
【0026】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む合金、複合酸化物などを用いることができる。負極活物質としては、炭素材料が好ましく、天然黒鉛がさらに好ましい。負極活物質は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
負極活物質は、平均円形度が0.8以上の略球形状であってもよい。これにより、電解液が負極合材層の表面から負極芯体に至るまでの吸液パスが短くなるので、低温回生特性が向上する。なお、本願明細書において、平均円形度とは、負極活物質の投影面積をS、周囲長をLとした時、4πS/Lで定義される。円の円形度は1であり、形が長細くなっていくほど円形度は1より小さくなる。平均円形度は、走査型電子顕微鏡で100個の負極活物質を観察して画像解析ソフト(例えば、アメリカ国立衛生研究所製、ImageJ)を用いて活物質の面積S、周囲長Lを測定して計算した円形度の平均値である。
【0028】
負極活物質の平均粒子径は、8μm~13μmであってもよい。負極活物質の平均粒子径と平均円形度が規定の範囲にあることで、負極活物質のタップ密度を1.00g/cm~1.20g/cmの範囲にすることができる。本願明細書において、負極活物質の平均粒子径とは、体積基準のメジアン径(D50)をいう。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。負極活物質の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製SALD-2200)を用い、表面活性剤の水溶液を分散媒として測定できる。
【0029】
負極活物質のタップ密度は、1.00g/cm~1.20g/cmであり、1.03g/cm~1.18g/cmが好ましく、1.05g/cm~1.15g/cmがさらに好ましい。負極活物質のタップ密度が高いほど、低温回生特性は向上するが、カット脱落量は多くなる。負極活物質のタップ密度を上記の範囲にすることで、低温回生特性向上とカット脱落量低減を両立することができる。タップ密度は、一定容積(例えば50mL)のメスシリンダーの上に接続用充填枠(約50mL)を重ね負極活物質を60g導入し、300回タップした後に、充填枠を外しメスシリンダー容積中の負極活物質の質量から算出することができる。負極活物質のタップ密度は、例えば、筒井理化学器械株式会社製TVP-1A(定容量形)を用いて測定できる。
【0030】
負極活物質の吸油量は、43ml/100g~52ml/100gであってもよい。吸油量は、JISK-6217-4「ゴム用カーボンブラック基本特性第4部:DBP吸収量の求め方」で規定されているDBP(ジブチルフタレート)吸収量A法(機械法)に従って求めることができる。ここでは、DBPを変えて亜麻仁油を用いる。具体的には、2枚羽根によってかき混ぜられている30gの負極活物質粒子に4cm/minの速度で亜麻仁油を添加する。このときの粘度特性の変化をトルク検出器によって検出し、その出力をマイクロコンピュータでトルク換算する。発生した最大トルクの100%時点のトルクに対応する亜麻仁油量を負極活物質の粒子100gあたりに換算し、吸油量を求めることができる。負極活物質の吸油量は、例えば、吸収量試験機(株式会社あさひ総研製、形式名「S-500」)等を用いて測定することができる。
【0031】
負極活物質のBET比表面積は、3.5m/g~4.8m/gであってもよい。負極活物質のBET比表面積を上記の範囲にすることで、電池の初回放電容量が向上でき、更に高温保存耐久後にも高い容量維持率が得られる。BET比表面積は、例えば、Macsorb社のHM model-1201等の市販の測定装置によって窒素ガスを用いて測定できる。
【0032】
負極合材層におけるCMCの含有量(以下、CCMCという)は、0.6質量%~0.8質量%である。本願明細書において、CMCとは、カルボキシメチルセルロース又はその塩である。カルボキシメチルセルロースの塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウムが挙げられる。好適なCMCの例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)等が挙げられる。CMCは、結着材として機能してもよいし、増粘材として負極合材スラリーの粘度調整機能を有していてもよい。
【0033】
CMCの質量平均分子量は、3.7×10~4.3×10であってもよい。CMCの質量平均分子量をこの範囲にすることで負極スラリーのチキソ性が良くなり芯体への合材スラリー塗工性が向上できる。また、極板の合材層の硬さがいっそう適切となり、カット脱落量を抑制することができる。
【0034】
負極合材層におけるSBRの含有量(以下、CSBRという)は、0.4質量%~0.8質量%である。本願明細書において、SBRとは、スチレンブタジエンゴム又はその変性体である。SBRの平均一次粒子径は、120~250nmが好ましく、150~230nmがより好ましい。
【0035】
SBRのTgは、5℃以下であってもよい。これにより、SBRが柔らかくなるので、負極の柔軟性を向上することができる。
【0036】
負極合材層において、SBRの含有量に対するCMCの含有量の質量比(以下、CCMC/CSBRという)は2よりも小さく、CMCとSBRと含有量の合計(以下、CCMC+CSBRという)は1.5質量%よりも小さい。これにより、カット脱落量を少なくしつつ、電池の低温回生特性を向上させることができる。
【0037】
負極合材層には、本実施形態の効果の発現を妨げない範囲で、CMC及びSBR以外に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の含フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル系樹脂、ポリオレフィン等の結着材、及び、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等が含まれていてもよい。
【0038】
負極合材層は、充填密度が1.05g/cm~1.25g/cmであり、厚みが65μm~75μmであってもよい。負極合材層の充填密度及び厚みは、以下の方法で求めることができる。
(1)負極を10cmの大きさに切り出し、切り出した負極の質量A(g)及び厚みC(cm)を測定する。
(2)切り出した負極から負極合材層を剥離し、負極芯体の質量B(g)及び芯体の厚みD(cm)を測定する。
(3)厚み(μm)=(C-D)×10の式から負極合材層の厚みを算出する。
(4)充填密度(g/cm)=(A-B)/[(C-D)×10]の式から負極合材層の充填密度を算出する。
【0039】
[セパレータ]
セパレータには、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0040】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[負極活物質]
負極活物質として、天然黒鉛を用いた。用いた天然黒鉛は天然黒鉛A~Eの5種類であり、表1に各々のタップ密度、平均円形度、平均粒子径(D50)、吸油量、BET比表面積を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.35Co0.35Mn0.30で表される複合酸化物を用いた。正極活物質と、PVdFと、カーボンブラックとを、90:3:7の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドンを加えながら混錬して、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを厚み13μmのアルミニウム箔からなる長尺状の正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。乾燥した塗膜を充填密度が2.5g/cmとなるように圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。なお、正極には、正極集電体を接続するための正極芯体露出部を、正極の長手方向に沿って幅方向一端部に設けた。
【0044】
[負極の作製]
負極活物質として、天然黒鉛Aを用いた。負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.8:0.6:0.6となるようにこれらを混合して、さらに水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。上記混合比から算出されるCCMC/CSBRは1であり、CCMC+CSBRは、1.2質量%である。また、CMCの質量平均分子量は4.0×10であり、SBRのTgは1.0℃であった。
【0045】
負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面にダイコート法により塗布し、塗膜を乾燥した後、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。圧延ローラにより、負極の負極合材層を、充填密度が1.2g/cmで厚みが67μmに圧延した後、所定の電極サイズに切断した。なお、負極には、負極集電体を接続するための負極芯体露出部を、負極の長手方向に沿って幅方向一端部に設けた。
【0046】
[電極体の作製]
上記正極及び上記負極を、幅120mmの帯状のセパレータを介して巻回した後、巻回体を径方向にプレスして扁平状に成形し、巻回型の電極体を作製した。巻回体は、セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に重ね合わせたものを、円筒状の巻芯に巻き付けて形成した(2枚のセパレータには同じものを用いた)。また、正極及び負極を、それぞれの芯体露出部が互いに巻回体の軸方向反対側に位置するように巻回した。巻回体のプレス条件は、プレス温度75℃、プレス圧100kN、プレス時間3分とした。
【0047】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、3:3:4の体積比(25℃、1気圧)で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度になるように添加し、さらにビニレンカーボネートを0.3質量%の濃度となるように添加して、電解液を調製した。
【0048】
[二次電池の作製]
上記電極体、上記電解液、及び角形の電池ケースを用いて、二次電池(角形電池)を作製した。電池ケースを構成する封口板に正極端子を取り付けると共に、正極端子に正極集電体を接続した。また、封口板に負極端子を取り付けると共に、負極端子に負極集電体を接続した。そして、正極の芯体露出部に正極集電体を、負極の芯体露出部に負極集電体をそれぞれ溶接した。封口板と一体化された電極体を、箱状に成形した絶縁シート内に配置した状態で、電池ケースを構成する角形有底筒状の外装体(横方向長さ148.0mm(内寸146.8mm)、厚み17.5mm(内寸16.5mm)、高さ65.0mm(内寸64.0mm))内に収容し、外装体の開口部を封口板で塞いだ。封口板の電解液注液孔から、65gの電解液を注液した後、電極体に電解液を十分浸漬させたのち、仮性充電を行い、注液孔に封止栓を取り付けて、二次電池(電池容量:8Ah)を得た。
【0049】
<実施例2>
負極活物質として天然黒鉛Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を実施例2とした。
【0050】
<実施例3>
負極活物質として天然黒鉛Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を実施例3とした。
【0051】
<実施例4>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、99.0:0.6:0.4となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を実施例4とした。
【0052】
<実施例5>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.6:0.6:0.8となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を実施例5とした。
【0053】
<実施例6>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.6:0.8:0.6となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を実施例6とした。
【0054】
<比較例1>
負極活物質として天然黒鉛Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例1とした。
【0055】
<比較例2>
負極活物質として天然黒鉛Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例2とした。
【0056】
<比較例3>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、99.2:0.6:0.2となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例3とした。
【0057】
<比較例4>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.4:0.6:1.0となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例4とした。
【0058】
<比較例5>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、99.0:0.8:0.2となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例5とした。
【0059】
<比較例6>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.8:0.8:0.4となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例6とした。
【0060】
<比較例7>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.4:0.8:0.8となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例7とした。
【0061】
<比較例8>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.6:1.0:0.4となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例8とした。
【0062】
<比較例9>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.4:1.0:0.6となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び二次電池を得た。得られた負極及び二次電池を比較例9とした。
【0063】
<比較例10>
負極活物質:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)の質量比が、98.9:0.5:0.6となるようにこれらを混合して、負極合材スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして負極を得ようとしたが、負極合材スラリーの分散性が悪くなり負極合材層を形成することができず、負極及び二次電池を得ることができなかった。本結果を比較例10とした。
【0064】
[吸液時間の測定]
実施例及び比較例の各負極を、窒素雰囲気下200℃に加温した恒温槽で10時間乾燥させ、各負極を5cm×5cmの大きさにカットして試料を作製した。各試料の表面に、3.0μLのポリプロピレンカーボネート(PC)を垂直方向から滴下し、PCが試料の内部に吸収されるまでの時間を目視により測定した。各試料につき、6回ずつ測定を行い、平均値を吸液時間とした。吸液時間が短いほど、負極合材層表面から芯材側まで電解質の入れ替えがよりスムーズに行えるので放電時に負極合材層から排出された電解質が充電時に速やかに負極合材層に吸収される。よって、吸液時間が短いほど、低温回生特性が向上し、急速充放電サイクル特性の低下も抑制される。
【0065】
[カット脱落量の測定]
実施例及び比較例の各負極を、下記の条件で切断し、切断時に脱落した負極合材の粉の面積からカット脱落量を求めた。
(1)負極を100mm×100mmに切り出して試料片を作製した。
(2)試料片を白紙の上に置き、試料片の端部からカッターで100mmを切断し、負極合材を白紙の上に脱落させた。
(3)実体顕微鏡を用いて、脱落した負極合材の画像を撮影した。実体顕微鏡の倍率は、10倍であった。
(4)上記により得られた画像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(例えば、アメリカ国立衛生研究所製、ImageJ)を用いて二値化処理を行い、脱落した負極合材を黒色とし、白紙を白色として変換した二値化処理画像を得た。
(5)二値化処理画像から、脱落した負極合材の面積を算出した。
(6)上記の(1)~(5)を10回行い、脱落した負極合材の面積の平均値をカット脱落量とした。
【0066】
[低温回生特性の評価]
実施例、比較例の各電池を下記の条件で充電し、低温回生値を求めた。
(1)25℃の条件下で、SOCが50%となるまで充電した。
(2)SOC50%の電池を、-10℃の条件下で、3.7It、12.5It、17.5It、22.5It、31.2It、及び37.5Itの電流でそれぞれ5秒間充電した(Itは、It(A)=定格容量(Ah)/1(h))。
(3)5秒充電した直後の電池電圧をそれぞれ測定し、各電流値に対して当該電池電圧をプロットし、SOC100%相当の電池電圧(V)となる電流値IP(A)を求めた。電流値IPをSOC100%相当の電池電圧(V)に乗じて、低温回生値(W)を算出した。
【0067】
表2に、実施例及び比較例の、吸液時間、カット脱落量、低温回生特性の結果をまとめた。また、表2には、使用した負極活物質、負極合材層におけるCMC及びSBRの量的関係(CCMC、CSBR、CCMC/CSBR、CCMC+CSBR)も記載した。
【0068】
【表2】
【0069】
表2から分かるように、実施例1~5はいずれも、比較例1~9と比較して、カット脱落量を一定以下に抑制しつつ、低温回生特性を高く維持することができた。
【符号の説明】
【0070】
1 外装体
2 封口板
3 電極体
4 正極芯体露出部
5 負極芯体露出部
6 正極集電体
7 正極端子
8 負極集電体
9 負極端子
10 電解質注液孔
11 ガス排出弁
13 正極外部導電部
14 正極ボルト部
15 正極挿入部
16 負極外部導電部
17 負極ボルト部
18 負極挿入部
100 二次電池
図1