(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】低発塵高速回転用グリース組成物及びそれを封入した軸受
(51)【国際特許分類】
C10M 169/02 20060101AFI20241101BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20241101BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241101BHJP
H02K 5/173 20060101ALI20241101BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20241101BHJP
C10M 105/50 20060101ALN20241101BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20241101BHJP
C10M 107/32 20060101ALN20241101BHJP
C10M 107/38 20060101ALN20241101BHJP
C10M 115/06 20060101ALN20241101BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20241101BHJP
C10M 117/04 20060101ALN20241101BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241101BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241101BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241101BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
C10M169/02
F16C33/66 Z
F16C19/06
H02K5/173 A
C10M105/32
C10M105/50
C10M107/02
C10M107/32
C10M107/38
C10M115/06
C10M115/08
C10M117/04
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2021554288
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038478
(87)【国際公開番号】W WO2021085100
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2019198807
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 佑介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/105377(WO,A1)
【文献】特開2009-209990(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101432(WO,A1)
【文献】特開2013-087193(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101760284(CN,A)
【文献】国際公開第2016/158070(WO,A1)
【文献】太田浩之,グリース潤滑セラミック玉軸受を用いた超高速スピンドルの開発,平成12年度の助成による研究開発の報告,日本,財団法人ファナックFAロボット財団,2003年01月,第29-33頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として、フッ素油、エステル油及びポリアルファオレフィン油と、
増ちょう剤として、フッ素系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤及びバリウム複合石鹸増ちょう剤
とを含有してなるグリース組成物であって、
該グリース組成物の全量に対して、
フッ素油、エステル油及びポリアルファオレフィン油を合計で70~90質量%、
フッ素系増ちょう剤を9~18質量%、
ウレア系増ちょう剤を3.6~6.9質量%、
バリウム複合石鹸増ちょう剤を0.3~3.6質量%
をそれぞれ含有してなる、グリース組成物
であって、
回転数30,000rpm以上の高速条件下で使用される、外径26mm以下の転がり軸受用途のグリース組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のグリース組成物が封入されている外径26mm以下の転がり軸受であって、回転数30,000rpm以上の高速条件下で使用される、転がり軸受。
【請求項3】
請求項2に記載の転がり軸受を備えているモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及びそれを封入した軸受、並びに該軸受を備えるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、180℃を超えるような高温下などの過酷な条件で使用されるグリースとして、フッ素系のグリースが開示されている。例えば特許文献1には、高温耐久性と低温トルク性の実現を図るべく、フッ素油(パーフルオロポリエーテル油)に増ちょう剤としてフッ素樹脂粒子と、特定のアスパラギン酸エステル系防錆剤及び油性剤を含有するグリースを封入した転がり軸受が開示されている。また特許文献2にはコスト面も考慮し、パーフルオロポリエーテル基油と増ちょう剤として特定のカルボン酸金属塩を配合したグリース組成物が提案されている。
また高速回転環境で使用されるグリースの典型的なものとして、ウレアグリースが挙げられる(特許文献3)。特許文献4には、5万回転以上の回転速度で使用される高速モータ用軸受において、合成炭化水素油(基油)に増ちょう剤としてウレア化合物と固体潤滑剤を混合したグリース組成物が開示されている。また特許文献5には、dmN(球回転直径(玉軸受の外径(mm)+内径(mm)/2)と回転数(rpm)との積)が100万を超える用途に使用される工作機械用転がり軸受の潤滑に使用されるグリース組成物として、アルキルジフェニルエーテル油と金属複合石けんとウレア化合物を含む増ちょう剤を含有するグリース組成物の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4239514号公報
【文献】特許4505954号公報
【文献】特開2015-224269号公報
【文献】特開2007-56939号公報
【文献】特開2013-87193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
産業の発達に伴い、数万回転を超えるような高速回転、かつ高温環境下で使用される転がり軸受の回転不良に加えて発塵などを抑制できるグリースへの要望がある。たとえばクリーナーモータでは、性能の向上のためモータの回転数がさらに上昇しており、2万回転、さらには3万回転を超えるような高速回転環境が想定される。このような超高速回転にてモータが用いられると、モータに備えられた軸受に封入されたグリースから発塵し、これが排気中に混入して周辺環境を汚染するおそれがある。排気の清浄を謳うクリーナーにおいて発塵の抑制は、モータの長寿命化とともに重要な課題の一つである。また、自動運転実現に向けた技術として注目されるLiDARやポリゴンスキャナなどにおいて、スキャニング時に使用されるミラーの汚染の懸念があることから、こうした製品に使用されるグリースにおいても発塵の抑制が求められる。さらには、クリーナーがコードレス化するなど使用環境が多様化しており、そのような機器が例えば寒冷地の屋外で使用されると温度が-40℃近くに達することも考えられ、その場合には低温でのトルクが低いことも求められる。
このように、数万回転以上の高速・高温環境下における使用に際して、長寿命だけでなく発塵を抑制し、且つ、低温トルク特性に優れるグリースへの要望がある。
【0005】
本発明は、超高速・高温環境下において、低発塵・長寿命であり、且つ低温トルクが低いグリース組成物、並びに該グリース組成物の適用により、低発塵・長寿命、低い低温トルクを実現できる転がり軸受及びそれを備えるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、基油として、フッ素油、エステル油及びポリアルファオレフィン油と、増ちょう剤として、フッ素系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤及びバリウム複合石鹸増ちょう剤とを含有してなるグリース組成物であって、これら各成分を特定割合で含有するグリース組成物である。
本発明はまた、前記グリース組成物が封入されている転がり軸受、並びに該転がり軸受を備えているモータを対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の転がり軸受の構造を説明する模式図である。
【
図2】本発明のモータの構造を説明する模式図である。
【
図3】発塵量試験で用いた発塵量測定装置の概念図である。
【
図4】高温高速寿命試験で用いた高温高速寿命測定装置の概念図である。
【
図5】低温トルク試験で用いた回転装置の概念図である。
【
図6】実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例5のグリース組成物における、高速高温寿命試験結果(横軸)に対する低温トルクの試験結果(縦軸)を示す図である。
【
図7】実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例5のグリース組成物における、高速高温寿命試験結果(横軸)に対する発塵量の試験結果(縦軸)を示す図である。
【
図8】実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4のグリース組成物の高速高温寿命試験における、回転数(横軸)に対する高速高温寿命の試験結果(縦軸)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前述したように、数万回転、例えば回転数30,000rpmを超えるような高速回転かつ高温環境下で使用されるグリース組成物は、長寿命であることは勿論、発塵量の少なさも要求性能の一つとなってきた。また様々な使用環境に対応し、低温環境下でもトルクが低いことも要求性能の一つである。
例えば特許文献4には5万回転以上の回転速度下での使用を想定したグリース組成物が開示されている。しかしここに開示された固体潤滑剤の微粒子(金属、金属窒化物、金属酸化物、炭素系微粒子)の使用は、発塵量の観点から好ましくない。また低温トルクについての言及がない。
また特許文献5はdmNが100万を超える用途に使用される工作機械用転がり軸受として、実施例において内径70mm(アンギュラ玉軸受)の比較的大きな軸受を採用し、これを内輪回転数13,000rpmで回転させた例を開示する。dmN値は球回転直径と回転数との積であるから、理論上、同じdmN値の時に軸受の径を小さくすると回転数が大きくなる。したがって本発明のグリース組成物が適用可能とする外径26mm以下の小径の転がり軸受では、回転数を約30,000rpm以上にする必要があり、この場合、例えば軸受のミスアラインメントによる偏摩耗や早期の摩耗が発生しやすくなるなど条件がより過酷となる。そうした超高速回転に伴う特異な環境が摩擦熱や接触圧力を増大させ、ひいては潤滑グリースの早期劣化につながることとなる。
このように、外径26mm以下の小径の転がり軸受において、回転数30,000rpm以上の高速条件下で使用されるグリース組成物は、同じdmN値で内径70mmといった大きな軸受に使用されるものと比べ、要求性能が非常に厳しいものとなるが、これまでこのような高速回転環境下での低発塵性および低温における低トルク性の要求自体、また該要求に耐え得るグリース組成物の提案はなされていない。
【0009】
本発明に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物(以降、単に“グリース組成物”と称する)は、後述するように特定の増ちょう剤を組み合わせて配合してなることを特徴とする。このグリース組成物の配合は、フッ素系増ちょう剤とウレア系増ちょう剤に加えて、バリウム複合石鹸増ちょう剤を加えたものであり、高速回転環境下での長寿命・低発塵・低温下の低トルクを実現する。以下具体的に説明する。
【0010】
[転がり軸受]
まず以下に添付図面を参照して、本発明に係る転がり軸受の好ましい実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の好ましい実施形態の転がり軸受10の径方向の断面図である。転がり軸受10は、従来技術の転がり軸受と同様の基本構造を有するものであって、環状の内輪11と外輪12と複数の転動体13と保持器14とシール部材15とを具備する。
内輪11は、図示を省略するシャフトの外周側に、その中心軸と同軸に設置される円筒形の構造体である。外輪12は、内輪11の外周側で、内輪11と同軸に配置される円筒形の構造体である。複数の転動体13の各々は、内輪11と外輪12との間に形成される環状の軸受空間16内の軌道に配置された玉である。すなわち、本実施形態における転がり軸受10は玉軸受である。
保持器14は、軌道内に配置されて複数の転動体13を保持する。保持器14は、シャフトの中心軸と同軸に設置される環状体であり、中心軸の方向における一方の側に、転動体13を保持するための複数のポケット部を備え、各ポケット部内に転動体13が収容された構造を有する。なお、保持器14の形状(冠形や波形等)や材質(鋼板製あるいは樹脂製等)は任意であり、特定の形状や材質に限定されない。
シール部材15は、外輪12の内周面に固定されて内輪11側に延在し、軸受空間16を密封する。シール部材15により密封された軸受空間16には、グリース組成物Gが封入されている。シール部材15は、例えば鋼板により形成される。なお、軸受空間16内部へのグリース組成物Gの封入量は、例えばその容積の5~50%である。トルク性能と寿命性能を両立させるためには25~35%程度の量が好ましい。
以上の構成を有する転がり軸受10において、グリース組成物Gは、転動体13と保持器14との間、および、転動体13と内輪11ないし外輪12との間における摩擦を低減するように作用する。
図1に示される構成から解るように、転がり軸受10に封入されたグリース組成物Gは、転がり軸受10が回転する際に、転動体13と内輪11ないし外輪12との間を潤滑する。
【0012】
本発明における転がり軸受は、特に外径26mm以下の転がり軸受であって、回転数30,000rpm以上の高速条件下での使用に適する。
本発明の転がり軸受は、自動車、家電機器、情報機器等に用いられる小型モータ(例えば、ブラシレスモータ、ファンモータ)の転がり軸受として使用することができる。
【0013】
[モータ]
一例として、
図2に、本実施形態の転がり軸受を備えているモータの実施形態について詳細に説明するが、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態のモータにおけるシャフト方向の断面図である。モータ20は、従来技術のモータと同様の基本構造を有するものであって、ハウジング21、ステータ22、コイル23、ロータマグネット24、シャフト25、及びシャフト25を支持する転がり軸受26から構成される。
モータ20は、駆動回路を介して電源(以上図示せず)より供給された電流をステータ22に巻回されたコイル23に流すことで磁力が発生し、それによりロータマグネット24が回転し、シャフト25を通じて外部の回転体に回転が伝えられる。
【0015】
[グリース組成物]
次に、本発明の転がり軸受に封入されるグリース組成物について説明する。
【0016】
<基油>
本実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物において、基油としてフッ素油と、非フッ素油としてエステル油及びポリアルファオレフィン油を使用する。
【0017】
フッ素油としては、例えばパーフルオロポリエーテル(PFPE)を主成分とするものが挙げられる。なおPFPEは、一般式:RfO(CF2O)p(C2F4O)q(C3F6O)rRf(Rf:パーフルオロ低級アルキル基、p、q、r:整数)で表される化合物である。
なおパーフルオロポリエーテルは直鎖型と側鎖型に大別され、直鎖型は側鎖型に比べて動粘度の温度依存性が小さい。これは、直鎖型は、低温環境下において側鎖型より粘度が低く、高温環境下では側鎖型より粘度が大きくなることを意味する。特に高温環境下で使用を想定した場合、適用箇所からのグリースの流出やそれに伴う枯渇を抑制する観点から、高温環境下における粘度は高いことが望ましく、すなわち、直鎖型のパーフルオロポリエーテルの使用が好ましい。
【0018】
上記エステル油としては、例えばジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルフタレート、メチル・アセチルリシノレートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ-2-エチルヘキシルピロメリテートなどの芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル油、炭酸エステル油などが挙げられる。
【0019】
上記フッ素油と非フッ素油(エステル油及びポリアルファオレフィン油)の配合割合は特に限定されないが、例えば基油の合計量100質量%に対して、フッ素油:非フッ素油=95~5質量%:5~95質量%、例えば同=95~40質量%:5~60質量%などとすることができる。
また本発明のグリース組成物の全量に対するフッ素油、及び、非フッ素油を合計した基油全体の割合は70~90質量%、例えば75~95質量%、75~85質量%とすることができる。
【0020】
<増ちょう剤>
本発明のグリース組成物においては、増ちょう剤としてフッ素系増ちょう剤及びウレア系増ちょう剤、並びにバリウム複合石鹸増ちょう剤を添加する。
これらは、グリース組成物の全量に対して、フッ素系増ちょう剤を9~18質量%、ウレア系増ちょう剤を3.6~6.9質量%、バリウム複合石鹸増ちょう剤を0.3~3.6質量%、それぞれ含有することが好ましい。
なおフッ素系増ちょう剤及びウレア系増ちょう剤、並びにバリウム複合石鹸増ちょう剤の合計量(増ちょう剤合計量)は、グリース組成物の全量に対して、10~30質量%、例えば15~20質量%となるように配合することができる。
【0021】
《フッ素系増ちょう剤》
フッ素系増ちょう剤としては、フッ素樹脂粒子が好ましく、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を用いることが好ましい。PTFEは、テトラフルオロエチレンの重合体であり、一般式:[C2F4]n(n:重合度)で表される。
その他、採用し得るフッ素系増ちょう剤として、例えばパーフルオロエチレンプロピレンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が挙げられる。
上記PTFE粒子の大きさは特に限定されないが、例えば平均粒径で0.5~100μmのポリテトラフルオロエチレンを使用することができる。またPTFE粒子はその形状について特に限定されず、球状、多面形状、針状などであってもよい。
【0022】
上記フッ素系増ちょう剤は、グリース組成物の全量に対して9~18質量%の量にて使用することが好ましい。
【0023】
《ウレア系増ちょう剤》
ウレア化合物は、耐熱性、耐水性ともに優れ、特に高温での安定性が良好なため、高温環境下での適用箇所において増ちょう剤として好適に用いられる。
ウレア系増ちょう剤としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物を使用できる。特に、耐熱性の観点から、ジウレア化合物を使用することが好ましい。また、ウレア化合物の種類としては、脂肪-芳香族ウレア及び脂肪族ウレアを挙げることができる。
これらウレア系増ちょう剤として、従来公知のウレア化合物を用いることができる。
【0024】
中でも本発明に適したウレア系増ちょう剤として、下記一般式(1)で表されるジウレア化合物を挙げることができる。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3・・・(1)
上記式(1)中、R1及びR3は、夫々独立して、一価の脂肪族炭化水素基又は一価の芳香族炭化水素基を表し、且つ、R1及びR3のうち少なくとも一方が、一価の脂肪族炭化水素基を表す。
またR2は、二価の芳香族炭化水素基を表す。
【0025】
上記一価の脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数6乃至26の直鎖状又は分枝鎖状の飽和又は不飽和のアルキル基が挙げられる。
また上記芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6乃至20の一価又は二価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0026】
ウレア系増ちょう剤として用いるウレア化合物は、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いて合成可能である。
ここで使用するアミン化合物として、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、べヘニルアミン、オレイルアミンなどに代表される脂肪族アミンや、アニリン、p-トルイジン、エトキシフェニルアミンなどに代表される芳香族アミンが用いられる。
またイソシアネート化合物として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルビフェニルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートなどが用いられる。
なお、アミン原料として芳香族モノアミンと芳香族ジイソシアネートとを用いて得られる芳香族ジウレア化合物を増ちょう剤として用いた場合は、異音が発生するおそれがあるため、使用を控えたほうが良い。
【0027】
上記ウレア系増ちょう剤は、グリース組成物の全量に対して3.6~6.9質量%の量にて使用することが好ましい。
【0028】
《バリウム複合石鹸増ちょう剤》
本発明では、上記のフッ素系増ちょう剤及びウレア系増ちょう剤に加えて、バリウム複合石鹸増ちょう剤を使用する。
バリウム複合石鹸増ちょう剤は、例えば高級脂肪酸と低級脂肪酸のバリウム複合石鹸や、二塩基酸と脂肪酸のバリウム塩からなるバリウム複合石鹸などが挙げられ、本発明では、脂肪族ジカルボン酸とモノアミドモノカルボン酸とのバリウム複合金属石鹸を用いることができる。
【0029】
上記脂肪族ジカルボン酸としては、炭素原子数が2~20の飽和または不飽和のジカルボン酸が用いられる。
飽和ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられ、好ましくはアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が用いられる。
また、不飽和ジカルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、2-メチレンコハク酸、2-エチレンコハク酸、2-メチレングルタル酸等のアルケニルコハク酸などが用いられる。
これらの飽和または不飽和のジカルボン酸は、単独であるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0030】
上記モノアミドモノカルボン酸としては、前記脂肪族ジカルボン酸における一方のカルボキシル基がアミド化されたものが挙げられる。
このときカルボキシル基をアミド化するアミンとしては、例えばブチルアミン、アミルアミン、へキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジラウリルアミン、モノメチルラウリルアミン、ジステアリルアミン、モノメチルステアリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン等の脂肪族第2級アミン、アリルアミン、ジアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン等の脂肪族不飽和アミン、アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、α-ナフチルアミン等の芳香族アミンなどが挙げられる。
中でもヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、モノメチルラウリルアミン、モノメチルステアリルアミン、オレイルアミン等が好適に用いられる。
【0031】
上記バリウム複合石鹸増ちょう剤は市販品を好適に使用できる。
またポリアルファオレフィン油中で、脂肪族ジカルボン酸及びモノアミドモノカルボン酸を加え、撹拌可能な温度であり、反応を効率的に進行する温度であり、且つ、基油の劣化を生じさせない温度(例えば約80~180℃)に加熱し撹拌して、ここに水酸化バリウムを加えて、バリウム複合石鹸を形成させ、これを使用してもよい。
【0032】
上記バリウム複合石鹸増ちょう剤は、グリース組成物の全量に対して0.3~3.6質量%の量にて、好ましくは0.6~3.6質量%の量にて、使用することができる。バリウム複合石鹸増ちょう剤の量が0.3質量%を下回ったり、3.6質量%を上回ったりすると、高速高温寿命が短くなる傾向がある。また、0.6質量%未満では低温トルクが高くなる傾向がある。
【0033】
<その他添加剤>
また、グリース組成物には、上記必須成分に加えて、必要に応じてグリース組成物に通常使用される添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
このような添加剤の例としては、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性剤、摩擦防止剤(耐摩耗剤)、錆止め剤、油性向上剤、粘度指数向上剤、増粘剤などが挙げられる。
これらその他の添加剤を含む場合、その添加量(合計量)は、通常、グリース組成物の全量に対して0.1~10質量%である。
【0034】
例えば上記酸化防止剤としては、例えばオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロピオンアミド)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、および4,4-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジフェニルアミン、ジアリールアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0035】
また極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の硫黄系化合物の金属塩等が挙げられる。
【0036】
金属不活性剤としては、例えばベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール等のチアジアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系化合物、亜硝酸ソーダ等が挙げられる。
【0037】
また耐摩耗剤はトリクレジルホスフェートや高分子エステルを挙げることができる。
上記高分子エステルとしては、例えば脂肪族1価カルボン酸及び2価カルボン酸と、多価アルコールとのエステルが挙げられる。上記高分子エステルの具体例としては、例えばクローダジャパン社製のPRIOLUBE(登録商標)シリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明のグリース組成物は、上記各種基油と、各種増ちょう剤を所定の上述の割合となるように混合し、所望によりその他添加剤を配合して得ることができる。
また、例えばフッ素油とフッ素系増ちょう剤からなるフッ素系グリース、エステル油とウレア系増ちょう剤からなるウレア系グリース、そしてポリアルファオレフィン油とバリウム複合石鹸増ちょう剤からなるバリウム複合石鹸グリースといった、3種のベースグリースと、所望によりその他添加剤とを配合し、グリース組成物を得ることもできる。さらに前記ベースグリースの1種又は2種と、残りの基油及び増ちょう剤、そして所望によりその他添加剤とを配合し、グリース組成物を製造してもよい。
通常、ベースグリースに対する増ちょう剤の含有量は10~30質量%程度であり、例えば上記3種のベースグリースにおいて、各ベースグリースに対する各増ちょう剤の含有量は、それぞれ、フッ素系増ちょう剤:15~30質量%、ウレア系増ちょう剤:10~20質量%、そしてバリウム複合石鹸増ちょう剤:10~20質量%とすることができる。
【0039】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
例えば、上記実施形態及び下記実施例では、転がり軸受として玉軸受を挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の転がり軸受、たとえばころ軸受、針軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受、スラスト軸受等や、自動車の車軸支持軸受のような軸受ユニットへのグリース組成物の適用を制限するものではない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
〔グリース組成物の評価〕
下記表1に示す配合量にて実施例1乃至実施例7並びに比較例1乃至比較例5に使用するグリース組成物を調製した。
【0042】
なおグリースの調製に用いた各成分の詳細及びその略称は以下のとおりである。
(a)基油
(a1)フッ素油:直鎖パーフルオロポリエーテル(PFPE)
(a2)エステル油:エステル油
(a3)PAO:ポリアルファオレフィン油
(b)増ちょう剤
(b1)フッ素系増ちょう剤:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、粒径10~25μm
(b2-1)ウレア系増ちょう剤:脂肪-芳香族ウレアを含むウレア化合物
(b2-2)ウレア系増ちょう剤:脂肪族ウレアを含むウレア化合物
(b3-1)Ba複合石鹸増ちょう剤:セバシン酸とセバシン酸モノステアリルアミドとのバリウム複合石鹸
(b3-2)Ca複合石鹸増ちょう剤:脂肪族ジカルボン酸とモノアミドモノカルボン酸とのカルシウム複合石鹸
(b3-3)Ba石鹸増ちょう剤:12OHBa石鹸(12-ヒドロキシステアリン酸バリウム)
なお一般に、ウレア系増ちょう剤(b2-1~b2-2)は、該ウレア系増ちょう剤とエステル油(a2)を含むベースグリース全量に対して10~20質量%にて添加され、また、Ba複合石鹸増ちょう剤(b3-1)、Ca複合石鹸増ちょう剤(b3-2)、Ba石鹸増ちょう剤(b3-3)の石鹸系増ちょう剤は、該石鹸系増ちょう剤とPAO(a3)を含むベースグリース全量に対して10~20質量%にて添加される。
(c)その他添加剤
・酸化防止剤:アミン系酸化防止剤
・極圧剤:リン系極圧添加剤
その他添加剤は、実施例及び比較例の各グリース組成物(全質量)に対して、上記酸化防止剤、極圧剤をあわせて3質量%となるように添加した。
【0043】
得られたグリース組成物の特性について、以下の手順を用いて発塵量、高温高速寿命、及び低温トルクについて評価した。
【0044】
<試験方法>
1.発塵量試験
図3に示す構成の発塵量測定装置30にて、発塵量試験を実施した。
鋼シールド付き玉軸受31(内径5mm、外径13mm、幅4mm)に、試験グリース組成物を、軸受容積の25%~35%で封入した。この玉軸受31を、Oリング32をかませてハウジング33にセットした後に、玉軸受31にシャフト34を挿入した。また軸受39にシャフト34を挿入してこれを後カバー38bに取り付けた。玉軸受31の外輪に対して、荷重付与部35及びばね36にてラジアル方向より19.6Nの予圧をかけた後、試験用モータ37の回転軸(図示せず)をシャフト34に結合し、玉軸受31が内輪回転するようにした。
前記ハウジング33に前カバー38aを取り付け、該前カバー38aには2つの穴を設けて各穴にチューブ40(第一チューブ(送気)40a、第二チューブ(吸気)40b)の一端を装着した。各チューブ40の他端をパーティクルカウンタ41(リオン(株)製 KC-01E)に接続し、ハウジング33、カバー38(38a、38b)、チューブ40(40a、40b)とパーティクルカウンタ41で構成された閉鎖系空間(室温)を構築した。玉軸受31を2,000rpmで回転させながら、前記閉鎖系空間に気流を0.5L/分で還流し、このとき、パーティクルカウンタ41に接続した第一チューブ40aからの送風気流は、パーティクルカウンタ41内のフィルタで濾過した清浄なものとした。このハウジング33、カバー38(38a、38b)、チューブ40(40a、40b)とパーティクルカウンタ41から構築された閉鎖系空間は外部から塵等が混入することはないため、玉軸受31が回転した際に発生する発塵量のみを計測可能である。
上記閉鎖系空間において、玉軸受31を2,000rpmで回転させたときに発生する0.3μmから5.0μmの粒子数をパーティクルカウンタ41にて50秒間測定し、1Lあたりの粒子数に換算した粒子数を発塵量(pcs)とした。各実施例および比較例の試験グリースにつき、それぞれ3回ずつ試験を行い、平均値を求めた。
<評価基準>
本実施例の試験条件において、発塵量が1,000pcs以下であるものを好適と評価する。
A:発塵量が1,000pcs以下
N:発塵量が1,000pcs超
【0045】
2.高速高温寿命試験
図4に示す構成の高温高速寿命測定装置50にて、高速高温寿命試験を実施した。
鋼シールド付き玉軸受51(内径5mm、外径13mm、幅4mm)に、試験グリース組成物を、軸受容積の25%~35%で封入した。この玉軸受51をシャフト52に圧入し、ハウジング53内に固定した。ばね54により玉軸受51の外輪に対して12Nの予圧をアキシャル方向よりかけた後、試験用モータ55の回転軸(図示せず)にシャフト52を結合し、玉軸受51が内輪回転するようにした。
ついで、前記ハウジング53をヒーター(図示せず)で130℃に加熱し、試験温度130℃、回転数90,000rpmで玉軸受51を回転させ、玉軸受51が停止するまでの時間を計測した。停止条件は、(株)キーエンス製アンプユニットGA-245で振動を測定し、所定の振動レベルになった時点を停止とし、停止するまでの試験時間を高速高温寿命(hr)とした。各実施例および比較例の試験グリースにつき、それぞれ3回ずつ試験を行い、平均値を求めた。
<評価基準>
本実施例の試験条件において、高速高温寿命が1,000hr以上であるものを好適と評価する。
A:高速高温寿命が1,000hr以上
N:高速高温寿命が1,000hr未満
【0046】
また、実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4のグリースについて、上記の回転数90,000rpmにかえて、21,000rpm、40,000rpm、及び60,000rpmとした以外には同一条件にて試験を実施し、各回転数における高速高温寿命(hr)の平均値を求めた。回転数(rpm)(横軸)に対する高速高温寿命(hr)(縦軸)の結果を
図8に示す。
【0047】
3.低温トルク試験
図5に示す構成の回転装置60にて、低温トルク試験を実施した。
鋼シールド付き玉軸受61(内径8mm、外径22mm、幅7mm)に、試験グリース組成物を、軸受容積の25%~35%で封入した。この玉軸受61を試験用モータ64のシャフト62に挿入した。玉軸受61の外輪に対してアキシアル方向より予圧用重り63にて19.6Nの予圧をかけた後、試験用モータ64の回転軸65にシャフト62を結合し、玉軸受61が内輪回転するようにし、回転装置60を構成した。
前記回転装置60を-40℃の恒温槽(図示せず)にセットし、外部電源(図示せず)によって回転数200rpmで玉軸受61を回転させ、試験用モータ64の回転により玉軸受61の外輪が連れ回る応力をひずみゲージ(図示せず)によって検出して、回転トルクに換算した。回転起動時のトルク値を計測し、最大値を測定値(mNm)とした。各実施例および比較例の試験グリースにつき、それぞれ3回ずつ試験を行い、各測定値の平均値を求めた。
<評価基準>
本実施例の試験条件において、トルクの測定値が60mNm以下であるものを好適と評価する。
A:トルクの測定値が60mNm以下
N:トルクの測定値が60mNm超
【0048】
結果を表1に、並びに
図6乃至
図8に示す。なお、表中の配合量:質量%は組成物の全質量に対する値である。
【0049】
【0050】
表1に示すように、フッ素系増ちょう剤とウレア系増ちょう剤とバリウム複合石鹸増ちょう剤を特定割合にて配合したグリース組成物、すなわち、グリース組成物全量に対し、フッ素系増ちょう剤の含有量を9~18質量%、ウレア系増ちょう剤を3.6~6.9質量%、バリウム複合石鹸増ちょう剤を0.3~3.6質量%で配合したグリース組成物は、外径26mm以下の転がり軸受を用いた発塵量試験(室温、2,000rpm、予圧19.6Nにて50秒間回転)において1,000pcs以下の発塵量、高速高温寿命試験(予圧12Nにて130℃、90,000rpmにて回転)において1,000hr以上の寿命、そして低温トルク試験(-40℃、予圧19.6Nにて200rpm回転起動時)において60mNm以下のトルクを得、低発塵性、高速回転下での長寿命化、低温環境下での低トルク性能をすべて実現する結果となった。なお、回転数と発塵量は概ね比例関係にあるといえるため、回転数の上昇に伴う発塵量の増加量はグリース組成物の配合に依存しない。そのため、上記発塵量試験で得られた結果は、より高速回転下での発塵量の大小を反映したものと考えられる。
特に、ウレア系増ちょう剤として脂肪族ウレア(b2-2)を使用することにより、より低発塵性に優れたグリース組成物となること(実施例5及び実施例6)、バリウム複合石鹸増ちょう剤の配合量を0.6~3.6質量%とすることで、低温においてより低トルクのグリース組成物となること(実施例1乃至実施例6)が確認された。
【0051】
一方、増ちょう剤を一種(フッ素系増ちょう剤)のみの配合とした場合(比較例1)は、発塵量が少なく低温トルクに優れる反面、高速高温回転下で400hrを下回る寿命となった。
また増ちょう剤を二種(フッ素系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤)のみの配合とした場合(比較例4)も、さらにバリウム複合石鹸増ちょう剤に代えてカルシウム複合石鹸増ちょう剤を使用した場合(比較例2)においても、高速高温回転下で400hrを下回る寿命となった。
一方、バリウム複合石鹸増ちょう剤に代えてバリウム石鹸増ちょう剤を使用した場合(比較例3)には、高速高温回転下での寿命低下のみならず、発塵量も増大して1,000pcsを超える結果となった。
そしてフッ素系増ちょう剤とウレア系増ちょう剤とバリウム複合石鹸増ちょう剤を配合したものの、バリウム複合石鹸増ちょう剤の配合量を規定範囲(0.3~3.6質量%)から外れたもの(5.4質量%)とした場合(比較例5)、他の比較例と比べて高速高温回転下での寿命は多少伸びたものの、実施例のグリース組成物が実現する1,000hrという長寿命の達成には至らなかった。
【0052】
図6及び
図7に、表1の結果に基づき、高速高温寿命の試験結果に対する低温トルク又は発塵量の試験結果を示す。
図6は、高速高温寿命(hr)の試験結果(横軸)に対する低温トルク(mNm)の試験結果(縦軸)を示す図である。なお
図6中、横軸に対して並行に付された直線は低温トルク値:60mNmを示し、縦軸に対して並行に付された直線は高温高速寿命:1,000hrを示す。また
図6中、実施例のグリース組成物の結果は○、比較例のグリース組成物の結果は△にて示す。
図7は、高速高温寿命(hr)の試験結果(横軸)に対する発塵量(pcs)の試験結果(縦軸)を示す図である。なお
図7中、横軸に対して並行に付された直線は発塵量:1,000pcsを示し、縦軸に対して並行に付された直線は高温高速寿命:1,000hrを示す。また、
図7中、実施例のグリース組成物の結果は○、比較例のグリース組成物の結果は△にて示す。
図6及び
図7に示すように、実施例のグリース組成物(○)は何れも、高温高速寿命が1,000hr以上であり、且つ、低温トルクが60mNm以下及び発塵量が1,000pcs以下であるとする結果が得られ、一方比較例のグリース組成物(△)は何れも高温高速寿命が1,000hrに達しない結果となった。
【0053】
図8は、高速高温寿命試験において、回転数(rpm)(横軸)に対する高速高温寿命(hr)(縦軸)の結果を示す図である。
図8中の符号は、それぞれ実施例1(○)、比較例1(×)、比較例2(△)、比較例4(□)のグリース組成物の結果である。なお本試験評価おいて高温高速寿命が1,000hr以上であるものを最適と評価していることを受け、本図においては高温高速寿命の基準値を1,000hrとし、1,000hr以上の結果を得ている場合においても1,000hrとして示した。
図8に示すように、実施例1(○)のグリース組成物は回転数に依らず1,000hr以上の寿命を実現でき、回転数90,000rpm以上であっても1,000hr以上の高温高速寿命を実現できた。
一方、フッ素系増ちょう剤のみを使用した比較例1(×)のグリース組成物、バリウム複合石鹸増ちょう剤の代わりにカルシウム複合石鹸増ちょう剤を用いた比較例2(△)のグリース組成物、そして、フッ素系増ちょう剤とウレア系増ちょう剤を使用し、バリウム複合石鹸増ちょう剤を不使用とした比較例4(□)のグリース組成物は何れも、回転数が40,000rpm以上となると高温高速寿命が1,000hrを下回る結果となった。特にフッ素系増ちょう剤のみを使用した比較例1のグリース組成物は回転数21,000rpmを超えると急激に寿命が低下する結果となり、ここにウレア系増ちょう剤を配合することで比較例4のグリース組成物の寿命は多少改善し、さらにカルシウム複合石鹸増ちょう剤をすることで比較例2のグリース組成物の寿命はさらに改善したものの、90,000rpmの超高速回転環境下では、何れも寿命は500hrに届かず、実施例1のグリース組成物の寿命に到底及ばない結果となった。
本図から明らかなように、本発明のグリース組成物は、比較例のグリース組成物と比べて、倍以上の回転数であっても、1,000hr以上の長寿命を実現できた。
【0054】
以上の通り、フッ素系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤、並びに、バリウム複合石鹸増ちょう剤を添加した本発明のグリース組成物は、回転数30,000rpmを超える超高速・高温環境下において、低発塵・長寿命であり、且つ低温トルクが低いグリース組成物となることが確認された。
【0055】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。
【符号の説明】
【0056】
G…グリース組成物、 10…転がり軸受、 11…内輪、 12…外輪、 13…転動体、 14…保持器、 15…シール部材、 16…軸受空間
20…モータ、 21…ハウジング、 22…ステータ、 23…コイル、 24…ロータマグネット、 25…シャフト、 26…軸受