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特許7580390酸化モリブデン含有層を製造するためのスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】酸化モリブデン含有層を製造するためのスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021557471
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2020055481
(87)【国際公開番号】W WO2020200605
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】19166312.9
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】オーサリバン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】フランツケ,エンリコ
(72)【発明者】
【氏名】リンケ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シェーラー,トーマス
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-504484(JP,A)
【文献】特表2017-525852(JP,A)
【文献】国際公開第97/008359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性酸化物ターゲット材料を有するスパッタリングターゲットであって、前記ターゲット材料が、
- 金属主構成元素としてのモリブデン(Mo)、ならびに
- タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の群からの少なくとも1つのドーピング元素Mの少なくとも1つの金属酸化物を含有する、スパッタリングターゲットにおいて、
前記ターゲット材料が、ラマン顕微鏡を用いて測定したその切削断面に基づいて、混合酸化物(Mo1-x14(式中、0.01≦x≦0.13)からのマトリックス相を有し、この混合酸化物におけるMが、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の群の1つまたは複数の元素であることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ターゲット材料が、
- 金属主構成元素としてのモリブデン(Mo)、ならびに
- タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の群からの少なくとも1つのドーピング元素Mの少なくとも1つの金属酸化物によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲット材料中、ラマン顕微鏡で測定された前記ターゲット材料の切削断面に基づく前記混合酸化物からの前記マトリックス相が、≧60体積%の割合を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記ターゲット材料中、
a. MoOおよび/またはMo11、ならびに
b. 任意選択的に:
- MoO
- Mo1747、Mo14、Mo23、Mo26およびMo1852の群からのさらなる準化学量論的酸化モリブデン、
- 化学量論的および/または準化学量論的酸化Ta(複数可)、
- 化学量論的および/または準化学量論的酸化Nb(複数可
よび
- 化学量論的および/または準化学量論的酸化Ti(複数可)
の群からの1つまたは複数の化合物
が、前記マトリックス相中に島として分布している1つまたは複数の第2の相として含有されており、これらの第2の相は、ラマン顕微鏡を用いて測定した前記ターゲット材料の研削断面に基づいて、合計≦40体積%の割合にあることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記第2の相が前記MoOを含み、当該MoOの割合が、前記ターゲット材料中で、ラマン顕微鏡を用いて測定したその研削断面に基づいて、0~2体積%の範囲にあることを特徴とする、請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記ターゲット材料中、重量%での酸素含有量が、26~32重量%の範囲にあることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記ターゲット材料中、原子%でのMoおよび前記ドーピング元素Mの総含有量に対する原子%での前記ドーピング元素Mの割合が、0.02~0.15の範囲にあることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記ターゲット材料中、前記ドーピング元素Mが、Taによって形成されており、
前記マトリックス相が、前記混合酸化物としての(Mo1-xTa14(式中、0.06≦x≦0.08)から形成されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記ターゲット材料中、前記ドーピング元素としてのTaが、完全金属酸化物Tとして存在しており、
前記ターゲット材料中、前記Taからなる相の割合が、ラマン顕微鏡を用いて測定した該ターゲット材料の研削断面に基づいて、≦3体積%であることを特徴とする、請求項8に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記ターゲット材料中、前記ドーピング元素Mが、Nbによって形成されており、
前記マトリックス相が、前記混合酸化物としての(Mo1-xNb14(式中、0.07≦x≦0.12)から形成されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記ターゲット材料中、前記ドーピング元素としてのNbが、完全金属酸化物Nとして存在しており、
前記ターゲット材料中、前記Nbからなる相の割合が、ラマン顕微鏡を用いて測定した該ターゲット材料の研削断面に基づいて、≦3体積%であることを特徴とする、請求項10に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項12】
前記ターゲット材料が、25℃で≧95%の相対密度および≧100S/mの導電率を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項13】
前記ターゲット材料中、1つまたは複数の第2の相が、ラマン顕微鏡を用いて測定した該ターゲット材料の研削断面に基づいて、微細かつ均等に分布している小さな島として前記マトリックス相中に形成されていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、ターゲット材料を粉末冶金によって固体として製造するスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットを用い、酸素なしで、または20体積%以下の酸素を反応性ガスとして供給した希ガス雰囲気中で、DCスパッタリング法およびパルスDCスパッタリング法のいずれか一方のスパッタリング法によって酸化モリブデン含有層を形成する、酸化モリブデン含有層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化モリブデン含有層を製造するためのスパッタリングターゲット、および酸化モリブデン含有層を蒸着させるためのそのようなスパッタリングターゲットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(特に酸化モリブデンをベースとする)酸化モリブデン含有層は、興味深い光学特性を有することから、特に、例えば電子ディスプレイのような光学または光電子用途の層構造において用いられる。これらは、多くの場合、例えば電気伝導路として機能する、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)または(金属)モリブデン(Mo)からの金属層と組み合わせて、またはこれらに直接隣接して用いられる。酸化モリブデン層の使用例は、日本国特許第2013020347号にあり、この使用例では、静電容量式タッチセンサのディスプレイ(タッチスクリーン)内の金属伝導路が、金属伝導路の不所望な反射を抑制するために、MoOからの光吸収層で覆われている。
【0003】
光吸収率、光反射率、光透過率、エッチング速度、熱安定性、および製造プロセスで使用されるさらなる化学物質(例えば、フォトレジスト現像剤またはフォトレジスト除去剤)に対する安定性のような重要な特性は、堆積される酸化モリブデン含有層の正確な化学量論組成と、追加されるドーピング元素(例えば、Ta、Nbなど)とに依存する。ここで、エッチング速度は、湿式化学エッチングプロセスに関連するフォトリソグラフィーによって堆積層を続いて構造化する際に重要である。よって、例えば、上記の静電容量式タッチセンサのような多くの用途では、酸化物(酸化モリブデンおよび/またはモリブデン含有混合酸化物)が準化学量論組成で存在する、すなわち、酸化物が非占有酸素原子価を有し、かつ堆積された酸化モリブデン含有層に酸素空孔が存在する、酸化物モリブデン含有層が必要である。(特に酸化モリブデンをベースとする)そのような準化学量論的酸化モリブデン含有層では、例えば、可視波長範囲、特に550nmの基準波長における高い光吸収率(および対応して低い光反射率)および同時に十分な導電率(特に、<20kΩ/スクエアまたは<20kΩ/スクエアのシート抵抗)のような興味深い電気光学特性を達成することができる。純粋な酸化モリブデン層は、魅力的な電気光学特性を有するものの、これらは、通常、一般的なウェットエッチング媒体(例えば、アルミニウム金属化物を構造化するためのリン酸、硝酸および酢酸に基づくPANエッチング、Cuを構造化するためのHに基づくエッチング)において高過ぎるエッチング速度を示し、それによって、エッチング結果が不安定になる。準化学量論的酸化モリブデン含有層(および対応してスパッタリングターゲットのターゲット材料)に、例えばTaおよび/またはNbのようなドーピング元素を添加することによって、電気光学特性を著しく変えることなく、エッチング速度を許容可能なレベルまで下げることができる。
【0004】
(特に酸化モリブデンをベースとする)そのような酸化モリブデン含有層は、工業的には、カソード霧化(「スパッタリング」)によるコーティングプロセスにおいて製造される。基本的には、金属ターゲット材料に反応性スパッタリングを行うことによってそのような酸化モリブデン含有層を製造することが可能であり、この金属ターゲット材料には、例えば適切に調整されたアルゴンプロセスガス雰囲気および酸素プロセスガス雰囲気中で反応性スパッタリングが行われる。ここで、ターゲット材料の金属原子は、コーティングプロセス中に初めてプロセスガスからの酸素と大部分が反応するため、プロセス制御は、ヒステリシス効果(酸素分圧の変化による層堆積速度、放電電流および/またはターゲット電圧の不連続的な変化)およびターゲット表面の被毒(ターゲット被毒)によって困難になる。それとは対照的に、酸化物ターゲット材料を有するスパッタリングターゲットの堆積は、コーティングプロセスを、純粋な希ガスプロセスガス(通常はアルゴン)を用いて、または例えば酸素のような少量の他のガスが添加された主構成要素としての希ガス(通常はアルゴン)を用いて実施することができることから、工業的条件下で有利である。特に、酸化物ターゲット材料を使用する場合、プロセス制御が簡素化されると同時に、より高いコーティング速度およびより高いプロセス安定性が可能になる。さらに、すでに導入されている多くのコーティング設備は、金属スパッタリングターゲットの金属層を堆積させるためにのみ設計されていることから、酸素をスパッタリングガスに供給することができない。そのような使用可能なスパッタリング設備の汎用性を酸化物ターゲット材料の使用によって高めることができる。
【0005】
独国特許出願公開第102012112739号明細書には、酸素欠乏が、Nb5-y、TiO2-y、MoO3-y、WO3-y、V5-y(Y>0)もしくはそれらの混合物をベースとする準化学量論的かつそれによって導電性である酸化物もしくは酸窒化物の還元酸化物相によってのみ調整されるか、または金属混合物と一緒になったこの還元酸化物相によって調整される、準化学量論的ターゲット材料について記載されている。米国特許出願公開第2001/0020586号明細書には、化学組成MOの準化学量論的ターゲット材料であって、Mが、Ti、Nb、Ta、Mo、W、ZrおよびHfからなる群からの少なくとも1つの金属である、ターゲット材料について記載されている。
【0006】
酸化モリブデン含有層および対応するターゲット材料に関する上記の課題および構成とは別に、学術刊行物には、高温での1週間以上にわたる保持時間での実験室規模(すなわち、数グラムの生成物量)の粉末状モリブデン含有混合酸化物化合物の製造について記載されている。例えば、EkstroemおよびNygren(Thommy EkstroemおよびMats Nygren, Acta Chemica Scandinavica 26 (1972) 1836-1842)は、Ta粉末をMoOおよびMoOと混合し、粉末混合物を石英アンプルに充填し、石英アンプルを脱気し、1週間~数週間の期間にわたって640~750℃に加熱することによって、0.06≦x≦0.08の均一性範囲で(Mo1-xTa14を合成することについて記載している。同刊行物には、0.07≦x≦0.12の均一性範囲で(Mo1-xNb14を合成することについても記載されている。出発粉末は、Nb、MoOおよびMoOであり、合成条件は、(Mo1-xTa14と同様であったが、混合酸化物は、600~750℃の温度範囲で得られた。EkstroemおよびNygrenは、さらなる刊行物(Thommy EkstroemおよびMats Nygren, Acta Chemica Scandinavica 26 (1972) 1827-1835)で、すでに記載されている混合酸化物と同様にVとMoOおよびMoOとの粉末混合物から製造された(Mo1-x14の合成についても記載しており、ここでは、640℃への加熱時に0.02≦x≦0.11または750への加熱時に0.05≦x≦0.11の広い均一性範囲が観察された。0.03≦x≦0.05の均一性範囲を有する(Mo1-xTi14の合成もすでにEkstroemによって記載されており(Thommy Ekstroem, Acta Chemica Scandinavica 26 (1972) 1843-1846)、ここでは、TiO、MoOおよびMoOの粉末混合物からの製造が、すでに記載されている混合酸化物と同様に、ただし、600~750℃の温度に加熱して行われた。すべての合成において、生成物は、固まった巨視的固体としてではなく、緩い粉末形態で少量(グラムスケール)でのみ得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第2013020347号
【文献】独国特許出願公開第102012112739号明細書
【文献】米国特許出願公開第2001/0020586号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Thommy EkstroemおよびMats Nygren, Acta Chemica Scandinavica 26 (1972) 1836-1842
【文献】Thommy EkstroemおよびMats Nygren, Acta Chemica Scandinavica 26 (1972) 1827-1835
【文献】Thommy Ekstroem, Acta Chemica Scandinavica 26 (1972) 1843-1846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、高品質な層を製造するための安定したスパッタリングプロセスが設定可能な、ドープされた酸化モリブデン含有スパッタリングターゲットであって、工業規模で安価かつプロセス信頼性となるように製造可能であるべきスパッタリングターゲットを提供することである。
【0010】
この課題は、請求項1に記載のスパッタリングターゲットによって、および請求項15に記載のスパッタリングターゲットの使用によって解決される。本発明の有利な発展形態は、従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、導電性酸化物ターゲット材料を有するスパッタリングターゲットが提供される。ここで、ターゲット材料は、
- 金属主構成要素としてのモリブデン(Mo)、ならびに
- タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)およびチタン(Ti)の群からの少なくとも1つのドーピング元素M
の少なくとも1つの金属酸化物を含有する。
【0012】
ここで、ターゲット材料は、(その研削断面(Schliffbild)に関して、ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)0.01≦x≦0.13の混合酸化物(Mo1-x14からのマトリックス相を有し、この混合酸化物におけるMは、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)およびチタン(Ti)の群の1つ以上の元素である。
【0013】
ここで、本発明は、スパッタリングプロセスのプロセス安定性に関して、ターゲット材料の酸素含有量が製造すべき層の酸素含有量と同一または実質的に同一であると有利であるという認識に基づく。好ましくは、ターゲット材料の酸素含有量(重量%)および製造すべき層の酸素含有量(重量%)は、最大±2重量%互いに異なる。したがって、プロセスガスを介した酸素の供給は、必要ではないか、またはごく僅かしか必要ではなく、それによって、ヒステリシス効果が抑制され、プロセス制御が簡素化される。
【0014】
さらに、基本的に、ドープされた酸化モリブデン含有ターゲット材料の多数の相組成が可能であることも考慮すべきである。一方では、モリブデンは、異なる酸化状態、特に、MoO、MoOの形態、ならびに複数の準化学量論的酸化物MoO、例えば、Mo11(y=2.75)、Mo1747(y=2.76)、Mo14(y=2.8)、Mo23(y=2.875)、Mo26(y=2.89)およびMo1852(y=2.89)などの形態で存在し得て、ここで、Mo26は高温変態であり、Mo1852は低温変態である。本発明によると、少なくとも1つのドーピング元素Mがターゲット材料に含有されることが意図されている。それによって、ターゲット材料の可能な相組成に関してさらなる自由度が加わる。なぜなら、少なくともドーピング元素Mは、基本的に、ターゲット中に元素形態で(すなわち、金属形態、例えば、Ta、Nb、V、Tiとして)存在し得て、酸化物(例えばTa、V、Nb、TiO)として存在し得て、準化学量論的酸化物として存在し得て、またさらに上記の酸化モリブデンのうちの1つ以上と、および/もしくは少なくとも1つのさらなるドーピング元素Mの1つ以上の酸化物と混合酸化物を形成し得るからである。多数の可能な相組成に関して、本発明は、ターゲット材料の異なる相が、特にこれらが部分的に絶縁性または誘電性である場合、スパッタリング時の弧光(アーク)の形成によって粒子形成をもたらし得るという認識に基づく。その結果、層欠陥またはスパッタリングターゲットの損傷が生じる場合がある。さらに、酸化物ターゲットの強度は、特に、微細構造が、複数の異なる、不均等に分布した、粗いおよび/または多孔質の相を有する場合、かなり低い。強度の点で、相が異なる密度またはCTE(CTE:熱膨張係数)を有すると、および/または互いに隣接する相が、例えば、拡散孔、異なる格子タイプなどを理由に互いに十分に強固に接続されていないと、特に重大である。異なる相は部分的に異なるスパッタリング速度も有し得るため、特に、ターゲット材料の複数の不均等に分布した粗い多孔質相の場合、製造された層の層均一性および層化学量論が不十分になる場合がある。一部の相(例えば、MoO)は、僅かに水溶性であるため、製造プロセス(例えば、機械による加工、洗浄)において、表面領域の化学量論の変化および/または残留水分の包有が生じ得て、それによって、スパッタリングプロセスおよび製造される層に悪影響(例えば、真空の阻害、層中へのHOの包有)が与えられ得る。
【0015】
それとは対照的に、ターゲット材料中の本発明によって意図される0.01≦x≦0.13の(Mo1-x14混合酸化物相は、導電性であり、水溶性を示さず、かつ周囲条件下で安定であるため、特に有利であると見出された。さらに、それによって、ドーピング元素Mも、(少なくとも部分的に)このマトリックス相中に、ひいては導電性相中に結合しており、かつターゲット材料全体に均等に分布している。必要に応じて存在する第2の相(好ましくは微細に分布している)が包有され得るマトリックス相を本発明によってこの混合酸化物相で形成することにより、この混合酸化物相は、スパッタリングターゲットにわたるターゲット材料のかなりの比率を占め、それによって、ターゲット材料全体がこれらの有利な特性を帯びる。そうなることによって、例えば、ターゲット材料全体に導電性が生じ、また水との接触は、マトリックスがそれによって攻撃を受けないため、比較的重大ではない。先に説明したように、これらの特性は、均等なスパッタリング速度、弧光(アーク)および粒子形成の回避、均一な層組成および均等な層厚、スパッタリングプロセス中の安定したプロセス制御、ならびにスパッタリングターゲットの容易な製造、保管および取り扱いに関して、有利である。本発明によるスパッタリングターゲットが、さらに以下で詳細に記載するように、短いプロセス時間(例えば、典型的には<12時間の保持時間)内に、高い相対密度および高い相純度を有する稠密な構成要素(例えば、ターゲットセグメント当たり少なくとも1kgの稠密なターゲット材料)として工業規模で製造可能であることがさらに有利である。
【0016】
「スパッタリング」とは、カソード霧化とも呼ばれ、高エネルギーイオン(例えば、プロセスガスの希ガスイオン)の衝突によって固体(ターゲット材料)から原子または分子が放出されて気相になる物理的プロセスである。より薄い層を製造するために、霧化されたターゲット材料が、基板上に堆積され、そこで固体層を形成する。スパッタリング堆積と呼ばれることもあるこのコーティングプロセスは、PVD法(PVD:物理蒸着)の1つであり、以下では「スパッタリング」とも呼ばれる。ターゲット材料は、(必要に応じて、プロセスガスからのおよび/またはさらなるスパッタリングターゲットのさらなる材料と一緒に)スパッタリングプロセス中に霧化することおよび層形成することが意図されている、固体材料として存在するスパッタリングターゲット材料である。スパッタリングターゲットは、ターゲット材料によってのみ形成されていても、またはさらに、ターゲット材料と直接的または間接的に(すなわち、少なくとも1つのさらなる構成要素を介して)接続されたさらなる構成要素、例えば、バックプレート(複数可)、支持管(複数可)、コネクタ(複数可)、インサート(複数可)などを有していてもよい。ここで、スパッタリングターゲット(および対応してターゲット材料)は、様々な形状で、特に、例えば正方形、長方形、円形などの様々な基本形状を有する平面状のスパッタリングターゲットとして、または管状のスパッタリングターゲットとしても提供され得る。特に、ターゲット材料は、少なくとも0.03m(メートル)の少なくとも1つの空間方向に沿って伸びる巨視的固体を形成する。
【0017】
「酸化物」ターゲット材料においては、ターゲット材料に含有される金属が、実質的に完全に酸化物として存在すると理解される。特に、金属相の比率は、ターゲット材料中で、その研削断面に関して、<1体積%である。特に、ターゲット材料中の金属相の比率は、ここで用いられて以下でさらにより詳細に説明されるラマン測定による検出限界を下回る。ターゲット材料は、4点測定法で抵抗測定スタンド(Ulvac ZEM3)によって測定して少なくとも80S/mの導電率を有する場合、「導電性」と呼ばれる。ターゲット材料の「相」とは、その空間領域であると理解され、その内部には、均一な化学組成および均一な結晶構造があり、相中の個々の結晶粒の配向は様々であり得る。「混合酸化物」とは、結晶格子が酸素イオンおよび複数の元素(ここでは、特にMoおよび少なくとも1つのドーピング元素M)のカチオンから構成される結晶構造を有する酸化物であると理解される。ここで、「マトリックス相」においては、このマトリックス相が、連続した浸透性の網状組織でターゲット材料全体に延在しており、この網状組織中に、必要に応じて存在するさらなる相(「第2の相」)が島状の領域として埋め込まれていると理解される(ラマン顕微鏡を用いてラマン分光法で研削断面を観察)。
【0018】
異なる相およびその体積比率、ならびにターゲット材料の密度も、試料の代表的な断面に基づいて決定され、その際、等方性組織が想定され得るため、体積データは、切断面において測定された面積比率から導出される(すなわち、体積比率は、測定された面積比率に相応する)。そのために、試料の金属組織研削片が乾式調製によって製造され、その際、異なる金属酸化物相の空間分解能を決定するために、ラマン顕微鏡を用いたラマン分光法が適用される。以下でさらに詳細に記載するように、ラマン分光法では、分析すべきターゲット材料の試料表面が、レーザービームで点状に走査され、各測定点に対して完全なラマンスペクトルが作成される(「ラマンマッピング」)。各測定点について得られたラマンスペクトルを該当する異なる金属酸化物の参照スペクトルと比較することによって、対応する相が各測定点に割り当てられ、それによって、試料の相組成の2次元表示が作成され、この2次元表示から、異なる相の面積比率(または体積比率)が算出される。(Mo1-x14マトリックス相は、ラマン分光法によって明確に同定することができる。(Mo0.93Ta0.0714相の参照ラマンスペクトルが図1に示されている。粉末ディフラクトグラムのデータは、国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data;ICDD)からPDF番号01-070-0952で得ることが可能である。異なる金属酸化物相の体積データ(またはこれと同一の面積データ)は、標準化されており、ターゲット材料の材料粒子(粒)が占める総体積(または総面積)に関する相対的データである。ターゲット材料の細孔が占める体積(またはこれと同一の面積)は、この総体積(またはこの総面積)から除外されている。したがって、個々の金属酸化物相の体積データ(またはこれと同一の面積データ)は、細孔体積を含まずに合計100%になる。
【0019】
本発明によると、ターゲット材料は、1つの金属酸化物から、または異なる化学組成の複数の金属酸化物(次いで異なる相を形成する)からも形成され得る。ここで、各金属酸化物は、正確に1つの金属または代替的には複数の金属(すなわち、後者の場合は混合酸化物)の化学量論的または準化学量論的金属酸化物であり得る。本発明によると、Moは、(カチオンとして存在する)含有される金属を基準として主構成要素となっており、すなわち、Mo比率(Mo;原子%)を含む含有されるすべての金属の合計(Me:原子%)に対するMo比率(Mo;原子%)、すなわち、Mo/(Me+Mo)が少なくとも50%である。特に、これは、少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも84%である。基本的に、Moおよび少なくとも1つのドーピング元素Mに加えて、さらなる金属もターゲット材料に含有されていてもよい。しかしながら、好ましくは、Moに加えてターゲット材料に含有されるさらなる金属(場合によって存在する不純物は除く)は、少なくとも1つのドーピング元素Mのみから形成される。基本的に、Ta、Nb、VおよびTiの群からの2つ以上のドーピング元素Mがターゲット材料に含有され得る。しかしながら、特に、この群からの正確に1つのドーピング元素Mのみがターゲット材料に含有される。好ましくは、この正確に1つのドーピング元素Mは、Taまたは代替的にはNbである。Taおよび/またはNbをドーピング元素として添加することによって、一般的なアルミニウムエッチング液(リン酸、硝酸、酢酸および水の混合物)のウェットエッチング速度を許容可能なレベルまで下げることができる。過酸化水素をベースとする銅エッチング液のウェットエッチング速度にも、TaまたはNbを添加することによって影響を与えることができる。Taまたは酸化Ta粉末は、大量に入手可能な出発生成物であるが、価格変動が大きい。Nbまたは酸化Nb粉末は、通常、比較的安価で入手可能である。
【0020】
前述のように、ターゲット材料には、製造関連の「不純物」(金属および非金属の両方)、例えば、タングステン(W)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アンチモン(Sb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、炭素(C)および窒素(N)などが含有され得る。そのような不純物の総含有量は、典型的には、<1,000μg/gである。
【0021】
基本的に、本発明によると、混合酸化物(Mo1-x14には、Ta、Nb、VおよびTiの群からの2つ以上のドーピング元素Mが含有され得る。しかしながら、特に、この群からの正確に1つのドーピング元素Mのみが混合酸化物(Mo1-x14に含有される。さらに、本発明によると、基本的に、Ta、Nb、VおよびTiの群からの1つ以上の元素としてMをそれぞれ有する複数の異なる混合酸化物(Mo1-x14がターゲット材料に含有されることが可能であり、この場合、これらの混合酸化物のうちの正確に一つが、先のマトリックス相を形成する。しかしながら、特に、そのような混合酸化物(Mo1-x14は、正確に1つしか含有されない。特に、マトリックス相の混合酸化物(Mo1-x14における範囲xには、0.02≦x≦0.12が当てはまる。
【0022】
一発展形態によると、ターゲット材料は、
- 金属主構成要素としてのモリブデン(Mo)、ならびに
- タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)およびチタン(Ti)の群からの少なくとも1つのドーピング元素M
の少なくとも1つの金属酸化物によって形成される。したがって、場合によって存在する不純物(「不純物」の定義については先を参照)を除いてさらなる金属は含有されておらず、かつすべての金属は酸化的に結合していると言える(例えば、窒化物、ホウ化物などとしては存在していない)。このようにして、場合によって不利であるさらなる相互作用が発生することなく、酸化モリブデン(複数可)の有利な特性が、少なくとも1つのドーピング元素Mの効果(例えば、ウェットエッチング速度への影響)と組み合わせて達成される。
【0023】
一発展形態によると、混合酸化物(Mo1-x14からのマトリックス相は、ターゲット材料中で、ターゲット材料の研削断面に関して、(ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)≧60体積%の割合を有し、すなわち、この比率は60~100体積%の範囲にある。特に、この割合は≧75体積%であり、すなわち、この割合は75~100体積%の範囲にあり、さらにより好ましくは、この割合は≧90体積%であり、すなわち、この比率は90~100体積%の範囲にある。混合酸化物相の比率が高いほど、ターゲット材料は、このマトリックス相の先に説明した有利な特性をより強く帯びる。非常に高い比率は、ターゲット材料の組成が混合酸化物(Mo1-x14中の該当元素の比率に近似している場合にのみ達成される。一発展形態によると、この比率は100体積%である(すなわち、第2の相は検出できない)。100体積%を達成するためには、ターゲット材料の組成が混合酸化物中の元素の比率にほぼ対応している必要がある。体積%での比率の決定については、上記の一般的な説明、ならびに試料調製およびラマン分光法に関する以下の詳細な説明を参照されたい。
【0024】
一発展形態によると、ターゲット材料中で、
a. MoOおよび/またはMo11、ならびに
b. 任意選択的に、以下の群からの1つ以上の化合物(複数可):
- MoO
- Mo1747、Mo14、Mo23、Mo26およびMo1852の群からのさらなる準化学量論的酸化モリブデン、
- 化学量論的(例えば、Ta)および/または準化学量論的(例えば、Ta5-l;0<l<1)酸化Ta(複数可)、
- 化学量論的(例えば、Nb)および/または準化学量論的(例えば、Nb5-m;0<m<1)酸化Nb(複数可)、
- 化学量論的(例えば、V)および/または準化学量論的(例えば、V5-n;0<n<1)酸化V(複数可)、および
- 化学量論的(例えば、TiO)および/または準化学量論的(例えば、TiO2-o;0<o<1)酸化チタン(複数可)
が、マトリックス相中に島として分布した1つ以上の第2の相として含有されており、これらの第2の相は、ターゲット材料の研削断面に関して、(ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)合計≦40体積の割合になり、すなわち、この割合は0.1~40体積%の範囲にある。特に、ターゲット材料の組成が混合酸化物(Mo1-x14中の元素の比率から逸脱している場合、第2の相が強く生じる。例えば、ドーピング元素Mの比率が比較的低く、それによって、混合酸化物(Mo1-x14の形成が制限されると、酸化モリブデン相が生じる。ここで、挙げられた第2の相の中でも、先に挙げた相であるMoOおよびMo11が、高い(ほぼ金属の)導電率(MoO:1.25×10S/m;単斜晶系Mo11:1.25×10S/m)を有し、かつ比較的低い蒸気圧を有し、このことがコーティングプロセスの安定性に有利であることから、好ましい。基本的に、対応する利点が、Mo1747、Mo14、Mo23、Mo26およびMo1852からの任意選択的に存在する相にも当てはまるが、これらの相は、ここで考慮される製造の過程において、典型的には、生じないか、または僅かな比率でしか生じない。好ましくは、a.およびb.で言及された第2の相の割合は、≦25体積%(すなわち、この割合は0.1~25体積%の範囲にある)、さらにより好ましくは≦10体積%(すなわち、この割合は0.1~10体積%の範囲にある)であり、残りの体積割合は、その都度、特に有利な混合酸化物(Mo1-x14によって構成される。
【0025】
一発展形態によると、第2の相MoOの割合は、ターゲット材料中で、その研削断面に関して、(ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)0~2体積%の範囲にあり、すなわち、この割合は≦2体積%である。MoOは電気絶縁性(導電率<1×10-5S/m)であり、それによって、コーティングプロセス中に粒子が形成され得るため、第2の相MoOの割合は、できるだけ低く保つ必要がある。さらに、MoOは水溶性であり、このことは、ターゲットの機械による加工および保管の点で不利である。好ましくは、ターゲット材料中の第2の相MoOは、ラマン分光法ではまったく検出できない(すなわち、測定される比率が0体積%)か、または完全には回避できない場合は、0.1~1.0体積%の範囲の比率に保たれる。
【0026】
一発展形態によると、ターゲット材料中で、重量%での酸素含有量は、26~32重量%の範囲にある。堆積層中の酸素含有量は光反射に影響を与えるため、好ましくは、ターゲット材料中で、典型的には上記の範囲にあるほぼ対応する酸素含有量が調整される。さらに、この範囲内で十分な導電性が達成されるため、DC(直流)スパッタリングプロセスが可能になる(その一方で、電気絶縁性ターゲットは、RF(RF:無線周波、すなわち、高周波)スパッタリングプロセス(すなわち、交流)でスパッタリングされる必要があり、このことが、(特にスパッタリング設備の設計に関して)コストの増大に関連している)。ここで、酸素含有量は、以下でさらにより詳細に説明するように、対応する酸化物含有粉末を秤量することによって製造過程で調整することができ、それによって、(秤量された金属比率に対する)秤量された酸素比率は、ターゲット材料の所望の酸素含有量に対応する。同時に、挙げられた酸素含有量は、製造過程での混合酸化物(Mo1-x14の焼結挙動および形成にとって都合が良い。金属酸化物相における様々な格子サイトの正確な占有率も必要に応じて温度依存で変化させることができるため、ターゲット材料中の総酸素含有量のみを考慮することが合理的である。ここでは、ターゲット材料中の総酸素含有量は、キャリアガス熱抽出(例えばLECO RO300またはLECO 836のデバイスを用いた赤外線測定セルによるCOまたはCOとしての酸素の検出)によって特定される。
【0027】
一発展形態によると、ターゲット材料中で、原子%でのMoおよびドーピング元素Mを合計した総含有量に対する原子%での(少なくとも1つの)ドーピング元素Mの比率、すなわち、M/(Mo+M)は、0.02~0.15の範囲にある。混合酸化物(Mo1-x14がターゲット材料中でマトリックス相として形成できるように、最低限の含有量の(少なくとも1つの)ドーピング元素Mが必要である。マトリックス相(Mo1-x14中のドーピング元素Mの比xは、ある程度変化し得て、したがって、僅かに低下する場合もあるため、ここでは一定の許容誤差がある。さらに、(特にウェットエッチング挙動に関する)製造される層の所望の特性が存在するためには、最低限の含有量のドーピング元素Mが必要である。反対に、ドーピング元素Mの含有量が高過ぎることは、ドーピング元素Mをもはやマトリックス相中に吸収することができなくなり、その結果、第2の相の形態でドーピング元素の酸化物(例えば、Ta、Nb、V、TiO)の比率が増加するため、不利である。さらに、製造される層の反射率は、ドーピング元素M(例えば、Taの場合)の含有量が増加するほど、ある程度まで再び増加し、エッチング速度も、もはや所望の範囲に対応しない。このような背景から、0.05~0.12の範囲がM/(Mo+M)の比率に特に好ましい。所望の比率M/(Mo+M)は、以下に記載する製造ルートではほぼ変化しないため、製造過程において、対応する粉末を秤量することによって調整することができる。ターゲット材料自体について、含有される金属の比率および比率M/(Mo+M)を、化学分析、特にICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法;誘導結合プラズマを用いた質量分析法)によって、またはICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析法;誘導結合プラズマを用いた発光分析法)によって決定することができる。
【0028】
一発展形態によると、ターゲット材料中で、ドーピング元素Mは、Taによって形成され、混合酸化物からのマトリックス相は、0.06≦x≦0.08の(Mo1-xTa14によって形成される。典型的には、マトリックス相(Mo1-xTa14中のTa比率は、0.07の値を取る。製造におけるマトリックス相を形成するためのTaの利用可能度に応じて(すなわち、特に出発粉末の組成および量比に応じて)、xは、通常、0.06≦x≦0.08の範囲にあり、マトリックス相は、この範囲で安定して形成される。先に言及したように、Taは、ウェットエッチング速度および利用可能度に影響を与えるという観点から特に好ましい。マトリックス相(Mo1-xTa14も、実際には特に有利であると判明している。
【0029】
好ましくは、できるだけ高い比率の添加されたドーピング元素M(ここでは、Ta)が、混合酸化物(Mo1-x14からのマトリックス相に組み込まれ、好ましくは、ドーピング元素M(ここでは、Ta)は、完全に組み込まれない場合、金属酸化物(例えば、混合酸化物、Ta)として存在し、金属元素としては存在しない。金属相としてのTaは、著しく異なる特性をもたらすであろう。Taは誘電性であり、したがって、スパッタリング時の粒子および層欠陥の原因となり得るため、Taの比率も、好ましくは比較的低い。さらに、Taは、製造される層において薄い部分層として光学的に透明であり得るため、層の光学特性を悪化させ得る。したがって、一発展形態によると、Taは、(好ましくは、唯一含有されるドーピング元素Mとして)ターゲット材料中で、完全に金属酸化物(例えば、混合酸化物、Ta)として存在しており(すなわち、金属元素としては存在しない)、相Taの比率は、ターゲット材料中で、その研削断面に関して、(ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)≦3体積%(すなわち、0~3体積%の割合)、好ましくは≦1体積%(すなわち、0~1体積%の割合)である。これは、特に、原子%でのMoおよびTaの総含有量に対する原子%でのドーピング元素Taの比率、すなわち、M/(Mo+M)が、0.02~0.15の範囲、好ましくは0.05~0.12の範囲にある場合に当てはまる。
【0030】
一発展形態によると、ターゲット材料中で、ドーピング元素Mは、Nbによって形成され、混合酸化物からのマトリックス相は、0.07≦x≦0.12の(Mo1-xNb14によって形成される。製造におけるマトリックス相を形成するためのNbの利用可能度に応じて(すなわち、特に出発粉末の組成および量比に応じて)、xは、通常、0.07≦x≦0.12の範囲にあり、マトリックス相は、この範囲で安定して形成される。先に言及したように、Nbは、マトリックス相が0.07≦x≦0.12のより広い範囲にわたって安定して形成されることからも、ウェットエッチング速度に対する影響および安価な入手性の点で有利である。
【0031】
同様にTaに関して先に説明したように、好ましくは、できるだけ高い比率の添加されたドーピング元素M(ここでは、Nb)が、混合酸化物(Mo1-x14からのマトリックス相に組み込まれ、好ましくは、ドーピング元素M(ここでは、Nb)は、完全に組み込まれない場合、金属酸化物(例えば、混合酸化物、Nb)として存在し、金属元素としては存在しない。したがって、一発展形態によると、Nbは、ターゲット材料中で、完全に金属酸化物(例えば、混合酸化物、Nb)として存在しており(すなわち、金属元素としては存在しない)、相Nbの比率は、ターゲット材料中で、その研削断面に関して、(ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)≦3体積%(すなわち、0~3体積%の割合)、好ましくは≦1体積%(すなわち、0~1体積%の割合)である。これは、特に、原子%でのMoおよびNbの総含有量に対する原子%でのドーピング元素Nbの比率、すなわち、M/(Mo+M)が、0.02~0.15の範囲、好ましくは0.05~0.12の範囲にある場合に当てはまる。
【0032】
一発展形態によると、ターゲット材料は、≧95%(すなわち、95~99.9%の範囲)、特に≧97%(すなわち、97~99.9%の範囲)、好ましくは≧98%(すなわち、98~99.9%の範囲)の相対密度を有する。密度の低いターゲット材料はスパッタリング時に閃光放電(「アーク」)および粒子形成を引き起こし得るため、高い相対密度を有する稠密なターゲット材料が堆積層の品質にとって重要である。相対密度は、ターゲット材料の金属組織研削片の光学顕微鏡画像に基づくデジタル画像分析によって決定され、この金属組織研削片において、細孔の相対面積比率「FA」(FA:検査すべき総面積に対する細孔の面積比率)が評価される。相対密度はこの値(1-FA)に相応し、その際、相対密度は、3つのそのような多孔度測定の算術平均として計算される。この手順を以下で詳細に説明する。
【0033】
一発展形態によると、ターゲット材料は、25℃で≧100S/mの導電率を有する。これによって、DCスパッタリングが可能になり、製造される層においても十分な導電率が得られる。ここで、導電率は、4点測定法で抵抗測定スタンド(例えば、Ulvac ZEM3)によって測定される。
【0034】
一発展形態によると、ターゲット材料は、粉末冶金によって製造された(巨視的)固体として存在する。粉末冶金による製造ルートによって、短いプロセス時間(例えば、典型的には<12時間の保持時間)内に、高い相対密度および高い相純度を有する稠密な構成要素(例えば、ターゲットセグメント当たり少なくとも1kgの稠密なターゲット材料)として工業規模でターゲット材料を安価に製造することが可能になる。ここで、粉末冶金製造とは、対応する出発粉末(複数の粉末の場合、予め適切に混合される)が圧力および/または温度の適用によって圧縮されることと理解される。ここで、粉末冶金製造によって、ターゲット材料の特徴的な微細構造、特に多相かつ微粒の組織がもたらされる。粉末冶金製造は、当業者であれば、光学顕微鏡で、走査型電子顕微鏡(SEM)で、またはラマン顕微鏡によって、研削断面に基づいて、ターゲット材料から容易に認識可能である。
【0035】
出発粉末としては、必要に応じて僅かな比率の準化学量論的酸化モリブデン、特にMo11などを含有する、MoOと、MoOと、ドーピング元素Mの1つ以上の酸化物(Ta、V、Nb、TiO)との粉末混合物が形成されることが好ましい。異なる粉末の画分を秤量して、元素Mo、MおよびOの所望の量比を調整する。MoOおよびMoOは、容易に入手可能で、安価で、周囲条件下で熱力学的に安定した、取り扱いが容易な原材料である。準化学量論的酸化物は、Hのような適切な雰囲気中でMoO粉末を還元することによって製造することができる。
【0036】
後続の圧縮ステップ中に混合酸化物(Mo1-x14からの所望のマトリックス相を所望の高比率で形成することを達成するためには、一方で、秤量される粉末の対応する量比が混合酸化物に近くなることに留意されたい。さらに、使用される粉末が、非常に微粒(典型的には<10μmのd50値)であり、かつ圧縮ステップ前に非常に良好に混合されることも必須である。製造例に基づいて説明されるように、MoO粉末およびドーピング元素Mの酸化物からの粉末の場合(ならびに必要に応じて準化学量論的酸化モリブデンの場合も)、>63μmの粗い画分はそれぞれ、適切なふるい分けステップ(例えば、63μmのメッシュサイズを有するふるい)によってふるい分けされる。MoO粉末の場合も、特に微細な粉末が使用される(例えば、d50値は3μmであり、粒径測定は、レーザー回折、例えば、Malvernのデバイスを用いる)。粉末の混合は、好ましくは、インテンシブミキサ内で、またはすき刃ミキサ(Pflugscharmischer)を用いて実施され、その際、粉末を非常に良好に混合することに留意されたい。
【0037】
圧縮は、特に、熱間プレス、熱間静水圧プレス、スパークプラズマ焼結(SPS)またはプレス焼結によって行われ得る。ここで、圧縮は、特に600~800℃の温度および15~110MPaのプレス圧力で行われる。好ましくは、圧縮は、特に高温に設定される場合、真空または保護ガス雰囲気(例えば、アルゴン)で行われる。SPSの場合、圧縮は、圧力および温度を適用することによって行われ、その際、熱は、粉末混合物を通過する電流によって内部に生成される。熱間プレスの場合、圧縮は、同様に圧力および温度を適用することによって行われ、その際、熱は、加熱された型を介して外部から供給される。熱間静水圧プレスの場合、出発粉末は、密閉カプセル内にあり、圧縮は、カプセルに圧力および温度を適用して行われる。プレス焼結による圧縮の場合、出発粉末は、プレスされてグリーン体になり、続いて、このグリーン体は、溶融温度未満の熱処理によって焼結される。
【0038】
圧縮プロセス中に、出発粉末は、固相反応で、または化学組成およびプロセス条件に応じて液相反応もしくは多相反応(例えば、固体-液体)でも、ターゲット材料に変換される。ここで進行する反応は、共均一(Komproportionierung)に類似している:MoOは、必要に応じて様々な準化学量論的酸化物(例えば、Mo1852、MoO11、...)に還元されるが、MoOは、少なくとも部分的に必要に応じて様々な準化学量論的酸化物に酸化される。さらに、ドーピング元素Mの少なくとも1つの酸化物(Ta、V、Nb、TiO)は、大部分が混合酸化物(Mo1-x14に入り、マトリックス相を形成する。圧縮後に、機械による後加工を、例えば切削工具によって、所望の最終形状にするために、または表面後処理(所望の表面粗さの調整)のために行ってもよい。必要に応じて、例えば、バックプレート(複数可)、支持管(複数可)、コネクタ(複数可)、インサート(複数可)のようなさらなる構成要素をさらに取り付けて、スパッタリングターゲットを完成させる必要がある。
【0039】
本発明の一発展形態によると、1つ以上の第2の相が、ターゲット材料中で、その研削断面に関して、(ラマン顕微鏡を用いて(ラマン分光法で)測定して)、微細かつ均等に分布した小さな島としてマトリックス相中に形成されている。特に、第2の相(複数可)の島の少なくとも95%は、それぞれ≦60μmの円相当径を有する(同じ面積および「円相当径」を有する円の形で示される島の該当面積からそれぞれ計算)。ここでは、代表して選択される1,000μm×1,000μmの分析面積の島の総数に対する、「それぞれ≦60μmの円相当径を有する小さな島」の数が考慮される。第2の相(複数可)のこの微細な島構造は、研削断面のラマン画像によって視覚化可能であり、島の面積およびサイズに関して定性画像評価によって適切に評価することが可能である。
【0040】
さらに、本発明は、酸化モリブデン含有層を蒸着させるための、さらに上記の発展形態および変形形態のうちの1つ以上によって形成することが可能な本発明によるスパッタリングターゲットの使用であって、スパッタリング法が、DCスパッタリング法またはパルスDCスパッタリング法として、酸素なしで、または代替的には最大20体積%の酸素を反応性ガスとして供給して、希ガス雰囲気中で行われる、使用に関する。直流スパッタリングまたはDCスパッタリングでは、カソードとして接続されているスパッタリングターゲットとアノード(通常、コーティング設備のハウジングおよび/または真空チャンバ内の遮蔽鋼板)との間に直流電圧が印加される。ここで、DCスパッタリング法またはパルスDCスパッタリング法は、希ガス雰囲気、特にアルゴンガス雰囲気中で、好ましくは酸素の追加供給なく非反応性で行われる。ここで堆積された層は、コーティングプロセス時の僅かな酸素欠乏(吸い込まれるプロセスガスによる形成された酸素の除去)を理由に、使用されるターゲット材料よりも僅かに低い酸素含有量を有する場合があるが、これは、コーティング設備および稼働方式に応じて僅かに変化し得る。ターゲット材料の酸素含有量よりも高い酸素含有量を有する酸化モリブデン含有層を製造するために、ターゲット材料に、(反応性ガスの組成に対して)最大20体積%、好ましくは<10体積%、さらにより好ましくは<5体積%の酸素の供給下で反応性スパッタリングを行うこともでき、その際、供給される酸素の量は、酸化物ターゲット材料を使用することによって比較的低く維持することができる。したがって、反応性スパッタリングの欠点(ヒステリシス効果、堆積層の潜在的な不均一性)は、それほど強く影響しない。
【0041】
本発明のさらなる利点および有用性は、添付の図を参照する実施例の以下の説明に基づいて明らかとなる。ラマンスペクトルを示す図では、(cm-1)でのラマンシフトに対する(数またはカウント)での強度がそれぞれプロットされている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】混合酸化物(Mo0.93Ta0.0714のラマン参照スペクトルである。
図2】Taのラマン参照スペクトルである。
図3】Mo1852のラマン参照スペクトルである。
図4】MoOのラマン参照スペクトルである。
図5】MoOのラマン参照スペクトルである。
図6】Mo11のラマン参照スペクトルである。
図7】ラマンマッピングによって作成された本発明による実施例の微細構造である。
図8】ラマンマッピングによって作成された比較例の微細構造である。
図9】本発明による2つのスパッタリングターゲット(実施例1、実施例2)および比較例(参照)について、(nm/分)、すなわちナノメートル/分でそれぞれ堆積速度がプロットされている図である(それぞれ略してMoO(2<z<3)と呼ばれ、それぞれ出発粉末に対して対応するモル比率のTaを有する)。
図10図8に示されている本発明による2つのスパッタリングターゲット(実施例1、実施例2)および比較例(参照)を用いて堆積させた層系についての、波長(nm)(ナノメートル)に対する(%)での反射率がプロットされている図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
実施例1:
MoO粉末(Plansee SE;約6μmのd50値)をメッシュサイズ63μmのふるいでふるい分けし、>63μmの粗い画分はこれ以上使用しない。そのようにして得られた40Mol%のMoO粉末を、すき刃ミキサ(Loedige)内で20分にわたって、57Mol%のMoO粉末(Molymet、ここでは約3μmのd50値)および3Mol%の五酸化タンタル粉末(H.C. Starck、約2μmのd50値;<63μmにふるい分け;Ta)と混合し、粉末成分間に均一な分布が生じるようにする。得られた粉末混合物を、φ250mm(すなわち、直径250mm)および高さ50mmの寸法を有するグラファイト型に入れ、真空下、プレス圧力30MPa、温度800℃および保持時間480分で、熱間プレスにおいて圧縮する。稠密化された構成要素の相対密度は97.5%である。得られたターゲット材料の大部分は、79.4体積%の比率の混合酸化物(Mo0.93Ta0.0714からのマトリックス相からなる。さらに、ターゲット材料は、8.5体積%の比率のMoO相および12.1体積%の比率のMo11相を有する。
【0044】
実施例2:
MoO粉末(Plansee SE;約6μmのd50値)をメッシュサイズ63μmのふるいでふるい分けし、>63μmの粗い画分はこれ以上使用しない。そのようにして得られた40Mol%のMoO粉末を、インテンシブミキサ(Eirich)内で10分にわたって、57Mol%のMoO粉末(Molymet、ここでは約3μmのd50値)および3Mol%の五酸化タンタル粉末(H.C. Starck、約2μmのd50値;<63μmにふるい分け;Ta)と混合し、粉末成分間に均一な分布が生じるようにする。得られた粉末混合物を、φ250mm(すなわち、直径250mm)および高さ50mmの寸法を有するグラファイト型に入れ、真空下、プレス圧力30MPa、温度800℃および保持時間360分で、熱間プレスにおいて圧縮する。稠密化された構成要素の相対密度は99.5%である。得られたターゲット材料の大部分は、94.3体積%の比率の混合酸化物(Mo0.93Ta0.0714からのマトリックス相からなる。さらに、ターゲット材料は、2.6体積%の比率のMoO相、3.0体積%の比率のMo11相、および0.1体積%の比率のTa相を有する。
【0045】
図7には、そのようにして製造されたターゲット材料のラマンマッピングによって特定された微細構造が示されている。この微細構造において、上記の相比率に対応して、MoO相を有する領域、Mo11相を有する領域、およびTa相を有する領域が認識可能である。これらの異なる相は、(Mo0.93Ta0.0714相によって形成されるマトリックスに埋め込まれている。
【0046】
それとは対照的に、図8には、比較例として、混合酸化物(Mo0.93Ta0.0714からのマトリックス相を有しないターゲット材料のラマンマッピングが示されている。(Mo0.93Ta0.0714相は、24.0体積%の比率で存在する。Mo11相は、50.3体積%の比率を取り、MoO相は、12.5体積%の比率を取り、Mo1852相は、5.0体積%の比率を取り、Ta相は、2.4体積%の比率を取り、MoO相は、5.8体積%の比率を取る。さらに図8から分かるように、比較例のターゲット材料中の相は、図7の本発明によるターゲット材料と比較して、著しくより粗粒かつより不均等に分布している。
【0047】
実施例3:
MoO粉末(Plansee SE;約6μmのd50値)をメッシュサイズ63μmのふるいでふるい分けし、>63μmの粗い画分はこれ以上使用しない。そのようにして得られた52Mol%のMoO粉末を、すき刃ミキサ(Loedige)内で20分にわたって、42Mol%のMoO粉末(Molymet、ここでは約3μmのd50値)および6Mol%の五酸化タンタル粉末(H.C. Starck、約2μmのd50値;<63μmにふるい分け;Ta)と混合し、粉末成分間に均一な分布が生じるようにする。得られた粉末混合物を、φ250mm(すなわち、直径250mm)および高さ50mmの寸法を有するグラファイト型に入れ、真空下、プレス圧力30MPa、温度800℃および保持時間480分で、熱間プレスにおいて圧縮する。稠密化された構成要素の相対密度は97.5%である。得られたターゲット材料の大部分は、80.3体積%の比率の混合酸化物(Mo0.93Ta0.0714からのマトリックス相からなる。得られたターゲット材料は、18.9体積%の比率のMoO相、0.2体積%の比率のMo11相、および0.6体積%の比率のTa相を有する。
【0048】
実施例4:
MoO粉末(Plansee SE;約6μmのd50値)をメッシュサイズ63μmのふるいでふるい分けし、>63μmの粗い画分はこれ以上使用しない。そのようにして得られた45Mol%のMoO粉末を、すき刃ミキサ(Loedige)内で20分にわたって、51Mol%のMoO粉末(Molymet、ここでは約3μmのd50値)および4Mol%の五酸化ニオブ粉末(H.C. Starck、約2μmのd50値;<63μmにふるい分け;Nb)と混合し、粉末成分間に均一な分布が生じるようにする。得られた粉末混合物を、φ250mm(すなわち、直径250mm)および高さ50mmの寸法を有するグラファイト型に入れ、真空下、プレス圧力30MPa、温度800℃および保持時間360分で、熱間プレスにおいて圧縮する。得られたターゲット材料の大部分は、78.6体積%の比率の混合酸化物(Mo0.91Nb0.0914相からのマトリックス相からなる。稠密化された構成要素の相対密度は98.2%である。得られたターゲット材料は、18.7体積%の比率のMoO相、2.6体積%の比率のMo11相、および0.1体積%の比率のNb相を有する。
【0049】
実施例5:
MoO粉末(Plansee SE;約6μmのd50値)をメッシュサイズ63μmのふるいでふるい分けし、>63μmの粗い画分はこれ以上使用しない。そのようにして得られた39Mol%のMoO粉末を、ボールミル内で10分にわたって、52Mol%のMoO粉末(Molymet、ここでは約3μmのd50値)および8Mol%の二酸化チタン粉末(ルチル;<1μmのd50値;TiO)と粉砕し、続いて、インテンシブミキサ(Eirich)内で10分にわたって混合し、粉末成分間に均一な分布が生じるようにする。得られた粉末混合物を、φ100mmおよび高さ50mmの寸法を有するグラファイト型に入れ、真空下、プレス圧力30MPa、温度800℃および保持時間120分で、熱間プレスにおいて圧縮する。稠密化された構成要素の相対密度は91.2%である。得られたターゲット材料は、混合酸化物(Mo0.97Ti0.0314からのマトリックス相を有する。
【0050】
スパッタリング試験:
一連の試験の過程で、層の特性を特定するために、本発明によるものではないモリブデン-タンタル酸化物ターゲット材料(参照)と比較して、実施例1および実施例2によって製造されたモリブデン-タンタル酸化物ターゲット材料に、所定のプロセス条件下で非反応性スパッタリングを行った。参照として使用したモリブデン-タンタル酸化物ターゲット材料は、実施例1および2と同じ組成を有していたが、混合酸化物(Mo0.93Ta0.0714からのマトリックス相は存在していなかった。ここでは、100Wのスパッタリング出力と、5.0×10-3mbar(22sccm;sccm:1分当たりの標準立方センチメートル)のアルゴンのプロセス圧力とを使用した。使用したスパッタリングターゲットの堆積速度は図9に示されており、図9の左側のカラムは実施例1のターゲット材料に対応し、中央のカラムは実施例2のターゲット材料に対応し、右側のカラムは参照のターゲット材料に対応する。
【0051】
作製した層の反射率を評価の基準として使用した。反射率を決定するために、ガラス基板(Corning Eagle XG、50×50×0.7mm)を、モリブデン-タンタル酸化物と200nmのAl(アルミニウム)のカバー層とでコーティングした。この場合、本発明によるものではない上記のモリブデン-タンタル酸化物ターゲット材料(参照)と比較して、実施例1および実施例2によって製造された上記のモリブデン-タンタル酸化物ターゲット材料に、所与のプロセス条件下で非反応性スパッタリングを行った。反射は、Perkin Elmer Lambda 950分光光度計を使用して、指定した波長範囲にわたってガラス基板を通して測定した。できるだけ低い反射率を得るために、モリブデン-タンタル酸化物の層厚を40~60nmの範囲で変化させた。50nmのモリブデン-タンタル酸化物の層厚についてのこの一連の試験の結果は図10に示されており、ここではそれぞれ、(nm;ナノメートル)での波長に対する(%)での反射率がプロットされている。ここで、実施例1(点線の曲線)および実施例2(破線の曲線)の反射率曲線は、実施例1の反射率曲線が比較的高い波長の範囲でわずかに高くなっていることを除いて、ほぼ重なり合っている。これらの曲線は、実線で描かれている本発明によるものではない参照の反射率曲線よりも明らかに下にある。
【0052】
図9および10の比較から分かるように、実施例1および2によるターゲット材料の場合、観察した波長範囲にわたって、比較的低い反射率が達成され(図10を参照)、これは、同等の堆積速度で達成される(図9を参照)。さらに、本発明によるターゲット材料は、先に説明したさらなる利点を有する。特に、これらのターゲット材料は、それらの導電率および有利な相組成(マトリックス相;第2の相が微細に分布されている)を理由に、好ましいスパッタリング挙動(弧光(アーク)および粒子形成を回避しながらの均等なスパッタリング速度)を有し、それによって、層品質に有利な影響が与えられる(均一な層組成;均等な層厚)。
【0053】
試料の調製:
ターゲット材料に含有される相の体積比率およびターゲット材料の密度を決定するために、約10~15×10~15mmの面積を有する試料を乾式切断法(ダイヤモンドワイヤーソー、バンドソーなど)において裁断し、圧縮空気で洗浄し、続いて、温かくかつ伝導性で(Cドープして)フェノール樹脂に埋め込み、研削し、研磨することで、乾式調製によって、代表的な試料部品からの金属組織研削片を製造した。少なくともMoO相画分は水溶性であるため、乾式調製が重要である。続いて、そのようにして得られた研削片を光学顕微鏡法によって分析した。
【0054】
ラマン分光法による相比率の決定:
ターゲット材料に含有される相の空間分解能を決定するために、共焦点光学顕微鏡(Olympus BX41)をラマン分光計と組み合わせたラマン顕微鏡(Horiba LabRAM HR800)を使用した。ここで、分析すべき表面は、集束レーザービーム(He-Neレーザー、波長λ=632.81nm、総出力15mW)を用いて、1×1mmの面積で、5μmのステップ幅でポイントごとに走査した(検査すべき試料表面をモータ駆動式XYZテーブルに固定し、このテーブルを移動させた)。201×201の測定点のそれぞれの個々の測定点について、完全なラマンスペクトルを作成した(「ラマンマッピング」)。ラマンスペクトルは、光学格子(300ライン/mm、スペクトル分解能:2.6cm-1)を介して波長分散的に分割され、CCD検出器(1024×256ピクセルマルチチャネルCCD、スペクトル範囲:200~1050nm)を用いて記録された後方散乱放射線から得られる。ラマン分光計からのレーザービームの焦点を合わせる役割を果たす、倍率100倍および開口数NA0.9の顕微鏡対物レンズでは、0.7μmの理論上の測定点サイズが達成された。励起エネルギー密度(5mW/μm)は、試料における相変態を回避するために十分に低くなるように選択される。励起放射線の侵入深度は、酸化モリブデンの場合、数マイクロメートルに制限されている(純粋なMoOの場合は、例えば、約4μmである)。測定点ごとに、ラマン信号を1秒の取得時間にわたって時間的に平均化し、その際、十分に良好な信号対雑音比が得られた。これらのラマンスペクトルの自動評価(評価ソフトウェアHoriba LabSpec 6)によって、試料の表面組成の2次元表示が作成され、この2次元表示から、様々な相の領域サイズ、面積比率などが定量的に特定される。酸化モリブデン相を正確に同定するために、事前に合成された参照試料の参照スペクトルまたは比較的大きい均一な試料領域の参照スペクトルを記録し、その際、参照スペクトルが正確に1つの金属酸化物相に対応することに留意されたい。図1~6には、(Mo0.93Ta0.0714図1)、Ta図2)、Mo1852図3)、MoO図4)、MoO図5)、Mo11図6)の使用される参照スペクトルが示されている(個々のスペクトルにおいて、ラマンシフト(cm-1)に対する散乱光の強度(数)がプロットされている)。ここで、ラマンスペクトルの分析および帰属は、CLS法(古典最小二乗法)を用いる上記の評価ソフトウェアの「多変量解析モジュール」によって行う。そのために、試料スペクトルSは、個々の正規化された参照スペクトルRの線形結合として示され、cはそれぞれの重み係数であり、Δはオフセット値であり、S=Σc+Δである。続いて、金属酸化物相に対応する色が各測定点に割り当てられ、その際、色の割り当てには、最大の重み係数cを有する相のみがそれぞれ使用される。重み係数cの大きさ(量)によって、測定点の明るさが決定される。このアプローチが正当であるのは、1つの測定点のスペクトルが、通常、単一の金属酸化物相に明確に割り当てられるからである。
【0055】
使用した対物レンズでは、細孔で測定した場合であっても、201×201のすべての測定点から試料スペクトルが得られた。この場合、信号は、細孔の下のより深い領域から生じた。例えば細孔を理由に個々の測定点についてラマンスペクトルが得られない場合、このラマンスペクトルを面積比率の決定から除外してもよく、すなわち、ターゲット材料の細孔が占める体積は、総体積から除外されている。したがって、個々の酸化モリブデン相の体積データは、細孔体積を含まずに合計100%になる。
【0056】
ここで説明した分析方法は、ここで該当する相の相対相比率を決定するのに非常に良好に適している。
【0057】
相対密度の決定:
ターゲット材料の相対密度は、金属組織研削片の光学顕微鏡画像のデジタル画像分析によって決定され、この金属組織研削片において、細孔の相対面積比率「FA」が特定される。そのために、試料の調製後に、それぞれ1×1mmのサイズの3つの明視野画像を100倍の倍率で撮影し、その際、明らかなチッピングのゾーンまたは乾式調製を理由とする引っかき傷のような他の損傷パターンのゾーンをできる限り回避した。得られた画像を、IMAGIC画像データベースに実装されているデジタル画像処理ソフトウェアを用いて評価した。そのために、画像上にグレースケールの関数として細孔部分(暗部)をヒストグラムに基づいてマークした。間隔の下限は、0(=黒)に設定した。それとは対照的に、上限は、グレースケール強度ヒストグラムに基づいて主観的に評価する必要がある(255=白)。測定すべき画像領域は、スケールバーを除外するように設定した(ROI)。結果として、(パーセントでの)細孔の相対面積比率「FA」および選択したグレースケール間隔に対応して色付けされた画像が得られる(色付けとは、このピクセルが測定に含まれていたため、細孔としてカウントされたことを意味する)。相対密度に関する値(1-FA)は、3つのそのような多孔度測定の算術平均として決定した。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10