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特許7580399透析濾過プロセスを使用した効率的な不純物除去
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】透析濾過プロセスを使用した効率的な不純物除去
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20241101BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20241101BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20241101BHJP
【FI】
C12N7/02
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021568203
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 IB2020053775
(87)【国際公開番号】W WO2020229906
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】62/847,420
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】コ,ス-フェン
(72)【発明者】
【氏名】バティア,ラヴィンダー
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナス,ソウミャ モハナン
(72)【発明者】
【氏名】ヤノン,ヴァイシャリ
(72)【発明者】
【氏名】ランダゥ,ジェフリー エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ディーペンブローク,バス
(72)【発明者】
【氏名】アーケンス,グース ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ムーレンブローク,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】アラジ,フェラス ナシュミ
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/108707(WO,A1)
【文献】AIChE Journal,1998年,vol.44,no.9,1950-1961
【文献】Journal of Membrane Science,1997年,vol.133,39-55
【文献】ART.CELLS.BLOOD SUBS.,AND IMMOB. BIOTECH,1999年,27(5&6),447-453
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスベクター及び宿主細胞タンパク質(HCP)を含む溶液から前記ウイルスベクターを精製するための方法であって、
a)透析濾過緩衝液の連続的な添加とともに、限外濾過/透析濾過膜の表面積の1平方メートル当たり5~100リットルのバイオリアクター収集物の負荷量において且つ1.66~50Hzの周波数及び2%~25%の振幅を有する脈動流下でタンジェンシャルフロー濾過(TFF)様式を使用して、前記限外濾過/透析濾過膜を越えて前記溶液を循環させること;
b)前記限外濾過/透析濾過膜を通して前記溶液を濾過して、浸透液及び保持液を提供することであって、前記保持液の体積は、前記透析濾過緩衝液の連続的な添加によって一定に維持され、前記ウイルスベクターは、前記保持液中に保持され、及び前記HCPは、前記浸透液を介して濾過して取り出され、前記溶液からの前記HCPの減少は、1.5~4.3logである、提供すること;及び
c)前記保持液を回収することであって、それにより、精製されたウイルスベクター溶液が得られる、回収すること
を含む方法。
【請求項2】
ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記限外濾過/透析濾過膜は、100kDa~500kDaのNMWLを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記限外濾過/透析濾過膜は、300kDaのNMWLを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
濾過される前記溶液の流速は、250リットル/m2/時(LMH)~400LMHの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
濾過される前記溶液の前記流速は、360LMHである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記浸透液の流速は、濾過される前記溶液の前記流速の5%~15%である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液の前記濾過は、蠕動ポンプの使用下で実行される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオテクノロジー及び医学の分野並びに特に濾過による生物由来物質の精製に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質及びウイルスベクターなどの生物由来物質は、理想的には、低いレベルの化学的不純物を含有する。ウイルスベクターは、細胞培養物からの宿主細胞タンパク質(HCP)不純物残余の除去によって精製されなければならない。組換えウイルスベクターの領域において、例えば、医薬品グレードのウイルスの大規模製造及び精製に対する必要性がある。組換えアデノウイルスは、遺伝子治療における使用及びワクチン投与目的のためのよく知られるクラスのウイルスベクターである。
【0003】
細胞中でのウイルスの増殖後、患者又はワクチンにおける使用のためのウイルスを精製することが典型的には必要である。先行技術の精製方法としては、例えば、クロマトグラフィー及び濾過プロセスが挙げられる。例えば、特定の精製プロセスにおいて、限外濾過/透析濾過の工程を使用して、ウイルスを濃縮し、且つ/又はウイルスが保持される緩衝液を交換し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの先行技術の方法にもかかわらず、不純物の除去の向上を提供する、ウイルスベクターの精製のための効率的なプロセスの開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ウイルスベクター及びHCPなどの不純物を含む溶液からウイルスベクターを精製する方法が提供される。方法は、a)透析濾過緩衝液の連続的な添加とともに、限外濾過/透析濾過膜の表面積の1平方メートル当たり5~100リットルのバイオリアクター収集物の負荷量において且つ1.66~50Hzの周波数及び2%~25%の振幅を有する脈動流下でタンジェンシャルフロー濾過(TFF)様式を使用して、限外濾過/透析濾過膜を越えて溶液を循環させること;b)限外濾過/透析濾過膜を越えて溶液を濾過して、浸透液及び保持液を提供すること;及びc)保持液を回収することであって、それにより、精製されたウイルスベクター溶液が得られる、回収することを含む。保持液の体積は、透析濾過緩衝液の連続的な添加によって一定に維持される。ウイルスベクターは、保持液中に保持される。HCPは、浸透液を介して濾過して取り出され、及び溶液からのHCPの減少は、1.5log~4.3logである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態による限外濾過/透析濾過プロセスの概略図である。
図2】本発明の実施形態による限外濾過/透析濾過プロセスの一部について、クロスフローに関する変動流速プロファイルを示す。
図3】限外濾過/透析濾過プロセスの一部について、クロスフローに関する安定した流速プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ウイルスベクター及び不純物を含む溶液からウイルスベクターを精製するための方法が提供される。
【0008】
以下の議論は、本発明のウイルスベクターの精製への適用に焦点を当てるが、プロセスは、様々な生物学的材料に適用可能であり得ることが理解されるであろう。
【0009】
ウイルスは、細胞(「宿主細胞」と称される場合もある)中で増殖され得る。細胞を培養して、細胞数及びウイルス数並びに/又はウイルス力価を増加させる。細胞の培養は、目的のウイルスの代謝及び生成が可能になるように行われる。これは、当業者によく知られるような方法によって達成され得る。
【0010】
本発明とともに使用するのに好適なウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ベクター、腸内ウイルスベクター、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(Venezuelan Equine Encephalitis virus)ベクター、セムリキ森林ウイルス(Semliki Forest Virus)ベクター、タバコモザイクウイルス(Tobacco Mosaic Virus)ベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明の特定の実施形態では、ベクターは、アデノウイルスベクターである。本発明によるアデノウイルスは、アデノウイルス科(Adenoviridae)に属し、好ましくはマストアデノウイルス属(Mastadenovirus)に属するものである。それは、ヒトアデノウイルスであり得るが、ウシアデノウイルス(例えば、ウシアデノウイルス3、BAdV3)、イヌアデノウイルス(例えば、CAdV2)、ブタアデノウイルス(例えば、PAdV3若しくは5)又はサルアデノウイルス(チンパンジーアデノウイルス若しくはゴリラアデノウイルスなどのサルアデノウイルス及び類人猿アデノウイルスを含む)を含むが、これらに限定されない他の生物種に感染するアデノウイルスでもあり得る。好ましくは、アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス(HAdV若しくはAdHu)又はチンパンジー若しくはゴリラアデノウイルスなどのサルアデノウイルス(ChAd、AdCh若しくはSAdV)である。本発明において、ヒトアデノウイルスは、種の表示を伴わずにAdと称される場合を意味し、例えば、「Ad26」の簡潔な表示法は、ヒトアデノウイルス血清型26であるHadV26と同じ意味である。また、本明細書で使用する場合、「rAd」という表示法は、組換えアデノウイルスを意味し、例えば、「rAd26」は、組換えヒトアデノウイルス26を指す。
【0012】
特定の好ましい実施形態では、本発明による組換えアデノウイルスは、ヒトアデノウイルスに基づく。好ましい実施形態では、組換えアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス血清型5、11、26、34、35、48、49、50、52などに基づく。本発明の特定の好ましい実施形態によれば、アデノウイルスは、血清型26のヒトアデノウイルスである。
【0013】
当業者であれば、複数の血清型から誘導される要素が単一の組換えアデノウイルスベクターで組み合わされ得ることを認識するであろう。したがって、異なる血清型からの望ましい特性を組み合わせるキメラアデノウイルスを生成することができる。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のキメラアデノウイルスは、温度安定性、アセンブリ、アンカリング、生産収率、リダイレクト又は改良された感染、標的細胞でのDNAの安定性などの特徴を有する第1の血清型の既存の免疫の不存在を組み合わせることができる。
【0014】
特定の実施形態において、本発明で有用な組換えアデノウイルスベクターは、主に又は完全にAd26から誘導される(すなわち、ベクターは、rAd26である)。組換えアデノウイルスベクターの調製は、当技術分野においてよく知られている。rAd26ベクターの調製は、例えば、国際公開第2007/104792号パンフレット及びAbbink et al.,(2007)Virol 81(9):4654-63に記載されている。Ad26の例示的なゲノム配列は、GenBank受入番号EF 153474及び国際公開第2007/104792号パンフレットの配列番号1に見られる。本発明に有用なベクターの例としては、例えば、国際公開第2012/082918号パンフレットに記載のものが挙げられ、その開示が全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
しかしながら、本発明の方法は、アデノウイルスに限定されず、むしろ広範な他のウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、イリドウイルス、ヘルペスウイルス、パポーバウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、ロタウイルス、フラビウイルス)及びタンパク質などの他の生物製剤材料に適用可能であり得ることが理解されるであろう。
【0016】
生物由来物質は、通常、細胞培養物から残留する様々な混入物又は不純物を含む。「混入物」又は「不純物」は、製剤中の原体又は賦形剤ではない新規の製剤のいずれかの成分である。発明のプロセスは、宿主細胞タンパク質(HCP)の除去を対象とするが、他の不純物は、HCPの除去とともに除去されても又はされなくてもよい。そのような不純物の例としては、宿主細胞DNA(HC-DNA)、Triton X-100、トリス、リン酸ナトリウム(一塩基及び二塩基)、塩化マグネシウム(MgCl)、HEPES及びインスリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
より具体的には、ウイルス(生成物)は、細胞膜の化学的溶解後に培地中に放出され、続いて、溶解された収集材料中の不純物は、凝集される。これらの不純物の除去後、材料を清澄化して、クロマトグラフィー膜にロードする。得られた材料(ウイルスベクター)は、HCP又はHC-DNAなどの他の不純物も含む濃縮された生成物である。
【0018】
本発明によれば、ウイルスベクターは、その後、ウイルスベクターの精製のために、細胞培養物からのHCP残余などの不純物の除去のための限外濾過/透析濾過にかけられる。好ましい限外濾過/透析濾過プロセスは、タンジェンシャルフロー濾過である。
【0019】
図1を参照すると、本発明の実施形態に従う限外濾過/透析濾過プロセスの概略図が提供される。供給タンク10は、濾過される試料溶液、例えば目的のウイルスベクターを含有する溶液を含む。溶液は、供給チャネル又は供給ライン14を通して濾過ユニット12に入る。好ましくは、第1の機械式ポンプ16は、溶液流動を循環させ、且つ制御するための供給ライン14中に提供される。濾過ユニット12は、限外濾過/透析濾過膜18を含む。供給溶液が濾過ユニット12に供給されるにつれて、限外濾過/透析濾過膜18は、溶液を浸透液及び保持液に分ける。
【0020】
透析濾過緩衝液は、全体的な生成物(保持液)体積を維持するために、透析濾過ライン26を介して供給タンク10中の供給溶液に連続的に加えられる。第2のポンプ28は、透析濾過緩衝液の供給タンク10への供給を制御する透析濾過緩衝液ライン26中に提供され得る。精製されるウイルスに影響を及ぼさないであろう任意の既知の緩衝液が利用され得る。好ましくは、緩衝液は、およそ6.2のpHを有し、生成物/ウイルス粒子を安定化する小分子を含有する。好ましくは、7~11透析濾過体積(DFV)が透析濾過工程中に交換される。より好ましくは、10DFVが透析工程中に交換される。
【0021】
一実施形態では、1つ以上の検出器(示されない)は、限外濾過/透析濾過膜18にわたって圧力を測定するために供給ライン14中に提供され得る。
【0022】
限外濾過/透析濾過膜18にわたる圧力の差異により、供給溶液、より具体的には不純物が限外濾過/透析濾過膜18を通して流れ、その結果、不純物が浸透液中に含有される。より具体的には、ウイルスベクターを含有する供給溶液は、限外濾過/透析濾過膜18を越えて通過し、その結果、不純物が供給溶液から除去され、浸透液中に保持されるが、ウイルスベクターは、限外濾過/透析濾過膜18を通過することができず、それにより保持液中に保持される。
【0023】
限外濾過/透析濾過膜18の表面積は、精製される供給溶液の体積に応じて選択され得る。限外濾過/透析濾過膜18は、精製されている生物学的材料(例えば、ウイルスベクター)及びそれに含有される不純物に応じて異なる孔径を有し得る。好ましくは、限外濾過/透析濾過膜18は、保持液中にウイルスベクターを保持するために十分に小さいが、浸透液中の不純物を効率的に除去する(すなわち不純物が膜孔を通過することを可能にする)ために十分に大きい孔径を有する。アデノウイルスに関して、限外濾過/透析濾過プロセスは、100~1,000キロダルトン(kDa)の範囲、好ましくは300~500kDa、より好ましくは300kDaの範囲の公称分画分子量(NMWL)を有する膜18を利用する。そのため、HCP(およそ10~200kDaの分子質量)などの不純物は、限外濾過/透析濾過膜18を通過することができる(且つ浸透液中に含まれる)が、孔より大きいウイルス粒子は、保持液中において限外濾過/透析濾過膜18によって保持される。すなわち、保持液は、最終生成物(ウイルス)を含有する。
【0024】
限外濾過/透析濾過膜18は、例えば、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン又はその誘導体で構成され得る。限外濾過/透析濾過膜18は、任意の既知の型又は配置、例えば平らなシート若しくは板、渦巻型部材、円筒型部材又は中空繊維のものであり得る。本発明の一実施形態では、限外濾過/透析濾過膜18は、MilliporeSigmaによって製造されたPellicon(登録商標)2限外濾過カセットである。
【0025】
浸透液は、浸透液チャネル又は浸透液ライン20を通して濾過ユニット12に出て、浸透液回収タンク25に送られる。一実施形態では、図1に示されるとおり、第3の機械式ポンプ22は、浸透液ライン20を通る浸透液の流れを制御するために浸透液ライン20中に提供される。すなわち、ウイルスベクターからの不純物の分離は、供給溶液及び保持液を供給し、再循環させる第1のポンプ16と、膜孔を通る不純物(例えば、HCP)の通過及び浸透液の除去を促進する第3のポンプ22とによって補助される。
【0026】
目的のウイルスベクターを含む保持液は、供給タンク10に戻って再循環される保持液チャネル又は保持液ライン24に入る。第1のポンプ16は、供給溶液/保持液を、およそ250リットル/m/時(LMH)~およそ400LMH、より好ましくはおよそ360LMHの流束で限外濾過/透析濾過膜18に且つそれを越えて供給し、再循環させる。好ましくは、供給溶液/保持液は、一定の流速及び体積に維持される。供給溶液/保持液は、膜面積の1m当たり5~100Lのバイオリアクター収集物の負荷量、より好ましくは膜面積の1m当たり5~60Lバイオリアクター収集物、最も好ましくは膜面積の1m当たり5~45Lのバイオリアクター収集物の負荷量で限外濾過/透析濾過膜18に供給されることが好ましい。
【0027】
第3のポンプ22の動作及び浸透液の流速は、第1のポンプ16の動作及び供給溶液/保持液の流速に応じる(すなわち依存する)。好ましくは、浸透液の流速は、供給溶液/保持液の20%未満、より好ましくは5%~15%、最も好ましくはおよそ10%になるように設定される。したがって、供給溶液/保持液が250~400LMHの流速に維持される場合、浸透液は、好ましくは、25~40LMHの流速、最も好ましくは36LMH(すなわち供給溶液/保持液の360LMHの目標流速設定値の10%)の流速に第3のポンプ22によって維持される。
【0028】
一実施形態では、第1のポンプ16は、容積式ポンプであることが好ましい。一実施形態では、第1のポンプ16及び第3のポンプ22の両方が容積式ポンプである。利用され得る容積式ポンプの例としては、例えば、ロータリーローブポンプ、プログレッシブキャビティポンプ、ロータリーギヤポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクリューポンプ、ギヤポンプ、水力ポンプ、ロータリーベーンポンプ、蠕動ポンプ、ロープポンプ及び柔軟なインペラポンプが挙げられる。好ましい実施形態では、第1のポンプ16は、蠕動ポンプである。好ましくは、第3のポンプ22も蠕動ポンプである。
【0029】
好ましい実施形態では、限外濾過/透析濾過プロセスは、変動流速プロファイル下で実施され、ここで、変動流速プロファイルは、脈動流体作用をもたらす。好ましくは、第のポンプ16のみが変動流速プロファイル下で動作しているが、この系における他のポンプは、相対的に安定した(非変動)流速プロファイル下で動作しており、これは、流速プロファイルが、小さい振幅の周期的変動を呈する場合があるが、相対的に安定していることを意味する。しかしながら、第3のポンプ22などの他のポンプも変動流速プロファイル下で動作することも可能である。例えば、プロセスの好ましい変動流速プロファイルは、図3に示されるとおりのより平らな安定した流速プロファイルと比較して、図2において示される。
【0030】
図2に示されるとおりの流速変動によってもたらされる脈動流体作用により、図3のより平らな安定した流速プロファイルによって達成されるようなより安定した流体作用によって可能になるものよりも大量の不純物(例えば、HCP)が限外濾過/透析濾過膜18を通過して浸透液に入ることが可能になる。好ましくは、本発明の限外濾過/透析濾過プロセスにより、1.5logより多い不純物(例えば、HCP)の減少、より好ましくは1.5~4.3logの不純物の減少、最も好ましくは1.5~2.3logの不純物の減少がある。
【0031】
好ましい実施形態では、第1のポンプ16は、既定の周波数及び振幅の脈動流を達成するために動作されることが好ましい。より好ましくは、第1のポンプ16の脈動流は、1.66~50Hz、より好ましくは1.66~33Hz、さらにより好ましくは1.66~25Hzの周波数を有する。好ましくは、第1のポンプ16の脈動流は、2%~25%の対応する振幅を有する。
【0032】
特に、1.66~50Hzの周波数及び2%~25%の振幅を有する脈動流体作用の条件下で限外濾過/透析濾過プロセスを実行することにより、不純物(例えば、HCP)の1.5logより多い減少、より具体的には1.5~4.3logの減少が達成され得る。これは、従来のプロセスによって達成されるであろう減少より著しく大きい。
【0033】
一実施形態では、第1のポンプ16は、既定又は目標の体積の行程体積を達成するようにも動作されることが好ましい。より好ましくは、第1のポンプ16は、限外濾過/透析濾過膜18の表面積の1平方メートル当たりの1回転当たりで押し退けられる体積(ml/rev/m)に換算して表される既定又は目標の標準化された行程体積を達成するように動作される。本発明による一実施形態では、第1のポンプ16は、10~100mL/rev/mの範囲、好ましくは17~83mL/rev/mの範囲で標準化された行程体積を達成するように動作され、優れた不純物の排除をもたらす。
【0034】
本発明の実施形態による限外濾過/透析濾過方法は、以下の非限定的な例によって例示される。
【実施例
【0035】
発明実施例1~10:アデノウイルス26ウイルスベクターのアニオン交換(AEX)クロマトグラフィー溶出液を処理することとした。溶出液は、管理しやすい処理単位に分けられ、溶出液の各処理単位は、変動流速プロファイル(すなわち脈動流体作用)下の360LMHの一定の流速及び膜面積の1m当たり30~40Lのバイオリアクター収集物の負荷量で300kDa限外濾過/透析濾過膜18を越えて再循環された。浸透液流速は、36LMHに維持された。脈動流体作用の周波数は、1.66~50Hzの範囲であり、その振幅は、2%~25%の範囲であった。また、限外濾過/透析濾過膜の表面積の1平方メートル当たりで1回転当たり17~83ミリリットルの範囲の標準化された行程体積が維持された。限外濾過/透析濾過膜18による溶出液の濾過中、ウイルス粒子は、保持液中に保持されたが、HCP及び他の不純物は、浸透液を介して濾過して取り出された。濾過プロセス中、緩衝液を保持液に加えて、目標の全体的な生成物体積を維持した。限外濾過/透析濾過プロセスは、10DFVが交換された後に完了した。このプロセスは、異なる開始HCP濃度を有するAEX溶出液を使用して複数回実行された。
【0036】
比較実施例1~12:アデノウイルス26ウイルスベクターのアニオン交換(AEX)クロマトグラフィー溶出液は、安定した流速プロファイル下で300kDa限外濾過/透析濾過膜18を越えて再循環された。限外濾過/透析濾過膜18による溶出液の濾過中、ウイルス粒子は、保持液中に保持されたが、HCP及び他の不純物は、浸透液を介して濾過して取り出された。緩衝液を保持液に加えて、目標の全体的な生成物体積を維持した。限外濾過/透析濾過プロセスは、10DFVが交換された後に完了した。このプロセスは、異なる開始HCP濃度、異なる再循環流速、異なる浸透液流速及び異なる保持液圧を有するAEX溶出液を使用して複数回実行された。
【0037】
表1は、これらの様々な実験の結果を提供する。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に要約される比較実施例において、安定した流速プロファイルを維持しながら、再循環流速、浸透液流速及び保持液圧などの様々なプロセスパラメーターが変えられた。これらの他のプロセスパラメーターの変動があったとしても、HCPの効率的な除去(すなわちHCPにおける1.5logより多い減少及び0.2μg/mL未満の最終HCPレベル)を依然として達成できなかった。表1において示されるとおり、限外濾過/透析濾過プロセスが変動流速プロファイル下で実行されるときのみ、HCPにおける1.5logより多い減少(及びより具体的には1.5~4.3logの減少)が達成され得る。おそらく、脈動流体機構により、HCPが、ゲル層が非脈動流体作用下で全体的に未変化のままであるときより容易に膜孔を通過することを可能にするのに十分な程度まで、限外濾過/透析濾過膜18を覆うゲル層がかき乱される。
【0040】
さらなる実験は、発明実施例1~3の条件下で実行され、ここで、いくつかの実施例は、脈動流の周波数及び振幅の好ましい範囲内にあったが、他のものは、好ましい範囲の外であった。これらの結果は、表2において要約される。
【0041】
【表2】
【0042】
表2において要約される結果によって見られるとおり、脈動流の周波数及び振幅が好ましい範囲(すなわち1.66~50Hzの周波数及び2%~25%の振幅)に維持される場合、1.5~4.3logの不純物の減少がある。一方で、実施番号5~9など、周波数及び/又は振幅が好ましい範囲の外にある場合、不純物の減少は、著しく少なかった。
【0043】
本発明のプロセスによれば、限外濾過/透析濾過プロセス後にさらなる精製が必要とされない。しかしながら、生成物は、任意選択により、密度勾配遠心分離、クロマトグラフィーなど、当業者に一般的に知られる方法によってさらに精製され得ることが理解されるであろう。
【0044】
この広い発明概念から逸脱することなく、上記の実施形態に対する変更形態がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲内の変形形態を包含することが意図されていることが理解される。
本発明は以下の態様を含み得る。
[1]
ウイルスベクター及び宿主細胞タンパク質(HCP)を含む溶液から前記ウイルスベクターを精製するための方法であって、
a)透析濾過緩衝液の連続的な添加とともに、限外濾過/透析濾過膜の表面積の1平方メートル当たり5~100リットルのバイオリアクター収集物の負荷量において且つ1.66~50Hzの周波数及び2%~25%の振幅を有する脈動流下でタンジェンシャルフロー濾過(TFF)様式を使用して、前記限外濾過/透析濾過膜を越えて前記溶液を循環させること;
b)前記限外濾過/透析濾過膜を越えて前記溶液を濾過して、浸透液及び保持液を提供することであって、前記保持液の体積は、前記透析濾過緩衝液の連続的な添加によって一定に維持され、前記ウイルスベクターは、前記保持液中に保持され、及び前記HCPは、前記浸透液を介して濾過して取り出され、前記溶液からの前記HCPの減少は、1.5~4.3logである、提供すること;及び
c)前記保持液を回収することであって、それにより、精製されたウイルスベクター溶液が得られる、回収すること
を含む方法。
[2]
ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターである、[1]に記載の方法。
[3]
前記限外濾過/透析濾過膜は、約100kDa~約500kDaのNMWLを有する、[1]に記載の方法。
[4]
前記限外濾過/透析濾過膜は、約300kDaのNMWLを有する、[3]に記載の方法。
[5]
濾過される前記溶液の流速は、250リットル/m2/時(LMH)~400LMHの範囲である、[1]に記載の方法。
[6]
濾過される前記溶液の前記流速は、およそ360LMHである、[5]に記載の方法。
[7]
濾過される前記溶液の前記流速は、一定である、[5]に記載の方法。
[8]
前記浸透液の流速は、濾過される前記溶液の前記流速の5%~15%である、[5]に記載の方法。
[9]
前記溶液の前記濾過は、蠕動ポンプの使用下で実行される、[1]に記載の方法。
図1
図2
図3