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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】高周波回路
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20241101BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
H05K1/02 J
H05K1/02 C
H05K1/02 N
H05K1/02 P
H05K9/00 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022521914
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2021017770
(87)【国際公開番号】W WO2021230216
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020084546
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】上宮 崇文
(72)【発明者】
【氏名】山岸 傑
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 宏
(72)【発明者】
【氏名】木谷 聡志
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-029609(JP,A)
【文献】特開2018-200982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、
前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、
前記伝送路の周囲において、前記第1誘電体層及び前記第2誘電体層に設けられた電磁波シールドと、
を備え、
前記電磁波シールドは、
前記グランドパターンを貫通することなく前記第1誘電体層を貫通するよう形成された1以上の第1孔の内面に形成された第1グランド導電体と、
前記グランドパターンを貫通することなく前記第2誘電体層を貫通するよう形成された1以上の第2孔の内面に形成された第2グランド導電体と、を備え、
前記第1グランド導電体及び前記第2グランド導電体それぞれは、前記グランドパターンに電気的に接続されており、
前記第1孔及び前記第2孔は、平面視において、異なる位置に設けられている
高周波回路。
【請求項2】
前記1以上の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第1長孔を含む
請求項1に記載の高周波回路。
【請求項3】
前記1以上の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第2長孔を含む
請求項1又は請求項2に記載の高周波回路。
【請求項4】
前記1以上の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第1長孔を含み、
前記1以上の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第2長孔を含み、
前記第1長孔及び第2長孔それぞれは、
前記伝送路の幅方向一方側において前記伝送路の長手方向に沿って延びた第1孔部と、
前記伝送路の幅方向他方側において前記伝送路の長手方向に沿って延びた第2孔部と、
前記第1孔部と前記第2孔部とを接続する第3孔部と、を備える
請求項1に記載の高周波回路。
【請求項5】
前記第1孔及び前記第2孔それぞれは、前記回路層から離れるほど開口が大きくなる形状を有する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高周波回路。
【請求項6】
前記回路層との間に前記第1誘電体層が位置するように設けられた第1導電体層と、
前記回路層との間に前記第2誘電体層が位置するように設けられた第2導電体層と、を更に備え、
前記第1孔は、前記第1導電体層を貫通するよう形成され、
前記第2孔は、前記第2導電体層を貫通するよう形成されている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高周波回路。
【請求項7】
前記第1導電体層は、前記第1グランド導電体に電気的に接続され、
前記第2導電体層は、前記第2グランド導電体に電気的に接続されている
請求項6に記載の高周波回路。
【請求項8】
前記第1導電体層及び前記第2導電体層の少なくとも一方の表面に貼付されたカバーフィルムを更に備える
請求項6又は請求項7に記載の高周波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波回路に関する。
本出願は、2020年05月13日付の日本国出願の特願2020-084546に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、誘電体基板の表面グランド及び裏面グランドに電気的に接続された多数のシールドビアを備えた構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-274513号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のある側面は、高周波回路である。本開示の高周波回路は、第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、前記伝送路の周囲において、前記第1誘電体層及び前記第2誘電体層に設けられた電磁波シールドと、を備え、前記電磁波シールドは、前記グランドパターンを貫通することなく前記第1誘電体層を貫通するよう形成された1以上の第1孔の内面に形成された第1グランド導電体と、前記グランドパターンを貫通することなく前記第2誘電体層を貫通するよう形成された1以上の第2孔の内面に形成された第2グランド導電体と、を備え、前記第1グランド導電体及び前記第2グランド導電体それぞれは、前記グランドパターンに電気的に接続されている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施形態に係る高周波回路の平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、第1導電体層、回路層、及び第2導電体層の分解斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る高周波回路の製造工程の前半を示す図である。
図5図5は、実施形態に係る高周波回路の製造工程の後半を示す図である。
図6図6は、めっき欠損部を発見するためのめっき仕上がり検査の説明図である。
図7図7は、比較例に係る高周波回路の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
シールドビアは、誘電体基板の厚さ方向に貫通する平面視円形のスルーホールを誘電体基板に多数形成し、スルーホール内に銅などの導電体を設けることによって形成される。シールドビアは、誘電体基板における電磁波の漏洩を防止する電磁波シールドとして用いられる。
【0007】
図7は、信号伝送路101を有する高周波回路100において、信号伝送路101を囲むように多数のシールドビア102が形成された構造の例を示している。高周波の信号伝送路101からは、不要な電磁波が放射される。電磁波は、周辺の回路にとってノイズとなり、周辺の回路の特性を劣化させる。
【0008】
信号伝送路101の周辺に多数のシールドビア102が設けられていると、多数のシールドビア102が、電磁波シールドとして機能する。この電磁波シールドによって信号伝送路101から漏洩する電磁波を遮蔽することができる。
【0009】
シールドビア102を形成するには、高周波回路100に孔を形成する必要がある。孔が、高周波回路100を貫通していると、シールドビア102が存在する範囲の強度が低下する。この結果、孔の面積を大きくすると、シールドビア102によって囲まれた領域、即ち信号伝送路101が存在する領域と、シールドビア102の外側の領域と、が分離し易くなるおそれがある。
【0010】
したがって、電磁波の漏洩を防止しつつも、孔の形成による回路の強度低下を抑制することが望まれる。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、電磁波の漏洩を防止しつつも、孔の形成による回路の強度低下を抑制する。
【0012】
[1.本開示の実施形態の説明]
【0013】
(1)実施形態に係る高周波回路は、第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に設けられており、高周波信号の伝送路と前記伝送路の周囲に配置されたグランドパターンとを備える回路層と、前記第1誘電体層との間に前記回路層が位置するように設けられた第2誘電体層と、前記伝送路の周囲において、前記第1誘電体層及び前記第2誘電体層に設けられた電磁波シールドと、を備える。高周波回路が電磁波シールドを備えることで、伝送路の両側に存在する第1誘電体層及び第2誘電体層を伝わる電磁波の漏洩を防止できる。前記電磁波シールドは、前記グランドパターンを貫通することなく前記第1誘電体層を貫通するよう形成された1以上の第1孔の内面に形成された第1グランド導電体と、前記グランドパターンを貫通することなく前記第2誘電体層を貫通するよう形成された1以上の第2孔の内面に形成された第2グランド導電体と、を備え、前記第1グランド導電体及び前記第2グランド導電体それぞれは、前記グランドパターンに電気的に接続されている。第1誘電体層及び第2誘電体層を貫通する第1孔及び第2孔が、伝送路の周囲にあるグランドパターンを貫通していないことで、高周波回路の強度低下を抑えることができる。したがって、実施形態に係る電磁波シールドによれば、電磁波の漏洩を防止しつつも、孔の形成による高周波回路の強度低下を抑制することができる。
【0014】
(2)前記1以上の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第1長孔を含むことができる。長孔は面積が大きくなりやすいため、高周波回路の強度低下を招きやすい。しかし、第1孔は、グランドパターンを貫通していないため、高周波回路の強度低下を効果的に抑えることができる。
【0015】
(3)前記1以上の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第2長孔を含むことができる。長孔は面積が大きくなりやすいため、高周波回路の強度低下を招きやすい。しかし、第2孔は、グランドパターンを貫通していないため、高周波回路の強度低下を効果的に抑えることができる。
【0016】
(4)前記1以上の第1孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第1長孔を含み、前記1以上の第2孔は、前記伝送路を囲む向きに沿った長手寸法が幅寸法よりも大きい1以上の第2長孔を含むことができる。前記第1長孔及び第2長孔それぞれは、前記伝送路の幅方向一方側において前記伝送路の長手方向に沿って延びた第1孔部と、前記伝送路の幅方向他方側において前記伝送路の長手方向に沿って延びた第2孔部と、前記第1孔部と前記第2孔部とを接続する第3孔部と、を備えることができる。この場合、より少ない数の長孔で、伝送路を囲むことができる。
【0017】
(5)前記第1孔及び前記第2孔それぞれは、前記回路層から離れるほど開口が大きくなる形状を有することができる。この場合、第1孔内部及び第2孔内部に形成されるグランド導電体の仕上がり検査にとって好適な形状が得られる。つまり、仕上がり検査の際には、高周波回路の表裏それぞれから、上記の孔内部を、観察することができる。
【0018】
(6)前記回路層との間に前記第1誘電体層が位置するように設けられた第1導電体層と、前記回路層との間に前記第2誘電体層が位置するように設けられた第2導電体層と、を更に備え、前記第1孔は、前記第1導電体層を貫通するよう形成され、前記第2孔は、前記第2導電体層を貫通するよう形成されているのが好ましい。この場合、伝送路から放射された電磁波が、第1誘電体層を通って回路厚さ方向に放射されることが、第1導電体層によって防止される。また、伝送路から放射された電磁波が、第2誘電体層を通って回路厚さ方向に放射されることが、第2導電体層によって防止される。
【0019】
(7)前記第1導電体層は、前記第1グランド導電体に電気的に接続され、前記第2導電体層は、前記第2グランド導電体に電気的に接続されているのが好ましい。この場合、第1導電体層及び第2導電体層をグランド電位にすることが容易である。
【0020】
(8)前記第1導電体層及び前記第2導電体層の少なくとも一方の表面に貼付されたカバーフィルムを更に備えるのが好ましい。この場合、第1孔及び第2孔が長孔であっても、これら長孔が形成された高周波回路の強度をカバーフィルムによって確保できる。
【0021】
[2.本開示の実施形態の詳細]
【0022】
以下、図面において同一符号は同一名称物を意味する。
図1から図6は、実施形態に係る高周波回路10を示している。実施形態に係る高周波回路10は、高周波信号伝送に用いられるフレキシブルプリントサーキット(FPC)として構成されている。FPCは、薄く柔らかい絶縁体ベースフィルムに銅箔などの導体が貼り付けられた構造を持つ。なお、高周波回路10は、FPCに限られず、リジット基板に形成された回路であってもよい。
【0023】
図2に示すように、実施形態に係る高周波回路10は、第1誘電体層11と回路層21と第2誘電体層12と電磁波シールド50とを備える。更に、この高周波回路10は、第1導電体層31と第2導電体層32とを備える。実施形態に係る高周波回路10は、3層の導電体層を有する多層構造を持つ。なお、導電体層の数は、特に限定されず、2層、4層、5層、又はそれ以上であってもよい。図2において、3層の導電体層のうち中間に配置されている導電体層は、高周波の伝送路21Aを有する回路層21である。回路層21の厚さ方向の一方側である図2の下側には3層の導電体層のうちの一つである第1導電体層31が配置されている。回路層21の厚さ方向の他方側である図2の上側には3層の導電体層のうちの残り一つである第2導電体層32が配置されている。
【0024】
図3に示すように、回路層21は、伝送路21Aと、伝送路21Aの周囲に位置するグランドパターン21Bと、を有する。伝送路21Aとグランドパターン21Bとの間は、エッチングにより除去されており、伝送路21Aとグランドパターン21Bとは絶縁されている。なお、図3において、伝送路21Aは、直線状に形成されているが、屈曲形成されていてもよい。
【0025】
図2に示すように回路層21と第1導電体層31との間には第1誘電体層11が設けられている。すなわち、回路層21は、第1誘電体層11上に設けられている。換言すると、回路層21は、第1誘電体層11を介して、第1導電体層31よりも上に設けられている。なお、回路層21と第1誘電体層11とは接着剤60を介して接着されている。図3に示すように第1導電体層31は、後述の電磁波シールド50となる第1エッチング加工部31Cを除き、ほぼ全面がグランドパターン31Bによって構成されている。つまり、第1導電体層31は、グランド層である。
【0026】
接着剤60は、柔軟性や耐熱性に優れたものが好ましい。接着剤60は、例えば、変性ポリフェニレンエーテル系、スチレン樹脂系、エポキシ樹脂系、ブチラール樹脂系、アクリル樹脂系等、各種樹脂系の接着剤である。
【0027】
接着剤60の主成分は、熱硬化性樹脂が好ましい。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度の下限は、120℃が好ましく、150℃がより好ましい。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度の上限は、250℃が好ましく、230℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度が上記下限よりも大きいと、接着剤60の取り扱いが容易である。接着剤60の主成分とされる熱硬化性樹脂の硬化温度が上記上限よりも小さいと、接着剤60を硬化させる際に、接着剤60により接着される層の熱変形を抑制することができる。上記熱変形の抑制によって高周波回路10の寸法精度の低下を抑制することができる。
【0028】
接着剤60の比誘電率の下限は、小さいほど好ましいが、絶縁性、機械的強度等の他の条件を満たすために、現実的には1.5が限界と考えられる。接着剤60の比誘電率の上限は例えば3であり、2.8が好ましく、2.6がより好ましい。また、接着剤60の比誘電率が上記上限よりも小さいと、高周波回路10で高周波信号を伝送する場合に誘電損失を抑制することができる。
【0029】
図2に示すように回路層21と第2導電体層32との間には、第2誘電体層12が設けられている。すなわち、第2誘電体層12は、第1誘電体層11との間に回路層21が位置するように設けられている。図3に示すように第2導電体層32は、高周波信号の伝送路32Aと、電磁波シールド50となる第2エッチング加工部32Cと、を除き、ほぼ全面がグランドパターン32Bによって構成されている。つまり、第2導電体層32は、グランド層である。
【0030】
図2に示すように、回路層21の上下両側、即ち図2のZ方向両側には、グランド層として機能する第1導電体層31及び第2導電体層32が設けられている。したがって、伝送路21Aから放射される電磁波のうち、高周波回路10の厚さ方向両側、即ち図2のZ方向両側に放射される電磁波は、第1導電体層31及び第2導電体層32によって遮蔽される。
【0031】
伝送路21Aから放射される電磁波には、図2のXY平面に平行な方向に放射されるものものある。XY平面に平行な方向に放射される電磁波は、第1導電体層31及び第2導電体層32では遮蔽できず、第1誘電体層11及び第2誘電体層12を通って、高周波回路10外へ漏洩するおそれがある。そこで、実施形態の高周波回路10は、XY平面に平行な方向に放射される電磁波を遮蔽するための電磁波シールド50を備える。なお、XY平面は、高周波回路10の厚さ方向に垂直な平面である。Z方向は、高周波回路10の厚さ方向であり、上述の導電体層の多層構造における積層方向に相当する。
【0032】
実施形態に係る高周波回路10では、Z方向に放射される電磁波は第1導電体層31及び第2導電体層32によって遮蔽される。XY平面に平行な方向に放射される電磁波は電磁波シールド50によって遮蔽される。したがって、伝送路21Aから放射される電磁波が、高周波回路10外へ漏洩するのを効果的に防止できる。この結果、漏洩電磁波による、周辺の他の回路への影響を抑えることができる。
【0033】
電磁波シールド50は、伝送路21Aの周囲において、第1誘電体層11及び第2誘電体層12を通る電磁波を遮蔽するシールド壁として機能するよう構成されている。図1に示すように、電磁波シールド50は、平面視において、伝送路21Aを囲むように形成されている。
【0034】
図2に示すように電磁波シールド50は、第1誘電体層11,第2誘電体層12を貫通した孔の内面にグランド導電体を備えて構成されている。グランド導電体は、伝送路21Aを囲むように存在するため、第1誘電体層11,第2誘電体層12を通る電磁波を遮蔽できる。ここでのグランド導電体は後述する導電体53,54である。なお、図1の下側では、伝送路21Aが電磁波シールド50によって囲まれていない。これは、作図上、図1の下側において伝送路21Aの記載を省略したことに伴って、電磁波シールド50の記載も省略されているだけである。したがって、実際には、電磁波シールド50は、伝送路21Aを完全に囲むことができる。
【0035】
図7に示すように、従来のシールドビア102は、平面視円形であることが常識であった。このため、漏洩電磁波を遮蔽するには、信号伝送路101を囲むようにシールドビア102を、密に多数並べる必要があった。これに対して、図1に示すように実施形態においては、電磁波シールド50を、円形ではなく、伝送路21Aを囲む向きに沿って長細い形状にすることで、少ない数で、漏洩電磁波を効果的に遮蔽することができる。
【0036】
図4及び図5は、実施形態に係る高周波回路10の製造方法を示している。図4に示すステップS11において、基板の一例として、両面銅付きのフッ素樹脂基板が準備される。両面銅付きのフッ素樹脂基板は、第2誘電体層12を構成するフッ素樹脂基板と、回路層21を構成する銅と、第2導電体層32を構成する銅と、を備える。なお、基板の材料は、フッ素樹脂に限定されない。
【0037】
ステップS12において、伝送路21A及び伝送路32Aの位置に、回路層21、第2誘電体層12、及び第2導電体層32を貫通するスルーホール41が形成される。
【0038】
ステップS13において、スルーホール41の内部が、めっき加工によって、導電体によって埋められる。これによって、伝送路21Aと伝送路32Aとを電気的に接続するビア40が形成される。伝送路32Aは、例えば、伝送路21Aのための外部接続端子として機能する。なお、スルーホール41の内部表面がめっき加工によって被覆され、残った空間が合成樹脂によって埋められてもよい。
【0039】
ステップS14において、両面銅付きのフッ素樹脂基板の回路層21及び第2導電体層32に対してエッチング加工が施され、回路層21の伝送路21Aと、第2導電体層32の伝送路32Aと、が形成される。
【0040】
ステップS15において、回路層21側に、片面フッ素樹脂基板が貼り合わされる。片面フッ素樹脂基板は、第1誘電体層11を構成するフッ素樹脂基板と、第1導電体層31を構成する銅と、を備える。ステップS15では、第1誘電体層11と回路層21とが向かい合うように、接着剤60により貼り合わされる。接着剤60は、例えば、ボンディングシートである。ボンディングシートは、基板の層間の接着に用いられる。ボンディングシートは、絶縁性と接着性とを備える。
【0041】
ステップS15に続くステップS21において、図5に示すように第1導電体層31及び第2導電体層32における、電磁波シールド50が形成される箇所がエッチングにより除去される。以下では、第1導電体層31において電磁波シールド50が形成される箇所、即ちエッチングにより除去された部分を第1エッチング加工部31Cという。第2導電体層32において電磁波シールド50が形成される箇所、即ちエッチングにより除去された部分を第2エッチング加工部32Cという。
【0042】
図3に示すように、第1エッチング加工部31C及び第2エッチング加工部32Cは、伝送路21Aの周囲を囲むように形成される。第1エッチング加工部31Cにおいては第1誘電体層11が露出している。第2エッチング加工部32Cにおいては第2誘電体層12が露出している。
【0043】
ステップS22において、レーザ加工によって、電磁波シールド50用の第1孔51,第2孔52が第1誘電体層11,第2誘電体層12に形成される。レーザ加工は、基板両面側それぞれから行われる。すなわち、第1誘電体層11における第1孔51は、第1エッチング加工部31Cによって露出した第1誘電体層11へ、レーザを照射することで形成される。いわば第1孔51は第1導電体層31を貫通するよう形成される。第1誘電体層11へ照射されるレーザは、伝送路21Aの周囲を囲む第1エッチング加工部31Cに沿って走査される。この結果、第1誘電体層11には、伝送路21Aの周囲を囲む第1孔51が形成される。この第1孔51は、平面視において、伝送路21Aを囲むように長細い長孔である。したがって、実施形態では、単一の第1孔51によって、伝送路21Aの周囲を第1誘電体層11側において囲むことができる。
【0044】
レーザ加工は、レーザ走査によって長細い孔を容易に形成できるため、実施形態に係る第1孔51の形成に好適である。なお、第1誘電体層11に形成される第1孔51は、単一である必要はなく、複数に分かれていてもよい。
【0045】
第1孔51は、回路層21のグランドパターン21Bを貫通することなく、第1誘電体層11及び接着剤60の層を貫通するよう形成されている。また、レーザ加工により形成される第1孔51は、レーザ照射側である第1エッチング加工部31Cに近いほど、開口が大きく、回路層21に近づくほど開口が小さくなる。つまり、第1孔51は、第1孔51の深さ方向において、回路層21側である奥側へ向けて先細りとなる形状、即ちテーパ形状になっている。換言すると、第1孔51は、回路層21から離れるほど開口が大きくなる。レーザは、第1エッチング加工部31C側から照射されるため、第1エッチング加工部31Cに近い側の第1誘電体層11においてレーザのエネルギーが吸収される。第1エッチング加工部31Cから遠い側に届くエネルギーが小さくなる。これを利用することで、テーパ形状を有する第1孔51を形成できる。レーザ加工のためのレーザ出力は、グランドパターン21Bを貫通することなく、テーパ形状が形成されるよう、適切な大きさに調整される。
【0046】
第2誘電体層12における第2孔52は、第2エッチング加工部32Cによって露出した第2誘電体層12へ、レーザを照射することで形成される。いわば第2孔52は第2導電体層32を貫通するよう形成される。第2誘電体層12へ照射されるレーザは、伝送路21Aの周囲を囲む第2エッチング加工部32Cに沿って走査される。この結果、第2誘電体層12には、伝送路21Aの周囲を囲む第2孔52が形成される。この第2孔52は、平面視において、伝送路21Aを囲むように長細い長孔である。したがって、実施形態では、単一の第2孔52によって、伝送路21Aの周囲を第2誘電体層12側において囲むことができる。
【0047】
レーザ加工は、レーザ走査によって長細い孔を容易に形成できるため、実施形態に係る第2孔52の形成に好適である。なお、第2誘電体層12に形成される第2孔52は、単一である必要はなく、複数に分かれていてもよい。
【0048】
図1に示すように、第2孔52は、伝送路21Aの幅方向一方側において伝送路21Aの長手方向に沿って延びた第1孔部52Aと、伝送路21Aの幅方向他方側において伝送路21Aの長手方向に沿って延びた第2孔部52Bと、を備える。第1孔部52Aと第2孔部52Bとは伝送路21Aを挟む位置に設けられている。また、第2孔52は、第1孔部52Aと第2孔部52Bとを接続する第3孔部52Cを備える。第3孔部52Cは、第1孔部52Aと第2孔部52Bの長手方向一端側において、第1孔部52Aと第2孔部52Bとを接続し、全体として単一の第2孔52を構成する。なお、第1孔部52Aと第2孔部52Bの長手方向他端側において第1孔部52Aと第2孔部52Bとを接続する孔部が存在していてもよい。伝送路21Aの幅方向は図1のX方向である。上記幅方向一方側は図1では左側である。上記幅方向他方側は図1では右側である。伝送路21Aの長手方向は、図1のY方向である。図1は第3孔部52Cの平面形状が湾曲状である場合を例示するが、直線的な形状でもよい。
【0049】
第2孔52は、伝送路21Aを囲む向きに沿った長手寸法Lと、長手寸法Lの方向に対して直交する方向の幅寸法Wと、を有する。第2孔52は、長手寸法Lが幅寸法Wよりも大きい。長手寸法Lは、幅寸法Wの5倍よりも大きいのが好ましい。長手寸法Lは、幅寸法Wの10倍よりも大きいのがより好ましく、幅寸法Wの15倍よりも大きいのが更に好ましく、幅寸法Wの20倍よりも大きいのが更に好ましい。
【0050】
実施形態において、第1孔51は、平面視において、第2孔52と同形状である。第1孔51は、第2孔52と同様に、伝送路21Aの幅方向一方側において伝送路21Aの長手方向に沿って延びた第1孔部と、伝送路21Aの幅方向他方側において伝送路21Aの長手方向に沿って延びた第2孔部と、を備える。また、第1孔51は、第1孔部と第2孔部とを接続する第3孔部を備える。第2孔52と同様に、第1孔部と第2孔部と第3孔部とで単一の第1孔51が構成される。
【0051】
第1孔51は、第2孔52と同様に、伝送路21Aを囲む向きに沿った長手寸法Lと、長手寸法Lの方向に対して直交する方向の幅寸法Wと、を有する。第1孔51は、長手寸法Lが幅寸法Wよりも大きい。長手寸法Lは、幅寸法Wの5倍よりも大きいのが好ましい。長手寸法Lは、幅寸法Wの10倍よりも大きいのがより好ましく、幅寸法Wの15倍よりも大きいのが更に好ましく、幅寸法Wの15倍よりも大きいのが更に好ましい。
【0052】
第2孔52は、回路層21のグランドパターン21Bを貫通することなく、第2誘電体層12を貫通するよう形成されている。また、レーザ加工により形成される第2孔52は、レーザ照射側である第2エッチング加工部32Cに近いほど、開口が大きく、回路層21に近づくほど開口が小さくなる。つまり、第2孔52は、第2孔52の深さ方向において、回路層21側である奥側へ向けて先細りとなる形状、即ちテーパ形状になっている。換言すると、第2孔52は、回路層21から離れるほど開口が大きくなる。
【0053】
第1孔51及び第2孔52は、高周波回路10の平面視において、同じ位置に設けられている。そのため、仮に、第1孔51及び第2孔52が、グランドパターン21Bを貫通するように形成されている場合、第1孔51及び第2孔52は連通し、単一の孔になる。この場合、高周波回路10において、第1孔51及び第2孔52によって囲まれた範囲内の部分、即ち伝送路21Aが存在する部分と、第1孔51及び第2孔52によって囲まれた範囲外の部分とが、切り離されることになる。なお、以下の説明では、第1孔51,第2孔52をまとめて孔51,52と示すことがある。
【0054】
実施形態では、第1誘電体層11側の第1孔51と第2誘電体層12側の第2孔52とが、グランドパターン21Bによって区切られている。そのため、両孔51,52は非連通である。つまり、実施形態の高周波回路10では、孔51,52は第1誘電体層11、第2誘電体層12を貫通しつつも、高周波回路10の厚さ方向、即ちZ方向においては部分的に繋がった部分が存在し、完全に貫通する孔は形成されない。したがって、伝送路21Aを囲む孔51,52を形成しても、伝送路21Aが存在する部分が切り離されるのを防止できる。
【0055】
なお、実施形態では、第1孔51及び第2孔52は、高周波回路10の平面視において、同じ位置に設けられているが、第1孔51及び第2孔52は、高周波回路10の平面視において、異なる位置に設けてもよい。例えば、第2孔52は、伝送路21Aを囲む第1孔51の内周側又は外周側において、伝送路21Aを囲むように形成されてもよい。この場合、第1孔51が形成された部分には、回路層21のグランドパターン21B及び第2誘電体層12が存在する。第2孔52が形成された部分には、回路層21のグランドパターン21B及び第1誘電体層11が存在する。この結果、第1孔51又は第2孔52が形成された部分において、高周波回路10の厚さが局所的に小さくなるのを防止できる。また、この場合、第1孔51の平面形状と第2孔52の平面形状とが同じでもよいし異なってもよい。第1孔51の長手寸法Lと第2孔52の長手寸法Lとが同じでもよいし異なってもよい。第1孔51の幅寸法Wと第2孔52の幅寸法Wとが同じでもよいし異なってもよい。
【0056】
孔51,52形成のためのレーザ加工には、フッ素樹脂などの合成樹脂などの誘電体の孔あけ加工に適しているが、導電体である金属、即ち反射率の高い材料の孔あけ加工には適していないレーザを用いるのが好適である。そのようなレーザは、例えば、炭酸ガス(CO)レーザである。炭酸ガスレーザは、銅などの反射率の高い材料に照射されても、レーザが反射し、加工を施すのが困難である。したがって、炭酸ガスレーザを用いると、第1誘電体層11を貫通する第1孔51又は第2誘電体層12を貫通する第2孔52を形成しつつも、銅からなるグランドパターン21Bの貫通を回避するのが容易である。
【0057】
実施形態においては、炭酸ガスレーザによるレーザ加工に適さない銅からなる第1導電体層31及び第2導電体層32に、第1エッチング加工部31C及び第2エッチング加工部32Cがレーザ加工の前に形成されている。そのため、第1誘電体層11及び第2誘電体層12のレーザ加工が可能になっている。
【0058】
なお、仮に、金属の加工にも適したレーザを孔51,52の形成に用いる場合、グランドパターン21Bを貫通しないように、レーザ出力又はレーザ出力時間を適切に調整することが望まれる。
【0059】
ステップS23において、めっき加工により、孔51,52及び第1エッチング加工部31C,第2エッチング加工部32Cの内面に導電体53,54が形成される。図2は導電体53が第1孔51の内面全体に接して設けられており、導電体53が第1孔51の内周形状に対応した外周形状を有する筒状の部分を備える場合を示す。同様に導電体54も第2孔52の内面全体に接して設けられており、導電体54が第2孔52の内周形状に対応した外周形状を有する筒状の部分を備える。導電体53,54は、孔51,52及び第1エッチング加工部31C,第2エッチング加工部32Cの内面の表面だけに形成されていてもよいし、孔51,52及び第1エッチング加工部31C,第2エッチング加工部32Cの内側を完全に充填するように形成されていてもよい。導電体53,54の内側は、合成樹脂などの誘電体によって埋められても良いし、導電ペーストなどの導電体で埋められてもよい。
【0060】
導電体53は、回路層21のグランドパターン21Bと第1導電体層31のグランドパターン31Bとを電気的に接続する。したがって、導電体53は、グランドパターン21B,31Bと同電位になるため、第1グランド導電体をなすグランド導電体となる。グランド導電体である導電体53は、伝送路21Aの周囲を囲む第1孔51内に設けられるため、伝送路21Aの周囲を囲む電磁波シールド50として機能する。グランド導電体である導電体53によって、第1誘電体層11を通って放射される電磁波を遮蔽することができる。
【0061】
導電体54は、回路層21のグランドパターン21Bと第2導電体層32のグランドパターン32Bとを電気的に接続する。したがって、導電体54は、グランドパターン21B,32Bと同電位になるため、第2グランド導電体をなすグランド導電体となる。グランド導電体である導電体54は、伝送路21Aの周囲を囲む第2孔52内に設けられるため、伝送路21Aの周囲を囲む電磁波シールド50として機能する。グランド導電体である導電体54によって、第2誘電体層12を通って放射される電磁波を遮蔽することができる。
【0062】
前述のように導電体53,54が形成される孔51,52は、テーパ形状である。そのため、導電体53,54を形成するめっきプロセスの際に生じるめっき不良を、発見するのが容易である。導電体53,54は、グランドパターン21Bに接するように形成される必要がある。しかし、微細な孔51,52内部にめっき液が十分に入り込めず、孔51,52の奥側において導電体53,54の欠損部であるめっき欠損部90が発生することがある(図6参照)。
【0063】
めっき仕上がり検査においては、顕微鏡等を用いて、孔51,52を観察して、めっき欠損部90の発生の有無を確認することが望まれる。仮に、孔51,52がテーパ形状ではなく、ストレート形状であると、孔51,52の奥側にめっき欠損部90が存在していても、孔51,52の手前側の導電体53,54によって、奥側のめっき欠損部90が隠されて、めっき欠損部90を発見するのは困難である。これに対して、図6に示すように、孔51,52がテーパ形状である場合、孔51,52の手前側からの観察によって、孔51,52の奥側にめっき欠損部90が存在していれば、そのめっき欠損部90を発見することができる。
【0064】
ステップS24において、第1導電体層31及び第2導電体層32それぞれの表面に、接着剤81,82を介して、カバーフィルム71,72が貼り付けられる。カバーフィルム71,72は、例えばポリイミド製であり、第1導電体層31及び第2導電体層32を保護する。カバーフィルム71,72の貼り付けによって、孔51,52が形成された高周波回路10の強度を確保することができる。
【0065】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
10 :高周波回路
11 :第1誘電体層
12 :第2誘電体層
21 :回路層
21A :伝送路
21B :グランドパターン
31 :第1導電体層
31B :グランドパターン
31C :第1エッチング加工部
32 :第2導電体層
32A :伝送路
32B :グランドパターン
32C :第2エッチング加工部
40 :ビア
41 :スルーホール
50 :電磁波シールド
51 :第1孔
52 :第2孔
52A :第1孔部
52B :第2孔部
52C :第3孔部
53 :導電体、第1グランド導電体
54 :導電体、第2グランド導電体
60 :接着剤
71 :カバーフィルム
72 :カバーフィルム
81 :接着剤
82 :接着剤
90 :めっき欠損部
100 :高周波回路
101 :信号伝送路
102 :シールドビア
L :長手寸法
W :幅寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7