(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】測定装置及びガラス応答膜の交換時期判断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241101BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20241101BHJP
G01N 27/36 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
G01N27/416 353Z
G01N27/26 391Z
G01N27/36 B
(21)【出願番号】P 2022527559
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2021015006
(87)【国際公開番号】W WO2021241031
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020094501
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】木下 隆将
(72)【発明者】
【氏名】伊東 裕一
(72)【発明者】
【氏名】西尾 友志
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-205345(JP,A)
【文献】特開昭59-162147(JP,A)
【文献】特開2003-201145(JP,A)
【文献】国際公開第2008/029895(WO,A1)
【文献】特開昭62-261950(JP,A)
【文献】特開2012-247251(JP,A)
【文献】特開平04-132948(JP,A)
【文献】特開2001-235443(JP,A)
【文献】特表2010-513892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/26
G01N 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ酸を含有する液体試料の水素イオン濃度を測定する測定装置であって、
ガラス応答膜を備え、前記液体試料中の水素イオン濃度を測定するガラス電極と、
前記ガラス応答膜の膜抵抗値を測定する膜抵抗測定部と、
前記ガラス応答膜が配置されている環境の温度を測定する温度測定部と、
前記膜抵抗値及び前記温度に基づいて前記ガラス応答膜を交換するための交換指標を出力する出力部を有
し、
前記膜抵抗値及び前記温度に基づいて前記ガラス応答膜の交換時期を判断する判断部をさらに備え、
前記判断部が、前記ガラス応答膜の交換時期を判断する際に、前記ガラス応答膜の組成と前記膜抵抗値との相関関係をさらに用いることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記判断部が、前記温度に基づいて、前記膜抵抗値を所定温度での膜抵抗値に換算し、この換算値に基づいて、前記ガラス応答膜の交換時期を判断することを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記膜抵抗値と、前記温度測定部で測定された温度との相関関係を記憶している記憶部をさらに備えていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記記憶部が、前記ガラス応答膜の組成と前記膜抵抗値との相関関係をさらに記憶していることを特徴とする請求項
3記載の測定装置。
【請求項5】
前記換算値が、予め設定された閾値以下になった場合に、警告を出すことを特徴とする請求項
2記載の測定装置。
【請求項6】
前記ガラス応答膜が、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタルから選ばれる一種類以上の元素を含有するものであることを特徴とする請求項1乃至
5の何れか一項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記判断部が、前記膜抵抗値、前記温度及び前記ガラス応答膜の組成と前記膜抵抗値との相関関係に加えて、さらに前記ガラス応答膜の色度又は色に基づいて前記ガラス応答膜の交換時期を判断することを特徴とする請求項1乃至
6の何れか一項に記載の測定装置。
【請求項8】
フッ酸を含有する液体試料の水素イオン濃度を測定するガラス電極のガラス応答膜を交換する時期を判断する方法であって、
前記ガラス応答膜の膜抵抗値を測定し、
前記ガラス応答膜が配置されている環境の温度を測定し、
前記膜抵抗値と前記温度とに基づいて前記ガラス応答膜の交換時期を判断する際に、
さらに
前記ガラス応答膜の組成と前記膜抵抗値との相関関係を用いることを特徴とするガラス応答膜交換時期判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置及びガラス応答膜の交換時期判断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体工場からの排水等にフッ酸が含まれている場合には、排水等を環境中に排出する前にフッ酸を中和する必要がある。そのため、このような液体が流れる流路にはpH計を配置して排水のpHを常時監視している。
pH計としては、一般的にガラス応答膜を使用したガラス電極が使用される。ガラス応答膜はフッ酸により溶解されることにより徐々に薄くなり、最終的には溶けきる(穴が開く)。
【0003】
ガラス応答膜は溶けて薄くなったとしても、穴が開いて内部液と測定対象である液体試料とが接する状態になるまで問題なく測定に使用できるので、ガラス応答膜に穴が開いて測定不能になるまでガラス応答膜の交換が必要であることに気付けないという問題がある。
また、排水などに含まれるフッ酸の濃度は同じ場所でも一定ではないので、ガラスの厚みなどから一律にガラス応答膜の寿命を推定して、ガラス応答膜を交換することも難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような問題に鑑みてなされたものであり、フッ酸を含む試料を測定するガラス応答膜の交換時期を判断することを課題とするものである。
本発明者らは、ガラス応答膜の厚みとガラス応答膜の抵抗値との間には、厚みが大きいと抵抗値が大きいという関係が成り立つことに注目し、ガラス応答膜の膜抵抗値に基づいてガラス応答膜の交換時期を判断することを考えた。
また、ガラス応答膜の抵抗値は、ガラス応答膜が置かれている環境の温度によって変化してしまうことを考慮して、ガラス応答膜が置かれている環境の温度をガラス応答膜の交換時期の判断に利用することを考えた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る測定装置は、フッ酸を含有する液体試料の水素イオン濃度を測定する測定装置であって、ガラス応答膜を備え、前記液体試料中の水素イオン濃度を測定するガラス電極と、前記ガラス応答膜の膜抵抗値を測定する膜抵抗測定部と、前記ガラス応答膜が配置されている環境の温度を測定する温度測定部と、前記膜抵抗値及び前記温度に基づいて前記ガラス応答膜を交換するための交換指標を出力する出力部と、を備えることを特徴とするものである。
【0007】
このような測定装置によれば、ガラス応答膜が置かれている環境のフッ酸濃度や温度が一定でない場合であっても、ガラス応答膜の交換時期を判断することができる。
その結果、フッ酸が含まれている液体試料の水素イオン濃度を連続測定する場合であっても、ガラス応答膜の使用期間を短めに見積もって頻繁にガラス応答膜を交換することによる手間やコストを省くことができる。また、突然測定が異常となるリスクを低減できる。
【0008】
ガラス応答膜の交換時期をユーザが判断する手間を省くためには、前記膜抵抗値及び前記温度に基づいて前記ガラス応答膜の交換時期を判断する判断部をさらに備えることが好ましい。
【0009】
本発明の具体的な実施態様としては、例えば、前記温度に基づいて、前記膜抵抗値を所定温度での膜抵抗値に換算し、この換算値に基づいて、前記ガラス応答膜の交換時期を判断するものを挙げることができる。
【0010】
前記測定装置が、前記膜抵抗値と、前記温度測定部で測定された温度との相関関係を記憶している記憶部をさらに備えていることが好ましい。
【0011】
前記記憶部が、前記ガラス応答膜の組成と前記膜抵抗値との相関関係をさらに記憶しているものとしても良い。
【0012】
ユーザがガラス応答膜の交換時期に気付きやすくするためには、前記換算値が予め設定された閾値以下になった場合に、警告を出すようにすることが好ましい。
【0013】
ガラス応答膜の交換頻度をより抑えるためには、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の元素を含むこととする等、前記ガラス応答膜をフッ酸に溶けにくい組成にしておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フッ酸を含む液体試料を測定するガラス応答膜の交換時期を判断することができるので、フッ酸を含む液体試料のpHを常時監視する必要がある場合等において、ガラス応答膜の交換頻度を従来よりも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置全体を示す模式図。
【
図2】本実施形態に係るガラス応答膜及びその周辺部を示す模式図。
【
図3】ガラス応答膜の膜抵抗値(実測値)の変化を示すグラフ。
【
図4】ガラス応答膜の膜抵抗値と温度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0016】
1 ・・・測定装置
2 ・・・ガラス電極
21・・・ガラス応答膜
3 ・・・比較電極
6 ・・・膜抵抗測定部
7 ・・・温度測定部
8 ・・・判断部
9 ・・・記憶部
S ・・・液体試料
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態に係る測定装置1は、例えば、
図1に示すように、フッ酸が含まれる可能性がある半導体工場等からの排水流路に配置されて、フッ酸が適切に中和されているかどうかを排水中の水素イオン濃度を連続測定することによって監視するものである。
【0018】
具体的に、測定装置1は、ガラス応答膜を備えたガラス電極2と、このガラス電極2とともに使用される比較電極3と、これらガラス電極及び比較電極から出力される電位差を測定することによってイオン濃度を算出する算出部4と、算出部4によって算出されたイオン濃度を表示する表示部5等を備えている。なお、算出部4は、例えば、CPU、メモリ、入出力インターフェイス、AD変換器などを有するコンピュータを用いて構成されている。
【0019】
ガラス電極2及び比較電極3は、前述した排水流路P内等を流れる液体試料Sに浸漬するように配置されている。本実施形態では、
図1及び2に示すように、ガラス電極2と比較電極3が一体に形成された複合電極を使用している。
【0020】
ガラス電極2は、例えば、内部液と、内部液を収容する筐体と、内部液に浸漬するように設けられた内部極と、内部液と液体試料との間に配置されたガラス応答膜21とを備えている。本実施形態では、
図2に示すように、筐体に対して着脱可能な別部材に取り付けたガラス応答膜21を、この部材ごと、例えば、筐体に形成されたねじ穴にねじ込んで固定するチップ交換式のガラス応答膜21を使用している。
【0021】
比較電極3は、例えば、内部液と、内部液を収容する筐体と、内部液に浸漬するように設けられた内部極と、内部液と液体試料とを電気的に接続する液絡部31とを備えている。なお、液絡部31は、例えば、前記筐体に形成された貫通孔の内部に配置されたセラミック板等によって構成されている。本実施形態では、この液絡部31についても、筐体に対して着脱可能な別部材に取り付けられた液絡部31を、この部材ごと、例えば、筐体に形成されたねじ穴にねじ込んで固定するチップ交換式の液絡部31を使用している。
【0022】
そして、本実施形態に係る測定装置1は、ガラス応答膜21の膜抵抗値を測定する膜抵抗測定部6と、ガラス応答膜21が配置されている環境の温度を測定する温度測定部7と、これら膜抵抗測定部6で測定された膜抵抗値及び温度測定部7で測定された温度に基づいてガラス応答膜の交換時期を判断する判断部8とをさらに備えている。
【0023】
膜抵抗測定部6は、ガラス応答膜21の電気抵抗を測定する絶縁抵抗計61と膜抵抗算出部とを備えている。絶縁抵抗計61は、例えば、ガラス電極2と同じく液体試料Sに浸漬される白金線等の導電性材料を備えるものである。
膜抵抗算出部は、前述した導電性材料に電流を流した場合に、ガラス応答膜を介して導電性材料とガラス電極の内部極との間の電圧を検出する電圧計とを備え、この電圧計によって検知された電圧値に基づいて、ガラス応答膜の抵抗値を算出する。もしくは、導電性材料に電圧を印加した場合に、ガラス応答膜を介して導電性材料とガラス電極の内部極との間に流れる電流を検出する電流計とを備え、この電流計によって検知された電流値に基づいて、ガラス応答膜の抵抗値を算出する。
なお、本実施形態では算出部4が、膜抵抗算出部としての機能を兼ねている。
【0024】
温度測定部7は、温度センサ71と温度算出部とを備えている。この温度センサ71は、本実施形態では、ガラス電極2のガラス応答膜21の近傍に設けられて、ガラス応答膜21近傍の液体試料Sの温度を測定するものである。なお、本実施形態では算出部4が、温度算出部としての機能を兼ねるようにしてある。
【0025】
ガラス応答膜21の厚みが小さくなると、ガラス応答膜21の膜抵抗値は小さくなる。判断部8は、この関係性を利用して、膜抵抗測定部6によって測定されたガラス応答膜21の膜抵抗値が、予め設定された閾値よりも小さくなった場合に、ガラス応答膜21の交換時期であると判断するように構成されている。
【0026】
閾値は、例えば、過去の測定データを参考にして、ガラス応答膜21の組成に応じて予め設定されているものであり、例えば、過去の測定データからガラス応答膜21が溶けて穴が開く24時間前の平均膜抵抗値を使用するようにしても良い。測定装置1が閾値を記憶する記憶部9をさらに備えているものとしても良い。
【0027】
この記憶部9には、閾値の他に、例えば、膜抵抗値と温度との相関関係を示す式やテーブルなどが記憶されていても良い。
【0028】
また、ガラス応答膜21の溶解の度合いに影響を与える他の要素としては、例えば、ガラス応答膜21の組成を挙げることができる。具体的には、例えば、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタルから選ばれる1種類以上の元素を含有するガラス応答膜21とすることによって、これらの元素を含有しないガラス応答膜21に比べてフッ酸による溶解の度合い(溶解速度)を小さく抑えることが可能である。
これらの元素を添加することによるフッ酸耐性の向上メカニズムとしては、以下のようなものが考えられる。
スカンジウム又はイットリウム等の三価の希土類元素は、ガラス応答膜のガラスの網目状のネットワークを引き締めるために添加されているランタン(La)等のランタノイドよりも電気陰性度が高い。そのため、ガラス応答膜に含有されているランタノイドの一部をスカンジウム又はイットリウム等の三価の希土類元素に置き換えることによって、ガラスのネットワークをより引き締めて強化することができる。その結果、ガラス応答膜のフッ酸耐性が向上するものと考えられる。
チタン、ジルコニウム又はハフニウム等の4価の元素は、ガラスのネットワークを形成するケイ素等の主要元素に比べてイオン半径が大きい。そのため、これら元素は、ケイ素等よりも酸素の配位数が大きく、酸素との結合力が高い。このような理由から、これらの元素を添加することによって、ガラスのネットワークが強化され、ガラス応答膜のフッ酸耐性が向上すると考えられる。
タンタル又はニオブ等の5価の元素は、ガラスのネットワークを形成する主要元素であるケイ素(結合数4)に比べて結合数が多い(結合数5である)。そのため、これらの元素を添加することによってガラスのネットワークが架橋されて強化され、その結果、ガラス応答膜のフッ酸耐性の向上に寄与すると考えられる。
【0029】
このように、ガラス応答膜21の組成によっては、フッ酸による溶解速度が異なることが考えられる。そこで、ガラス応答膜21の組成と膜抵抗値との相関関係を表す式やテーブルなどを記憶部9が記憶していても良い。
【0030】
膜抵抗値が閾値と同じ値又は閾値よりも小さい値になった場合には、ガラス応答膜21の厚みが小さくなり、例えば、24時間以内にガラス応答膜21に穴が開いてしまうと予測することができる。そこで、本実施形態に係る測定装置1は、膜抵抗値が閾値と同じ値又は閾値よりも小さい値になったと判断部8が判断した場合に警告を出力する出力部をさらに備えている。該出力部は、表示部5がその機能を兼ねるようにしても良い。
【0031】
このように構成した測定装置1によって、ガラス応答膜21の交換時期を判断する手順及び方法は以下の通りである。
膜抵抗測定部6によって、ガラス応答膜21の膜抵抗値を測定する。膜抵抗測定部6によって測定されたガラス応答膜21の膜抵抗値の一例を
図3に示す。
図3のグラフは、堀場アドバンスドテクノ製耐フッ酸pH電極(品番7123)を2つ使用して、これら電極のガラス応答膜21の膜抵抗値を絶縁抵抗計(Agilent 433913)によって、一日に2回ずつ125時間程度継続して測定した結果である。この
図3のグラフでは、膜抵抗値が測定毎に大きく上下動していることが分かる。このような上下動の大きいグラフ波形からでは、ガラス応答膜21が溶けて穴が開くまでの期間(ガラス応答膜の寿命)を推定して、ガラス応答膜21の交換時期を判断することは難しい。
【0032】
この
図3のグラフにおいて、膜抵抗値が大きく変動している原因について調べるために、このグラフ中のある一日を一例として取り出してみると、この日の1回目の測定は午前9時に行われ、この時の測定環境の温度は19.5℃であった。同じ日の2回目の測定は、午後5時に行われ、この時の測定環境の温度は22.8℃であった。このことから、本発明者は、このようなグラフ波形の激しい上下動は、このように測定毎にガラス応答膜21周辺の温度が変化していることに起因していると考えた。
【0033】
そこで、本発明者は、膜抵抗値の測定と同時に、温度測定部7によって、ガラス応答膜21が配置されている環境、例えば、ガラス応答膜21周辺の液体試料Sの温度を測定し、測定された温度を使用して膜抵抗値を補正することを試みた。
【0034】
本発明者がガラス応答膜21の膜抵抗値と温度との関係を調べた結果、例えば、前述した堀場アドバンスドテクノ製耐フッ酸pH電極(品番7123)に使用されているガラス応答膜21について、
図4に示すような膜抵抗値と温度との相関関係を表す検量線を得た。この検量線は、同じガラス電極2を3本使用して、各温度におけるガラス応答膜21の膜抵抗値を測定した結果から得たものである。
図4中の黒丸は、3本のガラス電極2の膜抵抗値の平均値を表している。
【0035】
そこで、この検量線を用いて先程の
図3のグラフの膜抵抗値を温度補正して、例えば、所定温度(例えば25℃)での膜抵抗値に換算した換算値を求めると、
図5のようなグラフを得た。
図5のグラフでは、温度による膜抵抗値の変化を補正したことにより、膜抵抗値の上下動が抑えられ、ガラス応答膜21の寿命を推測しやすいグラフ波形とすることができる。
【0036】
そこで、本実施形態においては、膜抵抗測定部6によって測定された膜抵抗値について、判断部8が、記憶部9に記憶された検量線等を使用して、例えば、
図5のように、温度補正するようにした。さらに、判断部8が、補正後の膜抵抗値と記憶部9に記憶されている閾値とを比較して、温度補正後の膜抵抗値が閾値と同じ又は閾値よりも小さいかどうかを判断することによってガラス応答膜21の交換時期であるか否かを判断するものとした。
【0037】
記憶部9に記憶されている閾値は、本実施形態では、前述したように過去に同じ排水流路P上で膜抵抗を測定した同じ組成のガラス応答膜21の膜抵抗値に基づいて、例えば、24時間後にガラス応答膜21に穴が開いて使用不能になった時点の膜抵抗値を参考にして設定してある。
【0038】
ガラス応答膜21の組成が異なるガラス応答膜21については、ガラス応答膜21の組成についての検量線をさらに作成し、判断部8が、この検量線に基づいて温度補正後の膜抵抗値をさらに補正するようにすれば、より精度よくガラス応答膜の交換時期を判断することができる。
【0039】
本実施形態では、判断部8が、ガラス応答膜21の交換時期であると判断した場合には、出力部がユーザに対し、ガラス応答膜の交換指標として、例えば、ガラス応答膜21を交換するように促す警告を出すようにしてある。
【0040】
このように構成した測定装置1及びガラス応答膜の交換時期判断方法によれば、ガラス応答膜21の膜抵抗値だけでなく、ガラス応答膜21が置かれている環境の温度に基づいてガラス応答膜21の交換時期を判断しているので、ガラス応答膜21が置かれている環境の温度が一定でない場合であっても、ガラス応答膜21の交換時期を精度よく判断することができる。
その結果、フッ酸が含まれている液体試料Sの水素イオン濃度を連続測定する場合であっても、ガラス応答膜21の使用期間を短めに見積もって頻繁にガラス応答膜21を交換することによる手間やコストを省くことができる。
【0041】
記憶部9が、ガラス応答膜21の組成と膜抵抗値との相関関係を表す式やテーブルを記憶しているので、ガラス応答膜21の組成に基づいて、ガラス応答膜21の交換時期をより精度よく判断することができる。
【0042】
本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、判断部に、過去に測定した膜抵抗値のデータを機械学習させ、例えば、一日のうちの時間帯による膜抵抗値の変化や曜日による膜抵抗値の変化の傾向を予測し、予測された傾向に基づいてガラス応答膜が溶解して穴が開くまでの時間を推定させるようにしても良い。
【0043】
例えば、
図5のような補正後の膜抵抗値のグラフの傾きから、ガラス応答膜の溶解速度を算出し、算出された溶解速度と予め設定された閾値から交換時期を予測するようにしても良い。
【0044】
前述した実施形態では、ガラス応答膜の組成と膜抵抗値との相関関係を表す検量線を使用して膜抵抗値を補正する方法を説明したが、このようなものに限らず、ガラス応答膜の組成と閾値との相関関係を表す式やテーブル等を用いて閾値を設定するようにしても良い。
【0045】
閾値は、24時間後にガラス応答膜に穴が開く場合だけでなく、数時間後に穴が開く場合や、2日後に穴が開く場合等、測定装置の使用環境に応じた様々なタイムスパンで設定することができる。
前述した実施形態では、閾値をガラス応答膜の組成毎に設定されている場合を説明したが、閾値はガラス応答膜の組成に関係なく設定されるものとしても良い。
【0046】
前記実施形態では、膜抵抗値を予め設定した所定温度における抵抗値に換算していたが、前記所定温度を、例えば、所定期間に温度測定部によって測定された温度の平均値等に換算するようにしても良い。
【0047】
前記実施形態では、測定装置の判断部が、ガラス応答膜の膜抵抗値及び温度に基づいて、ガラス応答膜の交換時期を判断する場合について説明したが、ユーザ(人)が交換時期の判断をするようにしても良い。例えば、測定装置の出力部が、ガラス応答膜の交換時期を判断するための交換指標を画面上に表示する等、当該交換指標を出力可能に構成することが考えられる。この場合の交換指標としては、膜抵抗値及び温度であり、更には、それらの閾値などを含んでも良い。このような構成であれば、ユーザ(人)が出力された交換指標に基づいて、ガラス応答膜の交換時期を判断することができる。
【0048】
前述した実施形態では、筐体に対して着脱可能なガラス応答膜を使用し、ガラス応答膜のみを交換するようにしていたが、これに限らず、ガラス応答膜と筐体とが一体に形成されたガラス電極を用いて、交換時にはガラス電極全体を交換するようにしても良い。その場合には、ガラス電極と比較電極とを一体とした複合電極ではなく、ガラス電極と比較電極とを別々に設けるようにしても良い。
【0049】
使用するガラス応答膜の種類によっては、ガラス応答膜に色がついている場合がある。色がついているガラス応答膜では、フッ酸によってガラス応答膜が溶けて厚みが小さくなると、色も薄くなることが考えられる。具体的には、ガラス応答膜の組成にCe、Nd、Pr、Erなどランタノイド族、Ni、Cu等の遷移金属元素、V、Ti、Cr、Mn等の混合原子価を有する元素などの有色元素を添加して意図して添加することにより作成が可能である。特にランタノイド族は、低抵抗化、耐水性や応答性が向上するため、ガラス応答膜の必須元素である添加するLaの一部をこれらの元素に変えることで作成が可能である。
そこで、ガラス応答膜の分光反射率等を測定してガラス応答膜の色度を監視する色監視部をさらに設け、前述した膜抵抗値だけでなく色度に基づいてガラス応答膜の交換時期を判断するようにしても良い。色度を監視する装置だけでなく、メンテンス時に人の目視にて、あらかじめ作成した色見本等を比較することで、交換時期を推測するようにしてもよい。
具体的な判断方法としては、例えば、ガラス応答膜の色度についても、ガラス応答膜の種類毎に予め閾値を設定しておいて、色度が閾値以下となった場合には、ガラス応答膜の交換が必要であると判断部が判断するようにしても良い。
さらに、膜抵抗値と色度との相関関係を表す式やテーブルなどを用いて、色度に基づいて膜抵抗値をさらに補正するようにしても良いし、膜抵抗値とは独立した指標として色度を利用し、例えば、膜抵抗値又は色度の何れか一方が閾値以下となった場合にガラス応答膜の交換時期であると判断するようにしても良い。
【0050】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、フッ酸を含む液体試料を測定するガラス応答膜の交換時期を判断することができるので、フッ酸を含む液体試料のpHを常時監視する必要がある場合等において、ガラス応答膜の交換頻度を従来よりも抑えることができる。