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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】自動車通信ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/02 20060101AFI20241101BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
H01B11/02
H01B11/06
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022549663
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2021006254
(87)【国際公開番号】W WO2021167043
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】62/979,920
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510222590
【氏名又は名称】ダイキン アメリカ インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】DAIKIN AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】20 Olympic Drive,Orangeburg,New York 10962,U.S.A
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ケネフィック, ダニエル
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-142959(JP,A)
【文献】特開2011-258330(JP,A)
【文献】国際公開第2009/044753(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0024569(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0228882(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0105439(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/02
H01B 11/06
H01B 11/00
H01B 3/44
H01B 3/30
H01B 3/28
H01B 7/29
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁層で絶縁された第1の導体と第2の絶縁層で絶縁された第2の導体とを有し、前記第1及び第2の絶縁層は、対応する導体の外周全体に沿って当該導体と接触しており、かつ前記第1及び第2の絶縁層は、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)を少なくとも95質量%含有している、導体のシングルツイストペア、及び
前記導体のツイストペアを囲んでいる外部ジャケット、
を有し、
前記第1の絶縁層及び第2の絶縁層が、-40~150℃の温度範囲、及び、1GHz~10GHzの周波数範囲にわたって1.7以上2.1未満の比誘電率を有する自動車通信ケーブル。
【請求項2】
前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層の少なくとも一方は、対応する導体とともに、実質的に気密なシールを形成する、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項3】
前記第1及び第2の絶縁層は極性添加剤を実質的に含まない、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項4】
前記第1及び第2の絶縁層は、少なくとも99質量%がFEPであり、かつ添加剤を実質的に含まない、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項5】
前記導体のシングルツイストペアが有する前記第1及び第2の絶縁層を囲むシールドの層を更に有する、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項6】
前記ケーブルはイーサネットケーブルである、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項7】
前記ケーブルは、約10MHz~約10GHzの範囲で差動信号を伝送するよう構成されている、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項8】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲0℃~105℃、及び周波数帯域1MHz~400MHzにおける挿入損失が約10dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項9】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲-40℃~125℃、及び周波数帯域10MHz~400MHzにおける挿入損失が約7dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項10】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲-40℃~125℃、及び周波数帯域10MHz~600MHzにおける挿入損失が約10dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項11】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲-40℃~125℃、及び周波数帯域10MHz~600MHzにおける挿入損失が約8.5dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項12】
前記ケーブルは、105℃及び400MHzにおける挿入損失が、Open Alliance TC9規格に対して少なくとも5dB小さい、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項13】
前記ケーブルは、125℃及び600MHzにおける挿入損失が、Open Alliance TC9規格の許容挿入損失に対して少なくとも8dB小さい、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項14】
前記ケーブルは26AWG銅線を有し、かつ15メートル、温度範囲23℃~125℃、及び周波数帯域100MHz~1GHzにおける挿入損失が約17.5dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項15】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲23℃~125℃、及び周波数帯域100MHz~1GHzにおける挿入損失が約16.5dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項16】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲23℃~125℃、及び周波数帯域100MHz~800MHzにおける挿入損失が約14.5dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項17】
前記ケーブルは、15メートル、温度範囲23℃~125℃、及び周波数帯域100MHz~600MHzにおける挿入損失が約12.5dB未満である、請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の前記ケーブルを有するモータビークル。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項に記載の前記ケーブルを有するボート又は船。
【請求項20】
モーター及び請求項1~17のいずれか1項に記載の前記ケーブルを有する機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は通信ケーブルに関し、より具体的には、自動車産業で使用される高温通信ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
現代のコンピュータシステムではデータ需要が高まり続けている。こうしたデータ需要の増大は、モータビークルで使用されるコンピュータシステムでもますます顕著になってきている。モータビークル・コンピュータシステムでデータを転送するために、モータビークル産業では通常、コントローラエリアネットワーク(CAN)バスケーブルを採用してきた。しかしながら、CANバスケーブルでは、現代及び近未来のモータビークル・コンピュータシステムで要求される高帯域、低遅延用途(自動運転等)のデータ需要に対応することはできない。
【0003】
そのため、建造物で使用されているコンピュータシステムの世界的なネットワーク規格であるイーサネットが、自動車産業のネットワークプロトコルとして採用されている。米国電気電子学会(IEEE)802.3イーサネットグループ、米国自動車技術者協会(SAE)、及び国際標準化機構(ISO)は、(フィジカル層を含む)モータビークル用高速ネットワークの規格を策定済み又は策定中である。これらの規格によれば、車載イーサネット・ネットワークは、高性能なシングルツイストペアケーブルで相互接続されることになる。しかしながら、従来知られてきた車載ケーブルで用いられる材料でも、イーサネットケーブルを用いて現代のモータビークル・コンピュータシステムにおけるデータ需要を満たすような十分なデータスループットは得られたものの、モータビークル内の環境条件に耐えることはできなかった。
【0004】
そのため、モータビークルに見られるような高温条件下で使用でき、かつ現代のモータビークル・コンピュータシステムにおける高いデータ需要を満たすことができる新しい種類の通信ケーブル(イーサネットケーブル等)が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、概して、モータビークル産業等の熱的に厳しい環境で使用する通信ケーブルに関する。一実施形態において、上記ケーブルは、FEP絶縁体でそれぞれ絶縁された電線のツイストペアを有する。別の実施形態では、絶縁されたツイストペアの周囲に保護ジャケットを有しており、電線のツイストペアを環境条件から保護するとともに、ケーブルに構造的完全性を付与している。
【0006】
電線のツイストペアは、差動データ信号及び/又は差動電力信号等の差動信号を伝送するよう構成されている。そのために、各電線の芯線は、差動データ信号及び/又は差動電力信号を伝播するための導体として構成されている。ツイストペアの各電線は、電線の導電コアを被覆して囲む電線絶縁部を備える。一実施形態において、電線絶縁部はフッ素化エチレンプロピレン(FEP)で形成されている。これらの材料は効果の高い絶縁体であり、100MHz~10GHzの周波数帯域内及び-40℃~150℃の温度範囲内で稼働する差動信号を伝送する場合であっても、内部及び外部の電磁妨害効果をいずれも大幅に低減しつつ、挿入損失を比較的低く保持できる。このように、上記ケーブルは、モータビークルのボンネット内で見られる環境条件に対応しながら、現代のモータビークル・コンピュータシステムにおける高いデータ需要を満たすことができる。
【0007】
上では、簡略化した要約を提示して、特許請求の範囲に記載された主題に係るいくつかの態様の基本的な理解を提供したが、この要約は詳細な概要ではない。主要な又は重要な要素を特定したり、請求した主題の範囲を正確に示したりすることを意図したものではない。以下で提示する詳細な説明の導入として、いくつかの概念を簡略化した形式で提示することが唯一の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本明細書に組み込まれかつ本明細書の一部を構成する添付の図面は、本開示のいくつかの態様を図示するものであり、本明細書とともに、本開示の原理を説明するものである。
【0009】
図1】本開示に係るケーブル100の一実施形態の斜視図である。
図2図1に示すケーブル100の実施形態の断面図である。
図3】温度-40℃、23℃、及び105℃並びに周波数点1GHz、2.5GHz、5GHz、及び10GHz、さらに温度150℃及び2.5GHzで測定したFEP及び架橋ポリエチレン(XLPE)の比誘電率を示す表である。
図4図3と同じ測定値を示す棒グラフである。
図5】周波数点2.5GHz及び温度150℃で測定した場合のXLPEの比誘電率の経時変化を表す。
図6】温度-40℃、23℃、及び105℃並びに周波数点1GHz、2.5GHz、5GHz、及び10GHz、さらに温度150℃及び2.5GHzで測定したFEP及びXLPEの損失係数を示す表である。
図7図6と同じ測定値を示す棒グラフである。
図8】周波数点2.5GHz及び温度150℃で測定した場合のXLPEの損失係数の経時変化を表す。
図9】温度-40℃及びケーブル長15メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルについて算出したシングルペアケーブル減衰量(挿入損失)を示す表である。
図10図9と同じ算出値に基づくシングルペアケーブル減衰量の線グラフである。
図11】温度23℃及びケーブル長15メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルについて算出したシングルペアケーブル減衰量を示す表である。
図12図11と同じ算出値に基づくシングルペアケーブル減衰量の線グラフである。
図13】温度105℃及びケーブル長15メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルについて算出したシングルペアケーブル減衰量を示す表である。
図14図13と同じ算出値に基づくシングルペアケーブル減衰量の線グラフである。
図15】温度105℃及びケーブル長100メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP及びXLPEについて算出したシングルペアケーブル減衰量を示す表である。
図16図15と同じ算出値に基づく減衰量の線グラフである。
図17】一実施形態に係る通信ケーブルを模式的に表す。
図18】試験装置の一例を模式的に表す。
図19】代表的な車載通信ケーブルの各温度及び周波数における挿入損失(ケーブル減衰量)を示す線グラフである。
図20】一実施形態に係るFEP絶縁ケーブルの各温度及び周波数における挿入損失を示す線グラフである。
図21】一実施形態に係るFEP絶縁ケーブルの各温度及び周波数における挿入損失の測定値を示す表である。
図22】絶縁部が異なる15m長ケーブルの23℃における挿入損失を示す線グラフである。
図23】絶縁部が異なる15m長ケーブルを125℃で3時間保持した後の挿入損失を示す線グラフである。
図24】絶縁部が異なる15m長ケーブルを125℃で240時間保持した後の挿入損失を示す線グラフである。
図25】絶縁部が異なる15m長ケーブルの23℃及び周囲相対湿度における挿入損失を示す線グラフである。
図26】絶縁部が異なる15m長ケーブルを85℃及び相対湿度85%で3時間保持した後の挿入損失を示す線グラフである。
図27】絶縁部が異なる15m長ケーブルを85℃及び相対湿度85%で168時間保持した後の挿入損失を示す線グラフである。
図28】一定の周波数範囲にわたる高温での各種ケーブルの挿入損失値を示す表である。
図29】一定の周波数範囲にわたる高温及び高湿度での各種ケーブルの挿入損失値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に示す実施形態は、当業者が本開示を実施するために必要な情報を示すものであり、かつ本開示を実施する最良の形態を示すものである。添付した図面を参照して以下の説明を読んだ当業者であれば、本開示の概念を理解し、本明細書中では特に取り上げていないこれらの概念の応用を認識できるであろう。これらの概念及び応用は、本開示の範囲及び添付した特許請求の範囲に包含されることを理解されたい。
【0011】
特に定義されない限り、本明細書中で使用される用語(技術用語及び科学用語を含む)はいずれも、本開示の分野における当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。更に、通常使用される辞書で定義される用語等は、明細書の文脈における意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、明細書中で明示的に定義されない限り、理想化された意味や過度に形式張った意味で解釈されるべきではないことを理解されたい。簡潔かつ明確にするため、よく知られた機能や構成は詳述していない。
【0012】
「約」及び「およそ」という語は、一般に、測定の性質又は精度を考慮した上で、測定した数量について許容される誤差や変動の程度を意味する。典型的な誤差又は変動の程度としては、例えば、所定の数値や数値範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。特に言及されない限り、本明細書中で与えられた数量は近似値であり、すなわち、明示されていない場合、「約」又は「およそ」という語が推定される。特に言及されない限り、特許請求の範囲に記載されている数量は厳密なものである。
【0013】
ある特徴又は要素が他の特徴又は要素と「接触している(on)」と言われる場合、他の特徴又は要素と直に接していてもよいし、介在する特徴及び/又は要素が存在してもよいことを理解されたい。一方、ある特徴又は要素が他の特徴又は要素と「直に接している(directly on)」と言われる場合、介在する特徴又は要素は存在しない。また、ある特徴又は要素が他の特徴又は要素に「接続される」、「取り付けられる」、又は「結合される」と言われる場合、他の特徴又は要素と直に接続、取付け、又は結合されていてもよいし、介在する特徴又は要素が存在してもよいことを理解されたい。一方、ある特徴又は要素が他の特徴又は要素と「直に接続される」、「直に取り付けられる」、又は「直に結合される」と言われる場合、介在する特徴又は要素は存在しない。一実施形態に関して記載又は図示したが、このように記載又は図示した特徴及び要素は別の実施形態にも適用可能である。
【0014】
本明細書中で使用される専門用語は、具体的な実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図したものではない。本明細書中、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈で明確に提示されない限り、複数形も包含することを意図している。
【0015】
本明細書中、「第1の」及び「第2の」等の語は、さまざまな特徴又は要素を説明するために用いられるが、これらの特徴又は要素はこれらの用語によって限定されるべきものではない。これらの用語は、ある特徴又は要素を別の特徴又は要素と区別するためだけに使用される。したがって、本開示の教示から逸脱することなく、後述する第1の特徴又は要素を第2の特徴又は要素と呼ぶことができるし、同様に、後述する第2の特徴又は要素を第1の特徴又は要素と呼ぶこともできる。
【0016】
「A及びBの少なくとも一方」といった語は、「Aのみ、Bのみ、又はA及びBの両方」を意味するものと理解されたい。より長いリスト(例えば、「A、B、及びCの少なくとも1つ」)についても同じ解釈が適用される。
【0017】
「から本質的に構成されている」という語は、特許請求の対象が、記載された要素に加えて、本開示で記載したような意図された目的に対する特許請求の対象の実用可能性に悪影響を与えない他の要素(工程、構造、成分、部材等)を含んでいてもよいことを意味する。本用語は、そのような他の要素が他の何らかの目的に対して特許請求の対象の運用性を向上させ得るものであったとしても、本開示で記載したような意図された目的に対する特許請求の対象の運用性に悪影響を与えるようなものであれば当該他の要素を除外するものである。
【0018】
いくつかの箇所で、これらに限定はされないが測定方法等の標準的な方法を参照している。このような標準は時々改定されるものであり、明示的に記載されない限り、本開示におけるこのような標準への参照は、出願時点の直近で発行された標準を参照するものと解釈されることを理解されたい。
【0019】
本開示では、イーサネットケーブル等の通信ケーブルの実施形態を説明する。このようなケーブルは、高温に曝されつつもデータ需要が増え続けているモータビークル・コンピュータシステムで特に有用である。上記ケーブルの具体的な一実施形態は、電線のシングルツイストペアを有する。各電線の電線絶縁部は、FEP等の高絶縁性、低減衰、及び耐熱性の材料から得られる。電線のツイストペアは、差動データ信号及び/又は差動電力信号を伝送するよう構成されている。電線絶縁体としてFEPを使用することで、ケーブルは、モータビークルで見られるようなより厳しい熱条件に対応しつつ、高い周波数範囲(例えば、100MHz~10GHz)内で差動信号を伝送できる。なお、上記ケーブルの別の実施形態は、いくつかの電線ペアを有することで、差動データ信号及び/又は差動電力信号用に複数の経路を提供してもよい。上記ケーブルの別の実施形態は2対以上のツイストペアを有している。上記ケーブルの具体的な実施形態は、少なくとも1対、2対、3対、又は4対のツイストペアを有する。上記ケーブルのさらに別の具体的な実施形態は、1対、2対、3対、又は4対のツイストペアを有する。これらの電線ペアをケーブルジャケット内に挿入すると、構造的完全性を有するイーサネットケーブルが得られる。いくつかの実施形態では、2対以上のツイストペアを有するケーブルがその内部にセパレータを組み込んでいる。いくつかの実施形態のうち、1対のツイストペアを有する実施形態では、ケーブル内にセパレータを組み込んでいない。さらに、いくつかの実施形態では、上記ケーブルをシールドして電磁妨害から保護しやすくしてもよい。
【0020】
図1は、本開示に係るケーブル100の実施形態の斜視図であり、図2は、図1に示すケーブル100の実施形態の断面図である。ケーブル100は一対の電線102及び104を有しており、これらを撚り合わせて電線102及び104のツイストペアを形成している。電線102は導体106(図2参照)を有しており、電線104は導体108(図2参照)を有しており、それぞれ導電材料で形成されている。導体106及び108を形成する導電材料は、元素金属及び合金等の導電材料であってもよい。一実施形態において、電線102及び104の導体106及び108は、それぞれ銅で形成されている。いくつかの実施では、一対の導体106及び108を用いることで、位相が約180度離れた相補信号を導体106及び108が伝送するようにして差動信号を伝播させてもよい。したがって、一対の電線102及び104を撚り合わせることで、電線102及び104間の電磁妨害を打ち消しやすくなり、かつ一対の導体106及び108の平衡を保持しやすくなる。一実施において、一対の電線102及び104を用いれば、データ信号伝送及び電力伝達の両方に対応できる。例えば、一対の電線102及び104を利用して、センサ及びアクティブな通信装置に最大50ワットの電力を供給できる。
【0021】
図1及び図2に表す通り、電線102及び104はそれぞれ電線絶縁部110及び112も有する。電線102の電線絶縁部110は導体106を囲んで被覆し、電線104の電線絶縁部112は導体108を囲んで被覆している。いくつかの実施形態において、電線絶縁部は、導体の周囲で実質的に気密なシールを形成する。いくつかの実施形態において、電線絶縁部は導体と直に接触しており、絶縁部と導体との間で実質的に気密なシールを形成している。いくつかの実施形態において、絶縁部は導体の外周及び長さ全体と直に接触している。導体の長さのごく一部をコネクタ118に挿入してもよく、その部分は絶縁部と直に接触しなくてもよいことを理解されたい。
【0022】
電線絶縁部110及び電線絶縁部112は、比誘電率が低く、誘電率が低く、したがって、高電荷及び高電流の存在下における磁束線の集中に耐性がある絶縁材料で形成されている。これにより、一対の電線102及び104は高周波数信号を伝播できる。一実施において、ケーブル100はカテゴリ6Aイーサネットケーブルであり、この場合、ケーブル100は、外部ノイズの影響と内部クロストーク源(近端クロストーク(NEXT)及び遠端クロストーク(FEXT)等)を最小限に抑えながら、動作周波数が10MHz~500MHz、システムスループットが最大10ギガビット/秒(Gbps)の信号を伝送できる必要がある。カテゴリ6Aケーブル100の好適な形態としては、非シールドツイストペアケーブル(UTP)、セグメント化シールドツイストペア(SSTP)、及びシールド付きツイストペア(STP)が挙げられる。STPの好適な一形態は、一方にポリエチレンテレフタレート(PET)、他方にアルミニウムを有するシールドと、ドレインワイヤとを備える。SSTPの好適な一形態は、一方にポリエチレンテレフタレート(PET)、他方にアルミニウムを有するシールドを備えており、アルミニウムは一定間隔で切断されており、PETはシールドの長さに沿って完全なままであって、ドレインワイヤを必要としない。
【0023】
いくつかの実施形態において、電線絶縁部110及び電線絶縁部112を形成する絶縁材料は、現代の自動車エンジンのボンネット内で見られる温度における比誘電率が約1.2~約2.1の間である。通常、上記温度は-40℃~200℃の範囲で変化する。別の実施形態において、電線絶縁部110及び電線絶縁部112を形成する絶縁材料は、現代の自動車エンジンのボンネット内で見られる温度における比誘電率が約1.5~約2.1の間である。さらに別の実施形態において、電線絶縁部110及び電線絶縁部112を形成する絶縁材料は、現代の自動車エンジンのボンネット内で見られる温度における比誘電率が約1.7~約2.1の間である。
【0024】
FEPは、広い温度範囲にわたる良好な性能、高融点、高耐溶剤性、高耐酸性、高耐塩基性、耐水性、耐油性、低摩擦、及び高安定性といった複数の利点のうち1つ以上を有している。好適なFEPの例としては、CAS登録番号25067-11-2が挙げられる。FEPは、溶融加工性を有するヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体である。PFAや他のいくつかのフルオロポリマーとは異なり、FEP中の各炭素はフッ素原子で飽和している。TFEサブユニットは一般式が-(CFCF)-であり、へキサフルオロプロピレンサブユニットは一般式が-(CFCF(CF))-である。
【0025】
上記フルオロポリマーは、発泡していてもよいし固体状であってもよい。一実施形態において、フルオロポリマーは発泡構造を有する。この態様において、フルオロポリマーは、発泡を促進する薬剤をさらに含んでいてもよい。例えば、フルオロポリマーは核剤を含んでいてもよい。好適な薬剤としては、これらに限定されないが、窒化ホウ素;四ホウ酸カルシウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、炭酸カルシウム、四ホウ酸亜鉛、及び硝酸バリウム等の無機塩;タルク;並びに酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び二酸化ケイ素等の金属酸化物が挙げられる。一実施形態において、フルオロポリマーは窒化ホウ素を含む。
【0026】
本明細書中に記載のFEP等の発泡フルオロポリマーは、電線絶縁部110及び電線絶縁部112を形成する絶縁材料で使用するのに好適である。一実施形態において、絶縁材料が発泡フルオロポリマーで構成されている場合、絶縁材料の比誘電率は約1.2~約1.7の間である。別の実施形態において、絶縁材料が発泡フルオロポリマーで構成されている場合、絶縁材料の比誘電率は約1.4~約1.6の間である。さらに別の実施形態において、絶縁材料が発泡フルオロポリマーで構成されている場合、絶縁材料の比誘電率は約1.4~約1.5の間である。
【0027】
各導電線の絶縁体は、少なくとも95質量%がフルオロポリマーであってもよい。別の実施形態において、各導電線は、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、又は100%がフルオロポリマーであってもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、絶縁材料は、添加剤、改質剤、又は補強材を含んでいてもよい。例えば、絶縁材料は、識別を目的として着色されていてもよいし、着色剤を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、絶縁材料は、金属不活性化剤、UV安定剤、及び/又は銅安定剤を含む。いくつかの実施形態において、絶縁材料は、極性添加剤を含まず、且つ/又は実質的に全ての添加剤を含まない。
【0029】
なお、ケーブル100の別の実施形態は、カテゴリ5e、カテゴリ6、カテゴリ7、カテゴリ7A、及びカテゴリ8等の異なるカテゴリのイーサネットケーブルとして提供されてもよい。ケーブル100の代替的な実施形態は、100BASE-T1ケーブルを含む他の種類のイーサネットケーブルとして提供されてもよい。ケーブル100の各例が準拠し得るイーサネット規格としては、IEEE802.3cg、IEEE802.3bw、IEEE802.3bp、IEEE802.3ch、及びIEEE802.3buイーサネット規格が挙げられる。さらに、ケーブル規格としては、SAE J3117/1、SAE J3117/2、及びSAE J3117/3が挙げられる。
【実施例
【0030】
図1及び図2に示すケーブル100の実施形態は、ケーブル100の長さに沿って差動データ信号及び/又は差動電力信号を伝送する電線102及び104を囲むシールド114及びケーブルジャケット116を有する。本実施例において、シールド114は、電線102及び104とケーブルジャケット116との間に配置されている。シールド114は、EMIを反射し且つ/又はEMIを安全に接地させるよう構成されている。いずれの場合も、シールド114により、EMIが電線102及び104内の導体106及び108に影響するのを抑制しやすくなる。したがって、EMIがいくらかシールド100を通過したとしても、大幅に減衰するので、電線102及び104の導体106及び108に沿って伝送されるデータ信号及び/又は電力信号に大きく干渉することはない。いくつかの実施形態において、シールド114は電線102及び104と直に接触しており、シールドと電線102及び104との間で実質的に気密なシールを形成する。いくつかの実施形態において、シールド114は、電線102及び104の外周及び長さと直に接触している。電線102及び104の長さのごく一部をコネクタ118に挿入してもよく、その部分はシールド114と直に接触しなくてもよいことを理解されたい。
【0031】
本実施例において、シールド114は編組として設けられており、銅等の織り金網として形成されていてもよい。したがって、シールド114は、接地への高導電性経路を形成できる。ケーブル100のこのような実施形態は、シールド付きツイストペアケーブル(STP)の一例である。いくつかの実施において、ケーブル100の長さは最大40メートルであり、大型トラックで使用するのに特に有用である。代替例において、シールド114はホイルシールドとして設けられていてもよく、アルミニウム等の金属の薄層で形成されていてもよい。ホイルシールドは、キャリア(ポリエステル等の材料で形成されていてもよい)に取り付けられることで、強度及び堅牢性が付加されていてもよい。さらに別の例において、ケーブル100は複数の同心シールドを含んでいてもよく、非常にノイズの多い環境において特に有用である。さらに別の例において、ケーブル100は、ジャケット116と電線102及び104との間にシールド114が存在しない非シールド型であってもよい。これは、非シールドツイストペアケーブル(UTP)の一例である。いくつかの実施において、UTPケーブルの長さは最大15メートルであり、標準的な消費者向け自動車で特に有用であり得る。
【0032】
また、図1及び図2に示すケーブル100の実施形態は、ケーブル100の最外層を形成し且つ外部環境に曝されるジャケット116を有する。いくつかの実施形態において、ジャケット116は、シールド114と電線102及び104との一方又は両方を囲んでいる。このように、ジャケット116は、シールド114、絶縁部110及び112、並びに導体106及び108をEMI、外的物理力、熱、及び化学的劣化から保護するよう構成されている。ジャケット116は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PUR)、塩素化ポリエチレン(CPE)、XLPE、エチレンプロピレンゴム(EPR)、FEP、PFA、又はエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等の好適な材料で形成してもよい。いくつかの代替例では、充填剤、可塑剤、活性化剤、及び阻害剤をジャケット116に添加して、ジャケット116の特定の物理的、電気的、又は化学的特性を向上させてもよい。いくつかの実施形態において、ジャケット116はシールド114と直に接触して、ジャケット116とシールド114との間で実質的に気密なシールを形成する。いくつかの実施形態において、ジャケット116はシールド114の外周及び長さ全体と直に接触している。シールド114の長さのごく一部をコネクタ118に挿入してもよく、その部分はジャケット116と直に接触しなくてもよいことを理解されたい。
【0033】
図1に示すケーブル100の実施形態は、ケーブル100の一端120で接続されたコネクタ118を有する。より具体的にいうと、コネクタ118は一対の導電部材122及び124を有し、電線102の導体106の対応する端部(明示せず)が導電部材122に接続され、電線104の導体108の対応する端部(明示せず)が導電部材124に接続されている。導電部材122及び124は、ケーブル100の差動入力/出力ポートを構成して、電線102及び104を介して伝播される差動データ信号及び/又は差動電力信号がケーブル100に入力され且つ/又はケーブル100から出力されるようにしてもよい。また、コネクタ118は、一対の導電部材122及び124を収容するコネクタハウジング126を有する。シールド114及びジャケット116は、ハウジング126内に末端を有し、その内部に取り付けられている。ハウジング126は、導電部材122及び124を囲む挿入可能部128をさらに有しており、対向するコネクタ(明示せず)にこれを挿入して、データ差動信号及び/又は電力差動信号がケーブル100に入力され且つ/又はケーブル100から出力されるようにしてもよい。
【0034】
なお、本実施例の場合、一対の導電部材122及び124は、データ差動信号及び/又は電力差動信号を入力又は出力するためのオス接続を構成しているため、コネクタ118はオス差動コネクタである。代替の実施形態において、コネクタ118はメスコネクタであってもよく、したがって、オス差動コネクタを受け入れるよう構成された一対の導電性チャンネルを有する。加えて、ケーブル100の本実施形態において、ケーブル100の他端128にはコネクタ118のような別のコネクタは設けられていない。その代わり、ケーブル100の当該端部128では、導体106及び108と直に接続させてもよい。しかしながら、代替の実施形態では、ケーブル100の当該端部128において、コネクタ118のような別のコネクタが接続される。
【0035】
以下でさらに詳しく説明する通り、図3図8は、例えばXLPE又はポリプロピレン等、自動車産業で使用される通常の絶縁材料に対して、絶縁部110及び112としてFEPを使用することの電気的な利点を示している。
【0036】
電気的測定値の決定には共振空胴摂動法を採用した。より具体的には、ASTM D2520 Method Bとして記載されている共振空胴摂動法を1GHz~10GHzの周波数帯域で実施した。共振空胴を用意し、オシロスコープに接続する。材料の電気的特性を測定するため、材料を共振空胴内に配置する。共振空胴内に材料を配置すると、材料によって誘電率又は透磁率が変化することで、共振空胴が摂動する。誘電率や透磁率の変化は、材料を入れた場合と入れない場合の共振空胴の周波数特性を測定することで検出される。次いで、材料による共振空胴の周波数特性の変化(例えば、共振周波数の変化)を測定して、材料の電気的特性を算出できる。
【0037】
いくつかの実施例では、温度-40℃、23℃、及び105℃並びに周波数点1GHz、2.5GHz、5GHz、及び10GHzでFEP及びXLPEの比誘電率及び損失係数を測定した。モータビークルのボンネット内で見られるような上記平均温度として適当であると考えられるため、FEP及びXLPEの比誘電率及び損失係数は150℃及び周波数2.5GHzでも測定した。各周波数で平均3個の試料を試験し、特に記載されていない限り、15分間の材料安定化期間後に試験値を取った。
【0038】
図3及び図4は、温度-40℃、23℃、及び105℃並びに周波数点1GHz、2.5GHz、5GHz、及び10GHz、さらに温度150℃及び2.5GHzで測定したFEP及びXLPEの比誘電率を示す図表である。図3はテキストによる表であり、図4は比誘電率の測定値を示す棒グラフである。比誘電率は、真空の誘電率に対する材料の絶対誘電率の比である。したがって、比誘電率が低いほど、材料が電界を減衰させる能力が高いことになる。図3及び図4に示す通り、FEPの比誘電率は、すべての周波数及び温度で一貫してXLPEより低い。さらに、FEPの比誘電率は、XLPEの比誘電率と比較した場合、すべての周波数及び温度でばらつきがかなり少ない。
【0039】
FEPの別の利点として、FEPの比誘電率は、150℃であっても時間の経過に対して比較的一定に保たれる点が挙げられる。XLPEの比誘電率は、105℃だと時間の経過に対して比較的一定に保たれるが、図5に示す通り、150℃だと時間の経過に対して一定には保たれない。より具体的にいうと、図5は、周波数点2.5GHz及び温度150℃で測定した場合のXLPEの比誘電率の経時変化を表す。図5に示す通り、XLPEの比誘電率は、初期に約2.14から2.12に低下した後、4時間あまりで2.24近くまで上昇している。
【0040】
図6及び図7は、温度23℃、-40℃、及び105℃並びに周波数点1GHz、2.5GHz、5GHz、及び10GHz、さらに温度150℃及び2.5GHzで測定したFEP及びXLPEの損失係数を示す図表である。図6はテキストによる表であり、図7は損失係数の測定値を示す棒グラフである。材料の損失係数は、その品質係数の逆数である。品質係数は、コンダクタンスに対するサセプタンスの絶対値の比に等しい。このように、損失係数とは、ある材料の振動モードに対するエネルギーの損失率を表す指標である。したがって、損失係数が低いほど、材料がエネルギー振動を散逸させる能力が高いことになる。図6及び図7に示す通り、FEPの損失係数は、すべての周波数及び温度で概してXLPEのものより低い。このことから、FEPの性能はXLPEと比べた場合に優れていることが分かる(例えば、電線の長さに沿って損失する信号又は電力が少ない)。
【0041】
XLPEに対するFEPの利点として、FEPの損失係数は、XLPEの損失係数と異なり、時間の経過に対して比較的一定に保たれる点が挙げられる。これを図8に示す。より具体的にいうと、図8は、周波数点2.5GHz及び温度150℃で測定した場合のXLPEの損失係数の経時変化を表す。図8に示す通り、損失係数は、初期に0をわずかに超える程度まで下がった後、4時間近い期間で0.01000を超えるまで上昇している。また、23℃でも実験を実施したところ、XLPEの損失係数は、実験前が0.000337、実験後が0.000505であった。この場合は損失係数が50%増加したことになり、これは高周波数イーサネットケーブルの用途では重要となる。
【0042】
図3図8に関して上述した試験データから分かる通り、FEPは、XLPEと比較した場合に、150℃まで安定した材料である。
【0043】
XLPEは、自動車産業で一般に使用される電線絶縁部料の一例に過ぎない。XLPEは、-40℃及び23℃での誘電特性は良好だが、車載用イーサネットケーブル内の電線絶縁体として105℃以上で使用するには熱的安定性及び電気的安定性が十分ではない。
【0044】
比誘電率及び損失係数の実験情報から、電線102及び104のシングルペアケーブル減衰量(挿入損失)を下記式で算出できる。
【0045】
【数1】
【0046】
式中、Aは減衰量(デシベル)、Lはケーブル100の長さ(メートル)、fは周波数(ヘルツの倍数、すなわちMHz又はGHz)、パラメータa、b、及びcは比誘電率及び損失係数から導き出せる。
【0047】
より具体的にいうと、「I/L」は、100mとは異なるケーブル長に対する長さ補正係数又は線形調整部である。例えば、ケーブルが15mの場合、減衰値は15/100、すなわち100mの値の15%となる。パラメータ「a」は、絶縁材料の比誘電率(DC)に加え、2.75規格の調整係数(マルチギガビット・イーサネット(IEEE802.3ch)のチャンネル要件に由来)、並びにAWG、導電率、及び撚り係数等の銅に関する係数を含む。本開示の目的では、24AWGの裸銅線を用いて算出する。パラメータ「b」は、絶縁材料の損失係数(DF)又は損失正接(tanδ)に加え、0.005規格からの調整係数を含む。パラメータ「c」は、低周波数での減衰に影響する。この項は、表皮効果、インダクタンス、及び導体の真円度等のパラメータが減衰量計算に与える影響を考慮した計算調整を表す。いくつかの実施形態では、高周波数(最大10GHz)で減衰量を評価するため、この項の影響は最小限であろう。
【0048】
図9及び図10は、温度-40℃及びケーブル長15メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP及びXLPEで絶縁したケーブルについて算出したシングルペアケーブル減衰量を示す図表である。図9はテキストによる表であり、図10はケーブル減衰量の算出値を示す線グラフである。図9中、1GHz~10GHzの間のケーブル減衰値をハイライト表示し、FEP絶縁ケーブルのケーブル減衰値を枠線で強調している。
【0049】
計算から、FEPで絶縁したケーブルのシングルペアケーブル減衰量は、1GHz~10GHzの間で、XLPE絶縁ケーブルのケーブル減衰値より0.4~1.5dB小さいことが分かる。温度-40℃で算出したFEP絶縁ケーブルの電気性能が優位なのは、温度-40℃におけるFEPの比誘電率及び損失係数が低いことに起因している。
【0050】
図11及び図12は、温度23℃及びケーブル長15メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP及びXLPEで絶縁したケーブルについて算出したシングルペアケーブル減衰量を示す図表である。図11はテキストによる表であり、図12はケーブル減衰量の算出値を示す線グラフである。図11中、1GHz~10GHzの間のケーブル減衰値をハイライト表示し、FEP絶縁ケーブルのケーブル減衰値を枠線で強調している。
【0051】
計算から、FEPで絶縁したケーブルのシングルペアケーブル減衰量は、1GHz~10GHzの間でXLPE絶縁ケーブルのケーブル減衰値より0.4~1.5dB良好なことが分かる。温度23℃で算出したFEP絶縁ケーブルの電気性能が優位なのは、温度23℃におけるFEPの比誘電率及び損失係数が低いことに起因している。
【0052】
図13及び図14は、温度105℃及びケーブル長15メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルについて算出したシングルペアケーブル減衰量を示す図表である。図13はテキストによる表であり、図14はケーブル減衰量の算出値を示す線グラフである。図13中、1GHz~10GHzの間のケーブル減衰値をハイライト表示している。温度が105℃になるとXLPEの損失係数が安定しないため、算出がより難しくなる。そこで、4時間経過後の損失係数の測定値を用いた。これが最悪のシナリオに対応するからである。一方、架橋FEPの比誘電率は安定しているので問題は生じない。
【0053】
10GHzで測定したFEP及びXLPEの比誘電率及び損失係数を、上記の減衰式に挿入した。FEPで絶縁したケーブルのシングルペアケーブル減衰量は、1GHz~10GHz帯でXLPEに対して0.4~1.6dBの範囲で優位であったが、これは-40℃及び23℃でFEP及びXLPEについて観察された性能上の優位性と同様であった。
【0054】
図15及び図16は、温度105℃及びケーブル長100メートルで測定した比誘電率及び損失係数に基づき、FEP及びXLPEで絶縁したケーブルについて算出したケーブル減衰量を示す図表である。図15はテキストによる表であり、図16はケーブル減衰量の算出値を示す線グラフである。図15中、1GHz~10GHzの間のケーブル減衰値をハイライト表示している。したがって、図15及び図16に示す結果を図13及び図14の結果と比較して、ケーブル長の影響を示すことができる。より具体的には、図13及び図14の計算と図15及び図16の計算とを比較すると、温度105℃において、XLPEで絶縁したケーブルに対するFEPで絶縁したケーブルの減衰量の優位性は、1GHzで2.6dBまで、10GHzで10.8dBまで大きくなっていることが分かる。したがって、ケーブル100の電線102及び104に絶縁部106及び108を設けると、XLPE等のこれまでに知られている絶縁材料に比べ、ケーブル減衰量において顕著かつ重要な利点をモータビークル産業にもたらすことができる。特に、図9図16から、FEPを用いて電線102及び104の絶縁部112及び114を設けた場合、FEPの誘電特性によってケーブル100のシングルペアケーブル減衰特性が大きく異なることが分かる。
【0055】
上記のようなポリマーの試験に加え、開示した発明の実施形態に従って機能性ケーブルを作製し、さらに分析した。ケーブルの長さはそれぞれ15メートルとした。
【0056】
図17で模式的に示す通り、一対の22AWG銅線を用いて、シングルツイストペアケーブルを作製した。各銅線はFEP電線絶縁部で絶縁した。FEP絶縁電線を、FEP内部ジャケット、ホイルシールド、編組アルミニウムシールド、及び外部ジャケット内に収容した。
【0057】
電線絶縁部及び内部ジャケットにFEPではなくXLPEを組み込んだ以外は実質的に同じ構成で、第2のシングルツイストペアケーブルを作製した。XLPE絶縁シングルツイストペアケーブルは、代表的な車載イーサネットケーブルであると考えられる。
【0058】
図18で模式的に示す通り、試験装置を構築して、作製したケーブルの挿入損失を測定した。試験は、Open AllianceのChannel and Components Requirements for 1000BASE-T1 Link Segment Type A v2.0,Section6.1.2,Requirements for Cables(SCC Context)を含むOpen Allianceの挿入損失(ケーブル減衰量)試験に従って実施した。使用した挿入損失の式は下記の通りである。
【表1】
【0059】
試験装置は、ベクトルネットワークアナライザ(ローデ・シュワルツ社製ZNB-8)及び温度試験室(Tenney社製TJR)を備えていた。
【0060】
作製した各ケーブルの両端にテストフィクスチャをはんだ付けし、試験対象であるケーブルを、試験装置とSMAインターフェースを有する測定器とに接続した。試験対象である長さ15mのケーブルについて、密閉側アクセスポートから各端約12インチ露出させた状態でコイル状に緩く巻いて、温度試験室に置いた。露出した両端は試験装置に接続した。同じ試験装置を用いてFEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルの両方を試験し、所定の周波数範囲及び所定の温度範囲でケーブルの挿入損失を測定した。
【0061】
試験手順中、温度試験室内でケーブルをコイル状に巻いて置き、23℃(室温)でケーブルの挿入損失を測定する。温度試験室内の温度を1時間かけて目標温度まで上昇させる。次いで、試験室内の温度を目標温度で1時間保持して、ケーブルの温度が目標温度と等しくなるようにした。この目標温度でケーブルの挿入損失を測定する。続いて、同じ手順で温度試験室内の温度を次の目標温度まで上昇させる。本具体例で実験した目標温度は85℃、105℃、及び125℃の3つである。これら3つの目標温度で挿入損失を測定したら、温度試験室内の温度を1時間かけて23℃まで低下させた。次いで、試験室内の温度を23℃で1時間保持して、ケーブルの温度が23℃と等しくなるようにした。2回目として、23℃でケーブルの挿入損失を測定した。23℃におけるケーブルの挿入損失を加熱処理の前後で比較することは、ケーブルを加熱した後もケーブル及び/又は絶縁部が劣化しておらず且つ/又はケーブルの電気的性能が劣化していないことを確認する上で有用である。
【0062】
図19は、代表的なXLPE被覆車載イーサネットケーブルの挿入損失を試験した結果を表す。図19に示す通り、85℃、105℃、及び125℃の試験条件における挿入損失はそれぞれ、一般的にそれより低い温度の試験条件よりも悪化していた。
【0063】
図20は、上述したFEP絶縁ケーブルの挿入損失を試験した結果を表す。図20に示す通り、85℃、105℃、及び125℃の試験条件における挿入損失は、それより低い温度での挿入損失と概して同様である。加えて、代表的な車載ケーブルと比較して、信号の周波数が高くなるにつれてFEP絶縁ケーブルの挿入損失は低くなる。したがって、FEP絶縁ケーブルは、例えば80℃を超えるような高温で挿入損失が低く、代表的な車載ケーブルと比較した場合、すべての試験温度で挿入損失が低くなる。
【0064】
代表的な車載ケーブルはXLPEブレンドで絶縁されている。XLPEブレンドは、例えば、銅、溶解性又は腐食性の流体、高温及び低温、並びに紫外線等との接触といった環境要因の影響からポリマー材料を保護することを意図した添加物を含んでいる。これらの添加剤の少なくとも一部は構造的に極性分子であり、添加剤分子及び周囲にあるマトリクスの温度が上昇すると振動が大きくなる。理論にとらわれるものではないが、これらの極性分子の振動が大きくなるとXLPEの損失係数に影響を及ぼし、温度の上昇に伴って、代表的な車載ケーブルの挿入損失性能が低下するものと考えられる。
【0065】
FEP絶縁ケーブルは、極性添加剤を含まないFEPポリマーで絶縁されたものである。FEPは、その物理的性質及び機械的性質により、極性添加剤を必要としない電線及びケーブル用途での使用に適したものである。理論にとらわれるものではないが、ポリマーは高温での損失係数を上昇させ得る極性添加剤を含んでいないので、FEP絶縁ケーブルの挿入損失性能は概して高温でも部分的に保持されるものと考えられる。
【0066】
図21は、1~600MHzの周波数帯域において、Open AllianceのTC9仕様(Automotive Ethernet Channel and Components)と比較した場合の、FEP絶縁ケーブルの所定の温度範囲における挿入損失の測定値を示す表である。表から分かる通り、FEP被覆ケーブルの挿入損失の測定値は、すべての周波数及び温度でTC9規格よりも良好である。TC9規格とFEP被覆ケーブルの挿入損失の測定値との差は、周波数が高くなるにつれて、また温度が高くなるにつれて大きくなる。表から分かる通り、FEP絶縁ケーブルの挿入損失は、周波数及び温度が高くなるにつれて大きくなるが、8.5dBを超えることはない。この挿入損失は、温度調整したTC9の閾値より低い。
【0067】
本明細書中で記載した試験から、最初に算出した挿入損失性能の想定値と比較すると、XLPE絶縁ケーブルは実際のシミュレーションにおいて、想定よりも性能が劣ることが明らかになった。逆に、FEP絶縁ケーブルは、最初に算出した挿入損失性能の想定値に対し、上述の実施例で想定されるよりも性能が良好であった。理論にとらわれるものではないが、FEP絶縁ケーブルの挿入損失は、温度が高くなるにつれて銅の導電率が本質的に下がってしまうことが主な原因であり、FEPが悪い意味で影響していることはほとんどないと考えられる。
【0068】
図22~27は、図17に示すケーブルと同様の構成だが、22AWG7/30銅導体ではなく26AWG7/34銅導体を用いたケーブルで収集したデータを表す。電線絶縁部は、ケーブルによってFEP、PP、又はXLPEのいずれかであり、内部ジャケットは架橋ポリオレフィン(XLPO)で形成した。いずれのケーブルも長さは15mであった。
【0069】
図22~24は、1000BASE-T1ケーブル用のSAE J3117/2及びISO19642-12仕様書原案で使用されているTC9挿入損失限度に対し、同様の構成を有する3本のケーブルで実施した試験を表す。FEP、XLPE、又はPPである電線絶縁部を除いて、試験ケーブルは同一であった。まず、23℃で各ケーブルの挿入損失を試験した。次いで、各ケーブルを温度125℃で3時間保持した後、挿入損失を再度試験した。各ケーブルを温度125℃で合計240時間保持した後、3回目として挿入損失を試験した。図22に示す通り、1~600MHzの周波数帯域にわたって23℃でケーブルを試験したところ、初期は3本ともTC9挿入損失性能規格より優れていた。
【0070】
図23から分かる通り、各ケーブルを125℃で3時間保持した後のPP絶縁ケーブルの挿入損失は、TC9規格を下回っていた。125℃で3時間保持した後のFEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルの挿入損失は、いずれも1~600MHzの周波数帯域にわたってTC9規格より優れていた。図23に示す通り、これらの試験条件下だと、FEP絶縁ケーブルはXLPE絶縁ケーブルよりも挿入損失が小さかった。
【0071】
図24から分かる通り、125℃で240時間保持した後のFEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルの電気的性能は、いずれも1~600MHzの周波数帯域にわたってTC9規格より優れていた。図24に示す通り、周波数が高くなるにつれて、FEP絶縁ケーブルの挿入損失はXLPE絶縁ケーブルに対して小さくなった。
【0072】
図25~27は、同様に構成された3本のケーブルで実施した、高温高湿下における挿入損失試験を表す。試験したケーブルは、図22~24に関して記載したケーブルと同一であった。まず、23℃及び周囲相対湿度で各ケーブルの挿入損失を試験した。次いで、各ケーブルを温度85℃及び相対湿度85%で3時間保持した後、挿入損失を再度試験した。各ケーブルを温度85℃及び相対湿度85%で合計168時間保持した後、3回目として挿入損失を試験した。図25に示す通り、1~600MHzの周波数帯域にわたって23℃及び周囲相対湿度でケーブルを試験したところ、初期は3本ともTC9挿入損失性能規格より優れていた。
【0073】
図26から分かる通り、各ケーブルを85℃及び相対湿度85%で3時間保持した後のPP絶縁ケーブルの挿入損失は、TC9規格を下回っていた。85℃及び相対湿度85%で3時間保持した後のFEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルの挿入損失は、いずれも1~600MHzの周波数帯域にわたってTC9規格より優れていた。図26に示す通り、これらの試験条件下だと、FEP絶縁ケーブルはXLPE絶縁ケーブルよりも挿入損失が小さかった。
【0074】
図27から分かる通り、85℃及び相対湿度85%で168時間保持した後のFEP絶縁ケーブル及びXLPE絶縁ケーブルの挿入損失は、いずれも1~600MHzの周波数帯域にわたってTC9規格より優れていた。
【0075】
図28は、図22~24で検討した挿入損失の測定値を示す表である。図28は、PP、XLPE、及びFEPで絶縁した15mケーブルについて、23℃、125℃で3時間後、さらに125℃で240時間後における挿入損失の測定値を表す。図28から分かる通り、FEP絶縁ケーブルは他のケーブルに比べて挿入損失が小さい。この差は、周波数が高くなるほど大きくなる。
【0076】
図29は、図25~27で検討した挿入損失の測定値を示す表である。図29は、PP、XLPE、及びFEPで絶縁した15mケーブルについて、23℃及び周囲湿度、85℃及び85%相対湿度で3時間後、さらに85℃及び85%相対湿度で168時間後における挿入損失の測定値を表す。図29から分かる通り、FEP絶縁ケーブルは他のケーブルに比べて挿入損失が小さく、この差は、周波数が高くなるほど大きくなる。
【0077】
当業者であれば、本開示の好ましい実施形態に対する改良及び改変を認識できるであろう。このような改良及び改変は、いずれも本明細書中に開示された概念の範囲及び以下に続く特許請求の範囲に包含されるものと考えられる。本発明に係る開示した実施形態における所定の要素は、単一の構造、単一の工程、又は単一の物質等において実施できることが理解できるであろう。同様に、開示した実施形態における所定の要素は、複数の構造、工程、又は物質等で実施できる。
【0078】
上述の説明は、本開示の方法、装置、製品、組成物、及びその他の教示を図示及び記載するものである。加えて、本開示では、開示した方法、装置、製造、組成物、及びその他の教示について一定の実施形態しか提示及び記載していない。しかしながら、上記の通り、本開示の教示は、他の様々な組み合わせ、変形形態、及び環境で使用でき、且つ当業者の技術及び/又は知識に対応して、本明細書に記載した教示の範囲内で変更及び変形させられることが理解できるであろう。更に、本明細書中で上記した実施形態は、本開示の方法、装置、製品、組成物、及びその他の教示を実施するためのものとして知られている一定の最良形態を説明すること、及び他の当業者が、そのような実施形態又は別の実施形態において本開示の教示を利用し、且つ具体的な用途に必要とされる各種変形と共に本開示の教示を利用できるようにすることを意図したものである。従って、本開示の方法、装置、製品、組成物、及びその他の教示は、本明細書中で開示した厳密な実施形態及び実施例に限定することを意図したものではない。本明細書中の表題は37C.F.R.§1.77の提案と対応させること、又は組織的な待ち行列(organizational queues)を提供することを意図したにすぎない。これらの表題は、本明細書中に記載した発明を限定及び特徴付けするものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29