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特許7580477低粉じん吹付けコンクリート、及びそれを用いた低粉じん吹付け工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】低粉じん吹付けコンクリート、及びそれを用いた低粉じん吹付け工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241101BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20241101BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20241101BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241101BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20241101BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/32 A
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B22/10
B28C7/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022550404
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021028944
(87)【国際公開番号】W WO2022059372
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020156625
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
(72)【発明者】
【氏名】水野 博貴
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 泰之
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-166714(JP,A)
【文献】特開平11-199286(JP,A)
【文献】特許第6586417(JP,B2)
【文献】特許第5026928(JP,B2)
【文献】硫酸アルミニウム-硫酸バンド-,大明化学工業株式会社,2019年06月,P.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B28C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量が10万~500万であるポリエチレンオキサイドを含有するセメントコンクリートと、
アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物を実質的に含有せず、カルシウムアルミネートと硫酸アルミニウムとを含有する吹付け用急結剤とを配合し、
前記吹付け用急結剤は、前記硫酸アルミニウムの含有量が、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して5~105質量部であり、前記硫酸アルミニウム中のマグネシウム及びカルシウムの含有量が、酸化物換算で0.007~4質量%である低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項2】
前記硫酸アルミニウムに含まれるCaO含有量が0.005~2質量%、MgO含有量が0.002~2質量%である請求項1に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項3】
さらに、アルカリ土類金属水酸化物を、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して5~105質量部含有する請求項1又は2に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項4】
さらに、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項5】
前記アルカリ金属炭酸塩を含有し、該アルカリ金属炭酸塩の含有量が1~30質量%である請求項4に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項6】
前記硫酸アルミニウムにおける粒径10μm以下の硫酸アルミニウムの割合が1~40質量%である請求項1~5のいずれか1項に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項7】
前記硫酸アルミニウムが水和物であり、その水和水の数が4~12である請求項1~6のいずれか1項に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項8】
前記ポリエチレンオキサイドの質量平均分子量が10万~500万である請求項1~7のいずれか1項に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の低粉じん吹付けコンクリートに含有するセメントコンクリート及び吹付け用急結剤を圧縮空気によりそれぞれ混合管に搬送し、前記セメントコンクリート及び前記吹付け用急結剤を前記混合管内で混合合流させた後に吹付けノズルから吐出して吹付ける低粉じん吹付け工法。
【請求項10】
前記セメントコンクリートを圧縮空気により、前記吹付け用急結剤と混合前に4m以上搬送し、前記セメントコンクリートと前記吹付け用急結剤とが混合合流された後に1.5m以上搬送し、前記吹付けノズルから吐出して吹付ける請求項9に記載の低粉じん吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粉じん吹付けコンクリート、及びそれを用いた低粉じん吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削工事における地山の補強や、掘削面の安定化のために、コンクリートの吹付けが行われている。ピストンポンプ等により送られるコンクリートを輸送する輸送管内に、コンプレッサーから送られる圧縮空気を供給し、コンクリートを空気輸送するとともに、合流管の枝管に急結剤供給設備より空気輸送される粉体急結剤を供給してコンクリートと急結剤を混合した後、ノズルよりコンクリートを吹付ける乾式工法や、ドライミックスコンクリートを空気圧送する途中で水を添加し、合流管の枝管に急結剤供給設備より空気輸送される粉体急結剤を供給し、コンクリートと急結剤を混合した後、ノズルよりコンクリートを吹付ける湿式工法がある。
【0003】
これらの吹付け工法は、空気輸送されたコンクリートを吹付ける時に多量に粉じんが発生する場合があるため、コンクリートを練り混ぜする前に、例えば、水溶性セルロース及びポリエチレンオキサイドなどの粉末状の粉じん低減剤をコンクリートに添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
また、細骨材をセメントで被覆した被覆細骨材を使用したセメント組成物を吹付けて粉じんを低減する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、粉末状の粉じん低減剤は、例えば、ポリエチレンオキサイドを適正な粒度に調整して溶解性を高める必要があった。また、粉末状の粉じん低減剤はコンクリートの骨材の表面水に溶解するため、骨材ホッパーに付着しやすく、練混ぜ時に玉状になりやすく、十分な粉じん防止効果が得られなかった。特に、骨材の表面水の含有量が高い場合は顕著であった。
【0005】
そこで、ポリエチレンオキサイドとタルク及び/又はパイロフィライトからなる無機微粉末を含有する粉末状の粉じん防止剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、粉末状の粉じん低減剤の計量機のホッパーからの輸送性や安全性が向上したものの、粉末状の粉じん低減剤は、温度変化に伴う粘度変化が大きく、急結剤との混合性が悪化し、粉じん発生量や強度発現性にバラツキが生じるケースがあった。
【0006】
一方、粉末状の粉じん低減剤と併用されている急結剤としては、カルシウムアルミネート、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等との混合物;焼ミョウバン、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩等の混合物;カルシウムアルミネートと3CaO・SiOとの混合物;消石灰、アルカリ金属アルミン酸塩、及びアルカリ金属炭酸塩の混合物;等が知られている(例えば、特許文献5~9参照)。
これらの急結剤は、セメントの凝結を促進させる働きがあり、いずれもセメントコンクリートと混合して地山面に吹付けられる。
【0007】
急結剤の添加方法は、通常、空気輸送による粉体混合のために、粉塵量が多くなる方法であった。そのため、作業環境が悪化する場合があり、吹付け時には保護眼鏡や防塵マスクなどを着用して作業する必要があり、粉塵量のより少ない工法が求められていた。粉塵発生量が少ない工法として、急結剤をスラリー化してセメントコンクリートに添加混合した後、さらに、アルカリ金属アルミン酸塩の溶液を別途圧送し、混合し、吹付け施工する方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。この方法は、高アルカリの液体を使用するため、取り扱いにくく、吹付け時には保護眼鏡や手袋等が必要となり、作業性が低下するという課題があった。
【0008】
そこで、非晶質カルシウムアルミネートと結晶質カルシウムアルミネートの組み合わせによる急結剤が提案されている(例えば、特許文献11参照)。特許文献11においては、低温において更にアルミン酸ナトリウムを併用することで、更に良い効果が得られることが明記されている。しかし近年、急結剤においては、強アルカリ性による失明や薬傷の観点から、アルカリ金属アルミン酸塩やアルカリ金属水酸化物といった強アルカリの原料をできるだけ用いないことが好ましいが、高温状況、コスト面等においてはまだまだ課題は多いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭58-15056号公報
【文献】特開2004-189529号公報
【文献】特開2000-72503号公報
【文献】特開2009-78934号公報
【文献】特公昭60-4149号公報
【文献】特開昭64-051351号公報
【文献】特公昭56-27457号公報
【文献】特開昭61-026538号公報
【文献】特開昭63-210050号公報
【文献】特開平05-139804号公報
【文献】特許第5026928号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に急結剤の強アルカリ性材料はセメントと反応性が高く、粉じん低減剤を配合したセメントコンクリートと混合性が悪い場合があるため、吹付けられたコンクリートの強度発現性や粉じん発生量にバラツキが生じやすく、適用が難しい。
【0011】
本発明は、粉じん低減剤を配合したセメントコンクリートへ、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物といった材料を急結剤に使用しなくても、高温状況においても、上記材料を含む急結剤と同等以上の高い急結性、高い初期強度発現性、高いセメントコンクリートとの混合性が得られ、また、環境温度による粉じん発生量のバラツキが生じず、長期的な強度発現性を求められる箇所への適用が可能な低粉じん吹付けコンクリート、及びそれを用いた低粉じん吹付け工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を行った結果、下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0013】
[1]ポリエチレンオキサイドを配合したセメントコンクリートと、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物を実質的に含有せず、カルシウムアルミネートと硫酸アルミニウムとを配合した吹付け用急結剤とを含有し、前記吹付け用急結剤は、前記硫酸アルミニウムの含有量が、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して5~105質量部であり、前記硫酸アルミニウム中のアルカリ土類金属の含有量が、アルカリ土類金属酸化物換算で0.007~4質量%である低粉じん吹付けコンクリート。
[2]前記硫酸アルミニウムに含まれるCaO含有量が0.005~2質量%、MgO含有量が0.002~2質量%である[1]に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[3]さらに、アルカリ土類金属水酸化物を、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して5~105質量部含有する[1]又は[2]に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[4]さらに、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]~[3]のいずれかに記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[5]前記アルカリ金属炭酸塩を含有し、該アルカリ金属炭酸塩の含有量が1~30質量%である[4]に記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[6]前記硫酸アルミニウムにおける粒径10μm以下の硫酸アルミニウムの割合が1~40質量%である[1]~[5]のいずれかに記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[7]前記硫酸アルミニウムが水和物であり、その水和水の数が4~12である[1]~[6]のいずれかに記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[8]前記ポリエチレンオキサイドの質量平均分子量が10万~500万である[1]~[7]のいずれかに記載の低粉じん吹付けコンクリート。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の低粉じん吹付けコンクリートに含有するセメントコンクリート及び吹付け用急結剤を圧縮空気によりそれぞれ混合管に搬送し、前記セメントコンクリート及び前記吹付け用急結剤を前記混合管内で混合合流させた後に吹付けノズルから吐出して吹付ける低粉じん吹付け工法。
[10]前記セメントコンクリートを圧縮空気により、前記吹付け用急結剤と混合前に4m以上搬送し、前記セメントコンクリートと前記吹付け用急結剤とが混合合流された後に1.5m以上搬送し、前記吹付けノズルから吐出して吹付ける[9]に記載の低粉じん吹付け工法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物といった材料を使用しなくても、高温状況においても、上記材料を含む急結剤と同等以上にバラツキが少なく、高い急結性や高い初期強度発現性が得られ、かつ、長期的な強度発現性を求められる箇所や粉じん発生量を低くすることが求められる箇所への適用が可能な低粉じん吹付けコンクリート、及びそれを用いた低粉じん吹付け工法を提供することができる。
また、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物の少なくともいずれかを含む低粉じん吹付けコンクリートに比べて、取扱いにおいても高い安全性が確保される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[低粉じん吹付けコンクリート]
本発明の実施形態に係る低粉じん吹付けコンクリートは、セメントコンクリートと吹付け用急結剤とを配合したものである。
【0016】
<セメントコンクリート>
セメントコンクリートのセメントとしては、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、及び石灰石微粉末を混合したフィラーセメント、並びに都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)等が挙げられ、これらを微粉末化して使用することも可能である。混合セメントにおける混合物とセメントの割合は特に限定されるものではなく、これら混和材をJISで想定する以上に混合したものも使用可能である。
【0017】
本実施形態のセメントコンクリートは、セメントと骨材とを含有するものであり、骨材は吸水率が低くて、骨材強度が高いものが好ましい。骨材は、吹付けできれば特に限定されるものではないが、細骨材としては、川砂、山砂、海砂、石灰砂、及び珪砂等が使用可能であり、粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利等が使用可能であり、砕砂、砕石の使用も可能である。
【0018】
本発明の低粉じん吹付けコンクリートに含有するセメントコンクリートは、粉じん低減成分として、ポリエチレンオキサイドを含有する。ポリエチレンオキサイドは質量平均分子量が高ければ、コンクリートの粘性が高まり、急結剤との混合性が悪化する傾向にあるため、粉じん低減性能が低下し、分子量が低いと、コンクリート粘性に関与できず、粉じん低減性能が低下するため、本発明では、ポリエチレンオキサイドの質量平均分子量は、10万~500万であることが好ましく、30万~400万であることがより好ましく、50万~300万であることがさらに好ましい。
なお、ポリエチレンオキサイドの質量平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)測定により決定できる。
〈測定条件〉
・装置:製品名「LC-10AD」(株式会社島津製作所製)
・検出器:示差屈折率検出器(RID)
・カラム:製品名「SHODEX KF-804」(昭和電工株式会社製)
・測定温度:30℃
・溶離液:THF
・流速:1.0mL/min
・サンプル濃度:0.2質量%(THF)
・サンプル注入量:100μL
・換算標準:ポリエチレンオキサイド
【0019】
以上のような本実施形態に係るポリエチレンオキサイドの含有量は、例えば、セメントコンクリートのセメント100質量部に対して、0.004~0.090質量部であることが好ましく、0.006~0.085質量部であることがより好ましく、0.008~0.080質量部であることがさらに好ましい。ポリエチレンオキサイドの含有量が上記下限値以上であることで、粉じん低減性能が得られやすくなる。また、ポリエチレンオキサイドの含有量が上記上限値以下であることで、吹付け用急結剤との混合性が向上し、極初期の付着性状が良好となり、リバウンドを抑制することができる。
【0020】
<吹付け用急結剤>
本発明の実施形態に係る低粉じん吹付けコンクリートに含有する吹付け用急結剤は、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物を実質的に含有せず、カルシウムアルミネートと硫酸アルミニウムとを含有する。アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物を実質的に含有しないため、取り扱い性が良好で、吹付け時に保護眼鏡や手袋等が不要となり作業性を低下させることがなく、高い安全性を確保することができる。
ここで、アルカリ金属アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムが挙げられ、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。また、「実質的に含有せず」とは、XRF測定による検出下限未満の含有量を指し、具体的には0ppmである。
【0021】
一方で、硫酸アルミニウムの含有量を、カルシウムアルミネート100質量部に対して5~105質量部とし、当該硫酸アルミニウム中のアルカリ土類金属の含有量を、アルカリ土類金属酸化物換算で0.007~4質量%とすることで、アルカリ金属アルミン酸塩及びアルカリ金属水酸化物を実質的に含有せずに、高温状況においても高い急結性や高い初期強度発現性が得られる。
【0022】
吹付け用急結剤とセメントコンクリートとの混合性は、ASTMC403に準じて10点測定したプロクター貫入値の数値のバラツキを示す標準偏差によって評価することができる。プロクター貫入値の標準偏差は、低いほど混合性が良好となることから、8.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。
【0023】
以下、本実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0024】
(カルシウムアルミネート)
カルシウムアルミネートとは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料等を混合して、キルンでの焼成や電気炉での溶融等の熱処理をし、急冷または、徐冷して得られる、結晶および/または非結晶質でCaOとAlとを主たる成分とし、水和活性を有する物質の総称であり、CaOやAlの一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAlとを主成分とするものに、これらが少量固溶、または、単独でコンタミとして、存在する物質である。
【0025】
カルシウムアルミネートの粒度は、ブレーン比表面積(JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠。以下、ブレーン値ともいう)で3,000cm/g以上が好ましく、5,000cm/g以上がより好ましい。3,000cm/g以上であることで、急結剤とセメントコンクリートとを混合した吹付け材料の急結性や初期強度発現性を高めることができる。
【0026】
カルシウムアルミネートにおけるCaO/Alモル比は、急結性や初期強度発現性の面で、2.0~2.6の範囲が好ましく、2.2~2.4の範囲がより好ましい。
【0027】
(硫酸アルミニウム)
本発明の硫酸アルミニウムは、アルカリ土類金属を含有し、その含有量(アルカリ土類金属が複数種ある場合はその合計量)が、アルカリ土類金属酸化物換算で0.007~4質量%であり、好ましくは0.01~2質量%である。
上記のような硫酸アルミニウムは、例えば、アルカリ土類金属酸化物のようなアルカリ土類金属化合物を不純物として含む硫酸と水酸化アルミニウムとを混合して得ることができる。上記混合時にCaO、MgOのようなアルカリ土類金属を所望の含有量となるように配合してもよい。つまり、本明細書における硫酸アルミニウムは、蛍光X線分析では硫酸アルミニウムとともにCaO、MgOが確認されるが、X線回折(XRD)の分析では、硫酸アルミニウムのブロードなピークが確認できるだけで、CaO及びMgOを同定できるピークが確認されない。すなわち、当該硫酸アルミニウムは、カルシウム及びマグネシウムを含むが、実質的には、硫酸アルミニウムと同視し得るものとなる。
【0028】
硫酸アルミニウムは、吹付け材料として、壁面への付着や極初期の強度発現性に寄与し、特にアルカリ土類金属を含有したものは、常温から低温環境下でも十分な付着性を付与できると共に、高温環境下での長期強度の顕著な低下を防止することも可能になる。硫酸アルミニウム中のアルカリ土類金属の含有量が酸化物換算で0.007質量%未満では高温環境下で長期強度を発現し難く、また初期強度発現性の低下が大きくなることがあるので好ましくない。また、アルカリ土類金属の含有量が酸化物換算で4質量%を超える場合は、初期強度が低下し、温度環境にかかわらず凝結性状が発現し難くなることがあるので好ましくない。特に、所定量のアルカリ土類金属含有物質を含有する硫酸アルミニウムを使用することによって既述の作用が発現できるのであって、アルカリ土類金属含有物質を含有しない硫酸アルミニウムに加えて、例えば市販試薬の酸化カルシウムや酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属酸化物を後から添加混合しても上記のような効果は十分得られない。
なお、上記の「低温環境下」における「低温」とは、5℃以下を指し、「高温環境下」における「高温」とは、25℃以上を指す。
【0029】
ここで、アルカリ土類金属とは、少なくともベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの何れかをいう。
これらのアルカリ土類金属は、硫酸アルミニウムとともに、アルカリ土類金属単体、あるいは、アルカリ土類金属化合物、アルカリ土類金属含有固溶体、アルカリ土類金属含有非晶質体等のアルカリ土類金属含有物質として存在する。具体的な共存状態としては、例えば、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属酸化物(BeO、MgO、CaO、SrO、BaOなど)、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属酸化物としての硫酸アルミニウム中への固溶体などが挙げられる。好ましくは、アルカリ土類金属硫酸塩は含まない。
【0030】
硫酸アルミニウムの含有量は、カルシウムアルミネート100部に対して5~105部であり、10~90部であることが好ましく、20~80部であることがより好ましい。硫酸アルミニウムの含有量が5~105部の範囲外では、凝結性が低下してしまう。
【0031】
硫酸アルミニウムに含まれるCaO含有量は0.005~2%であることが好ましく、MgO含有量0.002~2%であることが好ましい。CaO含有量は、0.01~1.5%がより好ましく、MgO含有量は、0.008~1.5%がより好ましい。
硫酸アルミニウムに含まれるCaO含有量及びMgO含有量は、例えば、高純度の水酸化アルミニウムと、硫酸とを混合する際に硫酸に含まれるCaO及び/又はMgOを除去せずに混合するか、あるいは意図的に加えることによって含有量の調整を行うことができる。
【0032】
CaO含有量が0.005%以上であると、高温状況で長期強度がより得られやすくなり、2%以下であると、凝結性状の低下が抑えられやすくなる。また、MgO含有量が0.002%以上であると、高温状況で長期強度がより得られやすくなり、2%以下であると、高温状況で異常膨張が抑制されやすくなる。
【0033】
硫酸アルミニウムは、無水塩から14~18水塩までが使用可能であるが、14水塩以上では、粉砕できない場合があり、12水塩以下が好ましい。また、無水塩は凝結性状が低下する場合があるため、4水塩以上が好ましい。より好ましくは4~12水塩、すなわち、硫酸アルミニウムが水和物であり、その水和水の数が4~12であることがより好ましい。
水和水の数は、例えば、18水塩の硫酸アルミニウムを加熱等して所望の水和水の数になるように脱水すればよい。
【0034】
硫酸アルミニウムはフレーク状、粗粉末、粉末状など粉体として、いずれの形態も使用可能であるが、極初期強度発現性の観点から、粉末状が好ましく、更に粒径として、10μm以下が1~40%で調整することが好ましい。粒径10μm以下が1%以上であると、極初期強度発現性が得られやすくなり、40%以下であると、長期強度がより得られやすくなる。粒径10μm以下を1~40%とするには、篩等を利用すればよい。
【0035】
(アルカリ土類金属水酸化物)
本実施形態に係る吹付け用急結剤は、さらに、アルカリ土類金属水酸化物を含有することが好ましい。アルカリ土類金属水酸化物を含有することで、長期強度をより向上させることができる。
【0036】
アルカリ土類金属水酸化物は、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの水酸化物を指し、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、および水酸化ラジウム等のうちの一種又は二種以上を使用することが可能である。これらのうち、価格や取り扱いやすさなどの工業的見地から水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの使用が好ましく、カルシウムカーバイドからアセチレンを発生させる際に副生するカーバイド滓等も水酸化カルシウムとして、挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物の粒度は、250μm残分30%以下が好ましく、250μm残分10%以下がより好ましい。
【0037】
アルカリ土類金属水酸化物の含有量は、カルシウムアルミネートを100質量部としたとき、2~120質量部が好ましく、5~105質量部がより好ましく、5~100質量部がさらに好ましく、中でも10~50質量部が特に好ましい。アルカリ土類金属水酸化物の含有量が上記下限値以上であることで、凝結性状が低下しにくくなる。また、アルカリ土類金属水酸化物の含有量が上記上限値以下であることで、長期強度を良好にすることができる。
【0038】
(その他の成分)
本実施形態に係る吹付け用急結剤には、必要に応じて、通常の急結剤で想定される材料を配合してもよい。例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩からなる群より選ばれた物質が挙げられ、アルカリ土類金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。アルカリ土類金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種は、長期強度の増進に寄与する点で好ましく、吹付け用急結剤中、0.3~50質量%であることが好ましく、0.6~45質量%であることがより好ましく、1~40質量%であることがさらに好ましい。アルカリ土類金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩としては、炭酸カルシウム、及び硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0039】
また、特に3時間強度や1日強度などで所定の強度を得るためには、アルカリ金属炭酸塩の使用が好ましい。アルカリ金属炭酸塩の配合量は、吹付け用急結剤中、0.3~50質量%であることが好ましく、0.6~45質量%であることがより好ましく、1~40質量%であることがさらに好ましい。アルカリ金属炭酸塩の配合量が上記下限値以上であることで、材齢3時間強度や1日強度で所望の強度が得られやすくなる。また、アルカリ金属炭酸塩の配合量が上記上限値以下であることで、長期強度が得られやすくなる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。
【0040】
吹付け用急結剤の配合量は、セメントコンクリートのセメント100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、6~25質量部であることがより好ましく、7~20質量部であることがさらに好ましい。吹付け用急結剤の配合量が上記下限値以上であることで吹付けに求められる付着性状、凝結性状、強度発現性が得られやすくなる。また、吹付け用急結剤の配合量が上記上限値以下であることで、長期強度低下を抑制することができる。セメントコンクリートに配合する際の本実施形態に係る吹付け用急結剤の形態は、特に限定はなく、例えば、粉体、液体、懸濁液状、スラリー状などが挙げられる。
【0041】
[低粉じん吹付け工法]
本発明の低粉じん吹付け工法としては、コンクリート製造設備で、ポリエチレンオキサイドを含有するセメントコンクリートに水を添加したウエットコンクリートとして調整し、吹付け直前までに、吹付け用急結剤が添加される湿式吹付け工法が可能である。吹付け工法として他にも乾式吹付けがあるが、本発明では、粉じん発生量を低減する観点から、工法は湿式吹付け工法であることが好ましい。
【0042】
本発明の低粉じん吹付け工法は、セメントコンクリートがコンクリートポンプで定量搬送された後、ポンプによる圧縮空気がセメントコンクリートに添加され、セメントコンクリートが圧縮空気によって混合管に搬送される。セメントコンクリートは、混合管において、その後、吹付け用急結剤が添加されて合流混合される。本発明の低粉じん吹付け工法は、セメントコンクリートに圧縮空気が添加されてから、吹付け用急結剤が添加されるまでの搬送距離として4m以上であることが好ましく、5m以上であることがより好ましく、6m以上であることがさらに好ましい。セメントコンクリートに圧縮空気が添加されてから、吹付け用急結剤が添加されるまでに搬送距離が上記下限値以上であることで、吹付けてからのコンクリートの強度発現性にバラツキが少なくなり、粉じん低減性能も向上するため好ましい。また、セメントコンクリートに圧縮空気が添加されてから、吹付け用急結剤が添加されるまでの搬送距離は、20m以下であることが好ましく、15m以下であることがより好ましく、10m以下であることがさらに好ましい。セメントコンクリートに圧縮空気が添加されてから、吹付け用急結剤が添加されるまでに搬送距離が上記上限値以下であることで、セメントコンクリートを安定して搬送することができる。
【0043】
また、セメントコンクリートがコンクリートポンプで定量搬送され、ポンプによる圧縮空気によって混合管に搬送される。セメントコンクリートは、混合管において、その後、別のルートにより圧縮空気によって搬送された吹付け用急結剤と合流混合され、吹付けノズルから吐出して吹付けられる。セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが合流してから、吹付けノズルまでの搬送距離は、1.5m以上であることが好ましく、2.0m以上であることがより好ましく、2.5m以上であることがさらに好ましい。セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが合流してから、吹付けノズルまでの搬送距離が、上記下限値以上であることで、吹付け用急結剤とセメントコンクリートが良好に混合することができ、強度発現性にバラツキを抑制し、粉じん低減性能も向上するため好ましい。また、セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが合流してから、吹付けノズルまでの搬送距離は、10m以下であることが好ましく、7.5m以下であることがより好ましく、5m以下であることがさらに好ましい。セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが合流してから、吹付けノズルまでの搬送距離が、上記上限値以下であることで、セメントコンクリート及び吹付け用急結剤を安定して搬送することができる。
【0044】
本発明の低粉じん吹付けコンクリートを使用することで、粉じん発生量を抑制することができ、かつ、環境温度による粉じん発生量のバラツキも抑制することができる。本発明の低粉じん吹付け工法による低粉じん吹付けコンクリートの吹付けを行う環境温度は、5℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがより好ましい、10℃以上であることがさらに好ましい。低粉じん吹付けコンクリートの吹付けを行う環境温度が上記下限値以上であることで、適度な強度発現性が得ることができ、粉じん低減性能も向上するため、環境温度による粉じん発生のバラツキを抑制することができる。また、本発明の低粉じん吹付け工法による低粉じん吹付けコンクリートの吹付けを行う環境温度は、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましい、33℃以下であることがさらに好ましい。低粉じん吹付けコンクリートの吹付けを行う環境温度が上記上限値以下であることで、極端な強度発現性を発生することなく、適度な柔軟性を有することにより粉じん低減性能が向上し、環境温度による粉じん発生のバラツキを抑制することができる。
【0045】
本発明の低粉じん吹付け工法において、セメントコンクリートがコンクリートポンプで定量搬送され、圧縮空気と合流され、吹付け用急結剤と合流され、吹付けられるまでの区間は、ホースでも金属配管のいずれも使用可能であり、一般的に使用される材質であれば、いずれのものも使用可能である。
【実施例
【0046】
[実験例1]
各物性の測定方法及び使用材料は以下のとおりである。
(吹付け試験)
試験温度30℃でセメント360kg、水216kg、砂1,050kg、砂利650kg、粉じん低減成分A180gからなるセメントコンクリートを調製した。調製したセメントコンクリートは、コンクリートポンプ(シンテック社製、MKW-25SMT)で毎時12mの搬送条件でポンプ搬送し、途中で毎分10mの圧縮空気を合流させて、配管長7m搬送した。そして、セメントコンクリートには、その後、表1に示す含有割合の急結剤(吹付け用急結剤)が、セメントコンクリートのセメント100質量部に対して9質量部となるように、圧縮空気によって毎分4mの搬送条件で搬送されて混合合流して、低粉じん吹付けコンクリートを得た。セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが混合合流してから、低粉じん吹付けコンクリートを吹付けノズルまでの配管長3m搬送した後に鉄板に吹付けした。低粉じん吹付けコンクリートを吹付けてから5分後のプロクター貫入値を、ASTMC403に準じて10点測定し、平均値と、標準偏差を求めた。吹付けてから材齢10分、3時間、28日の圧縮強度(JIS R 5201、以下同様)を測定した。
また、以下に示す方法によって、吹付けのリバウンド率と、吹付け箇所から10m後方での粉じん量を測定した。
なお、表1に示す含有割合の各吹付け用急結剤は、それぞれの材料を混合することで調製した。
【0047】
(リバウンド率)
掘削断面15mの模擬トンネルの円周方向45°~90°の範囲で幅1mの領域(予め吹付けコンクリートを施工し、硬化後に平滑になるように削り落とした面)に3分間吹付けたときのはね返りを測定し、使用した低粉じん吹付けコンクリートからのリバウンド率を下記式から求めた。
リバウンド率=落下した低粉じん吹付けコンクリート(kg)/吹付けに使用した低粉じん吹付けコンクリート(kg)×100(%)とした。
なお、リバウンド率は、20%以下であることが好ましい。
【0048】
(粉じん量)
掘削断面15mの模擬トンネルの円周方向45°~90°の範囲で幅1mの領域(予め吹付けコンクリートを施工し、硬化後に平滑になるように削り落とした面)に10分間吹付け中に、吹付け箇所から10m後方の位置で柴田科学社製デジタル粉じん計LD-3K2を用いて粉塵量の測定を1分毎に行った。なお、粉じん計でカウントされたカウント値に質量換算係数0.002を用いて、粉じん量(mg/m)を算出した。
【0049】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、デンカ社製
砂:川砂、密度2.64g/cm、粗粒率(F.M)2.83
砂利:川砂利、密度2.67g/cm
水:上水道水
粉じん低減成分A:ポリエチレンオキサイド、質量平均分子量180万、市販品
カルシウムアルミネート:CaO/Alモル比:2.24、ブレーン比表面積:5900cm/g、CaO源:生石灰(CaO:95%)、Al源:天然ボーキサイト(Al:85%)、製造方法:電気炉で溶融し、急冷したものを粉砕したガラス粉末、ガラス化率:90%、CaOとAlの合計が96%
アルカリ土類金属水酸化物a:水酸化カルシウム(工業品)、水酸化カルシウム含有98%、ブレーン比表面積10,500cm/g、
AS-ア:CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
【0050】
【表1】
【0051】
表1の試験結果より、吹付け用急結剤中の硫酸アルミニウム配合量を4質量部とすると、プロクター貫入値の平均値、標準偏差が著しく低下し、圧縮強度も実施例と比較して低いことがわかる。また、硫酸アルミニウム配合量を110質量部とした場合も実施例と比較して凝結時間、圧縮強度が低いことがわかる。以上の結果より急結剤中の硫酸アルミニウムの含有量は5~105質量部で、特に5~100質量部とすることが好ましい。
【0052】
[実験例2]
実験例2として、吹付け用急結剤に含有する硫酸アルミニウムを表2に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用した硫酸アルミニウムはアルカリ土類金属を、金属酸化物換算で0.006%~4.5%含有するものとし、以下にその略号を示す。
【0053】
AS-イ;CaO:0.003質量%、MgO:0.002質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で0.005%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-ウ;CaO:0.005質量%、MgO:0.002質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で0.007%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-エ;CaO:0.006質量%、MgO:0.004質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で0.010%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-オ;CaO:0.8質量%、MgO:0.5質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.3%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-カ;CaO:1質量%、MgO:1質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で2.0%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-キ;CaO:1.3質量%、MgO:1.1質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で2.4%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-ク;CaO:1.6質量%、MgO:1.8質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で3.4%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-ケ;CaO:2.1質量%、MgO:2.3質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で4.4%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
【0054】
【表2】
【0055】
表2の試験結果より、アルカリ土類金属酸化物換算で0.005%のアルカリ土類金属を含有する比較例は実施例と比較してプロクターの始発及び終結時間が遅くなっていることが分かる。また圧縮強度も低下している。アルカリ土類金属酸化物換算で4.4%のアルカリ土類金属を含有する比較例も同様にプロクター貫入値の平均値、標準偏差が著しく低下していることが分かる。以上の結果より、急結剤中の硫酸アルミニウムはアルカリ土類金属酸化物換算でアルカリ土類金属を0.007~4%含有しているものが好ましい。
【0056】
[実験例3]
実験例3として、吹付け用急結剤の配合を表3に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0057】
【表3】
【0058】
以上の結果より急結剤中の水酸化カルシウムの含有量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して5質量部~100質量部とすることが好ましい。
【0059】
[実験例4]
実験例4として、吹付け用急結剤に含有する硫酸アルミニウムを表4に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用した硫酸アルミニウムは以下に示すものを使用した。
【0060】
AS-コ;CaO:0.004質量%、MgO:0.5質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で0.504%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-サ;CaO:3質量%、MgO:0.5質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で3.5%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-シ;CaO:0.5質量%、MgO:0.001質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で0.501%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
AS-ス;CaO:0.5質量%、MgO:2質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で2.5%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、8.5水塩
【0061】
【表4】
【0062】
表4より、硫酸アルミニウムに含まれるアルカリ土類金属酸化物量が、CaO:0.005質量%~2質量%、MgO:0.002質量%~2質量%であることが好ましいといえる。
【0063】
[実験例5]
実験例5として、実験例1と同様のカルシウムアルミネート100質量部、アルカリ土類金属水酸化物a50質量部、硫酸アルミニウム(AS-ア)50質量部、更に表5に示す種類と量のアルカリ土類金属炭酸塩とアルカリ土類金属硫酸塩からなる吹付け用急結剤を作製した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用したアルカリ土類金属炭酸塩とアルカリ土類金属硫酸塩は以下に示すものを使用した。
【0064】
アルカリ土類金属炭酸塩ア:炭酸マグネシウム工業品、ブレーン値2,800cm/g
アルカリ土類金属炭酸塩イ:炭酸カルシウム工業品、ブレーン値3,000cm/g
アルカリ土類金属硫酸塩α:硫酸マグネシウム工業品、ブレーン値3,500cm/g
アルカリ土類金属硫酸塩β:硫酸カルシウム工業品、ブレーン値4,500cm/g
【0065】
【表5】
【0066】
[実験例6]
実験例6として、実験例5と同様のカルシウムアルミネート100質量部、アルカリ土類金属水酸化物a50質量部、硫酸アルミニウム(AS-ア)50質量部、アルカリ土類金属炭酸塩イ10質量部、アルカリ土類金属硫酸塩β10質量部、更に表6に示す種類と量のアルカリ金属炭酸塩からなる吹付け用急結剤を作製した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用したアルカリ金属炭酸塩は以下に示すものを使用した。
【0067】
アルカリ金属炭酸塩ア:炭酸ナトリウム工業品、炭酸ナトリウム含有量98%、ブレーン1,000cm/g
アルカリ金属炭酸塩イ:炭酸カリウム工業品、炭酸カリウム含有量97%、ブレーン1,500cm/g
アルカリ金属炭酸塩ウ:炭酸リチウム工業品、炭酸リチウム含有量98%、ブレーン800cm/g
【0068】
【表6】
【0069】
[実験例7]
実験例7として、吹付け用急結剤に含有する硫酸アルミニウムを表7に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用した硫酸アルミニウムは以下に示すものを使用した。
【0070】
AS-シ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:0.5%、8.5水塩
AS-ス;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:1.0%、8.5水塩
AS-セ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:40%、8.5水塩
AS-ソ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:41%、8.5水塩
【0071】
【表7】
【0072】
[実験例8]
実験例8として、吹付け用急結剤に含有する硫酸アルミニウムを表7に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用した硫酸アルミニウムは以下に示すものを使用した。
【0073】
AS-タ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、18水塩
AS-チ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、14水塩
AS-ツ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、12水塩
AS-テ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、10.5水塩
AS-ト;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、4.0水塩
AS-ナ;CaO:0.9質量%、MgO:0.7質量%を含み、アルカリ土類金属酸化物換算で1.6%のアルカリ土類金属を含有する硫酸アルミニウム、粒子径10μm以下:20%、無水塩
【0074】
【表8】
【0075】
[実験例9]
実験例9として、セメントコンクリートに含有する粉じん低減成分を表9に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
なお、使用した粉じん低減成分は以下に示すものを使用した。
【0076】
粉じん低減成分B:ポリエチレンオキサイド、質量平均分子量10万、市販品
粉じん低減成分C:ポリエチレンオキサイド、質量平均分子量100万、市販品
粉じん低減成分D:ポリエチレンオキサイド、質量平均分子量300万、市販品
粉じん低減成分E:ポリエチレンオキサイド、質量平均分子量500万、市販品
粉じん低減成分F:ポリエチレンオキサイド、質量平均分子量600万、市販品
粉じん低減成分G:メチルセルロースを主成分とする粉じん低減剤、市販品
【0077】
【表9】
【0078】
[実験例10]
実験例10として、セメントコンクリートに含有する粉じん低減成分Aの含有量を表10に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0079】
【表10】
【0080】
[実験例11]
実験例11として、セメントコンクリートに圧縮空気を合流させた後、吹付け用急結剤と混合前に搬送した距離を表11に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0081】
【表11】
【0082】
[実験例12]
実験例12として、セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが混合合流された後に搬送した距離を表12に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0083】
【表12】
【0084】
[実験例13]
実験例13として、セメントコンクリートと吹付け用急結剤とが混合合流された後の吹付けを行う環境温度を表13に示すものに変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0085】
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の吹付け用急結剤は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルや法面等において露出した地山面へ吹付けるセメントコンクリートに対して好適に使用できる。