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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】電流測定方法および電流測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/00 20060101AFI20241101BHJP
   G01R 19/10 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
G01R19/00 B
G01R19/10 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023056955
(22)【出願日】2023-03-31
(65)【公開番号】P2024144820
(43)【公開日】2024-10-15
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 泰介
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-162552(JP,A)
【文献】特開2017-150817(JP,A)
【文献】特開2019-158835(JP,A)
【文献】特開2016-024168(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0120817(US,A1)
【文献】特表2019-510194(JP,A)
【文献】特開平06-273452(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113740745(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111934395(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
G01R 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値をサンプリングするとともに、所定時間内にサンプリングされた電流値の最大値および最小値を出力する複数の信号処理部を備えた電流測定システムにおける電流測定方法であって、
複数の前記信号処理部ごとに異なるサンプリング周波数でサンプリングが行われ、前記信号処理部が出力した最大値と最小値との差分を出力する差分出力段階と、
前記差分出力段階により出力された差分のうち、最も大きい絶対値をもつ差分が得られた前記信号処理部を示す特定情報を出力する比較段階と、
前記比較段階によって出力された特定情報が示す前記信号処理部によってサンプリングされた電流値にもとづいて、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値の測定値を導出する導出段階と、
を備えた電流測定方法。
【請求項2】
前記所定時間は、前記電流測定システムの制御周波数とし、サンプリング周波数を前記信号処理部が取得できる周波数範囲の倍成分も含めて周波数の差分が感度を持つ周波数幅以上とし、かつ前記電流測定システムの制御周波数以下の周波数とする請求項1に記載の電流測定方法。
【請求項3】
複数の前記信号処理部ごとに用いられるサンプリング周波数は、所定以上の周波数だけ異なる周波数である請求項1または請求項2に記載の電流測定方法。
【請求項4】
前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力段階、前記比較段階、および前記導出段階は、前記バッテリを制御するバッテリコントロールユニットにより行われる請求項1または請求項2に記載の電流測定方法。
【請求項5】
前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力段階、前記比較段階、および前記導出段階は、信号処理ICにより行われる請求項1または請求項2に記載の電流測定方法。
【請求項6】
バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値をサンプリングするとともに、所定時間内にサンプリングされた電流値の最大値および最小値を出力する複数の信号処理部を備えた電流測定システムにおける電流測定システムであって、
複数の前記信号処理部ごとに異なるサンプリング周波数でサンプリングが行われ、前記信号処理部が出力した最大値と最小値との差分を出力する差分出力部と、
前記差分出力部により出力された差分のうち、最も大きい絶対値をもつ差分が得られた前記信号処理部を示す特定情報を出力する比較部と、
前記比較部によって出力された特定情報が示す前記信号処理部によってサンプリングされた電流値にもとづいて、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値の測定値を導出する導出部と、
を備えた電流測定システム。
【請求項7】
前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力部、前記比較部、および前記導出部は、前記バッテリを制御するバッテリコントロールユニットに含まれる請求項6に記載の電流測定システム。
【請求項8】
前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力部、前記比較部、および前記導出部は、前記信号処理ICに含まれる請求項6に記載の電流測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流測定方法および電流測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。
【0003】
このような技術背景において、直流のバッテリ電圧に対して、消費する側がスイッチングのON-OFFで消費-非消費を切り替えるデバイスがあり、例えば水加熱HTRやモータ駆動時のPWM制御などが挙げられる。このデバイスを用いた場合、ONにすると電気抵抗に電流が流れ、OFFにすると通電しなくなるため、このONとOFFの幅を調整することで電流がコントロールされる。このようなデバイスを用いた場合、電流値は綺麗な正弦波ではなく、矩形波となる。消費電流は、例えば0Aから30Aの間で変動する。
【0004】
このようなバッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値を測定する方法として、図12のように、バッテリとパワーコントロールユニットとを結ぶバスバーから電流センサICにてAD変換し、適当なサンプリング周波数(例えば2.1kHz)でサンプリングされた電流値を用いる方法がある。図12では、10ミリ秒期間内で21回取得された電流値の平均をフィルタによって取得して、得られた平均をLINトランシーバによってECU(Electronic Control Unit)に出力することで、電流値が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-229404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述のスイッチングのON-OFFで電力を消費するデバイスが動作した状態で、前述の離散的なサンプリングで電流のセンシングを行おうとした場合、電流値の測定が困難となることがある。また、二次電池に関する技術においては、様々な仕様のバッテリや使用方法が存在する。特にバッテリから、幅広い周波数で電流が入出力されるようなケースにおいては、電流センサの値が大きく変動するケースが存在する。そのため、その変動する電流値をシステムの要求に合わせて汎用性をもって測定したい、というニーズがある。図13図14は、サンプリング例を示す図である。いずれの図も横軸は時間を示し、縦軸は電流値を示す。また、黒丸はサンプリングされた値を示す。
【0007】
例えば、図13のように離散的なサンプリング周波数とスイッチングON-OFFで消費をするデバイスの動作周波数が一致する場合には、電流値の頂点のみの値がサンプリングされ、平均的な消費電流に対してオフセットした値を計測してしまうことがある。一方、図14に示されるように、サンプリング周波数とスイッチングON-OFFで消費をするデバイスの動作周波数が近しい場合には周波数の差分に等しい周波数の電流計測値のうねりが生じることもあり、これを一般的にエイリアシングという。
【0008】
一方、このような電流値の測定において、なまし処理を行うことがある。ここでのなまし処理とは、例えば10ミリ秒のサンプリングの情報を1秒間の平均処理や、今回値=前回値×0.99+サンプリングで得られた値×0.01とするような処理である。例えば、図14に示される変動において、1サンプルが10ミリ秒で10サンプルで1つの正弦波に見える場合、おおよそ100ミリ秒間の平均値を取れば、平均的な電流値が得られることとなる。
【0009】
しかしこのようななまし処理を使用すると、なまし処理の分だけ遅れが発生し制御の応答遅れが発生する場合がある。またなまし処理では、すべての周波数成分を除去できず、特定の周波数成分が入力された場合にそれが変動として残る場合がある。一方で上記の計測値の変動を防止する手法として、センサコア~サンプリングをおこなうAD変換器の間に、抵抗とコンデンサを用いたハードウェアのローパスフィルタを設置することが一般的である。この構成を取ることにより、サンプリング周波数よりも小さい周波数成分しか残らないようにすることが可能であり、この構成をとることで、エイリアシングによる変動をなくすことは可能である。しかし、このローパスフィルタはあらかじめセンサ基板上に配置しておく必要があるため、一度ローパスフィルタのカットオフ周波数を決定すると、その後、自由にカットオフ周波数が変更できない、という課題があった。
【0010】
本願は上記課題の解決のため、より正確な電流値を測定する技術の達成を目的としたものである。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る電流測定方法および電流測定システムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る電流測定方法は、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値をサンプリングするとともに、所定時間内にサンプリングされた電流値の最大値および最小値を出力する複数の信号処理部を備えた電流測定システムにおける電流測定方法であって、複数の前記信号処理部ごとに異なるサンプリング周波数でサンプリングが行われ、前記信号処理部が出力した最大値と最小値との差分を出力する差分出力段階と、前記差分出力段階により出力された差分のうち、最も大きい絶対値をもつ差分が得られた前記信号処理部を示す特定情報を出力する比較段階と、前記比較段階によって出力された特定情報が示す前記信号処理部によってサンプリングされた電流値にもとづいて、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値の測定値を導出する導出段階と、を備えた電流測定方法。
このような電流測定方法によれば、幅広い周波数を伴う電流値に対しても測定が可能である。
【0012】
(2):上記(1)の態様において、前記所定時間は、前記電流測定システムの制御周波数とし、サンプリング周波数を前記信号処理部が取得できる周波数範囲の倍成分も含めて周波数の差分が感度を持つ周波数幅以上とし、かつ前記電流測定システムの制御周波数以下の周波数とする。
このような電流測定方法によれば、幅広い周波数を伴う電流値に対してもより確実に測定が可能である。
【0013】
(3):上記(1)または(2)の態様において、複数の前記信号処理部ごとに用いられるサンプリング周波数は、所定以上の周波数だけ異なる周波数である。
このような電流測定方法によれば、幅広い周波数を伴う電流値に対してもより確実に測定が可能である。
【0014】
(4):上記(1)または(2)の態様において、前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力段階、前記比較段階、および前記導出段階は、前記バッテリを制御するバッテリコントロールユニットにより行われる。
このような電流測定方法によれば、バッテリコントロールユニットにより電流測定時の算出ロジック詳細の変更を柔軟にできる。
【0015】
(5):上記(1)または(2)の態様において、前記差分出力段階、前記比較段階、および前記導出段階は、信号処理ICにより行われる。
このような電流測定方法によれば、バッテリコントロールユニットとの信号通信量を低減できる。
【0016】
(6):この発明の一態様に係る電流測定方法は、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値をサンプリングするとともに、所定時間内にサンプリングされた電流値の最大値および最小値を出力する複数の信号処理部を備えた電流測定システムにおける電流測定システムであって、複数の前記信号処理部ごとに異なるサンプリング周波数でサンプリングが行われ、前記信号処理部が出力した最大値と最小値との差分を出力する差分出力部と、前記差分出力部により出力された差分のうち、最も大きい絶対値をもつ差分が得られた前記信号処理部を示す特定情報を出力する比較部と、前記比較部によって出力された特定情報が示す前記信号処理部によってサンプリングされた電流値にもとづいて、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値の測定値を導出する導出部と、を備えた電流測定システム。
このような電流測定システムによれば、幅広い周波数を伴う電流値に対しても測定が可能である。
【0017】
(7):上記(6)の態様において、前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力部、前記比較部、および前記導出部は、前記バッテリを制御するバッテリコントロールユニットに含まれる。
このような電流測定システムによれば、バッテリコントロールユニットにより電流測定時の算出ロジック詳細の変更を柔軟にできる。
【0018】
(8):上記(6)の態様において、前記信号処理部は、信号処理ICに含まれ、前記差分出力部、前記比較部、および前記導出部は、前記信号処理ICに含まれる。
このような電流測定システムによれば、バッテリコントロールユニットとの信号通信量を低減できる。
【発明の効果】
【0019】
(1)~(8)の態様によれば、より正確な電流値を測定する技術を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る電流測定システムの構成例を示す図である。
図2】信号処理ICの構成例を示す図である。
図3】信号処理ICおよびバッテリECUの処理を示すフローチャートである。
図4】サンプリング周波数と最大値、最小値、平均値を示すグラフである。
図5】サンプリング周波数の調整方法を説明するための図である。
図6】サンプリング周波数が3400Hzの場合の平均値などを示す図である。
図7】サンプリング周波数が4800Hzの場合の平均値などを示す図である。
図8】スイッチからの出力などを示す図である。
図9】サンプリング周波数が3400Hzの場合の平均値などを示す図である。
図10】サンプリング周波数が4800Hzの場合の平均値などを示す図である。
図11】スイッチからの出力などを示す図である。
図12】従来技術を説明するための図である。
図13】従来技術を説明するための図である。
図14】従来技術を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の電流測定システムの実施形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る電流測定システム1の構成例を示す図である。電流測定システム1は、電流センサ1000、バッテリ300、PCU(Power Control Unit)400、モータ500、およびバッテリECU(Electronic Control Unit)600で構成される。
【0023】
バッテリECU600(バッテリコントロールユニット)は、バッテリ300の出力などを制御する制御装置である。バッテリ300は、PCU400に電力を供給する。このときバッテリ300からの出力は、バッテリECU600によって、ON-OFFが繰り返される。これにより、矩形波のような形で電力が供給される。PCU400は、モータ500を制御する。
【0024】
電流センサ1000は、バッテリ300とPCU400との間に設けられる。電流センサ1000は、センサコア100、および信号処理IC(Integrated Circuit)200で構成される。センサコア100は、バッテリ300とPCU400との間の電流値をセンシングし、信号処理IC200に出力する。
【0025】
図2は、信号処理IC200の構成例を示す図である。信号処理IC200は、複数の信号処理回路10-1、10-2を備える。信号処理回路10-1、10-2のそれぞれを特に区別しない場合には、信号処理回路10と表現する。信号処理回路10は、信号処理部の一例である。信号処理IC200は、複数の差分出力部20-1、20-2を備える。差分出力部20-1、20-2のそれぞれを特に区別しない場合には、差分出力部20と表現する。信号処理IC200は、比較部30を備える。信号処理IC200は、スイッチ40を備える。
【0026】
信号処理回路10は、バッテリとパワーコントロールユニットとの間の電流値をサンプリングするとともに、所定時間内にサンプリングされた電流値の最大値および最小値を出力する。信号処理回路10-1と信号処理回路10-2のサンプリング周波数は異なる。最大値および最小値は、対応する差分出力部20に出力される。具体的に、信号処理回路10-1は、最大値および最小値を差分出力部20-1に出力する。信号処理回路10-2は、最大値および最小値を差分出力部20-2に出力する。信号処理回路10は、所定時間内にサンプリングされた電流値の平均値をスイッチ40に出力する。信号処理回路10から出力される、電流値の最大値、最小値および平均値はデジタル値として出力される。
【0027】
差分出力部20は、信号処理回路10が出力した最大値と最小値との差分を出力する。具体的に、差分出力部20-1は、信号処理回路10-1が出力した最大値と最小値との差分を出力する。差分出力部20-2は、信号処理回路10-2が出力した最大値と最小値との差分を出力する。差分は、最大値から最小値を減算したものとする。したがって差分は0以上の値となる。
【0028】
比較部30は、差分出力部20により出力された差分のうち、最も大きい絶対値をもつ差分が得られた信号処理回路10を示す特定情報を出力する。具体的に、比較部30は、差分出力部20-1の方が差分出力部20-2よりも大きい差分を出力した場合には、信号処理回路10-1を示す特定情報を出力する。比較部30は、差分出力部20-2の方が差分出力部20-1よりも大きい差分を出力した場合には、信号処理回路10-2を示す特定情報を出力する。なお、差分出力部20-1の差分と差分出力部20-2の差分とが等しい場合には、例えば信号処理回路10-1を示す特定情報を出力する。
【0029】
スイッチ40は、特定情報によって特定された信号処理回路10が出力した平均値をバッテリECU600に出力する。スイッチ40は、例えば導出部として動作してもよい。バッテリECU600は、入力された平均値をバッテリ300とPCU400との間の電流値の測定値として導出する。
【0030】
図3は、上述した信号処理IC200およびバッテリECU600の処理を示すフローチャートである。図3において、信号処理回路10は、所定時間内の電流値をサンプリングする(ステップS101)。信号処理回路10は、サンプリングされた電流値の最大値、最小値、および平均値を求める(ステップS102)。信号処理回路10は、最大値、最小値を差分出力部20に出力し(ステップS103)、平均値をスイッチ40に出力する(ステップS104)。
【0031】
差分出力部20は、最大値、最小値の差分を求め(ステップS105)、差分を比較部30に出力する(ステップS106)。比較部30は、差分が大きい方の信号処理回路10を示す特定情報をスイッチ40に出力する(ステップS107)。これにより、スイッチ40は、特定情報が示す信号処理回路10から出力された平均値がバッテリECU600に出力される。バッテリECU600は、差分が大きい方の信号処理回路が出力する平均値を測定値として導出する(ステップS108)。
【0032】
以上説明した構成では、バッテリECU600が電流値を測定する構成が示されたが、これに限るものではない。例えば、信号処理回路10は、信号処理IC200に含まれるが、差分出力部20、比較部30、およびスイッチ40は、バッテリECU600に含まれるような構成であってもよい。または、バッテリECU600の電流値を測定する構成を信号処理IC200に含めてもよい。すなわち、信号処理回路10、差分出力部20、比較部30、および導出部は、信号処理IC200に含まれる構成としてもよい。
【0033】
次に、エイリアシングとサンプリング周波数とについて説明する。図4は、サンプリング周波数と最大値、最小値、平均値を示すグラフである。図4に示されるグラフは、横軸がサンプリング周波数を示し、縦軸が電流値を示す。図4に示されるように、エイリアシングを起こす周波数は幅を持っていることがわかる。なお、図4および以下で用いられる電流値を示すグラフにおいては、電流値の平均値が0となるように、本来の電流値をオフセットを用いて補正した値となっている。
【0034】
次に、信号処理回路10-1、10-2のサンプリング周波数の調整方法について説明する。図5は、サンプリング周波数の調整方法を説明するための図である。図5において、縦軸はサンプリング周波数を示す。図5において、「最大値」は、電流測定システム1でサンプリング可能な最大のサンプリング周波数を示す。また、信号処理回路10がサンプリング可能なサンプリング周波数の範囲が示されている。その範囲内で、信号処理回路10-1、10-2サンプリング周波数が調整される。
【0035】
調整の手順としては、まず電流測定システム1でモニタしたい制御周波数(例えば、10msec)を把握する。次に、電流センサ1000として取りうるサンプリング周波数の幅を把握(例えば2.1kHz~4.7kHz)。そして、電流センサ1000のエイリアシング特性を持つ周波数幅を把握する。最後に、図5に示されるように、信号処理回路10-1、10-2のサンプリング周波数をずらした時に、倍周波数成分(倍成分)も含めてエイリアシング特性幅よりも差分が大きくなるように2つのサンプリング周波数を調整する。
【0036】
次に、実際にサンプリングした結果について説明する。図6図7図8は、バッテリ300とPCU400との間の電流値の矩形を示す周波数が3400Hzの場合に、信号処理回路10-1のサンプリング周波数を3400Hzとし、信号処理回路10-2のサンプリング周波数を4800Hzとした場合の平均値などを示す図である。いずれも横軸は時間(秒)、縦軸は電流値を示す。また平均値は、10ミリ秒内にサンプリングされた電流値の平均値を示す。
【0037】
図6に示されるように、サンプリング周波数が3400Hzの場合には、平均値に低周波のうねりが発生している。一方、図7に示されるように、サンプリング周波数が4800Hzの場合には、平均値がほぼ0となっている。なお、サンプリングされた電流値に示されるように、サンプリング周波数が4800Hzの方が、10ミリ秒内において、最大値、および最小値の差分が3400Hzの場合よりも大きいことがわかる。したがって、図7に示されるように、4800Hzでサンプリングする信号処理回路10-2の平均値が、スイッチ40から出力される。
【0038】
次に、他の周波数において実際にサンプリングした結果について説明する。図9図10図11は、バッテリ300とPCU400との間の電流値の矩形を示す周波数が4800Hzの場合に、信号処理回路10-1のサンプリング周波数を3400Hzとし、信号処理回路10-2のサンプリング周波数を4800Hzとした場合の平均値などを示す図である。いずれも横軸は時間(秒)、縦軸は電流値を示す。また平均値は、10ミリ秒内にサンプリングされた電流値の平均値を示す。
【0039】
図9に示されるように、サンプリング周波数が3400Hzの場合には、平均値がほぼ0となっている。一方、図10に示されるように、サンプリング周波数が4800Hzの場合には、平均値に低周波のうねりが発生している。なお、サンプリングされた電流値に示されるように、サンプリング周波数が3400Hzの方が、10ミリ秒内において、最大値、および最小値の差分が4800Hzの場合よりも大きいことがわかる。したがって、図10に示されるように、3400Hzでサンプリングする信号処理回路10-2の平均値が、スイッチ40から出力される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態では、センシングする対象に対してローパスフィルタなどの設定が適切ではなく、システムで見る必要のない細かい高周波の変動成分がエイリアシングとして見えてしまう場合に、モニタする回路とそのセンシング値の処理で、よりシステムとして必要なセンサ出力を入手することを特徴としている。そのため、幅広い周波数を伴う電流値に対しても測定が可能である。
【0041】
そして、ある所定時間内ごとの電流値をモニタしたい場合に、1つの信号処理回路の出力に対してサンプリング周波数をずらした、もう1つの信号処理回路を搭載する。そして、モニタしたい所定時間内より細かいサンプリングを行うことで得られた電流値から、所定時間内ごとの最大値、最小値、平均値を2つの信号処理回路それぞれで演算し、最大値、最小値の関係性から2つの信号処理回路の平均値のどちらが信頼すべき値かを判断することを特徴とする。そして、上述したように、最大値と最小値の差分が大きい信号処理回路の平均値をより正しいと判断することを特徴とする。平均値はなまし演算したものでもよい。
【0042】
これにより、より高周波のサンプリング周波数を発生させる信号処理回路を使うことなく、サンプリング周波数の小さく安価な信号処理回路を2つ採用することでコストダウンすることが可能となるという効果が得られる。
【0043】
また他の効果として、従来ではECUで処理したい用途や更新周期に従って、ハードウェアフィルタの設計変更が必要だったが、信号処理回路のサンプリング周波数設定をソフトウェア上で実施することで、ハードウェアフィルタ設計を変更することなく周波数に対する感度を変更することが可能となる。
例えば、差分出力、比較、および導出の各処理をバッテリECU600により実行するように実装することで、バッテリECU600により電流測定時の算出ロジック詳細の変更を柔軟にできる。
また、差分出力、比較、および導出の各処理を信号処理回路10により実行するように実装することで、バッテリECU600との信号通信量を低減することができる。
【0044】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 電流測定システム
10、10-1、10-2 信号処理回路
20、20-1、20-2 差分出力部
30 比較部
40 スイッチ
100 センサコア
300 バッテリ
500 モータ
600 バッテリECU
1000 電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14