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特許7580554自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体
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  • 特許-自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/06 20060101AFI20241101BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20241101BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241101BHJP
   C08L 75/06 20060101ALI20241101BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20241101BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20241101BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20241101BHJP
   C08G 18/66 20060101ALI20241101BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20241101BHJP
   C08G 18/12 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C09D175/06
C09D7/40
B32B27/40
C08L75/06
C08G18/32 015
C08G18/42
C08G18/65 011
C08G18/66 040
C08G18/08 038
C08G18/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023186544
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】112134574
(32)【優先日】2023-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】曹 俊哲
(72)【発明者】
【氏名】廖 仁▲ユ▼
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-87183(JP,A)
【文献】特開2012-121984(JP,A)
【文献】特開2018-150421(JP,A)
【文献】特開2019-196469(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008800(WO,A1)
【文献】特開2012-57154(JP,A)
【文献】特開2007-56268(JP,A)
【文献】特開2012-140614(JP,A)
【文献】特開2017-128715(JP,A)
【文献】特開2013-213207(JP,A)
【文献】特開平7-195623(JP,A)
【文献】特開2013-154631(JP,A)
【文献】特開2013-49839(JP,A)
【文献】特開2016-108347(JP,A)
【文献】特開2016-147416(JP,A)
【文献】特開2018-167574(JP,A)
【文献】国際公開第2010/114135(WO,A1)
【文献】特開2003-55776(JP,A)
【文献】特開平3-237173(JP,A)
【文献】特開平6-180628(JP,A)
【文献】実開平2-108209(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 175/06
C09D 7/40
B32B 27/40
C08L 75/06
C08G 18/32
C08G 18/42
C08G 18/65
C08G 18/66
C08G 18/08
C08G 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己修復樹脂20重量部~50重量部と、
硬化剤1重量部~10重量部と、
艶消し剤0.1重量部~3重量部と、
溶剤40重量部~80重量部と、
を含み、
前記自己修復樹脂は、ポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーから合成され、
前記自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物において、水酸基とシアネート基とのモル比の値は、1.33~2.0であり、
前記自己修復樹脂の数平均分子量は、30000g/mol~200000g/molであることを特徴とする、自己修復樹脂組成物。
【請求項2】
前記自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物の総重量を100重量%として、
前記ポリエステルポリオールの含有量は75重量%~90重量%であり、
前記ジイソシアネートモノマーの含有量は3重量%~10重量%であり、
前記ビスフェノールモノマーの含有量は5重量%~15重量%である、請求項1に記載の自己修復樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステルポリオールの数平均分子量は、3000g/mol~5000g/molである、請求項1に記載の自己修復樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステルポリオールは、アジピン酸、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及び2-メチル-1,3-プロパンジオールから合成される、請求項1に記載の自己修復樹脂組成物。
【請求項5】
1,4-ブタンジオール:1,6-ヘキサンジオール(モル比)は、1:0.5~1:2であり、1,4-ブタンジオール:2-メチル-1,3-プロパンジオール(モル比)は、1:0.33~1:3である、請求項4に記載の自己修復樹脂組成物。
【請求項6】
前記ジイソシアネートモノマーは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネートトリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の自己修復樹脂組成物。
【請求項7】
前記ビスフェノールモノマーは、ビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス((4-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、及びジメチルビスフェノールAからなる群から選択される、請求項1に記載の自己修復樹脂組成物。
【請求項8】
第1の表面及び第2の表面を有する基材層と、
前記第1の表面に設置され、且つ請求項1~7のいずれか一項に記載の自己修復樹脂組成物から形成された、自己修復フィルム層と、
前記第2の表面に設置された接着剤層と、
前記接着剤層に設置された離型層と
を備え、
前記接着剤層は、基材層と離型層との間に設置されていることを特徴とする、自己修復フィルム構造体。
【請求項9】
前記基材層の材料はポリウレタン又はポリ塩化ビニルである、請求項8に記載の自己修復フィルム構造体。
【請求項10】
前記自己修復フィルム構造体の厚みは5μm~50μmである、請求項8に記載の自己修復フィルム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体に関し、特に、透明度が高く、ヘイズ値を調整することができる自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の市販されている基材は、表面の耐スクラッチ性が不十分であり、例えば、車のケース、携帯電話のケース、ラップトップのケース等が挙げられる。それらを使用中に永久的な傷がつきやすく、外観に影響を与える。基材の寿命を延ばすために、一般に基材の表面に保護層を貼り合わせて美しさを保つ。
【0003】
技術の発展及び自己修復材料(self-healing material)の発見により、業界は自己修復材料を基材に適用し始めた。基材の表面に保護層を形成して、外力により基材に傷がついた場合、基材の表面を加熱することにより元の外観に戻すことができる。しかし、既存の自己修復材料は、高い透明性と、艶消し又は光沢のある光沢特性とを両立することができない。
【0004】
例えば、保護層のマット特性を調整するために、先行技術では、自己修復材料にマット処理を行い、自己修復材料に散乱粒子を添加する技術的手段を提供する。しかし、マット処理は自己修復材料自体の特性を壊してしまい、散乱粒子を添加した後に散乱粒子が落ちてしまうという問題も起こりやすいため、成分の設計・改良をすることにより、自己修復樹脂組成物を調製することは、本事業の解決しようとする重要な課題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術の不足に対して、自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、自己修復樹脂組成物を提供する。自己修復樹脂組成物は、自己修復樹脂20重量部~50重量部と、硬化剤1重量部~10重量部と、艶消し剤0.1重量部~3重量部と、溶剤40重量部~80重量部と、を含む。自己修復樹脂は、ポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーから合成され、自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物において、水酸基とシアネート基とのモル比の値は、1.33~2.0であり、自己修復樹脂の数平均分子量は、30000g/mol~200000g/molである。
【0007】
一つの実施形態において、自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物の総重量を100重量%として、ポリエステルポリオールの含有量は75重量%~90重量%であり、ジイソシアネートモノマーの含有量は3重量%~10重量%であり、ビスフェノールモノマーの含有量は5重量%~15重量%である。
【0008】
一つの実施形態において、ポリエステルポリオールの数平均分子量は、3000g/mol~5000g/molである。
【0009】
一つの実施形態において、ポリエステルポリオールは、アジピン酸、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及び2-メチル-1,3-プロパンジオールで合成される。
【0010】
一つの実施形態において、1,4-ブタンジオール:1,6-ヘキサンジオール(モル比)は、1:0.5~1:2であり、1,4-ブタンジオール:2-メチル-1,3-プロパンジオール(モル比)は、1:0.33~1:3である。
【0011】
一つの実施形態において、ジイソシアネートモノマーは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネートトリマー(HDI-trimer)からなる群から選択される。
【0012】
一つの実施形態において、ビスフェノールモノマーは、ビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス((4-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、及びジメチルビスフェノールAからなる群から選択される。
【0013】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、自己修復フィルム構造体を提供する。自己修復フィルム構造体は、第1の表面及び第2の表面を有する基材層と、第1の表面に形成された自己修復フィルム層と、第2の表面に設置された接着剤層と、接着剤層に設置された離型層とを、備える。自己修復フィルム層は、前記自己修復樹脂組成物から形成される。接着剤層は、基材層と離型層との間に設置される。
【0014】
一つの実施形態において、基材層の材料はポリウレタン又はポリ塩化ビニルである。
【0015】
一つの実施形態において、自己修復フィルム構造体の厚みは5μm~50μmである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有利な効果として、本発明に係る自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体は、「自己修復樹脂は、ポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーから合成される」、「自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物において、水酸基とシアネート基とのモル比の値は、1.33~2.0である」及び「自己修復樹脂の数平均分子量は、30000g/mol~200000g/molである」といった技術的特徴によって、自己修復樹脂組成物で形成された自己修復フィルム層に、短時間の加熱や常温環境下で自己修復する機能がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る自己修復フィルム構造体の側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0019】
以下、所定の具体的な実施態様によって本発明の実施形態に係る「自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体」を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲が制限されることはない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つまたは複数の組み合わせを含むことがある。
【0020】
本発明に係る自己修復樹脂組成物は、比較的に低い化学結合エネルギーを有するため、比較的に低い温度で自己修復することができる。本発明の自己修復樹脂組成物は高い透明性を有すると共に、マット粒子を添加しても、自己修復機能を維持することができる。自己修復樹脂組成物を基材に塗布して、硬化を行った後に自己修復材料を形成することによって、保護の機能を果たすことができる。
【0021】
適用が簡単となるように、本発明は、自己修復樹脂組成物で形成された自己修復フィルム構造体を提供する。自己修復フィルム構造体を、保護しようとする表面に貼り合わせることができる。自己修復フィルム構造体自体は、自己修復機能を有し、材料を元の状態に戻すことができる。自己修復フィルム構造体が外力によって亀裂又は変形した後に、適切に加熱することによって、熱膨張で元の状態に戻ることができる(物理的修復)か、若しくは、熱膨張で破断された結合が再び接触して結合することができる(化学的修復)。
【0022】
本発明において、80℃~130℃の温度で短時間加熱するか、もしくは常温環境(例:50℃)に置くと、自己修復材料は、分子間の力によって亀裂を修復することを果たせる。
【0023】
特筆すべきことは、本発明に係る自己修復樹脂組成物は、ポリウレタン材料又はポリ塩化ビニル材料の基材に塗布することには特に適する。それによって、基材の表層に自己修復フィルム層(自己修復材料)を形成することで、基材を保護する効果を果たせる。
【0024】
本発明において、モノマーの選択、モノマー構造の設計及びモノマーの含有量の制御によって、自己修復材料に自己修復機能を与えることができる。また、本発明に係る自己修復樹脂組成物は、透明度が高い自己修復フィルム層を形成することができると共に、その表面をマット面や光沢面にするように調整することができる。
【0025】
自己修復樹脂組成物の総重量を100重量部として、本発明に係る自己修復樹脂組成物は、自己修復樹脂20重量部~50重量部と、硬化剤1重量部~10重量部と、艶消し剤0.1重量部~3重量部と、溶剤40重量部~80重量部と、を含む。
【0026】
本発明において、自己修復樹脂はポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーから合成される。異なるモノマーの使用、モノマー構造の設計、及びモノマーの含有量の制御によって、硬化した自己修復樹脂組成物(自己修復材料)は比較的に多い水素結合を有する。外力を受けて変形が発生する際に、自己修復材料は適切な温度で元の形状に戻ることができる。
【0027】
一つの示範例において、自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物の総重量を100重量%として、ポリエステルポリオールの含有量は75重量%~90重量%であり、ジイソシアネートモノマーの含有量は3重量%~10重量%であり、ビスフェノールモノマーの含有量は5重量%~15重量%である。
【0028】
好ましくは、ポリエステルポリオールの含有量は85重量%~90重量%であり、ジイソシアネートモノマーの含有量は3重量%~5重量%であり、ビスフェノールモノマーの含有量は5重量%~10重量%である。
【0029】
また、本発明において、自己修復樹脂の数平均分子量は、30000g/mol~200000g/molである。自己修復樹脂の数平均分子量が前記範囲を超えると、修復の効果を果たせない。例えば、自己修復樹脂の数平均分子量は、40000g/mol、50000g/mol、60000g/mol、70000g/mol、80000g/mol、90000g/mol、100000g/mol、110000g/mol、120000g/mol、130000g/mol、140000g/mol、150000g/mol、160000g/mol、170000g/mol、180000g/mol又は190000g/molであってもよい。
【0030】
自己修復樹脂を合成するすべてのモノマーにおいて、水酸基とシアネート基との官能基比も重要な指標である。本発明において、自己修復樹脂を合成するモノマー混合物における水酸基とシアネート基との官能基比の値は1.33~2.0である。例えば、自己修復樹脂を合成するモノマーにおける水酸基とシアネート基との官能基比の値は1.35、1.40、1.45、1.50、1.55、1.6、1.65、1.70、1.75、1.80、1.85、1.90又は1.95であってもよい。
【0031】
即ち、自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物における水酸基の含有量は、シアネート基の含有量より多い。ポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーで重合反応を行った後に、自己修復樹脂は依然として、水素結合を形成するのに適切な水酸基の含有量を有しているため、自己修復の機能を果たせる。
【0032】
ポリエステルポリオールは、ジオールモノマー及び二塩基酸モノマーから合成される。ジオールモノマーは、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及び2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む。二塩基酸モノマーはヘキサンジカルボン酸を含む。1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及び2-メチル-1,3-プロパンジオールと、ヘキサンジカルボン酸とを組み合わせる時に、他のモノマーを用いることに比べて、本発明に係るポリエステルポリオールは、最適な分子間距離及び十分な水酸基を有することができ、最適な修復特性のバランスを取ることができる。
【0033】
一つの示範例において、ポリエステルポリオールのためのモノマー混合物の総重量を100重量%として、1,4-ブタンジオールの含有量は30重量%~40重量%であり、1,6-ヘキサンジオールの含有量は20重量%~30重量%であり、2-メチル-1,3-プロパンジオールの含有量は15重量%~20重量%であり、アジピン酸の含有量は20重量%~40重量%である。
【0034】
具体的に説明すると、ポリエステルポリオールを合成するためのジオールモノマー混合物において、1,4-ブタンジオール:1,6-ヘキサンジオール(モル比)は、1:0.5~1:2であり、1,4-ブタンジオール:2-メチル-1,3-プロパンジオール(モル比)は、1:0.33~1:3である。それによって、ポリエステルポリオールに理想的な特性が与えられる。
【0035】
説明すべきことは、本発明において、先にジオールモノマー及び二塩基酸モノマーでポリエステルポリオールの重合を行い、次にポリエステルポリオールと、ジイソシアネートモノマーと、ビスフェノールモノマーとの重合を行う。ポリエステルポリオールを合成するモノマー(ジオールモノマー及び二塩基酸モノマー)と、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーとを全て混合して重合反応を行うことではない。このように、最終的に得た自己修復樹脂が理想的な自己修復効果を果たせるように、ポリエステルポリオールの特性を精確に制御することができる。
【0036】
ジイソシアネートモノマーは、ヘキサメチレンジイソシアネート(hexamethylene diisocyanate,HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4′-diisocyanato dicyclohexylmethane,H12MDI)、イソホロンジイソシアネート(isophorone diisocyanate,IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(methylene diphenyl diisocyanate,MDI)、及びヘキサメチレンジイソシアネートトリマー(hexamethylene diisocyanate trimer,HDI-trimer)からなる群から選択されてもよい。
【0037】
ビスフェノールモノマーは、ビスフェノールA(bisphenol A,BPA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(bis(4-hydroxyphenyl)cyclohexane,BPZ)、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(1,1’-bis(4-hydroxyphenyl)-3,3,5-trimethylcyclohexane,BP-TMC)、9,9-ビス((4-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(bisphenoxyethanolfluorene,BP-EF)、及びジメチルビスフェノールA(dimethyl-bisphenol A,DMBPA)からなる群から選択されてもよい。
【0038】
上記の内容に基づいて、自己修復樹脂は、式(I)で表されてもよい。
【化1】
【0039】
式(I)において、「X」は、ポリエステルポリオールが重合を行った後に形成された構造を示すものであり、「Y」は、ジイソシアネートモノマーが重合を行った後に形成された構造を示すものであり、「Z」は、ビスフェノールモノマーが重合を行った後に形成された構造を示すものである。ポリエステルポリオールの数平均分子量は3000g/mol~5000g/molであってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0040】
一つの示範例において、ジイソシアネートモノマーとしてヘキサメチレンジイソシアネートを用い、ビスフェノールモノマーとしてビスフェノールAを用いてもよい。ポリエステルポリオール、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びビスフェノールAで合成された自己修復樹脂は、式(II)で示すことができる。
【化2】
【0041】
式(II)において、「X」は、ポリエステルポリオールが重合を行った後に形成された構造を示すものである。自己修復樹脂の数平均分子量は30000g/mol~200000g/molであってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0042】
自己修復樹脂組成物において、硬化剤は、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートからなる群から選択されてもよい。
【0043】
自己修復樹脂組成物において、艶消し剤は、ポリメタクリル酸粒子、ポリスチレン粒子及び二酸化ケイ素粒子からなる群から選択されてもよい。艶消し剤の粒子径(D50)は0.5μm~10μmである。
【0044】
本発明では、特定のモノマー混合物から自己修復樹脂を合成するため、将来艶消し剤を添加しても、自己修復性樹脂の自己修復効果に悪影響を与えられることはない。
【0045】
自己修復樹脂組成物において、溶剤は、酢酸エチル、アセトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、ブタノン、イソプロピルアルコール、及びエタノールからなる群から選択されてもよい。好ましくは、溶剤は、ジメチルアセトアミドであってもよい。加工性を考慮して、自己修復樹脂組成物の固形分の含有量は、35%~45%であってもよい。
【0046】
上記の成分以外に、自己修復樹脂組成物は、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、触媒又はそれらの組み合わせを更に含んでもよい。
【0047】
例えば、触媒は、オクタン酸第一スズ、ジブチルスズジラウレート、メチルホスホン酸ジメチル、又はエチルホスホン酸ジエチルであってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。また、触媒の添加によって、自己修復フィルム層の合成及び自己修復フィルム層の修復に役に立つ。自己修復樹脂組成物の総重量を100重量部として、触媒の添加量は1重量部~5重量部であってもよい。
【0048】
図1に示すように、本発明に係る自己修復フィルム構造体は、基材層1と、自己修復フィルム層2と、接着剤層3と、離型層4と、を備える。
【0049】
基材層1は、第1の表面11及び第2の表面12を有する。
【0050】
前記自己修復樹脂組成物を基材層1の第1の表面11に塗布した後に、乾燥・熟成工程を経て、第1の表面11に自己修復フィルム層2が形成されることができる。即ち、自己修復フィルム層2は、前記自己修復樹脂組成物を硬化した後に形成されたものである。
【0051】
接着剤層3は、基材層1の第2の表面12に設置される。
【0052】
離型層4は、接着剤層3が基材層1と離型層4との間に設置されるように、接着剤層3に設置される。また、離型層4と接着剤層3との剥離強度が比較的に低いため、使用する前に、離型層4を先に分離し、接着剤層3を介して、基材層1及び自己修復フィルム層2を保護しようとする面に設置する。
【0053】
本発明に係る自己修復フィルム構造体は可撓性を有するため、離型層4を分離させた後に、表面を保護する効果を果たせるように、接着剤層3を介して任意の表面に貼り合わせることができる。
【0054】
本発明に係る自己修復樹脂組成物の効果を説明するために、以下の方法によって、ポリエステルポリオールを製造したと共に、ポリエステルポリオール、イソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーで自己修復樹脂を合成した。しかしながら、後述する示範例はあくまでも説明するためのものであり、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例
【0055】
[ポリエステルポリオールの合成]
1,4-ブタンジオール50gと、1,6-ヘキサンジオール60gと、2-メチル-1,3-プロパンジオール60gと、アジピン酸190gとを混合して、150℃~200℃の温度で1~2時間反応させて、ポリエステルポリオールを得た。本示範例において、ポリエステルポリオールの数平均分子量は4000g/molであった。
【0056】
[自己修復樹脂の合成]
表1及び表1の当量比に基づいて、ポリエステルポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート(ジイソシアネートモノマー)とを混合して、80℃の温度で1~2時間反応させ、その後、ビスフェノールA(ビスフェノールモノマー)及びジブチルスズジラウレート(触媒)を更に添加して、100℃の温度で5~6時間反応させることによって、実施例1~5及び比較例1~4に係る自己修復樹脂を得た。
【0057】
自己修復フィルム層の修復効果をテストするために、自己修復樹脂100重量部と、硬化剤10重量部と、艶消し剤0.5重量部と、溶剤300重量部とを混合することによって、実施例1~5及び比較例1~4に係る自己修復樹脂組成物を得た。
【0058】
自己修復樹脂組成物の固形分の含有量が40%である場合、自己修復樹脂組成物の粘度は500cps~10000cpsであり、例えば、1000cps、2000cps、3000cps、4000cps、5000cps、6000cps、7000cps、8000cps又は9000cpsであってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0059】
自己修復樹脂組成物を調製した後に、自己修復樹脂組成物をポリウレタン材料又はポリ塩化ビニルの基材層に塗布した。80℃~120℃の温度で3分~5分乾燥、その後40℃~70℃の温度で熟成させ、24時間~120時間保存して厚さ5μm~50μmの自己修復フィルム層が基材層に形成されて、試験サンプルを得た。
【0060】
修復時間に関する試験において、銅ブラシを使用して試験サンプルの表面に傷を付け、傷を付けた試験サンプルを100℃の環境に置き、試験サンプルの表面が戻るまでの時間を観察した。それによって、試験サンプルの傷を元の状態に修復する効果を評価し、その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2によれば、本発明に係る自己修復樹脂組成物は、自己修復機能を有する自己修復フィルム層を形成することができる。80℃~130℃の温度で短時間加熱すれば、分子間の力によって亀裂を修復することを果たせる。
【0064】
表1及び表2によれば、自己修復樹脂用モノマーの官能基比は、自己修復樹脂の修復効果に影響する。実施例1及び比較例1の結果によれば、自己修復樹脂における水酸基とシアネート基との官能基比の値(OH/NCO官能基比の値)が1.33未満である自己修復フィルム層は自己修復の効果を有しない。実施例2及び比較例2の結果によれば、自己修復樹脂における水酸基とシアネート基との官能基比の値が2.5以上である自己修復フィルム層も自己修復の効果を有しない。このように、自己修復樹脂における水酸基とシアネート基との官能基比の値が1.33~2.0であることが必要であり、1.33~1.66であることが好ましい。
【0065】
表1及び表2によれば、自己修復樹脂の分子量も自己修復樹脂の修復効果に影響する。比較例3の結果によれば、自己修復樹脂の分子量が30000g/mol未満であると、自己修復フィルム層は自己修復の効果を有しない。実施例5及び比較例4の結果によれば、自己修復樹脂の分子量が200000g/molを超えると、自己修復フィルム層も自己修復の効果を有しない。このように、自己修復樹脂の数平均分子量は30000g/mol~200000g/molである必要であり、50000g/mol~150000g/molであることが好ましい。
【0066】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体は、「自己修復樹脂は、ポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーから合成される」、「自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物において、水酸基とシアネート基とのモル比の値は、1.33~2.0である」及び「自己修復樹脂の数平均分子量は、30000g/mol~200000g/molである」といった技術的特徴によって、自己修復樹脂組成物から形成される自己修復フィルム層に、短時間の加熱や常温環境下で自己修復する機能を与えることができる。
【0067】
更に説明すると、自己修復樹脂組成物の自己修復効果を向上するために、本発明では、自己修復樹脂のモノマーの種類及び含有量を制御して、特定種類のポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーを用いることによって、自己修復フィルム層の自己修復効果を向上させる。また、本発明では、ポリエステルポリオールのモノマー種類、比率及びポリエステルポリオールの分子量を更に制御することによって、ポリエステルポリオールの特性を制御する。
【0068】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・基材層
11・・・第1の表面
12・・・第2の表面
2・・・自己修復フィルム
3・・・粘着層
4・・・離型層
【要約】
【課題】本発明は、自己修復樹脂組成物及び自己修復フィルム構造体を提供する。
【解決手段】自己修復樹脂組成物は、自己修復樹脂20重量部~50重量部と、硬化剤1重量部~10重量部と、艶消し剤0.1重量部~3重量部と、溶剤40重量部~80重量部と、を含む。自己修復樹脂は、ポリエステルポリオール、ジイソシアネートモノマー及びビスフェノールモノマーから合成され、自己修復樹脂を合成するためのモノマー混合物において、水酸基とシアネート基とのモル比の値は、1.33~2.0であり、自己修復樹脂の数平均分子量は、30000g/mol~200000g/molである。
【選択図】図1
図1