(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】制振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20241101BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/02 D
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2023203869
(22)【出願日】2023-12-01
【審査請求日】2023-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高峰 宏周
(72)【発明者】
【氏名】酒井 快典
(72)【発明者】
【氏名】山口 路夫
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094459(JP,A)
【文献】特開2001-090382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と上部構造体との間に設置される球面滑り支承と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に、前記球面滑り支承と並列に設置される棒状の長尺体と、
を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が所定変位値に達すると、前記長尺体に引張応力が作用
し、
前記長尺体に作用した引張応力により、前記長尺体に水平抵抗力及び鉛直抵抗力が発生し、
前記長尺体の前記鉛直抵抗力は、前記球面滑り支承への付加軸力を増加させる、
制振構造。
【請求項2】
下部構造体と上部構造体との間に設置される球面滑り支承と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に、前記球面滑り支承と並列に設置される長尺体と、
を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が所定変位値に達すると、前記長尺体に引張応力が作用し、
前記長尺体は、
前記長尺体の一端側に、前記長尺体と一体に設けられた拡大部を備え、
前記拡大部により前記一端側の移動が抑制可能であ
り、
前記長尺体に作用した引張応力により、前記長尺体に水平抵抗力及び鉛直抵抗力が発生し、
前記長尺体の前記鉛直抵抗力は、前記球面滑り支承への付加軸力を増加させる、
制振構造。
【請求項3】
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が前記所定変位値に達すると、前記長尺体の引張応力が増加する、
請求項1又は2に記載の制振構造。
【請求項4】
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が前記所定変位値に達すると、前記長尺体の移動が抑制される、請求項1又は2に記載の制振構造。
【請求項5】
前記所定変位値が0である、請求項1又は2に記載の制振構造。
【請求項6】
前記長尺体には初期張力が存在する、請求項5に記載の制振構造。
【請求項7】
前記所定変位値がレベル2以下の地震動における最大変位相当量である、請求項1又は2に記載の制振構造。
【請求項8】
下部構造体と上部構造体との間に設置される球面滑り支承と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に、前記球面滑り支承と並列に設置される長尺体と、
を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が所定変位値に達すると、前記長尺体に引張応力が作用し、
前記長尺体は、
一端側に配置された第1拡大部と、
他端側に配置された第2拡大部と、を備え、
前記上部構造体には前記第1拡大部の移動を抑制可能な第1移動抑制部材が設けられ、
前記下部構造体には前記第2拡大部の移動を抑制可能な第2移動抑制部材が設けられ、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が前記所定変位値未満であると、前記第2拡大部は前記第2移動抑制部材に当接せず、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が前記所定変位値に達すると、前記第2拡大部が前記第2移動抑制部材に当接
し、
前記長尺体に作用した引張応力により、前記長尺体に水平抵抗力及び鉛直抵抗力が発生し、
前記長尺体の前記鉛直抵抗力は、前記球面滑り支承への付加軸力を増加させる、
制振構造。
【請求項9】
前記所定変位値が最大変位相当量に対応する、
請求項8に記載の制振構造。
【請求項10】
下部構造体と上部構造体との間に設置される球面滑り支承と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に、前記球面滑り支承と並列に設置される長尺体と、
を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が所定変位値に達すると、前記長尺体に引張応力が作用し、
前記長尺体は、
一端側に配置された第1拡大部と、
他端側に配置された第2拡大部と、を備え、
前記上部構造体には前記第1拡大部の移動を抑制する第1移動抑制部材が設けられ、
前記下部構造体には前記第2拡大部の移動を抑制する第2移動抑制部材が設けられ、
前記変位量が0であるとき、前記第1拡大部は前記第1移動抑制部材に当接するとともに、前記第2拡大部は前記第2移動抑制部材に当接する、
制振構造。
【請求項11】
前記長尺体は、前記長尺体に作用する引張応力が所定応力値を超えると破断する、請求項1、2、8又は10に記載の制振構造。
【請求項12】
前記長尺体は、
一端側に配置された第1拡大部と、
他端側に配置された第2拡大部と、を備え、
前記上部構造体には前記第1拡大部の移動を抑制可能な第1移動抑制部材が設けられ、
前記下部構造体には前記第2拡大部の移動を抑制可能な第2移動抑制部材が設けられ、
前記第1移動抑制部材及び第2移動抑制部材の少なくともいずれかが皿ばねを含む、請求項1、2、8又は10に記載の制振構造。
【請求項13】
前記長尺体は、表面が曲面形状の拡大部を含む、請求項1、2、8又は10に記載の制振構造。
【請求項14】
前記長尺体は、球形状の拡大部を含む、請求項1、2、8又は10に記載の制振構造。
【請求項15】
前記第1移動抑制部材及び前記第2移動抑制部材の少なくともいずれかには、前記長尺体の前記第1拡大部と前記第2拡大部の間の棒状部が挿入される、請求項8又は請求項10に記載の制振構造。
【請求項16】
下部構造体と上部構造体との間に設置される球面滑り支承と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に、前記球面滑り支承と並列に設置される長尺体である第1長尺体及び第2長尺体と、
を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が第1所定変位値に達すると、前記第1長尺体に引張応力が作用し、
前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が前記第1所定変位値より大きい第2所定変位値に達すると、前記第2長尺体に引張応力が作用する、
制振構造。
【請求項17】
前記第1所定変位値が0である、請求項16に記載の制振構造。
【請求項18】
前記第1所定変位値は、レベル2以下の地震動における最大変位相当量であり、
前記第2所定変位値は、レベル3以下の地震動における最大変位相当量である、請求項16に記載の制振構造。
【請求項19】
前記球面滑り支承が複数設けられ、
前記長尺体は、水平方向に並んで配置された、複数の前記球面滑り支承のうち2つの間に配置されている、
請求項1、2、8、10又は16に記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一例である特許文献1には、免震建物の免震層において、免震装置とともに配設される耐風装置であって、鋼製の第一プレートと、鋼製の第二プレートと、前記第一プレートの一方の第一広幅面に配設されている第一摩擦材と、前記第二プレートの一方の第二広幅面に配設されている第二摩擦材と、相互に当接する前記第一摩擦材と前記第二摩擦材を圧接する締め付けボルトと、を少なくとも有し、前記締め付けボルトに対して設計張力が導入されることにより、前記第一摩擦材と前記第二摩擦材が設計摩擦力を有して圧接されており、前記設計摩擦力以上の外力で前記第一摩擦材と前記第二摩擦材が引っ張られ、該第一摩擦材と該第二摩擦材の当接が解除された際に、前記耐風装置を形成する構成部材の一部が当初位置から係脱することにより、前記設計張力が解放される耐風装置が開示されている。
特許文献1の
図1に示す耐風装置100は、免震装置400と並列に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術を例示した免震層では、地震動又は風荷重による変位量に応じて適切な制振を可能とする技術に対する要請がある。
【0005】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、地震動又は風荷重による変位量に応じて適切な制振が可能な制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る制振構造は、下部構造体と上部構造体との間に設置される球面滑り支承と、前記下部構造体と前記上部構造体との間に、前記球面滑り支承と並列に設置される長尺体と、を備え、前記下部構造体と前記上部構造体との間の変位量が所定変位値を超えると、前記長尺体に引張応力が作用する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、地震動又は風荷重による変位量に応じて適切な制振を可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る制振構造の無変位時の設置状態を示す第1の部分立面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る制振構造の無変位時の設置状態を示す第2の部分立面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る制振構造の変位時の状態を示す部分立面図である。
【
図4】
図4(a)は、
図1に示す制振構造の変位量が0であるときの長尺体20の拡大模式図であり、
図4(b)は、第1拡大部と第1移動抑制部材との当接部分のさらなる拡大模式図であり、
図4(c)は、
図4(a)の変形例を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、実施形態に係る制振構造が備える長尺体の変位量δ=0のときの拡大模式図であり、
図5(b)は、実施形態に係る制振構造が備える長尺体の変位量δ>0のときの拡大模式図である。
【
図6】
図6(a)は、実施形態において、変位量に対する球面滑り支承に作用する復元力の関係を示す図であり、
図6(b)は、実施形態において、変位量に対する長尺体に作用する復元力の関係を示す図であり、
図6(c)は、実施形態において、変位量に対する長尺体に作用する付加軸力の関係を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、第1実施形態に係る制振構造の変位量に対する球面滑り支承と長尺体のそれぞれの復元力、及び長尺体の付加軸力を示す図であり、
図7(b)は、第1実施形態に係る制振構造の変位量に対する制振構造全体の復元力を示す図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る制振構造の変位量に対する制振構造全体の変位の復元力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本開示の実施形態に係る制振構造について説明する。
図1は、本実施形態に係る制振構造1の無変位時の設置状態を示す第1の部分立面図である。
なお、
図1において、上部構造体Uと下部構造体Lの厚み方向(紙面縦方向)を上下方向とし、上部構造体U及び下部構造体Lの延伸する方向(紙面横方向)を第1水平方向とし、上下方向及び第1水平方向に対して垂直な方向(紙面奥行方向)を第2水平方向とする。
また、第1水平方向と第2水平方向に沿って形成される水平面の方向を、単に、水平方向とする。
【0010】
図1に示す制振構造1は、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に設置される。
図1に示す上部構造体Uは、建築物の下部であり、例えば、高層ビル又は橋梁をはじめとした建築物の下部である。
図1に示す下部構造体Lは、地盤の上に配置される構造体であり、例えば、地盤に設置される基礎構造である。なお、下部構造体Lは地盤の上に配置されることに限定されない。下部構造体Lは、例えば建築物の1階床より上に配置されていてもよい。制振構造1は、中間層免振、柱頭免振として用いることも可能である。
図1に示す制振構造1は、地震動による地盤の水平変位が建築物に伝達されることを抑制する。
【0011】
図1に示す制振構造1は、球面滑り支承10と、長尺体20と、を備える。
図1に示す球面滑り支承10と長尺体20とは、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に、第1水平方向に並列して設置されている。
【0012】
図2は、本実施形態に係る制振構造1の無変位時の設置状態を示す第2の部分立面図である。
図2に示す制振構造1においては、球面滑り支承10が、複数設けられている。
このとき、長尺体20は、水平方向に並んで配置された複数の球面滑り支承10のうちいずれか2つの間に配置されているとよい。
例えば、
図2に示すように、複数の球面滑り支承10のうち2つが第1水平方向に並んで配置されているとき、長尺体20は、第1水平方向において2つの球面滑り支承10の間に配置されていてもよい。
【0013】
まず、球面滑り支承10について以下に説明する。
図1に示す球面滑り支承10は、下沓11と、摺動子12と、上沓13と、を有する。
下沓11は、下部構造体Lの上に配置される球座部であり、上方に面する凹球面である第1摺動面11aを備える。
第1摺動面11aは、内壁11bに囲まれており、摺動子12の第2摺動面12aと摺動する滑り面である。
下沓11は、下部構造体Lに対して固定されていればよく、固定手段は限定されない。沓11は、下部構造体Lに対して、締結手段であるボルトにより固定されていてもよいし、溶接により固定されていてもよい。
上沓13は、上部構造体Uの下に配置され、下方に面する凹球面である第3摺動面13aを備える。
第3摺動面13aは、内壁13bに囲まれており、摺動子12の第4摺動面12bと摺動する滑り面である。
上沓13は、上部構造体Uに対して固定されていればよく、その固定手段は限定されない。上沓13は、上部構造体Uに対して、締結手段であるボルトにより固定されていてもよいし、溶接により固定されていてもよい。
【0014】
第1摺動面11a及び第3摺動面13aは、平面視において円形状に形成されるとよい。
また、第1摺動面11a及び第3摺動面13aは、水平方向に沿って見た断面視において円弧形状に形成される。
【0015】
摺動子12は、下沓11と上沓13との間に配置され、下方に面する凸球面である第2摺動面12aと、上方に面する凸球面である第4摺動面12bと、を備える。
第2摺動面12aは、下沓11の第1摺動面11aと摺動する。
第4摺動面12bは、上沓13の第3摺動面13aと摺動する。
【0016】
図3は、本実施形態に係る制振構造1の変位時の状態を示す部分立面図である。
図3に示す制振構造1の球面滑り支承10は、上沓13と下沓11とが水平方向に相対移動することで、上部構造体Uと下部構造体Lとにかかる水平変位を減衰する。
このとき、摺動子12は、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値に達すると、内壁11b及び内壁13bに当接する。
ここで、変位量は、水平方向の変位量であり、例えば、第1水平方向における変位量である。
【0017】
ここまで、摺動子12の上下に凹形の球面状すべり面を有するダブルペンデュラムタイプの球面滑り支承10について説明したが、本開示における球面滑り支承は、これに限定されるものではない。
すなわち、下沓11と、上沓13と、摺動子12と、を有する球面滑り支承について説明したが、本開示における球面滑り支承はこれに限定されるものではない。
球面滑り支承10は、シングルペンデュラムタイプであってもよい。
すなわち、球面滑り支承10は、第1摺動面11aを有する下沓11に相当する球座部と、第2摺動面12aを有する摺動子12と、を備えていればよく、上沓13及び第4摺動面12bを備えていなくてもよい。
又は、球面滑り支承10は、第3摺動面13aを有する上沓13と、第4摺動面12bを有する摺動子12と、を備えていればよく、下沓11及び第2摺動面12aを備えていなくてもよい。
【0018】
次に、長尺体20について以下に説明する。
図1に示す長尺体20は、棒状部21と、拡大部22と、移動抑制部材23と、を備える。
図1に示す長尺体20は、上部構造体Uと下部構造体Lとを連結して、上部構造体Uの移動を抑制する。
なお、
図1に示す長尺体20は、第1水平方向に2本配置されているが、制振構造1に設けられる長尺体20の本数は、これに限定されるものではなく、1本配置されていてもよいし、3本以上配置されていてもよい。
また、第1水平方向に並列に配置される長尺体20の本数と第2水平方向に並列に配置される長尺体20の本数とを等しくしてもよい。
なお、長尺体20による水平抵抗力(詳しくは後述する)は、第1水平方向及び第2水平方向のいずれにも作用する。このため、制振構造1に設けられる長尺体20の必要本数は、建築物の第1水平方向及び第2水平方向の、それぞれにおける変位に対する応答性状から求めることができる。また、平面視における長尺体20の配置は、免震層の捩れを抑制するように設定することが好ましい。
【0019】
図4(a)は、
図1に示す制振構造1の変位量が0であるときの長尺体20の拡大模式図である。
図4(b)は、第1拡大部22aと第1移動抑制部材23aとの当接部分のさらなる拡大模式図である。
図4(a)に示す拡大部22は、各棒状部21の両端部又は両端部の近傍に配置されている。
図4(a)に示す拡大部22の形状は、球形状であるが、拡大部22の形状はこれに限定されるものではなく、移動抑制部材23と当接可能な形状であればよい。
拡大部22の移動抑制部材23と当接する部分は、例えば、曲面形状を有していればよく、代表的には、半球形状又は球形状である。
これにより、拡大部22と移動抑制部材23との当接する部分における応力集中又は変位時の衝突による破損等を防止することができる。
なお、以下の説明においては、棒状部21の上側に配置される拡大部は第1拡大部22aと呼称し、棒状部21の下側に配置される拡大部は第2拡大部22bと呼称する。
また、第1拡大部22aと当接する移動抑制部材は、第1移動抑制部材23aと呼称し、第2拡大部22bと当接する移動抑制部材は、第2移動抑制部材23bと呼称する。
【0020】
移動抑制部材23は、上部構造体U及び下部構造体Lのそれぞれに、拡大部22と当接可能に配置されている。
図4(b)に示す第1移動抑制部材23aは、平面視において、中央に貫通孔24が設けられた矩形状の板である。
第1移動抑制部材23aは、一方の面である第1面Aに、貫通孔24に向かって縮径する球座面25を有する。
この球座面25において、第1移動抑制部材23aは第1拡大部22aと当接する。
従って、この球座面25は、第1拡大部22aに沿った形状であることが好ましい。
さらには、第1拡大部22aと第1移動抑制部材23aとは、摺動可能であるとよい。
第1移動抑制部材23aは、他方の面である第2面Bに、貫通孔24に向かって縮径するテーパ構造を有していてもよい。
なお、ここでは第1移動抑制部材23aについて説明したが、第2移動抑制部材23bについても同様である。
第1移動抑制部材23aの貫通孔24及び第2移動抑制部材23bの貫通孔24には、長尺体20の第1拡大部22aと第2拡大部22bの間の棒状部21が挿入される。
これにより、上部構造体Uと下部構造体Lとが連結されるとともに、上部構造体Uの移動を抑制可能である。
すなわち、第1拡大部22aは、後述の第1移動抑制部材23aによって移動を抑制可能に配置され、第2拡大部22bは、後述の第2移動抑制部材23bによって移動を抑制可能に配置される。
【0021】
ここで、
図4(a)に示すように、無変位時の第1移動抑制部材23aと第2移動抑制部材23bとの間の上下方向の長さを長さL
a1とし、長尺体20に引張応力が作用していないときの第1拡大部22aと第2拡大部22bとの間の棒状部21の長さを長さL
bとする。
【0022】
図4(a)に示すように、長さL
a1と長さL
bの関係がL
a1<L
bであるとき、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接せず、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bより下方にL
a1とL
bとの差分の長さだけ離間されて配置されている。
このとき、長さL
a1と長さL
bの差分の長さをクリアランスと呼称する。
【0023】
図4(c)は、
図4(a)の変形例を示す図である。
図4(c)に示すように、長さL
a1と長さL
bの関係がL
a1≧L
bであるとき、第1拡大部22aは第1移動抑制部材23aに当接するとともに、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接する。
【0024】
なお、
図4(a)に示すように、長さL
a1と長さL
bの関係がL
a1<L
bであるとき、第1移動抑制部材23a及び第2移動抑制部材23bの少なくともいずれかが皿ばねを含んでいてもよい。
【0025】
次に、本実施形態に係る制振構造1に水平変位が発生した際の挙動について説明する。
【0026】
まず、地震動又は風荷重によって、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に変位が発生する。
このとき、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に発生した水平方向の変位の量を変位量δとする。
【0027】
ここで、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に変位が発生したときの長尺体20の挙動について、
図5(a),(b)を参照して説明する。
図5(a)は、本実施形態に係る制振構造1が備える長尺体20の変位量δ=0のときの拡大模式図である。
図5(b)は、本実施形態に係る制振構造1が備える長尺体20の変位量δ>0のときの拡大模式図である。
図5(b)において、下部構造体Lの任意の点Pと、無変位時に点Pに対向する位置の上部構造体Uの点Q1との間の長さを長さL
Q1とする。
下部構造体Lと上部構造体Uとの間に変位量δの変位が発生すると、下部構造体Lの任意の点Pから見た上部構造体Uの相対位置が、点Q1から点Q2に変化する。
点Pと点Q2との間の長さを長さL
Q2としたとき、長さL
Q1と長さL
Q2の関係は、L
Q1<L
Q2となる。
このため、第1移動抑制部材23aと第2移動抑制部材23bとの間の無変位時の長さL
a1と、変位が発生したときの第1移動抑制部材23aと第2移動抑制部材23bとの間の上下方向の長さL
a2の関係は、L
a1<L
a2となる。
【0028】
変位量δが所定変位値未満であるとき、第1拡大部22aが第1移動抑制部材23aに当接せず、第2拡大部22bが第2移動抑制部材23bに当接しない。
図5(b)において、変位量δが所定変位値に達すると、長さL
a2と長さL
bの関係はL
a2=L
bとなり、第1拡大部22aが第1移動抑制部材23aに当接するとともに、第2拡大部22bが第2移動抑制部材23bに当接することで、上部構造体Uの移動が抑制される。
さらに、変位量δが所定変位値を超えると、長さL
a2と長さL
bの関係はL
a2>L
bとなり、長尺体20に引張応力が作用する。
【0029】
長尺体20に引張応力が作用すると、長尺体20に水平抵抗力及び鉛直抵抗力が発生する。
ここで、長尺体20に引張応力が作用したときの引張応力の水平方向成分を水平抵抗力(復元力)と表し、引張応力の鉛直方向成分を鉛直抵抗力(付加軸力)と表す。
【0030】
図6(a)は、免震層に球面滑り支承10のみを配置したときの、変位量δに対する球面滑り支承10に作用する復元力G
1の関係を示す図である。
ここで、復元力とは、物体の位置がある場所からずれた時に、元の場所に引き戻そうとする力をいう。
免震層において、制振構造1に作用する復元力G
1は、変位の減衰力として作用する。球面滑り支承10に発生する復元力G
1は、変位量δの増加に従い、大きくなる。
【0031】
図6(b)は、変位量δに対する長尺体20に作用する復元力(水平抵抗力)G
2の関係を示す図である。
図6(c)は、変位量δに対する長尺体20に作用する付加軸力(鉛直抵抗力)G
3の関係を示す図である。
なお、
図6(b)及び
図6(c)に示すように、変位量が所定変位値δ
3を超えるまでは、長尺体20に引張応力が作用しない。長尺体20の有する棒状部21の降伏時の変位量をδ
1とし、棒状部21の破断時の変位量をδ
2とする。
【0032】
次に、La1<Lbである第1実施形態と、La1=Lbである第2実施形態とに分けて、水平変位発生時について説明する。
【0033】
(La1<Lbである第1実施形態)
長さLa1と長さLbの関係がLa1<Lbであるとき、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量δが所定変位値δ3未満であると、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接せず、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量δが所定変位値δ3に達すると、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接する。
すなわち、所定変位値δ3とは、長さLa2と長さLbの関係がLa2=Lbとなるときの変位量をいい、所定変位値δ3は、0以上の任意の値である。
所定変位値δ3は、例えば長さLa1と長さLbとの差分の長さであるクリアランスによって調節することができる。
【0034】
このため、風荷重又は地震動等により変位が発生したときであっても、変位量δが所定変位値δ3を超えない限り、長尺体20に引張応力は作用しない。したがって、変位量δが所定変位値δ3を超えるまでは、球面滑り支承10に対して長尺体20の付加軸力(鉛直抵抗力)が作用せず、球面滑り支承10の摺動子12と上沓13及び下沓11とが変位量に応じて自由に相対移動する。このとき、摺動子12に対して、第1摺動面11a及び第3摺動面13aの凹球面の中央に戻ろうとする水平方向の力が作用する。このように、球面滑り支承10には復元力が発生する。
【0035】
下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量δが所定変位値δ3を超えるように力が作用すると、長尺体20に引張応力が作用する。このとき、長尺体20の鉛直抵抗力が球面滑り支承10に対して付加軸力として作用し、球面滑り支承10の上沓13と下沓11との水平方向の移動を抑制する。これにより、長尺体20は、免震層の移動を抑制し、球面滑り支承10及び長尺体20の移動を抑制する。
【0036】
第1実施形態においては、所定変位値δ3がレベル2地震動における最大変位相当量δLV2であるときについて説明するが、本開示は所定変位値がレベル2地震動における最大変位相当量δLV2であるときに限定されるものではない。
所定変位値δ3は、例えば他のレベルの地震動における最大変位相当量であってもよく、例えばレベル2以下の地震動における最大変位相当量であってもよい。
ここで、地震動の「レベル」は、地震動の強さを指す指標である。
なお、地震の「レベル」については、「2020年版 建築物の構造関係技術基準解説書」(編集 一般財団法人 建築行政情報センター、一般財団法人 日本建築防災協会;71頁)の記載によれば、以下のように規定されている。
すなわち、50年に一度程度の稀に起きる震度の地震動をレベル1地震動とする。
レベル1地震動は、建物の耐用年数中に一度以上発生する可能性が高いものである。
また、500年に一度程度の極めて稀に起きる震度の地震動をレベル2地震動とする。
また、レベル2地震動よりも規模の大きな極大震度の地震動をレベル3地震動とする。
【0037】
図7(a)は、本実施形態に係る制振構造1の変位量δに対する球面滑り支承10と長尺体20のそれぞれの復元力を示す図である。
図7(a)において、復元力G
1は、制振構造1の変位量δに対する球面滑り支承10の復元力を示す。
図7(a)において、復元力G
2は、制振構造1の変位量δに対する長尺体20の復元力を示す。
図7(a)において、付加軸力G
3は、制振構造1の変位量δに対して、長尺体20によって球面滑り支承10にかかる付加軸力を示す。
図7(a)に示すように、変位量δが0から所定変位値δ
3であるレベル2地震動における最大変位相当量δ
LV2に達するまでは、長尺体20には復元力が発生せず、球面滑り支承10にのみ復元力G
1が発生する。
変位量δがレベル2地震動における最大変位相当量δ
LV2を超えると、球面滑り支承10のみならず、長尺体20にも復元力G
2が発生する。
そして、変位量δがレベル2地震動における最大変位相当量δ
LV2を超えると、球面滑り支承10において、長尺体20の引張応力により、付加軸力G
3も作用する。
【0038】
図7(b)は、本実施形態に係る制振構造1の変位量δに対する制振構造1全体の復元力を示す図である。
図7(b)において、復元力G
5は、制振構造1の変位量δに対する制振構造1全体の復元力を示す。
図7(b)に示すように、所定変位値δ
3を超える変位量δにおいて、長尺体20に引張応力が作用すると、制振構造1全体の復元力が向上する。
【0039】
具体的には、本実施形態において、変位量δが0から所定変位値δ3(レベル2地震動における最大変位相当量δLV2)に達するまでは、球面滑り支承10のみが制振し、復元力G5は復元力G1と同様に変化する。
球面滑り支承10のみが制振しているときの挙動は、従来の球面滑り支承による制振と同じである。
そして、変位量δが所定変位値δ3(レベル2地震動における最大変位相当量δLV2)を超えると、長尺体20に引張応力が作用する。
長尺体20に作用する引張応力は、付加軸力G3及び復元力G2をもたらす。
【0040】
このとき、長尺体20によって発生する復元力G2は、球面滑り支承10によって発生する復元力G1と併せて、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位を減衰させる。
そのため、復元力G1に対して、復元力G2分の復元力が加えられる。
【0041】
また、長尺体20による鉛直抵抗力は、球面滑り支承10への付加軸力G3となる。
長尺体20によって球面滑り支承10への付加軸力が加えられると、摺動子12が上沓13及び下沓11に押し付けられる。
これにより、摺動子12と上沓13及び下沓11との間に発生する摩擦力が増加する。
球面滑り支承10に発生する摩擦力が増加すると、球面滑り支承10の相対移動が抑制される。
【0042】
このように、制振構造1において、所定変位値δ3を超える変位量で長尺体20に引張応力が作用することで、復元力G2のみならず付加軸力G3によっても、球面滑り支承10の相対移動が抑制されることになる。
【0043】
(La1=Lbである第2実施形態)
長さLa1と長さLbの関係がLa1=Lbであるとき、第1拡大部22aは第1移動抑制部材23aに当接するとともに、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接する。
このとき、所定変位値δ3は0である。
このため、変位量が0を超えると、長尺体20に引張応力が作用する。
【0044】
図8は、本実施形態に係る制振構造1の変位量δに対する制振構造1全体の変位の復元力を示す図である。
図8において、復元力G
6は、制振構造1の変位量δに対する制振構造1全体の復元力を示す図である。
【0045】
長尺体20に引張応力が作用することによる制振構造1全体の挙動は前述の通りであるが、本実施形態では所定変位値が0である。そのため、風荷重等によるわずかな変位量に対しても、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に変位が発生すれば、長尺体20に引張応力が作用する。
長尺体20の水平抵抗による免震層の相対移動の抑制に加え、前述の付加軸力によって球面滑り支承10の相対移動が抑制されることで、風荷重のような比較的小さい外力によって免震層が動き出すことが抑制される。
図8に示す復元力G
6には、変位量δが小さい初期段階において、復元力G
1に加えて、復元力G
2及び付加軸力G
3が付加される。
具体的には、所定変位値δ
3が0であるため、風荷重のような比較的小さい外力によっても、長尺体20に引張応力が作用する。
このとき、復元力G
1に対して、長尺体20に作用する引張応力による復元力G
2が加えられる。
【0046】
本実施形態において、長尺体20は、長尺体20に作用する引張応力が所定応力値を超えると降伏し、このときの変位量を所定変位値δ
1とする。
すなわち、長尺体20は、所定変位値δ
1を超えると降伏する。
また、本実施形態において、長尺体20は、長尺体20に作用する引張応力が所定応力値を超えると破断し、このときの変位量を所定変位値δ
2とする。
すなわち、長尺体20は、所定変位値δ
2を超えると破断する。
図8に示すように、所定変位値δ
2を超え、長尺体20が破断すると、制振構造1全体の復元力は、球面滑り支承10の復元力のみとなる。このため、所定変位値δ
2を超えると、復元力G
6は、
図6(a)等に示す復元力G
1と同様に変化する。
【0047】
長尺体20が破断すると、長尺体20によって発生していた付加軸力G3による球面滑り支承10における摩擦力の増加がなくなり、球面滑り支承10における摩擦が低減することで、球面滑り支承10は、大きく相対移動するようになる。
このように、所定変位値δ2を超えるほどの変位量をもたらす大きな地震動が発生すると、長尺体20は破断し、球面滑り支承10の大きな相対移動が可能となる。
球面滑り支承10の大きな相対移動は、上部構造体Uの上の建築物の固有周期を長周期化させることで、当該建築物への影響を軽減する。
【0048】
本実施形態においては、長さLa1と長さLbの関係がLa1=Lbであるときについて説明したが、長さLa1と長さLbの関係は、例えばLa1>Lbであってもよい。
長さLa1と長さLbの関係がLa1>Lbであるとき、第1拡大部22aは第1移動抑制部材23aに当接し、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接するとともに、変位量が0であっても長尺体20に一定の初期張力が存在している。このとき、変位量が所定変位値に達すると、長尺体20に引張応力が増加する。
【0049】
また、第1移動抑制部材23a及び第2移動抑制部材23bの少なくともいずれかが皿ばねを含んでいてもよい。
【0050】
(以下、第1実施形態及び第2実施形態に共通する実施形態)
なお、制振構造1は、球面滑り支承10と、長尺体20と、を少なくとも1つずつ備えていればよく、その数及び配置は、限定されるものではない。
例えば、制振構造1は、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に設置される球面滑り支承10と、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に、球面滑り支承10と並列に設置される長尺体20である第1長尺体及び第2長尺体と、を備えていてもよい。例えば、制振構造1は、複数の球面滑り支承を有し、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に水平方向に並んで設置される2つの球面滑り支承10と、2つの球面滑り支承10の間に配置される長尺体20と、を備えていてもよい。
【0051】
このとき、好ましくは、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が第1所定変位値を超えると、第1長尺体に引張応力が作用し、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が第1所定変位値より大きい第2所定変位値を超えると、第2長尺体に引張応力が作用する構成とするとよい。
これにより、各長尺体が段階的に機能し、変位量に応じた多段階の制振が可能となる。
【0052】
ここで、第1所定変位値は、特に限定されるものではなく、例えば0であってもよい。
又は、第1所定変位値は、例えばレベル2以下の地震動における最大変位相当量であってもよい。
また、第2所定変位値も、特に限定されるものではなく、例えばレベル3以下の地震動における最大変位相当量であってもよい。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の制振構造1は、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に設置される球面滑り支承10と、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に、球面滑り支承10と並列に設置される長尺体20と、を備え、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値を超えると、長尺体20に引張応力が作用する。
【0054】
従来、地震動に対して建物を保護する目的から、建築物内に免震層が設けられることがあった。
免震層が設けられた建築物は、50年に1回程度の稀に起きる地震動(レベル1地震動)、及び500年に1回程度の極めて稀に起こる地震動(レベル2地震動)を考慮して設計されており、このような免震層に用いられる装置として様々な制振構造が提案されている。
【0055】
しかしながら、レベル2地震動を超える規模の、極めて稀に起きる地震動(レベル3地震動)が発生したとき、従来の制振構造では地震動を十分に軽減することは難しい。
そこで、従来の制振構造を用いてレベル3地震動のような大きな変位に追従可能とする方法として、装置サイズ(コンケイブプレートサイズ)を大きくすることが考えられる。
しかしながら、このように装置サイズを大きくすると、掘削土量及び施工費の増加による建設費全体のコスト増を招く。
【0056】
さらに、例えば、従来の滑り支承が設置された建築物において、地震動に対して適切な制振を行うことを考慮すれば、免震層の減衰を小さくし、免震層をより大きく滑らすとよい。
しかしながら、免震層の減衰を小さくすると、風荷重のような比較的小さい外力によっても免震層が動き出すことになり、上部構造体Uの変位の抑制が困難となる。
【0057】
本実施形態に係る制振構造1は、球面滑り支承10と並列に設置される長尺体20とを備え、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値を超えると、長尺体20に引張応力が作用する。
このとき、長尺体20に作用する引張応力は、鉛直抵抗力及び水平抵抗力をもたらす。
長尺体20によって発生する水平抵抗力は、球面滑り支承10によって発生する復元力と併せて、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位を減衰させる。
また、長尺体20による鉛直抵抗力は、球面滑り支承10への付加軸力として作用する。
長尺体20によって球面滑り支承10への付加軸力が加えられると、摺動子12が上沓13及び下沓11に押し付けられ、摺動子12と上沓13及び下沓11との間に発生する摩擦力が増加する。
球面滑り支承10に発生する摩擦力が増加すると、この摩擦力によって球面滑り支承10の相対移動が抑制される。
これにより、例えば地震動によって所定変位値以上の大きな変位が発生したときであっても、免震層の過剰な変形を抑制するとともに、変位を減衰することができる。
よって、これにより、例えば、レベル3地震動等に対応可能であるとともに、変位量に応じて段階的な制振を行うことができる。
【0058】
さらに、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値に達すると、長尺体20の引張応力が増加する。
長尺体20の引張応力が増加すると、長尺体20に作用する水平抵抗力及び鉛直抵抗力が増加する。
長尺体20に作用する水平抵抗力が増加すると、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位に対する減衰性能が向上するとともに、長尺体20に作用する鉛直抵抗力によって加えられる球面滑り支承10への付加軸力が増加し、摺動子12が上沓13及び下沓11に押し付けられ、摺動子12と上沓13及び下沓11との間に発生する摩擦力が増加することにより、球面滑り支承10の相対移動は、さらに強く抑制される。
これにより、例えば地震動によって所定変位値以上の大きな変位量が発生しても、免震層の過剰な変形が抑制されるとともに、変位をさらに減衰することができる。
【0059】
また、球面滑り支承10は、内壁11bに囲まれた第1摺動面11aを有する球座部11と、第1摺動面11aに摺接する第2摺動面12aを有する摺動子12と、を備え、摺動子12と内壁11bとは、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値に達した状態で当接する。
これにより、一定以上の変位量に対して、球面滑り支承10の摺動子12が球座部11から脱落することを防止することができる。
【0060】
また、球面滑り支承10が複数設けられ、長尺体20は、水平方向に並んで配置された複数の球面滑り支承10のうちいずれか2つの間に配置されているとよい。
例えば、平面視において長尺体20が偏って配置されている場合、建物の上部躯体などが変形して、鉛直抵抗力が球面滑り支承10に伝達されないことがあるが、長尺体20が複数の球面滑り支承10のうちいずれか2つの間に配置される構造とすることにより、長尺体20による鉛直抵抗力を、球面滑り支承10へ、より確実に伝達することができる。
【0061】
また、長尺体20は、一端側に配置された第1拡大部22aと、他端側に配置された第2拡大部22bと、を備え、上部構造体Uには第1拡大部22aの移動を抑制可能な第1移動抑制部材23aが設けられ、下部構造体Lには第2拡大部22bの移動を抑制可能な第2移動抑制部材23bが設けられ、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値未満であると、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接せず、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値に達すると、第2拡大部22bが第2移動抑制部材23bに当接する構造としてもよい。
このような構造とすることにより、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値未満であると、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接せず、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値に達すると、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接する。
これにより、変位量が所定変位値以下であるときには、制振構造1は、球面滑り支承10のみにより制振し、変位量が所定変位値を超えると、球面滑り支承10と長尺体20とが協働して変位の減衰が可能となる。
すなわち、変位量の大きさに応じて制振構造1全体で建築物を制振することができる。
よって、変位量に応じて段階的な制振を可能とすることができる。
【0062】
また、所定変位値が最大変位相当量に対応していてもよく、例えば、所定変位値がレベル2以下の地震動における最大変位相当量であってもよい。
このような構造とすることにより、例えば所定変位値がレベル2地震動の最大変位相当量であるときには、レベル2地震動に対しては球面滑り支承10のみにより制振し、レベル2地震動を超えるレベル3地震動に対しては長尺体20と球面滑り支承10とが協働して変位の減衰が可能となる。
例えば所定変位値がレベル1地震動の最大変位相当量であるときには、制振構造1は、レベル1地震動に対しては球面滑り支承10のみにより制振し、レベル1地震動を超えるレベル2地震動に対しては長尺体20と球面滑り支承10とが協働して変位の減衰が可能となる。
よって、地震動のレベルごとの変位量に応じて段階的な制振を可能とすることができる。
【0063】
また、この構成において所定変位値が0であってもよい。
このような構成とすることにより、風荷重等によるわずかな変位量に対しても長尺体20に引張応力が作用し、長尺体20の水平抵抗力による免震層の相対移動の抑制に加え、前述の付加軸力によって球面滑り支承10の相対移動が抑制される。
よって、風荷重のような比較的小さい外力によって免震層が動き出すことが抑制される。
【0064】
また、長尺体20には初期張力が存在していてもよい。
このような構成とすることにより、外力によって免震層が動き出すことをさらに強く抑制することができる。
【0065】
また、長尺体20は、一端側に配置された第1拡大部22aと、他端側に配置された第2拡大部22bと、を備え、上部構造体Uには第1拡大部22aの移動を抑制する第1移動抑制部材23aが設けられ、下部構造体Lには第2拡大部22bの移動を抑制する第2移動抑制部材23bが設けられ、第1拡大部22aは第1移動抑制部材23aに当接するとともに、第2拡大部22bは第2移動抑制部材23bに当接していてもよい。
このような構成とすることにより、風荷重等によるわずかな変位量に対しても長尺体20に引張応力が作用する。
長尺体20の水平抵抗力による免震層の相対移動の抑制に加え、前述の付加軸力によって球面滑り支承10の相対移動が抑制される。
よって、風荷重のような比較的小さい外力によって免震層が動き出すことが抑制される。
【0066】
また、長尺体20は、長尺体20に作用する引張応力が所定応力値を超えると破断してもよい。
長尺体20が破断すると、長尺体20によって発生していた球面滑り支承10における摩擦力の増加が解除され、球面滑り支承10における摩擦力が低減することで、球面滑り支承10が大きく相対移動するようになる。
このように、所定応力値を超えるほどの変位量をもたらす大きな地震動が発生したときには、長尺体20が破断し、球面滑り支承10の大きな相対移動が可能となる。
球面滑り支承10の大きな相対移動は、上部構造体Uの上の建築物の固有周期を長周期化させることで、当該建築物への影響を軽減する。
よって、変位量に応じて段階的な制振を可能とすることができる。
【0067】
また、第1移動抑制部材23a及び第2移動抑制部材23bの少なくともいずれかが皿ばねを含んでいてもよい。
このような構成とすることにより、例えば変位値が所定変位値以下であるときには、長尺体20に一定の相対移動を許容しつつ、皿ばねの弾性力により免震層の移動を抑制することができる。
よって、変位値に応じて段階的な制振を可能とすることができる。
【0068】
また、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に設置される球面滑り支承10と、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に、球面滑り支承10と並列に設置される長尺体20である第1長尺体及び第2長尺体と、を備える制振構造1であって、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が第1所定変位値を超えると、第1長尺体に引張応力が作用し、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が第1所定変位値より大きい第2所定変位値を超えると、第2長尺体に引張応力が作用してもよい。
このような構成とすることにより、変位量が第1所定変位値以下であるときには、制振構造1は、球面滑り支承10のみが制振し、変位量が第1所定変位値を超えてから第2所定変位値以下であるときには、球面滑り支承10と第1長尺体が制振し、変位量が第2所定変位値を超えると、球面滑り支承10と第1長尺体と第2長尺体が制振することになる。
よって、変位量に応じて段階的な制振を可能とすることができる。
【0069】
また、この構成において第1所定変位値が0であってもよい。
このような構成とすることにより、風荷重等によるわずかな変位量に対しても第1長尺体に引張応力が作用し、第1長尺体の水平抵抗力による免震層の相対移動の抑制に加え、前述の付加軸力によって球面滑り支承10の相対移動が抑制される。
よって、風荷重のような比較的小さい外力によって免震層が動き出すことが抑制される。
【0070】
また、第1所定変位値は、レベル2以下の地震動における最大変位相当量であってもよいし、第2所定変位値は、レベル3以下の地震動における最大変位相当量であってもよい。
このような構成とすることにより、例えば、レベル2以下の地震動における最大変位相当量を超える変位量に対しては第1長尺体のみに引張応力が作用し、レベル3以下の地震動における最大変位相当量を超える変位量に対しては、第1長尺体に加えて第2長尺体に引張応力が作用する。これにより、各長尺体が段階的に作用し、変位量に応じて段階的な制振を可能とすることができる。
【0071】
また、第1拡大部22a及び第2拡大部22bの少なくともいずれかの表面は、曲面形状であってもよい。
このような構成とすることにより、拡大部22と移動抑制部材23との当接する部分における応力集中又は変位時の衝突による破損等を防止することができる。
【0072】
また、第1拡大部22a及び第2拡大部22bの少なくともいずれかは球形状であってもよい。
このような構成とすることにより、拡大部22と移動抑制部材23との当接する角度を自由に変化させることができる。
【0073】
また、第1移動抑制部材23a及び第2移動抑制部材23bの少なくともいずれかには、長尺体20の第1拡大部22aと第2拡大部22bの間の棒状部21が挿入されていてもよい。
このような構成とすることにより、上部構造体Uと下部構造体Lとを連結するように棒状部21を配置することができる。
【0074】
なお、本開示の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0075】
なお、長尺体20は、下部構造体Lと上部構造体Uとに直接的に設置されていなくともよく、例えば、下部構造体Lと上部構造体Uとに配置された連結部材を介して設置されていてもよい。
【0076】
その他、本開示の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 制振構造
10 球面滑り支承
11 下沓
11a 第1摺動面
11b 内壁
12 摺動子
12a 第2摺動面
12b 第4摺動面
13 上沓
13a 第3摺動面
13b 内壁
20 長尺体
21 棒状部
22 拡大部
22a 第1拡大部
22b 第2拡大部
23 移動抑制部材
23a 第1移動抑制部材
23b 第2移動抑制部材
24 貫通孔
25 球座面
U 上部構造体
L 下部構造体
【要約】
【課題】地震動又は風荷重による変位量に応じて適切な制振が可能な制振構造を提供すること。
【解決手段】下部構造体Lと上部構造体Uとの間に設置される球面滑り支承10と、下部構造体Lと上部構造体Uとの間に、球面滑り支承10と並列に設置される長尺体20と、を備え、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が所定変位値を超えると、長尺体20に引張応力が作用する制振構造1とする。又は、制振構造1では、長尺体20として、第1長尺体及び第2長尺体を有し、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が第1所定変位値を超えると、第1長尺体に引張応力が作用し、下部構造体Lと上部構造体Uとの間の変位量が第1所定変位値より大きい第2所定変位値を超えると、第2長尺体に引張応力が作用する構成としてもよい。
【選択図】
図1