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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】圧接型半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/14 20060101AFI20241101BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20241101BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20241101BHJP
【FI】
H01L23/14 R
H01L25/04 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023526791
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2021022239
(87)【国際公開番号】W WO2022259503
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田尻 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】塩田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】門脇 和丈
(72)【発明者】
【氏名】本宮 哲男
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116736(WO,A1)
【文献】特開2017-84850(JP,A)
【文献】特開2002-151646(JP,A)
【文献】特開2002-57260(JP,A)
【文献】特開平01-152668(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0145188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/14
H01L 25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップが、ベース板電極と天板電極の間に圧接され、前記半導体チップが前記ベ
ース板電極と前記天板電極と電気的に接続されている圧接型半導体装置において、
前記半導体チップの側部を囲むように設けられた第一の可撓性絶縁体、
前記半導体チップの端部を覆う第二の可撓性絶縁体、
前記ベース板電極と前記天板電極の間に設けられ、前記第一の可撓性絶縁体を圧接して
いる第一の部材、
前記ベース板電極と前記天板電極の間に設けられ、前記第二の可撓性絶縁体を圧接して
いる第二の部材、
を備え、前記第一の可撓性絶縁体と前記第二の可撓性絶縁体とにより、前記半導体チップ
の側部および端部が隙間なく覆われていることを特徴とする圧接型半導体装置。
【請求項2】
ベース板電極、
前記ベース板電極の上に配置され、前記ベース板電極に電気的に接続される半導体チッ
プ、
前記半導体チップの上に電極を介して配置され、前記半導体チップと電気的に接続され
る通電ブロック、
前記通電ブロックの上に配置され、前記通電ブロックと電気的に接続される弾性導体、
前記弾性導体の上に配置され、前記弾性導体と電気的に接続される天板電極、
前記ベース板電極と前記天板電極とを一定の間隔に保持するフレーム、
前記フレームと前記半導体チップとの間に、前記半導体チップの側部を囲むように設け
られた第一の可撓性絶縁体、
前記半導体チップと前記フレームと前記通電ブロックと前記弾性導体とで囲まれた空間
に設けられた第二の可撓性絶縁体、
を備え、前記第一の可撓性絶縁体と前記第二の可撓性絶縁体とで、前記半導体チップの側
部および端部が隙間なく覆われていることを特徴とする圧接型半導体装置。
【請求項3】
前記通電ブロックは前記弾性導体の直下に配置され、前記通電ブロックは前記弾性導体
より水平断面積が小さく、前記第二の可撓性絶縁体は前記通電ブロックの周囲および前記
弾性導体の下面全体を隙間なく覆っていることを特徴とする請求項2に記載の圧接型半導
体装置。
【請求項4】
ベース板電極、
前記ベース板電極の上に配置され、前記ベース板電極に電気的に接続される半導体チッ
プ、
前記半導体チップの上に電極を介して配置され、前記半導体チップと電気的に接続され
る段付き形状の通電ブロック、
前記段付き形状の通電ブロックの上に配置され、前記段付き形状の通電ブロックと電気
的に接続される弾性導体、
前記弾性導体の上に配置され、前記弾性導体と電気的に接続される天板電極、
前記ベース板電極と前記天板電極とを一定の間隔に保持するフレーム、
前記フレームと前記半導体チップとの間に、前記半導体チップの側部を囲むように設け
られた第一の可撓性絶縁体、
前記半導体チップと前記フレームと前記段付き形状の通電ブロックとで形成された空間
に設けられた第二の可撓性絶縁体、
を備え、前記第一の可撓性絶縁体と前記第二の可撓性絶縁体とで、前記半導体チップの側
部および端部が隙間なく覆われていることを特徴とする圧接型半導体装置。
【請求項5】
ベース板電極、
前記ベース板電極の上に配置され、前記ベース板電極に電気的に接続される弾性導体、
前記弾性導体の上に配置され、前記弾性導体と電気的に接続される半導体チップ、
前記半導体チップの上に電極を介して配置され、前記半導体チップと電気的に接続さ
れる段付き形状の通電ブロック、
前記段付き形状の通電ブロックの上に配置され、前記段付き形状の通電ブロックと電気
的に接続される天板電極、
前記ベース板電極と前記天板電極とを一定の間隔に保持するフレーム、
前記フレームと前記半導体チップとの間に、前記半導体チップの側部を囲むように設け
られた第一の可撓性絶縁体、
前記半導体チップと前記フレームと前記段付き形状の通電ブロックとで形成された空間
に設けられた第二の可撓性絶縁体、
を備え、前記第一の可撓性絶縁体と前記第二の可撓性絶縁体とで、前記半導体チップの側
部および端部が隙間なく覆われていることを特徴とする圧接型半導体装置。
【請求項6】
前記段付き形状の通電ブロックは、前記半導体チップと接する下段の面積が前記弾性導
体と接する上段の面積よりも小さく、前記通電ブロックの下段と上段とで形成される段部
を前記第二の可撓性絶縁体が隙間なく覆っていることを特徴とする請求項4に記載の圧接
型半導体装置。
【請求項7】
前記段付き形状の通電ブロックは、前記半導体チップと接する下段の面積が前記天板電
極と接する上段の面積よりも小さく、前記通電ブロックの下段と上段とで形成される段部
を前記第二の可撓性絶縁体が隙間なく覆っていることを特徴とする請求項5に記載の圧接
型半導体装置。
【請求項8】
前記フレームは、前記第一の可撓性絶縁体の上に配設されていることを特徴とする請求
項2からのいずれか1項に記載の圧接型半導体装置。
【請求項9】
前記フレームは、前記第一の可撓性絶縁体の上および前記ベース板電極の上に配設され
ていることを特徴とする請求項2からのいずれか1項に記載の圧接型半導体装置。
【請求項10】
前記通電ブロックの側面に形成された1箇所以上の凸部と、前記第二の可撓性絶縁体に
形成された凹部とが嵌め合わされていることを特徴とする請求項2からのいずれか1項
に記載の圧接型半導体装置。
【請求項11】
前記通電ブロックの側面に形成された1箇所以上の凹部と、前記第二の可撓性絶縁体に
形成された凸部とが嵌め合わされていることを特徴とする請求項2からのいずれか1項
に記載の圧接型半導体装置。
【請求項12】
前記通電ブロックの側面に形成された一定角度の傾斜と、前記第二の可撓性絶縁体に形
成された前記一定角度の傾斜とが合わさっていることを特徴とする請求項2からのいず
れか1項に記載の圧接型半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、圧接型半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気エネルギーの効率的利用のための電力機器としてパワーモジュールの需要が高まっている。大電力を変換または制御するための装置として、圧接型半導体チップを備える圧接型半導体装置が知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
従来の圧接型半導体装置では、半導体基板は、オン動作時には電流を通電する通電パスとしての役割、オフ動作時には電流を遮断し、高電圧を保持する絶縁層としての役割を果たすが、その電圧は、数kVから数10kVまでに及び、半導体チップが十分な絶縁性能を保有していたとしても表面電極と半導体チップ端部との間で、表面保護層の表面のガス層において沿面放電が発生し、半導体装置が絶縁破壊してしまう恐れがある。
【0004】
沿面放電は、終端距離を十分に長くするほど防止することが可能であるが、半導体装置の小型化によって、半導体チップの終端距離が縮小化しているため、半導体チップの外周部への樹脂コーティングのみによる、外周部の絶縁性の確保が困難になっている。
【0005】
これに対し、特許文献1では、半導体チップの外周部の絶縁性を確保するために、半導体チップの外周部上にチップフレームを接着剤によって接着することで、半導体チップの外周部の絶縁強化を行う圧接型半導体装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-88240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の構成では、長期運転における半導体チップの温度変化によって、半導体チップとチップフレーム間の接着剤に対し、各部材の熱膨張係数の差から熱応力が発生し、チップフレームが半導体チップの外周部から剥離してしまうおそれがあった。
【0008】
本願は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、簡易なアセンブリ工程によって半導体チップの外周部の絶縁性を強化し、絶縁信頼性の高い圧接型半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示される圧接型半導体装置は、
半導体チップが、ベース板電極と天板電極の間に圧接され、半導体チップがベース板電極と天板電極と電気的に接続されており、半導体チップの側部を囲むように設けられた第一の可撓性絶縁体、半導体チップの端部を覆う第二の可撓性絶縁体、ベース板電極と天板電極の間に設けられ、第一の可撓性絶縁体を圧接している第一の部材、ベース板電極と天板電極の間に設けられ、第二の可撓性絶縁体を圧接している第二の部材、を備え、第一の可撓性絶縁体と第二の可撓性絶縁体とにより、半導体チップの側部および端部が隙間なく覆われていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される圧接型半導体装置によれば、装置のアセンブリ工程中に接着工程および熱硬化工程が不要な第一および第二の可撓性絶縁体を配設するため、アセンブリ工程の簡易化が可能となる。また、圧接力により、半導体チップと第一および第二の可撓性絶縁体とを密着させる構造のため、繰り返し温度サイクルに伴う熱応力によるチップと絶縁体間の密着剥がれが生じず、絶縁信頼性の高い圧接型半導体装置を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る圧接型半導体装置の構成を示す図である。
図2】実施の形態1に係る第一の可撓性絶縁体および第二の可撓性絶縁体の形状を説明する断面図である。
図3】半導体チップ終端部の拡大断面図である。
図4】実施の形態1に係る第二の可撓性絶縁体の形状を説明する断面図である。
図5】実施の形態1に係る第二の可撓性絶縁体の形状を説明する別の断面図である。
図6】実施の形態1に係る第二の可撓性絶縁体の形状を説明する別の断面図である。
図7】実施の形態2に係る圧接型半導体装置の構成を示す図である。
図8】実施の形態2に係る第一の可撓性絶縁体および第二の可撓性絶縁体の形状を説明する断面図である。
図9】実施の形態3に係る圧接型半導体装置の構成を示す図である。
図10】実施の形態3に係る第一の可撓性絶縁体および第二の可撓性絶縁体の形状を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願に係る圧接型半導体装置の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、同一内容および相当部については同一符号を配し、その詳しい説明は省略する。以降の実施形態も同様に、同一符号を付した構成について重複した説明は省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る圧接型半導体装置の構成を示す図である。図1において、圧接型半導体装置は、外部からの圧接力により圧接された状態であり、導体であるベース板電極1、ベース板電極1上に配置され、ベース板電極1と電気的に接続される半導体チップ4、ベース板電極1上に配置され、半導体チップ4を取り囲むように配置される第一の可撓性絶縁体9、ベース板電極1および第一の可撓性絶縁体9と天板電極2との間に配置されるフレーム3、圧接力により半導体チップ4と電気的に接続されて導通する弾性導体6および通電ブロック8、弾性導体6上に配置され、弾性導体6と電気的に接続される天板電極2、半導体チップ4のチップ終端部4b全体を覆うように密着する第二の可撓性絶縁体10で構成されている。本実施の形態では、通電ブロック8は、弾性導体6の直下に配置され、水平断面積が弾性導体6よりも小さい。これにより通電ブロック8の段付加工を不要としている。なお、半導体チップ4から天板電極2の方向に伸びるゲート配線などは、以下の実施の形態も同様であるが省略している。
【0014】
ここで、半導体チップ4は、例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のような3端子型のもの、あるいはフライホイールダイオードのような2端子型のものである。また、フレーム3は、セラミック、PPS(Poly Phenylene Sulfide)、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)、エポキシ、またはフッ素樹脂等の絶縁樹脂によって構成されている。また、第一の可撓性絶縁体9および第二の可撓性絶縁体10は外部から圧力を加えたときに弾性変形する柔軟性を備えるもので、シリコーン、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、及びそれらの複合樹脂等によって構成されている。また、本実施の形態では、第一の可撓性絶縁体9および第二の可撓性絶縁体10は、予め硬化されている。
【0015】
弾性導体6は、圧接時において、天板電極2と弾性導体6の上面6a、弾性導体6の下面6bと通電ブロック8の上面8a、通電ブロック8の下面8fと半導体チップ4の上部表面電極5の上面5a、および半導体チップ4の下面4fとベース板電極1、のそれぞれの部材界面が電気的、熱的に接続されてコンタクトを取れるように機能し、例えば、ばねのような機構を保有する。また、ここで、圧接とは、ベース板電極1と天板電極2との間に、圧接機構などにより外から機械的に圧力をかけることをいう。
【0016】
フレーム3は、ベース板電極1および第一の可撓性絶縁体9の少なくともいずれかと、天板電極2に挟まれて配置され、圧接時に半導体チップ4、弾性導体6、通電ブロック8を介してベース板電極1と天板電極2との間の電気的接続を可能とする一定の間隔で保持される。
【0017】
次に、第一の可撓性絶縁体9および第二の可撓性絶縁体10の形状について説明する。
図2(a)は、圧接前の状態を、図2(b)は圧接後の状態を示している。図2(a)に示すように、第一の可撓性絶縁体9は半導体チップ4の側部4dの高さ全体に渡り、また、その全周に渡って隙間なく接している。また、第一の可撓性絶縁体9の外周および上面は、隙間のない状態でフレーム3に接触している。
【0018】
圧接された状態で、フレーム3と半導体チップ4と通電ブロック8と弾性導体6とで形成される空間に、第二の可撓性絶縁体10は配置されており、通電ブロック8の側面8b全体および弾性導体6の下面6bに隙間なく装着されている。第二の可撓性絶縁体の高さ13は、通電ブロック8の側面8bの高さよりも長く、第二の可撓性絶縁体の厚さ14は、弾性導体6の下面6bよりも長いことを特徴とする。このように長さを設定することで、圧接したときに、図2(b)に示すように、半導体チップ4、上部表面電極5の端部、第一の可撓性絶縁体9、フレーム3、通電ブロック8、および弾性導体6のそれぞれとの接触部に隙間を作ることなく接触することが可能となる。
【0019】
図2(b)に示すように、圧接時には第二の可撓性絶縁体10は、チップ終端部4b全体を全周に渡って隙間なく覆うように密着する。また、第二の可撓性絶縁体10とフレーム3側面との間は全周にわたって隙間がなく密着している。また、チップ終端部4bと第一の可撓性絶縁体9との接触面を第二の可撓性絶縁体の底面10dが覆う。
【0020】
このような構成により、圧接時には、半導体チップ4、通電ブロック8、および弾性導体6を介して、ベース板電極1と天板電極2との電気的接続を保持しつつ、第一の可撓性絶縁体9と第二の可撓性絶縁体10とで、半導体チップ4の終端部4bおよび側部4dが隙間なく覆われている。これにより、接着剤などを使用しない簡易な組立て方法だけで気中放電経路を遮断することができ、半導体チップ4の終端部4bの長期的な絶縁信頼性が達成される。また、第二の可撓性絶縁体10の底面10dは圧接前には、紙面下側に少し凸の形状を持ち、凸形状中央からチップ終端部4bに当たることで、圧接時に第二の可撓性絶縁体10の底面10dとチップ終端部4bの間にボイドが巻き込まれることを防止することが可能である。
【0021】
さらに、通電ブロック8の水平断面積が弾性導体6の水平断面積よりも小さく形成していることにより、通電ブロックを段付き構造に加工する必要がないのと共に、通電ブロック長さが短縮でき、圧接型半導体装置の低背化を可能とする。
【0022】
次に、図3を用いて、半導体チップ4の終端部4bの絶縁信頼性について説明する。図3は、半導体チップ4の拡大断面図である。
半導体チップ4は、Si、SiC、GaN、Gaなどの半導体材料にて構成される半導体基板4aと、半導体基板4aの上面と電気的コンタクトを取るための上部表面電極5と、半導体基板4aの表面を保護するための表面保護材11によって構成される。表面保護材11の材料としては、TEOS(Tetraethoxysilane)、Si、DLC(Diamond Like Carbon)、SIPOS(Semi Insulating POlycrystalline Silicon)、パリレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0023】
半導体チップ4は、例えばIGBTの場合、オン動作時には電流を通電する通電パスとして、オフ動作時には電流を遮断し、高電圧を保持する絶縁層としての役割を果たす。印加される電圧は数kVから数10kVまでに及ぶ可能性がある。この場合、半導体チップ4が十分な絶縁性能を保有していたとしても、半導体チップ4の上部表面電極5と半導体チップ4との間の表面保護材11の表面のガス層において沿面放電が発生し、絶縁破壊してしまう恐れがある。
【0024】
この沿面放電は、半導体チップ4の上部表面電極5の端部と半導体チップ4の終端角部4cとの間の終端距離12を十分に長くすることで避けることが可能である。しかし、半導体チップ4、さらには半導体装置を小型化するためには終端距離12はできるだけ短い方が望ましい。従って、終端距離12を短くするためには、表面保護材11の表面の絶縁強化が必要となる。
【0025】
本実施の形態では、弾性導体6、通電ブロック8、第二の可撓性絶縁体10によって沿面が遮断されることにより、気中放電進展経路が遮断され、気中絶縁耐圧が向上する。これにより、表面保護材11の表面は絶縁強化される。また、接着剤等の接合プロセスと熱硬化プロセスを使用しないため、プロセスの簡易化、および熱応力による接合部剥離の恐れがなくなり、半導体チップ4の終端部4bの長期的絶縁信頼性が達成される。なお、フレーム内に並列する半導体チップ4の個数は限定されない。
【0026】
次に、第二の可撓性絶縁体10の取りうる形状について、半導体チップ4、弾性導体6
、及び通電ブロック8の組合せを例に、図4図5および図6を用いて詳細に説明する。
図4(a)、図5(a)、図6(a)は、通電ブロック8と第二の可撓性絶縁体10との
装着前を示し、図4(b)、図5(b)、図6(b)は装着後を示す。

【0027】
第1の例として、図4(a)において、通電ブロックの側面8bのブロック全周のうち少なくとも一部に凸部8cを有しており、第二の可撓性絶縁体10は、その内側面10eが通電ブロック8の凸部8cに嵌め合う形状の凹部10fを有する。このような構成により、図4(b)で示すように、装着後、第二の可撓性絶縁体10が通電ブロック8に固定されたときに、凸部8cと凹部10fが嵌め合い、隙間なく密着できる。これにより、第二の可撓性絶縁体10を固定する際の安定性を確保でき、組立の容易化が可能となる。
【0028】
第2の例として、図5(a)において、通電ブロックの側面8bのブロック全周のうち少なくとも一部に凹部8dを有しており、第二の可撓性絶縁体10は、その内側面10eが通電ブロック8の凹部8dに嵌め合う形状の凸部10gを有する。このような構成により、図5(b)で示すように、装着後、第二の可撓性絶縁体10が通電ブロック8に固定されたときに、凹部8dと凸部10gが嵌め合い、隙間なく密着できる。これにより、第二の可撓性絶縁体10を固定する際の安定性を確保でき、組立の容易化が可能となる。
【0029】
また、第3の例として、図6(a)において、通電ブロックの側面8bのうち少なくとも1つの面が、紙面上から下に向かって末広がりに形成されており、第二の可撓性絶縁体10は、その内側面10eが通電ブロックの側面8bの形状に嵌め合うように、紙面下から上に向かって末広がりの形状を持ち、図6(b)に示すように、装着後、第二の可撓性絶縁体10が通電ブロック8に固定されたときに、側面8bと内側面10eが嵌め合い、隙間なく密着できる。これにより、第二の可撓性絶縁体10を固定する際の安定性を確保でき、組立の容易化が可能となる。
【0030】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2に係る圧接型半導体装置の構成を示す図である。図7において、圧接型半導体装置は、圧接された状態であり、導体であるベース板電極1、ベース板電極1上に配置され、ベース板電極1と電気的に接続される半導体チップ4、ベース板電極1上に配置され、半導体チップ4を取り囲むように配置される第一の可撓性絶縁体9、ベース板電極1または第一の可撓性絶縁体9と天板電極2との間に配置されるフレーム3、圧接力により半導体チップ4と電気的に接続されて導通する弾性導体6および段付き通電ブロック15、弾性導体6上に配置され、弾性導体6と電気的に接続される天板電極2、半導体チップ4のチップ終端部4b全体を覆うように密着する第二の可撓性絶縁体10で構成される。半導体チップ4、弾性導体6、段付き通電ブロック15を介してベース板電極1と天板電極2との間の電気的接続を可能とする。
【0031】
段付き通電ブロック15以外は、実施の形態1で説明したものと同じ構成(材料、形状)であり、詳細な説明は省略する。段付き通電ブロック15は、段上部の水平断面積が弾性導体6と同程度に形成され、段下部の水平断面積よりも大きい。
【0032】
次に、本実施の形態の第二の可撓性絶縁体10の形状について説明する。図8(a)は、圧接前の状態を、図8(b)は圧接後の状態を示している。図8(a)に示すように、圧接された状態で、フレーム3と半導体チップ4と段付き通電ブロック15で形成される空間に第二の可撓性絶縁体10は配置されている。これにより、段付き通電ブロック15の下段側面15f全体および段付き通電ブロック15の上段下面15gに、第二の可撓性絶縁体10が隙間なく装着されている。また、第二の可撓性絶縁体10の高さ13は、段付き通電ブロック15の下段側面15fより長く、第二の可撓性絶縁体の厚さ14は、段付き通電ブロック15の上段下面15gよりも長い。また、第二の可撓性絶縁体10の取りうる形状について、半導体チップ4及び段付き通電ブロック15の組合せにおいて、実施の形態1で説明した第1から第3の例と同じ形状を形成できる。
【0033】
圧接時における半導体チップ4と第二の可撓性絶縁体10の接触状況は、実施の形態1において図2(b)で説明したのと同様であるが、上述のように第二の可撓性絶縁体10の長さを設定することで、圧接したときに、図8(b)に示すように、半導体チップ4、上部表面電極5の端部、第一の可撓性絶縁体9、フレーム3、段付き通電ブロック15のそれぞれとの接触部に隙間を作ることなく接触することが可能となる。すなわち、圧接時には第二の可撓性絶縁体10は、チップ終端部4b全体を全周に渡って隙間なく覆うように密着する。また、第二の可撓性絶縁体10とフレーム3側面との間は全周にわたって隙間がなく密着している。また、チップ終端部4bと第一の可撓性絶縁体9との接触面を第二の可撓性絶縁体の底面10dが覆う。
【0034】
このような構成により、圧接時には、半導体チップ4、段付き通電ブロック15、および弾性導体6を介して、ベース板電極1と天板電極2との電気的接続を保持しつつ、第一の可撓性絶縁体9と第二の可撓性絶縁体10とで、半導体チップ4の終端部4bおよび側部4dが隙間なく覆われている。これにより、接着剤などを使用しない簡易な組立て方法だけで気中放電経路を遮断することができ、絶縁耐圧が向上し、図3で示したのと同様に表面保護材11表面は絶縁強化される。これにより、半導体チップ4の終端部4bの長期的な絶縁信頼性が達成される。また、実施の形態1同様、第二の可撓性絶縁体10の底面10dは圧接前には、紙面下側に少し凸の形状を持ち、凸形状中央からチップ終端部4bに当たることで、圧接時に第二の可撓性絶縁体10の底面10dとチップ終端部4bの間にボイドが巻き込まれることを防止することが可能である。
【0035】
実施の形態3.
図9は、実施の形態3に係る圧接型半導体装置の構成を示す図である。図9において、圧接型半導体装置は、圧接された状態であり、導体であるベース板電極1、天板電極2、ベース板電極1上部に配置される弾性導体6、弾性導体6上部に配置される半導体チップ4、ベース板電極1と天板電極2との間に弾性導体6を取り囲むように設けられる下部フレーム3a、下部フレーム3a上に配置され、半導体チップ4を取り囲むように設けられる第一の可撓性絶縁体9、半導体チップ4に配置され、天板電極2と半導体チップ4の両方に導通する段付き通電ブロック16、第一の可撓性絶縁体9と前記天板電極2との間に、段付き通電ブロック16を取り囲むように配置される上部フレーム3b、下部フレーム3a、第一の可撓性絶縁体9、上部フレーム3bを取り囲むように配置される外部フレーム3c、半導体チップ4の終端部4b全体を覆うように密着する第二の可撓性絶縁体10で構成されている。弾性導体6、半導体チップ4、段付き通電ブロック16を介してベース板電極1と天板電極2との間の電気的接続を可能とする。
【0036】
段付き通電ブロック16、フレームの構成、および弾性導体6の配置箇所以外は、実施の形態1で説明したものと同じ構成(材料、形状)であり、詳細な説明は省略する。
【0037】
段付き通電ブロック16は、段付き上部の水平断面積が段付き下部の水平断面積よりも大きく、具体的には、段付き上部の水平断面積は、弾性導体6の断面積と同程度であることを特徴とする。また、半導体チップ4は実施の形態1で示したものと同じ材料および形状を持つ。また、下部フレーム3a、上部フレーム3bおよび外部フレーム3cは実施の形態1で示したフレーム3と同じ材料を持つ。
【0038】
次に、本実施の形態の第二の可撓性絶縁体10の形状について説明する。図10(a)は、圧接前の状態を、図10(b)は圧接後の状態を示している。図10(a)に示すように、第二の可撓性絶縁体10は、圧接された状態で、上部フレーム3bと半導体チップ4と段付き通電ブロック16で形成される空間に配置されている。これにより、段付き通電ブロック16の下段側面16f全体および段付き通電ブロック16の上段下面16gに、第二の可撓性絶縁体10が隙間なく装着されている。また、第二の可撓性絶縁体10の高さ13は、段付き通電ブロック16の下段側面16fより長く、第二の可撓性絶縁体の厚さ14は、段付き通電ブロック16の上段下面16gよりも長い。また、第二の可撓性絶縁体10の取りうる形状について、半導体チップ4及び段付き通電ブロック16の組合せにおいて、実施の形態1で説明した第1から第3の例と同じ形状を形成できる。
【0039】
圧接時における半導体チップ4と第二の可撓性絶縁体10の接触状況は、実施の形態1において図2(b)で説明したのと同様であるが、上述のように第二の可撓性絶縁体10の長さを設定することで、圧接したときに、図10(b)に示すように、半導体チップ4、上部表面電極5の端部、第一の可撓性絶縁体9、上部フレーム3b、段付き通電ブロック16のそれぞれとの接触部に隙間を作ることなく接触することが可能となる。すなわち、圧接時には第二の可撓性絶縁体10は、チップ終端部4b全体を全周に渡って隙間なく覆うように密着する。また、第二の可撓性絶縁体10とフレーム3側面との間は全周にわたって隙間がなく密着している。また、チップ終端部4bと第一の可撓性絶縁体9との接触面を第二の可撓性絶縁体の底面10dが覆う。
【0040】
このような構成により、圧接時には、弾性導体6、半導体チップ4、および段付き通電ブロック16を介して、ベース板電極1と天板電極2との電気的接続を保持しつつ、第一の可撓性絶縁体9と第二の可撓性絶縁体10とで、半導体チップ4の終端部4bおよび側部4dが隙間なく覆われている。これにより、接着剤などを使用しない簡易な組立て方法だけで気中放電経路を遮断することができ、絶縁耐圧が向上し、図3で示したのと同様に表面保護材11表面は絶縁強化される。これにより、半導体チップ4の終端部4bの長期的な絶縁信頼性が達成される。また、実施の形態1同様、第二の可撓性絶縁体10の底面10dは圧接前には、紙面下側に少し凸の形状を持ち、凸形状中央からチップ終端部4bに当たることで、圧接時に第二の可撓性絶縁体10の底面10dとチップ終端部4bの間にボイドが巻き込まれることを防止することが可能である。
【0041】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0042】
1:ベース板電極、2:天板電極、3:フレーム、3a:下部フレーム、3b:上部フレーム、3c:外部フレーム、4:半導体チップ、5:上部表面電極、6:弾性導体、8:通電ブロック、9:第一の可撓性絶縁体、10:第二の可撓性絶縁体、11:表面保護材、15,16:段付き通電ブロック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10