(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】ガラス複合体
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20241101BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20241101BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
C03C27/12 L
B32B15/04 B
B32B17/06
C03C27/12 N
(21)【出願番号】P 2024048430
(22)【出願日】2024-03-25
【審査請求日】2024-03-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大杉 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034486(JP,A)
【文献】特開2002-020142(JP,A)
【文献】特開2006-206398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面である第1放射面から赤外光を放射する赤外放射ガラス層と、当該赤外放射ガラス層の前記第1放射面の存在側とは反対側の面に対向して設けられる裏面ガラス層とを有し、
前記赤外放射ガラス層と前記裏面ガラス層との間に、光を反射する光反射層を有し、
前記光反射層が、積層方向における厚肉部位と、前記積層方向における厚みが前記厚肉部位の厚みの2/3以下である薄肉部位とを有し、
前記薄肉部位は、前記第1放射面に直交する平面視において連続して一体に設けられ且つ前記平面視での面積が5cm
2以上の面積を有する第1金属薄肉部位と、前記平面視において連続して一体に設けられ且つ前記平面視での面積が前記第1金属薄肉部位の面積未満である第2金属薄肉部位とを有し、
前記第2金属薄肉部位は、前記平面視で分散して分布する形態で複数設けられ、
全体での、面平均日射反射率が40%以上であり、且つ面平均の8μm以上13μm以下の赤外光の輻射率の波長平均である平均輻射率が80%以上であるガラス複合体。
【請求項2】
前記光反射層は、樹脂材料に金属が蒸着されて形成された金属蒸着層であり、
前記金属は、銀、銀合金、アルミ、アルミ合金及び銅合金のうち少なくとも一つ以上であり、
前記赤外放射ガラス層と前記金属蒸着層との間、前記裏面ガラス層と前記金属蒸着層との間を接着する中間樹脂が、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つから成る請求項1に記載のガラス複合体。
【請求項3】
前記光反射層は、前記赤外放射ガラス層の表面に形成されたセラミクス層であり、
当該光反射層と前記裏面ガラス層との間を接着する中間樹脂が、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つから成る請求項1に記載のガラス複合体。
【請求項4】
前記積層方向において、前記第1金属薄肉部位及び前記第2金属薄肉部位のそれぞれの厚みは、0nm以上50nm以下である請求項1又は2に記載のガラス複合体。
【請求項5】
前記積層方向において、前記第1金属薄肉部位及び前記第2金属薄肉部位のそれぞれの厚みは、0nm以上10nm以下である請求項1又は2に記載のガラス複合体。
【請求項6】
前記平面視において、前記第2金属薄肉部位の面積は、0.03cm
2以上である請求項1又は2に記載のガラス複合体。
【請求項7】
前記赤外放射ガラス層及び前記裏面ガラス層が、
無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルカリボロシリケートガラス及びアクリル樹脂ガラスの少なくとも1つ以上からなる請求項1又は2に記載のガラス複合体。
【請求項8】
前記平面視において、前記光反射層の全体の面積に対する前記薄肉部位の面積の比率は、1%以上50%以下である請求項1又は2に記載のガラス複合体。
【請求項9】
前記赤外放射ガラス層の前記第1放射面の存在側とは反対側に、調光機能を有する調光層を有する請求項1又は2に記載のガラス複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一対のガラス層を合わせガラスとして備えて放射冷却機能を発揮するガラス複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却対象物を冷却する機能として、放射冷却が知られている。放射冷却とは、物質が周囲に赤外線などの電磁波を放射することでその温度が下がる現象のことを言う。この現象を利用すれば、たとえば、電気などのエネルギーを消費せずに冷却対象を冷やす複合冷却装置を実現できる。
【0003】
特許文献1には、放射面から赤外光を放射する高放射率コーティング層と、光を反射する低放射率コーティング層とが、ガラス基板に積層されたガラス複合体が開示されている。ここで、低放射率コーティング層には、赤外線や紫外線を遮蔽する遮蔽層が含まれ、当該遮蔽層は銀等の金属材料から構成される点が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示されるガラス複合体のように、銀等の金属材料から構成される遮蔽層を有する場合、例えば、ガラス複合体にて外部領域と内部領域とを区画される窓部を有する車両等の構造体においては、外部領域と内部領域との間での通信用の電磁波が遮られたり、外部領域から内部領域への採光性が悪くなったりすると共に、夜間にガラス複合体を介して内部領域から外部領域を見る際の映り込みが大きくなるといった課題があった。
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、このような課題について認識されておらず、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁波透過性及び採光性を向上できると共に、夜間等での映り込みを低減できるガラス複合体を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためのガラス複合体の特徴構成は、
放射面である第1放射面から赤外光を放射する赤外放射ガラス層と、当該赤外放射ガラス層の前記第1放射面の存在側とは反対側の面に対向して設けられる裏面ガラス層とを有し、
前記赤外放射ガラス層と前記裏面ガラス層との間に、光を反射する光反射層を有し、
前記光反射層が、積層方向における厚肉部位と、前記積層方向における厚みが前記厚肉部位の厚みの2/3以下である薄肉部位とを有し、
前記薄肉部位は、前記第1放射面に直交する平面視において連続して一体に設けられ且つ前記平面視での面積が5cm2以上の面積を有する第1金属薄肉部位と、前記平面視において連続して一体に設けられ且つ前記平面視での面積が前記第1金属薄肉部位の面積未満である第2金属薄肉部位とを有し、
前記第2金属薄肉部位は、前記平面視で分散して分布する形態で複数設けられ、
全体での、面平均日射反射率が40%以上であり、且つ面平均の8μm以上13μm以下の赤外光の輻射率の波長平均である平均輻射率が80%以上である点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、光反射層が、積層方向における厚肉部位と、積層方向における厚みが厚肉部位の厚みの2/3以下である薄肉部位とを有し、当該薄肉部位が、第1放射面に直交する平面視において連続して一体に設けられ且つ平面視での面積が5cm2以上の面積を有する第1金属薄肉部位を有するから、当該第1金属薄肉部位の厚みを、例えば通信用の電磁波が透過する適切な厚みに設定することで、当該ガラス複合体を介して電磁波による通信を行うことが可能となる。
更に、光反射層の薄肉部位として、平面視において連続して一体に設けられ且つ平面視での面積が第1金属薄肉部位の面積未満である第2金属薄肉部位を、平面視で分散して分布する形態で複数設けるから、放射面に沿う面方向に分散する形で、ガラス複合体を介して所定の採光を得ることができる。
しかも、平面視で分散して複数設けられる当該第2金属薄肉部位は、第1金属薄肉部位よりも平面視での面積が小さいため、光反射層としては一定程度の反射率を確保することができる。
以上の構成により、全体での、面平均日射反射率が40%以上であり、且つ面平均の8μm以上13μm以下の赤外光の輻射率の波長平均である平均輻射率が80%以上とすることで、電磁波透過性及び採光性を向上できると共に、夜間等での映り込みを低減できる合わせガラスを有するガラス複合体を実現できる。
【0009】
ガラス複合体の更なる特徴構成は、
前記光反射層は、樹脂材料に金属が蒸着されて形成された金属蒸着層であり、
前記金属は、銀、銀合金、アルミ、アルミ合金及び銅合金のうち少なくとも一つ以上であり、
前記赤外放射ガラス層と前記金属蒸着層との間、前記裏面ガラス層と前記金属蒸着層との間を接着する中間樹脂が、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つ以上から成る点にある。
【0010】
上記特徴構成の如く、光反射層として、樹脂材料に金属が蒸着されて形成された金属蒸着層を採用し、その金属として、銀、銀合金、アルミ、アルミ合金及び銅合金のうち少なくとも一つ以上とすると共に、赤外放射ガラス層と金属蒸着層との間、裏面ガラス層と金属蒸着層との間を、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つから成る中間樹脂にて接着することで、赤外放射ガラス層と裏面ガラス層とを、その間に光反射層を介在させた状態で、良好に接着することができる。
因みに、当該構成において、光反射層としての金属が蒸着される樹脂材料については、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートの何れか一つから成る樹脂を採用することで、上記中間樹脂による接着を良好に実現できる。
【0011】
ガラス複合体の更なる特徴構成は、
前記光反射層は、前記赤外放射ガラス層の表面に形成されたセラミクス層であり、
当該光反射層と前記裏面ガラス層との間を接着する中間樹脂が、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つから成る点にある。
【0012】
上記特徴構成の如く、光反射層を、赤外放射ガラス層の表面に形成されたセラミクス層とすると共に、光反射層と裏面ガラス層との間を、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つから成る中間樹脂により接着することで、赤外放射ガラス層と裏面ガラス層とを、その間にセラミクスから成る光反射層を介在させた状態で、良好に接着することができる。
【0013】
ガラス複合体の更なる特徴構成は、
前記積層方向において、前記第1金属薄肉部位及び前記第2金属薄肉部位のそれぞれの厚みは、0nm以上50nm以下である点にある。
更に、前記積層方向において、前記第1金属薄肉部位及び前記第2金属薄肉部位のそれぞれの厚みは、0nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0014】
上記特徴構成の如く積層方向において、第1金属薄肉部位及び第2金属薄肉部位のそれぞれの厚みは、0nm以上50nm以下とすることが好ましく、更に、0nm以上10nm以下とすることがより好ましい。
発明者らは、第1金属薄肉部位の積方向での厚みを50nm以下とし、且つ、上述したように、平面視での面積を5cm2以上とすることで、通信用の電磁波を良好に透過させて通信できることを確認している。
また、一定面積割合の厚肉部位を有しつつ、第2金属薄肉部位の積方向での厚みを50nm以下とすることで、ガラス積層体の全体での、面平均日射反射率が40%以上を確保しつつも、適切な採光性が得られることを確認している。
【0015】
ガラス複合体の更なる特徴構成は、
前記平面視において、前記第2金属薄肉部位の面積は、0.03cm2以上である点にある。
【0016】
発明者は、第2金属薄肉部位の面積が0.03cm2未満である場合、例えば光反射層を金属薄膜として維持できる程度に第2金属薄肉部位の数を増加させた場合であっても、ガラス積層体全体として十分な採光が得られ難いことを確認している。
【0017】
更に、前記赤外放射ガラス層及び前記裏面ガラス層が、
無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルカリボロシリケートガラス及びアクリル樹脂ガラスの少なくとも1つ以上からなることが好ましい。
【0018】
このように材料を選択することにより、赤外放射ガラス層又は裏面ガラス層を、赤外を放射する赤外放射層として良好に働かせることができる。また、上述した中間樹脂にて接続する場合には、赤外放射ガラス層又は裏面ガラス層が有する水酸基と、中間樹脂が有する水酸基とを結合させて、良好に接着することができる。
【0019】
ガラス複合体の更なる特徴構成は、
前記平面視において、前記光反射層の全体の面積に対する前記薄肉部位の面積の比率は、1%以上50%以下である点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、全体での面平均日射反射率が40%以上のガラス複合体を良好に実現できる。
【0021】
ガラス複合体の更なる特徴構成は、
前記赤外放射ガラス層の前記第1放射面の存在側とは反対側に、調光機能を有する調光層を有する点にある。
【0022】
これまで説明してきたように、本発明のガラス複合体は、光反射層に薄肉部位を設けることで、全体での面平均日射反射率が40%以上としているから、場合によっては、当該ガス複合体を透過する光量が多すぎる状況となることが想定される。
上記特徴構成の如く、赤外放射ガラス層の光反射層の存在側とは反対側に、調光機能を有する調光層を有することで、例えば、ガラス複合体を透過する光量が多すぎる場合等に、調光層による光の減衰量を増加させる形態で、採光性の調整を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ガラス複合体の断面の概略構成図、及び当該ガラス複合体を備えた構造体としての車両を示す図である。
【
図2】赤外放射ガラスに光反射層の材料を、順次スパッタリングすることを説明するための図である。
【
図3】ガラス複合体(又は光反射層)の平面図の一例である。
【
図4】ガラス複合体の他の実施形態の断面の概略構成図を示す図である。
【
図5】比較例に係るガラス複合体の断面の概略構成図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係るガラス複合体Wは、電磁波透過性及び採光性を向上できると共に、夜間等での映り込みを低減できるものである。
以下、図面に基づいて当該ガラス複合体Wの実施形態について説明する。
【0025】
図1に示すように、当該ガラス複合体Wは、例えば、内部に内部領域ISと外部環境OSとの間を区画する構造体としての車両CのフレームC1に嵌められるウインドウのガラスとして良好に備えられるものである。ウインドウとは、車両Cのフロントウインドウ、リアウインドウ、サイドウインドウ、サンルーフ等である。ここで、構造体の他の例としては、商業ビル、住宅用のビル等を挙げることができ、ガラス複合体Wは、これらの窓ガラスとして好適に利用可能である。尚、当該実施形態において、赤外線が放射される大気の側は、積層方向Zの矢示先端側であるとする。
【0026】
当該ガラス複合体Wは、放射面Hである第1放射面H1から赤外光を放射する赤外放射ガラス層G1と、当該赤外放射ガラス層G1の第1放射面H1の存在側とは反対側の面に対向して設けられる裏面ガラス層G2とを有し、赤外放射ガラス層G1と裏面ガラス層G2との間に、光を反射する光反射層Bを有する。ここで、裏面ガラス層G2は、光反射層Bの存在側とは反対側の放射面Hである第2放射面H2から赤外光を放射する赤外放射裏面ガラス層とすることができる。
光反射層Bは、
図1に示すように、積層方向Zにおける厚肉部位B3と、積層方向Zにおける厚みが厚肉部位B3の厚みの2/3以下である薄肉部位B2とを有する。薄肉部位B2においては、厚肉部位B3に比して、第1放射面H1の側からの入射光Lのうち、透過光Ltの割合が相対的に高くなり、反射光Lrの割が相対的に低くなる。
【0027】
光反射層Bの薄肉部位について、説明を加えると、
図3の光反射層B(又はガラス複合体W)の平面視に示すように、薄肉部位は、第1放射面H1に直交する平面視において連続して一体に設けられ且つ平面視での面積が5cm
2以上の面積を有する第1金属薄肉部位B1と、平面視において連続して一体に設けられ且つ平面視での面積が第1金属薄肉部位B1の面積未満である第2金属薄肉部位B2とを有する。
ここで、第2金属薄肉部位B2は、平面視で分散して分布する形態で複数設けられており、一の第2金属薄肉部位B2の面積は、0.03cm
2以上である。
【0028】
光反射層Bは、好適には、赤外放射ガラス層G1の第1放射面H1の存在側とは反対側に蒸着された金属蒸着層であり、蒸着する金属は、銀、銀合金、アルミ、アルミ合金及び銅合金のうち少なくとも一つ以上であることが好ましい。
【0029】
更に、当該光反射層Bに関し、積層方向Zにおいて、第1金属薄肉部位B1及び第2金属薄肉部位B2のそれぞれの厚みは、0nm以上50nm以下であることが好ましく、より好ましくは、0nm以上10nm以下である。ちなみに、厚肉部位B3の厚みは、50nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは、70nm以上200nm以下である。以上の構成により、第1金属薄肉部位B1は、通信用の電磁波(例えば、300MHz以上300GHz以下程度の周波数の電磁波)を良好に透過させることができると共に、第2金属薄肉部位B2は、採光用の可視光を良好に透過させる。また、夜間等において映り込みの低減を図ることができる。
【0030】
尚、平面視において、光反射層Bの全体の面積に対する薄肉部位の面積の比率は、1%以上50%以下であることが好ましい。また、採光性の観点から、光反射層Bの全体の面積に対する第2金属薄肉部位B2の面積の比率は、1%以上であることが好ましい。
図3の平面視において、第1金属薄肉部位B1は矩形状、第2金属薄肉部位B2は円形状としているが、これに限らず、楕円形状や多角形状等の種々の形状とすることができる。
【0031】
尚、光反射層Bは、
図2に示すように、所定の樹脂フィルムBj(樹脂材料の一例)に、光反射層Bとしての金属材料が、パンチングメタルPMを介して、スパッタリング(物理蒸着法(Physical Vapor Deposition:PVD)による蒸着)される形態で成膜される。
【0032】
光反射層Bの成膜方法は、特に限定されず、化学気相成膜(CVD)法、プラズマ強化化学気相成膜(PECVD)法、マグネトロンスパッタリング、イオンビーム支援成膜法などを用いても良い。
赤外放射層Jの成膜方法は、光反射層Bと同じであっても、異なってもよく、スプレー塗布、浸漬塗布等を用いても良く、プラズマ強化化学気相成膜プロセス(PECVD)法を用いても良い。
【0033】
ちなみに、パンチングメタルPMとしては、
図2に示すように、平面視で、第1金属薄肉部位B1(
図3に図示)に重畳する形状の第1平板部位PM1と、第2金属薄肉部位B2(
図3に図示)に重畳する形状の第2平板部位PM2とが、金属枠体PM4と一体的に接続される形態のものが好適に用いられる。尚、第2平板部位PM2は、平面視で、複数が分散して存在するが、複数の第2平板部位PM2は、例えば、平面視で十分に細い接続ラインPM3にて金属枠体PM4に接続する構成がとられる。
【0034】
詳細については後述するが、
図1に示すガラス複合体Wは、上述の金属材料がスパッタリングされた樹脂フィルムBjと赤外放射ガラス層G1との間、及び上述の金属材料がスパッタリングされた樹脂フィルムBjと裏面ガラス層G2との間に、後述する中間樹脂Tuを介在させた状態で、所定の圧着技術を適用することにより、中間樹脂Tu及び樹脂フィルムBjを溶かすことで製造される。尚、
図1では、樹脂フィルムBjは図示していない。
【0035】
ここで、中間樹脂Tuは、ポリビニルブチラール、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタンの何れか一つから成る樹脂を好適に用いることができる。また、樹脂フィルムBjについては、中間樹脂Tuと同一の樹脂から構成することができる他、ポリエチレンテレフタレート好適に用いることができる。
当該構成により、赤外放射ガラス層G1及び裏面ガラス層G2(赤外放射裏面ガラス層)は、衝撃を受け破損した際に、ガラス片を維持することができる。
【0036】
赤外放射ガラス層G1及び裏面ガラス層G2(赤外放射裏面ガラス層)は、好ましくは車両用ガラスであり、より好ましくは、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルカリボロシリケートガラス及びアクリル樹脂ガラスの少なくとも1つ以上から成る。赤外放射ガラス層G1及び裏面ガラス層G2(赤外放射裏面ガラス層)は、互いに同一の材料であっても異なる材料であっても構わない。
赤外放射ガラス層G1及び裏面ガラス層G2(赤外放射裏面ガラス層)は、強化ガラスとして構成しても良く、熱処理または化学処理により処理された単一層ガラスを好適に用いることができ、通常のガラス(すなわち、ソーダライムシリカガラスまたはアニールガラスのような未強化ガラス)に比べて、その強度を高くすることができる。
更に、赤外放射ガラス層G1及び裏面ガラス層G2(赤外放射裏面ガラス層)は、充填剤および/または繊維で強化されても良い。
赤外放射ガラス層G1及び裏面ガラス層G2(赤外放射裏面ガラス層)、及び中間樹脂Tuは、可視光に対して透明であることが好ましい。
【0037】
図1に示すガラス複合体Wの製造方法の一例としては、まず、上述の金属材料がスパッタリングされた樹脂フィルムBjと赤外放射ガラス層G1との間、及び上述の金属材料がスパッタリングされた樹脂フィルムBjと裏面ガラス層G2との間に、中間樹脂Tuを介在させた積層状態とする。
次に、積層されたガラス複合体Wを70~100℃程度の熱をかけ温めたのちにローラーで挟み込み、空気を抜きながら仮圧着するニッパーロール法、ガラス複合体Wの平面視での端部(4辺)をゴムチューブで縛り空気を抜いて仮圧着するラバーチャンネル法、ゴム状袋体にガラス複合体Wを入れゴム状袋体内を真空引きして仮圧着するラバーバッグ法等の方法により、ガラス複合体Wを仮圧着する。
最後に、例えば、100~130℃程度で1~2時間程度、圧力をかけて空気を抜ききると共に圧着させるオートクレーブ法により、本圧着する。
尚、中間樹脂Tuは、圧着の過程で加熱されることにより、光反射層Bの薄肉部位B2の存在する部分に流れ込み、当該薄肉部位B2の厚みが0μmである場合、赤外放射ガラス層G1と裏面ガラス層G2とを直接接続することになる。
【0038】
ガラス複合体Wの他の構成として、
図4に示すように、放射面Hとしての第1放射面H1の側から、赤外放射ガラス層G1、光反射層B、中間樹脂Tu,裏面ガラス層G2とを積層した構造としても良い。
光反射層Bは、例えば、赤外放射ガラス層G1の第1放射面H1の存在側とは反対側の面に、所定の色(例えば、白色)を有するセラミクスをスクリーン印刷等により吹き付けて、焼き固めることで固着させる形態で、成膜される。即ち、光反射層Bは、赤外放射ガラス層G1にセラミクスの表面に形成されたセラミクス層である。当該セラミクスとしては、酸化チタン、酸化マグネシウム等を好適に用いることができる。
当該光反射層Bは、
図1又は
図2に示すガラス複合体Wと同様、厚肉部位B3と薄肉部位B1、B2を有する。
当該ガラス複合体Wは、光反射層Bが固着する赤外放射ガラス層G1と、裏面ガラス層G2との間に、中間樹脂Tuを介在させた状態で、上述の仮圧着、本圧着を実行することで、製造される。
因みに、
図1に示すガラス複合体W及び
図4に示すガラス複合体Wの何れも、裏面ガラス層G2を大気側(矢印Zの矢示側)として用いることができる。
【0039】
尚、上述した赤外放射性能を発揮する観点から、
図1に示すガラス複合体Wにおいて、赤外放射ガラス層G1の厚みは、200μm以上10000μm以下であることが好ましく、
図4に示すガラス複合体Wにおいて、赤外放射ガラス層G1の厚みは、200μm以上10000μm以下であることが好ましい。この他、裏面ガラス層G2を大気側(矢印Zの矢示側)としたガラス複合体Wにおいて、裏面ガラス層G2の厚みは、200μm以上10000μm以下であることが好ましく、
図4に示すガラス複合体Wにおいて、裏面ガラス層G2の厚みは、200μm以上10000μm以下であることが好ましい。
【0040】
これまで説明してきたガラス複合体Wは、全体での、面平均日射反射率が40%以上であり、且つ面平均の8μm以上13μm以下の赤外光の輻射率の波長平均である平均輻射率が80%以上である。
より好ましくは、全体での、面平均日射反射率が60%以上であり、且つ面平均の8μm以上13μm以下の赤外光の輻射率の波長平均である平均輻射率が85%以上であることが好ましい。
【0041】
〔試験結果〕
これまで説明してきたガラス複合体Wに関し、
図1に示す構造のものを実施例1、2、4とし、
図4に示す構造のものを実施例3、5とした。また、
図5に示すように、大気の側から、赤外放射ガラス層G、光反射層B、赤外放射層Jを記載の順に積層した構造のものを比較例1とし、赤外放射ガラス層単体を比較例2とした。
【0042】
実施例及び比較例について、試験を行ったガラス複合体Wの条件は、以下の〔表2〕の通りである。〔表1〕に試験結果を示す。
【0043】
【0044】
【0045】
以上の試験結果から、実施例1~5に係るガラス複合体Wでは、輻射率、可視光反射率、電波透過性、採光性、映り込み性に関し、良好な結果が得られていることがわかる。
一方、比較例1に係るガラス複合体Wにおいては、光反射層Bに薄肉部位を設けない構成であるため、電波透過性、採光性、映り込み性の試験条件を満足できていないことが推察される。
また、比較例2に係るガラス複合体Wにおいては、光反射層Bを設けない構成であるため、可視光反射率の試験条件を満足できていないことが推察される。
【0046】
〔別実施形態〕
(1)これまで説明してきたガラス複合体Wは、赤外放射ガラス層G1の第1放射面H1の存在側とは反対側に、調光機能を有する調光層(図示せず)を有する構成としても構わない。
【0047】
(2)これまで説明してきたガラス複合体Wは、放射面Hに沿う形で、紫外線を反射する紫外線反射層を設ける構成を採用しても構わない。
ガラス複合体Wの場合、当該紫外線反射層は、アルミ合金等の材料を好適に用いることができる。
【0048】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のガラス複合体は、電磁波透過性及び採光性を向上できると共に、夜間等での映り込みを低減できるガラス複合体として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
2 :薄肉部位
B :光反射層
B1 :第1金属薄肉部位
B2 :第2金属薄肉部位
B3 :厚肉部位
G1 :赤外放射ガラス層
G2 :裏面ガラス層
H :放射面
H1 :第1放射面
H2 :第2放射面
J :赤外放射層
Tu :中間樹脂
W :ガラス複合体
Z :積層方向
【要約】
【課題】電磁波透過性及び採光性を向上できると共に、夜間等での映り込みを低減できるガラス複合体を提供する。
【解決手段】光反射層Bが、積層方向Zにおける厚肉部位B3と、積層方向Zにおける厚みが厚肉部位B3の厚みの2/3以下である薄肉部位とを有し、薄肉部位は、第1放射面H1に直交する平面視において連続して一体に設けられ且つ平面視での面積が5cm
2以上の面積を有する第1金属薄肉部位と、平面視において連続して一体に設けられ且つ平面視での面積が第1金属薄肉部位の面積未満である第2金属薄肉部位B2とを有し、第2金属薄肉部位B2は、平面視で分散して分布する形態で複数設けられ、全体での、面平均日射反射率が40%以上であり、且つ面平均の8μm以上13μm以下の赤外光の輻射率の波長平均である平均輻射率が80%以上である。
【選択図】
図1