(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】自転車用ペダル
(51)【国際特許分類】
B62M 3/08 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
B62M3/08 A
B62M3/08 C
(21)【出願番号】P 2024086866
(22)【出願日】2024-05-29
【審査請求日】2024-05-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524203923
【氏名又は名称】森岡 寿代
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 政男
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-094871(JP,A)
【文献】登録実用新案第3234443(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0019203(KR,A)
【文献】実開昭63-085592(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の運転者が足(L)を載せるペダル踏面(8)をもつペダル本体(9)と、
前記ペダル本体(9)を前記ペダル踏面(8)の前後方向の中間位置で回転可能に支持するペダル軸(10)と、を有する自転車用ペダルにおいて、
前記ペダル本体(9)と前記ペダル軸(10)の間に、前記ペダル本体(9)の前記ペダル軸(10)よりも前側部分が下方に移動する方向の前記ペダル本体(9)の前記ペダル軸(10)に対する回転を規制し、前記ペダル本体(9)の前記ペダル軸(10)よりも前側部分が上方に移動する方向の前記ペダル本体(9)の前記ペダル軸(10)に対する回転を許容するラチェット機構(18)を設け
、
前記ペダル本体(9)は、前記ペダル踏面(8)をもつ踏み板(9A)と、前記踏み板(9A)に作用する踏力を前記ペダル軸(10)の前後に分配する踏力分配アーム(9B)とで構成され、
前記踏力分配アーム(9B)は、前記ペダル軸(10)に回転可能に連結されるペダル軸連結部(14)と、前記ペダル軸連結部(14)から前方に延びる前側アーム部(15)と、前記ペダル軸連結部(14)から後方に延びる後側アーム部(16)とを有し、
前記踏み板(9A)の前側の端部が、前記前側アーム部(15)に回動可能に連結され、前記踏み板(9A)の後側の端部が、前記後側アーム部(16)にばね部材(20)を介して上下動可能に支持されてい
ることを特徴とする自転車用ペダル。
【請求項2】
前記ペダル軸(10)の中心から前記ペダル踏面(8)の前端までの前後方向の距離が、前記ペダル軸(10)の中心から前記ペダル踏面(8)の後端までの前後方向の距離よりも長い請求項1に記載の自転車用ペダル。
【請求項3】
前記ペダル踏面(8)を上向きにした状態での前記ペダル本体(9)の重心(G)が、前記ペダル軸(10)の中心に対して前側かつ下方に位置するように、前記ペダル本体(9)の下側に錘(28)を設け、これにより、前記ペダル踏面(8)が下向きとなるように前記ペダル本体(9)を前記ペダル軸(10)に対して回転させたときに、前記ペダル本体(9)が、前記ラチェット機構(18)の空転方向、すなわち前記ペダル本体(9)の前記ペダル軸(10)よりも前側部分が上方に移動する方向に回転して前記ペダル踏面(8)が上向きに自然復帰するようにした請求項1または2に記載の自転車用ペダル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自転車を漕ぐ力を軽減可能とする自転車用ペダルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自転車用ペダル(以下、単に「ペダル」という)は、運転者が足を載せるペダル踏面をもつペダル本体と、そのペダル本体をペダル踏面の前後方向の中間位置で回転可能に支持するペダル軸とを有する。このペダルは、自転車のクランク軸の両端から180°反対方向に延びる左右一対のクランクアームの先端に取り付けて使用される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自転車を漕ぐとき、ペダルはクランク軸を中心にクランクアームの長さを半径とする円運動をする。
【0005】
ここで、本願の発明者は、ペダルの円運動の軌跡のうち、運転者が大きい力でペダルを踏み込む区間、すなわち、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダルの円運動の中心からペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)までの距離を長くすることができないかを検討した。
【0006】
ペダルの円運動の中心からペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)までの距離を長くすることができれば、同じ大きさの踏み込み力でも、円運動の中心から力点までの距離が長くなる分、クランク軸を回転させる力が大きくなるので、自転車を漕ぐ力を軽減することが可能となる。
【0007】
なお、従来のペダルにおいては、ペダル本体がペダル軸まわりに正逆いずれの方向にも回転可能に支持されているため、ペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)は、常にペダル軸の位置である。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、自転車を漕ぐ力を軽減可能とする自転車用ペダルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の自転車用ペダルを提供する。
[構成1]
自転車の運転者が足を載せるペダル踏面をもつペダル本体と、
前記ペダル本体を前記ペダル踏面の前後方向の中間位置で回転可能に支持するペダル軸と、を有する自転車用ペダルにおいて、
前記ペダル本体と前記ペダル軸の間に、前記ペダル本体の前記ペダル軸よりも前側部分が下方に移動する方向の前記ペダル本体の前記ペダル軸に対する回転を規制し、前記ペダル本体の前記ペダル軸よりも前側部分が上方に移動する方向の前記ペダル本体の前記ペダル軸に対する回転を許容するラチェット機構を設けたことを特徴とする自転車用ペダル。
【0010】
この構成を採用すると、ペダル本体とペダル軸の間に設けたラチェット機構の作用により、ペダル本体のペダル軸よりも前側部分が下方に移動する方向のペダル本体のペダル軸に対する回転が規制されるので、ペダル本体を踏み込んだときに、ペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)が、ペダル軸の位置ではなく、ペダル踏面の前端の位置となる。そのため、ペダルの円運動の軌跡のうち、運転者が大きい力でペダルを踏み込む区間、すなわち、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダルの円運動の中心からペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)までの距離を長くし、自転車を漕ぐ力を軽減することが可能となる。
【0011】
一方、ペダルの円運動の軌跡のうち、運転者がペダルを踏み込まない区間、すなわち、クランク軸の後方にペダルが位置する区間においては、ペダル本体のペダル軸よりも後側部分に踏力を作用させることで、ペダル本体のペダル軸よりも前側部分が上方に移動する方向(つまり、ラチェット機構の空転方向)にペダル本体をペダル軸に対して回転させ、ペダル踏面の上向きの状態を保つことができる。
【0012】
[構成2]
前記ペダル軸の中心から前記ペダル踏面の前端までの前後方向の距離が、前記ペダル軸の中心から前記ペダル踏面の後端までの前後方向の距離よりも長い構成1に記載の自転車用ペダル。
【0013】
この構成を採用すると、ペダルの円運動の軌跡のうち、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダルの円運動の中心からペダル踏面の前端までの距離を特に長くすることが可能となり、自転車を漕ぐ力を効果的に軽減することが可能となる。
【0014】
[構成3]
前記ペダル本体は、前記ペダル踏面をもつ踏み板と、前記踏み板に作用する踏力を前記ペダル軸の前後に分配する踏力分配アームとで構成され、
前記踏力分配アームは、前記ペダル軸に回転可能に連結されるペダル軸連結部と、前記ペダル軸連結部から前方に延びる前側アーム部と、前記ペダル軸連結部から後方に延びる後側アーム部とを有し、
前記踏み板の前側の端部が、前記前側アーム部に回動可能に連結され、前記踏み板の後側の端部が、前記後側アーム部にばね部材を介して上下動可能に支持されている構成1または2に記載の自転車用ペダル。
【0015】
この構成を採用すると、ペダルの円運動の軌跡のうち、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダル踏面を水平に保ちながら、ペダルの踏み込み動作を行なうことが容易となる。
【0016】
すなわち、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、仮に、ペダル本体のペダル軸よりも後側部分には踏力を作用させず、ペダル本体のペダル軸よりも前側部分のみに踏力を作用させるとすれば、ラチェット機構の作用により、ペダル本体とクランクアームのなす角度が固定されるため、クランクアームの回転が進むにつれてペダル本体が前傾することとなり、ペダル踏面の水平を保つことができない。
【0017】
そこで、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダル踏面の水平を保つためには、ペダル本体のペダル軸よりも前側部分を踏み込みながら、ペダル本体のペダル軸よりも後側部分にもペダル踏面の水平を保つための踏力をかける必要があるが、そのような動作を実際に行なうことは難しい。
【0018】
この問題に対し、上記構成の踏み板と踏力分配アームとで構成されたペダル本体を採用すると、踏み板の前側の端部が、前側アーム部に回動可能に連結され、踏み板の後側の端部が、後側アーム部にばね部材を介して上下動可能に支持されているので、踏み板を踏み込むことで、その踏み込み力を踏み板の前側の端部から前側アーム部に作用させながら、踏み板の後側の端部を下方に逃がしつつ、踏み板の後側の端部からばね部材を介して後側アーム部にも踏力の一部を作用させることができる。そのため、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダル踏面の水平を保ちながら、ペダルの踏み込み動作を行なうことが容易となる。
【0019】
[構成4]
前記ペダル踏面を上向きにした状態での前記ペダル本体の重心が、前記ペダル軸の中心に対して前側かつ下方に位置するように、前記ペダル本体の下側に錘を設け、これにより、前記ペダル踏面が下向きとなるように前記ペダル本体を前記ペダル軸に対して回転させたときに、前記ペダル本体が、前記ラチェット機構の空転方向、すなわち前記ペダル本体の前記ペダル軸よりも前側部分が上方に移動する方向に回転して、前記ペダル踏面が上向きの状態に自然復帰するようにした構成1から3のいずれかに記載の自転車用ペダル。
【0020】
この構成を採用すると、ペダル本体の下側に設けた錘によって、ペダル本体の重心が、ペダル軸の中心に対して前側かつ下方に位置するように調整されているので、ペダル踏面に足を載せていないときに、何らかの外力が加わってペダル踏面が下向きになったとしても、ペダル本体がラチェット機構の空転方向に回転し、ペダル踏面が上向きになるように自然復帰させることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の自転車用ペダルは、ペダル本体とペダル軸の間に設けたラチェット機構の作用により、ペダル本体のペダル軸よりも前側部分が下方に移動する方向のペダル本体のペダル軸に対する回転が規制されるので、ペダル本体を踏み込んだときに、ペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)が、ペダル軸の位置ではなく、ペダル踏面の前端の位置となる。そのため、ペダルの円運動の軌跡のうち、運転者が大きい力でペダルを踏み込む区間、すなわち、クランク軸の前方にペダルが位置する区間において、ペダルの円運動の中心からペダルの踏み込み力の作用する位置(力点)までの距離を長くし、自転車を漕ぐ力を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の実施形態にかかる自転車用ペダルを使用した自転車を左側から見た図
【
図3】
図2の左右一対のペダルのうち右側のペダルの近傍を拡大して示す図
【
図7】
図6に示すペダルの踏み込み力が作用する点(力点)と、ペダルの円運動の中心との関係を模式的に示す図
【
図8】
図6に示すペダル本体のペダル軸よりも後側部分に踏力をまったく作用させずに、ペダル本体のペダル軸よりも前側部分のみに踏力を作用させたときのペダル本体の動きを模式的に示す図
【
図9】ペダル本体の下側に錘を追加した変形例を
図4に対応して示す図
【
図10】
図9に示すペダル踏面が下向きになった状態から、錘の重さでペダル本体が回転し、ペダル踏面が上向きに復帰する動作を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1、
図2に、この発明の実施形態にかかる自転車用ペダル1(以下、単に「ペダル1」という)を使用した自転車を示す。
【0024】
自転車は、運転者が座るサドル2と、サドル2の下方に配置された左右方向に延びるクランク軸3と、クランク軸3の両端から180°反対方向に延びる左右一対のクランクアーム4と、各クランクアーム4の先端に組み付けられたペダル1とを有する。クランク軸3には、クランクスプロケット5が固定して設けられ、クランクスプロケット5にチェーン6が巻き掛けられている。この自転車は、左右一対のペダル1をクランク軸3の前方(図では左方)の位置で交互に踏み込むことでクランク軸3を一定方向に回転させ、そのクランク軸3の回転をチェーン6で後輪7に伝達することで前進する。
【0025】
図3に示すように、ペダル1は、自転車の運転者が足Lを載せるペダル踏面8をもつペダル本体9と、ペダル本体9を回転可能に支持するペダル軸10とを有する。
【0026】
ペダル軸10の左右方向の内側(図では下側)の端部には、雄ねじを外周にもつねじ軸部11が形成され、そのねじ軸部11が、クランクアーム4の先端に形成されたペダル穴12にねじ込まれている。これにより、ペダル軸10は、クランクアーム4の先端にクランク軸3と平行に固定されている。ペダル軸10の左右方向の外側(図では上側)の端部には、ペダル本体9を回転可能に支持するスピンドル軸部13が形成されている。
【0027】
ペダル本体9は、ペダル踏面8をもつ踏み板9Aと、踏み板9Aに作用する踏力をペダル軸10の前後に分配する踏力分配アーム9Bとで構成されている。
【0028】
踏力分配アーム9Bは、ペダル軸10に回転可能に連結されるペダル軸連結部14と、ペダル軸連結部14から前方(図では左方)に延びる前側アーム部15と、ペダル軸連結部14から後方(図では右方)に延びる後側アーム部16とを有する。ペダル軸連結部14と前側アーム部15と後側アーム部16は、鋼材などの金属で一体に形成されている。
【0029】
ペダル軸連結部14には、左右方向(図では上下方向)に貫通する軸挿入穴17が形成され、その軸挿入穴17に、ペダル軸10のスピンドル軸部13が回転可能かつ軸挿入穴17から抜け止めした状態に組み込まれている。軸挿入穴17の内周とスピンドル軸部13の外周との間には、ラチェット機構18が組み込まれている。
【0030】
踏み板9Aの前側(図では左側)の端部は、前側アーム部15の前側の端部に設けた左右方向(図では上下方向)に延びる前端軸19に回動可能に連結されている。踏み板9Aの後側(図では右側)の端部は、後側アーム部16にばね部材20を介して上下動可能に支持されている。踏み板9Aの上面は、運転者が足Lを載せるペダル踏面8とされている。ペダル踏面8の前後方向の長さは、15cm以上(好ましくは20cm以上)30cm以下に設定されている。
【0031】
ペダル本体9(踏み板9Aおよび踏力分配アーム9B)は、ペダル踏面8の前端(図では左端)がペダル軸10よりも前方に位置し、かつ、ペダル踏面8の後端(図では右端)がペダル軸10よりも後方に位置するように、ペダル踏面8の前後方向の中間位置でペダル軸10に支持されている。ここで、ペダル軸10の中心は、ペダル踏面8の前端と後端の間を二等分する位置よりも後側(図では右側)にずれた位置に配置されており、これにより、ペダル軸10の中心からペダル踏面8の前端までの前後方向の距離が、ペダル軸10の中心からペダル踏面8の後端までの前後方向の距離よりも長くなっている。ペダル軸10の中心からペダル踏面8の前端までの前後方向の距離は、10cm以上(好ましくは13cm以上)20cm以下に設定されている。
【0032】
図4に示すように、ラチェット機構18は、ペダル本体9のペダル軸10よりも前側部分(図では、踏み板9Aのペダル軸10よりも前側部分と、踏力分配アーム9Bの前側アーム部15)が下方に移動する方向(図では反時計回り方向)のペダル本体9のペダル軸10に対する回転を規制し、ペダル本体9のペダル軸10よりも前側部分が上方に移動する方向(図では時計回り方向)のペダル本体9のペダル軸10に対する回転を許容するように構成されたワンウェイクラッチである。ラチェット機構18は、ペダル本体9をペダル軸10に対して回転可能に支持する軸受を兼ねたものを用いてもよく、ラチェット機構18とペダル本体9をペダル軸10に対して回転可能に支持する軸受とを個別に設けるようにしてもよい。
【0033】
図3、
図5に示すように、ばね部材20は、鋼線をコイル状に巻回したコイル部21と、コイル部21の両端から延出する一対の延出部22,23とをもつねじりコイルばねである。
図3に示すように、コイル部21は、踏力分配アーム9Bに設けた左右方向(図では上下方向)に延びるばね支持ピン24で回動可能に支持されている。
図5に示すように、一対の延出部22,23は、コイル部21から上下に間隔をおいて後方(図では右方)に延び、上側の延出部22が、踏み板9Aの後側の端部に設けた上側係止部25に係止し、下側の延出部23が、後側アーム部16に設けた下側係止部26に係止し、上側係止部25と下側係止部26を上下に離反する方向に付勢している。
【0034】
後側アーム部16には、ばね部材20を上下方向に圧縮した状態に保持するプリロード付与部27が設けられている。プリロード付与部27は、上側の延出部22の上方への移動範囲を規制することで、ばね部材20に予め上下方向の荷重(プリロード荷重)を負荷した状態に保持している。これにより、足Lから踏み板9Aの後側の端部に作用する踏力が、ばね部材20のプリロード荷重よりも大きくなったときに、その踏力の大きさに応じて、踏み板9Aの後側の端部が、後側アーム部16に対して下方に揺動するようになっている。
【0035】
以下、このペダル1の使用例を説明する。
【0036】
図1に示す自転車を漕ぐとき、
図6に示すように、ペダル1は、クランク軸3を中心にクランクアーム4の長さを半径とする円運動をする。
【0037】
ここで、ペダル1は、ラチェット機構18(
図3参照)の作用により、ペダル本体9(踏み板9Aおよび踏力分配アーム9B)のペダル軸10よりも前側部分が下方に移動する方向(
図6では反時計回りの方向)のペダル本体9のペダル軸10に対する回転が規制されているので、
図6に示すペダル本体9を踏み込んだときに、
図7に模式的に示すように、ペダル1の踏み込み力の作用する位置(力点F)が、ペダル軸10の位置ではなく、ペダル踏面8の前端の位置となる。
【0038】
そのため、このペダル1は、
図7に示すペダル1の円運動の軌跡のうち、運転者が大きい力でペダル1を踏み込む区間、すなわち、クランク軸3の前方(図では左方)にペダル1が位置する区間(特に、クランク軸3の真上の位置P1に対して45°程度ペダル1を前方に移動させた位置P2から、その位置に対して更に90°程度ペダル1を移動させた位置P3までの区間)において、ペダル1の円運動の中心(つまりクランク軸3の中心)から、ペダル1の踏み込み力の作用する位置(力点F)までの距離を長くし、自転車を漕ぐ力を軽減することが可能である。
【0039】
一方、
図7に示すペダル1の円運動の軌跡のうち、運転者がペダル1を踏み込まない区間、すなわち、クランク軸3の後方(図では右方)にペダル1が位置する区間においては、
図4に示すペダル本体9のペダル軸10よりも後側部分(図では右側部分)に踏力を作用させることで、ペダル本体9のペダル軸10よりも前側部分(図では左側部分)が上方に移動する方向(つまり、ラチェット機構18の空転方向)にペダル本体9をペダル軸10に対して回転させ、ペダル踏面8の上向きの状態を保つことができる。
【0040】
また、このペダル1は、
図3に示すように、ペダル軸10の中心からペダル踏面8の前端までの前後方向の距離が、ペダル軸10の中心からペダル踏面8の後端までの前後方向の距離よりも長く設定されているので、
図7に模式的に示すように、クランク軸3の前方(図では左方)にペダル1が位置する区間において、ペダル1の円運動の中心(つまりクランク軸3の中心)からペダル踏面8の前端(図では左端)までの距離を特に長くすることが可能となり、自転車を漕ぐ力を効果的に軽減することが可能となっている。
【0041】
また、このペダル1は、
図3に示すように、ペダル軸10で回転可能に支持されるペダル本体9を、踏み板9Aと踏力分配アーム9Bとで構成しているので、
図7に示すペダル1の円運動の軌跡のうち、クランク軸3の前方(図では左方)にペダル1が位置する区間において、ペダル踏面8を水平に保ちながら、ペダル1の踏み込み動作を行なうことが容易となっている。
【0042】
すなわち、
図7に示すクランク軸3の前方(図では左方)にペダル1が位置する区間において、仮に、ペダル本体9のペダル軸10よりも後側部分(図では右側部分)には踏力を作用させず、ペダル本体9のペダル軸10よりも前側部分(図では左側部分)のみに踏力を作用させるとすれば、ラチェット機構18(
図3参照)の作用により、ペダル本体9とクランクアーム4のなす角度が固定されるため、
図8に模式的に示すように、クランクアーム4の回転が進むにつれてペダル本体9が前傾することとなり、ペダル踏面8の水平を保つことができない。
【0043】
そこで、
図8に示すクランク軸3の前方にペダル1が位置する区間において、ペダル踏面8の水平を保つためには、ペダル本体9のペダル軸10よりも前側部分(図では左側部分)を踏み込みながら、ペダル本体9のペダル軸10よりも後側部分(図では右側部分)にもペダル踏面8の水平を保つための踏力をかける必要があるが、そのような動作を実際に行なうことは難しい。
【0044】
この問題に対し、この実施形態においては、
図3、
図4に示すように、ペダル本体9を、踏み板9Aと踏力分配アーム9Bとで構成し、踏み板9Aの前側の端部を、前側アーム部15に回動可能に連結し、踏み板9Aの後側の端部を、後側アーム部16にばね部材20を介して上下動可能に支持しているので、
図6に示すように、踏み板9Aを踏み込むことで、その踏み込み力を踏み板9Aの前側の端部から前端軸19を介して前側アーム部15に作用させながら、踏み板9Aの後側の端部を下方に逃がしつつ、踏み板9Aの後側の端部からばね部材20を介して後側アーム部16にも踏力の一部を作用させることができる。そのため、クランク軸3の前方にペダル1が位置する区間において、ペダル踏面8の水平を保ちながら、ペダル1の踏み込み動作を行なうことが容易となっている。
【0045】
図9に示すように、ペダル本体9の下側に錘28を設け、この錘28の重さにより、ペダル踏面8を上向きにした状態でのペダル本体9の重心Gが、ペダル軸10の中心に対して前側(図では左側)かつ下方に位置するように調整すると好ましい。
【0046】
このようにすると、
図10に示すように、ペダル踏面8に足を載せていないときに、何らかの外力が加わってペダル本体9がペダル軸10まわりに回転し、ペダル踏面8が下向きになったとしても、ペダル本体9がラチェット機構18の空転方向(図では時計回り方向)に回転して、ペダル踏面8が上向きの状態に自然復帰するようになる。
【0047】
上記実施形態では、踏み板9Aの後側の端部を上下動可能に支持するばね部材20として、ねじりコイルばねを例に挙げて説明したが、ばね部材20は、上下方向に延びる圧縮コイルばねを採用することも可能である。この場合、後側アーム部16でばね部材20の下端を支持し、ばね部材20の上端で踏み板9Aの後側の端部の下面を支持するように構成すればよい。また、ばね部材20として、上下方向に延びる引張コイルばねを採用することも可能である。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 自転車用ペダル
8 ペダル踏面
9 ペダル本体
9A 踏み板
9B 踏力分配アーム
10 ペダル軸
14 ペダル軸連結部
15 前側アーム部
16 後側アーム部
18 ラチェット機構
20 ばね部材
28 錘
L 足
G 重心
【要約】
【課題】自転車を漕ぐ力を軽減可能とする自転車用ペダルを提供する。
【解決手段】ペダル踏面8をもつペダル本体9と、ペダル本体9を回転可能に支持するペダル軸10とを有する自転車用ペダル1において、ペダル本体9とペダル軸10の間にラチェット機構18を設けた。
【選択図】
図3