(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20241101BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241101BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 M
H02M7/12 H
(21)【出願番号】P 2024504868
(86)(22)【出願日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2023032103
【審査請求日】2024-01-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 純一
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 優介
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/033958(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0226374(US,A1)
【文献】国際公開第2014/148100(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/140083(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の変換器セルを備える電力変換装置であって、
前記複数の変換器セルの各々は、
セル制御部と、
直列接続された第1スイッチング回路および第2スイッチング回路と、
第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記第1入出力端子と前記第2入出力端子との間に接続されたバイパス要素とを含み、
前記第1スイッチング回路は、第1半導体素子と、第2半導体素子と、前記第1半導体素子および前記第2半導体素子を含む直列体に並列接続された第1エネルギー蓄積要素とを含み、
前記第1入出力端子は、前記第1半導体素子の負極端子と前記第2半導体素子の正極端子との接続点に接続され、
前記第2スイッチング回路は、第3半導体素子と、第4半導体素子と、前記第3半導体素子および前記第4半導体素子を含む直列体に並列接続された第2エネルギー蓄積要素とを含み、
前記第2入出力端子は、前記第3半導体素子の負極端子と前記第4半導体素子の正極端子との接続点に接続され、
前記第1スイッチング回路および前記第2スイッチング回路のうちのいずれかの異常が検出された場合、前記セル制御部は、
前記バイパス要素を閉路するための制御を実行し、
前記制御に応じて前記バイパス要素の閉路が確立される前の期間において、前記第1半導体素子および前記第4半導体素子の各々をオフ状態にするための制御を実行し、前記第2半導体素子および前記第3半導体素子の各々をオン状態にするための制御を実行する、電力変換装置。
【請求項2】
前記第1半導体素子の異常が検出された場合、前記セル制御部は、前記期間において、前記第2半導体素子のオン状態およびオフ状態を交互に切り替える、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第4半導体素子の異常が検出された場合、前記セル制御部は、前記期間において、前記第3半導体素子のオン状態およびオフ状態を交互に切り替える、請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1スイッチング回路は、前記第2半導体素子に並列接続された第5半導体素子をさらに含み、
前記第1半導体素子の異常が検出された場合、前記セル制御部は、前記期間において、前記第2半導体素子のオン時間が前記第5半導体素子のオン時間と重ならないように、前記第2半導体素子および前記第5半導体素子の各々のオン状態およびオフ状態を制御する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2スイッチング回路は、前記第3半導体素子に並列接続された第6半導体素子をさらに含み、
前記第4半導体素子の異常が検出された場合、前記セル制御部は、前記期間において、前記第3半導体素子のオン時間が前記第6半導体素子のオン時間と重ならないように、前記第3半導体素子および前記第6半導体素子の各々のオン状態およびオフ状態を制御する、請求項1または請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記セル制御部は、
前記第1半導体素子および前記第2半導体素子の各々のオンオフ制御を実行する第1制御回路と、
前記第3半導体素子および前記第4半導体素子の各々のオンオフ制御を実行する第2制御回路とを含む、請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記複数の変換器セルの各々は、前記バイパス要素に並列接続された抵抗器をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統等の高圧系統に適用される高電圧、大容量の電力変換装置として、モジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)が知られている。MMCは、変換器セルがカスケード接続されたアームにより構成される。変換器セルは、複数の半導体スイッチとコンデンサとを含んでおり、半導体スイッチをオンオフさせることにより、コンデンサの両端電圧またはゼロ電圧を出力する。また、変換器セルに異常が発生した場合に、バイパス要素を用いて当該変換器セルを短絡することにより運転継続を可能にする電力変換装置が知られている。
【0003】
例えば、特許5889498号公報(特許文献1)に係る電力変換装置は、変換器セルの異常が検知された場合に、バイパス要素の閉路が確立されるまでの期間、複数の半導体素子のうち、バイパス要素を含まない電流経路を継続的に形成するように選択した半導体素子をオン状態にするように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、変換器セルの異常発生時において、バイパス要素の閉路動作に伴ってバイパス要素に流れる過電流を抑制することにより、バイパス要素の損傷を防止することを検討している。特許文献1に係る変換器セルは、ハーフブリッジ回路またはフルブリッジ回路で構成されている。
【0006】
一方、ハーフブリッジ回路を2個直列に接続した構成を有する変換器セルでは、2つのハーフブリッジ回路によって変換器セル全体に印加される電圧を分割できるため、各ハーフブリッジ回路への印加電圧を低減できる.当該構成を有する変換器セルにおいても、バイパス要素に流れる過電流を抑制してバイパス要素が損傷しないように保護する必要がある。しかしながら、特許文献1は当該保護を実現するための解決手段を教示も示唆もしていない。
【0007】
本開示のある局面における目的は、直列接続された2つのハーフブリッジ回路で構成された変換器セルの異常発生時に、バイパス要素に流れる過電流を抑制してバイパス要素を保護することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施の形態に従うと、直列接続された複数の変換器セルを備える電力変換装置が提供される。複数の変換器セルの各々は、セル制御部と、直列接続された第1スイッチング回路および第2スイッチング回路と、第1入出力端子および第2入出力端子と、第1入出力端子と第2入出力端子との間に接続されたバイパス要素とを含む。第1スイッチング回路は、第1半導体素子と、第2半導体素子と、第1半導体素子および第2半導体素子を含む直列体に並列接続された第1エネルギー蓄積要素とを含む。第1入出力端子は、第1半導体素子の負極端子と第2半導体素子の正極端子との接続点に接続される。第2スイッチング回路は、第3半導体素子と、第4半導体素子と、第3半導体素子および第4半導体素子を含む直列体に並列接続された第2エネルギー蓄積要素とを含む。第2入出力端子は、第3半導体素子の負極端子と第4半導体素子の正極端子との接続点に接続される。第1スイッチング回路および第2スイッチング回路のうちのいずれかの異常が検出された場合、セル制御部は、バイパス要素を閉路するための制御を実行し、制御に応じてバイパス要素の閉路が確立される前の期間において、第1半導体素子および第4半導体素子の各々をオフ状態にするための制御を実行し、第2半導体素子および第3半導体素子の各々をオン状態にするための制御を実行する。
【0009】
他の実施の形態に従うと、直列接続された複数の変換器セルを備える電力変換装置が提供される。複数の変換器セルの各々は、セル制御部と、直列接続された第1スイッチング回路および第2スイッチング回路と、第1入出力端子および第2入出力端子と、第1入出力端子と第2入出力端子との間に接続されたバイパス要素とを含む。第1スイッチング回路は、第1半導体素子と、第2半導体素子と、第1半導体素子および第2半導体素子を含む直列体に並列接続された第1エネルギー蓄積要素とを含む。第1入出力端子は、第1半導体素子の負極端子と第2半導体素子の正極端子との接続点に接続される。第2スイッチング回路は、第3半導体素子と、第4半導体素子と、第3半導体素子および第4半導体素子を含む直列体に並列接続された第2エネルギー蓄積要素とを含む。第2入出力端子は、第3半導体素子の負極端子と第4半導体素子の正極端子との接続点に接続される。第1半導体素子に流れる短絡電流または第4半導体素子に流れる短絡電流が検出された場合、セル制御部は、第1半導体素子および第4半導体素子をオフ状態に制御する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によると、直列接続された2つのハーフブリッジ回路で構成された変換器セルの異常発生時に、バイパス要素に流れる過電流を抑制してバイパス要素を保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】バイパス要素の閉路時に発生し得る短絡電流の経路の一例を示す図である。
【
図4】バイパス要素の閉路時に発生し得る短絡電流の経路の他の例を示す図である。
【
図5】オンオフ制御実行時における短絡電流の経路の一例である。
【
図6】変換器セルをバイパスするための電流経路を示す図である。
【
図7】オンオフ制御実行時における短絡電流の経路の他の例を示す図である。
【
図8】実施の形態1に従うセル制御部の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】短絡電流の検出方式の一例を説明するための図である。
【
図10】短絡電流の検出方式の他の例を説明するための図である。
【
図11】短絡電流の検出方式のさらに他の例を説明するための図である。
【
図12】実施の形態2に従うセル制御部の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】半導体素子が大規模な破壊に至る例を説明するための図である。
【
図14】実施の形態3に従う半導体素子の制御方式を説明するための図である。
【
図15】実施の形態4に従う半導体素子群を説明するための図である。
【
図16】実施の形態4に従う半導体素子群の制御方式を説明するための図である。
【
図18】セル制御部の構成例を説明するための図である。
【
図19】セル制御部の他の構成例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0013】
実施の形態1.
<電力変換装置の構成>
図1は、電力変換装置の概略構成図である。
図1を参照して、電力変換装置100は、互いに直列接続された複数の変換器セル10を含む電力変換器110と、電力変換器110を制御するための制御装置120とを含む。“変換器セル”は、“サブモジュール”あるいは“単位変換器”とも呼ばれる。電力変換器110は、モジュラーマルチレベル変換器によって構成される。典型的には、電力変換器110は、直流回路130と交流回路150との間で電力変換を行なう。
【0014】
電力変換器110は、正極直流端子(すなわち、高電位側直流端子)Npと、負極直流端子(すなわち、低電位側直流端子)Nnとの間に互いに並列に接続された複数のレグ回路40u,40v,40w(以下、「レグ回路40」とも総称する。)を含む。
【0015】
レグ回路40は、交流を構成する複数相の各々に設けられる。レグ回路40は、直流回路130と交流回路150との間に接続され、両回路間で電力変換を行なう。
図1には、交流回路150が3相交流系統の場合が示され、U相、V相、W相にそれぞれ対応して3個のレグ回路40u,40v,40wが設けられている。レグ回路40u,40v,40wにそれぞれ設けられた交流端子Nu,Nv,Nwは、変圧器140を介して交流回路150に接続される。交流回路150は、例えば、交流電源等を含む交流電力系統である。
【0016】
各レグ回路40に共通に接続された正極直流端子Npおよび負極直流端子Nnは、直流回路130に接続される。直流回路130は、例えば、直流送電網等を含む直流電力系統または他の電力変換装置の直流端子である。
【0017】
レグ回路40uは、正極直流端子Npから交流端子Nuまでの正側アームと、負極直流端子Nnから交流端子Nuまでの負側アームとを含む。正側アームと負側アームとの接続点である交流端子Nuが変圧器140と接続される。レグ回路40v,40wについても同様の構成を有している。
【0018】
正側アームは、カスケード接続された複数の変換器セル10と、リアクトル14Pとを含む。当該複数の変換器セル10およびリアクトル14Pは互いに直列接続されている。負側アームは、カスケード接続された複数の変換器セル10と、リアクトル14Nとを含む。当該複数の変換器セル10およびリアクトル14Nは互いに直列接続されている。
【0019】
リアクトル14Pが挿入される位置は、正側アームのいずれの位置であってもよく、リアクトル14Nが挿入される位置は、負側アームのいずれの位置であってもよい。リアクトル14P,14Nはそれぞれ複数個あってもよい。リアクトル14Pと、リアクトル14Nとを磁気結合させて1つのリアクトルとしてもよい。リアクトル14Pのみ、もしくは、リアクトル14Nのみを設けてもよい。なお、リアクトルを設ける代わりに、配線インダクタンス等の寄生インダクタンスによって、リアクトルの代替の役割を果たす構成であってもよい。
【0020】
制御装置120は、図示しない各種の電気量検出器(例えば、交流電圧検出器と、交流電流検出器、直流電圧検出器、アーム電流検出器等)により検出された検出信号に基づいて、電力変換器110を制御する。制御装置120は、専用回路によって構成してもよいし、その一部または全部をFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ等によって構成してもよい。
【0021】
<変換器セルの構成>
図2は、変換器セルの構成例を示す図である。
図2を参照して、変換器セル10は、セル制御部15と、直列接続されたスイッチング回路21およびスイッチング回路22と、バイパス要素25と、高電位側の入出力端子Poと、低電位側の入出力端子Noとを含む。
【0022】
スイッチング回路21,22は、ハーフブリッジ回路で構成される。具体的には、スイッチング回路21は、半導体素子31と、半導体素子32と、エネルギー蓄積要素としてのコンデンサEPとを含む。
【0023】
半導体素子31は、スイッチング素子31sとダイオード31dとを含む。ダイオード31dは、スイッチング素子31sと逆並列(すなわち、並列かつ逆バイアス方向)に接続される。半導体素子32は、スイッチング素子32sとダイオード32dとを含む。ダイオード32dは、スイッチング素子32sと逆並列に接続される。なお、スイッチング素子31sはダイオード31dを含むように構成されていてもよい。
【0024】
スイッチング回路22は、半導体素子33と、半導体素子34と、エネルギー蓄積要素としてのコンデンサENとを含む。半導体素子33は、スイッチング素子33sとダイオード33dとを含む。ダイオード33dは、スイッチング素子33sと逆並列に接続される。半導体素子34は、スイッチング素子34sとダイオード34dとを含む。ダイオード34dは、スイッチング素子34sと逆並列に接続される。
【0025】
スイッチング素子31s,32s,33s,34sは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、GCT(Gate Commutated Turn-off thyristor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)等のスイッチング素子により構成される。
【0026】
コンデンサEPは、半導体素子31および半導体素子32を含む直列体に並列接続され、直流電圧を保持する。半導体素子31の負極端子と半導体素子32の正極端子との接続点には、入出力端子Poが接続される。コンデンサEPの正極端子は半導体素子31の正極端子と接続され、コンデンサEPの負極端子は半導体素子32の負極端子と接続される。
【0027】
コンデンサENは、半導体素子33および半導体素子34を含む直列体に並列接続される。半導体素子33の負極端子と半導体素子34の正極端子との接続点には、入出力端子Noが接続される。コンデンサENの正極端子は半導体素子33の正極端子と接続され、コンデンサENの負極端子は半導体素子34の負極端子と接続される。
【0028】
バイパス要素25は、入出力端子Poと、入出力端子Noとの間に接続される。バイパス要素25が閉路(すなわち、オン)することによって、変換器セル10がバイパスされる。例えば、バイパス要素25は、変換器セル10の各素子(例えば、半導体素子31~34等)が故障した場合に、当該変換器セル10をバイパスさせる際に利用される。これにより、複数の変換器セル10のうちの任意の変換器セル10が故障しても、他の変換器セル10を利用することにより電力変換器110の運転継続が可能となる。
【0029】
セル制御部15は、スイッチング回路21,22の動作を制御する。セル制御部15は、定常動作(例えば、スイッチング回路21,22に異常が発生していないときの電力変換動作)時においては、スイッチング素子31s~34sをオン状態またはオフ状態に制御して、入出力端子Po,No間にゼロ電圧または正電圧を出力する。スイッチング回路21,22の異常発生時におけるセル制御部15の動作については後述する。なお、セル制御部15は、例えば、ASIC、FPGA、またはこれらを組み合わせたもの等で構成される。
【0030】
図2に示す変換器セル10では、2つのスイッチング回路21,22が直列接続されているため、各スイッチング回路21,22への印加電圧が低減される。したがって、このような変換器セル10の構成は、MMCの小型化および高密度化によって、変換器セル10に印加される電圧が高電圧となる場合に特に有用である。
【0031】
<スイッチング回路の異常時の動作>
変換器セル10のいずれかで異常(例えば、半導体素子の故障、半導体素子のゲート駆動部に用いる制御電源の異常等)が検出された場合、当該異常が検出された変換器セル10のバイパス要素25が閉路されて、変換器セル10がバイパスされる。
【0032】
定常動作と同等の動作が実行されるように、変換器セル10の数を冗長設計していれば、いずれかの変換器セル10が異常となった場合でも、異常になった変換器セル10をバイパスすることにより、電力変換器110は、継続的に電力変換動作を実行できる。しかし、以下のような問題が発生し得る。
【0033】
図3は、バイパス要素の閉路時に発生し得る短絡電流の経路の一例を示す図である。
図3を参照して、スイッチング回路21の上アームを構成する半導体素子31が短絡状態になった場合を想定する。この場合、半導体素子31の異常(すなわち、短絡故障)が検出されてバイパス要素25が閉路される。しかし、それに伴って、コンデンサEPに充電されたエネルギー電荷が放電され、コンデンサEP、半導体素子31、バイパス要素25、半導体素子33の経路R1で短絡電流(すなわち、過電流)が流れる。
【0034】
図4は、バイパス要素の閉路時に発生し得る短絡電流の経路の他の例を示す図である。
図4を参照して、スイッチング回路22の下アームを構成する半導体素子34が短絡状態になった場合を想定する。この場合、半導体素子34の異常(すなわち、短絡故障)が検出されてバイパス要素25が閉路される。しかし、それに伴って、コンデンサENに充電されたエネルギー電荷が放電され、コンデンサEN、半導体素子32、バイパス要素25、半導体素子34の経路R2で短絡電流が流れる。
【0035】
バイパス要素25は、通常の電力変換動作時に変換器セル10に流れる電流値に基づいて設計され、通常、その電流値は数kA以下である。一方、
図3および
図4に示す短絡電流は、数十~数百kAであるため、この短絡電流によってバイパス要素25が損傷する可能性がある。バイパス要素25が損傷した場合、電力変換装置100は電力変換動作を継続することができない。
【0036】
したがって、本実施の形態に従うセル制御部15は、スイッチング回路21およびスイッチング回路22のうちのいずれかの異常を検出した場合、バイパス要素25を閉路するための制御(以下、「閉路制御」とも称する。)を実行し、半導体素子31(具体的には、スイッチング素子31s)および半導体素子34(具体的には、スイッチング素子34s)の各々をオフ状態にするための制御を実行し、半導体素子32(具体的には、スイッチング素子32s)および半導体素子33(具体的には、スイッチング素子33s)の各々をオン状態にするための制御を実行する。以下、上記のようなオンオフ制御を実行する理由について説明する。
【0037】
(半導体素子31の異常時)
セル制御部15が、半導体素子31の短絡故障に関連する異常(以下、「短絡関連異常」とも称する。)を検出したとする。短絡関連異常の一例は、制御電源の異常である。制御電源は、半導体素子をオンオフするためのゲート駆動部に供給される電源、オンオフのロジックを決定する制御基板に供給される電源等である。典型的には、ゲート駆動部および制御基板は、セル制御部15に含まれる。セル制御部15は、制御電源の電圧を検知し、当該電圧が正常動作範囲の電圧か否かを判断する。セル制御部15は、当該電圧が正常動作範囲を逸脱している場合に半導体素子31の短絡関連異常を検出する。なお、他の半導体素子32~34の異常検出方法についても同様である。
【0038】
この場合、セル制御部15は、バイパス要素25の閉路制御を実行し、当該閉路制御に応じてバイパス要素25の閉路が確立される(すなわち、バイパス要素25が完全に閉路する)前の期間において、上記のようなオンオフ制御を実行する。具体的には、セル制御部15は、半導体素子31,34に対してオフ状態にするための制御信号(以下、「オフ信号」とも称する。)を出力し、半導体素子32,33に対してオン状態にするための制御信号(以下、「オン信号」とも称する。)を出力する。これにより、半導体素子32,33はオン状態、半導体素子34はオフ状態となる。ただし、半導体素子31は短絡状態であるため、オフ状態にはならない。その結果、
図5に示すような短絡電流の経路が形成される。
【0039】
図5は、オンオフ制御実行時における短絡電流の経路の一例である。
図5を参照して、バイパス要素25が閉路される前の状態において、半導体素子32をオン状態にすることにより、半導体素子31,32が導通状態となるため、コンデンサEP、半導体素子31、半導体素子32の経路R3で短絡電流が流れる。これにより、コンデンサEPに蓄積されたエネルギーが消費され(すなわち、電荷が放電され)るため、バイパス要素25が実際に閉路される時点では、コンデンサEPに蓄積されたエネルギーが十分消費された状態となる。したがって、バイパス要素25の閉路後に
図3の経路R1で流れる短絡電流が抑制され、バイパス要素25の損傷を防止できる。
【0040】
ここで、バイパス要素25への閉路信号と、半導体素子31~34へのオンオフ信号の出力タイミングについて説明する。通常、バイパス要素25は機械スイッチで構成されているため、バイパス要素25に閉路信号を与えてから実際にバイパス要素25が閉路されるまでの時間は数ms程度である。一方、半導体素子にオンオフ信号を与えてから実際に半導体素子がオンオフされるまでの時間は数μs程度である。
【0041】
したがって、セル制御部15からバイパス要素25への閉路信号と、半導体素子31~34へのオンオフ信号が同時に出力された場合であっても、バイパス要素25の閉路が確立する前に、半導体素子31~34のオンオフ状態が確立され、
図5に示す電流の経路R3が形成される。なお、上記機械スイッチ以外のバイパス要素25を用いる場合には、閉路信号を与えてから数十μs以上の値で閉路されるものを用いてもよい。なお、半導体素子31~34へのオンオフ信号の出力タイミングは、バイパス要素25への閉路信号の出力タイミングよりも前であってもよい。
【0042】
ここで、半導体素子31の短絡関連異常時に、半導体素子34をオフ状態にする理由について説明する。上述したように、半導体素子31,32が導通状態になるとコンデンサEPの電荷が経路R3で放電され、バイパス要素25が閉路すると経路R1で電流が流れる。この状態で、仮に半導体素子34がオン状態になると、
図4の経路R2で電流が流れてしまう。この場合、エネルギーが十分蓄積された状態のコンデンサENから電荷が放電されるため、経路R2で流れる電流は過電流となり、バイパス要素25が損傷する可能性がある。したがって、半導体素子34をオフ状態にしてコンデンサENからの放電を防止する。
【0043】
また、半導体素子31が短絡故障してからバイパス要素25が実際に閉路されるまでの間、変換器セル10をバイパスするための電流経路を形成する必要がある。
【0044】
図6は、変換器セル10をバイパスするための電流経路を示す図である。
図6を参照して、半導体素子32,33をオン状態に制御することにより、経路R4で電流を流すことができる。これにより、変換器セル10はバイパスされる。したがって、半導体素子33はオン状態にする必要がある。
【0045】
上記より、半導体素子31の短絡関連異常時には、経路R3(
図5参照)で電流を流してコンデンサEPのエネルギーを消費させるために半導体素子32をオン状態にし、コンデンサENからの過電流が経路R2(
図4参照)でバイパス要素25に流れないように半導体素子34をオフ状態にし、経路R4(
図6参照)で電流を流して変換器セル10がバイパスされるように半導体素子33をオン状態にする。
【0046】
(半導体素子34の異常時)
セル制御部15が、半導体素子34の短絡関連異常を検出したとする。この場合でも、セル制御部15は、バイパス要素25に閉路信号を出力するとともに、半導体素子31,34に対してオフ信号を出力し、半導体素子32,33に対してオン信号を出力する。ただし、半導体素子34は短絡状態であるため、オフ状態にはならない。その結果、
図7に示すような短絡電流の経路が形成される。
【0047】
図7は、オンオフ制御実行時における短絡電流の経路の他の例を示す図である。
図7を参照して、バイパス要素25が閉路される前の状態において、半導体素子33をオン状態にすることにより、半導体素子33,34が導通状態となるため、コンデンサEN、半導体素子33、半導体素子34の経路R5で短絡電流が流れる。これにより、コンデンサENに蓄積されたエネルギーが消費されるため、バイパス要素25が実際に閉路される時点では、コンデンサENに蓄積されたエネルギーが十分消費された状態となる。したがって、バイパス要素25の閉路後に
図4の経路R2で流れる短絡電流が抑制され、バイパス要素25の損傷を防止できる。
【0048】
半導体素子34の短絡関連異常時に、半導体素子31をオフ状態にする理由について説明する。具体的には、半導体素子33,34が導通状態になるとコンデンサENの電荷が
図7の経路R5で放電され、バイパス要素25が閉路すると
図4の経路R2で電流が流れる。この状態で、仮に半導体素子31がオン状態になると、
図3の経路R1で過電流が流れてしまうためバイパス要素25が損傷する可能性がある。したがって、半導体素子31はオフ状態にしてコンデンサEPからの放電を防止する。
【0049】
また、半導体素子34が短絡故障してからバイパス要素25が実際に閉路されるまでの間、変換器セル10をバイパスするための電流経路(すなわち、
図6の経路R4)を形成するために、半導体素子32がオン状態に制御される。
【0050】
上記より、半導体素子34の短絡関連異常時には、経路R5(
図7参照)で電流を流してコンデンサENのエネルギーを消費させるために半導体素子33をオン状態にし、コンデンサEPからの過電流が経路R1(
図3参照)でバイパス要素25に流れないように半導体素子31をオフ状態にし、経路R4(
図6参照)で電流を流して変換器セル10がバイパスされるように半導体素子32をオン状態にする。
【0051】
(半導体素子32,33の異常時)
セル制御部15が、半導体素子32または半導体素子33の短絡関連異常を検出したとする。この場合でも、セル制御部15は、バイパス要素25に閉路信号を出力するとともに、半導体素子31,34に対してオフ信号を出力し、半導体素子32,33に対してオン信号を出力する。
【0052】
半導体素子32または半導体素子33において短絡関連異常が検出された場合、バイパス要素25が閉路された状態で、仮に半導体素子31がオン状態になると
図3の経路R1で過電流が流れる。そのため、半導体素子31はオフ状態に制御される。これにより、コンデンサEPからの放電を防止できる。バイパス要素25が閉路された状態で、仮に半導体素子34がオン状態になると
図4の経路R2で過電流が流れる。そのため、半導体素子34はオフ状態に制御される。これにより、コンデンサENからの放電を防止できる。
【0053】
半導体素子32の短絡関連異常時には半導体素子33がオン状態に制御され、半導体素子33の短絡関連異常時には半導体素子32がオン状態に制御される。これにより、変換器セル10がバイパスされる。
【0054】
(まとめ)
以上より、スイッチング回路21およびスイッチング回路22のうちのいずれか(すなわち、半導体素子31~34のいずれか)で異常が発生した場合、バイパス要素25の閉路が確立される前の期間において、半導体素子31,34がオフ状態に制御され、半導体素子32,33がオン状態に制御される。これにより、バイパス要素25への過電流が抑制され、バイパス要素25の損傷を防止できる。
【0055】
<フローチャート>
図8は、実施の形態1に従うセル制御部15の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8を参照して、セル制御部15は、スイッチング回路21,22のいずれかで異常を検出したか否かを判断する(ステップS10)。当該異常が検出されていない場合(ステップS10においてNO)、セル制御部15はステップS10を繰り返す。
【0056】
当該異常が検出された場合(ステップS10においてYES)、セル制御部15はバイパス要素25に閉路信号を出力し(ステップS12)、半導体素子31,34にオフ信号を出力し(ステップS14)、半導体素子32,33にオン信号を出力する(ステップS16)。なお、ステップS12,S14,S16の処理は順不同で実施されてもよいし、同時に実施されてもよい。ただし、半導体素子31~34のオンオフ状態が確立された後、バイパス要素25の閉路が確立されるものとする。
【0057】
<利点>
実施の形態1によると、各半導体素子31~34において短絡関連異常が発生した場合であっても、バイパス要素25に流れる過電流を抑制してバイパス要素25を適切に保護することができる。したがって、いずれかの変換器セル10に異常が発生した場合であっても、電力変換装置100の運転を継続できる。また、小型、軽量で安価なバイパス要素を採用することもできる。
【0058】
実施の形態2.
上述した実施の形態1では、半導体素子31~34に短絡関連異常が発生した場合においてバイパス要素25の損傷を防止する構成について説明した。実施の形態2では、半導体素子31~34は正常な状態であるが、バイパス要素25が誤って閉路してしまった場合において、バイパス要素25の損傷を防止する構成について説明する。
【0059】
図3を参照して、半導体素子31がオン状態に制御されている場合に、バイパス要素25がノイズなどの影響により誤動作(すなわち、閉路)すると、コンデンサEPが短絡されて経路R1で短絡電流が流れる。半導体素子31が故障に至っていない場合、この短絡電流は、飽和電流値(例えば、数kA程度)に制限される。しかし、半導体素子は数μs~数十μsで故障に至り完全に短絡状態となる。この場合、バイパス要素25に流れる電流は、瞬時に数十kA~数百kAに上昇してしまう。
【0060】
これを防止するために、セル制御部15は、半導体素子31を保護するためのアーム短絡保護機能を有する。アーム短絡保護機能は、半導体素子31を介してコンデンサEPが短絡することにより流れる短絡電流から、半導体素子31を保護する機能である。
【0061】
セル制御部15は、半導体素子31に短絡電流が流れたことを直接的、あるいは間接的に検出し、半導体素子31を遮断(例えば、オフ状態に)する。セル制御部15は、半導体素子31が故障に至るまでの数μs~数十μs以内に当該遮断を実現することにより、短絡電流を除去する。
【0062】
半導体素子は、一般的に2μs~10μs以内であれば短絡電流に対して耐量特性(すなわち、壊れない特性)を有している。そのため、短絡電流が発生してから2μs~10μs以内に半導体素子31を遮断することにより半導体素子31を保護できる。これにより、半導体素子31は故障しないため、バイパス要素25に数十kA~数百kAの電流が流れることを防止できる。よって、バイパス要素25の損傷を防止することができる。
【0063】
セル制御部15は、通常制御する場合のスイッチング動作よりも遅いスイッチング動作により、遮断させる「ソフト遮断」という動作により半導体素子31を遮断してもよい。これは、半導体素子の飽和電流は通常制御する電流よりも大きいため、遮断時に半導体素子の両端に発生するサージ電圧を抑制させるために行なわれる。
【0064】
次に、半導体素子34がオン状態のときにバイパス要素25が誤動作(すなわち、閉路)した場合において、バイパス要素25の損傷を防止する構成について説明する。
図4を参照して、半導体素子34がオン状態に制御されている場合に、バイパス要素25が誤動作すると、コンデンサENが短絡されて経路R2で短絡電流が流れる。半導体素子34が数μs~数十μsで完全に短絡状態となる点は上述した通りである。
【0065】
したがって、セル制御部15は、半導体素子34を介してコンデンサENが短絡することにより流れる短絡電流から、半導体素子34を保護するアーム短絡保護機能を有する。セル制御部15は、半導体素子34に短絡電流が流れたことを検出し、半導体素子34が故障に至るまでの間に、半導体素子34を遮断して短絡電流を除去する。なお、セル制御部15は、半導体素子32,33に対してオン信号を出力してもよい。
【0066】
図9は、短絡電流の検出方式の一例を説明するための図である。
図9を参照して、変換器セル10において、電流センサ51~55が設けられている。電流センサ51はコンデンサEPと半導体素子31との間に設けられ、電流センサ52は半導体素子31,32の接続点とバイパス要素25との間に設けられ、電流センサ53は半導体素子33,34の接続点とバイパス要素25との間に設けられる。電流センサ54はコンデンサENと半導体素子34との間に設けられ、電流センサ55は、コンデンサEPおよびコンデンサENの接続点と半導体素子32,33の接続点との間に設けられる。
【0067】
セル制御部15は、電流センサ51~55の少なくとも1つからの検出信号に基づいて短絡電流を検出した場合(すなわち、半導体素子31に流れる短絡電流または半導体素子34に流れる短絡電流を検出した場合)、半導体素子31および半導体素子34を遮断(すなわち、オフ状態に制御)する。なお、電流センサ51~55の少なくとも1つが設けられていればよい。
【0068】
図10は、短絡電流の検出方式の他の例を説明するための図である。
図10を参照して、セル制御部15は、対象とする半導体素子61(例えば、半導体素子31)に対して、ゲート駆動回路60と、短絡電流を検出する検出部62と、短絡電流を検出した場合に遮断動作を行なう遮断部63とを有する。
【0069】
検出部62は、半導体素子31にオン信号が入力されている場合にコレクタ電位が規定の電位以上であるか否かを判断する。短絡電流が流れている場合、コンデンサEPの電圧が半導体素子31の両端に印加されているため、オン状態の電圧は上昇する。一方、短絡電流が流れていない場合、半導体素子31の電圧降下は数Vである。検出部62は、検出したコレクタ電位をコンパレータを用いて比較することにより、短絡電流が流れている状態か否かを判断する。
【0070】
遮断部63は、検出部62からの信号を受けて半導体素子31の遮断動作を実行する。遮断部63は、定常動作の遮断時よりも大きな抵抗を介して遮断する“ソフト遮断”を採用してもよい。
【0071】
図11は、短絡電流の検出方式のさらに他の例を説明するための図である。
図11を参照して、セル制御部15は、変換器セル10の配線の寄生インダクタンス71,72を利用して短絡電流を検出する。
【0072】
半導体素子31において、経路R1(
図3参照)の短絡電流が発生しているとする。この場合、短絡電流の時間変化分に基づいて経路R1に発生する自己誘導起電力により、半導体素子31のエミッタ側の寄生インダクタンス71に電圧が発生する。そのため、セル制御部15は、寄生インダクタンス71の電圧に基づいて、半導体素子31に流れる短絡電流を検出する。例えば、セル制御部15は、寄生インダクタンス71の電圧が閾値以上である場合に、短絡電流が発生したと判断する。
【0073】
バイパス要素25を介して流れる短絡電流を検出する際に、
図10で説明したコレクタ電位を用いた検出方式を用いる場合、コレクタ電位の上昇が遅いことから、短絡電流の検出自体が難しい、あるいはその検出に時間を要する可能性がある。この点において、
図11の検出方式は
図10の検出方式よりも有用である。
【0074】
また、セル制御部15は、半導体素子34のエミッタ側の寄生インダクタンス72の電圧を監視することにより、経路R2(
図4参照)の短絡電流を検出する。なお、半導体素子33を通る短絡経路(すなわち、経路R1)には半導体素子31が含まれ、半導体素子32を通る短絡経路(すなわち、経路R2)には半導体素子34が含まれる。そのため、セル制御部15は、半導体素子31,34のエミッタ側の寄生インダクタンス71,72の電圧を監視すればよい。
【0075】
図12は、実施の形態2に従うセル制御部15の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12を参照して、セル制御部15は、半導体素子31または半導体素子34に流れる短絡電流を検出したか否かを判断する(ステップS50)。短絡電流が検出されていない場合(ステップS50においてNO)、セル制御部15はステップS50を繰り返す。
【0076】
短絡電流が検出された場合(ステップS50においてYES)、半導体素子31にオフ信号を出力し(ステップS52)、半導体素子34にオフ信号を出力する(ステップS54)。これにより、短絡電流が除去される。なお、ステップS52,S54の処理は順不同で実施されてもよいし、同時に実施されてもよい。また、セル制御部15は、半導体素子32,33にオン信号を出力してもよい。
【0077】
実施の形態2によると、バイパス要素25が誤って閉路した場合であっても、バイパス要素25を適切に保護することができる。
【0078】
実施の形態3.
上述した実施の形態1では、半導体素子31の短絡関連異常が発生した場合に、半導体素子32をオン状態にしてコンデンサEPに蓄積されたエネルギーを消費する構成について説明した。しかし、この場合、半導体素子31,32には高電圧が印加された状態で過電流が流れるため、半導体素子31,32の短絡耐量を超えたエネルギーが加えられた場合、半導体素子31,32の破壊規模が大きくなる(例えば、爆発を伴って破壊される)可能性がある。
【0079】
上記事態による変換器セルの変形を防ぐために、半導体素子あるいは変換器セルには防爆を考慮した設計がなされている。しかし、半導体素子の短絡耐量にはバラツキが存在し、爆発時の状態を正確に把握することは難しいため、防爆設計を施していても、予期せぬ変換器セルの故障を招く可能性がある。また、これにより、バイパス要素あるいはバイパス要素の制御基板等が損傷した場合、バイパス要素による変換器セルのバイパスが困難となり、電力変換器全体の停止を余儀なくされる可能性がある。
【0080】
したがって、実施の形態3では、半導体素子31の短絡関連異常時において、半導体素子31,32の大規模な破壊を回避しつつコンデンサEPを放電し、バイパス要素25を閉路する構成について説明する。
【0081】
図13は、半導体素子が大規模な破壊に至る例を説明するための図である。
図13を参照して、半導体素子31の短絡関連異常が発生すると、半導体素子31のコレクタ-エミッタ間の抵抗値が低下する。続いて、セル制御部15は、半導体素子31の短絡関連異常を検出すると、半導体素子32へオン信号を出力する。半導体素子32がオン状態になると、半導体素子32のコレクタ-エミッタ間の抵抗値が低下する。これに伴って、コンデンサEPのエネルギーが消費され始め、半導体素子31,32に印加されるエネルギーが高くなる。
【0082】
そして、半導体素子32がオン状態となってから数μs~数十μs後に、半導体素子31,32に印加されるエネルギーが短絡耐量を超えて半導体素子31,32が破壊される。これは、印加されるエネルギーにより半導体素子31,32の温度が急激に上昇するためである。
図13の例では、コンデンサEPのエネルギーが半導体素子31,32ですべて消費される様子が示されている。半導体素子31,32には、数μs~数十μsの時間でコンデンサEPのエネルギーが全て印加されるため、半導体素子31,32の破壊規模は大きくなる。以下、このような半導体素子31,32の大規模な破壊を回避するための半導体素子32の制御方式について説明する。
【0083】
図14は、実施の形態3に従う半導体素子の制御方式を説明するための図である。
図14を参照して、半導体素子31に短絡関連異常が発生すると、半導体素子31のコレクタ-エミッタ間の抵抗値が低下する。セル制御部15は、半導体素子31の短絡関連異常を検出すると、半導体素子32を断続的にオンオフする制御を開始する。すなわち、半導体素子31の短絡関連異常が検出された場合、セル制御部15は、バイパス要素25の閉路が確立される前の期間において、半導体素子32のオン状態およびオフ状態を交互に切り替える。なお、半導体素子33,34については実施の形態1と同様の制御が行なわれる。具体的には、セル制御部15は、半導体素子33をオン状態に維持し、半導体素子34をオフ状態に維持する。
【0084】
上記制御により、半導体素子32がオン状態のときには半導体素子31,32に印加されるエネルギーは高いが、半導体素子32がオフ状態のときには半導体素子31,32に印加されるエネルギーは低くなる。そのため、コンデンサEPのエネルギーは徐々に消費されていくため、半導体素子31,32の急激な温度上昇を抑制できる。結果として、半導体素子31,32の破壊を防止できる。あるいは、コンデンサEPのエネルギーを十分低減させた状態で半導体素子31,32は破壊に至るため、半導体素子31,32の破壊規模を小さくできる。
【0085】
例えば、バイパス要素25が閉路されるまでの間(例えば、オン信号出力から数ms後)に、半導体素子32を数μsオンし、その後温度低下を待つために数十μs~数百μsのオフ期間を設けたとしても、半導体素子32を数回オンオフさせることができる。
【0086】
上記では、半導体素子31の短絡関連異常時において、半導体素子32のオン状態およびオフ状態を交互に切り替える構成について説明したが、半導体素子34の短絡関連異常時においても同様の事象が発生し得る。すなわち、半導体素子34に短絡関連異常が発生した場合に、半導体素子33をオン状態にすると、コンデンサENのエネルギーによって半導体素子33,34の破壊規模が大きくなる可能性がある。
【0087】
そのため、セル制御部15は、半導体素子34の短絡関連異常を検出すると、半導体素子33を断続的にオンオフする制御を実行する。すなわち、半導体素子34の短絡関連異常が検出された場合、セル制御部15は、バイパス要素25の閉路が確立される前の期間において、半導体素子33のオン状態およびオフ状態を交互に切り替える。なお、半導体素子31,32については実施の形態1と同様の制御が行なわれる。具体的には、セル制御部15は、半導体素子31をオフ状態に維持し、半導体素子32をオン状態に維持する。これにより、コンデンサENのエネルギーによる各半導体素子33,34の破壊を防止できる、あるいは、その破壊の規模を小さくできる。
【0088】
なお、コンデンサEP,ENのエネルギーを徐々に消費させるために他の手法を採用してもよい。具体的には、セル制御部15は、半導体素子31の短絡関連異常時に半導体素子32をオン制御する場合、半導体素子32のオン時のゲート電圧を、通常スイッチング時のゲート電圧よりも低下させる。これにより、コンデンサEPから半導体素子32に流れる電流を制限できるため、半導体素子31,32の急激な温度上昇を抑制できる。結果として、各半導体素子31,32の破壊を防止、あるいは、各半導体素子31,32の破壊規模を小さくできる。同様に、セル制御部15は、半導体素子34の短絡関連異常時に半導体素子33をオン制御する場合、半導体素子33のオン時のゲート電圧を、通常スイッチング時のゲート電圧よりも低下させてもよい。
【0089】
実施の形態3によると、コンデンサEP,ENのエネルギーによる半導体素子の破壊を防止できる、あるいは、その破壊の規模を小さくすることができる。
【0090】
実施の形態4.
上述した実施の形態3では、1つの半導体素子32のオン状態およびオフ状態を交互に切り替えることにより、半導体素子31,32の破壊を防止する(あるいは、破壊規模を小さくする)構成について説明した。実施の形態4では、半導体素子32に1以上の半導体素子を並列接続して、これらの半導体素子を順次オン状態に制御することにより、半導体素子31,32の破壊を防止する構成について説明する。
【0091】
図15は、実施の形態4に従う半導体素子群を説明するための図である。
図15を参照して、半導体素子群320は、半導体素子32,32A,32B,32Cと、高電位側の端子Xpと、低電位側の端子Xnとを含む。端子Xpは半導体素子31の負極端子に接続される。端子Xnは半導体素子33の正極端子に接続される。半導体素子32,32A,32B,32Cは互いに並列接続される。
【0092】
図16は、実施の形態4に従う半導体素子群の制御方式を説明するための図である。
図16を参照して、半導体素子31に短絡関連異常が発生すると、半導体素子31のコレクタ-エミッタ間の抵抗値が低下する。セル制御部15は、半導体素子31の短絡関連異常を検出すると、半導体素子群320に含まれる半導体素子32~32Cを交互にオン状態にする制御を開始する。
【0093】
具体的には、セル制御部15は、半導体素子32をオンにしてから一定時間経過後にオフにする。続いて、セル制御部15は、半導体素子32Aをオンしてから一定時間経過後にオフにする。以降、セル制御部15は、半導体素子32B,32Cについても同様の制御を実行する。すなわち、半導体素子31の短絡関連異常が検出された場合、セル制御部15は、バイパス要素25の閉路が確立される前の期間において、複数の半導体素子32~32Cの各々のオン時間が他の半導体素子のオン時間と重ならないように、複数の半導体素子32~32Cの各々のオン状態およびオフ状態を制御する。
【0094】
このような制御により、半導体素子31,32~32Cに印加されるエネルギーが分散されるため、コンデンサEPのエネルギーによる各半導体素子31,32~32Cの破壊を防止できる、あるいは、その破壊の規模を小さくできる。
【0095】
なお、セル制御部15は、複数の半導体素子を一括で駆動するゲートドライバを用いて半導体素子32~32Cをオンオフ制御してもよいし、個別のゲートドライバを用いて半導体素子32~32Cをオンオフ制御してもよい。
【0096】
また、半導体素子33に他の半導体素子(便宜上、「半導体素子G」とも称する。)を並列接続して、これらの半導体素子を順次オン状態に制御することにより、半導体素子33,34の破壊を防止してもよい。具体的には、セル制御部15は、半導体素子34の短絡関連異常を検出すると、半導体素子33および半導体素子Gを交互にオン状態にする制御を開始する。すなわち、半導体素子34の短絡関連異常が検出された場合、セル制御部15は、バイパス要素25の閉路が確立される前の期間において、半導体素子33のオン時間が半導体素子Gのオン時間と重ならないように、半導体素子33および半導体素子Gの各々のオン状態およびオフ状態を制御する。なお、
図15の例のように、複数の半導体素子Gを設ける構成であってもよい。
【0097】
実施の形態4によると、コンデンサEP,ENのエネルギーによる半導体素子の破壊を防止できる、あるいは、その破壊の規模を小さくすることができる。
【0098】
その他の実施の形態.
(1)上述した実施の形態1において、バイパス要素25の閉路前に半導体素子31,32においてコンデンサEPのエネルギーを消費させることにより、半導体素子31,32がともにオープン故障となった場合、バイパス要素25が閉路されるまでの期間においては、変換器セル10がオープン状態となり、変換器セル10が高インピーダンスとなる。なお、バイパス要素25の閉路前に半導体素子33,34においてコンデンサENのエネルギーを消費させることにより、半導体素子33,34がともにオープン故障となった場合についても同様である。
【0099】
この場合、想定以上の高電圧が変換器セル10の入出力端子Po,Noに印加されることにより、アーク放電等が発生し、変換器セル10の周辺装置が故障する可能性がある。そこで、変換器セル10に
図17に示すような抵抗器を設けてもよい。
【0100】
図17は、変換器セル10の変形例を示す図である。
図17を参照して、変形例に従う変換器セル10は、
図2の変換器セル10に抵抗器27を追加した構成を有する。抵抗器27は、バイパス要素25に並列接続される。抵抗器27は、変換器セル10がオープン状態とならない程度の高抵抗体である。
【0101】
(2)
図18は、セル制御部15の構成例を説明するための図である。
図18を参照して、セル制御部15は、スイッチング回路21を制御するための制御回路81と、スイッチング回路22を制御するための制御回路82とを含む。
【0102】
具体的には、制御回路81は、半導体素子31,32のオンオフ制御を実行する。制御回路82は、半導体素子33,34のオンオフ制御を実行する。また、制御回路81は、半導体素子31,32の短絡関連異常を検出し、制御回路82は、半導体素子33,34の短絡関連異常を検出する。
【0103】
例えば、制御回路81は、半導体素子31の短絡関連異常を検出すると、半導体素子31にオフ信号を出力し、半導体素子32にオン信号を出力する。また、制御回路81は、短絡関連異常を示す異常信号を制御回路82に送信する。制御回路82は、異常信号を受信すると、半導体素子33にオン信号を出力し、半導体素子34にオフ信号を出力する。
【0104】
例えば、制御回路82は、半導体素子34の短絡関連異常を検出すると、半導体素子34にオフ信号を出力し、半導体素子33にオン信号を出力する。また、制御回路82は、短絡関連異常を示す異常信号を制御回路81に送信する。制御回路81は、異常信号を受信すると、半導体素子31にオフ信号を出力し、半導体素子32にオン信号を出力する。
【0105】
制御回路81は、半導体素子31を駆動するための駆動回路と、半導体素子32を駆動するための駆動回路とを含む。制御回路82は、半導体素子33を駆動するための駆動回路と、半導体素子34を駆動するための駆動回路とを含む。これらの駆動回路は、絶縁破壊を防ぐために互いに電気的に絶縁されている必要がある。例えば、各駆動回路が同一のユニバーサル基板等に実装されていた場合でも、各半導体素子31~34から接続されたパターン箇所は絶縁されている必要がある。これらの電気的な絶縁破壊を防ぐため、各駆動回路は、それぞれ独立した回路基板に実装されていてもよい。
【0106】
(3)
図19は、セル制御部15の他の構成例を説明するための図である。
図19を参照して、セル制御部15は、半導体素子31~34をそれぞれ制御するための制御回路91~94を含む。制御回路91~94は、それぞれ半導体素子31~34を駆動するための駆動回路を含む。なお、セル制御部15は、1つの制御回路により半導体素子31~34を制御する構成であってもよい。この場合、当該制御回路は、4つの半導体素子31~34を駆動するための4つの駆動回路を含む。
【0107】
(4)上述の実施の形態として例示した構成は、本開示の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0108】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
10 変換器セル、14N,14P リアクトル、15 セル制御部、21,22 スイッチング回路、25 バイパス要素、27 抵抗器、31~34 半導体素子、31d~34d ダイオード、31s~34s スイッチング素子、40u~40w レグ回路、51~55 電流センサ、60 ゲート駆動回路、62 検出部、63 遮断部、71,72 寄生インダクタンス、81,82,91,94 制御回路、100 電力変換装置、110 電力変換器、120 制御装置、130 直流回路、140 変圧器、150 交流回路、320 半導体素子群。
【要約】
電力変換装置に含まれる複数の変換器セル(10)の各々は、セル制御部(15)と、第1スイッチング回路(21)および第2スイッチング回路(22)と、バイパス要素(25)とを含む。第1スイッチング回路(21)は、第1半導体素子(31)と、第2半導体素子(32)と、第1エネルギー蓄積要素(EP)とを含む。第2スイッチング回路(22)は、第3半導体素子(33)と、第4半導体素子(34)と、第2エネルギー蓄積要素(EN)とを含む。第1スイッチング回路(21)および第2スイッチング回路(22)のうちのいずれかの異常が検出された場合、セル制御部(15)は、バイパス要素(25)の閉路が確立される前の期間において、第1半導体素子(31)および第4半導体素子(34)の各々をオフ状態にするための制御を実行し、第2半導体素子(32)および第3半導体素子(33)の各々をオン状態にするための制御を実行する。