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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】電気車駆動システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20241101BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
B60L3/00 C
B60L9/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024538542
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2022029508
(87)【国際公開番号】W WO2024028948
(87)【国際公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-07-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】高林 宏和
【審査官】柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-185206(JP,A)
【文献】特開2005-053330(JP,A)
【文献】特開2006-271029(JP,A)
【文献】国際公開第2021/245800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車の2台の台車の4つの車軸を駆動する4つの電動機のうちの少なくとも1つを制御する制御装置を複数備えた電気車駆動システムであって、
前記制御装置のそれぞれは、
少なくとも1つの前記電動機に電力を供給するインバータと、
前記インバータを制御する制御部と、
を備え、
前記インバータは、前記制御部と共に艤装限界ラインが床下の中央部よりも広い前記台車の近くに配置された筐体に収容され、
前記筐体のそれぞれには、少なくとも1つの前記制御装置が収容され、
前記筐体のそれぞれには、前記電気車の走行による走行風を利用して前記インバータを冷却する冷却器が取り付けられ、
前記冷却器は、前記電気車の進行方向、及び前記電気車の車両の鉛直方向の双方に垂直で、且つ前記車両の車幅側に突出して前記筐体に取り付けられ、
複数の前記制御装置は、前記進行方向の前方に位置する第1の台車の近くと、前記進行方向の後方に位置する第2の台車の近くとに分散して配置される
ことを特徴とする電気車駆動システム。
【請求項2】
複数の前記制御装置は、前記第1の台車に搭載される2つの電動機を制御する1つの第1の制御装置と、前記第2の台車に搭載される2つの電動機を制御する1つの第2の制御装置とから成ることを特徴とする請求項1に記載の電気車駆動システム。
【請求項3】
前記第1の制御装置を収容する筐体は、前記進行方向に対して前記第1の台車の後方に配置され、
前記第2の制御装置を収容する筐体は、前記進行方向に対して前記第2の台車の前方に配置される
ことを特徴とする請求項2に記載の電気車駆動システム。
【請求項4】
複数の前記制御装置は、前記第1の台車に搭載される2つの電動機を個別に制御する2つの第1の制御装置と、前記第2の台車に搭載される2つの電動機を個別に制御する2つの第2の制御装置とから成ることを特徴とする請求項1に記載の電気車駆動システム。
【請求項5】
2つの前記第1の制御装置のうちの一方を収容する筐体は、前記進行方向に対して前記第1の台車の前方に配置され、
2つの前記第1の制御装置のうちの他方を収容する筐体は、前記進行方向に対して前記第1の台車の後方に配置され、
2つの前記第2の制御装置のうちの一方を収容する筐体は、前記進行方向に対して前記第2の台車の前方に配置され、
2つの前記第2の制御装置のうちの他方を収容する筐体は、前記進行方向に対して前記第2の台車の後方に配置される
ことを特徴とする請求項4に記載の電気車駆動システム。
【請求項6】
2つの前記第1の制御装置のうちの一方及び他方を収容する2つの筐体は、前記進行方向に対して前記第1の台車の後方に配置され、
2つの前記第2の制御装置のうちの一方及び他方を収容する2つの筐体は、前記進行方向に対して前記第2の台車の前方に配置される
ことを特徴とする請求項4に記載の電気車駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気車を駆動する電動機を制御する電気車制御装置を複数備えた電気車駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気車制御装置(以下、適宜「制御装置」と略す)は、架線からの電力を受電して動作するため、電気車の屋根上又は床下に搭載されることが多い。制御装置は、半導体素子が内蔵されるインバータを有する。インバータは、走行用の電動機に電気的に接続される。インバータには、直流電力が供給される。直流電力は、インバータの半導体素子がスイッチング動作することによって、所望の交流電力に変換されて電動機に供給される。電動機は、変換された交流電力によって駆動される。インバータの半導体素子がスイッチング動作するときには、発熱する。このため、インバータを収容する筐体には、冷却器が取り付けられている。
【0003】
下記特許文献1には、電気車が走行するときの走行風を利用してインバータを冷却する走行風利用型の冷却器について、電気車の進行方向に沿って2つの冷却器を直列に接近させて配置する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6494408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、複数のインバータを効率よく冷却することが難しい。例えば冷却器の領域を走行風に対して風上と風下とに分けた場合、風上側に位置する冷却器によって冷却されるインバータは、走行風が効率よく取り込まれることで冷却され易くなる。これに対し、風下側に位置する冷却器によって冷却されるインバータは、2つの冷却器が接近していることで走行風が風下側の冷却器に取り込まれにくくなる上に、風上側に位置するインバータの発熱のあおりを受けて、走行風の温度が上がり気味となり、冷却条件が厳しくなる。
【0006】
従って、風下側であっても十分に冷却が可能となるように、ヒートパイプを併用した高性能の冷却器、又は大型の冷却器を適用することが必要となる場合がある。また、特許文献1では、風下側の冷却器に走行風を導くための風ガイドを設ける構造を採用している。何れにしても、従来手法では、制御装置が大型化し、制御装置の製造コストが増加するといった課題が生じる。
【0007】
また、制御装置を電気車の床下に搭載する場合、床下のスペースは限られているため、制御装置の筐体を搭載するための十分なスペースがない場合がある。このような場合には、制御装置の仕様を変更するなどして構成部品を小型化し、筐体を縮小化することが必要となる。なお、仕様を見直すことで電気車の機能又は性能が、当初より低下してしまうというデメリットが生じることもある。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、効率的な冷却が可能となるように制御装置を電気車の限られたスペースに柔軟に配置することができる電気車駆動システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る電気車駆動システムは、電気車の2台の台車の4つの車軸を駆動する4つの電動機のうちの少なくとも1つを制御する制御装置を複数備える。制御装置のそれぞれは、少なくとも1つの電動機に電力を供給するインバータと、インバータを制御する制御部とを備える。インバータは、制御部と共に筐体に収容され、筐体のそれぞれには、少なくとも1つの制御装置が収容される。筐体のそれぞれには、電気車の走行による走行風を利用してインバータを冷却する冷却器が取り付けられる。複数の制御装置は、電気車の進行方向の前方に位置する第1の台車の近くと、進行方向の後方に位置する第2の台車の近くとに分散して配置される。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る電気車駆動システムによれば、効率的な冷却が可能となるように制御装置を電気車の限られたスペースに柔軟に配置することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る電気車駆動システムの構成例を示す図
図2】比較例として示す従来の搭載例を示す図
図3】実施の形態1に係る電気車駆動システムの第1の搭載例の説明に供する第1の図
図4】実施の形態1に係る電気車駆動システムの第1の搭載例の説明に供する第2の図
図5】実施の形態1に係る電気車駆動システムの第2の搭載例の説明に供する図
図6】実施の形態1に係る電気車駆動システムの第3の搭載例の説明に供する図
図7】実施の形態1に係る電気車駆動システムの第4の搭載例の説明に供する図
図8】冷却器への走行風に及ぼす障害物の影響の説明に供する第1の検証試験の結果を示す図
図9】冷却器への走行風に及ぼす障害物の影響の説明に供する第2の検証試験の結果を示す図
図10】実施の形態2に係る電気車駆動システムの搭載例の説明に供する図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る電気車駆動システムについて詳細に説明する。なお、添付図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。また、以下では、物理的な接続と電気的な接続とを区別せずに、単に「接続」と称して説明する。即ち、「接続」という文言は、構成要素同士が直接的に接続される場合と、構成要素同士が他の構成要素を介して間接的に接続される場合との双方を含んでいる。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電気車駆動システムの構成例を示す図である。図1には、電気車の1両分の構成例が示されている。
【0014】
電気車駆動システム200は、図1に示すように、架線1からの直流電力を、集電装置2を介して受電する4つの制御装置100~103を備える。架線1の先には、図示しない変電所があり、架線1は、制御装置100~103から見て、外部電源という位置づけである。集電装置2に印加される架線1の電圧である架線電圧、及び制御装置100~103の各変換容量は、電気車駆動システムの駆動方式によって異なる。架線電圧の範囲は、おおよそ600から3000[V]である。また、変換容量の範囲は、数十から数百[kVA]である。
【0015】
制御装置100~103のそれぞれには、電気車を駆動するための4つの電動機80~83がそれぞれ接続されている。架線1及び集電装置2から供給された直流電力は、スイッチ10、リアクトル11及び電線20を介し、制御装置100~103に供給される。制御装置100~103の各正側端子Pは、リアクトル11に接続される。また、制御装置100~103の各負側端子Nは、車輪3を介してレール4に接続される。これにより、架線1から供給される直流電力による直流電流は、スイッチ10、リアクトル11、電線20、制御装置100~103、電動機80~83、車輪3及びレール4を介して流れ、変電所に戻る。図1の構成では、リアクトル11、電線20及び制御装置100~103が電気車駆動システム200の構成要素となる。電線20には、銅又はアルミといった導体が含まれる。導体の一例は、ブスバーである。
【0016】
なお、図1では、架線1として架空電線を示し、集電装置2としてパンタグラフ状の集電装置をそれぞれ示しているが、これらに限定されない。架線1としては、地下鉄等で使用されている第三軌条でもよく、これに合わせ、集電装置2は第三軌条用の集電装置を用いてもよい。また、図1では、架線1が直流架線である場合を示しているが、架線1は交流架線でもよい。なお、架線1が交流架線である場合、集電装置2とスイッチ10との間、もしくはスイッチ10とリアクトル11との間には、受電する交流電圧を降圧するための変圧器が設けられ、変圧器の後段には変圧器から出力される交流電圧を直流電圧に変換するコンバータが設けられる。
【0017】
制御装置100は、直流電圧を保持するコンデンサ50と、コンデンサ50の電圧を放電させる放電回路52と、インバータ60と、を有する。コンデンサ50及び放電回路52は、制御装置100の内部において、正側端子Pと負側端子Nとの間に接続される。これにより、コンデンサ50及び放電回路52は、インバータ60の入力側において、インバータ60の両端に並列に接続される。
【0018】
コンデンサ50は、リアクトル11に接続され、リアクトル11と共にLCフィルタ回路を構成する。このLCフィルタ回路は、架線1側から流入するサージ電圧を抑制する。また、LCフィルタ回路はインバータ60に接続され、インバータ60に流れる電流のリプル成分の大きさを抑制する。
【0019】
制御装置100~103に備えられるインバータ60は、電動機80~83に電力を供給する電力変換回路である。インバータ60は、コンデンサ50の直流電圧を任意の電圧値を有する任意の周波数の交流電圧に変換して、電動機80~83に印加する。
【0020】
インバータ60は、図1に示されるように、6つの半導体素子60U,60V,60W,60X,60Y,60Zを有する。半導体素子60U,60V,60W,60X,60Y,60Zは、ブリッジ接続されて三相ブリッジ回路を構成する。なお、図1では、図示を省略しているが、制御装置101~103は、制御装置100と同様にインバータ60を備えている。
【0021】
インバータ60において、半導体素子60U,60V,60Wは、正側アームと呼ばれ、半導体素子60X,60Y,60Zは、負側アームと呼ばれる。また、直列に接続される正側アームと負側アームとの組は、レグと呼ばれる。半導体素子60U,60XはU相レグを構成し、半導体素子60V,60YはV相レグを構成し、半導体素子60W,60ZはW相レグを構成する。半導体素子60U,60V,60W,60X,60Y,60Zとしては、図示のように、逆並列ダイオードが内蔵された絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)素子が好適である。なお、IGBT素子に代えて、金属酸化膜半導体電界効果型トランジスタ(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:MOSFET)を用いてもよい。
【0022】
制御装置100~103のそれぞれは、制御部30を有する。制御部30は、インバータ60の半導体素子60U,60V,60W,60X,60Y,60Zをパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)制御するためのPWM信号を生成してインバータ60に付与する。
【0023】
なお、図1は、4つの電動機80~83のそれぞれを、対応する制御装置100~103のうちの1つが個々に制御する「個別制御」と呼ばれる制御方式の構成を示しているが、この構成に限定されない。4つの電動機80~83は、図1では図示しない2台の台車に分けて搭載されるが、1台の台車に搭載される2つの電動機を1つの制御装置が制御する「台車制御」と呼ばれる制御方式で構成されていてもよい。なお、台車制御方式の場合、制御装置100と制御装置101とは統合され、電動機80に接続されるインバータ60と電動機81に接続されるインバータ60とが1つの制御部30によって制御される構成となる。同様に、制御装置102と制御装置103とは統合され、電動機82に接続されるインバータ60と電動機83に接続されるインバータ60とが1つの制御部30によって制御される構成となる。
【0024】
図2は、比較例として示す従来の搭載例を示す図である。図2では、互いに直交する右手系のX軸、Y軸及びZ軸を用いて、進行方向Fを+X軸方向、進行方向Fに対して直交する水平方向をY軸方向、進行方向Fに対して直交する鉛直上方向を+Z軸方向、進行方向Fに対して直交する鉛直下方向を-Z軸方向としている。なお、以降の図においても、図2と同じ座標系を使用する。また、本稿では、Y軸方向を「第1の方向」と記載することがある。
【0025】
従来の例えば特許文献1に示される電気車駆動システムでは、図2に示すように、電気車駆動システムの構成要素の全てを内蔵した筐体250が電気車150の床下に搭載されている。図2は、前述した台車制御方式の搭載例を示すものであり、進行方向Fに対して、前方側にある台車40及び後方側にある台車41のそれぞれには、不図示の2つの電動機が搭載されている。筐体250には、台車40の2つの電動機を制御する制御装置251と、台車41の2つの電動機を制御する制御装置252とが搭載されている。また、筐体250には、制御装置251に備えられるインバータを冷却するための冷却器253と、制御装置252に備えられるインバータを冷却するための冷却器254とが、筐体250の側面において、Y軸方向に突出するように取り付けられている。なお、図2では、筐体250以外の床下搭載の装置を図示していないが、実際には、電気車150の運行に必要となる種々の床下装置が搭載されている。1両の電気車150の車両長は20m程度であるが、種々の床下装置を搭載するスペースを確保する必要があり、筐体250の車両長方向の長さは、最長でも2m未満である。
【0026】
上述のように、従来の電気車駆動システムは、電気車150の進行方向Fに沿って2つの冷却器253,254を直列に接近させて配置する構成となっている。この構成の場合、[発明が解決しようとする課題]の項でも説明したが、走行風の風上側に位置する冷却器253によって冷却されるインバータは、走行風が効率よく冷却器253に取り込まれることで冷却され易くなる。これに対し、走行風の風下側に位置する冷却器254によって冷却されるインバータは、2つの冷却器253,254が接近していることで走行風が風下側の冷却器254に取り込まれにくくなる上に、風上側に位置するインバータの発熱のあおりを受けて、冷却器254に取り込まれる走行風の温度が上がり気味となり、冷却条件が厳しくなる。特許文献1では、風下側の冷却器に走行風を導くための風ガイドを設ける構造を採用しているが、制御装置が大型化し、製造コストが増加するといった課題が生じていた。
【0027】
上記の課題に対し、実施の形態1では、まず、図3及び図4に示す搭載例を提案する。図3は、実施の形態1に係る電気車駆動システムの第1の搭載例の説明に供する第1の図である。図4は、実施の形態1に係る電気車駆動システムの第1の搭載例の説明に供する第2の図である。図3は、電気車150Aを側面側からY軸の負の方向に向かって視認した図である。図4は、電気車150Aの床下を電気車150Aの床面からZ軸の負の方向に向かって透視した図である。なお、以降の説明においても、図3及び図4と同様に図示された図面を使用する。また、図3及び図4は、台車制御方式の搭載例を示しており、制御装置の数は、1車両につき“2”となる。ここでは、便宜的に、一方の制御装置を「制御装置120」とし、他方の制御装置を「制御装置121」として説明する。
【0028】
図3及び図4において、電気車駆動システム200の構成要素は、電気車150Aの床下に分散されて配置されている。具体的に、スイッチ10及びリアクトル11を収容する筐体250Aは、床下の中央部に配置されている。また、制御装置120を収容する筐体260は、床下の中央部から離れ、電気車150Aの進行方向Fの前方に位置する台車40の近く、具体的には、進行方向Fに対して、台車40の後方、且つ左側に配置されている。同様に、制御装置121を収容する筐体261は、床下の中央部から離れ、電気車150Aの進行方向Fの後方に位置する台車41の近く、具体的には、進行方向Fに対して、台車41の前方、且つ右側に配置されている。
【0029】
筐体260には、制御装置120に備えられる2つのインバータ60を冷却するための冷却器270が、筐体260の側面において、+Y軸方向に突出するように取り付けられている。また、筐体261には、制御装置121に備えられる2つのインバータ60を冷却するための冷却器271が、筐体261の側面において、-Y軸方向に突出するように取り付けられている。
【0030】
台車40には、それぞれが制御装置120に接続される電動機80,81が搭載されている。電動機80は、進行方向Fに対して、台車40における前方側の車軸40aを駆動し、電動機81は、進行方向Fに対して、台車40における後方側の車軸40bを駆動する。
【0031】
台車41には、それぞれが制御装置121に接続される電動機82,83が搭載されている。電動機82は、進行方向Fに対して、台車41における前方側の車軸41aを駆動し、電動機83は、進行方向Fに対して、台車41における後方側の車軸41bを駆動する。なお、本稿では、台車40を「第1の台車」と記載し、台車41を「第2の台車」と記載することがある。また、本稿では、制御装置120を「第1の制御装置」と記載し、制御装置121を「第2の制御装置」と記載することがある。
【0032】
風上側に近接した発熱物が存在する場合、冷却器に取り込まれる走行風の温度が上昇する。これに対し、図3及び図4の構成では、走行風の風上側に位置する冷却器270と、走行風の風下側に位置する冷却器271とは、十分な離隔距離がとられて配置されているので、近接した発熱物は存在しないといってもよい。これにより、図3及び図4の構成では、風下側に位置する冷却器271の冷却条件と、風上側に位置する冷却器270の冷却条件との差を小さくすることができる。これにより、図3及び図4の構成では、制御装置120,121が大型化し、制御装置120,121の製造コストが増加するのを回避することができる。
【0033】
また、図4には、電気車150Aの車両5の車幅に対して、艤装限界ライン280が一点鎖線で示されている。艤装限界ライン280は、床下搭載物の搭載エリアの車幅側の境界線を意味している。即ち、床下搭載物は、艤装限界ライン280の外側にはみ出して搭載することはできないことになっている。艤装限界ライン280は、車両5の車幅に対して、台車40,41の位置が最も広く、床下の中央部が最も狭くなっている。従って、制御装置を収容する筐体250を床下の中央部に配置する従来技術の構成よりも、制御装置100~103を収容する筐体260,261を台車40,41の近くに配置する実施の形態1の構成の方が、走行風を取り込み易い構成になっていると言える。これにより、図3及び図4の構成は、図2の従来技術の構成よりも、冷却器270,271の冷却性能を高める構成になっていると言うことができる。これにより、図3及び図4の構成とすれば、効率的な冷却が可能となるように制御装置120,121を配置することができる。
【0034】
また、図3及び図4の構成では、電気車駆動システム200の構成要素の全てを1つの筐体には収容せず、3つの筐体250A,260,261に分けて収容している。これにより、筐体の数は増えるが、1つ1つの筐体のサイズは小さくなるので、床下の空きスペースを有効活用して配置することも可能となる。
【0035】
図5は、実施の形態1に係る電気車駆動システムの第2の搭載例の説明に供する図である。図4では、制御装置120を収容する筐体260と、制御装置121を収容する筐体261とは対極の位置、即ち床下の中央部から見て回転対称となる位置に配置していた。これに対し、図5では、制御装置120を収容する筐体260はそのままで、制御装置121を収容する筐体261を、筐体260に対して同列、即ち進行方向Fに沿って、筐体260と筐体261とが直列に並ぶ位置に配置している。
【0036】
図5のように、風上側に位置する冷却器270と風下側に位置する冷却器271とを同列に配置しても、風上側の冷却器270と風下側の冷却器271との間の離隔距離は、図4の場合と殆ど変わらない。即ち、風上側の冷却器270と風下側の冷却器271とは、十分な離隔距離がとられて配置されているので、近接した発熱物は存在しないといってもよい。従って、図5の搭載例であっても、図4の搭載例と同等の効果を得ることができる。
【0037】
次に、個別制御方式の搭載例について説明する。図6は、実施の形態1に係る電気車駆動システムの第3の搭載例の説明に供する図である。個別制御方式の場合も、電気車駆動システム200の構成要素は、電気車150Aの床下に分散されて配置される。具体的に、スイッチ10及びリアクトル11を収容する筐体250Aは、床下の中央部に配置されている。また、制御装置100を収容する筐体262は、電気車150Aの進行方向Fの前方に位置する台車40の近く、具体的には、進行方向Fに対して、台車40の前方、且つ右側に配置されている。また、制御装置101を収容する筐体263は、電気車150Aの進行方向Fの前方に位置する台車40の近く、具体的には、進行方向Fに対して、台車40の後方、且つ左側に配置されている。同様に、制御装置102を収容する筐体264は、電気車150Aの進行方向Fの後方に位置する台車41の近く、具体的には、進行方向Fに対して、台車41の前方、且つ右側に配置されている。また、制御装置103を収容する筐体265は、電気車150Aの進行方向Fの後方に位置する台車41の近く、具体的には、進行方向Fに対して、台車41の後方、且つ左側に配置されている。なお、本稿では、第1の台車である台車40に搭載される2つの電動機80,81を個別に制御する2つの制御装置100,101のそれぞれを「第1の制御装置」と記載することがある。また、第2の台車である台車41に搭載される2つの電動機82,83を個別に制御する2つの制御装置102,103のそれぞれを「第2の制御装置」と記載することがある。
【0038】
筐体262には、制御装置100に備えられるインバータ60を冷却するための冷却器272が、筐体262の側面において、-Y軸方向に突出するように取り付けられている。また、筐体263には、制御装置101に備えられるインバータ60を冷却するための冷却器273が、筐体263の側面において、+Y軸方向に突出するように取り付けられている。また、筐体264には、制御装置102に備えられるインバータ60を冷却するための冷却器274が、筐体264の側面において、-Y軸方向に突出するように取り付けられている。また、筐体265には、制御装置103に備えられるインバータ60を冷却するための冷却器275が、筐体265の側面において、+Y軸方向に突出するように取り付けられている。
【0039】
図6の構成では、台車40において、走行風の風上側に位置する冷却器272と、走行風の風下側に位置する冷却器273とは、少なくとも台車40の長さ分の離隔距離がとられて配置されているので、近接した発熱物は存在しないといってもよい。これにより、図6の構成では、風上側に位置する冷却器272の冷却条件と、風下側に位置する冷却器273の冷却条件との差を小さくすることができる。この関係は、台車41における冷却器274,275の間でも同様である。これにより、図6の構成では、制御装置100~103が大型化し、制御装置100~103の製造コストが増加するのを回避することができる。
【0040】
また、図6の構成では、制御装置100~103を収容する筐体262~265を、艤装限界ライン280間の幅が広い、台車40,41の近くに配置することができる。これにより、図6の構成とすれば、個別制御方式の構成であっても、効率的な冷却が可能となるように制御装置100~103を配置することができる。
【0041】
また、図6の構成では、電気車駆動システム200の構成要素の全てを1つの筐体には収容せず、5つの筐体250A,262~265に分けて収容している。これにより、筐体の数は増えるが、1つ1つの筐体のサイズは小さくなるので、床下の空きスペースを有効活用して配置することも可能となる。
【0042】
図7は、実施の形態1に係る電気車駆動システムの第4の搭載例の説明に供する図である。図6では、台車40,41ごとに、制御装置100,101を収容する筐体262,263を対極、即ち台車40における対角線の位置に配置し、制御装置102,103を収容する筐体264,265を対極、即ち台車41における対角線の位置に配置した上で、且つ、制御装置101を収容する筐体263と、制御装置102を収容する筐体264とを、床下の中央部から見て対極の位置に配置していた。これに対し、図7では、台車40,41ごとに、各々の制御装置を収容する筐体同士を対極の位置に配置する関係はそのままで、制御装置101を収容する筐体263と、制御装置102を収容する筐体264とが、進行方向Fに同列に並ぶように配置されている。
【0043】
図7のように、風上側に位置する冷却器273と風下側に位置する冷却器274とを同列に配置しても、風上側の冷却器273と風下側の冷却器274との間の離隔距離は、図6の場合と殆ど変わらない。即ち、風上側の冷却器273と風下側の冷却器274とは、十分な離隔距離がとられて配置されているので、近接した発熱物は存在しないといってもよい。従って、図7の搭載例であっても、図6の搭載例と同等の効果を得ることができる。
【0044】
なお、個別制御方式の場合は、図6及び図7以外の搭載例も考えられるが、4つの制御装置100~103が、電気車150Aの進行方向Fの前方に位置する台車40の近くと、進行方向Fの後方に位置する台車41の近くとに分散して配置される構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0045】
次に、障害物が冷却器への走行風に及ぼす影響について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、冷却器への走行風に及ぼす障害物の影響の説明に供する第1の検証試験の結果を示す図である。また、図9は、冷却器への走行風に及ぼす障害物の影響の説明に供する第2の検証試験の結果を示す図である。
【0046】
まず、第1の検証試験について説明する。図8の下部には、第1の検証試験の試験環境が模式的に示されている。図8では、冷却風の風上側に障害物170が配置され、冷却風の風下側にアルミ製冷却器160が配置されている。図8は平面図であり、障害物170の高さ方向の長さと、アルミ製冷却器160の高さ方向の長さとは、同等にしている。冷却風は、図示しない送風機によって送風される。アルミ製冷却器160における辺部162の位置は、位置規制部180によって規制される。辺部162は、冷却風の方向に沿うアルミ製冷却器160の先端側に位置する部位である。図8では、冷却風の方向に沿う辺部162の位置と、冷却風の方向に沿う障害物170の辺部172の位置とが一致するように規制されている。また、アルミ製冷却器160の幅、即ちアルミ製冷却器160の冷却風に直交する方向の長さをdとする。このとき、アルミ製冷却器160の被送風面における位置規制部180からd/2の位置を「前面風速測定点」とし、アルミ製冷却器160の辺部162からd/2の位置を「側面風速測定点」とした。そして、障害物170とアルミ製冷却器160との間の最短距離である「距離」をパラメータとして、前面風速測定点及び側面風速測定点において、風速の測定を行った。
【0047】
図8の上部には、第1の検証試験の試験結果が表形式で示されている。この試験結果から、以下のことが明らかになった。
(1)障害物170がない場合と同等の風速を得るには、アルミ製冷却器160と障害物170との距離は、4.5m必要であった。
(2)アルミ製冷却器160と障害物170との距離が1.5mの場合、得られる前面風速は障害物170がない場合の約80%(=2.2/2.8×100)であった。
【0048】
次に、第2の検証試験について説明する。第2の検証試験では、図9に示されるように、アルミ製冷却器160と障害物170との間の距離を1.5mとし、前面風速測定点の位置が、障害物170の辺部172と一致するようにしている。即ち、図9におけるアルミ製冷却器160は、図8に比べて、冷却風の方向に直交する方向にd/2だけ突き出した位置に規制されている。この状態で、障害物170がある場合と、障害物170がない場合とで、前面風速測定点における風速を測定した。
【0049】
試験結果は示していないが、図9の試験環境で試験を行ったところ、障害物170がある場合と、障害物170がない場合とで、前面風速測定点における風速に変化はなかった。即ち、第2の検証試験によれば、障害物170がある場合と、障害物170がない場合とで、前面風速測定点における風速は同等であるという結果が得られた。
【0050】
前述したように、図2に示す従来技術の構成において、2つの冷却器253,254が取り付けられている筐体250の車両長方向の長さは、最長でも2m未満である。このため、2つの冷却器253,254間の距離は、1.5m程度、もしくは1.5m以下と考えられる。従って、走行風の風下側に位置する冷却器254の冷却性能が、走行風の風上側に位置する冷却器253の影響を受けるという従来技術の考え方は、上記の検証試験の結果とも整合している。
【0051】
一方、本願の構成に目を向けると、まず、台車制御方式では、風上側に位置する冷却器270と風下側に位置する冷却器271とは、十分な離隔距離がとられて配置される。そして、冷却器270,271は、艤装限界ライン280間の幅が広い、台車40,41の近くに配置するようにしているので、障害物の影響を殆ど受けない位置に配置することが可能となる。
【0052】
また、個別制御方式では、台車40,41ごとに、風上側に位置する冷却器272,274と風下側に位置する冷却器273,275とは、十分な離隔距離がとられて配置される。そして、冷却器272~275は、艤装限界ライン280間の幅が広い、台車40又は台車41の近くに配置するようにしているので、障害物の影響を殆ど受けない位置に配置することが可能となる。
【0053】
以上説明したように、実施の形態1に係る電気車駆動システムは、電気車の2台の台車の4つの車軸を駆動する4つの電動機のうちの少なくとも1つを制御する制御装置を複数備える。制御装置のそれぞれは、少なくとも1つの電動機に電力を供給するインバータと、インバータを制御する制御部とを備える。インバータは、制御部と共に筐体に収容され、筐体のそれぞれには、少なくとも1つの制御装置が収容され、筐体のそれぞれには、電気車の走行による走行風を利用してインバータを冷却する冷却器が取り付けられる。そして、複数の制御装置は、電気車の進行方向の前方に位置する第1の台車の近くと、進行方向の後方に位置する第2の台車の近くとに分散して配置される。このように構成された電気車駆動システムによれば、風下側に位置する冷却器は、風上側に位置する冷却器に対して、十分な離隔距離を確保して配置することが可能となる。また、実施の形態1に係る電気車駆動システムでは、風下側に位置する冷却器、及び風上側に位置する冷却器は、床下中央部よりも艤装限界ライン間の幅が広い第1及び第2の台車の近くに配置されるので、障害物の影響を殆ど受けない位置に配置することが可能となる。これらにより、効率的な冷却が可能となるように制御装置を電気車の限られたスペースに柔軟に配置することができる電気車駆動システムを得ることが可能となる。
【0054】
上記の構成は、複数の制御装置が、第1の台車に搭載される2つの電動機を制御する1つの第1の制御装置と、第2の台車に搭載される2つの電動機を制御する1つの第2の制御装置とから成る台車制御方式の電気車駆動システムに適用可能である。この台車制御方式において、第1の制御装置を収容する筐体は、進行方向に対して第1の台車の後方に配置され、第2の制御装置を収容する筐体は、進行方向に対して第2の台車の前方に配置される構成とすることができる。
【0055】
また、上記の構成は、複数の制御装置が、第1の台車に搭載される2つの電動機を個別に制御する2つの第1の制御装置と、第2の台車に搭載される2つの電動機を個別に制御する2つの第2の制御装置とから成る個別制御方式の電気車駆動システムに適用可能である。この個別制御方式において、2つの第1の制御装置のうちの一方を収容する筐体は、進行方向に対して第1の台車の前方に配置され、2つの第1の制御装置のうちの他方を収容する筐体は、進行方向に対して第1の台車の後方に配置され、2つの第2の制御装置のうちの一方を収容する筐体は、進行方向に対して第2の台車の前方に配置され、2つの第2の制御装置のうちの他方を収容する筐体は、進行方向に対して第2の台車の後方に配置される構成とすることができる。或いは、2つの第1の制御装置のうちの一方及び他方を収容する2つの筐体は、進行方向に対して第1の台車の後方に配置され、2つの第2の制御装置のうちの一方及び他方を収容する2つの筐体は、進行方向に対して第2の台車の前方に配置される構成としてもよい。
【0056】
また、上記の構成において、第1及び第2の制御装置を収容する複数の冷却器は、電気車の進行方向、及び電気車の車両の鉛直方向の双方に垂直な第1方向に突出して筐体に取り付けられる構成とすることができる。
【0057】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係る電気車駆動システムの搭載例の説明に供する図である。図10は、実施の形態2に係る電気車150Bを側面側からY軸の負の方向に向かって視認した図である。また、図10は、台車制御方式の搭載例を示している。なお、図3と同一又は同等の構成要素には、同一の符号を付している。
【0058】
図10に示す実施の形態2に係る電気車150Bと、図3に示す実施の形態1に係る電気車150Aとの相違点は、冷却器270,271の搭載位置及び突出方向である。図3に示す電気車150Aでは、冷却器270,271は、筐体260又は筐体261の側面において、+Y軸方向又は-Y軸方向に突出するように取り付けられていた。これに対し、図10に示す電気車150Bでは、冷却器270,271は、筐体260又は筐体261の下面において、-Z軸方向に突出するように取り付けられている。
【0059】
図10の構成でも、走行風の風上側に位置する冷却器270と、走行風の風下側に位置する冷却器271とが、十分な離隔距離がとられて配置されるので、図3の構成と同等の効果を得ることができる。また、床下の空きスペースに関し、車両の横幅方向であるY軸方向に余裕が少なく、車両の高さ方向であるZ軸方向に余裕がある場合には、図3の構成よりも図10の構成の方が設計し易い場合も有り得る。このため、図5図7の搭載例においても、実施の形態2の構成を採用してもよい。
【0060】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 架線、2 集電装置、3 車輪、4 レール、5 車両、10 スイッチ、11 リアクトル、20 電線、30 制御部、40,41 台車、40a,40b,41a,41b 車軸、50 コンデンサ、52 放電回路、60 インバータ、60U,60V,60W,60X,60Y,60Z 半導体素子、80,81,82,83 電動機、100,101,102,103,120,121,251,252 制御装置、150,150A,150B 電気車、160 アルミ製冷却器、162,172 辺部、170 障害物、180 位置規制部、200 電気車駆動システム、250,250A,260,261,262,263,264,265 筐体、253,254,270,271,272,273,274,275 冷却器、280 艤装限界ライン、F 進行方向、N 負側端子、P 正側端子。
図1
図2
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図10