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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】測距装置、測距システムおよび測距方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
G01S7/292 200
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024546375
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2022043085
(87)【国際公開番号】W WO2024111035
(87)【国際公開日】2024-05-30
【審査請求日】2024-08-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 龍平
(72)【発明者】
【氏名】白石 將
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-528926(JP,A)
【文献】特開2022-047025(JP,A)
【文献】特開2007-010365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0072358(US,A1)
【文献】特開2011-215005(JP,A)
【文献】特開平05-223928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0113203(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103217679(CN,A)
【文献】中川 善継 ほか,非線形推定法を用いた放射線無線モニタリング向け簡易走査型計測手法,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2017年02月15日,第116巻 第407号,Pages: 31-36,ISSN: 0915-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
G01B 11/00 - 11/30
G01C 3/00 - 3/32
G01J 1/00 - 1/60
11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部空間に放射され目標で反射して受信されるまでのパルス信号の到達時間に基づいて前記目標との間の距離を測定する測距装置であって、
前記パルス信号に対して時間方向に移動平均を行う移動平均処理部と、
移動平均により平滑化された前記パルス信号の立上り部分を抽出する立上り抽出部と、
抽出された立上り部分の波形のフィッティングを行うフィッティング処理部と、
フィッティングで求められた前記パルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いて前記パルス信号が受信されたタイミングを決定し、決定したタイミングを用いて算出した当該パルス信号の到達時間に基づいて前記目標との間の距離を算出する距離算出部と、を備え
前記フィッティング処理部は、ガウス関数による前記パルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行い、
前記距離算出部は、フィッティングにより求められた関数と前記閾値との交点における時間インデックスの解析解を算出し、算出した前記解析解を用いて前記パルス信号が受信されたタイミングを決定する
ことを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記フィッティング処理部は、前記パルス信号の立上り部分の波形における最大値と、当該最大値に対応するインデックスと、前記最大値に達するまでの複数の信号点を用いて算出された前記パルス信号の分散値とを用いて、フィッティングを行うガウス関数を算出する
ことを特徴とする請求項に記載の測距装置。
【請求項3】
前記距離算出部は、前記パルス信号の立上り部分の波形における前記最大値と、前記パルス信号が前記最大値をとる時間と、前記パルス信号の分散値とを用いて、前記解析解を算出する
ことを特徴とする請求項に記載の測距装置。
【請求項4】
前記フィッティング処理部は、任意の関数による前記パルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行い、
前記距離算出部は、フィッティングにより求められた関数と前記閾値との交点における時間インデックスの数値解を算出し、算出した前記数値解を用いて前記パルス信号が受信されたタイミングを決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項5】
前記立上り抽出部は、前記パルス信号の二次差分値を用いて前記パルス信号の変曲点を算出し、算出した変曲点の値を用いて前記パルス信号の立上り部分を抽出する
ことを特徴とする請求項に記載の測距装置。
【請求項6】
前記フィッティング処理部は、前記パルス信号の立上り部分における複数の点と、予め設定されたフィッティング用の関数を表す複数の点データとの二乗誤差の和が最小となるようにパラメータを算出し、算出したパラメータが示す関数を、前記パルス信号の立上り部分を表す関数として決定する
ことを特徴とする請求項に記載の測距装置。
【請求項7】
アンテナと、
前記アンテナを介して前記外部空間に放射されて前記目標で反射して到来してきた前記パルス信号を受信する受信回路と、
前記受信回路が受信した前記パルス信号を取得し、取得した前記パルス信号が受信されるまでの到達時間に基づいて前記目標との間の距離を測定する、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の測距装置と、を備えた
ことを特徴とする測距システム。
【請求項8】
外部空間に放射され目標で反射して受信されるまでのパルス信号の到達時間に基づいて前記目標との間の距離を測定する測距装置の測距方法であって、
移動平均処理部が、前記パルス信号に対して時間方向に移動平均を行うステップと、
立上り抽出部が、移動平均により平滑化された前記パルス信号の立上り部分を抽出するステップと、
フィッティング処理部が、抽出された立上り部分の波形のフィッティングを行うステップと、
距離算出部が、フィッティングにより求められた前記パルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いて前記パルス信号が受信されたタイミングを決定し、決定したタイミングを用いて算出した当該パルス信号の到達時間に基づいて前記目標との間の距離を算出するステップと、を備え
前記フィッティング処理部は、ガウス関数による前記パルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行い、
前記距離算出部は、フィッティングにより求められた関数と前記閾値との交点における時間インデックスの解析解を算出し、算出した前記解析解を用いて前記パルス信号が受信されたタイミングを決定する
ことを特徴とする測距方法。
【請求項9】
前記立上り抽出部は、前記パルス信号の二次差分値を用いて前記パルス信号の変曲点を算出し、算出した変曲点の値を用いて前記パルス信号の立上り部分を抽出する
ことを特徴とする請求項に記載の測距方法。
【請求項10】
前記フィッティング処理部は、前記パルス信号の立上り部分における複数の点と、予め設定されたフィッティング用の関数を表す複数の点データとの二乗誤差の和が最小となるようにパラメータを算出し、算出したパラメータが示す関数を、前記パルス信号の立上り部分を表す関数として決定する
ことを特徴とする請求項に記載の測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測距装置、測距システムおよび測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UWBセンサは、数百MHzから数GHzという超広帯域(Ultra Wide Band;以下、UWBと記載する。)の無線通信を用いたセンサである。UWBセンサを用いた測位では、複数のUWBによる測距結果の組み合わせを用いて、最終的な目標との間の距離(以下、測距値と記載する。)が算出される。
【0003】
UWBセンサから目標までの測距値は、例えば、UWBセンサから外部空間に放射され目標で反射して当該UWBセンサに受信されるまでのパルス信号の到達時間(Time Of Arrival;以下、TOAと記載する。)に関する情報を用いて算出される。TOAに関する情報を抽出するためには、上記の受信パルス信号が受信されたタイミングを正確に検出する必要がある。
【0004】
例えば、非特許文献1には、パルス信号の波形の立上りのタイミングを検出する技術である、LEDA(Leading Edge Detection Algorithm)が記載されている。LEDAでは、受信されたパルス信号を一定のサンプリング周波数でサンプリングすることにより当該パルス信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を用いてTOA情報を算出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. J. Kuhn, J. Turnmire, M. R. Mahfouz and A. E. Fathy, “ Adaptive leading-edge detection in UWB indoor localization ,” 2010 IEEE Radio and Wireless Symposium (RWS), 2010, pp. 268-271.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LEDAを採用した従来の測距装置は、UWBセンサに設定されたサンプリング周波数が、パルス時間幅に対して十分に高くない場合、パルス信号のサンプリングタイミングがわずかにずれても、受信されたパルス信号の波形が大きく変化してしまい、パルス信号の受信タイミングがばらつくという課題があった。
【0007】
本開示は上記課題を解決するものであり、外部空間に放射され目標で反射して到来したパルス信号の受信タイミングのばらつきを低減できる測距装置、測距システムおよび測距方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る測距装置は、外部空間に放射され目標で反射して受信されるまでのパルス信号の到達時間に基づいて目標との間の距離を測定する測距装置であって、パルス信号に対して時間方向に移動平均を行う移動平均処理部と、移動平均により平滑化されたパルス信号の立上り部分を抽出する立上り抽出部と、抽出された立上り部分の波形のフィッティングを行うフィッティング処理部と、フィッティングにより求められたパルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定し、決定したタイミングを用いて算出した当該パルス信号の到達時間に基づいて目標との間の距離を算出する距離算出部と、を備え、フィッティング処理部は、ガウス関数によるパルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行い、距離算出部は、フィッティングにより求められた関数と閾値との交点における時間インデックスの解析解を算出し、算出した解析解を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、時間方向の移動平均により平滑化されたパルス信号の立上り部分を抽出し、抽出した立上り部分の波形のフィッティングを行い、フィッティングにより求められた立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いてパルス信号が受信されたタイミングが決定される。このように、パルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行うことにより、受信されたパルス信号の立上り部分がアップサンプリングされた状態となる。これにより、本開示に係る測距装置は、外部空間に放射され目標で反射して到来したパルス信号の受信タイミングのばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る測距システムの構成例を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る測距装置が備える立上り抽出部の構成を示すブロック図である。
図3】UWBセンサに受信されたパルス信号の波形を示す波形図である。
図4】UWBセンサに受信されたパルス信号の波形と当該波形のフィッティング結果を示す波形図である。
図5】マルチパス波を含むパルス信号の波形を示す波形図である。
図6】パルス信号の受信タイミングの検出結果を示すグラフである。
図7】実施の形態1に係る測距方法を示すフローチャートである。
図8図8Aおよび図8Bは、実施の形態1に係る測距装置の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。
図9】実施の形態2に係る測距システムの構成例を示すブロック図である。
図10】実施の形態2に係る測距装置が備える立上り抽出部の構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態2に係る測距方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る測距システム1の構成例を示すブロック図である。図1において、測距システム1は、外部空間に放射され、目標で反射されて受信されるまでRF(高周波)のパルス信号の到達時間を用いて上記目標との間の距離を測定するシステムである。測距システム1は、図1に示すように、アンテナ2、受信回路3および測距装置4を備える。アンテナ2は、送信パルス信号を電波として外部空間に放射し、外部空間から到来した電波を受信する。送信パルス信号は、図1で図示を省略した送信回路により生成され、アンテナ2を介して電波として放射される。
【0012】
UWBセンサは、アンテナ2、受信回路3および上記送信回路を備える。また、UWBセンサがアンテナ2のみを備え、受信回路3および上記送信回路は、アンテナ2を介して送受信されるパルス信号を生成する送受信回路が備えてもよい。測距システム1は、図1におけるアンテナ2、受信回路3および測距装置4を少なくとも備えることにより、目標までの距離を測定することができる。また、アンテナ2と接続され、測距装置4とは別に設けられた通信制御装置が受信回路3および上記送信回路を備えてもよい。
【0013】
外部空間からアンテナ2に到来する電波には、上記送信パルス信号が、外部空間に存在する目標で反射し反射パルス信号として到来したものが含まれる。UWBセンサは、時間分解能が非常に高いパルス信号(インパルス信号)を、離散的に送受信するものである。送信パルス信号は、上記送信回路によって、周波数スペクトルが超広帯域に分布し、一定のパルス繰り返し周期のタイミングで生成される。
【0014】
受信回路3は、アンテナ2を介して外部空間に放射され目標で反射されて到来してきたパルス信号を受信する。受信回路3は、図1に示すように、信号受信部31およびAD変換部32を備える。信号受信部31は、アンテナ2を介して電波として受信されたパルス信号に信号処理を行う。信号処理には、パルス信号に対する周波数変換、および、アンプまたはアッテネータ等を用いた利得調整が含まれる。
【0015】
信号受信部31は、アンテナ2を介して受信されたRF出力に対して、増幅処理、帯域通過処理(フィルタ処理)および周波数変換処理などの各種の信号処理を実行することにより、アナログ信号のパルス信号を生成する。このアナログ信号は、同相成分および直交成分を有する複素信号であり、出力結果をAD変換部32へ出力する。
【0016】
AD変換部32は、信号受信部31が信号処理したパルス信号をアナログデジタル変換(AD変換)することにより、デジタル形式のパルス信号を生成する。例えば、AD変換部32は、信号受信部31から取得したアナログ信号のパルス信号を、デジタル形式の複素信号である、パルス信号h[t]を生成する。パルス信号h[t]は測距装置4に出力される。ここで、パラメータtは時間である。
【0017】
測距装置4は、上記パルス信号の到達時間を用いて目標との間の距離を測定する。図1に示すように、測距装置4は、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44を備える。
【0018】
移動平均処理部41は、デジタル形式の複素信号に変換されたパルス信号h[t]を取得し、パルス信号h[t]に対し時間方向に移動平均を行う。例えば、移動平均処理部41は、下記式(1)に従って、パルス信号h[t]の絶対値を算出し、パルス信号h[t]の絶対値に対して時間方向にNave点の移動平均を行う。この移動平均により平滑化されたパルス信号y[t]が生成される。
なお、下記式(1)において、averagewindow(x,n)は、入力xのn点での移動平均を表し、abs( )は、絶対値を表している。パルス信号y[t]は、立上り抽出部42に出力される。
y[t]=averagewindow(abs(h[t]),Nave) (1)
【0019】
立上り抽出部42は、移動平均により平滑化された上記パルス信号の立上り部分を抽出する。図2は、測距装置4が備える立上り抽出部42の構成を示すブロック図である。立上り抽出部42は、図2に示すように、パルス最大値抽出部421およびインデックス減算部422を備える。また、図3は、UWBセンサに受信されたパルス信号の波形を示す波形図である。立上り抽出部42は、図3に示すように、パルス信号y[t]の波形Aにおける立上り部分Bのみを抽出する。
【0020】
立上り部分Bは、波形Aの立上りが開始される開始時間tから、波形Aが最も立ち上がる時間tmaxまでの時間範囲で特定される。波形Aが最も立ち上がる時間tmaxとは、パルス信号y[t]が最大値をとる時間である。すなわち、時間tmaxは、立上り部分Bの終了を示す時間インデックスである。上記時間範囲をt∈[t,tmax]とすると、パルス最大値抽出部421は、下記式(2)に従って、上記時間範囲における時間tmaxを算出することにより、パルス信号y[t]が最大値を抽出する。なお、下記式(2)において、argmax( )は、括弧内が最大となる時間tを表している。

【0021】
インデックス減算部422は、波形Aの立上りが開始される時間tを算出する。例えば、インデックス減算部422は、下記式(3)に従って、パルス最大値抽出部421が算出した時間tmaxから、特定の時間インデックスβを減算することにより、時間tを算出する。なお、時間tは、立上り部分Bの開始を示す時間インデックスである。
=tmax-β (3)
【0022】
上記式(2)および上記式(3)から明らかなように、上記時間範囲により特定される立上り部分Bにはβ+1個の要素が含まれる。パルス幅ΔTが既知である場合に、βは、下記式(4)で表すことができる。なお、下記式(4)において、γは0.5以上の定数(0.5≦γ)である。立上り抽出部42は、立上り部分Bの開始を示す時間インデックスtと、立上り部分Bの終了を示す時間インデックスtmaxとを算出することにより、パルス信号の波形Aにおける立上り部分Bを抽出する。立上り抽出部42は、時間インデックスtおよび時間インデックスtmaxをフィッティング処理部43に出力する。
β=γΔT (4)
【0023】
フィッティング処理部43は、立上り部分Bの波形のフィッティングを行う。例えば、フィッティング処理部43は、時間インデックスtから時間インデックスtmaxまでの時間範囲に含まれるパルス信号y[t](t∈[t,tmax])の波形を、下記式(5)に従い、時間インデックスtmax、最大値ymax、および分散値σのガウス分布を用いてフィッティングを行う。下記式(5)において、tmaxは、立上り部分Bの終了を示す時間インデックスであり、立上り部分Bに含まれるβ+1個の要素のうち、要素が最大となる時間を示している。ymaxは、パルス信号y[t]の最大値である。分散σは、パルス信号y[t]が最大値ymaxに達するまでの複数の要素の値を用いて算出された分散値である。

【0024】
パルス信号y[t]の立上り部分Bにおけるβ+1個の要素を用いて、分散σは、下記式(6)を用いて算出することができる。下記式(6)において、iは1からβ+1までの整数である。

【0025】
図4は、UWBセンサに受信されたパルス信号y[t]の波形Aと、波形Aのフィッティング結果Cを示す波形図である。フィッティング結果Cは、フィッティング関数により表された、立上り部分Bの波形である。フィッティング処理部43は、上記式(6)に従って、パルス信号y[t]の立上り部分Bの波形のフィッティングを行うことにより、フィッティング結果Cを算出する。図4に示すように、フィッティングを行う前の立上り部分Bは、サンプリング周波数に応じて離散的にサンプリングされた複数の点で構成されている。
【0026】
これに対し、フィッティング処理部43は、ガウス関数を用いたフィッティング処理を施すことにより、図4に示すように、離散的にサンプリングされた複数の点で構成される立上り部分Bが補完されたフィッティング結果Cを算出する。フィッティング結果Cは、パルス信号y[t]の立上り部分Bのみをアップサンプリングした結果と等価である。
【0027】
図5は、マルチパス波を含むパルス信号の波形Aを示す波形図である。図5において、波形AにおけるピークA1は、目標で反射してアンテナ2に直接到達したパルス信号の波形成分である(直接波)。ピークA2は、目標以外の反射を含むマルチパスでアンテナ2に到達したパルス信号の波形成分である(マルチパス波)。図5に示すように、マルチパス波のピークA2は、直接波のピークA1から遅れて到来する。
【0028】
フィッティング処理部43は、パルス信号における立上り部分Bのみのフィッティングを行うので、直接波のピークA1から遅れて生じる、マルチパス波に起因したピークA2の影響を受けにくい。すなわち、フィッティング処理部43は、マルチパス波に起因した信号成分を含むパルス信号であっても、パルス信号y[t]の立上り部分Bのみをアップサンプリングすることが可能である。フィッティング結果Cは、距離算出部44に出力される。
【0029】
距離算出部44は、フィッティングにより求められたパルス信号の立上り部分Bの波形と閾値との交点の値を用いて、パルス信号が受信されたタイミングを決定する。そして、距離算出部44は、決定したタイミングを用いて算出したパルス信号の到達時間に基づいて、目標との間の距離を算出する。例えば、距離算出部44は、フィッティングにより求められた関数と閾値との交点における時間インデックスの解析解を算出し、算出した解析解を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定する。
【0030】
距離算出部44は、フィッティング処理部43よりフィッテイングされた関数と、閾値との交点における時間インデックスの解析解を用いて、パルス信号の受信タイミングtを算出する。パルス信号の受信タイミングを検出するための閾値Thを、定数αを用いてTh=ymax/αと表すと、下記式(7)に従って、パルス信号の受信タイミングtは解析的に表すことができる。

【0031】
距離算出部44は、送信パルス信号の電波を送信したタイミングtを示す情報を上記送信回路から取得し、取得したタイミングtを示す情報と、算出したパルス信号の受信タイミングtとを用いて、下記式(8)に従い目標との間の測距値dを算出する。下記式(8)において、cは光速である。
d=c(t-t) (8)
【0032】
上記式(7)に示すように、パルス信号の受信タイミングtは、当該パルス信号の分散値σと定数αといった二つのパラメータによって決定される。分散値σは、パルス信号が受信される度に、上記式(6)に基づいて決定される。このため、パルス信号の受信タイミングを検出するために設定されるパラメータの値が固定的である、従来のLEDAに比べて、測距装置4によるパルス信号の受信タイミングの検出は、パルス信号の時間的な変化に対してロバストな特性を有する。
【0033】
図6は、パルス信号の受信タイミングの検出結果を示すグラフである。図6において、濃い色で示すカウント結果D1は、パルス信号が受信される度に測距装置4によって決定された立上りタイミングのカウント数である。薄い色で示すカウント結果D2は、パルス信号が受信される度に従来のLEDAによって決定された立上りタイミングのカウント数である。図6から明らかなように、測距装置4は、従来のLEDAよりも真の立上りタイミングを正確にかつ安定的に検出できている。
【0034】
パルス信号のサンプリングを行うサンプリング周波数が、パルス時間幅に対して十分に高くない場合、パルス信号からサンプリングされた複数の点のうち、閾値と比較する相手の点が存在しない、いわゆるオフグリッドの状態になる可能性がある。
この場合、従来のLEDA等の検出方法では、サンプル点の時間的な位置が本来の位置から少しでもずれると、不要な閾値との比較が発生して、パルス信号の受信タイミングが大きく変化してしまう。
【0035】
これに対して、測距装置4は、上記式(5)のような関数を用いたフィッティングを、パルス信号の立上り部分に施すことにより、上述したオフグリッドの影響を低減することができる。また、パルス信号の立上り部分のみにフィッティングを行うので、フィッティングに要する演算負荷を抑えることが可能である。
さらに、測距装置4の測距方法において事前に設定すべきパラメータは、Nave、α、およびβの3つでよい。
【0036】
図7は、実施の形態1に係る測距方法を示すフローチャートである。
移動平均処理部41が、受信回路3から、デジタル形式の複素信号であるパルス信号を取得する(ステップST1)。移動平均処理部41は、取得したパルス信号に対して時間方向に移動平均を行う(ステップST2)。
【0037】
立上り抽出部42が、移動平均により平滑化された前記パルス信号の立上り部分を抽出する(ステップST3)。フィッティング処理部43が、抽出された立上り部分の波形についてガウス関数のフィッティングを行う(ステップST4)。
【0038】
距離算出部44が、フィッティングにより求められたパルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いてパルス信号が受信されたタイミングを示す時間インデックスを算出する(ステップST5)。距離算出部44は、パルス信号が受信されたタイミングを示す時間インデックスと、当該パルス信号が放射された電波の発射時間との差分により、当該パルス信号の到達時間を算出し、算出した到達時間に基づいて目標との間の測距値を算出する(ステップST6)。
【0039】
次に、測距装置4の機能を実現するハードウェア構成について説明する。
測距装置4が備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44の機能は、処理回路により実現される。すなわち、測距装置4は、図7に示したステップST1からステップST6の処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。処理回路は、単数または複数のプロセッサであってもよい。
【0040】
図8Aは、測距装置4の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。図8Bは、測距装置4の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。図8Aおよび図8Bにおいて、入力インタフェース100は、AD変換部32と移動平均処理部41との間を接続する入力線を介して、移動平均処理部41が、受信回路3から取得するパルス信号(デジタル形式の複素信号)を中継するインタフェースである。出力インタフェース101は、距離算出部44と、測距装置4の後段に接続された外部装置との間を接続する出力線を介して、距離算出部44から当該外部装置へ出力される測距結果を中継するインタフェースである。
【0041】
処理回路が図8Aに示す専用のハードウェアの処理回路102である場合、処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、または、これらを組み合わせたものが該当する。測距装置4が備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44の機能を別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて一つの処理回路で実現してもよい。
【0042】
処理回路が図8Bに示すプロセッサ103である場合、測距装置4が備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0043】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、測距装置4が備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44の機能を実現する。例えば、測距装置4は、プロセッサ103によって実行されるときに、図7に示したステップST1からステップST6までの処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備える。
これらのプログラムは、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44が行う処理の手順または方法を、コンピュータに実行させるものである。また、メモリ104は、コンピュータを、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0044】
メモリ104は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically-EPROM)(登録商標)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDなどが該当する。
【0045】
測距装置4が備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43および距離算出部44の機能の一部を、専用のハードウェアで実現し、他の一部は、ソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、移動平均処理部41、立上り抽出部42、フィッティング処理部43の機能は、専用のハードウェアである処理回路102により実現し、距離算出部44の機能は、プロセッサ103がメモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせにより上記機能を実現することが可能である。
【0046】
以上のように、実施の形態1に係る測距装置4は、パルス信号に対して時間方向に移動平均を行う移動平均処理部41と、移動平均により平滑化されたパルス信号の立上り部分を抽出する立上り抽出部42と、立上り部分の波形のフィッティングを行うフィッティング処理部43と、フィッティングにより求められたパルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定し、決定した受信タイミングに基づく当該パルス信号の到達時間に基づいて目標との間の距離を算出する距離算出部44とを備える。パルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行うことにより、パルス信号の立上り部分がアップサンプリングされた状態となる。これにより、測距装置4は、空間に放射され、目標で反射して到来したパルス信号の受信タイミングのばらつきを低減できる。
【0047】
実施の形態1に係る測距装置4において、フィッティング処理部43は、ガウス関数によるパルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行う。距離算出部44は、フィッティングにより求められた関数と閾値との交点における時間インデックスの解析解を算出し、算出した解析解を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定する。
時間インデックスの解析解を用いることにより、事前に設定すべきパラメータがNave、α、およびβの3つでよくなる。さらに、立上り部分の波形のみのフィッティングでよいため、演算負荷が低減され、演算に要するハードウェア規模も低減できる。
【0048】
実施の形態1に係る測距装置4において、フィッティング処理部43は、パルス信号の立上り部分の波形における最大値と、最大値に対応するインデックスと、最大値に達するまでの複数の信号点を用いて算出されたパルス信号の分散値とを用いて、フィッティングを行うガウス関数を算出する。
事前に設定すべきパラメータがNave、α、およびβの3つでよくなる。さらに、立上り部分の波形のみのフィッティングでよいため、演算負荷が低減され、演算に要するハードウェア規模も低減できる。
【0049】
実施の形態1に係る測距装置4において、距離算出部44は、パルス信号の立上り部分の波形における最大値と、パルス信号が最大値をとる時間と、パルス信号の分散値とを用いて、解析解を算出する。
事前に設定すべきパラメータがNave、α、およびβの3つでよくなる。さらに、立上り部分の波形のみのフィッティングでよいため、演算負荷が低減され、演算に要するハードウェア規模も低減できる。
【0050】
また、実施の形態1に係る測距システム1は、アンテナ2、受信回路3および測距装置4を備える。これにより、目標で反射して到来したパルス信号の受信タイミングのばらつきを低減できる測距システム1を提供することができる。
【0051】
さらに、実施の形態1に係る測距方法は、移動平均処理部41がパルス信号を時間方向に移動平均を行うステップと、立上り抽出部42が移動平均により平滑化されたパルス信号の立上り部分を抽出するステップと、フィッティング処理部43が、抽出された立上り部分の波形のフィッティングを行うステップと、距離算出部44が、フィッティングにより求められたパルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の値を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定し、決定した受信タイミングに基づく当該パルス信号の到達時間に基づいて目標との間の距離を算出するステップと、を備える。
この方法を実行することにより、測距装置4は、目標で反射して到来したパルス信号の受信タイミングのばらつきを低減できる。
【0052】
さらに、実施の形態1に係る測距方法は、フィッティング処理部43が、ガウス関数によるパルス信号の立上り部分の波形のフィッティングを行う。距離算出部44は、フィッティングにより求められた関数と閾値との交点における時間インデックスの解析解を算出し、算出した解析解を用いてパルス信号が受信されたタイミングを決定する。
事前に設定すべきパラメータがNave、α、およびβの3つでよくなる。さらに、立上り部分の波形のみのフィッティングでよいため、演算負荷が低減され、演算に要するハードウェア規模も低減できる。
【0053】
実施の形態2.
図9は、実施の形態2に係る測距システム1Aの構成例を示すブロック図である。図9において、測距システム1Aは、外部空間に放射され、目標で反射されて受信されるまでRF(高周波)のパルス信号の到達時間を用いて上記目標との間の距離を測定するシステムである。測距システム1Aは、図9に示すように、アンテナ2、受信回路3および測距装置4Aを備える。アンテナ2は、送信パルス信号を電波として外部空間に放射し、外部空間から到来した電波を受信する。送信パルス信号は、図9で図示を省略した送信回路により生成され、アンテナ2を介して電波として放射される。
【0054】
UWBセンサは、アンテナ2、受信回路3および上記送信回路を備える。UWBセンサがアンテナ2のみを備え、受信回路3および上記送信回路は、アンテナ2を介して送受信されるパルス信号を生成する送受信回路が備えてもよい。測距システム1Aは、図9におけるアンテナ2、受信回路3および測距装置4Aを少なくとも備えることにより、目標までの距離を測定することができる。また、アンテナ2と接続され、測距装置4Aとは別に設けられた通信制御装置が受信回路3および上記送信回路を備えてもよい。
【0055】
測距装置4Aは、パルス信号の到達時間を用いて目標との間の距離を測定する。図9に示すように、測距装置4は、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43Aおよび距離算出部44Aを備える。
【0056】
移動平均処理部41は、実施の形態1と同様に、デジタル形式の複素信号に変換されたパルス信号h[t]を取得し、パルス信号h[t]に対し時間方向に移動平均を行う。例えば、移動平均処理部41は、下記式(1)に従い、パルス信号h[t]の絶対値を算出し、パルス信号h[t]の絶対値に対して時間方向にNave点の移動平均を行う。この移動平均により平滑化されたパルス信号y[t]が生成される。
【0057】
立上り抽出部42Aは、パルス信号の二次差分値を用いて、パルス信号の変曲点を算出し、算出した変曲点の値を用いてパルス信号の立上り部分を抽出する。
実施の形態1では、パルス信号の立上り部分を抽出する際に、パルス信号が最大ピーク(ymax)となる時間インデックスtmaxを基準とし、最大ピークの時間から負の方向に一定の時間インデックスβ分の時間範囲を立上り部分として抽出していた。
【0058】
これに対し、立上り抽出部42Aは、パルス信号における立上り部分の波形の変曲点を示す情報を使用して、パルス信号の立上り部分を抽出する。このように処理することで、パルス信号のパルス時間幅等の事前情報が無い場合であっても、どの程度の範囲を立上り部分として抽出すべきかを判断することが可能である。
【0059】
図10は、実施の形態2に係る測距装置4Aが備える立上り抽出部42Aの構成を示すブロック図である。立上り抽出部42Aは、図10に示すように、パルス最大値抽出部421、二次差分値算出部423および変曲点算出部424を備える。パルス最大値抽出部421は、上記式(2)に従って、上記時間範囲における時間tmaxを算出することで、パルス信号y[t]が最大値を抽出する。
【0060】
二次差分値算出部423は、パルス信号を構成する第i番目のサンプル値をf=y[i]とすることで、下記式(9)および下記式(10)に従い、一次差分値fドットおよび二次差分値fツードットを算出する。二次差分値fツードットは、変曲点算出部424へ出力される。


【0061】
変曲点算出部424は、二次差分値算出部423が算出した二次差分値fツードットの極小点を求めることで、パルス信号の立上り部分の変曲点に相当する箇所を抽出する。
具体的には、下記式(11)を満たす点で、かつパルス信号の波形が最大ピークとなる時間インデックスよりも時間的に負の位置にあり、かつ最大ピークとなる時間インデックスに近い点のインデックスkを求める。

【0062】
変曲点算出部424は、上述のように求めたインデックスkと、上記式(2)に従って算出されたパルス信号が最大値を取る時間インデックスtmaxとを用いて、パルス信号の立上り部分の開始時間インデックスtを、下記式(12)に従って算出する。
=tmax-3(tmax-k)=3k-2tmax (12)
【0063】
パルス信号の立上り部分がガウス関数で近似できる場合、上記式(12)における(tmax-k)は、分散値σに相当することに注目して定式化している。すなわち、(tmax-k)に相当する分散値をσ’とすると、上記式(12)は、パルス信号のピーク値から3σ’程度までを、フィッテイングの際に抽出することを意味する。
また、上記式(12)は、適当な変数pを用いることにより、下記式(13)のように表現してもよい。変曲点算出部424は、算出したtおよびtmaxの値をフィッティング処理部43Aへ出力する。
=tmax-p(tmax-k)=pk-(1-p)tmax (13)
【0064】
フィッティング処理部43Aは、パルス信号の立上り部分における複数の点と、予め設定されたフィッティング用の関数を表す複数の点データとの二乗誤差の和が最小となるようにパラメータを算出し、算出したパラメータが示す関数を、パルス信号の立上り部分を表す関数として決定する。これにより、フィッティング処理部43Aは、ガウス関数に限定されず、任意の関数を用いたフィッティングが可能である。
【0065】
フィッティング処理部43Aは、立上り抽出部42Aから取得したtおよびtmaxを用いて、y[t](t∈[t,tmax])におけるフィッテイング処理を、事前に設定した任意の関数を用いて行う。この任意の関数は、n個のパラメータw=[w,w,w,・・・,w]で記述され、f(w,t)と表現できるものとする。f(w,t)は、下記式(14)を解くことにより、wをwハットとして算出することができる。
【0066】
例えば、フィッティング処理部43Aは、下記式(14)に示すパルス信号の立上り部分における複数の点と予め設定されたフィッティング用の関数f(w,t)を表す複数の点データとの二乗誤差の和が最小となるようにパラメータwハットおよびtを算出する。下記式(14)を用いて算出されたパラメータwハットおよびtが示す関数が、パルス信号の立上り部分を表す関数として決定される。フィッティング処理部43Aは、下記式(14)を用いて、wハットとtをパラメータとするフィッテイング関数を決定すると、決定したフィッティング関数を示す情報を距離算出部44Aへ出力する。
なお、下記式(14)において、argmax( )は、括弧内が最大になるパラメータを選択することを表しており、argmin( )は、括弧内が最小となるパラメータを選択することを表している。

【0067】
距離算出部44Aは、下記式(15)に基づいて、パルス信号の受信タイミングtを数値的に決定する。時間インデックスtは、下記式(15)に基づく数値解である。距離算出部44Aは、送信パルス信号の電波が放射されたタイミングtを示す情報を用いて、目標との間の測距値dを、上記式(8)に従い算出した結果を出力する。

【0068】
図11は、実施の形態2に係る測距方法を示すフローチャートである。
移動平均処理部41が、受信回路3から、デジタル形式の複素信号であるパルス信号を取得する(ステップST1A)。移動平均処理部41は、取得したパルス信号に対して時間方向に移動平均を行う(ステップST2A)。
【0069】
立上り抽出部42Aが、移動平均により平滑化された前記パルス信号の立上り部分を抽出する(ステップST3A)。フィッティング処理部43Aが、抽出された立上り部分の波形について任意の関数のフィッティングを行う(ステップST4A)。
【0070】
距離算出部44Aが、フィッティングにより求められたパルス信号の立上り部分の波形と閾値との交点の数値解を用いてパルス信号が受信されたタイミングを示す時間インデックスを算出する(ステップST5A)。続いて、距離算出部44Aは、パルス信号が受信されたタイミングを示す時間インデックスと、当該パルス信号が放射された電波の発射時間との差分により、当該パルス信号の到達時間を算出し、算出した到達時間に基づいて目標との間の測距値を算出する(ステップST6A)。
【0071】
次に、測距装置4の機能を実現するハードウェア構成について説明する。
また、測距装置4Aが備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43Aおよび距離算出部44Aの機能は、図8Aに示した専用のハードウェアの処理回路102が実現してもよい。処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらを組み合わせたものが該当する。測距装置4Aが備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43Aおよび距離算出部44Aの機能を別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて一つの処理回路で実現してもよい。
【0072】
処理回路が図8Bに示したプロセッサ103である場合、測距装置4Aが備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43A、および距離算出部44Aの機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0073】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、測距装置4Aが備える、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43Aおよび距離算出部44Aの機能を実現する。例えば、測距装置4Aは、プロセッサ103により実行されるときに、図11に示したステップST1AからステップST6Aまでの処理が結果的に実行される、プログラムを記憶するためのメモリ104を備える。これらのプログラムは、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43Aおよび距離算出部44Aが行う処理の手順または方法を、コンピュータに実行させるものである。メモリ104は、コンピュータを、移動平均処理部41、立上り抽出部42A、フィッティング処理部43Aおよび距離算出部44Aとして機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0074】
以上のように、実施の形態2に係る測距装置4Aにおいて、立上り抽出部42Aは、パルス信号の二次差分値を用いてパルス信号の変曲点を算出し、変曲点の値を用いてパルス信号の立上り部分を抽出する。パルス信号のパルス時間幅等の事前情報が無い場合であっても、どの程度の範囲を立上り部分として抽出すべきかを判断することが可能である。
【0075】
実施の形態2に係る測距装置4Aにおいて、フィッティング処理部43Aは、パルス信号の立上り部分における複数の点と、予め設定されたフィッティング用の関数を表す複数の点データとの二乗誤差の和が最小となるようにパラメータを算出し、算出したパラメータが示す関数を、パルス信号の立上り部分を表す関数として決定する。これにより、立上り部分の波形のフィッティングに任意の関数を用いることができる。
【0076】
実施の形態2に係る測距方法において、立上り抽出部42Aは、パルス信号の二次差分値を用いてパルス信号の変曲点を算出し、算出した変曲点の値を用いてパルス信号の立上り部分を抽出する。パルス信号のパルス時間幅等の事前情報が無い場合であっても、どの程度の範囲を立上り部分として抽出すべきかを判断することが可能である。
【0077】
実施の形態2に係る測距方法において、フィッティング処理部43Aは、パルス信号の立上り部分における複数の点と、予め設定されたフィッティング用の関数を表す複数の点データとの二乗誤差の和が最小となるようにパラメータを算出し、算出したパラメータが示す関数を、パルス信号の立上り部分を表す関数として決定する。これにより、立上り部分の波形のフィッティングに任意の関数を用いることができる。
【0078】
なお、各実施の形態の組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示に係る測距装置は、例えば、列車制御システム、通信システム、測距システム、または車載用レーダシステム等に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1,1A 測距システム、2 アンテナ、3 受信回路、4,4A 測距装置、31 信号受信部、32 AD変換部、41 移動平均処理部、42,42A 立上り抽出部、43,43A フィッティング処理部、44,44A 距離算出部、100 入力インタフェース、101 出力インタフェース、102 処理回路、103 プロセッサ、104 メモリ、421 パルス最大値抽出部、422 インデックス減算部、423 二次差分値算出部、424 変曲点算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11