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特許7580697子宮内細菌叢改善用剤及び組成物、ならびに子宮内細菌叢が改善又は正常化された状態の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】子宮内細菌叢改善用剤及び組成物、ならびに子宮内細菌叢が改善又は正常化された状態の判定方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20241105BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20241105BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20241105BHJP
   A61P 15/06 20060101ALI20241105BHJP
   A61K 35/747 20150101ALN20241105BHJP
【FI】
A61K38/17
A23L33/19
A61P15/00
A61P15/06
A61K35/747
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020190524
(22)【出願日】2020-11-16
(62)【分割の表示】P 2020504033の分割
【原出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021014471
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2020-11-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018176473
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599012167
【氏名又は名称】株式会社NRLファーマ
(73)【特許権者】
【識別番号】517325571
【氏名又は名称】Varinos株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113402
【弁理士】
【氏名又は名称】前 直美
(72)【発明者】
【氏名】星野 達雄
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 喜行
(72)【発明者】
【氏名】長井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】京野 廣一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 朋子
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】齋藤 恵
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6831548(JP,B2)
【文献】不妊・不育症治療を目的とした腟内・子宮内菌叢検査の臨床研究 ,UMIN-CTR臨床試験登録情報,UMIN試験ID:UMIN000031731,2018年03月15日,https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000036121
【文献】高容量腸溶性ラクトフェリン提供開始のお知らせ,ウェブサイト「さっぽろ不育症・着床障害コンソーシアム」,2018年04月27日,[令和4年3月29日検索],インターネット<URL: http://sapporofuikusyotyakusyosyogaiconsortium.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=78665>
【文献】長井陽子,医療と検査機器・試薬,2018年06月10日,41巻、3号,259-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN),JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする子宮内の細菌叢改善用剤であって、ラクトバチルス占有率が50%未満であるラクトバチルス非支配的子宮内細菌叢におけるラクトバチルス占有率を70%以上に正常化させる子宮内の細菌叢改善用剤。
【請求項2】
子宮内細菌叢におけるラクトバチルス占有率を90%以上に正常化させる、請求項1記載の剤。
【請求項3】
不妊症、流産、早産、及び/又は不育症から選択される子宮内の細菌叢の乱れに起因する疾患の治療又は予防のための、請求項1~2のいずれか1項記載の剤。
【請求項4】
不妊症の治療又は予防のための、請求項1~2のいずれか1項記載の剤。
【請求項5】
経口投与剤である、請求項1~2のいずれか1項記載の剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の剤を含有する、ラクトバチルス占有率が50%未満であるラクトバチルス非支配的子宮内細菌叢におけるラクトバチルス占有率を70%以上に正常化させる子宮内の細菌叢改善用の組成物。
【請求項7】
医薬組成物である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
飲食品組成物である、請求項6記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮内の細菌叢を改善するための剤及び子宮内の細菌叢改善用組成物、及び子宮内細菌叢が改善又は正常化された状態の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生殖適齢期の健康な女性の膣内には、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌が豊富に存在し、ラクトバチルスが生産する乳酸や抗菌物質によって、他の病原性細菌やウイルスなどが増殖できない環境が作られ、ラクトバチルスは感染症から膣を守る役割を担っていることが知られていた。
【0003】
一方、子宮内の細菌環境については、腟と空間的につながっているものの、子宮頸管から分泌される粘膜バリアの存在によって、無菌であると考えられてきた(非特許文献1)。2000年初頭、個々の細菌に特徴的な16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子のDNA増幅法が確立され、単離された細菌のDNA配列情報で細菌を同定できるようになった。さらには、膨大なDNAを一度に解析できる次世代シーケンシングテクノロジーが登場し、試料中に存在するすべての細菌に由来する16S rRNA遺伝子をまとめて解析することにより、単離することなく難培養性や微量な細菌の存在を調べることが可能となった。複数の細菌によって複雑に構成される細菌コミュティは、細菌叢、マイクロバイオータ、フローラと呼ばれ、どの細菌が全体のどれぐらいの割合を占めているのかを把握できるようになった。近年になり、この次世代シーケンサーを用いた細菌叢解析によって、子宮内にも細菌叢が存在することが明らかとなった。2015年に米国ラトガース大学のFranasiakらは、次世代シーケンサーを用いて体外受精を行う際の子宮内細菌環境を調べ、子宮内にもラクトバチルス属細菌が多く生息していることを報告した(非特許文献2)。同年、ワシントン大学のMitchellらも、子宮内にも膣内に由来する細菌叢があり、正常な子宮内膜にはラクトバチルス属細菌が多く生息していることを報告した(非特許文献3)。
【0004】
生殖器内の細菌環境は、生殖医療において重要であり、不妊症や流産・早産又は死産を繰り返す不育症と関わることが報告されている。特に、子宮内細菌叢は、体外受精した受精卵を戻す子宮内の環境を理解するためにとても重要である。2016年に、スペインのMorenoらは、不妊と膣及び子宮内の細菌叢の関係を調査した。その結果、子宮内の細菌叢は着床期間中非常に安定に保たれること、また、ラクトバチルス属細菌の低下が、体外授精患者の妊娠率・妊娠継続率・出産成功率の低下と相関していることなどを報告した(非特許文献4)。同様に、2017年に、中国のJiaらは、女性生殖管の細菌叢を調査し、膣から輸卵管に至る生殖管で、独特な細菌叢が定着していることを報告した。膣内及び子宮内の菌は、不妊を伴う生殖器疾患と相関を示し、今後、疾患のバイオマーカーとして使える可能性が示唆されている(非特許文献5)。
【0005】
本発明者らは、膣と比べ細菌の存在量が1,000~10,000倍近く少ない子宮内細菌叢を検出するため、独自のサンプル採取方法及び解析方法を確立した(非特許文献6)。これらの方法により、健常者ボランティア7名、体外受精実施患者79名、一般不妊患者23名の子宮内及び腟内細菌叢を調べた結果、全体の約30%の被験者において、腟内細菌叢と子宮内細菌叢の乖離が認められた。また、子宮内ラクトバチルス占有率は、健常者ボランティアにおいて平均99.50%であったのに対して、体外受精実施患者では平均63.90%であった。さらに、研究期間中に妊娠した18名のラクトバチルス占有率は96.45%となり、妊娠群では子宮内のラクトバチルス占有率が高いことが明らかとなった。
【0006】
以上述べたように、新しい解析技術によって子宮内には腟内と異なる細菌叢が構成されることが明らかとなった。現在までに、子宮内細菌叢は、妊娠成績のほか、子宮内膜症、子宮内膜癌、子宮内膜炎、絨毛羊膜炎とも関連があることが指摘されている(非特許文献1)。子宮頚部の感染症は、子宮頚管炎と呼ばれている。一方、子宮体部の炎症は、その罹患病巣によって子宮内膜の炎症を子宮内膜炎、筋層の炎症を子宮筋層炎、漿膜の炎症を子宮周囲炎というが、大部分は子宮内膜炎である。大部分の子宮内膜炎は上行性感染であり、起炎菌としては連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、嫌気性菌などが挙げられる。妊娠期においてこれらの菌が絨毛や羊水に感染すると絨毛羊膜炎を引き起こし、早産の原因となる。このような感染は、軽度の子宮内細菌叢の乱れに起因すると考えられるので、子宮内細菌叢の改善が重要である。
【0007】
しかし、従来どおりの、膣内洗浄、抗生物質投与、ホルモン療法などの様々な処置では、子宮内環境の改善に対して十分な効果を発揮していないのが実情である。代表的抗生物質である、アンピシリン、アモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬は、嫌気性菌への効果が弱く、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2014、サンフォードでも細菌性腟症の治療法として推奨されていない。したがって、これらの抗生物質単体ではラクトバチルスを増やす効果は低いと考えられる。また、抗菌薬治療による副作用として、稀に皮膚や肝臓などに障害が生じることも知られている。
【0008】
このように、子宮内細菌叢の乱れを正常化することによる治療法の開発の必要性が高まっているが、これまでのところ、子宮内細菌叢を改善する治療・介入方法についての報告は全く存在しない。
【0009】
ラクトフェリンは、1939年に牛乳中に発見された鉄結合性のタンパク質であり、その後、ウシ以外の多くの哺乳動物の乳汁中に含まれていることが判明した。ラクトフェリンは、ヒトでは母乳、特に初乳に多く含まれるが、成人においても涙、唾液、膵液その他の外分泌液や好中球に含まれている鉄結合性の生理活性タンパク質である。ラクトフェリンは、細菌の生存及び増殖に必要な鉄を奪う能力により静菌活性を有しており、また、細菌膜のリポ多糖への結合を介した細菌溶解、上皮細胞への細菌接着の阻害、宿主細胞への侵入阻害といった抗菌活性を有する(非特許文献7)。
【0010】
2012年、Giuntaらは、鉄欠乏症の妊婦に1日200mgのラクトフェリンを一カ月間経口投与したところ、膣内の感染症が治癒し、膣内の微生物菌叢が正常化し早産リスクが低下したことを報告した(非特許文献8)。同様に2014年、大槻らは、乳由来のタンパク成分の一つであるラクトフェリンが早産の予防に有効であるとの報告を行った(非特許文献9)。2017年の大槻らの論文によると、早産を繰り返す難治性細菌性膣炎患者の女性の膣内の細菌叢は、正常な膣内に多い乳酸菌の一種であるラクトバチルス属細菌が顕著に減少しており、ラクトフェリンを長期間経口(700mg/日)及び膣内に直接投与することにより、ラクトバチルス属細菌が増加し、妊娠に至り、その後早産せずに出産したことが報告されている(非特許文献10)。2017年、イタリアのPinoらは、細菌性膣炎の患者に、100~200mgのラクトフェリンを膣内投与し2週間後に細菌の検査を行ったところ、ガルドネレラ(Gardnerella)、プレボテラ(Prevotella)、及びラチノスピラ(Lachnospira)が顕著に減少し、ラクトバチルスが増加していたことを報告した(非特許文献11)。以上により、ラクトフェリンには、ラクトバチルスに対して膣内で増殖効果を示すプレバイオティクス作用が認められおり、ラクトフェリンは細菌性膣炎の治療にも有効であることが示されている。
【0011】
このように、生理活性タンパク質であるラクトフェリンについては、腟内細菌叢を改善する効果が近年になって相次いで発表されているが、子宮内細菌叢に着目した効果は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Baker JM et al., Front Immunol. 2018 Mar 2;9:208. Uterine Microbiota: Residents, Tourists, or invaders?
【文献】Franasiak JM et al., J Assist Reprod Genet. 2016 Jan;33(1):129-36. Endometrial microbiome at the time of embryo transfer: next-generation sequencing of the 16S ribosomal subunit.
【文献】Mitchell CM et al., Am J Obstet Gynecol. 2015 May;212(5):611.e1-9. Colonization of the upper genital tract by vaginal bacterial species in nonpregnant women.
【文献】Moreno I et al., Am J Obstet Gynecol. 2016 Dec;215(6):684-703. Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure.
【文献】Chen C et al., Nat Commun. 2017 Oct 17;8(1):875. The microbiota continuum along the female reproductive tract and its relation to uterine-related diseases.
【文献】Kyono K et al., Reprod Med Biol. Jul; 17(3): 297-306. Analysis of endometrial microbiota by 16S ribosomal RNA gene sequencing among infertile patients: a single-center pilot study.
【文献】Valenti P et al. Front Immunol. 2018; 9: 376. Role of Lactobacilli and Lactoferrin in the Mucosal Cervicovaginal Defense
【文献】Giunta G et al., Mol Med Rep. 2012 Jan;5(1):162-6. Influence of lactoferrin in preventing preterm delivery: a pilot study.
【文献】Otsuki et al., J Obstet Gynaecol Res. 2014 Feb;40(2):583-5. Administration of oral and vaginal prebiotic lactoferrin for a woman with a refractory vaginitis recurring preterm delivery: appearance of lactobacillus in vaginal flora followed by term delivery.
【文献】Otsuki et al., Biochem Cell Biol. 2017 Feb;95(1):31-33. Effects of lactoferrin in 6 patients with refractory bacterial vaginosis.
【文献】Pino A et al., Microb Ecol Health Dis. 2017; 28(1): 1357417. Bacterial biota of women with bacterial vaginosis treated with lactoferrin: an open prospective randomized trial.
【文献】Walters, W. et al., mSystems, 2016; 1(1), e00009-15. Improved bacterial 16S rRNA gene (V4 and V4-5) and fungal internal transcribed spacer marker gene primers for microbial community surveys.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、子宮内の細菌叢の改善剤及び改善用組成物を提供することを目的とする。本発明は、さらに、子宮内の細菌叢の改善又は正常化を判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ラクトフェリンが子宮内細菌叢を改善することを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、
〔1〕 ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする子宮内の細菌叢改善用剤;
〔2〕 ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする、不妊症、流産、早産、不育症、子宮内膜症、子宮内膜癌、子宮頚管炎、子宮内膜炎、及び/又は絨毛羊膜炎等の子宮内の細菌叢の乱れに起因する疾患の治療又は予防剤;
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の剤を含有する組成物;
〔4〕 医薬組成物である、前記〔3〕記載の組成物;
〔5〕 飲食品組成物である、前記〔3〕記載の組成物;
〔6〕 前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の剤又は組成物の投与又は摂取前、投与又は摂取中、あるいは投与又は摂取後の2以上の時点で被験者の子宮内から採取された複数の検体を用いて、16SリボソームRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法により、子宮内細菌叢におけるラクトバチルス占有率を測定する工程、及び前記複数の検体の前記占有率の差を算出する工程を含むことを特徴とする、子宮内細菌叢が改善又は正常化された状態の判定方法;
〔7〕 前記細菌叢解析手法が、16SリボソームV4領域を増幅対象とするアンプリコンシーケンス法である、前記〔6〕記載の方法;
〔8〕 ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする子宮内の細菌叢改善用剤又はこの剤を含有する組成物を対象に投与することを含む、子宮内細菌叢の乱れに起因する疾患の治療又は予防方法;
〔9〕 前記子宮内の細菌叢の乱れに起因する疾患が、不妊症、流産、早産、不育症、子宮内膜症、子宮内膜癌、子宮頚管炎、子宮内膜炎、及び/又は絨毛羊膜炎のいずれか1以上である、前記〔8〕記載の方法;
が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、子宮内細菌叢を正常化する有効な手段が提供される。ラクトフェリンは、母乳にも含まれる成分であって非常に安全性が高く、副作用の恐れがほとんどないため、他の医薬等との併用も容易である。また、ラクトフェリンは、食品やサプリメントの成分としても利用されており、容易に経口投与又は摂取することが可能であるため、医療機関による施術を必要とせずに、子宮内細菌叢を改善することができる。したがって、本発明の剤又は組成物により、安全に簡便に子宮内細菌叢を正常化することができる。
【0016】
本発明の子宮内細菌叢の改善又は正常化された状態の判定方法により、本発明の剤又は組成物の効果を簡便に判定することができ、本発明の剤又は組成物の投与又は摂取の継続の要否をはじめ、他の治療の追加又は変更の要否などの判断を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の剤は、ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする。また、本発明の組成物、たとえば医薬組成物又は飲食品組成物は、そのようなラクトフェリンを有効成分とする本発明の剤を含有する組成物である。本発明の剤、又は組成物、たとえば医薬組成物又は飲食品組成物は、子宮内細菌叢改善に有効なものである。本発明において子宮内細菌叢の改善とは、子宮内細菌叢におけるラクトバチルスの占有率を向上させることを指す。子宮内細菌叢の改善又は正常化を判定する方法については後述する。
【0018】
ラクトフェリンは分子量が8万程度の高分子であり、2個の3価鉄イオンとキレートをつくる性質があるが、本発明において使用される「ラクトフェリン」は、哺乳動物の乳汁等から抽出される生体由来のラクトフェリンに限らず、ラクトフェリンの生物活性、特に子宮内膜細菌叢の改善作用を発揮するものであれば、いかなるラクトフェリンを用いてもよい。その例を挙げると、ヒトをはじめとする各種哺乳動物(たとえば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなど)から得られる天然のラクトフェリン(たとえば、ウシの乳に含まれるウシラクトフェリン)、ラクトフェリンから常法によって鉄を除去したアポラクトフェリン(鉄イオンフリー型)、アポラクトフェリンに金属(鉄、銅、亜鉛、マンガンなど)イオンをキレートさせた金属飽和又は非飽和ラクトフェリン、遺伝子工学技術により生産される遺伝子組換えラクトフェリン、及びこれらのラクトフェリンにポリエチレングリコール鎖を結合させたものなどがある。なお、遺伝子組換えラクトフェリンには、改変されたラクトフェリン遺伝子に基づいて産生される組換え型ラクトフェリンのほか、トランスジェニック動物が泌乳するラクトフェリン、ラクトフェリンの活性フラグメントなどの機能的等価物も包含される。
【0019】
本発明において使用され得るラクトフェリンの塩とは、上記のような任意のラクトフェリンの、生理学的に許容され得る塩であり、たとえばナトリウム塩、カリウム塩、硫酸塩、リン酸塩などである。
【0020】
本発明の剤又は組成物は、上記のようなラクトフェリンの1種類のみを含んでいてもよく、又は2種類以上を含んでいてもよい。ラクトフェリンは公知の物質であるので、市販品を用いることができる。また、ラクトフェリンを含有する乳などから、公知の方法、たとえばスルホン化担体を用いてラクトフェリンを精製する方法(特開平3-109400号公報)によって精製したラクトフェリンを使用することができる。さらに、用途によっては、乳などからの分画物であってラクトフェリンを高濃度で含有するもの(たとえば、乳から糖類を除去した分画物)を使用することもできる。
【0021】
本発明の剤は、ラクトフェリンを唯一の必須成分とするが、本発明の剤又は組成物は、所望により、製薬又は食品業界で公知の種々の成分や添加剤を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物や飲食品組成物の形態は、特に限定されない。本発明の飲食品組成物は経口投与されるものであり、その形態は、種々の、食品、食品素材、飲料、ドリンク剤などの形態であってもよい。本発明の組成物は、経口投与に便利な剤形、たとえば粉末剤、散剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であることが好ましい。
【0022】
本発明の医薬組成物や飲食品組成物のような組成物が含んでいてもよい添加剤としては、製薬又は食品業界で日常的に使用されている賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、香料などを挙げることができる。これらの添加剤は、所望の剤型等に応じて、適宜選択される。
【0023】
たとえば、本発明の医薬組成物又は飲食品組成物が、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの形態である場合には、用いる賦形剤としては、乳糖、蔗糖、グルコース、ソルビトール、ラクチトールなどの単糖又は二糖類、コーンスターチ、ポテトスターチのような澱粉類、結晶セルロース、無機物としては軽質シリカゲル、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、二酸化ケイ素などがある。また、必要に応じ、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料などを適宜使用することができる。
【0024】
崩壊剤としては、澱粉類、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩、ポリビニルピロリドンなどがある。滑沢剤としては蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどを使用することができる。
結合剤としては、たとえば、澱粉、デキストリン、アラビアガム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステルなどが、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが、流動性促進剤としては、無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが、それぞれ挙げられる。
【0025】
ラクトフェリンは高温・多湿では不安定であるため、本発明の組成物は、乾燥状態で製剤化することが好ましい。
【0026】
ラクトフェリン粉末は通常、非常に比重が軽いためにそのまま打錠できないことから、より薬理効果の維持された安定な製剤である本発明の組成物を得るには、たとえば、有効成分と賦形剤、結合剤、崩壊剤を混合し、混合物をスラグマシンで強圧成形し薄い大きな平たい円盤をつくり、それを砕いて篩過し、一定の大きさの顆粒をそろえる。錠剤とする場合には、顆粒に滑沢剤を加えて打錠し、錠剤を所望によりコーティング皮膜で覆って製品化するのがよい。また、カプセル剤とする場合には、顆粒の一定量をカプセルに充填して、カプセル剤とするのがよい。
【0027】
本発明の経口(医薬又は飲食品)組成物は、腸溶性の製剤としてもよい。ラクトフェリンは、胃酸酸性の状態で、胃内のタンパク分解酵素であるペプシンによって分解されることが知られており、また、ラクトフェリンの吸収作用部位は小腸を中心とする腸管に存在すると考えられている。ラクトフェリンを腸溶性製剤に加工する方法は、特に限定されない。たとえば、腸溶性とするには、胃液に対しては抵抗性があり、小腸内で溶解する基剤、たとえばシェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース・フタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、メタクリル酸コポリマー、水に不溶のエチルセルロース及びアミノアルキルメタアクリレートコポリマーからなる群より選択される基剤を主成分とする皮膜で腸溶性のカプセルを調製して有効成分を含む顆粒を充填するか、又は有効成分を含む顆粒に滑沢剤を加えて打錠して得た錠剤を前記の皮膜でコーティングするとよい。
【0028】
製造された組成物が、腸溶性であるか否かは、塩化ナトリウム2.0gに塩酸及び水を加えて溶かし、1000mlとした第一液(pH1.2,日本薬局方・一般試験法41)及び0.2Mリン酸2水素カリウム試液250mlに0.2N水酸化ナトリウム試液118ml及び水を加えて1000mlとした第二液(pH6.8)を用いて崩壊性を試験することにより、確認することができる。第一液に120分間浸しても崩壊せず、第二液中では60分間浸すと崩壊する錠剤又は顆粒は、胃では溶解せず、十二指腸に流入して始めて崩壊し、有効成分が溶出されるものであり、腸溶性であると判断することができる。
【0029】
腸溶性製剤の使用以外で、ラクトフェリンを腸管まで届けることができる方法としては、脂質2重層からなるリポソーム製剤の使用が挙げられる。リポソーム製剤も、胃内で崩壊せず、小腸で胆汁により乳化、崩壊するので、ラクトフェリンを腸管の吸収部位にまで届けることができるのである。或いは、単純に胃内のpHを高くして、すなわちアルカリ剤を併用して、ラクトフェリンにペプシンが作用しなくなるようにする方法であってもよい。
【0030】
本発明の剤又は組成物の投与経路は、たとえば、経口、経皮、注射、経腸、直腸内投与などである。本発明の医薬組成物及び飲食品組成物の好ましい投与経路は経口である。
【0031】
本発明の剤又は組成物は、単独で投与してもよく、他の薬剤と併用してもよい。また、本発明の剤又は組成物を他の薬剤と併用する場合は、両者を同時に用いてもよく、前後して用いてもよい。
【0032】
子宮内細菌叢の改善に有効な本発明の剤又は組成物の1日当たりの投与又は摂取量は、その製剤形態、投与方法、対象者の年齢及び体重などによって異なるが、ヒトでは、一般的には、有効成分として1日当たりラクトフェリンとして約0.1mg~約5,000mg、好ましくは約0.5mg~約2,000mgを、最も好ましくは約10mg~約1,000mgを、一度に又は分割して、食前、食事後、食間及び/又は就寝前等に、投与することができる。
【0033】
本発明の剤又は組成物は、ヒト及びヒト以外の動物、好ましくは哺乳類の対象に投与することができる。ヒト以外の動物の例としては、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどの家畜、及びイヌ、ネコなどのコンパニオン動物が挙げられる。投与又は摂取量は、ペット等の哺乳動物(ヒトを除く)では、ラクトフェリンとして好ましくは0.2mg~300mg/kg体重/日である。
【0034】
本発明の剤又は組成物により、子宮内細菌叢が改善又は正常化されたか否かは、本発明の剤又は組成物の投与又は摂取前、投与又は摂取中、あるいは投与又は摂取後の2以上の時点で被験者の子宮内から採取した検体を用いて、16S rRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法により、子宮内細菌叢におけるラクトバチルス占有率を測定し、採取された時点の異なる複数の検体の占有率を比較してその差を算出することにより、判定することができる。
【0035】
検体としては、子宮内から採取される試料であって、子宮内の細菌が含まれるものであればよく、採取方法も限定されないが、たとえば吸引ピペットを用いて採取した子宮内腔液などが使用される。
【0036】
検体を採取する時点の組み合わせについては特に限定されず、1日以上のインターバルがあればよく、本発明の剤又は組成物の投与又は摂取前、投与又は摂取中、あるいは投与又は摂取後の任意の時点であることができる。2以上の時点の検体は、本発明の剤又は組成物の投与又は摂取中、あるいは投与又は摂取後の少なくとも1つの検体を含むことが好ましい。たとえば、2つの時点の検体を採取する場合、本発明の剤又は組成物の投与又は摂取前と、投与又は摂取中あるいは後;投与又は摂取中の2回の異なる時点;投与又は摂取中と、投与又は摂取後;投与又は摂取後の2回の異なる時点のいずれかであることが好ましい。
【0037】
本発明の判定方法において使用される細菌叢解析手法は、一般に、以下の工程を含む:(1)被験者から採取した検体中のゲノムDNAを抽出し、細菌由来の16S rRNA遺伝子のDNA配列の一部又は全長を増幅させる;(2)DNA増幅産物にアダプター配列を付与したライブラリーを作製し、次世代シーケンサーにてシーケンスを行う;(3)得られたシーケンスリードは、データ解析のソフトウェアを組みあわせて、菌の由来と検体中の占有率を推定する。
【0038】
16S rRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法としては、たとえば16Sアンプリコンシーケンス法、ショットガンシーケンス法、16S全長アンプリコンシーケンス法など、又はそれらと同等の細菌叢解析法が挙げられる。16S rRNA遺伝子の増幅対象領域としては、ヒト検体の16S rRNAシーケンシングに一般的に使われるV1-V2、V3-V5、及び/又はV4の可変領域を使用することが好ましい。特に、生殖器に存在する菌が高感度に検出できるV4領域を対象としたプライマーセットを用いることが好ましく、V4領域を対象としたアンプリコンシーケンス法は、シュードモナス(Pseudomonas)、エシェリヒア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、リステリア(Listeria)、バチルス(Bacillus)、ガルドネレラ(Gardnerella)とビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)及び2種類の酵母を含む広範囲の微生物を検出することができるため、最も好ましい。
【0039】
本発明に関して、子宮内細菌叢が正常化された状態は、前記のような16S rRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法により、子宮内から採取された検体を測定した場合に、ラクトバチルス占有率が50%以上である状態を指し、このラクトバチルス占有率は、70%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。同じ検体について各種方法による測定値の差が一般的な誤差の範囲を超える場合は、次世代シーケンサー(たとえば商品名「MiSeq」(Illumina K.K.))を用いた16Sアンプリコンシーケンス法による細菌叢解析法により測定した値を基準とする。
【0040】
本発明に関して、子宮内細菌叢が改善された状態とは、前記のとおりの細菌叢解析法により2つの時点で子宮内から採取された検体を測定した場合に、先に採取された検体と比較して、後に採取された検体におけるラクトバチルス占有率が増加していることを指す。
【実施例
【0041】
以下に、例を示して、本発明をより具体的に説明する。
【0042】
[実施例1]
本発明者らは、不妊治療クリニックを受診した45歳以下の体外受精実施患者を対象に子宮内菌叢解析を実施し、その結果、子宮内細菌のバランスが乱れていた患者(被験者)にラクトフェリンの経口投与を行い、その効果を検討した。
【0043】
<子宮内菌叢解析>
子宮内菌叢解析は、基本的に非特許文献6に記載された方法に従って、以下のように実施した。被験者の子宮頸管及び子宮頸部の粘液をぬぐいとり、胚移植用カテーテル(商品名「Kitazato(登録商標) IUI catheter」(Kitazato Corporation, Japan))を腟から子宮内へ丁寧に挿入し、検体として子宮内腔液を回収した。回収した子宮内腔液は、菌の不活化及び安定化のための保存液1mL(商品名「MMB collection tube」(DNA Genotek Inc., Canada))に移した。
【0044】
菌ゲノムDNAを抽出するため、保存液にプロテイナーゼK(Proteinase K)及びリゾチーム(lysozyme)を加え、菌を溶解させた。ゲノムDNAは、DNA抽出キット(商品名「Agencourt Genfind v2 Blood & Serum DNA Isolation Kit」(Beckman Coulter Inc, USA))を用いて抽出した。抽出したDNAの濃度は、商品名「Qubit dsDNA HS Assay Kit」(ThermoFisher Scientific K.K.)を用いて測定した。
【0045】
菌叢解析は、次世代シーケンサーを用いた16Sアンプリコンシーケンス法によって実施した。「Earth Microbiome Project」のプロトコル(非特許文献12)に基づき、16S rRNA遺伝子のV4領域を増幅する配列とIllumina Nextera XT アダプター配列を連結したプライマーを用いて菌DNAの増幅を行った(非特許文献6)。PCR用に25ng/μLのDNA、各200μmol/Lのデオキシリボヌクレオチド3リン酸、400nmol/Lの各プライマー、2.5Uの商品名「FastStart HiFi polymerase」、20mg/mL BSA(Sigma)、0.5mol/L ベタイン(Sigma)とMgClを含むバッファー(Roche)の混合液を作製した。PCRはサーマルサイクラー(商品名「SimpliAmp Thermal Cycler」(Thermo Fisher))で行い、94℃で2分間変性させた後、94℃で20秒、50℃で30秒、72℃で1分を30サイクル行い、最後に72℃で5分反応させた。PCR産物は商品名「Agencourt AMPure XP」(Beckman Coulter Inc, USA)で精製した。次に、「Illumina 16S Metagenomic Sequencing Library Preparation protocol」(https://support.illumina.com/documents/documentation/chemistry_documentation/16s/16s-metagenomic-library-prep-guide-15044223-b.pdf)に基づき、商品名「Nextera XT Index kit」(Illumina Inc., USA)を用いてライブラリーを作製した。作製されたライブラリーは、商品名「MiSeq Reagent Kit v3」(Illumina K.K.)を用いて2×200-bpのペアエンドシーケンスにて配列決定を行った。データ解析は、「fastqQC」( https://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)を用いてシーケンス全体のクオリティチェックを行い、「USEARCH」(https://www.drive5.com/usearch/)と「QIIME」(http://qiime.org/)を用いて菌の属レベルの同定を行った。
【0046】
<症例1>
この被験者は、ラクトバチルス40%、ストレプトコッカス(Streptococcus)60%によって構成されるラクトバチルス非支配的細菌叢(Non-Lactobacillus Dominant Microbiota)が認められた。この被験者に対し、ペニシリン系抗生物質アモキシシリン750mg/日を7日間投与した。その後、市販のラクトフェリン製剤(商品名「ラクトフェリンGX」(NRLファーマ製))を、ラクトフェリン量300mg/日の用量で経口投与した。50日間の継続的なラクトフェリン投与後に2回目の子宮内菌叢解析を行ったところ、ラクトバチルスが100%に増加し、子宮内細菌叢の改善が認められた。
【0047】
アモキシシリンは嫌気性菌への効果が弱く、アモキシシリン単体ではラクトバチルスを増やす効果は低く、かえってラクトバチルスもアモキシシリンの標的になった可能性がある。したがって、ラクトフェリンを投与したことにより、子宮内においてラクトバチルスが増殖し子宮内細菌叢が改善されたと考えられる。
【0048】
<症例2>
この被験者は、子宮内細菌叢が極度にアンバランスであり、初回の子宮内菌叢解析の結果がラクトバチルス0.1%、ストレプトコッカス94.7%、その他5.2%であった。この被験者に対し、アモキシシリンを750mg/日を14日間投与した。アモキシシリン投与開始後5日目(初回検査後32日目)から、症例1と同じラクトフェリン製剤を、ラクトフェリン量300mg/日の用量で継続的に経口投与した。アモキシシリン投与終了後(初回検査後57日目/ラクトフェリン投与開始後25日目)に行った2回目の子宮内菌叢解析では、ストレプトコッカスが17%に減少し、ラクトバチルスは16.2%に増加したものの、エシェリヒア(Escherichia)などのその他の菌の増加が顕著に認められた。アモキシシリン単体での効果が認められなかったため、セフェム系抗生物質セフジニルを300mg/日をラクトフェリン投与開始後53日目(初回検査後85日目)から7日間投与するとともにプロバイオティクスタンポン(商品名「Florgynal Tampon Probiotique」(Laboratoires IPRAD, Paris, France))を併用した。これらの処置の終了後はラクトフェリン製剤の投与のみを継続し、その結果、初回検査から119日目に実施した3回目の検査では、ラクトバチルスは98.1%に改善した。ラクトフェリン製剤の投与は、ラクトフェリン量300mg/日の用量で142日間継続した。この被験者は、その後自然妊娠した。
【0049】
したがって、ラクトフェリンは、子宮内細菌叢のアンバランスを改善することができ、子宮内菌叢の乱れに起因する諸問題を予防又は改善する効果を示すことができることがわかった。また、この試験の実施中、副作用に関する報告はなかった。したがって、この方法及び使用したラクトフェリン製剤は、安全性が高いといえる。
【0050】
[実施例2] ラクトフェリン錠の製造
牛乳から抽出したラクトフェリン原末(タンパク質として純度95%以上;蛋白質中のラクトフェリンは90%以上)20kgに、乳糖18.5kg、結晶セルロース(商品名「アビセル」)19.7kg、カルボキシメチルセルロース・カルシウム塩1.2kg、ショ糖脂肪酸エステル0.6kgを加え、得られた混合物をミキサーで粉砕し、100メッシュを通過する粉末とした。この混合粉末を打錠機により打錠して、長径9mm、重量300mgの錠剤とした。1錠中には、ラクトフェリン原末100mgが含有されている。
【0051】
[実施例3] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その1)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT-48N)に、実施例2で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、シェラック9.6質量%、L-アルギニン1.5質量%、ソルビトール1.9質量%、ショ糖脂肪酸エステル2.4質量%、エタノール4.8質量%、精製水79.8%よりなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で8~9質量%の腸溶性コーティングを施して製品とした。
【0052】
[実施例4] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その2)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT-48N)に、実施例2で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、カルボキシメチルセルロース9質量%、グリセリン脂肪酸エステル1質量%、エタノール45質量%、塩化メチレン45質量%よりなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で12質量%の腸溶性コーティングを施して製品とした。
【0053】
[実施例5] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その3)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT-48N)に、実施例2で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、トウモロコシ穀粒から得られる蛋白質であるゼイン8質量部、グリセリン2質量部を、70質量%エタノール水溶液150質量部に溶解してなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で10質量%のコーティングが施されてなる錠剤を得た。
【0054】
[実施例6] 腸溶性ラクトフェリン錠の製造(その4)
コーティング機(フロイント産業(株)製、ハイコーターHCT-48N)に、実施例2で製造した錠剤を入れた。この錠剤に、セラック30質量部、ヒマシ油7質量部をイソプロパノール63質量部に溶解してなる腸溶性コーティング液を噴霧し、対錠剤比で10質量%のコーティングが施されてなる錠剤を得た。
【0055】
この出願は、平成30年9月20日出願の日本特許出願、特願2018-176473に基づくものであり、特願2018-176473の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。