(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】腫瘍細胞増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20241105BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20241105BHJP
A61K 31/736 20060101ALI20241105BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241105BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241105BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61K31/715
A61K31/736
A61P35/00
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2024113159
(22)【出願日】2024-07-16
【審査請求日】2024-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520032136
【氏名又は名称】株式会社Meis Technology
(73)【特許権者】
【識別番号】500158410
【氏名又は名称】雪国アグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100202120
【氏名又は名称】丸山 修
(74)【代理人】
【識別番号】100227385
【氏名又は名称】樫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山本 徳則
(72)【発明者】
【氏名】室井 文篤
(72)【発明者】
【氏名】高木 惣ー
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特公昭63-012072(JP,B2)
【文献】Nature,2018年,Vol.563,pp.719-723
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 35/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全マンノースに対するα型マンノースの比率が70%以上
80%以下であるマンノース
を含む、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種の加水分解物を有効成分として含有する癌の予防及び/又は治療に使用するための、腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
前記グルコマンナンが、こんにゃく芋由来である請求項
1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
前記癌が、消化器系の癌である、請求項1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記癌が大腸癌である、請求項1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
請求項1に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、
腫瘍細胞増殖抑制用の医薬品又は医薬部外品。
【請求項6】
請求項1に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、
腫瘍細胞増殖抑制用の飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞増殖抑制剤に関するものである。具体的には、α型とβ型の比率においてα型が多いD-マンノースを有効成分とする癌の予防及び/又は治療に使用するための腫瘍細胞増殖抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本人の死亡原因の第一位は、厚生労働省の調査によると悪性新生物<腫瘍>であり、第二位の心疾患を大きく引き離している。このことを反映して、最近の多くの研究成果から腫瘍の発生メカニズムについて解明が進んできている。これら多くの研究成果から、様々な化学物質が腫瘍の発生や増殖を制御できることが分かってきており、抗腫瘍剤として医薬目的で利用されている。しかしながら、利用されている様々な化学物質は、抗腫瘍作用が強い反面、腫瘍細胞だけでなく正常細胞に対しても細胞毒性を示し、副作用があることが非常に問題となっている。そこで、細胞毒性が非常に少なくて、腫瘍細胞のみに対して増殖を抑制するような安全性の高い腫瘍細胞増殖抑制剤が待ち望まれている。
【0003】
腫瘍細胞においては、細胞代謝が活発になっていることはよく知られている。特に、正常細胞と比べて、腫瘍細胞は糖を大量に消費するという性質がある。多くの腫瘍細胞がグルコースの取り込みを亢進していることから、その性質を使ってPET検査という癌検診に利用されている。PET検査は、グルコースの構造に似たFDG(フルオロデオキシグルコース)を使用して、細胞内に蓄積したFDGを検出することにより腫瘍細胞の有無や場所を特定するものである。このように腫瘍細胞においてグルコース取り込みの亢進があることから、グルコース以外の単糖への反応についても研究が進められている。例えばマンノースは、グルコースと同じトランスポーターによって腫瘍細胞に取り込まれるが、マンノース-6-リン酸として細胞内に蓄積し、解糖、トリカルボン酸サイクル、ペントースリン酸経路及び糖鎖合成におけるグルコースの更なる代謝を阻害することが分かっている。その結果、マンノースが多種類の腫瘍細胞の増殖抑制を引き起こし、主要な化学療法に反応して細胞死を促進することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
マンノースにはD体とL体が存在するが、天然にはL体は存在しないため、本明細書ではD-マンノースをマンノースとする。さらにマンノースには、立体異性体(アノマー)としてα型とβ型のマンノースが存在する。C1炭素の水酸基とC5炭素のヒドロキシメチル基が反対方向の場合をα型、同方向の場合をβ型と呼び、一般的に水溶液中ではマンノピラノースとしてアノマー同士が相互変換してα型とβ型が平衡に達して存在している。
【0005】
現在多くの食品などで利用されているマンノースは、グルコースをモリブデン酸触媒で異性化したものが主流(例えば、特許文献1参照)となっているが、この異性化マンノースも水溶液中に溶解すると、時間とともにα型とβ型が平衡に達して、おおよそα型が67%、β型が33%となることが報告されている。マンノースをメタノールから結晶化するとα型が得られ、氷酢酸を使って結晶化するとβ型が得られるが、結晶化したマンノースであっても水溶液とすると、時間経過とともにα型とβ型が上記の比率になって平衡化する(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pablo Sierra Gonzalez, et. al., “Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy” NATURE、vol 563, 719-723 (2018)
【文献】The Merck Index、 2006年1月1日発行、第14版、p5747
【文献】化学事典、森北出版、2012年11月発行、第2版、「マンノース」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
経口投与されたマンノースの多くは小腸から吸収されて、血管を通して全身に送り届けられて各種腫瘍細胞において増殖抑制作用を示すが、腫瘍細胞特異的に集積するわけではない。そこで、全身のマンノース濃度を高めるためには大量のマンノースを摂取する必要があったが、大量のマンノースを摂取すると、一部ではあるが副作用として下痢や膣のほてりが報告されている。
【0009】
本発明の目的は、大量のマンノースを摂取せずともすむような、より高い腫瘍細胞増殖抑制効果を有するマンノースを含む癌の予防及び/又は治療に使用するための腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、α型マンノースの比率の多いマンノースにおいて腫瘍細胞増殖抑制作用が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)を要旨とするものである。
(1)全マンノースに対するα型マンノースの比率が70%以上80%以下であるマンノースを含む、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種の加水分解物を有効成分として含有する癌の予防及び/又は治療に使用するための、腫瘍細胞増殖抑制剤。
(2)前記グルコマンナンが、こんにゃく芋由来である(1)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(3)前記癌が、消化器系の癌である、(1)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(4)前記癌が大腸癌である、(1)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(5)(1)に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、腫瘍細胞増殖抑制用の医薬品又は医薬部外品。
(6)(1)に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、腫瘍細胞増殖抑制用の飲食品組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、α型のマンノースを多く含むため、優れた腫瘍細胞増殖抑制効果を有し、癌の予防及び/又は治療に使用することができる。腫瘍細胞増殖抑制効果が高いため、少量の投与での効果が期待できる。さらに、天然物由来のマンノースを用いることにより、安全に摂取又は投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】グルコマンナン由来マンノースの大腸癌スフェロイドに対する細胞増殖抑制(使用細胞:HC6T株)
【
図2】グルコマンナン由来マンノースの大腸癌スフェロイドに対する細胞増殖抑制(使用細胞:HC106T株)
【
図3】グルコマンナン由来マンノースの大腸癌スフェロイドに対する細胞増殖抑制(使用細胞:HC108T株)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、全マンノースに対するα型マンノースの比率が70%以上であるマンノースを有効成分とする。好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。70%よりも少ない場合は、高い腫瘍細胞増殖抑制効果を示さない。
また「有効成分として含有する」とは、予防や治療をするうえで有効量のマンノースを含有することを意味し、動物用途及びヒト医薬用途に許容されることを含む。
マンノースはα型とβ型が存在するため、ここでいう「全マンノースに対するα型マンノースの比率」とは、下記条件によって測定した場合のGC面積から計算したα型/(α型+β型)の重量比率をいう。
【0015】
(全マンノースに対するα型マンノースの比率の測定方法)
マンノース0.5gに、ピリジン12mL、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン8mL、クロロトリメチルシラン4mLを添加して振り混ぜて溶解させた後、室温で4時間静置した。0.45μmのフィルターで濾過し、濾液を下記条件にてガスクロマトグラフィーで分析する。
(ガスクロマトグラフィーの測定条件)
分析カラム:5%ジフェニル- 95%ジメチルポリシロキサンを化学結合した低極性カラム(長さ30 m×内径0.32 mm×膜厚0.4μm)
昇温条件:5℃/分で110℃から250℃まで昇温した後、250℃で5分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
カラムのガス流量:2.0mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器、250℃
注入口:(温度)250℃、(注入量)スプリット1μL(スプリット比:30:1)
【0016】
本発明で用いるマンノースの由来は問わないが、安全性の観点から天然物から製造したマンノースが好ましい。そのようなマンノースの原料としては、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。具体的な原料としては、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンを構成糖としていれば特に限定されるものではなく、例えば、ココヤシ、パーム及びその油抽出残さ(コプラミール、パーム核ミールなど)、ゾウゲヤシ(種子)、こんにゃく芋及びその加工品(荒粉、精粉、飛粉など)、グアー豆及びその加工品(グアーガムなど)、コーヒー豆又はその抽出残渣(コーヒー粕など)、イナゴ豆及びその加工品(キャロブパウダー、ローカストビーンガムなど)などが挙げられる。これらの中でも、前記構成糖を多く含有する観点や低コストの観点から、こんにゃく芋及びその加工品を用いることが好ましい。当該天然物は、天然物そのものを原料として用いても良いし、精製したものを用いても良い。また、それらの混合物を用いても良い。
【0017】
本発明においては、上記のα型の比率の多いマンノースを製造するためには、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種を加水分解してマンノースを得る方法が好ましい。マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種を加水分解する場合には、酸、アルカリ、酵素などを用いて加水分解したり、高温高圧の環境下で加水分解したりすることができる。このうち、副産物が少ない点、加水分解工程における設備の制限が少ない点や、環境への負荷が少ない点で、酵素を用いて加水分解することが好ましい。
【0018】
本発明における上記の酵素処理に用いられる酵素としては、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種に作用して単糖を遊離する活性を有する酵素であれば特に限定はされないが、例えば、マンナナーゼ、ガラクトマンナナーゼ、グルコマンナナーゼ、マンノシダーゼ、α-キシロダーゼ、キシログルカナーゼ、アラビナナーゼ、β-キシロシダーゼ、キシラナーゼ、α-アラビノフラノシダーゼ、セルラーゼ等のヘミセルロースの主鎖に作用して単糖類を遊離する酵素が好ましい。中でも、マンナナーゼ、マンノシダーゼ又はガラクトマンナナーゼ等のマンナン分解酵素が好ましい。
【0019】
なお、必要に応じて、ヘミセルロースの分岐した側鎖に存在するグルコースやガラクトース等を遊離する酵素であるグルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ等を主鎖に作用する酵素と合わせて用いることもできる。さらに、これら異なる活性を有する2種類以上の酵素を混合することによりマンノース収量を上げることができる。また、使用する酵素はその酵素の起源である菌株の培養物のうち、マンノースを遊離する活性を有するいかなる画分を用いてもよく、また必要に応じてこれらの酵素を含有する画分を常法により精製あるいは部分精製して使用することもできる。
【0020】
マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種に、前記酵素を作用させるマンノースの遊離反応条件としては、それぞれの酵素に応じた最適条件を選ぶことができる。反応温度としては、酵素が失活しない条件下で行うのが望ましいが、例えば、30~70℃であり、40~60℃が好ましく、50~60℃がいっそう好ましい。また、反応時間は使用する酵素の量などの条件にも依存するが、例えば通常3時間から72時間の間に設定するのが作業上好ましい。さらに、反応pHとしては、用いる酵素の種類にもよるが、例えば、pHは2~9が好ましく、pH2.5~8がより好ましく、pH3~6がいっそう好ましい。
【0021】
遊離させたマンノースについては、精製してさらにマンノースの純度を高めても良い。精製法としては、骨炭、活性炭、炭酸飽充法、吸着樹脂、マグネシア法などで脱色を行い、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析等で脱塩、脱酸を行うなど、公知の方法により行なうことができる。精製法の組み合わせや精製条件としては、マンノースを含む反応液中の色素、塩、酸等の量及びその他の要因に応じて適宜選択すれば良い。
【0022】
本発明のマンノースの形態としては特に限定されないが、マンノースを含む水溶液、粉末などが挙げられる。粉末にするためには、固液分離、樹脂精製、膜精製、濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥、晶析等の公知の技術を用いることができる。
【0023】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、癌の予防及び/又は治療に使用する。癌の予防及び/又は治療に使用するとは、癌に罹患した患者の癌の進行の抑制、癌や腫瘍の増大の抑制、癌の発症の予防、癌の再発の予防の少なくとも一つの用途に使用することをいう。
【0024】
ここで対象となる癌の種類は特に限定されないが、消化器系の癌(例えば、大腸癌(結腸癌、結腸腺癌、直腸癌を含む)、口腔癌、咽頭癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆道癌、脾臓癌、小腸癌、十二指腸癌、膵臓癌、肝臓癌)、神経系の癌(例えば、脳腫瘍、頚癌)、筋骨格系の癌(例えば、肉腫、骨肉種、骨髄腫)、泌尿器系の癌(例えば、膀胱癌、腎癌)、生殖器系の癌(例えば、乳癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌)、呼吸器系の癌(例えば、肺癌)、造血器系の癌(例えば、急性又は慢性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性又は慢性リンパ性白血病等の白血病、悪性リンパ腫(リンパ肉腫)、血管肉腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、原発性骨髄線維症、血管外膜細胞腫)、甲状腺癌、副甲状腺癌、舌癌、悪性黒色腫(メラノーマ)、肥満細胞腫、皮膚組織球腫、脂肪腫、毛包腫瘍、皮膚乳頭腫、皮脂腺腫、基底細胞癌などが挙げられる。なかでも、消化器系の癌への適用が好ましく、大腸癌への適用がより好ましい。
【0025】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の投与量は、使用目的、投与対象、投与対象の性別、年齢、体重、癌の進行ステージ等を考慮して適宜調製することができる。この投与量は、種々の条件で変動するので、少ない投与量や投与回数で充分な場合もあるし、多くの投与量や投与回数が必要な場合もある。投与レジメは単回投与でも頻回投与でも構わないが、投与し続ければ効果が持続するため、頻回投与が好ましい。投与する濃度は、マンノースの濃度が2.5 mM~200 mMであることが好ましく、4 mM~150 mMであることがより好ましい。
【0026】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の剤形は特に限定されず、経口投与用製剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、経気道投与用製剤、腹腔内投与用製剤、経静脈投与用製剤、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示できるが、経口投与用製剤、経気道投与用製剤又は経静脈投与用製剤が好ましい。経静脈投与用製剤としては、静脈注射製剤や点滴静脈注射製剤が挙げられる。ヒトにおいては経口投与用製剤又は経静脈投与用製剤が好ましい。
【0027】
製剤化するために、本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は必要に応じ、非毒性で不活性の医薬的に許容される賦形剤、例えば固体状、半固体状もしくは液状の希釈剤、分散剤、充填剤及び担体と混合しても良い。さらに本発明の効果を損なわない範囲において、安定剤、保存剤、pH調整剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料防腐剤、媒質、生理食塩水、別な薬効を有する薬剤を添加剤として含んでいても良い。
【0028】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤を投与する際は、他の癌治療薬や治療法と併用しても良い。本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤と併用できる処置方法としては、化学療法、放射線療法、化学放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、手術、又は幹細胞療法がある。その中でも、化学療法が好ましく、化学療法における使用が好ましい化学療法剤としては白金化学療法剤、アントラサイクリン治療剤、又はアルキル化化学療法剤が挙げられるがそれに限定されない。中でも白金化学療法剤としてシスプラチン、アントラサイクリン治療剤としてドキソルビシンが好ましい。併用投与とは、本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の投与と同時、又は本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤投与の前後に投与することである。あるいは、本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤と、上記他の癌治療薬を混合して一つの製剤とすることもできる。
【実施例】
【0029】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
<α型、β型マンノースの分析>
試料を0.5g秤量し、25mLメスフラスコに入れ、ピリジン12mL、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン8mL、クロロトリメチルシラン4mLを添加し、振り混ぜて溶解させた後、4時間静置した。この溶液を0.45μmのフィルターで不溶物を濾別して分析用サンプルとした。以下の条件でGC分析を実施した。GCの面積からα型とβ型の重量比率を求め、全マンノースに対するα型マンノースの比率を算出した。
装置:Agilent Technologies社製7890B GC System
カラム:INERT CAP-5(30m×0.32mmID、膜厚0.4μm)
昇温条件:5℃/分で110℃から250℃まで昇温した後、250℃で5分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
カラムのガス流量:2.0mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器、250℃
注入口:(温度)250℃、(注入量)スプリット1μL(スプリット比:30:1)
【0031】
<グルコマンナン由来マンノースの製造>
こんにゃく芋から精製したグルコマンナン(精粉)1gに対して、マンナナーゼ(天野エンザイム(株)、マンナナーゼ BGM「アマノ」)25mg を溶解したイオン交換水 10mLを添加して酵素反応を開始した。58℃で48時間酵素処理を行った後、96℃、10分の酵素失活を行った。ろ紙(No. 5C)を使用して濾過を行い水不溶物を除去した後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して、マンノース濃度40g/100gの糖液を製造した。
【実施例1】
【0032】
前記で得られたグルコマンナン由来マンノースを含む糖液(製造後24時間以上経過)について、α型とβ型の重量比をGC分析した。その結果、GCの面積から算出したα型とβ型の比は80%と20%であり、α型の多いマンノースが得られた。次に、大腸癌スフェロイドHC6T株を用い、前記で得られたグルコマンナン由来マンノースを用いて、大腸癌スフェロイドに対する反応性を画像解析により行った。なお、すべての実験は3回独立した実験を実施した 。大腸癌スフェロイドは、大腸癌の患者由来である。本発明においては、HC6T株(京都大学保有株、以下他株も同じ)を用いた。凍結保存していた上記スフェロイドを融解し、適切な細胞量となるよう培養した。培地は(Advanced DMEM/F12(Thermo Fisher), 5% FBS, 10 μM Y27632, 1 μM SB431542, 50 ng/ml EGF, 100 ng/ml FGF-basic, 100 units/ml penicillin, 0.1mg/ml streptomycin, 2mM L-glutamine, 5 g/ml Plasmocin (Invivogen, San Diego, CA))を用いた。薬剤感受性試験用の細胞を96ウェルプレート(TPP_96F)に4wellずつ 800 cells/wellとなるよう播種した。前記で得られたグルコマンナン由来マンノースを培地にマンノースが125mMになるように添加した。
播種翌日をDay0とし、Day3でCell3 imager duos[SCREEN holdings社、model CC-8000、ソフトウェアver.1.6 Rev.2.0.1]を用い撮像した。Manual Focusモードを使用し、well中央部61%を撮像範囲(ゲル全体が範囲内に収まる大きさ)とし、z軸方向に50umごと15点で連続断層画像を取得し、全焦点画像として出力させた。
Day0に培地交換の方法で反応を開始した。その後実験終了まで培地を交換せず培養を継続した。撮像間隔がほぼ一定となるようにした。解析ソフト[SCREEN holdings社、ソフトウェアver.1.6 Rev.2.0.1]のMeasure機能を用い、スフェロイド画像データにプログラムを適応し面積値を算出した。さらにプログラムソフトRを用い算出した面積値から体積データを算出した。体積データの算出時には、面積から半径を算出し、半径値から球の体積を算出し、1wellあたりの体積合計値とするプログラムを用いた。体積値のDay3/Day0から体積比を求め、コントロールを1とした際の、それぞれの濃度の比を算出し比較した。得られた体積データから、各データポイントの体積比(Day3/Day0)を算出した。対照群との有意差検定にはt検定を用いた。p値が0.05未満を有意差ありとした。その結果を
図1に示す。なお
図1の縦軸GEIはgrowth effect indexの略である。
【比較例1】
【0033】
試薬として販売されているマンノース(東京化成工業株式会社)について、マンノース濃度40g/100gの水溶液を作成して、そのまま室温で24時間静置させてから、α型とβ型の重量比をGC分析した。その結果、GCの面積から算出したα型とβ型の比は67%と33%(比旋光度[α]
D
20 +14.0)であり、一般的なマンノース水溶液の比率であった。続いて、実施例1のグルコマンナン由来マンノースを試薬として販売されているマンノースに置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を
図1に示す。
【0034】
実施例1と比較例1を有意差検定したところ、p値は、p=0.007であり有意に実施例1のマンノースの方が強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。
図1から明らかなように、α型マンノースの比率が70%未満のマンノースに比べて、α型マンノースの比率が70%以上のマンノースは大腸癌細胞に対して強い細胞増殖抑制効果を示すことが分かる。
【実施例2】
【0035】
全マンノースに対するα型マンノースの比率が80%であるグルコマンナン由来マンノースを用いた試験である実施例1の大腸癌スフェロイド細胞をHC6T株からHC106T株に変更した以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を
図2に示す。
【比較例2】
【0036】
実施例2のグルコマンナン由来マンノースを、全マンノースに対するα型マンノースの比率が67%である試薬として販売されているマンノースに置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を
図2に示す。
【0037】
実施例2と比較例2を有意差検定したところ、p値は、p=0.0000007であり有意に実施例2のマンノースの方が強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。
図2から明らかなように、α型マンノースの比率が70%未満のマンノースに比べて、α型マンノースの比率が70%以上であるマンノースは大腸癌細胞に対して強い細胞増殖抑制効果を示すことが分かる。
【実施例3】
【0038】
全マンノースに対するα型マンノースの比率が80%であるグルコマンナン由来マンノースを用いた試験である実施例1の大腸癌スフェロイド細胞をHC6T株からHC108T株に変更した以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を
図3に示す。
【比較例3】
【0039】
実施例3のグルコマンナン由来マンノースを、全マンノースに対するα型マンノースの比率が67%である試薬として販売されているマンノースに置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を
図3に示す。
【0040】
実施例3と比較例3を有意差検定したところ、p値は、p=0.00006であり有意に実施例3のマンノースの方が強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。
図3から明らかなように、α型マンノースの比率が70%未満のマンノースに比べて、α型マンノースの比率が70%以上であるマンノースは大腸癌細胞に対して強い細胞増殖抑制効果を示すことが分かる。
これら実施例から明らかなように、α型マンノースの比率が70%以上であるマンノースは非常に強い細胞増殖抑制効果を示した。したがって、α型マンノースの比率が70%以上であるマンノースを有効成分として含有する腫瘍細胞増殖抑制剤は、高い腫瘍細胞増殖抑制効果を奏すると推測され、投与対象への少量投与でも効果が期待できる。特に本発明で用いたα型マンノースの比率が70%以上であるマンノースは、天然物由来でもあるため安全に摂取又は投与が可能である。
【要約】
【課題】 大量のマンノースを摂取せずともすむような、より高い腫瘍細胞増殖抑制効果を有するマンノースを含む癌の予防及び/又は治療に使用するための、腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、α型の比率の高いマンノースを含む腫瘍細胞増殖抑制剤であり、癌の予防及び/又は治療に有効である。本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、従来公知のマンノースに対して腫瘍細胞増殖抑制作用が高いため、さらに天然原料由来であるため、安全に摂取又は投与が可能である。
【選択図】 なし