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  • 特許-腫瘍細胞増殖抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】腫瘍細胞増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20241105BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20241105BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241105BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241105BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241105BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61K47/40
A61P35/00
A23L33/105
A23L33/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024113160
(22)【出願日】2024-07-16
【審査請求日】2024-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520032136
【氏名又は名称】株式会社Meis Technology
(73)【特許権者】
【識別番号】500158410
【氏名又は名称】雪国アグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100202120
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 修
(74)【代理人】
【識別番号】100227385
【弁理士】
【氏名又は名称】樫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山本 徳則
(72)【発明者】
【氏名】室井 文篤
(72)【発明者】
【氏名】高木 惣ー
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-254749(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115512(WO,A1)
【文献】Carbohydrate Polymers,2023年,Vol.305, No.120551,pp.1-9
【文献】Nature,2018年,Vol.563,pp.719-723
【文献】Angewandte Chemie. International Edition,Vol.31, No.6,1992年,pp.745-747
【文献】Journal of the Chemical Society. Faraday Transactions,1994年,Vol.90, No.6,pp.845-847
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 35/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノース及びシクロデキストリンを含む、癌の予防及び/又は治療に使用するための腫瘍細胞増殖抑制剤であって、前記シクロデキストリンがα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである、腫瘍細胞増殖抑制剤
【請求項2】
前記マンノースが、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種由来である請求項1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
前記グルコマンナンが、こんにゃく芋由来である請求項2記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記癌が、消化器系の癌である、請求項1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
前記癌が大腸癌である、請求項1記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項1に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、腫瘍細胞増殖抑制用の医薬品又は医薬部外品。
【請求項7】
請求項1に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、腫瘍細胞増殖抑制用の飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞増殖抑制剤に関するものである。具体的には、マンノースとシクロデキストリンを含む癌の予防及び/又は治療に使用するための腫瘍細胞増殖抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本人の死亡原因の第一位は、厚生労働省の調査によると悪性新生物<腫瘍>であり、第二位の心疾患を大きく引き離している。このことを反映して、最近の多くの研究成果から腫瘍の発生メカニズムについて解明が進んできている。これら多くの研究成果から、様々な化学物質が腫瘍の発生や増殖を制御できることが分かってきており、抗腫瘍剤として医薬目的で利用されている。しかしながら、利用されている様々な化学物質は、抗腫瘍作用が強い反面、腫瘍細胞だけでなく正常細胞に対しても細胞毒性を示し、副作用があることが非常に問題となっている。そこで、細胞毒性が非常に少なくて、腫瘍細胞のみに対して増殖を抑制するような安全性の高い腫瘍細胞増殖腫瘍剤が待ち望まれている。
【0003】
腫瘍細胞においては、細胞代謝が活発になっていることはよく知られている。特に、正常細胞と比べて、腫瘍細胞は糖を大量に消費するという性質がある。多くの腫瘍細胞がグルコースの取り込みを亢進していることから、その性質を使ってPET検査という癌検診に利用されている。PET検査は、グルコースの構造に似たFDG(フルオロデオキシグルコース)を使用して、細胞内に蓄積したFDGを検出することにより腫瘍細胞の有無や場所を特定するものである。このように腫瘍細胞においてグルコース取り込みの亢進があることから、グルコース以外の単糖への反応についても研究が進められている。例えばマンノースは、グルコースと同じトランスポーターによって腫瘍細胞に取り込まれるが、マンノース-6-リン酸として細胞内に蓄積し、解糖、トリカルボン酸サイクル、ペントースリン酸経路及び糖鎖合成におけるグルコースの更なる代謝を阻害することが分かっている。その結果、マンノースが多種類の腫瘍細胞の増殖抑制を引き起こし、主要な化学療法に反応して細胞死を促進することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
マンノースを摂取するためには、マンノースを含有する食物やマンノース自体を摂取すれば良いが、マンノースのアノマーのひとつであるβ型マンノースは独特の苦味があり、その不快味を抑制するためにマンノースに食物繊維(シクロデキストリン)を配合した組成物が苦味を抑制できるとして提案されている(特許文献1参照)。さらに、シクロデキストリンを用いることによりアシュワガンダ葉の水抽出物の抗がん活性を増強させる方法についても提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-254749号公報
【文献】国際公開第2015/115512号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Pablo Sierra Gonzalez, et. al., “Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy” NATURE、vol 563, 719-723 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
経口投与されたマンノースの多くは小腸から吸収されて、血管を通して全身に送り届けられて各種細胞において作用を示すが、腫瘍細胞特異的に集積するわけではないので、全身のマンノース濃度を高めるためには大量のマンノースを摂取する必要があった。大量のマンノースを摂取すると、一部ではあるが副作用として下痢や膣のほてりが報告されている。
【0008】
また、添加剤によっては有効成分の安定性や効果に影響を与えることが知られているところ、特許文献1はシクロデキストリンとマンノースの組成物の苦味抑制に焦点をあてたものであるため、組成物の腫瘍細胞増殖抑制作用については記載も示唆もされていない。特許文献2にはアシュワガンダ葉の水抽出物とシクロデキストリンを混合して得られる組成物などが高い抗癌活性を有することが記載されているが、アシュワガンダ葉の水抽出物とマンノースの腫瘍細胞に対する作用機序は異なるため、特許文献の技術をマンノースに援用できるとも限らない。
【0009】
なお、シクロデキストリンは、医薬品の投与形態に即した医薬物質を調製する際に有用となり得ることは既知であるが、全ての物質において有効であるわけではないことも医薬品業界において十分に認められている。例えば先述した特許文献2には、薬剤とシクロデキストリンの併用で抗癌活性が向上することが記載されているが、国際公開第2007/026869号や特表2024-520888には、薬剤とシクロデキストリンの併用効果は高くないことが記載されている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、少量投与でも高い腫瘍細胞増殖抑制作用を示す、マンノースを含む癌の予防及び/又は治療に使用するための腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリンとマンノースを含む組成物が腫瘍細胞増殖抑制作用が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)~()を要旨とするものである。
(1)マンノース及びシクロデキストリンを含む、癌の予防及び/又は治療に使用するための、腫瘍細胞増殖抑制剤であって、前記シクロデキストリンがα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである、腫瘍細胞増殖抑制剤
(2)前記マンノースが、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種由来である(1)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(3)前記グルコマンナンが、こんにゃく芋由来である(2)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(4)前記癌が、消化器系の癌である、(1)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(5)前記癌が大腸癌である、(1)記載の腫瘍細胞増殖抑制剤。
(6)(1)に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、腫瘍細胞増殖抑制用の医薬品又は医薬部外品。
(7)(1)に記載の腫瘍細胞増殖抑制剤を含む、腫瘍細胞増殖抑制用の飲食品組成物。

【発明の効果】
【0013】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、マンノース及びシクロデキストリンを含み、癌の予防及び/又は治療に使用することができる。マンノース単独で投与するよりも、腫瘍細胞増殖抑制効果が高いため、少量の投与での効果を期待することができる。さらに、天然物由来のマンノースを用いることにより、安全に摂取又は投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】こんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリン組成物の腫瘍細胞増殖抑制作用
図2】こんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリン組成物の腫瘍細胞増殖抑制作用
図3】パーム核ミール由来マンノースとα-シクロデキストリン組成物の腫瘍細胞増殖抑制作用
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるマンノースの由来は問わず、D体でもL体でも構わない。天然物の構成糖であるマンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンなどのマンノースを含有する原料を酸、アルカリ、酵素、超臨界(亜臨界)水で加水分解することにより得られるマンノース、酵素としてマンノースイソメラーゼを用いてフルクトースを異性化することにより得られるマンノース、酵素としてグルコースイソメラーゼとマンノースイソメラーゼを用いてグルコースを異性化することにより得られるマンノース、モリブデン酸等の金属を含む触媒を用いてグルコースを加熱エピメリ化することにより得られるマンノース、それらを分画したもの、それらの混合物、および市販のマンノース等が挙げられる。なかでも、安全性の観点から、マンノースが、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン及びそれらを含む天然物から選択される少なくとも1種を加水分解することにより得られるマンノースが好ましい。
【0016】
天然物からマンノースを製造する場合に、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、またはそれらを構成糖とする天然物は、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンを構成糖としていれば特に限定されるものではなく、例えば、ココヤシ、パーム及びその油抽出残渣(コプラミール、パーム核ミールなど)、ゾウゲヤシ(種子)、こんにゃく芋及びその加工品(荒粉、精粉、飛粉など)、グアー豆及びその加工品(グアーガムなど)、コーヒー豆またはその抽出残渣(コーヒー粕)、イナゴ豆及びその加工品(キャロブパウダー、ローカストビーンガムなど)などが挙げられる。これらの中でも、前記構成糖を多く含有する観点や低コストの観点から、コプラミール、パーム核ミール、又はこんにゃく芋及びそれらの加工品が好ましく、こんにゃく芋及びその加工品がより好ましい。当該天然物は、天然物そのものを原料として用いても良いし、精製したものを用いても良い。また、それらの混合物を用いても良い。
【0017】
本発明における上記の天然物を酵素処理する場合には、マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、及びそれらを含む天然物からなる群より選択される少なくとも1種に作用して単糖を遊離する活性を有する酵素であれば特に限定はされないが、例えば、マンナナーゼ、ガラクトマンナナーゼ、グルコマンナナーゼ、マンノシダーゼ、α-キシロダーゼ、キシログルカナーゼ、アラビナナーゼ、β-キシロシダーゼ、キシラナーゼ、α-アラビノフラノシダーゼ、セルラーゼ等のヘミセルロースの主鎖に作用して単糖類を遊離する酵素が好ましい。中でも、マンナナーゼ、マンノシダーゼまたはガラクトマンナナーゼ等のマンナン分解酵素が好ましい。
【0018】
マンナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、またはそれらを構成糖とする天然物に、前記酵素を作用させるマンノースの遊離反応条件としては、それぞれの酵素に応じた最適条件を選ぶことができる。反応温度としては、酵素が失活しない条件下で行うのが望ましいが、例えば、30~70℃であり、40~60℃が好ましく、50~60℃がいっそう好ましい。また、反応時間は使用する酵素の量などの条件にも依存するが、例えば通常3時間から72時間の間に設定するのが作業上好ましい。さらに、反応pHとしては、用いる酵素の種類にもよるが、例えば、pH2 ~ 9が好ましく、 pH2 . 5~8がより好ましく、pH3 ~ 6がいっそう好ましい。
【0019】
天然物から酸、アルカリ、酵素、超臨界(亜臨界)水などで分解したものは、精製してさらにマンノースの純度を高めても良い。精製法としては、骨炭、活性炭、炭酸飽充法、吸着樹脂、マグネシア法などで脱色を行い、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析等で脱塩、脱酸を行うなど、公知の方法により行なうことができる。精製法の組み合わせや精製条件としては、マンノースを含む反応液中の色素、塩、酸等の量及びその他の要因に応じて適宜選択すれば良い。
本発明のマンノースの形態としては特に限定されないが、マンノースを含む水溶液、粉末などが挙げられる。粉末にするためには、固液分離、樹脂精製、膜精製、濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥、晶析等の公知の技術を用いることができる。取り扱い性容易の観点から、粉末が好ましい。
マンノースには、立体異性体(アノマー)としてα型とβ型のマンノースが存在し、一般的に水溶液中ではマンノピラノースとしてアノマー同士が相互変換してα型とβ型が平衡に達して存在している。本発明のマンノースは全マンノースに対するα型の比率が50%より多いことが好ましい。α型の測定には公知の測定方法を用いることができる。
【0020】
シクロデキストリンはグルコースがα-1,4結合で環状に連なったオリゴ糖で、環状オリゴ糖とも呼ばれている。グルコースの数によりα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンと呼び方が変わり、その種類によって環構造の空洞サイズや水への溶解度などの性質が異なっている。それらの性質を利用して、薬物のバイオアベイラビリティ改善、各種色素や機能性食品素材の安定化、不快味の抑制、難水溶性物質の可溶化など様々な用途で利用されている。
【0021】
本発明における腫瘍細胞増殖抑制剤に用いるシクロデキストリンは、特に限定されずα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びこれらの誘導体などを用いることができる。また、これらの混合物も用いることができる。前記誘導体としては、例えば、分岐型シクロデキストリン及び化学修飾シクロデキストリンが挙げられる。分岐型シクロデキストリンとしては、例えば、酵素反応によりシクロデキストリンに糖の側鎖を結合させたグリコシル化シクロデキストリン、より具体的には、グルコシル-シクロデキストリン、マルトシル-シクロデキストリン、ガラクトシル-シクロデキストリン、マンノシル-シクロデキストリンなどの単糖又は二糖修飾シクロデキストリンを挙げることができる。化学修飾シクロデキストリンとしては、部分メチル化シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、スルフォブチルエーテル化シクロデキストリン、アセチル化シクロデキストリン、モノクロロトリアジノ化シクロデキストリンなどが挙げられる。本発明においては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを用いることが好ましく、α-シクロデキストリンもしくはγ-シクロデキストリンが特に好ましい。
【0022】
マンノースとシクロデキストリンは、そのまま混合や配合するだけでも構わないが、水溶液又は粉末のマンノースに、5~30%のシクロデキストリンの水溶液又は懸濁液を添加し、室温又は加温しながら数分~数十時間撹拌し、マンノース及びシクロデキストリンを含む組成物を得ても良い。ここで得られた組成物の形態は水溶液であるが、凍結乾燥、噴霧乾燥、脱水、その他の方法で粉末化しても良い。また、必要に応じて粉末化された組成物を顆粒化しても良い。
【0023】
マンノースとシクロデキストリンの配合量は、製品設計上において都合の良い配合量で配合すれば問題ないが、一般的にはマンノース100重量部に対して、シクロデキストリン1~900重量部であることが好ましく、10~400重量部であることがより好まく、110~300重量部であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、癌の予防及び/又は治療に使用する。癌の予防及び/又は治療に使用するとは、癌に罹患した患者の癌の進行の抑制、癌や腫瘍の増大の抑制、癌の発症の予防、癌の再発の予防の少なくとも一つの用途に使用することをいう。
ここで対象となる癌の種類は特に限定されないが、消化器系の癌(例えば、大腸癌(結腸癌、結腸腺癌、直腸癌を含む)、口腔癌、咽頭癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆道癌、脾臓癌、小腸癌、十二指腸癌、膵臓癌、肝臓癌)、神経系の癌(例えば、脳腫瘍、頚癌)、筋骨格系の癌(例えば、肉腫、骨肉種、骨髄腫)、泌尿器系の癌(例えば、膀胱癌、腎癌)、生殖器系の癌(例えば、乳癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌)、呼吸器系の癌(例えば、肺癌)、造血器系の癌(例えば、急性又は慢性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性又は慢性リンパ性白血病等の白血病、悪性リンパ腫(リンパ肉腫)、血管肉腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、原発性骨髄線維症、血管外膜細胞腫)、甲状腺癌、副甲状腺癌、舌癌、悪性黒色腫(メラノーマ)、肥満細胞腫、皮膚組織球腫、脂肪腫、毛包腫瘍、皮膚乳頭腫、皮脂腺腫、基底細胞癌などが挙げられる。なかでも、消化器系の癌への適用が好ましく、大腸癌への適用がより好ましい。
【0025】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の投与量は、使用目的、投与対象、投与対象の性別、年齢、体重、癌の進行ステージ等を考慮して適宜調製することができる。この投与量は、種々の条件で変動するので、少ない投与量や投与回数で充分な場合もあるし、多くの投与量や投与回数が必要な場合もある。投与レジメは単回投与でも頻回投与でも構わないが、投与し続ければ効果が持続するため、頻回投与が好ましい。投与する濃度は、マンノースの濃度が2.5 mM~200 mMであることが好ましく、4 mM~150 mMであることがより好ましい。
【0026】
本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤の剤形は特に限定されず、経口投与用製剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、経気道投与用製剤、腹腔内投与用製剤、経静脈投与用製剤、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示できるが、経口投与用製剤、経気道投与用製剤又は経静脈投与用製剤が好ましい。経静脈投与用製剤としては、静脈注射製剤や点滴静脈注射製剤が挙げられる。ヒトにおいては経口投与用製剤又は経静脈投与用製剤が好ましい。
【0027】
製剤化するために、本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は必要に応じ、非毒性で不活性の医薬的に許容される賦形剤、例えば固体状、半固体状もしくは液状の希釈剤、分散剤、充填剤及び担体と混合しても良い。さらに本発明の効果を損なわない範囲において、安定剤、保存剤、pH調整剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料防腐剤、媒質、生理食塩水、別な薬効を有する薬剤を添加剤として含んでいても良い。
【実施例
【0028】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
<こんにゃく芋由来マンノースの製造>
こんにゃく芋から精製したグルコマンナン(精粉)1gに対して、マンナナーゼ(天野エンザイム(株)、マンナナーゼ BGM「アマノ」)25mg を溶解したイオン交換水 10mLを添加して酵素反応を開始した。58℃で48時間酵素処理を行った後、96℃、10分の酵素失活を行った。ろ紙(No. 5C)を使用して濾過を行い水不溶物を除去した後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して、マンノース濃度40g/100gの糖液を製造した。
【0030】
<パーム核ミール由来マンノースの製造>
パーム核ミール(カーギル社製)10gに、水22mL、1M硫酸8mLを加え、pH0.9に調整した後、90℃、4時間の前加水分解処理を行った。放冷後、1M水酸化ナトリウム3mLを添加してpH3.6に調整後、吸引濾過を行い、水50mLで水押しを行い、パーム核ミールを洗浄した。洗浄したパーム核ミールを回収し、水24mL、1M硫酸を加え、pH3.6に調整した後、酵素セルロシンGM5(HBI製 マンナナーゼ、ユニット数:10,000unit/g)0.03gを加え、60℃で48時間振とうし、酵素反応を行なった後、100℃、10分で酵素失活を行った。得られた粗糖液を活性炭に通して濾過し濾液を得た。
【0031】
得られた濾液を強酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学製:PK216)10mL、弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学製:WA30)10mLで脱塩を行った後、エバポレーターで減圧濃縮を行った。さらに得られた粗生成物をエタノールで晶析し、粉末のマンノースを得た。得られた粉末マンノースを水に溶かし、下記方法により測定したところ、この粉末中のマンノースの純度は99%であった。
(マンノースの純度測定方法)
装置:示差屈折率検出器(SHIMADZU Prominence)
カラム:Aminex HPX-87P(BIO RAD社製、300 mm L×7.8 mm I.D.)
移動相:水、流速:0.6ml/分、カラム温度:60℃
サンプル濃度:5%水溶液、サンプル量:10μL
【0032】
(実施例1、実施例2)
500mL容量のビーカーに、γ-シクロデキストリン(シクロケム社製)40gとイオン交換水200gを入れ完全に溶解させた後、前記で得られたこんにゃく芋由来マンノース糖液60g(60g×40g/100g=24gマンノース)を添加して、マグネチックスターラーで1時間撹拌を継続した。凍結乾燥機に、その水溶液を入れて乾燥を行った。次に、大腸癌スフェロイドHC73T株(京都大学所有)を用い、前記で得られたこんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリンの組成物を用いて、大腸癌スフェロイドに対する反応性を画像解析により行った。なお、すべての実験は3回独立した実験を実施した 。大腸癌スフェロイドは、大腸癌の患者由来である。凍結保存していた上記スフェロイドを融解し、適切な細胞量となるよう培養した。培地は(Advanced DMEM/F12(Thermo Fisher), 5% FBS, 10 μM Y27632, 1 μM SB431542, 50 ng/ml EGF, 100 ng/ml FGF-basic, 100 units/ml penicillin, 0.1mg/ml streptomycin, 2mM L-glutamine, 5 g/ml Plasmocin (Invivogen, San Diego, CA))を用いた。薬剤感受性試験用の細胞を96ウェルプレート(TPP_96F)に4wellずつ 800 cells/wellとなるよう播種した。前記で得られたこんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリンの組成物を培地にマンノースが5mM(実施例1)と25mM(実施例2)になるように添加した。播種翌日をDay0とし、Day3でCell3 imager duos[SCREEN holdings社、model CC-8000、ソフトウェアver.1.6 Rev.2.0.1]を用い撮像した。Manual Focusモードを使用し、well中央部61%を撮像範囲(ゲル全体が範囲内に収まる大きさ)とし、z軸方向に50umごと15点で連続断層画像を取得し、全焦点画像として出力させた。Day0に培地交換の方法で反応を開始した。その後実験終了まで培地を交換せず培養を継続した。撮像間隔がほぼ一定となるようにした。解析ソフト[SCREEN holdings社、ソフトウェアver.1.6 Rev.2.0.1]のMeasure機能を用い、スフェロイド画像データにプログラムを適応し面積値を算出した。さらにプログラムソフトRを用い算出した面積値から体積データを算出した。体積データの算出時には、面積から半径を算出し、半径値から球の体積を算出し、1wellあたりの体積合計値とするプログラムを用いた。体積値のDay3/Day0から体積比を求め、コントロールを1とした際の、それぞれの濃度の比を算出し比較した。得られた体積データから、各データポイントの体積比(Day3/Day0)を算出した。対照群との有意差検定にはt検定を用いた。p値が0.05未満を有意差ありとした。その結果を図1(実施例1)と図2(実施例2)に示す。なお図の縦軸GEIはgrowth effect indexの略である。
【0033】
(比較例1、比較例3)
実施例1、実施例2のこんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリンの組成物をγ-シクロデキストリンのみに置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を図1(比較例1)と図2(比較例3)に示す。
【0034】
(比較例2、比較例4)
実施例1のこんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリンの組成物を5mM(比較例2)と25mM(比較例4)のこんにゃく芋由来マンノースのみに置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を図1(比較例2)と図2(比較例4)に示す。
【0035】
図1図2の結果から明らかなように、実施例1と比較例1および比較例2について腫瘍細胞増殖抑制作用を比較したところ、実施例1のこんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリンの組成物の方がそれぞれ単独で投与するよりも強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。さらに、マンノース添加濃度を25mMに増加した実施例2と比較例3および比較例4についても、同様の傾向が見られ、こんにゃく芋由来のマンノースとγ-シクロデキストリンの組成物の方が、それぞれ単独よりも非常に強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。
【0036】
(実施例3)
500mL容量のビーカーに、α-シクロデキストリン(シクロケム社製)30gとイオン交換水300gを入れ完全に溶解させた後、前記で得られたパーム核ミール由来マンノース粉末20gを添加して、マグネチックスターラーで1時間撹拌を継続した。凍結乾燥機に、その水溶液を入れて乾燥を行った。実施例2のこんにゃく芋由来マンノースとγ-シクロデキストリンの組成物をパーム核ミール由来マンノースとα-シクロデキストリンの組成物に置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を図3に示す。細胞へのマンノースの添加濃度は25mMである。
【0037】
(比較例5)
500mL容量のビーカーに、デキストリン(松谷化学社製パインデックスNo.2)30gとイオン交換水300gを入れ完全に溶解させた後、前記で得られたパーム核ミール由来マンノース粉末20gを添加して、マグネチックスターラーで1時間撹拌を継続した。凍結乾燥機に、その水溶液を入れて乾燥を行った。実施例3のパーム核ミール由来マンノースとα-シクロデキストリンの組成物をパーム核ミール由来マンノースとデキストリンの組成物に置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を図3に示す。細胞へのマンノースの添加濃度は25mMである。
【0038】
(比較例6)
実施例3のパーム核ミール由来マンノースとα-シクロデキストリンの組成物を前記で製造したパーム核ミール由来マンノースのみに置き換えた以外は、全く同じ大腸癌スフェロイドを用いた試験を実施した。その結果を図3に示す。細胞へのマンノースの添加濃度は25mMである。
【0039】
図3の結果から明らかなように、実施例3と比較例5および比較例6について腫瘍細胞増殖抑制作用を比較したところ、実施例3のパーム核ミール由来マンノースとα-シクロデキストリンの組成物の方がパーム核ミール由来マンノースとデキストリンの組成物およびパーム核ミール由来マンノース単独で投与するよりも強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。マンノースとシクロデキストリンの組成物の方が、それぞれ単独やシクロデキストリン以外の組成物よりも非常に強い腫瘍細胞増殖抑制作用が観察された。そのため、少量の投与での効果を期待することができる。さらに、天然物由来のマンノースを用いることにより、安全に摂取又は投与することができる。
【要約】

【課題】 マンノース及びシクロデキストリンを含む、癌の予防及び/又は治療に使用するための、腫瘍細胞増殖抑制剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、マンノース及びシクロデキストリンを含む腫瘍細胞増殖抑制剤であり、癌の予防及び/又は治療に有効である。本発明の腫瘍細胞増殖抑制剤は、マンノース単独よりも腫瘍細胞増殖抑制作用が高いため、少量での摂取又は投与が可能である。

【選択図】 なし
図1
図2
図3