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  • 特許-土木構造物の非破壊検査システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】土木構造物の非破壊検査システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20241105BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241105BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20241105BHJP
   G01N 29/265 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
G06Q50/08
G01M99/00 Z
G01N29/11
G01N29/265
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020092504
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021189615
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】394019370
【氏名又は名称】株式会社ウオールナット
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真也
(72)【発明者】
【氏名】仲村 将司
(72)【発明者】
【氏名】大平 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】新 弘治
(72)【発明者】
【氏名】成澤 行雄
(72)【発明者】
【氏名】笠原 翔
(72)【発明者】
【氏名】高岩 庸博
【審査官】久慈 渉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-255571(JP,A)
【文献】特開2006-183274(JP,A)
【文献】特開2014-160454(JP,A)
【文献】鎌田 敏郎 Toshiro KAMADA,よくわかる非破壊検査,プレストレストコンクリート 第47巻第4号 JOURNAL OF PRESTRESSED CONCREAT, JAPAN ,第47巻,社団法人技術協会 渡邉 史夫,2005年07月29日,P.84-88
【文献】相馬徹太郎,深層学習AI画像認識を活用した次世代インフラ点検,画像ラボ,2020年04月10日,第31巻, 第4号,pp. 19-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G01M 99/00
G01N 29/11
G01N 29/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象となる土木構造物のある地域より前記土木構造物の非破壊検査データを取得する取得ステップと、前記土木構造物の前記非破壊検査データをネットワーク経由で送信する送信ステップと、送信された前記非破壊検査データを解析する解析ステップと、を含む土木構造物の非破壊検査方法を実施する土木構造物の非破壊検査システムであって、
前記取得ステップにおいて前記土木構造物のある地域の人員が前記非破壊検査データを取得するための計測装置と、
前記送信ステップにおいて前記ネットワーク経由で送信された前記非破壊検査データを前記解析ステップにおいて解析する解析装置と、を備え、
前記非破壊検査データは、前記土木構造物内部の空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みを含み、
前記解析装置は、前記空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みの各入力情報と、前記非破壊検査データの過去の履歴と、前記土木構造物の種類と、前記土木構造物がある地域の気象条件と、交通量の多寡と、車種と、の少なくともいずれかの入力情報と、を用いて前記土木構造物の補修の優先順位を予め設定された所定の基準に基づき決定する優先順位決定用人工知能を有し、
前記優先順位決定用人工知能は、前記所定の基準を、前記入力情報と、前記入力情報に対する解析技術者の判定と、補修記録と、文献情報と、の少なくともいずれかに基づいて学習する
ことを特徴とする土木構造物の非破壊検査システム。
【請求項2】
優先順位決定用人工知能は、空洞の深さ、前記空洞の広がり、前記空洞の厚みの順に補修の優先順位を決定する
ことを特徴とする請求項1記載の土木構造物の非破壊検査システム。
【請求項3】
検査対象となる土木構造物のある地域より前記土木構造物の非破壊検査データを取得する取得ステップと、前記土木構造物の前記非破壊検査データをネットワーク経由で送信する送信ステップと、送信された前記非破壊検査データを解析する解析ステップと、を含む土木構造物の非破壊検査方法を実施する土木構造物の非破壊検査システムであって、
前記取得ステップにおいて前記土木構造物のある地域の人員が前記非破壊検査データを取得するための計測装置と、
前記送信ステップにおいて前記ネットワーク経由で送信された前記非破壊検査データを前記解析ステップにおいて解析する解析装置と、を備え、
前記非破壊検査データは、前記土木構造物内部の空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みを含み、
前記解析装置は、前記空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みの各入力情報を用いて、前記土木構造物の補修の優先順位を予め設定された所定の基準に基づき前記空洞の深さ、前記空洞の広がり、前記空洞の厚みの順に決定する優先順位決定用人工知能を有し、
前記優先順位決定用人工知能は、前記所定の基準を、前記入力情報と、前記入力情報に対する解析技術者の判定と、補修記録と、文献情報と、の少なくともいずれかに基づいて学習する
ことを特徴とする土木構造物の非破壊検査システム。
【請求項4】
計測装置は、土木構造物の非破壊検査データの取得を補助するロボットと計測車両とのいずれかである
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システム。
【請求項5】
解析装置は、土木構造物の非破壊検査データから前記土木構造物の異常箇所の有無を検出する人工知能を有する
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象となる土木構造物を検査する土木構造物の非破壊検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設土木構造物における維持管理の意識が社会的に高まっており、効率的な管理手法が求められている。このような土木構造物の検査は、非破壊調査機器を用いることで効率的に行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
土木構造物の検査の際には、土木構造物の検査データを取得する現場業務と、その取得した検査データを解析する解析業務とがある。解析業務を担当する解析技術者は、本来、解析業務のみを行うことが効率的であるものの、検査データの品質を確保するために、従来、自ら土木構造物のある現地に行き、直接データを取得している。そのため、解析技術者は、現場業務、及び、土木構造物への行き来が必要となり、業務負担が増加している。また、計測及び検査データ取得の後、解析を行うため、業務が直列的となり、対応できる業務量が制限される。
【0004】
一方、解析技術者は、専門知識と経験とが必要であるため、教育や育成にある程度の年月が必要であり、また、近年の少子化の影響もあり、人員を確保することが容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5062921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、土木構造物の検査業務のより一層の効率化が望まれている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、土木構造物を効率的に検査できる土木構造物の非破壊検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の土木構造物の非破壊検査システムは、検査対象となる土木構造物のある地域より前記土木構造物の非破壊検査データを取得する取得ステップと、前記土木構造物の前記非破壊検査データをネットワーク経由で送信する送信ステップと、送信された前記非破壊検査データを解析する解析ステップと、を含む土木構造物の非破壊検査方法を実施する土木構造物の非破壊検査システムであって、前記取得ステップにおいて前記土木構造物のある地域の人員が前記非破壊検査データを取得するための計測装置と、前記送信ステップにおいて前記ネットワーク経由で送信された前記非破壊検査データを前記解析ステップにおいて解析する解析装置と、を備え、前記非破壊検査データは、前記土木構造物内部の空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みを含み、前記解析装置は、前記空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みの各入力情報と、前記非破壊検査データの過去の履歴と、前記土木構造物の種類と、前記土木構造物がある地域の気象条件と、交通量の多寡と、車種と、の少なくともいずれかの入力情報と、を用いて前記土木構造物の補修の優先順位を予め設定された所定の基準に基づき決定する優先順位決定用人工知能を有し、前記優先順位決定用人工知能は、前記所定の基準を、前記入力情報と、前記入力情報に対する解析技術者の判定と、補修記録と、文献情報と、の少なくともいずれかに基づいて学習するものである。
【0009】
請求項2記載の土木構造物の非破壊検査システムは、請求項1記載の土木構造物の非破壊検査システムにおいて、優先順位決定用人工知能は、空洞の深さ、前記空洞の広がり、前記空洞の厚みの順に補修の優先順位を決定するものである。
【0010】
請求項3記載の土木構造物の非破壊検査システムは、検査対象となる土木構造物のある地域より前記土木構造物の非破壊検査データを取得する取得ステップと、前記土木構造物の前記非破壊検査データをネットワーク経由で送信する送信ステップと、送信された前記非破壊検査データを解析する解析ステップと、を含む土木構造物の非破壊検査方法を実施する土木構造物の非破壊検査システムであって、前記取得ステップにおいて前記土木構造物のある地域の人員が前記非破壊検査データを取得するための計測装置と、前記送信ステップにおいて前記ネットワーク経由で送信された前記非破壊検査データを前記解析ステップにおいて解析する解析装置と、を備え、前記非破壊検査データは、前記土木構造物内部の空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みを含み、前記解析装置は、前記空洞の深さ、前記空洞の広がり、及び、前記空洞の厚みの各入力情報を用いて、前記土木構造物の補修の優先順位を予め設定された所定の基準に基づき前記空洞の深さ、前記空洞の広がり、前記空洞の厚みの順に決定する優先順位決定用人工知能を有し、前記優先順位決定用人工知能は、前記所定の基準を、前記入力情報と、前記入力情報に対する解析技術者の判定と、補修記録と、文献情報と、の少なくともいずれかに基づいて学習するものである。
【0011】
請求項4記載の土木構造物の非破壊検査システムは、請求項1ないし3いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システムにおいて、計測装置は、土木構造物の非破壊検査データの取得を補助するロボットと計測車両とのいずれかであるものである。
【0012】
請求項5記載の土木構造物の非破壊検査システムは、請求項1ないし4いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システムにおいて、解析装置は、土木構造物の非破壊検査データから前記土木構造物の異常箇所の有無を検出する人工知能を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の土木構造物の非破壊検査システムによれば、土木構造物のある地域の人員が計測装置によって非破壊検査データを取得した非破壊検査データをネットワーク経由で送信して、その送信された非破壊検査データを解析技術者が解析装置により解析することで、解析技術者が土木構造物のある地域に直接行く必要がなく、非破壊検査データの取得と解析とを並列的に行うことができ、土木構造物を効率的に検査できるとともに、少なくとも非破壊検査データに含まれる土木構造物内部の空洞の深さ、空洞の広がり、及び、空洞の厚みの各入力情報と、非破壊検査データの過去の履歴と、土木構造物の種類と、土木構造物がある地域の気象条件と、交通量の多寡と、車種と、の少なくともいずれかの入力情報と、を用い、予め設定された所定の基準に基づき優先順位決定用人工知能により土木構造物の補修の優先順位を決定することで土木構造物を効率的に補修できる。
【0014】
請求項2記載の土木構造物の非破壊検査システムによれば、請求項1ないし4いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システムの効果に加えて、土木構造物を効率的に補修できる。
【0015】
請求項3記載の土木構造物の非破壊検査システムによれば、土木構造物のある地域の人員が計測装置によって非破壊検査データを取得した非破壊検査データをネットワーク経由で送信して、その送信された非破壊検査データを解析技術者が解析装置により解析することで、解析技術者が土木構造物のある地域に直接行く必要がなく、非破壊検査データの取得と解析とを並列的に行うことができ、土木構造物を効率的に検査できるとともに、少なくとも非破壊検査データに含まれる土木構造物内部の空洞の深さ、空洞の広がり、及び、空洞厚みの各入力情報を用い、予め設定された所定の基準に基づき優先順位決定用人工知能により土木構造物の補修の優先順位を空洞の深さ、空洞の広がり、空洞の厚みの順に決定することで、土木構造物を効率的に補修できる。
【0016】
請求項4記載の土木構造物の非破壊検査システムによれば、請求項1ないし3いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システムの効果に加えて、土木構造物の非破壊検査データをロボットや計測車両により補助することで、非破壊検査データをより少ない人数で効率的に、かつ、精度よく取得できる。
【0017】
請求項5記載の土木構造物の非破壊検査システムによれば、請求項1ないし4いずれか一記載の土木構造物の非破壊検査システムの効果に加えて、人工知能による異常箇所の有無の検出を利用することで、解析技術者による誤認や見落としを抑制でき、解析技術者の過度な専門性が不要となるとともに、解析技術者のレベルによる解析結果のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態の非破壊検査システムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1において、10は非破壊検査システムを示す。非破壊検査システム10は、道路、トンネル、水路、橋梁、堤防、護岸、港湾、空港などの、検査対象となる既設の土木構造物11を非破壊検査・点検するシステムである。
【0021】
非破壊検査システム10は、計測装置13と、解析装置14と、を備える。
【0022】
計測装置13は、電磁波や超音波などの検出波を出力する非接触型または接触型の出力部、及び、出力部からの出力に対する土木構造物11からの反射波などの反応を取得する取得部などを備えている。そして、この計測装置13は、土木構造物11における覆工コンクリート厚み、内部の空洞Gや欠陥の有無、鉄筋、内部の金属物の状態など、土木構造物11の状態を非破壊に計測する装置である。この計測装置13は、例えばマンホールMなどの道路の埋設管や構造物、路面下の陥没などの危険性がある空洞P、アスファルトコンクリート厚や路盤の厚さなどの舗装構造S、橋梁の床版F、堤防沈下・決壊などの原因となる空洞Gなどを計測可能である。出力部及び取得部は、例えばレーダ装置のアンテナにより実現可能である。この計測装置13は、土木構造物11やその近辺を走行可能な作業車などの、計測者や計測補助者により運転される計測車両に搭載されるものでもよいし、遠隔操作可能な無人飛行体(ドローン)など、土木構造物11の非破壊検査データの取得を補助するロボットに搭載されるものでもよい。計測装置13は、単数でも複数でもよい。
【0023】
解析装置14は、計測装置13により取得された非破壊検査データを解析する装置である。解析装置14は、処理手段であるPC16、及び、非破壊検査データ、あるいは非破壊検査データが処理された画像などの、非破壊検査データと関連を有するデータを表示可能な表示手段であるモニタ17などを備えている。
【0024】
そして、本実施の形態における非破壊検査システム10は、計測装置13により計測された非破壊検査データが、インターネットなどのネットワークNにあるクラウドサーバにリアルタイムに送信されて記憶され、クラウドサーバに記憶されたデータを解析装置14によって解析するものである。
【0025】
計測装置13は、土木構造物11がある地域の人員に貸与、譲渡、あるいは販売され、この人員によって非破壊検査データが取得される。土木構造物11がある地域の人員としては、土木構造物11がある地域、あるいはその近隣の地域の居住者などが好ましい。そのため、計測装置13は、専門的な技術や知識を備えない人員でも簡易な調整のみで使用できるように、例えば全自動、あるいは半自動などに構築されていることが好ましい。また、計測装置13の具体的な調整方法などの使用方法が予めマニュアル化されていることが好ましい。使用方法を表示するマニュアル表示手段は、印刷物や冊子などとして計測装置13とともに貸与、譲渡、あるいは販売されてもよいし、計測装置13自体をマニュアル表示手段として利用してもよいし、ネットワークN上のクラウドサーバなどから取得した使用方法を任意の表示手段に表示してもよい。図示される例では、計測装置13は、ネットワークNに有線、あるいは無線により直接接続可能であり、ネットワークN上のクラウドサーバに対し、直接データを送受信可能となっているが、これに限らず、ネットワークNに接続可能なPC、携帯端末などの通信装置を介して、ネットワークN上のクラウドサーバに対し、間接的にデータを送受信可能としてもよい。
【0026】
解析装置14は、非破壊検査データを取得する人員と異なる、解析技術者により使用される。解析装置14は、ネットワークNに接続可能で、かつ、解析技術者が解析を行う場所や地域にあればよく、土木構造物11がある地域から離れた地域に設置されていてもよい。また、解析装置14には、人工知能AIが搭載されていてもよい。人工知能AIは、土木構造物11の非破壊検査データの解析を補助する。具体的に、人工知能AIは、非破壊検査データ(画像)を解析し、土木構造物11の異常箇所の有無を検出する。
【0027】
そして、本実施の形態の非破壊検査システム10は、検査対象となる土木構造物11のある地域より土木構造物11の非破壊検査データを取得するステップと、土木構造物11の非破壊検査データをネットワークN経由で送信するステップと、送信された非破壊検査データを解析するステップと、を含む土木構造物11の非破壊検査方法を実施する。さらに、本実施の形態の土木構造物11の非破壊検査方法においては、非破壊検査データの解析に基づき、土木構造物11の補修順を決定するステップと、その補修順を土木構造物11のある地域にフィードバックするステップと、を含む。
【0028】
具体的に、本実施の形態では、計測装置13を、土木構造物11がある地域で現地雇用した人員へ例えば貸与し、その人員が計測装置13を使用することで、非破壊検査データを取得する。その際、現地作業をマニュアル化しておくことで、現地の人員が非破壊検査データを容易に取得できるようにする。
【0029】
取得した非破壊検査データは、膨大なビッグデータとなる。このビッグデータは、ネットワークN上のクラウドサーバにリアルタイム送信される。
【0030】
送信された非破壊検査データは、待機している解析技術者が解析装置14を用いて解析する。例えば、解析技術者は、解析装置14のモニタ17に表示された非破壊検査データ、または、非破壊検査データと関連を有するデータを画像加工し、目視によりデータ解析を行い、例えば土木構造物11の欠陥などの有無、土木構造物11の健全度などを判定する。このデータ解析の際には、解析装置14に搭載される人工知能AIを用いてもよい。
【0031】
解析技術者、または、人工知能AIは、データ解析により、土木構造物11に欠陥を検出した場合、土木構造物11の補修順、あるいは、土木構造物11の欠陥の補修順を決定する。つまり、人工知能AIは、優先順位決定用人工知能の機能を有していてもよい。補修順は、予め設定された所定の基準に基づいて決定する。優先順位を決定するための入力情報としては、例えば、検出された空洞の深さ、広がり、厚みなどの検査対象の土木構造物11の非破壊検査データとする。その他、検査データの過去の履歴、橋、道路などの土木構造物11の種類、土木構造物11がある地域の雨量、あるいは気温などの気象条件、および、交通量の多寡、車種などの少なくともいずれかを、優先順位を決定するための入力情報としてよい。一例としては、深度が浅い空洞の補修を深い空洞の補修よりも優先し、広がりが大きい空洞の補修を小さい空洞の補修よりも優先し、厚みが大きい空洞の補修を小さい空洞の補修よりも優先する。また、深度、広がり、及び、厚みにも予め所定の優先順を持たせてもよい。一例としては、深度を最も優先し、次いで広がり、厚みの順に優先順を決定する。これら優先順は、任意に決定してよい。なお、優先順位決定用人工知能は、解析装置14に搭載された人工知能AIと必ずしも同一のものでなくてもよい。
【0032】
優先順位決定用人工知能の教師データとしては、例えば前記入力情報のモデルとそれに対する解析技術者の判定を用いてもよいし、補修記録や文献情報を用いてもよい。
【0033】
土木構造物11の補修順などを含むデータの解析結果は、例えばネットワークN上のクラウドサーバに送信し、土木構造物11のある地域にフィードバックする。
【0034】
このように、土木構造物11のある地域の人員が計測装置13によって非破壊検査データを取得した非破壊検査データをネットワークN経由で送信して、その送信された非破壊検査データを解析技術者が解析装置14により解析することで、解析技術者が土木構造物11のある地域に直接行く必要がなく、リアルタイムにデータを移行して、非破壊検査データの取得と解析とを並列的に行うことができ、取得した非破壊検査データを速やかに解析できるなど、土木構造物11を効率的に検査できる。したがって、検査のコスト削減と人員不足の解消とを図ることが可能になる。
【0035】
また、複数の異なる地域の土木構造物11の検査の場合にも、解析技術者が都度非破壊検査データを取得しに行く必要がなく、容易かつ迅速に対応可能となる。
【0036】
特に、土木構造物11の維持管理が対象となる地域は、地方都市やその郊外、海岸周辺や山間地など、全国各地に存在するため、本実施の形態によれば、解析技術者はこれらの地域に出向くことなく、解析装置14を設置した地域で集中的に解析を行うことができ、移動に要する時間やコストを削減できる。また、土木構造物11が、国内に限らず海外にある場合にもその検査に対応できる。
【0037】
計測装置13を使用する人員がマニュアル表示手段を参照して、計測装置13を使用できるので、非破壊検査データの取得を効率化できるとともに、計測装置13を使用する人員の熟練度に拘らず、非破壊検査データの精度を一定レベル以上に確保できる。そのため、解析技術者自身が非破壊検査データの取得に出向く必要がなく、夜勤や体力を必要とする現場作業を要しないことから、専門技術を有した経験のある高齢者などでも解析技術者として解析を行うことが可能になる。
【0038】
土木構造物11の非破壊検査データをロボットや計測車両により補助することで、非破壊検査データをより少ない人数で効率的に、かつ、専門技術者が居なくても精度よく取得できる。また、ロボットを用いることによって、人が直接近づきにくい場所のデータ取得も可能になる。
【0039】
解析装置14に人工知能AIを搭載し、人工知能AIによる異常箇所の有無の検出を利用することで、解析技術者による見落としを抑制でき、解析技術者の過度な専門性が不要となるとともに、解析技術者のレベルによる解析結果のばらつきを抑制できる。つまり、人工知能AIによる異常箇所の解析を実施することで客観的な対応ができ、解析技術者のヒューマンエラーによる誤認や見落としを抑制でき、解析技術者の過度な専門性が不要となるとともに、人員不足や教育による時間的拘束も抑制できる。また、熟練の解析技術者によるデータ照査も不要となり、作業量を抑制できる。
【0040】
少なくとも非破壊検査データに基づき人工知能AIにより補修する土木構造物11または異常箇所の優先順位を決定することで、解析技術者に依存することなく土木構造物11または異常箇所を効率的に補修できる。また、当該人工知能AIを、異常箇所の有無の検出を行う人工知能AIと同一とすることで、異常箇所の検出から補修の優先順位の決定までの一連の工程を人工知能AIにより実施できる。
【0041】
この結果、コスト削減と多様化する働き方への対応や現地地方雇用の創出を図ることができる。つまり、時間の制約なく働く仕組みを構築でき、経験ある高齢者、あるいは、自宅で育児や介護をする人員であっても非破壊検査データを取得する人員として雇用できることで、新たな雇用促進に繋げることができる。
【0042】
非破壊検査データを取得する人員は、土木構造物11がある地域の地理や立地情報に長けた人員を見込むことができ、地元間のネットワークの強みを活かした対応も可能になる。また、その人員が居住する地域の生活に利用する土木構造物11の検査であるため、人員の地域への貢献にも繋がる。
【0043】
また、検査の結果、土木構造物11の異常箇所や危険と判断される情報がある場合には、土木構造物11の健全度などの指標を含め、ネットワークNを介して土木構造物11のある地域などに速やかにフィードバックできる。
【0044】
例えば本実施の形態では、非破壊検査データの解析に基づき、土木構造物11の補修順を決定し、その補修順を土木構造物11のある地域にフィードバックする。近年、ゲリラ豪雨などの異常気象により空洞などの欠陥の発生件数が増加しているため、土木構造物11の補修順をフィードバックすることで、土木構造物11がある地域において、より優先度が高い欠陥から順に補修を実施でき、効率よく土木構造物11の補修を進めることができる。
【符号の説明】
【0045】
10 非破壊検査システム
11 土木構造物
13 計測装置
14 解析装置
AI 優先順位決定用人工知能の機能を有する人工知能
N ネットワーク
図1