(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】膝屈曲角度を調節する変調ノルディックハムストリングエクササイズ方法、及びそのためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A63B 23/04 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
A63B23/04 Z
(21)【出願番号】P 2020181965
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-04
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】300033452
【氏名又は名称】株式会社リッコー
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 統一
(72)【発明者】
【氏名】鶴池 柾叡
(72)【発明者】
【氏名】シモタケ ジュン ニコル
(72)【発明者】
【氏名】原嶋 芳之
【審査官】三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531632(JP,A)
【文献】実開昭58-112353(JP,U)
【文献】特開2018-038784(JP,A)
【文献】特開2009-268779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 1/00-26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルディックハムストリングエクササイズ用のデバイスであって、
床上に載置される基台と、傾斜角度を0~70度の範囲で調整可能として前記基台上に設けられる傾斜台と、前記傾斜台の後方端側に略直角に接続されるとともに前記基台に対してピン結合された足裏支持材と、前記足裏支持材の前方側に設けられた足裏当接板と、前記傾斜台の略中間部に一端がピン結合されるとともに他端が前記基台にピン結合された傾斜支持材と、前記傾斜台の前方寄りの略半分に設けられた膝当接板と、を備え、
ノルディックハムストリングの肉離れの予防に貢献できることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスを用いる運動方法であって、傾斜台の傾斜角度を20~60度に調節して行うノルディックハムストリングの筋力を強化するための運動方法。
【請求項3】
被験者が前記傾斜台の上で両膝又は片膝でひざまずいて行うことを特徴とする、請求項
2に記載の運動方法。
【請求項4】
被験者の半腱様筋(ST)と比較して、大腿二頭筋長頭筋(BFl)を活性化することを特徴とする、請求項
2または3に記載の運動方法。
【請求項5】
被験者
のノルディックハムストリングエクササイズ中のBFlとSTとの間の筋電図(EMG)活動比(BFl/ST比)が、傾斜台を用いない
ノルディックハムストリングエクササイズよりも高い値であることを特徴とする、請求項
2~4のいずれか一項に記載の運動方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ハムストリングの損傷は陸上、サッカー及び野球などで最も多い傷害のひとつである。ハムストリングの筋のなかでも大腿二頭筋長頭(以下、「BFl」と記載する)が、他の二関節筋である半腱様筋(以下、「SM」と記載する)や半膜様筋(以下、「ST」と記載する)よりも傷害の発症頻度が高い。
【0002】
これまでに、ハムストリングの損傷リスクを軽減するための方法として、ノルディックハムストリング(以下、「NH」と記載する)エクササイズをウォーミングアップで行ったり、再発予防のためにリハビリテーション中に導入されてきていた。これまでに、NHエクササイズを行うことで、ハムストリングの遠心性筋力向上や、筋線維長が長くなることで予防効果があることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
このようにNHエクササイズの予防効果を示す報告がある一方で、NHエクササイズ中のように膝関節を中心に動かす運動では、BFlよりもSTの方が筋活動が多いことから(非特許文献2)、同方法ではBFlの損傷リスクを軽減させるためには不十分である可能性も考えらえる。その代わりの方法として、近年は股関節を中心に動かす45°hip extentionエクササイズがBFlをより活性化し、BFl損傷予防として有用であることが提案されている(非特許文献3)。
【0004】
一方、最近では複数の研究によってたとえ膝中心の運動だとしてもBFlがSTよりも働く可能性が指摘されている。そのうちの一つである我々の研究では、膝を中心に動かすレッグカールを行った際に、膝が伸びている状態であればSTよりもBFlの筋活動が高く、膝を深く曲げるとBFlよりもSTの筋活動が高いなど、同じ運動でも膝関節の角度によって二つの筋の活動は変化し得ることが示されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】van Dyk N Behan FP, et al., Br J Sports Med. 2019; 53: 1362-1370.
【文献】Bourne MN, et al., Sports Med. 2018; 48: 251-267.
【文献】Bourne MN, et al., Br J Sports Med. 2017; 51: 469-477.
【文献】Hirose N, Tsuruike M., J Strength Cond Res. 2018; 32: 3357-3363.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
運動中のハムストリングの損傷リスクを軽減するためのエクササイズ方法、及び、該エクササイズ方法を実施するためのデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはBFlとSTの活動比をみた場合、NHエクササイズ中も膝関節が深く曲がっているときはSTの筋活動比が高く、膝関節が伸びるにしたがってBFlの活動比が高くなると仮説を立ててた。そして、本発明では、膝関節が深く曲がった状態と伸びた状態でNH様のエクササイズを実施し、その時のBFlとSTの筋活動比を比較した。また、通常環境では膝関節が伸びる状態までNHエクササイズを行うことは困難であることから、傾斜台を新たに開発し、筋力が不十分なものでも膝関節が伸びる状態までNHエクササイズができるようにして、この傾斜の度合が異なる場合のBFlとSTの筋活動の差についても検討した。その結果、傾斜台を用い、膝屈曲角度を調節し、補助することにより、筋電活動値についてのBFl/ST比が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
具体的には、本発明は、被験者の膝屈曲角度を調節し、補助し、ハムストリングを活動させる変調ノルディックハムストリングエクササイズを実施する、ハムストリングの筋力を強化するための運動方法を提供する。
【0009】
本発明の運動方法において、前記被験者が膝に対する傾斜台を使用して膝関節角度を調節し、即ち、膝屈曲角度を調節し、変調ノルディックハムストリングエクササイズを行うことができる。
【0010】
本発明の運動方法において、前記変調ノルディックハムストリングエクササイズは、好ましくは、前記被験者が前記傾斜台の上で両膝又は片膝でひざまずいて行う。
【0011】
本発明の運動方法において、前記傾斜台の傾斜角度が20°~60°に設定され、20°~60°の膝屈曲角度(膝関節角度が160°~120°)に設定される場合がある。
【0012】
本発明の運動方法において、前記変調ノルディックハムストリングエクササイズが、被験者の半腱様筋(ST)と比較して、大腿二頭筋長頭筋(BFl)を活性化する場合がある。
【0013】
本発明の運動方法において、被験者の前記変調ノルディックハムストリングエクササイズ中のBFlとSTとの間の筋電図(EMG)活動比(BF1/ST比)の値が、傾斜台を用いないNHエクササイズよりも高い値である場合がある。
【0014】
本発明の運動方法において、前記変調ノルディックハムストリングエクササイズが、被験者のスポーツ中のハムストリング損傷の予防や再発予防のためのエクササイズである場合がある。
【0015】
また、本発明は、変調ノルディックハムストリングエクササイズ用のデバイスであって、床上に載置される基台と、被験者の膝を当接する傾斜台と、前記傾斜台の後方端側に略直角に接続された足裏支持材と、前記傾斜台の略中間部に一端がピン結合されるとともに他端が前記基台にピン結合された傾斜支持材と、を備えるデバイスを提供する。
【0016】
本発明のデバイスは、前記傾斜台の傾斜角度を調整可能としたデバイスである場合がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、膝屈曲角度を調整し補助するための傾斜台を備えるデバイスを用い、膝屈曲角度を調節した変調ノルディックハムストリングエクササイズを行うことにより、ハムストリングス筋活動、特にBFlの活動を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の変調ノルディックハムストリングによる運動方法で使用する傾斜台の概要図(斜視図)を表す。
【
図2】傾斜台を使用した変調ノルディックハムストリングエクササイズを実施している写真図。a図は変調NHのICL50を、b図は変調NHのICL30を、c図は変調NHのICH50を、d図は変調NHのICH30を表す。
【
図3】通常のNH、並びに、変調NHであるICL50、ICL30、ICH50及びICH30間のBF1、ST、及びSM筋の正規化筋電図(NEMG(%))の比較結果を表す。*、†、 及び‡はそれぞれ印が付いた条件対NH、ICL30及びICH30との間に統計学的に有意な差(危険率5%未満)があることを示す。また§は印が付いた条件においてSTとBFlの間に統計学的に有意な差(危険率5%未満)があることを示す。
【
図4】通常のNH、並びに、変調NHのICL50、ICL30、ICH50及びICH30でのBF1とSTの平均NEMG(正規化EMG)の関係を表した図。BF1とSTの平均NEMG斜線はST=BF1を表す。
【
図5】傾斜台の傾斜角度を変調して膝関節角度を変化させたときの筋電図におけるBF/ST比及びSM/ST比の散布図を表す。
【
図6】一定速度でノルディックハムストリングエクササイズを行う時の、通常のNH、並びに、変調NHであるNH20及びNH40でのブレークポイントを測定した結果を表す。**は当該条件がNH20およびNH40よりも有意に高値、*は当該条件の値がNH20に対して有意に高値であることを示す(危険率5%未満)。
【
図7A】一定速度によるノルディックハムストリングエクササイズでの、通常のNH、並びに、変調NHであるNH20及びNH40において膝屈曲角度を変化させたときの、BFlの%MVC(最大随意筋力(Maximal Voluntary Contraction)に対する活動筋力の%)の変化を表す。横軸は膝関節屈曲角度を示す。グラフ中の「40」及び「NH」の記載は該条件の%MVCの値がそれぞれNH40およびNHよりも有意に高値であることを示す(危険率5%未満)。
【
図7B】一定速度によるノルディックハムストリングエクササイズでの、通常のNH、並びに、変調NHであるNH20及びNH40において膝屈曲角度を変化させたときの、STの%MVCの変化を表す。横軸は膝関節屈曲角度を示す。グラフ中の「40」及び「NH」の記載は該条件の%MVCの値がそれぞれNH40およびNHよりも有意に高値であることを示す(危険率5%未満)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.傾斜台を使用する変調ノルディックハムストリングでの運動方法
本発明の実施形態の1つは、膝屈曲角度を調節して行う変調ノルディックハムストリングによる運動方法である。
【0020】
より具体的には、本発明の運動方法は、膝屈曲角度の調節に、例えば、膝に対する傾斜台を備えるデバイス(
図1参照)を使用して、該傾斜台にひざまずいて、足部を固定し、ノルディックハムストリング(以下、「NH」と記載)エクササイズと同様に、頭から膝をまっすぐに保ったまま、ゆっくりと前傾していくエクササイズを行う運動方法である。本発明の運動方法は、傾斜台を用いることで被験者の膝関節角度を調節し、ハムストリングを補助した状態で、ハムストリングを活動させる変調したノルディックハムストリング(NH)エクササイズであり、ハムストリングの筋力を強化するための運動方法である(
図2参照)。
【0021】
ハムストリングは人間の下肢後面を作る筋肉の総称であり、大腿二頭筋(biceps femoris long head:BFl))、半膜様筋(semimembranosus muscle :SM)、半腱様筋(semitendinosus muscle:ST)の3つの大腿後面にある筋を合わせてハムストリングという。ハムストリングは、下肢の動き作りや運動能力に大きく影響する部分とされている。しかしトレーニングが難しく、反面肉離れなどの故障を起こしやすく、一度故障すると癖になってしまう場所としても知られる。ハムストリングのトレーニング方法として従来よりノルディックハムストリングエクササイズが使用されている。
【0022】
ハムストリングの損傷は陸上、サッカー及び野球などで最も多い傷害のひとつである。ハムストリングの筋の中でも大腿二頭筋長頭(BFl)が、他の二関節筋である半腱様筋(SM)や半膜様筋(ST)よりも傷害の発症頻度が高い。
【0023】
これまでに、ハムストリングの損傷リスクを軽減するための方法として、ノルディックハムストリングエクササイズをウォーミングアップで行ったり、再発予防のためにリハビリテーション中に導入されてきていた。これまでに、NHエクササイズを行うことで、ハムストリングの遠心性筋力向上や、筋線維長が長くなることで予防効果があることが報告されている。
【0024】
通常のNHエクササイズは、傾斜台を使用することなく、膝関節と足関節とが略水平の状態で、例えば、膝立ち位でパートナーに足首を固定させ、頭から膝をまっすぐに保ったまま、ゆっくりと前傾していくことで、ハムストリングを活性化するためのエクササイズである。
【0025】
通常のNHエクササイズはハムストリングへの負荷が大きいため、多くのヒトは通常のNHハムストリングエクササイズを実施することができない。
【0026】
また、NHエクササイズの予防効果を示す報告がある一方で、NHエクササイズ中のように膝関節を中心に動かす運動では、BFlよりもSTの方が筋活動が多いことから、同方法ではBFlの損傷リスクを軽減させるためには不十分であることが指摘されている。
【0027】
すなわち、等尺性運動(MVIC)を行い最大筋力を与えるときのBFlやSTなどのハムストリングの筋電値をそれぞれ100%として、通常のNHや本発明の変調NHエクササイズでの各ハムストリングの筋電値を計測し、比較すると、通常のNHエクササイズではSTがBFlよりも筋活動が高い。
【0028】
一方、本発明の変調NHエクササイズでの、膝に対する傾斜台を用いて膝屈曲角度を調節し、補助して実施する。変調NHエクササイズは、例えば、前記被験者が前記傾斜台の上で両膝又は片膝でひざまずいて行う。
【0029】
本発明の変調NHによる運動方法は、傾斜台の傾斜角度は限定されないが、好ましくは、傾斜台の傾斜角度が0°~70°に、より好ましくは20°~50°に設定し、実施することができる。
【0030】
本発明の変調NHによる運動方法において、運動開始時の膝屈曲角度は特に限定されないが、好ましくは90°~30°(すなわち、膝関節角度が90°~150°)に、より好ましくは20°~60°(膝関節角度が160°~120°)に設定し、変調NHエクササイズを実施することができる。
【0031】
上記のとおり、多くのヒトは、通常のNHはハムストリングへの負荷が大きいため、NHエクササイズを実施できない。一方、本発明の変調NHエクササイズにおいては、BFlは、膝関節屈曲角度を浅くした上でNHエクササイズ様の運動を実施することで多くのヒトでNHハムストリングの実施が可能となる。この時、STよりもBFlの筋活動を大きくすることが可能になる。そこで、本傾斜台を用いて負荷を調整して、ハムストリングを補助し、変調NH運動を行うことは、スポーツ中のハムストリングの肉離れの予防に貢献できるものと考えられる。
【0032】
下記実施例に示されるように、本発明の変調NHエクササイズを行う運動方法において、被験者の半腱様筋(ST)と比較して、大腿二頭筋長頭筋(BFl)を活性化することができる。
【0033】
これにより、被験者の前記変調ノルディックハムストリングエクササイズ中のBFlとSTとの間の筋電図(EMG)活動比(BF1/ST比)が、傾斜台を用いない通常のNHエクササイズよりも高い値をもたらすことができる。
【0034】
また、通常のNHエクササイズの場合、一定の速度で運動を継続するように指示した場合でも、膝関節屈曲角度が40~50°程度で上半身を支えることができなくなり、規定速度を維持できなくなる、すなわちハムストリングスに力が入らなくなることが指摘されている。これはブレークポイントと呼ばれる。本発明の変調NHによる運動方法では傾斜台を用いて負荷を軽くすることで、すべての膝関節可動範囲でハムストリングスの筋活動を高いままにできるようになる、すなわちブレークポイントが消失すること、そしてそのような条件においては膝関節屈曲角度が浅い場合において大腿二頭筋長頭(BFl)の筋放電量が半腱様筋(ST)よりも大きくなる効果をもたらすことができる。
【0035】
したがって、本発明の変調ノルディックハムストリングエクササイズは、被験者のスポーツ中のハムストリング損傷、特に、大腿二頭筋長頭筋(BFl)の損傷の予防のためのエクササイズとして有用であると考えられる。
【0036】
2.変調ノルディックハムストリングのためのデバイス
本発明のもう1つの実施形態は、変調ノルディックハムストリングのためのデバイスである。
【0037】
上記で説明した変調NHは、傾斜台を使用することを特徴とする。本発明のデバイスは、被験者の膝に対する傾斜台を備え、膝屈曲角度を調節し、ハムストリングを補助してエクササイズを行う変調ノルディックハムストリングエクササイズ用のデバイスである。
【0038】
ここで、傾斜台を備えるデバイスについて、
図1に基づいて説明する。
図1では、説明の都合上、前方、後方、左側方、右側方及び上方という各方位を記載している。
【0039】
このデバイス1の主要部は、床上に載置される基台10と、被験者の膝を当接する傾斜台20と、前記傾斜台20の後方端側に略直角に接続された足裏支持材30と、前記傾斜台20の略中間部に一端がピン結合されるとともに他端が基台10にピン結合された傾斜支持材40と、から構成されている。
【0040】
基台10は、平面視において略矩形とされている。基台10の前方及び後方には床載置材11が設けられ、これら前方及び後方の床載置材11の両端には垂直部材12が設けられている。さらに、これら4箇所の垂直部材12のうち、左側方の2つの垂直部材の上端間には左側梁13が設けられ、右側方の2つの垂直部材の上端間には右側梁14が設けられている。また、左右の側梁13,14の前方寄りには傾斜支持材40を係止するための係止孔15が複数設けられるとともに、後方寄りには足裏支持材30を係止するための係止孔16が設けられている。したがって、左右の側梁13,14には、それぞれ4箇所に係止孔15,16が設けられている。
【0041】
傾斜台20の骨格となる傾斜枠材は、左枠材21と右枠材22の前方端を前枠材23により接続し、左枠材21と右枠材22の後方端を足裏支持材30に接続することにより形成されている。すなわち、足裏支持材30は、傾斜枠材の後枠材を兼ねている。左枠材21と右枠材22の略中間部には、傾斜支持材40をピン結合するためのブラケット24が設けられ、このブラケット24にはピン結合用の係止孔25が設けられている。傾斜枠材の上方の前方寄りの略半分には、膝当接板26が設けられている。通常、この膝当接板26には、合成樹脂板材が用いられる。また、膝当接板26の上面には被験者の膝を傷めないよう、必要に応じて軟質のマットを取り付けることが可能とされている。
【0042】
足裏支持材30は、被験者の足裏を支持するための部材であり、傾斜台20の後方端側に略直角に接続されている。足裏支持材30と傾斜台20との接続は固定されるが、傾斜台20の傾斜角度が変わると基台10に対する足裏支持材30の取付角度も変わることになるため、足裏支持材30は基台10に対してピン結合される。そのため、足裏支持材30の左右の適所にはピン結合用の係止孔31が設けられている。また、足裏支持材30の前方側には、足裏当接板32が設けられている。通常、この足裏当接板32には、合成樹脂板材が用いられる。
【0043】
傾斜支持材40は、上端が傾斜台20の左右の枠材21,22にピン結合される左右の傾斜材41、42と、これら左右の傾斜材41、42が前方端において接続される水平材43とから形成されている。水平材43の両端部は基台10の左右の側梁13、14に対しピン結合されている。
【0044】
上述した傾斜台20を備えたデバイス1によれば、傾斜支持材40を構成する水平材43の両端部を、基台10の側梁にピン結合する係止孔15を選択することにより、傾斜台20の傾斜角度を3段階に変更することができる。最前方の係止孔15を選択すれば、傾斜台20の傾斜角度はもっとも緩やかとなり、順次後方の係止孔15を選択することにより急傾斜とすることができる。なお、本実施例では傾斜角度を3段階に変更可能としたが、傾斜角度は3段階に限定されるものではなく、4段階以上の調整を可能とすることもできる。
【0045】
本発明のデバイス1の傾斜台20には被験者の体重の大部分が作用するため、デバイス1を構成する構造部材には所定の強度と剛性が必要となる。また、可搬性を高めるべく、軽量化と、折り畳んでコンパクトな状態にできることが必要とされる。そこで、上述した実施例では、構造部材として断面が円形の軽合金材料のパイプを用いている。ただし、側梁など部位によっては大きな断面係数を有する非円形断面のパイプを用いて、より高い曲げ剛性を有するデバイスとするこもできる。
【0046】
上記のとおり、変調NHエクササイズを行う場合、傾斜台の傾斜角度や膝屈曲角度は限定されないが、好ましくは傾斜台の傾斜角度が20°~60°に設定される。そこで、本発明のデバイスは、例えば、傾斜台の角度は特に限定されない角度に調節可能なデバイスであるが、好ましくは傾斜台の傾斜角度が20°~60°に調節して設定されるデバイスである。
【0047】
本デバイスを使用して変調NHエクササイズを行うことにより、被験者の半腱様筋(ST)と比較して、大腿二頭筋長頭筋(BFl)を活性化することができる。
【0048】
これにより、被験者の変調NHエクササイズ中のBFlとSTとの間の筋電図(EMG)活動比(BF1/ST比)が、傾斜台を用いない通常のNHエクササイズよりも高い値をもたらすことができる。
【0049】
それによって、本発明のデバイスを用いて変調NHエクササイズを行うことにより、被験者のスポーツ中のハムストリング損傷、特に、大腿二頭筋長頭筋(BFl)の損傷を予防するためのエクササイズを実施できる。
【0050】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0051】
1.静止状態を保持してハムストリングに負荷をかける変調ノルディックハムストリング(NH)エクササイズ
1.1 方法
1.1.1 被験者
被験者は週に2回以上の運動習慣のある成人男性14名であった(21.2±1.5 years-old; 170.2±3.5 cm; 66.5±5.5 kg)。被験者をリクルートする前に、G*Power 3.1.9.4 (Universitat Dusseldorf, Germany)を用いて統計分析を実施する上で十分なサンプル数の分析を行い、13名のサンプル数が必要であることを確認した。本結果をもとに大学スポーツチームより16名の協力者を募り、そのうち以下の除外基準に該当した2名を除外して14名を対象に研究を行った。具体的には、ハムストリングの損傷歴がある者、前十字靭帯損傷歴がある者、6か月以内に下肢の傷害を負った者、直近で腰痛や股関節痛を訴えた者を除外した。また実験開始の24時間前からは、実験に差し支えるような強度の高い運動は行わないように指示した。
【0052】
1.1.2 実験方法
実験実施に先立ち、被験者は約5分間のウォーミングアップ(ハムストリング、殿筋群、腰背部筋の静的・動的ストレッチ、膝屈曲運動)を行った。その後、5秒間の最大努力での等尺性運動(以下、「MVIC」と記載する)を膝関節の屈曲角度30°、60°、90°での膝屈曲運動、股関節伸展運動、腰部伸展運動、腹筋運動を各2回行った。
【0053】
この後に、等尺性NH運動を、もっとも前傾できるところで姿勢を5秒間保持する条件で2回行った。次に傾斜台を屈曲50°(以下、「ICL」と記載する)及び40°(以下、「ICH」と記載する)に設定し、この傾斜台を用いて膝関節を屈曲50°(以下、各々を「ICL50」、「ICH50」と記載する)と30°(以下、各々を「ICL30」、「ICH30」と記載する)の状態で5秒間姿勢を保持するものとした(
図2参照)。傾斜台と膝関節の角度はランダムにセットされた。各試技間の休憩は最低でも40秒間は確保した。
【0054】
NHエクササイズを行う際には被験者は足関節と股関節を0°(ニュートラル)の状態に保持し、両膝はストレッチマットの上で腰幅に保持した。験者は被験者の足関節を両手で保持し、験者の膝を被験者の足の裏に充てて被験者の運動が安定するように努めた。被験者は両手を胸に充てたまま、5秒間姿勢保持できる最大傾斜角度まで前傾した。ICLとICHを行う際には、被験者は前述のNHと同じ状態で傾斜台に膝立ちになり、験者はパッドを被験者の足の裏に充てて膝でおさえ被験者の運動が安定するように努めた(
図2)。その状態で被験者は自身の膝が屈曲角度:50°(膝関節角度:130°)あるいは屈曲角度:30°(膝関節角度:150°)の状態で5秒間姿勢を保持した。
【0055】
MVIC測定時の膝屈曲運動、NHエクササイズ、ICL及びICH実施時の膝関節角度はすべて角度計を用いて目的とする角度が保たれていることを確認、あるいは最大努力で前傾したときの角度を計測した。基本軸と移動軸が適切に設置されるため、大転子、大腿骨外側上果、腓骨頭、外踝にマーカーを貼付し確認した。一方、股関節の角度は視覚的に0°が保たれていることを確認した。股関節角度がニュートラルポジションを保持できていない場合には、被験者は試技を再度行うものとした。
【0056】
1.1.3 筋電図検査
筋電図検査(以下「EMG」と記載する)はBFl、ST、SM、大殿筋(以下、「GM」と記載する)、脊柱起立筋(以下、「ES」と記載する)、腹直筋(以下、「RA」と記載する)を対象に、双極導出法の表面筋電計を用い、銀塩化銀電極(長さ:30 mm、幅:1 mm、電極間距離:20 mm)を用いた(Biolog DL-5000、S & ME Co.、東京、日本)。EMG電極より導出された電位は100倍に増幅され、20~500Hzの範囲でフィルタ―処理され、2kHzのサンプリングレートで記録された。なお、この時、皮膚抵抗を軽減するために除毛処理し、アルコールで洗浄した上で電極を貼付した。電極は対象筋の次に示す箇所にそれぞれ貼付した;
ST:坐骨結節と脛骨内側顆を結んだ中点
BFl:坐骨結節と腓骨頭を結んだ中点
SM:STの遠位腱の外側部で筋腹が触れられる部分
GM:仙椎と大転子を結んだ中点
ES:腰椎1番棘突起の2横部位横
RA:臍部の2cm横
【0057】
上記の部位を専門家が触診し、筋腹上であることを確認した上で電極を貼付し、EMG電位が適切に記録できてることを確認した。5秒間の運動中の2秒間の範囲で、得られた筋電位を二乗平均平方根(以下、「RMS」と記載する)で処理して分析データとして採用した。また、各試技でのRMSデータはMVICの値を100%として正規化した(以下、「NEMG」と記載する)。
【0058】
記録したEMGデータの級内信頼係数はICL50、ICH50のRA、ICH50のGM、ICH30のES(ICC(1.2)=0.65~0.72)以外はLandis (1977)の基準にのっとり“almost perfect"と判断された。
【0059】
1.1.4 統計分析
各値は平均値と標準偏差で表記した。二元配置分散分析を用いて各筋と各運動間の比較を行った(統計解析には、SPSS version 26.0, IBM, New Yorkを使用した)。また、事後検定にはテューキー法を用いた。また、95%信頼区間(以下、「95%CI」と記載する)とイータ(η)も解析した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
1.2 結果
統計学的に有意な交互作用が筋と運動間で示された (F(8,104)=3.45, η=0.45, p<0.05)。NH中のSTの正規化筋電値(NEMG)はBFlよりも高かったが(差分平均; 20.52%, 95% CIs [7.41%, 33.6%])(p<0.05)、STとSM、BFlとSMの間には差が認められなかった。一方、他の運動時にはBFl、ST、SMの間で有意差は認められなかった(
図3)。
【0060】
また、ICL50のBFlのNEMGはNH(差分平均:-35.8%, 95% CIs [-58.8%, -12.8%])、 ICL30(差分平均:-28.2%, 95% CIs [-51.2%, -5.2%])、 ICH30(-差分平均:38.9%,95% CIs [-61.9%, -15.8%])よりも低値であった(p<0.05)。同様に、ICH50のBFlもNH (差分平均:-25.2%, 95% CIs [-48.1%, -2.1%])、ICH30(差分平均:-28.2%, 95% CIs [-51.2%, -5.2%])よりも低値であった(p<0.05)。ICL50のSTのNEMGもNH (差分平均:-54.6%, 95% CIs [-77.5%, -31.7%])、ICL30(差分平均:-28.7%, 95% CIs [-51.6%, -5.8%])、ICH30(差分平均:-29.2%, 95% CIs [-52.1%, -6.3%])よりも低値だった(p<0.05)。同様に、ICH50のSTもNH(差分平均:-56.2%, 95% CIs [-79.1%,-33.3%])、ICL30 (差分平均:-30.3%, 95% CIs [-53.2%, -7.4%])、ICH30(差分平均:-30.7%, 95% CIs [-53.6%, -7.8%])よりも低値だった(p>0.05)。加えて、STのNEMGはICL30 (差分平均:-56.2%, 95% CIs [-79.1%, -33.3%])とICL60(差分平均:-25.5%, 95% CIs [-48.4%, -2.6%])でNHよりも低値だった (p<0.05)。
【0061】
さらに、ICL50のSMのNEMGはNH(差分平均:-40.4%, 95% CIs [-61.2%, -19.5%])、ICL30(差分平均:-26.6%, 95% CIs [-47.4%, -5.8%])、ICH30(差分平均:-28.6%, 95% CIs [-49.4%, -7.7%]))よりも低値だった(p<0.05)。同様に、ICH50のSMはNH(差分平均:-40.2%, 95% CIs [-61.1%, -19.4%])、ICL30(差分平均:-26.5%, 95% CIs [-47.3%, -5.6%])、ICH30(差分平均:-28.4%, 95% CIs [-49.3%, -7.6%])よりも低値だった。(
図3)
【0062】
BFlとSTのNEMGの関係を
図4に表すと、通常のNHではSTがBFlよりも高いが(BFl: 71.3±1.6% vs. ST: 90.8±1.9%) 、ICH50ではBFlがSTよりも高く(BFl: 46.0±1.4% vs. ST: 34.9±0.9%)、ICH30でも同様の結果であった(BFl: 74.5±1.9% vs. ST: 64.2±1.6%)。一方、BFlとSTのNEMGはICL50(BFl: 35.1±1.3% vs. ST: 36.5±1.0%)とICL30(BFl: 63.5±1.5 vs. ST: 63.7±1.6%)ではほぼ同程度であった。(
図4)
【0063】
図5に示すように、NH中のBFl/ST比(r=-0.48)とSM/ST比(r=-0.43)は膝屈曲角度と負の相関を示す(p<0.05)。膝関節角度が120°を超えた4試技中の2試技において、BFlのNEMGはSTの値を上回る結果であった。
【0064】
1.3 小括
上記研究より、傾斜台を用いてNHエクササイズを行った場合、膝関節屈曲角度を浅くする(すなわち、膝関節角度が大きい)ことで、BFlのNEMGはSTよりも高いもしくは同程度に活動するのに対して、通常のNHエクササイズではSTがBFlよりも筋活動が高いことが認められた。
【0065】
通常のNHエクササイズでSTのNEMGがBFlよりも高いという結果は、先行研究結果を支持するものである(Bourne MN, et al., Br J Sports Med. 2017; 51: 469-477)。しかしながら、NHエクササイズだとしても、傾斜台を用いて膝関節屈曲角度を浅い状態まで実施可能にし、かつ負荷を高めることで、BFlはSTよりも活動するようになる。このように、STに対するBFlの活動を、膝関節角度が初めてである。
【0066】
基本的に、NHエクササイズはハムストリングの損傷予防に貢献する。しかし近年では、ハムストリングの損傷はBFlに最も多く、また通常のNHエクササイズはBFlよりもSTがより働くという観点から、本エクササイズをBFl損傷予防に用いるには、改善が必要である可能性が示唆されていた。本研究結果は、膝関節屈曲角度を浅い状態までNHエクササイズを行うことでBFlの活動をより高められることを示し、NHエクササイズの予防効果を高める方策を示す成果であると考えられる。
【0067】
この結果を説明する要因として、ハムストリングの各筋の形態的特徴やモーメントアームの特徴などが挙げられる。STは紡錘筋で筋線維長が長いのに対してBFlは半羽状筋であり筋線維長が短い。STは長い筋線維長とサルコメア数が多いことから、BFlよりも膝関節角度変化の大きな範囲で筋収縮が見られる可能性が考えられる。このような特徴が、STが膝関節が深い屈曲位置でBFlよりも筋活動が多いことを説明することが考えられる。一方で、BFlはSTよりも筋線維長が短くサルコメア数も少ないことから、ある一定角度以上に膝関節角度が深くなると、収縮が不十分になる可能性が考えられる。さらに、STの遠位の停止部は、BFlやSMよりも遠位に位置しているため、膝関節屈曲角度が深くなった際にモーメントアームが最大になる。一方でBFlのモーメントアームは膝屈曲角度が75(をピークとしてその後は減少する。このような運動学上の違いがBFlとSTの膝関節角度変化による筋放電量変化に影響していることが推察される。実際に、本研究では通常のNHエクササイズにおいても、膝関節角度が120°と浅い(すなわち、膝屈曲角度が60°よりも浅い)状態になると、BFlのNEMGがSTよりも高くなっている。
【0068】
一方で、同じ膝関節角度においても、負荷が変わることでNEMGにおけるSTに対するBFlの値は変化する。実際に、ICL50やICL30ではBFlとSTのNEMGは同程度であるが、ICH50、ICH30ではBFlの方がSTよりも高いNEMGを示す。これはBFlとSTの負荷反応の違いを示している可能性がある。BFlは半羽状筋であり、生理学的断面積がSTよりも大きい。生理学の原則として、筋出力は生理学的断面積に依存することから、より大きな筋力発揮が求められるICHにおいては、ICLよりもBFlのNEMGが高くなり、BFl/ST比が変化した可能性が考えられる。
【0069】
本結果は、変調NHエクササイズ中のBFlは、傾斜台を用い、膝関節屈曲角度を浅くすることでSTよりも筋活動を大きくすることが可能になることを明らかにした。また、
図5に示すように、運動習慣のある者でも、多くの者はNHエクササイズ中に膝関節屈曲角度を浅く(少なくとも屈曲角度60°より浅く)することはできていない。この課題を改善するために、傾斜台を用いることは通常のNHエクササイズ実施者が膝関節角度を浅い状態まで行うことを補助するものとして、有用であると考えられる。これらの結果は、傾斜台を用いた変調NHエクササイズの実施はハムストリングの損傷、特にBFlの損傷を予防する上で有用であることを示すものと考えられる。
【0070】
2. 一定速度での動作を伴う変調ノルディックハムストリングでの検討
通常のノルディックハムストリングスエクササイズ(NH運動)の場合、一定の速度で運動を継続するように指示した場合でも、膝関節屈曲角度が40~50°程度で上半身を支えることができなくなり、規定速度を維持できなくなる、すなわちハムストリングスに力が入らなくなることが指摘されている。これをブレークポイントと呼ぶ。本研究では傾斜台を用いて負荷を軽くすることで、すべての膝関節可動範囲でハムストリングスの筋活動を高いままにできるようになる、すなわちブレークポイントが消失すること、そしてそのような条件においては膝関節屈曲角度が浅い場合において大腿二頭筋長頭(BFl)の筋放電量が半腱様筋(ST)よりも大きくなることを検証した。
【0071】
2.1 方法
対象は運動経験のある男子大学生5名とし、下肢に外傷を負ったことのない者であった。実験実施に先立ち、被験者は約5分間のウォーミングアップ(ハムストリング、殿筋群、腰背部筋の静的・動的ストレッチ、膝屈曲運動)を行った。その後、3秒間の最大努力での等尺性運動(MVIC)を膝関節45°での等尺性膝屈曲運動を2回行った。
【0072】
この後に、対象者は等尺性NH運動を角速度10°のテンポに合わせて行い、耐えられなくなったら前方に倒れるように指示した。
【0073】
次に傾斜台を40°(以下、「NH40」と記載する)及び20°(以下、「NH20」と記載する)に設定し、この傾斜台を用いて変調NH運動を行った。各試技間の休憩は最低でも40秒間は確保した。
【0074】
膝関節に電子ゴニオメーターを貼付し、これらの運動時の膝関節運動の速度(角速度)を測定した。また筋放電量はBFl及びSTより導出した。
【0075】
2.2 結果
通常のNHでは膝屈曲角度が約55°でブレークポイントが生じるのに対して、変調NHであるNH20では膝屈曲角度が約30°までブレークポイントが生じず、NH40ではブレークポイントが消失した(
図6)。
【0076】
また、BFl及びSTの筋放電量は通常のNH、及び変調NHであるNH20、NH40ともにブレークポイントの膝関節角度付近で最も筋放電量が高い結果となった(
図7A、
図7B)。
【0077】
2.3 小括
これまで、スプリントタイプのハムストリングの肉離れはBFlに好発し、特にスプリントの遊脚期後半から接地期に生じることがわかっている。すなわち、膝関節屈曲角度が30°~0°の浅い角度において、BFlに筋が伸ばされる外的負荷に耐えるような刺激を加えることが、肉離れ予防で重要である。この点から、NH40は膝関節屈曲角度0°までブレークポイントが生じず、筋収縮が強いられていることを示唆し、かつBFl/ST比が1.0を越えていることは、STよりもBFlの筋活動が多く求められていることを示す。この比はNHのブレークポイント(50~40°)での値、及びNH20(30~20°)での値よりも大きいことから、より特異的にSTよりもBFlに負荷がかかっていることを示す。これらのことから、一定速度で運動を膝関節屈曲角度が0°に近いところまで行えるように、本傾斜台を用いて負荷を調整してノルディックハムストリングス運動を行うことは、ハムストリングの肉離れの予防に貢献する可能性を示唆する。
【符号の説明】
【0078】
1. 変調ノルディックハムストリング用デバイス
10. 基台
11. 床載置材
12. 垂直部材
13. 左側梁
14. 右側梁
15. 係止孔
16. 係止孔
20. 傾斜台
21. 左枠材
22. 右枠材
24. ブラケット
25. 係止孔
26. 膝当接板
30. 足裏支持材
31. 係止孔
32. 足裏当接板
40. 傾斜支持材
41. 左傾斜材
42. 右傾斜材
43. 水平材