(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】レーザー素子、化合物、化合物の製造方法、レージング増感剤
(51)【国際特許分類】
H01S 5/36 20060101AFI20241105BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20241105BHJP
C07F 9/6568 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01S5/36
C09K11/06
C07F9/6568 CSP
(21)【出願番号】P 2021551187
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036305
(87)【国際公開番号】W WO2021065725
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2019178599
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519423895
【氏名又は名称】株式会社KOALA Tech
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】サンダナヤカ サンガランゲ ドン アトゥラ
(72)【発明者】
【氏名】カルナティラカ コポナ パハラ ワラワェ ブディカ サンジーワ バンダラ
(72)【発明者】
【氏名】バリジャパリ ウママヘシュ
(72)【発明者】
【氏名】セネヴィラッネ アディカリ ムディヤンセラゲ チャトゥランガニー
(72)【発明者】
【氏名】松島 敏則
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0046094(US,A1)
【文献】特開2011-095418(JP,A)
【文献】特開2018-174279(JP,A)
【文献】特開2015-201463(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176971(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155642(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0066092(US,A1)
【文献】特開2018-035124(JP,A)
【文献】特開2003-142263(JP,A)
【文献】特表2018-512726(JP,A)
【文献】HASHIMOTO et al.,Synthesis and Photophysical Properties of λ5-Phosphinines as a Tunable Fluorophore,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,米国,American Chemical Society,2018年02月05日,Vol.140,pp.2046-2049
【文献】SVYASCHENKO et al.,Electrocyclization of Phosphahexatrienes: An Approach to λ5-Phosphinines,The Journal of Organic Chemistry,米国,American Chemical Society,2011年06月21日,Vol.76,pp.6125-6133
【文献】AIMONO et al.,100% fluorescence efficiency of 4,4'-bis[(N-carbazole)styryl]biphenyl in a solid film and the very l,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,American Institute of Physics,2005年02月09日,Vol.86,p.071110
【文献】SCHAFER et al.,Nature of Bonding in λ5-Phosphorins,Journal of the American Chemical Society,米国,American Chemical Society,1976年07月21日,Vol.98, No.15,pp.4410-4418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
C09K 11/00-11/89
H10K 50/10
C07F 9/00-19/00
Scitation
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を発光層に含むレーザー素子。
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)において、R
1およびR
5は各々独立にハメットのσp値が正の置換基を表し、R
2~R
4
は各々独立に水素原子、または置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造と前記ジアリールアミノ構造を一般式(1)におけるホスフィニン環へ連結する連結基を含むハメットのσp値が負の基を表し、R
6~R
15は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【請求項2】
R
1およびR
5が各々独立にシアノ基、シアノ基で置換されたアリール基、または環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基(前記アリール基はシアノ基以外の基でさらに置換されていてもよく、前記ヘテロアリール基は置換されていてもよい)である請求項1に記載のレーザー素子。
【請求項3】
R
3が
置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造と前記ジアリールアミノ構造を一般式(1)におけるホスフィニン環へ連結する連結基を含むハメットのσp値が負の基である、請求項1
または2に記載のレーザー素子。
【請求項4】
下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物を発光層に含
むレーザー素子。
一般式(1)
【化2】
[一般式(1)において、R
1
およびR
5
は各々独立にハメットのσp値が正の置換基を表し、R
2
~R
4
、R
6
~R
15
は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
一般式(2)
Z
1-L-Z
2
[一般式(2)において、Z
1およびZ
2は各々独立に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を表し、前記ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに直接または連結基を介して結合している。Lは、置換もしくは無置換のアリーレン基と、置換もしくは無置換のエテニレン基をともに含む共役系連結基を表す。]
【請求項5】
前記発光層における前記一般式(1)で表される化合物の含有量が0.01~10重量%であり、前記一般式(2)で表される化合物の含有量が前記一般式(1)で表される化合物の含有量よりも多い、請求項
4に記載のレーザー素子。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位が前記一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位よりも低く、また、前記一般式(1)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位が前記一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位よりも高い、請求項
4または
5に記載のレーザー素子。
【請求項7】
下記一般式(2)で表される化合物を含むレージング増感剤。
一般式(2)
Z
1-L-Z
2
[一般式(2)において、Z
1およびZ
2は各々独立に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を表し、前記ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに直接または連結基を介して結合している。Lは、置換もしくは無置換のアリーレン基と、置換もしくは無置換のエテニレン基をともに含む共役系連結基を表す。]
【請求項8】
請求項
7に記載のレージング増感剤と発光材料を含む発光層を有するレーザー素子であって、
前記発光材料の発光励起一重項エネルギー準位が前記レージング増感剤の発光励起一重項エネルギー準位よりも低く、また、前記発光材料の発光励起三重項エネルギー準位が前記レージング増感剤の発光励起三重項エネルギー準位よりも高い、レーザー素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー素子の発光層の材料として有用な化合物およびレージング増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー発振閾値が低い有機半導体レーザー素子の実現に向けた研究が盛んに行われている。特に、そうした有機半導体レーザー素子の実現には、自然放出増幅光(ASE:Amplified Spontaneous Emissiom)を放射する化合物の開発が必須であることから、様々な化合物を合成してASE特性を調査し、レーザー材料として有用な化合物を見出す研究が精力的に進められている。その中には、スチルベン構造を基本構造として分子設計を行うことにより、自然放出増幅光放射の閾値(ASE閾値)が低いレーザー材料を実現しようとする研究も見受けられる。
例えば、非特許文献1には、下記式で表されるビススチルベン誘導体(BSBCz)が極めて低いASE閾値を示し、有機レーザー色素として優れていることが報告されている。
【0003】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Appl. Phys. Lett. 2005, 86, 071110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、スチルベン構造を有する化合物については、レーザー発振材料としての有用性が検討されている。しかし、スチルベン構造を有する化合物のみでは、実現される発光波長やレーザー発振特性が限られてしまい、有機レーザー素子の応用範囲が制限されてしまう。そのため、有機レーザー素子の汎用性を向上させるべく、新たなレーザー発振材料の開発が求められている。一方、上記のBSBCzは、長いπ共役系の両端に電子供与性のカルバゾリル基を有するといった、特徴的な電子状態を有しており、レーザー発振材料の他にも有用な用途があることが期待された。
【0006】
このような状況下において、本発明者らは新たなレーザー発振材料を提供することを目指して鋭意検討を進めた。さらに、本発明者らはBSBCzとその類似化合物の新たな用途を開発することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、特定の構造を有するホスフィニン誘導体がレーザー発振材料として有用であることを見出した。また、BSBCzとその類似化合物が、レーザー発振材料の発光過程を促進するレージング増感剤として効果的に機能することも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を発光層に含むレーザー素子。
【化2】
[一般式(1)において、R
1およびR
5は各々独立にハメットのσp値が正の置換基を表し、R
2~R
4、R
6~R
15は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
[2] R
1およびR
5が各々独立にシアノ基、シアノ基で置換されたアリール基、または環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基(前記アリール基はシアノ基以外の基でさらに置換されていてもよく、前記ヘテロアリール基は置換されていてもよい)である[1]に記載のレーザー素子。
[3] R
2~R
4が各々独立に水素原子、またはハメットのσp値が正の置換基である、[1]または[2]に記載のレーザー素子。
[4] 前記ハメットのσp値が正の置換基が、シアノ基で置換されたアリール基(前記アリール基はシアノ基以外の基でさらに置換されていてもよい)、[3]に記載のレーザー素子。
[5] R
2~R
4が各々独立に水素原子、またはハメットのσp値が負の置換基である、[1]または[2]に記載のレーザー素子。
[6] 前記ハメットのσp値が負の置換基が、置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造を含む基である、[5]に記載のレーザー素子。
[7] 前記置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造を含む基が、前記ジアリールアミノ構造を一般式(1)におけるホスフィニン環へ連結する連結基を含む、[6]に記載のレーザー素子。
[8] R
2~R
4が各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、またはR
16CO-で表される基であり、R
16は水素原子または置換基を表す、[1]または[2]に記載のレーザー素子。
[9] 前記置換もしくは無置換のアリール基が、ベンゼン環単位を有する縮合環を含む、[8]に記載のレーザー素子。
[10] R
3が置換基である、[1]~[9]のいずれか1項に記載のレーザー素子。
[11] 下記一般式(2)で表される化合物を発光層に含む、[1]~[10]のいずれか1項に記載のレーザー素子。
一般式(2)
Z
1-L-Z
2
[一般式(2)において、Z
1およびZ
2は各々独立に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を表し、前記ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに直接または連結基を介して結合している。Lは、置換もしくは無置換のアリーレン基と、置換もしくは無置換のエテニレン基をともに含む共役系連結基を表す。]
[12] 前記発光層における前記一般式(1)で表される化合物の含有量が0.01~10重量%であり、前記一般式(2)で表される化合物の含有量が前記一般式(1)で表される化合物の含有量よりも多い、[11]に記載のレーザー素子。
[13] 前記一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位が前記一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位よりも低く、また、前記一般式(1)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位が前記一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位よりも高い、[11]または[12]に記載のレーザー素子。
[14] 下記一般式(3)で表される化合物。
【化3】
[一般式(3)において、R
21およびR
25は各々独立にハメットのσp値が正の置換基を表し、R
23は置換基を表し、R
22、R
24、R
26~R
35は各々独立に水素原子または置換基を表す。ただし、R
21およびR
25がシアノ基であるとき、R
23は置換アリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。]
[15] R
23が置換アリール基である、[14]に記載の化合物。
[16] R
21およびR
25がシアノ基である、[14]または[15]に記載の化合物。
[17] 4位が無置換でその他の位置が置換されていてもよい2,6-ジシアノ-1,1-ジフェニルホスフィニンの4位をハロゲン化する工程と、その後にR
43-Hで表される化合物を反応させる工程を含む、一般式(4)で表される化合物の製造方法。
【化4】
[一般式(4)において、R
43は置換アリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表し、R
42、R
44、R
46~R
55は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
[18] 前記一般式(2)で表される化合物を含むレージング増感剤。
[19] [18]に記載のレージング増感剤と発光材料を含む発光層を有するレーザー素子であって、前記発光材料の発光励起一重項エネルギー準位が前記レージング増感剤の発光励起一重項エネルギー準位よりも低く、また、前記発光材料の発光励起三重項エネルギー準位が前記レージング増感剤の発光励起三重項エネルギー準位よりも高い、レーザー素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物はレーザー発振材料として有用であり、これにより、BSBCzとは骨格構造が異なる新たなレーザー発振材料を提供することができる。また、本発明のレーザー素子は、優れたレーザー発振特性を実現しうる。本発明のレーザー増感剤を用いることにより、レーザー素子の発振特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のレーザー素子の層構成例を示す概略断面図である。
【
図2】化合物1~3、5、7~12の各トルエン溶液の発光スペクトルである。
【
図3】化合物1の単独膜、化合物B1の単独膜、および、化合物1と化合物B1の混合膜の光吸収スペクトルと発光スペクトルである。
【
図4】化合物1と化合物B1のエネルギー関係とエネルギー移動の態様を示すエネルギー準位図である。
【
図5】実施例1~3で製造した分布帰還型の発光励起レーザー素子の層構成を示す概略断面図である。
【
図6】実施例4~7で製造した分布帰還型の電流励起レーザー素子の層構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0012】
<レーザー素子(第1のレーザー素子)>
本発明のレーザー素子(第1のレーザー素子)は、下記一般式(1)で表される化合物を発光層に含むものである。
本発明のレーザー素子は、一般式(1)で表される化合物を発光層に含むことにより、優れたレーザー発振特性を示す。これは、一般式(1)で表される化合物が励起一重項の反転分布を形成し易く、且つ、自然放出光や外部光の照射により、励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差速度よりも高速で、発光励起一重項状態からの放射失活が起こるためであると推測される。
発光層は、一般式(1)で表される化合物のみから構成されていてもよいし、その他の材料を含んでいてもよい。以下において、一般式(1)で表される化合物と、その他の発光層材料について説明する。
【0013】
【0014】
一般式(1)において、R1およびR5は各々独立にハメットのσp値が正の置換基を表す。R1とR5は互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。R1およびR5が、それぞれハメットのσp値が正の置換基であることにより、ホスフィニン構造が安定化する傾向がある。
ここで、「ハメットのσp値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσp
または
log(K/K0) = ρσp
における置換基に特有な定数(σp値)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσp値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。ハメットのσp値が負である置換基は電子供与性(ドナー性)を示し、ハメットのσp値が正である置換基は電子求引性(アクセプター性)を示す傾向がある。
【0015】
R1およびR5は各々独立にシアノ基、シアノ基で置換されたアリール基、または環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基であることが好ましい。ここで、シアノ基で置換されたアリール基はシアノ基以外の基でさらに置換されていてもよく、環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基は置換されていてもよい。
シアノ基で置換されたアリール基において、そのアリール基を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。アリール基を構成する芳香環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。各アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基を挙げることができる。
アリール基におけるシアノ基の置換数や置換位置は特に制限されない。アリール基の置換可能な位置の一部がシアノ基で置換されていてもよいし、アリール基の置換可能な位置の全部がシアノ基で置換されていてもよい。ここで「置換可能な位置」とは、置換基と置き換えることが可能な水素原子の位置のことをいう。置換基と置き換えることが可能な水素原子として、例えばアリール基を構成するメチン基の水素原子が挙げられる。アリール基の置換可能な位置の一部がシアノ基で置換されている場合、残りの置換可能な位置は、シアノ基以外の置換基で置換されていてもよいし、無置換であってもよい。
環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基において、そのヘテロアリール基を構成する複素芳香環は、単環であってもよいし、窒素原子を有する複素芳香環が2つ以上縮合した縮合環や、窒素原子を有する複素芳香環の少なくとも1つと芳香環の少なくとも1つが縮合した縮合環であってもよい。ヘテロアリール基を構成する複素芳香環は、環骨格構成原子として窒素原子を有する6員環を含むことが好ましく、その6員環における窒素原子の数は1~3であることが好ましい。環骨格構成原子として窒素原子を有する6員環の具体例として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環を挙げることができる。また、環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基は置換基で置換されていてもよい。
シアノ基で置換されたアリール基にさらに置換してもよい置換基、および、環骨格構成原子として窒素原子を有するヘテロアリール基に置換してもよい置換基として、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数5~40のヘテロアリール基等を挙げることができる。これらの置換基のうち置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。
【0016】
一般式(1)において、R2~R4、R6~R15は各々独立に水素原子または置換基を表す。R2~R4、R6~R15は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
R2~R4は、各々独立に水素原子、またはハメットのσp値が正の置換基であることが好ましく、各々独立に水素原子、またはハメットのσp値が負の置換基であることも好ましく、各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、またはR16CO-で表される基であることも好ましい。ここで、R16CO-におけるR16は水素原子または置換基である。
【0017】
R2~R4における「ハメットのσp値が正の置換基」の説明と、R2~R4が表す置換基の好ましい範囲と具体例については、R1およびR5における「ハメットのσp値が正の置換基」についての説明と、R1およびR5が表す置換基の好ましい範囲と具体例を参照することができる。これらのうち、より好ましい置換基はシアノ基で置換されたアリール基である。
【0018】
R2~R4における「ハメットのσp値が負の置換基」の好ましい例としては、置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造を含む基を挙げることができる。ここで、「ジアリールアミノ構造」とは、ジアリールアミノ基と、ジアリールアミノ基のアリール基同士が単結合または連結基で連結して複素環を形成している複素芳香環構造の両方を意味することとする。ジアリールアミノ構造の各アリール基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のアリール基を構成する芳香環についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。ジアリールアミノ構造が置換基を有する場合の置換基の説明と好ましい範囲については、下記一般式(5)のR61~R70等がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。また、ジアリールアミノ構造が上記の複素芳香環構造である場合のアリール基同士を連結する連結基の説明と好ましい範囲については、下記一般式(5)のR65とR66が互いに連結して連結基を形成している場合の連結基の説明と好ましい範囲を参照することができる。ジアリールアミノ構造は、一般式(1)におけるホスフィニン環へ、各アリール基の炭素原子で連結していてもよいし、各アリール基が結合している窒素原子で連結していてもよい。また、その炭素原子または窒素原子は、ホスフィニン環を構成する炭素原子へ単結合で結合していてもよいし、連結基で連結していてもよい。すなわち、ジアリールアミノ構造を含む基は、ジアリールアミノ構造をホスフィニン環へ連結する連結基を含んでいてもよい。ジアリールアミノ構造をベンゼン環へ連結する連結基は、特に限定されるものではないが、置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましい。置換もしくは無置換のアリーレン基の説明と好ましい範囲、具体例については、下記一般式(5)のL61における置換もしくは無置換のアリーレン基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。アリーレン基が置換基を有する場合の置換基の説明と好ましい範囲については、下記一般式(5)のR61~R70等がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0019】
ジアリールアミノ構造を含む基は、下記一般式(5)または下記一般式(6)で表される基であることが好ましい。
【0020】
【0021】
一般式(5)、(6)において、R61~R70、R165~R173は各々独立に水素原子または置換基を表す。R161~R164の1つは、一般式(1)におけるホスフィニン環への結合位置を表し、R161~R164の残りは各々独立に水素原子または置換基を表す。置換基の数は特に制限されず、R61~R70、R161~R173(ただし、ホスフィニン環への結合位置を除く)のすべてが無置換(すなわち水素原子)であってもよい。R61~R70のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R161~R173のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R61~R70、R161~R173がとりうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基である。
【0022】
R61とR62、R62とR63、R63とR64、R64とR65、R65とR66、R66とR67、R67とR68、R68とR69、R69とR70、R161とR162、R162とR163、R163とR164、R165とR166、R166とR167、R167とR168、R169とR170、R170とR171R171とR172、R172とR173は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環などを挙げることができる。
【0023】
一般式(5)で表される基の中では、R65とR66が互いに連結していないもの、R65とR66が互いに連結して単結合を形成しているもの、または、R65とR66が互いに結合して連結鎖長が1原子の連結基を形成しているものが好ましく、R65とR66が互いに連結していないもの、R65とR66が互いに連結して単結合を形成しているものがより好ましい。R65とR66が互いに結合して連結鎖長が1原子の連結基を形成している場合、R65とR66が互いに結合した結果として形成される環状構造は6員環となる。R65とR66が互いに結合して形成される連結基の具体例として、-O-、-S-、-N(R191)-または-C(R192)(R193)-で表される連結基が挙げられる。ここにおいて、R191~R193は各々独立に水素原子または置換基を表す。R191がとりうる置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基を例示することができる。R192およびR193がとりうる置換基としては、各々独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数12~40のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等を例示することができる。
【0024】
L61は単結合または置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。アリーレン基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のアリール基を構成する芳香環についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。L61における置換もしくは無置換のアリーレン基の具体例として、置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフチレン基、ビフェニル-ジイル基を挙げることができ、置換もしくは無置換のフェニレン基であることが好ましい。フェニレン基は1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよいが、1,4-フェニレン基であることが好ましい。アリーレン基が置換基を有する場合の置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR61~R70等がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
*は結合位置を示す。
【0025】
一般式(5)で表される基の好ましい例として、下記一般式(7)~(11)のいずれかで表される基を挙げることができる。
【0026】
【0027】
一般式(7)~(11)において、R91~R94、R97~R108、R111~R118、R121~R128、R131~R135、R141~R150は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R91とR92、R92とR93、R93とR94、R97とR98、R98とR99、R99とR100、R101とR102、R102とR103、R103とR104、R105とR106、R106とR107、R107とR108、R111とR112、R112とR113、R113とR114、R115とR116、R116とR117、R117とR118、R121とR122、R122とR123、R123とR124、R125とR126、R126とR127、R127とR128、R131とR132、R132とR133、R133とR134、R134とR135、R124とR131、R125とR135、R141とR142、R142とR143、R143とR144、R145とR146、R146とR147、R147とR148、R149とR150は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。L91、L101、L111、L121、L141は、各々独立に単結合または置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。*は結合位置を示す。
ここでいう置換基、環状構造および置換もしくは無置換のアリーレン基の説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(5)における置換基、環状構造および置換もしくは無置換のアリーレン基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。
【0028】
一般式(1)において、R2~R4における置換もしくは無置換のアリール基を構成する芳香環は、単環であってもよいし、2以上の芳香環が縮合した縮合環、芳香環の少なくとも1つとシクロアルケンの少なくとも1つが縮合した縮合環、2以上の芳香環がスピロ原子に結合したスピロ環、または、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。中でも、アリール基を構成する芳香環はベンゼン環単位を含む縮合環であることが好ましい。アリール基を構成する芳香環の炭素数は、6~25であることが好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、トリフェニレニル基、フルオレニル基、9,9’-スピロビフルオレニル基を挙げることができる。アリール基が置換基を有する場合の置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR61~R70等がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0029】
R2~R4におけるR16CO-で表される基のR16は、水素原子であっても置換基であってもよい。置換基の例として、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基等を挙げることができる。
【0030】
R2~R4のうちの置換基の数は特に制限されず、すべてが無置換であることも好ましく、R2~R4のうちの少なくとも1つが置換基であることも好ましい。また、置換基については、R2~R4のうちの少なくともR3が置換基であることが好ましく、その置換基は不飽和結合を含む置換基であることが好ましく、芳香環を含む置換基であることがより好ましい。R3を置換基として、その置換基の構造を様々に変化させることにより、レーザー素子の発光波長を容易に調整することができる。例えば、R3にσp値が負の置換基を導入した場合には、発光波長が長波長側にシフトする傾向があり、R3にσp値が正の置換基を導入した場合には、σp値が負の置換基を導入した場合に比べて、その発光波長が短波長側にシフトする傾向がある。
【0031】
R6~R15は水素原子であっても置換基であってもよい。R6~R15のうちの置換基の数は特に制限されず、すべてが無置換であってもよい。R6~R15がとりうる置換基の説明と好ましい範囲については、R61~R70等がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0032】
以下において、一般式(1)で表される化合物の好ましい例と具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表し、RはPh(フェニル基)、Me(メチル基)を表す。
【0033】
【0034】
また、一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1a)で表される化合物であることも好ましい。
【0035】
【化9】
一般式(1a)において、R
1a~R
5aは各々独立に水素原子または下記置換基群aから選択された置換基であり、R
1a~R
5aの少なくとも1つは下記置換基群aから選択された置換基である。
置換基群a
【0036】
【化10】
式において、Phはフェニル基を表し、Czはカルバゾリル基を表す。*は一般式(1a)におけるベンゼン環への結合位置を表す。
【0037】
一般式(1a)で表される化合物の具体例として、R1a~R5aの1つが、置換基群aから選択された基であって、R1a~R5aの残りが水素原子である化合物を挙げることができる。中でも、一般式(1a)で表される化合物は、下記式で表される化合物であることが好ましい。
【0038】
【0039】
[一般式(2)で表される化合物]
発光層は、一般式(1)で表される化合物のみで構成されていてもよいし、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分として下記一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を発光層に含むことにより、一般式(2)で表される化合物が、光吸収により得たエネルギーを一般式(1)で表される化合物に受け渡すレージング増感剤として効果的に機能し、レーザー素子のレーザー発振特性を向上させることができる。したがって、一般式(2)で表される化合物は、レージング増感剤として有用である。
一般式(2)
Z1-L-Z2
一般式(2)において、Z1およびZ2は各々独立に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を表し、そのジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに直接または連結基を介して結合している。Lは、置換もしくは無置換のアリーレン基と、置換もしくは無置換のエテニレン基をともに含む共役系連結基を表す。
【0040】
一般式(2)のLは、Z1とZ2を結ぶ連結鎖が共役構造をとっていて、置換もしくは無置換のアリーレン基と、置換もしくは無置換のエテニレン基をともに含む連結基である。共役系連結基における、置換もしくは無置換のアリーレン基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲については、一般式(1)に関して説明したアリール基を構成する芳香環についての記載を参照することができる。アリーレン基の具体例として、フェニレン基や、ビフェニル-ジイル基、ターフェニル-ジイル基等の2つ以上のフェニレン基が連結した構造を有するものを挙げることができ、フェニレン基およびビフェニル-ジイル基の少なくとも一方を共役系連結基に含むことが好ましい。また、これらのアリーレン基にベンゼン環等の芳香環が縮合した縮合環を共役系連結基に含んでいてもよい。
Lにおけるベンゼン環の数は、1以上であることが好ましく、例えば2以上、3以上、4以上とすることが可能であり、また、30以下、20以下、10以下とすることが可能である。ここで、共役系連結基にベンゼン環単位を含む縮合環を有する場合には、そのベンゼン環単位(縮合しているベンゼン環)の数をカウントすることとする。例えば、ナフタレン環であれば環は2つ、アントラセン環であれば環は3つとカウントする。
Lにおけるエテニレン基の数は、1以上であることが好ましく、例えば2以上、3以上、4以上とすることが可能であり、30以下、20以下、10以下とすることが可能である。
また、共役系連結基は、フェニレン基またはビフェニル-ジイル基と、エテニレン基が交互に位置した構造を有することが好ましく、そのうちZ1およびZ2と直接結合(単結合で結合)するのはフェニレン基であることが好ましい。
【0041】
また、共役系連結基は、置換もしくは無置換のアリーレン基および置換もしくは無置換のエテニレン基とともに、複素芳香環を有する2価の連結基を含んでいてもよい。ここでいう複素芳香環は5員環または6員環であることが好ましく、環骨格構成ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができる。より好ましい複素芳香環は窒素原子を環骨格構成ヘテロ原子として含む6員環および酸素原子を環骨格構成ヘテロ原子として含む5員環であり、例えばピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、フラン環を挙げることができる。Lが表す共役系連結基は、例えば2つ以上のベンゾフラン構造を連結した構造や、1つ以上のベンゾフラン構造と1つ以上のベンゼン環を連結した構造、1つ以上のベンゾフラン構造と1つ以上のエテニレン基を連結した構造、1つ以上のベンゾフラン構造と1つ以上のベンゼン環と1つ以上のエテニレン基を連結した構造を有していてもよい。Lが表す共役系連結基を構成するベンゼン環とフラン環は縮合していてもよく、また、複素芳香環とフラン環も縮合していてもよい。
Lが表す共役系連結基は、例えば下記の群Aから選択される1以上の基が連結した構造を有していてもよい。
【化12】
【0042】
*は連結位置を示す。上記の群Aの中のベンゾフラン構造を含む基とフルオレン構造を含む基は、それらの基を構成するベンゼン環の環骨格構成原子の少なくとも1つが窒素原子に置換されていてもよい。1つの環に置換される窒素原子の数は1または2であることが好ましく、2である場合は2つの窒素原子が直接結合しない位置(隣接しない位置)に置換されていることが好ましい。また、群Aの中の基において、ベンゾフランを構成するベンゼン環にさらに別の環が縮合しているものや、ベンゾフランを構成するフラン環にさらに別の環が縮合しているものや、ベンゾフランを構成するベンゼン環とフラン環の両方にそれぞれ別の環が縮合しているものを共役系連結基が有していてもよい。縮合する環は、芳香環、複素芳香環、非芳香環、複素非芳香環のいずれであってもよく、また環数は特に制限されない。環数は、例えば2~30の範囲内から選択したり、2~15の範囲内から選択したり、2~8の範囲内から選択したりしてもよい。
【0043】
また、Lが表す共役系連結基は、以下の一般式(12)で表される構造を含むものであることも好ましい。
【化13】
【0044】
一般式(12)において、R71~R74は、各々独立に水素原子または置換基を表し、R71とR72、R73とR74のうちの少なくとも1組が、互いに結合して連結基を形成していてもよい。連結基を形成するのは、R71とR72、R73とR74のいずれか一方の組合せであっても両方の組合せであってもよい。R71とR72、R73とR74が互いに結合して形成する連結基として-O-を挙げることができる。
*は連結位置を示す。一般式(12)中のベンゼン環に結合している水素原子は置換基で置換されていてもよい。
【0045】
Lで表される共役系連結基を構成するアリーレン基およびエテニレン基、複素芳香環、フラン環、ベンゾフラン構造等における水素原子は、置換基で置換されていてもよいし、無置換であることも好ましい。置換基として、例えばアルキル基(炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~6)、アルケニル基(炭素数は、好ましくは2~20、より好ましくは2~6)、アルキニル基(炭素数は、好ましくは2~20、より好ましくは2~6)、アリール基(炭素数は、好ましくは6~20、より好ましくは6~14)、ヘテロアリール基(環骨格構成原子数は、好ましくは5~20、より好ましくは5~14)などを挙げることができる。アリーレン基、複素芳香環、フラン環、ベンゾフラン環に結合する置換基は、互いに結合して環状構造を形成してもよい。そのような環状構造としては、芳香環、複素芳香環、非芳香族炭化水素環、非芳香族複素環などを挙げることができる。一方、エテニレン基の置換基は、互いに結合して環状構造を形成してもよいが、芳香環や複素芳香環は形成せず、非芳香族炭化水素環、非芳香族複素環であれば形成してもよい。置換基が結合して形成される環状構造は5~7員環であることが好ましく、5または6員環であることがより好ましい。
【0046】
一般式(2)におけるZ
1およびZ
2は、各々独立に置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を表し、前記ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに直接または連結基を介して結合している。Z
1およびZ
2は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また、Z
1およびZ
2は、各々独立に下記一般式(13)で表される基であることが好ましい。
【化14】
【0047】
一般式(13)において、R81~R90は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R85とR86は互いに結合して単結合または連結基を形成する。R81とR82、R82とR83、R83とR84、R84とR85、R86とR87、R87とR88、R88とR89、R89とR90は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。*は結合位置を示す。
R81~R84、R87~R90がとりうる置換基については、Lで表される共役系連結基を構成する環等の置換基に関する説明を参照することができる。また、R81とR82等が互いに結合して形成する環状構造については、Lで表される共役系連結基における環状構造に関する説明を参照することができる。
【0048】
一般式(13)で表される基の好ましい例として、上記の一般式(7)~(11)で表される基であって、L91、L101、L111、L121、L141がそれぞれ単結合であるものを挙げることができる。ただし、R91~R150がとりうる置換基およびR91とR92等が互いに結合して形成する環状構造については、一般式(2)のLに関する置換基と環状構造の説明を参照することができる。
一般式(7)~(11)の中では、一般式(7)で表されるものであることが好ましい。
【0049】
一般式(2)で表される化合物の例として、例えば下記一般式(14)で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
【0051】
一般式(14)において、R71~R78は各々独立に水素原子または置換基を表し、R71とR72、R73とR74、R75とR76、R77とR78のうちの少なくとも1組は、互いに結合して-O-を形成していてもよい。また、一般式(14)のベンゼン環に結合している水素原子は置換基で置換されていてもよいし、2つの置換基が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。置換基については、一般式(2)のLにおける置換基の説明を参照することができる。環状構造については、一般式(2)のLで表される共役系連結基における環状構造に関する説明を参照することができる。
【0052】
以下において、一般式(2)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(2)で表される化合物はこの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0053】
【0054】
[一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物のエネルギー関係]
一般式(2)によるレージング増感作用を効果的に得る観点から、一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位は一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位よりも低く、また、一般式(1)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位は一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位よりも高いことが好ましい。すなわち、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物は、下記の条件(I)および条件(II)の少なくともいずれかを満たすことが好ましく、条件(I)および条件(II)の両方を満たすことがより好ましい。
条件(I): ES1<E(B)S1
条件(II): ET1>E(B)T1
条件(I)において、ES1は一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位を示し、E(B)S1は一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位を示す。条件(II)において、ET1は一般式(1)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位を示し、E(B)T1は一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位を示す。
条件(I)を満たすことにより、一般式(2)で表される化合物が光吸収で得た励起一重項エネルギーを、一般式(1)で表される化合物の光励起一重項エネルギー準位へフェルスター移動機構で効率よく移動させることができる。また、条件(II)を満たすことにより、一般式(2)で表される化合物の励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差よりも、一般式(2)で表される化合物の光励起一重項エネルギー準位から一般式(1)で表される化合物の光励起一重項エネルギー準位へのエネルギー移動を優先的に生じさせることができる。これらにより、一般式(1)で表される化合物を効率よく光励起一重項エネルギー状態へ遷移させて反転分布の形成を促進することができる。また、条件(II)を満たすことにより、一般式(1)で表される化合物の励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差により生じた光励起三重項状態のエネルギーを、一般式(2)で表される化合物の光励起三重項エネルギー準位へデクスター移動機構で移動させることができる。その結果、一般式(1)で表される化合物において、励起三重項状態が高密度になることが抑えられ、一重項-三重項消滅が抑制される。以上により、条件(I)、(II)を満たすことにより発光効率が高くなり、レーザー発振特性を効果的に向上させることができる。ここにおいて、各エネルギー準位に複数の振動準位が存在する場合、少なくとも最も低い振動準位が条件(I)、(II)を満たすことが好ましく、全ての振動準位が条件(I)、(II)を満たすことがより好ましい。
【0055】
また、一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位と一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位の差(E(B)S1-ES1)は、0.01~2eVであることが好ましく、0.01~1eVであることがより好ましく、0.01~0.5eVであることがさらに好ましい。また、一般式(1)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位と一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位の差(ET1-E(B)T1)は、0.01~2eVであることが好ましく、0.01~1eVであることがより好ましく、0.01~0.5eVであることがさらに好ましい。
【0056】
本発明で用いる一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位(ES1)および発光励起三重項エネルギー準位(ET1)、一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位(E(B)S1)および発光励起三重項エネルギー準位(E(B)T1)は以下のようにして測定される。
[1]一般式(1)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位(ES1)および一般式(2)で表される化合物の発光励起一重項エネルギー準位(E(B)S1)
測定対象化合物をSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。ここで、励起光入射直後から入射後約数ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長とする蛍光スペクトルを得る。この蛍光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値を発光励起一重項エネルギー準位ES1またはE(B)S1とする。
換算式:発光励起一重項エネルギー準位[eV]=1239.85/λedge
蛍光スペクトルの測定は、例えば励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を用い、検出器にストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いて行うことができる。
[2]一般式(1)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位(ET1)および一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位(E(B)T1)
発光励起一重項エネルギー準位の測定に用いたものと同様の試料を30Kに冷却し、ストリークカメラを用いて燐光を測定する。蛍光よりも長寿命の発光成分を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長とする燐光スペクトルを得る。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値を発光励起三重項エネルギー準位ET1またはE(B)T1とする。
換算式:発光励起三重項エネルギー準位[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0057】
[レーザー素子の層構成]
一般式(1)で表される化合物を発光層の材料に用いることにより、レーザー発振特性に優れたレーザー素子が実現する。
本発明が適用されるレーザー素子は、発光層に励起光が照射されることでレーザー光を放射する光励起型レーザー素子であってもよいし、発光層に正孔と電子が注入され、それらが再結合して生じたエネルギーによりレーザー光を放射する電流励起型レーザー素子(有機半導体レーザー素子)であってもよい。光励起型レーザー素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、電流励起型レーザー素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を有するものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な電流励起型レーザー素子の構造例を
図1に示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。電流励起型レーザー素子において、発光層で生じたレーザー光は、陽極を透過して外部に取り出されても、陰極を透過して外部に取り出されてもよく、陽極および陰極を透過して外部に取り出されてもよい。また、発光層で生じたレーザー光は、有機層の端面から外部に取り出されてもよい。
以下において、電流励起型レーザー素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は光励起型レーザー素子の基板と発光層にも該当する。
【0058】
(基板)
本発明の電流励起型レーザー素子は、基板に支持されていることが好ましい。基板としては、電流励起型レーザー素子が基板側からレーザー光を取り出す構成である場合には、レーザー光に対して透光性を有する基板が用いられ、ガラス、透明プラスチック、石英などからなる透明基板を用いることが好ましい。一方、電流励起型レーザー素子が基板と反対側からレーザー光を取り出す構成である場合には、基板は特に制限されず、上記の透明基板の他、シリコン、紙、布からなる基板も用いることができる。
【0059】
(陽極)
電流励起型レーザー素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO、TiN等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等の非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極は、これらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により成膜して形成することができる。また、形成した薄膜に、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成して陽極としてもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。
ただし、電流励起型レーザー素子が、陽極を透過させてレーザー光を取り出す構成である場合には、陽極はレーザー光に対して透光性を有することを要し、そのレーザー光の透過率が1%より大きくなるように構成することが好ましく、10%より大きくなるように構成することがより好ましい。具体的には、上記の導電性透明材料を陽極に用いるか、金属または合金を10~100nmの厚さで形成した薄膜を陽極に用いることが好ましい。
また、下記の(陰極)の欄で例示する金属や合金等の電極材料からなる電極と、三酸化モリブデン等の正孔注入性材料からなる層を積層した積層膜も陽極として用いることができる。
陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0060】
(陰極)
一方、陰極としては、陽極に用いる材料よりも仕事関数が小さい金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極は、これらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により成膜して形成することができる。
ただし、電流励起型レーザー素子が、陰極を透過させてレーザー光を取り出す構成である場合には、陰極はレーザー光に対して透光性を有することを要し、そのレーザー光の透過率が1%より大きくなるように構成することが好ましく、10%より大きくなるように構成することがより好ましい。具体的には、上記の電極材料を10~100nmの厚さで形成した薄膜を陰極に用いることが好ましい。
また、上記の(陽極)の欄で例示したインジウムチンオキサイド(ITO)等の導電性透明材料からなる電極と、セシウム(Cs)等の電子注入性材料を含む有機層を積層した積層膜も陰極として用いることができる。
陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。
【0061】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成し、反転分布が形成された後、レーザー光を放射する層である。
発光層の発光材料(レーザー発振材料)には、一般式(1)で表される化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。発光層は、一般式(1)で表される化合物のみを含むものであってもよいが、レージング増感剤やホスト材料等のその他の材料を含んでいてもよい。その他の材料の好適な例として、一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。発光層が一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含むことにより、一般式(2)で表される化合物が、一般式(1)で表される化合物の発光過程を促進するレーザー増感剤として効果的に機能し、レーザー発振特性を向上させることができる。発光層には、一般式(2)で表される化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
本発明のレーザー素子において、レーザー光は、発光材料として含まれる一般式(1)で表される化合物から放射される。このレーザー光は自然放出増幅光であっても、外部から照射された光により誘導放出された誘導放出光であってもよい。また、発光層からの光は、一般式(2)で表される化合物から放出された光を含んでいてもよい。
一般式(2)で表される化合物を用いる場合、発光層における一般式(1)で表される化合物の含有量は0.01~10重量%であって、一般式(2)で表される化合物の含有量が一般式(1)で表される化合物の含有量よりも多いことが好ましい。また、発光層における一般式(1)で表される化合物の含有量は、例えば0.1重量%以上、0.5重量%以上とすることが可能であり、また、90重量%以下、50重量%以下とすることが可能である。
【0062】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0063】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0064】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0065】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0066】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0067】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0068】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0069】
(共振器構造)
本発明の電流励起型レーザー素子は、さらに、共振器構造を有していてもよい。「共振器構造」とは、発光材料が放出した光を発光層中で往復させるための構造である。これにより、光が繰り返し発光層中を走行して誘導放出を引き起こすため、より高い強度のレーザー光を得ることができる。共振器構造は、具体的には一対の反射鏡により構成され、一方の反射鏡は100%の反射率を有することが好ましく、他方の反射鏡は、反射率が50~95%であることが好ましい。他方の反射鏡の反射率を比較的低く設定することにより、この反射鏡を透過させてレーザー光を外部に取り出すことが可能になる。以下では、レーザー光を取り出す側の反射鏡を「出力鏡」という。反射鏡および出力鏡は、上記の電流励起型レーザー素子を構成する各層および各部とは別に設けてもよいし、陽極や陰極に反射鏡または出力鏡の機能を兼ねさせてもよい。
【0070】
例えば、陽極に反射鏡または出力鏡の機能を兼ねさせる場合には、陽極は、可視光の吸収が小さく、反射率が高く、且つ、仕事関数が比較的大きい(4.0eV以上)金属膜により構成することが好ましい。そのような金属膜として、例えばAg、Pt、Au等の金属膜、または、これらの金属を含む合金膜を挙げることができる。陽極の反射率および透過率は、例えば数十nm以上の範囲で、金属膜の膜厚を制御することにより所望の値に調整することができる。
陰極に反射鏡または出力鏡の機能を兼ねさせる場合には、陰極は、可視光の吸収が小さく、反射率が高く、且つ、仕事関数が比較的小さい金属膜により構成することが好ましい。そのような金属膜として、例えばAl、Mg等の金属膜、または、これらの金属を含む合金膜を挙げることができる。陰極の反射率および透過率は、例えば数十nm以上の範囲で、金属膜の膜厚を制御することにより所望の値に調整することができる。
反射鏡または出力鏡を、上記の各層および各部とは別に設ける場合には、陽極と有機層との間、または、基板と陽極の間に反射性の膜を形成して反射鏡または出力鏡として機能させることが好ましい。
陽極と有機層との間に反射鏡または出力鏡を設ける場合には、それらの材料として、可視光の吸収が小さく、高い反射率が得られ、且つ、仕事関数が大きい(仕事関数4.0eV以上)導電性材料を用いることが好ましい。具体的には、Ag、Pt、Au等の金属、または、これらの金属を含む合金からなる金属膜を反射鏡または出力鏡として用いることができる。この反射鏡または出力鏡の反射率および透過率は、例えば数十nm以上の範囲で、金属膜の膜厚を制御することにより所望の値に調整することができる。ここで、こうした反射鏡または出力鏡を陽極と有機層との間に設ける場合には、陽極の材料は、仕事関数が大きいものである必要はなく、公知の電極材料を広く用いることができる。
基板と陽極の間に反射鏡または出力鏡を設ける場合には、それらの材料として、可視光の吸収が小さく、高い反射率が得られるものを用いることが好ましい。具体的には、Al、Ag、Pt等の金属、または、これらの金属を含む合金からなる金属膜、AlとSiの合金膜上にTi膜を積層した積層膜、酸化ケイ素と酸化チタンを交互に成膜した誘電体多層膜等を反射鏡または出力鏡として用いることができる。このうち、金属膜の反射率および透過率は、例えば数十nm以上の範囲で膜厚を制御することにより所望の値に調整することができる。また、誘電体多層膜の反射率および透過率は、酸化ケイ素と酸化チタンの膜厚および積層数を制御することによって所望の値に調整することができる。
反射鏡と出力鏡の組み合わせとしては、出力鏡が陽極であり、反射鏡が陰極である組み合わせ、出力鏡が陽極と有機層の間または基板と陽極の間に配された反射性の膜であり、反射鏡が陰極である組み合わせ、反射鏡が陽極であり、出力鏡が陰極である組み合わせ、反射鏡が陽極と有機層の間または基板と陽極の間に配された反射性の膜であり、出力鏡が陰極である組み合わせを挙げることができる。
こうした共振器構造では、反射鏡と出力鏡の間に介在する層の光学膜厚の合計(各層のそれぞれについて、その膜厚に屈折率を乗じた値の合計)がレーザー光の半波長の整数倍となるように、素子の層構造を設計することが好ましい。これにより、反射鏡と出力鏡の間で定在波が形成されて光が増幅され、より高い強度のレーザー光を得ることができる。
【0071】
また、以上の共振器構造は、基板の主面に対する垂直方向にレーザー光を往復させるものであるが、共振器構造は、基板の主面に対する水平方向にレーザー光を往復させるものであってもよい。こうした共振器構造は、有機層と空気との屈折率差による反射を利用し、有機層の端面を反射鏡または出力鏡として構成することができる。また、発光層付近に、λ/2n(λ:光の波長、n:1以上の整数)の格子間隔で回折格子を設け、発光層で発生した光を回折格子の格子間隔によって周期的に反射させるようにしてもよい。これにより、単一の縦モードが実現でき、有機層の端面から単色性の良いレーザー光を放射させることができる。
【0072】
以上のような電流励起型レーザー素子は、陽極と陰極の間に閾値電流密度以上の電流を流すことによりレーザー光を放射する。このとき、本発明のレーザー素子では、一般式(1)で表される化合物を発光層に含むことにより、優れたレーザー発振特性を得ることができる。さらに、一般式(2)で表される化合物を含むことにより、レーザー発振特性を向上させることができる。
【0073】
本発明の電流励起型レーザー素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物や一般式(2)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0074】
<一般式(3)で表される化合物>
一般式(1)で表される化合物のうち、一般式(3)で表される化合物は新規化合物である。
【0075】
【化17】
一般式(3)において、R
21およびR
25は各々独立にハメットのσp値が正の置換基を表し、R
23は置換基を表し、R
22、R
24、R
26~R
35は各々独立に水素原子または置換基を表す。ただし、R
21およびR
25がシアノ基であるとき、R
23は置換アリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
一般式(3)のR
21、R
22、R
24~R
35の説明と好ましい範囲、具体例については、それぞれ、一般式(1)のR
1、R
2、R
4~R
15についての記載を参照することができる。一般式(3)のR
23の説明と好ましい範囲、具体例については、一般式(1)のR
2~R
4における置換基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができ、中でも、R
23は置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、R
36CO-(R
36は水素原子または置換基を表す)、またはハロゲン原子であることが好ましい。例えば、R
23として、置換アリール基を特に選択することができる。また、R
23としてハロゲン原子を特に選択することもできる。また、R
23としてR
36CO-を特に選択することもできる。
一般式(3)で表される化合物は、レーザー素子の発光層の材料として有用である。さらに、一般式(3)のR
23がハロゲン原子である化合物は、R
23にハロゲン原子以外の置換基を有する化合物を合成する際の原料としても有用である。特にR
21およびR
25がシアノ基でR
23がハロゲン原子である化合物は、下記一般式(4)で表される化合物の合成原料としても有用である。一般式(3)のR
21およびR
25がシアノ基でR
23がハロゲン原子である化合物を合成原料として用いる、一般式(4)で表される化合物の合成方法については、下記の<一般式(4)で表される化合物の製造方法>の欄の記載を参照することができる。
【0076】
<一般式(4)で表される化合物の製造方法>
次に、下記の一般式(4)で表される化合物の製造方法について説明する。
【0077】
【化18】
一般式(4)において、R
43は置換アリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表し、R
42、R
44、R
46~R
55は各々独立に水素原子または置換基を表す。
一般式(4)のR
42、R
44、R
46~R
55の説明と好ましい範囲、具体例については、それぞれ、一般式(1)のR
2、R
4、R
6~R
15についての記載を参照することができる。一般式(4)のR
43が採りうるアリール基の芳香環とヘテロアリール基の複素芳香環の説明と好ましい範囲、具体例、置換基については、それぞれ、一般式(1)のR
3についての説明のうち、置換アリール基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基に関する記載を参照することができる。
本発明の製造方法では、4位が無置換でその他の位置が置換されていてもよい2,6-ジシアノ-1,1-ジフェニルホスフィニンの4位をハロゲン化する工程と、その後にR
43-Hで表される化合物を反応させる工程を用いて一般式(4)で表される化合物を製造する。本発明の製造方法で行う反応を下記に示す。
【0078】
【0079】
上記の反応式において、R42、R44、R46~R55の説明については、一般式(4)における対応する記載を参照することができる。
Xはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子がより好ましい。臭素原子を導入する臭素化剤として、例えばN-ブロモスクシンイミドを用いることができる。
上記の反応は、ホスフィニンにおける4位の選択的求電子置換反応と、鈴木カップリング反応などの公知のカップリング反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。
<レージング増感剤>
次に、本発明のレージング増感剤について説明する。
本発明のレージング増感剤は、一般式(2)で表される化合物を含むものである。
一般式(2)で表される構造および一般式(2)の説明については、[一般式(2)で表される化合物]の欄の記載を参照することができる。
一般式(2)で表される化合物は、光吸収で得た励起一重項エネルギーを発光材料に渡し易く、また、発光材料の項間交差により生じた励起三重項エネルギーを受け取り易い特性がある。そのため、一般式(2)で表される化合物は、発光材料の光励起一重項状態への遷移、反転分布の形成を促進するとともに、発光材料における一重項-三重項消滅を抑制するように作用して、発光材料のレーザー発振特性を向上させることができる。このため、一般式(2)で表される化合物は、レージング増感剤として有用である。
【0080】
<レーザー素子(第2のレーザー素子)>
次に、本発明の第2のレーザー素子について説明する。
本発明のレーザー素子(第2のレーザー素子)は、レージング増感剤と発光材料を含む発光層を有するレーザー素子である。ここで、レージング増感剤は、上記の一般式(2)で表される化合物を含むものである。一般式(2)で表される構造および一般式(2)の説明については、[一般式(2)で表される化合物]の欄の記載を参照することができ、一般式(2)で表される化合物のレージング増感剤としての作用については、上記の(一般式(2)で表される化合物)の欄の記載、および、<レージング増感剤>の欄の記載を参照することができる。
そして、第2のレーザー素子では、発光材料の発光励起一重項エネルギー準位がレージング増感剤の発光励起一重項エネルギー準位よりも低く、また、発光材料の発光励起三重項エネルギー準位がレージング増感剤の発光励起三重項エネルギー準位よりも高い。これにより、一般式(2)で表される化合物が光吸収により得た励起一重項エネルギーを、発光材料の発光励起一重項エネルギー準位へフェルスター移動機構で移動させることができ、また、発光材料の項間交差により生じた励起三重項エネルギーを一般式(2)で表される化合物の発光励起三重項エネルギー準位へデクスター移動機構で移動させることができる。そのため、このレーザー素子では、レージング増感剤がより効果的に機能して、レーザー発振特性を向上させることができる。ここで、このメカニズムの詳細については、[一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物のエネルギー関係]の欄の記載を、「一般式(1)で表される化合物」を「発光材料」に読み替えて参照することができる。
発光材料は、自然放出増幅光や誘導放出光を放射しうる化合物であって、上記のエネルギー関係を示すものであれば制限なく用いることができる。
第2のレーザー素子の層構成については、上記の[レーザー素子の層構成]の欄の記載を、「一般式(1)で表される化合物」を「発光材料」に読み替えて参照することができる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、蛍光分光光度計(日本分光社製:FP-8600)、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347-01)、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製:PMA-12)を用いて行った。
【0082】
[1]一般式(1)で表される化合物の合成
(合成例1) 化合物1の合成
[1-1]ビス(シアノメチル)ジフェニルホスホニウムクロリド(中間体1)の合成工程
【化20】
【0083】
ジフェニルトリメチルシリルホスフィン(11.55g、44.7 mmol)をクロロアセトニトリル(16.8g、5.0当量)に溶解させ、60℃で48時間撹拌した。この混合物を冷却し、析出した沈殿物を濾別することで黄色固体を得た。この黄色固体を、クロロホルムとジエチルエーテルで洗浄し、70℃で2時間減圧乾燥することにより、中間体1の白色固体を収量9.84g、収率73%で得た。
【0084】
[1-2]N,N’-ジフェニル-1,3-ジイミノプロパン(中間体2)の合成工程
【化21】
【0085】
1,1,3,3-テトラメトキシプロパン(5.01g、30.5mmol)とアニリン(5.80g、62.3mmol)をエタノール(60mL)に溶解させ、0℃に冷却した。この混合物に濃塩酸(6mL)を加え、室温に戻した後、16時間撹拌した。この反応液を減圧濃縮し、析出した沈殿物を濾別することで黄色固体を得た。この黄色固体をメタノールで再結晶させることにより、中間体2の黄色固体を収量6.12g、収率90%で得た。
【0086】
[1-3]2,6-ジシアノ-1,1-ジフェニル-λ
5σ
4ホスフィニン(化合物1)の合成工程
【化22】
【0087】
中間体1(2.11g、7.02mmol)と中間体2(1.87g、8.41mmol、1.2当量)をジメチルスルホキシド(35mL)に溶解させ、ジアザビシクロウンデセン(2.16g、14.2mmol、2.0当量)を加えた後、室温で17時間撹拌した。この反応液に1N塩酸(20mL)を加え、15分間撹拌した後、酢酸エチルで3回抽出を行った。3回分の有機層を1つに合わせて塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶剤を減圧留去した。この残渣を、酢酸エチル/クロロホルム/n-ヘキサン=1/1/3の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルクロマトグラフィにて精製し、化合物1の黄色固体を収量1.89g、収率90%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 5.51 (td, J = 8.5, 2.0 Hz, 1H), 7.62-7.66 (m, 5H), 7.68-7.70 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.79-7.83 (m, 6H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 56.81, 57.67, 103.49, 103.59, 119.03, 119.13, 125.43, 126.16, 130.48, 130.58, 132.50, 132.59, 134.49, 134.52, 147.35; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 11.70; MS (ASAP): m/z calcd for C19H13N2P: 300.0816 ([M]+1); found. 301.17.
【0088】
(合成例2) 化合物2の合成
[2-1]4-ブロモー2,6-ジシアノ-1,1-ジフェニル-λ
5σ
4ホスフィニン(中間体3)の合成工程
【化23】
【0089】
化合物1(1.05g、3.5mmol)をジクロロメタン(17.5mL)に溶解させた後、ピリジニウムブロミドペルブロミド(1.12g、3.5mmol、1.0当量)を加え、室温で1時間撹拌した。この混合物に水を加え、クロロホルムで3回抽出を行った。3回分の有機層を1つに合わせて1M塩酸と塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。得られた残渣を、クロロホルムを溶離液に用いてシリカゲルカルムクロマトグラフィにて粗精製し、クロロホルムとジエチルエーテルの混合溶媒で再結晶させることにより、中間体3の赤橙固体を収量1.17g、収率88%で得た。
【0090】
[2-2]4-(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)-1,1-ジフェニル-1λ
5-ホスフィニン-2,6-ジカルボニトリル(化合物2)の合成工程
【化24】
【0091】
中間体3(0.377g、1mmol、1.0当量)、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸(0.433g、1.5mmol、1.5当量)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(28mg、0.04mmol、4mol%)および炭酸ナトリウム(1.05g、10mmol、10当量)をトルエン:エタノール:水=10:2.5:10の混合溶媒に溶解させ、85℃で24h時間還流を行った。この混合物を室温まで冷却した後、水を加え、クロロホルムで4回抽出を行った。4回分の有機層を1つに合わせて塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶剤を減圧留去した。得られた残渣を、酢酸エチル/n-ヘキサン= 1/3の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物2の赤色固体を収量0.37g、収率68%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 6.94-6.95 (d, J = 5.0 Hz, 2 H), 6.98-6.70 (d, J = 10.0 Hz, 4H), 7.01-7.04 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 7.27-7.30 (t, J =7.5 Hz, 4H), 7.40-7.42 (d, J = 5.0 Hz, 2H), 7.67-7.87 (m, 10H), 7.99 (s, 1H), 8.05 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 58.29, 59.15, 115.61, 115.69, 118.99, 119.08, 123.26, 124.02, 124.55, 124.77, 125.50, 126.20, 129.97, 130.55, 130.66, 132.67, 132.76, 134.29, 134.69, 145.51, 145.76, 147.70; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.43; MS(ASAP): m/z calcd. for C37H26N3P: 543.1864 ([M]+1); found. 544.40.
【0092】
(合成例3) 化合物3の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして赤色固体の化合物3を収量0.40g、収率74%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 7.27-7.30 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.32-7.34 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.37-7.39 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.41-7.44 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.52-7.57 (m, 2H), 7.62-7.63 (t, J=5.0 Hz, 2H), 7.71-7.72 (d, J = 5.0 Hz, 2H), 7.73-7.88 (m, 10H), 8.14 (s, 1H), 8.19 (s, 1H), 8.27-8.29 (d, J = 10.0 Hz, 1 H), 8.40 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ58.05, 58.91, 110.11, 116.91, 116.99, 117.24, 119.20, 119.30, 120.49, 121.22, 123.43, 123.74, 124.17, 125.01, 125.75, 126.79, 127.02, 128.06, 130.57, 130.68, 132.20, 132.67, 132.76, 134.66, 137.40, 139.13, 140.97, 146.17; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.51; MS(ASAP): m/z calcd. for C37H24N3P: 541.1708 ([M]+1); found. 542.24.
【0093】
(合成例4) 化合物5の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、(4-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)ホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして黄橙色固体の化合物5を収量0.40g、収率71%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 2.48 (s, 6H), 7.22-7.24 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 7.24-7.28 (t, J = 10.0 Hz, 2H), 7.51-7.53 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 7.72-7.75 (t, J =7.5 Hz, 2H), 7.74-7.76 (d, J = 10.0 Hz, 4H), 7.82-7.89 (m, 6H), 7.98 (s, 2H), 8.17 (s, 1H), 8.23 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 21.49, 58.81, 59.66, 109.78, 115.15, 115.23, 118.91, 119.01, 120.68, 123.22, 124.65, 125.38, 126.61, 126.88, 127.78, 129.12, 130.60, 130.71, 132.74, 132.83, 134.77, 135.29, 138.42, 139.09, 146.32; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.38; HRMS(ASAP): m/z calcd. for C39H28N3P: 569.2021 ([M]+1); found. 570.40.
【0094】
(合成例5) 化合物7の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、((3-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)ホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして黄色固体の化合物7を収量0.38g、収率67%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 2.48 (s, 6H), 7.22-7.24 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 7.30-7.32 (t, J = 10.0 Hz, 2H), 7.36-7.38 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.57-7.62 (m, 2H), 7.69-7.72 (t, J= 7.5 Hz, 2H), 7.73 (m, 3H), 7.79.7.87 (m, 6H), 7.97 (s, 2H), 8.19 (s, 1H), 8.25 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 21.50, 58.77, 59.63, 110.05, 114.94, 115.02, 118.86, 118.96, 120.56, 122.98, 123.17, 123.90, 123.96, 124.66, 125.39, 127.76, 129.01, 130.56, 130.66, 130.73, 132.73, 132.82, 134.73, 138.26, 139.19, 141.53, 146.55; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.34; MS(ASAP): m/z calcd. for C39H28N3P: 569.2021 ([M]+1); found. 570.31.
【0095】
(合成例6) 化合物8の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)ホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして橙色固体の化合物8を収量0.34g、収率70%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 1.46 (s, 6H), 7.26-7.33 (m, 2H), 7.45-7.47 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.51-7.52 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.70-7.88 (m, 13H), 8.16 (s, 1H), 8.22 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ27.33, 47.00, 58.45, 59.31, 116.33, 116.41, 119.06, 119.15, 119.61, 120.34, 120.76, 123.13, 123.93, 124.81, 125.54, 127.39, 127.45, 130.57, 130.67, 132.70, 132.79, 134.70, 136.61, 138.77, 138.91, 146.21, 153.92, 154.48; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.31; MS(ASAP): m/z calcd. for C34H25N2P: 492.1755 ([M]+1); found. 493.33.
【0096】
(合成例7) 化合物9の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、(9,9-ジフェニル-9H-フルオレン-2-イル)ホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして橙色固体の化合物9を収量0.46g、収率75%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 7.17-7.19 (d, J = 10.0 Hz, 4H), 7.21-7.23 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 7.24-7.29 (m, 5H), 7.36-7.39 (m, 2H), 7.52-7.54 (d, J= 10.0 Hz, 1H), 7.64-7.71 (m, 5H), 7.77-7.91 (m, 8H), 8.07 (s, 1H), 8.13 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 58.61, 59.47, 65.58, 115.72, 115.80, 118.96, 119.06, 120.77, 121.26, 122.20, 124.69, 124.79, 125.42, 126.52, 127.04, 127.85, 128.12, 128.34, 128.77, 130.53, 130.63, 132.73, 132.82, 134.68, 137.67, 139.34, 139.86, 146.22, 146.27, 151.09, 151.84; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.30; MS(ASAP): m/z calcd. for C44H29N2P: 616.2068 ([M]+1); found. 617.38.
【0097】
(合成例8) 化合物10の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、9,9’-スピロビ[9H-フルオレン]-2-ホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして橙色固体の化合物10を収量0.36g、収率59%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 6.51-6.52 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 6.61-6.63 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 6.75 (s, 1H), 7.06-7.09 (t, J= 7.5 Hz, 1H), 7.12-7.15 (t, J =7.5 Hz, 2H), 7.35-7.39 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.39-7.42 (t, J = 7.5 Hz, 2H),7.52-7.54 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.61-7.63 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 7.64-7.66 (d, J = 10.0 Hz, 2 H), 7.73-7.83 (m, 7H), 7.86 (s, 1H), 7.97-7.99 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 8.01-8.02 (d,J = 5.0 Hz, 2H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 58.56, 59.42, 66.00, 115.51, 115.60, 118.82, 118.91, 119.90, 120.77, 121.04, 121.27, 123.71, 123.98, 124.66, 125.32, 125.39, 128.04, 128.32, 128.35, 128.44, 130.46, 130.56, 132.70, 132.80, 134.62, 139.60, 139.67, 141.38, 141.83, 146.10, 148.78, 149.08, 149.23; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.41; MS(ASAP): m/z calcd. for C44H27N2P: 614.1912 ([M]+1); found. 615.39.
【0098】
(合成例9) 化合物11の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、2-トリフェニレンホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして橙色固体の化合物11を収量0.37g、収率70%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 7.68-7.72 (m, 3H), 7.75-7.79 (m, 4H), 7.83-7.90 (m, 7H), 8.43 (s, 1H), 8.49 (s, 1H), 8.73-8.75 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 8.79 (m, 3H), 8.85 (s, 1H), 9.06-9.08 (m, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 58.89, 59.74, 115.56, 115.64, 119.06, 119.15, 119.22, 123.90, 124.01, 124.54, 124.75, 124.85, 124.89, 125.48, 127.37, 127.69, 127.83, 128.09, 129.32, 129.63, 129.84, 129.86, 130.18, 130.60, 130.70, 132.77, 132.86, 134.72, 138.63, 146.76; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 9.34; MS(ASAP): m/z calcd. for C37H23N2P: 526.1599 ([M]+); found. 527.39.
【0099】
(合成例10) 化合物12の合成
[2-2]の工程において、(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)ボロン酸の代わりに、2-トリフェニレンホロン酸を用いたこと以外は、合成例2と同様にして黄色固体の化合物12を収量0.24g、収率60%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 7.69-7.76 (m, 8H), 7.80-7.89 (m, 6H), 8.22 (s, 1H), 8.28 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 59.91, 60.77, 107.98, 113.77, 113.85, 118.57, 118.67, 119.66, 124.19, 124.92, 125.41, 130.63, 130.74, 132.80, 132.89, 132.97, 134.90, 144.00, 146.85; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 8.82; MS(ASAP): m/z calcd. for C26H16N3P: 401.1082 ([M]+1); found. 402.20.
【0100】
(合成例11) 化合物13の合成
化合物1(600mg、2.0mmol)をジメチルホルムアミド(5ml)に溶解し、塩化ホスホリル(357mg、2.3ミリモル、1.15当量)を室温で加え、60℃で3時間撹拌した。この混合物を室温に冷却して水を加え、10分間撹拌して反応を停止させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、得られた塩基性溶液を酢酸エチルで5回抽出した。有機層をブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空濃縮した。得られた残渣を、酢酸エチル/トリクロロメタン(1/2)を溶離液に用いてシリカゲルカルムクロマトグラフィにて粗精製し、クロロホルムとジエチルエーテルの混合溶媒で再結晶させることにより、黄色固体の化合物13を収量0.55g、収率84%で得た。
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6) δ 7.72-7.76 (q, J = 5.0 Hz, 4H), 7.81-7.85 (m, 4H), 7.89-7.92 (t, J= 7.5 Hz, 2H) 8.29 (s, 1H), 8.35 (s, 1H), 9.25 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-D6) δ 114.90, 114.97, 116.14, 116.24, 121.45, 122.19, 129.76, 129.87, 131.99, 132.09, 134.33, 134.36, 186.07; 31P NMR (202 MHz, DMSO-D6) δ 11.09; MS(ASAP): m/z calcd. for C20H13N2OP: 328.0765 ([M]+1); found. 329.16.
【0101】
以下の実施例で使用した化合物1の発光励起一重項エネルギー準位ES1および発光励起三重項エネルギー準位ET1、化合物B1の発光励起一重項エネルギー準位E(B)S1および発光励起三重項エネルギー準位E(B)T1を表1に示す。
【0102】
【0103】
[2]PL特性およびASE特性の評価
(発光波長の評価)
窒素雰囲気のグローブボックス中で化合物1~3、5、7~12をそれぞれトルエンに溶解させてトルエン溶液(濃度10
-5mol/L)を調製し、350nm励起光による発光スペクトルを測定した。その結果を
図2に示す。
ここで使用した化合物1~3、5、7~12は、いずれも一般式(1)で表される化合物であるが、R
3の構造が互いに異なるものである。
図2に示すように、これらのトルエン溶液の発光ピークは、その溶液が含む化合物のR
3の構造に依存して450~700nmの広い範囲で変化した。そして、化合物12のように、R
3が電子求引性基である場合には短波長側に発光ピークが現れ、R
3の電子供与性が強くなる程、発光ピークが長波長側にシフトする傾向が見られた。このことから、一般式(1)のR
3の種類や構造を制御することにより、発光色を広い範囲で微調整できることがわかった。
【0104】
(薄膜試料の作製)
真空蒸着法にて、真空度10-4Pa以下の条件で、化合物1の薄膜(単独膜)および化合物B1の薄膜(単独膜)をそれぞれ200nmの厚さで石英基板上に形成した。
また、石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10-4Pa以下の条件で、化合物1と化合物B1とを異なる蒸着源から共蒸着して薄膜(混合膜)を200nmの厚さで形成した。このとき、化合物1の濃度は0.5重量%または1.0重量%として、化合物1の濃度が異なる2種類の混合膜を形成した。
さらに、スピンコート法にて、化合物1とポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるポリマー膜を200nmの厚さで石英基板上に形成した。このとき、化合物1の濃度は1.0重量%とした。
【0105】
(光吸収特性とPL発光特性の評価)
作製した各単独膜、および、化合物1の濃度が1.0重量%である混合膜について、光吸収スペクトルと337nm励起光による発光スペクトルを室温で測定した。その結果を
図3に示す。
図3中、(Abs)は吸収スペクトルであることを示し、(PL)は発光スペクトルであることを示す。
図3に示すように、各膜において吸収ピークと発光ピークが観測され、化合物B1の単独膜の発光波長領域と、化合物1の単独膜の吸収波長領域は大きく重なっていた。このことは、化合物1と化合物B1の混合膜では、化合物B1の光吸収によるエネルギーの殆どが化合物1に移動して、化合物1の発光に供されることを意味している。このことから、混合膜の発光は、化合物1に由来する発光であることがわかった。
なお、混合膜について、77Kで燐光スペクトルを測定したところ、燐光発光は観測されなかった。このことから、化合物B1から受け取ったエネルギーにより化合物1で生成する励起子は、主に一重項励起子であることが示された。
【0106】
また、化合物B1の単独膜、1.0重量%の化合物1と化合物B1を含む混合膜、および1.0重量%の化合物1を含むポリマー膜について、300Kで測定した発光寿命、フォトルミネッセンス量子収率(PLQY)、放射減衰定数を表2に示す。表2中、「1重量%の化合物1と化合物B1からなる混合膜」の欄における350~420nm波長範囲は化合物B1の発光が支配的な領域、550~700nm波長範囲は化合物1の発光が支配的な領域を示す。
【表2】
【0107】
表2に示すように、化合物1を含むポリマー膜、化合物1と化合物B1の混合膜はいずれも高いPLQYを示したが、混合膜のPLQYの方がポリマー膜のPLQYよりも高い値であった。このように、化合物1と化合物B1の混合膜で高いPLQYが達成されたのは、化合物1の発光励起一重項エネルギー準位E
S1が化合物B1の発光励起一重項エネルギー準位E(B)
S1よりも低く(E
S1<E(B)
S1)、また、化合物1の発光励起三重項エネルギー準位E
T1が化合物B1の発光励起三重項エネルギー準位E(B)
T1よりも高い(E
T1>E(B)
T1)ことにより、以下のメカニズムが働いたためであると推測される。
すなわち、E
S1<E(B)
S1であることにより、
図4に示すように化合物B1で生成した励起一重項エネルギーは、化合物1の発光励起一重項エネルギー準位E
S1へフェルスター移動機構で移動する。これにより、化合物1は発光励起一重項状態になって発光するが、発光励起一重項状態になった化合物1の一部は、発光励起一重項状態から発光励起三重項状態への項間交差を起こして発光励起三重項状態へと遷移する。ここで、発光励起三重項状態は長寿命であるために、そのエネルギーの移動先がない場合には、そこに蓄積して高密度になり、一重項-三重項消滅を引き起こしてPLQYを低下させてしまう。これに対して、E
T1>E(B)
T1を満たしていると、化合物1の励起三重項エネルギーが化合物B1の発光励起三重項エネルギー準位E(B)
T1へデクスター移動機構で移動して、化合物1での励起三重項状態の蓄積が抑えられる。その結果、励起三重項状態の蓄積により誘起される一重項-三重項消滅も抑えられ、高いPLQYが得られたと推測される。
また、このように、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物が上記のエネルギー関係を満たす場合には、一般式(2)で表される化合物が励起三重項をクエンチするクエンチャーとしても機能するため、他の三重項クエンチャーを添加しなくても、レーザー発振特性を向上させることができる。これにより、他の三重項クエンチャーの添加を不要にして材料設計を簡易化できるという効果が得られる。
なお、ここで使用している化合物B1は、発光励起三重項エネルギー準位E(B)
T1に2つの振動準位を有するが、E
T1>E(B)
T1は少なくとも低い振動準位が満たしていればよく、低い準位と高い振動準位の両方(全ての振動準位)がこの関係を満たすことが好ましい。
【0108】
(ASE特性の評価)
化合物1の濃度が0.5重量%である混合膜と化合物1の濃度が1.0重量%である混合膜について、337nm励起光による発光ピークの励起光強度依存性を測定したところ、一定の励起光強度以上で急激に発光強度が大きくなって半値幅が狭くなり、ASEピークが観測された。そのASE閾値を求めたところ、0.5重量%濃度で1.07μJ/cm2、1.0重量%濃度で1.12μJ/cm2であった。また、励起光強度が2μJ/cm2であるときのASEピークの半値幅は、0.5重量%濃度で3nm以下、1.0重量%濃度で3nm以下であり、非常に狭い半値幅を実現することができた。さらに、化合物1の濃度が0.5重量%である混合膜に25.76μJ/cm2の励起光を一定時間照射し、化合物1の濃度が1.0重量%である混合膜には25.566μJ/cm2の励起光を一定時間照射して、それぞれASE強度の変化を調べたところ、いずれも5時間以上にわたって安定なASE強度を示した。このことから、これらの混合膜をレーザー素子に適用した場合にも、安定なレーザー発振特性が得られることが示唆された。
このように長時間にわたって安定なASE放射が実現したのは、化合物B1が光吸収で得た励起一重項エネルギーを化合物1が受け取ることにより、化合物1において速やかに反転分布が形成されたことと、化合物1では、励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差の速度よりも、自然放出光による励起一重項状態からの誘導放出速度の方が遥かに高速であるために、励起三重項の蓄積が抑えられて一重項-三重項消滅による反転分布の解消が抑制されたためであると考えられる。
【0109】
[3]光励起型レーザー素子の製造と評価
(実施例1) 一次元格子と二次元格子の混合回折格子を有する光励起型レーザー素子1の製造
ここで製造したレーザー素子は、
図5に示す層構成を有する分布帰還型(DFB)の光励起レーザー素子である。この分布帰還型の光励起レーザー素子10は、ガラス基板11、DFB格子12、化合物1と化合物B1の混合層(発光層)13、アモルファス層(AGC旭硝子社製:Cytop)14、およびサファイア層15がこの順に積層されてなるものである。本実施例では、
図5に示すレーザー素子を次のようにして製造した。
ガラス基板11の上に、スパッタリング法にてSiO
2層を65nmの厚さに形成した。続いて、電子ビームリソグラフィ法および反応性イオンエッチング法を用いてSiO
2層をパターニングすることにより、740μm×740μmの領域にDFB格子12を形成した。ここでは、格子周期p
1が148nmである一次元格子と、格子周期p
2が296nmである二次元格子が交互に配置し、格子深さhが65nmの混合回折格子を形成した。また、一次元格子の形成領域と二次元格子の形成領域の長さは、それぞれ、592nm、888nmとした。次に、このDFB格子が形成された面の上に、共蒸着法を用いて、化合物1と化合物B1の混合膜を200nmの厚さに形成して発光層13とした。このとき、化合物1の濃度は1重量%とした。続いて、保護層となるアモルファス層14およびサファイア層15を順に積層し、DFBレーザー素子(レーザー素子1)をとした。
【0110】
(実施例2) 一次元格子を有する光励起型レーザー素子2の製造
DFB格子として混合回折格子を形成する代わりに、一次元格子のみを形成したこと以外は、実施例1と同様にしてレーザー素子2を製造した。
【0111】
(実施例3) 二次元格子を有する光励起型レーザー素子3の製造
DFB格子として混合回折格子を形成する代わりに、二次元格子のみを形成したこと以外は、実施例1と同様にしてレーザー素子3を製造した。
【0112】
レーザー素子1について、337nm励起光による発光寿命を、励起強度を変えて測定した結果を表3に示す。表3中、「励起レーザー出力」は、最大出力100マイクロJ/cm2に対する相対値で示した。また、発光寿命は、発光減衰曲線のフィッティングにより求めた。
【0113】
【0114】
表3に示すように、レーザー素子1から2種類の蛍光寿命tau1、tau2が測定され、いずれも励起レーザー出力が大きくなる程、寿命が短くなる傾向が見られた。
また、レーザー素子1~3について、337nm励起光による発光スペクトルを、3.5nsのショートパルス条件で励起強度を変えて測定したところ、特定の励起強度以上で急激に発光強度が大きくなって半値幅が狭くなり、レーザー発振が認められた。また、355nm励起光による発光スペクトルを、連続発振条件で励起強度を変えて観測した場合にも、特定の励起強度以上でレーザー発振が認められた。各励起条件でのレーザー発振閾値は表4に示す通りであり、いずれも低い値であった。
【0115】
【0116】
また、レーザー素子1からのレーザー光のコヒーレント(位相の揃い具合)を調べるため、近距離場と遠距離場の干渉測定を行ったところ、遠距離場のビーム断面は、理論計算により求めたビーム断面とよく一致しており、また、近接場パターンにおいて、いくつかの干渉縞が観測された。このことから、レーザー素子1からのレーザー光は、コヒーレント性が高い光であることが確認された。
【0117】
[4] 電流励起型レーザー素子の製造と評価
(実施例4) 一次元格子と二次元格子の混合回折格子を有する電流励起型レーザー素子4の製造
ここで製造したレーザー素子は、
図6に示す層構成を有する分布帰還型(DFB)の電流励起レーザー素子である。この分布帰還型の電流励起レーザー素子20は、ガラス基板21、インジウム・スズ酸化物(ITO)からなる第1電極22、DFB格子23、セシウム(Cs)と化合物B1の混合層24、化合物1と化合物B1の混合層(発光層)25、三酸化モリブデン(MoO
3)層26、およびアルミニウム(Al)からなる第2電極27がこの順に積層されてなるものである。ここで、セシウムと化合物B1の混合層は、発光層への電子注入を促進する電子注入層として機能し、酸化モリブデン層は、発光層への正孔注入を促進する正孔注入層として機能する。本実施例では、
図6に示すレーザー素子を次のようにして製造した。
膜厚30nmのITOからなる第1電極22が形成されたガラス基板21を用意した。このITO上に、スパッタリング法にてSiO
2層を65nmの厚さに形成した。続いて、実施例1と同様にして、740μm×740μmの領域に混合回折格子としてのDFB格子23を形成した。
次に、このDFB格子23が形成された面の上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度10
-4Paで積層した。
まず、共蒸着法を用いて、DFB格子23の格子間に、セシウムと化合物B1の混合層25を厚さ30nmに形成した。このとき、セシウムの濃度は20重量%とした。次に、共蒸着法を用いて、化合物1と化合物B1の混合膜を180nmの厚さに形成して発光層25とした。このとき、化合物1の濃度は1重量%とした。続いて、三酸化モリブデン26を10nmの厚さに形成し、さらに、アルミニウムを50nmの厚さに蒸着して第2電極27を形成し、DFBレーザー素子(レーザー素子4)とした。
【0118】
(実施例5) 一次元格子を有する電流励起型レーザー素子5の製造
DFB格子として混合回折格子を形成する代わりに、一次元格子のみを形成したこと以外は、実施例1と同様にしてレーザー素子5を製造した。
【0119】
(実施例6) 二次元格子を有する電流励起型レーザー素子6の製造
DFB格子として混合回折格子を形成する代わりに、二次元格子のみを形成したこと以外は、実施例1と同様にしてレーザー素子6を製造した。
【0120】
(参照例) 有機エレクトロルミネッセンス素子の製造
DFB格子を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして参照用の有機エレクトロルミネッセンス素子(参照用EL素子)を製造した。
【0121】
レーザー素子4、6および参照用EL素子について、室温下、パルス幅400ns、繰り返し周波数1kHzのパルス条件で、500~22200mA/cm2の範囲で電流密度を変えて発光スペクトルを測定したところ、レーザー素子4では、特定の電流密度以上で530nmを中心に発光ピークの半値幅が顕著に狭くなる現象が見られ、レーザー素子6では、特定の電流密度以上で505nmを中心に発光ピークの半値幅が顕著に狭くなる現象が見られた。一方、参照用EL素子では、レーザー素子4、6で見られたような半値幅の顕著な狭小化は認められなかった。このことから、レーザー素子4、6で観測された半値幅の顕著な狭小化は、回折格子が作用したレーザー発振現象によるものであり、レーザー素子4、6がレーザー発振を示すことがわかった。また、レーザー素子4において、最大で22%の高い外部量子効率を得ることができた。さらに、レーザー素子4、6に閾値を超える電流密度を与え、放射された光を偏光子を通して観測し、その発光強度の偏光子角度依存性を調べたところ、その放射光が、一次元格子のパターンに沿って強く直線偏光されていることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の化合物は、BSBCzとは骨格構造が異なる新たなレーザー発振材料である。このため、この化合物をレーザー素子に用いることにより、多様な発光波長や発振特性が実現され、有機レーザー素子の汎用性を向上させることができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0123】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
11、21 ガラス基板
12、23 DFB格子
13、25 発光層
14 アモルファス層
15 サファイア層
22 第1電極
24 セシウムと化合物B1の混合層
26 三酸化モリブデン層
27 第2電極