(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】光学フィルム、及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241105BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20241105BHJP
C23C 14/20 20060101ALI20241105BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B32B15/08 M
B32B3/30
C23C14/20 A
C23C14/34 T
(21)【出願番号】P 2020015014
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 健
(72)【発明者】
【氏名】塩野 涼介
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-188809(JP,A)
【文献】特開2019-188797(JP,A)
【文献】特開2008-020264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの一方の面側に直接、形成され、金属又は合金を含むスパッタ膜とを備える光学フィルムであって、
前記スパッタ膜は、島状構造であり、
前記スパッタ膜の最大高さ粗さ(Rz)が、8.5nm以上であり、
前記スパッタ膜の厚みが、10nm以上であり、
前記島状構造における島の平均径が、20nm以下であり、
前記金属又は合金は、銀又は銀合金であり
、
前記スパッタ膜の表面抵抗率が、1.0×10
9
Ω/□以上である光学フィルム。
【請求項2】
前記スパッタ膜の厚みが、20nm以下であり、前記スパッタ膜の可視光線反射率が、40%以上である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
樹脂フィルム上に、スパッタ法によりスパッタ膜を形成する光学フィルムの製造方法であって、
前記樹脂フィルムと、金属又は合金を含むターゲットとの間であり、かつ前記樹脂フィルムと、所定の間隔を保ちつつ対向するように、複数の開口部を含むハニカム状のフィルタを配設し、前記開口部を通過するスパッタ粒子を、前記樹脂フィルム上に堆積させることで、島状構造であり、最大高さ粗さ(Rz)が、8.5nm以上であり、前記島状構造における島の平均径が、20nm以下である前記スパッタ膜を形成し、
前記フィルタは、前記開口部の孔の貫通方向が、前記ターゲットと前記樹脂フィルムとが並ぶ方向と一致するように、配設される光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記金属又は合金は、銀又は銀合金である請求項3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記スパッタ膜の厚みが、10nm以上である請求項3又は4に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪、自動車等の輸送機器の安全性の向上のために、ミリ波等の電磁波を利用した自動車レーダーの搭載が進んでいる。自動車レーダーは、車体の前方、後方又は左右方向(横方向)に取り付けられ、適正な車間距離や、暗闇の中での障害物(例えば、人、物)を認知することができる。
【0003】
この自動車レーダーの取り付け箇所は、低すぎると道路が妨害し、高すぎると目標点を外れてしまうため、精度の向上等の理由で車体の中央に設定されている。そのため、自動車レーダーを車体の前方に取り付ける場合、自動車レーダーは、車体の前方に設けられているエンブレムの背面かその付近に設置される。
【0004】
しかしながら、エンブレムやその付近のグリル(フロントグリル)には、通常、金属光沢を有する装飾用の金属めっき(特に、クロムめっき)が施されており、そのような金属めっきが電磁波を透過させずに遮蔽してしまうため、自動車レーダーによる電磁波の送受信に問題が発生することがあった。
【0005】
そこで、自動車レーダーをエンブレムの後方に配置できるように、樹脂フィルム上にインジウムを蒸着させ、そのフィルムをインサートモールド法によって、エンブレム表層に取り付けて、装飾的な金属光沢を備えつつ、インジウムの島状構造によって電磁波周波数帯で吸収域を持たないエンブレム等の外装部品を製造することが提案されている(特許文献1参照)。エンブレム等に使用される通常の金属被膜(例えば、アルミニウム、錫、クロム等)の場合、樹脂フィルムに対する濡れ性(親和性)が高すぎて、樹脂フィルム上において島状構造から直ちに連続被膜に変化してしまうため、電磁波が通れる隙間が形成されない。これに対して、インジウムの場合、樹脂フィルムに対する濡れ性が低いため、真空蒸着で微細なインジウムの島状構造を樹脂フィルム上に作り易く、しかも外観が通常の金属めっきと同様、均一な金属光沢を備えている。
【0006】
またこの他に、透明なプラスチックフィルム上に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)等の表面エネルギーが40dyn/cm以下である層を介して、島状の不連続な金属層が形成された電波透過型の透明積層体が知られている(特許文献2参照)。表面エネルギーが40dyn/cm以下である層を設けると、スパッタリング法等によって金属層を形成する際に、金属の凝集力が大きくなり、その結果、金属層が島状に形成され易くなる。金属層が不連続であると、表面抵抗が大きくなり、電波透過性が良くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-135030号公報
【文献】特許第5527480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のようにインジウムの島状構造を有する被膜を形成した場合、インジウムは融点が156℃と低いため、容易に島状構造が壊れてしまう場合があった。例えば、被膜を保護するための保護層を射出成形(インサートモールド成型)によって形成する場合、前記被膜を有する樹脂フィルムをインサートした成形型内に、200℃以上の粘性のある溶融樹脂が流し込まれることになる。そのため、インジウムの島状構造は溶融樹脂と接触して容易に壊れてしまう。そのため、このようなインジウムの被膜を備えた樹脂フィルムを用いて、インサートモールド成型を行う場合、その前処理として、インジウムの島状構造を低温硬化樹脂で固めて保護する処理を行う必要があり、製造工程が複雑化するという問題があった。
【0009】
また、特許文献2の場合、表面エネルギーが40dyn/cm以下である層と、金属層との密着性が低く、実用上、耐久性が不十分であった。
【0010】
本発明の目的は、電波透過性、可視光線反射性等に優れる光学フィルム、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方の面側に形成され、金属又は合金を含むスパッタ膜とを備える光学フィルムであって、前記スパッタ膜は、島状構造であり、前記スパッタ膜の最大高さ粗さ(Rz)が、8.5nm以上であり、前記島状構造における島の平均径が、20nm以下である光学フィルム。
【0012】
<2> 前記スパッタ膜の厚みが、10nm以上である前記<1>に記載の光学フィルム。
【0013】
<3> 前記スパッタ膜の表面抵抗率が、250Ω/□以上であり、前記スパッタ膜の可視光線反射率が、40%以上である前記<1>又は<2>に記載の光学フィルム。
【0014】
<4> 前記金属又は合金は、銀又は銀合金である前記<1>~<3>の何れか1つに記載の光学フィルム。
【0015】
<5> 樹脂フィルム上に、スパッタ法によりスパッタ膜を形成する光学フィルムの製造方法であって、前記樹脂フィルムと、金属又は合金を含むターゲットとの間に、複数の開口部を含むハニカム状のフィルタを配設し、前記開口部を通過するスパッタ粒子を、前記樹脂フィルム上に堆積させることで、島状構造であり、最大高さ粗さ(Rz)が、8.5nm以上であり、前記島状構造における島の平均径が、20nm以下である前記スパッタ膜を形成する光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、電波透過性、可視光線反射性等に優れる光学フィルム、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る光学フィルム1の構成を模式的に表した断面図
【
図2】バッチ式のマグネトロンスパッタリング装置を利用して、樹脂フィルム上に、スパッタ膜を形成する方法を模式的に表した説明図
【
図5】スパッタ膜の膜厚と表面抵抗率との関係を示すグラフ
【
図6】スパッタ膜の膜厚と可視光線反射率との関係を示すグラフ
【
図7】スパッタ膜の膜厚と最大高さ粗さ(Rz)との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔光学フィルム〕
本発明の一実施形態に係る光学フィルムについて、図面を参照しつつ説明する。
図1は、一実施形態に係る光学フィルム1の構成を模式的に表した断面図である。光学フィルム1は、
図1に示されるように、樹脂フィルム2と、スパッタ膜3とを備えている。
【0019】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルム2は、可視光等に対する光透過性を有し、スパッタ膜3を支持するフィルム状の部材である。樹脂フィルム2は、適度な可撓性を備えることが好ましい。樹脂フィルム2は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)、シクロオレフィン樹脂(COP)等の樹脂からなるフィルムが利用される。これらのうち、樹脂フィルム2を構成する樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0020】
なお、樹脂フィルム2は、本発明の目的を損なわない限り、単層構造であってもよいし、多層構造(積層構造)であってもよい。例えば、上述したような樹脂からなる芯層と、この芯層の片面又は両面に積層されるハードコート層(例えば、紫外線硬化型アクリル樹脂等)とを含む積層物を、樹脂フィルム2としてもよい。
【0021】
樹脂フィルム2の厚みは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、2μm~188μmである。
【0022】
なお、樹脂フィルム2には、本発明の目的を損なわない限り、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理等の表面処理が施されてもよい。
【0023】
(スパッタ膜)
スパッタ膜3は、後述するハニカム状のフィルタを使用したスパッタリングによって、樹脂フィルム2の一方の面側に形成された金属又は合金を含む不連続な膜からなる。また、スパッタ膜3は、島状構造を備えている。本明細書において、「島状構造」とは、金属又は合金の粒子からなる複数の凝集物(島に相当)が、互いに独立しつつ面状に集合配置した構造である。島状構造のスパッタ膜3は、上述したように不連続な膜であり、連続した膜と比べて、表面抵抗値が低くなる。スパッタ膜3は、金属又は合金を主成分として含有する。スパッタ膜3は、金属又は合金を、90原子%以上、好ましくは95原子%以上、より好ましくは99原子%以上含有する。スパッタ膜3に含まれる金属又は合金としては、例えば、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、これらの合金等が挙げられる。これらの金属又は合金としては、銀又は銀合金が好ましい。なお、本実施形態において、スパッタ膜3は、樹脂フィルム2に対して直接、形成されているが、他の実施形態においては、本発明の目的を損なわない限り、他の層を介して樹脂フィルム2上に形成されてもよい。
【0024】
スパッタ膜3の厚みは、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、スパッタ膜3の厚みの下限値は、10nm以上が好ましく、11nm以上がより好ましい。また、スパッタ膜3の厚みの上限値は、20nm以下が好ましい。スパッタ膜3の厚みがこのような範囲であると、スパッタ膜3の最大高さ粗さ(Rz)を所定の値に調整し易く、不連続な島状構造のスパッタ膜3を得やすい。なお、スパッタ膜3の厚みは、後述するように、蛍光X線分析装置を利用して測定することができる。
【0025】
スパッタ膜3の厚みは、例えば、スパッタリングによる成膜時のチャンバー内の圧力、放電電流、放電時間等を、適宜、設定することで調整可能である。
【0026】
スパッタ膜3は、金属又は合金を含む不連続な膜であり、かつ島状構造を備えている。スパッタ膜3は、島状構造を備えているため、表面抵抗率が大きく、電波透過性に優れている。
【0027】
スパッタ膜3の最大高さ粗さ(Rz)の下限値は、8.5nm以上であり、好ましくは9.0nm以上である。なお、最大高さ粗さ(Rz)の上限値は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限されないが、例えば、40nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましい。スパッタ膜3の最大高さ粗さ(Rz)がこのような範囲であると、不連続な島状構造が確保され易い。
【0028】
スパッタ膜3の最大高さ粗さ(Rz)は、スパッタ膜3の形成時に使用されるハニカム状のフィルタの開口部の大きさ等を、適宜、設定することで調整することができる。また、スパッタ膜3の最大高さ粗さ(Rz)は、上述したスパッタ膜3の厚みと同様、スパッタリングによる成膜時のチャンバー内の圧力、放電電流、放電時間等を、適宜、設定することでも調整可能である。なお、スパッタ膜3の最大高さ粗さ(Rz)の測定方法は、後述する。
【0029】
スパッタ膜3の表面抵抗率は、250Ω/□以上であり、好ましくは1.0×109Ω/□以上である。スパッタ膜3の表面抵抗率の測定方法は、後述する。
【0030】
スパッタ膜3の可視光線反射率(下限値)は、40%以上である。スパッタ膜3の可視光線反射率の上限値は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、光学フィルム1をハーフミラーとして使用する場合、可視光線反射率は、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。
【0031】
スパッタ膜3の島状構造における島の平均径(上限値)は、20nm以下であり、好ましくは17nm以下である。また、島の平均径(下限値)は、7nm以上が好ましく、8nm以上がより好ましい。島の平均径がこのような範囲であると、表面抵抗率が大きく、電波透過性に優れる。島の平均径の測定方法は、後述する。
【0032】
ここで、
図2を参照しつつ、スパッタ膜3の形成方法について説明する。
図2は、バッチ式のマグネトロンスパッタリング装置(以下、「スパッタリング装置」と称する)10を利用して、樹脂フィルム2上に、スパッタ膜3を形成する方法を模式的に表した説明図である。なお、スパッタ膜3を形成する前に、予め、樹脂フィルム2をスパッタリング装置10のチャンバー11内に設置し、加熱処理(例えば、75℃で8時間加熱)することで、樹脂フィルム2中に含まれるガス成分の除去を行ってもよい。
【0033】
図2に示されるように、チャンバー11内において、樹脂フィルム2がステージ12上に設置される。そして、ターゲット材13は、ステージ12上の樹脂フィルム2と、所定の間隔TSを保ちつつ対向するように配置されている。間隔TSは、ターゲット材13と樹脂フィルム2との間の距離である。ターゲット材13の背面側には、マグネトロン14が設置されている。
【0034】
また、
図2に示されるように、ターゲット材13と樹脂フィルム2との間には、フィルタ15が配設されている。フィルタ15は、複数の開口部15aを含むハニカム状をなしており、例えば、アルミニウム等の金属材料、プラスチック材料等から構成される。本実施形態の開口部15aは、平面視した際に、正六角形であり、内側にフィルタ15の厚み方向に貫通する孔を備えている。本明細書において、開口部15aの長さは、フィルタ15の厚みDと等しい。フィルタ15は、同じ大きさの開口径d、及び同じ大きさの長さを備えた複数の開口部15aが集合したものからなる。なお、他の実施形態においては、開口部が、平面視で四角形、三角形等であってもよい。
【0035】
フィルタ15は、ステージ12上の樹脂フィルム2と、所定の間隔FSを保ちつつ対向するように配置されている。間隔FSは、フィルタ15と樹脂フィルム2との間の距離である。なお、フィルタ15は、開口部15aの孔の貫通方向が、ターゲット材13と樹脂フィルム2とが並ぶ方向(
図2の上下方向)と一致するように、配設されている。
【0036】
このようにチャンバー11内に配置された樹脂フィルム2に、スパッタ膜3を形成するために、ステージ12とターゲット材14との間に電圧が印加される。電圧は、ステージ12(樹脂フィルム2)側が陽極となり、かつターゲット材13側が陰極となるように印加される。
【0037】
図2には、ターゲット材13から発生したスパッタ粒子16が模式的に示されている。ターゲット材13から発生したスパッタ粒子16のうち、フィルタ15の開口部15aを通過した比較的、高エネルギーのスパッタ粒子16が、樹脂フィルム2上に堆積される。そして、所定時間の間、樹脂フィルム2上に、スパッタ粒子16を厚み方向に島状に堆積させることで、不連続な島状構造のスパッタ膜3が形成される。なお、比較的、低エネルギーのスパッタ粒子16は、フィルタ15によって遮られる。
【0038】
フィルタ15の開口部15aの大きさ(開口径d、長さD)、間隔FS、成膜温度等を適宜、設定することにより、スパッタ膜3の島状構造が調整される。なお、フィルタ15の開口部15aの長さDが長すぎると、成膜速度が遅くなり好ましくない。また、フィルタ15の開口部15aの長さDが短すぎると、比較的、低エネルギーのスパッタ粒子16が開口部15aを通過してしまうため好ましくない。
【0039】
なお、スパッタ膜3の形成時におけるチャンバー11内の温度は、室温(23℃)程度(例えば、-20℃~120℃)で行われることが好ましい。チャンバー11内の温度がこのような範囲であると、樹脂フィルム2上において、金属又は合金の粒子が、樹脂フィルム2の表面方向において互いに集まり過ぎず、適度に不連続な島状構造が形成され易いと共に、樹脂フィルム2が変形することなくスパッタ膜3を形成することができる。
【0040】
以上のような方法により、樹脂フィルム2上に、所望のスパッタ膜3を形成することができる。このように樹脂フィルム2上にスパッタ膜3を形成したものが、光学フィルム1として利用される。
【0041】
なお、光学フィルム1には、本発明の目的を損なわない限り、樹脂フィルム2上に、スパッタ膜3以外の他の層が形成されてもよい。例えば、スパッタ膜3の表面に保護膜が形成されてもよいし、樹脂フィルム2とスパッタ膜3との接着性を向上等させるために、SiO2膜等が形成されてもよいし、光学フィルム1の光学特性(例えば、屈折率)を調整するために、ITO膜等の光学膜が形成されてもよい。また、必要に応じて、樹脂フィルム2の両面に、スパッタ膜3が形成されてもよい。
【0042】
(用途)
光学フィルム1は、例えば、自動車のガラス(フロントガラス等)や建築物の窓ガラス等に使用される電波透過型のハーフミラー等として利用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0044】
なお、以下に示される実施例、及び比較例におけるスパッタリングによる成膜では、バッチ方式のマグネトロンスパッタリング装置を用いた。また、スパッタリング装置の各チャンバー内に供給されるガスの流量は、所定のマスフローコントローラを用いて、適宜、調節した。
【0045】
〔実施例1〕
樹脂フィルムとして、PETからなる芯層(厚み:125μm)の両面にハードコート層(紫外線硬化型アクリル樹脂、厚み:5μm)が両面に形成されているHC付きPET(総厚み:135μm)を用意した。また、フィルタ1として、複数の開口部(正六角形の開口径(最大径):3.2mm、厚み:13mm)を含むアルミニウム製のハニカム状フィルタを用意した。樹脂フィルムとターゲットとの間に、フィルタ1を配置した状態で、以下に示される成膜条件で、樹脂フィルムの片面上に、スパッタリングによりスパッタ膜(銀合金層)を形成して、実施例1の光学フィルムを得た。
【0046】
<成膜条件:スパッタ膜>
ターゲット:パラジウムを1原子%含有する銀、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.25W/cm2、ターゲット-樹脂フィルム間距離:100mm、フィルタ-樹脂フィルム間距離:50mm、成膜温度:室温(23℃)、基板搬送速度:0.08m/min
【0047】
〔実施例2〕
基板搬送速度を0.06m/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光学フィルムを作製した。
【0048】
〔実施例3〕
基板搬送速度を0.15m/minに変更し、ターゲット-樹脂フィルム間距離を75mm、フィルタ-樹脂フィルム間距離を25mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の光学フィルムを作製した。
【0049】
〔比較例1~3〕
基板搬送速度を、それぞれ0.39m/min、0.044m/min、0.034m/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~3の光学フィルムを作製した。
【0050】
〔比較例4~7〕
樹脂フィルムとターゲットとの間にフィルタを配置せず、かつ基板搬送速度を、それぞれ9.16m/min、5.50m/min、3.05m/min、1.83m/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4~7の光学フィルムを作製した。
【0051】
〔比較例8〕
フィルタ1に代えて、フィルタ2を使用し、かつ基板搬送速度を、0.39m/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例8の光学フィルムを作製した。なお、フィルタ2は、複数の開口部(正六角形の開口径(最大径):9.5mm、厚み:15mm)を含むアルミニウム製のハニカム状フィルタである。
【0052】
〔評価〕
(スパッタ膜の膜厚)
蛍光X線分析装置(製品名「ZSX-100e」、株式会社リガク製)を用いて、実施例1等のスパッタ膜の膜厚(直径30mmの平均値)を測定した。結果は、表1に示した。
【0053】
(最大高さ粗さRz)
原子間力顕微鏡(AFM)(製品名「FTM-9600」、株式会社島津製作所製)を用いて、実施例1等のスパッタ膜の表面画像(AFM画像)を取得し、そのAFM画像から、最大高さ粗さRz(nm)を求めた。ここで、
図3を参照しつつ、実施例2のスパッタ膜の最大高さ粗さRzの測定方法を具体的に説明する。
図3は、実施例2のスパッタ膜表面のAFM画像である。AFM画像の表示サイズ(観察視野)は、2.00μm×2.00μmである。そのようなAFM画像中に示される一方向に延びた線分A-B(図)に沿った最大高さ粗さRz(nm)を求めた。次いで、同じ
図3の画像中に示される線分C-D(線分A-Bに垂直な線分)に沿った最大高さ粗さRz(nm)を求めた。各線分A-B及びC-Dは、同じ長さであり、0.5μmである。そして、それら2つの最大高さ粗さRz(nm)の平均値を、実施例2のスパッタ膜表面の最大高さ粗さRz(nm)とした。表1に示した。
【0054】
図4は、比較例7のスパッタ膜表面のAFM画像である。比較例7の場合も同様に、画像中に示される、互いに垂直な関係の2つの線分A-B及び線分C-Dから、比較例7のスパッタ膜表面の最大高さ粗さRz(nm)を求めた。
【0055】
(島状構造の平均径)
実施例1等の銀合金層について、島状構造における島の平均径を、以下に示される方法で測定した。実施例1等の光学フィルムから1cm角に切り出したサンプルを、原子間力顕微鏡で観察して、AFM画像を取得し、そのAFM画像から、スパッタ膜の島状構造における島を、ランダムに10個選定し、各島の長径と短径を測定し、その平均径を算出した。長径とは、島の外接円の直径であり、短径は島の内接円の直径である。結果は、表1に示した。
【0056】
(表面抵抗率)
実施例1等の光学フィルムからサンプル(サイズ:5cm角)を切り出し、そのサンプルを用いて、JIS K 6911に準拠しつつ表面抵抗値(Ω/□)を測定した。測定装置としては、Hiresta-UP MCP-HT450(三菱化学株式会社製)を用いた。測定装置のプローブ(電極)を、サンプルのスパッタ膜の表面に押し当て、その表面を流れる電流値(温度条件:20℃)を測定し、その電流値から表面抵抗値(Ω/□)を求めた。結果は、表1に示した。
【0057】
(可視光線反射率)
実施例1等の光学フィルムからサンプル(サイズ:5cm角)を切り出し、そのサンプルを用いてスパッタ膜の可視光線反射率(%)を測定した。可視光線反射率は、JIS R 3106に準拠して評価した。評価設備として分光光度計(U4100、日立ハイテク社製))を利用した。結果は、表1に示した。
【0058】
【0059】
実施例1~3の光学フィルムは、銀合金膜からなるスパッタ膜が不連続な島状構造となっている(例えば、
図3参照)。これらの光学フィルムは、表1に示されるように、表面抵抗率が大きく、電波透過性に優れることが確かめられた。また、実施例1~3の光学フィルムは、可視光線反射率が高く、鏡のような外観を備えていることが確かめられた。このように実施例1~3の光学フィルムでは、電波透過性(高い表面抵抗率)と、高い可視光線反射率とが両立されている。
【0060】
なお、実施例1~3において、島状構造の島の平均径が20nm以下であり、何れも小さい島が得られていた。これは、ハニカム状のフィルタを用いることで低エネルギーのスパッタ粒子が除去されると共に、高エネルギーで方向性の揃ったスパッタ粒子のみが樹脂フィルム(基材フィルム)に到達し、その到達した高エネルギーのスパッタ粒子が樹脂フィルム表面上で極僅かな一定の距離を移動することができるため、樹脂フィルム表面上にスパッタ粒子が小さく凝集した島状構造が形成されると推測される。
【0061】
比較例1は、スパッタ膜の膜厚が薄すぎる場合であり、可視光線反射率が低い値となった。なお、比較例1の表面抵抗率は、高い値となったものの、これはスパッタ膜ではなく、樹脂フィルム(絶縁性)に起因した結果である。
【0062】
比較例2,3は、実施例1等と同様、フィルタ1を使用してスパッタ膜を形成した場合であるものの、それらのスパッタ膜は、島状構造ではなく、最大高さ粗さ(Rz)が小さい。また、比較例2,3のスパッタ膜の膜厚は厚すぎる。このような比較例2,3は、表面抵抗率が低く(つまり、導電性が高く)、電波を透過させ難いことが確かめられた。
【0063】
比較例4~7は、フィルタ1を使用せずに、スパッタ膜を形成した場合であり、何れもスパッタ膜は、島状構造ではなく、表面抵抗率が低すぎるため、電波を透過させ難いことが確かめられた。
【0064】
比較例8は、開口部の大きなフィルタ2を用いて、スパッタ膜を形成した場合である。このような比較例8では、島状構造ではない連続的なスパッタ膜が形成され、電波透過性が得られなかった。
【0065】
なお、実施例1~3及び比較例1~7の結果を、
図5~
図7の各グラフに、フィルタ1の有無の違いでまとめた。
図5は、スパッタ膜の膜厚と表面抵抗率との関係を示すグラフであり、
図6は、スパッタ膜の膜厚と可視光線反射率との関係を示すグラフであり、
図7は、スパッタ膜の膜厚と最大高さ粗さ(Rz)との関係を示すグラフである。
図5~
図7の各グラフの横軸は、スパッタ膜の膜厚(nm)を表す。
図5のグラフの縦軸は、スパッタ膜の表面抵抗率(Ω/□)を表し、
図6のグラフの縦軸は、スパッタ膜の可視光線反射率(%)を表し、
図7のグラフの縦軸は、スパッタ膜の最大高さ粗さRz(nm)を表す。また、各図のグラフにおいて、実施例1~3を、「実1~3」で示し、比較例1~7を「比1~7」と示した。
【符号の説明】
【0066】
1…光学フィルム、2…樹脂フィルム、3…スパッタ膜、10…スパッタリング装置、11…チャンバー、12…ステージ、13…ターゲット材、14…マグネトロン、15…フィルタ