(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】陰樹の栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/06 20060101AFI20241105BHJP
A01G 24/12 20180101ALI20241105BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241105BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20241105BHJP
【FI】
A01G7/06 Z
A01G24/12
A01G7/00 602D
A01G31/00 601Z
A01G7/00 601Z
(21)【出願番号】P 2020145256
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】520241314
【氏名又は名称】村松 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】杉山 悟
(72)【発明者】
【氏名】坂本 義久
(72)【発明者】
【氏名】村松 達彦
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-084462(JP,A)
【文献】特開平11-000044(JP,A)
【文献】特開2013-172685(JP,A)
【文献】特開2003-199425(JP,A)
【文献】特開平07-298799(JP,A)
【文献】特開平05-084022(JP,A)
【文献】特開2013-252086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/06
A01G 24/12
A01G 7/00
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露地栽培した陰樹の苗木を鉢に植え込んで水耕栽培する陰樹の栽培方法において、
露地にて苗木を
2年程度育成する育成工程と、
前記育成工程で育成した苗木を
露地から掘り取る掘取工程と、
前記掘取工程で掘り取った苗木の根を前記鉢のサイズに合わせて剪定する根剪定工程と、
前記根剪定工程を実施し前記根の剪定によってストレスを受けた苗木を
露地栽培へ戻し、
水耕栽培の水や養液と馴染ませることなく土壌で養生させ、
水耕栽培への順化前にダメージを回復させる仮植工程と、
前記仮植工程を実施した苗木を
露地から掘り取る第2掘取工程と、
前記第2掘取工程で掘り取った苗木を前記鉢に植え込む定植工程と、
前記定植工程を実施した苗木を水耕栽培する水耕栽培工程と、を有することを特徴とする陰樹の栽培方法。
【請求項2】
前記仮植工程を実施する前に、苗木の枝葉を、前記根剪定工程を実施した根とのバランスを考慮して剪定する枝葉剪定工程を有することを特徴とする請求項1記載の陰樹の栽培方法。
【請求項3】
前記仮植工程では、苗木を遮光する遮光処理を施すことを特徴とする請求項1又は2記載の陰樹の栽培方法。
【請求項4】
前記定植工程後、前記水耕栽培工程前に、
循環させ前記鉢の半分以下の水位に保った水中に前記鉢を浸漬する水耕栽培順化工程を実施し、
露地栽培から水耕栽培への順化をより円滑にすることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項記載の陰樹の栽培方法。
【請求項5】
前記陰樹は、榊、姫榊又は樒であり、
前記育成工程は、育成中に前記鉢に対するバランスを考慮してピンチを行いながら播種から2年程度実施する工程であり、
前記水耕栽培工程は、人工培土を用いたハイドロカルチャーであることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項記載の陰樹の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露地栽培した陰樹の苗木を鉢に植え込んで水耕栽培する陰樹の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陰樹のなかでも特に榊や姫榊、樒などは、露地栽培した苗木をそのまま水耕栽培に植え替えると、水耕栽培に順化できず直ぐに枯れてしまう。このため、榊や姫榊、樒などの水耕栽培は難しいとされている。そこで、露地栽培した苗木を、馴化培地で栽培した後、吸水ポリマー製人工培土で栽培する栽培方法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。特許文献1記載の栽培方法では、まず、土壌栽培した観葉植物や草花、花木植物を掘り取り、掘り取った苗木の根を洗浄する。なお、観葉植物等は洗浄後、根を短くカットする。次いで、そのまま根をイオン交換樹脂又は更に吸水ポリマーを少量加えた馴化培地で数日間栽培した後、新根が認められたら吸水ポリマーを少量加えながら栽培を行い、新根の充分な成長を確認した後、吸水ポリマー製人工培土で栽培する。従って、土壌栽培の植物は、水耕栽培状態に移し替えられるが、イオン交換樹脂の活性化機能によって、新根の発生が促進され、水耕栽培に対応した新根の成長やカットされた根の再成長で、水耕栽培対応が可能となり、吸水ポリマー製培土での植栽が可能となるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の栽培方法では、前述したような煩雑な作業が必要になる。なかでも、新根の発根が確認できると吸水ポリマー製人工培土を少量加えながら栽培を行い、さらに、新根の成長に合わせてイオン交換樹脂栄養剤や吸水ポリマー製人工培土を増量させ、新根の充分な成長を確認した後、吸水ポリマー製人工培土で栽培する、といった慎重かつ面倒な工程を実施しなければならない。
【0005】
本発明は前記事情に鑑み、榊や姫榊、樒などの陰樹を、簡単な作業で水耕栽培に順化させることができる栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を解決する本発明の陰樹の栽培方法は、露地栽培した陰樹の苗木を鉢に植え込んで水耕栽培する陰樹の栽培方法において、
露地にて苗木を2年程度育成する育成工程と、
前記育成工程で育成した苗木を露地から掘り取る掘取工程と、
前記掘取工程で掘り取った苗木の根を前記鉢のサイズに合わせて剪定する根剪定工程と、
前記根剪定工程を実施し前記根の剪定によってストレスを受けた苗木を露地栽培へ戻し、水耕栽培の水や養液と馴染ませることなく土壌で養生させ、水耕栽培への順化前にダメージを回復させる仮植工程と、
前記仮植工程を実施した苗木を露地から掘り取る第2掘取工程と、
前記第2掘取工程で掘り取った苗木を前記鉢に植え込む定植工程と、
前記定植工程を実施した苗木を水耕栽培する水耕栽培工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明における陰樹とは、陽樹以外の樹木をいい、半陰樹に分類される場合がある、榊や姫榊、樒あるいは茶の木等も含まれる。また、本発明でいう水耕栽培には、ハイドロボールやゼオライト、吸水ポリマー製等の人工培土を用いたハイドロカルチャーが含まれる。本発明の栽培方法は、特に、粘土を高温で焼いて発泡させた無機質発泡体の粒状物であるハイドロボールを用いたハイドロカルチャーに好適である。
【0008】
本発明の陰樹の栽培方法によれば、前記根剪定工程を実施した苗木を露地栽培へ戻す仮植工程といった簡単な作業だけで、白根(未褐変の新根)の出根及び成長が促進される。これにより、水耕栽培に移行する際のストレスが軽減され、水耕栽培は難しいとされている榊や姫榊、樒等であっても、露地栽培から水耕栽培に円滑に順化することができる。
【0009】
また、本発明の陰樹の栽培方法において、前記仮植工程を実施する前に、苗木の枝葉を、前記根剪定工程を実施した根とのバランスを考慮して剪定する枝葉剪定工程を有する方法であることが好ましい。
【0010】
前記枝葉剪定工程を実施することで、根との生理現象のバランスが向上し、露地栽培から水耕栽培への順化がより円滑になる。なお、前記枝葉剪定工程では、前記定植工程を実施した鉢植えの枝張り(ボリューム感)や前記鉢とのバランス等も考慮して、苗木の枝葉を剪定することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の陰樹の栽培方法において、前記仮植工程では、苗木を遮光する遮光処理を実施してもよい。
【0012】
こうすることで、苗木の鮮度を保ち、例えば榊であれば、葉の緑が濃くなり商品価値も向上する。なお、前記仮植工程では、冠水、消毒、施肥等の肥培管理を実施することが好ましい。
【0013】
またさらに、本発明の陰樹の栽培方法において、前記定植工程後、前記水耕栽培工程前に、循環させ前記鉢の半分以下の水位に保った水中に前記鉢を浸漬する水耕栽培順化工程を実施し、露地栽培から水耕栽培への順化をより円滑にするようにしてもよい。
【0014】
例えば、側壁部の底側や底等に流入孔が形成された鉢を水が入ったトレイに浸漬させ、水位を一定に保つように循環させる等して前記水耕栽培順化工程を実施すれば、露地栽培から水耕栽培への順化がより円滑になると共に、複数の鉢の管理が非常に容易になる。
【0015】
さらにまた、本発明の陰樹の栽培方法において、前記陰樹は、榊、姫榊又は樒であり、
前記育成工程は、育成中に前記鉢に対するバランスを考慮してピンチ(摘芯)を行いながら播種から2年程度実施する工程であり、
前記水耕栽培工程は、人工培土を用いたハイドロカルチャーであってもよい。
【0016】
例えば、いわゆる2年ものの榊の苗木を用い、前記育成工程中にピンチを行うことで、背丈や枝張り、ボリューム等を調整すれば、高所にあって水やりや交換が面倒な神棚に供える榊として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、榊や姫榊、樒などの陰樹を、簡単な作業で水耕栽培に順化させることができる栽培方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の陰樹の栽培方法における工程の一例を示すフローチャートである。
【
図2】内鉢に榊(苗木)を定植した状態を示す斜視図である。
【
図3】水耕栽培順化工程の一例を示す断面図である。
【
図4】容器(鉢)を用いた水耕栽培工程の一例を示す図である。
【
図5】
図4に示す容器の構成部材を、分離して示す斜視図である。
【
図6】榊を植えた容器を神棚に供えた例を示す図である。
【
図7】育成工程から第2掘取工程までを実施し、定植工程を実施する前の苗木の根の様子を示す写真である。
【
図8】
図7に示す苗木を用いて水耕栽培工程を開始してから10日後の榊を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明は、陰樹(半陰樹も含む)の栽培方法であり、特に、榊や姫榊、樒あるいは茶の木等の栽培に好適である。本実施形態では、榊を例に挙げて説明する。
【0020】
図1は、本発明の陰樹の栽培方法における工程の一例を示すフローチャートである。
【0021】
図1に示すように、本発明の陰樹の栽培方法10では、まず育成工程を実施する(ステップS1)。この育成工程では、ビニールハウス等において、例えば1年目の秋頃に、採種した種子を床まきし、春頃に発芽した苗を、6月頃にポット等に植え替える。次いで、2年目の秋頃から露地にて育成を行う。なお、採種した種子を保存した後、春に播種してもよい。露地の育成は、例えば、2年目の秋頃から3年目の秋頃まで実施する。すなわち、育成工程(播種から育成まで)を2年程度実施し、いわゆる2年ものの苗木を栽培する。本実施形態において苗木を2年ものとするのは、3年ものとすると、根が大きくなりすぎて、後述する根剪定工程(S3)において根を大量に切らなければならず、ストレスが大きくなってしまう。また、背丈が大きくなりすぎて、例えば神棚に供える榊として、下側に枝葉がない等、バランスが悪くなってしまうからである。
【0022】
また、露地での育成中に、必要に応じてピンチ(摘芯)を行う。このピンチは、
図4等を用いて後述するハイドロカルチャー用容器1(以下、単に容器1と称する)に対するバランスを考慮して行うものである。具体的には、例えば神棚に供える榊に用いる場合には、ボリューム感を考え、また節間が間延びしないように枝先をカットする。すなわち、ピンチを行うことで、節間を間延びさせず、容器1(鉢)に対するボリューム感やバランスを調整することができる。
【0023】
次いで、育成工程(S1)で育成した苗木を掘り取る掘取工程を実施する(ステップS2)。この掘取工程(S2)で掘り取った苗木の根は、黒い根(褐変の根)がほとんどである。なお、根に土が付着している場合には、必要に応じて土を取り除く。
【0024】
次に、掘取工程(S2)で掘り取った苗木の根を、後述する内鉢2(
図2参照)のサイズ(大きさ)に合わせて剪定する根剪定工程を実施する(ステップS3)。具体的には、内鉢2に入るように(収まるように)根を切る。なお、本実施形態では、苗木を内鉢2に定植するため内鉢2のサイズに合わせて根を剪定したが、根剪定工程(S3)では、苗木を定植する鉢のサイズに合わせて根を剪定すればよい。
【0025】
また、苗木の枝葉を、根剪定工程(S3)を実施した根とのバランスを考慮して剪定する枝葉剪定工程を実施する(ステップS4)。この枝葉剪定工程(S4)は必須ではないが、実施することで、後述する容器1に植え替えた後(
図4等参照)における、根との生理現象のバランスが向上し、
露地栽培から水耕栽培への順化がより円滑になる。なお、枝葉剪定工程(S4)では、容器1に植え替えた後の枝張り(ボリューム感)や容器1とのバランス等も考慮して、苗木の枝葉を剪定することが好ましい。
【0026】
次に、根剪定工程(S3)を実施した苗木、又は、根剪定工程(S3)と枝葉剪定工程(S4)を実施した苗木を露地栽培へ戻す仮植工程を実施する(ステップS5)。根の剪定は苗木にストレスを与えるため、露地栽培に戻すことによりストレスを軽減させ、苗木に活力を付与するものである。さらに、露地栽培に戻すことにより根剪定工程(S3)を実施した根から、白根の発根、さらには成長を促すことができる。言い換えれば、仮植工程(S5)は、根の剪定によってストレスを受けた榊を土壌で養生させ、いわゆるダメージを回復させると共に、水耕栽培への順化に必要な白根を十分に成長させる工程である。
【0027】
また、仮植工程(S5)では、遮光ネット等を用いて苗木を遮光する遮光処理を施すことが好ましい。こうすることで、苗木の鮮度を保ち、例えば榊であれば、葉の緑が濃くなり、商品価値を向上させることができる。なお、仮植工程(S5)では、必要に応じて、冠水、消毒、施肥等の肥培管理を実施する。
【0028】
この仮植工程(S5)は、白根が、水耕栽培への順化に必要な量等に成長するまで実施する必要がある。具体的には、春頃であれば2~3週間程度実施すれば良いが、気温が低い時期では、白根が発根及び成長しにくい(1月や2月ではほとんど成長しない)ため、その分期間を長くする必要がある。また、気温が高くなればなるほど葉の呼吸速度が速くなり、その分傷みやすい。このため、水耕栽培に移行する時期に応じて、必要となる白根の量等も異なる。従って、水耕栽培に移行する時期(例えば、春であるのか、夏であるのか)を考慮して、白根の量等が十分になるように、仮植工程(S5)を実施する期間を調整するとよい。
【0029】
次に、仮植工程(S5)を実施した苗木を掘り取る第2掘取工程を実施する(ステップS6)。この第2掘取工程(S6)では、背丈や枝張り、白根の量等を、所定の基準に基づいてチェックし、基準に満たない苗木は、仮植工程(S5)に戻してもよい。基準を満たした苗木は、バケツ等に入れた水の中で根を洗い、付いた土を洗い落とす。なお、根に付く土の量は、仮植工程(S5)を実施する土壌の性質による。このため、根を洗う際のストレスを軽減するためにも、掘り取った根に土が付きにくい良好な土壌において仮植工程(S5)を実施することが望ましい。
【0030】
次いで、第2掘取工程(S6)で掘り取った苗木を鉢に植え込む定植工程を実施する(ステップS6)。本実施形態では、鉢として、内鉢2や外鉢4、化粧鉢5等を備えた容器1を用いている(
図4及び
図5等参照)。
【0031】
図2は、内鉢2に榊(苗木)を定植した状態を示す斜視図である。
【0032】
本実施形態では、内鉢2や、後述する外鉢4、化粧鉢5、及び2つの転倒防止部材6を、透明なポリプロピレン製であって同一形状の、ビールやジュース等のカップ(使い捨てのカップ)を用いて構成している。なお、内鉢2等の素材は限定されるものではなく、陶器や硬質プラスチック製のものであってもよいが、ポリプロピレン製のものを採用すれば廃棄が容易になる。
【0033】
図2に示すように、内鉢2は、上方に拡がったテーパ筒状(テーパ円筒状)の側壁部21と、底側を閉塞する底部22とを備えたものである。本実施形態では、側壁部21の上端にフランジ211が設けられ、下端部分には、径が小さくなり垂直な壁面の基部212が形成されている。また、側壁部21には、例えば3~6mm程度の、複数の流入孔2aが互いに所定の間隔をあけて形成されている。複数の流入孔2aを形成する位置は特に限定されるものではないが、これら流入孔2aから内鉢2内に水が流入するため、少なくとも下端側部分に形成する必要がある。なお、本実施形態では、側壁部21の基部212には流入孔2aが形成されていないが、この基部212に流入孔2aを形成してもよく、底部22に流入孔2aを形成してもよい。本実施形態の内鉢2は、前述したビールカップ等に対して、側壁部21に複数の流入孔2aを形成したものである。
【0034】
図1に示す定植工程(S7)では、始めに内鉢2を準備し、準備した内鉢2に、汚れや割れ等がないことを確認した後、根の土を洗い落とした榊Saを、根を痛めないように内鉢2の中央に挿入する。次いで、ハイドロボールHbを、内鉢2に投入する。具体的には、榊Saが中央にくるように、榊Saの周囲をハイドロボールHbで埋めていく。ハイドロボールHbは、大粒(約8~16mm)、中粒(約5~8mm)、小粒(約2~5mm)等に分けて市販されているが、本実施形態では、中粒又は小粒のものを用いている。ハイドロボールHbは、カビ等の発生を防止するため、事前に十分洗っておくことが好ましい。
【0035】
こうすることで、
図2に示すように、榊Saが内鉢2に植え込まれる。その後、上からシャワーをかけて十分給水する。
図2において符号Piで示す箇所がピンチされた箇所であり、節間の間延びや、下側に葉が付いていないといった不具合を解消している。なお、本実施形態では、1本の榊Saを内鉢2に植え込んだ例を示しているが、枝葉のボリューム感等を考慮して、榊Saを内鉢2に2本以上植え込んでもよい。
【0036】
次に、所定の水位に保った水中に内鉢(鉢)を浸漬する水耕栽培順化工程を実施する(ステップS8)。
【0037】
図3は、水耕栽培順化工程(S8)の一例を示す断面図である。
【0038】
図3に示すように、ハイドロボールHbに榊Saを植え込んだ内鉢2を、水Waを入れたトレイ8に複数配置して管理する。この水耕栽培順化工程(S8)は必須ではないが、水Waの水位を一定に保ち循環させることにより、
露地栽培から水耕栽培への順化がより円滑になる。また、本実施形態のように、水Waを入れたトレイ8に内鉢2を複数入れる態様を採用すれば、鉢を1つずつ管理する場合と比べ管理が非常に容易になる。なお、水耕栽培順化工程(S8)は、例えば2~4週間程度実施するが、気温が高い時期は、より長い期間実施するとよい。
【0039】
そして、背丈や葉の色、枝張り、葉が落ちてしまわないか等、所定の基準に基づいてチェックした後、水耕栽培工程を実施する(ステップS9)。
【0040】
図4は、容器(鉢)を用いた水耕栽培工程の一例を示す図であり、
図5は、
図4に示す容器の構成部材を、分離して示す斜視図である。
【0041】
図4及び
図5に示すように、容器1は、水耕栽培順化工程(S8)を実施した内鉢2と、ネット3と、外鉢4と、化粧鉢5と、2つの転倒防止部材6と、を有している。
【0042】
ネット3は、円筒状のものであり、内鉢2の側壁部21を覆うものである。このネット3は、内鉢2に収容されたハイドロボールHb、特に細かくなったハイドロボールHbが外にこぼれないようにするためのものである。このため、ネット3は、水を通過させると共に、細かくなったハイドロボールHbの流出を遮ることができるものであればよく、織物であっても編物であってもよいし、目の大きさ等は限定されるものではない。また、覆い部材として、ネット3に代えて、シート状の不織布を採用してもよい。
【0043】
前述したように、本実施形態では、内鉢2、外鉢4及び化粧鉢5は、同一形状のビールカップ等を用いている。但し、外鉢4と化粧鉢5には、流入孔が形成されていない点で、内鉢2と相違する。
【0044】
化粧鉢5は、内側に、光を遮る遮光シート7が配置されている。本実施形態では、遮光シート7は紙製のものであり、例えば家紋7aが印刷されている。この遮光シート7は、内鉢2内や外鉢4内への光の侵入を遮り、苔や藻の発生を抑えるためのものである。なお、本実施形態では、遮光シート7は、家紋7aが印刷された紙製のものであり、この遮光シート7が傷んだり汚れたりした場合は、家紋等を印刷した紙と容易に交換することができる。
【0045】
また、本実施形態では、容器1の設置状態を安定させるため、転倒防止部材6を2つ設けている。この転倒防止部材6は、前述したビールカップ等を上下に分割(切断)し、その上側の部分を逆さに設置したものである。切断することで形成された開口6aから、内鉢2と外鉢4が重ねられた化粧鉢5を内側に挿入すれば、転倒防止部材6によって、容器1の設置状態が安定する。特に、本実施形態では、転倒防止部材6を2つ重ねて使用しているので、容器1の設置状態をより安定させることができる。
【0046】
これまで説明した部材は、
図5に示すように、水耕栽培順化工程(S8)を実施した内鉢2の側壁部21にネット3を被せ、水Waを所定量入れた外鉢4に重ねる。ここで、水Waの量は、植物の種類や給水の頻度等を考慮して調整すればよく、例えば、1日10cc~15cc消費するとして、1週間から2週間に一度水Waを補給する場合には、150cc程度となる。
【0047】
そして、これら内鉢2及び外鉢4を、内側に遮光シート7が配置された化粧鉢5に重ねる。次いで、重ねられた、内鉢2、外鉢4及び化粧鉢5を、2つ重ねられた転倒防止部材6の開口6a内に挿入すれば、
図4に示す設置状態となる。なお、仕上げに、上からシャワーをかけることが好ましい。
【0048】
図6は、榊Saを植えた容器1(鉢植え)を神棚に供えた例を示す図である。
【0049】
本発明の栽培方法によれば、水耕栽培が難しいとされている榊であっても、例えば3ヶ月程度は十分元気であり、一般的に神棚Kbに備える切り花の榊と比べ、寿命が大幅に長くなる。このため、高い場所にあって、水の供給がしにくい、或いは、水の供給を忘れてしまいがちな、
図6に示すような神棚Kbに備える場合に好適である。また、いわゆる2年ものの榊の苗木を用い、育成工程(S1)でピンチを行うことで、背丈や枝張り、ボリューム等を調整すれば、高所にあって水やりや交換が面倒な神棚に供える榊として好適に用いることができる。なお、水やりは、1週間から2週間程度に一度行えば十分である。その際、内鉢2を引き抜いて外鉢4に溜まった古い水を捨てた後、新しい水を内鉢2の上から注げば良い。
【0050】
図7は、育成工程(S1)から第2掘取工程(S6)までを実施し、定植工程(S7)を実施する前の苗木の根の様子を示す写真である(2020年5月27日撮影)。
【0051】
図7に示す苗木は、約2年間育成工程(S1)を実施したもの(いわゆる2年ものの苗木)であり、仮植工程(S5)によって、白根が十分な量に成長している様子が分かる。
【0052】
図8は、
図7に示す苗木を用いて水耕栽培工程(S9)を開始してから10日後の榊を示す写真である(2020年6月6日撮影)。なお、
図8では、容器1から、ネット3が被せられた内鉢2を取り出した様子を示している。また、
図8(a)が、
図7(a)の苗木を用いて水耕栽培工程(S9)を実施している榊であり、
図8(b)が、
図7(b)の苗木を用いて水耕栽培工程(S9)を実施している榊である。
【0053】
図8に示すように、水耕栽培工程(S9)を開始してから10日後であっても榊は元気な状態を維持していることが分かる。この状態を考えれば、少なくとも3ヶ月程度は枯れることはないと予想される。本発明の栽培方法を実施すれば、水耕栽培が難しいとされている榊であっても、
露地栽培から水耕栽培への順化が円滑に行われることが分かる。なお、本発明者らの実験によれば、1年以上枯れずに水耕栽培工程(S9)を実施している榊も確認されている。それらについては、十分な量の白根が認められ、水耕栽培への順化には、仮植工程(S5)における白根の成長が重要であると推察される。
【0054】
本発明は前述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、上述した実施形態では、榊を例に挙げて説明したが、姫榊、樒、茶の木、或いは他の陰樹にも同様に適用することができる。また、上述した実施形態では、春に掘取工程(S2)を実施した例を説明したが、例えば秋に掘取工程(S2)を実施してもよい。さらに、上述したように、水耕栽培順化工程(S8)は必須ではなく、定植工程(S7)を実施した内鉢2の側壁部21にネット3を被せ、水Waを所定量入れた外鉢4に重ねて、水耕栽培工程(S9)を実施してもよい。この態様の場合には、内鉢2を外鉢4に重ねる前に、上からシャワーをかけ、より十分に給水すると良い。またさらに、容器1はあくまで一例であって、特に限定されるものではない。例えば、化粧鉢5を、杉や檜等の木製とする態様としてもよい。さらに、人工培土を用いたハイドロカルチャーに限定されるものではなく、その他公知の水耕栽培の手法を用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 陰樹の栽培方法
S1 育成工程
S2 掘取工程
S3 根剪定工程
S4 枝葉剪定工程
S5 仮植工程
S6 第2掘取工程
S7 定植工程
S8 水耕栽培順化工程
S9 水耕栽培工程
1 ハイドロカルチャー用容器(容器)
2 内鉢
3 ネット
4 外鉢
5 化粧鉢
6 転倒防止部材
7 遮光シート
8 トレイ