(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】水溶性フラーレン重合体、及び有機薄膜太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241105BHJP
C08G 73/02 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H10K30/50
C08G73/02
(21)【出願番号】P 2020162382
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.(1)開催日 平成30年2月27日 (2)集会名、開催場所 平成29年度 滋賀県立大学工学部材料科学科卒業論文審査会および最終試験 滋賀県立大学 交流センター 大ホール(滋賀県彦根市八坂町2500) (3)公開者 山田 惇敬 (4)公開された発明の内容 山田惇敬が、平成29年度 滋賀県立大学工学部材料科学科 卒業論文審査会および最終試験にて秋山毅、山田惇敬および奥健夫が発明した「水溶性フラーレン重合体の作製と有機電子材料への応用」について公開した。 2.(1)発行日 平成30年2月27日 (2)刊行物 平成29年度 滋賀県立大学工学部材料科学科 卒業論文審査会および最終試験要旨集 (3)公開者 山田 惇敬 (4)公開された発明の内容 山田惇敬が、平成29年度 滋賀県立大学工学部材料科学科 卒業論文審査会および最終試験要旨集にて秋山毅、山田惇敬および奥健夫が発明した「水溶性フラーレン重合体の作製と有機電子材料への応用」について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 毅
(72)【発明者】
【氏名】山田 惇敬
(72)【発明者】
【氏名】奥 健夫
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/136696(WO,A1)
【文献】特開2019-022878(JP,A)
【文献】特開2006-080346(JP,A)
【文献】国際公開第2006/109774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/02
H10K 30/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フラーレン重合体を含む電子輸送層と、
透明電極と、
有機光活性層と、
を備え、
複層の前記電子輸送層が前記透明電極と前記有機光活性層の間に形成されて
おり、
前記水溶性フラーレン重合体は、フラーレンをγ-シクロデキストリンで包摂した錯体のエチレンジアミン付加反応物である、有機薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記フラーレンは、単量体のγ-シクロデキストリンで包摂されている、請求項1に記載の
有機薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記フラーレンは、C
60である、請求項1又は2に記載の
有機薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性フラーレン重合体、及び有機薄膜太陽電池に関し、より詳しくは、フラーレン錯体にエチレンジアミンを付加反応させてなる水溶性フラーレン重合体、及び当該水溶性フラーレン重合体を含む電子輸送層を有する有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
C60等のフラーレンは、疎水性で、電子受容性を備え、n型半導体特性を示すことが知られており、有機電子材料として注目されている。本発明者らは、C60にエチレンジアミンを付加反応させることでフラーレン重合体を作製することに成功している(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Y. Ono, T. Akiyama, S. Banya, D. Izumoto, J. Saito, K. Fujita, H. Sakaguchi, A. Suzuki and T. Oku, "C60-ethylenediamine adduct thin films as a buffer layer for inverted-type organic solar cells", RSC Adv, vol. 4, pp. 34950-34954, (2014).
【文献】A. Yamada, D. Izumoto, T. Akiyama, K. Fujita, A. Suzuki and T. Oku, "Insertion effect of spin-coated films of C60-ethylenediamine adduct on organic thin-film solar cells", AIP Conf. Proc., vol. 1929, pp. 020020, (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フラーレン重合体は、疎水性であるため、液塗工で機能膜を形成するには有機溶媒に溶解して用いる必要がある。フラーレン重合体の応用範囲を拡大し、特に、軽量でフレキシブルな有機薄膜太陽電池等のデバイスに活用するためには、高温加熱処理を不要としつつフレキシブルな基板に塗布できることが必要であるため、フラーレン重合体の水溶化が重要である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、有機電子材料として機能する水溶性フラーレン重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る水溶性フラーレン重合体は、フラーレンをγ-シクロデキストリンで包摂した錯体のエチレンジアミン付加反応物であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る水溶性フラーレン重合体において、フラーレンは、単量体のγ-シクロデキストリンで包摂されていることが好ましい。
【0008】
本発明に係る水溶性フラーレン重合体において、フラーレンは、C60であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る有機薄膜太陽電池は、上記水溶性フラーレン重合体を含む電子輸送層と、透明電極と、有機光活性層と、を備え、電子輸送層が透明電極と有機光活性層の間に形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る有機薄膜太陽電池において、電子輸送層は、複層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る水溶性フラーレン重合体は、有機電子材料として機能するので、有機薄膜太陽電池等のデバイスに活用することができる。また、本発明に係る水溶性フラーレン重合体を電子輸送層に用いることで、有機薄膜太陽電池の変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の一例であるC
60(γCD)
2水溶液及びC
60(γCD)
2-EDA水溶液の紫外可視光吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】実施形態の一例であるC
60(γCD)
1水溶液及びC
60(γCD)
1-EDA水溶液の紫外可視光吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】実施形態の一例であるC
60(γCD)
2-EDA水溶液及びC
60(γCD)
1-EDA水溶液を波長400nmの光で励起した際の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図4】実施形態の一例である有機薄膜太陽電池の構成を模式的に表した図である。
【
図5】実施例及び比較例におけるJ-V曲線図を示す図である。
【
図6】実施例及び参考例において、電子輸送層を2層にした効果を示すJ-V曲線図である。
【
図7】実施例及び比較例におけるIPCEスペクトルを示す図である。
【
図8】実施例及び参考例におけるIPCEスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る水溶性フラーレン重合体及び有機薄膜太陽電池の実施形態について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は当該実施形態に限定されない。
【0014】
実施形態の一例である水溶性フラーレン重合体は、フラーレンをγ-シクロデキストリン(γCD)で包摂した錯体にエチレンジアミンを付加反応させてなる。換言すれば、水溶性フラーレン重合体は、フラーレンをγ-シクロデキストリンで包摂した錯体のエチレンジアミン付加反応物である。これにより、フラーレン重合体を水溶化することができる。また、この水溶性フラーレン重合体は、後述するように、優れた半導体特性を示し、電子輸送層に用いることで、有機薄膜太陽電池の変換効率を向上させることができる。
【0015】
フラーレンは、炭素原子からなる化合物である。フラーレンとしては、例えば、C60、C70、C84等が挙げられ、これらの混合物でもよい。フラーレンは、C60を含んでもよく、C60であることが好ましい。C60は、球状のπ電子共役系で、高い電子受容性を有しており、優れたn型半導体特性を示し、さらに化学修飾が容易である。以下では、フラーレンはC60であるとして説明する。
【0016】
γCDは、内側が疎水性で外側が親水性の化合物であり、その内側にフラーレンを包摂することができる。フラーレンとγCDとの錯体としては、1個のフラーレンを2個のγCDで包摂した2量体γCD包摂錯体(以下、C60(γCD)2と表す)、及び、1個のフラーレンを1個のγCDで包摂した単量体γCD包摂錯体(以下、C60(γCD)1と表す)が挙げられる。
【0017】
C60(γCD)2は、例えば、以下のようにして作製することができる。
(1)60℃で120分乾燥させたγCD72mgと、フラーレン5mgとをハイスピードミキサー(例えば、Restech社製MM400)を用いて25Hzで90分間粉砕する。
(2)上記粉砕物を十分に冷却した水8mLに加え、粒子が十分に溶解するまで超音波処理を行う。
(3)作製した溶液を親水メンブレンフィルター(ポアサイズ:0.22μm)でろ過することで、C60(γCD)2水溶液が得られる。
【0018】
C60(γCD)1は、(1)工程においてハイスピードミキサーを使用せずに、乳鉢でγCDとフラーレンの混合物を挽くこと以外は上記のC60(γCD)2の作製方法と同様の方法で、作製することができる。この方法によれば、ハイスピードミキサーを使用しないので、C60(γCD)2よりも簡便にC60(γCD)1を作製することができる。なお、(3)工程では、濁ったC60(γCD)1コロイド溶液が得られる。
【0019】
水溶性フラーレン重合体は、上記のC60(γCD)2水溶液、又はC60(γCD)1コロイド溶液にエチレンジアミン(EDA)を添加して付加反応させることで作製できる。例えば、C60(γCD)2水溶液1.5mLにEDA10μLを加え、24時間攪拌することでC60(γCD)2-EDA水溶液が得られる。また、同様に、C60(γCD)1コロイド溶液1.5mLにEDA10μLを加え、24時間攪拌することでC60(γCD)1-EDA水溶液が得られる。なお、C60(γCD)1-EDA水溶液はC60(γCD)1コロイド溶液のように濁っていない。EDAの添加量は、フラーレンにEDAが修飾できれば限定されないが、上記例では、例えば、10μL以上でもよい。換言すれば、フラーレンに対して、EDAの添加量は、70当量以上であってもよい。
【0020】
図1は、C
60(γCD)
2水溶液及びC
60(γCD)
2-EDA水溶液の紫外可視光吸収スペクトルを示す。C
60(γCD)
2-EDAについては、EDAの添加量を10μL~50μL(フラーレンに対して、70当量~350当量)で変化させた場合についても記載している。C
60(γCD)
2の300nm近傍のピークは、フラーレン由来のピークである。また、410nm近傍にはショルダーピークが存在しており、C
60が十分に分散していることを示している。C
60(γCD)
2-EDAでは、フラーレンのピークが消失し、ブロードなピーク見られることから、EDAがγCDを貫通してフラーレンに修飾していると考えられる。なお、図示しないが、γCDで包摂されていないフラーレンにEDAを加えた場合でも同様にフラーレンのピークが消失してブロードなピークが見られる。
【0021】
図2は、C
60(γCD)
1コロイド溶液及びC
60(γCD)
1-EDA水溶液の紫外可視光吸収スペクトルを示す。C
60(γCD)
1コロイド溶液ではC
60(γCD)
1が凝集しているが、EDAの添加により、C
60(γCD)
1が分散して水に溶解し、300nm近傍のピークが増強すると考えられる。
【0022】
下記式(1)にC60(γCD)2-EDAの構造を示し、下記式(2)にC60(γCD)1-EDAの構造を示す。なお、球形状の構造体はC60を表し、C60を包摂する環状の構造体は、γCDを表している。
【0023】
【0024】
【0025】
図3は、波長400nmの光で励起した際の、C
60(γCD)
2-EDA水溶液及びC
60(γCD)
1-EDA水溶液の蛍光スペクトルを示す。
図3には、比較のためにC
60(γCD)
2と水のスペクトルも記載している。C
60(γCD)
2-EDA及びC
60(γCD)
1-EDAは、いずれも500~700nmで蛍光を示す。また、波長350nmの光で励起した際にも、同様に500~700nmで蛍光を示すことを確認している。これにより、後述する有機薄膜太陽電池では、300~400nmで光電変換が行われると考えられる。
【0026】
次に、
図4を参照しつつ、実施形態の一例である有機薄膜太陽電池について説明する。
図4は、有機薄膜太陽電池の構成を模式的に表した図である。有機薄膜太陽電池1は、一対の電極(透明電極10、Ag電極18)、これら電極の間に形成された有機光活性層14、透明電極10と有機光活性層14との間に形成された電子輸送層12、及び、Ag電極18と有機光活性層14との間に形成された正孔輸送層16を含む。
【0027】
透明電極10としては、導電性の金属酸化物膜を用いることができて、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、これらの複合体であるインジウムスズオキサイド(ITO)、インジウム亜鉛オキサイド(IZO)等が挙げられる。透明電極10は、
図4に図示されないガラス、プラスチック、高分子フィルム等の透明基板の表面に形成されていてもよい。
【0028】
有機光活性層14としては、特に限定されないが、p型半導体材料及びn型半導体材料を含む有機化合物を用いることができる。有機光活性層14としては、例えば、P3HT(ポリ-3-ヘキシルチオフェン)とPCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)とを組み合わせたP3HT:PCBMを用いてもよい。
【0029】
電子輸送層12は、有機光活性層14から透明電極10へと電子を輸送する機能を有する。また、電子輸送層12は、透明電極10から有機光活性層14に正孔が注入されるのを抑制し、さらに、有機光活性層14で発生した正孔が透明電極10に移動するのを阻害する。電子輸送層12の厚みは、例えば、1~20nmであり、3nm~10nmでもよい。電子輸送層12の厚みは、原子間力顕微鏡を用いて、透明電極10上で、電子輸送層12が被覆された箇所と被覆されていない箇所との差を測定することで算出できる。
【0030】
電子輸送層12は、単層であってもよいし、2層以上が積層された複層であってもよい。ホールブロッキング性能向上の観点から、電子輸送層12は、複層であることが好ましい。
【0031】
電子輸送層12は、C60(γCD)2-EDA及びC60(γCD)1-EDAの少なくともいずれか一方を含む。これにより、有機薄膜太陽電池1の変換効率を向上させることができる。電子輸送層12は、C60(γCD)2-EDA、C60(γCD)1-EDA以外に、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)等の水溶性の絶縁性材料を含んでもよい。
【0032】
電子輸送層12の形成方法は、特に限定されないが、例えば、透明電極10の上にC60(γCD)2-EDA及びC60(γCD)1-EDAの少なくともいずれか一方を含む水溶液をスピンコートにて塗布し、ベーキングして電子輸送層12を形成してもよい。C60(γCD)2-EDA及びC60(γCD)1-EDAは水溶性なので、スピンコートのような高温加熱処理が不要としつつフレキシブルな基板に塗布できる方法で塗布することができる。電子輸送層12が複層の場合は、スピンコートを複数回行ってからベーキングしてもよいし、スピンコートを行う毎にベーキングしてもよい。
【0033】
正孔輸送層16は、有機光活性層14からAg電極18へと正孔を輸送する機能を有する。また、正孔輸送層16は、Ag電極18から有機光活性層14に電子が注入されるのを抑制し、さらに、有機光活性層14で発生した電子がAg電極18に移動するのを阻害する。
【0034】
正孔輸送層16としては、特に限定されないが、PEDOT(ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン)とPSS(ポリ-4-スチレンスルホン酸)とを組み合わせたPEDOT:PSSを用いてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳説するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
[2量体γCD包摂錯体(C60(γCD)2)の作製]
フラーレンとして、C60を用いた。60℃で120分乾燥させたγCD72mgと、C605mgとをハイスピードミキサー(Restech社製MM400)を用いて25Hzで90分間粉砕した。この粉砕物を十分に冷却した水8mLに加え、粒子が十分に溶解するまで超音波処理を行った。作製した溶液を親水メンブレンフィルター(ポアサイズ:0.22μm)でろ過することで、C60(γCD)2水溶液を得た。
【0037】
[C60(γCD)2-EDAの作製]
上記のC60(γCD)2水溶液1.5mLにEDA10μLを加え、24時間攪拌することでC60(γCD)2-EDA水溶液を得た。
【0038】
[有機薄膜太陽電池の作製]
ガラス上にITOがコーティングされた基板を準備した。当該基板のITOの上にC60(γCD)2-EDA水溶液をスピンコーターで塗布し、ベーキングして電子輸送層を形成した。電子輸送層の厚みは6nmであった。電子輸送層の上に、スピンコート法によりP3HT:PCBMの有機光活性層を形成した後に、スピンコート法でPEDOT:PSSの正孔輸送層を形成し、さらに、蒸着法でAg電極を形成した。
【0039】
<実施例2>
2量体γCD包摂錯体(C60(γCD)2)の作製において、ハイスピードミキサーを使用せず、γCDとC60とを乳鉢で挽いたこと以外は実施例1と同様にして、C60(γCD)1-EDA水溶液を得て、有機薄膜太陽電池を作製した。C60(γCD)1コロイド溶液は濁っていたが、その後のEDAの付加反応によって、透明になった。
【0040】
<比較例1>
有機薄膜太陽電池の作製において、C60(γCD)2-EDA水溶液の代わりにC60(γCD)2水溶液を用いて電子輸送層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0041】
<比較例2>
2量体γCD包摂錯体(C60(γCD)2)の作製において、C60を加えずにγCDのみを溶解した水溶液(γCD水溶液)を作製し、有機薄膜太陽電池の作製において、C60(γCD)2-EDA水溶液の代わりにγCD水溶液を用いて電子輸送層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0042】
[電流-電圧特性(J-V)測定]
実施例及び比較例において、J-V測定を行った。照射光源には人工太陽光源(100mW/cm
2、AM1.5)を用い、ポテンショスタットを用いて電圧制御下で電流を測定した。
図5にJ-V曲線図を示す。また、表1に各測定値を示す。J
scは短絡電流、V
ocは解放電圧、FFは曲線因子、ηは変換効率、R
shは並列抵抗、R
sは直列抵抗を示す。
【0043】
【0044】
実施例1では、良好なFFとηの値が得られた。実施例2では、ηの値は良好であったが、FFの値が低かった。実施例2では、電子輸送層中にC60を包摂していないγCDが多く存在したために、リークが増大し、FFが低下したと考えられる。
【0045】
<実施例3>
有機薄膜太陽電池の作製において、電子輸送層を形成した後に、再度、C60(γCD)1-EDA水溶液をスピンコーターで塗布し、ベーキングして電子輸送層を形成して、電子輸送層を2層にしたこと以外は、実施例2と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、J-V測定を行った。
【0046】
<参考例>
有機薄膜太陽電池の作製において、電子輸送層を形成した後に、再度、C60(γCD)2水溶液をスピンコーターで塗布し、ベーキングして電子輸送層を形成して、電子輸送層を2層にしたこと以外は、比較例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、J-V測定を行った。
【0047】
図6に実施例3及び参考例のJ-V曲線図を示す。また、表2に各測定値を示す。表2には、比較のため、実施例2及び比較例1の結果も記載する。
【0048】
【0049】
実施例3では、実施例2に比べてJsc及びFFが大幅に向上した。2度塗布して複層にしたことで、電子輸送層が平滑になり、ホールブロッキング性能が向上したため、Jscが向上し、その結果、変換効率も1.0%と高くなったと考えられる。参考例においても、比較例1と比較して同様の傾向が見られた。
【0050】
[外部量子効率測定]
図7に、実施例1、2及び比較例1の有機薄膜太陽電池のIPCE(Incident Photon To Current Conversion Efficiency)の測定結果を示す。光源には150Wのキセノンランプをモノクロメーターで単色化したものを用いた。J
scが最も高かった実施例2では、350nm近傍に明確なピークが存在した。また、実施例1でも、350nm近傍にピークが存在した。これは、C
60のπ-π
*励起が電子輸送層中で行われたためと考えられる。
図3の蛍光スペクトルより、波長400nmの光を吸収して波長500~700nmの蛍光を発していることがわかる。光収穫を行う有機光活性層のP3HTは、波長400~600nmの光を吸収するので、上記の蛍光をP3HTが吸収したため、IPCE測定において、波長350nm近傍で、光電変換能を示したと考えられる。
【0051】
また、
図8には、実施例3及び参考例の有機薄膜太陽電池のIPCEの測定結果を示す。実施例3では、
図7の実施例1、2と同様に紫外領域での光電変換が確認された。
【符号の説明】
【0052】
1 有機薄膜太陽電池、10 透明電極、12 電子輸送層、14 有機光活性層、16 正孔輸送層、18 Ag電極