(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒及びこれを用いた排ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/76 20060101AFI20241105BHJP
C01B 39/46 20060101ALI20241105BHJP
B01J 29/85 20060101ALI20241105BHJP
C01B 39/54 20060101ALI20241105BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B01J29/76 A ZAB
C01B39/46
B01J29/85 A
C01B39/54
B01D53/86 228
(21)【出願番号】P 2021000436
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226219
【氏名又は名称】日揮ユニバーサル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】生駒 知央
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/099024(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/230639(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/234375(WO,A1)
【文献】特開2016-073971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90、53/94-53/96
C01B 39/00-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと水分とを含む排ガスを処理するためのアンモニア分解触媒であって、
貴金属と、無機酸化物と、第1のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトとを含む第一の層と、
前記第一の層の表面上に設けられ
ており、第2のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライトを含む第二の層と、
を備え、
前記第1及び第2のプロトン型ゼオライト、並びに第1及び第2のイオン交換型ゼオライトがCHA型構造であ
り、
前記第一の層における貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、前記第一の層における貴金属、無機酸化物及びゼオライトの含有量がそれぞれ以下の範囲であり、
貴金属:0.3~10質量部
無機酸化物:5~50質量部
ゼオライト:40~95質量部
前記第一の層における貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、前記第二の層におけるゼオライトの量が20~400質量部であり、
前記第一の層に含まれる貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、前記第一の層のリン含有量が0.05質量部未満である、アンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記貴金属がPt、Pd、Ir及びRhからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記無機酸化物がチタニア、ジルコニア、セリアジルコニア、アルミナ及びシリカからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
前記第1及び第2のイオン交換型ゼオライトの少なくとも一方がCuイオン交換CHA型ゼオライトである、請求項1~3のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
前記第1及び第2のイオン交換型ゼオライトの少なくとも一方がCuイオン交換SSZゼオライトである、請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項6】
前記第1及び第2のイオン交換型ゼオライトの少なくとも一方がCuイオン交換SAPOゼオライトである、請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項7】
前記第一の層における前記第二の層とは反対側に設けられた支持体を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項8】
アンモニアと水分とを含む排ガスを処理するための排ガス処理方法であって、
請求項1~
7のいずれか一項に記載のアンモニア分解触媒と前記排ガスとを接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程を含む、排ガス処理方法。
【請求項9】
アンモニアと水分とを含む排ガスを処理するための排ガス処理方法であって、
交互に設置された第一の触媒と第二の触媒に前記排ガスを順次接触させる工程を含み、
前記第一の触媒が、貴金属と、無機酸化物と、第1のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトとを含み、
前記第二の触媒が、第2のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライトを含
み、
前記第1及び第2のプロトン型ゼオライト、並びに第1及び第2のイオン交換型ゼオライトがCHA型構造であり、
前記第一の触媒における貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、前記第一の触媒における貴金属、無機酸化物及びゼオライトの含有量がそれぞれ以下の範囲であり、
貴金属:0.3~10質量部
無機酸化物:5~50質量部
ゼオライト:40~95質量部
前記第一の触媒における貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、前記第二の触媒におけるゼオライトの量が20~400質量部であり、
前記第一の触媒に含まれる貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、前記第一の触媒のリン含有量が0.05質量部未満である、排ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンモニアと水分とを含む排ガスを処理するためのアンモニア分解触媒及びこれを用いた排ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスに含まれるアンモニアを分解する触媒が知られている。特許文献1は、下層と上層を備えるアンモニア分解触媒を開示している。下層は、貴金属と、無機酸化物と、リンと、所定のゼオライトとを含む。他方、上層は、所定のゼオライトを含む。特許文献2は、酸化銅と、ゼオライトと、貴金属と、リンとを含むアンモニア分解触媒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/099024号
【文献】国際公開第2009/075311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、特許文献1に記載のアンモニア分解触媒は、優れたアンモニア分解能を長期にわたって維持することができるものの、300℃以下の低温条件における処理能や、より高い空間速度(SV)条件での処理に改善に余地があった。
【0005】
本開示は、優れたアンモニア分解能を長期にわたって維持できるとともに優れた低温活性を発現し得るアンモニア分解触媒及びこれを用いた排ガス処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面はアンモニア分解触媒に関する。このアンモニア分解触媒は、アンモニアと水分とを含む排ガスを処理するためのものであり、貴金属と、無機酸化物と、第1のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトとを含む第一の層と、この第一の層の表面上に設けられおり、第2のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライトを含む第二の層とを備え、上記第1及び第2のプロトン型ゼオライト、並びに上記第1及び第2のイオン交換型ゼオライトがCHA型構造である。
【0007】
本開示の一側面は排ガス処理方法に関する。この排ガス処理方法は、アンモニアと水分とを含む排ガスと、本開示に係る上記アンモニア分解触媒とを接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、優れたアンモニア分解能を長期にわたって維持できるとともに優れた低温活性を発現し得るアンモニア分解触媒及びこれを用いた排ガス処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本開示の実施形態に係るアンモニア分解触媒においてアンモニアの分解反応が進行する様子を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は触媒A-4(入口温度:340℃、SV:10000h
-1、NH
3濃度:1%)の耐久試験結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は触媒B-6(入口温度:340℃、SV:10000h
-1、NH
3濃度:1%)の耐久試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語の定義>
本明細書で用いる用語の意味は、特に断らない限り以下のとおりである。
・アンモニア分解率:触媒に接触する前と接触した後の排ガス中のアンモニア濃度の比率(%)を表す。
・NOX生成率:触媒に接触する前の排ガス中のアンモニア濃度に対する、接触後の排ガス中に生成したNOX濃度の比率(%)を表す。
・N2O生成率:触媒に接触する前の排ガス中のアンモニア濃度に対する、接触後の排ガス中に生成したN2Oの比率(%)を表す。
・窒素酸化物:NOXとN2Oの両方を指し、NOX等と表現することがある。
・N2選択率:アンモニア分解率から、触媒に接触後の排ガス中NOX等の生成率を差し引いた数値を表す。すなわち触媒に接触する前のアンモニアのうち、N2に転化した割合である。
【0011】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[アンモニア分解触媒]
図1は、本実施形態に係るアンモニア分解触媒においてアンモニアの分解反応が進行する様子を模式的に示す断面図である。この図に示されたアンモニア分解触媒10は、支持体Sと、支持体Sの表面上に設けられた下層1(第一の層)と、下層1の表面上に設けられた上層2(第二の層)とを備える。
【0013】
<支持体>
支持体Sは、ガス流通時に発生する差圧が小さく、ガスとの接触面積が大きい形状を有することが好ましい。支持体Sの具体例として、ハニカム、シート、メッシュ、繊維、パイプ、フィルター、球体などが挙げられる。支持体の材質は、例えば、コージェライト、アルミナ等公知の触媒担体、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、チタン、アルミニウム、ステンレス等の金属である。
【0014】
<下層>
下層1は、貴金属と、無機酸化物と、第1のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトとを含む。下層1は支持体Sの表面上に設けられている。下層1の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~100μmである。下層1において下記式(1)で表される酸化反応が主に進行するとともに、下記式(2)で表される脱硝反応も進行する。
酸化反応:NH3+O2→NOX+N2O+H2O+N2・・・(1)
脱硝反応:NOX+NH3+O2→N2+O2・・・(2)
【0015】
(貴金属)
下層1は貴金属を含有している。貴金属として、Pt、Pd、Ir、Rh及びこれらの複合物等が挙げられる。これらの中でも、Ptは分解活性及びN2選択率の向上効果が大きいため、特に好ましい。
【0016】
貴金属の含有量は、下層1に含まれる貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計量を基準として、好ましくは0.3~10質量%であり、より好ましくは0.5~8質量%である。貴金属の担持量は、触媒容積に対して、好ましくは0.03~1g/Lであり、より好ましくは0.1~0.9g/Lであり、更に好ましくは0.15~0.8g/Lである。貴金属の量が上記範囲内であると、アンモニア分解率、NOX生成率及びN2O生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0017】
(無機酸化物)
下層1は無機酸化物を含有している。無機酸化物として、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、アルミナ、並びに、セリア・ジルコニアの複合酸化物及び固溶体(CeO2・ZrO2で表され、CeO2:ZrO2モル比は1:3~3:1である)が挙げられる。これらのうち、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。無機酸化物は、貴金属の作用、すなわち分解活性の向上、とりわけ長期間使用中における分解活性の持続性向上に寄与する。上記無機酸化物の中でも、特にTiO2、ZrO2及びセリアジルコニア(複合酸化物又は固溶体)は長期間使用における分解活性の持続効果が優れている。無機酸化物の含有量は、下層1に含まれる貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計量を基準として、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~35質量%である。無機酸化物の担持量は、触媒容積に対して、好ましくは1~50g/Lであり、より好ましくは5~20g/Lである。無機酸化物の量が上記範囲内であると、アンモニア分解率、NOX生成率及びN2O生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0018】
無機酸化物は、貴金属を担持させた状態で、触媒中に含有させることが、特に有効である。例えば、TiO2粒子に0.1~10質量%(TiO2の質量基準)のPtを予め担持した粒子(これをPt/TiO2と表現する。)を用意しておいて、該粒子を他の成分と混合することにより、貴金属と無機酸化物とを含有した触媒組成物を調製することができる。
【0019】
無機酸化物は、触媒組成物中における貴金属成分の機能をより有効に発揮させる観点から、粒子状であることが好ましい。無機酸化物の平均粒径は、例えば、0.1~100μmである。ここで粒径とは、二次粒子の大きさであり、SEMで観察したときの長径の長さである。平均粒径とは、少なくとも10個の粒子についてSEMを用いて長径を測定したときの平均値である。
【0020】
無機酸化物として、TiO2粒子を用いる場合、TiO2粒子のBET比表面積は、好ましくは5~200m2/gであり、より好ましくは10~150m2/gである。無機酸化物として、ZrO2粒子を用いる場合、比表面積が10m2/g以上の多孔質のZrO2粒子を用いることが好ましい。なお、ZrO2は、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系のいずれであってもよい。また、複合系のZrO2(例えば、ZrO2・nCeO2、ZrO2・nSiO2、ZrO2・nTiO2、nは概して0.25~0.75)を用いてもよい。無機酸化物として、SiO2を用いる場合、ゼオライト構造を有する高シリカゼオライト(例えば、モルデナイト)を用いることが好ましい。
【0021】
(ゼオライト)
下層1は、CHA型構造を有するゼオライトを含む。CHA型構造は、三次元の細孔構造を有する。CHA型構造のゼオライトとして、プロトン型(H型)の他、Cu、Co又はFeとイオン交換したイオン交換型ゼオライトを用いることができる。これらのゼオライトの一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
ゼオライトは粒子状であることが好ましい。ゼオライトの平均粒径は、例えば、0.1~5.0μmである。ここで粒径とは、ゼオライト結晶の大きさであり、SEMで観察したときの長径の長さである。平均粒径とは、少なくとも10個の粒子についてSEMを用いて長径を測定したときの平均値である。
【0023】
NOXの抑制性能及び耐久性の観点から、CHA型構造を有するゼオライトとして、Cuイオン交換CHA型ゼオライトを使用することが好ましく、Cuイオン交換SSZゼオライト(SSZ-13)又はCuイオン交換SAPO-34ゼオライトを使用することがより好ましい。Cuイオン交換SSZゼオライトのシリカアルミナ比(SAR、Si/Al)は、好ましくは10~50であり、より好ましくは10~20である。SARが10未満であると、NOxの還元能力が高まるが水熱条件での耐性が低下する傾向にあり、他方、50を超えると、水熱条件での耐性は高まるがNOxの還元能力が低下する傾向にある。Cuイオン交換SAPOゼオライトのシリカに対するリン酸アルミニウムの量(Al+P)/Siは、好ましくは1~30であり、より好ましくは5~30である。(Al+P)/Si比が1未満であると、水熱条件で耐久性が低下する傾向にあり、他方、30を超えると、NOxの還元性能が低下する傾向にある。
【0024】
Cuイオン交換ゼオライトのNH3によるNOX還元性能(脱硝性能)は、Cuの分散性が高い方が良好となり、また、ゼオライトが保持している固体酸量が多いほど良好となる傾向がある。一般にゼオライトの酸量はSARが低い方が高くなるが、SARが低いゼオライトは親水性が高まり、高温、高水分の条件下では脱アルミが進行しやすく、経時的に酸量が低下し、脱硝性能が低下する傾向にある。同様にSAPO系ゼオライトも(Al+P)/Siが低い方が酸量高くなり同様の傾向にあると推測できる。本実施形態におけるCuイオン交換SSZゼオライト(SSZ-13)又はCuイオン交換SAPOゼオライト(SAPO-34)は構造的に高い水熱安定性を有しているので、βゼオライト(SAR:35)よりも酸量が多い組成で触媒化できているため、NOXの抑制性能と耐久性を両立ができていると推察される。
【0025】
下層1に含まれるCHA型構造のゼオライトの含有量は、下層1に含まれる貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を基準として、好ましくは40~95質量%であり、より好ましくは50~90質量%である。下層1におけるCHA型構造のゼオライト担持量は、触媒容積に対して、好ましくは5~95g/Lであり、より好ましくは10~90g/Lである。下層1におけるゼオライトの量が上記範囲内であると、アンモニア分解率、NOX生成率及びN2O生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0026】
なお、特許文献1に記載のアンモニア分解触媒は、耐水熱性の向上の観点から、所定のリンを下層に含むものである。これに対し、本実施形態に係るアンモニア分解触媒の下層1は、CHA型構造のゼオライトに起因して優れた耐水熱性を有しているため、下層1はリンを含んでいなくてもよい。下層1がリンを含むとしても、その含有量(下層1に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの合計を基準)は、0.05質量%未満でよく、0.01質量%未満であってもよい。本発明者らが実施した評価試験により、リンを下層1に配合しないことで、下層1の低温活性が向上することが実験的に示された(実施例1,13参照)。
【0027】
<上層>
上層2は、第2のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライトとを含む。上層2は下層1の表面上に設けられている。上層2の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~100μmである。上層2において下記式(2)で表される脱硝反応が主に進行する。
脱硝反応:NOX+NH3+O2→N2+O2・・・(2)
【0028】
上層2が含むゼオライトは、下層1が含むゼオライトと同様、CHA型構造を有する。CHA型構造のゼオライトとして、プロトン型(H型)の他、Cu、CoもしくはFeとイオン交換したイオン交換型ゼオライトを用いることができる。これらのゼオライトの一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。上層2に含まれるゼオライトは、下層1と同様、Cuイオン交換CHA型ゼオライトであることが好ましく、Cuイオン交換SSZゼオライト(SSZ-13)又はCuイオン交換SAPOゼオライト(SAPO-34)であることがより好ましい。なお、上層2に含まれるゼオライトは、下層1に含まれるゼオライトと同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
上層2におけるCHA型構造のゼオライト担持量は、触媒容積に対して、好ましくは20~150g/Lであり、より好ましくは30~130g/Lである。上層2におけるゼオライト量が上記範囲内であると、アンモニア分解率、NOX生成率及びN2O生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0030】
上層2に含まれるゼオライトの量(プロトン型ゼオライト及びイオン交換型ゼオライトの合計量)は、下層1に含まれる貴金属、無機酸化物及びゼオライトの合計を100質量部とすると、好ましくは20~400質量部であり、より好ましくは50~150質量部である。この量が50質量部以上であることで、上層2における脱硝反応によってNOXの生成率をより低くできる傾向にあり、他方、150質量部以下であることで、アンモニアが下層1に効率的に接触して分解される傾向にある。
【0031】
[アンモニア分解触媒の製造方法]
以下、本実施形態のアンモニア分解触媒の製造方法について説明する。ただし、製造方法については以下の方法に限定されるものではない。
【0032】
まず、容器の中に貴金属含有水溶液を入れ、これに無機酸化物を加える。無機酸化物中に貴金属含有水溶液を十分含浸させた後、攪拌しながら加熱して水分を蒸発させ、乾燥させる。その後、更に乾燥機中で加熱し、得られた粉末を空気中で焼成して、貴金属(金属分として)が所定量担持された無機酸化物粒子を得る。
【0033】
この粉末と脱イオン水とを混ぜ合わせた後、ここに、所定量の無機バインダー及び上記ゼオライトを混ぜ合わせて、下層用スラリー組成を調製する。このスラリーを支持体Sに塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばす。その後、加熱して乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて焼成することによって、支持体Sの表面上に下層1が形成される。なお、スラリーに配合無機バインダーは、例えば、コロイダルシリカ、シリカゾル、アルミナゾル、ケイ酸ゾル、チタニアゾル、ベーマイト、白土、カオリン、セピオライトが挙げられる。無機バインダーの代わりに、有機バインダーを使用してもよい。
【0034】
脱イオン水と所定量の無機バインダー及び上記ゼオライトを混ぜ合わせて、上層用スラリーを調製する。このスラリーを下層1の表面上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばす。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施する。これにより、下層1及び上層2の二層からなるアンモニア分解触媒10が得られる。
【0035】
[排ガス処理方法]
本実施形態に係る排ガス処理方法は、アンモニアと水分とを含む排ガスとアンモニア分解触媒10と接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程を含む。アンモニアを含む排ガス(アンモニア排ガス)の具体例として、半導体工場等の工場におけるアンモニア水の処理、コークス炉排ガス、排煙脱硝プロセスからのリークガス、下水処理場、汚泥処理施設等のアンモニア含有排水のストリッピングにより発生する排ガスが挙げられる。
【0036】
アンモニア排ガスのアンモニア濃度は、例えば、10容量ppm~5容量%である。アンモニア分解触媒10にアンモニア排ガスと空気を接触させて、アンモニアを無害な窒素ガスと水に変換し、酸化分解する。この酸化分解温度は、排ガス中の性状(水蒸気濃度やアンモニア濃度)、反応条件(温度、空間速度)、触媒劣化度合い等により適宜決定されるが、通常200~500℃、好ましくは250~450℃の温度範囲から選択するのが適当である。アンモニア排ガスの水蒸気濃度は、例えば、10容量%以上であり、20~50容量%であってもよい。
【0037】
処理対象排ガスの触媒に対する空間速度(SV)は、ガスの性質(アンモニア濃度や水分濃度)やアンモニア分解率の目標値等を考慮して、100~100000h-1の範囲から適宜選択すればよい。触媒反応器に供給するガス中のアンモニアの濃度は3容量%以下、好ましくは2容量%以下となるよう調整することが好ましい。アンモニアの濃度が3容量%を超えると、反応による発熱で触媒層の温度が上がりすぎて触媒の劣化が起こりやすい。
【0038】
分解反応に必要な酸素が十分に含まれていない排ガスを処理する場合は、触媒反応器の入口で、酸素量/理論必要酸素量比が、例えば、1.03以上(好ましくは2.0以上)となるように、外部より空気あるいは酸素含有ガスを混入させればよい。ここで、理論必要酸素量は、下記式(3)より得られる化学量論酸素量であり、反応器の入口アンモニア濃度が1.0容量%のときは、酸素濃度は、例えば、0.77以上(好ましくは0.83容量%以上)である。
4NH3+3O2→6H2O+2N2・・・(3)
【0039】
下層1と上層2とを備えるアンモニア分解触媒10の代わりに、下層1と同様の構成の第1の触媒と、上層2と同様の構成の第2の触媒とをそれぞれ準備し、これらの触媒を交互に設置して排ガスを順次接触させることによって排ガスに含まれるアンモニアを分解してもよい。すなわち、排ガス処理方法は、排ガスを第一の触媒と接触させる工程と、排ガスが第一の触媒と接触したことによって生じた生成ガスを第二の触媒と接触させる工程とを含むものであってもよい。
【0040】
以下、アンモニアストリッピング排ガスの例を紹介する。アンモニア含有排水(例えば、半導体製造における洗浄液、アンモニアを捕集した硫酸スクラバ液、下水汚泥の脱水液)のpHを水酸化ナトリウムなどで10付近に調整し、50℃~90℃に加熱した後、空気、窒素、スチームを送り込むことで気相にアンモニアを放出させる。その後、高濃度水分とアンモニアとを含む蒸気(排ガス)を触媒反応装置に導入して、別途外部から必要量の空気を導入し、触媒に接触してアンモニアを窒素と水蒸気に分解し、無害化処理する。
【0041】
本実施形態に係るアンモニア分解触媒によれば、従来と比較して、貴金属の担持量を少なくしても、優れたアンモニア分解能が発現する。これは、下層及び上層にそれぞれ含まれるCHA型構造のゼオライトが優れた脱硝性能を有することに起因すると推察される。これに加え、CHA型構造のゼオライトが優れた耐水熱性を有するため、優れたアンモニア分解能が長期にわたって維持される。また、アンモニア分解触媒におけるリンの含有量が十分に少ないか、あるいは、リンを実質的に含まないことで、300℃程度の低温条件であっても、優れたアンモニア分解能が発現する。なお、本発明者らの検討によると、リンはアンモニア分解触媒の耐水熱性を向上させる反面、低温活性を下げる作用がある。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[触媒の調製]
<触媒A-1>
蒸発皿の中でジニトロジアミン白金の水溶液(Pt濃度;4.5質量%)に、TiO2粉末(石原産業社製、平均粒径1μm、BET比表面積;60m2/g)を加え、TiO2粉末中に水溶液を十分含浸させた。その後、温度80~90℃で、攪拌しながら水分を蒸発させ、乾燥させた。その後、更に乾燥機中で150℃に加熱した。得られた粉末を空気中、500℃の温度で1時間焼成して、Pt(金属分として)が5.0質量%担持したTiO2粒子(これをPt(5.0)/TiO2と表示する。)を得た。この粉末と脱イオン水64.4gとを混ぜ合わせてスラリー状物とした。このスラリー状物とシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換SSZゼオライト(ゼオリスト社製、以下「Cu-SSZ-13」と表記することもある。)142.3gとを混ぜ合わせて、下層用スラリーを調製した。この下層用スラリーをコージライトハニカム200セル(セル数:200セル/平方インチ、縦50mm×横50mm×高さ50mm、容積:0.125リットル)の支持体に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し下層用触媒を得た。このときのPt量は触媒1リットル当り0.5g、Cuイオン交換SSZゼオライトの量は70gであった。
【0044】
次に、脱イオン水64.4gとシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換SSZゼオライト(ゼオリスト社製)142.3gとを混ぜ合わせて、上層用スラリー(Cu-SSZスラリー)を調製した。このスラリーを下層触媒上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施し、二層構造の触媒A-1を得た。このときの上層のCuイオン交換SSZゼオライトの担持量は、触媒容積1リットル当り64gであった。
【0045】
<触媒A-2>
Pt量をPt(5.0)/TiO2(0.5g/L)からPt(3.0)/TiO2(0.3g/L)に変更したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-2を得た。
【0046】
<触媒A-3>
Pt量をPt(5.0)/TiO2(0.5g/L)からPt(7.5)/TiO2(0.75g/L)に変更したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-2を得た。
【0047】
<触媒A-4>
下層の単位面積あたりの質量が触媒A-1の半分となるように、下層の厚さを調整したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-4を得た。
【0048】
<触媒A-5>
下層の単位面積あたりの質量が触媒A-1の1.5倍となるように、下層の厚さを調整したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-5を得た。
【0049】
<触媒A-6>
触媒A-1の上層の担持量を64g/Lから50g/Lに変更したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-6を得た。
【0050】
<触媒A-7>
上層の担持量を64g/Lから100g/Lに変更したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-6を得た。
【0051】
<触媒A-8>
上層の担持量を64g/Lから50g/Lに変更したこと以外は触媒A-4と同様にして触媒A-8を得た。
【0052】
<触媒A-9>
上層の担持量を64g/Lから100g/Lに変更したこと以外は触媒A-4と同様にして触媒A-9を得た。
【0053】
<触媒A-10>
Cuイオン交換SSZゼオライトの代わりに、Feイオン交換SSZ(ゼオリスト社製H型SSZ-13にFeをイオン交換したもの)、以下「Fe-SSZ-13」と表記することもある。)を使用したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-10を得た。
【0054】
<触媒A-11>
下層の無機酸化物として、TiO2粉末の代わりに、ZrO2粉末を使用したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-11を得た。
【0055】
<触媒A-12>
下層及び上層の形成にCuイオン交換SSZゼオライトの代わりに、Cuイオン交換SAPO-34(UOP社製H型SAPO-34にCuをイオン交換担持したもの)、以下「Cu-SAPO-34」と表記することもある。)をそれぞれ使用したこと以外は触媒A-1と同様にして触媒A-12を得た。
【0056】
<触媒A-13>
まず、触媒A-1と同様にして、コージライトハニカムの表面に下層を形成した。
次に、下層の表面にリン溶液を塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばした。その後、触媒A-1と同様にして上層を形成した。なお、リン溶液として、85%リン酸溶液50gと脱イオン水500gを混ぜ合わせたものを使用した。
【0057】
<比較触媒B-1>
Pt(5.0)/TiO2粉末と脱イオン水とシリカゾルとを混ぜ合わせスラリーを調製した。このスラリーをコージライトハニカム200セルの支持体に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し比較触媒B-1を得た。
【0058】
<比較触媒B-2>
Pt(5.0)/TiO2粉末と脱イオン水とシリカゾルとCuイオン交換βゼオライト(クラリアント触媒製、以下「Cuβ」と表記することもある。)とを混ぜ合わせスラリーとした。Cuβを含むスラリーを使用したことの他は、比較触媒B-1と同様にして比較触媒B-2を得た。
【0059】
<比較触媒B-3>
比較触媒B-2と同様にしてコージライト支持体の表面上に下層を形成した。次に、85%リン酸溶液50gと脱イオン水500gを混ぜ合わせ、リン溶液を調製した。この溶液を下層の表面に塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し比較触媒B-3を得た。
【0060】
<比較触媒B-4>
脱イオン水64.4gとシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換βゼオライト(クラリアント触媒社製)142.3gとを混ぜ合わせて、スラリー(Cuβスラリー)を調製した。このスラリーを比較触媒B-2上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し比較触媒B-4を得た。
【0061】
<比較触媒B-5>
比較触媒B-1上に上層用スラリー(Cuβスラリー)を塗布したことの他は、比較触媒B-4と同様にして比較触媒B-5を得た。
【0062】
<比較触媒B-6>
比較触媒B-3上に上層用スラリー(Cuβスラリー)を塗布したことの他は、比較触媒B-4と同様にして比較触媒B-5を得た。
【0063】
表1に、各触媒の下層及び上層の組成及び担持量を示す。
【表1】
【0064】
<活性評価試験>
上記のようにして得られたハニカム型触媒から円柱状(直径21mm、長さ50mm)のハニカム型触媒を採取し、これを流通式反応装置に充填した。マスフローコントローラーにより流量を制御して所定のガス量を流通した。電気炉にて触媒を加熱することで触媒入口の温度(入口温度)を所定の温度として、アンモニア分解活性を評価した。表2,3に評価条件及び初期活性データを示す。
【0065】
<ガスの分析方法>
・アンモニア:ガスクロマトグラフィー(TCD検出器)又はガス検知管
・NOX:ケミルミネッセンス(化学発光式)分析装置
・N2O:ガスクロマトグラフィー(TCD検出器)
【0066】
<計算>
・NH3分解率(%):100-{(出口NH3濃度)/(入口NH3濃度)×100}
・NOX生成率(%):(出口NOX濃度)/(入口NH3濃度)×100
・N2O生成率(%):{(出口N2O濃度)/(入口NH3濃度)}×100
・N2選択率(%):100-{(100-NH3分解率)+NOX生成率+N2O生成率×2}
【0067】
【0068】
【0069】
<耐久性試験>
触媒A-4、触媒A-12、触媒A-13及び触媒B-6をそれぞれ使用して耐久性試験を行った。表4に結果を示す。
【0070】
【0071】
図2は触媒A-4(入口温度:340℃、SV:10000h
-1、NH
3濃度:1%)の耐久試験結果を示すグラフである。
図3は触媒B-6(入口温度:340℃、SV:10000h
-1、NH
3濃度:1%)の耐久試験結果を示すグラフである。これらのグラフに示されたとおり、触媒A-4(実施例に係る触媒)は、白金の担持量が少ないにもかかわらず、触媒B-6と比較して低いNO
X生成率を長期にわたって維持できた。
【0072】
<高SV条件での性能評価>
触媒A-1、触媒A-4及び触媒B-6をそれぞれ使用して高いSV条件で性能試験を行った。表5に結果を示す。
【0073】
【0074】
表5に示されたとおり、触媒A-1及び触媒A-4は、SVを高くしても、触媒B-6と比較してNOX生成率を低く維持できた。