(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】極薄エラストマーシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20241105BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20241105BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08J5/18 CFH
(21)【出願番号】P 2023508447
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039581
(87)【国際公開番号】W WO2022201616
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2021050088
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】三原 将
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 延由
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-089866(JP,A)
【文献】特開平11-268194(JP,A)
【文献】特開平07-199478(JP,A)
【文献】特開2008-013760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成され
、下記化学式(1)
【化1】
(但し、化学式(1)中、mは5828~10727、nは28~274である)
で示されるポリジメチルシロキサンポリマーであるシリコーンポリマーが、前記反応性有機基と反応する反応基を有する架橋剤により架橋された架橋シリコーンポリマーから成る膜厚が最厚でも3μmの極薄シートであって、
下記数式(I)
【数1】
(但し、数式(I)中、
U :架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数
Um:シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数
Un:シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数
Ua:架橋に供した架橋剤の反応基数)
で定義される前記架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数が348~2090であることを特徴とする極薄エラストマーシート。
【請求項2】
前記シリコーンポリマーが、直鎖状シリコーンポリマーの側鎖に前記反応性有機基を有していることを特徴とする請求項1に記載の極薄エラストマーシート。
【請求項3】
前記反応性有機基が、ビニル基であることを特徴する請求項1又は請求項2に記載の極薄エラストマーシート。
【請求項4】
前
記ポリジメチルシロキサンポリマー
は、前記反応性有機基を有しないモノマーユニット部であるジメチルシロキサンユニット部と前記反応性有機基を有するモノマーユニット部であるビニルメチルシロキサンユニット部とが、ブロック状、又はランダム状であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の極薄エラストマーシート。
【請求項5】
前記架橋剤が、前記シリコーンポリマーよりも低分子量で且つ前記反応性有機基と反応する反応基を有するシリコーン化合物であることを特徴する請求項1~4のいずれかに記載の極薄エラストマーシート。
【請求項6】
前記架橋剤が、前記シリコーンポリマーよりも低分子量であって、側鎖に前記反応性有機基と反応する反応基を有する直鎖状シリコーン化合物であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の極薄エラストマーシート。
【請求項7】
前記架橋剤の反応基が、ヒドロシリル基であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の薄膜ラストマーシート。
【請求項8】
前記架橋剤が、下記化学式(2)
【化2】
(但し、化学式(2)中、pは6~9であり、qは16~19である)
で示されるシリコーン化合物であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の極薄エラストマーシート。
【請求項9】
前記極薄エラストマーシートの伸長率が少なくとも150%であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の極薄エラストマーシート。
【請求項10】
反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成され
、下記化学式(3)
【化3】
(但し、化学式(3)中、mは5828~10727、nは28~274である)で示されるポリジメチルシロキサンポリマーであるシリコーンポリマーと、前記反応性有機基と反応する反応基を有するユニットを含む架橋剤とを、下記数式(II)
【数2】
(但し、数式(II)中、
U′:シリコーンポリマーのうち架橋剤の反応基と反応しないモノマーユニット部数
U′m:シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数
U′n:シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数
U′a:架橋剤の反応基数)
で定義する前記シリコーンポリマーのうち前記架橋剤の前記反応基と反応しないユニット部数が348~2090となるように調整した後、
前記シリコーンポリマーと前記架橋剤とを溶媒中に溶解してから、触媒を添加して前記シリコーンポリマーの前記反応性有機基と前記架橋剤の前記反応基とを反応させて架橋シリコーンポリマーとし、
前記架橋シリコーンポリマーを膜厚が最厚でも3μmの薄膜シートに製膜することを特徴とする薄膜エラストマーシートの製造方法。
【請求項11】
前記シリコーンポリマーとして、直鎖状シリコーンポリマーの側鎖に前記反応性有機基を有しているものを用いることを特徴とする請求項10に記載の極薄エラストマーシートの製造方法。
【請求項12】
前記反応性有機基を、ビニル基とすることを特徴する請求項10又は請求項11に記載の極薄エラストマーシートの製造方法。
【請求項13】
前記ポリジメチルシロキサンポリマー
として、前記反応性有機基を有しないモノマーユニット部であるジメチルシロキサンユニット部と前記反応性有機基を有するモノマーユニット部であるビニルメチルシロキサンユニット部とが、ブロック状、又はランダム状であるものを用いることを特徴とする請求項10~12のいずれかに記載の極薄エラストマーシートの製造方法。
【請求項14】
前記架橋剤として、前記シリコーンポリマーよりも低分子量で且つ前記反応性有機基と反応する反応基を有するシリコーン化合物を用いることを特徴する請求項10~13のいずれかに記載の極薄エラストマーシートの製造方法。
【請求項15】
前記架橋剤として、前記シリコーンポリマーよりも低分子量であって、側鎖に前記反応性有機基と反応する反応基を有する直鎖状シリコーン化合物を用いることを特徴とする請求項10~14のいずれかに記載の極薄エラストマーシートの製造方法。
【請求項16】
前記架橋剤の反応基を、ヒドロシリル基とすることを特徴とする請求項10~15のいずれかに記載の薄膜ラストマーシートの製造方法。
【請求項17】
前記架橋剤として、下記化学式(4)
【化4】
(但し、化学式(4)中、pは6~9であり、qは16~19である)
で示されるシリコーン化合物を用いることを特徴とする請求項10~16のいずれかに記載の極薄エラストマーシートの製造方法。
【請求項18】
前記溶媒に前記シリコーンポリマー、前記架橋剤及び前記触媒を溶解したシリコーン溶液を、ベースフィルムの一面側に積層した犠牲層上に所定厚さに塗布しつつ加熱硬化して最厚でも3μmの極薄シートとした後、前記犠牲層を除去して前記薄膜シートを前記ベースフィルムから単離することを特徴とする請求項10~17のいずれかに記載の薄膜エラストマーシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単体で自立可能の極薄エラストマーシート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)から成るシリコーンシートは、耐熱性、耐候性、安定した電気特性等を有しているところから、種々の用途に活用されている。特に、膜厚数~数十μm程度の薄膜シリコーンシートは、医療用非水溶性高分子薄膜としての応用が期待されている。このような薄膜シリコーンシートは、下記特許文献1に提案されているように、PDMSと硬化剤とをn-ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒中で反応させた得たシリコーンポリマーを製膜することによって実験的に得ることはできる。しかし、得られた薄膜シリコーンシートは自立性に乏しく、その取扱いに格別の配慮が必要であって到底実用に供し得ないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、単体で自立可能であって、実用に供し得るシリコーンから成る極薄エラストマーシート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る極薄エラストマーシートは、反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成され
、下記化学式(1)
【化1】
(但し、化学式(1)中、mは5828~10727、nは28~274である)
で示されるポリジメチルシロキサンポリマーであるシリコーンポリマーが、前記反応性有機基と反応する反応基を有する架橋剤により架橋された架橋シリコーンポリマーから成る膜厚が最厚でも3μmの極薄シートであって、下記数式(I)
【0006】
【数1】
(但し、数式(I)中、
U :架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数
Um:シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数
Un:シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数
Ua:架橋に供した架橋剤の反応基数)
で定義される前記架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数が348~2090であることを特徴とするものである。
【0007】
前記シリコーンポリマーが、直鎖状シリコーンポリマーの側鎖に前記反応性有機基を有していることが好ましい。
【0008】
前記反応性有機基が、ビニル基であることが好ましい。
【0009】
前記ポリジメチルシロキサンポリマーは、例えば、前記反応性有機基を有しないモノマーユニット部であるジメチルシロキサンユニット部と前記反応性有機基を有するモノマーユニット部であるビニルメチルシロキサンユニット部とが、ブロック状、又はランダム状である。
【0010】
前記架橋剤が、前記シリコーンポリマーよりも低分子量で且つ前記反応性有機基と反応する反応基を有するシリコーン化合物であることが好ましい。
【0011】
前記架橋剤が、前記シリコーンポリマーよりも低分子量であって、側鎖に前記反応性有機基と反応する反応基を有する直鎖状シリコーン化合物であることが好ましい。
【0012】
前記架橋剤の反応基が、ヒドロシリル基であることが好ましい。
【0013】
前記架橋剤が、下記化学式(2)
【化2】
(但し、化学式(2)中、pは6~9であり、qは16~19である)
で示されるシリコーン化合物であることが好ましい。
【0014】
前記極薄エラストマーシートは、その伸長率が少なくとも300%であることが、医療用途等に好適である。
【0015】
また、前記の目的を達成するためになされた本発明に係る薄膜エラストマーシートの製造方法は、反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成され
、下記化学式(3)
【化3】
(但し、化学式(3)中、mは5828~10727、nは28~274である)で示されるポリジメチルシロキサンポリマーであるシリコーンポリマーと、前記反応性有機基と反応する反応基を有するユニットを含む架橋剤とを、下記数式(II)
【0016】
【数2】
(但し、数式(II)中、
U′:シリコーンポリマーのうち架橋剤の反応基と反応しないモノマーユニット部数
U′m:シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数
U′n:シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数
U′a:架橋剤の反応基数)
で定義する前記シリコーンポリマーのうち前記架橋剤の前記反応基と反応しないユニット部数が348~2090となるように調整した後、前記シリコーンポリマーと前記架橋剤とを溶媒中に溶解してから、触媒を添加して前記シリコーンポリマーの前記反応性有機基と前記架橋剤の前記反応基とを反応させて架橋シリコーンポリマーとし、前記架橋シリコーンポリマーを膜厚が最厚でも3μmの薄膜シートに製膜することを特徴とするものである。
【0017】
前記シリコーンポリマーとして、直鎖状シリコーンポリマーの側鎖に前記反応性有機基を有しているものを用いることが好ましい。
【0018】
前記反応性有機基を、ビニル基とすることが好ましい。
【0019】
前記ポリジメチルシロキサンポリマーとして、前記反応性有機基を有しないモノマーユニット部であるジメチルシロキサンユニット部と前記反応性有機基を有するモノマーユニット部であるビニルメチルシロキサンユニット部とが、ブロック状、又はランダム状であるものを用いることが好ましい。
【0020】
前記架橋剤として、前記シリコーンポリマーよりも低分子量で且つ前記反応性有機基と反応する反応基を有するシリコーン化合物を用いることが好ましい。
【0021】
前記架橋剤として、前記シリコーンポリマーよりも低分子量であって、側鎖に前記反応性有機基と反応する反応基を有する直鎖状シリコーン化合物を用いることが好ましい。
【0022】
前記架橋剤の反応基を、ヒドロシリル基とすることが好ましい。
【0023】
前記架橋剤として、下記化学式(4)
【化4】
(但し、化学式(4)中、pは6~9であり、qは16~19である)
で示されるシリコーン化合物を用いることが好ましい。
【0024】
前記溶媒に前記シリコーンポリマー、前記架橋剤及び前記触媒を溶解したシリコーン溶液を、ベースフィルムの一面側に積層した犠牲層上に所定厚さに塗布しつつ加熱硬化して最厚でも3μmの極薄シートとした後、前記犠牲層を除去して前記薄膜シートを前記ベースフィルムから単離することにより、所望厚さの薄膜エラストマーシートを得ることができ好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る薄膜エラストマーシートは、高伸縮性を保持しつつ、強度が改善されて自立性を有することができることから、その取り扱い性が向上されて実用に供し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明を適用する製膜方法を説明する概略図である。
【
図2】本発明に係る極薄エラストマーシートの膜厚と破断時の伸長率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る極薄エラストマーシートは、膜厚が最厚でも3μmであって、その構成ポリマーは、部分的に架橋された架橋シリコーンポリマーである。この架橋シリコーンポリマーは、反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成されるシリコーンポリマーが、この反応性有機基と反応する反応基を有する架橋剤により架橋されており、下記数式(III)
【0028】
【数3】
(但し、数式(III)中、
U :架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数
Um:シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数
Un:シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数
Ua:架橋に供した架橋剤の反応基数)
で定義される架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数が348~2090、好ましくは1045~2090であるものである。
【0029】
ここで、架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数が2090を超えた場合、極薄エラストマーシートの強度が不足する。他方、架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数が348未満の場合、極薄エラストマーシートの伸縮性が不足する。
【0030】
このような架橋シリコーンポリマーを構成する反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成されるシリコーンポリマーとしては、直鎖状シリコーンポリマーの側鎖に反応性有機基を有しているものが好ましく、この反応性有機基がビニル基であるものが好ましい。特に、下記化学式(5)
【0031】
【化5】
(但し、化学式(5)中、mは5828~10727、nは28~274である)
で示されるポリジメチルシロキサンポリマーが好ましい。具体的には、Dongiue Silicone 社製のシリコーンガム材110S-7Sが好適である。
尚、化学式(5)で表される直鎖状シリコーンポリマーにおいて、反応性有機基を有しないモノマーユニット部であるジメチルシロキサンユニット部と反応性有機基を有するモノマーユニット部であるビニルメチルシロキサンユニット部はブロック状であっても、ランダム状であってもよい。
【0032】
上述したシリコーンポリマーの反応性有機基と反応する反応基を有する架橋剤としては、有機過酸化物架橋剤やヒドロキシシリルを含む付加反応型架橋剤を挙げることができる。付加反応型架橋剤を用いることにより、上述したシリコーンポリマーとの反応時間を短縮できる。
【0033】
架橋剤としては、上述したシリコーンポリマーよりも低分子量で且つシリコーンポリマーの反応性有機基と反応する反応基を有するシリコーン化合物が好ましく、上述したシリコーンポリマーよりも低分子量であって、シリコーンの反応性有機基と反応する反応基を側鎖に有する直鎖状シリコーン化合物が更に好ましい。この反応基がヒドロシリル基であるものが好ましい。特に、下記化学式(6)
【0034】
【化6】
(但し、化学式(6)中、pは6~9であり、qは16~19である)
で示されるシリコーン化合物が好ましい。具体的には、Gelest社製のHMS-301を好適に用いることができる。
尚、化学式(6)で表されるシリコーン化合物において、反応基を有しないモノマーユニット部であるジメチルシロキサンユニット部と反応基を有するモノマーユニット部であるヒドロキシシロキサンユニット部はブロック状であっても、ランダム状であってもよい。
【0035】
上述したシリコーンポリマーと架橋剤とで構成される架橋シリコーンポリマーから成る薄膜エラストマーシートの膜厚は、最厚でも3μmであり、0.1~1μmとすることが好ましい。このような本発明の薄膜エラストマーシートは、シリコーンポリマーが部分的に架橋されている架橋シリコーンポリマーで構成されていることにより、高伸縮性を保持しつつ、強度が改善されて自立性を有することができる。
このような本発明の薄膜エラストマーシートでは、膜厚が薄くなるほど伸長率が低下するが、膜厚0.2μmの薄膜エラストマーシートで150%を超える伸度を呈することができる。
【0036】
本発明に係る薄膜エラストマーシートは、上述した反応性有機基を有する複数のユニット部と反応性有機基を有しない複数のユニット部とから構成されるシリコーンポリマーと、上述した反応性有機基と反応する反応基を有するユニットを含む架橋剤とを溶媒中に溶解してから、触媒を添加してシリコーンポリマーの前記反応性有機基と前記架橋剤の前記反応基とを反応させて架橋シリコーンポリマーを製膜して得ることができる。
この際に、シリコーンポリマーと架橋剤との配合量を、下記数式(IV)
【0037】
【数4】
(但し、数式(IV)中、
U′m:シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数
U′n:シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数
U′a:架橋剤の反応基数)
で定義するシリコーンポリマーのうち架橋剤の反応基と反応しないユニット部数U’が340~2090、好ましくは1045~2090となるように調整する。
【0038】
ここで、U′が2090を超える場合、得られる極薄エラストマーシートの強度が不足する。他方、U′が340未満の場合、得られる極薄エラストマーシートの伸縮性が不足する。
【0039】
シリコーンポリマーと架橋剤とを溶かす溶媒としては、ヘキサン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等を挙げることができ、これらを混合してもよい。
【0040】
また、触媒としては、付加反応型架橋剤を用いる場合、白金を含む触媒を用いることができるが、硬化温度の調節のために有機物で白金がキレートされている触媒が好ましく、例えばシクロビニルメチルシロキサンやジビニルテトラメチルジシロキサン、カルボニルシクロビニルメチルシロキサン等でキレートされているものを挙げることができる。具体的には、Gelest社製の白金触媒(SIP6832.2)を挙げることができる。
【0041】
このようにシリコーンポリマーと架橋剤とを溶媒に溶かした溶液に触媒を添加したシリコーン溶液を、ベースフィルムの一面側に積層した犠牲層上に所定厚さに塗布しつつ加熱硬化して最厚でも3μmの極薄シートとした後、犠牲層を除去して薄膜シートをベースフィルムから単離することにより、最厚でも3μmの薄膜エラストマーシートを得ることができる。このベースフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート等の非水溶性のポリマーから成るフィルムを用い、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーから成る犠牲層とすることにより、ベースフィルムの一面側の犠牲層上に形成された薄膜シートを温水に浸漬処理して犠牲層を溶解することで簡単に単離できる。
【0042】
このような製膜は、
図1に示すようにマイクログラビアコーターを用いることにより連続的に行うことができる。
図1に示すマイクログラビアコーターは、回動駆動されるグラビアロール10と、グラビアロール10の上方に設けられ、転写フィルム16が供給される転写ローラ12と、溶媒に溶解したシリコーンポリマー及び架橋剤と触媒を含むシリコーン溶液Sが貯留されている容器Pと、容器Pのシリコーン溶液Sの浸漬部分からグラビアロール10の表面に付着されたシリコーン溶液Sの付着層から過剰分を掻き落とすブレード14とから構成される。
図1に示す転写フィルム16は、その部分拡大図に示すように、ポリエチレンテレフタレートから成るベースフィルム16aの一面側にポリビニルアルコールから成る犠牲層16bが積層されている。
【0043】
図1に示すマイクログラビアコーターを用いた製膜は、グラビアロール10の一部を、容器Pのシリコーン溶液Sに浸漬しながら所定の回転速度で回転し、その表面に付着したシリコーン溶液Sの過剰分をブレード14で掻き落としつつシリコーン溶液Sを、転写ローラ12に供給された転写フィルム16の犠牲層16b上に塗工する。薄膜シートが塗工された転写フィルム16は、その部分拡大図に示すように転写フィルム16の犠牲層16b上に架橋シリコーンポリマーから成る薄膜シート18が積層されている。このような状態の薄膜シート18には溶媒が含有されており、薄膜シート18が付着された転写フィルム16は加熱乾燥工程に搬送し、温度100~130℃、好ましくは110~120℃にて薄膜シート18を乾燥・硬化させる。次いで、薄膜シート18が犠牲層16aを介してベースフィルム16aに付着している転写フィルム16を、温水中に浸漬して犠牲層16bを溶解し、ベースフィルム16aから薄膜シート18を単離することにより、極薄エラストマーシートを得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
上記数式(I)の架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数Uが2090の架橋シリコーンポリマーから成る極薄エラストマーシートを作成する。
この場合、上記数式(II)のU′(シリコーンポリマーのうち架橋剤の反応基と反応しないユニット部数)が2090となるように、原料のシリコーンポリマーとしてのDongiue Silicone 社製のシリコーンガム材110S-7S(分子量450000~600000、m=5828~7771、n=205~274)と、架橋剤としてのGelest社製のHMS-301(分子量1900~2000、p=6~9、q=16~19)との配合量を調整した。
尚、上記数式(II)のU′m(シリコーンポリマーの反応性有機基を有しないモノマーユニット部数)は6800、U′n(シリコーンポリマーの反応性有機基を有するモノマーユニット部数)は240、U′a(架橋剤の反応基数)は7とした。
【0046】
実施例1-1
(シリコーン溶液の作成)
原料のシリコーンポリマーとしてのDongiue Silicone 社製のシリコーンガム材110S-7S(以下、単にシリコーンガム材110S-7Sと称する)1.76gと、Gelest社製のHMS-301(以下、単にHMS-301と称する)3.27mgとを、ヘキサン40mLと酢酸エチル10mLの混合溶媒に加え、室温で一晩攪拌して、5質量%シリコーン溶液とした。
(製膜)
1.転写フィルム16の作成
図1に示すベースフィルム16aとしての東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー(登録商標)25T60)の一面側に、ポリビニルアルコール水溶液を塗布して犠牲層16bを形成した。この転写フィルム16は、
図1に示すマイクログラビアコーターを用いて実施した。この際、容器Pには、10質量%ポリビニルアルコール水溶液を貯留し、グラビアロール10の加熱温度を120℃とし、回転速度を30rpmとした。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムの送り速度を0.2m/minとした。
2.製膜
得られシリコーン溶液を貯留する
図1に示す容器Pに、Gelest社製の白金触媒(SIP6832.2)をn-ヘキサンで100倍に希釈し、66.5μLを添加し、直ちに
図1に示すマイクログラビアコーターを用い、転写フィルム16の犠牲層16b上に架橋シリコーンポリマーから成る薄膜シート18を積層した。この際、グラビアロール10の加熱温度を120℃とし、回転速度を30rpmとした。また、転写フィルム16の送り速度を0.2m/minとした。
3.薄膜エラストマーシートの膜厚測定
(薄膜エラストマーシートの剥離)
パナック株式会社製のキャリアフィルム(HUCB100A(商品名))から切り取った40mm×40mmの四角形の中心部を20mm×20mmの四角形に切り抜いて枠状形のプラスチックフレームを作成した。このプラスチックフレームを転写フィルム16の犠牲層16b上の薄膜シート18に貼着した後、剥離することによりプラスチックフレームと一緒に犠牲層16bと薄膜シート18とがベースフィルム16aから剥離される。次いで、プラスチックフレームと一緒に犠牲層16bと薄膜シート18とを40~50℃の温水中に30分浸漬して、犠牲層16bを溶解して薄膜シート18を単離して薄膜エラストマーシートを得た。
(膜厚の測定)
得られた薄膜エラストマーシートをシリコンウェハ上に貼付して室温で1時間乾燥した後、薄膜エラストマーシートの三か所の厚さを触針式薄膜段差計(ブルカージャパン株式会社製のDektak-XT(商品名))で測定し、得られた測定値の平均値を薄膜エラストマーシートの膜厚とした。本実施例で得られた薄膜エラストマーシートの膜厚は0.093μmであった。
【0047】
実施例1-2~実施例1-6
実施例1-1において、上記数式(II)のU′が2090となるように、シリコーンガム材110S-7Sと架橋剤のHMS-301との配合量を表1に示すように変更して表1に示すシリコーン濃度のシリコーン溶液とし、且つGelest社製の白金触媒(SIP6832.2)のn-ヘキサンで100倍に希釈した白金触媒溶液の添加量を表1に示すように変更した他は、実施例1-1と同様に製膜して薄膜エラストマーシートを得た。得られた薄膜エラストマーシートの膜厚の測定も実施例1-1と同様に行って結果を表1に併記した。
【0048】
【0049】
(実施例2)
実施例1で用いたシリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及びGelest社製の白金触媒(SIP6832.2)のn-ヘキサンで100倍に希釈した白金触媒溶液を用いて、上記数式(I)の架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数Uが1045の架橋シリコーンポリマーから成る極薄エラストマーシートを作成する。
【0050】
実施例2-1~実施例2-6
実施例1において、上記数式(II)のU′が1045となるように、シリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及び白金触媒溶液の配合量を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様に製膜して薄膜エラストマーシートを得た。得られた薄膜エラストマーシートの膜厚の測定も実施例1と同様に実施した。その結果を表2に併記する。
【0051】
【0052】
(実施例3)
実施例1で用いたシリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及びGelest社製の白金触媒(SIP6832.2)のn-ヘキサンで100倍に希釈した白金触媒溶液を用いて、上記数式(I)のモノマーユニット部数Uが523の架橋シリコーンポリマーから成る極薄エラストマーシートを作成する。
【0053】
実施例3-1~実施例3-6
実施例1において、上記数式(II)のU′が523となるように、シリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及び白金触媒溶液の配合量を表3に示すように変更した他は、実施例1と同様に製膜して薄膜エラストマーシートを得た。得られた薄膜エラストマーシートの膜厚の測定も実施例1と同様に実施した。その結果を表3に併記する。
【0054】
【0055】
(実施例4)
実施例1で用いたシリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及びGelest社製の白金触媒(SIP6832.2)のn-ヘキサンで100倍に希釈した白金触媒溶液を用いて、上記数式(I)の架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数Uが348の架橋シリコーンポリマーから成る極薄エラストマーシートを作成する。
【0056】
実施例4-1~実施例4-6
実施例1において、上記数式(II)のU′が348となるように、シリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及び白金触媒溶液の配合量を表4に示すように変更した他は、実施例1と同様に製膜して薄膜エラストマーシートを得た。得られた薄膜エラストマーシートの膜厚の測定も実施例1と同様に辞した。その結果を表4に併記する。
【0057】
【0058】
(実施例5)
1.薄膜エラストマーシートの単離
パナック株式会社製のキャリアフィルム(HUCB100A(商品名))から切り取った40mm×40mmの四角形の中心部を20mm×20mmの四角形に切り抜いて枠状形のプラスチックフレームを作成した。このプラスチックフレームを転写フィルム16の犠牲層16b上の薄膜シート18に貼着した後、剥離することによりプラスチックフレームと一緒に犠牲層16bと薄膜シート18とがベースフィルム16aから剥離する。次いで、プラスチックフレームと一緒に犠牲層16bと薄膜シート18とを40~50℃の温水中に30分浸漬して、犠牲層16bを溶解して薄膜シート18を単離して薄膜エラストマーシートを得た
2.薄膜エラストマーシートの引張試験
実施例1~4の各々で得られた薄膜エラストマーシートを、引張試験機(島津製作所株式会社製のEZ-S-5N)を用いて、引張速度10mm/minで引張試験を施して、最大引張強度と破断時の伸長率を測定した。測定は5回実施して平均値を測定値とした。結果を表5に示す。
【0059】
【0060】
(比較例1)
実施例1で用いたシリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及びGelest社製の白金触媒(SIP6832.2)のn-ヘキサンで100倍に希釈した白金触媒溶液を用いて、上記数式(I)のモノマーユニット部数Uが76の架橋シリコーンポリマーから成る極薄エラストマーシートを作成する。
【0061】
実施例1において、上記数式(II)のU′が76となるように、シリコーンガム材110-7Sを3.52g、架橋剤のHMS-301を142.35mg、及び白金触媒溶液を66.5μLに変更した他は、実施例1と同様に製膜して薄膜エラストマーシートを得た。しかしながら、得られた薄膜エラストマーシートは強度不足で自立が不可能のため、膜厚及び強伸度の測定はできなかった。
【0062】
(比較例2)
実施例1で用いたシリコーンガム材110S-7S、架橋剤のHMS-301及びGelest社製の白金触媒(SIP6832.2)のn-ヘキサンで100倍に希釈した白金触媒溶液を用いて、上記数式(I)のモノマーユニット部数Uが28の架橋シリコーンポリマーから成る極薄エラストマーシートを作成する。
【0063】
実施例1において、上記数式(II)のU′が28となるように、シリコーンガム材110-7Sを3.52g、架橋剤のHMS-301を444.04mg、及び白金触媒溶液を66.5μLに変更した他は、実施例1と同様に製膜して薄膜エラストマーシートを得た。しかしながら、得られた薄膜エラストマーシートは強度不足で自立が不可能のため、膜厚及び強伸度の測定はできなかった。
【0064】
実施例5で得られた各薄膜エラストマーシートの最大強度及び破断時の伸長率から、各薄膜エラストマーシートは十分な伸長率を有する自立可能のシートであることが判る。実施例5で得られた各薄膜エラストマーシートの破断時の伸長率と実施例1~実施例4で得られた各薄膜エラストマーシートの膜厚との関係を
図2に示す。
図2から明らかなように、上記数式(I)の架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数Uが大きくなるほど、すなわち架橋シリコーンポリマー中の架橋されないモノマーユニット部が増えるほど、薄膜エラストマーシートの破断時の伸長率が大きくなる。しかし、表5から明らかなように、Uが大きくなるほど、薄膜エラストマーシートの強度が低下し、自立性が低下する。また、比較例1,2からも明らかなように、上記数式(I)の架橋シリコーンポリマーの架橋点間のモノマーユニット部数Uが348未満、すなわち架橋シリコーンポリマー中の架橋されないモノマーユニット部が減少するほど伸縮性が不足し且つ自立できなくなる。この点、Uが348~2090の本発明に係る薄膜エラストマーシートは、強度と伸縮性とのバランスがとれ、十分な自立性と伸縮性とを有する薄膜エラストマーシートである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る薄膜エラストマーシートは、医療用・スポーツ用のドレッシングフィルムやウェアラブルデバイス基材、細胞肺葉デバイスに供することができる。
【符号の説明】
【0066】
10:グラビアロール、12:転写ローラ、14:ブレード、16:転写フィルム、16a:ベースフィルム、16b:犠牲層、18:薄膜シート