IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人幾徳学園の特許一覧

<>
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図1
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図2
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図3
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図4
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図5
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図6
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図7
  • 特許-自転車乗車姿勢最適化装置及び方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】自転車乗車姿勢最適化装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B62J 45/00 20200101AFI20241105BHJP
   B62J 45/416 20200101ALI20241105BHJP
【FI】
B62J45/00
B62J45/416
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024018220
(22)【出願日】2024-02-08
(62)【分割の表示】P 2023017211の分割
【原出願日】2023-02-07
(65)【公開番号】P2024112318
(43)【公開日】2024-08-20
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】高尾 秀伸
(72)【発明者】
【氏名】片山 遼介
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-25542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0142177(US,A1)
【文献】特開2014-193684(JP,A)
【文献】特開2017-47875(JP,A)
【文献】David Gordon Wilson, Theodor Schmidt,"Bicycling Science",Fourth Edition,米国,The MIT Press,2020年05月05日,p.41-120,DOI:10.7551/mitpress/11660.001.0001, ISBN 9780262357531(electronic)
【文献】Tetsu Iwatsuki, Noriyuki Oda,"SDV DRIVE WITH OVAL PEDAL MOTION",Human Power eJournal,2007年,[2023年4月13日検索], インターネット<URL:https://hupi.org/HPeJ/0013/sdv.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 1/00 -99/00
B62K 1/00 -27/16
B62M 1/00 -29/02
A63B 69/16
A61B 5/103- 5/1178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部シートに座って自転車のペダルを漕いでいる状態のライダーの腰と膝と足先部の位置を、一定の時間間隔で検出する腰膝足先部の軌道検出器と、
前記腰膝足先部の軌道検出器が検出した前記ライダーの腰と膝と足先部の位置を検出時間とともに記録及び出力するデータロッガーと、
前記ペダルにかかる前記ライダーの踏力を検出する踏力検出器と、
前記データロッガーから前記ライダーの腰と膝と足先部の位置と検出時間のデータを入力し、ペダルの軌道方向の踏力の分力とペダルを踏み込む距離の積を計算し、前記積が大きいほど自転車をペダルの1ストロークで長い距離走行させることができると判定する処理判定装置と、を有する自転車乗車姿勢最適化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自転車乗車姿勢最適化装置を用意するステップと、
軌道検出器を用いて一定の時間間隔で座部シートに座って自転車のペダルを漕いでいる状態のライダーの腰と膝と足先部の位置を検出し、検出時間とともにデータロッガーに記録するステップと、
前記データロッガーから、前記ライダーの腰と膝と足先部の位置と検出時間のデータを処理判定装置に入力し、前記処理判定装置によって、ペダルの軌道方向の踏力の分力とペダルを踏み込む距離の積を計算し、前記積が大きいほど自転車をペダルの1ストロークで長い距離走行させることができると判定するステップと、
前記積が大きくなるように検査対象の自転車を調整するステップと、
を有する自転車乗車姿勢最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車乗車姿勢最適化のための装置及び方法に関する。特に、コンピュータを用いて、ライダーの踏力が大きい範囲で、及び、ライダーの踏力を高い効率で、ライダーの踏力を推進力に変換することができるライダーの最適な自転車乗車姿勢を判定して出力することができる装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペダルを踏むためのライダーの乗車姿勢は、ライダーの踏力の自転車への効率的な利用に大きく影響する。
【0003】
一般的に、自転車のライダーの乗車姿勢の調整は、サドルの高さやハンドルの位置など、きわめて限られた手段で調整される。一部の自転車の利用者は、自転車の購入時に、利用者の体格に適合するフレームサイズの自転車を購入する。それでもライダーの乗車姿勢の調整は、サドルの高さやハンドルの位置などに限られるため、ライダーの踏力を自転車の前進に最大限変換することは難しかった。
【0004】
そして、自転車乗車姿勢の調整の現場では、最終的にはライダーの「漕ぎやすさ」など、感覚的な要因で自転車乗車姿勢を調整していた。
【0005】
一般に、ペダルが円軌道を描く一般的な自転車では、ペダルの円軌道の一部でしか踏力が効果的に利用されない。かかる自転車において、ライダーの踏力が効果的に利用される範囲が狭いため、ライダーの踏力を最大限利用できる自転車の乗車姿勢の調整は、概して困難であった。
【0006】
これに対して、ペダルが円軌道を描く一般的な自転車ではペダル軌道の一部でしか踏力を効果的に利用されない点に鑑み、ライダーの踏力をより多くペダルに伝える自転車も提案されていた。
【0007】
例えば、2つのプーリーの間にチェーンを掛け回し、チェーンに沿ってペダルが長円軌道を辿る自転車が提案されている。
【0008】
また、リンク機構を介してペダルを支え、該リンク機構によってペダルを楕円形状に動かすリカンベント型自転車も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-119914号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】織田紀之、”オーテックSDVのサイトです!Welcome to the site of SDV Bikes!”[online]、[2022年11月5日検索]、インターネット<URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~otec/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、ライダーの踏力は、股関節を中心点とする放射線方向に作用する。したがって、ペダルの位置によって、ライダーの踏力が作用する方向(踏力方向)が変化し、それに伴ってペダルに仕事を与える踏力の分力が変化する。
【0012】
また、ライダーの踏力は、身体の前方に対してしか作用させることができない。さらにまた、ライダーの踏力は、膝関節が伸びきる前の一定の屈伸角度範囲内で最大になる。
【0013】
つまり、ライダーの踏力が最大になるのは、ライダーの足(ペダル踏部)が、ライダーの身体の前下方で膝関節が一定角度範囲内となる一定の空間領域内にある時である。以下、簡便性のために、このライダーの踏力が最大(最大値の前後の一定範囲を含む)になるペダルの空間範囲を「踏力最大ゾーン」と呼ぶことにする。
【0014】
自転車の乗車姿勢を調整するには、すなわち、ライダーの踏力を最大限自転車の推進力に変換するためには、3つのファクターを考慮することができる。
【0015】
一つのファクターは、ライダーの踏力が最大になる範囲内、すなわちライダーの踏力最大ゾーン内でペダルを漕ぐように調整するということである。
【0016】
ライダーの踏力が大きい範囲でペダルを漕ぐことができれば、自転車に大きな加速度を与えることができる。又は、ペダルを短い距離漕ぐだけで自転車を長い距離進ませることができる。
【0017】
もう一つのファクターは、ライダーの踏力を最大の効率でペダルに与えるように調整するということである。このファクターは、ペダルの移動方向への踏力の分力を大きくすることにより、機械損失を少なくするように考慮される。具体的には、踏力方向とペダルの移動方向を一致させることである。なお、本明細書でライダーの踏力方向とペダルの移動方向の「一致」は、一定の許容角度範囲を含む意である。
【0018】
さらにもう一つのファクターは、最大の仕事量をペダルに与えるということである。上記踏力最大ゾーン以外の部分でも、また、上記機械損失が少ない範囲以外でも、ライダーの踏力が自転車を駆動するために使用され得る。ライダーの踏力の有効な全仕事量が自転車の移動距離に変換される。ここで、有効な仕事量とは、熱や自転車の上下動など自転車の推進に利用されない仕事量を除く仕事量をいう。本発明の目的のためには、ライダーの踏力による有効な仕事量は、ペダルの移動方向の分力とペダルの移動距離の積分でよい。
【0019】
ペダルが円軌道を描く一般的な従来の自転車では、ライダーの踏力は、ライダーの右側面視でペダルの円軌道の時計回りで約2時から約5時の間の範囲でしかライダーの踏力が効果的に作用しない。
【0020】
しかも、ライダーのペダルを踏む方向(踏力方向)がライダーの股関節を中心として変化するため、ライダー踏力方向がペダルの軌道と一致する範囲が狭かった。
【0021】
上記円軌道を描く一般的な従来の自転車における乗車姿勢の調整では、「漕ぎ易さ」などの感覚的又は経験的なものに頼っており、上記3つのファクターを考慮して客観的にライダーの最適な乗車姿勢を求める課題認識も課題解決手段に対する提案もそれに対する示唆もなかった。
【0022】
ペダルが長円軌道に動く自転車又はリカンベント型自転車は、ライダーの踏力方向とペダルの軌道方向とを一致させることを狙ったものである。しかし、自転車の構造上、ペダルの軌道が固定的であるため、様々な体格を有するライダーに対してライダーの踏力方向とペダルの軌道方向とを一致させることができなかった。また、ライダーの踏力方向は股関節を中心とする方向を向き、膝関節の屈伸角度によって常に変化するため、ライダーの踏力方向とペダルの軌道方向とが一致する部分は一部分であった。
【0023】
このペダルが長円軌道に動く自転車又はリカンベント型自転車における乗車姿勢の調整でも、「漕ぎ易さ」などの感覚的又は経験的なものに頼っており、上記3つのファクターを考慮して客観的にライダーの最適な乗車姿勢を求める課題認識も課題解決手段に対する提案もそれに対する示唆もなかった。
【0024】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、ライダーの踏力がピーク時前後の一定範囲に達する踏力最大ゾーンで、ライダーの踏力方向とペダルの軌道が一致し、最大の仕事量をペダルに与えることができるライダーの最適乗車姿勢を提示し、あるいは、そのような最適な自転車乗車姿勢になるように自転車を調整することを可能にする自転車乗車姿勢最適化装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上述した課題を解決するために、本発明の自転車乗車姿勢最適化装置は、
自転車に乗ってペダルを漕いでいる状態のライダーの腰と膝と足先部の位置を、一定の時間間隔で検出する腰膝足先部の軌道検出器と、
前記腰膝足先部の軌道検出器が検出した前記ライダーの腰と膝と足先部の位置を検出時間とともに記録及び出力するデータロッガーと、
前記データロッガーから前記ライダーの腰と膝と足先部の位置と検出時間を入力し、前記ライダーが前記ペダルを踏む領域のうち、ライダーの膝関節の屈曲角度Anが25度±15度、又は25度±10度の範囲内になる踏力最大ゾーンZが占める割合を算出して判定する処理判定装置と、を有するものである。
【0026】
また、本発明の他の自転車乗車姿勢最適化装置は、
自転車に乗ってペダルを漕いでいる状態のライダーの腰と膝と足先部の位置を、一定の時間間隔で検出する腰膝足先部の軌道検出器と、
前記腰膝足先部の軌道検出器が検出した前記ライダーの腰と膝と足先部の位置を検出時間とともに記録及び出力するデータロッガーと、
前記データロッガーから前記ライダーの腰と膝と足先部の位置と検出時間を入力し、前記ライダーが前記ペダルを踏む領域のうち、前記ペダルの踏力方向Fと前記ペダルの軌道方向がなす角度αが±20度、又は±10度、又は±5度の範囲内にある状態が占める割合を算出して判定する処理判定装置と、を有するものである。
【0027】
また、本発明の他の自転車乗車姿勢最適化装置は、
自転車に乗ってペダルを漕いでいる状態のライダーの腰と膝と足先部の位置を、一定の時間間隔で検出する腰膝足先部の軌道検出器と、
前記腰膝足先部の軌道検出器が検出した前記ライダーの腰と膝と足先部の位置を検出時間とともに記録及び出力するデータロッガーと、
前記ペダルにかかる前記ライダーの踏力を検出する踏力検出器と、
前記データロッガーから前記ライダーの腰と膝と足先部の位置と検出時間を入力し、ペダルの軌道方向の踏力の分力とペダルを踏み込む距離の積を計算し、仕事量の大きさを判定する処理判定装置と、を有するものである。
【0028】
本発明による自転車乗車姿勢最適化方法は、
本発明による自転車乗車姿勢最適化装置を用意するステップと、
ライダーの腰と膝と足先部の位置をトラッキングするステップと、
前記ライダーがペダルを踏む領域のうち、前記ライダーの膝関節の屈曲角度Anが25度±15度、又は25度±10度の範囲内になる踏力最大ゾーンZが占める割合を算出して判定するステップと、
検査対象の自転車を調整するステップと、
を有するものである。
【0029】
本発明の他の自転車乗車姿勢最適化方法は、
本発明による自転車乗車姿勢最適化装置を用意するステップと、
ライダーの腰と膝と足先部の位置をトラッキングするステップと、
前記ライダーがペダルを踏む領域のうち、前記ペダルの踏力方向Fと前記ペダルの軌道方向がなす角度αが±20度、又は±10度、又は±5度の範囲内にある状態が占める割合を算出して判定するステップと、
検査対象の自転車を調整するステップと、
を有するものである。
【0030】
本発明の他の自転車乗車姿勢最適化方法は、
本発明による自転車乗車姿勢最適化装置を用意するステップと、
ライダーの腰と膝と足先部の位置をトラッキングするステップと、
ペダルの軌道方向の踏力の分力とペダルを踏み込む距離の積を計算し、仕事量の大きさを判定するステップと、
検査対象の自転車を調整するステップと、
を有するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の自転車乗車姿勢最適化装置及び方法によれば、判断の対象となっている自転車の調整範囲可能な範囲内で、最大限でライダーの踏力最大ゾーンでペダルを漕ぐことができる自転車乗車姿勢、又は最大限でライダーの踏力方向とペダルの軌道を一致させた状態でペダルを漕ぐことができる自転車乗車姿勢、又は最大限の仕事量を与えることができる自転車乗車姿勢、又はそれらの組み合わせた自転車乗車姿勢を判断し、ライダーに提示することができる。あるいは、ライダーの乗車姿勢を調整することができる自転車を用いて、ライダーに上述した最適な乗車姿勢を提供するように調整された自転車を提供することができる。
【0032】
本発明によれば、ライダーの最大の踏力で自転車を速く駆動することができる、あるいは、少ないペダルの踏み込み距離で自転車を長い距離走行させることができる、あるいは、最大の効率で自転車を走行させることができる、あるいは、ペダルの1ストロークで自転車を最長距離走行させることができる自転車乗車姿勢を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態による自転車乗車姿勢最適化装置の構成を示したブロック図である。
図2】本発明の一実施形態による自転車乗車姿勢最適化方法を示したフロー図である。
図3】本発明の自転車乗車姿勢最適化装置及び方法で利用するリカンベント型自転車を示した側面図である。
図4】本発明の自転車乗車姿勢最適化装置及び方法で利用するリカンベント型自転車のアーム支持構造を示した斜視図である。
図5】本発明の自転車乗車姿勢最適化装置及び方法で利用するリカンベント型自転車のペダルとチェーンの連結構造を示した斜視図である。
図6】本発明による自転車乗車姿勢最適化のための判定方法を説明する図である。
図7】本発明の自転車乗車姿勢最適化装置及び方法で利用するリカンベント型自転車のペダルまでの距離を調整する伸縮機構を説明する図である。
図8】本発明の自転車乗車姿勢最適化装置及び方法で利用するリカンベント型自転車のペダル軌道の角度を調整する伸縮機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態による自転車乗車姿勢最適化装置1の構成を示したブロック図である。
【0036】
本発明の自転車乗車姿勢最適化装置1は、自転車乗車姿勢最適化装置1の構成要素ではないが、ライダーである被検者の少なくとも腰や膝や足首に貼着するシールなどからなる腰マーカー2、膝マーカー3、足首マーカー4と協働するのが好ましい。なお、本明細書で「足首」という場合は、足首を含む「足先部」を指すものとする。
【0037】
自転車乗車姿勢最適化装置1は、マーカー軌道検出器5を有している。マーカー軌道検出器5は、腰マーカー2、膝マーカー3、足首マーカー4の位置を検出する任意の装置である。好ましくは、マーカー軌道検出器5はカメラ等の光学検出器を用いることができる。
【0038】
腰マーカー2、膝マーカー3、足首マーカー4は、シール類に限られず、マーカー軌道検出器5によって位置が検知可能なものであれば任意のものでよい。
【0039】
また、マーカー軌道検出器5が画像認識によってライダーの腰や膝や足の位置を識別するように構成されている場合は、腰マーカー2、膝マーカー3、足首マーカー4を省略してもよい。
【0040】
マーカーを省略できるため、ここで説明するマーカー軌道検出器5は、本発明にいう「腰膝足先部の軌道検出器」の下位概念であることに言及しておく。
【0041】
自転車乗車姿勢最適化装置1はデータロッガー6をさらに有している。データロッガー6は、マーカー軌道検出器5によって所定の時間間隔で検出された腰マーカー2、膝マーカー3、足首マーカー4の位置を、それらの検出時間とともに記録し、あるいは出力する装置である。
【0042】
自転車乗車姿勢最適化装置1はさらに処理判定装置7を有している。処理判定装置7は自転車乗車姿勢最適化装置1全体の動きを制御し、ライダー(被検者)の自転車乗車姿勢を判定する装置である。
【0043】
処理判定装置7は、例えばコンピュータなどのデータ処理装置である。処理判定装置7による自転車乗車姿勢の判定処理については後述する。
【0044】
自転車乗車姿勢最適化装置1はさらに出力装置8を有している。出力装置8は、処理判定装置7の指令に応じて処理判定装置7からのメッセージ又は処理結果を出力する装置である。出力装置8は、画面、音声、紙媒体を含む任意の媒体で出力する装置を含み、好ましくはモニターである。
【0045】
自転車乗車姿勢最適化装置1は任意で踏力検出器9を有している。踏力検出器9は、例えば自転車のペダルに取り付けるひずみ計または圧力センサーによって構成することができる。踏力検出器9は、被検者の踏力を検出し、それを用いて踏力最大ゾーンを決定することができる。踏力検出器9は、踏力最大ゾーンを膝関節の屈伸角度で決定することに代えて、あるいは、膝関節の屈伸角度で決定した踏力最大ゾーンを数値的に裏付けるために使用される。
【0046】
また、踏力検出器9は、実際のペダルに与えられる負荷を検出することによって、ペダルに与えられる仕事量を計算するために使用されることができる。
【0047】
踏力最大ゾーンをライダーの膝関節の屈伸角度の統計的平均によって決定する場合は、この目的のためには踏力検出器9を省略することができる。
【0048】
また、機械効率をライダーの踏力方向とペダルの軌道の幾何学的角度で決定する場合は、この目的のためには踏力検出器9を省略することができる。
【0049】
処理判定装置7は、踏力の方向と大きさを計算する等のための計算式や踏力最大ゾーンになるライダーの膝関節の統計データ等を記憶する装置を有していてもよい。また、計算式や踏力最大ゾーンの判断基準自体を、リスト等のデータかたまりとしてプログラム内に書き込む場合は記憶装置を省略してもよい。
【0050】
次に、本発明による自転車乗車姿勢最適化方法について以下に説明する。
【0051】
図2は、本発明による自転車乗車姿勢最適化方法のフローチャートを示している。
【0052】
本発明による自転車乗車姿勢最適化方法は、自転車乗車姿勢最適化装置1を用意するステップ100から開始される。
【0053】
自転車乗車姿勢最適化装置1を用意するステップ100では、評価対象の自転車をサポート等によって直立した状態で支持し、その自転車を側面視で望むように、好ましくはカメラからなるマーカー軌道検出器5を配置する。
【0054】
処理判定装置7等の自転車乗車姿勢最適化装置1の他の構成装置は、マーカー軌道検出器5の視野を邪魔しないように適宜配置される。なお、検査対象の自転車は、ライダーである被検者が乗って漕いでも倒れないように、しっかり支持する。また、自転車の車輪は、ライダー(被検者)がペダルを踏み込んだ時に反力を生じるように、適切な抵抗負荷を有するように支持される。
【0055】
次に被検者の少なくとも腰と膝と足首に腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4とをそれぞれ取り付ける(ステップ200)。取付けは、マーカー軌道検出器5によってマーカーが検出できるように、被検者のマーカー軌道検出器5側の側面に取り付ける。
【0056】
なお、腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4は取付け部位によって区別しているが、マーカーとしては同一のものでよい。また、足首マーカー4は正確に足首に取り付ける必要は無く、被検者の足先部の任意の部分に取り付けてよい(以下「足首」を参照する場合も同じである)。
【0057】
次に、腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4を取り付けた状態で、被検者に自転車に乗ってペダルを漕いでもらい、マーカー軌道検出器5によって腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4の位置、すなわち被検者の腰と膝と足首の位置をトラッキングする(ステップ300)。
【0058】
被検者の腰と膝と足首の位置のトラッキングは、処理判定装置7の指令により開始され、処理判定装置7が指定した時間間隔でマーカー軌道検出器5によって検出される。マーカー軌道検出器5が検出した被検者の腰と膝と足首の位置は検出時間とともにデータロッガー6に記録される。
【0059】
被検者の膝関節の屈伸角度とペダルの軌道が安定して取得されるまで、好ましくは、被検者の腰と膝と足首の位置のトラッキングが数回以上行われ、平均される。
【0060】
次に、自転車の乗車姿勢を判定する(ステップ400)。
【0061】
マーカー軌道検出器5によって取得された腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4の位置から、被検者の膝関節の屈伸角度を決定することができる。発明者らの鋭意の実験と研究によれば、ライダーの踏力が最大になるのは膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内である。ここで、膝関節の屈曲角度は、膝関節をまっすぐ伸びした状態を0度として、そこから膝を曲げた時の角度とする。
【0062】
踏力の反動を支えるために、ライダーの股関節の角度、すなわちライダーの腰の部分(背骨下部)と踏力方向のなす角度は120度~150度であるのが好ましい。ライダーの股関節の角度は踏力の反動を支えるための背もたれシートの角度(リカンベント型自転車の場合)、あるいはライダーの前傾角度(一般的な自転車の場合)によって変化する。踏力の反動を支える力が足りないときは、背もたれシートの傾斜を適宜調節することによって(リカンベント型自転車の場合)、あるいはライダーの前傾姿勢を適宜調節することによって(一般的な自転車の場合)、容易に適応することができる。ライダーの股関節の角度が120度~150度以外になる場合は、処理判定装置7が警告を出力するように出力装置8に命令を出し、まずライダーがペダルを漕ぐことができる範囲に自転車を調整する。
【0063】
ライダーの上体の調節が可能であるとして、ライダーの踏力最大ゾーンは、ライダーの膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内となる領域であるとすることができる。
【0064】
ライダーの自転車乗車姿勢の適否は、以下の3つの基準の少なくとも1つで判定する。
基準i:ライダーがペダルを踏む領域のうち、ライダーの踏力最大ゾーンがどの程度占めているか。
基準ii:ライダーがペダルを踏む方向(踏力方向)とペダルの軌道方向が一致しているか。
基準iii:ペダルの軌道方向の踏力の分力とペダルを踏み込む距離の積、すなわち仕事量の大きさが大きいか。
【0065】
自転車の乗車姿勢の判定は、その目的により、適宜上記基準i~iiiを適用する。
【0066】
大きな踏力で大きな加速度を得たい場合(加速重視の場合)は、基準iを用いて判定する。また、短いペダル踏み込み距離で長い走行距離を得たい場合(巡航重視の場合)も、基準iを用いて判定する。ただし、加速重視の場合は、巡航重視の場合に比べて踏力最大ゾーンを広く設定するなど、基準iの判定基準を異ならせてよい。
【0067】
機械損失が少ない自転車乗車姿勢を得たい場合は、基準iiを用いて判定する。
【0068】
ペダルの1ストロークで最大の自転車走行距離を得たい場合は、基準iiiを用いて判定する。
【0069】
判定に際しては、自転車の目的に応じて3つの基準i~iiiをそれぞれ単独で使用して判定することもできるし、3つの基準にi~iiiに重み付けを行って組み合わせて使用することができる。
【0070】
処理判定装置7は、判定を行って、判定結果を数値化またはグラフ化して、出力装置8に送ることができる。
【0071】
上記判定結果により、検査対象の自転車の調整機構を用いて自転車を調整することができる(ステップ500)。
【0072】
調整を行った自転車に対して、ステップ300に戻って、再度被検者(ライダー)の腰と膝と足首の位置のトラッキングと、ステップ400の判定と、ステップ500の調整を繰り返し行うことができる。
【0073】
検査対象の自転車の調整機構で可能な範囲内で最適な自転車乗車姿勢を達成した時点で処理を終了する(ステップ600)。
【0074】
本発明の自転車乗車姿勢の最適化は、ペダルが円軌道を描く通常の自転車に適用できることは言うまでもないが、以下では、幅広い調整が可能なリカンベント型自転車を用いた調整ステップ(ステップ500)と、上記基準i~基準iiiの計算(ステップ400)について説明する。
【0075】
図3は、ライダーの最適な乗車姿勢を完全に実現するリカンベント型自転車11全体の側面を示した側面図である。
【0076】
リカンベント型自転車とは、ライダーが背もたれ付きのシートにもたれるように坐り、足を前方に向けた姿勢でペダルを漕ぐことで動力とする自転車の一種である。
【0077】
以下の説明では、「前」と「後」はそれぞれ自転車の進行方向と、その反対方向を指すものとする。また、「左」と「右」は、それぞれ自転車の進行方向でのライダーの「左」と「右」を指すものとする。
【0078】
本実施形態のリカンベント型自転車11は、前方にほぼ直立したヘッドパイプ12を有し、ヘッドパイプ12と交差して後方に傾斜して延びるメインフレーム13を有している。
【0079】
ヘッドパイプ12には、ヘッドパイプ12に回転可能に支持されたハンドルステム14が貫通して設けられている。ハンドルステム14の上端部には左右方向に延びるハンドルバー15が固定されている。ハンドルバー15の両端部にはハンドル16が設けられている。
【0080】
ハンドルステム14の下端には、フロントフォーク17がハンドルステム14と相対的に回転不能に接続されている。フロントフォーク17の下端には前輪18が回転可能に支持されている。ライダーがハンドル16を操作することによって、ハンドルステム14とフロントフォーク17が回転し、それによって前輪18の方向が変えられるようになっている。
【0081】
メインフレーム13の後端部は、後輪19のハブ(不図示)に回転可能に挿通された回転軸(不図示)に接続されている。後輪19は、ハブとともに回転軸に対して相対的に回転することにより、回転軸を中心に回転する。ハブには複数のギアからなるスプロケット(不図示)が取り付けられている。スプロケットには後述するようにチェーンが掛け回され、動力が伝達される。
【0082】
メインフレーム13の中央部の上部にはシート支持体20が固定されている。本例のシート支持体20は湾曲したパイプからできており、側面視で背もたれ形状に形成され、パイプの中央部で折り返され、両端部がメインフレーム13に固定されている。シート支持体20の上部には、クッション性の座部シート21と背もたれシート22が取り付けられている。
【0083】
メインフレーム13の下部には伝動ギアブラケット23が突設されている。伝動ギアブラケット23の先端部には水平軸24が取り付けられている。水平軸24には複数枚の中間伝動ギア25が回転可能に設けられている。
【0084】
メインフレーム13の先端には、回転調整手段としてのスペーサ部材26が取り付けられている。スペーサ部材26の前端には、アーム支持構造30が取り付けられている。
【0085】
ここで、図4を参照してアーム支持構造30を説明する。アーム支持構造30は、メインフレーム13の先端部にスペーサ部材26を介して取り付けられている(図3参照)。
【0086】
アーム支持構造30は、スペーサ部材26の先端に接続されたT型フレーム31を有している。T型フレーム31は、T型の腕が垂直面内に延びるように配設されている。T型フレーム31の本体には左右に水平に突出するように第1ギアアーム32が設けられている。第1ギアアーム32の両端部にはそれぞれ第1ギア33が取り付けられている。第1ギアアーム32の、T型フレーム31と左右いずれかの第1ギア33の間には、第1伝動ギア34が取り付けられている。
【0087】
T型フレーム31の本体から上下に延びる腕のうち、下方に延びる腕の下端部には、左右に水平に突出するように第2ギアアーム35が設けられている。第2ギアアーム35の両端部にはそれぞれ第2ギア36が取り付けられている。左右の両側のいずれにおいても、第1ギア33と第2ギア36の間に、第1伝動チェーン37がかけ回されている。限定されることなく、第1ギア33は、第2ギア36より大径になっているのが好ましい。
【0088】
T型フレーム31の本体から左右に延びる腕のうち、上方に延びる腕の上端部には、左右に水平に突出するように支持アーム38が設けられている。支持アーム38の左右の両端部にはそれぞれリンク部材39が取り付けられている。左右のリンク部材39はそれぞれ、1関節構造のリンクからなる。左右のリンク部材39のそれぞれの先端部には、左右に水平に突出するペダル軸40が取り付けられている。ペダル軸40は、一端部が第1伝動チェーン37に接続され、一部がリンク部材39に支持され、残る部分にペダル41が取り付けられている。
【0089】
ここで、図5を参照してペダル軸40と第1伝動チェーン37とリンク部材39の構造を詳しく説明する。
【0090】
図5は右のペダル41を内側の後ろ上方から見たペダル軸40と第1伝動チェーン37とリンク部材39の接続構造を示している。ペダル軸40は内端に近い部分でリンク部材39の先端部の円筒部によって回転可能に支持されている。
【0091】
ペダル軸40の内端は接続部材42に接続されている。接続部材42は第1伝動チェーン37の外リンクの一つに外側から被さり、ピン43,44によってその外リンクに固定されている。
【0092】
リンク部材39は十分な剛性を有し、特にペダル41を踏み込んだときにペダル軸40が倒れないようにペダル軸40を支持している。このため、ペダル41を踏み込んだ力はペダル軸40と接続部材42を介して第1伝動チェーン37に伝えられることができる。
【0093】
接続部材42は第1伝動チェーン37の外リンクの一つに取り付けられているため、第1伝動チェーン37が図5に示すようにギア外周に沿って湾曲するときは、接続部材42が第1伝動チェーン37に沿って移動し、したがってペダル41も第1伝動チェーン37の軌道に沿って移動する。第1伝動チェーン37が直線的に移動する部分では、ペダル41も直線的に移動する。
【0094】
再び図3に戻って、ライダーによって生じられた動力が後輪19に伝達される仕組みを説明する。第1ギア33と第2ギア36の間に第1伝動チェーン37がかけ回されている。第1伝動ギア34(図4参照)と中間伝動ギア25の間に第2伝動チェーン45がかけ回されている。さらに、中間伝動ギア25と後輪19のスプロケット(図示せず)の間に第3伝動チェーン46がかけ回されている。
【0095】
これにより、ライダーがペダル41を踏み込むと、その力は、第1伝動チェーン37と、第2伝動チェーン45と、第3伝動チェーン46を介して、後輪19のスプロケットに伝わり、リカンベント型自転車11を推進する。
【0096】
本発明の自転車乗車姿勢の最適化においては、機械損失が少なくペダル41を効果的に踏み込む空間領域と、ライダーの踏力が最大になる踏力最大ゾーンが好ましくは重なるように、調整される。このことを図6を用いて説明する。
【0097】
図6はアーム支持構造30とスペーサ部材26とメインフレーム13の一部を側面から見た図を示している。
【0098】
破線で示した空間領域はライダーの踏力最大ゾーンZを示している。符号Fはペダル41を踏み込む力の作用方向(踏力方向)を示している。ペダル41と踏力方向Fが3つ示されているのは、ペダル41の位置によって踏力方向Fが変化し、ペダル41の移動方向となす角度αが変化することを示している。符号2,3,4はそれぞれ腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4を示している。被検者の腰と膝と足首の位置、特に被検者の膝と足首の位置は、ペダル41の位置によって変化するが、ここでは代表的に1つのペダル位置に対応する腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4の位置を示している。腰マーカー2と膝マーカー3を結ぶ線と、膝マーカー3と足首マーカー4を結ぶ線のなす角度Anは、被検者の膝関節の屈伸角度Anである。膝関節の屈伸角度Anは膝をまっすぐ伸ばした状態で0度とし、そこから膝を曲げた時の角度を指すものとする。
【0099】
踏力最大ゾーンZは、発明者らの研究によれば、ライダーの膝関節の屈曲角度Anが25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内になるライダーの足が位置する空間領域である。
【0100】
ペダル41を効果的に踏み込む空間領域をライダーの踏力最大ゾーン内に調整する方法は後述するとして、ここでは、ペダル41を効果的に踏み込む、すなわち高効率でペダル41に力を伝えること、及び、大きい踏力をペダル41に与えられること、のためのペダル41を踏み込む空間領域について説明する。
【0101】
ペダル41を効果的に踏み込むためには、ペダルの移動方向への踏力の分力が大きく、機械損失が少ないことを要する。すなわち、踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが所定範囲内にあることを要する。
【0102】
また、ペダル41に与える仕事量を最大化するには、踏力の大きさや効率とは独立に、ペダル41を踏むペダル41の移動距離D(ペダル41を踏み込む距離)が長いことを要する。
【0103】
踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが小さければ機械的損失が少なく、踏力のペダル41の移動方向への分力が大きく、踏力を効果的に推進力に変換することができる。発明者らの鋭意の実験と研究によれば、踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αは±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内が望ましい。
【0104】
ペダル41に与える仕事量を最大化するには、ペダル41を踏み込んでペダル41を移動させる距離Dを最大化することによって実現することができる。発明者らの鋭意の実験と研究によれば、前記ペダル41の移動距離Dは合計で15cm以上、好ましくは20cm以上であることが望ましい。
【0105】
本例のリカンベント型自転車11によれば、第1ギア33が第2ギア36より大径になっているため、踏力方向Fが第1ギア33の円周の一部から、踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが小さい角度で交差する。すなわち、図6に示すように、リカンベント型自転車11では、ペダル41を踏み込む最初の段階で、踏力方向(F)がペダル41の移動方向(第1ギア33の外周の接線方向)より内側を向き(角度αがペダル41の移動方向に関してマイナス)、次に、踏力方向(F)がペダル41の移動方向に一致する点(角度αがペダル41の移動方向に関して0)を経て、踏力方向Fがペダル41の移動方向より外側を向く(角度αがペダル41の移動方向に関してプラス)ように変化する。その間、ペダル41は一定の角度αの範囲内で長い距離、すなわち第1ギア33の外周に沿って移動する距離D1と、第1伝動チェーン37の直線部分に沿って移動する距離D2の合計の距離D(D=D1+D2)を移動することができる。
【0106】
これにより、大径の第1ギア33を有するリカンベント型自転車11によれば、踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度が小さい状態で、ペダル41を長い距離踏み込むことができ、ペダル41に大きな仕事量を与えることができる。これによって、高い効率で大きな仕事量をペダル41に与えて推進力に変換することができる。
【0107】
踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが小さい状態で、ペダル41を踏み込んでペダル41を移動させる空間領域が、踏力最大ゾーンZと重なれば重なるほど、ライダーが最大の踏力でペダル41を踏むことができ、かつ、最大の踏力でペダル41を踏むことができる距離が大きくなり、ペダル41に与える仕事量を大きくすることができる。一方、踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが小さければ小さいほど、ペダル41の移動方向への踏力の分力が大きくなり、機械損失が小さくなり、効率よくペダル41を踏むことができる。
【0108】
本発明の判定のステップ400では、腰マーカー2と膝マーカー3と足首マーカー4の位置をトラッキングした結果に基づいて、被検者の膝関節の屈曲角度Anが25度±15度、又は25度±10度の範囲内になるペダル41の軌道の割合を計算する。これにより、ペダル41を踏む領域のうち、ライダーの踏力最大ゾーンZとどの程度占めているかを判定する(判定基準i)。
【0109】
踏力検出器9を有する場合は、実際に踏力を検出し、ペダル41を踏み込む領域のうち、ライダーの踏力最大ゾーンZがどの程度占めているかを判定することができる。
【0110】
また、判定ステップ400では、ペダルを踏み込む方向(踏力方向F)とペダル41の軌道方向がなす角度αが±20度、又は±10度、又は±5度の範囲内にある状態がペダル41の軌道に占める割合を計算する。これにより、ペダルを踏み込む方向(踏力方向F)とペダルの軌道方向がどの程度一致しているかを判定する(判定基準ii)。
【0111】
さらに、判定ステップ400では、踏力最大ゾーンZと膝関節の屈伸角度αと独立して、ペダル41を踏み込むペダル41の移動距離を計算する。これにより、ペダル41に与える仕事量の大小を判断することができる。踏力検出器9により、実際に踏力を検出し、ペダルの軌道方向の踏力の分力とペダル41を踏み込む距離の積、すなわち仕事量の大きさを算出することができる(判定基準iii)。
【0112】
前述したように、自転車乗車姿勢の総合判定は、上記判定基準i~iiiの判定結果を単独で、あるいは、上記判定基準i~iiiの判定結果を組み合わせて判定することができる。
【0113】
次に、ペダル41を踏み込んでペダル41を移動させる空間領域を、踏力最大ゾーンZに重ねるための、及び、踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αを小さくするための、リカンベント型自転車11の調整機構について説明する。
【0114】
本発明のリカンベント型自転車11によれば、ライダーの踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが一定の角度範囲内の状態でペダル41を踏み込む領域が、ライダーの踏力最大ゾーンZに重なるように調整することができる。
【0115】
図7は、ライダーの膝関節の屈曲角度Anが25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内になるように、アーム支持構造30を自転車の前後方向に移動させる伸縮調整手段50を示している。伸縮調整手段50は、アーム支持構造30全体を前後方向に移動可能にする任意の公知の手段であってよいが、この例では、メインフレーム13の先端部に入子状に伸縮することができるスライダー51を有している。このスライダー51をメインフレーム13内でM方向にスライドさせることによって、アーム支持構造30全体、特に第1ギア33と第2ギア36と第1伝動チェーン37とペダル41からなる構造体が前後し、被検者の体格に合わせて、被検者の膝関節の屈曲角度が25度±15度、好ましくは25度±10度の範囲内になるように調整することができる。
【0116】
これにより、ペダル41を踏み込んでペダル41を移動させる空間領域を、踏力最大ゾーンZに重ねることができる。
【0117】
図8は、ライダーの踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内になるように、アーム支持構造30全体、特に第1ギア33と第2ギア36と第1伝動チェーン37とペダル41からなる構造体を段階的に回転させる回転調整手段55を示している。
【0118】
回転調整手段55は、メインフレーム13に接続される第1部材56と、アーム支持構造30のT型フレーム31に接続される第2部材57とを有している。第2部材57は第1部材56の外側に緩く嵌合するコの字型の横断面を有し、ヒンジ58によって第1部材56に結合されている。これにより、第2部材57は、第1部材56対して、ヒンジ58を中心に枢動して扇状に広がることができる。
【0119】
第2部材57のヒンジ58の反対側の端部には、複数の孔59が穿設されている。第1部材56にも孔59とほぼ同径の孔(図示せず)が穿設されている。第1部材56と第2部材57は、ヒンジ58を中心に枢動し、第2部材57の所定の孔59と第1部材56の孔を合わせて、図示しないピンを挿入することによって所定の相対角度で固定される。
【0120】
このように、第1部材56と第2部材57をヒンジ58を中心に枢動させて固定することにより、アーム支持構造30全体、特に第1ギア33と第2ギア36と第1伝動チェーン37とペダル41からなる構造体を、所定の角度傾斜させて固定することができる。
【0121】
これにより、ライダーの踏力方向Fとペダル41の移動方向のなす角度αが±20度、好ましくは±10度、より好ましくは±5度の範囲内になるように調整することができる。
【0122】
伸縮調整手段50と回転調整手段55を組み合わせて使用することにより、自転車の調整ステップ500において、被検者に最適な自転車乗車姿勢を提供する自転車に調整することができる。
【0123】
なお、前述したように、ペダルの位置(高さ、前後)の調整しかできない一般的な自転車に対しても、本発明の自転車乗車姿勢最適化装置1及び自転車乗車姿勢最適化方法によれば、その自転車の調整可能な範囲内で、被検者に可能な最適自転車乗車姿勢を提供することができる。
【0124】
以上で本発明による自転車乗車姿勢最適化装置及び方法の説明を終わるが、上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0125】
1:自転車乗車姿勢最適化装置
2:腰マーカー
3:膝マーカー
4:足首マーカー
5:マーカー軌道検出器
6:データロッガー
7:処理判定装置
8:出力装置
9:踏力検出器
11:リカンベント型自転車
12:ヘッドパイプ
13:メインフレーム
14:ハンドルステム
15:ハンドルバー
16:ハンドル
17:フロントフォーク
18:前輪
19:後輪
20:シート支持体
21:座部シート
22:背もたれシート
23:伝動ギアブラケット
24:水平軸
25:中間伝動ギア
26:スペーサ部材
30:アーム支持構造
31:T型フレーム
32:第1ギアアーム
33:第1ギア
34:第1伝動ギア
35:第2ギアアーム
36:第2ギア
36:第3伝動チェーン
37:第1伝動チェーン
38:支持アーム
39:リンク部材
40:ペダル軸
41:ペダル
42:接続部材
43、44:ピン
45:第2伝動チェーン
50:伸縮調整手段
51:スライダー
55:回転調整手段
56:第1部材
57:第2部材
58:ヒンジ
59:孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8