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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】イオン導入装置及びイオン導入方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/30 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
A61N1/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024070625
(22)【出願日】2024-04-24
【審査請求日】2024-05-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018913
【氏名又は名称】株式会社ホーマーイオン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】細木 力
(72)【発明者】
【氏名】野池 潤一
(72)【発明者】
【氏名】秋本 龍二
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-072165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0142688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を介した電気刺激により生体にイオンを導入するイオン導入装置であって、
コントローラと、
ピーク電圧を調整するための電圧信号生成部と、
ローパスフィルタを少なくとも含む出力合成部と、
前記出力合成部で合成されたパルス信号を前記電極に出力する出力部と、
前記出力部から出力される電流値を検出して、前記コントローラに送信する出力検出部と、
を有し、
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き上げるモードを第1モード、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き下げるモードを第2モードと定義したとき、
前記コントローラは、
電流値が増大から減少に転じるまで前記第1モードを実施する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて電流値が増大から減少に転じたときに、前記第1モードを前記第2モードに切り替えるとともに、前記第2モードを電流値が増大から減少に転じるまで実施する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて、電流値が増大から減少に転じたときに、前記第2モードを前記第1モードに切り替える第3ステップと、
を含む電流制御を実施することを特徴とするイオン導入装置。
【請求項2】
前記コントローラは、生体に微弱電流を流すための準備処理である第1プレステップを実施した後、前記電極と生体との接触状態の有無を判別し、接触と判別した場合に前記微弱電流よりも電流値が高いベース電流を生体に流す第2プレステップを実施し、前記第2プレステップの後に、前記電流制御を開始し、
前記コントローラは、前記第1モード及び前記第2モードにおいてカットオフ周波数を変更するたびに、前記電極と生体との接触状態の有無を判別し、非接触と判別した場合には、前記第1モード又は前記第2モードから前記第1プレステップに切り替える、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン導入装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第2プレステップにおいて、デューティー比又はピーク電圧を段階的に上げる処理を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載のイオン導入装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1モード及び前記第2モードの実施中に、ピーク電圧を一定に維持することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のイオン導入装置。
【請求項5】
前記第1モード及び前記第2モードは、前記電極の極性が交互に代わる極性反転方式により実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン導入装置。
【請求項6】
イオン導入装置の電極を介した電気刺激により生体にイオンを導入するイオン導入方法
(ただし、医療行為を除く)であって、
前記イオン導入装置は、
コントローラと、
ピーク電圧を調整するための電圧信号生成部と、
ローパスフィルタを少なくとも含む出力合成部と、
前記出力合成部で合成されたパルス信号を前記電極に出力する出力部と、
前記出力部から出力される電流値を検出して、前記コントローラに送信する出力検出部
と、
を有し、
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き上げるモードを第1モード、
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き下げるモードを第2モードと定
義したとき、
前記コントローラに対して、
電流値が増大から減少に転じるまで前記第1モードを実施する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて電流値が増大から減少に転じたときに、前記第1モードを前
記第2モードに切り替えるとともに、前記第2モードを電流値が増大から減少に転じるま
で実施する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて、電流値が増大から減少に転じたときに、前記第2モードを
前記第1モードに切り替える第3ステップと、
を含む電流制御を実施させることを特徴とするイオン導入方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体にイオン導入を行うイオン導入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極を介した電気刺激により、生体にイオン導入を行うイオン導入装置が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。皮膚の状態、使用する環境、機器の使用方法(肌に接触する面積)によって、生体インピーダンスは変動するため、狙ったパルス波形に基づく電気刺激をリアルタイムで行うことが長年の課題とされている。
【0003】
特許文献1には、イオン性薬物を皮膚から導入させるイオン性薬物導入装置であって、前記イオン性薬物が塗布され、皮膚表面に付着される電極と、前記電極を通じて流れる電流値を検出する電流検出手段と、前記検出された電流値に基づき皮膚の複素誘電率の測定し、当該測定した複素誘電率に対応する最適周波数を決定する最適周波数決定手段と、前記決定された最適周波数で、且つ所定のデューティー比のパルス電圧を生成し、当該パルス電圧を前記電極に印加するパルス電圧印加手段と、を備えることを特徴とするイオン性薬物導入装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、美容効果を高めるためのイオン性液剤を人体の皮膚組織に浸透させるための美容用の液剤浸透装置であって、前記液剤が塗布され、皮膚表面に付着される電極と、100kHzから1000kHzの間の何れかの周波数で、且つ30~50%の間の何れかのデューティー比であるパルス電圧を生成し、当該パルス電圧を前記電極に印加するパルス電圧印加手段と、を備えることを特徴とする美容用の液剤浸透装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-11589号公報
【文献】特開2007-319474号公報
【文献】特開2003-102851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電流値を監視しながら、肌に流せる電流の最大値を指向したイオン導入を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のイオン導入装置は、(1)電極を介した電気刺激により生体にイオンを導入するイオン導入装置であって、コントローラと、ピーク電圧を調整するための電圧信号生成部と、ローパスフィルタを少なくとも含む出力合成部と、前記出力合成部で合成されたパルス信号を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流値を検出して、前記コントローラに送信する出力検出部と、を有し、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き上げるモードを第1モード、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き下げるモードを第2モードと定義したとき、前記コントローラは、電流値が増大から減少に転じるまで前記第1モードを実施する第1ステップと、前記第1ステップにおいて電流値が増大から減少に転じたときに、前記第1モードを前記第2モードに切り替えるとともに、前記第2モードを電流値が増大から減少に転じるまで実施する第2ステップと、前記第2ステップにおいて、電流値が増大から減少に転じたときに、前記第2モードを前記第1モードに切り替える第3ステップと、を含む電流制御を実施することを特徴とするイオン導入装置。
【0008】
(2)前記コントローラは、生体に微弱電流を流すための準備処理である第1プレステップを実施した後、前記電極と生体との接触状態の有無を判別し、接触と判別した場合に前記微弱電流よりも電流値が高いベース電流を生体に流す第2プレスステップを実施し、前記第2プレスステップの後に、前記電流制御を開始し、前記コントローラは、前記第1モード及び前記第2モードにおいてカットオフ周波数を変更するたびに、前記電極と生体との接触状態の有無を判別し、非接触と判別した場合には、前記第1モード又は前記第2モードから前記第1プレステップに切り替える、ことを特徴とする上記(1)に記載のイオン導入装置。
【0009】
(3)前記コントローラは、前記第2プレステップにおいて、デューティー比又はピーク電圧を段階的に上げる処理を行う、ことを特徴とする上記(2)に記載のイオン導入装置。
【0010】
(4)前記コントローラは、前記第1モード及び前記第2モードの実施中に、ピーク電圧を一定に維持することを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載のイオン導入装置。
【0011】
(5)前記第1モード及び前記第2モードは、前記電極の極性が交互に代わる極性反転方式により実施されることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のイオン導入装置。
【0012】
(6)イオン導入装置の電極を介した電気刺激により生体にイオンを導入するイオン導入方法(ただし、医療行為を除く)であって、前記イオン導入装置は、コントローラと、ピーク電圧を調整するための電圧信号生成部と、ローパスフィルタを少なくとも含む出力合成部と、前記出力合成部で合成されたパルス信号を出力する出力部と、前記出力部から出力される電流値を検出して、前記コントローラに送信する出力検出部と、を有し、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き上げるモードを第1モード、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き下げるモードを第2モードと定義したとき、前記コントローラに対して、電流値が増大から減少に転じるまで前記第1モードを実施する第1ステップと、前記第1ステップにおいて電流値が増大から減少に転じたときに、前記第1モードを前記第2モードに切り替えるとともに、前記第2モードを電流値が増大から減少に転じるまで実施する第2ステップと、前記第2ステップにおいて、電流値が増大から減少に転じたときに、前記第2モードを前記第1モードに切り替える第3ステップと、を含む電流制御を実施させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、電流値の増減を監視しながら、カットオフ周波数を制御することにより、肌に流せる電流の最大値を指向したイオン導入を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】美顔器の斜視図である。
図2】美顔器の機能ブロック図である。
図3】イオン導入方法全体のフローチャートである。
図4図3のフローチャートのサブルーチンである(電流制御モード)。
図5】微弱電流の波形を模式的に示した模式図である。
図6】微弱電流の別の波形を模式的に示した模式図である。
図7】ベース電流の波形を模式的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、イオン導入装置の一例である美顔器の外観斜視図である。美顔器1は、筺体部2と、導入電極3と、対極電極4と、電源オンスイッチ5と、電源オフスイッチ6と、電池収容部7とを含む。筺体部2は合成樹脂等の絶縁材であってもよい。ただし、本発明は、美顔器に限るものではなく、生体のいずれかの部位にイオンを導入できる装置であればよい。
【0016】
導入電極3は、後述する図2のOUT1に対応しており、生体に対してパルス信号を出力する。対極電極4は、図2のOUT2に対応している。美顔器1は、電源オンスイッチ5が操作されると作動し、電源オフスイッチ6が操作されると停止する。
【0017】
美顔器1では、導入電極3とイオン導入部位である顔部との間に、イオン化化粧液を含浸させた吸湿部材(不図示)を介在させ、かつ、対極電極4を覆うように筐体部2を手掌した状態で、電源オンスイッチ5を操作することでイオン導入が開始される。動作開始後は、導入電極3に対して、パルス信号が出力されることによって、吸湿部材中のイオン化化粧液を生体に導入することができる。
【0018】
図2は、美顔器1の機能ブロック図である。美顔器1は、コントローラ10、電圧信号生成部20、出力合成部30、出力部40及び出力検出部50を含む。コントローラ10は、美顔器1全体の制御を司り、マイコンなどを用いることができる。マイコンには、I/O(Input/Output)、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などが含まれていてもよい。
【0019】
コントローラ10は、電圧信号生成部20を制御することによって、ピーク電圧を調整する。ピーク電圧とは、1周期内の最高電圧を意味する。電圧信号生成部20で生成された出力パルス用の電圧信号は、出力合成部30に送信される。
出力合成部30は、パルス生成部31、フィルタ制御部32及び増幅部33を含む。コントローラ10は、パルス生成部31を制御することによって、パルス信号の周波数及びデューティー比を制御する。コントローラ10は、フィルタ制御部32に含まれるローパスフィルタのカットオフ周波数を制御する。カットオフ周波数を制御することにより、パルス信号の立ち上がり時間が調整される。
【0020】
コントローラ10は、パルス信号の周波数、デューティー比及びカットオフ周波数を調整した後、増幅部33でピーク電圧を調整して、出力パルスを生成する。生成された出力パルスは、出力部40を介して、出力される。出力検出部50は、出力部40から出力される電流を常時検出しており、その検出結果をコントローラ10に出力する。
【0021】
次に、図3及び図4のフローチャートを参照しながら、美顔器1を用いたイオン導入方法について詳細に説明する。図3がイオン導入全体のフローチャートであり、図4図3の電源制御モード(ステップS104)に対応するサブルーチンである。
なお、本発明のイオン導入方法には、医療行為は含まれない。
【0022】
図3を参照して、電源オンスイッチ5がオンされると、コントローラ10は、出力部40から微弱電流に対応したパルス信号を出力するための「準備処理」を行う(ステップS101)。ステップS101が「第1プレステップ」に相当する。後述するように、デューティー比又はピーク電圧を低い値に設定することが、「準備処理」に相当する。
コントローラ10は、出力検出部50の検出結果に基づき、微弱電流が流れたかどうかを判別する(ステップS102)。微弱電流が検出された場合には導入電極3が肌に接触したものと見做し(ステップS102 Yes)、処理はステップS103に進む。微弱電流が検出されなかった場合(つまり、検出した電流が0の場合)には、ステップS101を継続する。ステップS103に進む際に、コントローラ10は、「1回目の肌接触」であることを示すフラグ(以下、肌接触フラグともいう)を立ち上げる。
微弱電流は、電流が流れたことを使用者に感じさせない低電流値に設定されており、予め被験者を通じた実験により求めることができる。
【0023】
ここで、コントローラ10は、パルス生成部31を制御して、デューティー比を下げることにより、微弱電流を生成してもよい。例えば、デューティー比の基準値が50%の場合、デューティー比をそれよりも低い値に設定することにより、微弱電流を生成することができる。図5は、デューティー比を下げたパルス信号の波形を模式的に示したものであり、縦軸及び横軸はそれぞれ電圧レベル及び時間である。
【0024】
同図では、出力がマイナスであるが、本発明はこれに限るものではなく、プラスであってもよいし、マイナスとプラスが交互に切り替わる方式(極性反転方式)であってもよい(後述する第2プレステップ、第1モード及び第2モードも同様である)。出力がプラスの場合には、イオン化化粧液のプラスイオン成分を皮膚に浸透させやすくなり、出力がマイナスの場合には、イオン化化粧液のマイナスイオン成分を皮膚に浸透させやすくなる。なお、極性反転方式は、例えば、特許文献3などに開示されている。
【0025】
また、コントローラ10は、増幅部33を制御して、ピーク電圧を下げることにより、微弱電流を生成してもよい。この場合、コントローラ10は、デューティー比を基準値に維持する。図6は、ピーク電圧を下げたパルス信号の波形を模式的に示したものであり、縦軸及び横軸はそれぞれ電圧レベル及び時間である。
【0026】
ステップS103において、出力部40から出力されるパルス信号を微弱電流に対応するパルス信号からベース電流に対応するパルス信号に変更する処理を行う。ベース電流は、微弱電流よりも電流値が高い。コントローラ10は、デューティー比又はピーク電圧を上げることにより、微弱電流からベース電流への移行を行うことができる。ベース電流は、イオン導入が可能な適宜の電流値に設定することができ、予め被験者を通じた実験により求めることができる。
【0027】
ここで、デューティー比又はピーク電圧を徐々に(言い換えると、段階的に)上げることにより、上述の移行処理を行うことが望ましい。
かかる移行処理を段階的に行うことにより、痛みの少ない電気刺激を実現することができる。すなわち、肌に接触後、直ちにベース電流が流れると、痛みを伴う電気刺激となるため、微弱電流からベース電流に向かって段階的に変化させることが望ましい。
【0028】
ベース電流に達した後、ステップS104の電流制御モードに移行する。上述の通り、肌に流せる電流は、肌の状態(つまり、生体インピーダンス)、使用環境、使用方法などにより変動する。電流制御モードでは、「肌に流せる電流の最大値を指向した電流制御」が実施され、かかる電流制御により、効率的なイオン導入が実現される。「肌に流せる電流の最大値」は、肌に過度な刺激感を及ぼさない観点から、複数の被験者に実際にイオン導入を行うことにより、実験的に求めることができる。また、「最大値を指向」は「最大値を目指す」の意であり、必ずしも最大値に達することを意味するものではない。
【0029】
本実施形態では、カットオフ周波数を変更することを電流制御の中核としている。一般的に、カットオフ周波数を上げると、波形が矩形波に近づき、流れる電流が増大する。一方、カットオフ周波数を下げると、波形がより丸みを帯びた形状に変化し、流れる電流が減少する。
【0030】
したがって、効率的なイオン導入を実現するためには、カットオフ周波数を段階的に引き上げることが電流制御の基本思想となる。ただし、イオン導入が進むと、カットオフ周波数を引き上げても、電流値が上がらなくなる(つまり、電流値が増大から減少に転じる)。イオン導入が進むにしたがって生体に蓄積される電荷が増大するからである。この場合、カットオフ周波数を段階的に下げるモードに切り替える。カットオフ周波数を下げることにより、生体から放電される電荷が、生体に印加される電荷よりも多くなり電流が入りやすくなるため、カットオフ周波数を下げているにも関わらず電流値が増大する。生体からの放電が進むと、あるタイミングで電流値が低下するため、カットオフ周波数を再び上げることにより、イオン導入を継続する。このように電流値の増減を監視しながら、カットオフ周波数を制御することにより、肌に流せる電流の最大値を指向したイオン導入が実現される。本発明の電流制御モードは、以上の知見を基礎とするものである。
【0031】
以下、図4のサブルーチンを参照しながら、電流制御モードの内容について詳細に説明する。コントローラ10は、上述した肌接触フラグに基づき、導入電極3の肌接触が1回目であるか否かを判別する(ステップS201)。
【0032】
1回目の肌接触である場合(ステップS201 Yes)には、処理はステップS202に進む。ステップS202において、コントローラ10は、フィルタ制御部32を制御して、ベース電流に対してカットオフ周波数を1段階引き上げたイオン導入を開始し、処理はステップS203に進む。カットオフ周波数を上げることにより、高周波帯域が通りやすくなる。
【0033】
ステップS203において、コントローラ10は、第1モードを状態監視フラグとして立ち上げ、処理はステップS105に進む。なお、コントローラ10は、ステップS203で第1モードをセットする際に、肌接触フラグを更新して、「2回目の肌接触」に変更する。
【0034】
ステップS105において、コントローラ10は、導入電極3の肌接触が継続しているかを判別する。判別方法は、ステップS102と同じであるから、説明を繰り返さない。肌接触が継続している場合には(ステップS105 Yes)、処理はステップS106に進む。肌接触が絶たれた場合には、処理はステップS101に戻る。ステップS101に戻る際に、コントローラ10は、状態監視フラグ及び肌接触フラグを下げる。
【0035】
ステップS106において、コントローラ10は、所定のイオン導入時間が経過したか否かを判別する。ここで、イオン導入時間は、電流制御モードによる所望のイオン導入を実現する適宜の時間に設定することができる。したがって、ステップS203からステップS105を経由して、ステップS106に進んだ場合には、イオン導入時間は経過していないから、処理はステップS201に戻る。
【0036】
肌接触フラグが「2回目の肌接触」に更新されているため、ステップS201に戻ると、処理はステップS204に進む。ステップS204において、コントローラ10は、ステップS202でカットオフ周波数を上げた時から(言い換えると、波形を整形してから)、所定時間経過したかどうかを判別する。所定時間は、好ましくはパルス周波数の1周期以上の時間である。
【0037】
波形を整形してから所定時間が経過している場合には(ステップS204 Yes)、処理はステップS205に進む。波形を整形してから所定時間が経過していない場合には(ステップS204 No)、処理はステップS105に進む。ステップS105に進んだ後は、所定時間が経過するまで、ステップS105、ステップ106、ステップS201及びステップS204の処理を繰り返す。
【0038】
ステップS205において、コントローラ10は、状態監視フラグが第1モードであるか否かを判別する。上述の通り、ステップS203において第1モードが立ち上げられているから、処理はステップS206に進む(ステップS205 Yes)。ステップS206において、コントローラ10は、出力検出部50の検出結果に基づき、電流値が増大したか否かを判別する。電流値が増大した場合には、処理はステップS210に進む。電流値が増大していない場合には、処理はステップS208に進む。電流値が最大電流に到達した場合も、処理はステップS208に進む。ここで、1回目のステップS205は、電流制御モードに移行した直後であって、生体に蓄積された電荷が小さいから、通常、電流値は増大したと判別される。
【0039】
ステップS210において、コントローラ10は、カットオフ周波数をさらに1段階上げて、処理はステップS105に進む。カットオフ周波数を上げることにより、電流値が増大するため、イオン導入が促進される。ここで、上げる前のカットオフ周波数の値を100%としたとき、その15~25%程度を1段階における上げ幅とするのが望ましい。なお、カットオフ周波数を段階的に引き下げるときの下げ幅についても、同様である。
【0040】
ここで、しばらくの間、ステップS105→ステップS106→ステップS201→ステップS204→ステップS205→ステップS206→ステップS210の処理が繰り返される(第1ステップに相当する)。これにより、電流値を高めながら、イオン導入を積極的に行うことができる。
【0041】
時間が経過して生体に蓄積された電荷が大きくなると、出力検出部50で検出された電流値が増大から減少に転じるため、処理はステップS206からステップS208に移行する(ステップS206 No)。ステップS208において、コントローラ10は、第2モードを状態監視フラグとして立ち上げる。つまり、状態監視フラグを第1モードから第2モードに更新して、処理はステップS211に進む。
【0042】
ステップS211において、コントローラ10は、カットオフ周波数を1段階下げて、処理はステップS105に進む。カットオフ周波数を下げることにより、放電される電荷が、生体に印加される電荷よりも多くなるため、イオン導入を継続しながら、生体に蓄積される電荷を徐々に減らすことができる。上述の通り、カットオフ周波数を下げると、設計上は、電流値が減少するが、生体に蓄積された電荷が低下するため、電流が入りやすくなり、電流値が増大する。
【0043】
すなわち、ステップS105に進んだ後、ステップS207において電流値が減少したと判別されるまで、ステップS106→ステップS201→ステップS204→ステップS205→ステップS207→ステップS208→ステップS211の処理を繰り返される(第2ステップに相当する)。生体に蓄積された電荷が十分に低下すると、電流値が上昇から減少に転じて(ステップS207 No)、処理はステップS209に進む。
【0044】
ステップS209において、コントローラ10は、第1モードを状態監視フラグとして立ち上げる。つまり、状態監視フラグを第2モードから第1モードに更新して、処理はステップS210に進む(第3ステップに相当する)。ここで、ステップS209からステップS210に移行する場合、生体に蓄積された電荷は十分に低下しているから、カットオフ周波数を上げることにより、電流値を上げることができる。これにより、イオン導入が促進することができる。ここで、第1モード及び第2モードにおいて、コントローラ10は、ピーク電圧を一定に維持する。つまり、第1モード及び第2モードでは、ピーク電圧を一定に維持しながらカットオフ周波数を変えることにより、電流制御を実施しているため、生体への悪影響を避けることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 美顔器
2 筺体部
3 導入電極
4 対極電極
5 電源オンスイッチ
6 電源オフスイッチ
7 電池収容部
10 コントローラ
20 電圧信号生成部
30 出力合成部
31 パルス生成部
32 フィルタ制御部
33 増幅部
40 出力部
50 出力検出部
【要約】
【課題】肌に流せる電流の最大値を指向したイオン導入を実現する。
【解決手段】電極を介した電気刺激により生体にイオンを導入するイオン導入装置であって、ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き上げるモードを第1モード、ローパスフィルタのカットオフ周波数を段階的に引き下げるモードを第2モードと定義したとき、電流値が増大から減少に転じるまで第1モードを実施する第1ステップと、第1ステップにおいて電流値が増大から減少に転じたときに、第1モードを第2モードに切り替えるとともに、第2モードを電流値が増大から減少に転じるまで実施する第2ステップと、第2ステップにおいて、電流値が増大から減少に転じたときに、第2モードを第1モードに切り替える第3ステップと、を含む電流制御を実施することを特徴とするイオン導入装置。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7