(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】HPLCシステムにおけるクロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20241105BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
G01N30/32 A
G01N30/26 M
(21)【出願番号】P 2022529368
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 EP2020082365
(87)【国際公開番号】W WO2021099301
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-17
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ニルス・スタヴストローム
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526731(JP,A)
【文献】特開2014-145675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速液体クロマトグラフシステム(1)におけるクロマトグラフカラム(4)に対する動作流量を決定するための方法であって、
前記システムが、
液体媒体のための液体リザーバ(3)と、
前記液体リザーバと流体連通するクロマトグラフカラム(4)であって、所定の推奨流量および所定の最高カラム圧力限界を有する、クロマトグラフカラム(4)と、
前記液体リザーバ(3)から前記クロマトグラフカラム(4)まで液体を一定の流量において圧送するように配置可能なシステムポンプ(6)と、
前記液体リザーバ(3)、前記システムポンプ(6)および前記クロマトグラフカラム(4)を接続する流体流路と、
前記クロマトグラフカラム(4)前に配置される圧力モニタ(7)と、
を備え、
当該方法が、
a)1つまたは複数の流量に対して、
前記クロマトグラフカラム(4)がチューブで置換された状態で、あるいは前記クロマトグラフカラム(4)がチューブまたはバルブでバイパスされた状態で、前記システム(1)の圧力を測定(101a)または計算(101b、101c)するステップと、
b)前記流量および対応する測定または計算された圧力に関数を適合させるステップ(102)と、
c)前記関数および前記クロマトグラフカラム(4)に対する前記所定の推奨流量から、前記所定の推奨流量でのシステム圧力降下を計算するステップ(103)と、
d)前記システム圧力降下と前記所定の最高カラム圧力限界とを合計し、合計された圧力への前記システム圧力降下の寄与を決定することによって、前記クロマトグラフカラム(4)に対する動作流量を決定するステップ(104)であって、この寄与が1%を超える場合、前記クロマトグラフカラム(4)に対する動作流量が、前記所定の最高カラム圧力限界より低い前記圧力モニタにおける圧力に対応する流量に決定される、ステップと、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記システム(1)の圧力が、1つまたは複数の流量に対して前記圧力モニタ(7)を用いて測定(101a)される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記システム(1)の圧力が、前記圧力モニタを用いて測定される前記システムの圧力から、前記クロマトグラフカラムが前記システムから切断されて、前記圧力モニタ(7)を用いて測定される前記システム(1)の圧力を減算することによって、1つまたは複数の流量に対して計算(101b)され
、前記クロマトグラフカラム(4)はチューブで置換されるかまたはバイパスされる、請求項1から
2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記システム(1)の圧力が、ベルヌーイの式、すなわち、
ΔP=(128*L*Q*η)/(π*d
4)
を使用して、
前記クロマトグラフカラム(4)がチューブで置換またはバイパスされた状態で、1つまたは複数の流量に対して計算(101c)され、式中、dは前記流体流路の内径(mm)であり、Qは流量(ml/min)であり、Lは前記流体流路の長さ(mm)であり、ηは液体媒体の粘度(cP)である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記システム(1)の前記圧力が、少なくとも2つの異なる流
量に対して、
前記クロマトグラフカラム(4)がチューブで置換された状態で、あるいは前記クロマトグラフカラム(4)がチューブまたはバルブでバイパスされた状態で、測定(101a)または計算(101b)される、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
合計された圧力への前記システム圧力降下の決定された寄与が、5%、10%、15%または20%を超える場合、前記クロマトグラフカラム(4)に対する動作流量が、前記所定の最高カラム圧力限界より低い、前記システムポンプにおける圧力に対応する流量に決定される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の推奨流量において前記圧力モニタ(7)を用いて圧力を測定し、この圧力から、前記所定の推奨流量での、
前記クロマトグラフカラム(4)がチューブで置換された状態、あるいは前記クロマトグラフカラム(4)がチューブまたはバルブでバイパスされた状態での、前記システム(1)の測定または計算された圧力を減算することによって、前記システム(1)における前記クロマトグラフカラム(4)に対するデルタ圧力信号を計算/測定するステップ(105)を更に含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
高速液体クロマトグラフシステム(1)であって、
a)液体媒体のための液体リザーバ(3)、前記液体リザーバと流体連通するクロマトグラフカラム(4)であり、所定の推奨流量および所定の最高カラム圧力限界を有する、クロマトグラフカラム(4)、前記液体リザーバ(3)から前記クロマトグラフカラム(4)まで液体を一定の流量において圧送するように配置可能な少なくとも1つのシステムポンプ(6)、前記液体リザーバ(3)、前記システムポンプ(6)および前記クロマトグラフカラム(4)を接続する流体流路、ならびに前記クロマトグラフカラム(4)前に配置される圧力モニタ(7)、ならびに、
b)前記システム(1)の前記クロマトグラフカラム(4)に対する動作流量を決定するためのシステムコントローラ(8)であって、請求項1から
7のいずれか一項に記載されたステップを行うように配置されたシステムコントローラ(8)を備えている、高速液体クロマトグラフシステム。
【請求項9】
コンピュータプログラムであって、当該コンピュータプログラムがコンピュータ上で動かされると、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法を実行
する、コンピュータプログラム。
【請求項10】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で動かされ
た場合に請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法を実行するための、前記
コンピュータプログラムが記憶された、コンピュータによって読み取り可能な記憶
媒体を備えている、コンピュータ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本文書は、高速液体クロマトグラフシステムにおけるクロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するための方法、そのような動作流量を決定するためのシステムコントローラを備える高速液体クロマトグラフシステム、ならびに上記方法を行うためのコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物の混合物から成る試料から、生体分子などの化合物を分離、同定および定量するために、Cytiva(商標)Life SciencesからのAKTA(商標)システムのような高速液体クロマトグラフ(HPLC)システムが使用される。試料は流体の移動相に溶解され、これが不動、不混和の固定相を通して混合物を運び、この相は通常、典型的に直径が1~10マイクロメートルの(官能化)粒子が充填されるカラムである。相は、相に対する対象の化合物の親和性に基づいて選ばれる。混合物の化合物は、それらを分離させるカラムを通して異なる速度で進行する。保持時間、媒体を通る化合物の移動速度は、固定相との相互作用強度、使用される溶媒の組成および移動相の流量に応じて変動する。カラムによって分離される化合物は、質量分析、UV/VIS光吸収、蛍光、光散乱または屈折率を用いて検出されてよい。
【0003】
HPLCシステムの分離能は、固定相粒径が小さいほど、相の表面積が増加して、上昇する。しかしながら、より小さな粒径は、流れ抵抗を増加させて、高圧の使用を望ましくする。
【0004】
各カラムに対して、カラムが破損せずに耐えることができる特定の最大流れ圧力がある。この圧力は、固定相の材料およびカラム自体の材料に依存している。各カラムに対して、カラムの分離能が最適化される所定の推奨流体流量もある。
【0005】
HPLCシステムにおける全ての構成部品、すなわちフローセル、バルブ、ポンプ、カラム等が種々のチューブで互いに接続される。対象の試料はチューブ内で希釈されるが、システムの分解能へのマイナス効果を引き起こす。分解能は、チューブの直径が増加するほど低下する。細いチューブが分解能を上昇させる一方で、より細いチューブに関する欠点がシステムにおける背圧上昇である。
【0006】
背圧は、システムを通る流体の所望の流量に対抗する抵抗または力であり、摩擦損失および圧力降下、およびそれによってカラムを通しての流体流量減少に至る。圧力降下を補償するために、カラムを通る流体流量が推奨された所定の流量に保たれるように、ポンプによって印加される圧力が上昇されてよい。それによって、上昇した圧力がHPLCシステムおよび使用される特定のカラムの最高圧力容量に近づくまたはそれを超えるという危険性がある。
【0007】
HPLCシステムは、システムポンプ後の圧力を測定する、システムポンプ圧力モニタ、試料圧力を測定する、試料ポンプ後の圧力モニタ、ならびにプレカラム圧力およびポストカラム圧力を測定する、カラムバルブの入口および出口ポートにおける圧力モニタを備えてよい。デルタカラム圧力は、プレカラム圧力とポストカラム圧力との間の差である。システムもしくはカラムの最高圧力に達したと、または圧力が予め設定された限界を超えたとユーザに警告するために、システムポンプ後のシステム圧力に対しておよび/またはデルタカラム圧力に対して圧力警報を設定できる。予め設定された限界が超えられると、システムは自動的に停止されてよい。
【0008】
EP288584が、ポンプ直後に配置される圧力モニタを1つだけ備えるクロマトグラフシステムを示している。登録されたシステム圧力、流路の特性、ならびにシステムにおける液体の粘度および流量に基づいてプレカラム圧力を推定するようにコントローラが配置される。
【0009】
未経験のHPLCユーザにとって、高すぎる流量の使用によるシステムの即座の圧力警報および停止を引き起こす危険性なしに、クロマトグラフシステムを安全に動かす動作流量を設定する仕方を知ることは、困難であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示の目的は、高すぎる流量の使用によるシステムの即座の圧力警報および停止を引き起こす危険性なしに、クロマトグラフシステムが安全に動かされ得るように、高速液体クロマトグラフシステムにおけるクロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するための方法を提供することである。他の目的は、そのような動作流量を決定するためのシステムコントローラを備える高速液体クロマトグラフシステム、ならびに上記方法を行うためのコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラム製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、添付の独立特許請求項によって定められる。従属特許請求項、添付の図面および以下の説明から、非限定的な実施形態が明らかになる。
【0013】
第1の態様によれば、高速液体クロマトグラフシステムにおけるクロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するための方法が提供される。上記システムは、液体媒体のための液体リザーバと、液体リザーバと流体連通するクロマトグラフカラムであって、所定の推奨流量および所定の最高カラム圧力限界を有する、クロマトグラフカラムと、液体リザーバからクロマトグラフカラムまで液体を一定の流量において圧送するように配置可能なシステムポンプと、液体リザーバ、システムポンプおよびクロマトグラフカラムを接続する流体流路と、クロマトグラフカラム前に配置される圧力モニタとを備える。上記方法は、a)1つまたは複数の流量に対してクロマトグラフカラムなしでシステムの圧力を測定または計算するステップと、b)流量および対応する測定または計算された圧力に関数を適合させるステップと、c)関数およびクロマトグラフカラムに対する所定の推奨流量から、所定の推奨流量でのシステム圧力降下を計算するステップと、d)システム圧力降下および所定の最高カラム圧力限界とを合計し、合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与を決定することによって、クロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するステップであって、この寄与が1%を超える場合クロマトグラフカラムに対する動作流量が、所定の最高カラム圧力限界より低い流量に決定される、ステップとを含む。
【0014】
高速液体クロマトグラフ(HPLC)システムは、Cytiva(商標)Life SciencesからのAKTA(商標)システムでよい。カラムは、HPLCシステムのために適切な技術において公知のいかなるカラムでもよい。
【0015】
1つまたは複数の流量に対してクロマトグラフカラムなしでシステムの圧力を測定または計算した上で、流量および対応する測定または計算された圧力に関数が適合される。流量が線形であり、かつ、0ml/minの流量が0MPaの圧力に対応する場合、圧力を1つだけ、すなわちカラムに対する所定の推奨流量において、測定または計算することで十分であり得る。そうでなければ2つ以上の流量が必要となり得る。
【0016】
関数およびクロマトグラフカラムに対する所定の推奨流量を使用して所定の推奨流量でのシステム圧力降下が計算される。
【0017】
背圧は、システムを通る流体の所望の流量に対抗する抵抗または力であり、摩擦損失および圧力降下、ならびにそれによってカラムを通しての流体流量減少に至る。圧力降下を補償するために、カラムを通る流体流量が推奨された所定の流量に保たれるように、ポンプによって印加される圧力が上昇されてよい。それによって、上昇した圧力がHPLCシステムおよび使用される特定のカラムの最高圧力容量に近づくまたはそれを超えるという危険性がある。
【0018】
特定のシステムにおけるクロマトグラフカラムに対する動作流量が決定され、システム圧力降下を補償する。動作流量を決定するステップは、計算を含んでよく、この計算は、反復プロセスまたは近似でよい。クロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するステップは、システム圧力降下と所定の最高カラム圧力限界とを合計し、合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与を決定し、この寄与が1%を超える場合、カラムに対する動作流量が、所定の最高カラム圧力限界より低い圧力モニタにおける圧力に対応する流量に決定されることを含む。システム(カラムあり)の圧力モニタにおける圧力は、複合カラム圧力およびシステムの圧力である。
【0019】
一部の実施形態において、合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与が1%を超える場合、カラムに対する動作流量が、所定の最高カラム圧力限界より1~20%、1~15%または1~10%低いシステム(クロマトグラフカラムあり)の圧力モニタにおける圧力に対応する流量に決定される。カラムに対する動作流量は、システムにおける即時の過剰圧力警報を回避するのに十分に低下される流量に決定される。カラムに対する動作流量は、更に測定が満足に行われるために十分に高いべきである。
【0020】
計算/測定した圧力降下が1%より低いまたはゼロである場合、動作流量はカラムに対する所定の推奨流量と同じ流量に保たれる。
【0021】
上記の方法は自動または少なくとも半自動の方法でよい。ほとんどの特徴およびデータがシステムへ自動的に挿入されてよい。それによって、未経験のユーザも上記方法を簡単に行い得る。
【0022】
上記方法を通じてHPLCユーザ、および未経験のHPLCユーザも、システムおよびカラムに対して高すぎる流量の使用によりシステムによって加えられる圧力によって引き起こされる即座の圧力警報を引き起こす危険性なしにクロマトグラフシステムを安全に動かす動作流量を設定することができる。
【0023】
システムの圧力は、1つまたは複数の流量に対して圧力モニタを用いて測定されてよく、ここではクロマトグラフカラムはチューブで置換またはバイパスされる。
【0024】
システムにはバルブが設けられてよく、これらはカラムを自動的にバイパスするように配置されてよく、それによってカラムのバイパスを自動プロセスにすることができる。使用される流量は、好ましくは100μl/minなどの低流量で1つまたは複数の流量および10ml/minなどの高流量で1つまたは複数の流量を含む。使用される流量は、システムにおいてどのカラムが使用されることになるかに依存する。
【0025】
システムの圧力は、上記方法のステップa)で、クロマトグラフカラムがチューブで置換またはバイパスされて、圧力モニタを用いて測定されるシステムの圧力から、クロマトグラフカラムがシステムから切断されて、圧力モニタを用いて測定されるシステムの圧力を減算することによって、1つまたは複数の流量に対して計算されてよい。
【0026】
システムにはバルブが設けられてよく、これらはカラムを自動的にバイパスするように配置されてよく、それによってカラムのバイパスを自動プロセスにすることができる。カラムがシステムから切断されるとは、ここでチューブによるカラムの置換/バイパスがあるのでなく、測定した圧力がカラム前のシステムの圧力であるようにシステムに間隙が設けられることが意味される。この圧力を計算する仕方は、カラム前のシステムの圧力が高い、すなわちカラムなしの(カラムがチューブでバイパスされる)全システム圧力より10%以上高い場合に使用されてよい。使用される流量は、好ましくは100μl/minなどの低流量で1つまたは複数の流量および10ml/minなどの高流量で1つまたは複数の流量を含む。使用される流量は、システムにおいてどのカラムが使用されることになるかに依存する。
【0027】
代替的に、システムの圧力は、上記した方法のステップa)で、ベルヌーイの式、すなわち、
ΔP=(128*L*Q*η)/(π*d4)
を使用して、クロマトグラフカラムなしで、1つまたは複数の流量に対して計算されてよく、式中、dは流体流路の内径(mm)であり、Qは流量(ml/min)であり、Lは流路の長さ(mm)であり、ηは液体媒体の粘度(cP)である。
【0028】
この代替例において、システムの圧力は、圧力モニタによってシステムにおいて測定されるのでなく、クロマトグラフカラムなしのシステムに対して1つまたは複数の流量に対して計算される。流体流路は、液体リザーバ、システムポンプおよびクロマトグラフカラム、ならびにフローセル、バルブ等などのシステムの他の部品も接続するために使用されるシステムにおけるチューブである。この計算を行うためにクロマトグラフシステムおよび使用される液体についての一部のデータが、それ故に必要とされる。使用される流量は、好ましくは100μl/minなどの低流量で1つまたは複数の流量および10ml/minなどの高流量で1つまたは複数の流量を含む。使用される流量は、システムにおいてどのカラムが使用されることになるかに依存する。
【0029】
システムの圧力は、少なくとも2つの異なる流量、好ましくは少なくとも3つの異なる流量に対してクロマトグラフカラムなしで測定または計算されてよい。
【0030】
流量の数が高いほど上記方法を改善し得る。異なる流量の数は4、5、6以上でもよい。
【0031】
合計された圧力へのシステム圧力降下の決定された寄与が、5%、10%、15%または20%を超える場合、クロマトグラフカラムに対する動作流量が、所定の最高カラム圧力限界より低いシステムポンプにおける圧力に対応する流量に決定される。
【0032】
合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与に対する下限としてどのレベル、すなわち1%、5%、10%、15%または20%を選ぶかは、カラムだけからの圧力がシステム内の圧力のいかなる影響もなしで所定の推奨流量で最高圧力に非常に近いであろうと仮定する理論計算を通じて決定されてよい。合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与に対する下限を定めることで、所定の流量において動かされたときにいかなる警報も引き起こさないであろうカラムに対する僅かな不必要な低下が回避され得る。限界は、停止を回避する安全マージンを伴って設定されるべきである。
【0033】
上記方法は、所定の推奨流量において圧力モニタを用いて圧力を測定し、この圧力から、所定の推奨流量でのクロマトグラフカラムなしのシステムの測定または計算された圧力を減算することによって、システムにおけるクロマトグラフカラムに対するデルタ圧力を計算/測定するステップを更に含んでよい。
【0034】
この方法を使用して、たとえシステムにカラム前に配置される圧力モニタが1つだけ設けられていてもデルタ圧力を計算できる。従来、デルタ圧力は、カラム前に配置される第1の圧力モニタおよびカラム後に配置される第2の圧力モニタを用いて計算される。圧力の差が、それ故デルタ圧力である。システムにおいてカラム後に圧力モニタを加えることは、クロマトグラフィーシステムの分解能にマイナスに影響し得る。
【0035】
このデルタ圧力は、カラムの固定相、充填床が損傷されないようにカラムを保護するために使用されてよい。圧力警報が所定の最高床圧力に設定されてよく、これは通常、床に充填するために使用される圧力(またはこの圧力よりやや低い)に加えてカラムなしで計算/測定した圧力である。
【0036】
第2の態様によれば、a)液体媒体のための液体リザーバ、液体リザーバと流体連通するクロマトグラフカラムであって、所定の推奨流量および所定の最高カラム圧力限界を有する、クロマトグラフカラム、液体リザーバからクロマトグラフカラムまで液体を一定の流量において圧送するように配置可能な少なくとも1つのシステムポンプ、液体リザーバ、システムポンプおよびクロマトグラフカラムを接続する流体流路、ならびにクロマトグラフカラム前に配置される圧力モニタ、ならびにb)システムのクロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するためのシステムコントローラであって、上記したステップa)~d)を行うように配置される、システムコントローラを備える高速液体クロマトグラフシステムが提供される。
【0037】
第3の態様によれば、コンピュータプログラムであって、プログラムがコンピュータ上で動かされると、上記した方法を行うためのプログラムコード手段を備える、コンピュータプログラムが提供される。
【0038】
第4の態様によれば、プログラムがコンピュータ上で動かされると、上記した方法を行うためのコンピュータ可読媒体上に記憶されるプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】高速液体クロマトグラフシステムを概略的に例示する図である。
【
図2】高速液体クロマトグラフシステムにおけるクロマトグラフカラムに対する動作流量を決定するための方法を示す図である。
【
図3】クロマトグラフカラムなしの、カラムがチューブを使用してバイパスされた改良型AKTA(商標)システムにおいて種々の流量において測定された圧力のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1に、高速液体クロマトグラフ(HPLC)システム1が図示される。HPLCシステム1は、化合物の混合物から成る試料から、生体分子などの化合物を分離、同定および定量するために使用されてよい。試料2は流体の移動相、液体媒体3に溶解/注入されてよく、これがクロマトグラフカラム4を通して混合物を運ぶ。クロマトグラフカラムは、例えばサイズ排除カラム、アフィニティカラム、疎水性相互作用カラム、イオン交換カラムまたは逆相カラムでよい。カラムは不動、不混和の固定相を有してよく、これは通常、直径がしばしば1~10μmの充填(官能化)粒子を備える。
【0041】
試料2の化合物は、それらを分離させるカラム4を通して異なる速度で進行する。保持時間、媒体を通る化合物の移動速度は、固定相との相互作用強度、使用される液体媒体の組成および移動相の流量に応じて変動する。
【0042】
HPLCシステム1の分離能は、固定相粒径が小さいほど、相の表面積が増加して、上昇する。より小さな粒径は、しかしながら流れ抵抗を増加させて、高圧の使用を望ましくする。
【0043】
各クロマトグラフカラム4に対して、カラムの分離能が最適化される所定の推奨流量があり、固定相の材料およびカラム自体の材料に依存している。各カラムに対して最高カラム圧力限界もあり、カラムが破損せずに耐えることができる最高圧力である。この圧力は、固定相の材料およびカラム自体の材料に依存している。
【0044】
カラム4によって分離される化合物は、例えば質量分析、UV/VIS光吸収、蛍光、光散乱または屈折率を使用する検出器5によって検出されてよい。
【0045】
HPLCシステム1は、液体リザーバ3からクロマトグラフカラム4まで液体を一定の流量において圧送するように配置される少なくとも1つのシステムポンプ6を更に備える。
【0046】
圧力モニタ7が、クロマトグラフカラムの前でシステムポンプ6後の圧力を測定する。圧力モニタ7の厳密な位置は、異なるHPLCシステム1に従って変化してよい。一部の構成では、システムポンプ6とカラム4との間に2つ以上の圧力モニタが配置されてよい。
【0047】
流体流路が、液体リザーバ3、システムポンプ6およびクロマトグラフカラム4、ならびにHPLCシステムにおける他の構成部品、すなわちフローセル、バルブ等(図示せず)を接続する。流路は種々のチューブから構成されてよい。
【0048】
試料はチューブ内で希釈され、システムの分解能へのマイナス効果を引き起こす。分解能は、チューブの直径が増加するほど低下することになる。細いチューブが分解能を上昇させる一方で、より細いチューブに関する欠点がシステムにおける背圧上昇である。
【0049】
背圧は、システム1を通る流体の所望の流量に対抗する抵抗または力であり、摩擦損失および圧力降下、ならびにそれによってカラム4を通しての流体流量減少に至る。圧力降下を補償するために、カラム4を通る流体流量が推奨された所定の流量に保たれるように、システムポンプ6によって印加される圧力が上昇されてよい。それによって、上昇した圧力がHPLCシステムおよび使用される特定のカラムの最高圧力容量に近づくまたはそれを超えるという危険性がある。
【0050】
未経験のHPLCユーザにとって、高すぎる流量の使用によるシステムの即座の圧力警報および停止を引き起こす危険性なしにクロマトグラフシステム1を安全に動かす動作流量を設定する仕方を知ることは困難であり得る。
【0051】
図2に、
図1の高速液体クロマトグラフシステム1におけるクロマトグラフカラム4に対する動作流量を決定するための方法100が示される。
【0052】
本方法は、a)1つまたは複数の流量に対してクロマトグラフカラムなしでシステムの圧力を測定101aまたは計算101b、101cするステップを含む。
【0053】
システムの圧力は、圧力モニタ7を用いてクロマトグラフカラムなしで1つまたは複数の流量に対して測定101aされてよい。システムポンプ6とカラム4との間に2つ以上の圧力モニタが配置される場合、カラム4に最も近く配置される圧力モニタ7で測定される圧力が本方法において測定101aされる圧力である。
図3に、クロマトグラフカラムなしで種々の流量において測定した圧力のグラフの一例が示される。
【0054】
クロマトグラフカラム4なしでとは、ここでカラムが流体流路、チューブで置換/バイパスされることが意味される。システム1には、カラム4を自動的にバイパスするように配置されてよいバルブ(図示せず)が設けられてよく、それによってカラム4のバイパスを自動プロセスにすることができる。
【0055】
カラム4前のシステムの圧力が高い場合、システムの圧力は、クロマトグラフカラム4がチューブで置換またはバイパスされて、圧力モニタ7を用いて測定されるシステムの圧力から、クロマトグラフカラムがシステムから切断されて、圧力モニタ7を用いて測定されるシステムの圧力を減算することによって、1つまたは複数の流量に対して計算されてよい。
【0056】
カラム4がシステムから切断されるとは、ここでチューブによるカラムの置換/バイパスがあるのでなく、測定した圧力がカラム4前のシステムの圧力であるようにシステムに間隙が設けられることが意味される。
【0057】
代替的に、システムの圧力は、ベルヌーイの式、すなわち、
ΔP=(128*L*Q*η)/(π*d4)
を使用して、クロマトグラフカラム4なしで、1つまたは複数の流量に対して計算101cされてよく、式中、dは流体流路の内径(mm)であり、Qは流量(ml/min)であり、Lは流路の長さ(mm)であり、ηは液体媒体の粘度(cP)である。
【0058】
この代替例において、システム1の圧力は、圧力モニタ7によってシステムにおいて測定されるのでなく、クロマトグラフカラム4なしのシステムに対して1つまたは複数の流量に対して計算される。流体流路は、液体リザーバ、システムポンプおよびクロマトグラフカラム、ならびにフローセル、バルブ等などのシステムの他の部品も接続するために使用されるシステムにおけるチューブである。この計算を行うためにクロマトグラフシステム1および使用される液体についての一部のデータが、それ故に必要とされる。
【0059】
粘度が既知でない場合、水が使用されると仮定されてよく、それによって粘度は、次のような公知の式を使用して種々の温度に対して推定され得る:
V[cP]=A×10B/(T-C)、式中T=温度[K]、A=0.02414、B=247.8K、C=140Kである。
【0060】
本方法の次のステップb)で、流量および対応する測定または計算された圧力に関数が適合102される。
【0061】
その後、本方法のステップc)で、関数およびカラムに対する所定の推奨流量から、所定の推奨流量でのシステム圧力降下が計算されてよい。システム圧力降下は、
図3におけるグラフから、グラフにA)として示される所定の推奨流量での、グラフにB)として示される圧力として計算できる。
【0062】
本方法のステップd)で、特定のシステム1におけるクロマトグラフカラム4に対する動作流量が決定104され、システム圧力降下を補償する。動作流量を決定することは、計算を含んでよく、この計算は、反復プロセスまたは近似でよい。クロマトグラフカラム4に対する動作流量を決定104することには、システム圧力降下とカラムの所定の最高圧力限界とを合計し、合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与を決定することを含む。この寄与が1%を超える場合、カラム4に対する動作流量が、所定の最高カラム圧力限界より低い圧力モニタにおける圧力に対応する流量に決定される。
【0063】
図1において、高速液体クロマトグラフシステム1のクロマトグラフカラム4に対する動作流量を決定するためにシステムコントローラ8が配置され、システムコントローラ8は、上述したステップa)~d)を行うように配置される。
【0064】
上記方法を通じてHPLCユーザ、および未経験のHPLCユーザも、システムおよびカラムに対して高すぎる流量の使用によりシステムによって加えられる圧力によって引き起こされる即座の圧力警報を引き起こす危険性なしにクロマトグラフシステム1を安全に動かす動作流量を設定することができる。
【0065】
本方法は、所定の推奨流量において圧力モニタ7を用いて圧力を測定し、この圧力から、本方法のステップ102からの関数を使用して所定の推奨流量でのクロマトグラフカラム4なしのシステムの測定または計算された圧力を減算することによって、システム1におけるカラム4に対するデルタ圧力を計算/測定105するステップを更に含んでよい。
【0066】
この方法を使用して、たとえシステムにカラム4前に配置される圧力モニタ7だけが設けられていてもデルタ圧力を計算できる。従来、デルタ圧力は、カラム前に配置される第1の圧力モニタおよびカラム後に配置される第2の圧力モニタを用いて計算される。圧力の差が、それ故デルタ圧力である。システム1においてカラム4後に圧力モニタを加えることは、クロマトグラフィーシステムの分解能にマイナスに影響し得る。
【0067】
このデルタ圧力は、カラムの固定相、充填床が損傷されないようにカラムを保護するために使用されてよい。圧力警報が所定の最高床圧力に設定されてよく、これは通常、床に充填するために使用される圧力(またはこの圧力よりやや低い)に加えてカラム4なしで計算/測定した圧力である。
【0068】
デルタ圧力が制限要因である場合、流量を下げる代わりに、カラムなしで測定または計算される圧力の同じ量だけデルタ圧力限界警報を上げることができる。これは、計算/測定に含まれるのがカラム後の構成部品だけであることが前提である。代替的に、カラムなしの完全システムに対する流量が測定されてよく、次いで、カラム後の構成部品が除去されてよく、それによって、これらのポストカラム構成部品によって生成される得られた圧力が除去されてよい。この上昇は、カラムハードウェア圧力限界が超えられない間だけ行うことができる。
【0069】
以下の表1に、Cytiva(商標)Life Sciencesからの改良型AKTA(商標)pureシステムに使用される一連の種々のカラム4に対する動作流量を決定するために上記した方法を使用してなされた計算の例が続く。AKTA(商標)pureシステムは、全てのチューブを0.2mmのより小さな内径を有するチューブに交換することによって改良されており、それによって本来のチューブのAKTA(商標)pureシステムと比較して背圧が上昇したHPLCシステムを構築している。
【0070】
液体媒体として水を使用して様々な流量においてカラム4に対してシステム圧力が測定101aまたは計算101bされた。
図3におけるグラフには、種々の流量(カラムなし)に対して測定101aしたシステム圧力が示される。流量および対応する測定/計算された圧力に関数が適合102された、
図3。水とは別の液体媒体が使用されるとき、特定の液体を使用して試験を繰り返すことができる。
【0071】
一例では、カラム4、Cytiva(商標)Life Sciencesからの200 increase 5/150カラムに対する所定の推奨流量は0.45ml/minであり、カラム4は2MPaの最高カラム圧力限界を有する。
図3にA)として示される所定の流量での、
図3にB)として示される圧力降下は0.32MPaであった。圧力降下と最高カラム圧力限界の合計は2.32MPaであった。合計された圧力への圧力降下の寄与は16%であり、よって1%を超えた。カラムに対する動作流量は、所定の最高カラム圧力限界より5%低く、すなわち1.9MPaであった圧力モニタにおける圧力、すなわち複合カラム圧力およびシステムの圧力に対応する流量に決定され、カラムに対する決定された動作流量は0.370ml/minであり、所定の推奨流量より約18%低い流量に相当する。決定された動作流量は、2有効桁以下を有する流量に丸められてよい。
【0072】
表1からの別の例では、システムの圧力は上述したように計算101bされた。Cytiva(商標)Life SciencesからのS 75 5/150カラムに対する所定の推奨流量は0.3ml/minであり、カラムは1.8MPaの最高カラム圧力限界を有する。システムの圧力は、クロマトグラフカラムがチューブで置換またはバイパスされて、圧力モニタを用いて測定されたシステムの圧力から、クロマトグラフカラムがシステムから切断されて(チューブは使用されない)、圧力モニタ7を用いて測定されたシステム1の圧力を減算することによって、種々の流量に対して計算101bされた。計算された圧力および対応する流量に関数が適合された(図示しないが、
図3におけるグラフと同様である)。所定の流量での圧力降下は、カラムなしで(カラムがチューブでバイパスされた)システム1を通して液体を圧送するように配置されたときの圧力モニタ7における圧力、ここでは0.39MPaと所定の推奨流量での、カラムが切断されたシステムの圧力、ここでは0.18MPaとの間の差であり、0.21MPaであった。圧力降下と最高カラム圧力限界の合計は2.01MPaであった。合計された圧力への圧力降下の寄与は12%であり、よって1%を超えた。カラムに対する動作流量は、所定の最高カラム圧力限界より3%低く、すなわち1.74MPaであった圧力モニタにおける圧力、すなわち複合カラム圧力およびシステムの圧力に対応する流量に決定され、カラムに対する決定された動作流量は0.26ml/minであり、所定の推奨流量より約12%低い流量に相当する。
【0073】
【0074】
表1に示される計算に対して、寄与限界は10%に設定された。寄与限界は1%の低さに設定されてもよい。代替的に、それは、15%または20%などのより高い限界に設定できる。ここで、10%未満の圧力寄与は問題とは考えられず、決定された動作流量はカラムに対する所定の推奨流量と同じ流量に保たれた。合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与に対する下限としてどのレベルを選ぶかは、カラムだけからの圧力がシステム内の圧力のいかなる影響もなしで所定の推奨流量における最高圧力に非常に近いであろうと仮定する理論計算を通じて決定されてよい。合計された圧力へのシステム圧力降下の寄与に対する下限を定めることで、所定の流量において動かされたときにいかなる警報も引き起こさないであろうカラムに対する僅かな不必要な低下が回避され得る。限界は、好ましくは、高すぎる流量の使用によるシステムの停止を回避する安全マージンを伴って設定されるべきである。
【0075】
上記説明が複数の特異性を含むが、これらは、本明細書に記載される概念の範囲を限定するものとしてではなく、単に記載される概念の一部の例証的な実施形態の例示を提供するものとして解釈されるべきである。本記載の概念の範囲が当業者に明らかになり得る他の実施形態を完全に包含すること、および本記載の概念の範囲が、したがって限定されるものではないことが認識されるであろう。単数の要素への言及は、明言されない限り「1つであり唯一」でなく、むしろ「1つまたは複数」を意味すると意図される。当業者に公知である上記の実施形態の要素の全ての構造的および機能的均等物が本明細書に明示的に組み込まれ、かつ、本明細書によって包含されるように意図されている。
【符号の説明】
【0076】
1 高速液体クロマトグラフ(HPLC)システム
2 試料
3 液体媒体、液体リザーバ
4 クロマトグラフカラム
5 検出器
6 システムポンプ
7 圧力モニタ
8 システムコントローラ