(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】減速機ケース
(51)【国際特許分類】
F16H 57/02 20120101AFI20241105BHJP
【FI】
F16H57/02
(21)【出願番号】P 2020140570
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-06-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 務
(72)【発明者】
【氏名】中田 綾
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-236201(JP,A)
【文献】特開2017-5839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に電装品と接続する接続部と、
前記接続部を囲む周壁部と、を有し、
前記周壁部の周りに撥水効果を発揮する模様が付されている、減速機ケース。
【請求項2】
前記減速機ケースの前記外周面における前記撥水効果を発揮する模様が付された領域では、前記周壁部から離れる方向に延びる第1凹部が設けられており、
前記第1凹部は、前記周壁部から離れるにつれて深さが深くなる向きで傾斜している、
請求項1に記載の減速機ケース。
【請求項3】
前記減速機ケースの前記外周面における前記撥水効果を発揮する模様が付された領域では、前記第1凹部の両側に、前記第1凹部に近づくにつれて深さが深くなる傾斜面が設けられている、請求項
2に記載の減速機ケース。
【請求項4】
前記減速機ケースの前記外周面における前記撥水効果を発揮する模様が付された領域では、前記接続部を間に挟んだ一方側と他方側に、前記第1凹部と、当該第1凹部よりも深さが浅い第2凹部が位置しており、
前記第2凹部は、前記接続部を迂回する第3凹部を介して前記第1凹部に連絡している、請求項
3に記載の減速機ケース。
【請求項5】
前記電装品は、パーキング機構のマニュアルシャフトを駆動する電装品であって、
前記接続部の挿入孔を前記マニュアルシャフトが貫通している、請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の減速機ケース。
【請求項6】
前記模様は、梨地状である、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の減速機ケース。
【請求項7】
前記梨地状の模様は、表面の断面視において凹凸形状により形成される請求項
6に記載の減速機ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
変速機のコントローラなどの電装部品には、変速機構を収容するケースの上方に配置されているものがある。電装部品は、ケースの上面に設けられた接続部を介して、変速機構と電気的に接続されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケースの上面に、雨水などの水が溜まることがある。雨水には、塩分などの不純物が含まれているため、溜まった雨水が乾燥すると塩分などの不純物が析出する。
例えば塩分の析出が、ケースの接続部周りで生じると、塩分によって接続部が腐食される。その結果、電装部品に不具合を生じさせる虞がある。
そこで、ケースに付着した水の、ケース上での滞留を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様は、
外周面に電装品と接続する接続部と、
前記接続部を囲む周壁部と、を有し、
前記周壁部の周りに撥水効果を発揮する模様が付されている構成の減速機ケースとした。
【発明の効果】
【0006】
本発明のある態様によれば、ケース上での水の滞留を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】第4ケースの接続部周りを上方から見た平面図である。
【
図9】撥水効果を発揮する模様が設けられている領域での水滴の状態を説明する図である。
【
図10】撥水効果を発揮する模様が設けられていない領域での水滴の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を、車両に搭載される動力伝達装置1の減速機ケース(第4ケース14)の場合を例に挙げて説明する。
図1は、動力伝達装置1の概略構成図である。
図1では、動力伝達装置1の各構成要素を模式的に示している。
図2は、第4ケース14を斜め上方から見た斜視図である。
図2では、アクチュエータACTとプレート部材8を、第4ケース14から離間させて示している。
【0009】
図1に示すように、動力伝達装置1の本体ケース10は、モータ2を収容する第1ケース11と、第1ケース11に外挿される第2ケース12と、第1ケース11に組み付けられる第3ケース13と、第2ケース12に組み付けられる第4ケース14と、から構成される。
モータ2は、ロータコア21とステータコア22とを有しており、モータ2の出力回転は、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20から出力される。
【0010】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、パーキング機構3と、遊星減速ギア4(減速機構)と、差動機構5と、ドライブシャフト6A、6Bと、が設けられている。
遊星減速ギア4は、モータ2の出力回転を減速して差動機構5に入力する。
差動機構5は、遊星減速ギア4から入力された回転をドライブシャフト6A、6Bに伝達する。これにより、モータ2の出力回転が、最終的に、動力伝達装置1を搭載した車両の左右の駆動輪9、9に伝達されて、車両が走行する。
【0011】
パーキング機構3は、パークギア31と、パークポール32と、を有する。
パークギア31は、モータシャフト20に外挿されて固定されている。パークギア31は、モータシャフト20と一体に回転する。
【0012】
パークポール32は、プレート7に設けた支持軸71で回動可能に支持されている。
パークポール32は、揺動軸Xaの径方向外側となる位置に、係合部32aを有している。係合部32aは、パークポール32の揺動に連動して、係合部32aを、パークギア31の外周に係脱させる。
【0013】
係合部32aがパークギア31の外周に係合すると、モータシャフト20の回転が規制されて、動力伝達装置1を搭載した車両は、走行が規制された状態(走行規制状態)になる。
係合部32aがパークギア31の外周から離脱すると、モータシャフト20の回転が許容されて、動力伝達装置1を搭載した車両は、走行が可能な状態(走行可能状態)となる。
【0014】
動力伝達装置1は、パーキング機構3を駆動させるためのアクチュエータACT(電装部品)を有している。
アクチュエータACTは、図示しない制御装置の指令に基づいて、マニュアルシャフトSHを軸線Y回りに回動させる。マニュアルシャフトSHが軸線Y回りに回動すると、パークポール32は、マニュアルシャフトSHの回動に連動して揺動軸Xa回りに揺動する。これにより、パークポール32の係合部32aがパークギア31の外周に係脱して、車両が、走行規制状態と、走行可能状態との間で切り替えられる。
【0015】
なお、マニュアルシャフトSHの回動に連動してパークポール32を揺動させる機構は、従来公知の機構であるので、ここでは説明を省略する。
なお、この種の機構は、一例として、マニュアルシャフトSHと一体に回転するマニュアルプレート(図示せず)と、マニュアルプレートの回動に連動して進退移動するパークロッド(図示せず)と、パークロッドの進退移動に連動してパークポールを揺動させるカム(図示せず)と、を有する機構である。
【0016】
アクチュエータACTは、第4ケース14の外部に位置している。
第4ケース14は、遊星減速ギア4(減速機構)の外周を囲む周壁部141を有している。
周壁部141では、動力伝達装置1の車両への設置状態を基準とした上側の領域に、貫通孔15が設けられている。貫通孔15は、周壁部141を厚み方向に貫通している。周壁部141の外周には、貫通孔15を囲むボス状の接続部16が設けられている。
貫通孔15では、アクチュエータACTから延びるマニュアルシャフトSHが、周壁部141の外部から内部に貫通している。
【0017】
図2に示すように、周壁部141では、接続部16を間に挟んだ一方側(図中、左側)と他方側(図中、右側)に、ボルトボス部17、18が設けられている。
ボルトボス部17、18は、周壁部141から上方に延出しており、ボルトボス部17、18の上端には、アクチュエータACTを支持するプレート部材8が載置される。
アクチュエータACTは、プレート部材8を貫通したボルトB、Bを、ボルトボス部17、18に螺入することで、第4ケース14の外周に固定される。
【0018】
図1に示すように、アクチュエータACTを第4ケース14の外周に固定すると、アクチュエータACTの本体部は、接続部16の上端に接合される。この状態において本体部と接続部16との合わせ面の隙間は、シールリングで封止されている。
【0019】
周壁部141の第2ケース12側(図中、左側)の一端には、フランジ状の接合部142が設けられており、他端には、壁部143が設けられている。
接合部142は、周壁部141の第2ケース12側の開口を全周に亘って囲んでおり、周壁部141の外周から径方向外側に延出している。
第4ケース14の接合部142は、第2ケース12の接合部122に、図示しないボルトで連結される。
【0020】
壁部143は、周壁部141の他端から内径側に延びている。壁部143の内径側には、ドライブシャフト6B用の挿通孔143aが開口している。壁部143の外周には、挿通孔143aを囲む円筒状の支持壁部144が設けられている。ドライブシャフト6Bは、ベアリングBaを介して支持壁部144で回転可能に支持されている。
【0021】
周壁部141の内側では、前記した貫通孔15の内径側に、支持壁部144が設けられている。
支持壁部144は、周壁部141の内周との間に空間Saをあけて設けられている。支持壁部144では、周壁部141に対向する上面に、支持穴144aが開口している。
支持穴144aには、前記した貫通孔15を貫通したマニュアルシャフトSHの先端が挿入されて、回動可能に支持される。
【0022】
マニュアルシャフトSHの基端側は、第4ケース14の外周の接続部16から、第4ケース14の外部に突出している。マニュアルシャフトSHの突出した領域に、アクチュエータACTが連結されている。
【0023】
図3は、第4ケース14を斜め上方から見た斜視図である。
図3では、周壁部141の表面に付着した水滴Wの移動軌跡を矢印で示している。
図4は、第4ケース14を上方から見た平面図であって、接続部16周りを拡大して示す図である。
図4では、撥水効果を発揮する模様が設けられた領域R1に、交差したハッチングを付して示している。
図5は、第4ケース14を
図4におけるA-A線に沿って切断した断面図である。
図6は、第4ケース14を
図4におけるB-B線に沿って切断した断面図である。
図7は、第4ケース14を
図4におけるC-C線に沿って切断した断面図である。
図8は、第4ケース14を
図4におけるD-D線に沿って切断した断面図である。
【0024】
図3に示すように、第4ケース14において接続部16は、周壁部141の外周面である表面141aから突出している。
具体的には、周壁部141において接続部16は、動力伝達装置1の車両への設置状態を基準とした上側に位置する領域の表面141aから、上方に向けて突出している。
【0025】
図4に示すように、第4ケース14を上方から見た平面視において、周壁部141では、接続部16から見て接合部142側(図中、左側)に、リブ146が設けられている。
図5に示すように、リブ146は、接合部142の端面142aに開口するボルト穴145を囲む部位である。リブ146は、第4ケース14の表面141aから上方に膨出している。
【0026】
図4および
図5に示すように、リブ146は、接合部142の端面142aから直線Xcに沿って、接続部16の近傍まで延びている。ここで、直線Xcは、回転軸Xに平行な直線であって、第4ケース14と第2ケース12との接合方向に沿う直線である。
直線Xc方向におけるリブ146と接続部16との間には、凹部147が形成されている。
【0027】
図6に示すように、断面視において凹部147は、頂点Pを内径側に向けた円弧状の断面を有している。凹部147と、周壁部141の表面141aとが接続する領域は、頂点を外径側に向けた円弧状の断面を有している。
そのため、断面視において、周壁部141の表面141aと、凹部147は、段差なく連続している。
【0028】
図4および
図5に示すように、周壁部141では、接続部16から見てリブ146とは反対側(図中、右側)に、凹部148が形成されている。凹部148は、前記した直線Xcに沿って、第4ケース14の壁部143まで延びている。
図8に示すように、断面視において凹部148は、頂点Pを内径側に向けた円弧状の断面を有している。凹部147と、周壁部141の表面141aとが接続する領域は、頂点を外径側に向けた円弧状の断面を有している。
そのため、断面視において、周壁部141の表面141aと、凹部148は、段差なく連続している。
【0029】
図7に示すように、接続部16の両側には、接続部16の外周に沿う弧状の凹部149、149が形成されている。断面視において凹部149は、頂点Pを内径側に向けた円弧状の断面を有している。
図4に示すように、接続部16から見て、一方側に位置する凹部147と、他方側に位置する凹部148は、弧状の凹部149を介して互いに連絡している。
【0030】
図5に示すように、凹部148の表面は、水平線HLに対して僅かに傾斜している。断面視において凹部148は、壁部143側(図中、右側)のほうが接続部16側(図中、左側)よりも僅かに低くなる向きで傾斜している。
前記した凹部147は、凹部148の最も深い位置を通る仮想線Lmよりも、外径側に位置しており、凹部147のほうが、凹部147よりも表面141aからの深さが浅くなっている。
【0031】
動力伝達装置1では、本体ケース10の表面に、リブやボスなどに起因する起伏がある。雨水などの水が本体ケース10に作用すると、本体ケース10の表面では、起伏に起因して、局所的に水分が残留する可能性がある。
本体ケース10の表面に残留した水分が蒸発すると、水分に含まれていた塩分などが堆積する。堆積した塩分は、腐食の原因となる可能性がある。
例えば、電装部品との接続部である取付用のボスには、電装部品の支持安定性が求められるので、取付用のボスの周りに水分が残留して、塩分が堆積(塩析)することは好ましくない。
【0032】
そのため、本実施形態にかかる本体ケース10では、本体ケース10の表面、少なくとも水分を残留させたくない領域の表面に、撥水効果を発揮する模様を付している。
【0033】
一例として、第4ケース14では、アクチュエータACTの取付用のボスとして、接続部16が設けられている。
この第4ケース14では、接続部16の周りの領域の表面に、撥水効果を発揮する模様が付されている。
【0034】
具体的には、
図4に示すように、接続部16の周りの交差するハッチングを付した領域R1に、撥水効果を発揮する模様が付されている。この領域R1では、接続部16が略中央部に位置している。さらに、領域R1は、前記した直線Xcを一方側から他方側に跨がる範囲に設定されており、直線Xcの直交方向における略中央部に、前記した凹部147、148が位置している。
【0035】
図9は、
図3における領域Aの断面図であって、撥水効果を発揮する模様MKが設けられた領域における水滴Wの状態を説明する図である。
図9では、撥水効果を発揮する模様MKが設けられた領域の断面を、拡大して模式的に示している。
図10は、撥水効果を発揮する模様MKが設けられていない領域における水滴Wの状態を説明する図である。
【0036】
図9に示すように、本実施形態では、いわゆる梨地模様(梨地状の模様)を、撥水効果を発揮する模様MKとして採用している。
一例として、梨地状の模様は、周壁部141の表面141aにおける領域R1(
図4参照)に、複数の凹部141bを設けて形成される。領域R1内の表面141aでは、凹部と凸部が交互に連続しており、断面視において凹凸形状を有している。
【0037】
凹部141bは、第4ケース14の鋳造時に形成するようにしても良いが、鋳造後の第4ケース14に、表面処理を施して形成しても良い。
【0038】
ここで、凹部141bの幅ΔLは、表面に付着した水滴Wが、凹部141bの内部に侵入しない幅、例えば5~15μmに設定されている。隣接する凹部141bの間隔ΔTは、例えば20~30μmに設定されている。
このように設定すると、付着した水滴Wが、凹部141b内に入り込むことを好適に防止でき、水滴Wにおける表面141aとの界面Wbに、凹部141bに起因する空気Airの層が形成される。
水滴Wの界面Wbでは、表面141aに接触した領域と、凹部141b内の空気Airに接触した領域と、が交互に繰り返された状態(Cassie-Baxter状態)となる。
【0039】
Cassie-Baxter状態では、水滴Wにおける界面Wbと表面Waの成す角φ(直線Lpと直線Lqの成す角。接触角φとも標記する)は、90度以上となる(
図9参照)。
接触角φが90度以上になると、ロータス効果が発揮され、表面141aにおける水滴Wの濡れ性が低くなる、すなわち、領域R1内の表面141aの撥水性が高くなる。
【0040】
なお、撥水効果を発揮する模様MKは、水滴Wが、Cassie-Baxter状態になることができる模様であれば良く、梨地状の模様に限定されない。
Cassie-Baxter状態を実現可能な間隔で、凹部をランダムに並べた模様であっても良い。また、梨地模様に代えて、ヘアライン模様であっても良い。
【0041】
表面に、撥水効果を発揮する模様MKが設けられた領域R1を持つ第4ケース14の作用を説明する。
動力伝達装置1の本体ケース10の表面に水分が付着すると、第4ケース14における撥水効果を発揮する模様MKが設けられた領域R1では、表面141aの撥水性が高いため、表面に複数の水滴Wが形成される。
車両の走行時には、本体ケース10の表面に沿って、走行に起因する風の流れが形成されると共に、走行に起因する振動などが本体ケース10に作用する。
【0042】
領域R1に生じた水滴Wは、表面141aとのぬれ性が低いため、第4ケース14の表面141aに沿う風の流れに押されて、表面141a上の特定の箇所に滞留せずに移動する。
例えば、
図3の場合には、撥水性が高められた表面141aに生じた水滴は、凹部148に移動したのち、凹部148を通って、第4ケース14から外方に向けて排出される(図中、矢印参照)。
【0043】
また、本体ケース10に作用する振動によっても、水滴Wが移動する。
例えば、撥水性が高められた表面141aであって、凹部148周りに生じた水滴は、振動により凹部148内に滑り落ちたのち、凹部148の僅かな傾斜に沿って移動して、最終的に第4ケース14から外方に向けて排出される。よって、水滴Wの滞留を好適に抑制できる。
【0044】
このように、第4ケース14上の特定の箇所に水滴Wが滞留し、滞留した水滴Wが蒸発した後に、水滴Wが滞留していた箇所に塩分が析出(塩析)することを好適に抑制できる。よって、析出した塩分によって第4ケース14が腐食することを好適に抑制できる。
【0045】
前記したように、撥水効果を発揮する模様は、アクチュエータACTとの接続部16周りに設けられている。そのため、接続部16の周りに水分が残留して、接続部16に塩析が生じることを好適に抑制できる。これにより、接続部16におけるアクチュエータACT(電装部品)支持安定性を確保できる。
【0046】
一方、第4ケース14の表面141aに、撥水効果を発揮する模様が付された領域R1が設定されていない場合には、表面141aと水滴Wとが接触する界面Wbに、
図9に示したような空気Airの層は形成されない。
かかる場合、
図10に示すように、水滴Wでは、表面141aとの界面Wbと、水滴の表面Waとの接触角φは、0度以上90度未満となる。この場合、ロータス効果は発揮されないため、表面141aに対する水滴Wの濡れ性が高くなる。すなわち、表面141aの撥水性が低くなる。
【0047】
ロータス効果が発揮されないと、表面141a上の水滴Wは、接触角が小さいために、風の流れや振動を受けても移動し難くなる。
そうすると、水滴Wが局所的に滞留し、滞留した水滴Wが蒸発すると、水滴Wが滞留していた領域に、水滴に含まれていた塩分が析出し易くなる。
【0048】
上記したように、撥水効果を発揮する模様が付された領域R1では、表面に付着した水滴Wが、局所的に滞留し難くなる。そのため、第4ケース14における塩析を避けたい領域を囲むように、撥水効果を発揮する模様が付された領域R1を設定することで、塩析を避けたい領域での塩析の発生を好適に抑制できる。
【0049】
本実施形態では、撥水効果を発揮する模様MKが付された領域R1を、接続部16の周囲に設定した場合を例示した。撥水効果を発揮する模様MKが付された領域R1は、前記した態様にのみ限定されない。
第4ケース14の表面を全面に亘って覆うように設けても良い。第4ケース14の表面のうち、動力伝達装置1の車両への設置状態を基準として上側に配置される領域にのみ設けるようにしても良い。
また、
図4の領域R1において、ハッチングの密度が濃い領域、すなわち、接続部16から見て、壁部143側(図中、右側の領域)にのみ設けて、特定の領域の水滴Wのみが、第4ケース14から外方に向けて排出されるようにしても良い。
撥水効果を発揮する模様MKの付与は後加工においても行えるので、第4ケース14のにおける所望の部位に、撥水効果を発揮する模様MKを設けて塩析を抑制できる。
【0050】
さらに、水滴Wを第4ケース14の外方に向けて誘導するガイド(凹部147、148、149)を設けて、表面141aにおけるガイドとこのガイドに隣接する領域に、撥水効果を発揮する模様MKが付された領域R1を設定しても良い。
かかる場合には、生じた水滴Wを、第4ケース14の外方に向けて積極的に排出できる。
また、接続部16に加えて、第4ケース14における他の部位(例えば、他のボルトボス部19:
図3参照)周りへの塩析を防止したい場合には、ボルトボス部19を囲むように、撥水効果を発揮する模様MKをさらに設けることで、ボルトボス部19もまた適切に保護できる。
【0051】
以上の通り、本実施形態にかかる第4ケース14(減速機ケース)は、以下の構成を有する。
(1)第4ケース14は、周壁部141の外周面である表面141aに、アクチュエータACT(電装品)との接続に供するボス状の接続部16を有する。
第4ケース14では、接続部16の周りに、撥水効果を発揮する模様MKが付されている。
【0052】
このように構成すると、第4ケース14(減速機ケース)の接続部16の周囲の水を速やかに排水することができる。
接続部16の周囲に水を滞留させずに、接続部16の周囲の水を速やかに移動させることができるので、滞留した水分に起因する塩析の影響を抑えることができる。よって接続部16におけるアクチュエータACT(電装部品)支持安定性を確保できる。
【0053】
(2)アクチュエータACT(電装品)は、パーキング機構3のマニュアルシャフトSHを駆動するための電装品である。
接続部16の貫通孔15を、マニュアルシャフトSHが貫通している。
【0054】
このように構成すると、マニュアルシャフトSHが貫通する接続部16の周囲の水を速やかに排水できる。
【0055】
(3)撥水効果を発揮する模様MKは、梨地状の模様である。
【0056】
このように構成すると、周壁部141の表面141aは、接続部16の周りが梨地状の模様の表面により撥水効果が得られる。
【0057】
(4)梨地状の模様は、表面の断面視において凹凸形状により形成される。
【0058】
このように構成すると、第4ケース14(減速機ケース)の表面に凹凸を設けることで、第4ケース14の外周面である表面141aに梨地状の模様が形成されて、表面141aの梨地状の模様が付された領域に、撥水効果を発揮させることができる。
【0059】
前記した実施形態では、動力伝達装置1の本体ケース10を構成する4つのケース(第1ケース11、第2ケース12、第3ケース13、第4ケース14)のうち、減速機構を収容する減速機ケース(第4ケース14)の表面に、撥水効果を発揮する模様(梨地状の模様)を設けた場合を例示した。
外部に露出した表面を持つ、第2ケース12や第3ケース13の表面にも、塩析を避けて保護したい領域がある場合には、これら第2ケース12や第3ケース13の表面の保護したい領域に、撥水効果を発揮する模様けるようにしても良い。
【0060】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではない。その技術的思想の範囲内でなしうる様々な変更、改良が含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1 動力伝達装置
10 本体ケース
14 第4ケース
141 周壁部
141a 表面
141b 凹部
143 壁部
146 リブ
147、148、149 凹部
15 貫通孔
16 接続部
17、18 ボルトボス部
2 モータ
3 パーキング機構
4 遊星減速ギア
5 差動機構
31 パークギア
32 パークポール
32a 係合部
71 支持軸
90 0度以上
ACT アクチュエータ
MK 撥水効果を発揮する模様
R1 領域
SH マニュアルシャフト
W 水滴