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特許7580884メタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】メタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/60 20220101AFI20241105BHJP
   B09B 3/65 20220101ALI20241105BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20241105BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B09B3/60 ZAB
B09B3/65
C02F11/02
C02F11/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020195114
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083666
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093388
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 喜三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206302
【弁理士】
【氏名又は名称】落志 雅美
(72)【発明者】
【氏名】岩井 良博
(72)【発明者】
【氏名】藤森 和博
(72)【発明者】
【氏名】長野 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】伊東 賢洋
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-086196(JP,A)
【文献】特開2011-224500(JP,A)
【文献】特開2011-083761(JP,A)
【文献】特開昭58-014995(JP,A)
【文献】特開2019-181392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0375664(US,A1)
【文献】特許第7403781(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/60
B09B 3/65
C02F 11/02
C02F 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を前処理槽(1)に供給する有機物供給工程と、
2)投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有している前処理槽(1)に供給されたバイオマスAにメタン発酵槽(10)で得られた消化液を散布する消化液散布工程と、
3)前処理槽(1)に供給されたバイオマスAを好気的に分解処理する分解処理工程と、
4)該分解処理工程で生じた分解液をメタン発酵槽(10)に供給する分解液供給工程と、
5)下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽(10)に供給する有機物供給工程と、
6)メタン発酵槽(10)に供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
7)該メタン発酵工程で得られた汚泥を含む消化液を前記前処理槽(1)に供給する消化液供給工程と、
を有することを特徴とするメタン発酵前処理方法。
【請求項2】
1)草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を前処理槽(1)に供給する有機物供給工程と、
2)投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有している前処理槽(1)に供給されたバイオマスAにメタン発酵槽(10)で得られた消化液を散布する消化液散布工程と、
3)前処理槽(1)に供給されたバイオマスAを好気的に分解処理する分解処理工程と、
4)該分解処理工程で生じた分解液をメタン発酵槽(10)に供給する分解液供給工程と、
5)下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽(10)に供給する有機物供給工程と、
6)メタン発酵槽(10)に供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
7)該メタン発酵工程で生じた汚泥を含む消化液を脱水機(20)と混合器(40)に配分して送出する消化液分配送出工程と、
8)前記混合器(40)に分配送出された脱離液を前記前処理槽(1)に供給する消化液供給工程と、
を有することを特徴とするメタン発酵前処理方法。
【請求項3】
1)投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有している前処理槽(1)に草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を供給する有機物供給工程と、
2)前処理槽(1)に供給されたバイオマスAにメタン発酵槽(10)で得られた消化液を散布する消化液散布工程と、
3)前処理槽(1)に供給されたバイオマスAを好気的に分解処理する分解処理工程と、
4)該分解処理工程で生じた分解液をメタン発酵槽(10)に供給する分解液供給工程と、
5)下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽(10)に供給する有機物供給工程と、
6)メタン発酵槽(10)に供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
7)該メタン発酵工程で生じた汚泥を含む消化液を脱水機(20)と混合器(40)に配分して送出する消化液分配送出工程と、
8)前記該脱水機(20)により消化液を固形分と脱離液に固液分離する固液分離工程と、
9)該固液分離工程で生じた脱離液を混合器(40)と系外排出分に配分して送出する脱離液分配送出工程と
10)前記混合器(40)で混合された脱離液を含む消化液を前記前処理槽1に供給する消化液供給工程と、
を有することを特徴とするメタン発酵前処理方法。
【請求項4】
投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有し、供給された草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)に消化液を散布しバイオマスAを固形分と分解液に好気的に分解処理する前処理槽(1)と、
供給された下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵処理するメタン発酵槽(10)と、
前記前処理槽(1)から排出する分解液を、前記メタン発酵槽(10)に供給する分解液排出ルートと、
前記メタン発酵槽(10)から排出する消化液を、前記前処理槽(1)に供給する消化液供給ルートとを備え、
前記前処理槽(1)から前記分解液排出ルートを介して前記メタン発酵槽(10)に分解液を供給し、
前記メタン発酵槽(10)から消化液供給ルートを介して前記前処理槽(1)に消化液を供給することを特徴とするメタン発酵前処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマスを用いたメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムに関し、草木系廃棄物(稲わらや麦わら等の刈草、野菜類の茎や葉、落葉や下草、木枝(剪定枝、林地残材)等)、紙類、茶葉、生ごみ等を用いたメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムに関する。
また、家畜し尿や下水汚泥などの汚泥類を用いたメタン発酵槽の有効利用を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
近年、循環型社会を実現するための再資源化技術として、紙類、茶葉、生ごみ等の有機性廃棄物を微生物分解によって、エネルギー源として利用可能なバイオガスを回収する手法が実用化されている。
従来の草木系廃棄物、紙類、茶葉、生ごみ等の有機性固形廃棄物の処理方法の一例は撹拌手段、熱風発生手段及び通気手段等を備えている機械的に密封されている可溶化槽に、有機性固形廃棄物を投入口から投入し、該投入された有機性固形廃棄物を撹拌手段によって撹拌させながら、可溶化槽にあらかじめ投入された好気発酵を行う種菌により可溶化(分解)させ、乳酸、酢酸などの有機酸も含む分解液をメタン発酵の原料としてメタン発酵槽に送り、メタン等のバイオガスとして回収している。
また、家畜し尿や下水処理場から出る下水汚泥のメタン発酵が行われているが、上記の有機性固形廃棄物の可溶化処理物を併せてメタン発酵槽に投入し、バイオガスの増量を図ることも近年多くなってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来から行われてきた下水処理場から出る下水汚泥や家畜し尿を用いたメタン発酵方法においては、再生エネルギーの積極的利用が昨今期待されており、下水汚泥や家畜し尿を用いたメタン発酵槽を備える施設へ草木系廃棄物、紙類、茶葉、生ごみ等を持ち込んでメタン発酵によるバイオガス回収の増量を図る機運が高まっている。
一方、草木系廃棄物は下水汚泥等と比べて有機物の分解率が低く、破袋機、粗砕機や分別機などの装置や、細断、加熱、爆砕、アルカリなど前処理を必要とし、被処理物の裁断機構等への絡みつきが原因のトラブルによる機器停止や故障も多く、システムの設備費や稼働コストが増大する。
また、稲わらや麦わらのように長いものは、そのままメタン発酵槽に投入できないため、あらかじめ裁断しなければならないが、破断強度が比較的強く裁断し難いため取り扱いが困難であった。
【0004】
本発明は、上記のような問題点を解消し、草木系廃棄物、紙類、茶葉、生ごみ等の有機性固形廃棄物の処理に際して破袋機、粗砕機や分別機などや細断、加熱、爆砕、アルカリなどによる前処理を不要としたバイオマスを用いたメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を下記の手段により解決した。
〔1〕1)草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を前処理槽1に供給する有機物供給工程と、
2)投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有している前処理槽1に供給されたバイオマスAにメタン発酵槽10で得られた消化液を散布する消化液散布工程と、
3)前処理槽1に供給されたバイオマスAを好気的に分解処理する分解処理工程と、
4)該分解処理工程で生じた分解液をメタン発酵槽10に供給する分解液供給工程と、
5)下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽10に供給する有機物供給工程と、
6)メタン発酵槽10に供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
7)該メタン発酵工程で得られた汚泥を含む消化液を前記前処理槽1に供給する消化液供給工程と、
を有することを特徴とするメタン発酵前処理方法。
【0006】
〔2〕1)草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を前処理槽1に供給する有機物供給工程と、
2)投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有している前処理槽1に供給されたバイオマスAにメタン発酵槽10で得られた消化液を散布する消化液散布工程と、
3)前処理槽1に供給されたバイオマスAを好気的に分解処理する分解処理工程と、
4)該分解処理工程で生じた分解液をメタン発酵槽10に供給する分解液供給工程と、
5)下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽10に供給する有機物供給工程と、
6)メタン発酵槽10に供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
7)該メタン発酵工程で生じた汚泥を含む消化液を脱水機20と混合器に配分して送出する消化液分配送出工程と、
8)前記混合器に分配送出された脱離液を前記前処理槽に供給する消化液供給工程と、
を有することを特徴とするメタン発酵前処理方法。
【0007】
〔3〕1)投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有している前処理槽(1)に草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を供給する有機物供給工程と、
2)前処理槽1に供給されたバイオマスAにメタン発酵槽10で得られた消化液を散布する消化液散布工程と、
3)前処理槽1に供給されたバイオマスAを好気的に分解処理する分解処理工程と、
4)該分解処理工程で生じた分解液をメタン発酵槽10に供給する分解液供給工程と、
5)下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽10に供給する有機物供給工程と、
6)メタン発酵槽10に供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
7)該メタン発酵工程で生じた汚泥を含む消化液を脱水機20と混合器40に配分して送出する消化液分配送出工程と、
8)前記該脱水機20により消化液を固形分と脱離液に固液分離する固液分離工程と、
9)該固液分離工程で生じた脱離液を混合器40と系外排出分に配分して送出する脱離液分配送出工程と
10)前記混合器40で混合された脱離液を含む消化液を前記前処理槽1に供給する消化液供給工程と、
を有することを特徴とするメタン発酵前処理方法。
【0008】
〔4〕投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げる篩の機能を有し、供給された草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)に消化液を散布しバイオマスAを固形分と分解液に好気的に分解処理する前処理槽1と、
供給された下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵処理するメタン発酵槽10と、
前記前処理槽1から排出する分解液を、前記メタン発酵槽10に供給する分解液排出ルートと、
前記メタン発酵槽10から排出する消化液を、前記前処理槽1に供給する消化液供給ルートとを備え、
前記前処理槽1から前記分解液排出ルートを介して前記メタン発酵槽10に分解液を供給し、
前記メタン発酵槽10から消化液供給ルートを介して前記前処理槽1に消化液を供給することを特徴とするメタン発酵前処理システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、草木系廃棄物、紙類、茶葉、生ごみ等の有機性固形廃棄物の処理に際して、破袋機、粗砕機や分別機などや細断、加熱、爆砕、アルカリなどによる前処理を不要としたバイオマスを用いたメタン発酵ができる。
さらに、前処理槽内において被処理物である有機性固形廃棄物を消化液で浸漬させない状態にするが、通常嫌気性の消化液は細かい固形物を含んで固形物が含まれない清水よりも粘性があり、前処理槽に積層されている被処理物である有機性固形廃棄物に直接消化液を散布し続けると被処理物同士の隙間を閉塞する恐れがあることから、消化液を清水で希釈する必要が生じる。本発明は、前処理槽に戻す消化液を脱離液により希釈して清水の使用を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムの一実施例の形態を示す概略図(フローチャート)である。
図2】本発明に係るメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムの一実施例の形態に使用する前処理槽の平面図である。
図3】前処理槽の平面図のA-A断面図である。
図4】本発明に係るメタン発酵前処理方法を実施した時のマテリアルバランスシートの一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムの一実施例の形態を示す概略図(フローチャート)に基づいて説明する。
図1は本発明に係るメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムの一実施の形態を示す概略図、図2は本発明に係るメタン発酵前処理方法及びメタン発酵前処理システムの一実施例の形態に使用する前処理槽の平面図、図3は前処理槽の平面図のA-A断面図である。
【0012】
図1から図3において、1は廃棄物を固液分離する前処理槽、2はバイオマスA投入ルート、3は分解液排出ルート、4はバイオガス取出しルート、5は残渣排出ルート、10はメタン発酵槽、11はバイオマスB投入ルート、12はメタン発酵工程で得られた汚泥を含む消化液をメタン発酵槽から排出する消化液排出ルート、12aは消化液排出分岐ルート、13はバイオガス取出しルート、20は脱水機(固液分離装置)、21は脱離液排出ルート、22は残渣排出ルート、30は脱離液分配器、31は脱離液送出ルート、32は脱離液排出ルート、40は消化液と脱離液を混合する混合器、41は脱離液が混合された消化液を前処理槽に返送する消化液供給ルートである。
【0013】
本発明にかかるメタン発酵前処理システムは、供給されたバイオマスAに消化液を散布しバイオマスAを固形分と分解液に分解処理する前処理槽1と、供給されたバイオマスBをメタン発酵処理するメタン発酵槽10と、前処理槽1から分解液を排出しメタン発酵槽10に供給する分解液排出ルート3と、メタン発酵槽10から消化液を前記前処理槽1に供給する消化液供給ルートとを備えて構成され、前記前処理槽1から分解液排出ルート3を介してメタン発酵槽10に分解液を供給し、前記メタン発酵槽10から消化液供給ルートを介して前処理槽1に消化液を供給する構成となっている。
【0014】
図1に示す実施例では、前処理槽1には、分解処理した分解液を排出し、メタン発酵槽10に供給する分解液排出ルート3の他に、残渣となる固形分を排出する残渣排出ルート5を備える。
また、前記メタン発酵槽10は、消化液供給ルート41との間に、消化液を排出する消化液排出ルート12及び、前記消化液排出ルート12から、分岐して一部の消化液を排出する消化液排出分岐ルート12aを備える。
そして、前記消化液排出分岐ルート12aから送出される一部の消化液を脱水する脱水機20、前記脱水機20で脱水された固形物を残渣として排出する残渣排出ルート22、前記脱水機20で脱水処理された脱離液を排出する脱離液排出ルート21及び、前記脱離液を排出分と、混合器40への送出分を分離する脱離液分配器30、メタン発酵槽10から排出された消化液と脱水機20から排出された脱離液を混合する混合器40を備え、前記混合器40は、前記消化液供給ルート41に接続されて構成されている。
【0015】
なお、同図におけるメタン発酵槽10から排出した消化液を消化液排出ルート12から混合器40へ送る量と、消化液排出分岐ルート12aへ送る量との配分については、例えば、消化液排出ルート12と消化液排出分岐ルート12aの接合箇所付近に2方弁、ポンプ等(何れも図示しない)を配置することで行われる。
配分については、1対1や1対2等システムの設計や前処理槽内の状況に応じて運用によって定めることができる。
【0016】
脱離液分配器30は、脱水機20から脱離液分配器30に送られた脱離液を決められた割合に応じて混合器40と脱離液排出ルート32に送るものであり、2方弁、ポンプ等(何れも図示しない)を用いても良い。
なお、本システムにおいて、上記のように脱離液の一部を消化液と混合して前処理槽に戻す構成としているのは、脱離液は、ほとんど固形物を含まず、消化液と混合して前処理槽1に戻すことで前処理槽1に投入する清水を不要とすることができることと、通常消化後の脱離液のpHは高く、有機物の分解過程で有機酸が生じてpHが低下する前処理槽1に戻すことで、pHの過剰な低下を防ぐことが期待できる。
また同様に脱水機20から脱離液分配器30に送られた分解液を、混合器40に送る量と脱離液排出ルート32から系外に排出する量との配分についても、システムの設計や運用によって定めることができる。
【0017】
図2は本発明に係るメタン発酵前処理方法の一実施例の形態における前処理槽の一例の平面図、図3図2の平面図におけるA-A断面図である。
図2及び図3において、1は前処理槽、61は前処理槽の側壁、62は前処理槽の底板、63は分解液排出板、70は消化液噴霧ノズルである。
前処理槽1は、側壁61、底板62からなる上部が解放された直方体からなり、底板62から一定の位置に分解液排出板63が設けられている。前記分解液排出板63は前処理槽内に投入されたバイオマスが分解される際に生じる分解液を排出し未分解のバイオマスの排出を妨げるいわゆる篩の機能を有している。
【0018】
なお、本実施の形態においては、前処理槽1を直方体の輸送用のコンテナを利用しているが、形状等に関してはこれに限定されるものではない。また下水処理場において稼働されているメタン発酵槽から構成される二段消化方式の下流側の2槽目は自然沈降分離させる目的で使われるが、近年の食生活スタイルの変化に伴う下水成分変化によって沈降分離がし難くなっている問題から目的に適った利用がされていないので、この2槽目のメタン発酵槽を用いることもできる。
【0019】
前記のように構成された前処理槽1にバイオマスを投入し、バイオマスに消化液を散布し、バイオマスが分解される際に生じる分解液を分解液排出板63から抜いていく。
本実施の形態においては前処理槽1内の上部が開放されているので、バイオマスを切断や粉砕等の処理を行うことなく前処理槽1の上部から投入することができる。そのため草木系廃棄物のバイオマスを切断や粉砕等の処理を行うことなく有効に活用することができる。
【0020】
また、本実施の形態においては前処理槽から出た分解液(有機物が含まれている)をメタン発酵槽10に供給しメタン発酵の原料として使うので、未分解のバイオマスはずっと残渣として前処理槽に溜まっていくが、前処理槽内の上部が開放されているので、その残渣はクレーンを使った把持機等の手段で容易に取出すことができる。
このように従来の可溶化槽でのバイオマス処理では、可溶化による有機性廃棄物の分解とバイオガス回収量増加のために破袋機、粗砕機、分別機、撹拌手段及び熱風発生手段等の比較的稼働エネルギーを必要とする機器を備える必要があり、被処理物の裁断機構等への絡みつきが原因のトラブルによる機器停止や故障が多いことも相まって、設備費や稼働コストが増大するのに対して、本実施の形態においては、前記の機器や手段を必要とせずに前処理槽で残渣が所定の量を蓄えられる期間を見計らって残渣を容易に取出すことができる。
【0021】
次に、本発明のメタン発酵前処理システムを利用したメタン発酵前処理方法の一例について説明する。
草木系廃棄物、紙類、茶葉又は生ごみからなるバイオマス(以下、バイオマスAという)を前処理槽1の解放された上部から前処理槽内1に供給する。(有機物供給工程)
そして、後述する消化液供給ルート41から、メタン発酵槽10から排出された消化液を消化液噴霧ノズル70を介してバイオマスAに噴霧する(消化液散布工程)。図2では消化液噴霧ノズル70を1箇所としたが、前処理槽1の平面全体に均等に消化液を散布するために、消化液噴霧ノズル70を水平方向に複数箇所設けてもよい。また、図2では散布方法を消化液噴霧ノズルとしたが、前処理槽1の平面全体に均等に消化液を散布できるように、例えば幅10~20cm程度の越流堰や越流トラフの機能を有する水路を前処理槽1の平面全体に行渡らせてもよい。前処理槽1の平面全体に均等に消化液を散布できる構造であれば、消化液噴霧ノズルに限定はしない。
消化液の噴霧により、消化液中に存在する酸素を利用して好気性分解を行う通性嫌気性微生物が馴養され増殖し、同時に前処理槽の好気的状態による好気性微生物も増殖してバイオマスAは分解処理され、分解液は分解液排出ルート3からメタン発酵槽10へ供給(有機物供給工程)される。
そして、発生したバイオガスはバイオガス取出しルート13から取り出され、残渣は残渣排出ルート5から系外に排出される(残渣排出工程)。
【0022】
また、下水汚泥又は家畜し尿からなるバイオマス(以下、バイオマスBという)をメタン発酵槽10へ供給(有機物供給工程)すると、バイオマスBはメタン発酵槽内10で前記供給ルート3から供給された分解液と一緒に嫌気性分解処理される。
そして、消化液の一部は、消化液排出分岐ルート12aから脱水機20に送られ、残りは消化液排出ルート12から混合器40に送られる。
同時に、発生したメタンを含むバイオガスは、バイオガス取出しルート13から取り出される。
前記消化液排出分岐ルート12aから脱水機20に送られた消化液は、該脱水機20で固液分離され、固形分は残渣として残渣排出ルート22から系外に排出され、液分である脱離液は脱離液分配器30に送られる。
当該脱離液分配器30で分配された脱離液の一部は、脱離液送出ルート31から混合器40に送られ、残りは排出ルート32から系外に排出される。
混合器40に送られた脱離液は、消化液排出ルート12から送られた消化液と混合され、脱離液が混合された消化液は、消化液供給ルート41から前記前処理槽1に供給される。
【0023】
このように本発明のメタン発酵前処理方法は、前処理槽1において消化液中に存在する酸素を利用して好気性分解を行う通性嫌気性微生物が馴養され増殖し、同時に前処理槽の好気的状態による好気性微生物も増殖して、前処理槽1に嫌気性処理を適用するよりも有機物分解速度の大きい好気性処理を適用することで、前処理槽1での有機性固形物をより速やかに分解し、前処理槽1から排出される分解液をメタン発酵槽10に供給し、下水汚泥等のバイオマスBを直接投入するメタン発酵槽におけるバイオガスの発生量に加えて、バイオマスA分のバイオガスの発生量を高めることができる。
【実施例
【0024】
図4は本発明に係るメタン発酵前処理方法を実施した時のマテリアルバランスシートの一例の説明図で、1日に処理するバイオマスの量と発生するバイオガスの量を表している。
本発明に係るメタン発酵前処理方法の一例を説明する。
本実施例は、バイオマスA(生ごみと草木系廃棄物等の発酵不適物を混入)100kg/dを前処理槽1に投入し、バイオマスB(下水汚泥等)をメタン発酵槽10に900kg/dに投入してメタン発酵前処理方法を実施した。
【0025】
図中、それぞれの投入量、TS濃度、COD(バイオマス中の有機物の指標)濃度、COD、排出量、分解率等について記載している。
a)前処理槽1にバイオマスAを100kg/d投入し(有機物供給工程)[S1]
b)前処理槽1に消化液供給ルート41から供給されたメタン発酵槽10から排出された消化液1066kg/dをバイオマスAに噴霧する(消化液供給工程)。[S2]
したがって、「前処理槽1に投入された合計投入量は1166kg/dである。」。[S
3]
c)バイオマスAは、消化液により分解処理され(分解処理工程)[S4]、分解液1049kg/dとバイオガス4.8kg-COD/dが発生する。[S5]
分解液は分解液排出ルート3からメタン発酵槽10に供給され(分解液供給工程)、バイオガスはバイオガス取出しルートから取り出され(バイオガス取出工程)、残渣117kg/dは残渣排出ルート5から系外排出される(残渣排出工程)。[S6]
【0026】
d)メタン発酵槽10には、バイオマスBが900kg/d投入(有機物供給工程)される。[S7]
すると、前記前処理槽1から供給された分解液1049kg/d[S8]とともにバイオマスBはメタン発酵槽10において分解処理され、メタン発酵槽10に投入された合計投入量は1949kg/dである。発生したバイオガスは、バイオガス取出しルート13から取出され(バイオガス取出し工程)、バイオガス中メタンガス20.7Nm3/d(59.1kgCOD/d)[S10]と消化液1949kg/d[S11]が発生(メタン発酵工程)する。
【0027】
e)前記消化液(1949kg/d)の内、半分の975kg/dの消化液[S12]は、消化液排出ルート12から混合器40へ送出される。残りの半分の975kg/d[S13]は、消化液排出分岐ルート12aから脱水機20に送られ、前記脱水機20で固液分離される(固液分離工程)。固形の残渣64kg/d[S14]は、残渣排出ルート22から系外に排出され(残渣排出工程)、脱離液910kg/d[S15]は、脱離液排出ルートから脱離液分配器30に送られる。
f)脱離液分配器30に送られた脱離液910kg/dの内819kg/d[S16]が、脱離液排出ルート32から系外に排出され(脱離液排出工程)、91kg/d[S17]が脱離液送出ルート31から混合器40に送られる(脱離液送出工程)。
g)混合器40に送られた91kg/dの脱離液は、975kg/d[S12]の消化液と混合され1066kg/d[S2]の消化液として消化液供給ルート41から前処理槽1に供給される(消化液供給工程)。
【0028】
上記のように本実施例によれば、バイオマスA100kg/dとバイオマスB900kg/dの合計バイオマス量1000kg/d(バイオマスA34.9kg-COD/dとバイオマスB54.0kg-COD/dに相当し、合計88.9kg-COD/d)を用いて、バイオマスA由来のバイオガス中メタンガス量9.3Nm3/dとバイオマスB由来のバイオガス中メタンガス量11.3Nm3/dの合計バイオガス中メタンガス量20.7Nm3/d(バイオマスA26.7kg-COD/dとバイオマスB32.4kg-COD/dに相当し、合計59.1kg-COD/d)を取り出すことができ、バイオマスからバイオガス中メタンガスへのCOD転換率は66%となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、草木系廃棄物、紙類、茶葉、生ごみ等の有機性固形廃棄物の処理に際して、破袋機、粗砕機や分別機などや細断、加熱、爆砕、アルカリなどによる前処理を不要としたバイオマスを用いたメタン発酵ができる。
また、従来から行われてきた下水処理場から出る下水汚泥や家畜し尿を用いたメタン発酵槽を備える施設へ草木系廃棄物、紙類、茶葉、生ごみ等を持ち込んでメタン発酵によるバイオガス回収の増量を図ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 前処理槽
2 バイオマスA投入ルート
3 分解液排出ルート
4 バイオガス取出しルート
5 残渣排出ルート
10 メタン発酵槽
11 バイオマスB投入ルート
12 消化液排出ルート
12a 消化液排出分岐ルート
13 バイオガス取出しルート
20 脱水機
21 脱離液排出ルート
22 残渣排出ルート
30 分配器
31 脱離液送出ルート
32 脱離液排出ルート
40 混合器
41 消化液供給ルート
図1
図2
図3
図4