IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-軸封装置 図1
  • 特許-軸封装置 図2
  • 特許-軸封装置 図3
  • 特許-軸封装置 図4
  • 特許-軸封装置 図5
  • 特許-軸封装置 図6
  • 特許-軸封装置 図7
  • 特許-軸封装置 図8
  • 特許-軸封装置 図9
  • 特許-軸封装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021120247
(22)【出願日】2021-07-21
(65)【公開番号】P2023016140
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】奥園 悠高
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04386785(US,A)
【文献】特開2005-113983(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125269(WO,A1)
【文献】実開昭61-067470(JP,U)
【文献】特開2013-130212(JP,A)
【文献】特表2015-505348(JP,A)
【文献】特開2018-200059(JP,A)
【文献】特開2018-071566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が挿通されるケーシングに保持された一方の摺動部品と、
前記回転軸に挿通固定される内径側スリーブおよび外径側スリーブと、
前記内径側スリーブまたは前記外径側スリーブに保持され、前記一方の摺動部品と相対摺動する他方の摺動部品と、を備えた軸封装置であって、
前記内径側スリーブは一部前記外径側スリーブに挿入されており、
一方のスリーブには径方向に貫通する貫通孔が設けられており、
他方のスリーブには前記一方のスリーブとの間で空間を画成する凹部が形成されており、
前記凹部には傾斜面が設けられており、
前記貫通孔には、前記傾斜面に当接しかつ該貫通孔に固定される固定部材が挿通されており、
前記傾斜面は環状に形成されている軸封装置。
【請求項2】
前記傾斜面は前記他方のスリーブの挿入側端部に向かうにつれて前記一方のスリーブに近づくように傾斜している請求項1に記載の軸封装置。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記傾斜面に対して直交するように傾斜している請求項1または2に記載の軸封装置。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記傾斜面の起立方向に対して傾斜している請求項1または2に記載の軸封装置。
【請求項5】
前記他方のスリーブは前記一方のスリーブの被当接部に軸方向で当接するストッパ部を有している請求項1ないし4のいずれかに記載の軸封装置。
【請求項6】
前記貫通孔の内周面には雌ネジ部が設けられており、前記固定部材は、前記雌ネジ部に螺合する雄ネジ部を備えている請求項1ないしのいずれかに記載の軸封装置。
【請求項7】
前記軸封装置は、前記固定部材を抜け止めする抜け止めネジを更に備えている請求項に記載の軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の回転軸とケーシングとの間を軸封する軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械において回転軸周辺の被密封流体の漏れを防止する軸封装置として、例えば、ケーシングに保持された一方の摺動部品と、ケーシングに挿通された回転軸に固定される筒状のスリーブと、スリーブに固定される他方の摺動部品と、を備え、一対の摺動部品が相対摺動するメカニカルシールが知られている。このようなメカニカルシールにおいては、メンテナンス性を高めるために、腐食性の高い被密封流体に接触する一方のスリーブ部材と、大気などの被密封流体とは異なる流体と接触する他方のスリーブ部材と、から構成される分割構造のスリーブが用いられることがある。
【0003】
例えば、特許文献1に示される軸封装置は、スリーブが、機外側の外径側スリーブとしての第1スリーブと、機内側の内径側スリーブとしての第2スリーブと、から構成されている。第1スリーブと第2スリーブとは、第1スリーブの端部内周に設けられる雌ネジ部に第2スリーブの端部外周に設けられる雄ネジ部が螺合されることにより軸方向に接続されている。また、軸方向かつ周方向に位置合わせされた第1スリーブの貫通孔と第2スリーブの貫通孔にピンを挿通させることで第1スリーブと第2スリーブとの相対回転が規制されるため、第1スリーブと第2スリーブとの螺合が緩むことが防止されるようになっている。
【0004】
このように、第1スリーブと第2スリーブとは着脱可能に取り付けられているため、腐食性の高い被密封流体側に配置される第2スリーブが腐食等により交換が必要となったときには、第2スリーブのみを交換し、交換の必要がない第1スリーブはそのまま継続して使用することができる。そのため、メンテナンスの作業性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-71566号公報(第6頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の軸封装置にあっては、第1スリーブと第2スリーブとの螺合と、ピンによる回転止めと、により、第1スリーブと第2スリーブとが接続された状態を確実に維持できるようになっている。しかしながら、第1スリーブと第2スリーブとを組み立てる際には、第1スリーブと第2スリーブとを螺合により軸方向に接続しつつ、ピンを挿通するための第1スリーブの貫通孔と第2スリーブの貫通孔の相対位置を軸方向および周方向に位置合わせする必要があり、第1スリーブと第2スリーブとの組立作業が煩雑であった。また、第1スリーブと第2スリーブとの分解作業時も第1スリーブと第2スリーブとの螺合の解除と、ピンの取り外しを行う必要があるため、分解作業も煩雑であった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、組立作業および分解作業を簡便に行うことができる軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の軸封装置は、
回転軸が挿通されるケーシングに保持された一方の摺動部品と、
前記回転軸に挿通固定される内径側スリーブおよび外径側スリーブと、
前記内径側スリーブまたは前記外径側スリーブに保持され、前記一方の摺動部品と相対摺動する他方の摺動部品と、を備えた軸封装置であって、
前記内径側スリーブは一部前記外径側スリーブに挿入されており、
一方のスリーブには径方向に貫通する貫通孔が設けられており、
他方のスリーブには前記一方のスリーブとの間で空間を画成する凹部が形成されており、
前記凹部には傾斜面が設けられており、
前記貫通孔には、前記傾斜面に当接しかつ該貫通孔に固定される固定部材が挿通されている。
これによれば、傾斜面に対して固定部材の先端部が径方向に押し付けられることで内径側スリーブと外径側スリーブの相対回転が規制されるとともに、軸方向において固定部材の先端部は傾斜面に係止されることで内径側スリーブと外径側スリーブとの抜け出しが規制されるようになっている。そのため、固定部材を貫通孔に進退させることで、内径側スリーブと外径側スリーブとの組立作業および分解作業を簡便に行うことができる。
【0009】
前記傾斜面は前記他方のスリーブの挿入側端部に向かうにつれて前記一方のスリーブに近づくように傾斜していてもよい。
これによれば、内径側スリーブと外径側スリーブの相対回転規制と抜け出し規制を同時に行うことができる。
【0010】
前記貫通孔は、前記傾斜面に対して直交するように傾斜していてもよい。
これによれば、内径側スリーブと外径側スリーブとの抜け出し方向に動いたときに、固定部材には貫通孔の軸方向に沿った成分の力が主に作用する。そのため固定部材により内径側スリーブと外径側スリーブの相対回転の規制と抜け出し方向の移動規制を確実に行うことができる。
【0011】
前記貫通孔は、前記傾斜面の起立方向に対して傾斜していてもよい。
これによれば、固定部材により内径側スリーブと外径側スリーブの相対回転の規制と抜け出し方向の移動規制を行うことができる。
【0012】
前記他方のスリーブは前記一方のスリーブの被当接部に軸方向で当接するストッパ部を有していてもよい。
これによれば、傾斜面に対して固定部材の先端部を押し付けたときに、一方のスリーブの被当接部と他方のスリーブのストッパ部とが軸方向に圧接される。そのため、内径側スリーブと外径側スリーブとの相対回転を強固に規制できる。さらに、一方のスリーブと他方のスリーブとは軸方向両側への相対移動を強固に規制できる。
【0013】
前記傾斜面は環状に形成されていてもよい。
これによれば、内径側スリーブと外径側スリーブとの周方向の相対位置に関わらず内径側スリーブと外径側スリーブとの組立作業を簡便に行うことができる。
【0014】
前記貫通孔の内周面には雌ネジ部が設けられており、前記固定部材は、前記雌ネジ部に螺合する雄ネジ部を備えていてもよい。
これによれば、内径側スリーブと外径側スリーブとの組立作業や分解作業を簡便に行うことができる。
【0015】
前記軸封装置は、前記固定部材を抜け止めする抜け止めネジを更に備えていてもよい。
これによれば、固定部材を貫通孔に螺合させた後、抜け止めネジをさらに螺合させることにより、固定部材が貫通孔に対して緩むことが防止される。これにより、内径側スリーブと外径側スリーブとの組立作業および分解作業が簡便でありながら、内径側スリーブと外径側スリーブとの抜け出しの規制が一層確実となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1における軸封装置を示す断面図である。
図2】静止密封環とスリーブの組み立てを示す説明図である。
図3】第1スリーブと第2スリーブとの固定を示す説明図である。
図4】第1スリーブを軸方向他端から見た図である。
図5】(a)~(c)は第1スリーブと第2スリーブとの固定を時系列的に示す模式図である。
図6】(a)は実施例1のセットスクリュ、(b)はセットスクリュの変形例1、(c)はセットスクリュの変形例2、(d)はセットスクリュの変形例3、(e)はセットスクリュの変形例4を示す断面図である。
図7】本発明の実施例2における軸封装置を示す断面図である。
図8】本発明の実施例3における軸封装置を示す断面図である。
図9】実施例1の変形例5を示す断面図である。
図10】実施例1の変形例6を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る軸封装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1に係る軸封装置につき、図1から図5を参照して説明する。尚、図1図3において、スリーブの中心軸よりも紙面上部と紙面下部とは異なる角度で切断された断面を示している。
【0019】
本実施例の軸封装置は、自動車や一般産業機械などに用いられるメカニカルシール1である。メカニカルシール1は、ポンプ等における軸封部の機内M側に収容された被密封流体Lをシールするためのものである。図1の左側が被密封流体Lを収容する機内M側の領域、図1の右側が大気雰囲気の機外A側の領域である。また、機外A側を一端側、機内M側を他端側と呼ぶ。また、機外A側は、第1スリーブ11の抜け出し方向、第2スリーブ21の挿入方向とし、機内M側を第1スリーブ11の挿入方向、第2スリーブ21の抜け出し方向として説明する。
【0020】
メカニカルシール1は、ケーシング2と、回転軸3と、スリーブ10と、他方の摺動部品としての回転密封環30と、一方の摺動部品としての静止密封環40と、から主に構成されている。
【0021】
ケーシング2は回転機器の軸封部のハウジングに取り付けられている。回転軸3はケーシング2に挿通されている。スリーブ10は回転軸3に着脱可能に挿通固定されている。静止密封環40はスリーブ10に固定されている。静止密封環40はケーシング2に軸線方向に移動可能に保持されている。ケーシング2と静止密封環40との間には図示しないスプリングが介装されており、静止密封環40を回転密封環30へと付勢している。
【0022】
回転密封環30の密封端面と静止密封環40の密封端面とは摺動接触する密封部S1を形成している。密封部S1において機内M側から機外A側に漏れる被密封流体Lをシールする。静止密封環40は、ケーシング2に固定されたノックピン41により回転が規制されている。静止密封環40とケーシング2との間にはOリングG10が介装されている。
【0023】
ケーシング2は、図示しない回転機器のハウジングに取り付ける取付フランジを有している。
【0024】
スリーブ10は、一方のスリーブとしての内径側スリーブである第1スリーブ11と、他方のスリーブとしての外径側スリーブである第2スリーブ21と、から主に構成されている。第1スリーブ11は機外A側、第2スリーブ21は機内M側に配置されている。第1スリーブ11と第2スリーブ21とは、固定部材としてのセットスクリュ4により軸方向に接続されている。
【0025】
図2を参照し、第2スリーブ21は、耐腐食性に優れる高ニッケル合金により形成され、その一端側の端部22の内周面22aは、中央部の内周面22bよりも大径に形成されている。内周面22aと内周面22bとは、平行に延びている。内周面22aと内周面22bとの間には、該内周面22a,22bと直交するストッパ部としての内側面22cが形成されている。
【0026】
端部22の内周面22aの軸方向中央部には、外径側に凹む凹部としての環状凹部23が形成されている。環状凹部23は、水平面23aと、傾斜面23b,23cと、から画成されている。水平面23aは軸方向かつ環状に延びている。傾斜面23b,23cは、水平面23aの軸方向両端から傾斜して環状に延びている。
【0027】
詳しくは、一端側の傾斜面23bは、水平面23aの端縁から一端側に向けて縮径するように延びている。他端側の傾斜面23cは、水平面23aの端縁から他端側に向けて縮径するように延びている。
【0028】
尚、水平面23a、傾斜面23b,23cは断面直線であるが、曲面であってもよい。
【0029】
また、端部22の外周には、キー24が周方向に複数設けられている。キー24は外径側に突出している。このキー24は回転密封環30の内周に複数設けられた嵌合溝31に嵌合されるようになっている(図1参照)。尚、キー24は第2スリーブ21と別体構成であってもよい。
【0030】
第1スリーブ11は、ステンレス鋼により形成され、その他端側から順に小径部11A、第1段部11B、第2段部11C、大径部11Dを有している。第1段部11Bは小径部11Aよりも大径となっている。第2段部11Cは第1段部11Bよりも大径となっている。大径部11Dは第2段部11Cよりも大径となっている。すなわち、第1スリーブ11は、断面階段状に形成されている。
【0031】
小径部11Aには、径方向に貫通する貫通孔14が形成されている。貫通孔14は外径側に向かうにつれて一端側に向かうように直線状に傾斜している。この貫通孔14は内周面に雌ネジ部14aを有している。本実施例では、貫通孔14は、小径部11Aの周方向に10等配されている(図4参照)。
【0032】
第1段部11Bの外周面はOリングG22の装着部となっている。第2段部11Cの外周面は回転密封環30の本体部32の一端側の内周面32aが嵌合する嵌合面となっている。大径部11Dは径方向外側に延びるフランジ部であり、その他端側の側面18bに回転密封環30の本体部32の一端側の側面32bが当接して回転密封環30を軸方向に位置決めしている。
【0033】
小径部11Aの外径は第2スリーブ21の端部22の内径と略同寸法に形成されており、第1スリーブ11と第2スリーブ21とは所謂インロー結合(so-called spigot joint)されるようになっている。
【0034】
また、図6(a)に示されるように、本実施例のセットスクリュ4は、外周面に雄ネジ部4cを備え、貫通孔14の雌ネジ部14aに螺合可能となっている。セットスクリュ4の先端部は中央が円錐形に窪んだ形状を成しており、環状の先端面4aは周方向に沿って複数の凹凸が形成されている。また、セットスクリュ4の後端部には、該セットスクリュ4の螺合操作を行う工具が嵌合される操作用凹部4bが形成されている。
【0035】
ここで、第1スリーブ11と第2スリーブ21との組み立てについて概略的に説明する。図2に示されるように、第2スリーブ21をケーシング2に挿入するとともに、第1スリーブ11の内周にOリングG21を配置し、第1段部11BにOリングG22を軸方向から挿入して装着し、第2段部11Cに回転密封環30を軸方向から挿入して装着する。尚、このとき、予めセットスクリュ4を第1スリーブ11の貫通孔14に螺合しておく。
【0036】
次いで、図3に示されるように、回転密封環30の各嵌合溝31と第2スリーブ21の各キー24とを周方向に位置合わせし、次いで、第1スリーブ11を第2スリーブ21の端部22の内側に挿入する。
【0037】
その後、セットスクリュ4を外径側に螺進させることで第1スリーブ11と第2スリーブ21とが相対回転及び軸方向の相対移動が規制された状態で軸方向に接続され、スリーブ10が構成される。
【0038】
また、本実施例では、第1スリーブ11と第2スリーブ21とをセットスクリュ4により接続した後に、貫通孔14の内径側から抜け止めネジ5を螺合させている。尚、セットスクリュ4の接続固定の具体的な説明は後述する。
【0039】
スリーブ10が構成された状態において、回転密封環30は、その嵌合溝31と第2スリーブ21のキー24との嵌合により相対回転が規制されている。
【0040】
次いで、図2および図3に示されるように、回転軸3をスリーブ10内に挿通し、回転軸3とスリーブ10とを固定する。
【0041】
なお、組み立て手順として、図2図3において、ケーシング2に第2スリーブ21を挿入した状態で、第1スリーブ11を第2スリーブ21に組み付ける例について説明しているが、第1スリーブ11と第2スリーブ21を組み立てた後、ケーシング2にスリーブ10を挿入するものであってもよい。
【0042】
図1を参照し、第2スリーブ21は、内周にOリングG4が配置され、回転軸3との間が密封されている。また、第1スリーブ11は図示しない軸固定部材を用いて回転軸3に着脱可能に固定されている。なお、第1スリーブ11の回転軸3への固定は他の手段、例えばセットスクリュを用いた手段としてもよい。また、本実施例では、第1スリーブ11が回転軸3に固定されていたが、第2スリーブ21が回転軸3に固定されていてもよいし、第1スリーブ11及び第2スリーブ21の両方が回転軸3に固定されていてもよい。
【0043】
次いで、第1スリーブ11と第2スリーブ21とをセットスクリュ4により接続する際の一連の流れについて図5を用いて具体的に説明する。
【0044】
図5(a)に示されるように、第1スリーブ11と第2スリーブ21とを接続する際には、第1スリーブ11の小径部11Aの挿入側端部11aが第2スリーブ21の端部22の内側面22cに当接するまで第1スリーブ11を第2スリーブ21の端部22の内側に挿入する。挿入側端部11aは第2スリーブ21の内側面22cに当接する被当接部である。
【0045】
第1スリーブ11の挿入側端部11aが第2スリーブ21の内側面22cに当接した状態では、貫通孔14が環状凹部23の傾斜面23bの内径側に重畳する位置となる。尚、貫通孔14は、傾斜面23bに対して直交するように傾斜している。
【0046】
次いで、図5(b)に示されるように、図示しない工具を用いてセットスクリュ4を第1スリーブ11の内径側から操作し、外径側に向けて螺進させる。これにより、セットスクリュ4が環状凹部23の傾斜面23bに当接する。
【0047】
その後、セットスクリュ4をさらに螺進させると、セットスクリュ4の先端部は傾斜面23bに沿って僅かに軸方向他方側、すなわち挿入方向に移動する。これにより、セットスクリュ4から第1スリーブ11に挿入方向への力が作用し、挿入側端部11aは第2スリーブ21の内側面22cに図中黒矢印で示すように軸方向に押圧された状態となる。
【0048】
その後、図5(c)に示されるように、貫通孔14の内径側から抜け止めネジ5を螺合させ、セットスクリュ4の後端側に接触させる。
【0049】
このようにして、セットスクリュ4が傾斜面23bに圧接されると、セットスクリュ4と傾斜面23bとの間に生じる摩擦力により第1スリーブ11及び第2スリーブ21の相対回転が規制される。
【0050】
加えて、図5(b)にて黒矢印で示す第1スリーブ11の挿入側端部11aと第2スリーブ21の内側面22cとの圧接力が作用することにより、第1スリーブ11及び第2スリーブ21の相対回転が一層強固に規制される。
【0051】
さらに、傾斜面23bは、軸方向一端に向けて第1スリーブ11の小径部11Aに近づくように傾斜しているため、軸方向においてセットスクリュ4の先端部は傾斜面23bに係止されることで第1スリーブ11と第2スリーブ21との抜け出しが規制されるようになっている。
【0052】
また、貫通孔14は傾斜面23bに対して直交するように傾斜している。これによれば、第1スリーブ11と第2スリーブ21との抜け出し方向に動いたときに、セットスクリュ4には貫通孔14の軸方向に沿った成分の力が主に作用する。そのためセットスクリュ4により第1スリーブ11と第2スリーブ21の相対回転の規制と抜け出し方向の移動規制を確実に行うことができる。
【0053】
さらに、第1スリーブ11の挿入方向への相対移動は、挿入側端部11aと内側面22cとの接触により規制されている。
【0054】
さらにまた、抜け止めネジ5を用いていることから、セットスクリュ4が貫通孔14に対して緩むことが防止される。そのため、第1スリーブ11と第2スリーブ21との抜け出しの規制が一層確実となる。尚、止めネジ5は貫通孔14以外の箇所に螺合するものであってもよい。
【0055】
以上説明したように、セットスクリュ4が傾斜面23bに圧接されることで第1スリーブ11及び第2スリーブ21の相対回転が規制されるとともに、軸方向においてセットスクリュ4の先端部は傾斜面23bに係止されることで第1スリーブ11と第2スリーブ21との抜け出しが規制されるようになっている。そのため、セットスクリュ4を貫通孔14に進退させることで、第1スリーブ11と第2スリーブ21との組立作業および分解作業を簡便に行うことができる。
【0056】
また、傾斜面23bは第2スリーブ21の挿入側先端部、すなわち一端側の端部に向かうにつれて第1スリーブ11に近づくように傾斜しているため、第1スリーブ11と第2スリーブ21の相対回転規制と抜け出し規制を同時に行うことができる。また、傾斜面23bはセットスクリュ4との当接箇所からさらに一端側、すなわち第1スリーブ11の抜け出し方向に延びている。これにより、傾斜面23bとセットスクリュ4とは、第1スリーブ11と第2スリーブ21とが抜け出し方向に相対移動しても当接した状態が維持されるため、第1スリーブ11と第2スリーブ21とが確実に抜け止めされる。
【0057】
また、傾斜面23bは周方向に亘って環状に形成されている。そのため、第1スリーブ11と第2スリーブ21との周方向の相対位置に関わらず、第1スリーブ11と第2スリーブ21との組立作業を簡便に行うことができる。
【0058】
また、貫通孔14の内周面には雌ネジ部14aが設けられており、セットスクリュ4は、雌ネジ部14aに螺合する雄ネジ部4cを備えている。これによれば、セットスクリュ4を螺合操作することで第1スリーブ11と第2スリーブ21との組立作業や分解作業を簡便に行うことができる。
【0059】
また、第1スリーブ11は第2スリーブ21の内側に挿入されている。また、OリングG22は第1スリーブ11、第2スリーブ21、回転密封環30に密封状に接触している。また、第1スリーブ11と第2スリーブ21とは、第1スリーブ11の内径側からセットスクリュ4を外径側に螺進させることで接続されるようになっている。以上のような構成により、第1スリーブ11及びセットスクリュ4は機内M側に露出しないため、これらは被密封流体Lにより腐食することが防止されている。
【0060】
尚、本実施例のセットスクリュ4は、その先端面4aが複数の凹凸を有する形態を例示したが、先端面4aは平坦となっていてもよい。
【0061】
また、セットスクリュは先端部が窪み形状となっている形態に限られず、次のようなものであってもよい。
【0062】
例えば、図6(b)に示されるように、その先端面4a’が周方向に沿って凹凸がない環状の幅狭の面となっているセットスクリュ4’であってもよい。
【0063】
また、図6(c)に示されるように、先端部140aに窪みが形成されず平坦となっているセットスクリュ140であってもよい。
【0064】
また、図6(d)に示されるように、先端部240aが先端側に向けて断面凸状曲面を成すセットスクリュ240であってもよい。
【0065】
また、図6(e)に示されるように、先端部340aが先端側に向けて先細りする円錐状のセットスクリュ340であってもよい。
【実施例2】
【0066】
次に、実施例2に係る軸封装置につき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。さらに尚、図7ではスリーブの軸方向を軸線α、第1貫通孔の軸方向を仮想線β、第2貫通孔の軸方向を仮想線γで図示する。
【0067】
図7に示されるように、本実施例2の第2スリーブ421の一端側の端部422の内周には、2つの凹部423,424が周方向に離間して設けられている。
【0068】
凹部423の一端側の傾斜面423bと、凹部424の一端側の傾斜面424bは、軸線αに対して異なる角度で傾斜している。
【0069】
第1スリーブ411には、第1貫通孔414と第2貫通孔415とが設けられている。第1貫通孔414は、傾斜面423bに対して直交するように延びている(仮想線β参照)。言い換えれば、第1貫通孔414は、軸線αに対して角度θ1で傾斜している。
【0070】
第2貫通孔415は、傾斜面424bに対して直交するように延びている(仮想線γ参照)。言い換えれば、第2貫通孔415は、軸線αに対して角度θ1とは異なる角度θ2で傾斜している。
【0071】
角度θ1,θ2が40度未満である場合には、セットスクリュ4が軸方向に倒れ過ぎて径方向の固定力が小さくなり、80度よりも大きい場合、軸方向への固定力小さくなる虞がある。したがって、角度θ1,θ2は、40度~80度の範囲で設定されることが好ましい。
【0072】
尚、凹部423,424は複数個ずつ設けられていてもよい。
【0073】
また、凹部423,424は周方向に分断されていることに限られず、環状を成す凹部の一端側が異なる角度で傾斜する傾斜面が周方向に複数配置されていてもよい。
【実施例3】
【0074】
次に、実施例3に係る軸封装置につき、図8を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。さらに尚、本実施例3では、図8の左側が大気雰囲気の機外A側の領域、図8の右側が被密封流体Lを収容する機内M側の領域である。また、機外A側は、第1スリーブ211の挿入方向、第2スリーブ221の抜け出し方向とし、機内M側を第1スリーブ211の抜け出し方向、第2スリーブ221の挿入方向として説明する。
【0075】
図8に示されるように、実施例3の第1スリーブ211は、その小径部211Aの外周面に凹部としての環状凹部213が形成されている。この環状凹部213の一端側の傾斜面213bは、第1スリーブ211の挿入側先端部、すなわち軸方向一端側に向かって拡径するように傾斜している。すなわち、実施例3の第1スリーブ211は傾斜面が形成される他方のスリーブとして機能している。尚、本実施例3の第1スリーブ211は腐食性に優れる高ニッケル合金により形成されている。
【0076】
また、実施例2の第2スリーブ221は、その一端側の端部222に貫通孔224が形成されている。すなわち、実施例3の第2スリーブ221は貫通孔が形成される一方のスリーブとして機能している。尚、本実施例3の第2スリーブ221はステンレス鋼により形成されている。
【0077】
端部222の端面222aは、第1スリーブ211の第1段部211Bの側面211bに接触することで第1スリーブ211と第2スリーブ221との挿入方向の位置決めがされる。言い換えれば、第1スリーブ211の側面211bがストッパ部として機能しており、第2スリーブ221の端面222aが被当接部として機能している。
【0078】
セットスクリュ4が傾斜面213bに圧接されることで、第1スリーブ211と第2スリーブ221との相対回転が規制されるとともに、セットスクリュ4が傾斜面213bに係止され第1スリーブ211と第2スリーブ221との抜け出し方向への移動が規制される。
【0079】
また、傾斜面213bからの反力により、第2スリーブ221の端面222aが第1スリーブ211の側面211bに圧接され、第1スリーブ211と第2スリーブ221との相対回転がさらに強固に規制される。加えて、第1スリーブ211と第2スリーブ221との挿入方向への相対移動が規制される。
【0080】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0081】
例えば、前記実施例1~3では、漏れ側のスリーブはステンレス鋼により形成され、被密封流体側のスリーブは耐腐食性に優れる高ニッケル合金により形成される例について説明したがこれらの材料に限られるのもではない。漏れ側のスリーブ、被密封流体側のスリーブの材料は用途に応じた好適な材料とすればよく、例えば鉄材、ステンレス材、チタン材、チタン合金材、ジルコニウム材を用いることができる。
【0082】
また、前記実施例1~3では、貫通孔が傾斜面に対して直交するように傾斜している形態を例示したが、これに限られず、貫通孔が傾斜面の起立方向、すなわち直交方向に対して傾斜していてもよい。この場合であっても、セットスクリュが傾斜面に押し付けられたときに内径側スリーブと外径側スリーブの相対回転の規制と抜け出し方向の移動規制を行うことができる。
【0083】
また、前記実施例1~3では、セットスクリュを抜け止めネジで緩み止めするものを例示したが、これに限られず、例えば、図9に示されるように抜け止めネジを用いることなくセットスクリュ4’’のみで貫通孔14に対して固定されるものであってもよい。
【0084】
また、前記実施例1~3では、固定部材として貫通孔に螺合するセットスクリュを例示したが、これに限られず、例えば、図10に示されるように貫通孔614に対して進退可能であり、かつ貫通孔614に対して固定されるピン400等であってもよい。ピン400および貫通孔614にはネジ部は設けられておらず、ピン400は内径側から貫通孔614周辺を加締めて第1スリーブ11に固定されている。
【0085】
また、前記実施例1~3では、1つの内径側スリーブと1つの外径側スリーブとからスリーブが構成される形態を例示したが、内径側スリーブ及び外径側スリーブが複数のスリーブ構成部材により構成されていてもよい。
【0086】
また、前記実施例1~3では、固定部材のみで内径側スリーブと外径側スリーブが接続される形態を例示したが、例えば、固定部材に加え、軸方向に延びるボルトにより内径側スリーブと外径側スリーブとの接続が補強されていてもよい。また、内径側スリーブや外径側スリーブが複数のスリーブ構成部材から構成される場合は、内径側スリーブを構成する複数のスリーブ構成部材間の接続や、外径側スリーブを構成する複数のスリーブ構成部材間の接続に軸方向に延びるボルトを用いてもよい。
【0087】
また、前記実施例1~3では、漏れ側のスリーブが被密封流体側のスリーブに挿入される形態を例示したが、漏れ側のスリーブが腐食性の高い被密封流体に露出しなければ、被密封流体側のスリーブが漏れ側のスリーブに挿入されていてもよい。
【0088】
また、前記実施例1~3では、シングル型のメカニカルシールについて説明したが、ダブル型やタンデム型のメカニカルシールであってもよい。
【0089】
また、前記実施例1~3では、軸封装置の一例としてメカニカルシールを説明したが、メカニカルシールでなくてもよい。例えば、自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる軸封装置であってもよい。
【0090】
また、前記実施例1~3では、アウトサイド型のメカニカルシールである形態を例示したが、インサイド型のメカニカルシールであってもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 メカニカルシール(軸封装置)
2 ケーシング
3 回転軸
4 セットスクリュ(固定部材)
4c 雄ネジ部
5 抜け止めネジ
10 スリーブ
11 第1スリーブ(内径側スリーブ、一方のスリーブ)
11a 挿入側端部(被当接部)
14 貫通孔
14a 雌ネジ部
21 第2スリーブ(外径側スリーブ、他方のスリーブ)
22c 内側面(ストッパ部)
23 環状凹部(凹部)
23b 傾斜面
30 回転密封環
40 静止密封環
A 機外
L 被密封流体
M 機内
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10