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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/02 20120101AFI20241105BHJP
   F16H 61/00 20060101ALI20241105BHJP
   F04B 53/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
F16H57/02
F16H61/00
F04B53/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024509233
(86)(22)【出願日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2023011617
(87)【国際公開番号】W WO2023182454
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022047614
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝則
(72)【発明者】
【氏名】木ノ下 雅康
(72)【発明者】
【氏名】神谷 将弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 智雄
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173943(JP,A)
【文献】特開2015-045401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H57/02
F16H61/00
F04B53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達機構を収容するケースと、
前記動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブと、
前記コントロールバルブにオイルを供給する電動ポンプと、を有する動力伝達装置であって、
前記ケースは、
前記動力伝達機構を収容する第1室と、
水平線方向で前記第1室に隣接配置された第2室と、を有し、
前記コントロールバルブは、前記第2室内で、複数の調圧弁を上下方向に並べる向きで縦置きされており、
前記電動ポンプは、前記第2室内で、モータの回転軸を前記上下方向に沿わせた向きで設けられており、
前記コントロールバルブと前記電動ポンプは、前記動力伝達機構の回転軸方向で並んでおり、
前記電動ポンプは、
治具の第1アームが係止される第1フランジ部と、
前記治具の第2アームにより支持される被支持部と、を有しており、
前記被支持部は、前記モータの回転軸に直交する断面の基本形状が円形を成しており、
前記第1フランジ部は、前記被支持部の外周から延出している、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1フランジ部は、前記被支持部における前記コントロールバルブとは反対側の領域から、前記コントロールバルブから離れる方向に延びている、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2室は、
前記コントロールバルブと前記電動ポンプとの外周を囲む周壁部と、
前記周壁部に接合されて、前記周壁部の開口を塞ぐカバー部と、
前記第1室と前記第2室とを区画する区画壁と、で囲まれた空間であり、
前記周壁部の開口方向に沿う断面視において、前記第1フランジ部は、前記周壁部よりも前記カバー部側に位置している、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項において、
前記電動ポンプでは、第1ボス部と第2ボス部が、前記モータの前記回転軸方向に間隔をあけて設けられており、
前記第1フランジ部は、前記第1ボス部と前記第2ボス部の間に位置している、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1フランジ部は、前記第2ボス部に接続されている、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記第1フランジ部は、前記第1ボス部と前記第2ボス部とに跨がって設けられている、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6の何れか一項において、
前記電動ポンプでは、第3ボス部と第4ボス部が、前記モータの前記回転軸方向に間隔をあけて設けられており、
前記第3ボス部と前記第4ボス部は、前記モータの回転軸を挟んで
前記第1ボス部および前記第2ボス部とは反対側に位置しており、
前記第3ボス部と前記第4ボス部の間に、第2フランジ部が設けられており、
前記第2フランジ部は、前記モータの回転軸方向で前記第2ボス部側に位置する前記第4ボス部から、前記第1ボス部側に位置する前記第3ボス部に向けて延びており、
前記第2フランジ部と前記第3ボス部との間に、隙間が設けられている、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1から請求項の何れか一項において、
前記電動ポンプは、
前記治具の当接部が当接する被当接部を有しており、
前記被当接部は、前記モータの回転軸方向から見て、前記モータの回転軸を通る直線に対して平行な平坦面である、動力伝達装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記電動ポンプは、
前記治具の当接部が当接する被当接部を有しており、
前記被当接部は、前記モータの回転軸方向から見て、前記モータの回転軸を通る直線に対して平行な平坦面である、動力伝達装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、油圧制御装置が鉛直方向に沿う起立姿勢で配置された車両用駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-173943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この車両用駆動装置では、駆動伝達機構を収容するケース内の側部で、油圧制御装置が縦置き配置(起立姿勢で配置)されている。そして、油圧制御装置にオイルを供給するための電動ポンプが、ケース内の下部で、水平線方向に沿わせた向きで設けられている。
水平線方向から見て油圧制御装置は、駆動伝達機構と電動ポンプに重なる位置関係で設けられている。
【0005】
水平線方向から見てケースでは、当該ケースの側部に開口部が設けられている。車両用駆動装置の組み立て時には、開口部を上側に向けてケースを配置した後、油圧制御装置は、上方から開口部内に設置される。一方、電動ポンプは、上側からケース内に挿入される。
【0006】
ここで、油圧制御装置と電動ポンプを、ケースに対して同じ方向から組み付けるようにすると、車両用駆動装置の組み立て時の作業時間の短縮が期待できる。
かかる場合、油圧制御装置を収容する開口部内で、電動ポンプを、油圧制御装置に並べて縦置きすることが考えられる。
【0007】
電動ポンプを、油圧制御装置(コントロールバルブ)の横に縦置きする場合、治具で把持した状態の電動ポンプを、開口部内の所定位置に配置する必要がある。
しかし、電動ポンプを治具で把持した際に、電動ポンプが安定して支持されていないと、電動ポンプを所定の位置に配置し難くなることがある。
そこで、動力伝達装置が備える電動ポンプの支持安定性の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、
動力伝達機構を収容するケースと、
前記動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブと、
前記コントロールバルブにオイルを供給する電動ポンプと、を有する動力伝達装置であって、
前記ケースは、
前記動力伝達機構を収容する第1室と、
水平線方向で前記第1室に隣接配置された第2室と、を有し、
前記コントロールバルブは、前記第2室内で、複数の調圧弁を上下方向に並べる向きで縦置きされており、
前記電動ポンプは、前記第2室内で、モータの回転軸を前記上下方向に沿わせた向きで設けられており、
前記コントロールバルブと前記電動ポンプは、前記動力伝達機構の回転軸方向で並んでおり、
前記電動ポンプは、
治具の第1アームが係止される第1フランジ部と、
前記治具の第2アームにより支持される被支持部と、を有しており、
前記被支持部は、前記モータの回転軸に直交する断面の基本形状が円形を成しており、
前記第1フランジ部は、前記被支持部の外周から延出している、動力伝達装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のある態様によれば、動力伝達装置が備える電動ポンプの支持安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、動力伝達装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、ハウジングを車両前方側から見た図である。
図3図3は、図2におけるA-A線に沿ってコントロールバルブと電動オイルポンプを切断した断面を模式的に示した図である。
図4図4は、図2におけるB-B線に沿ってコントロールバルブと電動オイルポンプを切断した断面を模式的に示した図である。
図5図5は、電動オイルポンプの正面図である。
図6図6は、電動オイルポンプの一部を断面で示した側面図である。
図7図7は、治具を用いた電動オイルポンプの収容室内への設置を説明する図である。
図8図8は、電動オイルポンプを凹部内に設置した後の第1アームの変位を説明する図である。
図9図9は、電動オイルポンプを凹部内に設置した後の第2アームの変位を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
始めに、本明細書における用語の定義を説明する。
動力伝達装置は、少なくとも動力伝達機構を有する装置であり、動力伝達機構は、例えば、歯車機構と差動歯車機構と減速機構の少なくともひとつである。
以下の実施形態では、動力伝達装置1がエンジンの出力回転を伝達する機能を有する場合を例示するが、動力伝達装置1は、エンジンとモータ(回転電機)のうちの少なくとも一方の出力回転を伝達するものであれば良い。
【0012】
「所定方向視においてオーバーラップする」とは、所定方向に複数の要素が並んでいることを意味し、「所定方向にオーバーラップする」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両前後方向等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいることが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向視においてオーバーラップしていることを説明した文章があるとみなして良い。
【0013】
「所定方向視においてオーバーラップしていない」、「所定方向視においてオフセットしている」とは、所定方向に複数の要素が並んでいないことを意味し、「所定方向にオーバーラップしていない」、「所定方向にオフセットしている」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両前後方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいないことが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向視においてオーバーラップしていないことを説明した文章があるとみなして良い。
【0014】
「所定方向視において、第1要素(部品、部分等)は第2要素(部品、部分等)と第3要素(部品、部分等)との間に位置する」とは、所定方向から観察した場合において、第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが観察できることを意味する。「所定方向」とは、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
例えば、第2要素と第1要素と第3要素とが、この順で軸方向に沿って並んでいる場合は、径方向視において、第1要素は第2要素と第3要素との間に位置しているといえる。図面上において、所定方向視において第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが図示されている場合は、明細書の説明において所定方向視において第1要素が第2要素と第3要素との間にあることを説明した文章があるとみなして良い。
【0015】
軸方向視において、2つの要素(部品、部分等)がオーバーラップするとき、2つの要素は同軸である。
「軸方向」とは、動力伝達装置を構成する部品の回転軸の軸方向を意味する。「径方向」とは、動力伝達装置を構成する部品の回転軸に直交する方向を意味する。部品は、例えば、モータ、歯車機構、差動歯車機構等である。
【0016】
コントロールバルブの「縦置き」とは、バルブボディの間にセパレートプレートを挟み込んだ基本構成を持つコントロールバルブの場合、コントロールバルブのバルブボディが、動力伝達装置の車両への設置状態を基準とした水平線方向で積層されていることを意味する。ここでいう、「水平線方向」とは、厳密な意味での水平線方向を意味するものではなく、積層方向が水平線に対して傾いている場合も含む。
【0017】
さらに、コントロールバルブの「縦置き」とは、コントロールバルブ内の複数の調圧弁(弁体)を、動力伝達装置の車両への設置状態を基準とした鉛直線VL方向(重力方向)に並べた向きで、コントロールバルブが配置されていることを意味する。
「複数の調圧弁を鉛直線VL方向に並べる」とは、コントロールバルブ内の調圧弁が、鉛直線VL方向に位置をずらして配置されていることを意味する。
【0018】
この場合において、複数の調圧弁が、鉛直線VL方向に一列に厳密に並んでいる必要はない。
例えば、複数のバルブボディを積層してコントロールバルブが形成されている場合には、縦置きされたコントロールバルブにおいては、複数の調圧弁が、バルブボディの積層方向に位置をずらしつつ、鉛直線VL方向に並んでいても良い。
【0019】
さらに、調圧弁が備える弁体の軸方向(進退移動方向)から見たときに、複数の調圧弁が、鉛直線VL方向に間隔をあけて並んでいる必要はない。
調圧弁が備える弁体の軸方向(進退移動方向)から見たときに、複数の調圧弁が、鉛直線VL方向で隣接している必要もない。
【0020】
よって、例えば、鉛直線VL方向に並んだ調圧弁が、バルブボディの積層方向(水平線方向)に位置をずらして配置されている場合には、積層方向から見たときに、鉛直線VL方向で隣接する調圧弁が、一部重なる位置関係で設けられている場合も含む。
【0021】
さらに、コントロールバルブが「縦置き」されている場合には、コントロールバルブ内の複数の調圧弁が、当該調圧弁が備える弁体(スプール弁)の移動方向を水平線方向に沿わせる向きで配置されていることを意味する。
この場合における弁体(スプール弁)の移動方向は、厳密な意味の水平線方向に限定されるものではない。この場合における弁体(スプール弁)の移動方向は、動力伝達装置の回転軸Xに沿う方向である。この場合において、回転軸X方向と、弁体(スプール弁)の摺動方向が同じになる。
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、動力伝達装置1の概略構成を説明する模式図である。
図1に示すように、動力伝達装置1のハウジングHSは、ケース6と、第1カバー7と、第2カバー8と、第3カバー9とから構成される。
ハウジングHSの内部には、トルクコンバータ、前後進切替機構、バリエータ、減速機構、差動装置などの動力伝達機構と、コントロールバルブCVや電動オイルポンプEOPなどが収容されている。
【0023】
ここで、ケース6と第2カバー8の間に形成される内部空間が、前後進切替機構と、減速機構と、差動装置とを収容する第1室S1となる。ケース6に付設された収容部68と第3カバー9との間に形成される内部空間が、コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPを収容する第2室S2となる。ケース6と第1カバー7との間に形成される内部空間が、バリエータを収容する第3室S3となる。
【0024】
車両Vに搭載された動力伝達装置1では、エンジンENG(駆動源)の出力回転が、動力伝達機構を介して、左右の駆動軸55A、55Bから、駆動輪WH、WHに伝達される。
【0025】
図2は、ハウジングHSを車両前方側から見た図である。この図2では、車両前方側から見た収容部68を、ハウジングHSの他の構成要素(ケース6、第1カバー7、第2カバー8)と共に模式的に示している。また、紙面手前側に位置する接合部683の領域に交差したハッチングを付して示している。また、コントロールバルブCVの外観を模式的に示している。
【0026】
図3は、図2におけるA-A線に沿ってコントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPを切断した断面を模式的に示した図である。
図3では、モータ部42の内部の図示を省略して断面を簡略的に示すと共に、コントロールバルブCVと第3カバー9を仮想線で示している。
図4は、図2におけるB-B線に沿ってコントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPを切断した断面を模式的に示した図である。
図4では、モータ部42の内のモータMの位置を破線で略的に示すと共に、コントロールバルブCVと治具5を仮想線で示している。
【0027】
図2に示すように、ケース6では、車両前方側の側面に、収容部68が付設されている。
収容部68は、開口を車両前方側に向けて設けられている。収容部68の紙面奥側の壁部682は、ハウジングHS内の動力伝達機構の回転軸Xに沿う向きで設けられている。回転軸Xの径方向から見て収容部68は、ケース6の周壁部61の領域から、第1カバー7の側方まで及ぶ回転軸X方向(図中、左右方向)の範囲を持って形成されている。
【0028】
収容部68の壁部682は、第2カバー8側の略半分の領域が、ケース6側の周壁部61と一体になっている。第2カバー8とは反対側の略半分の領域は、周壁部61の延長上で、第1カバー7の外周との間に隙間を開けて設けられている。
【0029】
図2に示すように、車両前方側から見て収容部68は、壁部682と、壁部682の外周を全周に亘って囲む周壁部681を有している。周壁部681の紙面手前側の端面は、第3カバー9との接合部683となっている。
図1および図3に示すように、接合部683には、第3カバー9側の接合部911が全周に亘って接合される。収容部68と第3カバー9は、互いの接合部683、911同士を接合した状態で、図示しないボルトで連結される。
【0030】
周壁部681の内側は、コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPを収容する第2室S2となっている。
図3に示すようにコントロールバルブCVは、バルブボディ921、921の間にセパレートプレート920を挟み込んだ基本構成を有している。コントロールバルブCVの内部には、油圧制御回路(図示せず)が形成されている。油圧制御回路には、制御装置(図示せず)からの指令に基づいて駆動するソレノイドや、ソレノイドで発生させた信号圧などで作動する調圧弁(スプール弁SP)が設けられている。
【0031】
図2に示すように、第2室S2内では、コントロールバルブCVが、バルブボディ921、921の積層方向を車両前後方向(紙面手前奥方向)に沿わせた向きで、縦置きされている。
第2室S2では、コントロールバルブCVが、以下の条件を満たすように、縦置きされている。(a)コントロールバルブCV内の複数のスプール弁SPが、動力伝達装置1の車両Vへの設置状態を基準とした鉛直線VL方向(上下方向)に並ぶ、(b)スプール弁SPの進退移動方向Xpが水平線方向(図2における左右方向)に沿う向きとなる。
【0032】
これにより、スプール弁SPの進退移動が阻害されないようにしつつ、コントロールバルブCVが第2室S2内で縦置きされる。よって、第2室S2が車両前後方向に大型化しないようにされている。
【0033】
図2に示すように、車両前方側から見てコントロールバルブCVは、略矩形形状のバルブボディ921に切欠部923を設けた略L字形状を成している。切欠部923は、電動オイルポンプEOPとの干渉を避けるために設けられている。
車両前方側から見て電動オイルポンプEOPは、第2カバー8側(図中、左側)の一部が切欠部923に収容されている。
そのため、鉛直線VL方向から見ると、電動オイルポンプEOPの一部が、コントロールバルブCVと重なる位置関係で設けられている。
【0034】
図2に示すように、第2室S2内では、コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPとが、動力伝達機構の回転軸X方向(図2における左右方向)に並んでいる。
車両前方側から見てコントロールバルブCVは、ケース6と重なる位置関係で設けられている。車両前方側から見て電動オイルポンプEOPは、第1カバー7と重なる位置関係で設けられている。
【0035】
図2に示すように電動オイルポンプEOPは、制御部41と、モータ部42と、ポンプ部43が、モータMの回転軸Z1方向で直列に並んだ基本構成を有する。
車両前方側から見て、電動オイルポンプEOPは、回転軸Z1を、動力伝達機構の回転軸Xに直交させた向きで設けられている。この状態において、電動オイルポンプEOPは、ポンプ部43を第2室S2内の下部側に、制御部41を第2室S2内の上部側に、それぞれ位置させる向きで縦置きされている。
【0036】
図2に示すように、収容部68の壁部682では、車両前方側から見たときに第1カバー7と重なる領域に凹部69が設けられている。凹部69は、電動オイルポンプEOPを収容可能な鉛直線VL方向の高さH69の範囲に形成されている。
図3に示すように、凹部69は、壁部682を第1カバー7側(図中、下側)に窪ませて形成される。凹部69の車幅方向の幅W69は、電動オイルポンプEOPの制御部41の幅W41よりも僅かに大きくなっている(W69>W41)。
【0037】
凹部69の車両前後方向の深さD69は、後記するフランジ部425が、収容部68の接合部683よりも車両前方側に位置すると共に、モータの回転軸Z1が、壁部682よりも車両前方側に位置するように設定されている。
【0038】
本実施形態では、電動オイルポンプEOPの一部を凹部69内に収容することで、電動オイルポンプEOP(制御部41)の車両前方側の側縁41aと、コントロールバルブCV(バルブボディ921)の車両前方側の側縁921aとが、略面一となる位置に配置されるようにしている。これにより、第2室S2が車両前方側に大型化しないようにしている。
【0039】
図5は、電動オイルポンプEOPの正面図である。図5は、第2室S2に配置された電動オイルポンプEOPを車両前方側から見た状態を模式的に示している。
図6は、電動オイルポンプEOPの一部を断面で示した側面図である。なお、図6は、図5におけるA-A線に沿って電動オイルポンプEOPを切断した断面を模式的に示している。
なお、以下の説明においては、電動オイルポンプEOPの各構成要素の位置関係を、必要に応じて、動力伝達装置1の車両Vへの設置状態を基準とした方向を用いて説明する。
【0040】
図3に示すように、電動オイルポンプEOPの制御部41は、回転軸Z1方向から見て略矩形形状を成している。図5に示すように、回転軸Z1の径方向から見て制御部41は、回転軸Z1方向に厚みH41を有している。制御部41の紙面手前側の側縁41aは、後記する治具5の当接部53が当接する平坦面となっている(図6参照)。
図6に示すように、制御部41の側縁41aは、後記するフランジ部425の係止面425bに対して、略平行な平坦面である。図6では、側縁41aと、係止面425bは、回転軸Z1に対して平行である。
なお、図5において交差したハッチングを付した領域R41が、当接部53が当接する領域である。この領域は、後記するモータMの回転軸Z1を、回転軸Z1の直交方向(図5における左右方向)に横切る範囲に設定されている。
【0041】
制御部41の内部には、モータの駆動用の制御基板(図示せず)が収容されている。制御部41では、モータ部42とは反対側(図中、上側)の面に、電力供給線との接続部410が付設されている。
【0042】
モータ部42の内部には、ロータコアMRと、ロータコアMRの外周を囲むステータコアMSが収容される。そのため、モータ部42は、回転軸Z1に直交する断面の基本形状が円形を成している(図3参照)。
【0043】
ここで、本明細書における用語「基本形状」とは、モータ部42が持つ基本的な形状や、モータ部42としての機能を確保するために必要な基本的な形状を意味する。
例えば、図4に示すように、モータMのロータコアMRは、回転軸Z1に直交する断面の外形が円形である。モータMのステータコアMSは、ロータコアMRの外周を全周に亘って囲むことができる形状を持つ。よって、モータMのステータコアMSもまた、回転軸Z1に直交する断面の外径が円形である。そうすると、モータMを内部に収容するために、モータ部42が持つ必要な断面形状は円形となる。
【0044】
図4の場合には、後記するフランジ部425が存在するため、図4に示すモータ部42の断面形状は円形ではない。しかし、フランジ部425は、モータMを内部に収容するために、モータ部42が持つ必要な断面形状とは関係が無い。よって、図4では、モータ部42の断面の基本形状は、円形であるといえる。
【0045】
同様に、図3の場合には、後記するフランジ部425、426が存在するため、図3に示すモータ部42の断面形状は円形ではない。しかし、フランジ部425、426は、モータMを内部に収容するために、モータ部42が持つ必要な断面形状とは関係が無い。よって、図3では、モータ部42の断面の基本形状は、円形であるといえる。
【0046】
本実施形態では、後記する治具5の第2アーム52により、モータ部42の外周が支持される。そのため、「被支持部におけるモータの回転軸に直交する断面の形状」とは、モータ部42における第2アーム52により支持される領域の断面形状、少なくとも第2アーム52により支持される側の断面形状(図4における直線Lmよりも左側の領域の断面形状)を意味する。よって、「断面の基本形状が円形を成している」とは、図4の場合には、基本形状が円形、または円弧形状であることを意味する。
【0047】
図5に示すように、車両前方側から見てモータ部42では、制御部41との境界部に、ボス部421、423が設けられている。さらに、ポンプ部43との境界部にもボス部422、424が設けられている。
【0048】
図6に示すようにボス部421、422は、電動オイルポンプEOPの組付け方向(図6では、車両前後方向)に直線状に延びている。ボス部421、422は、当該ボス部421、422の先端421b、422bが、収容部68の凹部69内で、底壁部691に当接する長さL42で形成されている。
ボス部421、422には、ボルトの挿通孔421a、422aが設けられている。
【0049】
図6において紙面奥側の隠れた位置にあるボス部423、424もまた、ボス部421、422と同様の構成を有している。これらボス部423、424にも、ボルトの挿通孔423a、424aが設けられている(図5参照)。
【0050】
電動オイルポンプEOPは、挿通孔421a~424aを貫通したボルト(図示せず)により、収容部68の底壁部691に固定される。
回転軸Z1の径方向(図5における車両前方側)から見て、ボス部421、422と、ボス部423、424は、回転軸Z1を間に挟んで対称となる位置関係で設けられている。
電動オイルポンプEOPを第2室S2内に設置した状態では、ボス部423、424が、ボス部421、422よりもコントロールバルブCVに近い側に位置する。
【0051】
図5および図6に示すように、回転軸Z1の一方側では、モータ部42の外周に、フランジ部425が設けられている。
フランジ部425は、ボス部421とボス部422の間に位置すると共に、ボス部421とボス部422とに跨がって設けられた板状の部位である。
【0052】
図3に示すように、フランジ部425は、直線Ln1に沿って、直線Lmから離れる方向(コントロールバルブCVから離れる方向)に延びている。ここで、直線Lmは、電動オイルポンプEOPの組付け方向に沿うと共に、モータMの回転軸Z1を通る直線である。直線Ln1は、直線Lmに直交すると共に、車幅方向に延びる直線である。直線Ln1は、制御部41の側縁41a、41bに対して平行な直線である。なお、直線Ln1は、直線Ln2に対して平行である。直線Ln2は、断面視におけるモータ部42の中心(回転軸Z1)を通ると共に、底壁部691に沿って、車幅方向に延びる直線である。
【0053】
図3に示すように、回転軸Z1方向から見てフランジ部425の先端425aは、制御部41の側縁41cよりも僅かに内側(直線Lm側)に位置している。
電動オイルポンプEOPを凹部69に収容すると、フランジ部425は、周壁部681側の接合部683よりも第3カバー9側(図中、上側)に配置される。この状態においてフランジ部425は、接合部683から高さh分だけ離れて位置している。
フランジ部425の接合部683側の下面は、後記する治具5の爪部51a(図4参照)が係止される係止面425bとなっている。係止面425bは、制御部41の側縁41aに対して平行である。
【0054】
モータ部42では、直線Lmから見てフランジ部425とは反対側(コントロールバルブCV側)にも、フランジ部426が設けられている。フランジ部426もまた、モータ部42の外周に設けられた板状の部位である。
フランジ部426は、直線Ln1に沿って、直線Lmから離れる方向に延びている。回転軸Z1方向から見てフランジ部426の先端426aは、制御部41の側縁41dよりも内側(直線Lm側)に位置している。
【0055】
電動オイルポンプEOPを凹部69に収容すると、フランジ部426は、壁部682よりも第3カバー9側(図中、上側)に配置される。この状態においてフランジ部426は、壁部682から高さh'分だけ離れて位置している。
【0056】
図5に示すように、フランジ部426は、ボス部424からボス部423側に向けて、回転軸Z1に沿って延びている。フランジ部426の先端426cは、ボス部423との間に隙間427を空けて対向している。この隙間427は、後記する治具5の第2アーム52が通過可能な幅W427で形成されている。そのため、フランジ部426とボス部423との間の隙間427は、後記する治具5の第2アーム52が通過可能な隙間である。
【0057】
電動オイルポンプEOPは、第2室S2内の凹部69に設置する際に、専用の治具5を用いて把持される。
図4に示すように、電動オイルポンプEOPでは、制御部41の側縁41aと、フランジ部425と、モータ部42の外周42aとが、治具5による把持に関与可能な部位となっている。
【0058】
治具5は、フランジ部425に係止される爪部51aを持つ第1アーム51と、モータ部42の外周42aを支持する支持領域521を持つ第2アーム52と、制御部41の側縁41aに当接する当接部53と、を有している。
第2アーム52の先端52a側は、モータ部42の外周42aの支持領域521となっている。この支持領域521は、モータ部42の外周に沿う弧状を成している。
【0059】
ここで、治具5により電動オイルポンプEOPを把持した状態を基準とすると、支持領域521は、直線Lpを、回転軸Z1周りの周方向に横切る範囲に設けられている。
ここで、直線Lpは、モータ部42における第1アーム51の爪部51aによる支持点と、回転軸Z1とを結ぶ直線であり、モータ部42の直径線に相当する。
【0060】
第2アーム52の先端52aは、治具5により電動オイルポンプEOPを把持する際と、把持を解消する際に、モータ部42の外周42aを摺動する。
そのため、モータ部42の外周42aのうち、少なくとも第2アーム52の先端52aが摺動する領域の表面は、断面視において、回転軸Z1を中心とする円弧状に形成されている(図4における太線で示した領域)。
【0061】
第1アーム51と第2アーム52は、共通の基部50で軸線Zb、Za回りに回動可能に支持されている。第1アーム51と第2アーム52は、図示しないアクチュエータにより、軸線Zb、Za回りに回動可能である。
軸線Zb、Za方向から見ると、第1アーム51と第2アーム52の間に、当接部53が位置している。
図6に示すように、治具5において、第1アーム51と、第2アーム52、当接部53は、モータの回転軸Z1方向に位置をずらして設けられている。
【0062】
以下、治具5を用いた電動オイルポンプEOPの凹部69内への設置を説明する。
図7は、治具5を用いた電動オイルポンプEOPの凹部69内への設置を説明する図である。
図8は、電動オイルポンプEOPを凹部69内に設置した後の第1アーム51の変位を説明する図である。
図9は、電動オイルポンプEOPを凹部69内に設置した後の第2アーム52の変位を説明する図である。
【0063】
始めに、電動オイルポンプEOPを治具5で把持すると、図4に示すように、第1アーム51の爪部51aは、電動オイルポンプEOPのフランジ部425に係止される。
爪部51aは、第1アーム51の下端から第2アーム52側に突出している。爪部51aの上面52bは、フランジ部425の係止面425b(図3参照)に接触可能な平坦面である。
第1アーム51の爪部51aは、フランジ部425の係止面425bに、面接触した状態で係止される。図5に示すように、フランジ部425において交差したハッチングを付した領域R425の紙面裏側の係止面425bが、第1アーム51の爪部51aで支持される。
第2アーム52の支持領域521は、モータ部42の外周42aを支持する(図4参照)。当接部53が、制御部41の側縁41aに当接する(図4参照)。
この状態においてモータ部42の外周42aのうち、図5において交差したハッチングを付した領域R427の紙面奥側に位置する外周42aが、第2アーム52の支持領域521で支持される。当接部53は、制御部41の領域R41(図5において交差したハッチングを付した領域)に当接する。
【0064】
この状態で、治具5を持ち挙げると、電動オイルポンプEOPには、第1アーム51の爪部51aによる係止点から、電動オイルポンプEOPを回転させる方向(図4における反時計CCW回り方向)のモーメントが作用する。
このモーメントは、図5に示す電動オイルポンプEOPを回転軸Z1回りに回転させる方向に作用する。ここで、治具5の当接部53が、制御部41の側縁41aの領域R41に当接している。この領域R41は、回転軸Z1の一方側に位置するフランジ部425側から、他方側に位置するフランジ部426側に向けて、回転軸Z1を横切る範囲である。図5では、フランジ部425に爪部51aからの操作力が作用する。しかし、治具5の当接部53が、回転軸Z1よりもフランジ部425側まで及ぶ領域R41に当接している。そのため、モータ部42の回転軸Z1回りの回転が、制御部41に当接する当接部53により規制される。そのため、電動オイルポンプEOPの回転が、当接部53により規制される。
【0065】
この状態おいて、治具5をさらに持ち上げると、電動オイルポンプEOPには、第1アーム51から離れる方向(図4における左方向)に荷重が作用する。
ここで、第2アーム52の支持領域521が、第1アーム51の爪部51aによる係止点とは反対側で、モータ部42の外周42aを支持している。そのため、電動オイルポンプEOPの第1アーム51から離れる方向への移動が、支持領域521により規制される。
【0066】
さらに、図5に示すように第2アーム52は、フランジ部426とボス部423との間の隙間427内に位置している。そのため、治具5と電動オイルポンプEOPとの回転軸Z1方向での相対移動も規制される。
よって、治具5に把持された電動オイルポンプEOPは、大きくガタつくこと無く、第2アーム52との相対移動が規制される。
【0067】
治具5で把持された電動オイルポンプEOPを、収容部68内(第2室S2内)に設置する際には、図7に示すように、ケース6は、収容部68の開口を上方に向けた状態で保持される。この状態でコントロールバルブCVを設置した後、治具5で把持された電動オイルポンプEOPを上方から下方に向けて移動させて凹部69内に設置する。
【0068】
凹部69内への電動オイルポンプEOPの設置が完了すると、第1アーム51の爪部51aは、収容部68(接合部683)と、フランジ部425との間に配置される(図8の(a)参照)。具体的には、収容部68とフランジ部425との間に高さh分の隙間が存在するため、この高さh分の隙間に爪部51aが位置することになる。
この状態で、図示しないアクチュエータにより第1アーム51を変位させて爪部51aをフランジ部425から離間させる。そうすると、爪部51aの外側に接合部683が位置していないので、爪部51aは、接合部683と干渉することなく、フランジ部425から離間する。これにより、爪部51aによるフランジ部425の支持を解消できる(図8の(b)参照)。
【0069】
そして、治具5を電動オイルポンプEOPから離れる方向(図中、上方向)に移動させると、当接部53が、制御部41の側縁41aから離れることになる。
【0070】
治具5を電動オイルポンプEOPから離れる方向(図中、上方向)に移動させると、第2アーム52の先端52aが、モータ部42の外周42aを摺動しながら、上方に向けて変位する(図9の(a)、(b)参照)。
これに伴い、第2アーム52は、回転軸Z1から離れる方向(コントロールバルブCVに近づく方向)に変位することになる。
先端52aが直線Ln2と交差する位置に達した時点が、第2アーム52がコントロールバルブCVに最も近づくことになる。
本実施形態では、先端52aが直線Ln2と交差する位置に達した時点で、第2アーム52が制御部41の側縁41dよりも外側に到達しないように、モータ部42と制御部41との位置関係が設定されている。
【0071】
ここで、制御部41の側縁41dは、凹部69のコントロールバルブCV側の側縁69aに近接して配置されている。そのため、制御部41の側縁41dは、側縁69a側に位置するコントロールバルブCVにも近接して配置されている。
上記のとおり、第2アーム52の先端52aが直線Ln2と交差する位置に達した時点で、第2アーム52が制御部41の側縁41dよりも外側に到達しないので、第2アーム52は、凹部69を超えて壁部682の領域まで到達しない。
【0072】
これにより、治具5による電動オイルポンプEOPの把持を解消して、治具5を電動オイルポンプEOPから離す方向(図中、上方向)に移動させる際に、コントロールバルブCV側に変位する第2アーム52が、壁部682に設置されたコントロールバルブCVに干渉しないようになっている。
【0073】
このように、コントロールバルブCV側に位置する第2アーム52は、回転軸Z1方向から見て電動オイルポンプEOP(制御部41)よりも外方まで変位しないので(図9の(b)参照)、電動オイルポンプEOPとコントロールバルブCVを近づけて配置できる。
【0074】
さらに、コントロールバルブCVとは反対側位置する第1アーム51は、図8に示すように、回転軸Z1方向から見て電動オイルポンプEOP(制御部41)側のフランジ部425と、収容部68の接合部683との間の隙間に、爪部51aを位置させているので、爪部51aをフランジ部425から離れる方向(図中、右方向)に変位させても、爪部51aが収容部68側の周壁部681(接合部683)に干渉しない。これにより、電動オイルポンプEOPを凹部69の周壁部681に近接して配置することができる。
【0075】
よって、第2室S2(凹部69)内に電動オイルポンプEOPを設置するに当たり、第2室S2を車幅方向に大きく広げる必要が無い。
【0076】
なお、実施形態では、フランジ部425が、ボス部421とボス部422とに跨がって設けられている場合を例示した(図5参照)。フランジ部425を、ボス部421とボス部422の何れにも接続させずに設けても良い。
また、フランジ部425を、ボス部421とボス部422の少なくとも一方にのみ接続させて設けても良い。この場合、治具5の第1アーム51の爪部51aが、ボス部422寄りの位置に係止される場合には、フランジ部425をボス部422に接続する。治具5の第1アーム51の爪部51aが、ボス部421寄りの位置に係止される場合には、フランジ部425をボス部421に接続する。
すなわち、治具5の第1アーム51の爪部51aが係止される位置に応じて、フランジ部425が接続するボス部を変更することで、フランジ部425の剛性強度を確保できる。
【0077】
また、実施形態では、フランジ部426が、ボス部424にのみ接続している場合を例示した。フランジ部426を、ボス部424と接続させずに、ボス部423とボス部424の間に位置させても良い。フランジ部426は、第2アーム52の回転軸Z1方向の変位を規制する。そのため、フランジ部425を、第2アーム52が通過可能な隙間427を確保しつつ、ボス部423、424の間に位置させることでも、第2アーム52の回転軸Z1方向の変位を規制できる。
また、フランジ部426を、ボス部423、424の両方に接続し、モータ部42における治具5の第2アーム52で支持される領域に応じて、フランジ部426に設ける隙間427の位置を、回転軸Z1方向で変更しても良い。
【0078】
また、実施形態では、回転軸Z1方向から見て、第2アーム52をコントロールバルブCV側に配置した場合を例示した。コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPとの間に空間的な余裕がある場合には、第1アーム51の方をコントロールバルブCV側に配置しても良い。
【0079】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(1)動力伝達装置1は、
動力伝達機構を収容するハウジングHS(ケース)と、
動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブCVと、
コントロールバルブにオイルを供給する電動オイルポンプEOP(電動ポンプ)と、を有する。
ハウジングHSは、
動力伝達機構を収容する第1室S1と、
水平線HL方向で第1室S1に隣接配置された第2室S2と、を有する。
コントロールバルブCVは、第2室S2内で、複数の調圧弁を鉛直線VL方向(上下方向)に並べる向きで縦置きされている。
電動オイルポンプEOPは、第2室S2内で、モータMの回転軸Z1を鉛直線VL方向(上下方向)に沿わせた向きで設けられている。
コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPは、動力伝達装置1の回転軸X方向で並んでいる。
電動オイルポンプEOPは、
治具5の第1アーム51が係止されるフランジ部425(第1フランジ部)と、
治具5の第2アーム52により支持されるモータ部42(被支持部)と、を有している。
モータ部42は、モータMの回転軸Z1に直交する断面の基本形状が円形を成している。
フランジ部425は、モータ部42の外周42aから延出している。
【0080】
電動オイルポンプEOPのモータ部42を、治具5の第2アーム52で支持しただけでは、電動オイルポンプEOPは、モータの回転軸Z1回りの回転が許容された状態となる。
電動オイルポンプEOPが、モータ部42の外周42aから延出するフランジ部425を有することで、電動オイルポンプEOPを治具5で把持する際に、第1アーム51の爪部51aをフランジ部425に係止させることで、電動オイルポンプEOPの回転を規制できる。
これにより、治具5を用いて電動オイルポンプEOPを第2室S2に設置する際に、治具5における電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上するので、第2室S2内の限られた空間に、電動オイルポンプEOPを位置精度良く配置できる。
【0081】
(2)フランジ部425は、モータ部42におけるコントロールバルブCVとは反対側の領域から、コントロールバルブCVから離れる方向に延びている。
【0082】
電動オイルポンプEOPを治具5で把持するためには、第1アーム51が変位する空間を、フランジ部425の延出方向の外側に確保する必要がある。
フランジ部425がコントロールバルブCV側に設けられている場合には、電動オイルポンプEOPを治具5で把持するために、コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPとの間に、第1アーム51が変位するための空間を確保する必要がある。
フランジ部425がコントロールバルブCVとは反対側に設けられていると、電動オイルポンプEOPをコントロールバルブCVに近づけて配置できる。これにより、電動オイルポンプEOPを治具5で把持するために必要な空間を確保するために、第2室S2を大型化させる必要が無いので、ハウジングHSの大型化を抑制できる。
【0083】
(3)第2室S2は、
コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPの外周を囲む周壁部681と、
周壁部681に接合されて、周壁部681の開口を塞ぐ第3カバー9(カバー部)と、
第1室S1と第2室S2とを区画する壁部682(区画壁)と、で囲まれた空間である。
周壁部681の開口方向に沿う断面視において、フランジ部425は、周壁部681よりも第3カバー9側に位置している。
【0084】
このように構成すると、周壁部681の開口方向から見てフランジ部425を、周壁部681に近づけて配置しても、フランジ部425の延出方向の外側に、第1アーム51が変位する空間を確保できる。
これにより、電動オイルポンプEOPを治具5で把持するために必要な空間を確保するために、第2室S2を大型化させる必要が無いので、ハウジングHSの大型化を抑制できる。
【0085】
(4)電動オイルポンプEOPでは、ボス部421(第1ボス部)とボス部422(第2ボス部)が、モータMの回転軸Z1方向に間隔をあけて設けられている。
フランジ部425部は、ボス部421とボス部422の間に位置している。
【0086】
電動オイルポンプEOPでは、モータMの回転軸Z1の径方向外側であって、ボス部421とボス部422との間に、利用されない空間が存在する。この利用されていない空間を利用して、フランジ部425を設けることで、電動オイルポンプEOPが回転軸Z1の径方向に大型化することを好適に防止できる。
【0087】
(5)フランジ部425は、ボス部422に接続されている。
【0088】
フランジ部425には、治具5の第1アーム51の爪部51aが係止される。そのため、電動オイルポンプEOPを治具5で把持して持ち上げる際に、フランジ部425に荷重が作用する。
フランジ部425がボス部422に接続されていることで、フランジ部425の剛性強度が、フランジ部425がボス部422に接続されていない場合に比べて高くなる。よって、電動オイルポンプEOPを治具5で把持して持ち上げる際の電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上する。
特に、第1アーム51の爪部51aが、フランジ部425におけるボス部422寄りの位置を支持する場合には、電動オイルポンプEOPの支持に関わる部分の剛性を局所的に高めることができるので、電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上する。
【0089】
(6)フランジ部425は、ボス部421とボス部422とに跨がって設けられている。
【0090】
フランジ部425には、治具5の第1アーム51の爪部51aが係止される。そのため、電動オイルポンプEOPを治具5で把持して持ち上げる際に、フランジ部425に荷重が作用する。
フランジ部425がボス部421とボス部422とに跨がって設けられていることで、フランジ部425の剛性強度が、接続されていない場合に比べて高くなる。よって、電動オイルポンプEOPを治具5で把持して持ち上げる際の電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上する。
【0091】
(7)電動オイルポンプEOPでは、ボス部423(第3ボス部)とボス部424(第4ボス部)が、モータの回転軸Z1方向に間隔をあけて設けられている。
ボス部423とボス部424は、モータの回転軸Z1を挟んでボス部421およびボス部422とは反対側に位置している。
ボス部423とボス部424の間に、フランジ部426(第2フランジ部)が設けられている。
フランジ部426は、モータMの回転軸Z1方向でボス部422と同じ側に位置するボス部424から、モータMの回転軸Z1方向でボス部421と同じ側に位置するボス部423に向けて、回転軸Z1に沿って延びている。
フランジ部426では、ボス部423側の先端426cと、ボス部423との間に隙間427が設けられている。
隙間427は、モータMの回転軸Z1方向の幅W427が、治具5の第2アーム52が通過可能な幅である。
【0092】
このように構成すると、ボス部423とフランジ部426との間に隙間427が形成される。この隙間427に第2アーム52を挿入して、モータ部42を第2アーム52で支持できる。
ボス部423とフランジ部426が、モータの回転軸Z1方向への第2アーム52の変位を規制するので、電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上する。
さらに、第1アーム51による支持位置と、第2アーム52による支持位置とを、モータの回転軸Z1方向にずらすことができるので、電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上する。
【0093】
(8)電動オイルポンプEOPは、
治具5の当接部53が当接する被当接部となる側縁41aを有している。
側縁41aは、モータの回転軸Z1方向から見て、モータの回転軸Z1を通る直線Ln2に対して平行な平坦面である。当接部53の平坦面と、フランジ部425の係合面(係止面425b)は、ほぼ平行に形成されている。
【0094】
電動オイルポンプEOPを治具5で把持する際には、第1アーム51をフランジ部425に係止させると共に、第2アーム52の支持領域521で、モータ部42の外周42aを支持させる。
この際に、治具5側の当接部53が、電動オイルポンプEOP側の被当接部である側縁41aに当接することで、電動オイルポンプEOPの回転を確実に規制できる。さらに、当接部53の平坦面と、フランジ部425の係合面は、ほぼ平行に形成されているため、電動オイルポンプEOPにモーメントが発生しにくくなり、回転方向の動きが生じにくくなる。これにより、治具5における電動オイルポンプEOPの支持安定性が向上するので、第2室S2内の限られた空間に、電動オイルポンプEOPを位置精度良く配置できる。
【0095】
前記した実施形態では、動力伝達装置1がエンジンENGの回転を駆動輪WH、WHに伝達する場合を例示したが、動力伝達装置1は、エンジンENGとモータ(回転電機)のうちの少なくとも一方の回転を駆動輪WH、WHに伝達するものであっても良い。例えば、1モータ、2クラッチ式(エンジンENGと動力伝達装置の間にモータが配置され、エンジンENGとモータの間に第1のクラッチが配置され、動力伝達装置1内に第2のクラッチが配置された形式)の動力伝達装置であっても良い。
また、前記した実施形態では、動力伝達装置1が変速機能を有している場合を例示したが、動力伝達機構は変速機能を持たず、単に減速する(増速であってもよい)ものであっても良い。動力伝達装置が変速機能を有しておらず、動力伝達装置が、モータの回転を減速して駆動輪WH、WHに伝達する構成である場合には、モータの冷却用のオイルOLと、減速機構の潤滑用のオイルOLを供給するための油圧制御回路を、電動オイルポンプEOP共に、第2室S2に配置することになる。また、前記した実施形態では、動力伝達装置1のコントロールユニットがコントロールバルブCVを備えた場合を例示したが、動力伝達装置1が、変速機構をも持たず、また、駆動源がエンジンENGではなく、モータ(回転電機)の場合にあっては、モータを駆動制御するインバータ等を備えたコントロールユニットであっても良い。
【0096】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 動力伝達装置
41 制御部
41a 側縁(被当接部)
42 モータ部(被支持部)
42a 表面(外周)
421 ボス部(第1ボス部)
422 ボス部(第2ボス部)
423 ボス部(第3ボス部)
424 ボス部(第4ボス部)
425 フランジ部(第1フランジ部)
426 フランジ部(第2フランジ部)
427 隙間
5 治具
51 第1アーム
51a 爪部
52 第2アーム
53 当接部
681 周壁部
682 底壁部(区画壁)
9 第3カバー(カバー部)
CV コントロールバルブ
EOP 電動オイルポンプ(電動ポンプ)
HS ハウジング(ケース)
S1 第1室
S2 第2室
M モータ
X、Z1 回転軸



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9