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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020026802
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021131466
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋月 智雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 正志
(72)【発明者】
【氏名】笹目 大樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-091452(JP,A)
【文献】特開2017-069202(JP,A)
【文献】特開2016-212211(JP,A)
【文献】特開2008-152958(JP,A)
【文献】特開2005-043743(JP,A)
【文献】特開平11-305578(JP,A)
【文献】特開2003-208053(JP,A)
【文献】特開2008-293870(JP,A)
【文献】特開2001-222173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のフィルムと、ヒータ及び前記ヒータを保持する保持部材を有し前記フィルムの内面と摺接するニップ部形成ユニットと、ゴム層を有する加圧ローラであって、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットと対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧ローラと、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー像を加熱し記録材に定着させる定着装置において、
前記ヒータは、金属製の基板と、前記基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され、通電されることで発熱する発熱体と、を有し、
前記保持部材は、記録材の搬送方向における前記基板の一端を保持する第1保持部と、前記搬送方向における前記基板の他端を保持する第2保持部と、前記搬送方向における前記第1保持部と前記第2保持部の間に前記第1保持部及び前記第2保持部に対して段差となっている凹部と、を有し、
前記搬送方向に関して、前記基板の長さよりも前記ニップ部の長さの方が短く、且つ、前記凹部の長さよりも前記ニップ部の長さの方が短く、
定着装置の長手方向に見た場合に、前記ニップ部において前記加圧ローラの前記ゴム層が潰されており、
前記ヒータは、定着装置の前記長手方向に見た場合に、前記ヒータの前記加圧ローラとは反対側の面が前記凹部に入り込むことにより、前記ヒータの前記加圧ローラ側の面が凹状に湾曲した状態で前記保持部材に保持されている、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記ヒータは、前記フィルムを介して前記加圧ローラに押圧されていない状態では前記長手方向に見て直線状であり、前記フィルムを介して前記加圧ローラに押圧されている状態では前記凹部に向かって撓む、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記第1保持部及び前記第2保持部は、前記ヒータの前記加圧ローラに対向する面とは反対側の面を保持する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記搬送方向における前記第1保持部及び前記第2保持部の間隔が3mm以上である、
ことを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記凹部が、前記長手方向に関して前記ヒータが設けられている範囲の全長に亘って設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記凹部が、前記長手方向に関して前記ヒータが設けられている範囲の一部であって、前記長手方向における前記ニップ部の中央位置に対して対称に設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記基板の厚みが0.6mm未満である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
回転する像担持体と、
前記像担持体の表面に担持されたトナー像を記録材に転写する転写手段と、
前記転写手段によって記録材に転写されたトナー像を記録材に定着させる請求項1乃至7のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材に画像を定着させる定着装置及び記録材に画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタや複写機に搭載される熱定着方式の定着装置として、セラミックス製等の基板上に発熱抵抗体を有するヒータと、ヒータに接触しつつ移動する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータに対向する加圧ローラを有するものがある。未定着トナー像を担持する記録材は、定着フィルムと加圧ローラの間のニップ部(定着ニップ部)で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。
【0003】
定着装置においては、トナー像を乗せた記録材をフィルムから分離する際に、記録材先端部上に担持したトナー量が多い場合には、フィルムに転写材が巻き付いて正常に排出されないことがある。特に高温高湿環境では、記録材中の水分量が増加し記録材の剛性(いわゆる“紙のコシ”)が低くなるために巻き付きリスクが高くなる。プリンタや複写機の高速化や薄紙使用率の向上に伴って、定着装置の耐巻き付き性能の向上が必要となっている。特許文献1には、全面画像を出力する場合に、画像形成前の段階で転写材に定着装置を通過(プレ定着)させて水分量を減じて転写材の剛性を高め、さらに転写材の分離に有利な方向にカール付けをした後に、画像形成及び定着処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-195347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献の方法では画像形成装置の生産性が低下してしまうため、生産性への影響がより少ない方法で耐巻き付き性能を向上させることが求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、定着装置の耐巻き付き性能を向上可能な定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、筒状のフィルムと、ヒータ及び前記ヒータを保持する保持部材を有し前記フィルムの内面と摺接するニップ部形成ユニットと、ゴム層を有する加圧ローラであって、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットと対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧ローラと、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー像を加熱し記録材に定着させる定着装置において、前記ヒータは、金属製の基板と、前記基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され、通電されることで発熱する発熱体と、を有し、前記保持部材は、記録材の搬送方向における前記基板の一端を保持する第1保持部と、前記搬送方向における前記基板の他端を保持する第2保持部と、前記搬送方向における前記第1保持部と前記第2保持部の間に前記第1保持部及び前記第2保持部に対して段差となっている凹部と、を有し、前記搬送方向に関して、前記基板の長さよりも前記ニップ部の長さの方が短く、且つ、前記凹部の長さよりも前記ニップ部の長さの方が短く、定着装置の長手方向に見た場合に、前記ニップ部において前記加圧ローラの前記ゴム層が潰されており、前記ヒータは、定着装置の前記長手方向に見た場合に、前記ヒータの前記加圧ローラとは反対側の面が前記凹部に入り込むことにより、前記ヒータの前記加圧ローラ側の面が凹状に湾曲した状態で前記保持部材に保持されている、ことを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、定着装置の耐巻き付き性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る画像形成装置の概略構成図。
図2】実施例1に係る定着装置を示す断面図。
図3】実施例1に係る定着装置に用いられるフィルムアセンブリの分解図。
図4】実施例1に係る定着装置の一部を示す正面図。
図5】実施例1に係るヒータの断面図。
図6】実施例1に係るヒータホルダの斜視図。
図7】実施例1に係るヒータの概略構成図。
図8】実施例1に係るヒータホルダの斜視図。
図9】実施例1に係るヒータホルダ及びヒータの概略構成図(a)及び模式図(b)。
図10】実施例1に係るヒータホルダの断面図。
図11】実施例1に係るヒータの加圧状態における変形を示す概略図。
図12】実施例1に係る定着装置における記録材の排出状態を示す概略図。
図13】比較例1に係る定着装置の概略構成図。
図14】比較例2に係る定着装置の概略構成図。
図15】比較例3に係る定着装置の概略構成図。
図16】比較例1に係る定着ニップ部における圧力分布を示す概略図。
図17】実施例1に係る定着ニップ部における圧力分布を示す概略図。
図18】実施例2に係るヒータの加圧状態における変形を示す概略図。
図19】実施例3に係るヒータの加圧状態における変形を示す概略図。
図20】実施例4に係るヒータホルダの斜視図。
図21】実施例4に係るヒータホルダの一部における断面図。
図22】実施例4に係るヒータホルダの他の一部における断面図。
図23】実施例4の変形例に係るヒータホルダの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
(1)画像形成装置
図1は実施例1に係る画像形成装置としての、電子写真技術を用いたレーザビームプリンタ(以下、単にプリンタ100とする)の断面図である。以下、プリンタ100の構成及び動作を簡単に説明する。
【0012】
プリンタ100は、プリント指示を受けると、スキャナユニット3が画像情報に応じたレーザ光Lを、像担持体としての感光体1に出射する。帯電ローラ2によって所定の極性に帯電された感光体1はレーザ光Lによって走査され、これにより感光体1の表面には画像情報に応じた静電潜像が形成される。その後、現像器4が感光体1にトナーを供給し、感光体1に画像情報に応じたトナー像を形成する。感光体1の矢印R1方向への回転により感光体1と、転写手段としての転写ローラ5との間に形成される転写部(転写ニップ部)に到達したトナー像は、カセット6からピックアップローラ7によって給送されてくる記録材Pに転写される。転写ニップ部を通過した感光体1の表面はクリーナ8でクリーニングされる。トナー像t(図2)が転写された記録材Pは、熱定着方式の定着装置9で熱及び圧力を掛けられ定着処理される。
【0013】
その後、記録材Pは排出ローラ10によってトレイ11に排出される。なお、記録材Pとして、普通紙及び厚紙等の紙、プラスチックフィルム、布、コート紙のような表面処理が施されたシート材、封筒やインデックス紙等の特殊形状のシート材等、サイズ及び材質の異なる多様なシートを使用可能である。また、ここでは感光体1から記録材Pにトナー像を直接転写する方式を挙げたが、感光体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する方式の画像形成装置に対して以下で説明する技術を適用してもよい。
【0014】
(2)定着装置
定着装置9について説明する。定着装置9はテンションレスタイプのフィルム加熱方式である。即ち、定着装置9は、耐熱性フィルムとして可撓性を有する無端ベルト状(もしくは円筒状)の定着フィルムを用い、定着フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションが掛からない状態とし、定着フィルムが加圧部材の回転駆動力で回転する構成である。
【0015】
以後、本実施例に係るフィルム加熱方式の定着装置9について詳細を説明する。図2は定着装置9の断面図である。図3は定着装置9に用いられるフィルムアセンブリ20の分解斜視図である。図4は定着装置9の一部を示す正面図である。以下、定着装置9の構成要素の位置関係については、加圧ローラ30の定着フィルム23への押圧方向をZ’-Z方向、記録材の搬送方向をY-Y’方向、定着装置9の長手方向(加圧ローラ30の軸方向)をX’-X方向とする。
【0016】
本実施例の定着装置9は、図2図4に示すように筒状の定着フィルム23と、定着フィルム23の内面に接触する加熱体であるヒータ22と、定着フィルム23を介してヒータ22に向けて押圧される加圧部材としての加圧ローラ30とを有する。ヒータ22が定着フィルム23に接触している領域と重なる部分に、定着フィルム23と加圧ローラ30との間のニップ部(圧接部)として定着ニップ部Nfが形成される。ヒータ22は耐熱樹脂の保持部材であるヒータホルダ21に保持されている。ヒータ22及びヒータホルダ21は、定着ニップ部Nfを形成するための本実施例のニップ部形成ユニットとして機能する。ヒータホルダ21は定着フィルム23の回転を案内するガイドの機能も有している。加圧ローラ30はモータから動力を受けて矢印b方向に回転する。加圧ローラ30が回転することによって定着フィルム23が従動して矢印a方向に回転する。
【0017】
ヒータホルダ21は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイト)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。ヒータ22は、少なくとも金属又は合金を主材とした細長い板状の基板(金属基板)と、通電により発熱する抵抗発熱体(発熱体)と、抵抗発熱体と基板を絶縁する絶縁層と、発熱体を保護するガラスコート層を有している。ヒータ22の詳細については後述する。
【0018】
ヒータ22の定着フィルム23に対する当接面と反対側(図中上側)には、温度検知素子であるサーミスタ25が当接している。サーミスタ25の検知温度に応じて発熱体への通電が制御されることで、定着ニップ部Nfの温度が画像の定着に適した設定温度に維持される。
【0019】
定着フィルム23の厚みは、良好な熱伝導性を確保するため20μm以上100μm以下程度が好ましい。定着フィルム23としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)・PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)・PPS等の材質の単層フィルムが好適である。また、定着フィルム23としては、PI(ポリイミド)・PAI(ポリアミドイミド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・PES(ポリエーテルスルホン)等の材質からなる基層の表面に、PTFE・PFA・FEP(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)等を離型層(表層)としてコーティングした複合層フィルムも好適である。さらに、高熱伝導性を有するSUS、Al、Ni、Cu、Zn等の純金属、合金等を基層に用い、離型層に前述のコーティング処理、フッ素樹脂チューブの被覆を行ったものも好適である。
【0020】
本実施例では、定着フィルム23の基層を厚さ60μmのPIとし、離型層には通紙による離型層の摩耗と熱伝導性の両立を考慮して厚み12μmのPFAをコーティングしたものを用いた。
【0021】
加圧部材(加圧回転体)としての加圧ローラ30は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金30aと、シリコーンゴム等の材質の弾性層30bと、PFA等の材質の離型層30cと、を有する(図2)。弾性層30bは芯金30aの外周に形成され、離型層30cは弾性層30bの外周に形成されて加圧ローラ30の最表層を構成している。加圧ローラ30の芯金30aの軸方向片側の端部には、駆動ギア33(図3)が取り付けられており、不図示の駆動手段から駆動ギア33を介して回転駆動力を受けることで加圧ローラ30が回転する。
【0022】
図2の断面図を参照して、定着装置の構成について説明する。補強部材24は鉄等の金属からなり、ヒータホルダ21を加圧ローラ30側に押圧する圧力でも大きく変形しないように強度を維持する部材である。ヒータ22は後述の押圧手段によって、ヒータホルダ21と補強部材24を介して加圧ローラ30側に押圧されている。この押圧力により加圧ローラ30と定着フィルム23が密着している領域(圧接領域)が、本実施例における定着ニップ部Nfである。そして、加圧ローラ30の加圧位置(加圧ローラ30に対するヒータ22の押圧力の作用点の位置)と、記録材の搬送方向におけるヒータ22の中央部の位置は略同一としている。
【0023】
次に、図3の斜視図を参照して説明する。ヒータホルダ21は、横断面で略樋型(U字型)形状を有しており、桶型の内側に補強部材24が嵌合する。ヒータホルダ21の加圧ローラ30と対向する側にはヒータ受け溝が設けられており、ヒータ22がヒータ受け溝に嵌ることで所望の位置に位置決めされる。ヒータホルダ21の詳細な形状については後述する。定着フィルム23は上述の部品が組みつけられたヒータホルダ21の外側に周長に余裕を持って外嵌している。定着フィルム23の円筒形状の軸方向(図中で定着フィルム23が挿入される矢印方向)を、定着装置9の「長手方向」と称する。本実施例において、加圧ローラ30、ヒータ22及びヒータホルダ21は、いずれも長手方向に延びる細長い部材である。
【0024】
補強部材24の長手方向両端部は、定着フィルム23の両端から突き出た張り出し部となっており、それぞれフランジ部材26,26が嵌着されている。定着フィルム23、ヒータ22、ヒータホルダ21、補強部材24及びフランジ部材26,26は、全体でフィルムアセンブリ20として組み立てられる。
【0025】
ヒータ22の給電端子も定着フィルム23に対して長手方向一方側に突出しており、該給電端子に給電コネクタ27が嵌合されている。給電コネクタ27がヒータ22の電極部と当接圧をもって接触し、商用電源から供給される電力をヒータ22に供給する給電経路を構成している。
【0026】
ヒータ22の長手方向他方側(給電端子とは反対側)には、ヒータクリップ28が取り付けられている。ヒータクリップ28は、コの字型(U字型)に曲げられた金属板であり、そのバネ性によってヒータ22の端部をヒータホルダ21に対して保持している。
【0027】
次に図4の正面図を参照して説明する。各フランジ部材26は回転走行する定着フィルム23の長手方向への移動を規制し、定着装置稼働中の定着フィルム23の位置を規制するものである。長手方向両側のフランジ部材26,26のつば(定着フィルム端部と摺接する部分)の間の距離は、定着フィルム23の長手方向の長さより長く設定されている。これは、通常使用時に定着フィルム端部にダメージを与えないためである。
【0028】
また、加圧ローラ30の長手方向の長さが定着フィルム23よりも約10mm程度短く構成されている。これは定着フィルム23の端部からはみ出したグリスが加圧ローラ30に付着して、加圧ローラ30が記録材に対するグリップ力を失いスリップが発生することを防止するためである。
【0029】
フィルムアセンブリ20は加圧ローラ30に対向して設けられ、長手方向(図内の左右方向)への移動は規制され、かつ、上下方向に移動可能な状態で、定着装置9の天板側筐体41に支持されている。天板側筐体41には加圧バネ45が圧縮した状態で取り付けられている。加圧バネ45の押圧力は補強部材24の張り出し部が受けており、加圧ローラ30側に補強部材24が押圧されることで、フィルムアセンブリ20全体が加圧ローラ30に押し付けられている。
【0030】
加圧ローラ30の芯金を軸支するように軸受部材31が設けられている(図3も参照)。軸受部材31はフィルムアセンブリ20からの押圧力を、加圧ローラ30を介して受け止めている。比較的高温になる加圧ローラ30の芯金を回転自在に支持するために、軸受の材質は耐熱性があって、かつ摺動性に優れる材質が用いられる。軸受部材31は定着装置の底側筐体43に取り付けられている。
【0031】
底側筐体43及び天板側筐体41は、フィルムアセンブリ20に対して長手方向両側に設けられて上下に延びるフレーム側板42,42と共に、定着装置9の筐体(枠体)を構成している。
【0032】
(3)ヒータ
次に、本実施例のヒータ22を構成する材料、製造方法等について図5から図7を用いて説明する。
【0033】
図5はヒータ22の断面図である。ヒータ22は、金属製の基板22aと、通電により発熱する発熱抵抗層としての発熱体22cと、発熱体22cと基板22aを絶縁する絶縁層22bと、発熱体を保護するガラスコート層等の保護層22dとを有する。基板22aは、金属又は合金を主材とした細長い板状である。また、製造時の基板22aの反りを低減するために、基板22aの厚さ方向で発熱体22cが設けられた面(第1面)とは反対側の面(第2面)にも絶縁層22e(絶縁層22bを第1の絶縁層としたときの第2の絶縁層)を有している。
【0034】
基板22aに用いられる材料としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミのいずれか、又はそれらを主材とする合金が好適に用いられる。これらのうち、ステンレスが強度、耐熱性、腐食の観点で最も好ましい。ステンレスの種類としては特に限定されず、必要な機械的強度、次項で述べる絶縁層及び発熱体の形成に合わせた線膨張係数、市場における板材の入手のし易さ等を考慮して適宜選べば良い。
【0035】
一例を挙げると、クロム系ステンレス(400系)のマルテンサイト系及びフェライト系がステンレスの中でも線膨張係数が比較的低く、絶縁層及び発熱体の形成がし易く好適に用いられる。
【0036】
絶縁層22b,22eの材質は特に限定はされないが、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。絶縁層22b,22eの材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、ガラスの場合の具体的粉末材料の選定は、実施形態の特性を損なわない範囲で適宜選択されれば良い。必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合させても良い。絶縁層22b,22eは同じ材質を用いても、異なる材質を用いても何ら問題はない。厚みに関しても同様に絶縁層22b,22eで同じにしても良いし、必要に応じて変更しても問題ない。
【0037】
一般的に画像形成装置に用いるヒータ22としては絶縁耐圧を1.5KV程度有しておくことが好ましい。そのため発熱体22cと基板22a間で絶縁耐圧性能1.5KVを得るべく、絶縁層22bの膜厚を材料に応じて確保すれば良い。
【0038】
絶縁層22b,22eの成型方法としては特に限定されないが、一例としてはスクリーン印刷法等で平滑に成形することができる。基板22a上にガラスやPI(ポリイミド)の絶縁層を形成する際には、材料間の線膨張係数差により絶縁層にクラックや剥がれが生じないように、基板と絶縁層材料の線膨張係数を適宜調整する必要がある。
【0039】
発熱体22cは、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストを絶縁層22b上に印刷した後、焼成したものである。発熱抵抗体ペーストを焼成すると(C)の有機結着成分が焼失し(A)、(B)成分が残るため、導電成分とガラス成分とを含有する発熱体22cが形成される。
【0040】
ここで、(A)の導電成分としては、銀・パラジウム(Ag・Pd)、酸化ルテニウム(RuO)、等の単独もしくは複合で用いられ、0.1[Ω/□]~100[KΩ/□]のシート抵抗値とするのが好適である。また、上記(A)~(C)以外においても実施形態の特性を損なわない程度の微量であれば他の材料を含有していてもよい。
【0041】
図6に示す給電用電極22f及び導電パターン22gは、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)や銀・白金(Ag・Pt)合金、銀・パラジウム(Ag・Pd)合金を例とする導電成分を主体とする。給電用電極22f及び導電パターン22gは、発熱抵抗体ペーストと同様に(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合したペーストを絶縁層22b上に印刷した後、焼成したものである。給電用電極22fと導電パターン22gは発熱体22cに給電する目的で設けられた導電部であり、抵抗は発熱体22cに対して十分低くしている。
【0042】
ここで、前述の発熱抵抗体ペースト及び給電用電極及び導電パターンペーストは、基板22aの融点より低い温度で軟化溶融する材質を選択し、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。
【0043】
図5に示すように、ヒータ22の絶縁層22bの上(絶縁層上)には発熱体22c及び導電パターン22gを覆う保護層22dが設けられている。発熱体22cを基板22aの定着フィルム23と接触する側(図2における下側)に配置した場合は、保護層22dは発熱体22cと定着フィルム23との電気的な絶縁性を確保し、発熱体22cと定着フィルム23との摺動性を確保する保護機能を有する。材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合しても良い。
【0044】
本実施例では金属基板の柔軟性を活用してヒータ22を変形させるため、基板22aの厚みは、厚すぎないことが望ましく、例えば基板22aの厚みは0.6mm未満とすると好適である。その他の要因として、基板22aの厚みは強度や熱容量、放熱性能を考慮して決めれば良い。薄い基板22aは、熱容量が小さいためクイックスタート性(ヒータ22の通電開始から目標温度到達までの時間の短さ)には有利だが、薄すぎると発熱抵抗体の加熱成型時に歪み等の問題が生じ易くなる。逆に厚い基板22aは、発熱抵抗体の加熱成型時の歪みの面では有利であるが、厚すぎると熱容量が大きいためクイックスタートには不利となる。基板22aの好ましい厚みの下限は、例えば0.2mmである。
【0045】
本実施例では基板22aとして幅20mm・長さ376mm・厚さ0.3mmのフェライト系ステンレス基板(SUS430:18Crステンレス)を準備した。
【0046】
次に前述のステンレス基板に絶縁層ガラスペーストをスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て絶縁層22b,22eを形成した。焼成後の絶縁層22b,22eの厚みはステンレス基板の両面でそれぞれ25μmとした。
【0047】
その後、銀・パラジウム(Ag・Pd)を導電成分とし、その他ガラス成分、有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストと、銀を導電成分とし、その他ガラス成分、有機結着成分を混合した給電用電極及び導電パターン用のペーストを用意した。各ペーストをステンレス基板にスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て、発熱体22c、給電用電極22f及び導電パターン22gを形成した。焼成後の発熱体22cの厚みは15μm、長さは312mm、幅は2.0mmとした。
【0048】
次に、保護層ガラスペーストを準備し、発熱体22c及び導電パターン22g上に保護層ガラスペーストをスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て、保護層22dを形成した。焼成後の保護層22dの厚みは30μmとした。
【0049】
本実施例ではヒータの柔軟性を活用してヒータを変形させるため、クラックや剥がれを防止する観点で絶縁層22b,22eや保護層22dは厚すぎない方がよく、具体的には、100μmを超えない程度が望ましい。
【0050】
(4)ヒータホルダ及びヒータの保持方法
ヒータホルダ21は、ヒータ22を支持する支持部材(保持部材)として機能すると共に、円筒状である定着フィルム23の回転走行を案内するガイドでもある。ヒータホルダ21はポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料等を好適に用いることができる。
【0051】
中でも液晶ポリマーは以下のような利点から、特に好適に用いることができる。まず耐熱温度が高いためにヒータ22の設定温度の自由度が大きくできる。またモールド成型できるために、生産性が良く大量生産が可能である。さらには寸法安定性に優れるため加圧部材への押圧力を均等にすることができ紙搬送性能が安定することができる。本実施例では、液晶ポリマーにグラスファイバーを混合した複合材料を用いた。
【0052】
図7はヒータホルダ21をZ’-Z方向に見た概略図である。本実施例では、斜線で示す保持部W1にヒータ22が保持された状態で定着ニップ部Nfの加圧が行われ、ヒータ22に押圧力が作用する構成である。以下、図8図9及び図10を用いてヒータ22の保持方法を説明する。
【0053】
図8はヒータホルダ21を加圧ローラ30側から見た斜視図である。保持部W1は、図7と同様に加圧ローラ30から加圧されるヒータ22をヒータホルダ21が保持する部分である。また、図9(a)はヒータホルダ21にヒータ22を配置した状態の、加圧ローラ30側から見た(Z’-Z方向に見た)概略図であり、図9(b)はその模式図である。
【0054】
図9(a、b)に示す通り、ヒータ22は、加圧ローラ30の軸方向(X’-X方向)の位置を、ヒータホルダ21の半月状の凸部(点線部C)においてヒータホルダ21に位置決めされている。このような位置決めとすることで、加熱時によるヒータ22の伸縮があったとしても適切にヒータ22を保持することができる。また、ヒータ22は、記録材の搬送方向(Y’-Y方向)の位置を、加圧ローラ30の軸方向(X’-X方向)における両側の壁部に形成された突き当て部(点線部B)において、ヒータホルダ21に位置決めされている。このような位置決めとすることで、加圧ローラ30の回転駆動時にヒータ22に対して定着フィルム23が摺動するときでも、適切にヒータ22を保持することができる。
【0055】
図10図8図9の点線部A-Aにおけるヒータホルダ21の断面を加圧ローラ30の軸方向(X’-X方向)に見た図である。矢印a及び矢印dで示されるヒータホルダ21の切欠き部がヒータ22を収容する(ヒータホルダ21内に保持される)部分である。aの寸法は20.3mmであり、ヒータ22の幅寸法(20mm)よりも若干大きくしてある。dの寸法は0.3mmであり、ヒータ22の厚み寸法(0.3mm)と略同じである。
【0056】
矢印b及び矢印cで示されるヒータホルダ21の段差部分は、図7,8で斜線で示す保持部W1であり、加圧ローラ30からの加圧力に抗してヒータ22が保持される場所を示している。bの寸法、cの寸法は共に1.0mmであり、段差部分(b、c)の間の間隔fがヒータ22の幅寸法(20mm)より小さい寸法(18mm)となっている。またこの段差部分(b、c)は矢印eで示される切欠き部(凹形状)によって生じている段差である。eの寸法は0.2mmである。このような構成により、ヒータ22の幅寸法(20mm)の内、幅方向の両端部がヒータホルダ21に保持された状態で、ヒータ22が加圧ローラ30からの加圧力を受けることになる。
【0057】
なお、保持部W1及び保持部W1の間の切欠き部は、長手方向におけるヒータ22の全長に亘って設けられている。ヒータ22の幅方向における一方の段差部分(b)を本実施例の第1保持部とするとき、他方の段差部分(c)は本実施例の第2保持部である。
【0058】
図11に本実施例における定着装置9におけるヒータ22とヒータホルダ21の加圧状態における変形の概略図を示す。ヒータ22は、熱応力に対する強度の観点でセラミックスよりも優れる金属を基材とするため、その厚みを十分に小さくしても従来のヒータに比べて十分な使用時強度を得られる。一方で、機械的には厚みを薄くすることにより、さらにはセラミックスより柔らかい基材であるため従来のヒータに比べて柔軟性をもっている。この金属基板のヒータ22を幅方向両端部にて保持されるように構成して、加圧ローラ30の押圧力を与えることで撓ませる(変形させる)ことができる。
【0059】
図12に、本実施例における定着装置9の記録材の排出状態の概略図を示す。上述のヒータ22の変形により加圧ローラ30と定着フィルム23の圧接部(定着ニップ部Nf)の形状を加圧ローラ側に凹状(加圧部材側に凹状)とすることができる。「加圧ローラ側に凹状(定着フィルム側に凸状)」とは、記録材の搬送方向(Y’-Y方向)における対象部分の中央部に比べて対象部分の両端部の方が、加圧ローラ30の加圧方向(Z’-Z方向)に関して加圧ローラ30側にあることを指す。
【0060】
なお、加圧ローラ30及びフィルムアセンブリ20を相対移動可能に構成して、圧接部(定着ニップ部Nf)の加圧を解除可能とすることも可能である。その場合、加圧状態では上記の通りヒータ22が変形した状態となり、加圧を解除した圧解除状態では長手方向に見てヒータ22が直線状に伸びた状態となる。
【0061】
(5)作用効果
本実施例の作用効果について比較例と対比させて説明する。まず、比較例1として、図13に概略図を示す通りの、セラミックス製の基板上に発熱抵抗体を有するヒータ122と、ヒータの変形を許容しないヒータホルダ121を用いた構成を挙げる。また、比較例2として、図14に概略図を示す通りの、本実施例で用いた金属基板のヒータ22と、ヒータの変形を許容しないヒータホルダ121を用いた構成を挙げる。また、比較例3として、図15に概略図を示す通りの、セラミックス製の基板上に発熱抵抗体を有するヒータ122と、本実施例で用いたヒータ保持方法のヒータホルダ21を用いた構成を挙げる。比較例1,2におけるヒータホルダ121は、図16に示すように平面状の支持面121aでヒータ22,122を支持するため、加圧ローラ30の加圧力を受けてもヒータ22,122が変形しない。
【0062】
本実施例の作用効果を検証するために、以下の実験を行った。実験方法と結果を以下に述べる。
【0063】
1)実験方法1(巻き付き試験)
記録材には、CS-060F(キヤノンマーケティングジャパン、商品名)のA4用紙(横送り)を用いた。そして、濃度100%の全面モノクロ画像を余白5mm設定で、印刷モードとしては薄紙モードを用いて、定着装置が十分に冷えた状態から連続10枚印刷のサンプリングを行った。実験に用いた画像形成装置において、このときのプロセススピードは190mm/sec、スループットは1分間に46枚である。印刷中に定着装置に記録材が巻き付いた場合を×、巻き付かなかった場合を○とした。実験を行った雰囲気環境は温度32.5℃、湿度80%である。
【0064】
2)実験方法2(定着可能電力)
記録材には、Office70(キヤノンマーケティングジャパン、商品名)のA4用紙(横送り)を用いた。そして、濃度100%の全面モノクロ画像を余白5mm設定で、印刷モードとしては普通紙モードを用いて、定着装置が十分に冷えた状態から連続50枚印刷のサンプリングを行った。実験に用いた画像形成装置において、このときのプロセススピードは190mm/sec、スループットは1分間に46枚である。実験的に定着設定温度を1℃刻みで変更しながら印刷と、定着装置が印刷中に消費した電力のサンプリングを行い、全面ベタ画像が実用上十分な定着性で定着できる最小限の消費電力(定着可能電力とする)を求めた。
【0065】
具体的には、ディジタルパワーメーターWT300E(横河計測株式会社、商品名)を用い、連続50枚印刷時の、定着装置のヒータに通電による積算電力量(Wh)を測定し、そこから消費電力(W)を求めた。例えば定着設定温度を200℃としたときに消費電力が800Wであり全面ベタ画像が定着しており、定着設定温度を199℃としたときに消費電力が795Wであり全面ベタ画像が定着していなかったとする。このとき、全面ベタ画像が定着できる最小限の消費電力として定着可能電力は800Wとした。実験を行った雰囲気環境は温度23℃、湿度50%である。
【0066】
3)実験方法3(定着寿命)
記録材には、Office70(キヤノンマーケティングジャパン、商品名)のA4用紙(横送り)を用い、濃度10%の全面ハーフトーン画像を余白5mm設定で、印刷モードとしては普通紙モードを用いて、連続2枚印刷の繰り返しサンプリングを行った。実験に用いた画像形成装置において、このときのプロセススピードは190mm/sec、スループットは1分間に46枚である。耐久試験の開始時と、その後2万枚おきに画像サンプリング及びスティックスリップ音(ヒータと定着フィルムの摺動性悪化による異音)の発生有無確認を行った。スティックスリップ音が確認された時点で印刷は終了し、その2万枚前の発生しなかったことが確認できた印刷枚数を、定着装置の寿命とした。実験を行った雰囲気環境は温度23℃、湿度50%である。
【0067】
表1に本実施例と比較例における、実験方法1,2,3の結果について示す。
【表1】
【0068】
まず、実験方法1の結果を用いて、本実施例の構成がもたらす作用効果を説明する。説明する。表1に示すように、本実施例における定着装置においては巻き付きは発生しなかったものの、比較例1,2,3の定着装置においては巻き付きが発生した。本実施例においては図11、12を用いて先に説明した通り、金属基板のヒータ22を幅方向(記録材の搬送方向)両端部で保持されるように構成して、加圧ローラ30からの押圧力によって加圧ローラ側に凹状に変形させる構成としている。その結果、加圧ローラ30と定着フィルム23の圧接部の形状を加圧ローラ方向に凹状とすることができる。この作用により、紙の排出方向が加圧ローラ方向にすることができ、巻き付きに対するマージンを向上することができる。
【0069】
次に、実験方法2の結果を用いて、本実施例の構成がもたらす他の作用効果を説明する。本実施例における定着装置の定着可能電力は、比較例1,2,3の定着装置に比べて2%弱低く、消費電力を低減できていた。図16に比較例1の定着装置の概略図と定着装置におけるヒータ-定着フィルム間の圧力分布(定着フィルム-記録材間の圧力分布も実質的に同様である)を示す。圧力分布は点線で示してある。加圧ローラの押しつぶしによる変形と、その反力により、Y’-Y方向の加圧ローラ30の加圧中心部において圧が高く、圧接部の端部において徐々に圧が低くなるような山型の圧力分布となる。圧力分布の形状は比較例2,3についても同様である。
【0070】
図17に本実施例の定着装置の概略図と定着装置におけるヒータ-定着フィルム間の圧力分布の圧力分布を示す。比較例との差異がわかりやすいように、本実施例の圧力分布は実線で示し、比較例1の圧力分布を点線で示してある。本実施例においては、比較例1とは異なり、加圧ローラ30に押圧されることで金属基板のヒータ22の変形が生じている。その結果、Y’-Y方向の加圧ローラ30の加圧中心部における圧ピークは比較例1,2,3よりも低く、圧接部の端部近傍にかけては比較例1,2,3よりも圧力が高くなるような山型の圧力分布となる。
【0071】
本実施例の定着装置の定着可能電力が小さくなった効果は、この圧力分布形状の違いによるものである。定着装置においては、記録材上のトナー像を加熱・加圧により溶融変形をさせることにより固着画像とするものである。Y’-Y方向に記録材が進むに従い、定着装置内で記録材及びトナー像が加熱される。トナー像の変形は、温度が高くなるほど変形しやすくなるため、より搬送方向下流(Y方向に進んだ箇所)において高い圧力を受ける方がトナー像の変形効率が良くなる。この作用により、本実施例の定着装置がトナー像の変形効率が高く、より低い消費電力で定着可能となる。
【0072】
さらに、実験方法3の結果を用いて、本実施例の構成がもたらす他の作用効果を説明する。本実施例における定着装置の定着寿命は、比較例1,2,3の定着装置に比べて2万枚寿命が長かった。
【0073】
本実施例の定着装置の定着寿命が長くなった効果も、上記の圧分布形状の違いによるものである。スティックスリップ音の発生は、耐熱グリスの耐久劣化による摺動性の悪化によって発生する。本実施例の定着装置においては、圧ピークの高さが低いため、グリスの摺動劣化が抑えられる。この作用により、定着装置の長寿命化が可能となる。
【0074】
以上説明したように、本実施例では、金属基板のヒータ22を幅方向両端部にて保持されるように構成して、加圧ローラ30の押圧力を与えることで変形させることで、記録材の耐巻き付き性能の向上が可能となった。
【実施例2】
【0075】
実施例2に係る定着装置及び画像形成装置について説明する。本実施例は、ヒータホルダ21におけるヒータ22の保持形状が実施例1と異なっているため、ヒータホルダ21の保持形状について説明する。その他の実施例1と共通の符号を付した要素は実施例1と同様の構成及び作用を有するものとする。
【0076】
図18に実施例2におけるヒータホルダ21の形状とヒータ22の保持状態の概略図を示す。実施例2では、ヒータ22の幅方向の両端部を保持する実施例1とは異なり、ヒータ22の幅方向(記録材の搬送方向、Y’-Y方向)に離れた2箇所の保持部W2でヒータ22の両端部より内側の部分を保持する。一方の保持部W2を本実施例の第1保持部とするとき、他方の保持部W2は本実施例の第2保持部である。2箇所の保持部W2は、ヒータ22の変形を許容するために幅方向に3mm以上(かつ、ヒータ22の幅寸法未満)離れていると好適である。
【0077】
本実施例のヒータホルダ21によっても、加圧ローラ30からの加圧力によってヒータ22の変形が生じるため、定着フィルム23と加圧ローラ30の圧接部(定着ニップ部)は凹状に変形する。そのため、記録材の耐巻き付き性能が向上する。また、実施例1と同様に、圧接部(定着ニップ部)における圧力分布が分散することによる消費電力の低減や定着装置の長寿命化が可能となる。
【実施例3】
【0078】
実施例3に係る定着装置及び画像形成装置について説明する。本実施例は、ヒータホルダ21におけるヒータ22の保持形状が実施例1、2のいずれともと異なっているため、ヒータホルダ21の保持形状について説明する。その他の実施例1、2と共通の符号を付した要素は実施例1、2と同様の構成及び作用を有するものとする。
【0079】
図19に実施例3におけるヒータホルダ21の断面形状とヒータ22の保持状態の概略図を示す。本実施例は、ヒータホルダ21がヒータ22を保持する保持部W3(ヒータ22の加圧ローラ30に対向する面とは反対側の面をヒータホルダ21が保持する部分)が、加圧ローラ側に凹状に湾曲した面で構成されている。
【0080】
本実施例のヒータホルダ21によっても、加圧ローラ30からの加圧力によってヒータ22は保持部W3の湾曲に沿って加圧ローラ側に凹状に変形するため、定着フィルム23と加圧ローラ30の圧接部(定着ニップ部)は凹状に変形する。また、実施例1と同様に、圧接部(定着ニップ部)における圧力分布が分散することによる消費電力の低減や定着装置の長寿命化が可能となる。
【実施例4】
【0081】
実施例4に係る定着装置及び画像形成装置について説明する。本実施例は、ヒータホルダ21におけるヒータ22の保持形状が実施例1~3のいずれともと異なっているため、ヒータホルダ21の保持形状について説明する。その他の実施例1、2と共通の符号を付した要素は実施例1~3と同様の構成及び作用を有するものとする。
【0082】
図20は、実施例4におけるヒータホルダ21を加圧ローラ30側から見た斜視図である。斜線部として示す保持部W4は、図8に示す実施例1の保持部W1と同様に、加圧ローラから加圧されるヒータ22をヒータホルダ21が保持する部分である。本実施例では、ヒータ22の変形を可能とするヒータホルダ21の凹形状を、長手方向に関してヒータ22が設けられている範囲の一部であって、長手方向における定着ニップ部の中央位置に対して対称に設けている。
【0083】
図21図20における点線部A(長手方向におけるヒータ22及び定着ニップ部Nfの中央位置)のヒータホルダ21の断面を示したものである。この位置では、保持部W4はヒータ22の幅方向に互いに離れた2箇所に分かれており、ヒータホルダ21はヒータ22が加圧ローラ側に凹状に変形することを許容する形状となっている。
【0084】
一方、図22図20における点線部D,E(長手方向におけるヒータ22の端部付近の位置)のヒータホルダ21の断面を示したものである。この位置では、保持部W4は平面状であり、ヒータホルダ21はヒータ22が加圧ローラ側に凹状に変形することを規制する。
【0085】
このように、加圧ローラ30の軸方向(X’-X方向、定着装置の長手方向)において、ヒータホルダ21がヒータ22の変形を許容しつつ保持する部分を、長手方向に関してヒータ22が設けられている範囲の一部としてもよい。図20図22に示す構成例では、長手方向における中央部においてヒータ22の変形を許容し、それ以外の部分(長手方向の両端部)ではヒータ22の変形を許容しない構成としている。
【0086】
記録材の巻き付きは、加圧ローラ30の軸方向(X’-X方向)において、起点になる場所が決まっている場合がある。この構成は、長手方向の中央部が巻き付きの起点になる場合に効果的である。本実施例で用いる金属基板のヒータ22は、一般的なセラミックス基板のヒータよりも柔軟であることから、このような3次元に変形させるような保持方法においても効果を得ることができる。
【0087】
なお、記録材の巻き付きの起点になる場所が長手方向の端部である場合には、図23のような構成も可能である。この変形例の場合、点線部A(長手方向におけるヒータ22及び定着ニップ部Nfの中央位置)のヒータホルダ21の断面は図22と同様であり、ヒータ22の変形を規制する形状となっている。一方、点線部D,E(長手方向におけるヒータ22の端部付近の位置)のヒータホルダ21の断面は図21と同様であり、ヒータ22が加圧ローラ側に凹状に変形することを許容する形状となっている。この変形例によっても、記録材の記録材の耐巻き付き性能の向上が可能である。
【0088】
(その他の実施例)
上述した各実施例はモノクロ画像形成装置を用いて説明した。しかし、本技術は、記録材搬送ベルトを用いたタンデム型のカラー画像形成装置や、4サイクル型の中間転写方式のカラー画像形成装置や、タンデム型の中間転写方式のカラー画像形成装置にも適用できる。また、中間転写方式において記録材搬送ベルトを用いたカラー画像形成装置、さらには、4つ以上のトナーを使用した画像形成装置など、類似の構成に用いた定着装置においても本技術を適用できる。
【0089】
また、上述した各実施例において、ヒータホルダ21の保持形状として、3つの形状例について説明した。しかし、その他の大きさのものや、その他の形状においても、金属基板のヒータ22を凹形状に保持することができていれば同様の効果が得られ、本技術を適用できる。
【0090】
なお、実施例4において、ヒータホルダ21の保持形状として、加圧ローラ30の軸方向に3分割した形状例について説明した。しかし、2分割やそれ以上の分割をした構成や、ヒータ22を変形させる形状から変形させない形状に連続的につながった構成においても、金属基板のヒータ22を凹形状に保持することができていれば同様の効果が得られ、本技術を適用できる。
【0091】
また、例えばヒータ22を凹形状のヒータホルダ21に接着することで、加圧ローラ30による加圧の有無によらず、ヒータ22が常時加圧ローラ側に凹状となった状態でヒータホルダ21に保持される構成としてもよい。
【0092】
また、上述した各実施例の定着装置は、ヒータ22がフィルム内面に直接接触しているが、ヒータとフィルム内面との間に、熱伝導性が高いシート状の部材(例えば材質が合金鉄やアルミのシート状の部材)を配置してもよい。つまり、ヒータがシート状の部材を介してフィルムを加熱する構成のニップ部形成ユニットを用いてもよい。
【符号の説明】
【0093】
9…定着装置/21…ニップ部形成ユニット、保持部材(ヒータホルダ)/22…ニップ部形成ユニット、ヒータ/22a…基板/22b…絶縁層/22c…発熱体/23…フィルム(定着フィルム)/30…加圧部材(加圧ローラ)/100…画像形成装置(プリンタ)/Nf…ニップ部(定着ニップ部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23