(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】火災検知システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/12 20060101AFI20241105BHJP
G08B 25/00 20060101ALI20241105BHJP
G08B 17/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
G08B17/12 B
G08B25/00 510M
G08B17/00 C
(21)【出願番号】P 2020077122
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229405
【氏名又は名称】日本ドライケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎也
(72)【発明者】
【氏名】砂原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】成田 賢悦
(72)【発明者】
【氏名】雉子牟田 剛
【審査官】山岸 登
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101416(JP,A)
【文献】特開2014-241062(JP,A)
【文献】特開2000-137877(JP,A)
【文献】特開2019-079446(JP,A)
【文献】登録実用新案第3123378(JP,U)
【文献】特開平11-276632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T7/00-7/90
G06V10/00-20/90
30/418
40/16
40/20
G08B17/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低天井部よりも天井高が高い高天井部の屋内空間の画像信号の色空間をRGBからHSVに変換し、H、S、Vの各値に対してそれぞれ設定した画像信号用閾値を用いて画像信号を2値化することでマスク画像を生成し、前記マスク画像中の燃焼炎部分に外接する矩形領域の画像部分を拡大又は縮小し、火災推定部のニューラルネットワークを用いた画像認識処理に適した大きさ及びアスペクト比の推定用画像を生成する前処理部と、
前記推定用画像に対する前記ニューラルネットワークの画像認識結果に基づいて、前記屋内空間に燃焼炎が存在する確率を推定する推定部と、
前記確率が火災発生の判断基準とする火災閾値以上となった場合に火災推定信号を出力する通知部と、
を備える火災検知システム。
【請求項2】
前記屋内空間における火災を検出すると火災検知信号を出力する火災感知器と、前記火災検知信号及び前記火災推定信号のうち少なくとも一方が出力された場合に、前記屋内空間における火災発生の報知先に対する火災移報信号を出力する火災移報部とをさらに備える請求項1記載の火災検知システム。
【請求項3】
前記
推定用画像は、前記屋内空間を前記高天井部の天井高よりも低い所定高さの撮影点から撮影した画像であり、前記火災感知器は、前記高天井部の天井に設置されている請求項2に記載の火災検知システム。
【請求項4】
前記ニューラルネットワークは、所定期間における燃焼炎のゆらぎを画像認識する長・短期記憶ユニット(Long short-term memory、LSTM)ネットワークを中間層に有している請求項1~3のいずれか1項に記載の火災検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高天井空間は、例えば、複数階に跨がる空間を有する建築物、展示会場、アリーナ等においてよく見られる。複数階に跨がる空間としては、例えば、アトリウム(内部公開空地)、吹き抜け等を挙げることができる。高天井空間において火災を検知する火災感知器について、特許文献1では、天井又は壁面に配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高天井空間では、天井又は壁面に設置した火災感知器が、通常の建築物よりも床面から大きく離れた位置に配置される可能性がある。このため、特に、床面付近で火災が発生した場合に、火災感知器が、熱、煙、輝度温度、赤外線等により火災を検知するのに、通常の建築物の火災感知器よりも時間がかかる可能性がある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、高天井空間における早期の火災検知を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の一つの態様による火災検知システムは、
低天井部よりも天井高が高い高天井部の屋内空間の画像に対するニューラルネットワークの画像認識結果に基づいて、前記屋内空間に燃焼炎が存在する確率を推定する推定部と、
前記確率が火災発生の判断基準とする火災閾値以上となった場合に火災推定信号を出力する通知部と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高天井空間における早期の火災検知を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る火災検知システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】
図1の監視装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の前処理部が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】(a)は
図1の各監視カメラがそれぞれ出力する画像信号のRGBの色空間を示す説明図、(b)は
図2の前処理部により変換された各画像信号のHSVの色空間を示す説明図である。
【
図5】(a)は
図1の監視カメラが出力する画像信号による監視領域の元画像を示す説明図、(b)は元画像を2値化したマスク画像を示す説明図である。
【
図6】(a)は
図5(b)のマスク画像中の燃焼炎に該当する部分について特定したXY座標の最大値及び最小値をそれぞれ示す説明図、(b)は(a)のXY座標値から設定した燃焼炎部分に外接する矩形領域を示す説明図である。
【
図7】
図2の監視装置上に仮想的に構築される火災推定部が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図2の火災推定部が行う燃焼炎の特徴抽出に関する処理の手順を模式的に示す説明図である。
【
図9】
図2の火災推定部が燃焼炎の存在確率の推定に用いるニューラルネットワークを示す説明図である。
【
図10】(a),(b)は
図5(a)の元画像に存在するゆらぎを伴う燃焼炎を示す説明図、(c)は(a),(b)の燃焼炎のゆらぎによる形状変化を示す説明図である。
【
図11】
図9のニューラルネットワークの中間層の後段部分に用いる長・短期記憶ユニットネットワークの構成を示す説明図である。
【
図12】
図2の学習処理部が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0010】
また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
図1に示す本実施形態の火災検知システム1は、高天井部3及び低天井部5を有する建築物の屋内空間7において、燃焼炎による火災の発生を検知する。
【0012】
高天井部3は、例えば、建築物のエントランス部に設けることができる。高天井部3の空間7は建築物の複数階に跨がっており、高天井部3の天井高は、空間7が階毎に区画された低天井部5の天井高よりも高い。
【0013】
火災検知システム1は、一定の面積以下の空間を1つの警戒区域として、各警戒区域毎に火災の発生を検知する。本実施形態の火災検知システム1では、それぞれが1つの警戒区域に該当する高天井部3及び低天井部5の各空間7の火災を検知するために、火災感知器11及び監視カメラ13を各空間7にそれぞれ配置している。
【0014】
また、火災検知システム1は、各空間7の火災感知器11及び監視カメラ13の他、建築物内の管理事務所9に配置された受信機15、モニタ盤17、監視装置19及び表示盤21を有している。表示盤21は、メッセージ表示部(図示せず)を有している。メッセージ表示部では、例えば、火災検知システム1による火災の検知状況を表示することができる。
【0015】
なお、本実施形態では、少なくとも、火災感知器11、受信機15、その他機器の発信機、表示灯及び地区音響装置(いずれも図示せず)で構成される公知の自動火災報知設備と、監視カメラ13、モニタ盤17及び表示盤21とによって、自動火災報知設備を構成することができる。また、受信機15、モニタ盤17、監視装置19及び表示盤21は、各々独立した装置で構成することができる。あるいは、受信機15、モニタ盤17、監視装置19及び表示盤21の一部又は全部を1つの装置によって構成することもできる。
【0016】
各火災感知器11は、高天井部3及び低天井部5の各空間7において火災をそれぞれ検知する。自動火災報知設備の設置基準によれば、火災感知器11が炎感知器の場合は、警戒区域の床面から1.2mの高さの各部分を監視できるように設置することが求められている。また、火災感知器11がスポット型の熱感知器又は煙感知器の場合は、床面を監視できるように設置することが求められている。そこで、各火災感知器11は、上述した設置基準を満たす各空間7の天井又は天井付近の壁面にそれぞれ設置することができる。また、火災感知器11は、例えば、燃焼炎が二酸化炭素共鳴放射により放射する特定波長の赤外線を検出して火災を検知し、火災検知信号を出力する方式とすることができる。
【0017】
火災感知器11が検出する赤外線の波長は、例えば、4μm台とすることができる。4μm台の波長の赤外線は、燃焼炎が二酸化炭素共鳴放射によって放射する赤外線として一般的に知られている。各空間7、即ち、各警戒区域の火災感知器11がそれぞれ出力する火災検知信号は、通信線23によって建築物内の管理事務所9の受信機15に個別に伝送される。
【0018】
各監視カメラ13は、対応する高天井部3及び低天井部5の各空間7を含む撮影範囲のフルカラー画像をそれぞれ撮影する。
【0019】
天井高が低い低天井部5の監視カメラ13は、火災感知器11と同じく、低天井部5の天井又は天井付近の壁面に設置される。天井高が低天井部5よりも高い高天井部3の監視カメラ13は、高天井部3の天井よりも床面に近い所定高さの壁面に設置される。
【0020】
高天井部3の監視カメラ13は、天井又は天井付近の壁面に設置すると、高天井部3の空間7の床面を上方から見下ろす角度で、空間7の画像を撮影することになる。この角度の画像では、例えば、床面付近で火災が発生した場合に、火災の燃焼炎のゆらぎによる形状変化を画像上で認識することが困難である。
【0021】
そのため、高天井部3の監視カメラ13は、高天井部3の天井又は天井付近の高さよりも低い所定高さの壁面に設置されている。この高さに監視カメラ13を設置することで、例えば、床面付近で火災が発生した場合に、高天井部3の空間7で発生した燃焼炎の形状及びゆらぎを画像上で認識しやすい角度から、空間7の画像を監視カメラ13で撮影することができる。高天井部3の監視カメラ13の設置位置は、高天井部3の空間7の画像を撮影する所定高さの撮影点に該当する。
【0022】
高天井部3及び低天井部5の各監視カメラ13がそれぞれ出力する画像信号は、モニタ線25によって建築物内の管理事務所9のモニタ盤17に個別に伝送される。
【0023】
なお、火災感知器11は、必ずしも監視カメラ13よりも高い位置に設置されるとは限らない。火災感知器11の中には、床面に近い位置に設置されるタイプのものもある。このタイプの火災感知器11を用いる場合は、高天井部3及び低天井部5の各監視カメラ13よりも低い位置の壁面に火災感知器11を設置する場合もある。
【0024】
また、高天井部3及び低天井部5の各空間7が、1つの警戒区域として扱うことが許された面積よりも広い場合は、各空間7を複数の警戒区域に分割し、火災感知器11及び監視カメラ13を各警戒区域にそれぞれ設置することができる。
【0025】
受信機15は、各火災感知器11からの火災検知信号を受信すると、火災の発生をインジケータ(図示せず)等によって表示することができる。このインジケータは、例えば、各火災感知器11にそれぞれ対応する各空間7、即ち、各警戒区域別に設けることができる。
【0026】
各空間7別にインジケータをそれぞれ設ける場合、受信機15は、受信した火災検知信号の出力元の火災感知器11に対応するインジケータにおいて、各空間7の火災の発生を表示することができる。即ち、受信機15は、インジケータによる火災発生の表示によって、火災の発生と共に火災が発生した空間7を知らせることができる。
【0027】
また、受信機15は、各火災感知器11からの火災検知信号又は後述する監視装置19からの火災推定信号を受信すると、火災移報信号を出力する。火災移報信号は、火災が発生したこと及び火災が発生した空間7等を他の設備に伝達する信号である。受信機15が出力する火災移報信号は、一般的には、移報先に出力することができる。移報先は、例えば、建物設備全般を統括管理する中央監視設備、高天井部3及び低天井部5を有する建築物の防排煙設備、空調設備、各空間7を防護する消火設備等である。
【0028】
モニタ盤17は、各監視カメラ13からの画像信号を受信して、受信した画像信号により各空間7の画像をモニタ(図示せず)等に表示することができる。モニタの画面は、例えば、各監視カメラ13にそれぞれ対応する複数のエリアに分割することができる。モニタの画面を各監視カメラ13に対応する複数のエリアに分割する場合、モニタ盤17は、例えば、モニタの各エリアにおいて、対応する監視カメラ13で撮影した各空間7の画像をリアルタイムで表示することができる。
【0029】
また、モニタ盤17は、各監視カメラ13から受信した画像信号を分配器(図示せず)により複数に分配することができる。画像信号を複数に分配する場合、モニタ盤17は、例えば、分配した画像信号の1つをモニタに供給し、他の1つを監視装置19に出力することができる。
【0030】
監視装置19には、各監視カメラ13からの画像信号がモニタ盤17を介して入力される。監視装置19は、火災感知器11による空間7の火災発生の検知とは別に、空間7の撮影画像中に燃焼炎が存在する確率を推定する。
【0031】
監視装置19は、例えば、
図2に示すように、CPU27、ROM29、RAM31及び外部記憶装置33を有するパーソナルコンピュータによって構成することができる。CPU27は、例えば、外部記憶装置33に格納されたプログラムを実行することで、監視装置19上に、前処理部35、火災推定部37、後処理部39及び学習処理部41を仮想的に実装させることができる。
【0032】
監視装置19は、火災推定部37が各監視カメラ13から受信した画像信号毎に行う処理の結果次第で、後処理部39から受信機15に、各監視カメラ13にそれぞれ対応する空間7毎の火災推定信号を出力することができる。
【0033】
前処理部35は、
図1のモニタ盤17を介して入力された各監視カメラ13からの画像信号に、
図3に示す処理をそれぞれ実行する。まず、前処理部35は、入力された監視カメラ13の画像信号の色空間を、
図4(a)に示すRGBから
図4(b)に示すHSVに変換する(ステップS11)。
【0034】
HSVは、色相(Hue)、彩度(Saturation・Chroma)、明度(Value・Brightness)の3成分で示す色空間である。以後の処理で扱う画像信号の色空間は、必ずしもHSVでなくてもよい。しかし、本実施形態では、色相を環状に展開できる利点を生かして、以後の処理でHSVの色空間の画像信号を扱うようにしている。
【0035】
なお、色空間を変換する際に、変換後の画像信号からノイズ成分を除去してもよい。ノイズ成分は、例えば、色空間の変換に伴って画像信号の各画素値に発生する突出成分である。ノイズ成分は、例えば、ガウシアンフィルタを用いたフィルタ処理を画像信号に施し、隣接画素間の突出した画素値変化を抑えることで除去することができる。
【0036】
次に、前処理部35は、
図3に示すように、
図1の監視カメラ13により撮影した
図5(a)の元画像中の燃焼炎部分を抽出するための
図5(b)のマスク画像を生成する(ステップS13)。マスク画像は、H、S、Vの各値に対してそれぞれ設定した閾値を用いて画像信号を2値化することで、生成することができる。H、S、Vの各値に対する閾値は、例えば、実験により得た燃焼炎の抽出に適した値に設定することができる。
【0037】
続いて、前処理部35は、
図3に示すように、
図5(b)のマスク画像中の燃焼炎に該当する部分を抽出する(ステップS15)。その際に、前処理部35は、例えば、
図6(a)に示すように、マスク画像中の燃焼炎部分のXY座標における最大値及び最小値をそれぞれ特定する。そして、前処理部35は、
図6(b)に示すように、設定した各座標値をそれぞれ通るX軸方向及びY軸方向の各2本の直線により、燃焼炎部分に外接する矩形領域を設定する。
【0038】
なお、マスク画像に対して複数の矩形領域を設定できる場合に、前処理部35は、例えば、面積が一番大きい矩形領域を自動的に選択してもよい。あるいは、複数の矩形領域の中からユーザの確認操作によって1つの矩形領域を選択してもよい。また、マスク画像中から抽出できる燃焼炎部分が存在しない場合は、前処理部35は、ステップS15以降の各ステップを省略して
図3に示す処理を終了してもよい。
【0039】
また、前処理部35は、
図3に示すように、
図1の監視カメラ13により撮影した
図5(a)の元画像中の、
図6(b)の矩形領域の画像部分を拡大又は縮小し、火災推定部37の処理に適した大きさ及びアスペクト比の推定用画像を生成する(ステップS17)。そして、一連の処理を終了する。
【0040】
なお、矩形領域の画像が拡大又は縮小によっても推定用画像の大きさ及びアスペクト比にならない場合は、前処理部35は、推定用画像の大きさに収まるサイズに矩形領域の画像部分を拡大又は縮小する。この場合、前処理部35は、拡大又は縮小後の画像における、アスペクト比の不一致により推定用画像の画素に対応する画素が存在しない部分に、ゼロパディングによってダミーの画素値を追加することができる。
【0041】
前処理部35は、
図1の各監視カメラ13から入力される画像信号の各フレームについて、上述した
図3のフローチャートによる処理をそれぞれ実行し、火災推定部37に入力する各空間7の推定用画像の動画を生成する。推定用画像の動画は、例えば、燃焼炎に特有のゆらぎの周期以上の長さに亘るフレーム数とすることができる。
【0042】
火災推定部37は、前処理部35が生成した各空間7の推定用画像の動画に対し、
図7に示す処理をそれぞれ実行する。まず、火災推定部37は、前処理部35が生成した推定用画像の動画の各フレームについて、
図4(a)に示すRGBから
図4(b)に示すHSVに色空間を変換する(ステップS31)。
【0043】
次に、火災推定部37は、ニューラルネットワークを用いて、HSVの色空間に変換した推定用画像の動画に対し、H、S、Vの成分毎の各フレーム、即ち、推定用画像からそれぞれの燃焼炎の形状、色の特徴マップを生成する(ステップS33)。
【0044】
以上のステップS31及びステップS33において火災推定部37が行う処理は、
図8に模式的に示す手順で行うことができる。火災推定部37は、特に、
図7のステップS33における特徴マップの生成処理を、H、S、Vの成分毎に、例えば、フィルタを用いた畳み込み処理及びプーリングによる圧縮処理の組み合わせによって、実行することができる。
【0045】
続いて、火災推定部37は、ステップS33で生成したH、S、Vの成分毎の特徴マップに基づいて、ニューラルネットワークを用いて、推定用画像の動画中に燃焼炎が存在する確率を推定する(ステップS35)。そして、一連の処理を終了する。
【0046】
ステップS35で火災推定部37が行う処理には、例えば、
図9のニューラルネットワークを用いることができる。このニューラルネットワークは、入力層と出力層との間に複数の中間層を有している。中間層の前段部分は、推定用画像に存在する物体の形状、色等を特徴マップから認識するための層である。また、中間層の後段部分は、前段部分で認識した形状、色の物体のフレーム間での変化から、燃焼炎のゆらぎに該当する動きを認識するための層である。
【0047】
即ち、燃焼炎にはゆらぎが生じる。ゆらぎとは、時間の経過に伴う燃焼炎の強弱変化のことである。例えば、燃焼炎に生じるゆらぎが「1/fゆらぎ」である場合は、燃焼炎の強弱変化を周波数スペクトルに分解したときに、各周波数における強弱変化の強さ(振幅)Pが、周波数fの変化に対してP=a/f(aは正の定数)の関係で変化する。
【0048】
したがって、空間7に火災が発生すると、例えば、監視カメラ13で撮影した空間7の所定期間に亘る動画画像に対する画像認識結果に基づいて、空間7にゆらぎを伴う燃焼炎が存在する確率を推定することができる。そこで、火災推定部37のニューラルネットワークは、ゆらぎを伴う燃焼炎が空間7に存在する確率を、監視カメラ13の撮影画像を用いて推定する。
【0049】
図9の入力層には、
図7のステップS33で火災推定部37がH、S、Vの成分毎に生成した特徴マップを1列に展開した各マスの値が入力される。
図9の中間層の前段部分では、火災推定部37は、全結合層の繰り返しによるニューラルネットワークにより、推定用画像に存在する物体の形状、色等を認識することができる。なお、中間層の前段部分に非全結合層又はドロップアウト層が存在してもよい。
【0050】
図9の中間層の後段部分では、火災推定部37は、例えば、推定用画像の各フレームに
図10(a)に示す燃焼炎Fが存在する場合に、その燃焼炎Fがゆらぎを伴う燃焼炎Fであるか否かを認識することができる。
図9の出力層には、推定用画像の動画中にゆらぎを伴う燃焼炎Fが存在する確率と存在しない確率とを示す値が、0~1の実数値でそれぞれ出力される。なお、本実施形態では、出力層に出力される2つの値の合計が常に1となる。
【0051】
図9の中間層の後段部分には、例えば、長・短期記憶ユニット(Long short-term memory、LSTM)のネットワークを用いることができる。長・短期記憶ユニットは、複数フレーム前から現在までの各推定用画像から火災推定部37が生成した特徴マップの値を用いて、ゆらぎを伴う燃焼炎Fを認識する処理を行うことができる。長・短期記憶ユニットは、例えば、
図11の説明図に示す構成とすることができる。
【0052】
なお、
図11では、説明をわかりやすくするために、現在のフレームtの入力xtに対して情報伝達する長・短期記憶ユニットを実線で示し、1つ前のフレームt-1の出力ht-1を得る長・短期記憶ユニットを破線で示している。破線で示す長・短期記憶ユニットは、実線で示す長・短期記憶ユニットと同一の構成を有している。
【0053】
まず、実線で示す長・短期記憶ユニットでは、今回のフレームtに対する入力xtと1つ前のフレームt-1の短期出力ht-1とを合計し、忘却、入力、出力の3つのゲートとハイボリックタンジェントtanhとに分配している。
【0054】
忘却ゲートでは、1つ前のフレームt-1の短期出力ht-1と今回のフレームtに対する入力xtとの合計から、1つ前のフレームt-1の長期出力ct-1に対するバイアスとする数値ftを、シグモイド関数σを用いて設定する。数値ftは、0~1の実数値である。数値ftは、1つ前のフレームt-1の長期出力ct-1に乗算される。
【0055】
入力ゲートでは、1つ前のフレームt-1の短期出力ht-1と入力xtとのどれを更新するかを定める数値itを、シグモイド関数σを用いて設定する。数値itは、短期出力ht-1と入力xtとのどちらか又はそれらの合計値である。また、数値itに対するベクトル、即ち、正負の符号を含む数値ztを、ハイボリックタンジェントtanhを用いて設定する。数値ztは、-1~1の実数値である。数値ztは数値itに乗算された後、数値ftと1つ前のフレームt-1の長期出力ct-1との乗算値ft×(ct-1)に加算される。
【0056】
数値ftと1つ前のフレームt-1の長期出力ct-1との乗算値ft×(ct-1)に、数値itと数値ztとの乗算値it×ztを加算した値ft×(ct-1)+it×ztは、今回のフレームtの長期出力ctとなる。また、値ft×(ct-1)+it×ztは、入力ゲート用とは別に設けられた出力ゲート用のハイボリックタンジェントtanhの入力となる。出力フレーム用のハイボリックタンジェントtanhは、今回のフレームtの短期出力htに対するベクトル、即ち、正負の符号を含む数値を設定するのに用いられる。
【0057】
出力ゲートでは、1つ前のフレームt-1の短期出力ht-1と入力xtとの合計から出力する部分を値によって定義するためのバイアスとする数値otを、シグモイド関数σを用いて設定する。数値otは、1つ前のフレームt-1の短期出力ht-1と入力xtとの合計を最大値とする実数値である。数値otは、出力フレーム用のハイボリックタンジェントtanhが設定する数値と乗算される。この乗算値は、今回のフレームtの短期出力htとなる。
【0058】
以上に説明した長・短期記憶ユニットでは、忘却、入力、出力の3つのゲートの各シグモイド関数σと、入力ゲート用のハイボリックタンジェントtanhとが、学習の対象となる。
【0059】
以上に説明した長・短期記憶ユニットにより、
図2の火災推定部37は、長期依存性のあるゆらぎを伴う燃焼炎Fが推定用画像の動画中に存在する確率を、情報処理により見つかる解の数が増大し最適解が見つからなくなるのを防ぎつつ推定することができる。例えば、火災推定部37は、
図10(a)のハッチ部分で示す燃焼炎Fが、時間の経過と共に
図10(b)のハッチ部分で示す形状となった場合に、その燃焼炎Fがゆらぎを伴うものである確率を推定することができる。このとき、火災推定部37は、形状変化前後の燃焼炎Fを重ねた
図10(c)中の矢印で示す燃焼炎Fの外形変化が、ゆらぎに該当する確率を推定することで、ゆらぎを伴う燃焼炎Fが存在する確率を推定する。
【0060】
そして、火災推定部37は、
図9のニューラルネットワークの出力層から出力される2つの実数値のうち、燃焼炎Fが存在する確率を示す値を、
図7のステップS35において、火災確率値Pとして取得する。取得した火災確率値Pは、推定用画像の動画中に燃焼炎Fが存在する確率の火災推定部37による推定結果を示す値となる。
【0061】
後処理部39は、火災推定部37が取得した各空間7の火災確率値Pが、空間7における火災発生の判断基準とする火災閾値以上である場合に、火災確率値Pが火災閾値以上となった空間7の火災推定信号を受信機15に出力する。
【0062】
後処理部39から火災推定信号を受信した受信機15は、受信した火災推定信号がどの空間7に対応する信号であるかに基づいて、火災が発生したこと及び火災の発生場所等を、インジケータにおいて表示することができる。また、火災推定信号を受信した受信機15は、火災感知器11からの火災検知信号を受信した場合と同じく、移報先に火災移報信号を出力する。
【0063】
学習処理部41は、各空間7の火災感知器11及び監視カメラ13に対応する火災推定部37の、
図8に示す手順を実行するニューラルネットワーク及び
図9のニューラルネットワークについて、
図12に示す処理をそれぞれ実行する。まず、学習処理部41は、ニューラルネットワークの学習要求が入力されたか否かを確認する(ステップS51)。
【0064】
学習要求は、ユーザの操作により入力されるものであってもよい。あるいは、学習要求は、空間7の火災の発生状態又は火災感知器11による火災検知信号の出力状態と火災推定部37が推定した火災確率値Pとの整合性が基準を下回るレベルに低下することで、自動的に入力されるものであってもよい。
【0065】
ここで、火災感知器11は、火災の非発生時に誤って非火災報を行うことはあっても、火災の発生時に火災検知信号を出力しない失報を起こすことは無いように製造される。このため、火災感知器11が火災検知信号を出力していないときには、空間7に火災は発生していないことになる。したがって、火災推定部37が推定した火災確率値Pが火災閾値以上となった後、ある程度の時間が経過しても火災感知器11が火災検知信号を出力しない場合は、火災推定部37による火災確率値Pの推定結果が適切でないと考えられる。
【0066】
反対に、火災感知器11が火災検知信号を出力しているのに、火災推定部37が火災閾値未満の火災確率値Pを推定し続ける場合も、火災推定部37による火災確率値Pの推定結果が適切でないと考えられる。
【0067】
このような状況が発生する場合は、火災推定部37のニューラルネットワークの学習処理を実行する必要がある。そこで、例えば、上述した状況が発生する頻度が一定以上となった時点で、ロジックにより発生した学習要求が学習処理部41に入力されるようにしてもよく、ユーザが操作を行って学習要求が学習処理部41に入力されるようにしてもよい。
【0068】
なお、ニューラルネットワークの学習に用いる学習データは、例えば、火皿のノルマルヘプタン(n-heptane )又はアルコールの燃焼を開始させたときの、高天井部3及び低天井部5の各空間7の監視カメラ13による撮影動画とすることができる。火皿で燃焼させるのは、ノルマルヘプタン(n-heptane )又はアルコール以外の可燃性物質であってもよい。
【0069】
また、ニューラルネットワークの学習に用いる学習データは、上記の画像の他、高天井部3及び低天井部5の各空間7を模擬した火災試験場の空間(図示せず)における燃焼試験の撮影動画であってもよい。この動画では、火災試験場の各空間7に見立てた箇所において火皿の可燃性物質の燃焼を開始させたときを、高天井部3及び低天井部5の各空間7の監視カメラ13に見立てた火災試験場のカメラによって撮影する。
【0070】
上述した動画を学習データに用いることで、高天井部3及び低天井部5の各空間7における火災発生の初期時点における燃焼炎Fのゆらぎによる形状変化の特徴を、火災推定部37のニューラルネットワークに効率よく学習させることができる。よって、学習後の火災推定部37が火災発生の初期の時点で火災閾値以上の火災確率値Pを推定する確度を、ニューラルネットワークの学習によって高めさせることができる。
【0071】
上述した学習データは、例えば、火災発生時の火災確率値Pの目標値と関連付けて、外部記憶装置33の学習データ格納部(図示せず)に記憶させることができる。
【0072】
そして、学習要求が学習処理部41に入力されていない場合は(ステップS51でNO)、一連の処理を終了する。また、学習要求が学習処理部41に入力された場合は、外部記憶装置33の学習データ格納部に記憶された学習データを用いて、火災推定部37のニューラルネットワークの学習処理を実行する(ステップS53)。
【0073】
この学習処理は、例えば、誤差逆伝播法を用いて行うことができる。その場合、学習処理部41は、外部記憶装置33から各学習データを読み出す。そして、学習処理部41は、各学習データの火災確率値Pと理想値との差分を求め、これを教師信号としてニューラルネットワークの出力層に入力する。
【0074】
そして、学習処理部41は、ステップS53の学習処理を外部記憶装置33の全ての学習データを用いて実行したら(ステップS55でYES)、一連の処理を終了する。
【0075】
なお、外部記憶装置33の学習データは、火災検知システム1の運用後にニューラルネットワークの追学習を行う際に用いることができる。また、火災検知システム1の運用前のニューラルネットワークの初期学習に、外部記憶装置33の学習データを用いてもよい。
【0076】
以上の説明からも明らかなように、本実施形態では、監視装置19の火災推定部37によって、空間7に燃焼炎Fが存在する確率を推定する推定部が実現されている。また、火災確率値Pが火災発生の判断基準とする火災閾値以上となった場合に、受信機15に対して火災推定信号を出力する通知部は、監視装置19の後処理部39によって実現されている。なお、火災閾値は、0~1の実数値とすることができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、火災感知器11からの火災検知信号と、監視装置19の後処理部39からの火災推定信号とのうち少なくとも一方が入力されると、火災移報信号を出力する火災移報部が、受信機15によって実現されている。
【0078】
以上に説明した本実施形態の火災検知システム1では、監視装置19の火災推定部37が、監視カメラ13による高天井部3及び低天井部5の空間7の動画画像を画像認識して火災確率値Pを推定する。そして、火災確率値Pが火災閾値以上ならば、監視カメラ13に対応する高天井部3又は低天井部5の空間7に火災が発生しているものとして、監視装置19が受信機15に火災推定信号を出力する。火災推定信号を受信した受信機15は、火災確率値Pが火災閾値以上となった空間7の火災感知器11からの火災検知信号を受信していなくても、移報先に火災移報信号を出力する。
【0079】
このため、特に、高天井部3の火災感知器11が、火災による特定波長の赤外線の感知に長時間を要する場合でも、火災発生の可能性が高ければ、火災感知器11からの火災検知信号の受信前に、受信機15から移報先に火災移報信号を出力させることができる。したがって、特に、天井高が高い高天井部3の空間7における早期の火災検知を可能にすることができる。
【0080】
低天井部5でも、火災感知器11による特定波長の赤外線の感知に長時間を要するときには、火災発生の可能性が高い場合に、火災感知器11からの火災検知信号の受信前に、受信機15から移報先に監視装置19に火災移報信号を出力させることができる。
【0081】
なお、高天井部3及び低天井部5の空間7の画像として、監視カメラ13の撮影画像に代えて、サーモグラフィーによる熱分布画像を用いてもよい。この場合、熱分布画像はモノクロ画像であり単一の階調成分しか有していないため、色空間の変換を行わなくても閾値による画素信号の2値化を行うことができる。したがって、前処理部35が熱分布画像に対して行う前処理は、
図3のステップS11の処理を省略した内容とすることができる。
【0082】
また、本実施形態の火災検知システム1では、火災検知信号を出力する検知器が、赤外線式の火災感知器11であるものとした。しかし、検知器は、赤外線のみで火災を検知するものに限らず、例えば、紫外線、紫外線と赤外線との両方、熱、煙、輝度温度等によって火災を検出するものでもよい。
【0083】
さらに、本実施形態の火災検知システム1では、火災推定部37のニューラルネットワークに、ゆらぎを伴う燃焼炎Fを認識する処理に適した長・短期記憶ユニットのネットワークを用いた。
【0084】
しかし、火災推定部37のニューラルネットワークは、監視カメラ13の撮影画像から燃焼炎Fを認識できるものであれば、燃焼炎Fのゆらぎを認識できるものでなくてもよい。例えば、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)、リカレントニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network、RNN)等のネットワークのみで、火災推定部37のニューラルネットワークを構成してもよい。その場合、ニューラルネットワークの学習データは、動画でなく静止画像であってもよい。
【0085】
また、本実施形態の火災検知システム1では、高天井部3及び低天井部5の両方に監視カメラ13を設置し、各空間7の画像を撮影して火災推定部37による火災確率値Pの推定に用いる構成とした。
【0086】
しかし、天井高が高天井部3に比べて低い低天井部5では、天井又は天井付近の火災感知器11が特定波長の赤外線を感知して火災検知信号を出力するのに、高天井部3の火災感知器11ほど長い時間を要しないことが考えられる。そこで、低天井部5には、火災発生の早期検出を目的として監視カメラ13を設置するのを省略してもよい。
【0087】
さらに、本実施形態の火災検知システム1では、火災感知器11を高天井部3に配置して監視カメラ13と併用した。そして、火災感知器11からの火災検知信号と監視装置19の後処理部39からの火災推定信号とのどちらかが受信機15に入力されたら、受信機15が移報先に火災移報信号を出力するものとした。
【0088】
しかし、火災感知器11及び受信機15を省略し、監視装置19の後処理部39が火災推定信号を出力すると、その出力をきっかけに、高天井部3の空間7における火災発生への対処を開始する構成としてもよい。
【0089】
火災推定信号の出力をきっかけに開始する対処としては、例えば、火災感知器11からの火災検知信号を受信したときに受信機15が不図示のインジケータを用いて警戒区域別に行う火災発生の表示と同様の表示とすることができる。
【0090】
また、火災感知器11及び受信機15を省略せず、別構成の火災検知システムとすることもできる。この場合は、例えば、監視装置19の後処理部39からの火災推定信号が受信機15に入力された際に、火災移報信号に先行して、受信機15のインジケータ又は表示盤21のメッセージ表示部において高天井部3の火災発生のアラームを出力させてもよい。受信機15から移報先への火災移報信号は、アラームの出力後、火災感知器11からの火災検知信号が受信機15に入力された際に出力させることができる。
【0091】
[実施形態により開示される発明とその効果]
そして、以上に説明した実施形態によって、以下に示す各態様の発明が開示される。
【0092】
まず、第1の態様による発明として、
低天井部よりも天井高が高い高天井部の屋内空間における火災を検出すると火災検知信号を出力する火災感知器と、
前記屋内空間の画像に対するニューラルネットワークの画像認識結果に基づいて、前記屋内空間に燃焼炎が存在する確率を推定する推定部と、
前記確率が火災発生の判断基準とする火災閾値以上となった場合に火災推定信号を出力する通知部と、
前記火災検知信号及び前記火災推定信号のうち少なくとも一方が出力された場合に、前記屋内空間における火災発生の報知先に対する火災移報信号を出力する火災移報部と、
を備える火災検知システムが開示される。
【0093】
第1の態様による発明によれば、火災の際に発生する燃焼炎は、二酸化炭素共鳴放射により特定波長の赤外線を放射する。したがって、高天井部の屋内空間に火災が発生すると、火災感知器は、例えば、燃焼炎から放射される特定波長の赤外線を検出して、火災発生を検知することができる。
【0094】
また、燃焼炎は、赤外線の状態を変化させるだけでなく、例えば、紫外線、紫外線と赤外線との両方、熱、煙、輝度温度等の要素についても状態を変化させることがある。したがって、高天井部の屋内空間に火災が発生すると、火災感知器は、例えば、燃焼炎の発生により状態が変化する紫外線、紫外線と赤外線との両方、熱、煙、輝度温度等の変化、あるいは、それらの存在自体を検出して、火災発生を検知することもできる。
【0095】
また、高天井部の屋内空間に火災が発生すると、監視カメラで撮影した高天井部の屋内空間の画像中に燃焼炎が写る。したがって、推定部は、例えば、高天井部の屋内空間の所定期間の画像に対するニューラルネットワークの画像認識結果に基づいて、高天井部の屋内空間に燃焼炎が存在する確率を推定することができる。
【0096】
ここで、天井高が低天井部よりも高い高天井部では、天井又は壁面に設置した火災感知器が、通常の建築物よりも床面から大きく離れた位置に配置される可能性がある。このため、特に、床面付近で火災が発生した場合に、火災感知器が、赤外線、紫外線、紫外線と赤外線との両方、熱、煙、輝度温度等により火災を検知するのに、低天井部の火災感知器よりも時間がかかる可能性がある。
【0097】
一方、高天井部の屋内空間の画像には、例え床面付近の燃焼炎であっても、天井又は天井付近との高低差の大小に関係なく燃焼炎の存在が写る。したがって、推定部が推定する燃焼炎の存在確率は、高天井部の屋内空間に火災が発生していれば、高い確率になる。
【0098】
このため、火災感知器が火災検知信号を出力していなくても、高天井部の屋内空間に燃焼炎が存在する確率の推定部による推定結果が高ければ、高天井部において火災が発生した可能性が高いと類推することができる。
【0099】
そこで、推定部が推定する燃焼炎の存在確率の値について、火災発生の基準となる値を火災閾値によって定義する。そして、推定部が推定する確率が火災閾値以上である場合は、通知部が火災推定信号を出力する。火災推定信号を通知部が出力すると、火災感知器が火災検知信号を出力していなくても、高天井部の屋内空間に火災が発生しているものとして、高天井部の屋内空間における火災発生への対処を開始するきっかけとして運用することができる。これにより、高天井部の屋内空間について、早期の火災検知を可能にすることができる。
【0100】
また、第2の態様による発明として、前記屋内空間における火災を検出すると火災検知信号を出力する火災感知器と、前記火災検知信号及び前記火災推定信号のうち少なくとも一方が出力された場合に、前記屋内空間における火災発生の報知先に対する火災移報信号を出力する火災移報部とをさらに備える火災検知システムが開示される。
【0101】
第2の態様による発明によれば、高天井部の火災感知器が火災検知信号を出力することと、推定部の推定結果に基づいて通知部が火災推定信号を出力することとの、少なくとも一方が発生すると、火災移報部が火災発生の移報先に火災移報信号を出力する。このため、高天井部の屋内空間における火災の発生を、燃焼炎により発生する要素の状態変化又は要素自体の検出と、画像による燃焼炎の検出との2本立てで、より確実に検知することができる。
【0102】
さらに、第3の態様による発明として、前記画像は、前記屋内空間を前記高天井部の天井高よりも低い所定高さの撮影点から撮影した画像であり、前記火災感知器は、前記高天井部の天井に設置されている火災検知システムが開示される。
【0103】
第3の態様による発明によれば、高天井部の天井又は天井付近から屋内空間を撮影すると、高天井部の屋内空間の床面を上方から見下ろす角度で、屋内空間の画像を撮影することになる。この角度の画像では、例えば、高天井部の床面付近で火災が発生した場合に、火災の燃焼炎のゆらぎによる形状変化を画像上で認識することが困難である。
【0104】
そのため、高天井部の屋内空間の画像は、高天井部の天井又は天井付近の高さよりも低い所定高さの撮影点から撮影する。この高さから高天井部の屋内空間の画像を撮影することで、例えば、高天井部の床面付近で火災が発生した場合でも、発生した火災の燃焼炎の形状及びゆらぎを画像上で認識しやすい角度から、高天井部の屋内空間の画像を撮影することができる。
【0105】
また、第4の態様による発明として、前記ニューラルネットワークは、所定期間における燃焼炎のゆらぎを画像認識する長・短期記憶ユニット(Long short-term memory、LSTM)ネットワークを中間層に有しているニューラルネットワークが開示される。
【0106】
第4の態様による発明によれば、高天井部の屋内空間に存在するゆらぎを伴う燃焼炎が、最新の過去所定期間分の画像を用いて、ニューラルネットワークの中間層にある長・短期記憶ユニットにおいて抽出される。このため、時間変動要素であるゆらぎを伴う燃焼炎を画像認識により精度良く抽出し、推定部による燃焼炎の存在確率の推定に利用することができる。
【0107】
なお、第5の態様による発明として、前記ニューラルネットワークは、火皿の可燃性物質の燃焼を開始した時点の前記屋内空間又は前記屋内空間を模擬した空間を撮影した画像を学習データとしたネットワークを有している火災検知システムが開示される。
【0108】
第5の態様による発明によれば、高天井部の屋内空間における火災発生の初期時点における燃焼炎のゆらぎによる形状変化の特徴を、火災推定部のニューラルネットワークに効率よく学習させることができる。よって、学習後の火災推定部が高天井部の屋内空間における火災発生の初期の時点で火災閾値以上の確率を推定する確度を、ニューラルネットワークの学習によって高めさせることができる。
【0109】
ここで、前記可燃性物質は、ノルマルヘプタン(n-heptane )又はアルコールであってもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 火災検知システム
3 高天井部
5 低天井部
7 空間
9 管理事務所
11 火災感知器(検知器)
13 監視カメラ
15 受信機(火災移報部)
17 モニタ盤
19 監視装置
21 表示盤
23 通信線
25 モニタ線
27 CPU
29 ROM
31 RAM
33 外部記憶装置
35 前処理部
37 火災推定部
39 後処理部
41 学習処理部
F 燃焼炎
P 火災確率値