(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法、三次元造形装置、プログラム、記憶媒体、および粉末堆積装置
(51)【国際特許分類】
B22F 12/67 20210101AFI20241105BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20241105BHJP
B29C 64/236 20170101ALI20241105BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20241105BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20241105BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241105BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241105BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20241105BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20241105BHJP
B22F 10/66 20210101ALI20241105BHJP
【FI】
B22F12/67
B29C64/153
B29C64/236
B29C64/268
B29C64/321
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B29C64/393
B22F10/66
(21)【出願番号】P 2020109231
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019153044
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村尾 仁
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/132204(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109551761(CN,A)
【文献】特表2018-516774(JP,A)
【文献】特開2004-143581(JP,A)
【文献】特表2016-531020(JP,A)
【文献】特開2007-098947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00-3/26
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形テーブルと、
シート状部材の端部を粉末に接触させ、前記造形テーブルの上に粉末層を敷設してその厚さを規定する厚さ規定部材と、
前記厚さ規定部材を移動させるように構成された移動機構と、
前記端部を切断する切断部と、
前記厚さ規定部材を保持する保持部と、
前記粉末にエネルギービームを照射するエネルギービーム照射部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記切断部を動作させて前記端部を切断する、
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
前記厚さ規定部材は、前記シート状部材を固定する固定部を備え、
前記固定部は、前記シート状部材が前記固定部から突出する量を調整する機構を備え、
前記制御部は、前記機構を制御して前記シート状部材が前記固定部から突出する量を調整した後、前記切断部を動作させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記シート状部材は、弾性材料で形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記制御部は、エネルギービーム照射部の動作中に、前記切断部を動作させる、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記移動機構を制御して前記厚さ規定部材を所定の位置に移動させ、前記所定の位置にて前記切断部を動作させる、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項6】
前記端部の形状を検査するセンサを備え、
前記制御部は、前記センサの検査結果に基づいて前記切断部を動作させる、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項7】
前記センサは、前記造形テーブルの外側に設置された撮像センサ、距離センサ、超音波センサの少なくとも1つを備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の三次元造形装置。
【請求項8】
前記制御部は、所定の層数を造形したタイミング、前記粉末層を敷設する工程を所定の回数実行したタイミング、作成した固化層の面積積算値が所定の大きさに達したタイミング、のいずれかのタイミングに応じて前記切断部を駆動させる、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項9】
三次元造形物の製造のため粉末層を堆積する粉末堆積装置であって、
端部を粉末に接触させて前記粉末層を敷設するシート状部材と、
前記端部を切断する切断部と、
前記シート状部材を保持する保持部と、
外部から信号が入力される入力部と、を備え、
前記保持部は、前記入力部に入力された信号に応じて前記切断部を動作させて前記端部を切断する、
ことを特徴とする粉末堆積装置。
【請求項10】
少なくとも1つの厚み規定部材の一部分が粉末と接触しながら移動して粉末層を形成する第1の粉末層形成処理と、
前記第1の粉末層形成処理で形成した前記粉末層に、エネルギービームを照射して固化部を形成する固化処理と、
前記固化処理よりも後に行う第2の粉末層形成処理と、
前記第1の粉末層形成処理と前記第2の粉末層形成処理の間に行う更新処理と、を有し、
前記更新処理は、前記第2の粉末層形成処理において前記少なくとも1つの厚み規定部材のうち前記粉末と接触する部分が、前記第1の粉末層形成処理における前記一部分とは異なる部分になるように変更する処理であ
り、
前記更新処理は、前記第1の粉末層形成処理を実行した際に前記粉末と接触していた前記一部分を切断する工程を含む、
ことを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項11】
前記更新処理は、前記少なくとも1つの厚み規定部材のうち、前記第1の粉末層形成処理において前記粉末と接触していなかった部分を、前記粉末と接触可能な位置に移動させる移動工程を含む、
ことを特徴とする請求項
10に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項12】
前記移動工程は、前記少なくとも1つの厚み規定部材を保持する保持部を回転させる工程を含む、
ことを特徴とする請求項
11に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項13】
前記厚み規定部材は、シート状の弾性部材である、
ことを特徴とする請求項1
0乃至1
2のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項14】
前記更新処理は、前記固化処理を行う間に実行される、
ことを特徴とする請求項1
0乃至1
3のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項15】
前記更新処理の前に、前記第1の粉末層形成処理を実行した際に前記粉末と接触していた前記厚み規定部材の前記一部分の形状をセンサにより検査する検査工程を更に有する、
ことを特徴とする請求項
10乃至
14のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項16】
所定の層数を造形したタイミング、前記粉末層を敷設する工程を所定の回数実行したタイミング、作成した固化層の面積積算値が所定の大きさに達したタイミング、のいずれかのタイミングに応じて前記更新処理を実行する、
ことを特徴とする請求項
10乃至
15のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項17】
請求項1
0乃至
16のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法の前記第1の粉末層形成処理、前記固化処理、前記第2の粉末層形成処理および前記更新処理を、三次元造形装置が備えるコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項18】
請求項
17に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる粉末積層溶融法のように、粉末層の形成と固化を繰り返して物品を製造する製造方法(三次元造形物の製造方法)、およびそれに用いる三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆる3Dプリンタの開発が盛んに行われており、さまざまな方式が試みられている。例えば、熱溶融積層造形法、光硬化性樹脂を用いた光造形法、粉末積層溶融法等の方式が知られている。
粉末積層溶融法は、ナイロン樹脂、セラミクス、金属等の原料粉末を層状に敷く工程と、レーザ光を照射して粉末層の一部を選択的に加熱してから固化させる工程とを繰り返し行なうことにより三次元造形物を形成する方法である。近年では、高い機械強度や良好な熱伝導性が要求される物品を製造する方法として、金属粉末を原料に用いた粉末積層溶融法が活用され始めている。
【0003】
粉末積層溶融法では、造形すべき形状に応じて粉末層の所要箇所にレーザ光を照射して溶融や焼結を行う際に、粉末層の積層状態やレーザ光の照射条件の影響等により局部的に突出した固化部(突起部)が形成されてしまうことがある。また、高熱の粉末があたかも火花のように周辺に飛び散る場合があり、固化された部分の表面に付着して突出した固化部(突起部)が形成されてしまう場合がある。
突起部の高さが、次に敷く粉末層の厚み以上に大きくなってしまった場合には、次の層の粉末を堆積させて層の平坦化を行う際に、突起部と粉末層形成機構とが干渉してしまう。このため、粉末層形成機構が突起部に引っかかって動けなくなったり、突起部が形成された造形途中の物品が押し倒されて粉末層形成機構の障害物となったりして、造形装置が動作を停止したり、均一に粉末層を敷けなくなってしまうことがあった。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1には、突起部と粉末層形成機構(材料供給手段)が接触した際に、材料供給手段が予め設定された力以上の力を受けた場合には、材料供給手段を一時的に退避させながら移動させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法を採用した場合には、突起部と接触すると材料供給手段を一時的に退避させながら移動させるため、造形装置の動作が停止してしまうことは回避できる。しかし、材料供給手段を退避させながら移動させている間は、粉末材料を適切に供給することはできない。例えば、粉末の山をブレードで押しながら粉末層を形成してゆく場合に、突起部の位置でブレードを退避させると、そこに粉末の山を載置したままブレードは移動する。そして、突起部を通過した後にブレードを退避位置から戻しても、粉末材料が欠乏しているため、以後は粉末層を形成できないか、できたとしても所定の厚みよりも薄い層になってしまう。このため、三次元造形物の形状精度が低下してしまう問題があった。
【0007】
そこで、従来は高剛性に作られていたブレードを、薄板化したり弾性体を用いて構成すること等により、予め設定された以上の力を受けた時に変形可能にする方式も提案されている。突起部と接触しても、ブレードが変形して乗り越えることを可能にし、粉末層の厚みの変動を抑制するものである。
【0008】
しかしながら、薄板化したり弾性体を採用する場合には、ブレードの耐摩耗性や引き裂き強度が低下するため、粉末層の形成時に粉末や突起部と繰り返し擦れると、ブレードが摩耗したり破損してしまう場合があった。ブレードが摩耗したり破損すると、以後は平坦で均一な厚みの粉末層を形成することができず、三次元造形物の形状精度が低下したり、更に大きな突起部を発生させる原因になったりしていた。このため、三次元造形物の製造歩留まりが低下したり、造形動作を途中で停止せざるを得なくなる場合があった。
【0009】
そこで、粉末層の形成と固化を繰り返して三次元造形物(物品)を製造する際に、材料供給手段の摩耗や破損により造形精度が低下したり造形動作が停止したりするのを防ぎ、三次元造形を精度よく継続することができる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、造形テーブルと、シート状部材の端部を粉末に接触させ、前記造形テーブルの上に粉末層を敷設してその厚さを規定する厚さ規定部材と、前記厚さ規定部材を移動させるように構成された移動機構と、前記端部を切断する切断部と、前記厚さ規定部材を保持する保持部と、前記粉末にエネルギービームを照射するエネルギービーム照射部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記切断部を動作させて前記端部を切断する、ことを特徴とする三次元造形装置である。
【0011】
また、本発明の第2の態様によれば、三次元造形物の製造のため粉末層を堆積する粉末堆積装置であって、端部を粉末に接触させて前記粉末層を敷設するシート状部材と、前記端部を切断する切断部と、前記シート状部材を保持する保持部と、外部から信号が入力される入力部と、を備え、前記保持部は、前記入力部に入力された信号に応じて前記切断部を動作させて前記端部を切断する、ことを特徴とする粉末堆積装置である。
【0012】
また、本発明の第3の態様によれば、少なくとも1つの厚み規定部材の一部分が粉末と接触しながら移動して粉末層を形成する第1の粉末層形成処理と、前記第1の粉末層形成処理で形成した前記粉末層に、エネルギービームを照射して固化部を形成する固化処理と、前記固化処理よりも後に行う第2の粉末層形成処理と、前記第1の粉末層形成処理と前記第2の粉末層形成処理の間に行う更新処理と、を有し、前記更新処理は、前記第2の粉末層形成処理において前記少なくとも1つの厚み規定部材のうち前記粉末と接触する部分が、前記第1の粉末層形成処理における前記一部分とは異なる部分になるように変更する処理であり、前記更新処理は、前記第1の粉末層形成処理を実行した際に前記粉末と接触していた前記一部分を切断する工程を含む、ことを特徴とする三次元造形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粉末層の形成と固化を繰り返して三次元造形物(物品)を製造する際に、材料供給手段の摩耗や破損により造形精度が低下したり造形動作が停止したりするのを防ぎ、三次元造形を精度よく継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1の三次元造形装置の構成を示す模式図。
【
図2】粉末堆積装置とその周辺部を模式的に示す斜視図。
【
図3】実施形態1にかかる粉末堆積装置の構造を模式的に示す一部断面図。
【
図4】(a)シート状部材が固定部により挟み込まれて位置が固定され、下端部の高さが規定されている状態を示す図。(b)切断部の刃物を挟動させてシート状部材を切断し、先端部を切り離す状態を示す図。(c)ローラを回転させて、先端部を積層高さ規制線の高さまで降下させる状態を示す図。(d)固定部でシート状部材を挟持して固定する状態を示す図。
【
図5】シート状部材の先端部を更新する位置を説明するための模式図。
【
図6】実施形態1にかかる三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャート。
【
図7】実施形態2にかかる三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャート。
【
図8】実施形態3にかかる粉末堆積装置の構造を模式的に示す一部断面図。
【
図9】実施形態3にかかる三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャート。
【
図10】実施形態4にかかる三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャート。
【
図11】実施形態5の三次元造形装置の構成を示す模式図。
【
図12】実施形態5にかかる粉末堆積装置の構造を模式的に示す一部断面図。
【
図13】実施形態5にかかる保持部の構造を模式的に示す一部断面図。
【
図14】シート状部材の寸法を調整し突出し量を管理する方法の一例を示す図。
【
図15】保持部の交換を行う位置と動作を説明するための模式図。
【
図16】実施形態5にかかる三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャート。
【
図17】実施形態6にかかる三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャート。
【
図18】実施形態7にかかる粉末堆積装置の構造を模式的に示す一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の実施形態である三次元造形物の製造方法と三次元造形装置について説明する。尚、以下の実施形態及び実施例の説明において参照する図面においては、特に但し書きがない限り、同一の機能を有する部材については同一の参照番号を付して示すものとする。
本発明の実施形態において、粉末層を加熱して固化部を形成する態様は、加熱された粉末が融点よりも低い温度で焼結するものでもよいし、粉末が融点以上に加熱されて溶融した後に冷却して固化するものでもよい。また、本発明の実施形態においては、固化部を積み重ねて三次元造形物を造形してゆくが、三次元造形物の断面観察等で固化部どうしの境界が確認できる場合もあるが、溶融の均一性が高い場合などには固化部どうしの境界が明確に検出されない場合もある。
【0016】
[実施形態1]
(三次元造形装置)
図1を参照して、本実施形態に係る三次元造形装置1について説明する。
図1は、三次元造形装置1の構成を説明するための模式図である。
三次元造形装置1は、造形テーブル101を備え、造形テーブル101は三次元造形物(物品)を形成する際の基台として機能するプレート102を装着可能である。造形テーブル101は、位置基準としてピン103を備え、ピン103とプレート102のピン穴を嵌合させることで、プレート102の位置決めがなされる。本実施形態では、プレート102は、ネジ104により造形テーブル101に固定される。尚、プレートは、三次元造形物を形成する際の支持台として機能するものであれば、必ずしも板状である必要はなく、造形テーブルへの位置決め固定方法も、この例には限られない。造形テーブル101は、垂直移動機構106により、垂直方向(Z軸の正負方向)に移動可能に支持されている。
【0017】
造形テーブル101の左右には、原料粉末を保管する粉末保管部113が配置され、粉末堆積装置107がプレート102上に粉末層を形成する際に使用する原料粉末を供給する。粉末保管部113は、粉末保管部垂直移動機構114により垂直方向(Z軸の正負方向)に移動可能に支持されている。粉末保管部113をZ軸正方向に所定距離だけ移動して所定量の原料粉末を押し上げ、粉末堆積装置107をX軸に沿って水平方向に移動させてシート状部材21で原料粉末を押してゆくことにより、プレート102上に粉末層を形成することができる。尚、正方向とは図示の座標軸において矢印が指示する方向を指し、負方向とは図示の矢印とは反対方向を指すものとする。
図1中に点線で示す積層高さ規制線201は、粉末堆積装置107が形成する粉末層の上面の高さを示している。尚、粉末保管部113は、
図1のように必ずしも造形テーブルの左右両方にある必要はなく、製造に必要な所定量の粉末を保管できる容量があれば左もしくは右のどちらか一方だけでもよい。
【0018】
造形テーブル101の上方には、粉末堆積装置107と移動ガイド108が配置されている。粉末堆積装置107は、原料となる粉末を所定の厚さで堆積するための装置で、X軸に沿って水平方向を往復移動してプレート上を移動(走査)することができるように、移動ガイド108に支持されている。
【0019】
図2は、本実施形態の粉末堆積装置107とその周辺部を模式的に示す斜視図である。また、
図3は、本実施形態の粉末堆積装置107の構造を模式的に示す一部断面図である。
図3に示すように、粉末堆積装置107はシート状部材21を有しており、シート状部材21はロール状にまかれて、保持部22としてのロール支柱に回転可能に保持されている。シート状部材21は、材料粉末の山をX軸に沿った方向に押してゆくことにより、上面が平坦で厚みが一定の粉末層を形成するブレードとして機能する。シート状部材21の下端部の高さにより、形成される粉末層の厚みが規定されるため、シート状部材21は、粉末層の厚みを規定する厚み規定部材であるといえる。シート状部材21の下端部の高さは、積層高さ規制線201に合わせて調整されている。シート状部材21は、粉末層を形成する際には、
図3に示すように固定部24により板厚方向両側から挟み込まれて位置が固定され、下端部の高さが規定されている。
【0020】
シート状部材21は、粉末層の厚みを規定すべくある程度の剛性を有するが、固化層上に意図せず形成された突起部と接触した際に、接触部が突起部の形状に倣って変形することができる材料、すなわち弾性材料等で形成されている。具体的には、例えばシリコンゴムやエラストマーを主成分とする弾性材料で形成されている。弾性部材であるシート状部材21は、突起部と接触した部分が突起部の形状に倣って変形し得るだけの柔軟性を有するとともに、その周辺の突起部とは接触していない部分がほとんど変形しないだけの剛性を有する。かかるシート状部材21を用いることにより、突起部が存在したとしても、その周辺に敷設される粉末層の平坦性が維持される。
【0021】
このように、突起部の形状に追従して変形するだけの柔軟性を有する材料で形成されたシート状部材21は、耐摩耗性や、傷が生じた場合の引き裂き耐性が必ずしも高くはない。このため、粉末や突起部と繰り返し擦れることで、造形が完了する前にシート状部材21の先端部に摩耗や破損が生じてしまい、造形品質が低下したり造形の継続が困難になる可能性がある。
【0022】
そこで、本実施形態の粉末堆積装置107は、造形品質が低下したり造形の継続が困難になるまでシート状部材21の先端部が消耗する前に、自動的にシート状部材21の先端部を更新する機構を備えている。ここで、シート状部材21の先端部を更新するとは、シート状部材21のうち粉末層形成処理の時に粉末と接触していた部位を、粉末と実質的に接触していなかった新たな(未消耗の)部位と交換することをいう。本実施形態あるいは他の実施形態の説明において、粉末と接触していなかった部位とは、文字通り全く接触していなかった部位を指すのはもちろんであるが、厳密にこれに限られるものではない。例えば飛翔した粉末が僅かに接触したことがあるとしても殆んど消耗していない部位は、実質的には粉末と接触していなかった部位に含められると解釈してよい。
先端部を更新(変更)する機構は、シート状部材21の先端部を切断するための切断部25と、シート状部材21を移動させるためのローラ23(回転部)を含んでいる。
【0023】
切断部25は、シート状部材21の切断を行うものであり、例えば
図3に示すように、挟動可能な一対の刃物で構成される。粉末層の平坦性を担保するには、シート状部材21を直線に沿って水平に切断することが必要だが、それが可能であるならば、一対の刃物による構成に限らなくともよい。例えば、刃物と板状部材でシート状部材21を挟んで切断する機構でもよいし、ワイヤーカッタのような切断機構でもよい。
【0024】
シート状部材を引き出す機能を有する移動部としてのローラ23は、シート状部材21を板厚方向両側から挟持して回転することにより、シート状部材21をロール側から
図3の下方向に向かって引き込むことが可能である。
図4(c)を参照して後述するように、シート状部材21の下端部の高さは、ローラ23の回転量を制御することにより調整される。このため、ローラ23の回転量は、例えば、ステッピングモータ等により制御されるか、あるいは回転位置を検出するエンコーダを用いてフィードバック制御されるとよい。
【0025】
次に、
図4(a)~
図4(d)を参照して、シート状部材21の先端部を更新する動作、すなわち更新処理について説明する。尚、これらの図では、図示の便宜から、粉末堆積装置107の一部の図示を省略している。
図4(a)に示すのは、粉末層形成処理を実行した際の状態で、シート状部材21が固定部24により板厚方向両側から挟み込まれて位置が固定され、下端部の高さが規定されている状態を示している。この時、ローラ23もシート状部材21を挟持しているが、ローラ23に回転力は付与されておらず、更にブレーキで固定しておく場合もある。また、シート状部材21を傷つけることがないよう、切断部25の刃物は両側に退避している。
【0026】
次に、シート状部材21の先端部を更新するために、切断部25を用いて先端部を切り離す。すなわち、
図4(b)に示すように、切断部25の刃物を挟動させてシート状部材21を切断し、先端部を切り離す。この時、切断部の形状精度を高めるため、固定部24によりシート状部材21の位置を固定した状態で切断を行う。
【0027】
次に、
図4(c)に示すように、切断部25の刃物をシート状部材21と接触しない位置に退避させ、かつ固定部24をシート状部材21から離間させて、シート状部材21を上下動可能に開放する。そして、ローラ23を回転させて、不図示のロール側からシート状部材21を引き込みながら、切断により形成された新たな先端部を積層高さ規制線20の高さまで降下させてゆく。これにより、新たな先端部は次の粉末層形成処理の際に粉末と接触可能な位置に移動される(移動工程)。この新たな先端部の高さにより、粉末層の上面(粉末層の厚み)が規定されるため、ローラ23の回転量は精密に制御される。場合によっては、シート状部材21の先端部の高さを、例えば光センサで検知し、ローラ23の駆動にフィードバックしてもよい。
【0028】
シート状部材21の先端部の高さが積層高さ規制線201に合わせて調整されたら、
図4(d)に示すように固定部24でシート状部材21を挟持して固定する。
以上の一連の動作により、シート状部材21の先端部を更新するが、更新動作は、三次元造形装置1内の所定位置に粉末堆積装置107を移動させて行う。
【0029】
図5は、シート状部材21の先端部を更新する動作を実行する位置を説明するための模式図で、
図1では省略されていた三次元造形装置1の左側部分を示している。粉末保管部113を挟んで造形テーブル101の反対側には、余剰粉末回収スペース121と切断作業スペース122が設けられている。余剰粉末回収スペース121は、所定の厚みの粉末層を形成する粉末層形成処理を実行した際に、粉末堆積装置107が搬送してきた余剰粉末を回収するスペースである。回収した粉末は廃棄や処理を施して再利用してもよいが、ゴミ等が混入しておらず粉末保管部に保管された粉末と同等の品質が保持されている場合には、原料粉末としてそのまま再利用することも可能である。
【0030】
切断作業スペース122は、
図4を参照して説明したシート状部材21の先端部の更新動作を行う空間である。粉末層を形成した後、粉末層にレーザ光を照射している間に粉末堆積装置107を切断作業スペース122上に移動させ、先端部の更新動作を行う。切断した使用済みの先端部は、切断作業スペース122の容器に回収される。
【0031】
尚、本実施形態では、切断作業スペース122には、検査部として、シート状部材21の先端部の形状を計測するためのセンサ130が設けられている。センサ130は、シート状部材21のY方向全幅にわたり、先端部の形状を計測するセンサである。例えば、Y方向全幅にわたり撮像可能な画像センサや、Y方向の一部領域を撮像可能な撮像センサとY方向走査機構の組み合わせでもよい。また、撮像センサに限らず、距離センサや超音波センサを用いてもよい。
【0032】
本実施形態では、粉末層を形成した後、レーザ光を照射している間にセンサ130を用いてシート状部材21の先端部の形状を計測し、先端部の更新が必要か否かを判定し、必要な場合にのみ
図4を参照して説明した更新動作を行うようにすることができる。すなわち、センサにより撮像された画像を例えば制御部112が画像処理し、摩耗や損傷による変形が所定の程度を超えるか否かを制御部112が検査し、検査結果に基づいて制御部112が更新処理を行うようにすることができる。なお、先端部の更新動作が必要か否かは、シート状部材21の先端部の形状に基づいて行う方法には限定されず、粉末層の表面の状態に基づいて行うこともできる。
【0033】
また、先端部の更新動作を行った後、センサ130を用いてシート状部材21の先端部の形状を計測し、更新動作が問題なく行われたかを確認することが可能である。例えば、刃物とシート状部材21の間にゴミが偶然存在したために切断部の形状が不整であった場合等にはこれを検出することができる。これにより、制御部112は、次の粉末層の形成動作を開始する前に、再度先端部の更新処理を行うことができる。
【0034】
図1に戻り、造形テーブル101の上方には、エネルギービームを照射する照射部として、レーザ光源109、スキャナ110、集光レンズ111が配置されている。
レーザ光源109、スキャナ110、集光レンズ111は、粉末堆積装置107がプレート102上に敷いた粉末層PLに、造形すべき形状に応じて加熱用のエネルギービームを局所選択的に照射するための照射光学系を構成している。
【0035】
三次元造形装置1の制御部112は、装置各部の動作を制御するためのコンピュータで、内部には、CPU、ROM、RAM、I/Oポート等を備えている。
コンピュータ読み取り可能な記憶媒体であるROMには、三次元造形装置1の動作プログラムが記憶されている。例えば、粉末層形成部としての粉末堆積装置107を移動させて所定の厚みの粉末層を基台の上に形成する粉末層形成処理を、制御部112が実行するためのプログラムである。あるいは、粉末層PLに三次元造形物の形状に応じてエネルギービームを照射し、固化部116を形成する固化処理を、制御部112が実行するためのプログラムである。
あるいは、固化処理を実行している間に、センサ130を用いてシート状部材21の先端部の形状を計測し、先端部の更新の要否を判定する処理を、制御部112が実行するためのプログラムである。あるいは、
図4を参照して説明した先端部の更新処理を、制御部112が実行するためのプログラムである。あるいは、先端部の更新処理を実行後に、センサ130を用いて更新された先端部の形状を計測する処理を、制御部112が実行するためのプログラムである。
【0036】
I/Oポートは、不図示の外部機器やネットワークと接続され、たとえば三次元造形に必要なデータの入出力を、外部コンピュータとの間で行うことができる。三次元造形に必要なデータとは、作成する三次元造形物の形状データや、作成に使用する材料の情報や、1層ごとの焼結層の形状データ、すなわちスライスデータを含む。スライスデータは、外部のコンピュータから受け取っても良いし、造形物の形状データに基づいて制御部112内のCPUが作成してRAMに記憶しても良い。あるいは、シート状部材21の先端部の更新の要否を判定するための基準データも含まれ得る。
【0037】
制御部112は、造形テーブルの垂直移動機構106、粉末堆積装置107、レーザ光源109、スキャナ110、集光レンズ111、粉末保管部垂直移動機構114などの各部と接続され、これらの動作を制御して造形に係る処理を実行する。すなわち、粉末層形成処理と固化処理を実行する。
また、制御部112はセンサ130と接続されており、センサ130の動作を制御するとともに、センサ130からシート状部材21の先端部形状の計測データを取得し、先端部の形状を検査する。
また、制御部112は、粉末堆積装置107のローラ23、固定部24、切断部25を制御して、シート状部材21の先端部を更新する更新処理を実行する。
【0038】
(三次元造形物の製造方法)
三次元造形装置1を用いた三次元造形物の製造方法について説明する。
三次元造形装置1の造形テーブル101にプレート102が装着されたら、三次元造形装置1は固化部を繰り返し堆積させてゆき三次元造形物をプレート102上に作成する。
図6は、三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。
【0039】
三次元造形が開始されると、工程S1において、制御部112は、所定の厚みの粉末層を形成する粉末層形成処理を実行する。すなわち、制御部112は、垂直移動機構106に指令を送り、造形動作を行うための初期位置に造形テーブル101を移動させる。
次に、左右どちらかの粉末保管部113を粉末保管部垂直移動機構114により上昇させ、積層高さ規制線201より上に粉末を上昇させる。
【0040】
次に、制御部112は、粉末堆積装置107に指令を送り、上昇させた粉末保管部113側からプレート102に向けてX軸の正方向または負方向に移動ガイド108に沿って移動させる。その際には、シート状部材21の下端の高さが積層高さ規制線201の高さと一致するようにシート状部材21のZ軸方向の位置を予め合わせておく。積層高さ規制線201より上に位置する粉末を、シート状部材21が押し動かしながらプレート102の上を移動することにより、所定の厚さの一層の原料粉末層がプレート102の上に形成される。すなわち、第1の粉末層形成処理が実行される。
【0041】
粉末層が形成されたら、工程S2において、制御部112は、固化処理を開始する。すなわち、制御部112は、レーザ光源109、スキャナ110、集光レンズ111に指令を送り、固化させようとする箇所にレーザ光を照射させて原料粉末を加熱させる。レーザ光源109から出射したレーザ光は、スキャナ110によって、造形すべき形状に応じてXY方向のそれぞれについて走査される。レーザ光は、集光レンズ111で粉末層の極めて狭い領域に集束され、局所加熱された部分が焼結あるいは溶融して固化する。スキャナ110によって走査しながら、レーザ光源109を明滅させることにより、粉末層の任意の位置にレーザ光を照射して固化部116を形成することができる。
【0042】
制御部112は、工程S2において固化処理を開始したら、工程S3においてシート状部材21の先端部の形状を検査する検査処理を実行する。すなわち、制御部112は、粉末堆積装置107に指令を送り、センサ130の計測位置に移動させるとともに、センサ130にシート状部材21の形状を計測させ、計測結果を取得する。制御部112は、取得した計測結果を予め記憶していた判定基準に照らし、シート状部材21の先端部に摩耗や破損があるかを判定する。この場合の判定基準は、摩耗や破損がすでに粉末層の形成に支障があるレベルに到達しているかだけではなく、まだ到達してはいないが、次の粉末層形成処理で支障があるレベルに到達する可能性があることを検出する予防安全の観点で設定するのが望ましい。
【0043】
シート状部材21の先端部に摩耗や破損があると判定された場合(工程S3:YES)には、制御部112は、工程S4~工程S6を実行し、先端部の更新処理を実行する。
まず、工程S4において、制御部112は粉末堆積装置107に指令を送り、センサ130の計測位置から切断作業スペース122(
図5)に移動させる。
次に、工程S5において、制御部112は粉末堆積装置107に指令を送り、
図4(b)を参照して説明したように、シート状部材21の先端部を切断する。
【0044】
次に、工程S6において、制御部112は粉末堆積装置107に指令を送り、
図4(c)~
図4(d)を参照して説明したように、シート状部材21の先端部(下端)の高さを調整し、固定する。
【0045】
尚、フローチャートには不図示であるが、先端部の更新処理を実行後に、制御部112はセンサ130を用いて更新された先端部の形状を計測する処理を実行してもよい。そして、適正な形状の切断形状でなかった場合には、再度、工程S4~工程S6を実行してもよい。
【0046】
工程S4~工程S6を実行して先端部の更新処理を完了したら、工程S7において、制御部112は、工程S2で開始したレーザ照射処理がすでに完了しているかを判定する。完了していない場合(工程S7:NO)には、工程S7を繰り返し、レーザ照射処理が完了するのを待つ。
また、先の工程S3において、シート状部材21の先端部に摩耗や破損が無いと判定された場合(工程S3:NO)には、制御部112は、工程S7に移り、レーザ照射処理が完了するのを待つ。
【0047】
工程S7において、この粉末層に対するレーザ照射処理が完了したと判定された場合(工程S7:YES)には、工程S8に移り、三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了したかを判定する。
三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了していないと判定した場合(工程S8:NO)には、工程S1に戻り、次の固化層を形成するための粉末層形成処理(第2の粉末層形成処理)を行う。
以下、工程S2以下を実行し、レーザ照射処理を完了させる。工程S8において、三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了したと判定されるまで、これを繰り返す。
工程S8において、三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了したと判定された場合(工程S8:YES)には、三次元造形処理を終了する。
【0048】
本実施形態によれば、粉末層の形成と固化を繰り返して三次元造形物(物品)を製造する際に、材料供給手段の摩耗や破損により造形精度が低下したり造形動作が停止したりするのを防ぎ、三次元造形を精度よく継続することができる。その結果、形状精度が高い三次元造形物を、高い歩留まりで連続して製造することができる。
【0049】
本実施形態では、レーザ光を照射している間に、センサを用いてシート状部材21の先端部(下端)の形状変化を計測し、先端部の更新(粉末と接触する部位の交換)が必要か否かを判断する。固化処理中のレーザ光の照射と並行して計測を行うため、計測を行うからといって三次元造形物の製造に要するプロセス時間が長くなることはない。また、計測に基づいて先端部の更新が必要か否かを判断するため、シート状部材21の切断(廃棄)を必要にして十分な範囲に抑制することができる。
【0050】
[実施形態2]
本発明の実施形態2について説明する。実施形態1と説明が共通する部分については、記載を省略する。
(三次元造形装置)
本実施形態の三次元造形装置の全体的な構成は、基本的には実施形態1と共通する。ただし、三次元造形物の製造方法、すなわち三次元造形装置の制御手順が異なり、本実施形態では、センサ130によるシート状部材21の摩耗や破損の計測は行わない。このため、本実施形態では、必ずしもセンサ130(
図5)を三次元造形装置に設ける必要は無い。ただし、シート状部材21を切断した後に切断部の形状を確認する計測処理(検査工程)を行うためにセンサ130を設けてもよい。
【0051】
(三次元造形物の製造方法)
図7は、実施形態2の三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。実施形態1と同様の工程については、同一の番号を付して示し、詳細な説明は省略する。
本実施形態の粉末堆積装置も、造形品質が低下したり造形の継続が困難になるまでシート状部材21の先端部が消耗する前に、自動的にシート状部材21の先端部を更新する機構を備えている。ここで、シート状部材21の先端部を更新するとは、シート状部材21のうち粉末層形成時に粉末と接触していた部位を、粉末と接触していなかった新たな(未消耗の)部位と交換することをいう。
【0052】
実施形態1では、工程S2でレーザ光の照射処理を開始した後、工程S3においてシート状部材21の先端部の形状を検査した。そして、シート状部材21の先端部に所定程度を超える摩耗や破損があると判定された場合に、先端部の更新処理を行った。
これに対して、実施形態2では、先端部の更新処理を実行すべきタイミングを制御部112に予め記憶させておき、タイミングが到来したら先端部の更新処理を実行する構成としている。
【0053】
図7は、実施形態2における三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。三次元造形処理を開始し、実施形態1と同様に工程S1と工程S2を実行したら、工程S14において、制御部112は、シート状部材21の先端部を更新するタイミングであるか否かを判定する。制御部112には、シート状部材21の先端部を更新するタイミングが予め記憶されている。先端部を更新するタイミングは、例えば所定の層数を造形したタイミング、あるいは粉末層形成処理を所定の回数実行したタイミングのように定めておくことができる。また、固化層の面積が大きいほどシート状部材21の先端部を損耗させる突起部が発生する可能性が大きくなるので、作成した固化層の面積積算値が所定の大きさに達する毎に先端部を更新するように定めておくこともできる。
【0054】
更新タイミングであると判断した(S14:YES)場合には、実施形態1と同様の工程S4~工程S6を実行してシート状部材21の先端部を更新する。更新タイミングではないと判断した(S14:NO)場合には、工程S7に移行する。
本実施形態によれば、シート状部材21の摩耗や破損を計測するセンサを設けなくてもよいので、三次元造形装置のコストを抑制することができる。
【0055】
[実施形態3]
本発明の実施形態3について説明する。実施形態1と共通する部分については、詳細な説明を省略する。
(三次元造形装置)
本実施形態の三次元造形装置の全体的な構成は、基本的には実施形態1と共通するが、粉末堆積装置の構造が異なっている。実施形態1の粉末堆積装置は、
図3を参照して説明したように、シート状部材の先端部をブレードとして用いるものであった。
【0056】
これに対して、実施形態3の三次元造形装置が備える粉末堆積装置では、
図8に示すように、シート状部材31の左端と右端をロール状に巻いて、各ロールをロール支柱32で支持するとともに、その中間部をローラ33で下向きに支持する。ロール支柱32により張架されたシート状部材31の最下部である接触面CSの高さが、積層高さ規制線201の高さになるように、ローラ33は設置されている。ローラ33により支持されたシート状部材31により、材料粉末の山をX軸に沿った方向に押してゆくことにより、上面が平坦で厚みが一定の粉末層を形成することができる。粉末を押してゆくシート状部材31の接触面CSの高さにより、形成される粉末層の厚みが規定されるため、シート状部材31は、粉末層の厚みを規定する厚み規定部材であるといえる。
【0057】
粉末層を形成する際には、シート状部材31はローラ33の円周下部の近傍で固定されており、シート状部材31の同一部分が接触面CSとして粉末と接触し続ける。
シート状部材31は、粉末層の厚みを規定すべくある程度の剛性を有するが、三次元造形物に意図せず形成された突起部と接触した際に、接触部が突起部の形状に倣って変形することができる材料、すなわち弾性材料等で形成されている。また、突起部がローラ33を直接損傷することがないよう、突起部の高さ分だけ圧縮変形可能になるよう十分な厚みをもって形成されている。具体的には、例えばシリコンゴムやエラストマーを主成分とする弾性材料で形成されている。弾性部材であるシート状部材31は、突起部と接触した部分が突起部の形状に倣って変形するだけの柔軟性を有するとともに、突起部とは接触していないその周辺部はほとんど変形しないだけの剛性を有する。かかるシート状部材31を用いることにより、突起部が存在したとしても、その周辺に敷設される粉末層の平坦性が維持される。
【0058】
そして、本実施形態では、接触面CSの形状を計測するためのセンサが検査部として設けられている。センサは、シート状部材31のY方向全幅にわたり、接触面CSの形状を計測するセンサである。例えば、Y方向全幅にわたり撮像可能な画像センサや、Y方向の一部領域を撮像可能な撮像センサとY方向走査機構の組み合わせでもよい。また、撮像センサに限らず、距離センサや超音波センサを用いてもよい。
【0059】
(三次元造形物の製造方法)
図9は、実施形態3の三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。実施形態1と同様の工程については、同一の番号を付しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態の粉末堆積装置は、造形品質が低下したり造形の継続が困難になるまでシート状部材31の接触面CSが消耗する前に、自動的にシート状部材31の接触面CSを更新する機構を備えている。ここで、シート状部材31の接触面CSを更新するとは、シート状部材31のうち粉末層形成時に粉末と接触していた部位を、粉末と接触していなかった新たな(未消耗の)部位と交換することをいう。
【0060】
本実施形態においては、工程S2でレーザ光の照射処理を開始した後、工程S3においてシート状部材31の接触面CSの形状を検査する。制御部112は、取得した計測結果を予め記憶していた判定基準に照らし、シート状部材31の接触面CSに摩耗や破損があるかを判定する。この場合の判定基準は、摩耗や破損がすでに粉末層の形成に支障があるレベルに到達しているかだけではなく、まだ到達してはいないが、次の粉末層形成処理で支障があるレベルに到達する可能性があることを検出する予防安全の観点で設定するのが望ましい。そして、検査結果に基づきシート状部材31の摩耗や破損があると判定された(S3:YES)場合に、接触面CSの更新処理を行う(S25)。
【0061】
接触面CSを更新するには、ローラ33の円周下部の近傍で固定されていたシート状部材31を固定から開放し、移動部としての二つのロール支柱32を連動してロールを回転させる。例えば、
図8においてロールを時計回りに回転させるとすれば、シート状部材31のうち粉末と接触していた部位は右側に移動し、粉末と未接触の部位が左側のロールからローラ33の円周下部に移動する。これにより、粉末と未接触であった部位(新たな接触面CS)は、次の粉末層形成処理の際に粉末と接触可能な位置に、すなわちローラ33の直下に移動される。
【0062】
ロール支柱32の駆動はシート状部材31の引き込みや送りができればどのようなものであってもよい。例えば、ステッピングモータ等の回転力を生み出す一般的な電動機で、ロール支柱32を所望の角度だけ回転させる方法がある。また、ロール支柱32の回転位置を検出するためのエンコーダや、回転を停止させて位置を固定するためのクラッチやブレーキを含む機構であってもよい。
このようにして移動した後、シート状部材31はローラ33の円周下部の近傍で固定され、更新された部位が新たな接触面CSとして機能するようになる。
【0063】
本実施形態によれば、粉末層の形成と固化を繰り返して三次元造形物(物品)を製造する際に、材料供給手段の摩耗や破損により造形精度が低下したり造形動作が停止したりするのを防ぎ、三次元造形を精度よく継続することができる。その結果、形状精度が高い三次元造形物を、高い歩留まりで連続して製造することができる。
【0064】
本実施形態では、レーザ光を照射している間に、センサを用いてシート状部材31の接触面CSの形状変化を計測し、接触面CSの更新(粉末と接触する部位の交換)が必要か否かを判断する。レーザ光の照射と並行して計測を行うため、計測を行うからといって三次元造形物の製造に要するプロセス時間が長くなることはない。また、計測に基づいて接触面CSの更新が必要か否かを判断するため、シート状部材31の消費を必要にして十分な範囲に抑制することができる。
本実施形態では、実施形態1とは異なりシート状部材のカットを行わないので、切断作業スペース122を設ける必要がなく、三次元造形装置を小型化することができる。
【0065】
[実施形態4]
本発明の実施形態4について説明する。実施形態3と説明が共通する部分については、記載を省略する。
(三次元造形装置)
本実施形態の三次元造形装置の全体的な構成は、基本的には実施形態3と共通する。ただし、三次元造形物の製造方法、すなわち三次元造形装置の制御手順が異なり、本実施形態では、センサによるシート状部材31の摩耗や破損の計測は行わない。このため、本実施形態では、必ずしもセンサを三次元造形装置に設ける必要は無い。ただし、シート状部材31を更新した後に接触面CSの形状を確認する計測処理(検査)を行うためにセンサを設けてもよい。
【0066】
(三次元造形物の製造方法)
図10は、実施形態4の三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。実施形態3と同様の工程については、同一の番号を付しており、詳細な説明は省略する。
本実施形態の粉末堆積装置も、造形品質が低下したり造形の継続が困難になるまでシート状部材31の接触面CSが消耗する前に、自動的にシート状部材31の接触面CSを更新する機構を備えている。ここで、シート状部材31の接触面CSを更新するとは、シート状部材31のうち粉末層形成時に粉末と接触していた部位を、粉末と接触していなかった新たな(未消耗の)部位と交換することをいう。
【0067】
実施形態3では、工程S2でレーザ光の照射処理を開始した後、工程S3においてシート状部材31の接触面CSの形状を検査した。そして、シート状部材31の摩耗や破損があると判定された場合に、接触面CSの更新処理を行った。
これに対して、実施形態4では、接触面CSの更新処理を実行すべきタイミングを制御部112に予め記憶しておき、タイミングが到来したら先端部の更新処理を実行する構成としている。
【0068】
図10は、実施形態4における三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。三次元造形処理を開始し、実施形態3と同様に工程S1と工程S2を実行したら、工程S24において、制御部112は、シート状部材31の接触面CSを更新するタイミングであるか否かを判定する。制御部112には、シート状部材31の接触面CSを更新するタイミングが予め記憶されている。接触面CSを更新するタイミングは、例えば所定の層数を造形したタイミング、あるいは粉末層形成処理を所定の回数実行したタイミングのように定めておくことができる。また、固化層の面積が大きいほどシート状部材31の接触面CSを損耗させる突起部が発生する可能性が大きくなるので、作成した固化層の面積積算値が所定の大きさに達する毎に接触面CSを更新するように定めておくこともできる。
【0069】
更新タイミングであると判断した(S24:YES)場合には、実施形態3と同様に工程S25を実行してシート状部材31の接触面CSを更新する。更新タイミングではないと判断した(S24:NO)場合には、工程S7に移行する。
本実施形態によれば、シート状部材31の摩耗や破損を計測するセンサを設けなくてもよいので、三次元造形装置のコストを抑制することができる。
【0070】
[実施形態5]
(三次元造形装置)
図11を参照して、本実施形態に係る三次元造形装置1について説明する。
図11は、三次元造形装置1の構成を説明するための模式図である。尚、実施形態1と共通する部分については、同一の参照番号を付して示し、説明を省略する。本実施形態は、
図1に示した実施形態1の三次元造形装置1とは、粉末堆積装置107の構造が異なる。
【0071】
図12は本実施形態の粉末堆積装置107の構造を模式的に示す一部断面図である。
図12に示すように、粉末堆積装置107は、シート状部材321を保持する保持部322を複数有しており、それらを順次交換することにより、摩耗や破損が生じたシート状部材321を新しいシート状部材321に更新して用いることができる。シート状部材321は、材料粉末の山をX軸に沿った方向に押してゆくことにより、上面が平坦で厚みが一定の粉末層を形成するブレードとして機能する。
【0072】
シート状部材321の下端部の高さにより、形成される粉末層の厚みが規定されるため、シート状部材321は、粉末層の厚みを規定する厚み規定部材であるといえる。シート状部材321の材料に、実施形態1と同様の弾性材料を用いることにより、突起部が存在したとしても、その周辺に敷設される粉末層の平坦性が維持される。
【0073】
しかし、実施形態1でも説明したように、このようなシート状部材321は、耐摩耗性や、傷が生じた場合の引き裂き耐性が必ずしも高くはない。このため、粉末や突起部と繰り返し擦れることで、造形が完了する前にシート状部材321に摩耗や破損が生じてしまい、造形品質が低下したり造形の継続が困難になる可能性がある。
【0074】
そこで、本実施形態の粉末堆積装置107は、造形品質が低下したり造形の継続が困難になるまでシート状部材が消耗する前に、別のシート状部材に切り替える機能を有している。
図12に示すように、シート状部材321は、挟み込まれるようにして保持部322に保持され、保持部322は接続部323と接続されている。また、接続部323は、直動軸324に支持されており、直動軸324は駆動源325により、Z方向に上下動可能である。
【0075】
駆動源325は、シート状部材321を上下動できるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、空圧や油圧などで制御するピストン機構や、ラックとピニオンを用いてモータ等の回転運動を直線運動に変換する機構等を採用してもよい。
尚、
図12に示す粉末堆積装置107は、シート状部材321を5つ搭載しているが、搭載するシート状部材321の数は複数であればよく、5つに限られるわけではない。少なくとも、第1のシート状部材と、第2のシート状部材を有していればよく、5つより多く搭載していてもよい。
【0076】
図13は、本実施形態の保持部322の周辺の構造を模式的に示す一部断面図である。
図13に示すように保持部322は、凸部326を有しており、接続部323は凹部327を有している。凸部326と凹部327は、嵌合可能な形状であり、保持部322と接続部323を組み付け固定する役割がある。保持部322の側に凹部を、接続部323の側に凸部を設けても良い。
凸部326と凹部327の構成は、保持部322と接続部323を容易に組みつけられるものであればどのようなものでもよく、制御部112からの信号を受けて接続をON/OFFさせる空圧や油圧、磁力などを使用した固定方法でもよい。
【0077】
保持部322はシート状部材321を挟んで保持し、シート状部材321は固定部品328で保持部322に固定されている。固定部品328はボルトとナットの構成になっており、シート状部材321を挟む方向に力をかけている。シート状部材321と保持部322の組み付けは、三次元造形前に行われるが、その際、シート状部材321が保持部322から突出する突出量202を高精度に管理する必要がある。突出量202の精度は、
図11で示した積層高さ規制線201の精度に影響し、これらの精度が不足すると良好な粉末積層ができなくなるからである。
【0078】
図14(a)と
図14(b)は、シート状部材321の寸法を調整し、突出量202を管理する方法の一例を示す図である。
図14(a)と
図14(b)を参照して、シート状部材321の寸法を調整し、突出量202を管理する方法を説明する。
まず、
図14(a)に示すように、予めシート状部材321を保持した保持部322を、治具301と治具302を用いて固定する。治具301と治具302は、シート状部材321の寸法調整工具である。
治具301は、保持部322の接続部323と対応する形状である位置決め形状303を有しており、寸法調整の際の基準とすることができる。
【0079】
そして、
図14(b)に示すようにシート状部材321の寸法を一定の長さ、すなわち突出量202の長さになるよう切断を行う。治具302は、シート状部材321の先端を切断する切断部304を有している。切断部304は、シート状部材321の切断を行うものであり、例えば、
図14(b)に示すように、挟動可能な一対の刃物で構成される。粉末層の平坦性を担保するには、シート状部材321を直線に沿って水平に切断することが必要だが、それが可能であるならば、一対の刃物による構成に限らなくともよい。例えば、刃物と板状部材でシート状部材321を挟んで切断する機構でもよいし、ワイヤーカッタのような切断機構でもよい。
【0080】
図15は、保持部の交換を行う位置と動作を説明するための模式図で、
図11では省略されていた三次元造形装置1の左側部分を示している。粉末保管部113を挟んで造形テーブル101の反対側には、余剰粉末回収スペース121と保持部交換スペース422が設けられている。
【0081】
余剰粉末回収スペース121は、所定の厚みの粉末層を形成する粉末層形成処理を実行した際に、粉末堆積装置107が搬送してきた余剰粉末を回収するスペースである。
回収した粉末は廃棄や処理を施して再利用してもよいが、ゴミなどが混入しておらず粉末保管部に保管された粉末と同等の品質が保持されている場合には、原料粉末としてそのまま再利用することも可能である。
【0082】
保持部交換スペース422は、粉末堆積装置107が有するすべてのシート状部材を造形中に使い切った場合や、造形開始時や終了時にシート状部材を新品に自動交換する場合に、保持部322を交換したり保管したりする空間である。
尚、
図15には不図示であるが、本実施形態では、保持部交換スペース422には、検査部として、シート状部材321の形状を計測するためのセンサ130が設けられている。センサ130は、シート状部材321のY方向全幅にわたり、形状を計測するセンサである。例えば、Y方向全幅にわたり撮像可能な画像センサや、Y方向の一部領域を撮像可能な撮像センサとY方向走査機構の組み合わせでもよい。また、撮像センサに限らず、距離センサや超音波センサを用いてもよい。
【0083】
本実施形態では、粉末層を形成した後、レーザ光を照射している間にセンサ130を用いてシート状部材321の形状を計測し、切り替えが必要か否かを判定し、必要な場合にのみシート状部材の切り替え動作を行うようにすることができる。すなわち、センサにより撮像された画像を例えば制御部112が画像処理し、摩耗や損傷による変形が所定の程度を超えるか否かを制御部112が検査し、検査結果に基づいて制御部112が切り替え処理を行うようにすることができる。なお、切り替えが必要か否かは、シート状部材321の形状に基づいて行う方法には限定されず、粉末層の表面の状態に基づいて行うこともできる。
【0084】
また、切り替え動作を行った後、センサ130を用いてシート状部材321の形状を計測し、正常な状態のシート状部材に交換できたかや切り替え動作が問題なく行われたかを確認することが可能である。例えば、
図14(a)に示した工具を使用しての装置外でのシート状部材321の切断作業において、刃物とシート状部材321の間にゴミが偶然存在したために切断部の形状が不整であった場合等には、これを検出することができる。
【0085】
シート状部材の切り替えが必要になった場合には、制御部112は、次の粉末層の形成動作を開始する前に、シート状部材の切り替えを行うことができる。
図15を参照して、保持部322の交換動作を説明する。
図15に示すように、三次元造形装置1の左側には保持部交換スペース422が設けられており、この空間において、摩耗したシート状部材を保持する保持部と新鮮な状態のシート状部材を保持する保持部の交換が行われる。
【0086】
保持部交換スペースには、保持部322を一定の姿勢で留置しておく留置台123が設置されている。まず、空いている留置台123の上に交換する保持部322(摩耗したシート状部材を保持している保持部)が来るように粉末堆積装置107を移動させる。そして、留置台123に粉末堆積装置107の上下動作で保持部322を設置させる。次に、接続部323の保持部322との組み付けを解除し、留置台123に摩耗した保持部322を留置させる。
【0087】
続いて、新しいシート状部材を保持する保持部322を留置している留置台123の上に、保持部を交換する接続部323が来るように粉末堆積装置107を移動させる。そして、摩耗したシート状部材を保持する保持部322を取り外した時とは逆の手順で、新しいシート状部材を保持する保持部を接続部323に取り付ける。尚、
図15では、三次元装置の左側に保持部交換スペースを設けた例を示したが、保持部交換スペースは左右どちらにあっても良く、両側にあってもよい。
【0088】
(三次元造形物の製造方法)
本実施形態の三次元造形装置1を用いた三次元造形物の製造方法について説明する。
三次元造形装置1の造形テーブル101にプレート102が装着されたら、三次元造形装置1は固化部を繰り返し堆積させてゆき、三次元造形物をプレート102上に作成する。
【0089】
図16は、三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。
三次元造形が開始されると、工程S1において、制御部112は、所定の厚みの粉末層を形成する粉末層形成処理を実行する。すなわち、制御部112は、垂直移動機構106に指令を送り、造形動作を行うための初期位置に造形テーブル101を移動させる。
次に、左右どちらかの粉末保管部113を粉末保管部垂直移動機構114により上昇させ、積層高さ規制線201より上に粉末を上昇させる。
【0090】
次に、制御部112は、粉末堆積装置107に指令を送り、上昇させた粉末保管部113側からプレート102に向けてX軸の正方向または負方向に移動ガイド108に沿って移動させる。その際には、シート状部材321の下端の高さが積層高さ規制線201の高さと一致するようにシート状部材321のZ軸方向の位置を予め合わせておく。
積層高さ規制線201より上に位置する粉末を、シート状部材21が押し動かしながらプレート102の上を移動することにより、所定の厚さの一層の原料粉末層がプレート102の上に形成される。
【0091】
粉末層が形成されたら、工程S2において、制御部112は、固化処理を開始する。すなわち、制御部112は、レーザ光源109、スキャナ110、集光レンズ111に指令を送り、固化させようとする箇所にレーザ光を照射させて原料粉末を加熱させる。
レーザ光源109から出射したレーザ光は、スキャナ110によって、造形すべき形状に応じてXY方向のそれぞれについて走査される。レーザ光は、集光レンズ111で粉末層の極めて狭い領域に集束され、局所加熱された部分が焼結あるいは溶融して固化する。スキャナ110によって走査しながら、レーザ光源109を明滅させることにより、粉末層の任意の位置にレーザ光を照射して固化部116を形成することができる。
【0092】
制御部112は、工程S2において固化処理を開始したら、工程S3においてシート状部材321の形状を検査する検査処理を実行する。すなわち、制御部112は、粉末堆積装置107に指令を送り、センサ130の計測位置に移動させるとともに、センサ130にシート状部材321の形状を計測させ、計測結果を取得する。
制御部112は、取得した計測結果を予め記憶していた判定基準に照らし、シート状部材321の摩耗や破損があるかを判定する。この場合の判定基準は、摩耗や破損がすでに粉末層の形成に支障があるレベルに到達しているかだけではなく、まだ到達してはいないが、次の粉末層形成処理で支障があるレベルに到達する可能性があることを検出する予防安全の観点で設定するのが望ましい。
【0093】
シート状部材321の摩耗や破損があると判定された場合(工程S3:YES)には、制御部112は、工程S34を実行し、シート状部材の切り替え処理を実行する。
工程S34を実行して切り替え処理を完了したら、工程S7において、制御部112は、工程S2で開始したレーザ照射処理がすでに完了しているかを判定する。完了していない場合(工程S7:NO)には、工程S7を繰り返し、レーザ照射処理が完了するのを待つ。
【0094】
また、先の工程S3において、シート状部材321に摩耗や破損が無いと判定された場合(工程S3:NO)には、工程S7に移り、レーザ照射処理が完了するのを待つ。
工程S7において、この粉末層に対するレーザ照射処理が完了したと判定された場合(工程S7:YES)には、工程S8に移り、三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了したかを判定する。
【0095】
三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了していないと判定した場合(工程S8:NO)には、工程S1に戻り、次の固化層を形成するための粉末層形成処理を行う。以下、工程S2以下を実行し、レーザ照射処理を完了させる。
工程S8において、三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了したと判定されるまで、これを繰り返す。
工程S8において、三次元造形物を構成する全ての層の造形(固化)が終了したと判定された場合(工程S8:YES)には、三次元造形処理を終了する。
【0096】
本実施形態によれば、粉末層の形成と固化を繰り返して三次元造形物(物品)を製造する際に、材料供給手段の摩耗や破損により造形精度が低下したり造形動作が停止したりするのを防ぎ、三次元造形を精度よく継続することができる。その結果、形状精度が高い三次元造形物を、高い歩留まりで連続して製造することができる。
本実施形態では、レーザ光を照射している間に、センサを用いてシート状部材321の形状変化を計測し、シート状部材の切り替えが必要か否かを判断する。
【0097】
[実施形態6]
本発明の実施形態6について説明する。実施形態1あるいは実施形態5と説明が共通する部分については、記載を省略する。
【0098】
(三次元造形装置)
本実施形態の三次元造形装置の全体的な構成は、基本的には実施形態5と共通する。ただし、三次元造形物の製造方法、すなわち三次元造形装置の制御手順が異なり、本実施形態では、センサによるシート状部材321の摩耗や破損の計測は行わない。このため、本実施形態では、必ずしもセンサを三次元造形装置に設ける必要は無い。
【0099】
(三次元造形物の製造方法)
図17は、実施形態6の三次元造形物の形成手順を説明するためのフローチャートである。実施形態5と同様の工程については、同一の番号を付して示し、詳細な説明は省略する。
本実施形態の粉末堆積装置も、造形品質が低下したり造形の継続が困難になるまでシート状部材321が消耗する前に、自動的にシート状部材321を切り替えする機構を備えている。ここで、シート状部材321を切り替えるとは、シート状部材321のうち粉末層形成時に粉末と接触していたシート状部材321を、粉末と接触していなかった新たな(未消耗の)シート状部材321と交換(更新)することをいう。
【0100】
実施形態5では、工程S2でレーザ光の照射処理を開始した後、工程S3においてシート状部材321の形状を検査した。そして、シート状部材321に所定程度を超える摩耗や破損があると判定された場合に、切り替え処理を行った。
これに対して、実施形態6では、切り替え処理を実行すべきタイミングを制御部112に予め記憶させておき、タイミングが到来したら切り替え処理を実行する構成としている。
【0101】
三次元造形処理を開始し、実施形態5と同様に工程S1と工程S2を実行したら、工程S43において、制御部112は、シート状部材321を切り替えるタイミングであるか否かを判定する。制御部112には、シート状部材321を切り替えるタイミングが予め記憶されている。シート状部材を切り替えるタイミングは、例えば所定の層数を造形したタイミング、あるいは粉末層形成処理を所定の回数実行したタイミングのように定めておくことができる。また、固化層の面積が大きいほどシート状部材321を損耗させる突起部が発生する可能性が大きくなるので、作成した固化層の面積積算値が所定の大きさに達する毎に切り替えるように定めておくこともできる。
【0102】
切り替えタイミングであると判断した場合には(S43:YES)、実施形態5と同様の工程S34を実行してシート状部材321の切り替えを行う。
一方、切り替えタイミングではないと判断した場合には(S43:NO)、工程S7に移行する。
本実施形態によれば、シート状部材321の摩耗や破損を計測するセンサを設けなくてもよいので、三次元造形装置のコストを抑制することができる。
【0103】
[実施形態7]
本発明の実施形態7について説明する。実施形態5と共通する部分については、詳細な説明を省略する。
【0104】
(三次元造形装置)
本実施形態の三次元造形装置の全体的な構成は、基本的には実施形態5と共通するが、粉末堆積装置の構造が異なっている。実施形態5の粉末堆積装置は、
図12を参照して説明したように、複数のシート状部材を平行に保持し、水平移動と上下動により切り替え処理を実行するものであった。
【0105】
これに対して、実施形態7の三次元造形装置が備える粉末堆積装置では、
図18に示すように、複数のシート状部材331を放射状に配置して保持している。シート状部材331は、保持部332に挟み込まれるように保持されており、保持部332は接続部333に接続されている。
本実施形態では、実施形態5の粉末堆積装置とは異なり、シート状部材の切り替えは、放射状に配置されたシート状部材を回転させることにより行う。シート状部材331と保持部332、接続部333の基本構成は実施形態5と同様の構造を使用可能であり、シート状部材の切り替え方法が異なっている。
【0106】
シート状部材331を切り替えるための回転動作の駆動機構(回転部)は、損耗したシート状部材331や未損耗の新鮮なシート状部材331を切り替え作業位置に回転移動させる処理ができれば、どのようなものであってもよい。
例えば、ステッピングモータ等の回転力を生み出す一般的な電動機で、所望の角度だけ回転させる方法がある。また、回転位置を検出するためのエンコーダや、回転を停止させて位置を固定するためのクラッチやブレーキを含む機構であってもよい。
【0107】
以上、実施形態1~7では、三次元造形装置の制御部112が粉末堆積装置107を制御する構成について説明したが、粉末堆積装置107が三次元造形装置との制御部112とは別に制御部を有する、独立したユニットであってもよい。粉末堆積装置107の制御部は、三次元造形装置の制御部112と互いに連携して動作してもよいし、三次元造形装置の制御部とは独立して粉末堆積装置107の制御部が動作してもよい。
【0108】
[実施例]
次に、具体的な実施例と比較例を示す。実施例1~実施例4は、上述した実施形態に係る具体例である。また、比較例1は、自動更新機能を有していない従来のブレードを備えた三次元造形装置を用いて造形を行った例である。実施例1~実施例3は本発明の実施形態2の粉末供給機構、実施例4は本発明の実施形態4の粉末供給機構を用いた。
【0109】
実施例および比較例の三次元造形工程は、同一条件下で行うようにした。実施例では原料粉末として、粉末の最大粒径が35μm以下で、平均粒径が20μmのSUS630またはAlSi10Mgの粉末材料を使用した。また、比較例1は、実施例1~実施例2と実施例4と同じ材質の原料粉末を用いて造形した。
光源はファイバーレーザを用い、造形時の雰囲気には、温度が30℃で酸素濃度1000ppmのアルゴンガスを用いた。また、1層の厚みは40μmであり、トータル2500層の造形とした。
【0110】
実施形態2の粉末供給機構を用いる実施例1~実施例3では、100層形成する毎の計24回、シート状部材の先端部の切断を行い更新した。また、実施形態4の粉末供給機構を用いる実施例4では、100層形成する毎の計24回、シート状部材の接触面の交換を行い更新した。
【0111】
三次元造形物は、機械装置用部品として用いる100mm×100mm×100mmのブロックであり、実施例と比較例について同条件の1個取りで造形した。一般的な加熱条件よりも高エネルギーのレーザビームを照射して粉末の溶融を促進し、空孔の発生が抑制された高密度な造形物を作成した。
【0112】
これらの実施例と比較例について、シート状部材の摩耗と造形品品質の2つの評価項目について評価を行った。シート状部材の摩耗に関しては、シート状部材の摩耗量を評価した。造形品品質に影響を与えると想定される摩耗量が、1層の積層厚みである40μm以上になっていないかを評価した。摩耗量が40μm未満の場合はA、40μm以上の場合はBとした。
【0113】
造形品品質については、造形工程の途中で突起部が生じた場合に、完成した造形物について目視で外観を検査し、粉末層の形成不良に起因した割れや造形段差、突起などがないかを評価した。外観が良好な場合はA、割れや造形段差、突起等を確認した場合はBとした。
実施例と比較例について、シート状部材の材質、粉末の材質、評価結果をまとめて表1に示す。
【0114】
【0115】
表1に示すように、いずれの実施例においても、実用上問題となるBの評価は無かった。すなわち、実施例1~実施例4は、シート状部材の摩耗が少なく、完成した造形品の品質は良好であった。
これに対して比較例1では、シート状部材の摩耗量が1層の厚みである40μmを超えており、造形品質に影響を与えていると考えられる。また、造形品は摩耗したシート状部材を用いて完成させているため、粉末層の平坦性や厚み精度の不足に起因した形状不良があり、三次元造形物の形状精度が低かった。
【0116】
[他の実施形態]
本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形や組み合わせが可能である。
例えば、三次元造形装置は、更新処理において消耗していない厚み規定部材を供給できる機構を備えていればよく、必ずしもロール状に巻いたシート状部材や板状の弾性部材を用いなくてもよい。
また、敷設した原料粉末層を加熱する光源として、上記実施形態ではレーザ光源を用いたが、照射エネルギー密度の制御や、照射光の走査ができるものであれば、用いる光は必ずしもレーザ光でなくてもよい。たとえば、高輝度ランプ、シャッタ、可変焦点レンズ、走査ミラー等の光学要素を組み合わせた照射光学系を用いることも、場合によっては可能である。さらに、加熱用のエネルギービーム照射部は光ビームを照射する装置でなくともよく、例えば電子ビームを照射する装置であってもよい。
また、原料粉末は、金属粉、ABSやPEEK等の樹脂粉末など多種の材料を用いることが可能で、材料に応じて適宜の粒径を選択することができる。
【符号の説明】
【0117】
1・・・三次元造形装置/21・・・シート状部材/22・・・ロール支柱/23・・・ローラ/24・・・固定部/25・・・切断部/31・・・シート状部材/32・・・ロール支柱/33・・・ローラ/101・・・造形テーブル/102・・・プレート/103・・・ピン/104・・・ネジ/106・・・垂直移動機構/107・・・粉末堆積装置/108・・・移動ガイド/109・・・レーザ光源/110・・・スキャナ/111・・・集光レンズ/112・・・制御部/113・・・粉末保管部/114・・・粉末保管部垂直移動機構/116・・・固化部/130・・・センサ/201・・・積層高さ規制線/CS・・・接触面