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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/46 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
C08G65/46
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020132574
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029302
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 繁
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241258(JP,A)
【文献】特開2019-189686(JP,A)
【文献】特開2004-099681(JP,A)
【文献】米国特許第06759507(US,B1)
【文献】特開2017-214543(JP,A)
【文献】特開2018-203968(JP,A)
【文献】特開2017-179009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(Mw)が2500~6000であり、ガラス転移温度(Tg)が100~200℃であるポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルの良溶媒と、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを含むスラリー液を固液分離して湿潤ポリフェニレンエーテルを得る固液分離工程と、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルを乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記乾燥工程の開始時の前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、下記式に従い設定した加熱温度T1で融着が生じない含液率の上限(未融着上限含液率)以下であり、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点をbl℃、最も高沸点の溶媒の沸点をbh℃としたとき、
前記乾燥工程において、
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまでの加熱温度:T1を以下の範囲に設定し、
bl℃≦T1≦(Tg-30)℃
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後の加熱温度:T2を以下の範囲に設定し、
(bh+5)℃≦T2≦(Tg-5)℃
かつ、T2をT1より高い温度に設定し、
前記固液分離工程で得られた湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、前記式に従い設定した加熱温度:T1での未融着上限含液率を超える場合、前記乾燥工程前に前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下に調整する含液率調整工程を含み、
前記含液率調整工程が、
含液率が前記加熱温度:T1での未融着上限含液率を超えた前記湿潤ポリフェニレンエーテルに通気することにより、前記含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下にする工程である、
ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項2】
重量平均分子量(Mw)が2500~6000であり、ガラス転移温度(Tg)が100~200℃であるポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルの良溶媒と、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを含むスラリー液を固液分離して湿潤ポリフェニレンエーテルを得る固液分離工程と、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルを乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記乾燥工程の開始時の前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、下記式に従い設定した加熱温度T1で融着が生じない含液率の上限(未融着上限含液率)以下であり、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点をbl℃、最も高沸点の溶媒の沸点をbh℃としたとき、
前記乾燥工程において、
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまでの加熱温度:T1を以下の範囲に設定し、
bl℃≦T1≦(Tg-30)℃
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後の加熱温度:T2を以下の範囲に設定し、
(bh+5)℃≦T2≦(Tg-5)℃
かつ、T2をT1より高い温度に設定し、
前記固液分離工程で得られた湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、前記式に従い設定した加熱温度:T1での未融着上限含液率を超える場合、前記乾燥工程前に前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下に調整する含液率調整工程を含み、
前記含液率調整工程が、
含液率が前記加熱温度:T1での未融着上限含液率を超えた前記湿潤ポリフェニレンエーテルを、該湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒成分の中で最も低沸点である溶媒の沸点以上、前記含液率が前記加熱温度:T1での未溶融上限含液率となる温度以下の温度にて乾燥し、前記含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下にする工程である、
ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項3】
前記湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒が、沸点が50~150℃である溶媒を含む、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記加熱温度:T1に設定した第1の乾燥単位と前記加熱温度:T2に設定した第2の乾燥単位とを含む乾燥機を用いる、請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項5】
直列に配置された前記加熱温度:T1に設定した第1の乾燥機と前記加熱温度:T2に設定した第2の乾燥機とを含む乾燥装置を用いる、請求項1~のいずれか一項に記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤ポリフェニレンエーテルを乾燥する新たな乾燥工程を含むポリフェニレンエーテル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル(以下、単にPPEという場合がある)は、優れた高周波特性、難燃性、耐熱性を有するため、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野で材料として幅広く用いられている。それらの特性を活かしつつ、さらに低分子量化して汎用溶剤等への溶解性を高めたPPEについて、電子材料用途や、他樹脂との組み合わせで優れた特性を得るための複合材料や添加剤としての用途等が検討されている。
【0003】
一般的なPPEの工業的生産での重合工程は、沈殿析出重合と溶液重合がある。沈殿析出重合では重合終了時にスラリー液であり、溶液重合では重合終了時は溶液であるが後工程でPPEの貧溶媒と混合しスラリー液となる。いずれの重合工程でも得られたスラリー液は、洗浄等の後処理後に固液分離を行い、湿潤PPEを得る。湿潤PPEはPPEの良溶媒と貧溶媒を含有するが、良溶媒の含有率が高い状態での乾燥ではPPEの付着性が高い。特に低分子量化したPPEでは、良溶媒と貧溶媒の含液率が高いと、乾燥装置へのスケーリング等の問題が発生する。また、乾燥効率を上げるため乾燥機内の伝熱面温度を高温に上げていくと伝熱面上で融着現象が発生し、強固なスケーリングやスケーリング物脱離による融着物の製品混入等のトラブルの原因となる。
そのため、工業的なPPEの製造において、湿潤PPEの乾燥方法について様々な検討がなされてきた。
【0004】
特許文献1には、低分子量PPEの製造方法が記載されている。製造時の乾燥条件について、詳細な記載はない。
特許文献2には、湿潤状態のPPEを乾燥させるために複数の加熱管が内部に配置された回転式乾燥機を用いる方法が記載されている。PPEの良溶媒が、10重量%以上存在する乾燥ゾーンでのPPEの温度を、100℃以下にすることを特徴としているが、乾燥機伝熱面の加熱温度に関する記載はない。
特許文献3には、乾燥状態でのPPE樹脂のガラス転移温度より40℃低い温度以上かつガラス転移温度以下に加熱したPPE樹脂の乾燥体と、湿潤状態のPPE樹脂を混合撹拌し造粒させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-39628号公報
【文献】特開2001-335632号公報
【文献】特開2006-241258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施例には、PPEの乾燥方法として70℃での真空乾燥が開示されているが、当該乾燥方法は生産性に劣り、工業生産に適した乾燥方法とはいえない。
【0007】
特許文献2のPPE良溶媒量が10重量%以上存在する乾燥ゾーンのPPEの温度は、乾燥途中のPPEが含有する溶媒中の最も低沸点溶媒の沸点付近となる。そのため、例えば代表的な貧溶媒であるメタノール(沸点:64.7℃)を含有する場合は、PPEの温度はメタノールの沸点である64.7℃付近になるが、PPEの温度を100℃以下に調整(維持)しつつ、乾燥効率を上げようとして加熱温度を上げると、加熱面の温度が100℃以上になる場合があり、加熱面でのスケーリングや融着を回避することが出来ないことも考えられる。
また、PPEに残留する溶媒の主成分が、代表的な良溶媒であるトルエン(沸点:110℃)になった場合、PPEの温度を100℃以下に保つためには加熱面の温度を100℃以下に設定する必要がある。しかしながら、湿潤PPEの乾燥で限界含液率に達するまでの恒率乾燥速度に対し供給熱量が重要であり、加熱面の温度が100℃以下では乾燥効率が充分ではない。
【0008】
特許文献3の実施例では、混合状態で乾燥した場合の融着有無を確認しており、特許文献3の手法で乾燥時の融着現象を抑制できることが記載されている。しかしながら、ポリフェニレンエーテル樹脂の乾燥体を混合して乾燥するため、乾燥装置を大きくする必要があり、設備コストやランニングコストが増大し、効率的ではない。また、造粒体の一部が溶融している記載があり、特に低分子量PPEの乾燥を特許文献3の方法で行った場合、乾燥機内に融着物がスケーリングする懸念がある。
さらに、低分子量PPEの場合は、通常のPPEに比べ、ガラス転移温度が低い。このため、通常のPPEと同等の温度条件で乾燥を行うと、伝熱面の加熱温度がガラス転移温度付近になる場合があり、低分子量PPEが溶融するため、強固なスケーリングやスケーリング物脱離による融着物の製品混入等のトラブルの原因となる。
【0009】
このように、低分子量PPE製造工程での湿潤PPEの乾燥については、スケーリング、融着を回避して効率よく乾燥する手法が検討されてきたが、そのような手法は未だ得られていなかった。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、乾燥中に、乾燥機でのスケーリング、融着等の問題を低減しつつ、乾燥速度を高めることが可能なPPEの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、湿潤PPEを乾燥するときに、溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまで、湿潤PPEが接触する伝熱面の加熱温度を低めに調整し、前記低めの乾燥温度における未融着上限含液率以下の含液率で乾燥機に供給することにより、スケーリングや融着を抑制できる。更に、溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後では、PPEが溶融しない範囲で伝熱面の加熱温度を高めることにより、湿潤PPEの乾燥効率を大幅に改良できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]
重量平均分子量(Mw)が2500~6000であり、ガラス転移温度(Tg)が100~200℃であるポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルの良溶媒と、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを含むスラリー液を固液分離して湿潤ポリフェニレンエーテルを得る固液分離工程と、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルを乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記乾燥工程の開始時の前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、下記式に従い設定した加熱温度T1で融着が生じない含液率の上限(未融着上限含液率)以下であり、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点をbl℃、最も高沸点の溶媒の沸点をbh℃としたとき、
前記乾燥工程において、
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまでの加熱温度:T1を以下の範囲に設定し、
bl℃≦T1≦(Tg-30)℃
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後の加熱温度:T2を以下の範囲に設定し、
(bh+5)℃≦T2≦(Tg-5)℃
かつ、T2をT1より高い温度に設定し、
前記固液分離工程で得られた湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、前記式に従い設定した加熱温度:T1での未融着上限含液率を超える場合、前記乾燥工程前に前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下に調整する含液率調整工程を含み、
前記含液率調整工程が、
含液率が前記加熱温度:T1での未融着上限含液率を超えた前記湿潤ポリフェニレンエーテルに通気することにより、前記含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下にする工程である、ポリフェニレンエーテルの製造方法。
[2]
重量平均分子量(Mw)が2500~6000であり、ガラス転移温度(Tg)が100~200℃であるポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルの良溶媒と、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを含むスラリー液を固液分離して湿潤ポリフェニレンエーテルを得る固液分離工程と、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルを乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記乾燥工程の開始時の前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、下記式に従い設定した加熱温度T1で融着が生じない含液率の上限(未融着上限含液率)以下であり、
前記湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点をbl℃、最も高沸点の溶媒の沸点をbh℃としたとき、
前記乾燥工程において、
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまでの加熱温度:T1を以下の範囲に設定し、
bl℃≦T1≦(Tg-30)℃
前記溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後の加熱温度:T2を以下の範囲に設定し、
(bh+5)℃≦T2≦(Tg-5)℃
かつ、T2をT1より高い温度に設定し、
前記固液分離工程で得られた湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率が、前記式に従い設定した加熱温度:T1での未融着上限含液率を超える場合、前記乾燥工程前に前記湿潤ポリフェニレンエーテルの含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下に調整する含液率調整工程を含み、
前記含液率調整工程が、
含液率が前記加熱温度:T1での未融着上限含液率を超えた前記湿潤ポリフェニレンエーテルを、該湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒成分の中で最も低沸点である溶媒の沸点以上、前記含液率が前記加熱温度:T1での未溶融上限含液率となる温度以下の温度にて乾燥し、前記含液率を前記加熱温度:T1での未融着上限含液率以下にする工程である、
ポリフェニレンエーテルの製造方法。

前記湿潤ポリフェニレンエーテルが含有する溶媒が、沸点が50~150℃である溶媒を含む、[1]又は[2]に記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。

前記加熱温度:T1に設定した第1の乾燥単位と前記加熱温度:T2に設定した第2の乾燥単位とを含む乾燥機を用いる、[1]~[]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。

直列に配置された前記加熱温度:T1に設定した第1の乾燥機と前記加熱温度:T2に設定した第2の乾燥機とを含む乾燥装置を用いる、[1]~[]のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、乾燥中に、乾燥機でのスケーリング、融着等の問題を低減しつつ、乾燥速度を高めて、PPEを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】湿潤PPEを乾燥させたときの乾燥曲線の一例を示す図である。縦軸は、通常目盛として湿潤PPEの含液率を示し、横軸は、乾燥時間を示す。
図2】湿潤PPEを乾燥させたときの乾燥曲線の一例を示す図である。縦軸は、対数目盛として湿潤PPEの含液率を示し、横軸は、乾燥時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔PPE〕
本実施形態のPPEについて以下を説明する。PPEは、下記式(1)で表される繰返し単位構造からなるホモ重合体及び/又は共重合体である。
【0017】
【化1】
【0018】
上記式(1)中、
aは1~6の整数であり、nは1以上の整数である。
11、R12、R13、R14は、各々独立に、水素原子、炭素数1~6の飽和又は不飽和の炭化水素基、又は炭素数6~12の飽和又は不飽和のアリール基である。
11、R12として、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基などであり、より好ましくは水素原子、メチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
13、R14として、好ましくはメチル基、エチル機、n-プロピル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、プロパルギル基などであり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
ここで、飽和又は不飽和の炭素数1~6の炭化水素基、飽和又は不飽和の炭素数6~12のアリール基は、何れも置換基を有していてもよい。
Aは、水素原子又は任意の置換基である。置換基としては、各々独立に、炭素-炭素二重結合及び/又はエポキシ結合を含むことが好ましい。
Zは、aが1の場合は、水素原子又は任意の炭化水素基である。また、Zは、aが2~6の場合は、a価の任意の連結基であり、2価以上の連結基として好ましくは下記式(2)で表されるフェノール化合物が挙げられる。
【0019】
【化2】
【0020】
上記式(2)中、
aは、式(1)と同様の整数が挙げられ、式(1)と同じ整数であることが好ましい。
kは1~4の整数である。
Xは、a価の任意の連結基であり、特に制限はされないが、例えば、鎖式炭化水素基、環式炭化水素基等の炭化水素基;窒素、リン、ケイ素、及び酸素から選ばれる1つ又は複数の原子を含有する炭化水素基;窒素、リン、ケイ素、酸素等の原子;又はこれらを組合せた基等が挙げられる。
Xとして、好ましくは炭化水素基、酸素原子、アルキルアミノ基、カルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、又はこれらを組合せた基等が挙げられる。
21は、各々独立した任意の置換基であり、例えば、水素原子、ハロゲン、炭素数1~12の飽和又は不飽和の炭化水素基等である。ここで、炭素数1~12の飽和又は不飽和炭化水素は、置換基を有していてもよい。より好ましい炭化水素基としては、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基から選択される1種又は複数の組み合わせである。更に好ましい炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等の炭素数1~8のアルキル基である。
【0021】
本実施形態のPPEの重量平均分子量Mwは、高周波特性、難燃性、耐熱性と溶剤への溶解性の観点から、2500~6000であり、好ましくは2750~5750であり、より好ましくは3000~5500である。PPEの重量平均分子量Mwが2500以上であると、PPE本来の特性である高周波特性、難燃性、及び耐熱性を十分に確保することができ、6000以下であると、電子材料や複合材料としてPPEを使用する場合の溶剤溶解性を十分に確保することができる。
本実施形態のPPEの数平均分子量Mnは、特に限定はないが、電子材料等で使用するため、汎用溶剤(例えば、トルエン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン等)に溶解可能であり、他樹脂との混合性を阻害しない範囲であることが好ましい。そのため、PPEの数平均分子量Mnは、500~30000であることが好ましく、より好ましくは700~15000であり、更に好ましくは700~10000である。
また、分子量分布Mw/Mnは、1.1~5であることが好ましく、より好ましくは1.3~4であり、更に好ましくは1.5~3である。
なお、PPEの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び分子量分布Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができ、具体的には、後述の実施例における測定方法により測定した値とする。
【0022】
本実施形態のPPEのガラス転移温度(Tg)は、100℃~200℃であり、好ましくは100℃~190℃であり、より好ましくは104℃~175℃である。
なお、PPEのガラス転移温度は、示差熱走査熱量分析計を用いて測定することができ、具体的には、後述の実施例における測定方法により測定した値とする。
【0023】
〔PPEの製造方法〕
PPEの製造方法としては、沈殿析出重合法と溶液重合法がある。
両法共に、PPEの良溶媒中、又はPPEの良溶媒と貧溶媒の混合溶媒中で、銅化合物及びアミン類の存在下、フェノール類を酸化重合する。
沈殿析出重合法では、酸化重合中にPPEが析出してスラリー状態になる。
一方、溶液重合法では、酸化重合中にPPEは析出しない。溶液重合法では、重合後のPPE溶液に、必要であれば濃縮等の後処理を行った後、PPEの貧溶媒と混合しPPEを析出させてスラリー状態にする。
沈殿析出重合法、溶液重合法共に、得られたスラリー液を貧溶媒等で洗浄し、固液分離し、必要に応じPPEの貧溶媒等で更に洗浄と固液分離とを繰返し、湿潤PPEを得る(固液分離工程)。
得られた湿潤PPEを乾燥することにより(乾燥工程)、PPE製品パウダーを製造する。
【0024】
ここで代表的なPPEの良溶媒としては、クロロホルム(沸点:61.2℃)、ベンゼン(沸点:80.1℃)、トルエン(沸点:110.7℃)、o-キシレン(沸点:144.5℃)、m-キシレン(沸点:139.1℃)、p-キシレン(沸点:138℃)、エチルベンゼン(沸点:136℃)、混合キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼンの混合物)、メチルエチルケトン(沸点:79.64℃)、1-ブタノール(沸点:117.7℃)等の炭素数が4以上のアルコール類が挙げられる。中でも、ベンゼン、トルエン、混合キシレン、メチルエチルケトン、及び炭素数が4以上のアルコール類からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、トルエン、1-ブタノール、及びメチルエチルケトンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0025】
また、代表的なPPEの貧溶媒としてはアセトン(沸点:56.5℃)等のケトン類、メタノール(沸点:64.7℃)、エタノール(沸点:78.3℃)、1-プロパノール(沸点:97.2℃)等の炭素数が3以下のアルコール類、水等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、メタノール、エタノール、アセトン、及び水からなる群より選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態では、これらの良溶媒や貧溶媒を単独で使用することも、複数の良溶媒や貧溶媒を組合せて使用することもできる。
本実施形態では、重合に使用された良溶媒及び貧溶媒は、湿潤PPEが含有する溶媒成分(後述)に含まれ得る。
溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点をbl℃とした場合、45℃≦bl≦120℃であることが好ましく、50℃≦bl≦115℃であることがより好ましく、55℃≦bl≦110℃であることがさらに好ましい。
また、溶媒成分の中で最も高沸点の溶媒の沸点をbh℃とした場合、80℃≦bh≦180℃であることが好ましく、90℃≦bh≦165℃であることがより好ましく、100℃≦bh≦150℃であることがさらに好ましい。
また、bhとblとの差は、10℃≦(bh-bl)≦130℃であることが好ましく、20℃≦(bh-bl)≦110℃であることがより好ましく、30℃≦(bh-bl)≦90℃であることがさらに好ましい。
溶媒成分は、安全性及び生産安定性の観点から、沸点が50~150℃である溶媒を含むことが好ましい。沸点が50℃以上であると、積極的に温度制御していない工程であっても溶媒が引火爆発する危険が抑えられ、安全性を確保することができる。また、沸点が150℃以下であると、後述する乾燥工程において、PPEのガラス転移温度Tgよりも低い設定温度で良好に乾燥することができるため、PPEを軟化させることなく安定して生産することができる。
【0027】
〔固液分離工程〕
固液分離工程は、ポリフェニレンエーテルと、ポリフェニレンエーテルの良溶媒と、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを含むスラリー液を固液分離して湿潤ポリフェニレンエーテルを得る工程である。
固液分離は、特に限定されず、遠心分離機(バスケット型、振動型、スクリュー型、デカンタ型等)や真空濾過機(ろ過乾燥機、ドラム型フィルター、ベルトフィルター、ロータリーバキュームフィルター、ヤングフィルター、ヌッチェ等)やフィルタープレス、ロールプレス等の公知の固液分離機を用いることができる。
【0028】
〔湿潤PPEの含液率調整工程〕
本実施形態では、乾燥工程に供給する湿潤PPEの含液率を未溶融上限含液率以下とする。未溶融上限含液率とは、溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまでの乾燥機伝熱面の加熱温度:T1(後述)において、融着が生じない含液率の上限値である。
乾燥工程前の固液分離工程で得られた湿潤PPEの含液率が上記未溶融上限含液率を超える場合、含液率調整工程を経て当該含液率を上記未融着上限含液率以下に調整することにより、更に乾燥機での融着やスケーリングを抑制することができる。
なお、未融着上限含液率は、オートクレーブとオイルバスを用いた加熱試験で測定することができ、具体的には、後述の実施例における測定方法により測定した値とする。
【0029】
湿潤PPEの含液率を上記未融着上限含液率以下に調整する方法としては、固液分離工程において分離能力が高い固液分離機を選定する方法、乾燥機等を用いて事前に低温で乾燥する方法、湿潤PPEに不活性ガス等(例えば、窒素ガス)を通気し風乾する方法、湿潤PPEに低含液率PPEを混合する方法等が挙げられる。
【0030】
乾燥機等を用いて事前に低温で乾燥する方法において、乾燥温度は、湿潤PPEが含有する溶媒成分の中で最も低沸点である溶媒の沸点bl℃以上、含液率が上記未溶融上限含液率となる温度以下の温度とすることが好ましい。また、乾燥時間は、特に限定されず、装置のサイズや原料量等に応じて適宜定められてよい。
【0031】
湿潤PPEに不活性ガス等を通気し風乾する方法において、不活性ガス等の供給速度、風乾時間等の条件は、特に限定されず、装置の形状やサイズ、原料量等に応じて適宜定められてよい。
風乾に用いる装置は、特に限定されず、公知の風乾装置を用いることができる。また、固液分離工程で用いた固液分離機内で通気してもよい。
【0032】
湿潤PPEに低含液率PPEを混合する方法において、低含液率PPEの含液率は、含液率が上記未融着上限含液率より低い値であれば特に限定されないが、0.001質量%以上未融着上限含液率未満であることが好ましく、0.01質量%以上未融着上限含液率未満であることがより好ましい。
また、低含液率PPEの添加量は、特に限定されないが、湿潤PPEを100質量%として、1.0~30000質量%であることが好ましく、3.5~28000質量%であることがより好ましい。
【0033】
〔湿潤PPEの乾燥工程〕
本実施形態の湿潤PPEは、上記の通り、PPEの製造工程において、PPEとその良溶媒と貧溶媒とを含むスラリー液を固液分離する固液分離工程により得られる。
湿潤PPEの乾燥は、2段階、場合によっては3段階以上の乾燥挙動を示してよい。
図1及び図2に、湿潤PPEを乾燥させたときの乾燥曲線の一例を示す。図1は、縦軸を通常目盛として湿潤PPEの含液率を示し、横軸は、乾燥時間を示したものである。図2は、縦軸を対数目盛として湿潤PPEの含液率を示し、横軸は、乾燥時間を示したものである。
図1において、Iは材料予熱期、IIは恒率乾燥期、IIIは減率乾燥期、図2において、IIIAは減率乾燥期1、IIIBは減率乾燥期2を示す。
図1のIで示される材料予熱期と呼ばれる段階は、溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点(bl)付近まで湿潤PPEの温度が上昇する段階であり、昇温中は乾燥速度が遅い。
図1のIIで示される恒率乾燥と呼ばれる段階は、PPE粒子表面に付着した溶媒成分が気化して分離される段階であり、乾燥速度は比較的速い。
図1のIIIで示される減率乾燥と呼ばれる段階は、恒率乾燥終了後にPPE粒子内部の溶媒成分が粒子内を粒子表面へ拡散しながら、表面で気化して分離される段階であり、乾燥速度は恒率乾燥と比較して遅い。減率乾燥は、後述の減率乾燥期1及び減率乾燥期2に分けられる場合もある。
【0034】
湿潤PPEの乾燥では、含有する溶媒組成等により更に乾燥速度が低下することがあり、この場合、乾燥速度低下前の減率乾燥を減率乾燥1、乾燥速度低下後の減率乾燥を減率乾燥2と呼ぶ。この際、恒率乾燥から減率乾燥1へ切替わるときの含液率を限界含液率1、減率乾燥1から減率乾燥2へ切替わるときの含液率を限界含液率2と呼ぶこともあり、本実施形態では、限界含液率1を限界含液率とする。限界含液率の測定は実施例に記載した方法に従う。
図2のIIIAで示される減率乾燥1と呼ばれる段階は、粒子内部に溶媒成分が多く含まれる段階であり、溶媒成分が粒子表面に拡散していく流路が広く、減率乾燥の中では乾燥速度は速い。
図2のIIIBで示される減率乾燥2と呼ばれる段階は、粒子内部の溶媒成分が少なくなった段階であり、溶媒成分が粒子表面に拡散していく流路が狭く、減率乾燥の中でも乾燥速度は遅い。
そして、本実施形態では、恒率乾燥から減率乾燥へ切替わるときの湿潤PPEの溶媒成分の含有量を限界含液率とする。
【0035】
ここで、湿潤PPEに含まれる溶媒成分は、乾燥工程に供される湿潤PPEに含まれる溶媒のうち、湿潤PPE(100質量%)に対して0.35質量%以上含まれるものをいう。溶媒成分には、前述の良溶媒や貧溶媒を含まれていてよい。
【0036】
湿潤PPEは溶媒成分を含有しているが、良溶媒の含液率が高い状態で加熱すると、表面の付着性が高くなり乾燥装置壁面等へのスケーリングが発生したり、粒子自体が溶融して飴状の固い固体となる融着が発生したりする。融着は高温で発生しやすいため、特に湿潤PPEが接触する伝熱面で発生する確率が高く、融着物が伝熱面に付着すると伝熱が著しく低下する。更に伝熱面に付着した融着物が脱落し製品に混入すると異物となり、最終製品の物性低下の原因となる。
【0037】
発明者らは、限界含液率以上の溶媒成分を含有する状態で湿潤PPEを高温に加熱(例えば、湿潤PPEと接触する伝熱面の温度を高く)すると、スケーリングや融着が発生しやすく、限界含液率以下の溶媒成分を含有する状態では、湿潤PPEを高温に加熱(例えば、湿潤PPEと接触する伝熱面の温度を高く)しても、比較的スケーリングや融着が発生しにくいことを見出した。
【0038】
PPE生産に使用する溶媒では、PPEの貧溶媒に比べPPEの良溶媒の沸点の方が高いケースが殆どである。恒率乾燥域における粒子表面の低沸点溶媒の乾燥除去時には、乾燥速度は供給熱量への依存性が高い。一般的には充分な伝熱面積を持つ乾燥機を使用するが、その他の方法として乾燥機伝熱面の温度を上げることもできる。
その際、湿潤PPEの恒率乾燥時に乾燥機伝熱面温度を高めに設定しても、湿潤PPEの温度は低沸点の貧溶媒沸点付近で一旦安定し低沸点貧溶媒が優先的に除去されるため、高沸点の良溶媒の乾燥速度は遅い。よって、乾燥機伝熱面温度を上げると、PPE粒子付着溶媒中の高沸点の良溶媒が優先的に残留し、高温に加熱した乾燥機伝熱面に多量の良溶媒が残留するPPE粒子が接触し、伝熱面付近での融着が発生しやすい。
本発明者は、事前に恒率乾燥域で設定する乾燥機伝熱面温度で融着が発生しない未融着上限含液率を測定し、恒率乾燥域で乾燥機に供給する湿潤PPEの含液率を未融着上限含液率以下に設定することにより、更に融着を抑制できることを見出した。
【0039】
本実施形態では、湿潤PPEの含液率を未融着上限含液率以下まで下げた状態で乾燥機に供給し、溶媒成分の含有量が限界含液率に到達した後に湿潤PPEの加熱温度を上げることにより、スケーリングや融着を発生させずに効率よく湿潤PPEを乾燥することができる。
【0040】
湿潤PPEを乾燥する際、未融着上限含液率以下の状態で乾燥機に供給し、湿潤PPEにおける溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまで、湿潤PPEが含有する溶媒成分の中で最も低沸点の溶媒の沸点をbl℃、PPEのガラス転移温度をTg℃としたとき、乾燥機伝熱面の加熱温度:T1をbl℃以上(Tg-30)℃以下にする。上記T1は、好ましくは(bl+5)℃以上(Tg-33)℃以下であり、更に好ましくは(bl+10)℃以上(Tg-36)℃以下である。
加熱温度:T1をbl℃以上にすることにより良好な乾燥速度で乾燥することが可能となり、加熱温度:T1を(Tg-30)℃以下にすることにより粒子表面付着性や溶融性を抑制しスケーリングや融着を防ぐことができる。
【0041】
乾燥が進み、湿潤PPEにおける溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後は、湿潤PPEが含有する溶媒成分の中で最も高沸点の溶媒の沸点をbh℃としたとき、乾燥機伝熱面の加熱温度:T2を(bh+5)℃以上(Tg-5)℃以下にする。上記T2は、好ましくは(bh+10)℃以上(Tg-8)℃以下であり、更に好ましくは(bh+15)℃以上(Tg-10)℃以下である。
乾燥機伝熱面の加熱温度:T2を(bh+5)℃以上にすることにより良好な乾燥速度で乾燥することが可能となり、乾燥機伝熱面の加熱温度:T2を(Tg-5)℃以下にすることにより粒子表面付着性や溶融性を抑制しスケーリングや融着を防ぐことができる。
【0042】
ここで、乾燥機伝熱面の加熱温度:T1及び乾燥機伝熱面の加熱温度:T2とは、湿潤PPEの乾燥雰囲気の温度をいい、熱媒や電気ヒーター等の設定温度、つまり乾燥壁面温度としてよい。
また、乾燥機伝熱面の加熱温度T1は、限界含液率以上の溶媒成分を含有する湿潤PPEを、湿潤PPEにおける溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまで乾燥する時間帯での最高の(壁面)温度としてよく、この時間帯での最高(壁面)温度と最低(壁面)温度との差は20℃以下であることが好ましく、より好ましくは15℃以下である。
乾燥機伝熱面の加熱温度T2は、湿潤PPEにおける溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後、乾燥PPEを得るまでの時間帯での最高の(壁面)温度としてよく、この時間帯での最高(壁面)温度と最低(壁面)温度との差は20℃以下であることが好ましく、より好ましくは15℃以下である。
【0043】
本実施形態では、乾燥機伝熱面の加熱温度:T2を乾燥機伝熱面の加熱温度:T1より高い温度に設定する。乾燥機伝熱面の加熱温度:T1と乾燥機伝熱面の加熱温度:T2との差としては、5℃~85℃が好ましく、より好ましくは10℃~70℃であり、さらに好ましくは15℃~55℃である。
【0044】
本実施形態では、限界含液率としては、乾燥工程に供給される湿潤PPE(100質量%)に対して、1~30質量%が好ましく、より好ましくは2~20質量%であり、さらに好ましくは3~15質量%である。
【0045】
〔乾燥装置〕
本実施形態での乾燥には、適当な乾燥装置を1個又は複数個用いてよく、乾燥装置には1個又は複数個の乾燥機を用いてよい。また、個々の乾燥機には、1個又は複数の乾燥単位が設けられてよい。
ここで、乾燥単位とは、乾燥工程に供給される湿潤PPEが曝される乾燥環境を区画する単位をいうものとしてよい。また、複数の乾燥単位間において、乾燥中の湿潤PPEは、連続的に移動させてもよく、また、移し替えにより移動させてもよい。
【0046】
乾燥機としては連続式乾燥機及びバッチ式乾燥機のいずれも使用することができる。乾燥機は、連続式乾燥機及びバッチ式乾燥機のいずれにおいても、湿潤PPEを伝導伝熱により加熱する伝熱面を持ち、伝熱面からの伝導伝熱により湿潤PPEを加熱する、所謂、間接加熱型乾燥機であることが好ましい。伝熱面としては、例えば、ジャケットの表面、加熱管の表面等が挙げられる。
本実施形態で使用可能な連続式乾燥機としては、パドルドライヤーに代表される撹拌型乾燥機、スチームチューブドライヤーに代表される回転式乾燥機、流動層乾燥機、ホッパードライヤー等が挙げられる。
本実施形態で使用可能なバッチ式乾燥機としては、リボン混合乾燥機、ナウターミキサー等が挙げられる他、前記の連続式乾燥機をバッチ式乾燥機として使用することもできる。
これらによれば、スケーリングや融着の発生を抑制し、効率的に含液率(残留溶媒)を低下させることができる。
【0047】
〔加熱温度の変更方法〕
本実施形態で使用される連続式乾燥機には、一台の乾燥機当たりで複数の加熱単位を備え、例えば、2つの加熱単位を備える場合には、前段/後段で異なる加熱温度を設定することが可能なものもある。
本実施形態では、例えば、前段の乾燥機伝熱面の加熱温度をbl℃以上(Tg-30)℃以下に設定して限界含液率以下まで乾燥し、後段の乾燥機伝熱面の加熱温度を(bh+5)℃以上(Tg-5)℃以下に設定し乾燥を完結させることもできる。
【0048】
本実施形態では、複数の連続式乾燥機を直列に配置し、例えば、2つの乾燥機を備える場合には、配置した連続式乾燥機の上流側の乾燥機伝熱面の加熱温度をbl℃以上(Tg-30)℃以下に設定し、下流側の乾燥機伝熱面の加熱温度を(bh+5)℃以上(Tg-5)℃以下に設定して乾燥を完結させることもできる。
この際、上流側の乾燥機に複数の加熱単位を備えるものを選び、加熱単位の前段/後段で温度を異ならせることもできる。その場合、上流側乾燥機前段の加熱単位の伝熱面温度をbl℃以上(Tg-30)℃以下に設定し、上流側乾燥機後段の加熱単位の伝熱面温度をbl℃以上(Tg-5)℃以下に設定し、下流側乾燥機前段の加熱単位の伝熱面温度をbl℃以上(Tg-5)℃以下に設定し、下流側乾燥機後段の加熱単位の伝熱面温度を(bh+5)℃以上(Tg-5)℃以下に設定してよい。
【0049】
本実施形態でバッチ式乾燥機を使用する場合には、溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまでは、乾燥機伝熱面の加熱温度をbl℃以上(Tg-30)℃以下に設定し、溶媒成分の含有量が限界含液率以下になった後に、乾燥機伝熱面の加熱温度を(bh+5)℃以上(Tg-5)℃以下に設定し乾燥を完結させることもできる。
本実施形態では、二台のバッチ式乾燥機を直列に配置し、例えば、一台目のバッチ式乾燥機伝熱面の加熱温度をbl℃以上(Tg-30)℃以下に設定し、二台目のバッチ式乾燥機伝熱面の加熱温度を(bh+5)℃以上(Tg-5)℃以下に設定しておき、一台目のバッチ式乾燥機で溶媒成分の含有量が限界含液率以下になるまで乾燥したPPEを、二台目のバッチ式乾燥機に仕込んで、乾燥を完結させることもできる。
【0050】
なお、各乾燥機の加熱単位内で限界含液率以下まで乾燥できた場合は、その加熱単位から排出されるまでは限界含液率以下であっても、加熱温度をbl℃以上(Tg-30)℃以下で乾燥することもできる。
【0051】
〔乾燥後のPPE粉体中の残留溶媒〕
乾燥後のPPEは、通常粉体状態となり、粉体PPEには溶媒が残留する。
乾燥後のPPEにおける含液率(残留溶媒の含有量)は、乾燥後のPPEを100質量%として、0.35質量%以下であることが好ましい。含液率は、より好ましくは0.30質量%以下であり、更に好ましくは0.25質量%以下であり、より更に好ましくは0.20質量%以下である。
乾燥後の含液率を0.35質量%以下にすることにより、高周波対応の基板材料に加工時の溶剤溶解安定性を確保することができる。
【実施例
【0052】
以下、本実施形態について、実施例と、これとの比較例を挙げて具体的に説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
先ず、実施例、参考例及び比較例に適用した、物性及び特性等の測定方法を下記に示す。
【0054】
(1)重量平均分子量(Mw)及び重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の測定
測定装置として、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーSystem21を用い、標準ポリスチレンとエチルベンゼンにより検量線を作成し、この検量線を利用して、得られたPPEの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の測定を行った。
標準ポリスチレンとしては、分子量が、3650000、2170000、1090000、681000、204000、52000、30200、13800、3360、1300、550のものを用いた。
カラムは、昭和電工(株)製K-805Lを2本直列につないだものを使用した。溶剤は、クロロホルムを使用し、溶剤の流量は1.0mL/分、カラムの温度は40℃として測定した。測定用試料としては、PPEの1g/Lクロロホルム溶液を作製して用いた。検出部のUVの波長は、標準ポリスチレンの場合は254nm、PPEの場合は283nmとした。
上記測定による重量平均分子量、重量平均分子量/数平均分子量をデータとした。
【0055】
(2)湿潤PPEの含液率の測定
各状態の湿潤PPEについて、温度140℃、絶対圧0.013kPa以下の条件で1時間真空乾燥させたときにPPEパウダーの質量をWdとし、当該真空乾燥前の湿潤PPE又は乾燥PPEの質量をWとしたとき、含液率(質量%)を以下の式で計算し、定量した。
含液率={(W-Wd)/W}×100(質量%)
【0056】
(3)ガラス転移温度の測定
PPEのガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC Perkin-Elmer社製 Pyris-1)を用いて測定した。窒素雰囲気中、毎分40℃の昇温速度で室温から280℃まで加熱後、50℃まで毎分40℃で降温し、その後、毎分40℃の昇温速度でガラス転移温度(℃)を測定した。
【0057】
(4)スケール・異物の判定
乾燥後の乾燥機内を目視確認し、以下の判定とした。
◎:粉が付着している程度で、スケール、融着、及び乾燥品への混入なし
△:伝熱面等に融着物、おこし状凝集物が付着するが、乾燥品への混入はなし、又は、伝熱面等に融着物、おこし状凝集物はないが、乾燥品に融着物が混入
×:伝熱面等に融着物、おこし状凝集物が付着し、これらが乾燥品にも混入
【0058】
(5)限界含液率の測定
使用する乾燥機に湿潤PPEを仕込み、加熱温度(bl+40)℃にてバッチ乾燥を行った。乾燥中10分ごとに乾燥機内のPPEをサンプリングし、上記(2)湿潤PPEの含液率の測定に従って含液率を定量した。横軸にサンプリング時間、縦軸に含液率をプロットし、縦軸は通常目盛と対数目盛として2種の乾燥曲線を作成した。湿潤PPEの温度がbl付近まで上昇する材料予熱期から恒率乾燥期に切り替わった後、最も短時間側の変曲点を恒率乾燥から減率乾燥(減率乾燥1)へ切替わる点とし、当該変曲点の含液率を限界含液率(質量%)とした。
【0059】
(6)未融着上限含液率の測定
後述の製造例で得られた湿潤PPEを50g計量し、オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素置換後、加熱温度T1℃まで加温したオイルバスに浸漬した。オートクレーブをオイルバス内で30分間加熱後、オートクレーブをオイルバスより取り出し、外気温まで冷却した。オートクレーブを開放し、PPEの融着有無を目視で確認した。
融着がなかった場合は、未融着上限含液率は固液分離後の湿潤PPEの含液率以上であると判断した。
融着があった場合は、湿潤PPEを低温(融着のない温度)で乾燥し、含液率を1%刻みで下げた。調整後の湿潤PPEを用いて、再度上記の加熱テストを行った。このプロセスを繰り返し行い、融着が発生しなかった含液率の中で、最も高い含液率を加熱温度T1での未融着上限含液率(質量%)とした。
【0060】
(乾燥機1)
株式会社奈良機械製作所製 パドルドライヤー 形式NPD-1.6W-12L-LG
有効容積12L
ジャケットは、一種のスチームで加熱できる構造
(乾燥機2)
株式会社奈良機械製作所製 パドルドライヤー 形式NPD-1.6W-G-SFG
有効容積77L
ジャケットは、一種のスチームで加熱できる構造
【0061】
〔製造例1〕
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた400リットルのジャケット付き反応器に、67.0gの塩化第二銅2水和物、245.0gの35%塩酸、2558.3gのN,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、18.9kgのn-ブタノール及び170.1kgのメタノール、48.0kgの2,6-ジメチルフェノールを入れた。使用した溶剤の組成重量比はn-ブタノール:メタノール=10:90であった。次いで激しく攪拌しながら反応器へ48.0L/分の速度で酸素をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は45℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。
酸素を導入し始めてから120分後、酸素含有ガスの通気をやめ、この重合混合物に346.7gのエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を溶かした50%水溶液を添加し、次いで432.0gのハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のPPEが白色となるまで、45℃で1時間反応させた。反応終了後、濾過して、メタノール洗浄液(b)と、洗浄されるPPE(a)との質量比(b)/(a)が4となる量の洗浄液(b)で3回洗浄し、株式会社神鋼環境ソリューション製フィルタドライヤにて加圧状態で固液分離し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。固液分離中に湿潤ポリフェニレンエーテルウエットケーキ層にひびや割れが生じた際には、フィルタドライヤ付属の撹拌翼で延展(ウエットケーキ表面を均し、ひびや割れを埋める操作)し、加圧を継続した。濾液が完全に出てこなくなるまで加圧を継続した。濾過時間は68分であり、湿潤PPEの含液率は27.8質量%、乾燥後のMwは2897、Mw/Mnは1.9、Tgは149℃、限界含液率は5.8質量%、T1=125℃における未融着上限含液率は26.2質量%、T1=120℃における未融着上限含液率は26.8質量%、T1=118℃における未融着上限含液率は27.1質量%、T1=109℃における未融着上限含液率は29.0質量%、T1=70℃における未融着上限含液率は27.8質量%超、T1=68℃における未融着上限含液率は27.8質量%超、T1=55℃における未融着上限含液率は27.8質量%超であった。
【0062】
〔製造例2〕
3回洗浄後のスラリー液を、タナベウィルテック製バスケットセントルにて固液分離し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得たこと以外は製造例1と同様に実施した。湿潤PPEの含液率は45.2質量%、乾燥後のMwは2897、Mw/Mnは1.9、Tgは149℃、限界含液率は5.8質量%、T1=125℃における未融着上限含液率は26.2質量%、T1=120℃における未融着上限含液率は26.8質量%、T1=118℃における未融着上限含液率は27.1質量%、T1=109℃における未融着上限含液率は29.0質量%、T1=70℃における未融着上限含液率は45.2質量%超、T1=68℃における未融着上限含液率は45.2質量%超、T1=55℃における未融着上限含液率は45.2質量%超であった。
【0063】
〔製造例3〕
使用した溶剤を56.8kgのn-ブタノール及び132.5kgのメタノールとし、使用した溶剤の組成重量比をn-ブタノール:メタノール=30:70とし、使用したフェノール性化合物を、40.5kgの2,6-ジメチルフェノールと、7.5kgの2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンとの混合物とした以外は、製造例1の方法と同様にしてPPEを得た。湿潤PPEの含液率は44.5質量%、乾燥後のMwは3727、Mw/Mnは1.5、Tgは140℃、限界含液率は6.5質量%、T1=109℃における未融着上限含液率は30.0質量%、T1=55℃における未融着上限含液率は44.5質量%超であった。
【0064】
製造例1~3で得られたPPEの評価結果を表1に示す。
【表1】
【0065】
[実施例1]
製造例1で得られた湿潤PPEを、5.0kg計量し、前段の乾燥機1に仕込み、軸シール部に20L/分の流量で窒素を供給した。パドルを30rpmで回転させた後、ジャケットに0.14MPaのスチームを供給した。ジャケット表面の加熱温度は109℃であった。湿潤PPEの含液率が5.0質量%になるまで乾燥したところ、乾燥時間は11分であった。
前段乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。前段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物の異物は混入していなかった。
予めジャケットに0.37MPaのスチームを供給し、軸シール部に20L/分の流量で窒素を供給しておいた後段の乾燥機1に、前記の含液率が5.0質量%まで乾燥したPPE:3.1kgを投入し、パドルを30rpmで回転させた。ジャケット表面の加熱温度は139℃であった。241分間乾燥後にPPEの含液率は、0.20質量%であった。
後段乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。後段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物の異物は混入していなかった。
【0066】
[比較例1]
前段乾燥機1の乾燥時間を9分にしたこと以外は実施例1と同様に前段乾燥を行ったところ、乾燥後の湿潤PPE含液率は8.7質量%であった。
前段乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。前段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物の異物は混入していなかった。
前記含液率8.7質量%の湿潤PPEを後段乾燥機1に投入し、実施例1と同様に241分間の後段乾燥を行ったところ、含液率は0.31質量%であった。
後段乾燥機1を開放し、内部のスケール及び融着状況を確認した。後段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には、黄色く着色した飴状の融着物がスケーリングしていた。また、乾燥後のPPE中にフレーク状の融着物が異物として混入していた。更に、ジャケット、パドル及びパドル軸表面には層状のスケールが付着しており、伝熱効率が低下したため含液率を充分に下げることができなかった。
【0067】
[比較例2]
乾燥原料に製造例2で得られた湿潤PPEを用いたこと以外は実施例1と同様に前段乾燥を行い、湿潤PPEの含液率が5.0質量%になるまで乾燥したところ、乾燥時間は19分であった。
前段乾燥機1を開放し、内部のスケール及び融着状況を確認した。前段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には、黄色く着色した飴状の融着物がスケーリングしていた。前段乾燥後のPPE中には黄色く着色した飴状の融着物顆粒が混入していた。
前段乾燥後のPPEより黄色く着色した飴状の融着物顆粒を除去したこと以外は、実施例1と同様に後段乾燥を行った。
後段乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。後段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。乾燥PPE中に融着物の異物は混入していなかった。
【0068】
[実施例2]
前段乾燥機1のジャケット表面温度が68℃になるよう温水を流し、乾燥原料に製造例2で得られた湿潤PPEを使用した以外は実施例1と同様に実施した。
目標含液率付近になるまでの前段/後段乾燥機1の乾燥時間は、それぞれ103/228分であった。前段/後段乾燥機1でのPPE含液率はそれぞれ5.1質量%、0.22質量%であった。
乾燥終了後に前段/後段二台の乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物等の異物はなかった。
【0069】
[実施例3]
製造例2で得られた含液率45.2質量%の湿潤PPE10kgを粉体撹拌槽に仕込み、撹拌しながら、気相部に窒素ガスを100L/分で供給した。粉体撹拌槽のジャケットに55℃の温水を流し、12分間撹拌を続けた後、含液率を測定すると、27.9質量%であった。前記の含液率27.9質量%の湿潤PPEを乾燥機1に仕込んだこと以外は実施例1と同様に実施した。
前段/後段乾燥機1のジャケットには、それぞれ0.14/0.37MPaのスチームを供給した。前段/後段乾燥機1のジャケット表面温度は、それぞれ109/139℃であった。
前段/後段乾燥機1でのPPE含液率はそれぞれ5.0質量%、0.21質量%であった。
乾燥終了後に前段/後段二台の乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物等の異物はなかった。
【0070】
[実施例4]
製造例2のバスケットセントルによる固液分離において、脱液後の湿潤PPEに窒素ガスを100L/分で供給しながら40分間バスケットセントルの運転を継続した。得られた湿潤PPEの含液率は26.8質量%であった。前記の含液率26.8質量%の湿潤PPEを乾燥機1に仕込んだこと以外は実施例1と同様に実施した。
前段/後段乾燥機1のジャケットには、それぞれ0.14/0.37MPaのスチームを供給した。前段/後段乾燥機1のジャケット表面温度は、それぞれ109/139℃であった。
前段乾燥機1では、10分間の運転でPPE含液率が5.0質量%になるまで乾燥できた。
後段乾燥機1では、222分間の運転でPPE含液率が0.23質量%になるまで乾燥できた。
前段/後段二台の乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。後段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物の異物は混入していなかった。
【0071】
参考例5]
製造例2で得られた湿潤PPE:3.14kgと含液率0.2質量%の乾燥PPE:1.86kgを計量し撹拌混合したところ、混合PPEの含液率は28.5質量%であった。混合PPEを前段の乾燥機1に仕込み、軸シール部に20L/分の流量で窒素ガスを供給した。パドルを30rpmで回転させた後、ジャケットに0.14MPaのスチームを供給した。ジャケット表面の加熱温度は109℃であった。PPEの含液率が5.0質量%になるまで乾燥したところ、乾燥時間は11分であり、乾燥後の湿潤PPEは3.8kg得られた。
予めジャケットに0.37MPaのスチームを供給し、軸シール部に20L/分の流量で窒素ガスを供給しておいた後段の乾燥機1に、前記の含液率が5.0質量%まで乾燥したPPE:3.8kgを投入し、パドルを30rpmで回転させた。ジャケット表面の加熱温度は139℃であった。222分乾燥後にPPEの含液率は、0.23質量%であった。
乾燥終了後に前段/後段二台の乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物等の異物はなかった。
【0072】
参考例6]
製造例2で得られた湿潤PPE:2.84kgと含液率0.2質量%の乾燥PPE:2.16kgを計量し撹拌混合したところ、混合PPEの含液率は25.8質量%であった。混合PPEを前段の乾燥機1に仕込み、軸シール部に20L/分の流量で窒素ガスを供給した。パドルを30rpmで回転させた後、ジャケットに0.18MPaのスチームを供給した。ジャケット表面の加熱温度は117℃であった。PPEの含液率が5.0質量%になるまで乾燥したところ、乾燥時間は6分であり、乾燥後の湿潤PPEは3.8kg得られた。
予めジャケットに0.37MPaのスチームを供給し、軸シール部に20L/分の流量で窒素ガスを供給しておいた後段の乾燥機1に、前記の含液率が5.0質量%まで乾燥したPPE:4.0kgを投入し、パドルを30rpmで回転させた。ジャケット表面の加熱温度は139℃であった。241分乾燥後にPPEの含液率は、0.20質量%であった。
乾燥終了後に前段/後段二台の乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物等の異物はなかった。
【0073】
[比較例3]
参考例5で調整した含液率28.5質量%の湿潤PPEを前段乾燥機1に仕込んだこと以外は参考例6と同様に実施した。
前段乾燥機1では、10分間の運転でPPE含液率が5.0質量%になるまで乾燥できた。前段乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。前段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には黄色く着色した飴状の融着物がスケーリングしていた。前段乾燥後のPPE中には黄色く着色した飴状の融着物顆粒が混入していた。
前段乾燥後のPPEより黄色く着色した飴状の融着物顆粒を除き、後段乾燥期1に仕込んだ以外は参考例6と同様に実施した。後段乾燥機1では、222分間の運転でPPE含液率が0.23質量%になるまで乾燥できた。後段乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。後段乾燥機1のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物の異物は混入していなかった。
【0074】
[実施例7]
乾燥機2二台を直列に配置し、前段の乾燥機2ジャケットに、0.14MPaのスチームを供給した。前段乾燥機2のジャケット表面の温度は109℃であった。後段乾燥機2のジャケットに、0.37MPaのスチームを供給した。後段乾燥機2のジャケット表面の温度は139℃であった。前段/後段の乾燥機2ともに、排出側より100L/分の窒素ガスを供給し、パドルを30rpmで回転させた。製造例1で得られた湿潤PPEを前段乾燥機2に供給した。前段の乾燥機2から排出されたPPEは一旦109℃に加温したホッパーに貯め、後段の乾燥機2に供給した。前段/後段の乾燥機2の滞留時間はそれぞれ実施例1と同程度の11/241分に調整した。
各6時間運転したところ前段/後段の乾燥機2から排出されるPPEの含液率がそれぞれ5.1質量%、0.19質量%で安定した。
9時間まで運転した後、前段/後段二台の乾燥機2を開放し内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中にも融着物の異物は混入していなかった。
【0075】
[比較例4]
前段/後段乾燥機2の滞留時間をそれぞれ9/246分に調整した以外は実施例7と同様に実施した。
各6時間運転したところ前段/後段の乾燥機2から排出されるPPEの含液率がそれぞれ8.7質量%、0.39質量%で安定した。
9時間まで運転した後、前段/後段二台の乾燥機2を開放し内部のスケールおよび融着状況を確認した。
前段乾燥機2のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中にも融着物の異物は混入していなかった。
後段乾燥機2のジャケット、パドル及びパドル軸の表面には黄色く着色した飴状の融着物がスケーリングしていた。後段乾燥後のPPE中には黄色く着色した飴状の融着物顆粒が混入していた。
【0076】
[比較例5]
製造例2で得られた湿潤PPEを用いたこと以外は実施例7と同様に実施した。
各6時間運転したところ前段/後段の乾燥機2から排出されるPPEの含液率がそれぞれ12.1質量%、0.58質量%で安定した。
9時間まで運転した後、前段/後段二台の乾燥機2を開放し内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には黄色く着色した飴状の融着物がスケーリングしていた。また、二台ともに乾燥後のPPE中には黄色く着色した飴状の融着物顆粒が混入していた。
【0077】
[比較例6]
前段乾燥機2の滞留時間を20分としたこと以外は比較例5と同様に実施した。
各6時間運転したところ前段/後段の乾燥機2から排出されるPPEの含液率がそれぞれ5.2質量%、0.24質量%で安定した。
9時間まで運転した後、前段/後段二台の乾燥機2を開放し内部のスケールおよび融着状況を確認した。前段乾燥機2は、ジャケット、パドル及びパドル軸の表面には黄色く着色した飴状の融着物がスケーリングしていた。前段乾燥後のPPE中には黄色く着色した飴状の融着物顆粒が混入していた。後段乾燥機2は、ジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。後段乾燥後のPPE中には黄色く着色した飴状の融着物顆粒が混入していた。
【0078】
[実施例8]
前段乾燥機2のジャケット表面温度が68℃になるよう温水を流し、乾燥原料に製造例2で得られた含液率45.2質量%の湿潤PPEを使用し、前段乾燥機2の乾燥時間を、前段後の含液率が限界含液率以下となる時間に設定した以外は実施例7と同様に実施した。目標含液率付近になるまでの前段/後段乾燥機2の乾燥時間は、それぞれ103/235分であった。前段/後段乾燥機2でのPPE含液率はそれぞれ5.3質量%、0.21質量%であった。
乾燥終了後に前段/後段二台の乾燥機2を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物等の異物はなかった。
【0079】
[実施例9]
製造例3で得られた含液率44.5質量%の湿潤PPE10kgを粉体撹拌槽に仕込み、撹拌しながら、気相部に窒素ガスを100L/分で供給した。粉体撹拌槽のジャケットに55℃の温水を流し、12分間撹拌を続けた後、含液率を測定すると、28.6質量%であった。
前記の含液率28.6質量%湿潤PPEを乾燥機1に仕込んだこと以外は実施例1と同様に実施した。
前段/後段乾燥機1のジャケットには、それぞれ0.14/0.30MPaのスチームを供給した。前段/後段乾燥機1のジャケット表面温度は、それぞれ109/133℃であった。
前段/後段乾燥機1でのPPE含液率はそれぞれ6.0質量%、0.22質量%であった。
乾燥終了後に前段/後段二台の乾燥機1を開放し、内部のスケールおよび融着状況を確認した。二台ともジャケット、パドル及びパドル軸の表面には薄く粉状の付着物はあるものの、スケールや融着には至っていなかった。また、乾燥PPE中に融着物等の異物はなかった。
【0080】
実施例、参考例及び比較例の評価結果を表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、湿潤PPE乾燥時にスケーリングや融着の発生を抑制し、効率的な乾燥が可能となった。また、融着体の製品への混入がなく、成形品等の最終製品まで加工しても物性低下が発生しないPPEを提供することができる。
図1
図2