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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】高濃度鉄系凝集剤とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/14 20060101AFI20241105BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C01G49/14
B01D21/01 102
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020136891
(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公開番号】P2021151945
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020049386
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伴 正寛
(72)【発明者】
【氏名】駒井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 達郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 正貴
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08658124(US,B1)
【文献】国際公開第2019/077302(WO,A1)
【文献】特開平11-292545(JP,A)
【文献】米国特許第04814158(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2002-0086450(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/14
B01D 21/01
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系原料として酸化鉄を用いてポリ硫酸第二鉄を製造する方法であって、密閉容器内に硫酸イオンと全鉄のモル比が1.5未満となるように調整した酸化鉄粉末と硫酸溶液を投入し、密閉容器内の気相を酸素に置換した後、圧力0.3MPa以上、温度が100℃以上で酸化反応を行うことからなるポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【請求項2】
鉄系原料としてマグネタイト又はウスタイトを用い請求項1に記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【請求項3】
更に触媒を添加する請求項1~2のいずれかに記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【請求項4】
前記触媒が硝酸であ請求項3に記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【請求項5】
硝酸触媒の存在下で酸化反応を行うことにより、全鉄濃度が14.5%以上の高濃度のポリ硫酸第二鉄を製造す請求項1~4のいずれかに記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【請求項6】
前記ポリ硫酸第二鉄の製造を4時間以内に完了させる請求項5に記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理に使用される高濃度の鉄系凝集剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥は各種凝集剤を用いて凝集処理した後に脱水し埋め立てられるが、ポリ硫酸第二鉄は、下水汚泥の凝集処理に使用される代表的な無機凝集剤である。腐食性が少ないので排水処理施設を痛めにくい、塩素を含まないので下水汚泥ケーキのコンポスト化等の再資源化に有効である等の特徴があるため、国内外を問わず広く使用されている。
【0003】
鉄系無機凝集剤としてポリ硫酸第二鉄を製造するにあたっては、一般には、硫酸第一鉄(Fe(SO)・7HO)が鉄系の製造原料として用いられていることが多い。しかし、硫酸第一鉄は、酸化チタン製造工程で得られる副産物であるが供給が安定していないため、ポリ硫酸第二鉄製造原料として硫酸第一鉄に代わる代替材料が求められていた。
一方、マグネタイトやウスタイト等の酸化鉄は、銅の製錬工程で発生する副産物であるほか、鉱石として天然に産出するものである。このように、硫酸第一鉄に比較して入手が容易であるため、酸化鉄を用いてポリ硫酸第二鉄を製造しようとする技術開発も行われている。
【0004】
酸化鉄を鉄系原料としてオートクレーブを用いて硫酸第二鉄溶液を製造する方法として、次の2つの技術が公開されている。
特許文献1に記載された鉄系無機凝集剤の製造方法は、鉄系原料として酸化鉄(マグネタイト)を使用し、硫酸イオンと鉄イオンのモル比を調整した後に、密閉容器中で120~180℃の温度で反応させて酸化鉄を溶解させる方法である。その後、酸化剤を添加して硫酸鉄溶液を得ている。この方法は高温高圧下で反応を進めることにより反応時間の短縮化を目指す製造方法であるが、全鉄濃度が高いポリ硫酸第二鉄溶液は得られていなかった。
【0005】
特許文献2には、圧力容器内に水、硫酸、酸素、および酸化鉄(マグネタイト、ヘマタイト)を導入し、高温高圧条件下で硫酸第二鉄溶液を製造することが記載されている。この製造方法では、大量の硫酸を使用して酸化鉄を溶解しているので製造されるのは硫酸鉄溶液であり、本発明の目的とするポリ硫酸第二鉄溶液を得ることはできない。
【0006】
これらの従来技術によれば、次の技術は当業者には知られていた技術であるといえる。すなわち、酸化鉄を硫酸で溶解して二価や三価の鉄イオンを生成し、その後に酸化剤を用いてこれを酸化して硫酸鉄溶液を製造し、これを鉄系凝集剤として利用すること、および、酸化鉄が硫酸に溶解することを促進するために高温高圧の密閉容器内で反応を進めること、である。しかし、酸化鉄は硫酸に溶解しにくく溶解に長時間を要するので、従来技術においては、高温高圧条件下であっても多量の硫酸を用いて酸化鉄を溶解していた。このため、反応生成物は硫酸第二鉄水溶液であった。
【0007】
従来技術で製造される硫酸第二鉄は化学式がFe(SOであり、凝集剤として使用した場合には鉄イオン2モルに対して硫酸イオンが3モル発生する。しかし、硫酸イオンは汚泥の凝集に関与しないので、排液中に残留してしまう。この残留した硫酸イオンの処理コストが大きな問題となっている。これを中和するために多額のコストがかかるからである。
これに対し、本発明で生産するポリ硫酸第二鉄の化学式は次に示すものである。硫酸イオンの発生の少ないことが、無機系凝集剤としてポリ硫酸第二鉄溶液が有する優れた特徴の1つである。下水汚泥は大量に処理する必要があるため、残留する硫酸イオンの処理コストが小さくて済むことは、下水処理において大きなメリットとなる。
[Fe(OH)(SO3-n/2 (0<n≦2, mは自然数) 式(1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3379204号公報
【文献】米国特許8658124号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、硫酸第一鉄に比較して容易に安価で入手できる酸化鉄を鉄系原料として用い、全鉄濃度が高くて汚泥の凝集能力が高いポリ硫酸第二鉄溶液を、高温高圧の条件下に於いて短時間で効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題を解決するため、本発明のポリ硫酸第二鉄の製造方法は、次の技術的手段から構成されるものである。
(1)鉄系原料として酸化鉄を用いてポリ硫酸第二鉄を製造する方法であって、密閉容器内に、硫酸イオンと全鉄のモル比が1.5未満となるように調整した酸化鉄粉末と硫酸溶液を投入し、密閉容器内の気相を酸素に置換した後、高温高圧条件下で酸化反応を行うことからなるポリ硫酸第二鉄の製造方法。
(2)鉄系原料としてマグネタイト又はウスタイトを用いることを特徴とする(1)に記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
(3)更に触媒を添加する(1)または(2)に記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
(4)前記触媒が硝酸であることを特徴とする(3)に記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
(5)前記高温高圧条件が、圧力0.3MPa以上、温度が100℃以上であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
(6)全鉄濃度が14.5%以上の高濃度のポリ硫酸第二鉄を製造することを特徴とする請求項(1)~(5)のいずれかに記載のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
(7)前記ポリ硫酸第二鉄の製造を4時間以内に完了させる(6)のポリ硫酸第二鉄の製造方法。
【0011】
本発明において採用する濃度表示は、モル濃度であることを明記する場合以外は全て重量%を意味するものである。[T-Fe]は全鉄の重量濃度、[SO4 2-]は硫酸イオンの重量濃度を表すものとする。
ここで全鉄濃度とは、原料中に溶解している鉄ばかりでなく、溶解することなく固体(粉体等)として原料液中に存在する鉄を含めた濃度であることを意味する。原料液中に存在する鉄系粉末であっても、ポリ硫酸第二鉄溶液の製造反応に寄与するので、原料液中に溶解していない鉄系成分も鉄の濃度に含めることが合理的である。
しかし、本発明で製造したポリ硫酸第二鉄溶液でも、全鉄濃度で濃度表示をするが、鉄はすべて溶解していることは当然のことである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法を採用することにより、入手が容易な酸化鉄を鉄系原料として用い、全鉄濃度が高くて汚泥の凝集能力が高いポリ硫酸第二鉄溶液を、高温高圧の条件下に於いて短時間で効率的に製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は製造装置であるオートクレーブのフロー図である。
図2図2は投入原料の濃度と生成されたスラリーの濃度の関係を示す。〇印は投入した原料の組成を、◇印は、実施例1~4で生成したポリ硫酸第二鉄の組成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(製造工程)
本発明におけるポリ硫酸第二鉄の製造方法は、図1に概要を示す製造装置を用いて、次の製造工程を含む製造方法である。
(1)密閉容器内に硫酸と水、酸化鉄を投入する。
(2)密閉容器内の空気を酸素に置換し、必要に応じて触媒として硝酸を添加する。
(3)密閉容器内の温度を100℃以上、圧力を0.3MPa以上に保ち、1~4時間撹拌する。
(4)反応終了後に得られた溶液を冷却し、濾過を行い不溶残渣を除去する。この不溶残渣は、主に原料として投入した酸化鉄であることが確認されている。
【0015】
(酸化鉄)
本願発明で鉄系原料として使用するのは酸化鉄である。ここで、酸化鉄は鉄の酸化物の総称であり、酸化数に応じて酸化第一鉄、酸化第二鉄、四酸化三鉄が組成の異なるものとして知られている。
酸化第一鉄は、酸化鉄(II)(FeO)でウスタイトとして知られ、酸化第二鉄は、酸化鉄(III)(FeO)でヘマタイトないしはマグへマイトとして知られ、四酸化三鉄は、酸化鉄(II、III)でマグネタイトとして知られている。
マグネタイトは、銅製錬過程のスラグ中に多く含まれ、天然の鉱石中に多く含まれるので原料として入手しやすい鉄化合物である。また、磁性を有するため磁力選鉱により精鉱を得やすいという特徴を有する。また、ウスタイトは、発火性のある常温常圧で黒色の固体であり、ヘマタイトないしマグへマイトは、錆の主要成分でもある。いずれも、鉱石として採取される。
本発明では、マグネタイトとウスタイトについて実施例を示すが、ヘマタイトないしマグへマイトについての実施例はない。しかし、前記した特許文献2では、マグネタイトとヘマタイトについて、高温高圧下で硫酸に溶解して硫酸第二鉄溶液を製造している。
このため、本発明のポリ硫酸第二鉄の製造方法は、鉄原料として酸化鉄一般に適用できることは、技術的には明らかである。
【0016】
(硫酸イオンと全鉄のモル比)
本発明においては、原料として密閉容器中に投入する酸化鉄と硫酸溶液の、硫酸イオンと全鉄のモル比を1.5未満に設定することが必要である。
従来技術において行われてきたように、酸化鉄の溶解を優先するために大量の硫酸を投入する場合には、ポリ硫酸第二鉄溶液を製造することができない。本発明の発明者らは、前記モル比を1.5未満に設定しないと、目的とするポリ硫酸第二鉄溶液が製造できないことを、経験上承知している。
【0017】
(反応温度と圧力)
容器内の温度は100℃以上に調整することが好ましい。
反応温度が100℃に満たないと酸化鉄の溶解と酸化反応が十分に進行しない。
本発明の反応圧力は、製造コスト等を考慮して現実的な条件を設定すればよく、一般的には反応圧力が0.3MPa以上であればよい。0.2MPaで反応させた場合には、鉄と硫酸の化合物からなる残渣が比較的多く発生するため、製造されるポリ硫酸第二鉄溶液の回収率やポリ硫酸第二鉄中に含有される全鉄濃度が低下してしまい好ましくはない。

【0018】
(酸化触媒)
本発明においては、密閉容器内に反応原料とともに酸化触媒を投入することができる。
本発明では、密閉容器内での反応において、気相を置換した酸素によって酸化反応を促進し、反応速度を向上させ、全鉄濃度の高いポリ硫酸第二鉄を製造している。また、酸素置換した密閉容器中に酸化触媒があれば、硫酸に溶解した二価の鉄イオンの酸化をさらに促進して、ポリ硫酸第二鉄の生成効率を向上させることができるので好ましい。
酸化触媒としては、溶解した二価の鉄イオンを酸化する作用を有する触媒であれば何でもよい。亜硝酸ソーダ、硝酸カリウム等が挙げられるが、酸化触媒としての作用の他、酸化剤としても機能すると考えられるという点から、触媒としては硝酸を使用することが最も好ましい。
【0019】
(溶解と酸化反応)
密閉容器中の高温高圧条件下で鉄系原料の溶解と二価の鉄イオンの酸化反応が開始すると、気相部分の酸素が酸化剤として作用する。また、原料液中に酸化触媒があれば触媒として作用するし、酸化触媒が硝酸であれば酸化剤としても作用する。
酸素置換と触媒添加を併用した場合、高温高圧条件下での酸素と触媒との相乗的効果により、従来の技術知見では予測のできなかった高濃度のポリ硫酸第二鉄溶液が形成されることができる。
【0020】
本発明の発明者らは、本発明では、従来技術では達成できない高濃度のポリ硫酸第二鉄を短時間で効率的に製造できる理由を、次のとおりのものと推測している。しかし、本発明の技術的な解釈は、この推測には何ら拘束されるものではない。
従来技術における硫酸第二鉄の製造方法では、酸化鉄原料は、圧力容器中で高温高圧の硫酸溶液中で溶解して二価と三価の鉄イオンを含有する溶液を形成し、この溶液を圧力容器から取り出した後に酸化剤を添加し、残存していた二価の鉄イオンを酸化してポリ硫酸第二鉄溶液を製造していた(特許文献1)。しかし、この方法では、圧力容器中で形成された二価の鉄イオンの一部が硫酸と反応して鉄・硫酸化合物を形成して反応溶液から析出してしまっていた。
本発明では、密閉容器中で溶出した二価の鉄イオンに対し、当該密閉容器内にある酸素ガスが直ちに酸化剤として作用するので、二価の鉄イオンが鉄・硫酸化合物として析出することを防ぎ、高濃度のポリ硫酸第二鉄を効率的に形成することが可能になった。
これは、本発明者らが新たに見出した技術知見であり、本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
【実施例
【0021】
[実施例1]
内容量1Lの密閉容器にマグネタイトを221gと、硫酸とをSO4 2-イオン/鉄イオンのモル比が1.3となるように投入し、触媒として硝酸を2.7g投入した。密閉容器を閉じ、前記密閉容器内の気相部分を酸素に置換し、前記密閉容器に装備されているヒーターと酸素ボンベを用い、スラリーの温度を130℃、密閉容器内の気相部分の圧力を1.0MPaまで昇温・昇圧し、1時間反応を行った。なお、反応中は、密閉容器内の気相部分の温度・圧力を130℃、1.0MPaに保持した。反応時間1時間が経過した後、密閉容器中からスラリーを分取し、スラリーを冷却した。
冷却したスラリーに含有されている二価鉄の濃度を測定することにより、反応の終点を判断した。その後、スラリーの濾過を行い、ポリ硫酸第二鉄の製品を得た。
【0022】
得られたポリ硫酸第二鉄は、全鉄濃度(T-Fe)が15.9%と高濃度のものであった。また、二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であり、鉄イオンは全て酸化されて三価のイオンになっていた。硫酸イオン濃度は36.7%、SO4 2-/T-Feモル比は1.34であった。原料から製品へ分配された鉄の割合(鉄溶解率)は91.9%であった。また、残渣はマグネタイトであった。
二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であったので、ポリ硫酸第二鉄の生成反応は1時間以内に完了していたことが分かる。また、SO4 2-/T-Feモル比が1.34であり、1.5より小さい値であるので、ポリ硫酸第二鉄が形成されていることが分かる。
【0023】
[実施例2](反応槽気相圧力:0.3MPa)
密閉容器内の気相部分の圧力を0.3MPa、反応時間を2時間とした以外は、実施例1と同一の条件で反応を行い、得られたスラリーを冷却した。
冷却したスラリーに含有されている二価鉄の濃度を測定することにより、反応の終点を判断した。その後、スラリーの濾過を行い、ポリ硫酸第二鉄の製品を得た。
【0024】
得られたポリ硫酸第二鉄は、全鉄濃度(T-Fe)が14.7%と高濃度のものであった。また、二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であり、鉄イオンは全て酸化されて三価のイオンになっていた。硫酸イオン濃度は37.5%、SO4 2-/T-Feモル比は1.48であった。原料から製品へ分配された鉄の割合(鉄溶解率)は84.5%であった。また、残渣はマグネタイトであった。
二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であったので、ポリ硫酸第二鉄の生成反応は2時間以内に完了していたことが分かる。また、SO4 2-/T-Feモル比が1.48であり、1.5より小さい値であるので、ポリ硫酸第二鉄が形成されていることが分かる。
【0025】
[実施例3](低鉄濃度原料)
内容量1Lの密閉容器に鉄濃度が52.1%のマグネタイトを298gと、硫酸とをSO4 2-イオン/鉄イオンのモル比が1.3となるように投入し、反応時間を4時間とした以外は、実施例1と同一の条件で反応を行い、得られたスラリーを冷却した。
冷却したスラリーに含有されている二価鉄の濃度を測定することにより、反応の終点を判断した。その後、スラリーの濾過を行い、ポリ硫酸第二鉄の製品を得た。
【0026】
得られたポリ硫酸第二鉄は、全鉄濃度(T-Fe)が16.3%と高濃度のものであった。また、二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であり、鉄イオンは全て酸化されて三価のイオンになっていた。硫酸イオン濃度は40.3%、SO4 2-/T-Feモル比は1.44であった。原料から製品へ分配された鉄の割合(鉄溶解率)は83.6%であった。また、残渣はマグネタイトであった。
二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であったので、ポリ硫酸第二鉄の生成反応は4時間以内に完了していたことが分かる。また、SO4 2-/T-Feモル比が1.44であり、1.5より小さい値であるので、ポリ硫酸第二鉄が形成されていることが分かる。
【0027】
[実施例4](ウスタイト)
内容量1Lの密閉容器にウスタイト(鉄濃度:74.2%)を210gと、硫酸とをSO4 2-イオン/鉄イオンのモル比が1.3となるように投入しとした以外は、実施例1と同一の条件で反応を行い、得られたスラリーを冷却した。
冷却したスラリーに含有されている二価鉄の濃度を測定することにより、反応の終点を判断した。その後、スラリーの濾過を行い、ポリ硫酸第二鉄の製品を得た。
【0028】
得られたポリ硫酸第二鉄は、全鉄濃度(T-Fe)が14.6%と高濃度のものであった。また、二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であり、鉄イオンは全て酸化されて三価のイオンになっていた。硫酸イオン濃度は37.2%、SO4 2-/T-Feモル比は1.48であった。原料から製品へ分配された鉄の割合(鉄溶解率)は84.1%であった。また、残渣はウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトであった。
二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満であったので、ポリ硫酸第二鉄の生成反応は1時間以内に完了していたことが分かる。また、SO4 2-/T-Feモル比が1.48であり、1.5より小さい値であるので、ポリ硫酸第二鉄が形成されていることが分かる。
【0029】
[比較例1]
内容量1Lの密閉容器にマグネタイトを221gと、硫酸とをSO4 2-イオン/鉄イオンのモル比が1.3となるように投入した。密閉容器内の気相を酸素に置換することなく、気相は空気のままに保持して密閉容器を閉じ、前記密閉容器に装備されているヒーターを用い、スラリーの温度を130℃まで昇温し、4時間反応を行った。なお、反応中は、密閉容器内の温度を130℃に保持し、蒸気圧(約0.2MPa)によって圧力を保持した。
反応時間4時間が経過した後、密閉容器中からスラリーを分取し、スラリーを冷却した。
【0030】
冷却したスラリーに含有されている二価鉄の濃度を測定したところ、二価鉄が残存していることを確認した。このため、4時間反応を継続したにもかかわらず、ポリ硫酸第二鉄の生成反応は完了していなかった。反応を完了するため、スラリーを濾過した後、ろ液に対して過酸化水素を41.7g添加し、二価鉄の酸化を完了することでポリ硫酸第二鉄の製品を得た。
得られたポリ硫酸第二鉄の全鉄濃度(T-Fe)は14.2%、二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満、硫酸イオン濃度は33.3%、SO4 2-/T-Feモル比は1.36であった。原料から製品へ分配された鉄の割合(鉄溶解率)は76.1%であった。また、残渣はゾモルノカイト(Szomolnokite(Fe(SO4)(H2O)))であった。
【0031】
[比較例2]
昇温前のスラリーに触媒としての硝酸を2.7g投入した以外は比較例1と同一の条件で反応を行い、得られたスラリーを冷却した。
冷却したスラリーに含有されている二価鉄の濃度を測定したところ、二価鉄が残存していることを確認したため、スラリーを濾過した後、ろ液に対して過酸化水素を33.5g添加し、二価鉄の酸化を完了することでポリ硫酸第二鉄の製品を得た。
得られたポリ硫酸第二鉄の全鉄濃度(T-Fe)は13.7%、二価の鉄イオン濃度(Fe2+)が0.01%未満、硫酸イオン濃度は34.7%、SO4 2-/T-Feモル比は1.47であった。原料から製品へ分配された鉄の割合(鉄溶解率)は72.4%であった。また、残渣は水酸化鉄硫酸塩(Iron hydroxide sulfate(Fe(SO4)2H))であった。
【0032】
実施例1~4と比較例1、2について、鉄原料、反応条件および生成されたポリ硫酸第二鉄の特性をまとめると表1の通りとなる。
実施例1~4において反応はそれぞれ1~4時間以内で完了したが、比較例1、2では高温高圧に4時間保持しても酸化反応が完了せず、二価鉄が酸化されずに残ってしまっていた。そこで、スラリーに残存する二価鉄を全て三価鉄に酸化するために過酸化水素水を添加した。
このため、比較例1、2における生成物の特性は、いずれも、追加的にH2O2を添加して酸化反応を完了させた後の生成物の特性を表す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例1~4と比較例1、2で製造されたいずれのスラリーにおいても、SO4 2-/Fe比が1.5未満であるので、ポリ硫酸第二鉄が生成されていることがわかる。
しかし、実施例1~4におけるスラリーは、密閉容器内の酸素ガスの作用を受け、全鉄濃度が14.6~16.3%と高濃度のポリ硫酸第二鉄を製造することができた。この特性は、比較例1、2のスラリーと比較するまでもなく、無機凝集剤としては従来技術では得られなかった優れた特性である。
また、ポリ硫酸第二鉄の生成が効率的に行われていることは、実施例1および4では1時間以内に、密閉容器内の圧力を0.3MPaとした実施例2では2時間以内、低鉄濃度の原料を使用した実施例3においても4時間以内に反応が完了していることから確認できる。
【0035】
これに対して、比較例1、2の製造条件では、本発明の特徴である短時間で効率的なポリ硫酸第二鉄の製造を実現できないことが明らかとなった。
すなわち、比較例1、2においては、高温高圧条件下でポリ硫酸第二鉄の生成反応を4時間継続したにもかかわらず、二価鉄が酸化されずに残存したため、これを全て三価鉄に酸化するために過酸化水素水の添加が必要であった。
また、比較的大量の不溶性残渣が発生してしまい、効率的なポリ硫酸第二鉄の生成が行われていない。このことは、比較例1、2においては、鉄溶解率が低いことが示すように、ポリ硫酸第二鉄に取り込まれなかった鉄の多くが不溶性残渣として析出している。このことからも、本発明において密閉容器内の気相を酸素に置換することの技術的な意義が明らかとなる。
【0036】
以上の結果より、本発明におけるポリ硫酸第二鉄の製造方法においては、密閉容器内の空気を酸素ガスに置換した場合に、汚泥の凝集能力が高いポリ硫酸第二鉄を短時間で効率的に製造することができるという顕著な効果が達成されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
下水等の廃水処理において利用する凝集剤に関し、凝集性能の高い凝集剤を短時間で製造できるので、排水処理の分野において広く利用することができる。
図1
図2