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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】環状水素化シラン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/04 20060101AFI20241105BHJP
   C07F 7/02 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C01B33/04
C07F7/02 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020150656
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045139
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156689(JP,A)
【文献】特開2014-012647(JP,A)
【文献】特開平11-171528(JP,A)
【文献】特表2016-500361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C07F 7/00-7/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を生成する工程1、
前記環状ハロシラン化合物(D)と金属水素化物(E)を溶媒(F)中で接触させ、環状水素化シラン化合物(G)とアルミニウム錯体(H)を含む組成物を得る工程2、及び
前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程3
を含み、
前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程が、(a)濾過工程、(b)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程(デカンテーションによる分液を除く)、及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程の少なくとも2つ以上であり、
(b)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程(デカンテーションによる分液を除く)及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程のいずれかを必ず含むことを特徴とする環状水素化シラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記環状水素化シラン化合物(G)を蒸留することをさらに含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度が0.150mol/L以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度/前記環状ハロシラン化合物(D)に含まれるケイ素原子数の比が0.90mol/L以上である請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程が、(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程(デカンテーションによる分液を除く)及び(b)濾過工程、或いは(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程(デカンテーションによる分液を除く)及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒(C)及び前記溶媒(F)の少なくとも1つ以上がエーテル系溶媒である請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記環状水素化シラン化合物(G)が、シクロペンタシラン又はシクロヘキサシランを含む請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記環状水素化シラン化合物(G)が、シクロヘキサシランである請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状水素化シラン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、半導体等には薄膜シリコンが用いられており、従来、該薄膜シリコンはモノシラン等を原料とする気相成長製膜法(CVD法)によって製造されている。近年、より簡便な薄膜シリコンの製造方法として、基材に水素化ポリシラン溶液を塗布し、焼成する方法も注目されている。
【0003】
前記水素化ポリシランとして、環状水素化シラン化合物が多用されており、環状水素化シラン化合物の製造方法として、例えば、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(例えばルイス酸化合物)とを接触させて環状ハロシラン化合物を得、得られた環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させて還元する方法等が公知となっている(特許文献1、2)。
【0004】
当該特許文献1では、環状ハロシラン化合物を金属水素化物で還元した後、濃縮または蒸留により精製して得られる環状水素化シラン化合物が、アルミニウム錯体と共に形成されるが、多量のアルミニウム化合物を含んでおり、アルミニウムが多く存在すると薄膜の電気特性に影響を及ぼすことから、当該アルミニウム化合物の量を水洗浄により低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7498015号明細書
【文献】特開2017-95324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応、この反応で得られる混合物と塩素ガスの接触、次いで還元剤との反応を行っているが、アルミニウム錯体が残渣として反応器内に析出して還元反応等の撹拌が円滑に進まなくなったり停止したりする虞があり、また、アルミニウム錯体は、空気中の水分と反応して塩素ガスを発生させる虞がある。
【0007】
更に、還元後の環状水素化シラン化合物を水洗浄に供する場合、未反応の還元剤が水と激しく反応して水素が発生する虞があり、環状水素化シラン化合物が分解して純度等が低下する虞がある。
【0008】
また、特許文献2においても、ハロゲン化アルミニウム化合物由来のアルミニウム錯体を効率よく分離し、環状水素化シラン化合物の生産性を改良する余地があった。
【0009】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、本発明の目的は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応により生成するアルミニウム錯体を安全かつ簡便に取り扱い、かつアルミニウム量が低減された環状水素化シラン化合物を高純度で得ることができる、環状水素化シラン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決できた本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を生成する工程1、前記環状ハロシラン化合物(D)と金属水素化物(E)を溶媒(F)中で接触させ、環状水素化シラン化合物(G)とアルミニウム錯体(H)を含む組成物を得る工程2、及び前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程3を含み、前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程が、(a)濾過工程、(b)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程、及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程の少なくとも2つ以上であることを特徴とする環状水素化シラン化合物の製造方法。
[2] 前記環状水素化シラン化合物(G)を蒸留することをさらに含む[1]に記載の製造方法。
[3] 前記工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度が0.150mol/L以上である[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度/前記環状ハロシラン化合物(D)に含まれるケイ素原子数の比が0.90mol/L以上である[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程が、(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程及び(b)濾過工程、或いは(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程である[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記溶媒(C)及び前記溶媒(F)の少なくとも1つ以上がエーテル系溶媒である[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記環状水素化シラン化合物(G)が、シクロペンタシラン又はシクロヘキサシランを含む[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 前記環状水素化シラン化合物(G)が、シクロヘキサシランである[7]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応により生成するアルミニウム錯体を安全かつ簡便に取り扱い、かつアルミニウム量が低減された環状水素化シラン化合物を高純度で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の環状水素化シラン化合物の製造方法は、環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を生成する工程1、前記環状ハロシラン化合物(D)と金属水素化物(E)を溶媒(F)中で接触させ、環状水素化シラン化合物(G)とアルミニウム錯体(H)を含む組成物を得る工程2、及び前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程3を含み、前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程が、(a)濾過工程、(b)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程、及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程の少なくとも2つ以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の特色は、アルミニウム錯体の分離として、濾過工程、反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程、酸性水溶液で洗浄する工程の少なくとも2つ以上を使用するところ(及び好ましくは蒸留するところ)にあり、これらの組み合わせにより、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応により生成するアルミニウム錯体を安全かつ簡便に取り扱うことができ、アルミニウム量が低減した環状水素化シラン化合物を高い純度で得ることが可能となる。
【0014】
以下、本発明の環状水素化シラン化合物の製造方法で行われる工程1~3を順に説明する。
【0015】
1.工程1(環状ハロシランを生成する工程)
工程1は、環状ハロシラン化合物の塩(A)とハロゲン化アルミニウム化合物(B)を溶媒(C)中で接触させ、環状ハロシラン化合物(D)を生成する工程である。
【0016】
環状ハロシラン化合物の塩(A)
環状ハロシラン化合物の塩は、ケイ素原子が連なって単素環を形成し、該単素環を構成する少なくとも1つのケイ素原子にハロゲン原子が結合した構造を有しており、塩を形成している化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
上記単素環を構成するケイ素原子の数は特に限定されないが、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0018】
環状ハロシラン化合物は、単素環を構成しないケイ素原子を含むものであってもよく、例えば、単素環を構成するケイ素原子に、ケイ素原子を含む置換基(例えば、シリル基など)が結合していてもよい。但し、単素環を構成しないケイ素原子が含まれると、環状ハロシラン化合物の塩や環状ハロシラン化合物の保管時や、得られた環状ハロシラン化合物を還元して環状水素化シラン化合物を製造する工程において、シランガスの発生量が増加したり、環状水素化シラン化合物の収率が低下する傾向にあるので、単素環を構成しないケイ素原子は極力含まないことが好ましい。
【0019】
ケイ素原子から形成された単素環には、少なくとも1つのハロゲン原子が結合していることが好ましく、単素環を構成するケイ素原子のそれぞれにハロゲン原子が1つまたは2つ結合していることがより好ましく、単素環を構成するケイ素原子のそれぞれにハロゲン原子が2つ結合していることが更に好ましい。
【0020】
上記環状ハロシラン化合物の塩としては、下記式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
上記式(1)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、Lはアニオン性配位子を表し、pは配位子Lの価数として-2~-1の整数を表し、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として+1~+2の整数を表し、nは0~5の整数を表し、aとbとcはそれぞれ0~2n+6の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、dは0~3の整数(ただし、aとdは同時に0ではない)、eは0~3の整数(ただし、d+e=3)を表し、mは1~2であり、sは1以上の整数を表し、tは1以上の整数を表す。
【0023】
上記式(1)中、nは単素環を構成するケイ素原子の数を表し、その値は0~5の整数であり、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、また4以下が好ましく、3以下がより好ましい。nは特に3であることが好ましく、すなわち式(1)で表される化合物は6員のケイ素単素環であることが好ましい。
【0024】
上記式(1)中、X1は環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子を表し、X2は環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子を表す。X1とX2のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。上記X1が複数ある場合は、複数のX1は同一であっても異なっていてもよい。上記X2が複数ある場合は、複数のX2は同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
上記式(1)中、aは環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子の数を表し、bは環を構成するケイ素原子に結合する水素原子の数を表し、cは環を構成するケイ素原子に結合するシリル基の数を表す。また、dは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子の数を表し、eは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基の水素原子の数を表す。cが2以上のとき、環を構成するケイ素原子に結合した複数のシリル基は同一であっても異なっていてもよい。aとbとcは0~2n+6の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、aは1~2n+6の整数で、bとcは0~n+5の整数であることが好ましく、aはn+6~2n+6の整数で、bとcは0~nの整数であることがより好ましい。
【0026】
なお、上記式(1)中、cが0であれば、ハロゲン化アルミニウム化合物と反応させた際にカップリング反応等の副反応が起こることが抑えられたり、環状ハロシラン化合物の塩やそれから製造される環状ハロシラン化合物の保管安定性が向上したり、得られた環状ハロシラン化合物を還元して環状水素化シラン化合物を製造する工程においてシランガスの発生が抑制されたり、環状水素化シラン化合物の収率を高めることができる点で、さらに好ましい。また、aが2n+6であり、bとcが0であることが特に好ましい。
【0027】
上記式(1)中、Lは環を構成するケイ素原子に配位したアニオン性の配位子を表し、pは配位子Lの価数(-2~-1の整数)を表し、mは配位子Lの数(+1~+2)を表す。アニオン性の配位子としては、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、シアン化物イオン等が挙げられる。
【0028】
上記式(1)中、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数(+1~+2の整数)を表し、配位子Lの価数と数および対カチオンKの価数に応じて、sとtの値がそれぞれ定められる。
【0029】
上記対カチオンKとしては、オニウム類(例えば、ホスホニウムイオンやアンモニウムイオンなど)、ポリアミン・SiH2Cl+(例えば、ペデタ・SiH2Cl+、テエダ・SiH2Cl+など)等が挙げられる。なお、上記対カチオンKがオニウム類である場合、環状ハロシラン化合物の塩と接触させて環状ハロシラン化合物を製造するときの環状ハロシラン化合物の収率が向上する点から好ましい。
【0030】
上記対カチオンKのオニウム類としては、下記式(2)で表されるホスホニウムイオンまたは下記式(3)で表されるアンモニウムイオンが好ましい。
【0031】
【化2】
【0032】
【化3】
【0033】
上記式(2)におけるR1~R4および上記式(3)におけるR5~R8は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を表す。上記式(2)において、R1~R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。上記式(3)において、R5~R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
【0034】
上記R1~R4および上記R5~R8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1~16のアルキル基が好ましく挙げられ、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0035】
上記R1~R4および上記R5~R8のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~18のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6~12のアリール基がより好ましい。なお、上記R1~R4および上記R5~R8は、アルキル基またはアリール基であることが好ましい。
【0036】
上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩としては、具体的には、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Cl14 2-])の塩や、テトラデカブロモシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Br14 2-])の塩等が挙げられる。また、その対イオンとしては、ホスホニウムイオンまたはアンモニウムイオンが好ましい。
【0037】
上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩としては、下記式(4)または下記式(5)で表される化合物を用いることが好ましい。環状ハロシラン化合物の塩としてこのような化合物を用いれば、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物と反応させる際に、副生物の生成や自然発火性ガスであるシランガスの生成が抑えられるため、環状ハロシラン化合物を容易に製造できる。また、得られた環状ハロシラン化合物を還元して環状水素化シラン化合物を効率よく製造できる。
【0038】
【化4】
【0039】
【化5】
【0040】
上記式(4)および上記式(5)において、X1、R1~R4、R5~R8、nおよびaは上記と同じ意味であり、X3はハロゲン原子を表す。なお、X3は、上記式(4)および上記式(5)ではイオンの形態で存在し、ハロゲン化物イオンとなっている。
【0041】
上記X3のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0042】
上記X3が複数ある場合は、複数のX3は同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
上記X1と上記X3は同一であっても異なっていてもよい。上記式(4)および上記式(5)において、X1とX3が全て塩素原子であれば、環状水素化シラン化合物を安価に製造できる。
【0044】
上記式(4)および上記式(5)において、nは0~5の整数を表し、aは1~2n+6の整数を表すが、nは3であることが特に好ましく、この場合、aは6以上が好ましく、9以上がより好ましく、12以上が特に好ましい。
【0045】
上記環状ハロシラン化合物の塩は、ハロシラン化合物(好ましくはハロゲン化モノシラン、より好ましくはトリハロゲン化シラン、さらに好ましくはトリクロロシラン)と、第三級ポリアミンとを接触させたり、ハロシラン化合物と、ホスホニウム塩(好ましくは第四級ホスホニウム塩)およびアンモニウム塩(好ましくは第四級アンモニウム塩)の少なくとも一方とを接触させることによって製造してもよく、ハロシラン化合物と、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩の少なくとも一方とを接触させること(以下、環化カップリング工程ともいう)によって製造することが好ましい。
【0046】
例えば、ハロシラン化合物としてトリクロロシランを用い、ホスホニウム塩を用いた場合には、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Ph4+2[Si62Cl122-)、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Ph4+2[Si6HCl132-)、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Ph4+2[Si6Cl142-)等の、環状ハロシラン化合物のジアニオンとホスホニウムイオンとからなる塩が得られる。
【0047】
また、ハロシラン化合物としてトリクロロシランを用い、アンモニウム塩を用いた場合には、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Et4+2[Si62Cl122-)、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Et4+2[Si6HCl132-)、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩(例えば、[Et4+2[Si6Cl142-)等の、環状ハロシラン化合物のジアニオンとアンモニウムイオンとからなる塩が得られる。
【0048】
上記環化カップリング工程は、ポリエーテル化合物(好ましくは1,2-ジメトキシエタン)、ポリチオエーテル化合物、又は多座ホスフィン化合物(好ましくは1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)等のキレート型配位子の存在下で行ってもよい。
【0049】
上記環化カップリング工程は、塩基性化合物の存在下で行ってもよい。上記塩基性化合物としては、例えば、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)アミン化合物が挙げられるが、中でもモノアミン化合物が好ましく用いられる。具体的には、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチル-2-エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル-2-エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等が好ましく、トリブチルアミンが特に好ましい。上記塩基性化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記環状ハロシラン化合物の塩は、ハロゲン化アルミニウム化合物との反応に先立って、必要に応じて精製を行ってもよい。上記環状ハロシラン化合物の塩を精製して純度を高めることにより、ハロゲン化アルミニウム化合物との反応で副生物の生成を抑えることができる。上記環状ハロシラン化合物の塩の精製は、固液分離、蒸留(溶媒留去)、晶析、抽出等の公知の精製方法を用いればよい。この際の固液分離手段は特に限定されず、ろ過、沈殿分離、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離手段を用いることができる。
【0051】
ハロゲン化アルミニウム化合物(B)
ハロゲン化アルミニウム化合物としては、フッ化アルミニウム化合物、塩化アルミニウム化合物、臭化アルミニウム化合物、ヨウ化アルミニウム化合物等のルイス酸化合物等が挙げられる。
【0052】
上記ハロゲン化アルミニウム化合物は、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムであることが好ましく、反応性や反応の制御の容易性の点から、塩化アルミニウム化合物であることがより好ましい。
【0053】
本発明の効果を奏する限り、ハロゲン化アルミニウム化合物と併用して、以下の化合物を使用してもよい。
具体的には、塩化チタン、臭化チタン等のハロゲン化チタン;塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム;塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;塩化銀、臭化銀等のハロゲン化銀;塩化金、臭化金等のハロゲン化金;三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;塩化ガリウム、臭化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム、臭化インジウム等のハロゲン化インジウム;塩化タリウム、臭化タリウム等のハロゲン化タリウム;塩化カルシウム、臭化カルシウム等のハロゲン化カルシウム;塩化鉄、臭化鉄等のハロゲン化鉄;塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛;等が挙げられる。
【0054】
上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)の使用量は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、環状ハロシラン化合物の塩1molに対して0.5mol以上が好ましく、1.5mol以上がより好ましく、また20mol以下が好ましく、10mol以下がより好ましい。
【0055】
溶媒(C)
環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との接触は、溶媒または分散媒(これらを、以下、単に溶媒という)中で行う。
溶媒(C)(以下、反応溶媒(I)ということがある)は、有機溶媒であることが好ましい。
溶媒(C)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
【0056】
溶媒(C)は、炭化水素系溶媒であることがより好ましい。炭化水素系溶媒を用いることによって、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との接触させた後の残渣溶解処理が行いやすくなる。
中でも、溶媒(C)は、脂肪族炭化水素系溶媒であることが特に好ましく、ヘキサンであることが最も好ましい。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、事前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
【0057】
溶媒(C)の使用量は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物の総量100質量部に対し、好ましくは1~1000質量部、より好ましくは10~800質量部、さらに好ましくは100~600質量部である。
【0058】
換言すれば、溶媒(C)の使用量は、通常、環状ハロシラン化合物の塩の濃度が0.005mol/L以上、10mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.01mol/L以上、さらに好ましい濃度は0.05mol/L以上であり、より好ましい濃度は5mol/L以下、さらに好ましい濃度は1mol/L以下である。
【0059】
上記反応溶媒(I)中で環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、(1)環状ハロシラン化合物の塩およびルイス酸化合物のそれぞれを予め溶媒中に溶解または分散させることによって、環状ハロシラン化合物の塩の溶液(または分散液)とルイス酸化合物の溶液(または分散液)を調製した後、これらの溶液(または分散液)を混合する方法、(2)溶媒に、環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物を同時にまたは順次加える方法、(3)環状ハロシラン化合物の塩の溶液(または分散液)にルイス酸化合物を加える方法、(4)環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物とを仕込み、そこに溶媒を加える方法;等が挙げられる。
【0060】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させて反応を行うときの温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、-80℃以上が好ましく、-50℃以上がより好ましく、-30℃以上がさらに好ましく、また200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0061】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との接触を行うときの時間は、反応温度、反応の進行の程度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。上記時間は、例えば、24時間以下とすることができる。上記時間は、20時間以下がより好ましく、15時間以下が更に好ましい。
【0062】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との反応を促進させるために、加熱および/または撹拌を行ってもよい。
【0063】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させて反応を行うときの雰囲気は特に限定されないが、環状ハロシラン化合物およびその塩の酸化を抑制するために、当該雰囲気の酸素濃度は9体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましく、3体積%以下がさらに好ましく、1体積%以下が特に好ましい。
【0064】
また、環状ハロシラン化合物とその塩の加水分解を抑えるために、上記雰囲気の水分濃度は2000ppm(体積基準)以下が好ましく、1500ppm(体積基準)以下がより好ましく、1000ppm(体積基準)以下がさらに好ましく、500ppm(体積基準)以下がさらにより好ましく、150ppm(体積基準)以下が特に好ましく、10ppm(体積基準)以下が最も好ましい。
【0065】
上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)との反応は、不活性ガス(例えば、窒素ガスやアルゴンガスなど)雰囲気下で行うことも好ましく、また遮光下で行うことも好ましい。
【0066】
環状ハロシラン化合物(D)
上記環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(好ましくはルイス酸化合物)とを接触させて反応させることによって、フリーの環状ハロシラン化合物(非錯体型の環状ハロシラン化合物)を残渣(アルミニウム錯体)と共に得ることができる。このような非錯体型の環状ハロシラン化合物は、錯体型の環状ハロシラン化合物と比べて高い溶媒溶解性を有するものとなる。そのため得られた非錯体型の環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させて還元する際に、環状ハロシラン化合物の還元反応を高濃度下で行うことができ、環状水素化シラン化合物を効率的に製造できる。
【0067】
上記環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物とを接触させる工程では、例えば、上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩から下記式(6)で表される環状ハロシラン化合物を得ることができる。
【0068】
【化6】
【0069】
上記式(6)において、X1、X2、a~e、nは上記と同じ意味を表す。
【0070】
他方、上記環状ハロシラン化合物の塩と上記ルイス酸化合物との反応により得られた環状ハロシラン化合物は、不純物を除去するために、必要に応じて精製を行ってもよい。上記環状ハロシラン化合物の精製は、固液分離、蒸留(溶媒留去)、晶析、抽出等の公知の手段を用いることができる。
【0071】
2.工程2(環状水素化シラン化合物とアルミニウム錯体を含む組成物を得る工程)
工程2は、前記環状ハロシラン化合物(D)と金属水素化物(E)を溶媒(F)中で接触させ、環状水素化シラン化合物(G)とアルミニウム錯体(H)を含む組成物を得る工程である。
【0072】
上記環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物(ルイス酸化合物)とを接触させて得られた環状ハロシラン化合物は、公知の方法で金属水素化物と接触させて還元する(以下、還元工程ということがある。)ことによって、環状水素化シラン化合物(G)を製造する。
【0073】
金属水素化物(E)との反応に使用する環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度(すなわち工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度)は、環状水素化シラン化合物の収率や純度を高める観点から、好ましくは0.150mol/L以上、より好ましくは0.155mol/L以上、さらに好ましくは0.160mol/L以上、0.165mol/L以上であり、好ましくは1.000mol/L以下、より好ましくは0.900mol/L以下、さらに好ましくは0.850mol/L以下である。
ここで、環状ハロシラン化合物(D)(の溶液)や、金属水素化物(の溶液)を一括で添加しても良く、連続的もしくは段階的に添加しても良い。その場合、工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度は、工程2で使用する溶剤の総量に対する、工程2で使用する環状ハロシラン化合物の総量のモル濃度であっても良い。
【0074】
前記工程2における環状ハロシラン化合物(D)のモル濃度/環状ハロシラン化合物(D)に含まれるケイ素原子数の比は、好ましくは0.90mol/L以上、より好ましくは0.95mol/L以上、さらに好ましくは1.00mol/L以上であり、好ましくは5.00mol/L以下、より好ましくは4.90mol/L以下、さらに好ましくは4.80mol/L以下である。
当該比は、環状ハロシラン化合物(D)の上記モル濃度を同時満足するような値であってもよく、一括添加もしくは連続添加または分割添加のいずれの場合にも適用できる。
【0075】
金属水素化物(E)
金属水素化物(E)は、従来公知の還元剤であり、アルミニウム系還元剤、およびホウ素系還元剤からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。アルミニウム系還元剤としては、例えば、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4;LAH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム[「Red-Al」(シグマアルドリッチ社の登録商標)]等の金属水素化物等が挙げられる。ホウ素系還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等の金属水素化物や、ジボラン等が挙げられ、金属水素化物を用いることが好ましい。なお、還元剤は1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、水素化リチウムアルミニウムが特に好ましい。
【0076】
金属水素化物(E)の使用量は、適宜設定すればよく、例えば、環状ハロシランのケイ素-ハロゲン結合1個に対する還元剤中のヒドリドの当量を、少なくとも0.9当量以上とすることが好ましい。上記金属水素化物(E)の使用量は、より好ましくは1.0~50当量、さらに好ましくは1.0~30当量、特に好ましくは1.0~15当量、最も好ましくは1.0~2当量である。金属水素化物(E)の使用量が多すぎると、後処理に時間を要し生産性が低下する傾向がある。一方、金属水素化物(E)の使用量が少なすぎると、ハロゲンが還元されずに残り、収率が低下する傾向がある。
【0077】
溶媒(F)
上記環状ハロシラン化合物の金属水素化物による還元反応は溶媒(F)中で行うことが好ましい。ここで用いる溶媒(以下、反応溶媒(II)ということがある)は、有機溶媒が好ましく、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、還元工程で用いる反応溶媒(II)は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
【0078】
前記溶媒(C)及び前記溶媒(F)の少なくとも1つ以上はエーテル系溶媒であることが好ましく、前記溶媒(F)はエーテル系溶媒であることがより好ましい。
前記溶媒(F)は、金属水素化物(E)の溶媒であることが好ましく、前記溶媒(C)は、環状ハロシラン化合物(D)の溶媒であることが好ましく、還元反応の際には、前記溶媒(C)と前記溶媒(F)が共に存在してもよい。
【0079】
溶媒(F)の使用量は、上述する様に、金属水素化物の使用量となるような量であればよく、金属水素化物100質量部に対し、好ましくは1~10000質量部、より好ましくは100~5000質量部、さらに好ましくは400~2000質量部である。
【0080】
本発明の一態様において、前記工程2で生じた反応液を濃縮することなく又は前記工程2で生じた反応液を濃縮して回収してもよい。反応液を濃縮する場合は、好ましくは容量を元の80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上とする濃縮をした後で、分液により上層を回収してもよい。
反応液は濃縮により、複数の層に分離してもよい。
複数の層には、例えば、(i)上層及び下層、(ii)上層、中間層及び下層等が含まれる。
濃縮は、温度や圧力等を変化させることにより、反応液に含まれる溶媒を揮発させる操作であればよく、例えば減圧処理、加熱処理等が挙げられる。
分液は、複数の層から所望の物質を含む層を抽出する又は取り出す操作であればよく、例えばデカンテーション操作による分液、漏斗による分液等が挙げられる。
【0081】
本発明の一態様において、上層は、環状水素化シラン化合物を含むことが好ましく、下層は、アルミニウム錯体を含むことが好ましい。下層は、例えば減圧濃縮して濾過に供してアルミニウム錯体を除いてもよく、アルミニウム錯体を除いた下層は、上層と共に次の工程(好ましくは蒸留工程)に使用してもよい。
【0082】
環状水素化シラン化合物(G)
上記環状水素化シラン化合物は、ケイ素原子が連なって構成される単素環を有し、ケイ素原子と水素原子から構成される化合物である。環状水素化シラン化合物は、単素環を構成するケイ素原子の全ての置換位置に水素原子が結合してもよく、単素環を構成するケイ素原子に無置換のシリル基が結合しているものであってもよい。ただし、保存安定性の観点から、単素環を構成するケイ素原子以外のケイ素原子を含まないことが好ましい。環状ハロシラン化合物の塩ではなく環状ハロシラン化合物を還元することによって、当該塩の対カチオンに由来するシランガスの発生がなく、全体としてシランガスの発生を抑制できるため、環状水素化シラン化合物を高収率かつ簡便に得ることができる。
【0083】
還元工程で得られる環状水素化シラン化合物は、下記式(12)で表される化合物が好ましい。
Siz2z (12)
【0084】
上記式(12)中、zは単素環を構成するケイ素原子の数を表し、zは3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0085】
上記環状水素化シラン化合物は、禁酸素性物質である。そのため上記還元工程は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0086】
環状水素化シラン化合物(G)は、シクロペンタシラン又はシクロヘキサシランを含むことが好ましく、より好ましくはシクロヘキサシランである。
【0087】
シクロヘキサシランの含有量は、環状水素化シラン化合物(G)100質量%中、97質量%以上であることが好ましく、より好ましくは97.5質量%以上、さらに好ましくは98.0質量%以上であり、限りなく100質量%であることが望ましいが、99.9質量%以下又は99.7質量%以下であってもよい。
当該含有量は、ガスクロマトグラフィー分析から得られる面積%に基づくものであってもよい。
【0088】
アルミニウム錯体(H)
アルミニウム錯体(H)は、ハロゲン化アルミニウム化合物と溶媒(F)(好ましくはエーテル系溶媒)と接触により形成されるハロゲン化アルミニウム化合物の塩であることが好ましく、ハロゲン化アルミニウム化合物の塩を主成分として50質量%以上(好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上)含むことが好ましい。
【0089】
3.工程3(アルミニウム錯体を分離する工程)
工程3は、前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程である。
前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程は、(a)濾過工程、(b)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程、及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程の少なくとも2つ以上である。
【0090】
濾過工程は、通常の圧力及び温度で行う濾過であってもよく、圧力又は温度を変化させて行う濾過であってもよい。
濾過としては、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、熱時濾過等が挙げられる。
濾過では、濾紙、ガラス繊維フィルター、メンブレンフィルター、濾過板等を使用することができる。
本発明において、濾過工程は、反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液中の上層又は下層について行うことが好ましく、反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液中の下層について行うことがより好ましい。
本発明において、濾過工程のみでは、アルミニウム錯体を十分除くことができない。
【0091】
分液は、生じた複数の層から所望の物質を含む層を抽出する又は取り出す操作であればよく、反応中に層分離した反応液を分液するもの、酸性水溶液、水、もしくは溶剤等で洗浄したときに層分離した層を分液するもの、濃縮や希釈、温度変化や圧力変化などで層分離した層を分液するもの、層分離を促進する添加剤の添加により層分離した層を分液するもの等のいずれであっても構わない。分液は、特に限定されず、例えば公知の方法で分液すればよく、例えばデカンテーション操作による分液、漏斗による分液等が挙げられる。
【0092】
反応液は、環状水素化シラン化合物(G)及びアルミニウム錯体(H)を含む組成物であり、濃縮液は、当該組成物を減圧又は加熱することにより組成物に含まれる溶媒を揮発させた液であり、洗浄液は、後述する様に、反応液又はその濃縮液と酸性水溶液を接触させた後の溶液である。
【0093】
酸性水溶液で洗浄する工程は、反応液又はその濃縮液と酸性水溶液を接触させる操作であればよい。
酸性水溶液で洗浄する場合、環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液と酸性水溶液との接触は、環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液と、酸性水溶液との少なくともいずれか一方を滴下することが好ましい。このように環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液及び酸性水溶液の一方又は両方を滴下することにより、水洗浄に比べて金属水素化物をよりマイルドに失活することができ、生じる発熱を滴下速度などで調節することができる。
【0094】
環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液及び酸性水溶液の一方または両方を滴下する場合の好ましい態様としては、以下の3つの態様がある。即ち、A)反応器内に環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液を仕込んでおき、これに酸性水溶液を滴下する態様、B)反応器内に酸性水溶液を仕込んでおき、これに環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液を滴下する態様、C)反応器内に、環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液と酸性水溶液とを同時または順次滴下する態様である。これらの中でも上記B)の態様が好ましく、すなわち、環状水素化シラン化合物を含む反応液又はその濃縮液を酸性水溶液に滴下することが好ましい。
本発明において、反応液又はその濃縮液を分液する工程により、反応液又はその濃縮液中の上層と下層を分離することが好ましい。
【0095】
酸性水溶液は、塩酸、硝酸、硫酸などの水溶液であればよい。好ましい酸性水溶液は、硫酸の水溶液である。
酸性水溶液の濃度は、例えば0.1~20質量%、好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは1~10質量%である。
【0096】
具体的なアルミニウム錯体の分離工程として、(i)濾過工程及び反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程、(ii)濾過工程及び酸性水溶液で洗浄する工程、(iii)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程及び酸性水溶液で洗浄する工程、(iv)濾過工程、反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程、及び酸性水溶液で洗浄する工程等が挙げられる。
【0097】
中でも、前記アルミニウム錯体(H)を分離する工程は、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応により生成するアルミニウム錯体を安全かつ簡便に取り扱う観点から、(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程及び(b)濾過工程、或いは(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液を分液する工程及び(c)酸性水溶液で洗浄する工程であることが好ましく、(a)反応液、その濃縮液又はそれらの洗浄液が形成する上層及び下層を分液する工程並びに(b)得られた下層を濾過する工程、或いは(c)反応液又はその濃縮液を酸性水溶液で洗浄する工程並びに(a)洗浄した洗浄液が形成する上層及び下層を分液する工程がより好ましい。
分液で得られた下層は、濾過工程に供してもよく、濾過した下層は、上層と合わせてもよい。
【0098】
上記還元工程で得られた環状水素化シラン化合物は、純度を高めるために精製を行ってもよい。環状水素化シラン化合物の精製方法としては、固液分離、蒸留、晶析、抽出等の公知の精製方法を採用できる。
中でも、アルミニウム錯体を分離する工程を行った後、前記環状水素化シラン化合物を蒸留することをさらに含むことが好ましい。
アルミニウム錯体を分離してから、環状水素化シラン化合物を蒸留することにより、アルミニウム量が低減した環状水素化シラン化合物を高純度で得ることができる。
【0099】
精製した環状水素化シラン化合物を含む溶液を蒸留によりさらに精製するが、環状水素化シラン化合物を含む溶液を必要によって濃縮した後、高濃度化した環状水素化シラン化合物(好ましくはシクロヘキサシラン)を蒸留してもよい。この蒸留は、減圧蒸留であることが好ましい。減圧蒸留する方法は特に限定されず、公知の蒸留塔で行えばよく、遮光条件下で行ってもよい。上記蒸留は、留分を複数に分けて行うことが好ましく、得られた留分のうち、適切な留分のみを選択してもよい。
【0100】
特に、前記蒸留(特に減圧蒸留)を2回以上行ってもよく、例えば、環状水素化シラン化合物を含む溶液を減圧蒸留し、環状水素化シラン化合物(特にシクロヘキサシラン)含有量が適切な留分を回収した後(第1蒸留)、この回収留分を再度減圧蒸留して環状水素化シラン化合物(特にシクロヘキサシラン)含有量が適切な留分を回収し(第2蒸留)、さらに必要に応じて第2蒸留を繰り返す操作を行ってもよい。
【0101】
本開示の製造方法で得られた環状水素化シラン化合物(以下、「本開示の環状水素化シラン化合物」ともいう)の純度、すなわち、本開示の環状水素化シラン化合物含有組成物における、環状水素化シラン化合物の含有量は、環状水素化シラン化合物(G)100質量%中、97.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは98.0質量%以上、さらに好ましくは98.5質量%以上であり、限りなく100質量%であることが望ましいが、99.9質量%以下又は99.7質量%以下であってもよい。好ましくは、シクロヘキサシランが上記範囲であることが好ましい。
【0102】
本開示の環状水素化シラン化合物もしくは本開示の環状水素化シラン化合物含有組成物に含まれるアルミニウム濃度は、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下、さらにより好ましくは1500ppm以下であり、好ましくは0.01ppb以上である。
【0103】
以上、本発明について説明したが、上記に説明した本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0105】
アルミニウム量の測定
分析装置:マルチタイプICP発光分光分析装置(島津製作所製ICPE-9000)
前処理は次の手順で行った。まず、窒素雰囲気下のグローブボックス内で、容量100mLのPFA(ポリテトラフルオロエチレン)容器に環状水素化シラン化合物を50μL入れ、次いで12.5%TMAH(水素化テトラメチルアンモニウム水溶液)を2500μL入れた。蓋を軽く閉めて1晩静置し、失活させた。1晩静置後、5%HNO 45mlで希釈し、更に1晩静置して前処理を終了した。
前処理した環状水素化シラン化合物のAl量を、島津製作所製ICPE-9000で測定した。
【0106】
環状水素化シラン化合物の含有量の測定
窒素雰囲気下のグローブボックス内で、得られた環状水素化シラン化合物をシクロペンチルメチルエーテルで約1%に希釈し、その溶液をガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。環状水素化シラン化合物の含有量は面積百分率法により算出した。
(ガスクロマトグラフィー(GC)分析方法)
測定方法:GC FID法
分析装置:島津製作所社製 GC2014
カラム:DB-5MS 0.25μm(Film)×0.25mm(Diam)×30m(Length)(Agilent Technologies)
気化室温度:250度
検出器温度:280度
昇温条件:50度5分保持、20度/分で250度まで昇温、10度/分で280度に昇温10分保持
【0107】
実施例1
(1)環状ハロシラン化合物の塩(A)の製造例
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび撹拌装置を備えた300mL四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、このフラスコ内に、テトラエチルアンモニウムブロマイド123.5g(0.59mol)と、トリブチルアミン490.0g(2.64mol)と、ジクロロメタン702.7gとを入れた。次いでフラスコ内の溶液を撹拌しながら、25℃条件下において、滴下ロートよりトリクロロシラン238.1g(1.76mol)とジクロロメタン117.2gからなる溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌し、引き続き50℃で6時間加熱しながら撹拌することにより、環化カップリング反応を行った。反応後、得られた固体をろ過および精製して、環状ハロシラン化合物の塩(A)を102.7g得た。
【0108】
(2)環状ハロシラン化合物(D)の製造例
窒素雰囲気下、撹拌装置を備えた300mL三つ口フラスコに、上記(1)で得られた白色固体15.0gとハロゲン化アルミニウム化合物(B)である粉末状の塩化アルミニウム(AlCl3)4.6gを入れ、さらに溶媒(C)であるヘキサン98.7gを加えた。遮光した状態で、室温条件下、3時間撹拌して反応させたのち、ろ過、濃縮を行い環状ハロシラン化合物(D)のヘキサン溶液(濃度:約40質量%)を得た。
【0109】
(3)環状水素化シラン化合物(G)の製造例
滴下ロートおよび撹拌装置を備えた100mL三つ口フラスコに、上記(2)で得られた環状ハロシラン化合物(D)のヘキサン溶液25gを入れた。フラスコ内を窒素ガスで置換した後、フラスコ内の溶液を撹拌しながら、0℃条件下において、滴下ロートより金属水素化物(E)として水素化リチウムアルミニウムのジエチルエーテル溶液(濃度:約1.0mol/L)76mLを徐々に滴下し、次いで25℃で1時間撹拌することにより、還元反応を行った。反応後、減圧により反応液は二層に分離しており、下層にはアルミニウム錯体(H)が含まれていた。この下層を分液により分離して、ヘキサン濃度が5%以下になるまで減圧濃縮してからろ過を行い、析出したアルミニウム錯体(H)を除去した。アルミニウム錯体(H)が除去された下層は上層と混合して、蒸留精製して、環状水素化シラン化合物(G)としてガスクロマトグラフィーで面積純度99%、アルミニウム濃度が1300ppmであるシクロヘキサシラン1.6gを得た。
【0110】
実施例2
(3)環状水素化シラン化合物(G)の製造例
滴下ロートおよび撹拌装置を備えた100mL三つ口フラスコに、上記実施例1(2)で得られた環状ハロシラン化合物(D)のヘキサン溶液25gを入れた。フラスコ内を窒素ガスで置換した後、フラスコ内の溶液を撹拌しながら、0℃条件下において、滴下ロートより金属水素化物(E)として水素化リチウムアルミニウムのジエチルエーテル溶液(濃度:約1.0mol/L)76mLを徐々に滴下し、次いで25℃で1時間撹拌することにより、還元反応を行った。反応後、得られた反応液は二層に分離しており、下層にはアルミニウム錯体(H)が含まれていた。この二層分離した液をゆっくりと5%硫酸水溶液へ滴下し、10分間攪拌後に、二層分離した層の下層を抜き出し、上層を蒸留精製して、環状水素化シラン化合物(G)としてガスクロマトグラフィーで面積純度99%、アルミニウム濃度が160ppmであるシクロヘキサシラン1.6gを得た。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、環状ハロシラン化合物の塩とハロゲン化アルミニウム化合物との反応より生成するアルミニウム錯体を安全かつ簡便に取り扱うことができる。アルミニウム量が低減し、高純度である環状水素化シラン化合物は、例えば、太陽電池や半導体等に用いられるシリコン原料として有用である。また半導体分野では、Ge化合物と混合または反応させることにより、SiGe化合物の製造や、SiGe膜の製造にも利用できる。