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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】細胞計測容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20241105BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C12M1/34 A
G01N27/02 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020156498
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022050095
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅和
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/010721(WO,A1)
【文献】特開2019-110794(JP,A)
【文献】特開2004-095347(JP,A)
【文献】特開平07-113740(JP,A)
【文献】特開2012-120451(JP,A)
【文献】特開2018-170259(JP,A)
【文献】特開平01-059150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
G01N 27/00- 27/10
G01N 27/14- 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の細胞外電位を計測するための細胞計測容器であって、
容器本体と、
前記容器本体の下面に固定された計測基板と、
を備え、
前記容器本体は、細胞を内部に収容する穴部を有し、
前記計測基板は、
前記穴部の底部に露出する計測用作用電極および計測用参照電極を含む計測用電極パターンと、
前記細胞計測容器の製造時に、前記計測基板のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを検査するための検査用電極パターンであって、前記穴部の底部に露出しない検査用作用電極および検査用参照電極を含む検査用電極パターンと、
を有する、細胞計測容器。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞計測容器であって、
前記計測用電極パターンと、前記検査用電極パターンとは、互いに電気的に独立している、細胞計測容器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の細胞計測容器であって、
前記容器本体は、
前記穴部の周囲に設けられたフレーム部
を有し、
前記検査用電極パターンは、前記フレーム部の下方に位置する、細胞計測容器。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の細胞計測容器であって、
前記計測基板は、複数の前記検査用電極パターンを有し、
前記複数の検査用電極パターンは、前記計測基板の上面の互いに異なる位置に設けられている、細胞計測容器。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の細胞計測容器であって、
前記計測用参照電極の面積と、前記検査用参照電極の面積とが、同一である、細胞計測容器。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の細胞計測容器であって、
前記検査用電極パターンは、前記計測用作用電極の面積と同じ面積の前記検査用作用電極を含む、細胞計測容器。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の細胞計測容器であって、
前記検査用電極パターンは、面積の異なる複数の前記検査用作用電極を有する、細胞計測容器。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の細胞計測容器であって、
前記検査用電極パターンは、互いに線幅が異なる複数の抵抗計測用配線をさらに有する、細胞計測容器。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の細胞計測容器であって、
前記容器本体は、複数の前記穴部を有し、
前記計測基板は、前記複数の穴部のそれぞれの底部に露出する複数の前記計測用電極パターンを有する、細胞計測容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の細胞外電位を計測するための細胞計測容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の作用電極と参照電極とを含む電極アレイ(Micro-Electrode Array)を備えた細胞計測容器を用いて、細胞の細胞外電位を計測するシステムが知られている。当該システムでは、例えば、神経細胞の細胞外電位を計測することができる。従来の細胞計測容器の構造は、特許文献1などに記載されている。
【0003】
細胞計測容器は、上述した電極アレイを備えた計測基板を有する。細胞の細胞外電位を計測するときには、細胞計測容器の内部に、培養液とともに細胞を収容する。そして、計測基板の作用電極および参照電極を使用して、細胞計測容器内の細胞の細胞外電位を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-529889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の細胞計測容器を用いて計測される細胞外電位は、数μV~数mV程度の微小な電位である。このため、細胞計測容器の計測基板は、微小な電位を精度よく計測するために、低ノイズ性能が求められる。しかしながら、細胞計測容器の製造工程において、作用電極および参照電極の表面が汚染される場合がある。その場合、作用電極および参照電極のインピーダンスが上昇し、細胞外電位の正確な計測が困難となる。このため、細胞計測容器の製造工程では、計測基板のインピーダンスが、正常範囲内であるか否かを検査することが求められる。
【0006】
しかしながら、インピーダンスの検査は、作用電極および参照電極を生理食塩水に接触させた状態で行われる。このため、生理食塩水との接触により、作用電極および参照電極の表面に、新たな汚染が生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、細胞計測容器の計測基板のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを、細胞外電位を計測するための電極を使用することなく検査できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、細胞の細胞外電位を計測するための細胞計測容器であって、容器本体と、前記容器本体の下面に固定された計測基板と、を備え、前記容器本体は、細胞を内部に収容する穴部を有し、前記計測基板は、前記穴部の底部に露出する計測用作用電極および計測用参照電極を含む計測用電極パターンと、前記細胞計測容器の製造時に、前記計測基板のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを検査するための検査用電極パターンであって、前記穴部の底部に露出しない検査用作用電極および検査用参照電極を含む検査用電極パターンと、を有する。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の細胞計測容器であって、前記計測用電極パターンと、前記検査用電極パターンとは、互いに電気的に独立している。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の細胞計測容器であって、前記容器本体は、前記穴部の周囲に設けられたフレーム部を有し、前記検査用電極パターンは、前記フレーム部の下方に位置する。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の細胞計測容器であって、前記計測基板は、複数の前記検査用電極パターンを有し、前記複数の検査用電極パターンは、前記計測基板の上面の互いに異なる位置に設けられている。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の細胞計測容器であって、前記計測用参照電極の面積と、前記検査用参照電極の面積とが、同一である。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の細胞計測容器であって、前記検査用電極パターンは、前記計測用作用電極の面積と同じ面積の前記検査用作用電極を含む。
【0014】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の細胞計測容器であって、前記検査用電極パターンは、面積の異なる複数の前記検査用作用電極を有する。
【0015】
本願の第8発明は、第1発明から第7発明までのいずれか1発明の細胞計測容器であって、前記検査用電極パターンは、互いに線幅が異なる複数の抵抗計測用配線をさらに有する。
【0016】
本願の第9発明は、第1発明から第8発明までのいずれか1発明の細胞計測容器であって、前記容器本体は、複数の前記穴部を有し、前記計測基板は、前記複数の穴部のそれぞれの底部に露出する複数の前記計測用電極パターンを有する。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明~第9発明によれば、計測基板のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを、計測用作用電極および計測用参照電極を使用することなく、検査できる。
【0018】
特に、本願の第2発明によれば、計測用電極パターンを使用して細胞外電位を計測するときに、検査用電極パターンが影響を及ぼすことを防止できる。
【0019】
特に、本願の第3発明によれば、ユーザが検査用電極パターンに触れることを防止できる。
【0020】
特に、本願の第4発明によれば、計測基板の上面の複数の位置において、インピーダンスを計測することにより、製造プロセスのばらつきを知ることができる。
【0021】
特に、本願の第5発明によれば、計測用参照電極に近い条件で、検査用参照電極の状態を検査できる。
【0022】
特に、本願の第6発明によれば、計測用作用電極に近い条件で、検査用作用電極の状態を検査できる。
【0023】
特に、本願の第7発明によれば、インピーダンスが異常値を示した場合に、異なる面積の検査用作用電極を使用して計測されたインピーダンスを比較することによって、異常値の原因を推定できる。
【0024】
特に、本願の第8発明によれば、複数の抵抗計測用配線の体積抵抗率を比較することで、配線の状態が正常であるか否かを判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係る細胞計測容器の斜視図である。
図2】第1実施形態に係る細胞計測容器の分解斜視図である。
図3】第1実施形態に係る細胞計測容器の上面図である。
図4】計測用電極パターンの上面図である。
図5】検査用電極パターンの上面図である。
図6】計測基板の一部分の断面図である。
図7】計測基板の製造手順を示したフローチャートである。
図8】検査用電極パターンの変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
<1.細胞計測容器の構成>
図1は、第1実施形態に係る細胞計測容器1の斜視図である。図2は、第1実施形態に係る細胞計測容器1の分解斜視図である。図3は、第1実施形態に係る細胞計測容器1の上面図である。なお、図1図3では、計測基板20の後述する第1配線241、第2配線242、第3配線243、および第4配線244の図示が省略されている。
【0028】
この細胞計測容器1は、細胞の細胞外電位を計測するための容器である。図1図3に示すように、細胞計測容器1は、容器本体10と計測基板20とを有する。
【0029】
容器本体10は、複数の穴部11を有するマルチウェルプレートである。容器本体10の材料には、例えば、絶縁体である透明な樹脂が使用される。図1図3に示すように、容器本体10は、複数の穴部11と、穴部11の周囲に設けられたフレーム部12とを有する。本実施形態の容器本体10には、24個の穴部11が、4行6列のマトリクス状に設けられている。上面視における各穴部11の形状は、円形である。また、各穴部11の底部は、開口110となっている。フレーム部12は、上面視において、隣り合う穴部11の間に沿って、格子状に延びる。
【0030】
ただし、穴部11の数および配置は、本実施形態の例には限定されない。また、穴部11の上面視における形状は、矩形等の他の形状であってもよい。細胞計測容器1の使用時には、各穴部11内に、培養液とともに、計測対象となる細胞が収容される。
【0031】
計測基板20は、複数の電極(電極アレイ)と、電極に接続された配線とを備えた基板である。計測基板20は、容器本体10の下面に固定される。図2に示すように、計測基板20の上面には、複数の計測領域21が設けられている。計測領域21は、容器本体10の下面に計測基板20が固定されたときに、穴部11の底部の開口110に露出する部分である。計測基板20が有する計測領域21の数は、容器本体10が有する穴部11の数と同一である。
【0032】
また、計測基板20は、複数の計測用電極パターン22と、複数の検査用電極パターン23とを有する。複数の計測用電極パターン22は、それぞれ、計測領域21内に配置されている。複数の検査用電極パターン23は、それぞれ、計測領域21の外側に配置されている。計測用電極パターン22と検査用電極パターン23とは、互いに電気的に独立している。
【0033】
計測用電極パターン22は、細胞外電位を計測するときに使用されるパターンである。計測基板20が有する計測用電極パターン22の数は、容器本体10が有する穴部11の数と同一である。すなわち、本実施形態の計測基板20は、24個の計測用電極パターン22を有する。容器本体10の下面に計測基板20が固定されると、図3のように、複数の計測用電極パターン22は、それぞれ、穴部11の底部の開口110に露出する。
【0034】
図4は、1つの計測用電極パターン22の上面図である。図4には、上述した計測領域21の範囲が、二点鎖線で示されている。図4に示すように、計測用電極パターン22は、複数の計測用作用電極221と、複数の計測用参照電極222とを含む。
【0035】
複数の計測用作用電極221は、計測領域21の中央付近に位置する。本実施形態では、16個の計測用作用電極221が、4行4列のマトリクス状に配列されている。ただし、計測用作用電極221の数および配置は、本実施形態の例には限定されない。複数の計測用作用電極221は、互いに間隔をあけて配置されていればよい。また、本実施形態では、上面視における計測用作用電極221の形状が、正方形である。しかしながら、上面視における計測用作用電極221の形状は、長方形、円形などの他の形状であってもよい。
【0036】
複数の計測用参照電極222は、複数の計測用作用電極221よりも外側に位置する。すなわち、複数の計測用参照電極222は、計測領域21の周縁部付近に位置する。複数の計測用作用電極221と、複数の計測用参照電極222とは、それぞれ、電気的に独立している。
【0037】
本実施形態では、2つの計測用参照電極222が、計測用作用電極221を挟んで互いに反対側の位置に、配置されている。ただし、計測用参照電極222の数および配置は、本実施形態の例には限定されない。複数の計測用参照電極222は、互いに間隔をあけて配置されていればよい。また、本実施形態では、上面視における計測用参照電極222の形状が、計測領域21の周縁部に沿った円弧状である。しかしながら、上面視における計測用参照電極222の形状は、正方形、長方形、円形などの他の形状であってもよい。
【0038】
また、計測基板20は、複数の第1配線241と、複数の第2配線242とを有する。複数の第1配線241は、それぞれ、計測用作用電極221から計測基板20の外周部へ向けて延びている。複数の第2配線242は、それぞれ、計測用参照電極222から計測基板20の外周部へ向けて延びている。複数の第1配線241および複数の第2配線242の外端部は、細胞計測容器1の外部に配置された計測装置(図示省略)と電気的に接続される。これにより、細胞計測容器1と計測装置とを含む計測システムが構成される。
【0039】
細胞外電位を計測するときには、容器本体10の各穴部11内に、培養液とともに細胞が収容される。培養液には、例えば、生理食塩水が使用される。細胞は、計測基板20の計測領域21のうち、複数の計測用作用電極221が存在する中央部付近のみに配置される。これにより、複数の計測用作用電極221を覆う細胞層が形成される。この状態で、複数の計測用作用電極221により検出される電位と、複数の計測用参照電極222により検出される電位との差を、細胞固有の電位として計測する。
【0040】
検査用電極パターン23は、細胞計測容器1の製造時に、計測基板20のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを検査するためのパターンである。検査用電極パターン23は、上述した計測領域21の外側に配置されている。容器本体10の下面に計測基板20が固定された状態において、検査用電極パターン23は、容器本体10のフレーム部12の下方に位置する。したがって、検査用電極パターン23は、穴部11の底部の開口110に露出しない。
【0041】
図5は、1つの検査用電極パターン23の上面図である。図5に示すように、検査用電極パターン23は、複数の検査用作用電極231と、1つの検査用参照電極232とを含む。複数の検査用作用電極231は、1つの検査用参照電極232の両側に配置されている。また、複数の検査用作用電極231および1つの検査用参照電極232は、計測領域21の間の隙間に沿って、全体として直線状に配列されている。複数の検査用作用電極231と、1つの検査用参照電極232とは、それぞれ、電気的に独立している。
【0042】
本実施形態の検査用電極パターン23は、20個の検査用作用電極231を有する。20個の検査用作用電極231は、面積の異なる5種類の検査用作用電極231を含む。すなわち、20個の検査用作用電極231は、最も面積が大きい4つの検査用作用電極231と、2番目に面積が大きい4つの検査用作用電極231と、3番目に面積が大きい4つの検査用作用電極231と、4番目に面積が大きい4つの検査用作用電極231と、最も面積が小さい4つの検査用作用電極231と、を含む。これらの検査用作用電極231は、面積の大きいものから順に検査用参照電極232の近くに配置され、面積が小さいものほど検査用参照電極232から離れて配置される。
【0043】
ただし、検査用作用電極231の数および配置は、本実施形態の例には限定されない。複数の検査用作用電極231は、互いに間隔をあけて配置されていればよい。また、本実施形態では、上面視における検査用作用電極231の形状が、正方形である。しかしながら、上面視における検査用作用電極231の形状は、長方形、円形などの他の形状であってもよい。また、検査用電極パターン23は、2つ以上の検査用参照電極232を有していてもよい。
【0044】
また、計測基板20は、複数の第3配線243と、複数の第4配線244とを有する。複数の第3配線243は、それぞれ、検査用参照電極232から計測基板20の外周部へ向けて延びている。複数の第4配線244は、それぞれ、検査用作用電極231から計測基板20の外周部へ向けて延びている。複数の第3配線243および複数の第4配線244の外端部は、細胞計測容器1の外部に配置された検査装置(図示省略)と電気的に接続される。これにより、細胞計測容器1と検査装置とを含む検査システムが構成される。
【0045】
図6は、計測基板20の一部分の断面図である。図6に示すように、計測基板20は、ベース層251と、ベース層251の上面に位置する導体層252と、導体層252を覆う保護層253とにより構成される。ベース層251の材料には、例えば、絶縁体であるガラスが使用される。導体層252の材料には、例えば、導体である金(Au)等の金属が使用される。保護層253の材料には、例えば、SiOx等の絶縁体が使用される。
【0046】
上述した計測用電極パターン22、検査用電極パターン23、第1配線241、第2配線242、第3配線243、および第4配線244は、導体層252により形成される。また、計測用電極パターン22および検査用電極パターン23の各電極は、導体層252の一部を保護層253から露出させることにより、形成される。
【0047】
<2.計測基板の製造方法>
図7は、計測基板20の製造手順を示したフローチャートである。図7には、ステップS1~S4の各工程における計測基板20の一部分の断面が併記されている。
【0048】
計測基板20の製造時には、まず、ベース層251の上面に導体層252を形成する(ステップS1)。このステップS1では、液相成膜法または気相成膜法により、ベース層251の上面の全面に、導体層252を形成する。次に、レジスト塗布、現像処理を含むフォトリソグラフィ法によるパターニングとエッチングにより、導体層252を部分的に除去する(ステップS2)。これにより、導体層252を、計測用電極パターン22、検査用電極パターン23、第1配線241、第2配線242、第3配線243、および第4配線244を含む形状に成形する。
【0049】
続いて、ベース層251および導体層252の上面に、保護層253を形成する(ステップS3)。このステップS3では、真空蒸着法またはスパッタリングにより、ベース層251および導体層252の露出した上面全体に、保護層253を形成する。その後、レジスト塗布、現像処理を含むフォトリソグラフィ法によるパターニングとエッチングにより、保護層253を部分的に除去する(ステップS4)。これにより、導体層252のうち、計測用電極パターン22および検査用電極パターン23の各電極の上面を、保護層253から露出させる。
【0050】
その後、計測基板20のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを検査する(ステップS5)。このステップS5では、検査用電極パターン23を利用して、計測基板20のインピーダンスを検査する。具体的には、まず、検査用電極パターン23上に、生理食塩水を滴下する。これにより、複数の検査用作用電極231と、1つの検査用参照電極232とが、生理食塩水に覆われるようにする。このとき、計測用電極パターン22には、生理食塩水が接触しないようにする。
【0051】
この状態で、複数の検査用作用電極231のいずれか1つと、検査用参照電極232との間に交流電圧を印加し、検査用作用電極231と検査用参照電極232との合成インピーダンスを計測する。そして、検査用作用電極231を順次に変更しながら、合成インピーダンスの計測を繰り返す。また、このような計測処理を、複数の検査用電極パターン23のそれぞれについて行う。そして、これらの計測処理により得られる複数のインピーダンスの値が、正常範囲内か否かを判定する。
【0052】
インピーダンスの値が正常範囲から外れている場合は(ステップS5:no)、電極の表面に有機物汚染または保護層材料の残渣が存在する可能性がある。このため、当該計測基板20をそのまま出荷せず、追加処理により回復が可能か否かを判断する(ステップS6)。そして、回復が不可能と判断される場合には(ステップS6:no)、当該計測基板20を廃棄する(ステップS7)。
【0053】
一方、追加処理により回復が可能と判断される場合には(ステップS6:yes)、当該計測基板20に対して、追加のエッチング、追加の現像処理、または洗浄処理等の追加処理を行う(ステップS8)。そして、追加処理を行った後に、再度ステップS5の検査を行う。そして、ステップS5で、インピーダンスの値が正常範囲内であれば(ステップS5:yes)、当該計測基板20を出荷して(ステップS8)、計測基板20の製造工程を終了する。
【0054】
以上のように、本実施形態では、細胞計測容器1の製造時に、計測基板20のインピーダンスが正常範囲内であるか否かを、検査用電極パターン23を用いて検査できる。このため、製造時に生じる表面汚染によって、計測基板20のインピーダンスが異常値となっている場合に、それを検出できる。したがって、インピーダンスが異常値となった状態のまま、細胞計測容器1が出荷されることを防止できる。その結果、出荷される細胞計測容器1の良品率を向上させることができる。
【0055】
特に、本実施形態では、計測基板20のインピーダンスの検査を、細胞外電位を計測するための計測用電極パターン22を使用することなく、行うことができる。したがって、インピーダンスの検査によって、計測用作用電極221および計測用参照電極222に新たな表面汚染が発生することも防止できる。
【0056】
また、本実施形態の構造では、計測用電極パターン22と検査用電極パターン23とが、互いに電気的に独立している。このため、仮に、インピーダンスの検査によって、検査用電極パターン23に表面汚染が発生したとしても、計測用電極パターン22を使用して細胞外電位を計測するときに、検査用電極パターン23が影響を及ぼすことはない。
【0057】
また,本実施形態の構造では、容器本体10の下面に計測基板20が固定された状態において、検査用電極パターン23は、容器本体10のフレーム部12の下方に位置する。このため、細胞計測容器1のユーザが、検査用電極パターン23に触れることを防止できる。
【0058】
また、本実施形態の構造では、複数の検査用電極パターン23が、計測基板20の上面の互いに異なる位置に設けられている。具体的には、5つの検査用電極パターン23が、計測基板20の上面の中央と四隅に、設けられている。このため、5つの検査用電極パターン23のそれぞれにおいて、インピーダンスの検査を行うことができる。このようにすれば、各検査用電極パターン23を用いて計測されたインピーダンスの値を比較することにより、製造プロセスのばらつきを知ることができる。
【0059】
なお、計測用参照電極222の面積と、検査用参照電極232の面積とは、同一であることが望ましい。そうすれば、計測用参照電極222により近い条件で、検査用参照電極232のインピーダンスを計測できる。したがって、計測されたインピーダンスに基づいて、計測用参照電極222の状態を、より精度よく推定できる。
【0060】
また、検査用電極パターン23は、計測用作用電極221の面積と同じ面積の検査用作用電極231を含むことが望ましい。そうすれば、計測用作用電極221により近い条件で、検査用作用電極231のインピーダンスを計測できる。したがって、計測されたインピーダンスに基づいて、計測用作用電極221の状態を、より精度よく推定できる。
【0061】
なお、インピーダンスが異常値(過大)となった場合、その原因として、電極の上面に有機物汚染が存在する場合と、電極の上面にSiOx等の保護層材料の残渣が存在する場合とが考えられる。ただし、有機物汚染が原因の場合と、保護層材料の残渣が原因の場合とでは、電極の面積に対するインピーダンスの変化の傾向が異なる。そこで、本実施形態では、検査用電極パターン23に、面積の異なる複数の検査用作用電極231を設けている。このようにすれば、インピーダンスが異常値となった場合に、異なる面積の検査用作用電極231を使用して計測されたインピーダンスを比較することにより、インピーダンスの異常値の原因が、有機物汚染であるか、それとも保護膜材料の残渣であるかを判断できる。
【0062】
また、本実施形態では、同じ面積の検査用作用電極231が、4つずつ設けられている。このように、同じ面積の検査用作用電極231を複数設ければ、その面積の検査用作用電極231について、インピーダンスの計測を複数回行うことができる。そして、得られた複数の計測値の平均値を採用するなどして、検査の精度を向上させることができる。
【0063】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0064】
<3-1.抵抗計測用配線について>
図8は、検査用電極パターン23の変形例を示した図である。図8の検査用電極パターン23は、上述した複数の検査用作用電極231および検査用参照電極232とは別に、複数の抵抗計測用配線233を有する。複数の抵抗計測用配線233は、互いに電気的に独立した配線であり、かつ、互いに線幅が異なる配線である。複数の抵抗計測用配線233のうちの少なくとも1本は、上述した第1配線241、第2配線242、第3配線243、および第4配線244と同じ線幅とすることが望ましい。
【0065】
図8の検査用電極パターン23を用いて検査を行う場合、上述したインピーダンスの計測に加えて、複数の抵抗計測用配線233の抵抗値を計測する。そして、計測された抵抗値に、抵抗計測用配線233の断面積をかけて長さで割ることにより、単位体積あたりの抵抗値である「体積抵抗率」を算出する。配線に異常が無い場合、算出された体積抵抗率は、抵抗計測用配線233の線幅に関わらず、略一定の値となる。しかしながら、算出された体積抵抗率が、抵抗計測用配線233の線幅により異なる場合、製造上のパターン欠陥が発生している可能性がある。例えば、パターンのエッジのガタつきが大きい場合、線幅が小さいほど、エッジのガタつきの影響が反映されやすいので、高抵抗になりやすい。したがって、複数の抵抗計測用配線233の抵抗値を計測することで、計測基板20の配線の製造状態が正常であるか否かを判断できる。また、上述したパターンのエッジのガタつきの程度は、エッチングやレジストのパターニングによる面内分布をもつ場合がある。計測基板20の上面の複数の位置で、抵抗計測用配線233の抵抗値を計測すれば、このような面内分布の傾向を知ることができる。
【0066】
なお、図8の例では、第3配線243および第4配線244とは別に、複数の抵抗計測用配線233が設けられている。しかしながら、第3配線243または第4配線244の線幅を変更することにより、第3配線243または第4配線244を、抵抗計測用配線として使用してもよい。
【0067】
<3-2.他の変形例>
上記の実施形態では、検査用電極パターン23が、容器本体10のフレーム部12の下方に配置されていた。しかしながら、検査用電極パターン23は、計測基板20の周縁部の、容器本体10からはみ出した部分に設けられていてもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、容器本体10に、複数の穴部11を有するマルチウェルプレートを用いていた。しかしながら、容器本体10は、単一の穴部を有するシングルウェルタイプの容器であってもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、インピーダンスを計測するときに、検査用電極パターン23上に、生理食塩水を滴下していた。生理食塩水を使用すれば、計測用電極パターン22において細胞外電位を計測するときと近い環境で、インピーダンスの計測を行うことができる。しかしながら、インピーダンスの計測に使用される液体は、必ずしも生理食塩水には限られない。生理食塩水とは異なる導電率の液体を使用してもよい。
【0070】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 細胞計測容器
10 容器本体
11 穴部
12 フレーム部
20 計測基板
21 計測領域
22 計測用電極パターン
23 検査用電極パターン
110 開口
221 計測用作用電極
222 計測用参照電極
231 検査用作用電極
232 検査用参照電極
233 抵抗計測用配線
241 第1配線
242 第2配線
243 第3配線
244 第4配線
251 ベース層
252 導体層
253 保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8