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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】把持物挿入装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/00 20060101AFI20241105BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
B25J13/08 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020161904
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054725
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】保富 裕二 アンドレ
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-155994(JP,A)
【文献】特開2009-61550(JP,A)
【文献】特開2008-221387(JP,A)
【文献】特開2010-99784(JP,A)
【文献】特開昭61-208514(JP,A)
【文献】特開2013-107175(JP,A)
【文献】特開2016-2642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持物駆動部に把持された把持物を挿入対象物に押し当てながら走査させ、前記挿入対象物に形成された断面が円形の穴を探索し、前記把持物が前記穴に前記把持物駆動部により挿入される把持物挿入装置であって、
前記把持物駆動部を制御する制御部と、前記把持物が前記挿入対象物から受ける反力を検出する反力検出部と、前記反力検出部が検出した信号に基づいて前記把持物が前記穴の中心に向かう方向を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた際に、前記反力検出部で検出された前記反力の向きが前記穴の中心に向かう方向を演算し、前記制御部は、前記演算部で演算した結果に基づき、前記把持物を前記穴に挿入するように前記把持物駆動部を制御することを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項2】
請求項1に記載の把持物挿入装置であって、
前記制御部は、前記把持物を前記挿入対象物の表面に対してθ角度傾けた状態で、前記挿入対象物の表面を走査するように前記把持物駆動部を制御することを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項3】
請求項2に記載の把持物挿入装置であって、
前記把持物を前記挿入対象物の表面に対してθ角度傾けた状態で走査し、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた後に、前記把持物の底部が前記穴の形成方向となるように、前記把持物と前記穴の接触点を中心に前記把持物を回転させることを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項4】
請求項3に記載の把持物挿入装置であって、
前記把持物の底部を前記穴の形成方向に向くように前記把持物を回転させた後に、前記穴の形成方向にさらに前記把持物を押し付け、前記把持物を前記穴の縁の3点に接触させることを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項5】
請求項4に記載の把持物挿入装置であって、
前記穴の縁と前記把持物の3点の接触点と、前記穴と前記把持物の寸法との座標系により、前記穴の中心位置を求めることを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項6】
請求項1に記載の把持物挿入装置であって、
前記穴の入り口がテーパ状に形成されており、前記入り口がテーパ状に形成された前記穴の軸方向に平行な状態で前記把持物を前記挿入対象物に押し付け、
前記制御部は、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値以内の場合は、前記挿入対象物を押し付ける位置を変更するように前記把持物駆動部を制御することを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項7】
請求項6に記載の把持物挿入装置であって、
前記穴の探索方向に前記把持物を移動する前に前記穴の軸方向の前記穴から離れた初期位置に前記把持物を引き込み、前記穴の探索方向の次のステップに前記把持物を移動してから前記把持物を前記挿入対象物の方向に押し付けることを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項8】
請求項7に記載の把持物挿入装置であって、
前記初期位置から前記把持物を前記挿入対象物に接触した位置までの移動距離を演算する移動距離演算手段と、
前記移動距離演算手段で演算した移動距離により、前記穴への接近有無の判断及び/又は前記穴に近づいていることの認識、前記穴から離れていることの判定を行う穴近接度判定手段と、
前記穴近接度判定手段の判定により、前記穴の探索のための進行移動量を調整する進行移動量調整手段と、を更に備えていることを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の把持物挿入装置であって、
前記挿入対象物はワーク、前記把持物駆動部はロボット及びロボットハンド、前記反力検出部は力覚センサであり、
前記演算部は、前記力覚センサで検出された反力が予め定められた閾値を超えた際に、前記力覚センサで検出された前記反力の向きが前記ワークに形成された前記把持物が前記穴の中心に向かう方向を演算し、前記制御部は、前記演算部で演算した結果に基づき、前記把持物を前記穴に挿入するように前記ロボット及びロボットハンドを制御することを特徴とする把持物挿入装置。
【請求項10】
把持物駆動部に把持された把持物を挿入対象物に押し当てながら走査させ、前記挿入対象物に形成された断面が円形の穴を探索し、前記把持物が前記穴に前記把持物駆動部により挿入される把持物挿入方法であって、
前記把持物が前記挿入対象物から受ける反力を反力検出部で検出し、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた際に、前記反力検出部で検出された前記反力の向きが、前記把持物が前記穴の中心に向かう方向を演算部で演算し、前記演算部で演算した結果に基づき、前記把持物を前記穴に挿入するように制御部で前記把持物駆動部を制御することを特徴とする把持物挿入方法。
【請求項11】
請求項10に記載の把持物挿入方法であって、
前記把持物を前記挿入対象物の表面に対してθ角度傾けた状態で、前記挿入対象物の表面を走査するように前記制御部で前記把持物駆動部を制御することを特徴とする把持物挿入方法。
【請求項12】
請求項11に記載の把持物挿入方法であって、
前記把持物を前記挿入対象物の表面に対してθ角度傾けた状態で走査し、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた後に、前記把持物の底部が前記穴の形成方向となるように、前記把持物と前記穴の接触点を中心に前記把持物を回転させることを特徴とする把持物挿入方法。
【請求項13】
請求項12に記載の把持物挿入方法であって、
前記把持物の底部を前記穴の形成方向に向くように前記把持物を回転させた後に、前記穴の形成方向にさらに前記把持物を押し付け、前記把持物を前記穴の縁の3点に接触させ、前記穴の縁と前記把持物の3点の接触点と、前記穴と前記把持物の寸法との座標系により、前記穴の中心位置を求めることを特徴とする把持物挿入方法。
【請求項14】
請求項10に記載の把持物挿入方法であって、
前記穴の入り口がテーパ状に形成されており、前記入り口がテーパ状に形成された前記穴の軸方向に平行な状態で前記把持物を前記挿入対象物に押し付け、
前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値以内の場合は、前記挿入対象物を押し付ける位置を変更するように制御部で前記把持物駆動部を制御することを特徴とする把持物挿入方法。
【請求項15】
請求項14に記載の把持物挿入方法であって、
前記穴の探索方向に前記把持物を移動する前に前記穴の軸方向の前記穴から離れた初期位置に前記把持物を引き込み、前記穴の探索方向の次のステップに前記把持物を移動してから前記把持物を前記挿入対象物の方向に押し付けることを特徴とする把持物挿入方法。
【請求項16】
請求項10至15のいずれか1項に記載の把持物挿入方法であって、
前記挿入対象物はワーク、前記把持物駆動部はロボット及びロボットハンド、前記反力検出部は力覚センサであり、
前記把持物が前記ワークから受ける反力を検出する前記力覚センサで検出した信号に基づいて前記演算部により、前記力覚センサで検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた際に、前記力覚センサで検出された前記反力の向きが、前記把持物が前記穴の中心に向かう方向を演算し、前記演算部で演算した結果に基づき、前記把持物を前記穴に挿入するように制御部で前記ロボット及びロボットハンドを制御することを特徴とする把持物挿入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は把持物挿入装置及び方法に係り、特に、挿入対象物に形成された穴を探索し、その穴に把持物を挿入するものに好適な把持物挿入装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業界での組み立て作業において、ある部品を別の部品に挿入することは一般的なタスクである。それを達成するため、組み立て部品を移動させる多自由度ロボットなどの3D位置決め装置、組み立て部品を把持する把持部、把持される部品(以下、把持物という)、把持物が挿入される穴が形成されているワーク、把持物をワークの穴に挿入する時に生じる反力を検出する反力検出部で構成されるシステムが知られている。
【0003】
このシステムを制御して部品挿入作業を実行するには、挿入対象の穴の近くのワーク表面に把持物を押し付け、把持物をワーク表面にスライドさせ、反力検出部で測定した反力とトルクにより、挿入対象の穴の中心位置を推定する方法が一般的である。
【0004】
しかし、上記した方法は、穴の周りのワーク表面の摩擦係数が高い場合、把持物の挿入部分が摩擦力によって引っかかれ、ロボットに必要な労力が高くなり、穴を検出するためのトルクと力の信号がノイズに覆われるため、挿入対象の穴の中心位置を推定することが難しくなっていた。
【0005】
この問題を解決するために、ロボットを用いた穴探索方法が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、把持物を特定のθ角度に傾け、挿入対象の穴があると予想される決められたワークの領域の中で傾けた把持物を数回スライドさせ、反力検出部で検出された把持物のせん断力により穴の中心位置を推定する穴探索方法開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-155994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている穴探索方法は、穴の中心位置を推定するために、把持した対象物を広い範囲で何度もスライドさせる必要があり、穴の探索に時間が掛かり把持物の挿入操作が長時間に及ぶという課題がある。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、高い摩擦係数を有する挿入対象物の表面に形成された穴を迅速に発見し、その穴に短時間で把持物が挿入できる把持物挿入装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の把持物挿入装置は、上記目的を達成するために、把持物駆動部に把持された把持物を挿入対象物に押し当てながら走査させ、前記挿入対象物に形成された断面が円形の穴を探索し、前記把持物が前記穴に前記把持物駆動部により挿入される把持物挿入装置であって、
前記把持物駆動部を制御する制御部と、前記把持物が前記挿入対象物から受ける反力を検出する反力検出部と、前記反力検出部が検出した信号に基づいて前記把持物が前記穴の中心に向かう方向を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた際に、前記反力検出部で検出された前記反力の向きが前記穴の中心に向かう方向を演算し、前記制御部は、前記演算部で演算した結果に基づき、前記把持物を前記穴に挿入するように前記把持物駆動部を制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の把持物挿入方法は、上記目的を達成するために、把持物駆動部に把持された把持物を挿入対象物に押し当てながら走査させ、前記挿入対象物に形成された断面が円形の穴を探索し、前記把持物が前記穴に前記把持物駆動部により挿入される把持物挿入方法であって、
前記把持物が前記挿入対象物から受ける反力を反力検出部で検出し、前記反力検出部で検出された前記反力が予め定められた閾値を超えた際に、前記反力検出部で検出された前記反力の向きが前記穴の中心に向かう方向を演算部で演算し、前記演算部で演算した結果に基づき、前記把持物を前記穴に挿入するように制御部で前記把持物駆動部を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い摩擦係数を有する挿入対象物表面に形成された穴を迅速に発見し、その穴に短時間で把持物が挿入できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1(a)】本発明の把持物挿入装置の実施例1の概略構成を示し、把持物をワークの表面に沿ってスライドさせる状態を示す図である。
図1(b)】図1(a)の状態から把持物の一部が穴に入り、把持物が穴の縁に接触し、把持物の座標系のy方向の力が予め定められた閾値を超える際に把持物の移動を停止させる状態を示す図である。
図1(c)】図1(b)の状態から把持物の底面を穴の縁に接触するまで、さらに座標系の+z方向に把持物を移動させる状態を示す図である。
図1(d)】図1(c)の状態から穴の中心位置が求められた後、座標系の-z方向に後退して完全に穴から離れた状態を示す図である。
図1(e)】図1(d)の状態から座標系のx軸で穴の中心位置を中心にx軸回りに把持物が回転する状態を示す図である。
図1(f)】図1(e)の状態から把持物が座標系の+z軸方向に移動され、穴に挿入される状態を示す図である。
図2(a)】本発明の把持物挿入装置の実施例1における傾けられた把持物と穴の接触状態の詳細を示す図である。
図2(b)】図2(a)の状態における穴部分を示す上面図である。
図3】本発明の把持物挿入装置の実施例1における三角関数の計算に使用される把持物と穴の詳細寸法及び穴中心位置を計算するための位置を示す図である。
図4】本発明の把持物挿入装置の実施例1におけるワーク座標系のy軸における探索パスが穴の中心位置を通過しない場合の処理アルゴリズムを示す上面図である。
図5】本発明の把持物挿入装置の実施例1における把持物の挿入を行うための制御アルゴリズムのフローチャートを示す図である。
図6(a)】本発明の把持物挿入装置の実施例2の概略構成を示し、把持物を反力検出部で検出された反力Fzが既定の閾値をこえるまで、ワークの座標系の+Z方向に移動させる状態を示す図である。
図6(b)】図6(a)の状態からワークと把持物が接触する状態を示す図である。
図6(c)】図6(b)の状態から把持物がz軸における既定の初期位置Pzに引き戻され、y方向に既定の移動量Dxyで移動される状態を示す図である。
図6(d)】図6(c)の状態から把持物がテーパ内に入っている状態を示す図である。
図6(e)】図6(d)の状態から移動距離Dzが既定の移動距離Dzの閾値よりも長い場合、穴内への挿入が可能であるため制御が終了する状態を示す図である。
図6(f)】把持物がテーパが形成されている穴に挿入される状態を示す図である。
図7】本発明の把持物挿入装置の実施例2における把持物の挿入を行うための制御アルゴリズムのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の把持物挿入装置及び方法を説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0014】
図1(a)から図1(f)に、本発明の把持物挿入装置1の実施例1の概略構成と、その把持物挿入装置1による把持物2を挿入対象物であるワーク3に形成された穴4へ、把持物駆動部であるロボット6及び把持部5を用いて挿入する挿入手順を示す。
【0015】
図1(a)に示すように、本実施例の把持物挿入装置1は、把持物(例えば、エレベーター用アンカーボルト等)2と、穴4が開けられたワーク(例えば、エレベーター昇降路内のコンクリート壁等)3と、把持部(例えば、ロボットハンド等)5と、ロボット6と、ロボット6及び把持部5を制御する制御部10と、把持物2がワーク3から受ける反力を検出する反力検出部(例えば、力覚センサ等)7と、反力検出部7が検出した信号に基づいて穴4の中心方向を演算する演算部11とから概略構成され、制御部10と演算部11で制御装置9を構成している。
【0016】
そして、本実施例の把持物挿入装置1では、演算部11は、反力検出部7で検出された反力が予め定められた閾値を超えた際に、反力検出部7で検出された反力の向きから穴4の中心方向を演算し、制御部10は、演算部11が演算した結果に基づき、把持物2を穴4に挿入するようにロボット6及び把持部(ロボットハンド)5を制御するものである。
【0017】
実施例1におけるワーク3の表面は平らであり、この場合には、制御部10は、把持物2をワーク3の表面に対してθ角度傾けた状態で、ワーク3の表面を走査するようにロボット6及び把持部(ロボットハンド)5を制御する。
【0018】
この際には、把持物2をワーク3の表面に対してθ角度傾けた状態で走査し、反力検出部7で検出された反力が予め定められた閾値を超えた後に、把持物2の底部が穴4の形成方向(図1(a)の下方向)となるように、把持物2と穴4の接触点を中心に穴4の軸方向回りに把持物2を回転させる。
【0019】
また、後述するが把持物2の底部を穴4の形成方向に向くように把持物2を回転させた後に、穴4の形成方向にさらに把持物2を押し付け、把持物2を穴4の縁の3点に接触させ、穴4の縁と把持物2の3点の接触点と穴4と把持物2の寸法との座標系により、穴4の中心位置を求めるようにしている。
【0020】
なお、本実施例における把持物2と穴4は円筒形で、その把持物2と穴4の直径は同じにする。ただし、本実施例の把持物挿入装置1では、穴4の直径は、把持物2の直径よりも大きくてもよい。また、ロボット6は、三次元空間で把持物2の位置と姿勢を変更できるものであればよい。
【0021】
次に、本実施例における把持物2の挿入手順を図1(a)から図1(f)を用いて説明する。
【0022】
先ず、把持物2をワーク3の座標系OwのX軸回りに0度以上90度未満のθ角度に傾斜させ、反力検出部7で検出したz方向の把持物2がワーク3を押し付ける力が予め定められた閾値を超えるまで、把持物2を把持物2の座標系Opのz方向にワーク3に向けて移動させる(把持物2をz方向(斜め下方)に押し付ける)。その後、把持物2をz方向に押し付けながら、把持物2をワーク3の表面に沿って太線矢印Sのようにスライドさせる(図1(a)参照)。
【0023】
ワーク3を押し付ける領域は、カメラと穴検出アルゴリズムなどで事前に検出した穴4の中心位置8の近くの表面であるが、カメラと穴検出アルゴリズムだけで穴4の中心位置8を正確に検出することが困難なため、穴4の探索が必要である。また、カメラと穴検出アルゴリズムで穴4の検出を正確にできても、ロボット6の位置決め精度、若しくは把持部5のがたにより、位置決めエラーを生じることもあるため、穴4の探索が必要になる。
【0024】
把持物2をワーク3の表面に沿ってスライドを開始した後に、把持物2の一部が穴4に入り、把持物2が穴4の縁に接触し、把持物2の座標系Opのy方向の力が予め定められた閾値を超えると、把持物2の移動を停止させる(図1(b)参照)。
【0025】
把持物2は、ワーク3の表面に沿ってスライドしながらOp座標系のz方向に押し付けられるため、把持物2がワーク3の表面に接触する部分が穴4に入ると、把持物3はさらにz方向に移動し、把持物2の側面の一部が必ず穴4の縁に接触する。次に、把持物2の底面を穴4の縁に接触するまで、さらにOp座標系の+z方向に把持物2を移動させる(図1(c)参照)。
【0026】
図2(a)及び図2(b)は、図1(c)の把持物2とワーク3の接触状態の詳細を示す図である。
【0027】
図2(a)及び図2(b)に示すように、図1(c)の状態では、把持2が穴4の縁の3点(接触点21、22、23)に接触する。ワーク3に接触可能に傾けられた把持物2の面積は、図2(a)に示すような把持物2の断面だと考えられる。その断面は、図2(b)に示す短軸rと長軸r/sinθの楕円である。この楕円を半径rの穴4の表面に設置すると、把持物2と穴4との3つの接触点21、22、23が得られる。
【0028】
接触点21は、把持物2の側面と穴4の縁の接触点であり、接触点22及び23は、把持物2の底面と穴4の縁との接触点である。
【0029】
図2(b)では、穴4の原点が(x、y)、楕円面積の原点は(x、y)、接触点21、22及び23の位置を(x21、y21)、(x22、y22)及び(x23、y23)でそれぞれ表される。
【0030】
作業座標フレームOw上の接触点21、22、23の位置は、次のように与えられる。即ち、(x、y)は(0、0)であることにすると、各接触点の位置を下記の(1)から(6)式で求められる。
【0031】
【数1】
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
【数4】
【0035】
【数5】
【0036】
【数6】
【0037】
また、把持物2と穴4の縁との接触点を用いて、三角法による下記の(7)から(10)式で穴4の中心位置8を求めることができる。
【0038】
【数7】
【0039】
【数8】
【0040】
【数9】
【0041】
【数10】
【0042】
上記の式でP1は把持物2の底面の中心位置、P2は把持物2の側面と穴4の縁との接触点21、P3は把持物2の中心軸がワーク3の平面と交差する点であり、上記の式で上付きのOp及びOwは、それぞれ把持物2の座標系またはワーク3の座標系内の位置を表し、
【0043】
【数11】
【0044】
は、Op座標系からOw座標系への変換行列である。
【0045】
図3は、三角関数の計算に使用される把持物2と穴4の詳細寸法と穴4の中心位置8を計算するための位置を示す図である。
【0046】
穴4の中心位置8が求められた後、把持物2はOp座標系の-z方向にdr(図3参照)だけ後退して完全に穴4から離れる(図1(d)参照)。その後、Ow座標系のx軸で穴4の中心位置8を中心にx軸回りに把持物2が回転する(図1(e)参照)。最後に、把持物2がOw座標系の+z軸方向に移動され、穴4に挿入される(図1(f)参照)。
【0047】
図4は、ワーク3の座標系のy軸における探索移動パス41が穴4の中心位置8を通過しない場合の処理アルゴリズムを示す上面図である。
【0048】
ワーク3の座標系のy軸における探索移動パス41が穴4の中心位置8を通過しない場合、把持物2が接触点42で穴4の縁に接触すると、生成された反力Fはx軸とy軸に分布し、力の方向は穴4の中心位置8に向くようになる(図3参照)。その後、図1(c)に示すステップに進むには、把持物2を接触点42を中心にOw座標系のz軸回りに回転させるだけでよい。
【0049】
ロバスト性を高めるため、穴4の中心位置8の方向を確認することが可能となる。その場合、図4の(a)に示す探索移動パス41で得られた新たな方向に把持物2の側面が穴4の逆側(接触点42の逆側)の縁に接触(接触点44)するまで移動する(図4の(b)に示す探索移動パス43)。その時に発生した反力Fが探索移動パス43と逆方向に向いていることが分かれば、穴4の中心位置8が探索移動パス43にあることがわかる。その後、図1(c)に示すステップに進めれば、把持物2の挿入が可能になる。
【0050】
なお、探索移動パス43に進めるには、把持物2の傾きを変更する必要がある。それを実現するには、把持物2を接触点42を中心にOw座標系のz軸回りに回転させればよい。
【0051】
図5に、本実施例で把持物2の挿入を行うための制御アルゴリズムのフローチャートを示す。このフローチャートは、図4の(b)に示す探索移動パス43で穴4の中心位置8を確認しない場合のアルゴリズムである。
【0052】
図5に示すように、先ずは周知の画像認識による穴検出方法により、穴4の中心位置8を大まかに検出する(ステップ501)。把持物2をワーク3の表面に対してθ角度傾け(ステップ502、図1(a))、Opのz軸方向に把持物2をワーク3に押し付ける(ステップ503、図1(b))。
【0053】
次に、Opのy軸の反力Fyが既定の閾値を超えるまで(ステップ505、図1(b))、把持物2をワーク3の座標系のy方向にスライドさせる(ステップ504)。次に、Opのx軸の反力Fxも既定の閾値(通常値はゼロ)を超えると(ステップ506)、穴4の中心位置8の方向が演算部11で計算され、把持物2の底面を穴4の中心位置8の方向に向けるように必要な回転量が演算部11で計算される(ステップ507)。そして、把持物2を接触点21を中心にOwのz軸回りに回転させ、把持物2の底部を穴4に向ける(ステップ508)。
【0054】
次に、把持物2をz方向の力Fzの既定の閾値を超えるまで(ステップ510)+z軸方向に移動させる(ステップ509、図1(c))。そして、穴4の中心位置8を算出し(ステップ511)、把持物2をOpの-z軸方向にdrだけ移動させる(ステップ512、図1(d))。
【0055】
次に、把持物2を穴4の中心位置8を中心にθ度回転させる(ステップ513、図1(e))。最後に、把持物2をOwの+z方向に移動させ、把持物2を穴4に挿入する(ステップ514、図1(f))。
【0056】
このような本実施例によれば、高い摩擦係数を有するワーク3の表面に形成された穴4を迅速に発見し、その穴4に短時間で把持物2を挿入できる効果がある。
【実施例2】
【0057】
図6(a)から図6(f)に、本発明の把持物挿入装置1Aの実施例2の概略構成と、その把持物挿入装置1Aによる把持物2を挿入対象物であるワーク61に形成された穴62へ、把持物駆動部であるロボット6及び把持部5を用いて挿入する挿入手順を示すが、本実施例では、ワーク61の穴62にはテーパ63が形成されている。このテーパ63は、穴62の開口部を広くするためである。
【0058】
図6(a)に示すように、本実施例の把持物挿入装置1Aは、把持物(例えば、エレベーター用アンカーボルト等)2と、穴62が開けられたワーク(例えば、エレベーター昇降路内のコンクリート壁等)61と、把持部(例えば、ロボットハンド等)5と、ロボット6と、ロボット6及び把持部5を制御する制御部10と、把持物2がワーク61から受ける反力を検出する反力検出部(例えば、力覚センサ等)7と、反力検出部7が検出した信号に基づいて穴62の中心方向を演算する演算部11とから概略構成されている。
【0059】
また、演算部11は、穴62の軸方向の穴62から離れた初期位置から把持物2をワーク61に接触した位置までの移動距離を演算する移動距離演算手段65と、移動距離演算手段65で演算した移動距離により、穴62への接近有無の判断及び/又は穴62に近づいていることの認識、穴62から離れていることの判定を行う穴近接度判定手段66と、穴近接度判定手段66の判定により、穴62の探索のための進行移動量を調整する進行移動量調整手段67とを備え、この演算部11と制御部10で制御装置9を構成している。
【0060】
そして、本実施例の把持物挿入装置1Aでは、演算部11は、反力検出部7で検出された反力が予め定められた閾値を超えた際に、反力検出部7で検出された反力の向きから穴62の中心方向を演算し、制御部10は、演算部11が演算した結果に基づき、把持物2を穴62に挿入するようにロボット6及び把持部5を制御するものであるが、本実施例では、穴62の入り口にテーパ63が形成されており、この場合には、入り口にテーパ63が形成された穴62の軸方向に平行な状態で把持物2をワーク61に押付け、制御部10は、反力検出部7で検出された反力が予め定められた閾値以内の場合は、ワーク61を押し付ける位置を変更するようにロボット6及び把持部(ロボットハンド)5を制御するものである。
【0061】
この際には、穴62の探索方向に把持物2を移動する前に穴62の軸方向の穴62から離れた初期位置に把持物2を引き込み、穴62の探索方向の次のステップに把持物2を移動してから把持物2をワーク61の方向に押し付ける。
【0062】
次に、本実施例における把持物2の挿入手順を図6(a)から図6(f)及び図7を用いて説明する。
【0063】
図6の(a)から図6の(f)は、把持物2を穴62に挿入するための挿入手順を示し、図7は、その挿入手順のフローチャートである。
【0064】
該図に示すように、本実施例では、まず周知の画像認識による穴検出方法により、穴62の中心位置大まかに検出される(ステップ701)。次に、把持物2を、反力検出部7によって検出された反力Fzが既定の閾値をえるまで(ステップ703)、ワーク61の座標系Owの+Z方向に移動させる(ステップ702、図6(a))。これは、ワーク61(図6(b))における把持物2との接触を示している。反力検出部7によって検出された反力Fzが既定の閾値に達していない場合、移動距離Dzがチェックされる(ステップ704)。
【0065】
移動距離Dzが既定の移動距離Dzの閾値よりも長い場合、穴62内への挿入が可能なため、制御は終了する(図6(e))。それ以外の場合は、反力Fzが閾値を超えるまでチェックを続ける。反力Fzが閾値を超えると、Fyが閾値を超えたかがチェックされる(ステップ705)。Fyが閾値を超えない場合、それは、図6(b)に示されるように、把持物2がテーパ63内に入っていないことを示し、Fyが閾値を超えたのであれば、図6(d)に示すように、把持物2がテーパ63内に入っていることを示す。
【0066】
図6(b)の状況では、把持物2は、Owのz軸における既定の初期位置Pzに引き戻され、次いで、Owのy方向に既定の移動量Dxyで移動される(図6(c))。その後、ステップ702に戻る。図6(d)の状況では、把持物2もPzで後退するが、Fy及びFxを検出して計算される穴62の中心位置の方向に移動量Dxyで移動する(ステップ710)。
【0067】
ただし、ステップ709の前に、移動距離Dzを前回の移動距離Dzと比較して、把持物2が穴62に近づいているかどうかを確認する(ステップ707)。
【0068】
移動距離Dzが前の移動距離Dzよりも大きい場合、把持物2が穴62に近づいていることを示し、ステップ710を続けることができる。それ以外の場合は、把持物2が穴62を通過したことを示す。そのため、進行方向が反転し(ステップ708)、移動量Dxy減少し、ステップ710に進む。これにより、移動量Dxyをより細かくでき、穴62を発見することができる。
【0069】
上述した把持物挿入方法では、移動距離演算手段65により穴62の軸方向の穴62から離れた初期位置Pzから把持物2をワーク61に接触した位置までの移動距離Dzを演算し、移動距離演算手段65で演算した移動距離Dzにより、穴62への接近有無の判断及び/又は穴62に近づいていることの認識、穴62から離れていることの判定を穴近接度判定手段66で行い、穴近接度判定手段66の判定により、穴62の探索のための進行移動量を進行移動量調整手段67で調整している。
【0070】
このような本実施例によれば、ワーク61の穴62にテーパ63が形成されていても、高い摩擦係数を有するワーク61の表面に形成された穴62を迅速に発見し、その穴62に短時間で把持物2を挿入できる効果がある。
【0071】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれている。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、1A…把持物挿入装置、2…把持物、3、61…ワーク、4、62…穴、5…把持部、6…ロボット、7…反力検出部、8…穴の中心位置、9…制御装置、10…制御部、11…演算部、21、42、44…把持物の側面と穴の縁との接触点、22、23…把持物の底面と穴の縁との接触点、41、43…探索移動パス、63…テーパ、64…ワーク座標系のz軸移動の初期位置、65…移動距離演算手段、66…穴近接度判定手段、67…進行移動量調整手段、501~514…実施例1の作業フローのステップ、701~710…実施例2の作業フローのステップ。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図1(e)】
図1(f)】
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図6(d)】
図6(e)】
図6(f)】
図7