(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】インプリント装置、インプリント方法、物品の製造方法、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241105BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2020205610
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢治
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-175631(JP,A)
【文献】特開2017-157635(JP,A)
【文献】特開2018-029101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のインプリント材
と型のパターン領域とを接触させて、前記インプリント材にパターンを形成するインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記基板を移動させるため
に駆動する基板駆動部と、
前記パターン領域の周辺に設けられ、前記パターン領域と前記基板との間の空間に気体を供給するための気体供給口と、
前記基板駆動部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記インプリント処理を行う対象ショット領域を第1方向に沿って前記パターン領域の下に移動させるための前記基板の移動方向である第1移動方向が、直前に前記インプリント処理を行ったショット領域を前記第1方向に沿って前記パターン領域の下に移動させたときの前記基板の移動方向である第2移動方向と異なる場合に、前記対象ショット領域を前記パターン領域の下に移動させるための前記第1移動方向への前記基板の移動において、前記対象ショット領域が前記気体供給口の下を通過してから前記パターン領域の下に位置するように前記基板駆動部を制御することを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記気体供給口からの前記気体の供給は、前記対象ショット領域を前記パターン領域の下に移動させるための前記第1移動方向への前記基板の移動の際に行われる、ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記気体供給口は、前記パターン領域の周辺に複数設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の気体供給口のうちの少なくとも前記対象ショット領域と前記パターン領域の間に配置された前記気体供給口から前記気体を供給するように制御することを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記インプリント処理中も前記気体供給口から前記気体を供給するように制御することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記基板駆動部によって前記
第1方向に前記基板を移動させることによって、前記対象ショット領域が前記気体供給口を通過する際、または通過する前から前記気体供給口によって前記気体を供給することを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記基板駆動部によって前記
第1方向に前記基板を移動させることによって、前記対象ショット領域が前記気体供給口を通過する際、または通過する前から前記気体供給口によって前記気体を供給することによって、前記気体供給口から供給された前記気体にクエット流れを生じさせ、前記パターン領域の下に前記気体を引き込むことを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記気体は、ヘリウム、水素、ペンタフルオロプロパン、ハイドロフルオロカーボン及びハイドロフルオロエーテルの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記対象ショット領域は、直前に前記インプリント処理を行った前記ショット領域の基板上の前記第1方向に沿った行とは、異なる行のショット領域であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
基板上のインプリント材
と型のパターン領域とを接触させて、前記インプリント材にパターンを形成するインプリント処理を行
うインプリント方法であって、
前記基板を第1方向に沿った第1移動方向に移動させて、第1ショット領域を前記パターン領域の下に移動させ、前記第1ショット領域に前記インプリント処理を行う第1工程と、
前記第1ショット領域の次にインプリント処理を行う第2ショット領域を前記パターン領域の下に移動させるための前記基板の移動方向である第2移動方向が、前記第1移動方向と異なる場合に、前記第2ショット領域を前記パターン領域の下に移動させるための前記第2移動方向への前記基板の移動において、前記第2ショット領域が気体を供給する気体供給口の下を通過してから前記パターン領域の下に位置するように前記基板を移動させる第2工程と、
前記基板を前記第2移動方向に移動させつつ、前記気体供給口から前記気体を供給する第3工程と、
前記パターン領域と前記第2ショット領域とを互いに対向させ、前記第2ショット領域に対する前記インプリント処理を行う第4工程と、
を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項11】
請求項
10記載の前記インプリント方法の前記
第1工程~第4工程をコンピュータにより実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて前記基板にパターンを形成するパターン形成工程と、
前記パターン形成工程によりパターンが形成された前記基板を現像する工程と、を含む
ことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型を用いたインプリント装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。
【0003】
例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板上のインプリント領域(ショット領域)に紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0004】
このようなインプリント装置では、型と基板上の樹脂との押し付け時にて型に形成されている微細な凹凸パターンに樹脂が充填される際に、気泡が残留して未充填部分が発生することに起因し、樹脂パターンが正常に形成されない場合がある。そこで、従来、押し付け時に型と基板とに挟まれた隙間空間を溶解性が高いか、拡散性が高いか、あるいは、その両方である気体(以下、「置換気体」という)で満たすことで、気泡の残留を抑止するインプリント装置が提案されている。
【0005】
特許文献1には、型から気体供給部までの距離と、インプリント領域から基板保持部端面までの距離から効率的に置換気体を供給する方法が開示されている。
また、特許文献2には、置換気体供給時の型と基板との距離よりショット領域間を移動する時の型と基板との距離を狭くすることで置換気体の消費量を低減する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5868215号公報
【文献】特開2019-186477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の露光装置では、複数ショット領域に亘って連続してインプリントを行う際に、ショット領域で置換気体の濃度を維持する事が困難であり、ショット領域によって未充填欠陥の発生が生じないように、充填時間を長くする必要があった。
また、基板の移動が大幅に変化する、基板搬入後の最初のインプリント時などにおいても、置換気体の濃度維持において同様の問題があった。
そこで、本発明は、基板の移動方向が変更された後でも、インプリント処理のために供給される気体の濃度を安定的に維持する事ができるインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1側面としてのインプリント装置は、
基板上のインプリント材と型のパターン領域とを接触させて、前記インプリント材にパターンを形成するインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記基板を移動させるために駆動する基板駆動部と、
前記パターン領域の周辺に設けられ、前記パターン領域と前記基板との間の空間に気体を供給するための気体供給口と、
前記基板駆動部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記インプリント処理を行う対象ショット領域を第1方向に沿って前記パターン領域の下に移動させるための前記基板の移動方向である第1移動方向が、直前に前記インプリント処理を行ったショット領域を前記第1方向に沿って前記パターン領域の下に移動させたときの前記基板の移動方向である第2移動方向と異なる場合に、前記対象ショット領域を前記パターン領域の下に移動させるための前記第1移動方向への前記基板の移動において、前記対象ショット領域が前記気体供給口の下を通過してから前記パターン領域の下に位置するように前記基板駆動部を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板の移動方向が変更された後でも、インプリント処理のために供給される気体の濃度を安定的に維持する事ができるインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施例に係るインプリント装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施例の気体供給部4を下から見た図である。
【
図3】実施例の第1のショット領域に対する置換気体16の供給動作と基板保持部5の駆動動作の例を説明する図である。
【
図5】基板駆動方向を切り替える場合の動作例を説明する図である。
【
図6】基板駆動方向を切り替える場合の本実施例の動作例を説明する図である。
【
図7】実施例の気体供給工程の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について実施例を用いて説明する。なお、各図において、同一の部材ないし要素については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略ないし簡略化する。
まず、本発明の実施例1に係るインプリント装置について説明する。
図1は、本実施例に係るインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、物品としての半導体デバイスなどのデバイスの製造に使用され、被処理基板である基板上の未硬化のインプリント材に対して型のパターン領域を接触させることでパターンを形成するインプリント処理を行う装置である。
【0012】
なお、実施例では光硬化法を採用したインプリント装置について説明する。また、以下の図においては、基板上のインプリント材に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。
インプリント装置1は、光照射部2と、型保持部3と、気体供給部4と、基板保持部5と、制御部6と、アライメント計測部7とを備える。
【0013】
光照射部2は、インプリント処理の際に、ダイクロイックミラー8及び透明な型9に対して紫外線10を照射する。この光照射部2は、不図示の光源と、この光源から発せられた紫外線10をインプリント材の硬化に適した光量に調整し、型9に照射する照明光学系とを含む。光源は、水銀ランプなどのランプ類を採用可能であるが、型9を透過し、かつ後述のインプリント材11が硬化する波長の光を発する光源であれば、特に限定されない。
【0014】
照明光学系は、レンズ、ミラー、アパーチャ、または照射と遮光を切り替えるためのシャッターなどを含み得る。なお、本実施例では、光硬化法を採用するために光照射部2を設置しているが、例えば熱硬化法を採用する場合には、この光照射部2に換えて、インプリント材を硬化させるための熱源部を設置する。
【0015】
型(モールド)9は、外周形状が多角形(好適には、矩形または正方形)であり、基板12に対向する面には、例えば回路パターンなどの転写すべき凹凸パターンが3次元状に形成されたパターン領域9aを含む。なお、パターンサイズは、製造対象となる物品により様々であるが、微細なものでは十数ナノメートルのパターンも含まれる。なお、型の表面のパターンは平坦面も含む。
【0016】
また、型9の材質は、紫外線10を透過させることが可能で、かつ熱膨張率の低いことが望ましく、例えば石英とし得る。さらに、型9は、紫外線10が照射される面に、平面形状が円形で、かつ、ある程度の深さのキャビティを有する場合もある。
型保持部3は、型9を保持する型吸着部13と、この型吸着部13を移動自在に保持する型駆動部14と、型9(パターン領域9a)の形状を補正するための不図示の倍率補正機構とを有する。型吸着部13は、型9における紫外線10の照射面の外周領域を真空吸着力や静電力により引き付けることで型9を保持し得る。
【0017】
型吸着部13は、例えば真空吸着力により型9を保持する場合、外部に設置された不図示の真空ポンプに接続され、この真空ポンプの排気により吸着圧を適宜調整することで、型9に対する吸着力(保持力)を調整し得る。型駆動部14は、型9と基板12上のインプリント材11との押し付けまたは引き離しを選択的に行うように型9を各軸方向に移動させる。この型駆動部14に採用可能な動力源としては、例えばリニアモータまたはエアシリンダーがある。
【0018】
また、型駆動部14は、型9の高精度な位置決めに対応するために、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成され得る。さらに、型駆動部14は、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向またはθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や、型9の傾きを補正するためのチルト機能などを有していても良い。
【0019】
なお、インプリント装置1における押し付けおよび引き離しの各動作は、型9をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、基板保持部5をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。また、型駆動部14の駆動時における型9の位置は、型9と基板12との間の距離を計測する不図示の光学式変位計などの位置計測部により計測可能である。
【0020】
倍率補正機構は、型吸着部13における型9の保持側に設置され、型9の側面に対して外力または変位を機械的に与えることにより型9(パターン領域9a)の形状を補正する。さらに、型吸着部13および型駆動部14は、平面方向の中心部(内側)に開口領域15を有し、光照射部2から照射された紫外線10は開口領域15を介して型9を通過して基板12上のインプリント材11を照射可能になっている。
【0021】
気体供給部4は、押し付け動作時に型9と基板12との間の空間に所定の気体としての置換気体16を供給する。これは、パターン領域9aの凹凸パターンにインプリント材11が充填される時間を短縮させたり、充填された部分に気泡が残留することを抑止したりして充填性を向上するためである。また、気体供給部4は、引き離し力を可能な限り低減させて離型性の向上を図るために、引き離し動作時にも同様に気体16を供給し得る。
【0022】
図2に気体供給部4を下から見た図を示す。同図に示すように、実施例の気体供給部4は、型9の四方側面の近傍に設置され、基板保持部5側に向かって置換気体16を供給するための複数の気体供給口17a~17dを有する。また、各気体供給口17a~17dにそれぞれ接続され、置換気体16の供給量や濃度などを調節する複数の気体制御部18a~18dを備える。
【0023】
特に、本実施例の気体供給部4は、型9のX軸方向の両側面近傍にそれぞれ設置される第1供給口17aと第2供給口17bと、型9のY軸方向の両側面近傍に第3供給口17cと第4供給口17dの4つの供給口を備える。なお、17a~17dはそれぞれ複数の供給孔を有している。ここで、気体供給口17a~17dは、パターン領域の周辺に複数設けられ、パターン領域と基板との間の空間に所定の気体(置換気体)を供給するための気体供給口として機能している。
【0024】
このうち、第1供給口17aは、第1気体制御部18aに、第2供給口17bは、第2気体制御部18bに、第3供給口17cは、第3気体制御部18cに、第4供給口17dは、第4気体制御部18dにそれぞれ接続される。各気体制御部18a、18b、18c、18dは、制御部6にそれぞれ接続されている。ここで、採用し得る置換気体16としては、上記のような充填性と離型性との観点から、樹脂11での溶解性や拡散性に優れる気体、透過性の気体や凝縮性の気体、或いは両者を混合させた気体などを用いる。
【0025】
即ち、置換気体16として、例えば、ヘリウム、二酸化炭素、窒素、水素、キセノン、ペンタフルオロプロパン、ハイドロフルオロカーボン及びハイドロフルオロエーテルの少なくとも1つを含む気体を用いる。
基板12は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板、またはガラス基板である。この基板12上のパターン形成領域である複数のショット領域には、それぞれパターン領域9aによりインプリント材11のパターン(パターンを含む層)が成形される。
【0026】
基板保持部5は、基板12を保持して可動であり、例えば、型9と基板12上のインプリント材11との押し付けの際のパターン領域9aとショット領域との位置合わせなどを実施する。この基板保持部5は、基板12を吸着力により保持する基板吸着部19と、基板吸着部19を機械的に保持し、各軸方向に移動可能とする基板駆動部20とを有する。基板吸着部19は、例えば、高さの揃った複数のピンで基板12の裏面を支持し、ピン以+外の部分を真空排気により減圧することで基板12を保持する。
【0027】
基板駆動部20は、駆動中および静止中の振動が少ない動力源であり、採用可能な動力源としては、例えばリニアモータまたは平面モータなどがある。この基板駆動部20も、X軸およびY軸の各方向に対して、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成し得る。さらに、Z軸方向の位置調整のための駆動系や、基板12のθ方向の位置調整機能、または基板12の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。
【0028】
また、基板保持部5の位置を計測するために、X軸、Y軸及びZ軸の各方向に対応したエンコーダシステム21が配置されている。エンコーダシステム21は、エンコーダヘッド22からエンコーダスケール23にビームを照射することで、基板保持部5の位置を計測することができる。エンコーダシステム21は、基板保持部5の位置を実時間で計測する。
【0029】
制御部6は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部6は、例えばCPU等のコンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続されている。また、不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラムなどにしたがって例えば
図7のフローチャートに示すように、各構成要素の制御を実行し得る。本実施例の制御部6は、少なくとも気体供給部4と基板保持部5との動作を制御する。なお、制御部6は、インプリント装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0030】
アライメント計測部7は、インプリント処理を行う際に、アライメント光24を型9および基板12に照射し、型9および基板12に形成されたアライメントマークからの光を検出することで、型9および基板12の位置ずれを計測するためのものである。
【0031】
また、インプリント装置1は、基板保持部5を載置し、基準平面を形成する定盤25と、型保持部3を固定するブリッジ定盤26と、定盤25から延設され、床面からの振動を除去する除振器27を介してブリッジ定盤26を支持する支柱28とを備える。さらに、インプリント装置1は、型9を装置外部と型保持部3との間で搬入出させる不図示の型搬送機構や、基板12を装置外部と基板保持部5との間で搬入出させる不図示の基板搬送機構などを含み得る。
【0032】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理(インプリント方法)について説明する。まず、制御部6は、基板搬送機構により基板12を基板吸着部19上に載置させ、固定させる。この基板12には、予めインプリント材11が塗布されているものとする。次に、制御部6は、基板駆動部20を駆動させて基板12の位置を適宜変更させつつ、アライメント計測部7により基板12上のアライメントマークを順次計測させ、基板12の位置を高精度に検出する。
【0033】
そして、制御部6は、その検出結果から各転写座標を演算し、この演算結果に基づいて所定のショット領域ごとに逐次パターンを形成させる。
ある1つのショット領域に対するパターン形成の流れとして、制御部6は、まず、基板駆動部20により、基板駆動部20によりパターン領域9a直下の押し付け位置にショット領域が位置するように基板12を移動させ、位置決めさせる。
【0034】
次に、制御部6は、パターン領域9aとショット領域との位置合わせなどを実施した後、型駆動部14を駆動させ、ショット領域上のインプリント材11にパターン領域9aを押し付ける(押型工程)。この押し付けにより、インプリント材11は、パターン領域9aの凹凸パターンに充填される。
【0035】
なお、制御部6は、押し付け完了の判断を、型保持部3の内部に設置された不図示の荷重センサにより行う。この状態で、光照射部2は、型9の背面(上面)から紫外線10を所定時間照射し、型9を透過した紫外線10によりインプリント材11を硬化させる(硬化工程)。
【0036】
そして、インプリント材11が硬化した後、制御部6は、型駆動部14を再駆動させ、パターン領域9aを基板12から引き離す(離型工程)。これにより、基板12上のショット領域の表面には、パターン領域9aの凹凸パターンに倣った3次元形状の樹脂パターン(層)が形成される。
【0037】
このような一連のインプリント処理の動作を基板保持部5の駆動によりショット領域を変更しつつ複数回実施することで、インプリント装置1は、1枚の基板12上に複数のインプリント材のパターンを形成することができる。
本実施例では、基板12にはすでにインプリント材11が塗布されているものとするが、インプリント装置1内でのインプリント処理の1工程として、基板12上の所定の領域にインプリント材11を塗布する塗布工程を設けても良い。
【0038】
上記の押型工程では、型9と基板12上のインプリント材11とを押し付ける際、インプリント材11は、パターン領域9aの凹凸パターンに均一に充填される必要がある。しかし、インプリント材11に気泡が残留する場合があり、その状態でインプリント材11の硬化を実施すると、ショット領域上に形成されるインプリント材のパターンが所望の形状にならない場合がある。その結果、製造される半導体デバイスなどの物品に欠陥が生じる場合がある。
【0039】
そこで、押し付け時(少なくとも押し付け開始時)には、上記のとおり、気体供給部4が型9と基板12との間の空間に置換気体16を供給する。これにより、一定の時間を経ることで、置換気体16自身の持つ拡散効果からパターン領域9a近傍の置換気体濃度が例えば70%以上と十分高くなるため、気泡の残留を効率的に抑えることができる。
【0040】
しかしながら、このような気体充填方式にて気泡の残留を抑える方法では、従来、型9と基板12との間の空間において、気体濃度が十分高くなるまでに一定の待ち時間が必要となる。例えば、この待ち時間は、型9の周囲構成や必要となる気体濃度によっても異なるが、一般的なインプリント装置を想定すれば、1秒から数十秒以上となる。
【0041】
すなわち、この待ち時間は、インプリント装置としての生産効率に影響を及ぼし得るため、極力短くすることが望ましい。そこで、本実施例のインプリント装置1は、型9と基板12との間の空間における置換気体濃度をより迅速に高めるために、置換気体16の供給時には以下のような動作を実施する。
【0042】
まず、今回のインプリント処理の対象となる対象ショット領域29が基板12上に存在すると想定し、インプリント装置1の動作を、
図3から
図6を用いて各時系列で説明する。
図3から
図6は、それぞれ、対象ショット領域29が、パターン領域9a直下の押し付け位置まで移動する間における、気体供給部4による置換気体16の供給動作と基板保持部5の駆動動作を説明するためのものである。また、
図3から
図6はすべて
図1におけるZ軸方向+側から-側を見た図である。
【0043】
図3は実施例の第1のショット領域(最初のショット領域)に対する置換気体16の供給動作と基板保持部5の駆動動作の例を説明する図であり、第1ショット領域が対象ショット領域29aである場合の動作を示している。制御部6は、基板12を搬入し、基板12上の位置検出を行った後、基板保持部5を
図3(a)の位置に駆動する。
このとき、基板をインプリント装置に搬入することによって、基板の移動方向が変更された状態となる。
【0044】
その後で、最初に前記インプリント処理を行う対象ショット領域29aに向けた所定の方向(駆動方向30)に基板駆動部によって基板を移動させることになる。
即ち、次に、基板保持部5は、駆動方向30に沿って右から左に基板12を移動させる。このとき、基板12の対象ショット領域29aが、気体供給口17aの下を通過し、さらに型9のパターン領域9aの直下に移動するように基板保持部5を駆動する。
【0045】
また
図3の例では、制御部6は、気体供給口として、パターン領域9aより駆動方向30の上流に位置する気体供給口17aを選択する。即ち、複数の気体供給口のうちの少なくとも対象ショット領域とパターン領域の間に配置された気体供給口から所定の気体を供給する。また、対象ショット領域が気体供給口を通過する際、または通過する前から気体供給口によって所定の気体を供給し、インプリント処理中も供給する。
【0046】
この後、
図3(b)に示すように、制御部6は、気体供給口17aから置換気体16を供給しながら基板保持部5を駆動方向30に沿って駆動する。
この時、置換気体16は基板保持部5の駆動に従って、型9と対象ショット領域29aの隙間に引き込まれる。即ち、気体供給口から供給された気体にクエット流れを生じさせ、前記型の下に前記気体を引き込まれるようにしている。
【0047】
対象ショット領域29aがパターン領域9aの真下まで移動した後のインプリント処理中も、対象ショット領域29aとパターン領域9aの間の空間に置換気体16は供給される(
図3(c))。
このように制御することによって、パターン領域9aと対象ショット領域29aの間の空間は、型9押し付け時の気泡残留を抑えるのに十分な置換気体濃度が得られる。そしてこの状態で型9がショット領域29aのインプリント材に押し付けられてパターンを形成するためのインプリント処理が実行される。
【0048】
このように、本実施例では、複数の供給口のうち前記移動方向に対して上流側に位置する気体供給口が、基板供給後に最初にインプリント処理を行う第1ショット領域と対向する位置を通過した後にインプリント処理が行われるように制御している。即ち、移動方向の上流から順番に、対象ショット領域、気体供給口、パターン領域の順番となるような位置に基板を移動し、その後で、気体供給口から所定の気体を供給しつつ、所定の方向に基板を移動させている。それから対象ショット領域とパターン領域を対向させてインプリント処理を行うことによってパターン形成における欠陥を生じにくくしている。
【0049】
次に
図4は
図3に続く動作の例を説明する図であり、
図3(c)の後に、次の対象ショット領域29bが
図3の紙面に向かって右隣に配置されている時の動作に関して
図4を用いて説明する。
図4(a)は、対象ショット領域29aに対してインプリント処理が終了し離型した直後の状態を示す図である。この時、制御部6は、対象ショット領域29bをパターン領域9aの真下に移動させるために基板保持部5を駆動方向31の方向に駆動する。
【0050】
この駆動方向31は、対象ショット領域29bをパターン領域9aの真下に移動させる際の基板保持部5の駆動方向30と同じである。このため、制御部6は、パターン領域9aより基板保持部5の駆動方向31の上流に位置する気体供給口17aから置換気体16を供給しつつ基板保持部5を駆動する。
【0051】
この時、基板保持部5の駆動は、すでに型9と基板12および、基板保持部5の間の空間に充填されている置換気体16、および気体供給口17aから供給された気体16を駆動方向31の下流に引き込む。
図4(b)に対象ショット領域29bがパターン領域9aの真下に到達した際の図を示す。
図4(b)に示すように、置換気体16は、パターン領域9aと対象ショット領域29bの間の空間に十分な濃度を保って供給されている。
【0052】
対象ショット領域29bのインプリント処理後、対象ショット領域29bと同様にして、順次対象ショット領域にインプリント処理が行われて、
図5(a)に示す対象ショット領域29cまでインプリント処理が実施される。
図5は基板駆動方向を切り替える場合の動作例を説明する図である。
【0053】
図5を用いて、対象ショット領域29cのインプリント処理後に、次の対象ショット領域29dをインプリントする際の動作に関して説明する。
図5(a)は、対象ショット領域29cをインプリント処理した直後の状態を示す。ここで、制御部6は、次の対象ショット領域29dをパターン領域9aの真下に移動させるために、対象ショット領域29aから29cまでの基板保持部5の駆動方向31(
図4(a)記載)とは異なる例えば駆動方向32の方向に基板保持部5を駆動させる。
【0054】
しかし上記の方法では、置換気体16は、駆動方向32の方向に引き込まれてしまい、対象ショット領域29dとパターン領域9aの間の空間に十分な置換気体濃度を保つことは難しい。また、気体供給口17aだけでなく、仮に同時に気体供給口17cから置換気体16を供給しても、
図5(b)に示すように対象ショット領域29dまで置換気体16は十分に届きにくい。
このため、
図5の例においては、気体供給口から置換気体16を供給したまま、パターン領域9aと対象ショット領域29dの間の空間に置換気体16が十分な濃度に充填されるまで待たなければならない。
【0055】
そこで、本実施例では、対象ショット領域29cのインプリント後、
図6(a)に示すように、制御部6は、基板保持部5を駆動方向33の方向に駆動する。
図6は基板駆動方向を切り替える場合の本実施例の動作例を説明する図であり、駆動後の位置関係を
図6(b)に示す。
図6(b)に示すように、本実施例では、気体供給口17bを挟んで対象ショット領域29dとパターン領域9aが並んだ状態になるように移動する点に特徴がある。
【0056】
この後、制御部6は、パターン領域9aの真下に対象ショット領域29dを移動させるために、基板保持部5を駆動方向34の方向に駆動する。本実施例では
図6(b)に示すように、駆動方向34の上流から対象ショット領域29d、気体供給口17b、パターン領域9aの順番に一旦配置している。このため、気体供給口17bから置換気体16を供給しながら基板保持部5をパターン領域9aの真下に駆動することで、置換気体16は、基板保持部5の駆動方向に引き込まれる。
【0057】
この時の状態を
図6(c)に示す。
図6(c)に示すように、パターン領域9aと対象ショット領域29dの間の空間は、十分な濃度の置換気体16で充填されており、欠陥を生じにくい状態で、速やかにインプリント処理を実行することができる。
この後、駆動方向34に沿って基板を移動させつつ、ショット領域29dの左側の残りの未処理ショット領域に対して順次同様にインプリント処理を行う。そして基板上のすべての対象ショット領域にインプリント処理を行った後、基板12を搬出する。
【0058】
このように、ショット領域29cにインプリント処理を行った後に、基板の移動方向が変更された後で、最初にインプリント処理を行う対象ショット領域29dに向けて駆動方向34に基板を移動させる場合に、
図6(b)の位置に基板を移動させている。
そして駆動方向34の上流から順番に、対象ショット領域、気体供給口、パターン領域の順番となる位置に基板を移動してから、気体供給口から置換気体を供給しつつ、駆動方向34に基板を移動させ、インプリント処理を行っている。
【0059】
次に、
図7は、気体供給工程の流れを示すフローチャートであり、
図7を用いて本実施例における前ショット領域のパターン形成工程から対象ショット領域29のパターン形成工程を含む気体供給工程の流れを説明する。なお
図7のフローは制御部6が不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラムに基づき実行される制御ステップを表している。
【0060】
まずステップS101で、制御部6は、前ショット領域のパターン形成後、次の対象ショット領域29をパターン領域9aの真下に移動させるための駆動方向と、前ショット領域をパターン領域9aの真下に移動させた時の駆動方向とが同じか否か判断する。上記駆動方向が同じ場合、ステップS103へ進む(
図4参照)。異なる場合は、ステップS102へ進む(
図6参照)。対象ショット領域29が基板12の第1ショット領域である場合もステップS102へ進む(
図3参照)。
【0061】
ステップS102では、基板保持部5を例えば
図3(a)の位置、または
図6(b)の位置になるように基板保持部を駆動する。即ち、対象ショット領域29がパターン領域9aの下に位置するように駆動する前に、基板保持部5の駆動方向の上流から順番に、対象ショット領域29、気体供給口17、パターン領域9aの順番となるような位置に、一旦、基板12を移動する。
【0062】
ステップS103では、気体供給口からの置換気体16の供給を開始する。この時、制御部6は、気体供給口17a、17b、17c、17dのうち、少なくとも基板保持部5の駆動方向の上流に位置する気体供給口を選択する。
その後ステップS104で、制御部6は、パターン領域9a真下に対象ショット領域29が位置するように、置換気体16を型9と基板12及び基板保持部5の間の空間に引き込みながら基板保持部5を駆動する。
【0063】
ステップS105では、対象ショット領域29に対して、パターン形成ステップ(インプリント処理)を実施する。
ステップS105まで終了すると、制御部6は、未処理ショット領域が基板12上に存在するかを判断するステップなどを経て、未処理ショット領域がなければ基板搬送等の次ステップへと移行する。
【0064】
なお、本実施例では、
図3から
図6において、左右方向に順番にインプリント処理を行う例に関して説明したが、上下方向及び上下左右に交互にインプリント処理を行っても良い。上下方向にインプリント処理を行う際は、制御部6は、気体供給口17c、17dのうち、パターン領域9aよりも基板保持部5の駆動方向の上流側に位置する気体供給口を選択する。なお、気体供給口を選択する際、上流側に位置する1つの気体供給口だけでなく、その近傍の気体供給口からも気体を供給しても良い。それによって十分な置換気体濃度をより速やかに得ることができる。
【0065】
このように、インプリント装置1では、基板12上に形成されるインプリント材11のパターンでの未充填部分の発生を抑えるために、気体供給部4により型9と基板12との間の空間に置換気体16を供給する。このとき、対象ショット領域29が基板12上のどの位置に存在していても、上記のように気体供給口の真下を通過させつつ置換気体16を供給するように制御するので、置換気体16の濃度を十分な濃度に維持する事ができる。よって、第1ショット領域にインプリントをする際や、複数ショット領域に亘って駆動方向を変更しつつ連続してインプリントを行う際にも置換気体16の十分な濃度を維持しつつ短時間でインプリント処理を実行する事ができる。
【0066】
本実施例にかかるインプリント装置を用いることによって、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造する際の生産性が向上する。
物品としてのデバイス(半導体デバイス、磁気記憶媒体、液晶表示素子等)の製造方法について説明する。
【0067】
かかる製造方法は、インプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板等)の表面に型のパターンを形成する工程を含んでも良い。ここで型のパターンを転写する工程は平坦化工程を含んでも良い。また、基板は母材単体であるものに限らず多層構造のものを含んでも良い。
かかる製造方法は、上記パターン形成工程の前または後に、基板を処理する工程を更に含む。例えば処理工程は、パターンの残膜を除去する工程や現像工程を含みうる。
【0068】
また、当該パターンをマスクとして基板をエッチングする工程と、基板からチップを切り出す工程(ダイシング)と、フレームにチップを配置して電気的に接続する工程(ボンディング)、樹脂で封止をする工程(モールド)といった周知の工程を含みうる。
本実施形態におけるインプリント装置を用いた物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0069】
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に基づき種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0070】
なお、本実施例における制御の一部または全部を上述した実施例の機能を実現するコンピュータプログラムをネットワーク又は各種記憶媒体を介してインプリント装置に供給するようにしてもよい。そしてそのインプリント装置におけるコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。その場合、そのプログラム、及び該プログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することとなる。
【符号の説明】
【0071】
1 インプリント装置
3 型保持部
4 気体供給部
5 基板保持部
6 制御部
9 型
9a パターン領域
11 インプリント材
12 基板
14 型駆動部
16 置換気体
17a~17d 気体供給口
20 基板駆動部