(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
G03G15/16
(21)【出願番号】P 2020207098
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美大
(72)【発明者】
【氏名】浅香 明志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸二
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲明
(72)【発明者】
【氏名】内野 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】岡野 憲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 季行
(72)【発明者】
【氏名】笠井 奈▲緒▼子
(72)【発明者】
【氏名】堀 篤史
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-045218(JP,A)
【文献】特開2010-082906(JP,A)
【文献】特開2012-177811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像を担持する像担持体と、前記像担持体に形成されたトナー像が一次転写される中間転写ベルトと、前記像担持体から前記中間転写ベルトにトナー像を一次転写する金属ローラーと、前記中間転写ベルトから記録材にトナー像を二次転写する二次転写部材と、を備えた画像形成装置であって、
前記中間転写ベルト
は、カーボンブラックが分散された熱可塑性樹脂からなる中間転写ベルトであって、前記熱可塑性樹脂の結晶化度が8%以上25%以下であり、前記カーボンブラックの平均一次粒径が10nm以上30nm以下であり、前記カーボンブラックの含有量が、前記中間転写ベルト100質量部に対して15.0質量部以上30.0質量部以下であり、
トナー像が担持される外周面から厚さ方向に10μmまでの範囲を外周面領域とし、前記外周面の裏側である内周面から厚さ方向に10μmまでの範囲を内周面領域とし、厚さ方向の中央部から厚さ方向にそれぞれ5μmの範囲を中央領域とし、前記内周面領域、前記外周面領域、及び、前記中央領域における、前記熱可塑性樹脂に対する前記カーボンブラックの分散性を示すL関数の値をそれぞれLi、Lo、Lcとしたとき、
(Li+Lo+Lc)/3≦100nmを満たすとともに、Li≦150nmであることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を担持する中間転写体、及び中間転写体を有する画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電子写真方式を用いた画像形成装置においては、一次転写部で中間転写体上にトナー像を一次転写した後に、このトナー像を二次転写部で紙などの記録材上に二次転写することで画像を出力する、中間転写方式が広く用いられている。中間転写体は、中間転写ベルトとも呼称する。
【0003】
中間転写体としては、樹脂材料に導電性フィラーを添加して所望の電気抵抗値に調整したものが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中間転写方式で用いられる中間転写体は、通常2本以上のローラーに懸架され、長期間にわたり張力が加えられた状態で回転駆動される。そのため、中間転写体には高度の耐久性が求められ、機械的特性として特に引張弾性率と屈曲耐久性が優れていることが望ましい。例えば、中間転写体の引張弾性率が低すぎると、使用状況に応じて中間転写ベルトに歪みが生じ、それ自体の耐久性が損なわれるだけではなく、中間転写体の表面上に転写されたトナー像の歪みやずれに起因する画像不良の原因となる。屈曲耐久性が悪いと、ベルトの破断や割れに繋がる。
【0006】
熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる中間転写体においては、加熱によりその樹脂組成物の結晶化度を大きくすることで、所望の引張強度、屈曲耐久性及び表面硬度を有する中間転写体を得ることが可能である。ところが、導電性カーボンブラックに代表される導電性フィラーで半導電性領域に抵抗制御したシートや樹脂フィルムを、融点以上まで加熱して表面を改質する場合、僅かな温度ムラや圧力ムラで抵抗値の変動が生じ、抵抗値のムラとなる。これは、加熱により樹脂組成物に含まれるカーボンブラックの凝集が促進され、カーボンブラックの分散性が悪化することに起因しているものと推測される。
【0007】
特に、熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムでは、融点直下の温度で抵抗変動が大きくなる。これは、熱可塑性樹脂の結晶化に伴い、カーボンブラックが熱可塑性樹脂の結晶化部位で析出しやすくなり、その結果、カーボンブラックの凝集(分散性の悪化)が促進されているためと推定される。
【0008】
樹脂フィルムたる中間転写体の導電性フィラーの分散性が悪くなると、特に低湿度環境において、画像不良が発生する場合がある。1次転写部では、中間転写体の内周面と1次転写ローラーの間に空隙が生じた場合に、中間転写体の導電性フィラーの凝集部と1次転写ローラー間で放電が生じ、局所的に中間転写体の抵抗が低下してしまう。抵抗が低下した部分はトナーが転写されず、白く抜けたような画像(白抜け)が発生する。この挙動は特に一次転写ローラーとして金属ローラーを用いた場合に顕著である。また2次転写部では、中間転写体の外周面と紙の間に空隙が生じた場合に、中間転写体の導電性フィラーの凝集部と紙の間で放電が生じ、中間転写体上のトナーが放電によりトナーの帯電極性が反転し、紙に転写できずに白抜け画像が発生する。
【0009】
以上のような理由で、カーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂の中間転写ベルトにおいて、中間転写ベルトの機械的強度の確保と、カーボンブラックの分散性の向上を両立することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、カーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂の中間転写ベルトにおいて、中間転写ベルトの機械的強度の確保と、カーボンブラックの分散性の向上を両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題は、以下に述べる手段によって解決することができる。
【0012】
本発明における画像形成装置は、トナー像を担持する像担持体と、前記像担持体に形成されたトナー像が一次転写される中間転写ベルトと、前記像担持体から前記中間転写ベルトにトナー像を一次転写する金属ローラーと、前記中間転写ベルトから記録材にトナー像を二次転写する二次転写部材と、を備えた画像形成装置であって、前記中間転写ベルトは、カーボンブラックが分散された熱可塑性樹脂からなる中間転写ベルトであって、前記熱可塑性樹脂の結晶化度が8%以上25%以下であり、前記カーボンブラックの平均一次粒径が10nm以上30nm以下であり、前記カーボンブラックの含有量が、前記中間転写ベルト100質量部に対して15.0質量部以上30.0質量部以下であり、トナー像が担持される外周面から厚さ方向に10μmまでの範囲を外周面領域とし、前記外周面の裏側である内周面から厚さ方向に10μmまでの範囲を内周面領域とし、厚さ方向の中央部から厚さ方向にそれぞれ5μmの範囲を中央領域とし、前記内周面領域、前記外周面領域、及び、前記中央領域における、前記熱可塑性樹脂に対する前記カーボンブラックの分散性を示すL関数の値をそれぞれLi、Lo、Lcとしたとき、(Li+Lo+Lc)/3≦100nmを満たすとともに、Li≦150nmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カーボンブラックを含有する熱可塑性樹脂の中間転写ベルトにおいて、中間転写ベルトの機械的強度の確保と、カーボンブラックの分散性の向上を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本実施例の中間転写体を用いた画像形成装置の断面の模式図
【
図4】本実施例におけるPEEK樹脂の複素粘性率を測定した図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施例に係る中間転写体及び中間転写体の製造方法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0016】
1.画像形成装置
まず、本実施例に係る中間転写体(中間転写ベルト)を用いた画像形成装置の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の画像形成装置100の概略断面図である。本実施形態の画像形成装置100は、電子写真方式を用いてフルカラー画像を形成することが可能な、中間転写方式を採用したタンデム型のカラーレーザープリンタである。
【0017】
画像形成装置100は、複数の画像形成部として第1、第2、第3、第4の画像形成部PY、PM、PC、PKを有する。これら第1、第2、第3、第4の画像形成部PY、PM、PC、PKは、後述する中間転写ベルト7の平坦部分(画像転写面)の移動方向に沿ってこの順に配置されている。第1、第2、第3、第4の画像形成部PY、PM、PC、PKにおける同一又は対応する機能あるいは構成を有する要素については、いずれかの色用の要素であることを表す符号の末尾のY(又はy)、M(又はm)、C(又はc)、K(又はk)を省略して総括的に説明することがある。本実施形態では、画像形成部Pは、後述する感光ドラム1、帯電ローラー2、露光装置3、現像装置4、一次転写ローラー5を有して構成される。
【0018】
画像形成部Pは、像担持体としてのドラム型(円筒状)の感光体(電子写真感光体)である感光ドラム1を有する。感光ドラム1は、基体としてのアルミニウム製のシリンダーの上に、電荷発生層、電荷輸送層及び表面保護層を順に積層して形成したものである。感光ドラム1は、図中矢印R1方向(反時計回り)に回転駆動される。回転する感光ドラム1の表面は、帯電手段としてのローラー状の帯電部材である帯電ローラー2によって、所定の極性(本実施形態では負極性)の所定の電位に一様に帯電処理される。帯電工程時に、帯電ローラー2には、負極性の直流成分を含む所定の帯電バイアス(帯電電圧)が印加される。帯電処理された感光ドラム1の表面は、露光手段としての露光装置(レーザースキャナー)3によって画像情報に応じて走査露光され、感光ドラム1上に静電像(静電潜像)が形成される。
【0019】
感光ドラム1上に形成された静電像は、現像手段としての現像装置4によって現像剤としてのトナーが供給されて現像(可視化)され、感光ドラム1上にトナー像(現像剤像)が形成される。現像工程時に、現像装置4が備える現像剤担持体としての現像ローラー4aには、負極性の直流成分を含む所定の現像バイアス(現像電圧)が印加される。本実施形態では、一様に帯電処理された後に露光されることで電位の絶対値が低下した感光ドラム1上の露光部(イメージ部)に、感光ドラム1の帯電極性と同極性(本実施形態では負極性)に帯電したトナーが付着する。
【0020】
4個の感光ドラム1と対向するように、中間転写体としての無端状のベルトで構成された中間転写ベルト7が配置されている。中間転写ベルト7は、複数の張架ローラーとしての駆動ローラー71、テンションローラー72及び二次転写対向ローラー73に掛け渡されて所定の張力で張架されている。中間転写ベルト7は、駆動ローラー71が回転駆動されることで、感光ドラム1と接触して図中矢印R2方向(時計回り)に回転(周回移動)する。中間転写ベルト7の内周面側には、各感光ドラム1に対応して、一次転写手段としてのローラー状の一次転写部材である一次転写ローラー5が配置されている。一次転写ローラー5は、中間転写ベルト7を介して感光ドラム1に向けて押圧され、感光ドラム1と中間転写ベルト7とが接触する一次転写部(一次転写ニップ)T1を形成する。上述のように感光ドラム1上に形成されたトナー像は、一次転写部T1において、一次転写ローラー5の作用によって、回転している中間転写ベルト7上に一次転写される。一次転写工程時に、一次転写ローラー5には、トナーの正規の帯電極性(現像工程時の帯電極性)とは逆極性(本実施形態では正極性)の直流電圧である一次転写バイアス(一次転写電圧)が印加される。一次転写ローラー5は、金属製の回転軸と、回転軸の外周面に形成される弾性層によって構成される。一次転写ローラー5は、所望の抵抗値に調整されたものがしばしば用いられるが、材質がSUM(硫黄及び硫黄複合快削鋼)或いはSUS(ステンレス鋼)等で、スラスト方向にストレートの形状である金属ローラーで構成されていてもよい。
【0021】
中間転写体ベルト7の外周面側において、二次転写対向ローラー73と対向する位置には、二次転写手段としてのローラー状の二次転写部材である二次転写ローラー8が配置されている。二次転写ローラー8は、中間転写ベルト7を介して二次転写対向ローラー73に向けて押圧され、中間転写ベルト7と二次転写ローラー8とが接触する二次転写部(二次転写ニップ)T2を形成する。上述のように中間転写ベルト7上に形成されたトナー像は、二次転写部T2において、二次転写ローラー8の作用によって、中間転写ベルト7と二次転写ローラー8とに挟持されて搬送されている紙(用紙)などの記録材(シート、転写材)S上に二次転写される。二次転写工程時に、二次転写ローラー8には、トナーの正規の帯電極性とは逆極性の直流電圧である二次転写バイアス(二次転写電圧)が印加される。二次転写においては、通常、十分な転写効率を確保するために数kVの転写電圧が印加される。記録材Sは、記録材Sが収納されているカセット12から、ピックアップローラー13によって搬送路に供給される。搬送路に供給された記録材Sは、搬送ローラー対14及びレジストローラー対15によって、中間転写ベルト7上のトナー像とタイミングが合わされて二次転写部T2に搬送される。
【0022】
トナー像が転写された記録材Sは、定着手段としての定着装置9に搬送される。定着装置9は、未定着のトナー像を担持した記録材Sを加熱及び加圧することで、トナー像を記録材S上に定着(溶融、固着)させる。トナー像が定着された記録材Sは、搬送ローラー対16、排出ローラー対17などによって画像形成装置100の装置本体の外部に排出(出力)される。
【0023】
一次転写工程において中間転写ベルト7に転写されずに感光ドラム1の表面に残留したトナー(一次転写残トナー)は、感光体クリーニング手段を兼ねる現像装置4によって現像同時回収される。また、二次転写工程において記録材Sに転写されずに中間転写ベルト7の表面に残留したトナー(二次転写残トナー)は、中間転写体クリーニング手段としてのベルトクリーニング装置11によって中間転写ベルト7の表面から除去されて回収される。ベルトクリーニング装置11は、中間転写ベルト7の回転方向において二次転写部T2の下流かつ最上流の一次転写部T1yの上流(本実施形態では駆動ローラー71と対向する位置)に配置されている。ベルトクリーニング装置11は、中間転写ベルト7の表面に当接するように配置されたクリーニング部材としてのクリーニングブレードによって、回転している中間転写ベルト7の表面から二次転写残トナーをかき取って、回収容器11bに収容する。
【0024】
このように、画像形成動作では、感光ドラム1から中間転写ベルト7、中間転写ベルト7から記録材Sへのトナー像の電気的転写プロセスが繰り返し行われる。また、多数の記録材Sへの画像形成を繰り返すことで、電気的転写プロセスが更に繰り返し行われることになる。
【0025】
2.中間転写体
中間転写体としての中間転写ベルト7は、少なくとも基層(基材)を含むものであり、更に表面層(表層)などを有して複数の層から構成される積層体であってもよい。
図2は、中間転写ベルト7の層構成の例を説明するための模式的な断面図である。中間転写ベルト7は、
図2(a)に示すように、単一の層(ここでは、単層の場合も「基層」ということがある。)7aから構成されていてよい。また、中間転写ベルト7は、
図2(b)に示すように、基層7a、及び基層7aの上に設けられた表面層7bの少なくとも2層から構成されていてよい。なお、例えば上記基層7aと表面層7bとの間に中間層などの他の層が設けられるなどしていてもよい。以下に詳しく説明するように、基層7aは、樹脂に導電性フィラーを含有させた半導電性のフィルムである。
【0026】
2-1.中間転写体の構成と特性
<樹脂材料>
単一の層から構成される中間転写ベルトまたは少なくとも二層以上の構成からなる中間転写ベルトの基層の樹脂材料としては、以下が使用できる。即ち、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性樹脂が使用できる。特に、中間転写ベルトは長期にわたる張力負荷を受けても伸びず、かつ、クリーニングブレードによる摺擦に対し表面磨耗しない性能が要求されるため、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が好適である。また、これらの樹脂を必要に応じて2種類以上選択して混合して用いてもよい。
【0027】
<導電性フィラー>
基層に導電性を付与するなどの目的で、樹脂材料にはカーボンブラックや金属微粒子などの少なくとも1種類の導電性フィラーが配合される。このうち機械物性の観点からカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックには、その製法や原料により様々な呼称がある。具体的には、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ガスブラックなどである。
【0028】
カーボンブラックとしては、公知の種々のものを用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ガスブラックが挙げられる。これらの中でも、不純物が少なく、上述の熱可塑性樹脂とともにフィルム形状に成形した場合に異物不良の頻度が少なく、また、所望の導電性を得やすい、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。アセチレンブラックとしては、具体的には、「デンカブラック」シリーズ(電気化学工業株式会社製)、「三菱導電フィラー」シリーズ(三菱化学株式会社製)、「バルカン」シリーズ(キャボット社製)、「ブリンテックス」シリーズ(デグッサ社製)、「SRF」(旭カーボン社製)が挙げられる。ファーネスブラックとしては、具体的には、「トーカブラック」シリーズ(東海カーボン株式会社製)、「旭カーボンブラック」シリーズ(旭カーボン株式会社製)、「ニテロン」シリーズ(新日化カーボン株式会社製)が挙げられる。
【0029】
<カーボンブラックの一次粒径>
添加する導電性フィラーの平均一次粒径は、10nm以上30nm以下の導電性フィラーを用いるのが好ましい。平均一次粒径が10nm未満の導電性フィラーを用いると、フィラーの再凝集が起こりやすく、また耐熱性が低下してしまい、中間転写体に用いることが困難である。一方、30nmより大きい導電性フィラーを用いると、凝集塊が生じた場合に分散性が悪化しやすく、放電による中間転写体の抵抗低下が発生しやすい。そのため、上記範囲内の平均一次粒径を用いることにより、不良のない良好な抵抗維持性が得られる。
【0030】
<導電性フィラーの含有量>
添加する導電性フィラー含有量は、ベルト部材に必要な導電性を付与できること、ベルト部材の耐屈曲性や弾性率などの機械的強度、及び熱伝導率を考慮して選択される。導電性フィラーの含有量が多すぎると、が上がりすぎる場合や、機械的強度が低下するため、30.0wt%以下とすることが好ましい。
【0031】
一方で含有量が少なすぎると、ベルト部材の導電率が小さくなりすぎる場合や、中間転写ベルト内部での導電性フィラーの分散状態を良好に保つことが難しくなる場合があるため、導電性フィラーの含有量は15.0wt%以上、好ましくは20.0wt%以上とすることが好ましい。言い換えれば、中間転写ベルト100質量部に対して15.0質量部以上30.0質量部以下が好ましい。
【0032】
<結晶化度>
熱可塑性樹脂は紐状の高分子が絡み合ってできているが、さらに固まるときの性質により結晶性樹脂と非晶性樹脂の2つに大別される。溶解状態の温度から温度を下げていくと、溶解状態では分子運動しながら絡み合っているが、温度を下げていくことで分子運動がゆっくりと収まりながら結晶化温度(Tc)にて部分的に整列するものがある。これを結晶性樹脂と呼び、ランダムに絡み合ったまま固化するものは非晶性樹脂と呼ばれている。結晶化度とは、樹脂固体の結晶領域(C)と非晶領域(G)との全体の中で、結晶領域(C)が占める割合を算出したものである。結晶化度は樹脂材料の強度・剛性,透明性,成形収縮等の指標として用いられている。本実施例において結晶化度を、例えば、広角X線回折法(XRD)により結晶化度を測定したとき、その結晶化度が8%未満である場合を非晶状態であるとする。本実施例では、熱可塑性樹脂の結晶化度は、8%以上25%以下が好ましい。熱可塑性樹脂の結晶化度が8%未満の場合は、中間転写ベルトの機械的強度が低下する。また、結晶化度は25%よりも大きいと、カーボンブラックが凝集してしまう。
【0033】
<分散性>
分散性は後述するL関数で評価する。1次転写部においては、一次転写部材として金属ローラーを用いる場合は、中間転写体の内周面のL関数値が150nm以下であることが好ましい。L関数が150nmより大きいと、1次転写部で放電による中間転写体の抵抗低下が発生しやすい。即ち、後述するように、中間転写ベルトの内周面領域における、熱可塑性樹脂に対するカーボンブラックの分散性を示すL関数の値をそれぞれLiとすると、Li≦150nmが好ましい。
【0034】
一次転写部材として金属ローラーを用いる場合、1次転写部で放電による中間転写体の抵抗低下が発生しやすい理由は以下のとおりである。即ち、一次転写部材が金属ローラーの場合、感光ドラムとの間に中間転写体をニップするように対向させてしまうと、感光ドラムが傷つく恐れがある。このため、感光ドラムと金属ローラーの間で中間転写体をニップしないように中間転写体の移動方向にお互いオフセット配置している。このため、一次転写部材が金属ローラーの場合、中間転写体に波打ちが発生した場合、一次転写部で空隙が生じる場合があり、放電が発生しやすい。一方、一次転写部材がスポンジローラーの場合は、感光ドラムとスポンジローラーで中間転写体をニップして一次転写部を形成している。このため、中間転写体の波打ちが生じても一次転写部で空隙が生じず、放電が発生しにくい。
【0035】
2次転写部においては、中間転写体の中央領域、内周面及び外周面のL関数値の平均値が100nm以下であることが好ましい。L関数値が100nmより大きいと、2次転写部で放電による中間転写体の抵抗低下が発生しやすい。
【0036】
即ち、後述するように、中間転写ベルトの内周面領域、外周面領域、及び、中間転写ベルトの厚さ方向中央部である中央領域における、熱可塑性樹脂に対するカーボンブラックの分散性を示すL関数の値をそれぞれLi,Lo,Lcとする。このとき、(Li+Lo+Lc)/3≦100nmが好ましい。
【0037】
<導電点数>
一次転写部材として金属ローラーを用いる場合は、中間転写体の内周面における導電点の数を、230個/μm2以上にすることが好ましい。これにより、中間転写体と金属ローラーの間に空隙が生じても、放電による中間転写体の抵抗低下を抑えられる。導電点の数が230個/μm2未満の場合、1次転写ローラーと中間転写体との隙間で発生する放電が、局所的に発生し、中間転写体内周面に深い放電痕が生成するおそれがある。放電痕は、樹脂の劣化(炭化)により引き起こされ、周辺よりも導電性が高くなる、すなわち電気抵抗値が低い。そのため、中間転写体内周面の表面抵抗率が下がってしまう。導電点の数は多いほど放電が集中せず、中間転写体に求められる抵抗値範囲に応じて選択される。
【0038】
2-2.中間転写体の製造方法
本件における、単一の層から構成される中間転写体または少なくとも二層以上の構成からなる中間転写体の基層は、
(1)樹脂材料、導電性フィラーを含有する樹脂組成物を、前記樹脂材料の溶融温度以上の温度で溶融し、管状チューブ状に成形する成形工程
(2)成形工程で得られた管状チューブを、中空円筒状の内型と、内面の粗さを制御した中空円筒状の外型とに挟み込み、前記樹脂組成物のガラス転移温度から結晶化開始温度の間の任意温度まで10℃/min以上の昇温速度で加熱する。そして、その温度域下で該管状チューブを10kgf/cm2以上に加圧し、ガラス転移点以下の温度まで冷却して型から脱型する加熱加圧工程
を経て形成される。以下では、(1)及び(2)の各工程について説明する。
【0039】
<成形工程>
成形工程では、樹脂材料及び導電性フィラーを含有する樹脂組成物を、押出成形法を用いて円筒チューブ状のベルト形状(管状チューブ)へ成形する。本実施例の半導電性管状チューブの成形に使用される樹脂組成物は、任意の方法と設備を用いて調製することができる。例えば、各原料成分をヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合機により予備混合し、必要に応じてガラス繊維等の充填剤を加えてさらに混合した後、1軸または2軸の押出機を使用して混練し、押出して成型用ペレットとすることができる。必要成分の一部を用いてマスターバッチを調製し、このマスターバッチを残りの成分と混合する方法を採用してもよい。また、各原料成分の分散性を高めるために、使用する原料の一部を粉砕し、粒径を揃えて混合し、溶融押出することも可能である。
【0040】
押出成形法における押出機としては、バレルまたはシリンダー内に1本のスクリューを備える単軸式または2本以上のスクリューを組み合わせた多軸式のいずれの押出機も使用することができる。樹脂材料及び15~30重量部の導電性フィラーを含有する樹脂組成物を供給部の供給孔から供給し、スクリューの回転によってダイスに向けて前進しながら、バレルまたはシリンダーからの熱エネルギーとスクリューからの機械エネルギーを受けて完全溶融する。そして、該樹脂組成物の温度を融点(Tm)以上Tm+80℃以下の範囲内に制御しながら押出機の先端部へと定量供給し、環状ダイからフィルム状に溶融押出する。次いで、溶融状態のチューブの内周面をガラス転移温度(Tg)以下の範囲内の温度に制御した冷却マンドレルと接触させて急速に冷却固化しつつ、Tm-60℃以上Tm以下の温度に制御した外部加熱装置を用いて外側面を徐冷して内側面と外側面の結晶化度を制御する。押出機内の樹脂組成物の温度は、Tm+20~80℃、好ましくはTm+30~70℃、より好ましくはTm+40~60℃の範囲内である。この樹脂温度は、ダイス温度により代表させることができる。ダイスリップからドローダウンした溶融状態の樹脂組成物を引き取ってフィルム状(チューブ状フィルムを含む)に成形するが、その際、引き取り速度を制御して所望のフィルム厚みに調整する。
【0041】
溶融状態のフィルム(チューブ状フィルムを含む)を冷却する際に接触させる冷却ロールまたは冷却マンドレルの温度は、Tg-60℃からTgの範囲内である。冷却温度が高すぎると樹脂の結晶化が進み、半導電性フィルムが脆くなり易い。冷却温度が低すぎると冷却が不均一になり、平面性及び厚み安定性に優れた半導電性フィルムを得ることが困難になる。
【0042】
ダイスより樹脂組成物を連続溶融押出しする際に結晶化の進行に伴い、導電フィラーの凝集が促進されるため、得られる管状フィルムが非晶状態であることが肝要である。環状ダイス及びその温調形態や形状、各場所における樹脂の通過速さに関しては、樹脂の結晶化に大きく影響するので慎重に選ぶ必要がある。本実施例では、
図3に示したように、340℃~400℃に温度設定した1軸スクリュー押出し機にペレット材料を供給して溶融させ、スパイラル型ダイス31を通じて、リップ31rから下方へ樹脂ベルト材PEをチューブ状に溶融押出し成形した。このとき、引き出し速度を調整して軸方向に延伸させ、これにより厚みをほぼ溶融状態のチューブの内側面を冷却マンドレル32に接触させて急速に冷却する一方、外部加熱装置33を用いて外側面を徐冷して内側面と外側面の結晶化度を制御した。リップ31r、冷却マンドレル32における樹脂の通過速さはそれぞれ1.7mm/s、30mm/sであった。冷却マンドレル32には、不図示のヒーターと水冷却装置とが組み込まれ、鏡面仕上げされた銅で形成された表面の温度を冷却水温度以上の範囲で任意に設定可能である。給水管32iには、温度調整された冷却水が供給され、排水管32eから恒温槽、循環ポンプを介して給水管32iへ冷却水を循環させている。表面層と裏面層とで異なる冷却プロセスとなるように、溶融樹脂の固化、相変化を行わせ60μmの厚みを持つチューブ形状の管状体を作成した。
【0043】
<加熱加圧工程>
前記成形工程で得られた管状チューブを、中空円筒状の内型と、内面の粗さを制御した中空円筒状の外型とに挟み込むように設置する。その後、ガラス転移温度(Tg)から結晶化開始温度(Ts)の間の任意温度まで加熱し、その温度域下で10kgf/cm2以上に加圧後、ガラス転移点以下の温度まで冷却して型から脱型する。これにより、導電性フィラーの凝集を引き起こすことなく、結晶化度を高めることができる。
【0044】
加熱する温度は、動的粘弾性測定(DMA)より特定できる、ガラス転移温度から結晶化開始温度である粘度が低下しているピークの頂点温度までとする(
図4)。
図1に示すPEEKの動的粘弾性測定(DMA)では、ガラス転移温度はグラフ中粘度が低下し始める温度であり、結晶化開始温度はグラフ中、粘度が低下しているピークの頂点温度までの範囲とする。結晶化度が高い場合は、大きな粘度低下は発現しない。また、このガラス転移温度から結晶化開始温度までの粘度の低下は、加熱速度が速ければ速いほど、大きくなる。10℃/min以上の昇温速度で目的とする加熱温度に到達するように加熱することが必要である。加熱速度が遅い場合、より低温で再結晶化の割合が大きくなり、粘度低下のピークが現れないため、この温度域での熱による型面の転写が困難となる。
【0045】
導電フィラーを含む熱可塑性樹脂を加熱した場合、マトリックスである熱可塑性樹脂の粘度が低下し、導電フィラーの分散状態が変化する。そのため、融点以上まで加熱した状態での加熱加圧工程では、僅かな温度ムラや圧力ムラの影響で抵抗値の変動やムラが大きくなると考えられる。また、結晶化開始温度を大きく超えて加熱した場合、融点に至らない温度であっても冷却時の管状チューブの収縮が大きく結晶化度も高くなりすぎるため、冷却後に脱型することが困難になる。
【0046】
それに対して、導電フィラーを含む非晶状態にある熱可塑性樹脂組成物を、ガラス転移温度から結晶化開始温度の範囲で加熱加圧した場合は、熱可塑性樹脂の再結晶にともなう粘度上昇が起こる。そのため、過剰な粘度低下が起こらず、導電フィラーの分散状態への影響が少ない。
【0047】
2-3.基層に含有されているカーボンブラック量の評価方法)
本実施例において中間転写体に含有されているカーボンブラック量の評価は熱重量分析(TGA)によって評価することができる。本実施例では、メトラー・トレド株式会社製熱重量測定装置(TGA851e/SDTA)を用いて実施した。窒素ガス雰囲気下で600℃・1時間加熱することでITB中の熱可塑性樹脂分を分解・除去し、含有されるカーボンのみの重量を評価することが出来る。
【0048】
2-4.基層に含有されているカーボンブラックの一次粒径の評価方法
樹脂組成物に含有されるカーボンブラックの観察は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて実施されるが、観察前の薄片化試料の作製は公知の方法で実施される。例えば、イオンビーム、ダイヤモンドナイフなどで試料の薄片化が可能である。下記の本実施例ではライカ製「ULTRACUT-S」にて切断し、厚み約40nmの観察用切削片試料を採取し、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)は日立(株)製、H-7100FAを用いて、TEモード、加速電圧100kVの測定条件にてTEM画像を取得した。得られたTEM画像の解析には、公知の画像解析ソフトウェアを用いることが出来る。例えば、三谷商事(株)社製の商品名:「WinROOF」、(株)日本ローパー社製の商品名:「ImagePro」が代表的な画像解析ソフトウェアとして挙げられる。本実施例では三谷商事(株)社製の商品名:「WinROOF」を用いた。そして、カーボンブラックの一次粒子50個の径を測定して、その平均値を平均一次粒径とした。
【0049】
2-5.分散性の評価方法
測定を行う中間転写体(導電性ベルト)において、トナー像が担持される面側から厚さ方向に10μmまでの範囲(外周面領域と称する)における導電フィラーの分散状態の分散状態を測定した。また、外周面に対して裏側から厚さ方向に10μmまでの範囲(内周面領域と称する)における導電フィラーの分散状態の分散状態を測定した。また、中間転写体の厚さ方向中央部を中心として前記表面部側及び前記裏面部側へそれぞれ5μmまでの範囲(以下、中央領域と称する)における導電フィラーの分散状態の分散状態を測定した。測定手順は、以下の手順で測定した。
【0050】
まず導電性ベルトを表面方向にカッターナイフ等により10mm×10mm程度の短冊形に切り出した後、エポキシ樹脂で包埋する。硬化後、研磨紙により断面サンプルを作製する。得られた各断面サンプルの表面部、裏面部、及び中央部について、Philips社製XL-30 SFEGを用いて倍率20000倍のSEM像を取得する。尚、コントラストが不鮮明な場合には、適宜白黒強調処理やスムージング処理を行う。画像処理ソフトは、例えばPhotoshop、ImageJ等のソフトウェアを使用することができる。
【0051】
次に、視野幅における導電フィラーの重心位置の座標を求め、以下の式によりK関数を算出する。
【0052】
【0053】
ここで、dは画像内の距離、i,jはそれぞれ画像内での粒子を示す指標であり、λは画像内での粒子の個数密度(単位面積当たりの粒子の個数)であり、nは画像内の粒子数である。wijは「粒子iの重心座標を中心として半径dの円iの面積A」と「粒子iの重心座標を中心として半径dの円iのうち、画像内に含まれる部分の面積B」との比(面積B/面積A)である。wiは、画像境界近辺に粒子iが存在するとき、画像外に粒子が存在しないことによる過小評価を補正するためのものである。Id(i,j)は粒子iの重心座標を中心として半径dの円内に粒子jの重心座標がある場合に1、それ以外では0の値を取る関数である。(Ripley B.D.,J.Appl.Prob,13,255(1976)を参照)
さらに、求めたK関数に対して以下の式によりL関数を算出する。
【0054】
【0055】
そして、下記の通り、0nmから500nmまで10nmごとにL(d)を計算したものの単純和を本件におけるL関数値と定義する。
L(0)=(K(0)/π)(1/2)
L(10)=(K(10)/π)(1/2)-10
:
L(490)=(K(490)/π)(1/2)-490
L(500)=(K(500)/π)(1/2)-500
L関数値=L(0)+L(10)+・・・+L(490)+L(500)
【0056】
L関数の算出に使うdの範囲0~500nmは、画像内の各粒子を中心とする円の半径を示す。測定円の最大半径となるd=500nmに対して、評価に用いるSEMの画像範囲が小さくなりすぎると誤差が大きくなるため、測定時のSEM倍率を20000倍に限定する。この条件下で撮影された画像に含まれる、実際の観察領域のサイズは、測定手段や「画像上に含まれてしまう画像部以外の情報」が表示される領域のサイズにもよるが、短辺が略3~4μmになり、長辺が略5~6μmになる。「画像上に含まれてしまう画像部以外の情報」とは、倍率、スケールなどの情報を意味し、これらの情報が表示されている部分は測定対象に含めない。
【0057】
さらに下記の各実施例において下記(1)~(3)の各領域においてL関数値を求める。
(1)トナー像の担持面(外周面)から厚さ方向に5μm離れた位置を中心とする領域
(2)(1)の外周面に対して裏側(内周面)から厚さ方向に5μm離れた位置を中心とする領域
(3)厚さ方向中央部を中心とする領域
上記(1)~(3)の各領域におけるL関数値を表1に示す。
【0058】
2-6.結晶化度の測定方法
熱可塑性結晶性樹脂の結晶化度を測定する方法としては、示差走査熱量測定(DSC)、広角X線回折法、小角X線散乱法、赤外吸収法、密度法などがある。本実施例では広角X線回折法(株式会社リガク製X線回折装置「Ultima IV」(商品名))を用いて、ピーク多重分離法で結晶化度を算出した。
【0059】
走査角度は2θ=5~45°で、2θ=18.8°付近(=110面)、20.95°付近(=113面)、23.1°付近(=200面)、28.85°付近(=213面)のピークを熱可塑性樹脂PEEKの結晶ピークとして、解析を行った。
【0060】
2-7.導電点数の測定方法
走査型電子顕微鏡(E-sweep/Nano Navei;SIIナノテクノロジー製)の電流測定機能を使って測定した。試料は背面にAuPdをコートし、Agテープで試料台に固定した。カンチレバーはSI-DF3-Rで、測定領域は8μm×8μm、X方向データ数、Y方向データ数は共に256点とした。走査周波数は0.5Hzで、初期DIF値は0.55~0.65とし、カンチレバーたわみ量は-1とした。Iゲインは0.04、Pゲインは0.02、Aゲインは0で固定した。測定環境は室温で、吸着水を除去するため5E-3Paまで減圧してから測定した。導電点は、印加電圧を-40Vとしたとき、し、-5pA以上電流が流れる点を導電点とした。
【0061】
[実施例1]
本実施例では、導電性フィラーとして旭カーボン株式会社製SB#285(DBP吸油量=101ml/100g,一次粒子径=26nm)を使用した。また、熱可塑性樹脂としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK、ガラス転移温度145℃、結晶化開始温度165℃、融点335℃)を使用した。また、先端部にスパイラル円筒ダイを備えた単軸押出成形機(株式会社プラスチック工学研究所)を用いて管状チューブを得た。さらに、作製した管状チューブに対して加熱加圧工程を実施し、中間転写ベルトを作製した。各々の材料の配合量、成形工程及び加熱加圧工程の条件については以下に示す通りである。
<配合量>
カーボンブラック:SB#285 28重量部
樹脂材料:PEEK(Victrex社、450G)72重量部
<成形工程の条件>
押出量:6kg/h
ダイス温度:380℃
外部加熱装置温度:300℃
冷却マンドレル温度:140℃
<加熱加圧工程の条件>
加熱温度:160℃
作製した中間転写体の特性に関する各測定結果は、表1に記載した通りである。
【0062】
[比較例1]
本比較例においては、導電性フィラーとして用いるカーボンブラックとPEEK樹脂の配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。比較例1において用いた導電性フィラー及び樹脂材料は以下の通りである。
<配合量>
カーボンブラック:SB#285 35重量部
樹脂材料:PEEK(Victrex社、450G)65重量部
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0063】
[比較例2]
本比較例においては、導電性フィラーとして東海カーボン株式会社製トーカブラック#7270SB(DBP吸油量=37~79ml/100g,一次粒子径=36nm)を使用したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。比較例2において用いた導電性フィラー及び樹脂材料は以下の通りである。
【0064】
<配合量>
カーボンブラック:#7270SB 28重量部
樹脂材料:PEEK(Victrex社、450G)72重量部
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである
[比較例3]
本比較例においては、成形工程におけるダイス温度を450℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。
【0065】
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0066】
[比較例4]
本比較例においては、成形工程における冷却マンドレルの温度を60℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして作製を行ったが、管状体の厚みムラが著しく大きく、中間転写体を得ることができなかった。
【0067】
[比較例5]
本比較例においては、成形工程における冷却マンドレルの温度を170℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。
【0068】
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0069】
[比較例6]
本比較例においては、成形工程における冷却マンドレルの温度を230℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。
【0070】
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0071】
[比較例7]
本比較例においては、成形工程におけるダイス温度を400℃、冷却マンドレルの温度を180℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。
【0072】
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0073】
[比較例8]
本比較例においては、成形工程における外部加熱装置の温度を250℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。
【0074】
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0075】
[比較例9]
本比較例においては、成形工程における外部加熱装置の温度を380℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして作製を行ったが、管状体の厚みムラが著しく大きく、中間転写体を得ることができなかった。
【0076】
[比較例10]
本比較例においては、加熱加圧工程における加熱温度を100℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして中間転写体を作製した。
【0077】
作製した中間転写体の各測定結果は表1に記載した通りである。
【0078】
[比較例11]
本比較例においては、加熱加圧工程における加熱温度を270℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして作製を行ったが、加熱加圧工程における冷却時に管状体が破断してしまい、中間転写体を得ることができなかった。比較例11の条件では、結晶化度は27%となり、ベルト体の機械強度が不足していた。
【0079】
加熱加圧工程において、結晶化終了点を超えて加熱を継続する、または加熱時間が長くなると結晶化が進行する。結晶化の進行によりカーボンブラックの凝集が促進されて分散性が悪化する場合がある。それゆえ、加熱加圧工程での到達結晶化度としては、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下になるように加熱加圧条件を設定する必要がある。
【0080】
[各実施形態の検証]
図1に示した画像形成装置を用いて、低湿環境(23℃/5%)においてA3サイズの普通紙(CS068、キヤノン社製)を連続通紙する耐久試験を600k枚まで実施した。10k枚を通紙する毎に、画像形成部PKのみで全面ハーフトーンを印字した画像Xを連続5枚出力した。これによって得られた画像を以下に示す基準で、白抜け画像の評価を行った。
【0081】
白抜け
A:画像Xについて、5枚全てに白抜け画像が確認されない。
B:画像Xについて、5枚のうち何れか1枚で白抜け画像が確認される。
C:画像Xについて、5枚のうち何れか3枚で白抜け画像が確認される。
【0082】
機械特性
A:ベルトの破断もなく、トナー像の歪みも色ずれの発生も確認されない。
B:ベルトの破断はないが、トナー像の歪みまたは色ずれの発生が確認される。
C:ベルトの破断が発生。
【0083】
(画像及び機械強度の評価結果)
作製した中間転写ベルトの評価結果を表2に示す。画像Xに対して白抜け画像が確認されたものについては、使用したカーボンブラックの粒径が大きいこと、成形工程における再凝集により中間転写体の導電剤の分散性が悪化したことが考えられる。この場合には、1次転写部における中間転写体の内周面側と1次転写ローラー間、あるいは2次転写部における中間転写体の外周面と紙の間の空隙に生じた放電により白抜け画像が発生したものと考えられる。
【0084】
また、検証中にベルトの破断や色ずれが確認されたものについては、中間転写ベルトの結晶化度が低く、所望の引張強度、屈曲耐久性及び表面硬度を付与できなかったことによるためであると考えられる。
【0085】
実施例1においては、白抜け画像、機械強度ともに良好な結果であった。
【0086】
【0087】
【符号の説明】
【0088】
1 感光ドラム
2 1次帯電装置
3 露光装置
4 現像装置
5 1次転写ローラー
7 中間転写ベルト
8 2次転写外ローラー
9 定着装置
12 カセット
13 ピックアップローラー
15 レジストローラー
71 中間転写ベルト張架ローラー(駆動ローラー)
72 中間転写ベルト張架ローラー(テンションローラー)
73 中間転写ベルト張架ローラー(2次転写内ローラー)
10 基層
11 表面層