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  • 特許-筆記具用軸筒及び筆記具 図1
  • 特許-筆記具用軸筒及び筆記具 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】筆記具用軸筒及び筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
B43K3/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020210412
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022097053
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 和広
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-045065(JP,A)
【文献】特開2019-111722(JP,A)
【文献】特開2019-089272(JP,A)
【文献】特開2013-208795(JP,A)
【文献】特開2014-188903(JP,A)
【文献】特開2013-151157(JP,A)
【文献】実開昭60-120875(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内側に撥水性表面及びレフィルを収容する空間を有する筆記具用軸筒であって、
軸筒内側に実質的に均等に配置された複数の凸部を有し、
上記撥水性表面は、軸筒の内表面のうちで、少なくとも複数の凸部に挟まれた部分に形成されている、筆記具用軸筒。
【請求項2】
前記撥水性表面は、90~150°の水に対する接触角を有する、請求項1に記載の筆記具用軸筒。
【請求項3】
前記撥水性表面は、軸筒の内側に形成された撥水性層の表面である、請求項1又は2に記載の筆記具用軸筒。
【請求項4】
前記凸部の高さは0.2~0.8mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の筆記具用軸筒。
【請求項5】
隣接する凸部同士の間隔は0.1~0.9mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の筆記具用軸筒。
【請求項6】
前記凸部の形状が、畝形、半球形、6面体形、円柱形及び多角柱形から成る群から選択される少なくとも一つである、請求項1~5のいずれか一項に記載の筆記具用軸筒。
【請求項7】
前記凸部の形状が、軸筒の長さ方向に伸長された畝形である、請求項6に記載の筆記具用軸筒。
【請求項8】
複数の凸部のピッチが0.2~1.0mmである、請求項7に記載の筆記具用軸筒。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の筆記具用軸筒と、軸筒内に収容されたレフィルとを、有する筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その内部にレフィルを収容する筆記具用軸筒に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具には、例えばボールペン等のように、中空の軸筒と、軸筒内側の空間に収容されたレフィルを有する構造のものがある。ここで、レフィルとは、インキを収容する筒体と、インキを排出するペン先とを備えた、筆記体をいう。
【0003】
近年、ウイルスや細菌等への感染を防止する観点から、直接手に触れる筆記具について、使用する前に洗浄する要望が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筆記具用軸筒は、筆記具を分解してレフィルを取り出してから、洗浄する。洗浄の際に使用される洗浄液及び水は筆記具用軸筒の内部に侵入する。筆記具用軸筒には開口が少なく、軸筒の中に侵入した水は外部に排出されにくく、乾燥しにくい。
【0005】
軸筒の中に液体が残存した状態でレフィルを収容して、筆記具を使用すると、筆記中の紙面に、軸筒内部の液体が滴下する不具合がある。軸筒の内部を乾燥させる場合は、長い時間放置する必要があり、その間は、筆記具を使用できない不具合がある。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その目的とするところは、乾燥性に優れた筆記具用軸筒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軸筒内側に撥水性表面を有する筆記具用軸筒を提供する。
【0008】
ある一形態においては、前記撥水性表面は、90~150°の水に対する接触角を有する。
【0009】
ある一形態においては、前記撥水性表面は、軸筒の内側に形成された撥水性層の表面である。
【0010】
ある一形態においては、軸筒内側に実質的に均等に配置された複数の凸部を有する。
【0011】
ある一形態においては、前記凸部の高さは0.2~0.8mmである。
【0012】
ある一形態においては、隣接する凸部同士の間隔は0.1~0.9mmである。
【0013】
ある一形態においては、前記凸部の形状が、畝形、半球形、6面体形、円柱形及び多角柱形から成る群から選択される少なくとも一つである。
【0014】
ある一形態においては、前記凸部の形状が、軸筒の長さ方向に伸長された畝形である。
【0015】
ある一形態においては、複数の凸部のピッチが0.2~1.0mmである。
【0016】
また、本発明は、上記いずれかの筆記具用軸筒と、軸筒内に収容されたレフィルとを、有する筆記具を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の筆記具用軸筒は乾燥性に優れ、軸筒の内部に水が侵入した場合に、容易に乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態である筆記具の分解断面図である。(a)は本発明の一実施形態である筆記具用軸筒を長さ方向に切った断面を示す。(b)は前記筆記具用軸筒をA-A方向に切った断面を示す。(c)はレフィル支持キャップを長さ方向に切った断面を示す。(d)はレフィル支持キャップをB-B方向に切った断面を示す。
図2】本発明の一実施形態である筆記具を長さ方向に切った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の筆記具用軸筒は、軸筒内側に撥水性表面を有する。軸筒内側とは、軸筒の内表面を意味する。撥水性表面は、軸筒の内部に液体が侵入した場合に、少なくとも、内表面の液体がたまりやすい部分に形成する。撥水性表面は、好ましくは、軸筒の内表面の全体に形成する。撥水性表面は、軸筒内側の撥水性を向上させて、軸筒の中に侵入した液体を容易に外部に排出させる。その結果、軸筒の乾燥性が向上する。
【0020】
撥水性表面は、90~150°の水に対する接触角を有する。水に対する接触角が上記範囲にあることで、軸筒の内側が短時間で乾燥するようになる。撥水性表面の水に対する接触角は、好ましくは100~150°、より好ましくは110~150°である。本発明に使用することができる撥水性表面の形成方法を以下に例示する。
【0021】
軸筒の内側に、撥水性層を形成する。撥水性層の表面は撥水性表面になる。
【0022】
撥水性層は、例えば、軸筒の内側に撥水性コーティング剤の塗膜を形成し、形成した塗膜を乾燥させ及び/又は硬化させて、形成することができる。撥水性コーティング剤の塗膜は、例えば、スプレー、ディップ、スピンコート等の通常行われる湿式塗布方法を使用して形成することができる。撥水性コーティング剤としては、AGC社製「SURECO(商品名)AF」シリーズ、ハーベス社製「デュラサーフ(商品名)」、及び等のフッ素系コーティング剤、及びカントーカセイ社製「GOD(商品名)」等のシリコーン系コーティング剤が挙げられる。
【0023】
また、例えば、軸筒の内側を基材として使用して、その上に、高撥水性ポリカーボネート樹脂、例えば、三菱ガス化学株式会社特殊ポリカーボネート樹脂「ユピゼータ(商品名)」の被膜を形成することで、撥水性層を形成してもよい。
【0024】
また、例えば、軸筒の内側を基材として使用して、撥水性処理を行って、軸筒の内側に撥水性表面を形成してもよい。そのような撥水性処理としては、三和メッキ工業社が提供するテフロン無電解ニッケルメッキ加工処理が例示される。
【0025】
本発明の筆記具用軸筒は、好ましくは、軸筒内側に、実質的に均等に配置された複数の凸部を有する。かかる場合、上記撥水性表面は、軸筒の内表面のうちで、少なくとも複数の凸部に挟まれた部分に形成する。好ましくは、撥水性表面は、軸筒の内表面全体に、すなわち、凸部及びそれらに挟まれた部分を覆うように形成する。
【0026】
軸筒内側に複数の凸部が形成されていることで、レフィルを抜き差しする時、又はレフィルが移動する時に、凸部に挟まれた撥水性表面にレフィルが接触しにくくなる。そのため、レフィルを抜き差しする回数が増加した場合、又はレフィルを前後させてペン先を出し入れする場合に、凸部の間の撥水性表面が摩耗し難く、軸筒内側の撥水効果を維持することができる。その結果、本発明の筆記具用軸筒は、乾燥性の持続性に優れ、洗浄回数が増加した場合や、ペン先出没機構を備えた筆記具に使用する場合でも、優れた乾燥性が低下しにくいものになる。
【0027】
凸部の形状は、軸筒の内部に液体が侵入した場合に、液体が開口に向かって流れ、レフィルが撥水性表面に接触しにくくなる機能を実質的に奏することができる形状に成形する。例えば、凸部の形状は、畝形、半球形、6面体形、円柱形及び多角柱形から成る群から選択される少なくとも一つであってよい。凸部の高さ等の寸法、及び隣接する凸部同士の間隔等の配置は、その形状を考慮して、適宜決定することができる。
【0028】
凸部の形状は、洗浄液が軸筒の開口部に向かって流れ易く、レフィルの抜き差し時に、レフィルが凸部に挟まれた撥水性表面に接触しにくくなるために、軸筒の長さ方向に伸長された畝形であることが好ましい。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態である筆記具の分解断面図である。(a)は本発明の一実施形態である筆記具用軸筒を長さ方向に切った断面を示す。(b)は前記筆記具用軸筒をA-A方向に切った断面を示す。(c)はレフィル支持キャップを長さ方向に切った断面を示す。(d)はレフィル支持キャップをB-B方向に切った断面を示す。
【0030】
図1(a)を参照して、軸筒1は中空であり、内表面である軸筒内側と、外表面である軸筒外側とを有する。軸筒内側には、軸筒の長さ方向に伸長された畝形の凸部2が形成されている。
【0031】
軸筒両端の開口は、一方は小径のペン先出口3、もう一方は大径のレフィル入口4である。ペン先出口3は、レフィルのペン先部に対応する寸法を有する。レフィル(非表示)は、軸筒のレフィル入口4にペン先から挿入され、ペン先部がペン先出口3に嵌まることで、軸筒内側の空間に収容される。レフィル入口4の周囲に、レフィル支持キャップ5を取り付ける際に螺合させるためのオスねじ6が刻まれている。軸筒を構成する材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び金属等の通常使用される材料を使用することができる。
【0032】
図1(b)を参照して、畝形の凸部2は、実質的に均等な間隔で複数個存在することで、軸筒内側に実質的に均等に配置されている。
【0033】
凸部2の高さは、小さすぎるとレフィルの抜き差し時の摩擦によって、凸部2と凸部2の間の撥水性表面が摩耗し易くなり、大きすぎるとレフィルを収容しにくくなる。凸部2の高さは、0.2~0.8mm、好ましくは0.3~0.7mm、より好ましくは0.4~0.6mmである。
【0034】
隣接する凸部2同士の間隔は、0.1~0.9mmである。隣接する凸部2同士の間隔をこの範囲に調節することで凸部2に挟まれた撥水性表面の面積が適切になる。上記凸部2同士の間隔は、好ましくは0.3~0.8mm、より好ましくは0.4~0.7mmである。
【0035】
複数の凸部2のピッチは、小さすぎると凸部2の間に撥水性表面が形成されにくくなり、大きすぎるとレフィルの抜き差し時の摩擦によって、凸部2と凸部2の間の撥水性表面が摩耗し易くなる。複数の凸部2のピッチは、0.2~1.0mm、好ましくは0.4~0.9mm、より好ましくは0.5~0.8mmである。
【0036】
図1(c)を参照して、レフィル支持キャップ5は中空であり、大径の軸筒取付口7と、中径のレフィル支持部8と、小径の通気孔9とを、有する。軸筒取付口の内側に、軸筒に取り付ける際に螺合させるためのメスねじ10が刻まれている。レフィル支持部の内径は、レフィルの筒体の端部に対応する寸法を有する。レフィル支持部の内側には、キャップの長さ方向に伸長された畝形の凸部11が形成されている。
【0037】
図1(d)を参照して、畝形の凸部11は、実質的に均等な間隔で複数個存在する。複数の凸部11によって、レフィルの筒体の端部が支持される。凸部11の高さ等の寸法、間隔及びピッチは、レフィルを適切な強度で固定することができるように、適宜調節する。
【0038】
図2は、本発明の一実施形態である筆記具を長さ方向に切った断面図である。筆記具12は、本発明の軸筒1と、軸筒の内部に収容されたレフィル13と、軸筒端部に取り付けられたレフィル支持キャップ5とを有する。レフィル13は、ペン先部が軸筒の小径の開口に嵌まること、及び筒体の端部がレフィル支持キャップのレフィル支持部に嵌まることで、筆記具の内部に固定される。
【0039】
本発明の筆記具は、その内部にレフィルを収容する前記筆記具用軸筒を有するものであればよく、図2に示した構造に限定されない。例えば、軸筒とレフィル支持キャップとは、両者の接続部をなくして一体化してもよい。その場合、軸筒にレフィルを抜き差しする開口部は、例えば、軸筒のより先端方向に位置する部分を分離、及び接続可能な構造にして、形成する。
【0040】
本発明の筆記具は、使用する際にレフィルのペン先を繰り出し、使い終わって保管する際に軸筒にレフィル全体を収容するような、軸筒内でレフィルを移動させる機構を備えていてもよい。かかる機構の例には、後部のボタンを押すことでペン先を出没させるノック繰り出し機構、軸筒の一部を回転させることでペン先を出没させる回転繰り出し機構などが挙げられる。
【符号の説明】
【0041】
1…筆記具用軸筒、
2、11…畝形の凸部、
3…ペン先出口、
4…レフィル入口、
5…レフィル支持キャップ、
6…オスねじ
7…軸筒取付口、
8…レフィル支持部、
9…通気孔、
10…メスねじ
12…筆記具、
13…レフィル。
図1
図2