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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】エネルギー線硬化性立体造形用組成物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20241105BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20241105BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241105BHJP
   C08F 283/00 20060101ALI20241105BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20241105BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241105BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241105BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20241105BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20241105BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20241105BHJP
   A61K 6/35 20200101ALI20241105BHJP
   A63B 71/08 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/264
C08F2/44 C
C08F283/00
C08F290/06
B33Y70/00
B33Y80/00
A61K6/891
A61K6/62
A61K6/887
A61K6/35
A63B71/08 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020219728
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104469
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】石▲橋▼ 美咲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲司
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/017615(WO,A1)
【文献】特開2016-112824(JP,A)
【文献】特開2019-051679(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129736(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/246610(WO,A1)
【文献】特開2017-081153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/106
B29C 64/264
C08F 2/44
C08F 283/00
C08F 290/06
B33Y 70/00
B33Y 80/00
A61K 6/891
A61K 6/62
A61K 6/887
A61K 6/35
A63B 71/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(a)、光重合開始剤(b)、及び高分子化合物(c)を含有し、前記高分子化合物(c)が重合性基を有さず、ガラス転移温度が140℃以上であり、
前記重合性単量体(a)が、(i)(メタ)アクリレート系重合性単量体、又は、(ii)(メタ)アクリレート系重合性単量体及び(メタ)アクリルアミド系重合性単量体であり、
動的粘弾性の温度依存性を測定したときにtanδが少なくとも2つのピークを有する多峰性であって、少なくとも1つのtanδピーク位置は90℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項2】
前記光重合開始剤(b)がラジカル光重合開始剤(b1)である、請求項1に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項3】
前記重合性単量体(a)が、脂環式骨格を有さない重合性単量体である、請求項1又は2に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項4】
前記重合性単量体(a)のガラス転移温度が40℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項5】
前記高分子化合物(c)のガラス転移温度が160℃以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項6】
前記高分子化合物(c)が、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリアリレートから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項7】
前記重合性単量体(a)が、多官能の重合性単量体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項8】
前記高分子化合物(c)を除いた前記エネルギー線硬化性立体造形用組成物の屈折率n’と、前記高分子化合物(c)の屈折率nとの差の絶対値が0.3以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
【請求項9】
少なくとも1つのtanδピーク位置が40℃以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形物。
【請求項10】
tanδピーク位置の最低温度と、tanδピーク位置の最高温度との差が、50℃以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて歯科材料を製造する方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて矯正用マウスピースを製造する方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて睡眠時疾患治療用マウスピースを製造する方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて顎関節疾患治療用マウスピースを製造する方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて歯牙又は顎関節を保護するためのマウスピースを製造する方法。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて義歯床材料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線硬化性立体造形用組成物、ならびにそれを用いた立体造形物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元CADデータに基づいて、レーザーの走査あるいはプロジェクター方式を用いたビーム線の投影により光硬化性樹脂を硬化させ、形成した硬化層を積層することによって、造形物を作製する光学的立体造形技術が着目されている。光学的立体造形技術(以下、「光学的立体造形」を「立体造形」とも称する。)によれば、金型や鋳型を用意せずに、簡便に素早く試作品を作製することができるため、製品開発の設計から生産までに要する時間とコストを削減することができる。立体造形技術は、3次元CADが急速に普及したことに伴い、自動車部品、電気機器、医療機器など、多岐にわたる産業分野で採用されてきた。
【0003】
立体造形技術の向上及び適用分野の拡大に伴い、試作品のみならず最終製品に本技術を適用しようとする試みがなされており、エネルギー線硬化性立体造形用組成物に要求される性能も高まっている。切削加工技術では柔軟性を有する材料に微細な加工を施したり、中空状などドリルの侵入が難しい形状の最終製品を加工したりすることができない。従って、柔軟性を有する材料であって、硬化時の造形精度に優れる造形物を形成できるエネルギー線硬化性樹脂が求められる。
【0004】
さらに、歯科材料の中でも粘膜や舌などの軟組織に接触しうる口腔内装置、たとえば歯列矯正治療に供されるアライナーやリテイナーなどの矯正用マウスピース、睡眠時疾患や顎関節疾患の治療用マウスピース、咬合用スプリントやマウスガードなどには、柔軟性に加え、応力保持性があること、破壊しにくいこと(高靭性であること)が共通して要求される。応力保持性が損なわれると、歯牙や顎関節から加わる力によって口腔内装置が変形した際に応力を徐々に失ってしまい、歯牙や顎関節の移動、保持といった治療の効果を得られなくなってしまう。柔軟性が損なわれると装着感が悪いものとなり、破壊しやすくなると頻繁に作り直しが必要となる、誤嚥や口腔内の負傷のリスクがあるなどの問題が生じる。しかしながら、本発明者らが検討したところ、光学的立体造形法で使用される強いエネルギー線によって重合硬化させることで成形された造形物の応力保持性を向上させるためには、造形物の架橋密度やガラス転移温度の高い立体造形用組成物とする必要がある一方で、そのような組成物を用いた場合、造形物の靭性が損なわれやすくなることがわかった。
【0005】
特許文献1には、カチオン重合に使用できる水溶性のモノマー及び重合開始剤、ラジカル重合に使用できる水溶性のモノマー、重合開始剤、及び増感剤、ならびにジアリルフタレート系ポリマーを含有する光学的立体造形用組成物が開示されている。この組成物は、硬化時間を短縮でき、強度に優れ、変形が小さく、人体及び環境に対して安全性が高い立体造形物を製造できることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、25℃で少なくとも20,000cPの粘度を有する重合性成分、溶媒、光重合開始剤、及び重合禁止剤を含有する、プリント可能な組成物が開示されている。この組成物は、低粘度で、適切な硬化速度を有し、硬化物が耐水性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-100340号
【文献】特開2019-519405号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2においては、応力保持性と靭性の両立に係る事項は何ら記載されていない。
【0009】
上記事情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、立体造形により造形可能な硬化性を有し、立体造形によって成形された造形物の応力保持性及び靭性に優れるエネルギー線硬化性立体造形用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の高分子化合物を含有するエネルギー線硬化性立体造形用組成物が、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]重合性単量体(a)、光重合開始剤(b)、及び高分子化合物(c)を含有し、前記高分子化合物(c)が重合性基を有さず、ガラス転移温度が140℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[2]前記光重合開始剤(b)がラジカル光重合開始剤(b1)である、[1]に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[3]前記重合性単量体(a)が、脂環式骨格を有さない重合性単量体である、[1]又は[2]に記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[4]前記重合性単量体(a)のガラス転移温度が40℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[5]前記高分子化合物(c)のガラス転移温度が160℃以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[6]前記高分子化合物(c)が、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリアリレートから選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[7]前記重合性単量体(a)が、多官能の重合性単量体を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[8]前記高分子化合物(c)を除いた前記エネルギー線硬化性立体造形用組成物の屈折率n’と、前記高分子化合物(c)の屈折率nとの差の絶対値が0.3以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物。
[9]動的粘弾性の温度依存性を測定したときにtanδが少なくとも2つのピークを有する多峰性であって、少なくとも1つのtanδピーク位置は90℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形物。
[10]少なくとも1つのtanδピーク位置が40℃以下である、[9]に記載のエネルギー線硬化性立体造形物。
[11]tanδピーク位置の最低温度と、tanδピーク位置の最高温度との差が、50℃以上である、[9]又は[10]に記載のエネルギー線硬化性立体造形物。
[12][1]~[8]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて歯科材料を製造する方法。
[13][1]~[8]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて矯正用マウスピースを製造する方法。
[14][1]~[8]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて睡眠時疾患治療用マウスピースを製造する方法。
[15][1]~[8]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて顎関節疾患治療用マウスピースを製造する方法。
[16][1]~[8]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて歯牙又は顎関節を保護するためのマウスピースを製造する方法。
[17][1]~[8]のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて義歯床材料を製造する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、立体造形により造形可能な硬化性を有し、立体造形によって成形された造形物の応力保持性及び靭性に優れるエネルギー線硬化性立体造形用組成物を提供できる。本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、重合性単量体(a)、光重合開始剤(b)、及び重合性基を有さずガラス転移温度が140℃以上の高分子化合物(c)(以下、単に「高分子化合物(c)」と称することがある)を含有することにより、優れた応力保持性及び靭性を有する造形物が得られる。本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物の硬化物は、矯正用マウスピース、睡眠時疾患治療用マウスピース、顎関節疾患治療用マウスピース、歯牙や顎関節保護用のマウスピースとしても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[重合性単量体(a)]
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物に用いられる重合性単量体(a)には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。該ラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系重合性単量体;(メタ)アクリルアミド系重合性単量体;α-シアノアクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等の各エステル類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類;モノ-N-ビニル誘導体;スチレン誘導体等が挙げられる。重合性単量体(a)としては、硬化性の観点から(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましい。
【0014】
本発明における重合性単量体(a)として、重合性基を1個有する単官能性重合性単量体、及び重合性基を複数有する多官能性重合性単量体が例示される。硬化性に優れる観点から、多官能性重合性単量体が含まれていることが好ましい。柔軟性に優れ、硬化物の靭性を向上させる点で、ガラス転移温度が40℃以下であることが好ましい。
【0015】
単官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ペンタブロモベンジル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、アントラセニル(メタ)アクリレート、アントラセンメチル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシメチル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシメチル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシメチル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシブチル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシブチル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシブチル(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、5-(o-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(m-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(p-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(o-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(m-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(p-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、ピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸カリウム塩、(メタ)アクリル酸マグネシウム塩、(メタ)アクリル酸亜鉛塩、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。単官能性の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルカルバゾール、N-メチル-N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ピペリジニルアクリルアミド、N-テトラメチルピペリジニルアクリルアミド、N-2-メチルピペリジニルアクリルアミド、N-3-メチルピペリジニルアクリルアミド、N-4-メチルピペリジニルアクリルアミド、等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。これらの中でも、高分子化合物(c)との屈折率差が大きくなりにくく、硬化性に優れる点で、脂環式骨格を含まない重合性単量体であることが好ましい。たとえばベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシメチル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシメチル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシメチル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシブチル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノキシブチル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノキシブチル(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等が好ましい。さらに、柔軟性に優れ、硬化物の靭性を向上させる点で、ガラス転移温度が40℃以下であることが好ましく、たとえばベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、о-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましい。
【0016】
多官能性重合性単量体の構造としては、特に限定されるものではないが、硬化性に優れる点でウレタン結合を含有する多官能性重合性単量体が好ましい。また、高分子化合物(c)との屈折率差が大きくなりにくく硬化物の白化を抑制する点で、芳香族化合物系の多官能性重合性単量体が好ましい。
【0017】
ウレタン結合を含有する多官能性重合性単量体としては、(メタ)アクリレート基に隣接してウレタン結合が導入されている化合物であればよく、1分子内に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造(以下、これらを「ポリマー骨格」ともいう。)を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の重合性単量体、並びに、ポリマー骨格を有さないウレタン化(メタ)アクリレート系の重合性単量体が挙げられ、これらの中でも柔軟性に優れる点で、ポリマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の重合性単量体が好ましく、ポリマー骨格を構成する繰り返し単位中に芳香環を含むものがより好ましい。
【0018】
ポリマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体は、例えば、前記ポリマー骨格を含有するポリオールと、イソシアネート基(-NCO)を有する化合物と、水酸基(-OH)を有する(メタ)アクリレート化合物とを付加反応させることにより、容易に合成することができる。また、ポリマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体は、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物に、ラクトン又はアルキレンオキシドに開環付加反応させた後、得られた片末端に水酸基を有する化合物を、イソシアネート基を有する化合物に付加反応させることにより、容易に合成することができる。
【0019】
前記ポリマー骨格を含有するポリオールとしては、前記の構造であれば特に限定されないが、例えば、ポリエステルとしては、フタル酸と炭素数2~12のアルキレンジオールの重合体、アジピン酸と炭素数2~12のアルキレングリコールの重合体、マレイン酸と炭素数2~12のアルキレンジオールの重合体、β-プロピオラクトンの重合体、γ-ブチロラクトンの重合体、δ-バレロラクトン重合体、ε-カプロラクトン重合体及びこれらの共重合体などが挙げられる。ポリカーボネートとしては、炭素数2~12の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~12の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートなどが挙げられる。ポリウレタンとしては、炭素数2~12の脂肪族ジオールと炭素数1~12のジイソシアネートの重合体などが挙げられる。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)などが挙げられる。ポリ共役ジエン及び水添ポリ共役ジエンとしては、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-イソプレン)、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(イソプレン-スチレン)、ポリファルネセン、及びこれらの水添物が挙げられる。
【0020】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トリシクロデカンジイソシアネート(TCDDI)、及びアダマンタンジイソシアネート(ADI)等が挙げられる。
【0021】
水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0022】
イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物との付加反応は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定されない。
【0023】
前記方法により得られるポリマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体としては、前記の、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するポリオールと、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物との任意の組み合わせの反応物が挙げられる。ポリマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、「UFC-01」(共栄社化学株式会社製)、「EBECRYL8465」(ダイセル・オルネクス株式会社製)等のウレタンアクリレートが挙げられる
【0024】
ポリマー骨格を有するウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体の重量平均分子量(Mw)は、粘度及び強度の観点から、500~50000が好ましく、750~30000がより好ましく、1000~15000がさらに好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0025】
ポリマー骨格を有さないウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体は、例えば、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート ヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレート ヘキサメチレンジイソシアネート ウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレート トルエンジイソシアネート ウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレート イソホロンジイソシアネート ウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート ヘキサメチレンジイソシアネート ウレタンプレポリマー等が挙げられる。
【0026】
芳香族化合物系の多官能性重合性単量体としては、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。
【0027】
脂肪族化合物系の多官能性重合性単量体としては、二官能性重合性単量体として、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-エチル-1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。三官能性以上の重合性単量体として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。
【0028】
重合性単量体(a)がウレタン化(メタ)アクリレート系の多官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の多官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び芳香族化合物系の多官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体のうち少なくとも1種を含む場合、重合性単量体(a)の全量100質量部中において、前記多官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体の含有量は、20~90質量部が好ましく、30~80質量部がより好ましく、40~70質量部がさらに好ましい。重合性単量体(a)が単官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体あるいは単官能性の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含む場合、重合性単量体(a)の全量100質量部中において、単官能性の(メタ)アクリレート系重合性単量体の含有量は、0~60質量部が好ましく、5~55質量部がより好ましく、10~50質量部がさらに好ましい。本明細書において、重合性単量体成分の全量100質量部中における、ある重合性単量体の含有量とは、重合性単量体成分の合計量を100質量%に換算した際の、当該重合性単量体の含有量(質量%)を意味する。よって、それぞれの重合性単量体成分の合計量は100質量部を超えない。
【0029】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物における重合性単量体(a)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、得られるエネルギー線硬化性立体造形用組成物の造形性、及び硬化物の靭性等の観点から、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物の全量100質量部中において20~95質量部が好ましく、40~90質量部がより好ましい。20質量部以上であることによってエネルギー線硬化性立体造形用組成物の粘度が低減され、造形性に優れた組成物を得ることができ、95質量部以下であることによって優れた靭性を有するエネルギー線硬化性立体造形用組成物の硬化物を得ることができる。
【0030】
[光重合開始剤(b)]
光重合開始剤(b)は、本発明の効果を奏するものであれば一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でもラジカル光重合開始剤(b1)が好ましく用いられる。
【0031】
ラジカル光重合開始剤(b1)としてはケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α-アミノケトン系化合物、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、オキシムエステル系化合物、アクリジン系化合物、メタロセン系化合物などが挙げられる。カチオン重合用の開始剤としてはスルホニウム塩、ヨードニウム塩、フェナシルスルホニウム塩、ヒドロキシフェニルスルホニウム塩、スルホキソニウム塩、スルホン酸誘導体、リン酸エステル類、フェノールスルホン酸エステル、カルボン酸エステル類、アリールジアゾニウム塩、鉄アレーン錯体、ピリジニウム塩、キノリニウム塩、o-ニトロベンジル基含有化合物、ジアゾナフトキノン、N-ヒドロキシイミドスルホネートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
これらの光重合開始剤(b)の中でも、特に立体造形を行う際に用いる光源波長が405nmの場合には(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びその塩、オキシムエステル系化合物、並びにアクリジン系化合物とからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びその塩が特に好ましい。
【0033】
上記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩等が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が挙げられる。さらに、特開2000-159621号公報に記載されている化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩を用いることが好ましく、特に硬化性に優れる点から、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドを用いることが好ましい。
【0035】
上記オキシムエステル系化合物としては、例えば、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン=2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[6-(2-メチルベンゾイル)-9-エチル-9H-カルバゾール-3-イル]エタノンO-アセチルオキシム、2-(アセチルオキシイミノメチル)チオキサンテン-9-オン等が挙げられる。市販品としては、「イルガキュア(Irgacure) OXE01」、「イルガキュア(Irgacure) OXE02」(以上、BASF社製)、「N-1919」(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、オキシムエステル系化合物として分子内に複素環構造を有してもよい。複素環構造を有することで、波長385nm付近の光、又は405nm付近の光に対する吸収に優れ、感度を向上できる。複素環構造の中でも、特に、カルバゾール骨格、キサンテン骨格、及び、チオキサントン骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種を有してもよく、カルバゾール骨格を有する化合物であってもよい。
【0036】
上記アクリジン系化合物としては、例えば、下記一般式[I]
【化1】
(式中、R1はハロゲン原子、アミノ基、カルボキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数1~6のアルキルアミノ基を示す。mは0~5の整数を示す。)
で表されるアクリジニル基を1つ有する化合物、下記一般式[II]
【化2】
(式中、R2は炭素数2~20のアルキレン基、炭素数2~20のオキサジアルキレン基又は炭素数2~20のチオジアルキレン基を示す。)
で表されるアクリジニル基を2つ有する化合物等が挙げられる。
【0037】
一般式[I]で表されるアクリジン系化合物としては、例えば、9-フェニルアクリジン、9-(p-メチルフェニル)アクリジン、9-(m-メチルフェニル)アクリジン、9-(p-クロロフェニル)アクリジン、9-(m-クロロフェニル)アクリジン、9-アミノアクリジン、9-ジメチルアミノアクリジン、9-ジエチルアミノアクリジン、9-ペンチルアミノアクリジンが挙げられる。また、一般式[II]で表されるアクリジン系化合物としては、例えば、1,2-ビス(9-アクリジニル)エタン、1,3-ビス(9-アクリジニル)プロパン、1,4-ビス(9-アクリジニル)ブタン、1,5-ビス(9-アクリジニル)ペンタン、1,6-ビス(9-アクリジニル)ヘキサン、1,7-ビス(9-アクリジニル)ヘプタン、1,8-ビス(9-アクリジニル)オクタン、1,9-ビス(9-アクリジニル)ノナン、1,10-ビス(9-アクリジニル)デカン、1,11-ビス(9-アクリジニル)ウンデカン、1,12-ビス(9-アクリジニル)ドデカン、1,14-ビス(9-アクリジニル)テトラデカン、1,16-ビス(9-アクリジニル)ヘキサデカン、1,18-ビス(9-アクリジニル)オクタデカン、1,20-ビス(9-アクリジニル)エイコサン等のビス(9-アクリジニル)アルカン、1,3-ビス(9-アクリジニル)-2-オキサプロパン、1,3-ビス(9-アクリジニル)-2-チアプロパン、1,5-ビス(9-アクリジニル)-3-チアペンタン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物における光重合開始剤(b)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、得られるエネルギー線硬化性立体造形用組成物の硬化性等の観点から、重合性単量体(a)の全量100質量部に対し、0.01~1質量部であることが好ましい。光重合開始剤(b)の含有量が、重合性単量体(a)の全量100質量部に対し、0.01質量部未満の場合、硬化が十分に進行せず、成形品が得られないおそれがある。光重合開始剤(b)の含有量は、重合性単量体(a)の全量100質量部に対し、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。一方、光重合開始剤(b)の含有量が、重合性単量体(a)の全量100質量部に対し、10質量部を超える場合、光重合開始剤自体の溶解性が低い場合に、エネルギー線硬化性立体造形用組成物からの析出を招くおそれや、可視光領域の吸収の増大により硬化物が黄変するおそれがある。光重合開始剤(b)の含有量は、重合性単量体(a)の全量100質量部に対し、7.5質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0039】
[高分子化合物(c)]
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物に用いられる高分子化合物(c)は、前述したように重合性基を有さず、かつガラス転移温度が140℃以上であることが重要である。
【0040】
本発明において、重合性基を有さないとは、ラジカル重合性の官能基を含まないことを示し、具体的には、(メタ)アクリレート基;(メタ)アクリルアミド基;α-シアノアクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等をエステル化して得られるエステル基;ビニル基を含まないことを示す。高分子化合物(c)が重合性基を有すると、重合性単量体(a)と重合してしまうことで、後述するような相分離構造が生じにくくなり、本発明における効果を得られない。アリル基やチオール基など、活性の点で前記の官能基より劣る官能基は含まれていてもよいが、含まない方がより好ましい。
【0041】
立体造形においては、層の上に層を重ねることにより造形物を作製する。従って、デザインに忠実な造形物を得るためには、新しい層を積層する時点でその前の層は十分に安定した形状を保持できていなければならない。すなわち光造形法においては、造形時に立体造形用組成物を即時硬化させるため、前述したように立体造形組成物中の開始剤濃度を高め、強いエネルギー線を照射することによって、瞬間的に重合を進行させている。しかしながらこのような条件で重合を進行させた場合、得られるポリマー鎖は非常に短く、分子鎖同士の物理的絡み合いや分子鎖間の化学的な相互作用力が働きにくくなるため応力保持性が発揮されにくい。応力保持性は架橋剤の添加により補うこともできるが、ポリマー鎖の短さゆえに一分子に導入される架橋の数が少ないため少量では応力保持性の改善効果を得られず、応力保持性が得られるほど多量に添加すると柔軟性や靭性が損なわれてしまう。ここで、高分子化合物(c)を含有するエネルギー線硬化性立体造形用組成物が、本発明の効果を発現する機構は定かでないが、本発明者らは下記のように推定している。重合性基を有さない高分子化合物(c)を重合性成分に溶解させた状態で配合すると、光造形の際、エネルギー線硬化性立体造形用組成物の重合性成分の重合にともない高分子化合物(c)は不溶化し、造形物中では重合性成分の相と非重合性成分の相(高分子化合物(c)の相)からなる相分離構造が形成される。複数のポリマーを混ぜた場合に通常生じる相分離構造は、多量成分が高連続相となる。しかしながら、上記のように重合をトリガーとして形成される相分離構造の場合には、重合性成分と非重合性成分の量によらず、非重合性成分が高連続相となる場合が多い。つまり、高分子化合物(c)の含有量に依らず、硬化物中で高分子化合物(c)の相を連続性の高い相とすることができる。このとき、特に高分子化合物(c)のガラス転移温度が140℃以上であると、造形時の形状安定性を向上する効果が得られる。さらに、応力保持性は連続性の高い相の影響を支配的に受けるため、高分子化合物(c)のガラス転移温度が140℃以上である場合、高い応力保持性を得ることができる。一方で、不連続な相として重合性単量体(a)の硬化した柔軟な相が点在するために、靭性を維持することができる。このように、ガラス転移温度が140℃以上で重合性基を有さない高分子化合物(c)を配合することにより、造形時の形状安定性を高め、かつ、柔軟性や靭性を損なわずに応力保持性を高めることができる。前記高分子化合物(c)のガラス転移温度は150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましい。高分子化合物(c)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよいが、2種以上を混合した場合には屈折率差が生じる界面の表面積が大きくなり硬化物が白化しやすくなるため、1種を単独で使用する方が好ましい。高分子化合物(c)の屈折率nは、前記高分子化合物(c)を除いた前記エネルギー線硬化性立体造形用組成物の屈折率n’との差の絶対値が0.3以下であると、屈折率差による硬化物の白化や、それに伴う造形性の低下が生じにくい。屈折率差の絶対値は0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。なお、本発明において、高分子化合物(c)のガラス転移温度の測定方法は後記する実施例に記載のとおりであり、後記する実施例に記載の測定方法で決定されたtanδのピーク位置を「ガラス転移温度」と称する。
【0042】
これらの高分子化合物(c)の中でも、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートが好ましく、特に重合性単量体(a)に溶解しやすいため配合量を高めやすく、かつ応力保持性の改善の効果が高いことからポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレートが特に好ましい。
【0043】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物における高分子化合物(c)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、得られるエネルギー線硬化性立体造形用組成物の造形性、及び硬化物の靭性等の観点から、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物の全量100質量部中において1.0~40質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。1.0質量部以上であることによって、優れた靭性を有するエネルギー線硬化性立体造形用組成物の硬化物が得られ、40質量部以下であることによって、エネルギー線硬化性立体造形用組成物の粘度の上昇が抑制され、優れた造形性が得られる。
【0044】
高分子化合物(c)として用いることができるポリカーボネートの具体例としては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバレックス7020R」、三菱ガス化学株式会社製「ユーピロンFPC-0220」、コベストロ社製「Apec 1603」「Apec 1695」「Apec 1697」「Apec 1745」「Apec 1795」「Apec 1897」等が挙げられる。ポリスルホンの具体例としては、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製「ユーデルPSU P-1700 NT」、BASF株式会社「ウルトラゾーンS 2010」等が挙げられる。ポリエーテルスルホンの具体例としては、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製「ベラデルPESU 201 NT」、BASF株式会社「ウルトラゾーンE 2020P」「ウルトラゾーンE 7020P」等が挙げられる。ポリアリレートの具体例としては、ユニチカ株式会社製「Uポリマー U-100」等が挙げられる。
【0045】
[フェノール系化合物(d)]
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、変色抑制効果の観点から、さらに、フェノール系化合物(d)を含むことが好ましい。フェノール系化合物(d)は、一般工業界で使用されているフェノール誘導体の中から選択でき、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキノン、ジブチルヒドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、及び3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンが挙げられる。この中でも、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンが好ましい。
【0046】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物におけるフェノール系化合物(d)の含有量は、特に限定されないが、重合性単量体(c)全量100質量部に対して0.001~2.0質量部が好ましく、0.01~2.0質量部がより好ましい。
【0047】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、上記の重合性単量体(a)、光重合開始剤(b)、及び高分子化合物(c)を含有していれば特に限定はなく、例えば、これ以外の他の成分を含んでいてもよい。エネルギー線硬化性立体造形用組成物における他の成分の含有量は、50質量%未満であってもよく、20質量%未満であってもよく、10質量%未満であってもよく、1質量%未満であってもよい。
【0048】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、開始剤と併用するための増感剤や連鎖移動剤、酸素クエンチャーなどがさらに配合されていてもよい。
【0049】
また、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物には、劣化の抑制、又は光硬化性の調整を目的として、公知の安定剤を配合することができる。かかる安定剤としては、例えば、重合禁止剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0050】
また、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物には、力学物性や組成物の粘度の調整を目的として、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、例えば、無機粒子、有機粒子、有機溶媒、増粘剤が挙げられる。
【0051】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、前述のように、光造形の際に重合性成分の相と非重合性成分の相(ガラス転移温度が140℃以上で重合性基を有さない高分子化合物(c)の相)からなる相分離構造を形成する。このとき、重合性成分の相、非重合性成分の相に由来する2つのtanδピークが検出される。このtanδピークの位置は、基本的には重合性成分の共重合体のガラス転移温度、非重合性成分のガラス転移温度(すなわち高分子化合物(c)のガラス転移温度)と大きくかけ離れるものではない。しかしながら、重合性成分と非重合性成分の相溶性が良い場合は、両者が微量ずつ混ざり合った相になるため、非重合性成分の相に由来するtanδピーク位置は高分子化合物(c)のtanδピーク位置、すなわちガラス転移温度よりも低くなる場合がある。本発明者らは鋭意検討の結果、少なくとも1つのtanδピーク位置が90℃以上となると高い応力保持性を得られることを見出した。応力保持性の改善の効果から、tanδピーク位置は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。また、靭性を高めるには、硬化物中に分散している重合性成分の相が柔軟である方が有効である。本発明者らは鋭意検討の結果少なくとも1つのtanδピーク位置が40℃以下であると靭性を損なわないことを見出した。tanδピーク位置は30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましい。応力保持性と靭性を兼備させる観点から、最大のtanδピーク位置と最小のtanδピーク位置は50℃以上離れていることが好ましく、70℃以上離れていることがより好ましく、90℃以上離れていることがさらに好ましい。
【0052】
また、光造形は瞬間的に相構造を凍結するため、重合性成分と非重合性成分の相溶性が良い場合、もしくは両者の粘度が高く相分離するよりも相構造の凍結の方が早い場合は、重合性成分と非重合性成分が不完全に相分離し、両者の混ざり合った中間相が形成されることもある。このとき、tanδピークは重合性成分の相、中間相、非重合性成分の相となる。中間相は1種類の場合もあれば、複数種類の場合もあるが、非重合性成分の連続性を低下させ応力保持性の改善を阻害することがあるため、1種類である方が好ましく、中間相が形成されない方がより好ましい。従って、動的粘弾性の温度依存性を測定したときのtanδが少なくとも2つのピークを有する多峰性となり、少なくとも1つのtanδピーク位置が90℃以上であるエネルギー線硬化性立体造形物は、応力保持性を改善することができる。エネルギー線硬化性立体造形物の動的粘弾性の損失正接tanδの測定方法は後記する実施例に記載のとおりである。本発明において、ある好適な実施形態としては、動的粘弾性の温度依存性を測定したときにtanδが少なくとも2つのピークを有する多峰性であって、少なくとも1つのtanδピーク位置は90℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形物が挙げられる。前記エネルギー線硬化性立体造形物において、靭性に優れる点から、少なくとも1つのtanδピーク位置が40℃以下であることが好ましい。また、前記エネルギー線硬化性立体造形物において、応力保持性により優れる点から、tanδピーク位置の最低温度と、tanδピーク位置の最高温度との差は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。
【0053】
以上説明してきたように、本発明のある実施形態(X-1)としては、重合性単量体(a)、光重合開始剤(b)、及び高分子化合物(c)を含有し、前記高分子化合物(c)が重合性基を有さず、ガラス転移温度が140℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-2)としては、前記実施形態(X-1)において、前記重合開始剤(b)がラジカル光重合開始剤(b1)である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-3)としては、前記実施形態(X-1)又は(X-2)において、前記重合性単量体(a)が、脂環式骨格を有さない重合性単量体であるエネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-4)としては、前記実施形態(X-1)~(X-3)のいずれかにおいて、前記重合性単量体(a)のガラス転移温度が40℃以下である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-5)としては、前記実施形態(X-1)~(X-4)のいずれかにおいて、前記高分子化合物(c)のガラス転移温度が160℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-6)としては、前記実施形態(X-1)~(X-5)のいずれかにおいて、前記高分子化合物(c)が、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートから選ばれる少なくとも1種である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-7)としては、前記実施形態(X-1)~(X-6)のいずれかにおいて、前記重合性単量体(a)が、多官能の重合性単量体を含む、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-8)としては、前記実施形態(X-1)~(X-7)のいずれかにおいて、前記高分子化合物(c)を除いた前記エネルギー線硬化性立体造形用組成物の屈折率n’と、前記高分子化合物(c)の屈折率nとの屈折率差の絶対値が0.3以下である、エネルギー線硬化性立体造形用組成物が挙げられる。他の実施形態(X-9)としては、動的粘弾性の温度依存性を測定したときにtanδが少なくとも2つのピークを有する多峰性であって、少なくとも1つのtanδピーク位置は90℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形物が挙げられる。他の実施形態(X-10)としては、前記実施形態(X-9)において、少なくとも1つのtanδピーク位置が40℃以下である、エネルギー線硬化性立体造形物が挙げられる。他の実施形態(X-11)としては、前記実施形態(X-9)又は(X-10)において、tanδピーク位置の最低温度と、tanδピーク位置の最高温度との差が、50℃以上である、エネルギー線硬化性立体造形物。他の実施形態(X-12)としては、前記実施形態(X-1)~(X-8)のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて歯科材料を製造する方法が挙げられる。他の実施形態(X-13)としては、前記実施形態(X-1)~(X-8)のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて矯正用マウスピースを製造する方法が挙げられる。他の実施形態(X-14)としては、前記実施形態(X-1)~(X-8)のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて睡眠時疾患治療用マウスピースを製造する方法が挙げられる。他の実施形態(X-15)としては、前記実施形態(X-1)~(X-8)のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて顎関節疾患治療用マウスピースを製造する方法が挙げられる。他の実施形態(X-16)としては、前記実施形態(X-1)~(X-8)のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて歯牙又は顎関節を保護するためのマウスピースを製造する方法が挙げられる。他の実施形態(X-17)としては、前記実施形態(X-1)~(X-8)のいずれかに記載のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて義歯床材料を製造する方法が挙げられる。
【0054】
エネルギー線硬化性立体造形用組成物は、重合性単量体(a)全量100質量部に対し、光重合開始剤(b)を0.01~10質量部含み、高分子化合物(c)を0.5~40質量部含み、かつフェノール系化合物(d)を0.001~2.0質量部含むことが好ましい。また、エネルギー線硬化性立体造形用組成物は、重合開始剤(b)を0.1~5質量部含み、高分子化合物(c)を1~30質量部含み、かつフェノール系化合物(d)を0.01~2.0質量部含むことがより好ましい。上記したいずれの実施形態(X-1)~(X-16)においても、上述の説明に基づいて、各成分の量を適宜変更でき、任意の成分について、追加、削除等の変更をすることができる。また、上記したいずれの実施形態(X-1)~(X-16)においても、各組成物の組成と各特性(造形精度、黄色度、黄変度等)の値を適宜変更して組み合わせることもできる。
【0055】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法に準じて製造できる。
【0056】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、立体造形によって成形したときの応力保持性及び靭性に優れる。このため、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、このような利点が生かされる用途に適用でき、例えば、立体造形法による造形物の製造;歯科材料の製造;流延成形法若しくは注型等による膜状物、又は型物等の各種成形品の製造;被覆用、真空成形用金型等に用いることができ、特に、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物の硬化物は、矯正用マウスピース、睡眠時疾患治療用マウスピース、顎関節疾患治療用マウスピース、歯牙や顎関節保護用のマウスピースとしても好適に用いることができる。
【0057】
本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて立体造形を行うに当たっては、従来公知の立体造形法及び装置のいずれもが使用できる。そのうちでも、本発明では、樹脂を硬化させるための光エネルギーとして、活性エネルギー線を用いるのが好ましい。「活性エネルギー線」は、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波等のような光硬化性樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線を意味する。例えば、活性エネルギー線は、300~400nmの波長を有する紫外線であってもよい。活性エネルギー線の光源としては、Arレーザー、He-Cdレーザー等のレーザー;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LED、水銀灯、蛍光灯等の照明等が挙げられ、レーザーが特に好ましい。光源としてレーザーを用いた場合には、エネルギーレベルを高めて造形時間を短縮することが可能であり、しかもレーザー光線の良好な集光性を利用して、造形精度の高い造形物を得ることができる。
【0058】
上記したように、本発明のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて立体造形を行うに当たっては、従来公知の方法及び従来公知の光造形システム装置のいずれも採用でき特に制限されないが、本発明で好ましく用いられる立体造形法の代表例としては、エネルギー線硬化性立体造形用組成物に所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー線を選択的に照射して硬化層を形成する工程、次いでその硬化層にさらに未硬化液状のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を供給し、同様に活性エネルギー線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層する工程を繰り返すことによって最終的に目的とする造形物を得る方法を挙げることができる。また、それによって得られる造形物はそのまま用いても、また場合によってはさらに光照射によるポストキュアあるいは熱によるポストキュア等を行って、その力学的特性あるいは形状安定性等を一層高いものとしてから使用するようにしてもよい。
【0059】
立体造形法によって得られる造形物の構造、形状、サイズ等は特に制限されず、各々の用途に応じて決めることができる。そして、本発明の立体造形法の代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するためのモデル;部品の機能性をチェックするためのモデル;鋳型を制作するための樹脂型;金型を制作するためのベースモデル;試作金型用の直接型等の作製等が挙げられる。より具体的には、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車部品、各種容器類、鋳物、金型、母型等のためのモデルあるいは加工用モデル等の製作等が挙げられ、特に硬化物の色調、良好な造形精度という特性を活かして、歯列矯正用途のスプリント(アライナー・リテイナー)、睡眠時無呼吸症候群治療用スプリント等を含む歯科用スプリント等の用途に極めて有効に使用することができる。
【0060】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例
【0061】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。実施例又は比較例に係るエネルギー線硬化性立体造形用組成物に用いた各成分を略号とともに以下に説明する。
【0062】
[重合性単量体(a)]
POB-A:m-フェノキシベンジルアクリレート(共栄社化学株式会社製)
THF-A:テトラヒドロフルフリルアクリレート(東京化成株式会社製)
ACMO:N-アクリロイルモルホリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
D-2.6E:2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル]プロパン(新中村化学工業株式会社製)
TCDDMA:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
EBECRYL8465:ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製)
UFC-01:ウレタンアクリレート(共栄社化学株式会社製)
【0063】
[光重合開始剤(b)]
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(ラジカル光重合開始剤、IGMResins社製)
Omnirad784:ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム(ラジカル光重合開始剤、IGMResins社製)
UVI-6970(カチオン性光重合開始剤、トリアリールスルホニウム塩、ユニオンカーバイド社製)
【0064】
[高分子化合物(c)]
ノバレックス 7020R(ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)ガラス転移温度:150℃
Apec 1745(ポリカーボネート樹脂、コベストロ社製)ガラス転移温度:175℃
ユーデル PSU P-1700 NT(ポリスルホン樹脂、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製)ガラス転移温度:180℃
Uポリマー U-100(ポリアリレート樹脂、ユニチカ株式会社製)ガラス転移温度:190℃
【0065】
[高分子化合物(c)以外の高分子化合物]
バイロン 200(ポリエステル樹脂、東洋紡株式会社製)ガラス転移温度:67℃
ユピゼータ FPC-0330(ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製)ガラス転移温度:120℃
【0066】
上記した高分子化合物(c)について、後記する粘弾性(tanδのピーク位置)の測定と同様にして、高分子化合物(c)の硬化物のtanδのピーク温度を高分子化合物(c)のガラス転移温度として測定した。
【0067】
[フェノール系化合物(d)]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
【0068】
(実施例1~6及び比較例1~3)
表1に示す分量で各成分を常温(20℃±15℃、JIS(日本工業規格) Z 8703:1983)下で混合して、実施例1~6及び比較例1~3に係るエネルギー線硬化性立体造形用組成物を調製した。
【0069】
<造形性>
各実施例及び各比較例に係るエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて、立体造形装置(DWS社製 DigitalWax(登録商標) 028J+,レーザー光源波長:405nm)を用いて、厚さ3.3mm×幅10.0mm×長さ64mmの試験片の造形を行った(n=5)。寸法通りのシートが造形可能であった場合を造形可能「○」とし、1回でも立体造形物が得られなかった場合を造形不可「×」とした。なお、造形された試験片を用いて後述の評価を行った。
【0070】
<応力保持性>
各実施例及び比較例のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて、上記と同様の装置を用いて、長さ60mm、幅20mm、厚さ1.0mmのシート状の硬化物を作製、得られた造形物を、エタノールで洗浄し、未重合の重合性単量体を除去した後、光照射機(EnvisionTEC社製 Otoflash(登録商標)G171)を用いて追い込み重合し、JIS K 6251:2010(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)ダンベル状8号形の打抜き刃形で打ち抜き、引張試験片を作製した(n=5)。得られた試験片を用いて、応力保持性(応力保持率)を評価した。具体的には、万能試験機(株式会社島津製作所製、EZ Test EZ-SX 500N)を用いて、治具間距離10mmでクロスヘッドスピード20mm/minで0.5mm引張った後、そのままつかみ具間距離0.5mmで24時間保持し、応力の減衰挙動を観察した。測定結果について以下の式(1)及び(2)を用いて、応力保持率τ(%)を算出した。式(1)は変形を与えてからt時間経過後の応力σ(t)を表す。
σ(t)=Fe(t)/W (1)
(式中、Feは0.5mmひずみを与えた状態でt時間経過後の荷重を表し、Wは試験片の平行部分の幅を表す。)
τ=σ(24)/σ(0)×100 (2)
この試験で、応力保持率τ(%)が、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0071】
<靭性>
各実施例及び比較例のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて、上記と同様の装置を用いて、JIS T 6501:2012に記載されている義歯床用アクリル系レジン(長さ39.0mm、幅4.0mm、厚さ(高さ)8.0mm、ノッチ深さ3.0mm・角度45°)を作製した。得られた造形物を、エタノールで洗浄し、未重合の重合性単量体を除去した後、光照射機(EnvisionTEC社製 Otoflash(登録商標)G171)を用いて追い込み重合し硬化物を得た。得られた硬化物を室温下、大気中で1日保管後、曲げ強さ試験を行って靭性を評価した。すなわち、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG-I 100kN)を用いて、支点間距離32mm、クロスヘッドスピード1mm/minで曲げ試験による破壊靭性試験を実施した(n=5)。靭性としては、1.0kJ/mm2以上であることが好ましく、2.0kJ/mm2以上であることがより好ましく、3.0kJ/mm2以上であることがさらに好ましい。
【0072】
<粘弾性(tanδのピーク位置)の測定>
各実施例及び各比較例のエネルギー線硬化性立体造形用組成物を用いて、光照射機(envisionTEC社製 Otofolash(登録商標)G171)を用いて、直径25mm、厚さ1.0mmの硬化物を作製し、レオメータ(株式会社ユービーエム製 Rheogel-E4000)を用いて、硬化物の-50℃から200℃の範囲の粘弾性測定を行い、tanδのピーク位置を測定した。tanδが二峰性以上であれば、硬化物に相分離構造が形成されていることが示唆される。さらに、tanδのピーク位置が90℃以上であれば、応力保持性が高くなりやすく、110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示す通り、実施例1~6のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、造形可能な硬化性を有し、その硬化物は応力保持性、及び靭性に優れていた。また、これらの硬化物のtanδは二峰性であることから、硬化物において相分離構造を有していることが示唆された。また、少なくとも1つのtanδのピーク位置は90℃以上であった。比較例1のエネルギー線硬化性立体造形用組成物は、その硬化物において著しい応力緩和が生じ、応力保持性及び靭性が不十分であった。比較例2及び比較例3におけるエネルギー線硬化性立体造形用組成物について、硬化物のtanδが二峰性であることから、相分離構造を有していることが示唆された。この結果、靭性には優れているものの、含有されている高分子化合物(c)のガラス転移温度が低いためにtanδのピーク位置は90℃未満であり、応力保持性は不十分であった。