(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン回収システム及びリチウムイオン回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/02 20060101AFI20241105BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20241105BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20241105BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20241105BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241105BHJP
B01D 61/24 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B01D61/02 500
C22B3/22
C22B26/12
B01D61/58
B01D69/02
B01D61/24
(21)【出願番号】P 2021010882
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】田口 将光
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055881(JP,A)
【文献】特表2020-527196(JP,A)
【文献】特開昭62-056485(JP,A)
【文献】特公昭56-042964(JP,B2)
【文献】特表2001-508925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
C22B 26/10 - 26/12
B01D 11/00 - 12/00
C08J 9/00 - 9/42
C22B 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを含む溶液を処理するナノろ過膜モジュールと、
前記ナノろ過膜モジュールの透過液が供給されるように前記ナノろ過膜モジュールの下流に配置され、前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜を有するリチウムイオン透過膜モジュールと、
を備
え、
前記リチウムイオン透過膜は、高分子基材及びリチウム抽出剤を含み、
前記リチウム抽出剤は、P=O結合を有するリン化合物及びβ-ジケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
リチウムイオン回収システム。
【請求項2】
前記リチウムイオン透過膜モジュールは、前記リチウムイオン透過膜の第1主面に面する第1流路と、前記リチウムイオン透過膜の第2主面に面する第2流路とを有し、
前記ナノろ過膜モジュールの前記透過液を第1溶液と定義し、前記リチウムイオンの回収に用いられる溶液を第2溶液と定義したとき、
前記第1溶液が前記第1流路を流れ、
前記第2溶液が前記第2流路を流れる、
請求項1に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項3】
前記リチウムイオン透過膜モジュールを透過した前記リチウムイオンを含む溶液が供給されるように、前記リチウムイオン透過膜モジュールの下流に配置された逆浸透膜モジュールをさらに備えた、
請求項1又は2に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項4】
前記リチウムイオン透過膜モジュールは、前記リチウムイオン透過膜の第1主面に面する第1流路と、前記リチウムイオン透過膜の第2主面に面する第2流路とを有し、
前記逆浸透膜モジュールの透過液出口と前記リチウムイオン透過膜モジュールの前記第2流路とを接続する循環流路をさらに備えた、
請求項3に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項5】
前記逆浸透膜モジュールの透過液の水素イオン濃度を上昇させるためのpH調整剤を前記透過液に加えるpH調整器をさらに備えた、
請求項4に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項6】
前記pH調整剤がCO
2及びHClからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項5に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項7】
第1溶液に含まれたリチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜を有するリチウムイオン透過膜モジュールと、
前記リチウムイオン透過膜モジュールを透過した前記リチウムイオンを含む第2溶液が供給されるように、前記リチウムイオン透過膜モジュールの下流に配置された逆浸透膜モジュールと、
を備
え、
前記リチウムイオン透過膜は、高分子基材及びリチウム抽出剤を含み、
前記リチウム抽出剤は、P=O結合を有するリン化合物及びβ-ジケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
リチウムイオン回収システム。
【請求項8】
前記リチウムイオン透過膜モジュールは、前記リチウムイオン透過膜の第1主面に面する第1流路と、前記リチウムイオン透過膜の第2主面に面する第2流路とを有し、
前記第1溶液が前記第1流路を流れ、
前記第2溶液が前記第2流路を流れる、
請求項7に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項9】
前記逆浸透膜モジュールの透過液出口と前記リチウムイオン透過膜モジュールの前記第2流路とを接続する循環流路をさらに備えた、
請求項8に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項10】
前記逆浸透膜モジュールの透過液の水素イオン濃度を上昇させるためのpH調整剤を前記透過液に加えるpH調整器をさらに備えた、
請求項9に記載のリチウムイオン回収システム。
【請求項11】
リチウムイオンを含む溶液をナノろ過膜によって処理することと、
前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜によって前記ナノろ過膜の透過液を処理することと、
を含
み、
前記リチウムイオン透過膜は、高分子基材及びリチウム抽出剤を含み、
前記リチウム抽出剤は、P=O結合を有するリン化合物及びβ-ジケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
リチウムイオン回収方法。
【請求項12】
前記リチウムイオン透過膜を透過した前記リチウムイオンを含む溶液を逆浸透膜によって処理することをさらに含む、
請求項11に記載のリチウムイオン回収方法。
【請求項13】
前記リチウムイオンの回収に使用される溶液として前記逆浸透膜の透過液を前記リチウムイオン透過膜に向けて供給することをさらに含む、
請求項12に記載のリチウムイオン回収方法。
【請求項14】
前記逆浸透膜の透過液の水素イオン濃度を上昇させるためのpH調整剤を前記透過液に加えることをさらに含む、
請求項13に記載のリチウムイオン回収方法。
【請求項15】
前記pH調整剤がCO
2及びHClからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項14に記載のリチウムイオン回収方法。
【請求項16】
リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜によって前記リチウムイオンを含む第1溶液を処理することと、
前記リチウムイオン透過膜を透過した前記リチウムイオンを含む第2溶液を逆浸透膜によって処理することと、
を含
み、
前記リチウムイオン透過膜は、高分子基材及びリチウム抽出剤を含み、
前記リチウム抽出剤は、P=O結合を有するリン化合物及びβ-ジケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
リチウムイオン回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン回収システム及びリチウムイオン回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩湖の塩水からリチウムを生産する方法は、天然のリチウムを採掘する代表的な方法の1つである。使用済みのリチウムイオン電池等の廃棄物からリチウムを回収したり、海水からリチウムを生産したりすることも検討されている。塩湖の塩水が原料の場合、天日蒸発によって塩水を濃縮したのち、沈殿試薬を用いて塩水からMgイオンなどの不純物を除去する。炭酸ナトリウムなどの沈殿試薬を塩水に加えることによって、リチウムを炭酸リチウムの形で回収する。
【0003】
天日蒸発によって塩水を濃縮する方法に代わる方法も提案されている。特許文献1は、溶剤抽出法と呼ばれる方法によって、水溶液からリチウムを回収することを提案している。特許文献2は、吸着法と呼ばれる方法によって、水溶液からリチウムを回収することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4581553号公報
【文献】特開2009-161794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩湖の塩水からリチウムを生産する方法には、いくつかの欠点がある。まず、天日蒸発によって塩水を濃縮する工程の所要時間は、約2年であり、非常に長い。大規模な塩田が必要であるため、初期費用が莫大な額に達する。塩水にSO4
2-が多く含まれている場合、濃縮の最中に硫酸リチウムの沈殿が生じてリチウムの回収率が低下するため、SO4
2-を多く含む塩水の高濃縮は困難である。2価イオンを除去するために大量の沈殿試薬が必要である。SO4
2-、Mg2+などの2価イオンが不純物として製品に混入するので、追加の精製が必要である。
【0006】
特許文献1に記載された溶剤抽出法は、油相と液相との接触面積を増やして交換効率を高めるために、加温及び混合の操作を必要とする。そのため、設備の占有面積が大きくなりがちである。また、抽出工程と逆抽出工程とを2段階に分けて行うため、時間的効率も悪い。つまり、溶剤抽出法は、リチウムの連続生産に不向きである。さらに、抽出溶剤には金属を腐食させる性質を持つものが多い。そのため、抽出溶剤のための配管には腐食耐性のあるライニング配管又はフッ素樹脂製の配管のような高価な配管を使用する必要がある。
【0007】
特許文献2に記載された吸着法も吸着工程及び脱離工程の2段階の工程を必要とするので、リチウムの連続生産に不向きである。リチウムを含有した塩水を吸着剤に接触させてリチウムイオンを吸着剤に吸着させるとき、吸着剤が充填されたカラムの内部に圧力差が生じやすく、塩水が吸着剤に均一に接触しにくい。カラムに塩水を導入するのに高い圧力が必要であるというデメリットもある。
【0008】
本発明は、リチウムの回収に利用できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
リチウムイオンを含む溶液を処理するナノろ過膜モジュールと、
前記ナノろ過膜モジュールの透過液が供給されるように前記ナノろ過膜モジュールの下流に配置され、前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜を有するリチウムイオン透過膜モジュールと、
を備えた、リチウムイオン回収システムを提供する。
【0010】
別の側面において、本発明は、
第1溶液に含まれたリチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜を有するリチウムイオン透過膜モジュールと、
前記リチウムイオン透過膜モジュールを透過した前記リチウムイオンを含む第2溶液が供給されるように、前記リチウムイオン透過膜モジュールの下流に配置された逆浸透膜モジュールと、
を備えた、リチウムイオン回収システムを提供する。
【0011】
さらに別の側面において、本発明は、
リチウムイオンを含む溶液をナノろ過膜によって処理することと、
前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜によって前記ナノろ過膜の透過液を処理することと、
を含む、リチウムイオン回収方法を提供する。
【0012】
さらに別の側面において、本発明は、
リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜によって前記リチウムイオンを含む第1溶液を処理することと、
前記リチウムイオン透過膜を透過した前記リチウムイオンを含む第2溶液を逆浸透膜によって処理することと、
を含む、リチウムイオン回収方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、リチウムの回収に利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るリチウムイオン回収システムの構成図である。
【
図2】
図2は、リチウムイオン透過膜の作用を示す図である。
【
図3】
図3は、リチウムイオン透過膜の製造工程を示す図である。
【
図4】
図4は、リチウムイオン透過膜を用いたリチウムイオン透過膜モジュールの模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係るリチウムイオン回収システムの構成図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3実施形態に係るリチウムイオン回収システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るリチウムイオン回収システムの構成図である。リチウムイオン回収システム100は、ナノろ過膜モジュール30及びリチウムイオン透過膜モジュール40を備えている。リチウムイオン透過膜モジュール40は、リチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜を有するモジュールである。ナノろ過膜モジュール30の透過液がリチウムイオン透過膜モジュール40に供給されるように、ナノろ過膜モジュール30の下流にリチウムイオン透過膜モジュール40が配置されている。本明細書において、「ナノろ過膜」を「NF膜」と称する。
【0017】
NF膜モジュール30は、NF膜を用いたモジュールであり、Li+、Na+、K+などの1価イオンを透過させ、Mg2+、SO4
2-などの2価イオンを阻止する。NF膜モジュール30において、1価イオンと2価イオンとが分離される。リチウムイオン透過膜モジュール40は、Li+を透過させ、Li+以外の1価イオンを阻止する。つまり、リチウムイオン回収システム100は、リチウムイオン及び他の金属イオンを含む原溶液からリチウムイオンを分離して回収するように構成されている。リチウムイオン透過膜モジュール40に使用されたリチウムイオン透過膜10は、Mg2+の存在によってリチウムイオンの透過速度が低下するという性質を有することがある。NF膜モジュール30によって2価イオンを予め除去することによって、リチウムイオン透過膜モジュール40におけるリチウムイオンの透過速度を向上させることができる。その結果、リチウムイオン透過膜モジュール40におけるリチウムの回収効率の低下が抑制され、ひいては効率的にリチウムを回収することができる。
【0018】
CaOを用いた沈殿法によってMg2+イオンを効率よく除去するには、原溶液の濃縮が必要である。
【0019】
NF膜モジュール30及びリチウムイオン透過膜モジュール40は、流路2bによってこの順番に接続されている。NF膜モジュール30の透過水出口とリチウムイオン透過膜モジュール40の第1入口(供給側入口)とが流路2bによって接続されている。NF膜モジュール30の原水入口には、流路2aが接続されている。NF膜モジュール30の濃縮水出口には、流路2dが接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第1出口(供給側出口)には、流路2eが接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2入口(透過側入口)には、流路2fが接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2出口(透過側出口)には、流路2cが接続されている。流路2a,2b,2c,2d,2e及び2fのそれぞれは、1又は複数の配管によって構成されている。必要に応じて、流路2a,2b,2c,2d,2e及び2fのそれぞれにポンプ、弁、センサなどの機器が配置されていてもよい。流路2a,2b,2c,2d,2e及び2fは、バッファタンクを有していてもよい。
【0020】
リチウムイオン及び他の金属イオンを含む原溶液の種類は特に限定されない。原溶液は、典型的には、水溶液である。原溶液としては、海水、湖水、汽水、産業排水などが挙げられる。湖水は、リチウムを高濃度で含む塩湖(ウユニ塩湖、アタカマ塩湖など)の地下水である。産業排水は、典型的には、使用済みリチウムイオン電池などの産業廃棄物からリチウムを回収する過程で生じる溶液である。
【0021】
原溶液は、固形物、バクテリア、コロイドなどの大きい粒径の溶質を取り除くための処理が予め施されていてもよい。つまり、NF膜モジュール30の上流に前処理装置が配置されていてもよい。前処理装置としては、沈殿装置、砂濾過装置、珪藻土濾過装置、網状濾過フィルタ、MF(Microfiltration)膜モジュール、UF(Ultrafiltration)膜モジュールなどが挙げられる。これらから選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが前処理装置として使用されうる。
【0022】
リチウムイオン透過膜モジュール40のリチウムイオン透過膜10は、水を透過させる能力を持っていない。そのため、リチウムイオンの回収に用いられる液体が流路2fを通じてリチウムイオン透過膜モジュール40に供給される。リチウムイオンの回収に用いられる液体は、詳細には、酸性水溶液である。酸性水溶液として、塩酸又は炭酸水が好適に用いられる。
【0023】
(NF膜モジュール)
NF膜モジュール30は、リチウムイオンを含む原溶液を処理(ろ過)する。NF膜モジュール30は、2価イオンを阻止しつつ、1価イオンの一部を透過させる。NF膜モジュール30の濃縮水には、Mg2+、SO4
2-などの2価イオンが含まれる。NF膜モジュール30の透過水には、Li+、Na+、K+などの1価イオンが含まれる。
【0024】
本明細書において、「NF膜」は、2000mg/リットルの濃度の塩化ナトリウム水溶液を操作圧力0.7MPa、pH6.5~8、回収率15%、25℃の条件でろ過したときの塩化ナトリウム阻止率が5%以上93%未満である分離膜を意味する。「RO膜」は、2000mg/リットルの濃度の塩化ナトリウム水溶液を操作圧力1.5MPa、pH6.5~8、回収率15%、25℃の条件でろ過したときの塩化ナトリウム阻止率が93%以上である分離膜を意味する。
【0025】
1価イオンの阻止率は、JIS K 3805(1990)に従い、以下の方法によって測定されうる。所定のサイズの分離膜にNaCl水溶液を操作圧力0.7MPa又は1.5MPaで透過させる。30分間の準備段階の終了後、電導度測定装置を用いて透過液及び供給液の電導度測定を行い、その結果及び検量線(濃度-電導度)から、下記式に基づいて、1価イオンの阻止率としてのNaCl阻止率を算出できる。電導度測定に代えて、イオンクロマトグラフィー法によって濃度測定を行ってもよい。
・NaCl阻止率(%)=(1-(透過液のNaCl濃度/供給液のNaCl濃度))×100
【0026】
NF膜モジュール30を用いて1価イオンと2価イオンとを分離できることを確かめるために、以下の実験を行った。NF膜モジュール30として、市販のNF膜モジュールを用いた。リチウムイオンを含む模擬水として、30wt%のNaClに加え、Mg2+、SO4
2-及びLi+をそれぞれ800mg/L、16000mg/L、及び600mg/Lの濃度で含む水溶液を調製した。模擬水をNF膜モジュールでろ過するとともに、透過水に含まれた各イオンの濃度をカチオンについては誘導結合プラズマ発光分光分析装置、アニオンについてはイオンクロマトグラフィーで測定した。測定結果を用い、以下の式に従って阻止率を算出した。結果を表1に示す。
・阻止率(%)=(1-(透過液のイオン濃度/供給液のイオン濃度))×100
【0027】
【0028】
表1に示すように、NF膜モジュールで模擬水をろ過することによって、2価イオンであるマグネシウムイオン及び硫酸イオンと、1価イオンであるリチウムイオンとを分離することができた。つまり、NaイオンとClイオンを除き、濃縮水にマグネシウムイオン及び硫酸イオンが主に含まれ、透過水にリチウムイオンが主に含まれていた。
【0029】
NF膜モジュール30の構造は特に限定されない。NF膜モジュール30の構造としては、スパイラル型、中空糸型、チューブラー型、フレームアンドプレート型などが挙げられる。NF膜モジュール30は、膜エレメントを1つのみ有していてもよく、複数の膜エレメントを有していてもよい。
【0030】
(リチウムイオン透過膜モジュール)
リチウムイオン透過膜モジュール40は、リチウムイオン透過膜10、第1流路401及び第2流路402を有する。リチウムイオン透過膜10は、高分子基材及びリチウム抽出剤を含む。リチウム抽出剤は高分子基材に保持されている。リチウム抽出剤は、リチウムイオンを選択的に捕獲及び放出する。リチウム抽出剤の働きによって、リチウムイオンが選択的にリチウムイオン透過膜10を透過する。これにより、海水、湖水、産業排水のような様々な金属イオンを含む溶液からリチウムイオンを選択的に回収することができる。
【0031】
高分子基材は、リチウムイオン透過膜10のマトリクスを構成し、リチウムイオン透過膜10の強度を確保する役割を担っている。高分子基材としては特に限定されず、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。高分子基材として、これらの材料から選ばれる1種のみを用いてもよく、2種以上の組み合わせを用いてもよい。中でも、酢酸セルロース及び三酢酸セルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種を好適に用いることができる。これらは、リチウムイオン透過膜10の強度を確保するのに有利であるとともに、不溶性の性質を持つので、リチウムイオン透過膜10を様々な用途に使用するのに有利である。
【0032】
リチウムイオン透過膜10における高分子基材の含有比率は、例えば、30wt%以上90wt%以下の範囲にある。高分子基材の含有比率を適切に調整することによって、上述の効果がより高まる。
【0033】
リチウム抽出剤は、リチウムイオンを選択的に捕獲及び放出する材料である。詳細には、リチウム抽出剤は、リチウムイオンと錯体を形成する材料でありうる。錯体は、例えば、キレート錯体である。このような性質を有する材料として、リチウム抽出剤は、P=O結合を有するリン化合物及びβ-ジケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。これらの材料は、リチウムイオンを選択的に捕獲する優れた性質を有するので、リチウム抽出剤に適している。
【0034】
(リン化合物)
リン化合物は、P=O結合を有する。リン化合物は、有機リン化合物であってもよい。リン化合物としては、ホスフィンオキシド、ホスホン酸(リンのオキソ酸)、ホスフェート(リン酸エステル)などが挙げられる。リン化合物は、例えば、下記式(1)で表される。
【0035】
【0036】
式(1)において、X、Y及びZは、互いに独立して、単結合、エーテル基、酸素原子又はN-R4で表される基である。R1、R2、R3及びR4は、互いに独立して、水素原子、C1~C20の炭化水素基又はC1~C20の芳香族置換基である。炭化水素基の少なくとも一部の水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。芳香族置換基はヘテロ原子を有していてもよい。リン化合物が有機リン化合物である場合、R1、R2、R3、X、Y及びZの少なくとも1つが炭素原子を有する。リン化合物として、上述の化合物から選ばれる1種のみを用いてもよく、2種以上の組み合わせを用いてもよい。
【0037】
(β-ジケトン化合物)
β-ジケトン化合物は、β-ジケトンを有する有機化合物を意味する。β-ジケトンは、2つのケトン基の間に1つの炭素原子が存在する構造を持つジケトンである。β-ジケトン化合物は、具体的には、下記式(2)で表される。
【0038】
【0039】
式(2)において、R5及びR6は、互いに独立して、水素原子、C1~C20の炭化水素基又はC1~C20の芳香族置換基である。炭化水素基の少なくとも一部の水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。芳香族置換基はヘテロ原子を有していてもよい。β-ジケトン化合物として、上述の化合物から選ばれる1種のみを用いてもよく、2種以上の組み合わせを用いてもよい。
【0040】
リチウムイオン透過膜10におけるリチウム抽出剤の含有比率は、例えば、10wt%以上70wt%以下の範囲にある。リチウム抽出剤としてリン化合物及びβ-ジケトン化合物の両方を用いる場合、リチウムイオン透過膜10におけるリン化合物の含有比率は、例えば、5wt%以上65wt%以下の範囲にある。リチウムイオン透過膜10におけるβ-ジケトン化合物の含有比率は、例えば、5wt%以上65wt%以下の範囲にある。これらの材料の含有比率を適切に調整することによって、リチウム回収効率を高めつつ、リチウムイオン透過膜10の耐久性も確保できる。
【0041】
その他の材料として、リチウムイオン透過膜10が可塑剤を含んでいてもよい。リチウムイオン透過膜10の原料溶液に可塑剤が含まれている場合、多孔質のリチウムイオン透過膜10を作製できる可能性がある。リチウムイオン透過膜10は、他の材料を含まず、実質的に高分子基材及びリチウム抽出剤からなっていてもよい。「実質的に…からなる」は、残留溶媒などの不可避不純物を除き、高分子基材及びリチウム抽出剤以外の材料が積極的に使用されていないことを意味する。
【0042】
リチウムイオン透過膜10の厚さは特に限定されず、例えば、1μm以上100μmの範囲にある。厚さが増えるとリチウムイオン透過膜10の耐久性が上がる。厚さが減るとリチウムイオンの回収速度が上がる。耐久性と回収速度とはトレードオフの関係にある。リチウムイオン透過膜10の厚さを適切に調整することによって、リチウムイオンの回収速度及びリチウムイオン透過膜10の耐久性のバランスをとることができる。
【0043】
図2は、リチウムイオン透過膜10の作用を示す図である。リチウムイオン透過膜10は、第1主面10p及び第2主面10qを有する。リチウムイオン透過膜10は、容器20を2つの部分に仕切っている。容器20の一方の部分には、リチウムイオンを含む第1溶液22が入れられている。容器20の他方の部分には、第2溶液24が入れられている。リチウムイオン透過膜10の第1主面10pが第1溶液22に接している。容器20の一方の部分及び他方の部分のそれぞれには、第1溶液22及び第2溶液24を撹拌できるように撹拌器23が設けられている。リチウムイオン透過膜10の第2主面10qが第2溶液24に接している。「主面」は、最も広い面積を有する面を意味する。
【0044】
リチウムイオン透過膜10の第1主面10pにおいてリチウムイオンがリチウム抽出剤に捕獲(つまり抽出)される。リチウムイオン透過膜10の第2主面10qにおいてリチウムイオンがリチウム抽出剤から放出(つまり逆抽出)される。この性質を利用すれば、抽出及び逆抽出を連続的に行うフロープロセスを実現できる。
【0045】
第1溶液22は、リチウムイオンを含む溶液であり、リチウムイオンを供給する側の溶液である。詳細には、第1溶液22は、リチウムイオンを含むアルカリ性水溶液である。第1溶液22のpHは、例えば、pH=9.0~12.5の範囲に調整されている。pHをアルカリ性に調整するために、NaOH、KOH、NH3のように、水に溶けて水酸化物イオンを生じさせるpH調整剤を第1溶液22に加えてもよい。
【0046】
第2溶液24は、リチウムイオンを受け取る側の溶液である。第2溶液24は、酸性水溶液である。第2溶液24のpHは、例えば、pH=1.0~4.0の範囲に調整されている。pHを酸性に調整するために、HCl、H2SO4、HNO3、CO2のように、水に溶けてプロトンを生じさせるpH調整剤を加えてもよい。最終的な目的物が炭酸リチウムである場合には、CO2はpH調整剤として適している。第2溶液24のpHの調整が必要である場合、気体のpH調整剤を第2溶液24にバブリングしてもよいし、pH調整剤を第2溶液24に直接混合してもよい。
【0047】
図2に示すように、第1主面10pに第1溶液22を接触させ、第2主面10qに第2溶液24を接触させると、第1主面10pと第1溶液22との界面でリチウムイオンがリチウム抽出剤と反応してリチウム錯体12(キレート錯体)を形成する。リチウムイオンと錯体を形成するとき、リチウム抽出剤はプロトンを第1溶液22に放出する。この反応は、下記式(3)で表される。式(3)では、リン化合物であるトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)及びβ-ジケトン化合物であるテノイルトリフルオロアセトン(TTA)がリチウム抽出剤として想定されている。テノイルトリフルオロアセトンは、キレート剤として知られている。「aq」はその物質が水溶液中に存在することを表す。「mem」はその物質がリチウムイオン透過膜中に存在することを表す。
【0048】
式(3)で表される錯体化の反応速度は、リチウムイオン透過膜10の選択性を支配する要因である。リチウム抽出剤は、リチウムイオンと選択的に錯体を形成する。ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、リチウム抽出剤と錯体を形成できない。そのため、ナトリウムイオン及びカリウムイオンは同じアルカリ金属であるにもかかわらず、リチウムイオン透過膜10を透過できない。リチウムイオン透過膜10は、リチウムイオンを透過させ、ナトリウムイオン及びカリウムイオンを阻止する。
【0049】
【0050】
次に、リチウム錯体12は、フィックの法則に従ってリチウムイオン透過膜10の内部を第1主面10pから第2主面10qに向かって拡散する。第2主面10qと第2溶液24との界面に到達すると、リチウム錯体12が解離し、リチウムイオンはリチウムイオン透過膜10の内部から第2溶液24へと速やかに放出される。リチウム抽出剤は、リチウムイオンを放出する代わりにプロトンを受け取って再生される。この反応は、上記式(3)の逆方向の反応によって表される。プロトンを受け取ったリチウム抽出剤14は、リチウムイオン透過膜10の内部を第2主面10qから第1主面10pに向かって拡散し、再度、リチウムイオンの捕獲及び放出の担体として機能する。
【0051】
上述の輸送現象の駆動力は、プロトンの対向輸送に帰結すると推測される。したがって、第1溶液22のpH及び第2溶液24のpHは、リチウムイオンの回収効率に影響を及ぼす。第2溶液24のプロトンが第1溶液22に移動して水酸化物イオンと結合し、水が生成する。そのため、リチウムイオンの抽出が進行することに伴い、第1溶液22のpHが低下し、第2溶液24のpHが上昇する。リチウムイオンの回収効率の低下を抑制するために、第1溶液22及び第2溶液24のpHを調整するための処理を行ってもよい。具体的には、第1溶液22及び第2溶液24のそれぞれに必要なpH調整剤を適宜加えてもよい。
【0052】
本実施形態のリチウムイオン透過膜10は、ナトリウムイオン及びカリウムイオンを阻止し、リチウムイオンを選択的に透過させる。この意味において、リチウムイオン透過膜10は、リチウム分離膜でありうる。
【0053】
「ナトリウムイオン及びカリウムイオンを阻止し、リチウムイオンを選択的に透過させる」の技術的な意味は、次の通りである。すなわち、アルカリ性水溶液から酸性水溶液へのリチウムイオンの透過量がナトリウムイオンの透過量の2倍以上である。同様に、アルカリ性水溶液から酸性水溶液へのリチウムイオンの透過量がカリウムイオンの透過量の2倍以上である。少なくともこのレベルの選択性が達成できるとき、ナトリウムイオン及びカリウムイオンが阻止され、リチウムイオンが選択的に透過していると判断できる。アルカリ性水溶液における各イオンの初期濃度は500mg/Lである。アルカリ性水溶液の初期pHは11.5である。酸性水溶液の初期pHは1.5である。水温はそれぞれ25℃である。透過時間は8時間である。
【0054】
図3は、リチウムイオン透過膜10の製造工程を示す図である。
【0055】
図3の混合工程に示すように、高分子基材、リチウム抽出剤及び溶媒を混合して原料溶液を調製する。原料溶液における各成分の比率は適宜調整される。高分子基材が十分に溶解する材料が溶媒として用いられる。例えば、高分子基材としてセルロースを用いるとき、溶媒として、ジクロロメタンのようなハロゲン溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジオキソランなどを用いることができる。
【0056】
次に、成形工程に示すように、原料溶液を所定形状の成形体へと成形する。成形方法は特に限定されず、得るべき成形体の形状に応じて適切な方法が選択される。例えば、平膜状のリチウムイオン透過膜10が必要な場合、ガラス板などの支持体上に原料溶液を塗布して平らな成形体を得る方法(いわゆるキャスティング法)が採用されうる。中空糸状のリチウムイオン透過膜が必要な場合、成形ノズルから原料溶液を吐出して中空状の成形体を得る方法が採用されうる。支持体上に原料溶液を塗布する方法も特に限定されない。ロールコーター、インクジェット、ダイコーターなどを用いた種々の塗布方法が採用されうる。
【0057】
次に、固化工程に示すように、未固化の成形体を溶媒抽出液に接触させる。典型的には、成形体を溶媒抽出液に浸漬する。中空糸状のリチウムイオン透過膜を作製する場合、成形ノズルから溶媒抽出液に向けて中空糸状の成形体が直接供給される。溶媒抽出液は、原料溶液に含まれた溶媒が可溶な液体である。溶媒抽出液は、典型的には、水である。成形体から溶媒が除去されることに伴い、成形体が固化する。以上の工程を経て、リチウムイオン透過膜10が得られる。
【0058】
成形工程及び固化工程は、例えば、ロールツーロール方式の膜製造方法によって連続的に実施することができる。そのため、本実施形態の方法によれば、大面積のリチウムイオン透過膜10を大量に生産することが可能である。
【0059】
リチウムイオン透過膜10は、熱誘起相分離法(Thermally induced phase separation, TIPS法)、非溶媒誘起分離法(Non-solvent induced phase separation, NIPS法)などの高分子溶液の相分離を利用した方法によって作製されてもよい。また、
図3に示す固化工程に代えて、大気中で溶媒を揮発させることによって成形体から溶媒を除去してもよい。
【0060】
リチウムイオン透過膜10は、実質的に無孔である。そのため、リチウム抽出剤が溶液に溶出しにくい。つまり、リチウムイオン透過膜10は、耐久性に優れている。
【0061】
図4は、リチウムイオン透過膜モジュール40の模式的な断面図である。リチウムイオン透過膜モジュール40は、複数の中空糸膜10k、ハウジング43、第1入口43a、第1出口43c、第2入口43b及び第2出口43dを有する。本実施形態において、リチウムイオン透過膜モジュール40は、中空糸膜モジュールである。複数の中空糸膜10kの各端部が2つの注型部45によって束ねられている。複数の中空糸膜10kは、注型部45の端面において開口している。中空糸膜10kの束及び2つの注型部45がハウジング43の中に収められている。
【0062】
リチウムイオン透過膜モジュール40において、第1流路401及び第2流路402は、ハウジング43の内部に位置する流路である。第1流路401は、リチウムイオン透過膜の第1主面、すなわち、中空糸膜10kの外表面に面する流路である。第2流路402は、リチウムイオン透過膜の第2主面、すなわち、中空糸膜10kの内表面に面する流路である。つまり、第2流路402の一部は、中空糸膜10kの管状の内部空間によって構成されている。リチウムイオン透過膜でできた中空糸膜10kによって第1流路401と第2流路402とが互いに隔離されている。
【0063】
第1流路401には、例えば、
図2を参照して説明した第1溶液22が流れる。第2流路402には、例えば、
図2を参照して説明した第2溶液24が流れる。第1流路401は、第1入口43a及び第1出口43cに連通している。第2流路402は、第2入口43b及び第2出口43dに連通している。第1溶液22は、第1入口43aを通じて第1流路401に流入し、中空糸膜10kの外表面に接触しながら第1出口43cに向かって流れる。第2溶液24は、第2入口43bを通じて第2流路402に流入し、中空糸膜10kの内表面に接触しながら第2出口43dに向かって流れる。このとき、第1溶液22から第2溶液24へとリチウムイオンが移動し、第2溶液24から第1溶液22へとプロトンが移動する。
【0064】
本実施形態のリチウムイオン透過膜モジュール40によれば、抽出及び逆抽出を連続的かつ同時に行うフロープロセスを実現できる。これにより、リチウムイオンを効率的かつ速やかに回収することが可能となる。
【0065】
図1と
図4とを対比すると理解できるように、リチウムイオン透過膜モジュール40の第1入口43a、第1出口43c、第2入口43b及び第2出口43dには、それぞれ、流路2b、流路2e、流路2f及び流路2cが接続されている。つまり、第1溶液22は、NF膜モジュール30の透過液を含む。第2溶液24は、リチウムイオンの回収に用いられる溶液である。第1溶液22が第2流路402を流れ、第2溶液24が第1流路401を流れてもよい。
【0066】
第2溶液24から第1溶液22へとプロトンが移動することに伴い、第1溶液22のpHが徐々に低下し、第2溶液24のpHが徐々に上昇する。そのため、リチウムイオンの透過速度も徐々に低下し、リチウムイオンの回収効率が低下する。この問題に対処するために、例えば、第1溶液22のpH及び第2溶液24のpHを監視し、第1溶液22のpH及び第2溶液24のpHが所望の範囲に維持されるように、第1流路401における第1溶液22の流量が調節されてもよく、第2流路402における第2溶液24の流量が調節されてもよい。このような流量制御を行えば、第1溶液22のpH及び第2溶液24のpHを所望の範囲に維持することが可能である。中空糸膜モジュールのようなフロータイプのモジュールは、このような利点も有する。
【0067】
第1流路401に第2溶液24が流されてもよく、第2流路402に第1溶液22が流されてもよい。第1溶液22及び第2溶液24を各流路に流し続けることは必須ではなく、リチウムイオンの回収速度に応じて、第1溶液22及び第2溶液24のそれぞれを間欠的に第1流路401及び第2流路402に供給してもよい。この場合、第1溶液22のpH及び第2溶液24のpHが所望の範囲に維持されるように、第1流路401への第1溶液22の供給量が調節されてもよく、第2流路402への第2溶液24の供給量が調節されてもよい。
【0068】
中空糸膜10kは、原料溶液を中空状に成形することによって得られた成形体を水に直接流し込み、成形体から溶媒を除去することによって得られる。
【0069】
リチウムイオン透過膜モジュール40は、中空糸膜モジュールに限定されない。リチウムイオン透過膜モジュール40は、スパイラル型、プリーツ型(平膜型)チューブラー型などの他の型式の膜モジュールであってもよい。リチウムイオン透過膜モジュール40は、(1)抽出及び逆抽出を連続的かつ同時に行うフロープロセスを実現できる、(2)設置面積が狭くても広い膜面積を確保できる、(3)耐食性を有する高価な配管が不要である、といった利点を有する。これらの利点は、先に説明した溶剤抽出法及び吸着法には無い利点である。
【0070】
(システムの運転)
図1に示すように、原溶液をNF膜モジュール30に供給してろ過する。NF膜モジュール30によって1価イオンと2価イオンとが分離される。NF膜モジュール30の濃縮液には、Mg
2+、SO
4
2-などの2価イオンが含まれる。NF膜モジュール30の透過液には、Li
+、Na
+、K
+などの1価イオンが含まれる。次に、流路2bを通じて、NF膜モジュール30の透過液をリチウムイオン透過膜モジュール40の第1流路401に供給する。リチウムイオンは、リチウムイオン透過膜10を透過し、第1流路401を流れる第1溶液から第2流路402を流れる第2溶液へと移動する。ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、第1溶液にとどまる。これにより、リチウムイオンのみを他のイオンから分離して回収することができる。
【0071】
リチウムイオン回収システム100は、pH調整器70を備えていてもよい。pH調整器70は、流路2gを通じて、流路2bに接続されている。pH調整器70は、NF膜モジュール30の透過液のpHがアルカリ性を示すように、NF膜モジュール30の透過液にpH調整剤を注入する。pH調整剤としては、NaOH、KOH、NH3などが挙げられる。これにより、リチウムイオン透過膜モジュール40に適したpHに調整される。結果として、リチウムイオンの回収効率が向上する。pH調整剤は、粉末などの固体であってもよく、ガスであってもよく、予め調製された水溶液であってもよい。
【0072】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係るリチウムイオン回収システムの構成図である。リチウムイオン回収システム200は、リチウムイオン透過膜モジュール40及び逆浸透膜モジュール50を備えている。リチウムイオン透過膜モジュール40は、第1溶液にリチウムイオンを選択的に透過させるリチウムイオン透過膜を有するモジュールである。逆浸透膜モジュール50は、リチウムイオン透過膜モジュール40を透過したリチウムイオンを含む第2溶液が供給されるように、リチウムイオン透過膜モジュール40の下流に配置されている。本明細書において「逆浸透膜」を「RO膜」と称する。
【0073】
リチウムイオン透過膜モジュール40、第1溶液及び第2溶液については、
図2~4を参照して第1実施形態で説明した通りである。
【0074】
RO膜モジュール50は、RO膜を用いたモジュールであり、1価イオン及び2価イオンを含む全ての種類の溶質を阻止する。つまり、リチウムイオン回収システム200も、リチウムイオン及び他の金属イオンを含む原溶液からリチウムイオンを分離して回収するように構成されている。逆浸透現象を生じさせるための圧力を供給側の溶液に加える必要があることを考慮すると、イオン濃度が高すぎる溶液をRO膜モジュール50で処理することは困難である。本実施形態によれば、リチウムイオン透過膜モジュール40によってイオン濃度が予め下げられているので、リチウムイオンを含む第2溶液をRO膜モジュール50によって容易に処理できる。
【0075】
リチウムイオン及び他の金属イオンを含む原溶液については、第1実施形態で説明した通りである。
【0076】
リチウムイオン透過膜モジュール40及びRO膜モジュール50は、流路2cによってこの順番に接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2出口(透過側出口)とRO膜モジュール50の原水入口とが流路2cによって接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第1入口(供給側入口)には、流路2bが接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第1出口(供給側出口)には、流路2eが接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2入口(透過側入口)には、流路2fが接続されている。RO膜モジュール50の濃縮水出口には、流路2hが接続されている。RO膜モジュール50の透過水出口には、流路2fが接続されている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2出口には、流路2cが接続されている。流路2b,2c,2e,2f及び2hのそれぞれは、1又は複数の配管によって構成されている。必要に応じて、流路2b,2c,2e,2f及び2hのそれぞれにポンプ、弁、センサなどの機器が配置されていてもよい。流路2b,2c,2e,2f及び2hは、バッファタンクを有していてもよい。
【0077】
流路2fは、RO膜モジュール50の透過水出口とリチウムイオン透過膜モジュール40の第2入口とを接続している。つまり、流路2fは、逆浸透膜モジュール50の透過液出口とリチウムイオン透過膜モジュール40の第2流路402とを接続する循環流路である。
【0078】
図2を参照して第1実施形態で説明したように、リチウムイオン透過膜10の第1主面10pに接する第1溶液22はアルカリ性である。リチウムイオン透過膜10の第2主面10qに接する第2溶液24は酸性である。したがって、リチウムイオン回収システム200を運転するには、酸及びアルカリが必要である。第2溶液24の酸性が強いと、リチウムイオンを炭酸リチウムの形で沈殿させるときの中和作業に時間がかかる。
【0079】
本実施形態によれば、RO膜モジュール50の透過液が酸性を示す。つまり、RO膜モジュール50は、透過液に酸を回収しながらリチウムイオンを含む溶液を濃縮する能力を持つ。そのため、中和作業に必要な時間及び中和作業に必要な材料費を下げることができる。RO膜モジュール50の透過液は、リチウムイオンの回収に使用可能な溶液として再利用されうる。透過液を再利用することによって、リチウムイオン透過膜モジュール40の運転で消費される実質的な液量(第2溶液の量)を減らすことができる。
【0080】
(システムの運転)
図5に示すように、原溶液をリチウムイオン透過膜モジュール40の第1流路401に供給する。リチウムイオンは、リチウムイオン透過膜10を透過し、第1流路401を流れる第1溶液から第2流路402を流れる第2溶液へと移動する。他のイオンは、第1溶液にとどまる。これにより、リチウムイオンのみを他のイオンから分離して回収することができる。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2流路402から排出された第2溶液は、流路2cを通じて、RO膜モジュール50に供給される。RO膜モジュール50によって、リチウムイオンを含む溶液(第2溶液)が濃縮される。リチウムイオンを含む濃縮液は、流路2hを通じて、所定の後処理工程に送られる。RO膜モジュール50の透過液は、リチウムイオンの回収に使用される第2溶液として、リチウムイオン透過膜モジュール40の第2流路402に供給される。
【0081】
リチウムイオン回収システム200は、pH調整器72をさらに備えていてもよい。pH調整器72は、RO膜モジュール50の透過液の水素イオン濃度を上昇させるためのpH調整剤を透過液に加える役割を担う。pH調整器72は、流路2iを通じて、流路2fに接続されている。RO膜モジュール50の透過液にpH調整剤を注入することによって、透過液は、リチウムイオン透過膜モジュール40に適したpHに調整される。結果として、リチウムイオンの回収効率が向上する。
【0082】
pH調整剤は、例えば、CO2及びHClからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。pH調整剤は、粉末などの固体であってもよく、ガスであってもよく、予め調製された水溶液であってもよい。CO2ガスをpH調整剤として用いる場合、pH調整器72は、透過液にCO2ガスをバブリングするための装置であってもよい。例えば、各種の排気ガスから回収したCO2ガスを使用すれば、地球環境の保全にもつながる。CO2を使用すれば、濃縮液への不純物の混入を回避できる可能性がある。
【0083】
リチウムイオンを含む濃縮液からリチウムイオンを回収する方法は特に限定されない。例えば、濃縮液を加熱して水を除去することによって、塩化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム化合物の沈殿又は結晶を生じさせてもよい。CO2ガスを濃縮液にバブリングすることによって炭酸リチウムの沈殿を生じさせてもよい。CO2ガスを濃縮液にバブリングすることによって炭酸水素リチウムを生じさせ、その後、濃縮液を加熱して炭酸リチウムの沈殿を生じさせてもよい。
【0084】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係るリチウムイオン回収システムの構成図である。リチウムイオン回収システム300は、第1実施形態のリチウムイオン回収システム100と第2実施形態のリチウムイオン回収システム200との組み合わせである。すなわち、リチウムイオン回収システム300は、NF膜モジュール30、リチウムイオン透過膜モジュール40及びRO膜モジュール50を備えている。
【0085】
リチウムイオン透過膜モジュール40は、NF膜モジュール30の透過液が供給されるように、NF膜モジュール30の下流に配置されている。RO膜モジュール50は、リチウムイオン透過膜モジュール40を透過したリチウムイオンを含む溶液(第2溶液)がRO膜モジュール50に供給されるように、リチウムイオン透過膜モジュール40の下流に配置されている。リチウムイオン回収システム300によれば、第1実施形態のリチウムイオン回収システム100において得られる効果と、第2実施形態のリチウムイオン回収システム200において得られる効果との両方が得られる。
【0086】
リチウムイオン回収システム300は、取液設備60をさらに備えている。取液設備60は、貯留タンクなどの溶液源からリチウムイオン回収システム300に原溶液を供給するための設備であり、ポンプ、配管、バルブ、フィルタなどの要素を含む。取液設備60は、先に説明した前処理装置を含んでいてもよい。流路2aを通じて、取液設備60からNF膜モジュール30に原溶液が供給される。
【0087】
リチウムイオン回収システム300は、沈殿槽66をさらに備えている。沈殿槽66には、RO膜モジュール50の濃縮液が供給される。濃縮液は、リチウムイオンを高い濃度で含んでいる。濃縮液に沈殿試薬を加えることによって、リチウムイオンを炭酸リチウム(Li2CO3)の形で沈殿させることができる。沈殿試薬は、例えば、炭酸ナトリウム及びCO2の少なくとも1つを含む。炭酸リチウムの沈殿は、回収路4aを通じて回収される。
【0088】
リチウムイオン回収システム300は、CO2分離膜モジュール62a及び62bをさらに備えている。CO2分離膜モジュール62aは、排気ガス源64からの排気ガスを処理してCO2ガスを抽出する。CO2ガスは、流路3aを通じて、RO膜モジュール50の透過液にpH調整剤として吹き込まれる。つまり、CO2分離膜モジュール62aは、pH調整器としての役割も担っている。CO2分離膜モジュール62bも排気ガス源64からの排気ガスを処理してCO2ガスを抽出する。CO2ガスは、流路3bを通じて、沈殿試薬として沈殿槽66に導入される。
【0089】
リチウムイオン回収システム300は、有価物の回収装置68をさらに備えている。回収装置68には、流路2dを通じて、NF膜モジュール30の濃縮液が供給される。回収装置68には、流路2eを通じて、リチウムイオン透過膜モジュール40の第1流路401から排出された第1溶液も供給される。NF膜モジュール30の濃縮液には、Mg2+、SO4
2-などのイオンが含まれている。リチウムイオン透過膜モジュール40の第1流路401から排出された第1溶液には、Na+、K+などのイオンが含まれている。回収装置68は、沈殿、膜分離、遠心分離などの方法によって、これらのイオンに含まれた有価なイオンを回収するための装置である。回収装置68の排水は、流路2jを通じて海、湖、地下などに再注入される。
【0090】
(システムの運転)
まず、原溶液をNF膜モジュール30に供給してろ過する。NF膜モジュール30によって1価イオンと2価イオンとが分離される。NF膜モジュール30の濃縮液には、Mg2+、SO4
2-などの2価イオンが含まれる。NF膜モジュール30の透過液には、Li+、Na+、K+などの1価イオンが含まれる。次に、流路2bを通じて、NF膜モジュール30の透過液をリチウムイオン透過膜モジュール40の第1流路401に供給する。リチウムイオンは、リチウムイオン透過膜10を透過し、第1流路401を流れる第1溶液から第2流路402を流れる第2溶液へと移動する。ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、第1溶液にとどまる。
【0091】
リチウムイオン透過膜モジュール40の第2流路402から排出された第2溶液は、流路2cを通じて、RO膜モジュール50に供給される。RO膜モジュール50によって、リチウムイオンを含む溶液(第2溶液)が濃縮される。リチウムイオンの濃縮液は、流路2hを通じて、沈殿槽66に送られる。RO膜モジュール50の透過液は、リチウムイオンの回収に使用される第2溶液として、リチウムイオン透過膜モジュール40の第2流路402に供給される。
【0092】
NF膜モジュール30の入口における原溶液のイオン濃度は、例えば、40wt%である。NF膜モジュール30の透過水のイオン濃度は、例えば、35wt%である。リチウムイオン透過膜モジュール40の第2流路402から排出された溶液のイオン濃度は、例えば、1wt%未満である。RO膜モジュール50の濃縮液のイオン濃度は、例えば、5%である。リチウムイオン回収システム300によれば、天日蒸発に頼ることなく、リチウムを効率的に回収することができる。天日蒸発とリチウムイオン回収システム300とを組み合わせてもよい。
【0093】
以上に説明した各実施形態のリチウムイオン回収システム100,200及び300によれば、高い効率でリチウムイオンを回収でき、環境への負荷も低い。大規模な塩田を必須としないので、システムの専有面積は小面積である。リチウムイオンの回収に費やされる時間も短い。不純物の大部分を膜分離によって除去できるので、リチウムイオンの濃縮液に含まれる不純物も少ない。結果として、純度の高いリチウム生産が可能である。
【実施例】
【0094】
(参照例)
5wt%の三酢酸セルロース(イーストマン社製、M300)、4.7wt%のCyanex923(ソルベイ社製、Cyanexは登録商標)、6.5wt%の1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン(東京化成工業社製)、及び83.8wt%の1,3-ジオキソラン(富士フイルム和光純薬工業社製)を含む原料溶液を調製した。Cyanex923は、C6~C8の複数のアルキルホスフィンオキシドを含む混合物である。原料溶液をガラス板の上に塗布装置で塗布した。塗布膜の厚さは150μmであった。その後、ガラス板を塗布膜とともに水中に浸漬させた。これにより、塗布膜から溶媒が除去され、実施例1のリチウムイオン透過膜を得た。実施例1のリチウムイオン透過膜の寸法は、縦150mm×横150mm×厚さ0.01mmであった。フィルム抜き冶具を用いて、得られた透過膜を直径60mmの円形に加工した。
【0095】
(透過実験)
図2を参照して説明した容器に参照例のリチウムイオン透過膜を取り付けた。容器の一方の部分にLi
+及びNa
+をそれぞれ500mg/Lの濃度で含むpH=11.5のアルカリ性水溶液を入れた。容器の他方の部分にHClを0.1mol/Lの濃度で含むpH=1.5の酸性水溶液(塩酸)を入れた。アルカリ性水溶液及び酸性水溶液の温度はいずれも25℃であり、両者の体積は150mLであった。透過膜の直径35mmの円形の領域がアルカリ性水溶液及び酸性水溶液に接触していた。
【0096】
撹拌器で各水溶液を撹拌した直後、及び、8時間経過後に酸性水溶液からサンプルを採取した。サンプルに含まれたLiイオン及びNaイオンの濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定した。初期のイオン濃度と8時間経過後のイオン濃度との差を表2に示す。
【0097】
【0098】
表2に示すように、時間の経過に応じて酸性水溶液中のリチウムイオン濃度が増加した。つまり、アルカリ水溶液から酸性水溶液へとリチウムイオン透過膜を通じてリチウムイオンが移動した。これに対し、時間が経過してもナトリウムイオンの濃度は殆ど変化しなかった。つまり、ナトリウムイオンはリチウムイオン透過膜を殆ど透過しなかった。参照例のリチウムイオン透過膜は、リチウムイオンとナトリウムイオンとを分離する能力を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、溶液からのリチウムの回収に有用である。
【符号の説明】
【0100】
2a,2b,2c,2d,2e,2f,2h,2i,2j,3a,3b 流路
4a 回収路
10 リチウムイオン透過膜
10p 第1主面
10q 第2主面
10k 中空糸膜
12 リチウム錯体(リチウム抽出剤)
14 リチウム抽出剤
20 容器
22 第1溶液
23 撹拌器
24 第2溶液
30 NF膜モジュール
40 リチウムイオン透過膜モジュール(中空糸膜モジュール)
43 ハウジング
43a 第1入口
43b 第2入口
43c 第1出口
43d 第2出口
45 注型部
50 RO膜モジュール
60 取液設備
62a,62b CO2分離膜モジュール
64 排気ガス源
66 沈殿槽
68 回収装置
70,72 pH調整器
100,200,300 リチウムイオン回収システム
401 第1流路
402 第2流路